健康危機管理について
感染症健康危機管理実施要領
厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部
平成9年3月策定
平成13年3月一部改正
平成25年10月一部改正
令和5年9月一部改正
1 目的
本実施要領は、「厚生労働省健康危機管理基本指針」に基づき、感染症対策に係る危機管理の具体的な対処要領を定めるものである。なお、本実施要領は、厚生労働省内での対応について定めたものであり、地方公共団体等での対応要領については、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「法」という。)第10条第1項に規定する予防計画、既存の指針、要綱等によるものとする。
2 感染症対策における危機管理の基本的心得
(1) 感染症は、ひとたび発生して拡大すれば個人の健康のみならず社会全体に深刻な影響を及ぼすおそれがあることに留意する。
(2) ひとたび感染症が発生した場合は、迅速な初動対応が拡大防止の第一要件である。そのため、日ごろからの発生状況の把握と情報分析等を通じた対応の事前準備に努めるものとする。
(3) 感染症の危機管理にあたっては、社会全体へのリスク(健康被害を及ぼす可能性とその大きさ)を評価し、リスクコミュニケーション(リスク及びその管理手法について双方向的に意見交換すること)を行い、リスク認識(リスクの受け止め方)を共有しつつ、必要かつ十分なリスク管理(リスクを可能な限り低減し受容可能なレベルにすること)を行うよう努めるものとする。
3 感染症による健康危機発生時の情報収集と対策決定
(1) 平時体制
国立感染症研究所は、法に規定する感染症発生動向調査を実施するとともに、世界保健機関(以下「WHO」という。)、その他国際機関や海外機関等及び内外の大学研究機関等からの情報を収集し、分析を行い、必要な情報を健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課(以下「感染症対策課」という。)へ提供する。
感染症対策課は、平時から感染症対策情報共有会議を通じて情報を集約し、関係部局・関係省庁・関係機関に感染症対策情報の共有をするとともに、緊急時の第一報や地方公共団体の行政対応に係る緊急時の情報収集を行い、それらの情報を評価し、政策判断をすることとする。
-
[1] 情報の収集
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ア 地方公共団体からの情報
- 感染症対策課は、感染症の発生についての情報を地方公共団体から受理した場合、速やかに、3(1)[5]の緊急時対応を行う事象に該当するか判断するために必要な情報を収集する。
イ 感染症発生動向調査による情報
- 国立感染症研究所では、法第三章及び感染症発生動向調査事業実施要綱(平成11年3月19日健医発第458号厚生省保健医療局長通知)等に従い、原則として金曜日までに、前の週の分の患者情報を集計する。
- 国立感染症研究所は、コメントを付した上で集計した調査結果を速やかに感染症対策課へ電子メールにより伝達する。
- 国立感染症研究所は、集計の途中段階においても、3(1)D緊急時対応を行う事象に該当する状態と判断した場合には、直ちに感染症対策課へ電話で通報を行う。
ウ 検疫所からの情報
- 検疫所(支所、出張所を含む。以下同じ。)において、当該検疫所が所管する検疫港又は検疫飛行場に来港する船舶又は飛行機(以下「船舶等」という。)が、国内に常在しない感染症を持ち込むおそれが高いと判断した場合、当該検疫所は、当該船舶等の出港地、発生が疑われる感染症等の情報を、直ちに健康・生活衛生局感染症対策部企画・検疫課(以下「企画・検疫課」という。)へ通報する。
- 検疫所は、当該検疫所が所管する検疫港又は検疫飛行場において、検疫感染症(一類感染症、新型インフルエンザ等感染症及び検疫法施行令で定める感染症)の発生を発見した場合、直ちに報告書を企画・検疫課へ伝達する。
エ WHO等からの海外情報
- 感染症対策課は、別紙1に示す海外機関のホームページ情報等を定期的に確認する。なお、海外感染症情報の入手に当たっては、その他多様な情報源も適宜活用する。
- 感染症対策課は、国際機関・海外機関の担当者や、専門家等と頻繁に電子メール等を通じて情報交換を行うとともに、新種の感染症や大規模なアウトブレイクが海外で発生し、拡大した場合には、WHO、現地等への専門家の派遣等を通じて、情報収集を行う。
オ 国際課経由の在外公館からの情報
- 感染症対策課は、大臣官房国際課(以下「国際課」という。)経由により在外公館発出の感染症発生に関する情報を収集する。
