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           男女雇用機会均等対策基本方針(案)

 
はじめに

 平成9年6月、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための
労働省関係法律の整備に関する法律」(以下「改正均等法」という。)が成立し、平
成11年4月から施行された。これにより、「雇用の分野における男女の均等な機会及
び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」(以下「旧均等法」という。
)においては事業主の努力義務とされていた募集・採用、配置・昇進を含む雇用管理
のすべての段階における女性労働者に対する差別が禁止され、また、ポジティブ・ア
クションの促進、セクシュアルハラスメントの防止といった新たな課題に対応するた
めの規定が設けられるとともに、女性労働者に対する時間外・休日労働、深夜業の規
制の解消、母性保護に関する措置の充実等が図られている。
 また、同じく平成11年4月の「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働
者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」という。)の施行により、すべ
ての事業所において、育児休業制度に加え介護休業制度が義務化されており、これら
の法的整備により、雇用均等行政は新たな段階を迎えたものと言うことができる。
 加えて、平成11年6月には、男女共同参画社会基本法が成立、施行され、男女共同
参画社会の形成に向けた国、地方公共団体の責務が定められるとともに、家族を構成
する男女が家庭生活における活動と他の活動を両立できるようにすることの重要性が
明記されたところであり、職場や家庭における男女共同参画の実現、また男女とも生
涯を通し、仕事と家庭とを両立し、充実した生活を営むことの重要性に対する社会の
認識は格段に高まってきている。
 この男女雇用機会均等対策基本方針は、こうした中で、「雇用の分野における男女
の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「男女雇用機会均等法」という。
)第4条に基づき初めて策定する方針となる。本方針においては、女性労働者を取り
巻く環境の変化や、関連する施策の進捗状況等を踏まえつつ、女性労働者の職業生活
の動向に関する事項を明らかにするとともに、雇用の分野における男女の均等な機会
及び待遇の確保等について講じようとする施策の基本的方向を示すこととする。
 なお、本方針の運営期間は、平成12年度から平成16年度までの5年間とする。
 

第1 女性労働者の職業生活の動向

 1 女性労働者を取り巻く経済社会の動向

   我が国の経済社会は現在大きな転換期に当たっている。経済は成熟期を迎え、
  今後の経済成長については、中長期的にバブル崩壊前のような高い実質経済成長
  率を期待することはできない状況にある。また、技術革新、中でもコンピュータ、
  データ通信等の情報技術の導入・活用による情報化の進展、経済社会のグローバ
  ル化、規制改革の推進は、我が国の産業構造を変化させるとともに、国際競争を
  激化させることが見込まれている。さらに、我が国の高齢化は世界に例を見ない
  速度で急速に進むと同時に、出生率の継続的な低下による少子化も進行しており、
  今後10年のうちに人口が減少に転じることが見込まれている。
   このような構造的な変化に加え、平成9年度、10年度の実質経済成長率は2年
  連続でマイナス成長となるなど景気は低迷し、11年度に入ってからは緩やかに改
  善しているが、雇用情勢は依然厳しい状況が続いている。
   こうした現下の雇用情勢は、企業が女性の活用を進めるに際し、厳しい環境と
  なっている。しかしながら、今後、労働力人口は、人口の減少及び年齢構成の高
  齢化による労働力率の低下により、2005年以降減少するものと見込まれている。
  こうした労働力人口の減少が目前に迫っていることを考慮すると、企業経営や我
  が国経済の持続的発展、ひいては国民全体が豊かで質の高い生活を享受するため
  に、女性の能力発揮を促進し、生涯にわたり充実した職業生活を送ることができ
  るようにすることは、喫緊の課題となっている。


 2 女性労働者の職業の動向

(1)女性雇用の動向

  イ 女性労働力の量的変化
    女性の労働力人口は増加傾向にあるが、厳しい雇用情勢の中で、平成11年に
   はわずかながら前年に比べ減少し、2,755万人となった。また、女性労働力率
   は平成2年以降50%を超える水準で推移していたが、平成11年には10年ぶりに
   50%を下回った。
    女性の年齢階級別の労働力率のM字型カーブについては、全体が上方にシフ
   トしてきているが、最近においては、上昇幅は特に25-29歳層で大きく、M字
   型の谷にあたる30−34歳層では比較的小幅にとどまっている。年齢階級別の労
   働力率を未婚・有配偶に分けてみると、未婚者については、どの年齢層におい
   ても上昇しており、特に30歳台において上昇幅が大きいのに対し、有配偶者で
   は20歳台後半と40歳台後半以降の年齢層で上昇しているものの、30歳台から40
   歳台前半の年齢層についてはほとんど変化していない。
    女性労働者の中でも特に増加の大きいのが雇用者であり、平成11年には女性
   労働者の約8割が雇用者となっている。同時に、雇用者全体に占める女性比率
   も上昇傾向にあり、約4割を占めるに至っている。

  ロ 女性労働力の質的変化
    女性労働者は、量的に増大するのみならず、質的にも変化している。女性雇
   用者の勤続年数は伸長する傾向にあり、同一企業における勤続年数が平均で8
   年余りとなっている。また、女性雇用者の約3割が10年以上の長期勤続者とな
   っている。
    また、女性雇用者のうち、有配偶者が6割弱を占めており、子どものいる世
   帯においても、母親のうち半数以上が就業者である。ただし、末子の年齢が3
   歳以下の世帯の母親についてみると、就業者率は3割弱にとどまっており、こ
   の水準は近年変化していない。
    さらに、女性の進学率の高まり、高学歴女性の就職率の上昇を背景に、女性
   雇用者の高学歴化が進んでいる。女性の新規学卒就職者の学歴別構成比は、高
   卒、短大卒が減少する一方、大卒は増加している。平成11年3月卒では、大卒
   (33.4%)が短大卒(30.3%)を上回り、大卒と短大卒を合わせると6割にのぼって
   いる。
    就業形態については、一層の多様化が進んでおり、女性雇用者のうち、パー
   トタイム労働者を中心とした非正規雇用者の割合は45%に達している。中でも、
   パートタイム労働者の増加が顕著であり、週間就業時間35時間未満の非農林
   業雇用者数は、平成11年には、1,138万人(雇用者総数の21.8%)、そのうち女
   性は773万人(短時間雇用者総数の67.9%、女性雇用者総数の37.4%)となって
   いる。また、派遣労働者も、全体の雇用者に占める割合は低いものの、近年、
   増加を続けており、その7割強が女性となっている。
    また、産業別の女性雇用者の構成比は、「製造業」で大きく減少している一
   方、「サービス業」、「卸売・小売業、飲食店、金融・保険業、不動産業」等
   で増加している。職業別には「技能工、製造・建設作業者」で大きく減少して
   いる一方、「専門的・技術的職業従事者」等で増加している。

