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2014年5月23日 第7回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産流通部会議事録
健康局結核感染症課
○日時
平成26年5月23日(金)10:00~
○場所
厚生労働省 専用第22会議室(18階)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)
○議事
○滝室長補佐 定刻となりましたので、ただいまより、第 7 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会を開催いたします。本日は御多忙のところ出席いただき、誠にありがとうございます。本日の議事は公開ですが、カメラ撮りは、議事に入る前とさせていただきますので、プレス関係者の方々におかれましては、御協力をお願いいたします。傍聴の方は、傍聴の際の留意事項の遵守をお願いいたします。
はじめに、本日の委員の出欠状況について報告いたします。本日、委員 10 名のうち、伊藤委員、庵原委員、坂元委員、西島委員、福島委員、細矢委員、森委員、山口委員の 8 名に御出席いただいております。また、小森委員、三村委員からは、御欠席の連絡を頂いております。現時点で、厚生科学審議会の規程により定足数を満たしており、本日の会議が成立したことを御報告いたします。
本日は、 6 名の参考人をお呼びしておりますので、御紹介させていただきます。武田薬品工業株式会社ワクチンビジネス部臨床開発グループグループマネージャーの小河原修参考人です。一般財団法人化学及び血清療法研究所理事の城野洋一郎参考人です。国立感染症研究所感染病理部長の長谷川秀樹参考人です。独立行政法人医薬基盤研究所霊長類医科学研究センター長の保富康宏参考人です。独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター長の岡田全司参考人です。国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長の小田切孝人参考人です。
それでは、議事に先立ちまして、配布資料の確認をさせていただきます。議事次第、配布資料一覧、委員名簿、資料 1 から 8 までを用意しています。資料 1 は、武田薬品工業株式会社の提出資料、資料 2 は、一般財団法人化学及び血清療法研究所の提出資料、資料 3 は、長谷川参考人の提出資料、資料 4-1 と資料 4-2 は、保富参考人の提出資料、資料 5 は、岡田参考人の提出資料、資料 6 、 2014 年 /15 年シーズンのインフルエンザワクチン株、資料 7 、 2013/14 シーズンの国内外のインフルエンザの流行状況報告、資料 8 、新型インフルエンザワクチン細胞培養事業の公募結果となります。不足がありましたら、事務局までお申し付けください。冒頭のカメラ撮りは、ここまでとさせていただきますので、御協力をお願いいたします。
次に審議参加に関する報告をいたします。本日の議事内容において、個別に調査審議される品目はありませんので、本日の議事への不参加委員はおりません。
続いて、 4 月 25 日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会における審議参加の取扱い等について公表しておりますが、研究開発及び生産・流通部会においても、昨年度御報告いたしました平成 23 年度から平成 25 年度までにおける関連企業からの寄付金、契約金などの受取状況について、委員に改めて確認したところ、委員から次のとおり申告の訂正がありましたので御報告いたします。庵原委員は、ファイザー株式会社より講演料として、 50 万円以下の受取ではなく、 50 万円以上 500 万円以下の受取りがあるとの申告がありました。小森委員は、グラクソ・スミスクライン株式会社より受取りなしではなく、座談会出席及びその原稿校閲に対する報酬として、 50 万円以下の受取りがあるとの申告がありました。森委員は、グラクソ・スミスクライン株式会社より受取りなしではなく、講演料及び原稿執筆料として、 50 万円以下の受取りがあるとの申告がありました。なお、審議参加規程に照らし、それぞれの会議における各委員の審議や、議決への参加に関する取扱いに変更はないことを、ここで御報告いたします。今後、事務局から委員に対し、再度、参加規程の内容を周知させていただきますので、委員におかれましては、講演料等の受取りについて、通帳や源泉徴収票などの書類で御確認いただくことにより、正しい内容を申告いただきますよう、お願いいたします。
それでは、庵原部会長に議事進行をお願いいたします。
○庵原部会長 それでは、議題 1 、開発優先度の高いワクチン等の開発状況について、武田薬品と化学及血清療法研究所から説明を頂きたいと思います。まず初めに武田薬品工業からお願いいたします。
○小河原参考人 武田薬品工業でワクチンの臨床開発を担当しております小河原と申します。どうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、左の下段にページ数がありますので、そのページ数で御説明をさせていただきます。また、本日の内容については、一部、機密保持の観点から、明確に資料に記載されていない、あるいは明確にお答えできないところもあることを、事前に御了承いただければと思います。 2 ページが、本日の御説明の内容です。
2 ページです。まずは、本部会で開発優先度の高いワクチンとして選定された、弊社が開発しているノロウイルスワクチンについて、御説明したいと考えています。最後に、現在、日本において、弊社が開発中の 2 つのワクチン、 Hib ワクチン、細胞培養季節性インフルエンザワクチンの進捗状況について御説明します。
3 ~ 5 ページについては、既に先生方、御承知かと思いますが、ノロウイルスの背景情報についての説明です。
3 ページですが、ノロウイルス由来の疾患については、急性胃腸炎の約半数を占めており、特に 5 歳未満の小児では、ロタウイルスに続いて、 2 番目の原因ウイルスとなっております。また、症状の嘔吐や下痢などについては、非常に重篤な場合があり、若年小児及び高齢者については、入院率が非常に高くなっております。特に 5 歳未満の小児は、発展途上国では最大 20 万人ほど死亡し、また、先進国においても、年間約 2 万人以上の高齢者の死亡が確認されております。
4 ページです。日本において検出された胃腸炎ウイルスの 2013/14 シーズンの疫学情報ですが、日本地図に書いてあるとおり、左から 2 番目にあるノロウイルス、特にジェノグループ 2 型が原因ウイルスとして重要な位置を示しているデータです。
5 ページです。私どもが開発しているノロウイルスワクチンの概要ですが、当然のことながら、ノロウイルスに関連する疾患を予防するワクチンとして開発しております。主な対象集団として先ほど申し上げたとおり、重篤な疾患及び合併症を誘発する乳幼児であったり、高齢者をターゲットとして考えておりますが、全般的な年齢を考えており、特に医療従事者や養護施設の勤務者、また、食物を取り扱う方であったり、船舶、それから海外渡航者や軍隊、入院患者、免疫不全者等のワクチンが有益である対象集団も考慮し、開発を進めております。
6 ページは弊社が現在開発中のワクチンについてですが、本剤の有効成分としては、 VLP(Virus-Like Particles) と言われているウイルス様粒子を有効成分として開発を進めております。既に VLP については、日本においては、ヒトパピローマウイルスのほうで市販されており、詳細は割愛いたしますが、弊社のワクチンについては、ノロウイルス抗原として、 G1.1 及び G2.4 の 2 つの主要抗原を含んだ VLP で構成されています。また、アジュバントとして、水酸化アルミニウム及び MPL を含んでおり、開発としては、接種経路を筋肉内接種に限定し、現在開発しております。
続いて、海外のデータになりますが、 2 つのノロウイルスワクチンの試験データについて、簡単に説明いたします。 7 ページですが、第 1 相試験として、無作為プラセボ対象の二重盲検比較試験を実施しております。対象としては、成人から 85 歳までの高齢者を対象としているのですが、 7 ページの試験デザインについては、少し理解が難しいところがありますので、口頭で説明させていただきます。
18 歳から 49 歳までの成人を対象とした第 1 の集団として、用量 5 μ g から 150 μ g までに増やしていく臨床試験を実施しております。そちらの試験結果については、 8 ページに示しているデータで、血清中の抗体価を用量ごとに G1.1 及び G2.4 の GMT として示しております。こちらの結果から見られることについては、本ワクチンの接種により、きちんとした免疫原性が確認されていること。それから 1 回接種及び 2 回接種においても、ほぼ同様な抗体価であり、 2 回接種の段階でブースター効果は余り認められないことを示しております。また、 G1.1 及び G2.4 のタイプによる血清の抗体価の上がりの違いですが、 G1.1 のほうが非常によいことを示しております。
本ワクチンの接種方法ですが、本試験は 28 日の間隔で 2 回接種で実施しております。 9 ~ 10 ページに、 18 歳から最大 85 歳までの年齢ごとに VLP50 μ g と 50 μ g を 2 回接種したデータを示しております。 9 ページについては、アニメーションで本来であれば御提示するのですが、左のほうのバーが 1 回目接種、右側のバーが 2 回目の接種になっております。これは抗体陽転率なのですが、接種前と比較して GMT が 4 倍以上を示した値を抗体陽転として定義して、その割合を示しているのですが、年齢が 18 歳から 85 歳、年齢問わず、良好な免疫反応を示しております。また、先ほども申し上げましたが、 1 回目接種、 2 回目接種ともに抗体陽転に大きな違いはなく、 1 回接種でも十分な効果を示していると考えております。
10 ページですが、先ほどの第 1 相試験の全ての被験者の長期免疫原性を確認した試験ですが、 G1.1 及び G2.4 ともに約 1 年後の抗体価についても、非常に良好に持続していることが分かります。この持続性については、年齢を問わず、 18 歳から高齢者の 85 歳についても、良好な抗体価が持続いたしました。なお、本資料では詳細に記載しておりませんが、全ての用量において忍容性は確認されていますが、特に重要な副反応としては、全身症状として頭痛、局所の反応としては接種部位の疼痛が主な副反応でした。なお、重篤な有害事象が発現していますが、全ての症例において、因果関係は否定されております。
11 ページについては、第 1/2 相試験として、 50 μ g を 2 回接種した臨床試験の安全性と免疫原性、さらに初回接種から 56 日後に G2.4 の生ウイルスをチャレンジして、有効性を確認した試験です。試験結果については 12 ページに示しておりますが、嘔吐、下痢等の胃腸炎症状の発症の抑制を示しているデータです。上から重度、中等度・重度、それから一番下段で、全ての下痢及び嘔吐症状の抑制効果を示しております。これらの結果から、本ワクチンを接種することにより、嘔吐及び下痢等の症状を抑制していることが分かります。また、今回、このデータではお示ししていませんが、前述の試験と同様な安全性のプロファイル、また、同様な免疫原性、抗体価上昇を示しておりました。
13 ページですが、今まで申し上げたような弊社の開発しているノロウイルスワクチンの総括ですが、弊社としては現在、重要な年齢層である 5 歳未満の小児及び高齢者をターゲットとして考えております。しかしながら、全ての年齢層を対象として、特に重要な有益なワクチンとして考えられる海外渡航者や医療従事者、軍隊、全ての年齢層も、現在開発しております。また、先ほどのデータでお示ししているとおり、弊社の開発している VLP のワクチンについては、嘔吐、下痢症状等の発症を抑制したことから、現在、海外で第 2 相試験を実施中です。今後、第 2 相試験で良好な成績が得られましたら、発症予防試験、つまり有効性試験を実施し、世界で初めてのノロウイルスワクチン開発に成功したいと考えております。
最後に 14 ページですが、現在のほかのワクチンの日本における開発状況について、簡潔に説明したいと思います。まず、 Hib ワクチンですが、昨年 9 月に承認申請をさせていただき、現在、順調に審査が進んでおります。また、ベロ細胞を使用した細胞培養の季節性インフルエンザワクチンですが、順調にフェーズ 1/2 試験が進行中です。また、参考情報として、ベロ細胞を使用した H5N1 及びプロトタイプのパンデミックインフルエンザワクチンについては、本年の 3 月に無事に承認取得を取らせていただきました。ありがとうございます。以上でございます。
○庵原部会長 ありがとうございました。今の御説明について、何か御質問はありますでしょうか。一部、企業秘密等で答えられない部分もあるかと思いますが、答えられる範囲でお願いいたします。まずは、細矢委員から、どうぞ。
○細矢委員 18 歳以上の成人を対象に行っているのですが、プレの抗体が若干あるように思うのですね。そうすると、ある程度プライミングが済んでいる方に 1 回、あるいは 2 回の接種で抗体の上昇がよくあって、予防ができたと感じるのですが、小児の 5 歳未満を対象にしたいと考えておられるのですが、子供の場合もこのような抗体上昇が得られるのかどうかを教えていただきたいのですが。
○小河原参考人 すみません、現在、御報告できるようなデータがありませんので、明確に今の御質問に対してはお答えすることができません。また弊社で小児の開発が進んでいき、公開できるような情報ができましたら、このような場、若しくは学会、あるいは文献等で公表できると思いますので、その際は情報をお持ちしたいと思っております。
○細矢委員 プライミングはあったと考えておられますか。成人の場合には、既に感染していると考えておられますか。全くこれまで。
○小河原参考人 8 ページのデータということですか。
○細矢委員 そうです。 8 ページのデータですね。
○小河原参考人 プライミングというよりは、先生おっしゃるとおり、例えば、プラセボであっても、弊社のワクチンにおいても、抗体価がプレの段階で上がっているのは、自然の感染ばく露を受けたとは考えております。
