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(別紙2)


        「長期休暇制度と家庭生活の在り方に関する国民会議」
         −第1回会議から第3回会議までの論点の整理−



1 働くことや家庭と生活の関係からみた休暇の現状と国民の意識等

 @ 我が国の現状、欧米諸国との比較
  ○ 一部で総労働時間が長い業種がみられるものの、我が国の年間総労働時間は
   米国を下回り、また、休日日数は欧米諸国に比肩しうるものに。
  ○ しかしながら、労働者が主体的に「取得する」休暇については、例えば年次
   有給休暇の取得率をとっても5割台で低迷するなど、総じて低調。
  ○ 外国の法制(例、豪州では、20年間勤務すると1年間の休暇を取得できるな
   ど)と比較すると、休暇を権利として考える欧米と、労働者福祉を企業から与
   えられる日本とでの休暇に対する意識の相違が明確になる。
  ○ 一斉に長期バカンスを楽しむヨーロッパ諸国と、オフシーズンに個人単位で
   個別に休暇をとる米国で差はあるものの、休暇はしっかりとる点については、
   欧米諸国は共通。
  ○ その根底には、休暇をとれないことを能力不足の表れと受け止める欧米の勤
   労観があるのではないか。

 A 我が国において休暇取得が低調なものとなっている原因
  ○ 我が国では、「働くこと」に価値を見出し、その面白さにのめり込み、「働
   くこと」のなかに「遊び」を見出すという伝統的な勤労に係る意識、価値観が
   あるのではないか。我が国の社会システムは、こうした日本人の勤労に係る意
   識や価値観を反映しており、休暇の現状も社会システムと切り離しては考えら
   れない。
  ○ (会議に資料として提出された国民の意識調査の結果によれば)男性が「あ
   まり休みたくない」と考えているように見えるのは、職場の周囲を気にする職
   業(労働)に関する横並び志向の価値観によるものではないか。
  ○ 幼少期から二宮尊徳の「休むのは悪」ということを教えられてきた世代を始
   めとして、日本人には「働くことは生活である」という意識(働くことと生活
   を切り離せない、という意識)がまだ強いのではないか。
  ○ 病気など「マイナス」の理由で休暇をとるときは周囲も仕方がないものと受
   け止めるが、遊びに行くためといった理由で休むときには、誰かが楽しい思い
   をしているのに自分は苦しい思いをしなければならないと受け止めがち。そう
   したことが、結果的に皆休みにくい状況を生むこととなる。
  ○ 仕事を通して自己実現したいとか、仕事のみによって自己アイデンティティ
   ーを確立したいとする人が存在し、休むことによって人に迷惑をかけることを
   期待する意識があり、迷惑をかけることで「余人を以て代え難し」という自分
   の存在感を確認しているのではないか。