  ハ 失業の状況
    失業については、経済の動向を受けて、男女とも平成10年以降完全失業率は
   急速に上昇し、平成11年には4.7%となっており、特に非自発的理由による離職
   失業者が高水準となっている。また、新規学卒者の就職についても、近年男女
   とも厳しい状況にあるが、特に女子は、平成11年3月末卒の就職率は、大卒
   89.2%、短大卒88.4%、高卒95.9%にとどまるなど、男子の大卒93.2%、高卒97.7
   %と比較しても更に厳しい状況となっている。特に、女性については、従来、
   離職した場合にあきらめて非労働力化するという行動パターン(就業意欲喪失
   効果)がみられ、特に景気後退期にはその効果が大きくなる傾向がみられたが、
   長期的にみて、この効果が景気後退期も含めて全般的に低下する傾向にあり、
   女性の完全失業率を押し上げる一因となっている。

  ニ 労働力需給の見通し
    労働力率については、今後人口構成の変化等により全体としては低下してい
   くことが見込まれる。また、労働力人口は、1999年の6,779万人から2005年ま
   でに約80万人増加し、その後2010年までに約120万人減少するものと見込まれ
   る。
    このうち、女性についてみると年齢階級別の労働力率は、晩婚化、未婚率の
   上昇等を背景に、ほとんどの年齢層で上昇することが見込まれている。また、
   労働力人口は、1999年の2,755万人から2005年までに約20万人増加し、その後
   2010年までに約30万人減少するものと見込まれる。

  ホ 労働条件
    男女の平均賃金の差は、年々縮小傾向にあり、平成11年には、男性の所定内
   給与額100に対する女性の割合は、64.6%となっている。この格差は、職務(職
   種、職階)、勤続年数、学歴構成が男女間で異なること等によるところが大き
   いと考えられるが、近年、女性の勤続年数の伸長により、勤続年数の違いによ
   る格差は徐々に縮小している一方、職階の違いはそれ程には縮まっていないた
   めに、職階の違いによる格差はほとんど変わっていないものとみられる。こう
   した状況を反映し、我が国の男女の平均賃金の差は、欧州諸国と比べるといま
   だ大きくなっている。
    労働時間については、労働者一人平均年間総実労働時間は男女とも着実に減
   少し、平成11年には、女性労働者一人平均の年間総実労働時間は1,631時間と
   なっている。特に、女性労働者の労働時間の短縮については、フルタイム労働
   者の労働時間の短縮に加え、パートタイム労働者の増加の影響もあるものと考
   えられる。


(2)企業の雇用管理と女性労働者

  イ 男女雇用機会均等法の定着状況と法改正の影響
    昭和61年に旧均等法が施行されて以来十数年が経過し、社会一般あるいは企
   業の女性労働者に対する意識は大きく変化している。企業における雇用管理に
   ついても、制度の面での男女均等取扱いは徐々に浸透してきており、また、平
   成11年4月から、募集・採用から退職に至るまでの雇用管理のすべての段階に
   おける女性への差別取扱いを禁止した改正均等法が施行された後は、求人(募
   集)は男女不問に切り替わった。同時に、労働基準法の改正により女性の時間
   外・休日労働、深夜業の規制が解消されたことを受け、深夜の時間帯を含む交
   替制勤務への女性の配置等の職域拡大が大企業を中心にみられる。
    しかしながら、現下の厳しい経済情勢の影響もあり、依然として採用選考の
   段階で女子学生に不利な取扱いがみられ、また、管理職に就く女性の比率は未
   だ低く、近年足踏みの状態となっているほか、妊娠・出産等を理由とした解雇
   や、退職・解雇に関し女性に対して男性と異なる取扱いをする事例がみられる
   など、実態面の改善には遅れがみられる。
    男女雇用機会均等法等に係る全国の雇用均等室への相談は、近年増加傾向に
   あり、特に改正均等法施行後は、事業主からの相談に比べ女性労働者からの相
   談の割合が高くなっている。
    改正均等法によって一方申請により開始が可能になった機会均等調停委員会
   による調停については、平成11年度の1年間で31件(6社)の申請がみられる。
   申請内容については、昇進・昇格に関する事案が多く、その他は解雇、配置に
   関する事案となっている。
    改正均等法によりセクシュアルハラスメントの防止についての事業主の配慮
   義務が設けられ、雇用管理上の配慮が求められている「方針の明確化と周知・
   啓発」、「相談・苦情への対応」、「事後の迅速かつ適切な対応」の3項目に
   ついて、すべてに対応している企業は従業員1,000人以上規模では7割に達し
   ているものの、中小・零細企業では取組に遅れがみられる。
    また、改正均等法により、制度上の男女均等の確保にとどまらず、過去の経
   緯や固定的な意識から生じている男女労働者の間の事実上の格差を解消するた
   め、企業の積極的取組(ポジティブ・アクション)に対する国の援助規定が設
   けられ、大企業やグローバルな事業展開が進んでいる企業等を中心に、女性管
   理職の登用に関する目標設定、女性が就いていなかった職種への配置のための
   女性に対する特別研修の実施等の具体的な取組がみられ始めているが、全体と
   しては、ポジティブ・アクションの概念や必要性が十分に認識されていない状
   況にある。