○庵原部会長 これは大人の場合だとひょっとしてかかっていた可能性が高い人たちがリクルートされているということ、それに対して、ブーストが掛かったという解釈ですか。 8 ページ、 9 ページのデータなどを見ていると。
○小河原参考人 そうですね。ブーストというよりは、 9 ページのデータのほうが良いかと思いますが。抗体陽転としての定義、非常に上がっているのですが、それがブースターという考えかどうかについては、お控えさせていただければと思います。
○庵原部会長 ありがとうございました。あとは何か。このワクチンには 2 種類の VLP が入っていますが、これで大体、全てのノロもいろいろな種類のウイルスがありますが、これでどこまでカバー仕切れていますか。
○小河原参考人 交叉反応性という考えでよろしいでしょうか。
○庵原部会長 はい。
○小河原参考人 交叉反応性のデータについては、今回御提示していませんが、 G2.4 の中の幾つかの株であったり、ほかのタイプについても交叉反応性が認められております。
○庵原部会長 そうすると、幅広く効きそうだという。
○小河原参考人 おっしゃるとおりでございます。
○庵原部会長 はい。
○西島部会長代理 アジュバントですが、 MPL を 50 μ g ということで、いろいろなところで使われていると思いますが、今回使われたのは、ほかのケースに比べて多いか少ないかということと、これの有効性について教えていただきたいと思います。
○小河原参考人 現在、先生がおっしゃられたように第 1 相試験と第 2 相試験については、アジュバント、特に MPL については、 50 μ g として固定し、使用しております。安全性のプロファイルについては、別途、重篤な副反応とか、あるいは特有な症状は認められておりません。免疫原性については、先ほど御提示したように MPL の 50 μ g でも、非常に良好な免疫原性を示しておりますが、最終的なアジュバントの量については、現在フェーズ 2 の試験で検討中で、 50 μ g になるかどうかについては、現在明確にはお答えできません。
○西島部会長代理 もう 1 点、いいですか。ほかのワクチンについても MPL が使われていると思いますが、それらと比べたときにどの程度になるのでしょうか。この MPL の 50 μ g というのは、多いとか少ないとか。ほかのとほぼ同じぐらいだとか、ということ。
○小河原参考人 HPV と同様になるかとは思いますが、ただ、先ほども申し上げましたが、 MPL の 50 μ g をターゲットにするかどうかはまだ決まっておりませんので、弊社のノロウイルスの特徴として、 MPL を減少することができるかもしれませんし、アルミのほうでカバーできるかもしれませんので、まだ今、結果を出せる段階ではないので、明確にお答えできません。逆に、 MPL として、なるべく私どもとしては増やさない方向では考えております。
○西島部会長代理 ありがとうございます。
○庵原部会長 これは保富先生にお聞きしたほうがいいのかもしれませんが、 VLP はアジュバントを入れないと、自然免疫が働かないのでしょうか。
○小河原参考人 すみません、弊社のほうではコメントできません。
○庵原部会長 保富先生のほうが御専門なのですけれども。
○保富参考人 多分、大丈夫だと思います。先ほど言われたように、成人でやると、生涯に 1 回もかかっていない人は多分いないと思いますので、そういう意味でもアジュバントがいるかどうか、サイエンスの面からいくと、なくても効果はあるのではないかと思いますが、新生児等は、また話は別だと思います。
○庵原部会長 要するに、子供で初めてプライミングするときには、 VLP でもアジュバントがないと、やはり自然免疫は動かないのですか。
○保富参考人 動物実験で VLP だと、アジュバントがなくても免疫反応は出ます。特にこれは多分御存じだと思いますが、最初にノロの VLP をやられたカリフォルニアのグループは、ずっとなしで動物実験では効果はあるというのは、結構前から論文報告がありますから。
○庵原部会長 ですが、やはり VLP は原価が高いですので、その辺の開発、要するに企業の視点として、経済面から見た開発も必要だと思いますが。その辺も考えておられるということで。
○小河原参考人 今回、 VLP のワクチンについて御承知かと思いますが、弊社が買収したライゴサイトで開発を進めており、そちらとタイアップし、現在進めさせていただいています。今回頂いた御意見については、グローバルのほうに持ち帰りまして、協議させていただきたいと思っております。
○庵原部会長 あとはよろしいでしょうか。そうすると、ノロが順調に進んでいることと、それから、インフルエンザの TAK-850 も順調に進んでいる理解でよろしいですか。
○小河原参考人 はい、さようでございます。
○庵原部会長 ありがとうございました。もし質問がないようでしたら、次の化血研の城野さんのほうに説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○城野参考人 おはようございます。化血研でワクチンの研究開発を担当しております城野と申します。今日はよろしくお願いいたします。まず、開発優先度の高いワクチンが 6 つ挙げられていますが、その中で私どもが関与しております DPT-IPV を含む混合ワクチン、細胞培養インフルエンザワクチン並びに MR を含む混合ワクチン、今日はそのお話をさせていただきます。
2 ページです。まず、 DPT-IPV を含む混合ワクチンですが、混合ワクチンというのは不活化・生ワクチンを含めて世界的なトレンドで、多くの社会的ニーズがあります。以下の理由で私たち化血研も混合ワクチンの開発は非常に重要だと考えております。たくさんワクチンが増えて、接種スケジュールが非常に過密になってきておりますので、それを単純化するとともに、負担を軽減するとか、医療過誤の防止、あるいは接種漏れを避けるという理由があります。それから、多くのワクチンを 1 つにまとめられますので、医療経済学的に受け入れやすいということで、多くのワクチンを有効に利用できるようになってまいります。さらに、安全性とか、総合的に利便性が高いというところで、私どもとしても混合化を積極的に進めていきたいと考えております。
3 ページですが、世界的に見ますと、この表にありますように、日本以外では既に DPT-IPV に Hib を加えた 5 混ワクチン、あるいはそれに B 型肝炎を加えた 6 混ワクチンが使われております。多くの国で 5 混、 6 混が導入されておりますが、御存じのとおり B 型肝炎については既にユニバーサル化が導入されておりまして、 5 混が使われている国でしたら B 型肝炎は別に 3 回接種というスケジュールになっているところが多いです。 6 混が導入されている国では、 HB が入っておりますので、 6 混を 4 回投与するということで、 HB に関しては 4 回になって、通常の 3 回より 1 回増えているということになっておりますが、このようなスケジュールで多くの国では 5 混、 6 混が導入されているということです。日本では、 2012 年に 4 混が導入されて、現在使われておりますが、 Hib 、 HB に関して見ますと、一番下にあるようにこのようなスケジュールで、 4 混とは少し違ったスケジュールで、今投与されております。世界的にこういう状況が見られるということです。
4 ページの化血研における混合ワクチンの開発概要ですが、 2012 年に先ほど述べました 4 種混合ワクチン「クワトロバック」が承認されて、今、問題なく使われております。 OPV の使用をやめて IPV に切り替えることで、生ワクチンによる麻痺例の発生を防止することに貢献していると考えております。その後、諸外国に見られるように、 Hib を加えることが非常に重要だと思っています。 Hib に関しては、国内では海外からの導入品であります ActHib が導入されて、侵襲性の Hib 感染症は激減しております。このような状況を考えますと、 Hib ワクチンは我が国にとっても非常に重要なワクチンと考えておりますので、国産化が重要だと思っています。日本国のワクチンメーカーとしては、それを自分たちで作ることが非常に大事で、望ましいという考えでおります。そういうことで、私たちとしては 4 混ワクチンの次に Hib ワクチンを独自に開発して、 DPT-IPV にそれを加えた 5 種混合ワクチンという開発を行って、国内生産・国内自給化をしていきたいと考えております。
5 ページですが、先ほど述べましたように、混合ワクチンの開発には接種スケジュールが非常に重要で、 DPT-IPV-Hib の 5 混ワクチンの接種スケジュールにおいては、第 6 回の研究開発及び生産・流通部会において、 DPT-IPV を含む混合ワクチンの開発に当たっての留意事項として、この下の表に示すように初回接種時期を現在の Hib ワクチン、生後 2 か月から始めるという形に合わせることで検討すべきであるという方針が示されておりますので、この方針に従って我々の DPT-IPV-Hib5 種混合ワクチンについては、 2 か月、 3 か月、 4 か月、 12 か月後にブースターを掛けるという 4 回接種で臨床開発をする予定で、現在、準備をしているところです。
細胞培養インフルエンザワクチンですが、御存じのとおり、現在のワクチンは卵で作られておりまして、幾つか問題を孕んでおります。細胞に切り替えることで生産期間が短縮できますし、生産量のアップにも柔軟に対応できると。この漫画に書いてありますように、卵を使った場合ですと、卵を準備するまでに 6 か月ほど時間がかかりますので、その間のタイムラグが、特にパンデミック時においては大きな問題になるということで、我々はパンデミックワクチンを先に開発して、フレキシビリティをもって、いざパンデミックというときに対応しようと思っております。季節性ワクチンに関しては、卵を使ってウイルスを継代することで、流行しているウイルスと少し抗原性がずれてきて、いわゆるマッチしないという表現をしますが、そういう現象が香港型、 H3N1 を中心に、ここ数年続いておりますので、そういうことを避けるために細胞培養を用いた季節性ワクチンの開発が急務だと考えております。
最後に、安全性ということで、細胞バンクを用いた場合には、最初から最後まで密閉された環境で、閉鎖された環境でワクチンを作ることができますので、非常に安全なワクチンができるとともに、卵を使わないということで、卵アレルギーを持った対象の方にも安心して使っていただけるワクチンになるのではないかと思っております。
7 ページですが、先ほど述べましたように、細胞培養のインフルエンザワクチンに関しては、パンデミックワクチンを先に開発することを優先してまいりました。武田さんと同じように、我々は EB66 という別の細胞を使ってワクチン開発を行って、この 3 月に H5N1 限定のパンデミックワクチンのライセンスを頂きました。現在その流れで、どういう株が来ても、 H7 とか H9 とかいろいろお聞きになっていらっしゃると思いますが、どういうパンデミックウイルスが来ても、ワクチンが作れるようにプロトタイプという格好で申請を予定しております。この承認を得ることができれば、パンデミックワクチンの対応が済むわけですが、並行して季節性ワクチンの製造体制を卵から細胞培養に切り替えようという仕事も行っております。パンデミックワクチンの開発とともに、パンデミックワクチンでの製造方法を基に、季節性ワクチンの基礎的検討をずっと続けておりました。今回、パンデミックワクチンに大体目処がつきましたので、我々の開発体制を細胞培養の季節性ワクチンにおいて、今後そこにヒューマンリソースを集中して、なるべく早い時期に季節性のインフルエンザワクチンを上市したいと思っております。製法は、パンデミックワクチンでかなり培っておりますが、季節性に合わせて少し改良していく必要があります。剤型に関しては、パンデミックの場合には 1 株で ASO3 というアジュバントを使っておりましたが、季節性の場合には、現在、卵ワクチンでは H1 、 H3 、 B 型 1 つということで 3 つ入っておりますが、恐らく来年、再来年のシーズンから B がもう 1 つ加わって 4 価になります。それを目指して細胞培養でも 4 つの抗原を含んだスプリットワクチン、抗原量はパンデミックワクチンに比べて 4 倍の 15 マイクロの各型ということで、抗原量としてはかなり多くなってまいりますので、計算すれば分かりますが、パンデミックに比べて相当の生産効率を上げないといけないということが分かってまいります。季節性の場合には、パンデミックで使ったアジュバントを使う予定はありません。現在そういう状況で、なるべく早く毒性試験、臨床試験を行って、申請をしていきたいと思っております。
8 ページですが、細胞培養インフルエンザワクチンに関しては、課題も残っております。卵ワクチンに関しては 1970 年代から 40 年以上にわたって生産を行ってきておりまして、毎年、綱渡りの生産なのですが、一度も欠品することなく物を作ってきておりまして、そういう意味では安定したワクチンです。御存じのように、インフルエンザの場合、毎年、株が変わる可能性がありますので、そういう株が変わるワクチンをきちんと作ることは 1 年、 2 年でできることではありませんので、これから細胞培養ワクチンに関しても実績を積み重ねていく必要があるという課題がまずあります。
それから、先ほど述べましたように、パンデミックに比べると抗原量が増えますので、製造コストを現在の卵並みにしていくことはそう簡単なことではありません。とはいうもののパンデミックはいつ起こるか分かりませんので、現在構築したパンデミックワクチン製造用の工場を維持するためにも、季節性ワクチンとのシナジー、相乗効果を目指していかないといけないと思っています。といいますのは、パンデミックがいつ起こるか分かりませんが、パンデミックが起きたらすぐにパンデミックワクチンが作れるように、原材料を備蓄したり、製造設備、製造要員を常に維持していく必要があります。何もせずにそういうことをしますと、そういう費用が無駄になってしまいますので、通常は季節性ワクチンをパンデミックワクチン製造用の工場で作りながら、いざパンデミックになれば、迅速にパンデミックワクチンに切り替えていくという流れが大切になってくるわけです。先ほど述べました課題とともに、毎年、株が変わってまいりますし、武田さんは Vero 、私たちは EB66 という違う細胞を使っておりますので、今までのようにほとんどの製造メーカーが同じ卵という基材を使っているわけではありませんので、毎年のワクチン製造株の選定とか、感染研で使われる力価試験用の試薬等々、 1 つでは済まない可能性もありますので、今後そういうことを感染研とも協議していきながら、なるべく早い時期に細胞培養ワクチンの認可を目指していきたいと思っているところです。
