5.経済社会を担う人材の育成に向けた職業能力開発対策の推進


 情報化や技術革新の進展や国際競争の激化等による産業構造の急激な変化の中で、我が国が今後とも活力ある豊かな社会を築いていくためには、人材の育成がますます重要となってきています。

 また、一方では、企業の生産拠点の海外移転や若者の技能離れがみられる中で、我が国が培ってきた「ものづくり」のための技術や技能の継承・活用を図ることも喫緊の課題となっています。

 このため、次のような職業能力開発対策を積極的に推進しています。

(1)高付加価値化・新分野展開を担う人材育成等の推進

 1)公共職業訓練の高度化

 現在、我が国の経済社会は、技術革新、企業活動の海外シフトの進展等の下で産業構造の変化に直面しており、産業の高付加価値化や新分野への事業展開を担える人材を育成していくことが急務となっています。

 こうしたことから、労働省では、職業能力開発促進法等の一部改正を行い、現在の職業能力開発短期大学校に加えて、より高度な職業訓練を行う新たな課程(「応用課程」及び「応用短期課程」)を設けて計画的に「大学校化」する等、公共職業訓練の高度化を推進しています。

イ 職業能力開発大学校

 職業能力開発短期大学校で行ってきた高度職業訓練に加えて、より高度な職業訓練(「応用課程」及び「応用短期課程」)を実施する「職業能力開発大学校」を、平成11年度以降全国のブロックごとに計画的に設置していくこととしています。

ロ 職業能力開発総合大学校

 従来、職業能力開発大学校で行ってきた職業訓練指導員の養成及び職業能力の開発・向上に関する調査・研究に加えて、公共職業訓練等の実施が円滑に進むよう先導的・中核的な職業訓練を行う等、職業能力の開発・向上に関する業務を総合的に行う施設として、神奈川県相模原市にある職業能力開発大学校と東京都小平市にある東京職業能力開発短期大学校を平成11年度に統合し、「職業能力開発総合大学校」を設置したところです。

 2)人材高度化支援事業の推進

 事業の高度化等を担える人材の育成を推進するため、人材高度化指針に沿った体系的・計画的な教育訓練の開発・実施を行う事業主団体等に対して、又は労働力の確保を図るために中小企業が行う雇用管理の改善に係る措置に関する基本的な指針に沿った体系的・計画的な教育訓練の開発・実施を行う事業主団体等に対して、助成金の支給又はその他の援助を行うこととしています。

 3)職業能力開発の推進体制の整備

イ 民間企業における職業能力開発の促進

 生涯職業能力開発の推進を図っていくうえでは、企業における勤労者の職業能力開発が段階的・体系的に行われるようにすることが重要であり、多くの企業が職業能力開発に積極的に取り組むよう次のような援助・助成を行っています。

事業内の職業能力開発に関し、中心的な役割を果たす「職業能力開発推進者」が各事業所で選任されるよう奨励しています。
各都道府県に設置された「職業能力開発サービスセンター」において、事業主等に対して、職業能力開発に関する情報をデータベース化した「能力開発情報システム(ADDS(アッズ))」を活用し、職業能力開発に関する情報提供や助言指導等を行っています。

 生涯職業能力開発の理念に沿って、その雇用する労働者に対し職業訓練が実施されるよう次の給付金の制度を設け、それに要する経費、賃金等の助成を行っています。

   生涯能力開発給付金
   認定訓練派遣等給付金
 
 民間における職業能力開発の指導的団体として、中央及び各都道府県に職業能力開発協会が設立されており、能力開発に関する各種の情報・資料の収集・提供、事業主に対する助言・指導、技能検定試験の実施等の業務を行っています。

ロ 公共部門における職業能力開発

 公共職業能力開発施設等の種類と職業訓練等の内容
 離転職者、在職者、就業前の若年者等の職業能力開発を積極的に推進するために、国及び都道府県等は、公共職業能力開発施設等を設置し、これらの労働者等や企業のニーズに応じた効果的な職業訓練等を推進しています。