  ロ 母性保護の状況
    妊娠中及び出産後の健康管理に関する制度の状況についてみると、平成9年
   には、通院休暇制度を有する事業所は17.2%、妊婦の通勤緩和措置の制度を有
   する事業所は11.8%、妊娠障害休暇制度を有する事業所は7.7%などとなってい
   たが、平成9年に成立した改正均等法により、平成10年4月からは、事業主に
   よる女性労働者の妊娠中及び出産後の母性健康管理の措置、すなわち@健康診
   査等の受診のための時間の確保、A妊娠中の通勤緩和、B妊娠中の休憩時間に
   関する措置、C妊娠中及び出産後における症状等に対応する措置が義務化され
   ている。
    妊娠した女性労働者のうち、妊娠又は出産により退職した者は平成9年には
   19.0%で、この割合は長期的にみて低下傾向にある。

  ハ 育児・介護休業制度の定着状況等
    育児休業制度については、平成3年の育児休業等に関する法律の制定により、
   平成4年度から30人を超える事業所で、平成7年度からはすべての事業所で義
   務化された。また、育児休業中の経済的支援措置として、雇用保険の育児休業
   給付制度が平成7年から設けられている。さらに、育児休業期間中の被保険者
   本人負担分の社会保険料が平成7年度から免除されている。こうした中で、育
   児休業取得に対する企業あるいは社会全体の認識は高まってきている。なお、
   平成8年には、出産した女性労働者に占める育児休業取得者の割合は44.5%と
   なっており、育児休業取得者の男女割合は、女性99.2%、男性0.8%となってい
   る。また、育児休業を取得しなかった理由としては、「職場の雰囲気や仕事の
   状況から」、「経済的なことから」等が多くなっている。
    介護休業制度については、平成7年の育児・介護休業法への改正により、同
   年10月からの努力義務期間を経て、平成11年度から義務化されている。併せて、
   同年度から介護休業中の介護休業給付制度が設けられている。なお、平成8年
   の時点で、介護休業制度のある事業所の割合は23.2%となっており、介護休業
   取得者の男女割合は、女性81.3%、男性18.7%となっている。

  ニ パートタイム労働者の雇用管理改善等の状況
    サービス経済化の進展や就業意識の多様化等を背景に、パートタイム労働者
   数は増加傾向にあり、就業の状況についても、近年、専門的・技術的職業従事
   者や役職者が増加しつつあるなどその職域が拡大・多様化するとともに、勤続
   年数についても長期化の傾向がみられる。
    また、パートタイム労働者の1日の平均所定内実労働時間と月間の平均実労
   働日数は、女性5.5時間、19.4日、男性5.9時間、17.3日、1時間当たりの平均
   所定内給与額は、女性887円、男性1,025円となっている。なお、パートタイム
   労働者と一般労働者の時間当たり賃金の差は、平成10年にはやや縮小したもの
   の、近年拡大傾向にある。
    パートタイム労働者の雇用管理の改善については、平成5年に施行された
   「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パートタイム労働
   法」という。)及び同法に基づく指針に沿って指導を行っているところである
   が、労働条件をめぐるトラブルの防止、通常の労働者との均衡を考慮した処遇
   ・労働条件の確保、パートタイム労働者の就業実態に応じた合理的な雇用管理
   の確保、いわゆる就業調整の問題等が課題となっている。

  ホ 企業の雇用管理の変化と女性活用
    経済の成熟化、グローバル化、技術革新の進展、少子・高齢化の進行等の経
   済社会の変化に伴い、企業では、人事・処遇制度を年功重視から能力・成果重
   視へ見直す動きがみられる。こうした能力・成果重視への見直しについては、
   性差ではなく個人差に重点を置いた人事・処遇制度の浸透につながれば、男女
   均等取扱いの推進にとっては好ましい影響を与えると考えられる。
    また、長期継続雇用のフルタイム型の労働者だけでなく、仕事内容に応じて、
   パートタイム労働者、中途採用、派遣・契約社員等の多様なタイプの人材を活
   用しようとする動きがみられ、これは、女性の働き方の選択肢の拡大につなが
   っている。同時に、単純・定型的業務を中心に、一般労働者の雇用の増加を抑
   制しつつ、パートタイム労働者の雇用を増加させる動きも一部にはみられる。
   こうした多様な人材を活用しようとする動きの中で、それぞれの働き方に応じ
   た適正な処遇・労働条件が確保されることが重要な課題となっている。
    同時に、産業・職業構造の変化やコンピュータ、情報通信機器の普及等によ
   り、事務職求人は減少しており、女性の求職ニーズとのミスマッチの拡大を防
   止することが必要となっている。
    コース別雇用管理制度は、昭和61年の旧均等法の施行前後に、それまでの男
   女別の雇用管理制度を改め、総合職、一般職のコースを設定し、コースごとの
   処遇を行うシステムとして導入され、その後大企業を中心に導入が進み、最近
   においては中堅企業へも拡大をみせている。一方、事実上の男女別雇用管理と
   して機能している事例や、一般職の勤続年数の長期化に伴い、コース区分の合
   理性や、コース間の処遇の格差について本人の納得を得られない事例、総合職
   への転換制度はあるものの実際の転換が円滑に進んでいない事例等がみられる
   中で、コース別雇用管理を廃止する企業もみられる。