最後に、 MR を含む混合ワクチンの開発として、 9 ページですが、私たちは 2003 年に米国メルク社が開発して、世界中で使われております M-M-R2 という M 、 M 、 R 、 3 つを含んだ混合ワクチンの承認申請を行っており、現在、審査中です。ここで挙げていますように、このワクチンには麻しんワクチンとして Edmonston B 株、ムンプス株として世界的に優れていると言われている Jeryl Lynn 株、風しんとして RA27 、 3 株を含むワクチンで、これは 1978 年に米国で承認された後、世界 67 か国で 6 億ドーズ以上が使われているワクチンです。審査の状況によりますが、我々としては本年中の承認を目指して、現在、審査に対応しているところです。以上、なかなか具体的なことは申し上げられませんでしたが、化血研がこの 3 つのワクチンに関与しているという状況を説明いたしました。ありがとうございました。
○庵原部会長 一部、企業秘密のところもあるかと思いますが、お答えにくいところは答えなくて結構ですので、質問に対応をよろしくお願いしたいと思います。何か御質問はありますでしょうか。
○山口委員 季節性に細胞インフルエンザワクチンを開発されていくと。もう既に幾つか問題点というか、課題を教えていただいたのですが、実際に季節性を細胞培養でやられるとすると、昔の鶏卵でやるものと、両方並行して存在するのか、もう完全に切り替えていってしまうのか、その辺はどのように。開発の状況によるのでしょうけれども。
○城野参考人 なかなか難しい御質問だと思うのですが、できれば一気に切り替えるのが望ましいとは思うのですが、先ほど言いましたように生産性の観点とか、そういうこともありますので、共存する時期がしばらく続くかもしれません。ただし、細胞培養を前面に出す理由として、卵で継代することで抗原変異が入ることがありますので、そういうことを考えると、共存というのはどうかという意見も出るかと思いますので、その辺は慎重に考えていきたいと思っています。ただ、細胞培養が出るまで、まだしばらく時間がかかりますので、卵のワクチンに関してもそこは大きな問題ですので、今後、感染研とも相談しながら、何らかの解決方法が見出せれば、双方共存することもあり得るかもしれません。
○坂元委員 1 つ、季節性インフルエンザの細胞培養のワクチンの場合、現在の鶏卵に比べて、実際にもし上市されるとなると、価格面でかなり大幅に値上がりすることが考えられるのか。例えばこれは今 B 類でやっているので、鶏卵と細胞と両方で価格帯が違うものが幾つか出るというのは、自治体にとっては非常にハンドリングしにくいという問題と、やはり価格が高くなるということは、自治体の財政上の問題もあるので、お答えしにくいかもしれませんが、その辺の見通し等をお教えいただければと思います。
○城野参考人 これまたなかなか難しい御質問ですが、できれば私たちは現在の卵と同じような値段にしたいと思っています。そのためには非常に課題が大きいところで、もし卵に比べて有意に有効性が高いということになれば、その点も考慮しないといけないと思いますし、まだ諸々価格を決めるための条件などが決まっていないところですので、何とも言えないところです。心積もりとしては同じにしていきたいという考えはありますが、開発費も嵩みますし、何とも言えないところです。申し訳ありません。
○西島部会長代理 用いる細胞ですが、武田が Vero で化血研は EB60 ですか。これは同じものを使えばいいように思うのですが、その辺の事情の御説明をお願いします。
○城野参考人 それは各メーカーいろいろな事情があるのですが、先に当然、武田さんとかノバルティスが MDCK で別の細胞を使ってやっていまして、その権利関係が押さえられているということもありますし、私たちが EB66 を選んだのは、パンデミック対応ということですので、ちょっと専門的になりますが、細胞を培養する際にマイクロキャリアという特殊な基材がいるのですが、その調達がなかなか難しくなる可能性があるので、そういうものが要らずに、細胞だけでタンク内で培養できるという細胞が必須だろうと思っていましたので、そういうものを選択したと。幾つか理由はありますが、みんな一緒にすればいいではないかという話はいつも伺いますが、それぞれ思い入れもありますし、いろいろな理由があって、なかなか難しいところです。
○庵原部会長 インフルエンザの抗原変異に関しては、最後に小田切参考人からまた説明があると思いますので、その辺りのことはそこでもう一遍ディスカッションするとして、ワクチンの開発に関して何か御意見はありますか。
○細矢委員 M-M-R ワクチンについてなのですが、これは厚生労働省の方にお聞きしたいのですが、もし仮に M-M-R ワクチンが承認された場合に、この M-M-R が定期接種のワクチンとして認められる可能性があるのでしょうか。疾患としては麻しんと風しんということになっていて、現在のところは MR ワクチンが定期接種のワクチンとなっていると思うのですが、 M-M-R といった場合にいかがでしょうか。
○庵原部会長 これは宮本さんのほうからですか。
○宮本予防接種室長 私どもはどのワクチンも共通で考えておりますが、まず製品があるということが前提になってまいります。その次ということになりますが、定期の予防接種とすることがふさわしいのかどうか、技術的な検討を十分行い、その結果として、ある程度条件が整っているということになりますと、財政面も含め諸々の課題がありますので、そういった状況も確認し、定期にしていくかどうかという流れになってくるかと思います。これは繰り返しになりますが、どのワクチンも今後新しく開発されるものが出てくると思っておりますので、それぞれについてそういう形で検討を進めていきたいと思っております。
○庵原部会長 城野参考人に確認ですが、 Hib のワクチンは結合型の Hib ですね。
○城野参考人 そうです。テタヌストキソイドに結合した、いわゆるコンジュゲートワクチンです。
○庵原部会長 コンジュゲートを国産で開発しているということですか。
○城野参考人 そうです。
○庵原部会長 ありがとうございます。あとはよろしいでしょうか。もしないようでしたら、小河原さんと城野さん、どうもありがとうございました。
次の議題に入りたいと思います。現在、厚生科学研究で進行しておりますワクチン開発の現状といいますか、どこまで開発されているかということに関して、 3 人の参考人に来ていただいています。最初に、長谷川先生からインフルエンザをよろしくお願いします。
○長谷川参考人 感染研感染病理部の長谷川です。本日は我々が厚生労働科研費の補助金を頂いて進めております、次世代ワクチンとしての経鼻インフルエンザワクチンということで、研究の進捗状況をお話させていただきます。まず、バックグラウンドですが、資料 3 の 1 ページの下の段に、なぜインフルエンザには次世代のワクチンが必要かということです。現在、注射で行われているワクチンは、感染後の発症や重症化を予防するものですが、感染を完全に防御するものではない。また、インフルエンザは毎年、株が変わってくるわけですが、ワクチン株と流行株が一致したときには有効ですが、一致しない場合には効果が低いと。また、先ほど来出ておりまして、また後ほど小田切先生から御説明があると思いますが、特に H3 においてワクチン株と流行株の抗原性が乖離しており、流行株に対する抗体価が上がりにくいという現状があります。また、新型インフルエンザのパンデミックにおいては、流行株を予測することは不可能であると。また、 H5N1 の沈降全粒子不活化ワクチンにおいては、発熱問題で小児には使用できないといった現状があります。
次ページの実験で示されているマウスの絵があるところですが、これは昨年 Nature communications に中国のグループから発表されたもので、インフルエンザが感染して増えると光るようなウイルスを作製して、それを免疫をしていない、何もしていないマウスに感染させた 3 日目の図が下のパネルになります。鼻の領域と肺の領域でウイルスが増えているのが見えます。上ですが、そのマウスにあらかじめ、このウイルスに対する抗体を投与しておきますと、肺での増殖は抑えられていますが、鼻でのウイルスの増殖は変わらず存在しています。このことは、血中に抗体を誘導しても、肺での増殖は抑えられるけれども、上気道での感染は抑えられない。よって、インフルエンザはそこで感染して症状も出してしまうことを示しております。よく効く次世代のワクチンとしては、感染を阻止できるようなワクチン、また流行株とワクチン株が一致しない株に対しても、交叉防御能があるようなワクチン。そういったことがあることによって、予測不能な新型インフルエンザにも対応できるようなワクチンになります。また、局所や全身の副反応が少ないワクチンが求められております。
次ですが、よく効くワクチンのヒントとしては、以前より知られていることがありまして、それは 1960 年代から自然感染によって誘導される免疫は不活化のワクチンの注射によるものよりも、変異ウイルス感染に対する交叉防御能が高いことが知られておりました。これは感染によって誘導される粘膜上に分泌する IgA 抗体が寄与していると考えられてきました。
そこで、 IgA 抗体を誘導するワクチンとして、経鼻ワクチンの開発が進められてまいりました。米国では、ウイルスの毒性を弱めて、弱毒生ウイルスワクチンが開発されて、 2003 年に米国で認可されております。ただ、生ウイルスのワクチンということで、使用が 2 歳から 49 歳の世代に限定されておりまして、実際にインフルエンザで問題となります乳幼児や高齢者の方々が対象から外れております。
我々感染研の感染病理部では、 1980 年代より IgA を誘導するようなワクチンの開発を目指して、不活化のワクチンを用いた経鼻インフルエンザワクチンの開発を行ってまいりました。ただ、蛋白成分のワクチンのみを鼻から入れても、抗体誘導は効率よくできませんで、何らかのアジュバント作用を含むものが必要であることが分かってまいりました。
3 ページの下は粘膜での抗体応答を表していますが、粘膜には一層の上皮細胞がありまして、インフルエンザウイルスはここに感染します。注射のワクチンによって誘導される免疫は、左下の赤い字で書いてある IgG 抗体、これは血中に存在していて、感染が成立した後に働く抗体です。一方、先ほど来説明しております IgA 抗体は粘膜上に積極的に分泌されてきて、感染をその手前で防御してくれる効果があるとともに、構造が IgG と異なる構造をしていることから、交叉性もあると考えられています。
4 ページです。 1 つ、マウスでの実験結果ですが、これは H5N1 のワクチンを経鼻接種した場合と皮下接種した場合、ワクチン接種後に型の異なるウイルスでチャレンジした実験です。その下の図は、ワクチン株と同じ H5N1 で抗原感染したときの図ですが、下の図の右側は生存曲線を表しています。ワクチンしないマウスにおいては、 100 %、 12 日までに死亡してしまいますが、皮下接種、経鼻接種しているマウスにおいては 100 %生存しております。皮下接種、経鼻接種、ともに生存しておりますが、 3 日目における鼻でのウイルスの量を比較すると、経鼻接種では全くウイルスが認められない。皮下接種はウイルスがそこで増殖して分離されるという状況ですので、皮下接種は重症化が防げて生存していると。一方、経鼻ワクチンは感染そのものが阻止されて生存していることになります。
5 ページの上は、ワクチン株としてベトナム株を使って、感染株にほかの抗原性の異なるウイルスでチャレンジした場合ですが、インドネシア株でチャレンジした場合には、ワクチンなしの生存が 20 %に対して、皮下が 40 %、経鼻が 100 %の生存を示していますし、鼻でのウイルスの量はそれに呼応して減少しています。香港株に関しては、皮下接種においてはワクチンなしと同様に 100 %死亡しているのに対して、経鼻接種では 80 %の生存がマウスで示されてきました。
カニクイザルなどを用いた研究も厚労科研でやらせていただいて、良好な結果が得られたのですが、ワクチンを考える場合には、ヒトでどうなのかということが問題になります。実際にヒトの鼻腔の中には、ウイルスを中和するような抗体が誘導されているのかということを次に評価することにしました。今までワクチンの効果が血中の HI 抗体価によって評価されていたもので、ある程度の指標にはなるのですが、このような粘膜の免疫を誘導する場合には、一定の粘膜免疫を評価する方法が必要であると考えて、我々は厚労科研において鼻腔洗浄液の標準化を行って、ワクチンの中和抗体や HI 抗体を粘膜のサンプルを使って測れるシステムを構築しました。簡単に上にまとめてありますが、鼻腔洗浄液をきれいに生成して、濃縮をかけて、トータルの蛋白で 1mg/mL という値で標準化することによって、粘膜中の IgA 及び IgG 抗体が生理的な状態の 10 倍希釈の状態に呼応することが分かりましたので、その液を用いて抗体測定をする系を立ち上げました。実際に倫理委員会及び臨床登録を行って、臨床研究という形で、季節性のインフルエンザで行ったのが 6 ページ下のデザインになります。これは H3N2 の季節性のインフルエンザワクチンを用いて、通常の注射に比べて 3 倍量の 45 μ g/dose ですが、 50 名の健康成人に経鼻で 2 回接種して、その後の抗体を調べました。
7 ページの上が結果ですが、血中の HI 抗体価で GMT で、プレが 16.2 から 68.8 です。注射でしたらこちらのみになりますが、経鼻接種していることから Nasal wash 中、要は鼻の洗浄液中に HI 抗体を見出して、 GMT にして 12.4 から 38.8 と、平均が上昇しております。下に HI の抗体価をまとめましたが、幾何平均が 4.25 倍、陽転率が 43.5 %、プロテクションレートが 76.1 %あるという形で出てきまして、血中の HI 抗体価に加えて鼻での HI 抗体が誘導されていることになります。また、 8 ページの上ですが、中和抗体においても、鼻のサンプルを使って測定することができるようになり、ワクチン株に対しては 15.4 から 90.5 。また、 10 年以上前の株であるシドニー株に対しても、 GMT で 23 から 48.7 という形で中和抗体が誘導されております。ここまでは季節性のワクチンを用いていたので、御覧になって分かるように、プレの段階でも抗体を持っている方はたくさんいらっしゃいます。これは成人ですので、今まで既にばく露されている個体です。
