坂口大臣臨時記者会見概要
H13.6.15(金)12:12~12:40 厚生労働省記者会見場
広報室
会見の詳細
在外被爆者訴訟・大阪地裁判決について
- 大臣:
- それでは、在外被爆者訴訟大阪地裁判決につきましての報告を申し上げたいと存じます。去る6月1日に申し渡されました大阪地方裁判所の判決につきましては、法務省から大阪高等裁判所に対して本日控訴が行われるものと聞いております。
- 本件の控訴にあたりましては、健康管理手当の趣旨、平成6年の被爆者援護法制定当時の経緯、平成11年の広島地裁の判決との関係などを主な理由としておりますが、詳細は控訴理由書の中で明らかにされるものと承知致しております。なお、今回の控訴に関連を致しまして、広島や長崎で原子爆弾に被爆された後、海外に居住されている在外被爆者の方々に対しましては、それぞれの国情に応じて、被爆者援護法とは別に従来から健康保持の為の措置等がとられてまいりました。また、特に韓国につきましては、我が国との歴史的な経緯もありまして、人道上の問題として適切な医療の確保等の措置がとられてまいりました。これらを踏まえて在韓の在外被爆者の方々に対し、今後どのような施策を講じることが可能か検討をしていきたいと考えているところでございます。
- 正式に発表させていただく文書は以上のとおりでございますが、今回の大阪地裁判決にあたりまして、私もこの判決文を何度も読み返しをさせていただき、そしてまた先に、もうすでに判決が言っております広島地裁の判決につきましても、あわせて何度も読ませていただきながら、それを比較して今日を迎えたわけでございます。いろいろの入り口の面の違いはございますけれども、双方ともに日本国内に居住または現在するか否か、日本国内に居住または現在するということが被爆者手当、あるいは被爆者手帳を保持することの条件になるかどうか、それが問われているわけでございます。広島におきます地裁判決におきましては、法律はその主権の及ぶ範囲において効力を発揮すると、単純明快に言い切っておりまして、日本の主権の及ばないところにはその法律は及ばない。こう述べているわけでございます。しかし、大阪におきます判決は、この被爆者としての健康手帳というのは、これは日本の国の中で持っていようと、外国で持っていようとその区別についてはなんら入っていない、書かれていない。この手帳が取り上げられるのは死亡した時だけである。こう述べておりまして、そしてこの被爆者援護法の中に具体的な要件が書いてないが故に、それは外国であってもいいのだという判断をしておみえになるわけでございます。両方を見ながらそれ相応に理由があるというふうに思いながら、その両方をみて思い悩んでまいったわけでございますが、しかし一つの法律でこうした真向こうからの反対の判決が下りるということは、これはやはり上級審においてその判断を仰ぐことが妥当ではないかという結論になったわけでございます。
- しかし、その法律的な問題は問題として、現在存在いたしますこの援護法が、このままでいいのかどうかという問題が私は残ると思います。その被爆者援護法が制定されます当時の関係されました皆さん方、あるいはまた政府関係者の皆さん方のご意見もいろいろとお聞きを致しました。しかし、その当時海外に居住する皆様方のことをどうするかという深い議論がその当時されてなかった、されずにあの法律が成立をしたという経緯がございます。私はその当時、野党に席をおいておりまして、そして対案を出しました。対案を作りました一人でございます。そして対案の中に国家賠償的配慮という言葉をやはり入れるべきだということを言って最後まで粘った一人でございます。その当時の国会質疑を読み返してみますと、やはり国家補償的配慮、先ほど国家賠償と言いましたが、国家補償的配慮ですね、国家補償的配慮という言葉を入れるべきだということを、その当時私は言った一人でございますが、国家補償的配慮という言葉を入れるということは、国が戦争の責任を認めることになるというので、それは排除されました。そうした経緯がございまして、そして現在の法律はどちらかと言いますと、これは社会保障的意味合いを持った法律になったわけでございます。そういう経緯を知っております一人といたしまして、やはり大阪地裁判決、立派な判決ではございますけれども、上級審の判断を仰ぐのが妥当であるというふうに結論に達した次第でございます。
- しかし、この法律は全く外国に居住する人達のことを触れておりませんし、それならば外国に居住する人達ははたして今のままでいいのかといえば、それはやはり外国に居住される皆様方の事ももっとやはり真剣に考えなければならないというふうに私は思っております。従いまして現在の被爆者援護法を一度見直すべきであると私は思います。一つは外国居住者の問題をどうするのか、もう一点はこのいわゆる被爆者としての認定、あるいは失格その要件をもう少し明確にやはり法律に書き込むべきであると思います。二つの事は関係することでございますけれども、それらのことをもう少し明確にすることがやはり大事である。今のままでは同じような裁判が次々と起こってくる可能性もありますし、この被爆を受けられました皆様方の年齢等のことも考えました場合に、早く改正は行われるべきものと思います。できることならば、この半年ぐらいの間に年内に結論を出してもらいたいと皆さんにお願いをするつもりでございます。