カ 国際保健規則(IHR)に基づくWHOからの情報
- 感染症対策課は、大臣官房厚生科学課(以下「厚生科学課」という。)経由により、WHOからの国際保健規則に基づき報告された感染症発生に関する情報を収集する。
キ その他の情報
- 感染症対策課が、感染症に関する情報で上記ア〜カの方法により入手し得なかったものを把握した場合には、速やかに情報の真偽等の確認を行う。
[2] 専門家の把握
- 感染症対策課は、疾病ごとの専門知識に係る研究及び疫学調査を行うことができる専門家の一覧表を作成する。
[3] 情報収集・情報提供
- 感染症対策課は、感染症対策情報共有会議を通じて情報を集約し、関係部局・関係省庁・関係機関に感染症対策情報の共有をする。さらに、発生している感染症から推定される感染経路から判断して、必要に応じて別紙2に掲げる関係課・省庁に対して当該発生情報を伝達する。
- 感染症対策課は、国内外で新型インフルエンザ等感染症(法第6条第7項)や新感染症の発生が疑われる事象については内閣情報調査室及び内閣感染症危機管理統括庁等に当該発生情報を伝達する。
[4] 初動時のリスク評価と留意点
- 感染症対策課は、積極的疫学調査を行うなど、地方公共団体や国立感染症研究所と共同で、以下の情報を収集する。
ア 同様の症状の感染症の発生状況(地理的、時系列的)
イ 感染源、感染経路
ウ その他の疫学的特徴
エ 起因病原体の性状
オ 感染拡大の防止方法
カ 治療方法
- 感染症対策課は、得られた情報をもとに、必要に応じ国立感染症研究所と相談し、初動時のリスク評価を行う。
- 国際保健規則の「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態を構成するおそれのある事象」として評価すべき事態については、厚生労働省健康危機管理調整会議において、国際保健規則附録2に従って評価を行う。
- 対応レベルを決定する際には、社会的な関心や国民からの予期される反応も踏まえて検討を行う。
[5] 緊急時対応を行う事象
感染症対策課は、上記の情報収集過程と初期評価を通じて、以下の事項に該当すると判断される事象に対して緊急時対応として次項の対応を実施する。
- 感染症について、厚生労働省における緊急事態として定められている事態、それに準ずる事態及び疑われる事態(厚生労働省発総第0421001号 厚生労働事務次官依命通達)に該当すると判断される事態。
- 国内の感染症発生について、国際保健規則の「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態を構成するおそれのある事象」と判断される事態と評価した場合。
- 感染症について、WHOが国際保健規則に基づき「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」と宣言する事態。
- 国内に存在しない海外発生の重篤な感染症について国内への重度の影響が想定されるか若しくは国内での発生が急増しており、緊急に対策を必要とする、またはその可能性がある事象を見出した場合。
(2) 緊急時対応
本要領3(1)[5]に基づき緊急時対応を行う事象と判断された場合には、以下に定めるところにより必要な対応を行う。
-
[1] 初期対応方針の決定
- 感染症対策課は、直ちに、対応方針の検討を行う。その際、最低限検討すべき事項は、以下のとおり。
-
ア | 内閣情報調査室(内閣情報集約センターを指す。以下同じ。)への通報※ |
イ | 厚生労働省健康危機管理調整会議の開催(厚生労働省対策本部の設置)※ |
ウ | 職員等の現地派遣※ |
エ | 関係部局への協力要請 |
オ | 関係省庁及び関係機関への協力要請 |
カ | 厚生科学審議会感染症部会等の開催 |
キ | (一類感染症から三類感染症まで以外の既知の感染症の場合)指定感染症への指定※ |
ク | 新感染症への指定※ |
ケ | (インフルエンザの場合)新型インフルエンザ等感染症への指定※ |
コ | 国際機関への通報※ |
サ | 海外の機関への協力要請※ |
シ | 国民への情報提供 |
- 感染症対策課は、感染症対策情報共有会議を通じて情報を集約し、関係部局・関係省庁・関係機関に情報共有を行いつつ、対応方針について、健康・生活衛生局感染症対策部長(以下「感染症対策部長」という。)の判断を仰ぐとともに、対策の実施に当たって他局との調整を要する場合等には、厚生労働省健康危機管理調整会議の主査に対し、同会議の開催を具申する。
※上記[1]に掲げる各事項は、具体的には以下の通り。
ア 内閣情報調査室への通報
