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      有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告の概要


I 有期契約労働者の現状、有期労働契約の更新・雇止めの状況
  (アンケート調査結果)

 ※ 有期契約労働者の雇用状況の把握等を目的とした一次調査(企業調査12,600社、
  有効回答7,193社)及び有期契約労働者雇用事業所に対する事業所調査(6,000事
  業所、有効回答1,788事業所)、労働者調査(24,000人、有効回答5,106人)を実
  施した。

 1 有期労働契約に対する労使の評価は一様ではない

  ○ 約7割の企業が有期契約労働者を雇用。
    現在有期契約労働者を雇用していない企業では今後の採用意欲も高くない。
  ○ 有期契約労働者のうち、有期労働契約を望んで選択した者とやむなく選択し
   た者がそれぞれ約3割。

 2 有期労働契約は労使それぞれのニーズに基づくものとして相当程度定着

  ○ 有期契約労働者を雇用している事業所の6割でパート、契約社員を雇用
    (図1参照)。
  ○ 有期契約労働者の約3分の2は、期間満了後の更新を希望。
  ○ 使用者も多くの場合更新の可能性があることを前提に契約を締結
    (図2参照)。
  ○ 有期労働契約の契約期間は「6か月超1年以内」が多く、平均6回程度更新
   されている。

 3 有期労働契約に係る多様なニーズと実態

  ○ 事業所が有期契約労働者を雇用する理由は、「人件費節約のため」が多いが、
   雇用形態によるちがいも少なくない。
  ○ 労働者が有期労働契約で就業する理由をみると、「勤務場所の都合がよかっ
   た」「家計を補助するため」が多いが、雇用形態によるちがいも少なくない。

 4 更新・雇止めの説明やその手続などにおける問題の所在

  ○ 更新について事業主が実情と合わない説明を行っている事業所や、説明を受
   けていないとする労働者も1割程度みられた。
  ○ 雇止めに当たって多くの事業所では30日以上前に労働者に予告しているが、
   事前に予告をしていない事業所も1割弱ある。
  ○ 過去に雇止めの経験がある労働者の過半数が雇止めに不満を感じ
   (図3参照)、更新回数や勤続年数が多くなるほど、不満を感じる労働者の割
   合が高まる。

 5 雇止めに関するトラブルの大きな要因は、雇止めの理由に関する労使間の
  認識の相違

  ○ 事業所が雇止めを行う理由としては「労働者の勤務成績・勤務態度の不良」
   「景気要因などによる業務量の減少」が多い。
  ○ 労働者の以前の勤務先における雇止めの理由としては「契約期間の満了」
   「経営状況の悪化」「景気要因などによる業務量の減少」が多い。
  ○ 雇止めに関してトラブルがあった事業所は1割に満たないが、トラブルの原
   因は「雇止めの理由について納得してもらえなかったため」「更新への期待に
   ついての認識の違い」などが多い。


II 有期労働契約の雇止めに関する裁判例の分析

 ※ 有期労働契約の雇止めが争点となった最近10数年の裁判例に、この分野のリー
  ディングケースを加えた38件の裁判例を分析した。

   有期労働契約は、原則として期間満了により契約関係が終了するものであるが、
  雇止めに関して争われた裁判例をみると、契約関係の状況を勘案し、期間満了に
  よる契約の終了に対して何らかの制約を加え、有期契約労働者の保護を図ってい
  る事案も少なくない。

 1 原則どおり契約期間の満了によって当然に契約関係が終了するタイプ
   [純粋有期契約タイプ]

   事案の特徴:・ 業務内容の臨時性が認められるものがあるほか、契約上の地
          位が臨時的なものが多い。
         ・ 契約当事者が有期契約であることを明確に認識しているもの
          が多い。
         ・ 更新の手続が厳格に行われているものが多い。
         ・ 同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があるも
          のが多い。
   雇止めの可否: 雇止めはその事実を確認的に通知するものに過ぎない。

 2 契約関係の終了に制約を加えているタイプ

   1に該当しない事案については、期間の定めのない契約の解雇に関する法理の
  類推適用等により、雇止めの可否を判断している(ただし、解雇に関する法理の
  類推適用等の際の具体的な判断基準について、解雇の場合とは一定の差異がある
  ことは裁判所も容認)。
   本タイプは、当該契約関係の状況につき裁判所が判断している記述により次の
  3タイプに細分でき、それぞれに次のような傾向が概ね認められる。