(3)女性労働者の意識の変化と就業パターン

   女性の労働力率はすべての年齢層において上昇傾向にあり、生涯にわたり女性
  の仕事との関わり方は大きくなっている。職業選択に当たり、長期的なキャリア
  プランにたって、専門的な分野や、女性向きといわれる職業にとらわれず新たな
  分野にチャレンジしようとする女性が増えるとともに、進路選択の段階から、社
  会科学、理工系を専攻分野として選択する女性も増えている。また、希望する仕
  事への就職、転職、キャリアアップを目指した資格取得や教育訓練の受講も多く
  みられる。
   女性の働き方に対し依然として大きな影響を与えている結婚、出産の状況をみ
  ると、全体的には、晩婚化とともに、生涯未婚率の上昇、子どもを持たない者の
  増加等の傾向がみられる。また、結婚、出産、育児と職業を持つこととの関係に
  ついての女性の考え方をみると、「子どもができたら職業をやめ大きくなったら
  再び持つ方がよい」とする考え方(再就職型)が依然最も多くなっているが、減
  少してきている。これに対し、「子どもができてもずっと職業を続ける方がよ
  い」とする考え方(継続就業型)が大幅に増加しており、特に30歳台、40歳台の
  女性において、その傾向が顕著である。なお、職業を持たない方がよい、あるい
  は結婚や子どもができるまでに限定して、職業を持つ方がよいという考え方は少
  数になっている。
   結婚、出産・育児を機に仕事を辞めた者について、その理由をみると、「時間
  的、体力的に困難」、「もともと退職するつもり」、「仕事に魅力がなかった」
  の順に多くなっている。このため、女性の就業継続を更に促進するためには、仕
  事と家庭が容易に両立できるような雇用環境の整備と併せ、長期的なキャリア展
  望を持つこと等が重要な要因となるものと考えられる。
   また、育児・家事等の家族的責任については、夫の家事関連時間は妻の有業、
  無業を問わず極めて短く、まだまだ妻に多くの負担がかかっている。若い世代に
  ついては、わずかながら夫の家事関連時間が長くなる傾向にあるものの、共働き
  の妻の「仕事」時間と「家事関連」時間の合計時間は、夫や専業主婦のそれと比
  べても長く、このことが女性が仕事と育児を両立することを困難にしている一因
  であると考えられる。現在、男性の家事・育児等の負担が少ない背景には、労働
  時間の長さや、長く職場にいることが評価されるような雰囲気等職場優先の組織
  風土等の問題が指摘されていることにも留意することが必要である。
   さらに、再就職に当たっての問題点としては、家庭生活と両立できる雇用管理
  実施企業が少ない、子育て・介護の支援施設が少ない、再就職女性が能力をいか
  せる場が少ないなどを挙げる者が多くなっている。再就職の仕事を選ぶ際には、
  都合のよい勤務時間帯であるかどうかを重視する者が最も多く、次いで土日に休
  めること、仕事内容が自分の望むものであるかどうかを基準に置く者が多くなっ
  ている。中でも高学歴の女性については、仕事内容を重視する者が多いことが特
  徴となっている。
   就業形態については、近年、特に女性について、パートタイム労働者、派遣労
  働者など非正規型の労働者の割合の増加が顕著であるが、就業形態の多様化は、
  勤務時間数・勤務時間帯を重視する女性労働者のニーズに合った働き方を可能と
  している一方、正社員として働けないためにやむを得ずそうした働き方をしてい
  る女性も少なくないことに留意することが必要である。
 


第2 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について講じよう
  とする施策の基本となるべき事項

 1 施策についての基本的考え方

   雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する施策は、「女
  性労働者が性別により差別されることなく、かつ、母性を尊重されつつ充実した
  職業生活を営むことができるようにする」という男女雇用機会均等法の基本的理
  念にのっとって推進されるべきものである。
   一方、経済の成熟化、グローバル化、技術革新の進展など、女性を取り巻く環
  境は変化している。そうした中で、企業においては、経営の効率化、事業環境の
  変化への機動的対応、競争力の強化等を目指して、人事・処遇制度を年功重視か
  ら能力・成果重視の方向へ見直す動きや、長期継続雇用型の労働者だけでなく、
  多様な人材を活用しようとする動きがみられる。また、少子・高齢化や核家族化
  の進行に伴い、企業においても、労働者の担う家族的責任に配慮した雇用管理が
  必要とされてきている。
   上記の男女雇用機会均等法の基本的理念に沿って、実質的な男女均等を実現す
  るためには、このような企業の動向も勘案しながら、性別にとらわれない個人の
  能力に基づく雇用管理の実現を図ることとともに、家族的責任を有する労働者が
  十分に能力を発揮できる仕組みや環境を整備すること、さらに、多様な働き方に
  応じた適正な処遇・労働条件が確保されることが必要であり、こうした条件が整
  備されて初めて女性が十分に能力を発揮できる社会の実現が可能となるものであ
  る。
   こうした考え方にたって、本方針においては、男女雇用機会均等確保対策等を
  中心としつつ、仕事と育児・介護の両立支援対策、就業形態の多様化に対応した
  対策等を定め、国は、これらの対策の総合的な実施を推進することとする。


 2 具体的施策

(1)男女雇用機会均等確保対策の推進

   女性労働者が性別により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇
  用環境を整備することは重要な課題であるが、企業の雇用管理においては、制度
  面での男女均等取扱いについての改善はみられるものの、中小企業を中心に、い
  まだ男女雇用機会均等法の趣旨の浸透が十分ではない。また、採用、配置、昇進
  等における実態面で課題も多い。
   このため、改正均等法により、募集・採用から退職に至るまでのすべての雇用
  管理における女性に対する差別が禁止されたことを踏まえ、積極的な行政指導に
  より男女雇用機会均等法の履行確保を図るとともに、企業のポジティブ・アクシ
  ョンを促進するための施策を積極的に展開することにより、実質的な男女の均等
  確保の実現を目指すこととする。