そこで、 H5N1 のような免疫学的にナイーブな、免疫学的に無垢な状態でこのワクチン方法が有効であるかどうかを検討するために、 8 の下のエキスペリメントの 2 で H5N1 のインドネシア株のワクチンを用いて、全く同様の方法で 63 名のボランティアにお願いしました。全く同様と申しましたが、このときには粘膜に付着するような剤型を用いたものと、季節性と同じ方法の 2 群に分けて行いました。その結果をまとめたのが 9 ページの上ですが、 +CVP と書いてあるのが粘膜に付着するほうで、季節性と同様の方法をとって 2 回接種した段階では、ほとんど上昇が認められず、 2 回接種後、平均で中和抗体が 16.7 と非常に低い値でした。
そこで、 2 回、同じ方法では、免疫的に無垢な、ナイーブな個体においては免疫は上がらないのだということが確認できましたので、もう一度、追加接種することにしました。そうしたところ、ほとんどの方で免疫応答があり、平均で 105 という形で、 1 回プラスすることによって、かなり高い抗体応答が得られました。平均値の上昇値としては 32.9 倍、陽転率としては 88 %、 1.40 以上の中和抗体を持っている割合が 88 %という値になりました。
我々はこういった結果が得られましたが、実際にそこで効いてくるメカニズムについても基礎的な検討が必要であると考えて、ヒトの鼻の中に出てくる抗体の性状解析をしました。 10 ページですが、解析したところ、鼻の洗浄液中に含まれる抗体は、 70 %が IgA 抗体で、 30 %が IgG 抗体ということが分かりました。これをゲル濾過クロマトグラフィーによって、サイズによって分類して、その性状を解析していきました。そうしたところ、今まで IgA には単量体と二量体、さらに多量体が存在することが知られていますが、詳しくは分かっておりませんでした。それぞれの分画を DLS 法でサイズを見ていくと、二量体よりも大きい部分に、体積にして約 2 倍のものが存在することが分かって、さらにこれを原子間力顕微鏡で観察すると、下の写真にあるような手が 8 本あるような四量体の IgA 抗体が存在することが明らかになりました。
こういった多量体化した抗体はウイルスの感染にどのように影響があるのかを調べる目的で、 12 ページの上ですが、小さい抗体から大きい抗体へと右から左へ並べておいて、それぞれの中和価を図りました。ワクチン株に用いたインドネシア株に対する中和を見ると、 IgG のフラクション、 IgA のフラクション、小さいものから大きいものに、全ての抗体に中和活性があるのが右上の図です。
それに対して、 Clade の異なるといいますが、抗原性の異なるウイルスに対する中和を見ていくと、下のベトナム、 Clade1 を見ると、 IgG+IgA と書いてある一番右の部分にスコンと空白ができております。ここでは血中に誘導される IgG やモノマーの IgA には、 Clade を超えた交叉能力が見られていないことになりまして、やはり二量体、若しくはそれより大きい抗体に交叉性が存在することが示されております。これはラオス株である Clade2 、 Clade3 、 Clade4 と書いてある所も同様で、 IgG と IgA のフラクションでは中和がスコンと抜けておりますので、そのように交叉性を持たせる抗体は、二量体以上の IgA が担っていることが分かりました。
下の図は飛んでしまっているのですが、ここで示したかったのは、モノマーよりも二量体、二量体よりも四量体という形で、それぞれの抗体自身の中和能力が高くなっていくことを示しております。多量体化した抗体のほうが単量体、二量体よりも、中和能が更に高いということで、よく効くワクチンは、ここにある 8 本の手があるような抗体を粘膜上に準備できるようなワクチンであるということで、その方法として経鼻ワクチンがあると考えております。
まとめますと、経鼻インフルエンザワクチンは、粘膜上に分泌型の IgA 抗体を誘導して感染を阻止することができる。鼻腔粘膜上に誘導される分泌型 IgA 抗体は、交叉防御効果があって、血中の IgG 抗体と比較して変異したウイルスに対しても有効である。不活化全粒子ワクチンの経鼻接種によって、ヒトにおいて血中に加えて鼻腔粘膜上にインフルエンザウイルスを中和する抗体が誘導されている。経鼻ワクチンにより誘導される分泌型 IgA 抗体には、二量体、四量体、更に多量体化しており、インフルエンザウイルスの中和に寄与しているということで、経鼻インフルエンザワクチンは鼻腔粘膜上に分泌型の多量体の IgA 抗体を誘導することによって、インフルエンザウイルスに対する感染防御、交叉防御に寄与していることが分かってまいりました。最初に挙げた方々に協力していただいた結果です。以上です。
○庵原部会長 何か御質問はありますでしょうか。
○福島委員 経鼻のインフルエンザワクチンであっても不活化ということで、今現在、海外等で承認されている弱毒生の経鼻ワクチンと全く違うことから、非常に注目されている研究ではないかと思います。 1 点、教えていただきたいのですが、先生が度々言及されました感染防御について、お尋ねします。私どもは疫学が専門ですので、どうしてもワクチンの臨床的な有効性を見るときは、現段階の研究では、発症をどれだけ抑制するかという研究が圧倒的に多数を占めるものだと思うのですが、既に海外で承認されている生の経鼻ワクチンの発症抑制効果は 100 %ではないと思うのです。ということは、感染も 100 %防止されているわけではないと思うのですが、先生のこの不活化の経鼻ワクチンは、そもそも海外で既に承認されている生の経鼻ワクチンと構造が全く違うのか、あるいは基本的に構造が一緒であれば、 IgA 抗体が鼻粘膜上で良好に誘導されても、そこで完全に感染をブロックできていない可能性があるために、感染そのものを予防できていないのか、あるいは鼻だけではなくて、飛沫感染ということで、口からも気道に入るルートなども可能性としてはあると思うのですが、そのようなところで乖離といいますか、 100 %とは言えない状況が起こっているのか、お考えをお聞かせいただけますでしょうか。
○長谷川参考人 我々はワクチンそのもので調べたわけではないのですが、飽くまで動物で、感染によって誘導される免疫と、不活化のワクチンによって誘導される免疫を比較したことがあります。そうすると、感染によって誘導された IgA 抗体と不活化のワクチンによって誘導された IgA では IgA の量が異なって、不活化で誘導してやったほうがかなり高い値の IgA が得られていて、マウスの実験では感染後にもう一度同じウイルスに感染させても、パンデミック株の 09 年の株に関しては 2 回、感染してしまっているという結果が得られております。ということで、要は誘導される IgA の抗体の量によって、感染が防御できるか、もう 1 回かかってしまうかというところの、 IgA があればいいというものではなくて、やはりある程度の量が必要であると考えています。
先ほどの喉の話ですが、粘膜免疫は 1 か所の粘膜で誘導されると、全身の粘膜に再分布して、全身の粘膜で同様の特異的な IgA が分泌されますので、鼻で打ったから鼻だけに誘導されるわけではなくて、喉とか腸管とか、泌尿、生殖器といったところ全体に IgA は分泌されるので、鼻に打ったからそれ以外の所は守られないということではありません。
効果による違いですが、生の場合には既存の免疫によってワクチン自身が排除されてしまって、なかなか免疫効果が得られないこともありますが、不活化の場合には、先ほど H3 で示したデータのように、既にかかっている場合のほうがブースター効果が非常に高く得られておりますので、そういったほとんどの人がかかるような疾患の場合には不活化でいったほうが効果が高いのではないかと、我々は考えております。
○伊藤委員 2 点お聞きしたいのですが、まずは経鼻なので、安全性は特に問題がなかったということなのだろうと思いますが、安全性についてと、投与量が経鼻で 45 μと、筋注に比べると多いのかなという気がしております。投与量を振って、シーリングの効果があったかどうかというのと、ついでなのですが、 H5 に関しては随分株ごとに反応が違っているという経験をしているのですが、そういった資料みたいなものがおありかどうか、教えていただけますか。
○長谷川参考人 副反応についてですが、今まで臨床研究として、延べ 200 名、 300 名近く接種させていただきましたが、特に重篤なものは起こっておりません。数名の方に、接種後の一過性の喉の痛みを訴えられた方はいらっしゃいます。投与量に関しては、ヒトで最初だったので、このぐらいの量を行いましたが、その後、季節性で 3 価で、注射と同様に 1 株 15 μ g という値で行っておりますが、今日はそこはまだ出していませんが、それでも良好な結果は得てきております。ですから、量は今後、調整できるかと思います。
H5 の株に関しては、ヒトで使える株が限られているのと、我々のレベルで何回も比較をできないので、これはインドネシアで行っていますが、その結果しか分からないのですが、 2 回では上がってこなかったというのが現状です。
○坂元委員 6 ページの下の研究デザインで、 6 週間までフォローされていますが、 6 週間以降はどんな感じなのでしょうか。お分かりになればお教えいただきたいと思います。
○長谷川参考人 ヒトではフォローしていないのですが、 H5 の結果を見ていただくと、 H5 は実は 2 回、接種した後に上がらなかった。いろいろ解析して、次の投与をするまでに 8 か月たっているのです。このデータではないですが、 8 か月たっても、抗体はそのとき維持されていたと思うのですが、このデータはちょっとあれですね。ヒトではそのデータしかないので、 8 か月後はほとんど変わらなかったと思っています。また、カニクイザルで行った実験では、ワクチン接種後、 1 年後にワイルドタイプの H5 でチャレンジしてもプロテクションできたという結果を得ています。
○森委員 今回は IgA の誘導がすごく重要ということなのですが、先生が使われたのは全粒子不活化ワクチンとアジュバントということなのですか。
○長谷川参考人 ヒトではアジュバントを使っておりません。
○森委員 そうすると、全粒子不活化ワクチンだけで、 IgA を誘導できるということですか。
○長谷川参考人 季節性に関しては、 2 回の接種で誘導できています。誘導といいますか、ブースターですかね。
○森委員 分かりました。あと、 H5 でナイーブなヒトを見られていて、それはやはり 3 回のブーストが要るということなのですが、季節性でも免疫原性としては同じようなことなのでしょうか。例えばナイーブなヒトだと同じような反応を示すのでしょうか。
○長谷川参考人 それはちょっと見てみないと分からないですが、例えばナイーブな場合にも、やはり 3 回やればリードできるのかなとは考えていますけれども。
○森委員 やはり 3 回は必要ということですか。
○長谷川参考人 今、同時にヒトで使えるようなアジュバントを検討していて、そうすると最初のプライミングでアジュバントを使えば 3 回は要らないかなと思いますが、現状、ヒトに投与できるような全粒子の不活化だけを使うと 3 回必要である。逆に言うと、 3 回やれば上がってくると。
○森委員 ありがとうございます。
○山口委員 3 点ほど教えていただきたいのですが、 H5N1 の場合には 3 回投与が必要だったということで、もう 1 つ、これは中和抗体価を上げるというところがあったのですが、 H5N1 のマンヘミアのような評価方法、要するにどれだけ抗体価があって中和。そのようなタイターの評価方法を、この場合に同じように当てはめていいのか、それとも経鼻のワクチン、しかも IgA をターゲットにしているので、その場合は違う評価方法があったほうがいいのか。
○長谷川参考人 そうなのです。評価方法に関しては、我々もまだ評価方法が存在しないので、既存の HI 抗体、若しくは中和抗体に加えて、我々ができるものを解析していますが、今後、どの程度中和抗体、若しくは鼻での抗体が上がっていれば、感染防御、若しくは発症防御できるのかというのは、きちんとしていく必要があると考えております。それが注射の場合でも、 H5 と季節性で同じかどうかというのは、ちょっと私は分からないので。
○山口委員 もしかしたら 3 回目の前でも、ひょっとしたらプロテクションとしてはかかっている。例えば IgA が上がっていれば、かかっている可能性はあるということですか。
○長谷川参考人 可能性はあると思います。これはなぜ 3 回目を打ったかといいますと、 2 回接種した後に、末梢血中の形質細胞の数をカウントしたら、ほぼ全ての人で形質細胞の数が増えていたので、恐らく 2 回の接種でプライミングはできただろうと考えて、 3 回目を行ったのです。ですから、何もしていない状態に比べて、 2 回接種後に感染が来た場合では、かかった後の抗体の上がりの速効性はかなり変わってくると思います。それはカニクイザルで 1 年前に 2 回接種したものに、いきなりワイルドタイプのウイルスをチャレンジしたときに、感染後の抗体を追っていくと、ナイーブな場合には 1 週間以上たたないと抗体が上がってこないのに対して、前の年にワクチンを接種した群は、 3 日目には粘膜でも血中でも抗体は上がってきていますので、そういった効果は 2 回でもあるかもしれません。
○山口委員 もう 1 つ、先ほど御質問にもあったのですが、かなり HI 価が高い。
○長谷川参考人 量がですね。
○山口委員 量がですね。多分アジュバントを使っていない、ヒトでは使えなかった。今後、量を下げていく必要があるかなと思って、その場合、経鼻なので、アジュバントはなかなか使いにくいところではないかと。
○長谷川委員 そうですね。経鼻のアジュバントという、結局そこが結構ネックになっていて、我々もずっと粘膜アジュバントの研究という形でやってきましたが、候補として幾つかトールライクレセプターのリガントとなるようなもので、安全性さえ確保できればというものがありますので、ヒトではやはり安全性をきちんと確認してから。動物では効果が上がっているのです。
○山口委員 ありがとうございました。