 公共職業能力開発施設等の種類とその施設等が行う職業訓練等の内容は、下図のとおりです。

 公共職業訓練を受ける人に対する援助措置
 公共職業安定所長の指示によって公共職業訓練を受ける人に対し、雇用保険の受給者にあっては所定の給付期間を延長して訓練期間中基本手当及び技能習得手当が支給され、それ以外の人のうち、中高年齢者等で所定の要件に該当する人に対しては、訓練手当が支給されます。

公共職業能力開発施設等

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宮城職業能力開発短期大学校

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指導員養成のため実験・実習に重きを置いた授業

(2)個人主導による職業能力開発の推進

 近年、仕事に自己の能力発揮を求める労働者の意識変化がみられるとともに、企業においても年功制による処遇が形を変え、実力重視の傾向がみられるようになっており、労働者自らが主体的に能力を高めようとする個人主導の職業能力開発の重要性が増してきています。

 労働省では、労働者の自主的な職業能力開発のために時間面、費用面、情報面を中心に、事業主を通じて、または、労働者に対して直接、さまざまな支援を行っています。

 1)労働者に対する支援

 労働者が自主的に能力開発に取り組むことを支援し、雇用の安定と再就職の促進を図るため、雇用保険の被保険者等が労働大臣の指定する教育訓練を受けた場合に、その教育訓練に要した費用の一部に相当する額を、「教育訓練給付金」として支給する等の支援を行っています。

 2)事業主を通じた支援

 労働者の自主的な能力開発の取組を推進するため、労働時間面での配慮、情報提供等の実施、長期教育訓練休暇制度の導入等の環境整備を行った事業主に対して「自主的能力開発環境整備助成金」を支給する等の支援を行っています。

(3)産業発展を支える技能人材の育成・強化等

 1)技能人材の育成・強化

 製造業を中心とした企業の生産拠点の海外移転等がみられる中、我が国の経済発展を維持していくためには、企業の高付加価値化や新分野展開が不可欠であり、これを担う人材の育成が急務となっています。そのため、公共職業訓練を実施するほか、高度熟練技能の活用促進のための体制整備、地域を視点とした技能振興施策の推進等を行うことにより、産業発展を支える技能人材の育成・強化を図っています。

 2)技能評価と技能振興

 職業に必要な技能や知識が客観的に評価され、社会的に認知されることは、労働者の技能の向上や社会的地位の向上に重要な役割を果たします。このため、「技能士」の称号が与えられる「技能検定」を国が実施するとともに、民間が行う職業能力検定を促進するため「技能審査認定制度」「社内検定認定制度」を実施しています。

 また、勤労者の技能習得意欲を高めるとともに、優れた技能に対する社会的評価の向上を図るため、青年技能者による「技能五輪全国大会」や一級技能士等が熟練した技能を競う「技能グランプリ」等の技能競技大会を毎年開催するとともに、卓越した技能者に対する表彰を実施する等、魅力ある技能社会の実現に向けた施策を積極的に推進しています。

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技能グランプリ競技風景

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技能五輪全国大会競技風景

(4)ホワイトカラーの職業能力開発の推進

 産業構造の変化等に伴って、全就業者に占めるホワイトカラーの比率が高まっており、ホワイトカラーの職業能力開発が労働者本人や企業だけでなく日本経済全体にとっても重要な課題となっています。

 1)生涯職業能力開発促進センター(アビリティガーデン)

 ホワイトカラーの職業能力開発に関する総合的かつ中核的な拠点として、東京都に平成9年度に開設した「生涯職業能力開発促進センター(アビリティガーデン)」において、産業界等の参加と協力を得ながら、実践的な研究開発をはじめ、先導的・モデル的な教育訓練や情報提供・相談援助等を実施しています。

生涯職業能力開発促進センター (アビリティーガーデン)

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 2)ビジネス・キャリア制度

 ホワイトカラーの専門的知識・能力の習得を支援するため「ビジネス・キャリア制度」を実施しています。

 この制度の仕組みは、ホワイトカラーの職務分野ごとに、その職務に必要な専門的知識・能力を領域とレベルにより体系化し、各種教育訓練機関等が行う教育訓練コースのうち、基準に適合するものを認定しています。認定された教育訓練コースの受講者等に対し、中央職業能力開発協会が習得した専門的知識・能力を確認するための修了認定試験を実施しています。

ビジネス・キャリア制度

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