  イ 男女雇用機会均等法の履行の確保
    男女雇用機会均等法の履行状況、男女の採用、配置、昇進等の状況について
   十分な実態把握を行った上で、業種、規模等の実情に応じた積極的な行政指導
   を実施し、男女雇用機会均等法に違反する取扱いについては是正指導を行うと
   ともに採用、配置、昇進等における男女間の格差の大きい企業に対しては、そ
   の原因の分析、問題点の把握のための助言とともに、問題の改善に向け、選考
   基準、昇進・昇格基準の明確化等の具体的取組に関する助言を行う。特に、改
   正均等法により、女性のみの採用や配置が禁止されたことについて、周知を図
   る。また、派遣労働者についても、男女の均等取扱いの確保等の観点から、改
   正された「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整
   備等に関する法律」及び同法に基づく指針に沿った取扱いが行われるよう、そ
   の周知を図る。
    なお、行政指導に当たっては、助言、指導、勧告の各措置を厳正に講ずると
   ともに、更に改善がみられない場合には、企業名公表制度も念頭に置きつつ、
   粘り強く実施する。
    また、コース等で区分した雇用管理については、事実上の男女別雇用管理と
   ならないよう、男女の均等取扱いの確保等の観点から留意すべき事項について
   周知徹底を図るとともに、適正な運用に向けた的確な指導等を行う。
    さらに、深夜業の規制解消に伴う女性労働者の就業環境の整備についても、
   指針に基づき指導等を行う。
    一方、昇進、解雇等に係る男女均等取扱いに関する女性労働者からの相談が
   増加している。今後さらに、男女雇用機会均等法に基づく機会均等調停委員会
   制度等の個別紛争解決の援助が活用されるよう、労働組合、地方公共団体との
   連携を取りながら、女性労働者への男女雇用機会均等法の周知を図るとともに、
   引き続き企業に対する周知を併せて行う。また、都道府県労働局の設置に伴う
   雇用均等室の発足についての周知を図るほか、新たなメディアを活用した相談
   方法も取り入れるなど相談機能の強化を図る。
    さらに、女子学生の就職問題については、企業における募集・採用状況や女
   子学生の就職活動の状況の把握に努め、男女雇用機会均等法に違反する取扱い
   については是正指導を行う。状況把握に当たっては、大学の就職担当者との連
   絡を密にするとともに、インターネットによる女子学生からの相談及び採用活
   動における取扱いについての情報収集を行うなど、新たな手法の導入を図る。
   また、企業の人事・面接担当者等を対象に、男女雇用機会均等法に沿った男女
   均等な選考ルールについて、周知徹底を図る。

  ロ 女性の能力発揮のための積極的取組(ポジティブ・アクション)の推進
    実質的な男女均等を実現し、女性の能力を最大限いかすためには、制度上の
   男女均等が確保されるだけでなく、従来の慣行や固定的な意識に根ざした雇用
   管理が見直されないまま繰り返されている実態から生じている男女労働者の間
   の事実上の格差を解消するための企業の積極的取組(ポジティブ・アクション
   )が不可欠であり、改正均等法により、企業のポジティブ・アクションに対す
   る国の援助規定が設けられた。さらに、平成11年6月に男女共同参画社会基本
   法が成立し、積極的改善措置を含めた、男女共同参画社会の形成の促進に関す
   る施策を講ずることが政府全体の責務とされ、雇用の分野においても、男女の
   均等確保の観点から、より効果的なポジティブ・アクションの促進が求められ
   ている。しかしながら、現状においては、一部の企業において取組がみられる
   ものの、多くの企業においては、ポジティブ・アクションの必要性が十分に認
   識されていない状況にある。そうした中で、ポジティブ・アクションの推進の
   ためには、とりわけ経営トップの意識改革を図り、ポジティブ・アクションの
   重要性についての認識を高めていくことが重要である。
    このため、ポジティブ・アクションの重要性について、それが人材の有効活
   用や経営の効率化にもつながるものであるという観点も含め、経営トップの理
   解と社内の中間管理職層も含めたコンセンサスづくりを促すとともに、女性の
   活用について積極的に取り組んでいる企業を均等推進企業として表彰すること
   等により、ポジティブ・アクションに対する国民的な機運の醸成を図る。
    また、業種・業態ごとの実態に配慮しつつ、企業がポジティブ・アクション
   に取り組むための具体的なノウハウについて、好事例の収集を図りながら、地
   域ごとのセミナーの開催等により、普及を図る。
    さらに、諸外国の取組事例を参考にしつつ、ポジティブ・アクションの推進
   のための取組を一層実効あるものとするための手法の検討を行う。
    なお、以上のポジティブ・アクションの推進に当たっては、労使団体等との
   連携を図るとともに、自主的にポジティブ・アクションの推進のための取組を
   行う労使団体等に対し、支援を行うことについて検討する。

  ハ セクシュアルハラスメント防止対策の推進
    男女雇用機会均等法にセクシュアルハラスメントの防止に関する事業主の配
   慮義務が設けられたことや、セクシュアルハラスメントに係る裁判例の増加等
   により、労使の意識の高まりがみられる中で、セクシュアルハラスメントに関
   する相談は増加傾向にあるが、中小・零細企業においては、取組に遅れがみら
   れることから、事業主の認識を高め、防止対策の徹底を図っていく必要がある。
   また、防止対策は講じられていても、実際に個別の問題が生じた場合に適切な
   対応がなされていない企業もみられる。
    このため、防止対策の必要性について、事業主の理解を深めるための周知啓
   発を図るとともに、男女雇用機会均等法で求められている措置を講じていない
   事業主に対しては、積極的な行政指導により措置の実施を求める。
    また、防止対策のノウハウを持たない企業に対しては、効果的な具体的取組
   方法についての情報提供や相談への対応を引き続き積極的に行っていく。
    さらに、企業においてセクシュアルハラスメントの問題が生じた場合に適切
   に対処できる専門的知識を持った人材の養成や、企業の相談窓口や担当者に対
   し、問題解決のためのアドバイスを行う仕組みの整備により、個別事案への適
   切な対処のための体制整備について支援を行う。
    また、セクシュアルハラスメントによって、女性労働者が深刻な精神的苦痛
   を受けているケースや、結果的に退職を余儀なくされるケースもみられること
   から、専門的な知識、技術を持ったセクシュアルハラスメントカウンセラーの
   設置・活用等により、女性労働者に対する相談体制の充実を図るとともに、個
   別事案が生じた場合の適切な対処について企業に対する助言を行う。