○小田切参考人 1 点確認したいのですが、いずれも H5 にしろ、季節性のワクチンにしろ、全粒子ワクチンでやっていますが、現行のワクチンはスプリットワクチンなので、スプリットワクチンでやった場合は、どのぐらい抗体が上がるのか、というところに疑問点があります。
○長谷川参考人 スプリットでやった場合ですか。
○小田切参考人 スプリットワクチンでやった場合です。
○長谷川参考人 スプリットでやった場合には、スプリットで 45 μを以前、ヒトでやった場合に、やはり 2 回では上がってこないで、 5 回接種すると、ほとんどの人で上がってくるという状態でした。ですから、同じ量の HI があっても、ワクチンの剤形がスプリットなのか全粒子なのかによって、全然、免疫応答は違ってきます。
○小田切参考人 そうすると、ワクチン接種を 5 回もやるというのは非現実的な話となりますよね。すなわち、現行のスプリットワクチンという形態は粘膜ワクチンには使えないということです。
○長谷川参考人 ですから、全粒子で。
○小田切参考人 しかし、現実的には今、日本では全粒子でワクチンを生産するという体制は、捨てているわけです。粘膜ワクチンを実用化するためには、もう 1 回、スプリットから全粒子ワクチンに戻すという戦略も考えないと、この粘膜ワクチンは絵にかいた餅であると思うのですが、そういう体制の整備も必要ではないかと思いますが。
○長谷川参考人 そのとおりだと思います。もちろん、これは新しいワクチンなので、皮下接種でライセンスがあったとしても、それは関係ないので、これ用に全粒子ワクチンで製造しなくてはいけないと思っていますけれども。
○小田切参考人 これは長谷川先生の所の問題ではなくて、恐らくメーカーと国の戦略の問題になると思うのですが、全粒子ワクチンを日本で製造するという体制を作れるかというのは、今後も議論しておく必要があると思うのですけれども。
○長谷川参考人 ですから、メーカーが全粒子、もちろん効果のある方法でやるというように考えれば、作るというか、そうせざるを得ないと思いますけれども。全体というのではなくて、作る所が、そういうので動くと思うのですけれども。
○庵原部会長 少なくとも経鼻に関しては、スプリットよりも全粒子のほうが非常に優れていると。ですから、これは経鼻を開発して、将来、市販化するためには、スプリットの剤型はまず考えずに、全粒子でやる必要があるだろうという考えですか。
○長谷川参考人 スプリットもアジュバントを超えれば上がってくるのですが、今アジュバントがない状況だと全粒子のほうがいいと。
○庵原部会長 優れていると。だから、このような形で現在、長谷川さんのやられているのを進めていくならば、剤型をスプリットにこだわらずに、全粒子を考えていく必要があるだろうということですね。
○長谷川参考人 はい。
○庵原部会長 ありがとうございました。
次の話題に入りたいと思います。次の保富参考人から、結核のワクチンについて、よろしくお願いします。
○保富参考人 医薬基盤研の保富です。よろしくお願いいたします。結核に関しては、岡田先生も御説明されるかと思いますが、日本が世界でも中等度の蔓延国ということで、 10 万人当たり 17 ~ 8 ぐらいかと思います。資料の 1 ページの下に示しておりますのは、非常に汚染率の高い南アフリカで最初にやられた疫学調査です。横のナンバーは 10 万人当たりで、日本と比べるとはるかに汚染率が高く、 BCG を打っている状態の人たちを年次的にずっと見たのが、発症率のところです。
ここで分かったことは、一番効果があるのが 10 歳前後です。もう 1 つは、だんだん上がってくるようなときに、このときにはブースターを行うのですが、それは全く効果がなく、 17 ~ 8 歳を過ぎますと、打っていない人たちの過去のデータと、打っている人たちのデータにはほとんど差がなくなるということで、 BCG の効果というのが、 10 歳ぐらいでほぼピークを迎えて、その後、追加接種は効果がなく、なおかつ 17 ~ 8 歳以上になると BCG を打っても打たなくても、ほぼ同じぐらいの予防効果しかないということが分かってきました。 WHO は、 BCG に関しては成人の肺結核を予防する効果は余りなく、小児の結核性髄膜炎や粟粒結核等を抑えると結論付けています。
特に日本では成人型の肺結核が一番問題になります。御存じの方も多いと思いますが、先ほどの 10 万人当たりの計算でいきますと、日本では年間 2 万人以上。あとで岡田先生からお話があるかと思いますが、更に現在、薬剤耐性結核が非常に問題になり、日本でももちろん報告されておりますし、特に隣国の中国、ロシア、朝鮮半島では非常に蔓延していることが分かっております。今のところ、その辺を防御するためには、何が必要かというと、 1 つは治療薬がありますが、やはり考えられるのはワクチンであるということで、我々は成人の肺結核を予防するようなワクチンを考えようということで、今回の研究になっております。
次ページです。肺結核を予防するためには、先ほどの長谷川先生の話にもありましたが、粘膜免疫が必要だろう。粘膜免疫を誘導するために何を使うかというので、ここに示たような、ヒトパラインフルエンザ 2 型ウイルスというウイルスを選択しました。このウイルスはヒトの呼吸器に感染するパラミクソウイルスなのですが、病原性は基本的にはほとんどありません。これは三重県で調べられていますが、成人では不顕性感染で、症状は一切出さない。疫学調査でアメリカで調べられているのですが、呼吸器症状を示した小児の咽頭スワブを採ってきて 4 年間数千人の子供たちを調べても、ホスピタライゼーションは 1 万人に 1 人ぐらいしかないということで、ほとんど基本的には病気はないでしょう。年中その辺にあるようなものです。
安全性を更に担保するというのは、今まで使われているワクシニアとか、アデノウイルスは、みんな DNA ウイルスですが、これはいわゆるモノネガの RNA ウイルスでして、ここに生活環を示しておりますが、このライフサイクルは DNA フェースを持っていない。つまり、細胞質で全て終わってしまうということで、ホストの DNA から何か干渉を受けることもないし、このウイルスそのものがホスト細胞の DNA に某か干渉することもないということで、非常に安全性が高いということが担保されています。 そういう意味で病原性が低いと言うのかもしれません。
そこで、それをべクターとすると考えて、下の段ですが、いわゆるモノネガの RNA ウイルスが自然界で組み換えられるというのは 1 例も報告されたことがなくて非常に安定なのですが、逆にいうと、リコンビナントするという技術がなかなかなかったのですが、 DNA から RNA を作るリバースジェネティックスという手法があって、今、インフルエンザなどもそうですが、使われます。センダイウイルス等々もそうです。そういう手法をもって、これをベクターとするということで、先ほど非常に安全性が高いと言いましたが、更にマトリックスプロテイン、フュージョンプロテイン、それから HN といった遺伝子を取り除きますと、感染はするけれども複製はしない、更に安全性が高まるということで、このような一部の遺伝子を欠損させたようなウイルスを作ろうと。ここに Ag85B という例を書いていますが、 NP の頭に、今回で言うと結核の抗原を入れたという状態になります。これはリバースジェネティックスをやられている方は分かると思いますが、いろいろな DNA をただ持ってきて、グルグルっと混ぜればできるという、お料理のような感じですが、非常にイージーにできます。技術的には一旦ウイルスが増えますと、単純なウイルス操作なので、最初にプラスミドを作ってウイルスを使えば、ここから先は通常のウイルスを増やすのと同じですので、ワクチンメーカー等とも作ることは容易な技術となっています。
このシステムを使う一番の利点は、次ページですが、モノネガウイルスのシステムというのは図の左側から順に NP 、 V/P 、 M 、 F 、 HN というように通常、蛋白はウイルスの場合は読まれていきます。一つ一つの NP から V 、 V から M というジャンクションは非常に不安定です。ほとんどの場合、 NP から V にいくと、 20 %ぐらいミスリードで、そこから読まれない。次は V から M に行くときに、またミスリードで読まれないということで、最終的にトレーラーまで行って、やっとウイルス粒子ができるということで、ほとんどの場合、不完全で終わっていくのが特徴です。
それは何を示しているかというと、発現が左から、まず最初から起こる。発現のレベルも一番左端が一番たくさん出る。これが非常に特徴です。どういうことかと言いますと、不顕性感染で自然界にあるようなウイルスとか、何度も打とうとすると、基本的にはベクターのほうが圧倒的に挿入抗原より多いので、ベクターに対するレスポンスがどんどん出てくる。アデノウイルスベクターが使われるときに必ず問題になるのがアデノウイルスで、ここにいる方は皆さん抗体は陽性だと思いますが、それで使いづらい。打つ最初から中和抗体を持っているではないかという状態です。これを見ていただくと分かるように、最初に発現するのは我々が目的とする抗原です。そこが一番の特徴です。下に実験データを示していますが、 Ag85B という結核抗原ができますと、 6 時間で発現してくることが分かってきます。通常最初に出てくる NP ですと 24 時間で見えてきますし、メッセンジャー RNA の量でいっても Ag85B は NP に比べて 4 倍ぐらいの量は出ています。ということで、ベクターレスポンスを無視して何度でも打てるということが、このウイルスの特徴となっています。今回添付している論文のほうに書いてありますが、それを示したような、これは何度打っても大丈夫で、むしろブースターはどんどん掛かっていきますということを示したデータもあります。
粘膜免疫が重要であるというのを示すのがその下になります。これはマウスに結核抗原を組み込んだ異物、このウイルスを経鼻投与します。赤は 4 回経鼻投与するということで、青いバーは 2 回経鼻投与で、 2 回は同じ抗原の DNA ワクチンを全身投与する。黒いバーは BCG 、黄色のバーがナイーブのマウスで、そういう免疫したマウスに抗病原性の結核菌をチャレンジして、そのときの肺の菌数を調べたものです。
まず脾臓で見ていだくと分かると思いますが、 BCG を 4 回打ったものも、 2 回・ 2 回打ったものも、ほぼ同じぐらいの抑制効果があり、黄色のナイーブなものに、免疫していないものに比べると菌数が同じぐらい少なくなっているというのが分かると思います。
しかしながら、肺を見ていただくと分かると思いますが、赤いものが最も抑制効果が高く、通常我々が使用している BCG と比べても、はるかに高いことが分かるかと思います。同じ 4 回抗原を打っていても、 2 回全身投与、 2 回目は経鼻投与という青いバーと比べても赤いバーはより抑えているということから、やはり経鼻投与で粘膜免疫を誘導すると、全身の防御効果は同じかもしれませんが、少なくとも肺に関しては明らかに高い免疫反応が誘導できたということが分かるかと思います。
次ページを見ますと、上の段に示してありますが、左の折線グラフは肺のリンパ節です。右は肺胞の洗浄液を示しているのですが、その中のリンパ節、肺胞洗浄液中の結核抗原特異的なエフェクター細胞、効果細胞の数を示しています。
これはどういう実験かと言いますと、 0 週、 2 週、 4 週の 3 回、経鼻免疫します。赤い矢印の所は抗病原性結核菌をチャレンジします。左のリンパ節から見ますと、 0 、 2 、 4 と免疫するたびに結核菌特異的な効果細胞の数がどんどん増えてきます。丸いものが PIV2-Ag85B という結核抗原を組み込んだものです。 BCG の場合はそのようなことは起きてきません。チャレンジしたあとも少し上がってくる。赤い矢印以降も上がってくるかと思います。
一方、肺の洗浄液、 BAL という所を見ていただくと分かるのですが、これでいきますと、 0 週、 2 週、 4 週と免疫しても、ほとんど肺の中には効果細胞が浸潤してこないというのが分かります。しかしながら赤い所、抗病原性結核菌をチャレンジしたあとは、肺中には非常に数多いエフェクター細胞が浸潤してくることが分かります。
このようなことは、下の点線が BCG なのですが、 BCG では認められるのですが、はるかに高いことが分かります。これはどういうことを示しているかと言いますと、粘膜免疫を経鼻投与等々で免疫しますと、粘膜に対する、呼吸器に対する付属リンパ節にエフェクター細胞が待機している状態になっている。ここに常にいる状態になって、そのときに抗病原性結核菌にばく露されると著しく速やかにそれが肺に集まって、それが多分肺結核を予防しているのだろうということが分かります。
その下が、我々の現在の進行状況を示すところです。そこに AERAS と書いてあります。結核研究をやられる大抵の方は御存じだと思いますが、世界中の結核ワクチンの治験をサポートしている NPO の法人で、主に Bill Gates 財団が支援し、それ以外にも各国政府と書いてありますが、アメリカ、イギリス、 EU 各国、中国、オーストラリア、韓国も今年から支援するということで、そのような支援で運営されています。そこが今のところ、ヒトの結核ワクチンの治験は 100 %サポートするということで、飽くまでもヒト段階に入ったという段階です。我々の結核ワクチンに関しては、まだヒト段階に行っていないのですが、彼らが非常に我々のものに関して興味があるということで、一応 GMP を米国で作ってくれることになりまして、一気に進んできました。
その下に現在、世界で行われている治験を全て網羅してあります。 EU の TBVI にも同じものを使い、 AERAS のポートフォリオがインターネット上で確認できるので、見ていただければ分かると思います。そこで粘膜免疫を誘導すると考えられるものが赤い丸で、 PIV-Japan と書いてあるのが Evaluation のところで我々のものが入っています。
ここでどういう流れで実際のワクチンを作っていくかという話ですが、我々と医薬基盤研究所と AERAS で提携をして、更にそこに民間の企業、 BCG と大日本住友が入って、その 3 社でいわゆる研究開発をしていこうと。ただし、ヒト治験のサポートが行われることになったのですが、実際にヒトの治験をやるとなりますと、特にワクチンの場合は正常なヒトに打つという状態になり、日本で治験効果を見る、いわゆるフェーズ 2 以降が効果があるかどうかは、なかなか見づらいのです。世界的にはどういう所で見ているかというと、今のところは satbi がヒトの治験を 100 %サポートする治験機関になっています。これはケープタウンにあって、先ほどの図もそうですが、結核の発症者が 10 万人当たり 1,000 人ぐらいの町で、そういう所でやるとフェーズ 2 以降の効果が分かるということで、今のところはそこで 100 %やられています。
