平成12年11月1日

官製ポータルサイトの求人情報提供事業者に与える影響について


木ノ内博道

 全国求人情報誌協会は、今回労働省が提案した「官民連携した雇用情報システム」に賛成しかねるという立場を取っています。その理由は、官民共通の検索エンジンを有する官製の無料ポータルサイトが出現すれば、求職者のアクセスとマッチングを事実上独占する懸念があり、情報誌を始めとした民間の求人情報提供事業に重大な影響を与え、ひいては我が国の労働力需給調整機能の健全な発展が阻害されるからです。

1.事業の仕組み

 まず、求人広告(文書募集)を業とする求人情報提供事業者の事業の仕組みについてご説明します。

 資料bPは民間労働需給調整関連機関の仕組みを簡略化した図にしたものです。
 ハローワーク(公共職業安定所)は、国の機関による職業紹介で、サービスそのものは無料で行なわれています。民間労働需給調整関連機関の場合は大きく職業紹介事業者と求人情報提供事業者に分けられます。それぞれ事業の仕組みが違い、課金の方法も異なっています。

 職業紹介事業者の場合は、一方で求人者より求人の依頼を受け(原則無料)、他方で求職者の登録を無料で受け付け、マッチングを行い、求職者が採用された時点で、求人者より紹介手数料という形で課金が行なわれます。

 これに対して求人情報提供事業者の場合は、求人者からの求人広告掲載申込みに対して媒体(求人情報誌・新聞・インターネットWebサイト等=メディア)への求人広告掲載料という形で課金がなされます。こうした課金(有料)の仕組みによって、積極的な求人者開拓が行われ、広告の審査を行い、質の高い求人情報を提供することにより、潜在的・顕在的求職者を確保するとともに、求職者の就職活動に寄与しているわけです。求人者は、媒体が確保している潜在的・顕在的求職者に自らの求人情報が届き最適な応募者が現れることを期待して、求人広告掲載料金(課金)を支払うのです。私ども全国求人情報誌協会の会員社だけで年間220万件もの求人情報を扱っています。

 平成10年の雇用動向調査から、常用労働者入職経路別構成比を見ますと、公共職業安定所は20.0%。これに対して求人広告による割合は30.7%で、広告は最も大きな入職経路となっていることが分かります。求人広告は労働市場で大きな役割を担っており、これが機能しなくなると労働市場に重大な影響が出ることは確実です。

2.雇用情報ポータルサイトが求人情報提供事業者に与える影響

 資料2−1から2−3までは、先に示されている雇用情報システムが稼動した際に、求人情報提供事業者が受けると考えられる影響について簡略化して図にしたものです。ネット上を想定したものですが、市販の求人情報誌なども同様の影響を受けることになります。

 まず、2−1はポータルサイトが稼動していない現在の状態で、それぞれの求人者が目的や効果に応じて求人ルートを使い分けています。ハローワークのほか、有料・無料の職業紹介事業者があり、さらに、点線で囲ってある部分には、民間の求人情報提供事業者(無料の分は便宜上一つにまとめて、有料の分は個々に表示してあります)が存在しています。求人者によってはこれらのうち、複数のサイトやメディアを利用しています。市場原理による自由な活動がなされています。

 次に、2−2はポータルサイト稼動後の初期状態です。第一段階としては、例えば、これまで複数のメディアを利用していた求人者は、ポータルサイトで検索した結果に自社の求人情報が出てくれば、非常に多くの求職者に自社の求人情報が伝わり、応募者が出ることが分かります。求人者は民間でいえば、いずれかの求人情報提供事業者に求人広告を申し込めば、ポータルサイトを利用することができるのであるから、余分な費用を掛けて複数社に申し込む必要はなく、求人情報提供事業者1社に申し込めばよいという状態になります。有料民間求人情報提供事業者の市場縮小の始まりです。活力ある自由な労働市場がやせ細り、民間の労働需給機能が低下します。影響は次第に広がり、撤退せざるを得ない事業者も出てくることになります。

 最後に2−3は、名実共にポータルサイト完成状態のイメージです。求人者はポータルサイトに求人情報が提供されればよいので、それに掛かる費用(求人広告掲載料金)が安い求人情報提供事業者を選択するようになります。その結果、求人者は有料の求人情報提供事業者に求人広告掲載を頼まなくなり、無料の求人情報提供者が一つあれば、ポータルサイトを利用することができるのであるから、それで事足りることになります。有料の求人情報提供事業者の市場が崩壊します。

 前述しましたように、民間求人情報提供事業者は、課金(収益をあげられる)できるからこそ積極的な求人者開拓を行い、広告の審査を行い、質の高い求人情報を提供することにより、潜在的・顕在的求職者を確保するとともに、求職者の就職活動に寄与していたのですが、ポータルサイトに求人情報を掲載すると、求人者にとってはポータルサイトを利用できればよいわけですから、折角開拓した求人者は、無料の求人情報提供事業者または、極めて安価な有料求人情報提供事業者(事業として成り立つなら)に流れていき、自らの首を絞める結果となるわけです。従って、民間求人情報提供事業者は、積極的な求人者開拓も行わなくなり、民間労働力需給調整機能が機能不全に陥る可能性も否定できないと考えます。



以上



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