2 長期休暇の意義・効果と議論に当たり必要な目配り

 @ 長期休暇取得を政策課題に挙げる意義、必要性
  ○ 現下の厳しい経済情勢下長期休暇を論じることの困難はあるが、こういう時
   期であるからこそ、21世紀に向けて明かりをともすような工夫ができないか。
  ○ 長期休暇取得を政策的に促進することの理論的根拠を明らかにすることで、
   関係者の理解が進むのではないか。例えば、休暇取得に支障がないにも関わら
   ず実際に取得しようとしない人に対しては、そのことが家庭・本人の健康等に
   悪影響を与え結果的に教育、健康保険、年金等の政策経費がかかるといった
   「外部不経済」が生じることを説明することが必要ではないか。
  ○ 既存の年次有給休暇の取得促進ならともかく、これに加えて新たに長期休暇
   制度を創設することは、現状ではその意義が注目されるよりコストアップ要因
   とされてしまい、労使交渉の俎上に載せること自体が困難。長期休暇制度が企
   業にとってメリットがあることについてコンセンサスが形成されないと話が進
   まない。
  ○ 陸上貨物運輸業では、特に技能職の場合、「出面(勤務制)」をキチっと決
   めて業務を遂行している。労使の話し合いでは、むしろ「休暇をなくせ」とい
   うことが話題になっているくらい。
  ○ 企業の規模や地域により労働時間にギャップが存在していることを考えると、
   この長期休暇というテーマが日本の社会における働く人々の何割ぐらいを対象
   にしたものになるのだろうか。長期休暇のように社会の雰囲気で誘導していく
   性格のものについて、普遍化していくシステムが我が国では弱い。
  ○ 働くことと休むことについての視点を変えるべき。家庭崩壊、男女の役割分
   業など、労働時間を短縮することによって解決できる問題が多いからこそ、長
   期休暇を進めるというのがこの会議の意義と考える。休暇が増えると労働効率
   が上昇するという切り口でとらえるのでは、休暇と経済がリンクされ、「経済
   に支障があるから、休みは今のままでいい」という議論になりかねない事を危
   惧。新たな概念で休暇をとらえるべき。
  ○ 今回、国が長期休暇の普及のために展開している啓発活動(フェアなど)を
   みると、国が休暇の活用方法まで手取り足取り教えないと国民は休まないと考
   えているように思える。製造業など従来型の業種において年功序列で処遇され
   生活全体が会社と一体化しているような労働者のみを想定して、国が音頭をと
   ってガイドラインを策定して、それに沿って休暇をとらせるようなことではな
   く、誰にとっても一日は24時間という共通の前提の下でいろいろなことをやり
   たい人達を、最低限の線でサポートすることにとどめるべきではないか。
  ○ 一国の総理大臣でさえも従来の慣習等に縛られ、大事な仕事以外のものにも
   多くのエネルギーを向けざるを得なかった結果、過労で倒れられたことは残念
   なこと。日本の「空気」を変え、やりたい事をやっていく、休暇も積極的にと
   る雰囲気をつくっていくべき。

 A 積極的意義・効果
  ○ 休暇には心身のリフレッシュ効果があるほか、自己啓発、能力開発面や、職
   場を離れたヒューマンネットワークの形成面も含めて、多面的な効果がある。
  ○ 先駆的に節目での長期休暇を制度として導入した企業の経験からは、職業生
   涯の節目でのキャリアの点検、充電に限らず、家族との関係を見つめ直すなど、
   多様かつ有意義な活用がなされている。〔4B参照〕
  ○ 仕事を始めて数十年間、長い休暇を取ったことがなく、また、それを誇りと
   していたが、夏に1か月、年末年始で2週間というまとまった休暇を体験して
   みて、はじめて、休暇の重要性が理解できた。日本も欧米などのように積極的
   に休暇を取れる国にならないと活力が出てこないのではないか。

 B 留意・考慮が必要な点
  ○ 休暇の取得を促進させるためには、単に制度を設ければいいというものでは
   ない。労務改善や業務改善、組織の在り方、社内風土等を含め会社全体を労使
   の話し合いを重ね、合意形成の下改善していくことによって初めて可能。
   〔4A参照〕
  ○ 長期休暇については、週休日(土・日)との組み合わせによる場合を含め、
   その長さや取得のタイミング、有給か無給かなど、幅を広くとらえて議論すべ
   き。また、フリーランスで働く人など雇用労働者以外の働く人々、雇用労働者
   でも派遣形態で働く人などに幅広く目配りすることが必要ではないか。
  ○ 調査結果から「休暇増による賃金減少」についての労働者の考え方をみたと
   き、賃金が減少しても休暇増を選好する層が3割程度いることに、むしろ着目
   すべきではないか。
  ○ 男性がきちんと休暇をとるようにするためには、家庭という基盤を社会的に
   認知していくことが必要ではないか。
  ○ 育児休業、介護休業など目的型の休暇は、別途法制化が進んでいるため、こ
   れを直接論じないこととしても、男性も出産や育児、ドメスティックバイオレ
   ンスの問題に向き合うなど、家族を大切にするために休暇を活用することに留
   意することが必要ではないか。
  ○ 母子家庭の母、障害者などを含め休暇がとれるようにすること、休暇が家族
   全員のためのものとなり、主婦など特定の構成員の負担がかえって増加するこ
   と等がないように留意することが必要ではないか。
  ○ 学齢期の子供がいる場合、「総合的な学習」の時間の活用など学校教育サイ
   ドとの調整が必要となるほか、配偶者が仕事を持っている場合の仕事とも調整
   が必要となることに留意することが必要ではないか。
  ○ 女性の活用を図るという観点からは、週休2日制への移行の際に一部にみら
   れたように、休暇が増える反面1日の所定労働時間が伸びることがないように
   すべきではないか。