ここに私ともう 1 人立っている方がいますが、その方が治験センターのセンター長で、現在、 Gates 財団のヒト治験のヘッドに代わりまして。それで、私どもにはサルの感染症施設がありますが、ヒトの治験においては、今、 Gates 財団、 satbi 等々がやっているのは、エイズと同じシステムを全部導入しようということで、ヒトの治験をやっているときに、必ずサルにも同時にやる。セームタイム、セームドーズ、セームルートと、同じようにやっていく。ヒトの場合はどうしてもサンプリングの数が、例えば毎週採るわけにはいかないので、それを霊長類で全部代替する。万が一何かが起きたときは、そのときにその動物を解剖して、一体何が原因かをすぐ見ようということで、そういうシステムがないと、なかなか進まないのです。これは全く新しい建物で今年から稼働しているのですが、彼らはそれを見にきて、そのようなサポートをしようということで、ヒトの治験までが一応ルートが出来上がったということです。
最後になりますが、実際にどういう結核ワクチンを作っているのかというと、ここに抗原名は書いてありませんが、既にワクチンとして効果がある、先ほどの我々も使った Ag85B というもの、ほかに論文上、既に効果があるものを 1 つ選んで、これは今後また増えていく可能性もあると思います。
もう 1 つは、これが実際には世界的に一番多いとされていますが、非発症者が認識している抗原。実はもう地球上の 3 分の 1 の人が既に結核に感染していると言われています。発病する人は 3 %ぐらいで、感染して非発症の人が認識している抗原は幾つか知られており、そこから我々は幾つか抽出して、いわゆる潜伏している状態の人でもワクチンとして効果があるものを探そうということで、それです。
一番右の黄色の所は、特に再発したときに出てくる抗原ですが、結核菌が強毒株に変わるときに発現する抗原というのが幾つかあって、そこからもまた抽出するということで、我々は下のようなデザイン、 2 種のウイルスを混ぜたと。 1 つは Ag85B で、これは先ほども示しましたが、非常に強い免疫反応があります。常にこれを 1 本の中に入れてしまうとドミナントになるので、ウイルスを分けて、残りの幾つかを組み合わせたようなワクチンの 2 種類を使って経鼻投与のワクチンにしようと。我々の所はサルが使えますので、通常のマウス実験より 1 歩先んじてそういう効果が見られる。特に実際にヒトでは世界の 3 分の 1 が非発症で感染していると言いましたが、非発症の動物モデルを作れるのはカニクイザルだけです。そのようなものを用いて我々はそれができるだろうということで、現在開発しているところです。以上です。
○庵原部会長 ありがとうございました。御質問はございますか。
○山口委員 1 点目は、先ほども御説明いただいたと思いますが、アデノだと何回も打てない。これは間隔を空けて何回目にか打つことができると考えてよろしいのでしょうか。
○保富参考人 先ほどのポートフォリオのアデノの所にチンプアデノと書いてあると思いますが、結局、アデノの場合、自然感染も多い。最後はワクチンをするということで、 1 回打つとワクチンとして効果をなさないということで、一応ポートフォリオのプロトコールでも、アデノはみんな 1 回しか打たないことになっています。チンプのアデノと書いてあるのは、サルのアデノウイルスはさすがに感染している人がいないので、 1 回か 2 回使えるだろうということで候補に上がっています。
○山口委員 もう 1 つです。先生の担当ではないと思いますが、組み換えたウイルスベクターだと考えていいと思うので、多分カルタヘナが結構問題になってくると思います。治験のほうは日本でやるときには、今は南アフリカでやられるということでいいかもしれませんが、実際にもし実用化というときに、ヒトに投与する系をカルタヘナはどのように対応していったほうがいいのか。なかなかできるところではないと思いますが。
○保富参考人 おっしゃるとおりで、これは必ず話として出てくるのですが。例えばここで行われている南アフリカもそうですし、 EU 等々でも、みんなカルタヘナの加盟国なのです。加盟国で承認を得るということです。カルタヘナというのはヒトのワクチンだけではなくて、全ての組換え体なので、動物ワクチンで既に組換えウイルスが 2 種、日本でも使用されているのです。その辺で同じようなことを考えているのですが、そういう所を越えていかなければ駄目だというのは先生のおっしゃるとおりで、その辺は我々も安全性等々を担保したような形で考えていこうと思っています。
○岡田参考人 Ag85A をワクシニアウイルスに入れ込んでやる場合に、 BCG プライムで、ワクシニアウイルスの Ag85A でプライムしたほうがいいと。単独ではなかなか難しい。その辺、先生のワクチンはいかがですか。
○保富参考人 私どもも全く同じように考えています。基本的には BCG を打たない国のほうが世界では圧倒的に少ないので、まずプライムはされているだろうという大前提に立っていますので、今、ここではワクチン効果を出すためにナイーブな動物を示しましたが、ワクチン効果を見ているのは BCG プライムをした動物でこれを打つという形をやっています。おっしゃるとおり、そのほうがずっとワクチン効果も高いものが得られています。
○庵原部会長 投与は経鼻ですね。
○保富参考人 経鼻です。
○森委員 非増殖型のウイルスということなので、投与する場合はかなりの量が要ると思いますが、どのぐらいの量で投与されていますか。
○保富参考人 今、 109 個ぐらいを想定している段階です。
○森委員 109 個を経鼻で接種するということですか。これはかなりウイルスが濃縮されているということですか。
○保富参考人 このウイルス自身は増やすのにそれほど困難ではないというのがありまして、我々はサルの実験ですが、サルだと経鼻で 100 μぐらいまで可能なので、ヒトでマックスの状態で、それよりも半量ぐらいを考えて 109 ぐらいと考えています。 50 μはワンドロップと言いますが、そのぐらいを考えています。
○森委員 Ag85B を抗原とされているのですが、これに対する耐性はどうなのですか。
○保富参考人 基本的にこの抗原に対しては、結核菌が生きていくために必須のニコール酸の酵素に関連するもので、これがない菌というのはないので、これに対するミュータントいうのは。
○森委員 耐性というかミュータントですが。抗原を変異させるミュータントはできないのでしょうか。
○保富参考人 というのはない。今のところ報告はされていません。
○森委員 ほかの場所も考えていらっしゃるということなのですが、その場合はどういうウイルスを作る御予定ですか。
○保富参考人 それも同じような非複製型で、ここにも示しましたが、幾つか候補があります。海外の論文等もありますし、国内で研究されている先生もいますので、そういう所から、例えばウイルス増殖にも問題がなくて、ワクチン効果が高いものを何種類か入れたようなもの、既に 1 個作っているものはあるのですが、そのようなものを考えて、 2 種類のウイルス。 Ag85 は非常にドミナントなので、これとほかの 4 つを入れると、これしか認識されないようなウイルスができてしまいますので、今 109 個と言いましたが、多分これはもっと薄い濃度で、残りを濃くするという組合せを今のところは考えております。
○森委員 そうすると、別々のウイルスを作られて混ぜて打つということですね。
○保富参考人 そうです。
○森委員 そうすると、力価もそれぞれ落ちてしまう。その効果は大丈夫なのでしょうか。
○保富参考人 先ほど岡田先生もおっしゃいましたが、我々は BCG で 1 度必ず免疫誘導されているので、そういう意味ではほんの少しあればいいというワクチンにはなっているかと思います。
○庵原部会長 ほかにいかがですか。確認ですが、 M とか F とかをデリーションしてしまえば、 Vero で増殖はするわけですか。
○保富参考人 先生は御存じかもしれませんが、我々はノンストラクチャープロテインのデリートも作っているのですが、ノンストラクチャーのほうは Vero では増えますが、ストラクチャープロテインはウイルスの図にもあるとおり、例えば HM というのは感染をするときのレセプターなので、それを取ったウイルスというのは最初は感染しますが、複製したあとは次の細胞に入れなくなっていますし、 M はマトリックスプロテインなので、ウイルスの内膜なので感染はしますが、複製するときに内膜がないので、粒子にならないという状態です。だから、そういうのを発現した細胞を人為的に in vitro で作っておいて、そこでは幾らでも、例えば Vero に M をトランスベクトしたものではウイルスはバンバン増えますが、我々の体に入ったときはそういう M 蛋白はないですから、感染するだけで複製しないという形になってきます。
○庵原部会長 Vero ではよく増えるけれども、人の体に入ると感染だけして増殖しない。要するに、パラインフルの臨床症状は出てこない形にはなっているという考え方というか、そういうシェーマになっているということですね。
○保富参考人 はい、そうです。
○坂元委員 お教えいただきたいのですが、このワクチンが開発された場合に、例えばどういう群に投与するのか。例えば高齢者施設とか、特に我々が問題にしているのは、ホームレス等を抱える大都市に多いと思われるのですが、どういう群に投与していくことを先生は想定されているのでしょうか。
○保富参考人 結核の場合でいきますと世界的な問題なので、いろいろ考え方はあると思いますが、日本で考えた場合、特に医療従事者とか、発症した病院のスタッフにまず最初に打とうとか、最初はそこからだと思います。もっと汎用されるようになれば、もともとリスクアクトの高い人に最初から打つということも考えられるでしょう。
今日の日本の新聞にも出ていましたが、アフリカ等々では、マンデラさんもそうですが、どこで結核になるかというと、刑務所です。そこでワクチンを接種するのはどうだというのは、昔から言われています。出所してきたときに、その人たちはハイリスクパーソンとして一般の所に入ってしまう。その中で打ってしまうという考えも海外ではあります。日本ではハイリスクの、老人施設を出た人とか、老人施設のスタッフとか、病院の方とか、そこからが先かと考えています。
○庵原部会長 ユニバーサルにやるのではなくて、まずハイリスクと思われる人からスタートするならばスタートしていこうというストラテジーだということですね。
続いてもう一度結核ですが、今度はストラテジーがちょっと違って、岡田先生からよろしくお願いします。
○岡田参考人 独立行政法人近畿中央胸部疾患センター臨床研究センターの岡田でございます。よろしくお願いいたします。我々の研究班のタイトルは「多剤耐性結核に対する新規治療用 DNA ワクチンの開発・実用化に関する研究」です。本日はこれがメインですが、結核予防ワクチン研究についても少しお話させていただきたいと思います。
研究代表者の岡田の下に分担者 10 名を書いております。当院の井上、露口ドクター、大阪大学医学部長の金田教授、朝野教授、熊ノ郷教授。国立がん機構ジェノミディアの中島博士、国立病院機構東京病院副院長の庄司先生、茨城東病院の齋藤院長、東海大学の三上講師、結核予防会大阪病院の松本部長よりなる班です。
「 WHO の報告 2013 」では、多剤耐性結核 (MDR-TB) は 1 年間に 45 万人、非常にたくさんの多剤耐性結核が発症し、 17 万人は死亡しております。すなわち多剤耐性結核は、極めて難治性で、良い薬がありません。更に、超薬剤耐性結核 (XBR-TB) という、非常に厄介なものが出現してきております。その下に結核の流行を示しておりますが、インド 1 位、中国 2 位で、年間 860 万人が発症して、 130 万人が死亡しております。
5 は、多剤耐性結核の患者の分布です。インド、中国のみではなく、ロシア等、世界で 1 年に 45 万人発症します。
6 は、多剤耐性結核治療における新しい化学療法剤に対しては、薬剤耐性結核菌が必ず出現してきます。しかし一方、結核治療ワクチンに対する耐性菌は出現しないことが予想されます。これが結核治療ワクチンの大きなメリットです。
7 は、 BCG ワクチンは成人結核予防に対して有効ではありません。これは WHO の研究です。また BCG ワクチンは多剤耐性結核治療に有効ではありません。すなわち、新しい結核予防ワクチン、新しい結核治療ワクチンの開発は必須です。今まで我々は HVJ- エンベロープ /HSP65DNA+IL-12DNA ワクチンが極めて強力な結核予防ワクチン、及び結核治療ワクチンであるということを発表してまいりました。それの概略を少し説明させていただきます。
スライド 9 です。結核ワクチン開発においては、マウス、モルモット、カニクイザル、ヒトという過程を踏むことが王道です。特に我々は、カニクイザルを用いて評価したというのが、非常に高く評価されています。と言いますのは、カニクイザルがヒトの結核感染に最も近いモデルです。これは共同研究者のバービー・タンが Nature Medicine に 1996 年に発表した折紙付きのモデルです。これをずっと用いてまいりました。レオナルドウッド研究所はアメリカの NIH のブランチです。まず、我々のワクチンは、マウスで BCG より 1 万倍強力な予防ワクチン効果のみならず、多剤耐性結核に対する治療ワクチン効果及び XDR-TB に対して治療ワクチン効果を得ました。さらに、カニクイザルにおいて結核予防効果及び結核治療効果を得ました。
DNA ワクチン構築図をその下に書きました。 pVAX に HSP65+IL-12DNA を挿入しました。 HSP65 はヒト結核菌 H37 の RV 由来の HSP65 の DNA です。 HSP65 はヒトの結核免疫を誘導する最も強力な蛋白の 1 つです。これを更に HVJ- エンベロープのエンプティベクターに封入しました。
次の 11 です。 HVJ(Hemagglutinating Virus of Japan) は大阪大学の金田教授が開発した有名なベクターです。これは極めて強力なアジュバント、免疫増強活性を持ちます。それは 4 つの機序があって、 HVJ はデンドリティックセルに作用して、キラー T 細胞の誘導、 NK 細胞の誘導、 IL-6 の酸性への誘導を介してレギュラトリー T 細胞を抑制する。また、 RIG-I レセプターを介してイネートイミュニティを誘導するということです。