  ニ 実質的に男女均等な雇用管理を確保する方策等についての幅広い検討
    いわゆる間接差別については、どのようなケースが差別となるのかについて、
   コンセンサス形成のための十分な議論が必要であり、諸外国の施策や判例の動
   向、事例の収集に努め、引き続き検討を行う。
    また、現行の男女雇用機会均等法は、我が国の実態においては、雇用の分野
   における男女の均等な機会及び待遇の確保という観点から問題となるのは女性
   に対する差別であることにかんがみ、女性に対する差別を禁止するものとなっ
   ている。男女雇用機会均等法の施行状況や男女共同参画社会の形成に向けた国、
   地方公共団体の施策の実施状況を始めとする様々な社会的動向等もみながら、
   男女双方に対する差別を禁止する法制度を含め、実質的に男女均等な雇用管理
   を確保する方策について幅広い検討を行う。


(2)母性健康管理対策の推進

   職場において女性が母性を尊重され、働きながら安心して子どもを産むことが
  できる環境を整備することは、女性の能力発揮の促進に加え、少子化への対応、
  さらには生涯を通じた女性の健康確保の観点からも重要な課題である。特に、妊
  娠中及び出産後も継続して働き続ける者が増加していることにかんがみ、これら
  女性労働者が引き続きその能力を十分に発揮する機会を確保するための環境を整
  備することが重要である。
   このため、労働基準法、男女雇用機会均等法に基づく女性労働者の母性保護及
  び母性健康管理について、その周知徹底を図るとともに、事業所の規模等に応じ
  た母性健康管理体制の整備に対する支援、相談、情報提供体制の充実を図る。ま
  た、関係機関とりわけ市町村等の母子保健対策実施機関との効果的な連携方策を
  検討する。
   なお、女性特有の健康状況に応じた相談・情報提供などの生涯を通じた女性の
  健康支援施策との連携についても留意する。
   さらに、妊娠、出産を理由として、雇用管理面で不利益な取扱いを受けること
  のないよう企業の望ましい雇用管理の在り方やそのための環境整備に向けての方
  策等について、検討を行う。


(3)仕事と育児・介護との両立支援の促進

   少子・高齢化、核家族化等が進展する中で、労働者が仕事と育児・介護を容易
  に両立させ、生涯を通じて充実した職業生活を送ることができるようにすること
  は、大きな課題である。このことは、女性が育児・介護責任をより重く負ってい
  る現状にかんがみると、雇用の分野における実質的な男女の機会均等の実現のた
  めにも重要である。
   特に、少子化の進行の中で、仕事と子育てを容易に両立できるようにすること
  は、我が国の経済社会の活力を維持する上でも、労働者が安心して子どもを産み
  育てることができる社会を形成していく上でも喫緊の課題である。
   また、仕事と育児・介護との両立支援を促進していくに当たっては、今後、男
  女労働者ともに様々な生活、家庭事情を有するようになると考えられることを踏
  まえ、こうした労働者が最大限に能力を発揮できる社会の実現に向け、男女労働
  者、企業及び社会全体が応分に負担する仕組みを構築することが必要である。さ
  らに、両立支援を効果的に推進するためには、保育サービス、介護サービス等関
  連する社会的サービスとの連携を十分に図るとともに、就業形態の多様化や労働
  者の意識の変化等に即した施策を展開することが重要である。
   以上の観点から、仕事と育児・介護との両立の促進に向けた制度の定着促進・
  充実、職場環境づくり等に向け、次の施策を推進する。

  イ 育児休業その他仕事と子育ての両立のための制度の一層の定着促進・充実
    男女労働者ともに、希望すれば育児休業を取得できるよう、制度の周知徹底
   を図るとともに、企業における育児休業制度の定着に向けた指導を行う。また、
   育児のための勤務時間短縮等の措置や育児を行う労働者の深夜業を制限する制
   度等の周知、定着を図る。
    さらに、仕事と子育ての両立の促進に向け、子育てを行う男女労働者の時間
   外労働が長時間にわたる場合に時間外労働の免除を請求することができる制度
   に関し検討を行うとともに、併せて、育児休業から復帰後の職務や処遇の在り
   方、短時間勤務制度等子育てに配慮した勤務時間に関する制度、子どもの看護
   のための休暇制度の在り方等について検討を行う。

  ロ 介護休業その他仕事と介護の両立のための制度の定着促進等
    高齢化の進展等に伴い、男女労働者の仕事と家庭の両立にとって、家族の介
   護は子どもの養育と並んで重要な問題である。このため、平成11年4月より施
   行されている育児・介護休業法に基づく介護休業制度や介護のための勤務時間
   短縮等の措置等について周知徹底を図るとともに、企業における介護休業制度
   等に係る規定の整備の徹底に向けた指導を行い、その定着を図る。
    さらに、育児・介護休業法の施行状況や介護の実態等の的確な把握、分析に
   努め、その結果も踏まえ、家族を介護する労働者の福祉の増進の観点から制度
   について総合的な検討を行う。

  ハ 仕事と育児・介護の両立を容易にするための職場環境づくりの促進
    仕事と育児・介護の両立が図られるためには、イ、ロの施策のほか、女性だ
   けでなく男性も含め、育児・介護休業を取得しやすく、また、就業しつつ子ど
   もの養育や家族の介護を行いやすい職場環境づくりを促進することにより、男
   女労働者とも育児・介護について家族の一員としての役割を円滑に果たすこと
   ができるようにすることが重要である。
    このため、固定的な性別役割分担意識の解消や職場優先の組織風土の是正に
   向けて、広く意識啓発のための広報活動を実施するとともに、各種助成措置の
   効果的な活用を図る等により、仕事と育児・介護の両立に向けた労使の取組を
   支援する。
    また、仕事と育児・介護との両立が図られるよう、短時間勤務、在宅勤務等
   柔軟な働き方の普及促進等を行うとともに、年間総実労働時間1,800時間の達
   成、定着を図る。
    さらに、法を上回る基準の育児・介護休業制度や育児・介護のための短時間
   勤務制度等仕事と家庭のバランスに配慮した柔軟な働き方ができる制度が活用
   され、また転勤等に当たって家族的責任への配慮を行う等両立がしやすい企業
   文化を持つファミリー・フレンドリー企業を目指す企業の取組を支援する。