- 緊急時対応を行う事象と判断された場合には、局内、省内幹部に報告すると共に、健康危機管理調整会議の主査を通じて内閣情報調査室に通報する。
イ 厚生労働省対策本部の設置
- 感染症による重大な健康被害が発生し、又は発生するおそれがある場合には、厚生労働省健康危機管理基本指針第2章第3節により、厚生労働省対策本部を設置する。
ウ 現地派遣
- 上記[1]の結果、職員等の現地派遣を必要と判断した場合、感染症対策課は、関係課・関係機関とともに、直ちに派遣チームの編成を行う。なお、国内における事例にあっては、派遣チームは、各都道府県等の対応を支援するものとする。
エ 関係省庁への協力要請
- 感染症対策課は、対策の実施において、関係省庁の協力が必要不可欠又は有効と判断される場合には、当該省庁に対して協力を要請する。
キ 指定感染症への指定
- 既知の感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)の発生例の場合、感染症対策課は、指定感染症への指定を検討する。また、日本国内に常在しない感染症の発生例の場合、同時に検疫感染症への追加又は検疫法第34条の適用も検討する。なお、これらの手続きに当たっては、厚生科学審議会感染症部会の意見を聴く。
- 感染症対策課は、人権尊重の観点も考慮した上で、法に定める予防措置のうち、必要最小限のものを適用するよう、政令で規定することを検討する。限定適用を行う場合は、以下の条件に合致する予防方法に限って適用することとする。
- (1) 危機管理のために必要不可欠な措置であること。
- (2) 当該措置よりも人権を制限しない代替手段が存在しないこと。
ク 新感染症への指定
- 感染症対策課は、人から人に伝染すると認められる疾病であって、今後の拡大の可能性が高く、一方、原因病原体が不明の場合や、新たに同定されて性状が明らかでは無い病原体による感染症が発生した場合、新感染への指定を検討する。
- 感染症対策課は、WHOが急速にまん延するおそれのある新感染症の発生を公表するなど、新感染症の発生が確認された場合は、直ちに内閣情報調査室及び内閣感染症危機管理統括庁に報告する。官邸対策室又は官邸連絡室が設置されている場合には、官邸対策室又は官邸連絡室にも連絡する。
- 厚生労働大臣は、新感染症が発生したと認めた旨を公表するときは、新型インフルエンザ等対策特別措置法第14条に基づき、内閣総理大臣に対し、発生状況、病状の程度その他の必要な情報を報告する。
ケ 新型インフルエンザ等感染症(法第6条第7項)への指定
- 新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザや、かつて世界的規模で流行したインフルエンザであってその後流行することなく長期間が経過しているものが再興するなど、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないと考えられる場合、当該感染症が全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与える可能性を検討し、新型インフルエンザ等感染症への指定を検討する。
- 感染症対策課は、WHOが新型インフルエンザ等感染症の発生を宣言若しくはそれに相当する公表をするなど、新型インフルエンザ等感染症の発生が確認された場合は、直ちに内閣情報調査室及び内閣感染症危機管理統括庁に報告する。官邸対策室又は官邸連絡室が設置されている場合には、官邸対策室又は官邸連絡室にも連絡する。
- 厚生労働大臣は、新型インフルエンザ等感染症が発生したと認めた旨を公表するときは、新型インフルエンザ等対策特別措置法第14条に基づき、内閣総理大臣に対し、発生状況、病状の程度その他の必要な情報を報告する。
コ 国際機関への通報
- 国内で、天然痘、野生型ポリオウイルスに起因する小児マヒ、新種の亜型を原因とするヒトインフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生した場合、および国際保健規則の「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態を構成するおそれのある事象」として評価すべき事態について国際保健規則附録2に従って評価を行い、報告対象に該当すると判断された場合は、評価後24時間以内に国内連絡窓口(厚生科学課)を通じて、WHOに報告する。
サ 海外の機関への協力要請
- 国立感染症研究所は、発生例の病原体と疑われるものが、日本国内で同定できない場合、直ちに、当該病原体を同定する能力をもつ海外の感染症対策の機関に対して連絡をとり、関係省庁へ協力の要請等を行った上で、最も早く当該研究機関に検体が送達される輸送方法を用いて検体を送達する。なお、国立感染症研究所は、検体が送達された場合、その旨を感染症対策課に連絡する。感染症対策課は、国際課及び関係各課に対して、検体が送達された旨を連絡する。