 C 休暇の「受け皿」
  ○ 長期休暇が定着するためには、家族が全員で低廉な費用で充実して休日を過
   ごせるような受け皿が不可欠ではないか。
  ○ 先駆的に3カ月の長期休暇を導入した経験では、家族を帯同しての海外旅行
   や禅寺での修行、牧場での牧童体験など異色のものを含めて皆が工夫している。
   あわせて、その費用について会社が低利で融資する仕組みを設けている。
  ○ 教育(自己啓発)のために休暇を用いることは有意義。
  ○ サービス業は、土日に休みが取れるわけではないため、休暇を取得しても子
   供が学校に行っていて家族で過ごすことはできない。学校で、年に数日は土日
   以外で休みがとれる制度を創設すべきではないか。
  ○ 長期休暇をとったとしても、ゴールデンウィークや夏に集中したままでは、
   渋滞、混雑等で休暇を充実して過ごすことが困難。時期の分散化などにより休
   暇の「品質」を高める取組が必要ではないか。


3 長期休暇を視野に年次有給休暇の取得、活用を進める仕組みづくり

 @ 長期休暇を視野に−年休の取得、活用促進
  ○ 現在、年次有給休暇の取得率が5割程度にとどまっているのは「なぜ」かを
   考えるべき。
  ○ 働き方、人の使い方が変わる中で、企業が充実した休暇システムを有するこ
   とは、求職する学生にとって賃金と同じくらい大事な関心事との指摘もある。
   人材確保のため企業が競って取り組むようになれば普及が進むのではないか。

 A 年休の取得促進のための「仕組づくり」について
  ○ 長期にまとめて年休を取る習慣づくりのためには、GW、夏休み、年末年始
   など例えば一週間完全に休むことを制度化してしまえば休むだろうが、働く人
   の勝手に任していては取得は進まない。
 《企業における具体例》
  仕事の性格上、特定の時期を決めて一斉に休むことができないため、職場ごとに、
 例えば夏期休暇は7〜9月で9日間の休みをお互い交替で調整してとるなどしてい
 る。
  ○ 仕事を自らの裁量でやれるか、時間管理されるかによって、働く人、会社の
   両方とも受け止め方が違ってくる。また、休暇をとりやすい職場風土が既にで
   きあがっている会社では、特定の日、強制的に休まされることは歓迎されない。
   一方、休暇がとりにくい会社では決定事項だからとしてとらせてくれれば、上
   司、同僚、部下に対して気兼ねすることなく休める。
  ○ 業種、業態等の差から一義的に答えの出ない問題であるが、時期を決めてば
   っさり休む仕組みを作ってしまわないとうまくいかないのではないか。
  ○ 例えば、有給休暇の取得率が高い企業は業績も好調であるなど、従業員の休
   暇の取得を促進することが、結果的に企業にも「得」になるということを例証
   し、それを周知啓発することが必要ではないか。
  ○ 現在の、終身雇用制度が変化し、労働移動が増加すれば、休暇に対する考え
   方が変わってくるのではないか。
  ○ 意識変革が進まない段階では年次有給休暇を消化する仕組みは必要だが、そ
   の仕組みが余りに一律で硬直的なものになると、むしろ問題ではないか。その
   人の年齢や生活環境に合わせて選択できる仕組みが望ましいのではないか。