  ニ 地域等における支援サービスの充実
    労働者が仕事と育児・介護との両立を図っていくためには、地域においてニ
   ーズに応じた多様な支援サービスが整備されることが重要である。
    このため、必要な時に利用できる保育所等の受入れ枠の整備や延長保育、低
   年齢児保育、放課後児童クラブ等多様な子育て支援サービスの普及促進、介護
   サービス基盤の整備等の取組が進められており、関係機関と連携を取って、こ
   れらの情報を育児・介護を行う労働者へ提供する体制の整備に努める。
    また、急な残業や子どもの急病等に対応し臨時的、突発的な保育や軽易な介
   護を地域における相互援助活動として行うファミリー・サポート・センター事
   業の拡充を進める。


(4)多様な就業ニーズを踏まえた女性の能力発揮の促進

   パートタイム労働者等の非正規型の労働者の増加に加え、在宅ワーク(情報通
  信機器を活用して在宅形態で自営的に行われる働き方のうち、請負的にサービス
  の提供を行うもの等)、テレワーク(情報通信機器を利用し、遠く離れたところ
  で仕事を行う働き方)等の新たな就業形態が近年拡大しており、そうした雇用・
  就業形態の多様化は労働市場や個人の働き方に大きな影響を及ぼすと考えられる
  ことから、多様化の状況について把握するとともに、多様化に伴う課題について
  対応していくことが必要となっている。
   そうした雇用・就業形態の多様化の中で、労働者が、その価値観、ライフスタ
  イル、ライフサイクル等に応じ、多様でかつ柔軟な働き方を選択でき、それぞれ
  の働き方に応じた適正な処遇・労働条件が確保されることは、女性の能力発揮の
  促進を図る上での重要な課題となっている。また、育児期等にある者が、職業生
  活を完全に中断するのではなく、家族的責任との両立を図りながら職業生活を継
  続することのできる働き方として、在宅ワーク等の働き方を良好な就業形態とし
  て普及していくことが重要である。
   こうした観点から、パートタイム労働者に対する通常の労働者との均衡等を考
  慮した適正な労働条件の確保及び雇用管理の改善、在宅ワークの健全な発展のた
  めの施策等を推進する。

  イ パートタイム労働対策
    パートタイム労働を企業や労働者が必要に応じて選択でき、また、パートタ
   イム労働者がその有する能力を発揮できる良好な就業形態としていくことは、
   今後の我が国経済社会全体にとっても極めて重要となっている。
    このため、パートタイム労働法及び同法に基づく指針の周知徹底、助成金の
   活用促進等により、パートタイム労働者の雇用管理の改善を図る。また、通常
   の労働者との均衡を考慮した処遇や労働条件の確保のため、パートタイム労働
   に係る雇用管理研究会報告の趣旨を広く周知させるなどにより、労使の自主的
   な取組を促す。
    また、パートタイム労働者の数は増加を続けており、その就業状況について
   も、勤続年数の伸長、職域の拡大・多様化等の様々な変化がみられることから、
   今後とも、通常の労働者との均衡等を考慮した雇用管理の改善に係る状況等を
   把握しつつ、適切な対応を図る。

  ロ 在宅ワーク対策
    在宅ワークについては、育児・介護期にある者を中心に仕事と家庭の両立が
   可能となる就労形態として広がりつつあり、社会的な期待や関心も大きなもの
   となっているものの、トラブルの発生も少なくない。
    このため、在宅ワークの健全な発展に向け、ガイドラインの策定、周知・啓
   発、各種情報提供、相談体制の整備、能力開発・能力評価に係る支援、就業支
   援の仕組みの整備等の施策を推進する。
    また、在宅ワーカーの職種、報酬の状況等は様々であり、今後の変化も見込
   まれることから、引き続きその実態の把握に努める。


(5)女性の能力発揮促進のための援助

   男女労働者間に生じている事実上の格差の解消を図り、女性労働者がその能力
  を十分に発揮できるようにするためには、企業におけるポジティブ・アクション
  の促進と併せ、女性労働者の側も職業能力の向上等により個々人の就業能力(エ
  ンプロイアビリティ)を高めていくことが重要であることから、国としても、適
  切な職業選択を促すための意識啓発、情報提供、能力開発等の施策を積極的に推
  進する。
   特に、労働力供給の減少が見込まれる中で、育児等のために退職した女性が、
  再就職によりその能力を発揮していくことが今後一層求められることから、女性
  の再就職に向けた支援の充実を図る。

  イ 女子学生等の適切な進路選択、職業選択の促進
    女子学生・女子生徒の就職問題については、企業の間接部門が縮小する中で、
   女子学生等の事務職志向が依然として強いことが企業の求人職種とのミスマッ
   チを生じさせているなど、女性自身の固定的な意識、考え方に基づく進路選択
   ・職業選択が行われていることも一因となっている。
    このため、女子学生等に対し、学校教育の早い段階から、男女平等意識や職
   業意識の醸成のための教育の充実を図るとともに、ライフプランに沿った生涯
   職業設計について考える機会の提供や、将来の産業・職業構造など就職に関す
   る様々な情報提供等を図り、女子学生等の適切な進路選択、職業選択を促す。
   また、父母、進路指導担当者等に対しても、関連情報の提供を行い、適切な進
   路選択、職業選択が行われるよう支援する。