- 感染症対策課は、日本国内での発生例がない等の理由により、厚生労働省のみでは対策を早期に立案・実施できないと判断した場合、感染症対策部長の判断を仰ぎ、厚生科学課・国際課と協議した上で、WHO等の国際機関や海外機関に対して、人員派遣を要請する。
- 海外での発生例の場合、病原体の性状解析のため、遺伝子情報や株の分与等を早急に要請し入手する。また、発生国・地域における対策協力のため専門家や情報入手のため職員の現地派遣を検討する。
[2] その他
発生例が、感染症によるものであることが否定された場合には、感染症対策課から所管課に業務を引き継ぐ。
(3) 対策の判断過程の明示及び政策効果の検証
本要領3(1)[5]に基づき緊急時対応を行う事象と判断された場合、以下のことを実施する。
-
[1] 対策決定後の情報公開
- 感染症対策課は、対策を決定した段階で、政府関係者に、以下の情報を提供するとともに、当該情報を国民に対して公開する。
-
ア 対策の内容
イ 対策の前提となったデータ
ウ 国民への周知事項
[2] 危険がなくなるまでの間の監視体制
- 感染症対策課は、対策実施後、定期的に以下のデータを把握する。
-
ア 患者数
イ 入院者数
ウ 重症者数及び重症者の状況
エ 治癒者数及び死亡者数
オ 無症状病原体保有者数
カ 周辺医療機関の対応状況
キ 現地の地方公共団体における対策実施状況
- 感染症対策課は、発生地における現地紙の報道の動向を確実に把握する。
[3] 検証
- 感染症対策課は、[2]に掲げた情報のうち、必要なものについては適宜情報公開を行うとともに、対策の有効性を検証する。
4 実施要領の見直し
この実施要領については、必要に応じて改訂を行うものとする。
(別紙1)主な海外情報の収集先
- 世界保健機関 WHO
-
感染症集団発生情報 http://www.who.int/programmes/emc/news.htm
- WHO疫学週報(WER) http://www.who.int/wer/wer_home.htm
- 米国疾病対策センター(CDC)
-
MMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report)
のうち感染症の発生に関する情報を確認
http://www.cdc.gov/mmwr/
- 欧州疾病対策センター (ECDC)
- http://www.ecdc.europa.eu
- ユーロサーベイランス
- http://www.eurosurveillance.org/
- ProMED-mail
- http://www.promedmail.org/
- ミネソタ大学感染症研究政策センター(CIDRAP)
- http://www.cidrap.umn.edu/
(別紙2) 感染経路等別関係課・省庁
感染経路等 |
担当課 |
海外 |
大臣官房国際課 |
|
大臣官房厚生科学課健康危機管理・災害対策室 |
|
健康・生活衛生局感染症対策部企画・検疫課 |
食品 |
健康・生活衛生局食品監視安全課 |
ペット・家畜・野生動物 |
健康・生活衛生局食品監視安全課
農林水産省消費・安全局動物衛生課
環境省自然環境局 |
空調施設 |
健康・生活衛生局生活衛生課 |
水道 |
健康・生活衛生局水道課 |
医薬品(血液及び血液製剤を除く。) |
医薬局医薬安全対策課 |
医療機器 |
医薬局医薬安全対策課 |
血液及び血液製剤 |
医薬局血液対策課
医薬局医薬安全対策課 |
移植(臓器、造血幹細胞、組織) |
健康・生活衛生局難病対策課移植医療対策推進室 |
異種移植 |
医政局研究開発政策課 |
母子感染 |
こども家庭庁成育局母子保健課 |
病院内感染 |
医薬局医薬安全対策課
医政局地域医療計画課 |
|
|
老人関連施設 |
老健局総務課
社会・援護局福祉基盤課 |
障害者関連施設 |
社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課
社会・援護局福祉基盤課 |
児童福祉施設 |
こども家庭庁支援局総務課
社会・援護局福祉基盤課 |
生活保護施設 |
社会・援護局保護課
社会・援護局福祉基盤課 |
プリオン病 |
健康・生活衛生局難病対策課 |
感染症であるか不明な疾病 |
大臣官房厚生科学課健康危機管理・災害対策室 |
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