4 参考となる事例の紹介等

 〔第2回会議において3人の委員から説明があった内容の概略〕

 @ 百貨店業界のビジネスの一線から今日に至るまでの経験に基づき、休暇の意義、
  効果について
  ○ 利益追求をめざす会社としては、経営課題として、ローコスト経営の徹底と
   ともに顧客満足度の向上が必要。顧客満足向上に社員の気持ちを向けるために
   は、従業員満足を向上させることが必要。
  ○ 従業員満足の向上のためには、働く人がライフビジョンをきちんと構築でき、
   また、家庭や地域社会に根ざした上で働くことが必要。この観点において、長
   期休暇が役に立つものと思われ、このような長期休暇が様々な面で企業に有利
   になるということをPRしていくことが大事ではないか。
  ○ これまで、仕事のできる人には、「仕事が仕事を呼ぶ」形で仕事が集中、そ
   の結果、社外研修の場などに参加せず、仕事にのめり込む例がみられた。こう
   した変革の時代においては、仕事ばかりでは燃え尽きてしまう。社外を含め能
   力開発の機会を積極的に活用することが必要。会社のことを忘れ、会社以外の
   ことに取り組むためには、1週間以上の長期休暇が必要であり、また、その間
   の代行を通じて後継が育つ。
  ○ 我が国社会においても能力主義・成果主義は、好むと好まざるとにかかわら
   ず導入が進むであろうが、「フォア・ザ・チーム」という考え方や(過度のも
   たれかかりでない)愛社精神を生かすことを考えれば、賃金で極端に差をつけ
   るのではなく、能力開発のための経費を負担し、そのための時間を休暇付与に
   よって確保することでもって貢献に報いるのが一つの方法ではないか。

 A 職場(業務)ごとに勤務時間が多様で、特定の日に従業員が一斉に休暇を取得
  する方式を採りがたい百貨店業界の事情を踏まえ、労働組合の立場で、使用者側
  との話し合いの下、休暇制度に工夫をした経験について
  ○ 年度を前期と後期に分けて、最高で前期に3週間、後期に2週間と5日の連
   続休暇を、職場単位で一定のルールを踏まえて編成する「連続休暇制度」を創
   設。
    上司が休まないので部下が休みにくいという職場風土を払拭するために、部
   長職以上でも、最低3週間の休暇を取らないと考課が下がる仕組みとなってい
   る。
    チーム内の時期調整のルール、職場ごとに繁忙期を除外するルールを定めて
   おり、また、会社が業務都合で時期を変更させるときは賃金を割増して払うと
   いうペナルティーが課される。
  ○ この連続休暇制度の推進により、女性が多い企業において、上司が休暇を取
   っている間に女性の代行者が責任を持って仕事が任されることからその能力開
   発が進み、その結果女性の登用が進み、生産性が向上(女性中心の顧客の満足
   度が向上)した。
  ○ この他に、新入社員に配慮した「フレッシュマン休暇」、失効年休を活用す
   る「ストック有給休暇制度」など、工夫をしている。これによって、社内の年
   次有給休暇の取得率は概ね90%に達している。

 B 既に10年以上実施されている「長期リフレッシュ休暇制度」の詳細について
  ○ 「社憲」の精神である「企業の公器性」を踏まえ、社会への還元と同じスタ
   ンスで社員への還元をとらえている。経営の成功要因は人であるとの認識に立
   ち、総合的な人事革新施策(「ヒューマン・ルネッサンス構想」)をまとめ、
   これに基づき「長期リフレッシュ休暇制度」を実施している。
  ○ 具体的なねらいは、従業員に「多忙な会社生活の中で『間』を持つことの重
   要性」を知ってもらうこと。従来の勤勉を大事とする価値観のみから、ゆとり、
   面白さを求める価値観を併せ有することが、目まぐるしく変化する今日の社会
   に対応することにつながる。
  ○ 「長期リフレッシュ休暇」は昭和63年から始まったもの。管理職に昇進後6
   年目(40〜45歳程度)に最長3か月の休暇を与える。
  ○ 長期リフレッシュ休暇の成果として、体験者にとっては、ものの見方、考え
   方の幅が広がり豊かになったこと、家族にとっては、家族のきずなが強まった
   こと、職場においては、徐々に権限委譲の仕組みが出来上がってくるとともに、
   部下の自立性が高まる等の効果がみられる。
  ○ このほかに、次のような様々な休暇制度を創設している。
   「マイフレッシュ休暇」:30歳の社員が1週間の休暇を取得できる
   「マイチャージ休暇」:35歳の社員が2週間の休暇を取得できる
   「マイリフレッシュ休暇」:40歳の社員が1週間の休暇を取得できる
   「マイビジョン休暇」:45歳の社員が4週間の休暇を取得できる
   「マイライフ休暇」:53歳の社員が2週間の休暇を取得できる

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