  (1) 期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている契約であ
   ると認められたもの
   [実質無期契約タイプ]
    事案の特徴: 業務内容が恒常的、更新手続が形式的であるものが多い。雇
          用継続を期待させる使用者の言動がみられるもの、同様の地位
          にある労働者に雇止めの例がほとんどないものが多い。
    雇止めの可否: ほとんどの事案で雇止めは認められていない。

  (2) 雇用継続への合理的な期待は認められる契約であるとされ、その理由と
   して相当程度の反復更新の実態が挙げられているもの
   [期待保護(反復更新)タイプ]
    事案の特徴: 更新回数は多いが、業務内容が正社員と同一でないものも多
          く、同種の労働者に対する雇止めの例もある。
    雇止めの可否: 経済的事情による雇止めについて、正社員の整理解雇とは
           判断基準が異なるとの理由で、当該雇止めを認めた事案がか
           なりみられる。

  (3) 雇用継続への合理的な期待が、当初の契約締結時等から生じていると認
   められる契約であるとされたもの
   [期待保護(継続特約)タイプ]
    事案の特徴: 更新回数は概して少なく、契約締結の経緯等が特殊な事案が
          多い。
    雇止めの可否: 当該契約に特殊な事情等の存在を理由として雇止めを認め
           ない事案が多い。


III 有期労働契約の雇止め等に関する今後の施策の方向性

 1 アンケート調査結果や裁判例の分析を通じて明らかとなった、有期労働契
  約の雇止め等に関する問題点への対処のあり方

   有期労働契約は労使それぞれのニーズに基づく制度として相当程度定着してお
  り、有期労働契約に対する評価が分かれていること、有期労働契約に係るニーズ
  や実態が多様であることにかんがみると、有期労働契約の締結、更新、雇止めに
  対する一律の制約は現時点では適当ではない。
   しかし、有期労働契約の更新・雇止めについてトラブルが生じた場合に、事後
  的に司法的解決を個別に図る現在の状況は、トラブルの未然防止という観点から
  は問題。

 2 行政において当面必要な対応

   1を踏まえ、行政において当面必要な対応として、例えば次のような措置を講
  じることが適当。

  (1) トラブルを未然に防止するための措置

   イ 裁判例に係る情報提供・助言
    ・ 裁判例の傾向(有期労働契約の類型化、類型別の具体的な契約関係の特
     徴・雇止めの可否の判断等)についての情報提供
    ・ 必要に応じ労使に対して参考となる裁判例を踏まえた助言
   ロ 留意することが望ましいと考えられる事項に関する周知啓発
     労使当事者が留意することが望ましいと考えられる以下の事項に関し広く
    周知啓発
    <1> 例えば契約更新・雇止めを行う際の当該事業場における更新の有無につ
     いての考え方、更新する場合の判断基準等を、有期契約労働者に対し、あ
     らかじめ説明すること
    <2> 例えば1年を超えて継続雇用している労働者については、更新に当たり、
     その労働契約の期間を定める場合には、不必要に短い契約期間とするので
     はなく、労働基準法の規定の範囲内で、当該労働契約の実態や労働者の希
     望に応じ、できるだけ長くすること
    <3> 例えば1年を超えて継続雇用している労働者の雇止めを行おうとする使
     用者は、解雇の場合の労働基準法第20条第1項の定めに準じて少なくとも
     30日前に更新しない旨を予告すること
    <4> 例えば1年を超えて継続雇用されている労働者の雇止めについて、労働
     基準法第22条の退職証明における解雇の理由の証明に準じて、使用者は
     「契約期間の満了」という理由とは別に、当該労働者が望んだ場合には更
     新をしない理由を告知すること
    なお、次の各点についても引き続き周知を図ることが必要。
   ・ 労働基準法は、有期契約労働者も含め全ての労働者に適用されること
   ・ 同法は、労働契約の期間又は期間を定めない旨を書面で明示することを義
    務づけていること
   ・ 期間の定めのない契約に係る労働者の解雇には、判例上解雇権濫用法理が
    適用されること

  (2) 労働基準法第105条の3に基づき紛争の解決の援助を求められた場合等
   における措置

    参考となる裁判例を踏まえて、当該契約関係における実態に照らし、上記
   <1>〜<4>の諸点を考慮しながら、トラブルの解消のために労使がどのように対
   処することが適当であるかについて、助言・指導を行うことが適当。

   なお、有期契約労働者の処遇などに係る問題については、本研究会における検
  討事項ではなかったが、今後別途検討することも必要。

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