まず、予防ワクチンのモデルですが、ワクチンを 3 週ごとに 3 回投与して、最終免疫より 4 週間後に結核菌を投与して、 5 週後に結核菌を測定しました。それが 13 です。 BCG ワクチンは 10 分の 1 にしか減少させませんが、 BCG プライム、我々の出した DNA ワクチンをブーストしますと、 BCG 単独の 1 万分の 1 、非常に強力な予防ワクチン効果を得ました。
その病理像を 14 に出しました。 BCG ワクチン単独ではコントロール群に比べて病理像の改善は認められません。強い結核陽性が認められますが、我々のワクチンを投与しますと、極めて正常範囲に近い、非常に改善効果が認められました。
15 ですが、このメカニズムは、我々のワクチンが結核菌に対する生体内のキラー T 細胞を極めて強く誘導することが分かりました。一方、 BCG ワクチンはほとんどキラー T 細胞の誘導効果が認められませんでした。すなわち、キラー T 細胞の誘導とワクチン効果がパラレルでした。その下にメカニズムが書いてあります。我々のワクチンはキラー T 細胞のみではなく、 1 型ヘルパー T 細胞を変化させることが明らかになりました。
カニクイザルのモデルがありますが、人間の結核感染モデルに最も近い。共同研究者のバービー・タンが Nature Medicine に発表した系ですが、それを用いて、その下のグラフに書いてありますように、 BCG プライム、我々のワクチンをブーストしますと、 1 年以上 100 %カニクイザルが生存します。ところが、 BCG 単独ですと、 33 %でした。したがって、我々のワクチンは極めて強力な予防ワクチンであることが分かりました。
19 ですが、このワクチンは予防ワクチンのみではなく、強力な結核治療ワクチン効果を発揮することを明らかにしました。したがって、厚労科研の平成 25 ~ 27 年度の申請にアプライして、これが評価され、採択していただきました。そのテーマが「多剤耐性結核に対する新規治療用 DNA ワクチンの開発・実用化に関する研究」です。目的は 20 に書いてある、多剤耐性結核に対する結核治療ワクチンの臨床応用・実用化及び多剤耐性結核患者に対する第 1 相医師主導治験です。
21 はその方法です。結核治療ワクチン前臨床試験及び第 1 相医師主導治験の組織として、近畿中央胸部疾患センター、東京病院、茨城東病院、大阪大学。また PMDA との薬事戦略相談はジェノミディアの中島博士、東海大学の三上博士です。期待される成果は、第 1 相医師主導治験で、例えば排菌陰性化という評価を得ることができましたら、これを世界の多剤耐性結核の治療を目指して行っていく。国際貢献、医療費節減です。
実際のデータを次に書いてあります。カニクイザルに 5 × 102 個の結核菌をチャレンジして、感染させて 7 日後から 3 週間の間に 9 回治療ワクチンを投与します。赤沈、体重、胸部 X 線、免疫応答、生存で評価します。その結果は 24 に書いてあります。生存率はワクチンで治療した群は、サルは 100 %生存、コントロールは 60 %でした。また赤で示したように、ワクチン投与サルの T 細胞の増殖及び赤沈の改善が認められました。
25 にそのまとめを書いています。サルのワクチン効果ですが、生存率の改善、体重増加、赤沈の改善、胸部 X 線所見の改善、免疫反応の増強、 T リンパ球増殖反応、 IFN- γ産生、 IL-2 産生。特に IL-2 の産生と生存率、結核治療効果が相関しました。
次にマウスの系ですが、結核菌に感染させた後、 3 回治療ワクチンを投与して、 30 日後に肺・肝・脾の結核菌数を測定しました。また、極めて難治性の超薬剤耐性結核菌の XDR-TB を用いました。これは当院に入院している患者に投与したのですが、サイクロセリンのみで他の結核には全部抵抗性でした。その結果を示したのが 29 で、赤い薬剤耐性結核菌の著明な減少が認められました。また、超多剤耐性結核菌をマウスに投与しますと、 160 日以内に全例死亡しますが、このワクチンで治療しますと、著明に延命効果が認められ、有意に免疫効果が認められました。
次に SCID-PBL/hu 、生体内ヒトモデルで、我々はこれを Cancer Reserch に 1997 年に世界で最初に報告しましたが、ヒトの免疫応答に置き換えたマウスにおいても治療効果を得ました。また、 32 の図ですが、薬剤感受性結核においても相乗的な治療効果がありました。
34 ですが、明確な出口戦略を持っておりまして、国立病院機構、 PMDA 、大阪大学、遺伝子治療学会、それから企業では新技術、 DNA ワクチンの開発、ガイドライン策定につなげる産学官共同研究です。承認取得までのロードマップを示しました。平成 26 年度に安全性・毒性試験、 27 年度に第 1 相医師主導治験を予定しております。
37 の治験ですが、多剤耐性結核患者について、主要評価項目は安全性・忍容性、副次的項目は抗結核作用 ( 排菌減少 ) 、免疫反応、 1 用量当たり 3 ~ 6 名、 2 用量。実施施設は、国立病院機構の 3 施設です。
38 の治験実施体制です。本研究事業は国内で first-in-human 治験の実施となる上、国内初となるプラスミド DNA の治療用 DNA ワクチン開発となります。
かいつまんで進捗状況を申し上げますと、 ICQ/Q5D ガイドラインに従って、マスターセルバンクを作製して、 GNP の治験薬を作製しました。それが 40 です。 41 にその写真、 42 は大きく写した写真です。 43 で、そのワクチンの品質規格を評価して、特性解析、品質試験で合格を得ました。それは 44 に書いてあります。
45 に構築したバンクシステムについての品質試験の結果、全て適合しましたので、品質確認データの取得を行いました。プラスミド DNA の治験薬 GMP 製造と並行してパッケージ案を作成しました。それは 46 です。
48 です。ヒトの IL-12DNA と HSP65 で GMP レベルのワクチンを作製しましたので、これをサルに投与する計画です。 49 は毒性・安全性試験の一般の検査、それから中枢神経系。 50 は呼吸系・循環器系です。
51 からです。その用法・用量試験を現在行っております。頻回投与も可能であることを、大阪大学の金田教授が平成 25 年度に明らかにしました。投与は 1 ~ 6 回でどれが一番良いか。 DNA 量が 25 ~ 280 μ、アジュバントは 1,120 ~ 100 のどれが一番良いかを現在解析中です。
59 です。用量試験は 25 μ、 3 回でも行けるという結果を得ています。治験は 66 に書いてありますが、大阪大学の医学部と治験管理センターを中心にして行う予定で、大阪大学は平成 25 年度はマラリアワクチンのそういうノウハウがありますので、それを応用して当ワクチンの治験をやっていきたいと考えております。
74 です。 DNA ワクチンと新規範疇の医薬ガイドライン策定につながり、医薬行政に貢献します。また、多剤耐性結核菌の他者への感染、医療費削減、国際的な保健衛生に貢献いたします。以上です。
○庵原部会長 ありがとうございました。御質問はありますか。これは取りあえずは治療薬としての開発を進めておられるということですね。
○岡田参考人 そうです。多剤耐性結核は、良い薬がありませんので。これは DNA ワクチンですし、治療薬で最初に。
○庵原部会長 ワクチンですが、目的はまず治療に使うワクチンとして最初に開発するということですね。
○岡田参考人 そうです。
○坂元委員 お尋ねします。我々の場合、結核で排菌している方を入院させる場合、稀に退院し外来治療に切り換えると受診しなくなってしまうという人がいます。自治体によってはそういう方を呼び出して、 DOTS という方法で、かなりきめ細かくフォローはやっているのですが、なかなかフォローできない群がいるのも事実です。入院中にこのワクチンをそういう群に投与した場合に、その人が現在、多剤耐性ではないとしても、退院後、万が一来なくなってしまった場合、多剤耐性化が防げるという面の効果は期待できるのでしょうか。
○岡田参考人 非常に強力なワクチンですので、期待できると思います。先生が言われた、入院から勝手に退院したり、外来に来なくなったというのは、私は別の班で班長をやっていまして、数年間で 17 人ですので、そんなに目茶無茶多くなくて、大体ブラックリストに載って、全国の病院を移り歩いていて、大体どういう人か分かります。
○庵原部会長 アジュバントは何を使われているのですか。
○岡田参考人 HVJ- エンベロープがアジュバントの代わりです。 Hemagglutinating Virus of Japan で、大阪大の金田教授が開発した有名な。
○庵原部会長 これにアジュバントとして使われて。
○岡田参考人 そうです。
○山口委員 確認だけさせていただきます。一応遺伝子治療学会に入っているプラスミドですが、遺伝子治療の規制が掛かるという観点でですね。
○岡田参考人 そうです。遺伝子治療学会の会長は、幸いなことに金田先生で、金田先生が尽力して、 DNA の治療法も確認申請が不必要になりました。これも金田先生が非常にサポートしてくれまして、いろいろな面で規制をできるだけ少なくするように動いてくれています。
○山口委員 体内分布などは見ておられますか。
○岡田参考人 体内分布はやる予定です。 PMDA の方と相談しながら、それはしてくださいと言われていますので計画しております。
○庵原部会長 確認ですが、これは皮内投与と書かれているかと思いますが、皮内投与で。
○岡田参考人 一応皮内投与の予定です。それはマウスとサルで皮内、皮下、筋肉を比較して、データは今は筋肉を示したのですが、皮内がいいという。
○庵原部会長 やはり皮内のほうが成果がいいので皮内で、ヒトで皮内で投与したほうがいいと。
○岡田参考人 そうです。ヒトは皮内の予定です。
○庵原部会長 ほかによろしいですか。そうしますと、これは阪大の未来医療センターが中心となって臨床研究を今から進められるということですか。
○岡田参考人 そうですね。治験の管理です。治験病院は我々の近畿中央胸部疾患センターと東京病院と茨城東病院ですが、治験のあれはかなりマンパワーとか管理が要りますので、大阪大学医学部治験管理センターで管理・統括してもらいます。
○庵原部会長 はい、分かりました。伊藤先生、何か一言。
○伊藤委員 基本的には予防のワクチンではなくて、がんの治療用のワクチンに近いようなニュアンスなのだろうなという気がいたしました。一番心配なのは、こういった DNA をいじるようなものは、ほかの病気が発生しないのかなというのが大変気になっていて、ほかに治療法がない人だからしょうがないと言われればそのとおりなのてしょうが、強力に免疫をいじるとどんな状態になるのかなというのは、大変気にはなると思って拝見していました。
○岡田参考人 ヒトの DNA を modify するものではなく、このワクチンは結核免疫を強く増強するタンパクを産生する DNA を用いることより、その心配はありません。実際サルやマウスでは病気は発症しませんでした。ヒトの安全性、忍容性を第 1 相医師主導治験でするわけです。そういうことを行った後、ほかに良い治療法のない多剤耐性結核、超薬剤耐性結核から開始していってやっていきたいと考えております。多剤耐性結核を選んだのは、治療効果を短期間で判定できるメリットもあります。
○庵原部会長 よろしいですか。リスクベネフィットを考慮してスタートされるということですので。それでは、どうもありがとうございました。全般を通してここまでよろしければ、話題が変わりますが、事務局から、インフルエンザワクチン株についてということでお願いします。
○滝室長補佐 事務局から 2014/15 年シーズンのインフルエンザワクチン株について、御報告させていただきます。資料 6 を御覧ください。
まず、簡単にプロセスを御説明いたします。なお、図にあります時期についてですが、おおむねの時期を書いてありますので、御了解ください。まず左上中段左側ですが、 WHO 南半球ワクチン株推奨会議、若しくは全シーズンの国内外の流行情報を得て、 10 月下旬頃からワクチン候補株選定と適性試験を始めます。矢印によって進んでいくのですが、国内外の流行状況、流行株の解析情報を基に、 2 月上旬に第 1 回ワクチン株選定会議。正確に言いますと、インフルエンザワクチン株選定のための検討会議を感染研で開いていただきます。その後、 2 月中旬に WHO 北半球の会議で WHO のワクチン推奨株の発表を受けて、 2 月~ 3 月にかけて、ワクチン株選定会議において、ワクチン株が選定されるプロセスになります。それを受けて、インフルエンザ HA ワクチン製造株の検定についてということで、都道府県、日本ワクチン産業協会に対し、健康局長通知を出させていただいております。
裏面です。今年のワクチン株は、 2. にあるように、 2014/15 年シーズンは、 A/ カリフォルニア /7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09 、 A/ ニューヨーク /39/2012(X-233A)(H3N2) 、 B/ マサチュセッツ /2/2012(BX-51B) の 3 株をワクチン製造株と選定させていただきました。なお、下に書いてあるところはインフルエンザワクチン株選定会議において検討された内容を記載しております。以上です。
○庵原部会長 これに関連して小田切参考人から資料 7 を用いて説明をお願いします。
○小田切参考人
資料 7 を御覧ください。今、事務局からワクチン株の選定の説明が行われましたが、これの基礎になる背景、データは、今シーズンのインフルエンザの国内・国外における流行状況です。それについて最初にお話します。
2 ページを御覧いただきますと、これがグローバルに見たインフルエンザの今シーズンの流行パターンでして、今シーズンの特徴は、 H1N1 パンデミックが流行の主流だったというのは、いろいろな国で多い状況です。
3 ページです。各ヨーロッパ地区、アメリカ地区、南半球、中国とそれぞれ個別に見ますと、若干パターンは違いますが、ヨーロッパは H3 が流行の主流でしたが、 USA 、チャイナは H1 パンデミックが流行の主流でした。南半球を見ますと、 B 型の山形系統が流行の主流であったわけです。