質疑
- 記者:
- 法改正のお話でございますが、これは要件を明確に書くというのは、今も現在の在外を認めないという立場で明確に書くというご意見なのか、あるいは海外在住者を含むというふうな方向で見直していくのか、大臣のお考えはどうでしょうか。
- 大臣:
- そこを議論をしてほしい。そこの議論がされていない、だから、どういうふうにしたらいいのかという議論が十分にされていないと私は思います。ですからその点を十分に私は議論をしなければならないと思います。この国内に居住する人ならば、国内に居住する人だけにこの法を適用するということになれば、するのであるならば、外国に居住する人達に対しては一体どのようにするのか、高齢者の中にも外国でまた居住する人も私はあると思います。最近私の知っている方でも高齢者のご夫婦で老後は外国で暮らすと言って外国に行かれる方も一、二、おみえになりますから、そういう人も私は、被爆者の皆様の中にもおみえになるんだろうと思う。その国になりきりたいというふうに言っておみえになるわけですから、そういう人達もおみえになるんだろうと。それから、いろいろのケースがありますから、それはそうした人達には一体どうするのか、そこの議論をやっぱり整理をして行って、そしてその人達にも外国で暮らす人は暮らす人としてこういうふうにするのだという一つの結論が出ればそれの結論だと思う。そこが一番やはり今までは議論をされていなかった所だと私は思いますので、その議論をしてもらいたいと思っております。
- 記者:
- 今まで裁判の中で国はですね、この法律は当然として国内居住者のみを対象とすると主張されておられるのですが、必ずしも大臣個人としてはこの法律を見る限りはその点曖昧であるというふうな思いが。
- 大臣:
- この法律はそういうことで今裁判をして、そして今度またもう一度上級審にするわけで、だけれども今の法律でいきます限りはそうですけれども、一つの法律で相反する二つの判決が出るというようなことは、やはり主張は主張としていたしておりますけれども、しかしそこにはいろいろな考え方の入る余地があるということは、これは認めなければならない。立法当時の考え方からいうならば、私は外国におる人は入ってないと思う、あの当時の議論の中にも入っておりますし、そして法制局の皆さん方にお聞きをした内容からいきましても、いろいろなことを聞きましても、やはりそれは入ってないんじゃないかと思う。だけれども法律というのは立法者の意思はともかくとして、その時代その時代の時代背景によって、その法律は変わっていくという、法律は生きているというふうにいわれますから、それはやはりその時代時代の背景によっての解釈というのはあるのだろうと思います。そういうことになってくると、今のままで果たしてそれでは曖昧では無いかという気がしてなりません。
- 記者:
- 改正に向けた議論というのは、どういう場でどういう形で行っていきたいと考えていますか。
- 大臣:
- それもちょっとこれから議論しなければならないですが、私はできればまあ少し外部の人を入れた議論の方が望ましいと思っております。ただ外部の人を入れてということになれば、かなり時間がかかるということになって、「 ああ、大臣そんなね、半年やそこらでね、今年いっぱいでそんなことができるわけないよ。」というふうにお叱りを受けるんだろうというふうに思いますが、あんまりしかし長くかかってもいけない、少し外部の人の意見も聞きながら、私はそこは整理をした方がいいのではないかというふうに思っております。
- 記者:
- 外部の人というのは在外被爆者とか国内の被爆者、当事者みたいな人も含めてということですか。
- 大臣:
- まあ、当事者が入っていただくのがいいかどうか、第三者的な立場の人が私は一番いいんだろうと。法律の専門家も入っていただかなきゃならないし、第三者的な立場でやはり議論をしていただくということが大事だろうと思いますけれども、しかし当事者というものの意見というのもそれは聞かなきゃなりませんから、何らかの形でそれはその意見は聞いていくことにはなるだろうと思います。そこまで私は今具体的に考えているわけではありません。
- 記者:
- 国家補償的にその配慮を入れるべきということですけれども。
- 大臣:
- それは前の話ですね。
- 記者:
- はい。その時には国家補償的配慮というところに在外被爆者というのは念頭になかった。
- 大臣:
- その時にもそれはありません。どこに住むかということの考え方まではありませんでした。ありませんでしたが、その考え方でいけば、それはかなりどこに居住しようとついて回ると思います。しかしそこは過去の話でございますから。
- 記者:
- その時ですね、共産党は在外にですね、年金を送るというのを提案していたと思うんですけれども、今回検討する時にそうした年金のような形も検討対象に入ってることでよろしいんでしょうか。
- 大臣:
- 今回ですか、それはちょっとわかりません。それは今後の議論ですから、どうなるかわかりません。
- 記者:
- 現在の大臣個人のお考えとしては、海外に住んでいてもこれは適用されるような形で明文化すべきとお考えですか。
- 大臣:
- いやそこまで私が言ってしまってはこれから議論していただく値打ちがないわけで、そこをこれから議論をしていただくわけで、私が先に「ああだ、こうだ。」ということを申し上げるのは大変失礼だと思いますから、そこは申し上げませんが、そこを専門的立場であらゆる角度から議論をしていただいた方がよろしいと思います。
- 記者:
- その際もっと明確に法律の中にそういう基準を盛り込んでいくんだというお考え。
- 大臣:
- はい。
- 記者:
- 例えば法改正案を出すのは議員立法の形ではなくて、厚生労働省として出すという形を想定してらっしゃるのですか。
- 大臣:
- それはどちらになっても僕はいいと思いますけれども、しかしこれはやはり政府が出すべき法律だと思いますけれども。
- 記者:
- 在外被爆者の救済という時に現行法の改正か、新たに別の法律を作るかという手だてがあるかと思うんです、あくまでまず現行法の改正で対処したいというお気持ちでしょうか。
- 大臣:
- まあ、その時にどういう結論が出るかによって私は変わると思いますが、今はその改正で間に合うのではないかと思っておりますが、しかしその時にどういう議論をしていただくかということによって変わるのではないかと思います、そこは。
- 記者:
- 現状では在外被爆者の方は全く手当を受けられないし、そのことの正当性はともかくとして、ハンセン病の時に大臣は医師としての判断とか思い入れがありましたけれども、そのへんについて今回はどのように思われてますか。
- 大臣:
- それがどこにお住まいになっている方であれ、この原子爆弾という全く特殊な契機によって大変な思いを受けられた。そしてその障害は遺伝子にまで及ぶかもしれない、そう言われているわけでありますから、普通のものとはかなり違うだろうというふうに思ってます。したがって被爆されました皆さん方に対しますことは、どういう形であるかは別にして、やはり隅々までいきわたるようにしなければならない。そう思っております。ブラジルにお見えになるからいいとかあるいはアメリカにお見えになるからいいとかということでは決してない。どこにお見えになろうとやはりその人たちには何らかの形で、とりわけその人たちのいわゆる健康管理ができる体制が大事ということだと。手当にいたしましても健康管理手当であります。その皆さん方が生涯健康について留意をしていただく、そして時々チェックをしていただく、そして新しい何かが起こってこないかを診ていただく、そういう体制が大事であります。そのお手伝いをどうするかということになるんだろうと思います。まあ韓国には今まで40億のお金を拠出をしたりもいたしますから、決して今まで何らしてこなかったというわけでは決してなかったと思います。それはかなり為すべきことは為してきたというふうに思いますけれども、しかしこれから先それだけでいいのかどうかという問題があるだろう、しかし北朝鮮などの場合にはまだ国交も正常化されておりませんが、そこにいる人たちについては何らできていないということもございます。そうしたことも念頭に置きながらこれから考えていかなければならないと思います。
- 記者:
- 今お話に出た40億の拠出金についてなんですが、積み増してはどうかという話が政府与党の中にもあるんですが、それについてはどのようにお考えですか。
- 大臣:
- それは今申しましたように外国にお見えになる皆さん方の問題をどうするかということの決着をつけた後の話だと思いますから、それまでの間にゼロになるということはまだないと思いますから、まずどうするかということの結論を先につけたいというふうに思います。
- 記者:
- 援護法上の扱いをどうするかという先ほどおっしゃった。
- 大臣:
- そうですね、その改正するなら改正するのにどうするか。
- 記者:
- そのことの決着をつけてからということですね。
- 大臣:
- はい。
- 記者:
- 今日お話しされたお考えというのは、例えば総理にお伝えしてあるのですか。
- 大臣:
- 誰にも言っておりません。今初めて申しました。
- 記者:
- 第三者の専門家なりの話で今のきちんと国内だけに限るという明文化が適当であるという、もしそういう結論が出たとしましたら別のものでもって在外被爆者を救済したいというお考え方でしょうか。
- 大臣:
- それは結論出たときにまでお待ちください。
- 記者:
- 大臣自身がですね、被爆者の方から直接意見を聞くというふうに思ってらっしゃいますか。
- 大臣:
- それを進めていく過程の中でお聞きをすることはあるだろうと思います。今までから私はかなり被爆者の皆さん方との接触がございますし、お会いをしていろいろなお話を聞いてきた経緯もございます。過去にも。ですからかなり聞いておりますし、かなり詳しく知っております。ですからこれからも機会があれば当然のことながらそれは聞いていきたいと思います。
(了)