  ロ 在職中の女性に対する能力開発等の支援
    企業内にロールモデル(目標)やメンター(指導者、相談者)となるような
   女性労働者が少ないなどの事情により、職域拡大やキャリアアップのために必
   要な情報やノウハウを企業内のみでは得にくい場合が少なくない。このため、
   女性の能力発揮のためのセミナーやキャリアカウンセリング、管理職候補とな
   る女性労働者等に対する研修を実施するなど、企業外において、職域拡大、キ
   ャリアアップのために必要な情報提供、相談、研修等を受けられる機会の拡充
   を図る。
    また、自発的な職業能力開発を行おうとする女性労働者に対し、各人のニー
   ズに応じた職業能力開発に関する各種情報の提供と個別の相談援助を推進する。
   さらに、自発的な職業能力開発を促進するための費用面の援助制度の活用を図
   る。

  ハ 育児・介護等により退職した女性に対する支援
    育児・介護等により退職した女性については、将来、再就職が可能な状況と
   なった場合に円滑に再就職できるよう、育児・介護中の期間においても、様々
   な職業情報に接するなど、再就職を念頭に置いた準備を進めておくことが重要
   である。このため、インターネットの活用を含め、在宅であっても利用しやす
   い手段による情報提供の充実を図るとともに、講習、相談、自己啓発への支援
   等の拡充を行う。

  ニ 再就職に向けた支援
    女性の就業パターンとしては、育児等のためにいったん退職した後再就職す
   るというパターンが依然として多く、再就職女性の能力発揮の促進は重要な課
   題である。
    このため、再就職のための求職活動を行う者に対しては、求人に関する情報
   提供等を行うほか、その希望、適性、生活環境等に合った適切な就職先を選択
   することができるよう、キャリアカウンセリング等の充実を図る。
    また、再就職に当たっては、女性の高学歴化等に伴い、再就職女性の職業経
   験、職業能力は多様になっていること等を踏まえ、各人の職業経験や職業能力
   に応じ、産業・職業構造の変化等も考慮に入れながら、職業能力の開発を図る
   ことが重要である。特に、母子家庭の母等のうち職業経験が少なく、就職の緊
   要度が高い女性についてはその必要性が高く、また、一定期間仕事を中断して
   いた女性に対しては、その間の技術の進歩や職業能力の低下に対応することが
   必要である。このため、再就職女性の多様性も十分考慮に入れながら、公共職
   業訓練を始め、民間の教育訓練も含めたきめ細かな情報提供を行うとともに、
   それらの訓練の受講を支援する施策を推進する。
    同時に、企業が一定期間仕事を中断していた再就職女性を採用するに当たっ
   ての職業能力を評価する仕組みの整備や、職業紹介の推進が必要である。
    また、再就職女性を積極的に活用しようとする方針を有する企業はいまだ少
   ないことから、再就職女性の就業ニーズに即した活用方法や、採用後の処遇、
   労働条件の在り方等について、企業に対して情報提供を行うことが重要である。
   さらに、企業においては、中途採用者の採用は年齢を一定以下に限って行うの
   がこれまで一般的とされており、晩婚化、晩産化の進行の影響もあり、女性の
   労働市場への再参入を阻害する大きな要因となっている。こうした求人の年齢
   制限については、その緩和を図ることが重要である。
    このため、以上の課題への対応を含め、再就職女性の積極的な活用を妨げて
   いる問題、改善のための方策等について幅広い検討を行い、その結果を踏まえ、
   女性の再就職支援対策の構築を図る。

  ホ 起業支援
    女性がその能力、経験、専門性を発揮できる働き方の一つとして、女性の起
   業への関心は高まっているが、起業に必要な知識、経験、ノウハウを得る機会
   が必ずしも十分に与えられていないことから、起業を目指す女性に対する情報
   提供、相談等を実施する。
    また、新たな事業形態や拡大が見込まれる事業分野での起業を支援するため、
   起業を目指す女性のニーズ等を把握しながら、支援の在り方について検討を行
   う。


(6)男女均等の確保のための条件整備

  イ 個別紛争解決援助制度の拡充の検討
    働き方の多様化や労働条件の多様化、労働者の意識変化等が進む中で、女性
   が働く上で直面する様々な問題についての紛争が増加すると見込まれるため、
   そうした個々の労使紛争に対する相談・解決機能の拡充について検討を行う。

  ロ 税制、社会保障制度等の在り方に関する検討
    個人の働き方の選択に大きなかかわりを持つ税制、社会保障制度等諸制度・
   慣行について、様々な世帯形態間の公平性等を勘案しつつ、個人の選択に対し
   て及ぼす影響をできる限り中立的なものとするという視点に配慮するという観
   点から、関係者、関係機関による検討を促す。


(7)行政推進体制の充実、強化

   都道府県労働局の設置を踏まえ、雇用均等行政においても、労働基準行政、職
  業安定行政との連携を一層密にし、その効果的な推進に努める。さらに、情報化
  社会における国民のニーズに対応し、インターネットを活用した迅速かつ的確な
  情報提供を行うなど、行政サービスの質的向上に努める。
   また、男女共同参画社会基本法の成立により、積極的改善措置を含めた男女共
  同参画社会の形成の促進に関する施策を講ずることが国の責務とされ、雇用の分
  野においても、男女均等の確保を一層進める観点からの施策の推進が求められて
  いることから、政府全体としての総合的かつ計画的な関連施策の推進に向けた連
  携を図る。併せて、男女共同参画社会の形成のために果たすべき地方公共団体の
  責務が定められたことも踏まえ、地方公共団体が行う雇用の分野における男女共
  同参画を促進するための施策との連携を図りつつ、雇用均等行政をより効果的に
  推進する。
   さらに、中央省庁等改革に伴う労働省と厚生省の統合を踏まえ、雇用の分野に
  おける男女均等の確保を一層進める観点から、両省の施策の総合的、効果的な実
  施を図る。


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