4 ページは国内の流行の状況です。国内においても、 H1 パンデミックウイルスが流行の主流で、ほぼ 45 %を総分離株を占めていたと。続いて H3 、それから B 型という状況で、 B 型は 2 系統のうち山形系統が流行の主流だったというパターンです。
5 ページは、今、事務局から説明していただいたとおりで、こういう情報を背景にして今度の冬用のワクチン株が選定されたということです。ワクチン株の製造株の後ろに、「 X-179A 」とか、「 X-223 」とか、そういう記号がありますが、 6 ページを御覧いただきますと、これが実際はワクチン株に使う原株は、卵では余り増えないということで、製造効率が良くないと。これを上げるために、卵でよく増えるというマスターストレインと追加ワクチン株の元の株、これと卵の中で遺伝子の差し替えを起こしまして、高増殖株を作ります。それを実際ワクチンに使っているわけです。だから、ワクチンは、ワクチン株からワクチンの主成分になる HA と NA がマスターストレインと置き替わってというので、 X とか、 B 型の場合は BX という記号が付くわけです。実際、ワクチンメーカーは、こういう高増殖株を使ってやると。
7 ページが、そういうアベーラブルになっている高増殖株のリストですが、それを飛ばして、 8 ページを御覧ください。実際、ワクチンと流行ウイルスとの抗原性がどれぐらいマッチしていたかが、ワクチンの有効性を左右することで非常に重要なわけで、それをまとめたのが 8 ページです。
上の段はワクチンの原株、ワクチン株に選ばれた元の株ですが、これと流行株との抗原性の一致度を見ますと、 H1 パンデミックスウイルスも、香港型の H3 ワクチンも、 B 型も、ほぼ流行株と抗原性はぴったりマッチしているということが分かります。
下の段です。実際に今度はそれをメーカーが製造した製造株について見ますと、 H1 と B 型は、製造株にしても流行株と抗原性はぴったりマッチしていますが、 H3 の香港型ワクチンは、今度は逆に製造株にしてしまうと、流行株と抗原性がかなり乖離してしまい、流行株の 8 割近くがワクチン株と抗原性が違っています。これがワクチン株のエッグアダプテーション(卵馴化)という抗原変異です。これが問題になってきているわけです。
9 ページを見ますと、なぜこういう卵馴化による抗原性の変化が起こるかというメカニズムも分かっていまして、ワクチンの主成分になる HA 蛋白の抗原性に重要な 186 番目若しくは 219 番目、ここのアミノ酸が卵馴化で変化してしまいます。これによって抗原変異が起こることが分かっています。
10 ページのスライドを見ていただきます。では、こういうふうにワクチンが卵馴化によって抗原変異すると、どういう影響がワクチン効果に出てくるかを見たのがこれです。これは香港型ワクチンを接種したヒトの中で誘導される血清抗体が実際の流行ウイルスとどれぐらい交叉反応するか、流行株を抑えられるかという評価です。上の段が成人、下の段が老人の血清を使って評価した場合です。黄色の棒グラフで示しているのがワクチンで誘導された抗体ですが、この抗体が横軸に示した流行株、 Almaty 、 Texas 、 New York 、 Louisiana 、 Tokyo 、などの流行株との反応を見ると、ほとんど反応していないことがわかり、せっかくワクチンで誘導された血清抗体は流行株を余り抑えない有効性の低い抗体であることがわかります。卵馴化による抗原変異は、こういうところに影響が出てきます。ただ、このスタディは、流行株との交叉反応性を見ているので、必ずしもワクチンの有効性を直接みているわけではありません。
そこで、 11 ページを御覧いただきます。最近、海外では、毎年シーズンが終わると、そのシーズンのワクチンはどれぐらい有効性があったかというワクチン効果スタディをやって、実際の有効性を評価しています。幾つか最近の論文を引用しましたが、赤字で書きましたように、 H3N2 ワクチンは、 H1 ワクチン、 B 型ワクチンに比べて有効性が下がっていることが分かります。すなわち、卵馴化によってワクチンが抗原変異すると、ワクチン効果も下がることが、海外のワクチン効果スタディから明らかになってきています。
12 ページが、今、現行の卵で製造するインフルエンザ季節性ワクチンの問題をまとめたものです。 3 つ目のポッチですが、卵で分離した H3N2 ワクチン株は確保が非常に難しいと。これはなぜかと言いますと、ワクチンは卵で増えたウイルスを使うことになっていますが、 H3N2 ウイルスは、卵では殆ど増えないので、卵分離の H3N2 ウイルスを世界中から探さなければならず、ワクチン候補株を確保するのは難しくなっている現状です。したがって、 H3N2 ワクチン株の選択肢自体も少ないという現状にあります。
4 つ目の赤で書いたポッチです。さらに、最近の H3N2 ワクチン株は、卵に馴化して抗原変異をすると。今申し上げたとおりです。もともと卵で増えない H3N2 ウイルスを無理くり卵で増えるようにしていますから、当然、卵で増える性質を獲得した卵馴化変異株が選択されてしまうわけです。その変異株をワクチン製造に使っているのが、今、問題になっているわけです。
下から 2 つ目のポッチですが、卵馴化による抗原変異は、ワクチンの有効性を低下させていると。
一番下のポッチです。すなわち、卵馴化によるワクチン株の抗原変異という問題は、卵でワクチンを製造する限り、今後も毎年起こるということで、解決法はないわけです。かなり深刻な問題です。これは日本だけではなくて、世界中で共通して抱えている問題です。
13 ページを見ますと、では解決法はないかということで、 1 つの考え方としては、季節性インフルエンザワクチンに培養細胞でワクチンを製造するという、いわゆる細胞培養ワクチンを導入するのが、 1 つの考え方であるということです。ただし、これには条件がありまして、この細胞培養ワクチンを作るためのワクチン種株を、卵で分離したのでは全く意味がないということです。細胞で分離したワクチンの種ウイルスを準備して、それを細胞で製造すると。種ウイルスの準備から製造まで一貫して細胞でやらないと、今起こっている卵馴化の問題は解決できないわけです。すなわち、卵を通すと卵馴化変異が起こり、それはその後に細胞で増やしても元には戻りません。細胞で製造するメリットがまったくないことになります。よって、細胞分離のワクチン種株をどうやって供給するかが、細胞培養ワクチンを導入するときの大きなハードルになります。
14 ページ。細胞培養ワクチンを利用した場合のメリットですが、これは先ほどからも出ていますように、卵で製造する場合には、実際、卵の生産調整として鶏の調整から卵の生産調整まで含めると 1 年半かかり、緊急性があった場合にはすぐ対応できないのですが、細胞培養の場合は、細胞を通年で工場の中のタンクで飼っていますので、いつでも緊急時には製造をスタートできるので、緊急時対応には大きなメリットがあります。
2 つ目のポッチで、今、卵馴化で起こっている深刻な H3N2 ワクチンを試験的に検討して見ますと、細胞培養ワクチンでは、卵で起こっている抗原変異の問題は回避できています。したがって、 H3N2 ワクチンの馴化変異の問題は、細胞培養ワクチンを導入すればある程度解決できるという可能性があります。これによって、ワクチン効果の低下も回避できる可能性が出てきます。
15 ページです。ただし、細胞培養ワクチンを季節性のワクチンに導入するには、結構超えなければいけないハードルが沢山あります。その代表的なものをまとめたのが、 15 ページです。特に 2 つ目のポッチですが、卵馴化で起こる抗原変異が H1 パンデミックウイルスでは、 MDCK 細胞で製造しても、起こります。卵馴化で変異しない H1 ワクチンは、細胞ワクチンにすると細胞馴化変異を起こしますので、 MDCK 細胞での製造は再検討する必要があり、別の細胞を使わないといけないかもしれません。それから、細胞で製造効率を上げるためには、各メーカーは自社が持つ細胞で何回か継代します。その継代している間に必ずウイルスには変異が入ります。それが抗原変異に影響する重要な部位に変異が入れば、当然、細胞馴化の抗原変異が起こりますので、継代回数の限定を検討しなければいけません。
3 つ目のポッチですが、ワクチン種ウイルスに安全性、品質管理の問題です。ヒトの喉から取ってきた臨床検体を細胞に接種して、ワクチン種ウイルスを回収しますが、ヒトの喉にはインフルエンザウイルス以外にも別の病原体も共存している場合もあります。バクテリアもそうですし、別なウイルスが共存している可能性もあります。そのような臨床検体を細胞に接種しますと、インフルエンザウイルスだけでなくて、別のウイルスも一緒に増えてきます。そうしますと、別な病原体も大量に混入したインフルエンザワクチンが製造される可能性が出てきますので、ワクチン製造前にワクチンの種ウイルスの品質をチェックする仕組みを構築しないといけません。これが大きな問題です。このチェックには結構お金がかかるだろうし、どこの機関がこのチェックを実施するかがまったく決まっていません。この仕組みを構築する必要があります。
4 つ目のポッチです。既に議論にも出ていますが、各メーカーで持っている製造用の細胞ラインはそれぞれ違います。今事務局で報告しましたように、現行ではワクチン株はそれぞれの亜型から 1 つのウイルスだけが選定されます。例えば、 H1 であれば X-179A とか、 H3 であれば X-223 とかです。しかし、 1 つのワクチン株に限定してしまうと、それぞれのメーカーが持っている細胞で、その選ばれたワクチン株が増えない可能性が出てきます。そうしますと、シーズンによっては、あるメーカーは全く製造できないと事態が起こります。したがって、現行の 1 株のみを選定するというワクチン株の選定法も見直す必要があります。これもまた今後の検討課題となるわけです。
最後のスライドの 16 ページです。細胞培養ワクチンを季節性ワクチンに導入した場合に、どのようなリスクがあるかをしっかりと認識しておかないと、細胞培養ワクチンを一気に導入するのはかなり危険を伴うことをスライドにまとめました。
2 つ目のポッチを御覧いただきます。今言いましたように、国が選んだワクチンウイルスによっては、製造できないメーカーが出てくると。こうなりますと、予定した供給量が国内では確保できないシーズンが出てくるというリスク。
3 つ目のポッチは、製造効率の問題です。現行の卵で製造するワクチンに比べて細胞で製造した場合に、卵を超えるだけの製造効率が得られるか、まだ不明です。もしウイルスがうまく増えなくて卵よりも製造効率が悪いとなると、当然、供給量にも影響してきますし、 4 つ目のポッチにありますように、製造細胞を増やさないといけないと製造コストにも跳ね返ってくると思われます。そうすると、現行の卵のインフルエンザワクチンよりもかなり値段の高いワクチンになる可能性があります。いかに値段を現行の卵ワクチンのレベルまで抑えられるかという、ハードルもクリアしなくてはいけません。
したがって、オールジャパンで全て「えい、やあ」で全社が細胞培養ワクチンに全部切り替えた場合には、こういう供給ができないシーズンが出てくるリスクと、値段が高くて誰も買ってくれないワクチンになるなどのリスクがあると。今後、導入に関しては、それらを認識しながら問題点を時間をかけて解決していく必要があると思っています。
○庵原部会長 これは報告事項ですが、何か御意見か御質問はありますか。細胞培養のインフルエンザワクチンはそう簡単にできるものではないというか、いろいろなハードルをクリアしていかないといけないということで、時間をかけて開発していく必要があるのではないかという御意見ですが、よろしいですか。
○坂元委員 インフルエンザワクチンの卵馴化の問題は、恐らく専門家の間ではかなり周知の事実であったのかと思いますが、実際に予防接種をやっている市町村にとっては余り知られていない内容なので、今後、こういうものが報道されてくるときに市町村としては市民にどうやって説明していくかとかの問題も出てきますので、そういう報道等への取扱いを慎重にしていただきたいというお願いです。
○庵原部会長 小田切先生、ただ、これは流行ってみないと分からないのですよね。要するに、そのシーズンで採れた株で実際に当ててみないと分からないと。
○小田切参考人 卵馴化の問題は、ある程度ワクチン株を選ぶ時点で分かっています。そのため、馴化して変化する度合の少ないワクチン株を選ぶために、世界中から候補株を探しているのですが、いい候補株と思っても、卵で増やすと、期待したほどの改善が見られないというのが、 H3N2 ワクチンの現状です。
○庵原部会長 分かりました。よろしければ、続きの報告事項として、資料 8 についてお願いします。
○滝室長補佐 小田切先生から御意見を頂戴しましたので、技術的な点も踏まえまして感染研の先生方と検討してまいりたいと思います。今後ともよろしくお願いします。最後に、資料 8 として用意させていただきました、新型インフルエンザワクチン生産体制整備事業第 2 次事業の追加公募分の採択結果について、報告させていただきます。
簡単ですが、事業概要です。鶏卵培養法では、 1 年半~ 2 年を要する全国民分の新インフルエンザワクチン生産期間を約半年に短縮するため、細胞培養法による新型インフルエンザワクチンを、日本国内において生産・供給できる体制構築を図るための事業です。
不足分、つまり阪大微研の撤退されました 2,500 万人分について、広く公募をさせていただいたところです。昨年 12 月 25 日に、締切り平成 26 年 2 月 10 日として追加公募を実施させていただきました。公募を頂きました企業について、 3 月 6 日と 27 日に評価委員会を開催し、評価委員会の先生方に御議論をいただきまして、一番下にありますように一般財団法人化学及血清療法研究所に 1,700 万人分、武田薬品工業株式会社に 800 万人分の採択をさせていただきましたことを、ここに報告させていただきます。いろいろと御検討いただきまして、ありがとうございました。
○庵原部会長 微研の 2,500 万人分を、今ここにおられます武田と化血研でカバーしていただいたということで、どうもありがとうございました。これで本日の議事は以上ですが、あとは事務局から何か連絡事項がありましたら、お願いします。
○滝室長補佐 次回の日程ですが、未定となっていますので、改めて御連絡させていただきます。ありがとうございました。
○庵原部会長 本日は、どうもありがとうございました。参考人の先生方、どうもありがとうございました。
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