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〈概  要〉

T 働く女性の状況

1 労働力人口、就業者、雇用者の状況

(1)労働力人口
   平成11年の女性の労働力人口(就業者+完全失業者)は2,755万人で、前年に
  比べ12万人、0.4%の減(10年7万人増、0.3%増)で、昭和50年以降24年ぶりの減
  少となった。
   また、労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)は、前年より0.5%
  ポイント低下し、49.6%となった。労働力率が50%を割ったのは平成元年以降
  10年ぶりである。
  〔ポイントT−(1)〕
   年齢階級別に女性の労働力率をみると、平成10年に低下したM字型のボトムを
  形成している30〜34歳層で56.8%と0.9%ポイント上昇(10年間で5.6%ポイント
  上昇)した。
   未婚者の労働力率は62.2%で、昭和63年以降一貫して上昇しているが、有配偶
  者の労働力率は50.0%であり、前年に引き続き低下した。
   平成11年の女性の非労働力人口は2,790万人となり、前年に比べ43万人増加し
  た。非労働力人口は平成4年から増加傾向にあるが、平成10年以降増加幅が拡大
  している。

  (第1−1表 労働力人口、労働力率の推移)
 
  (女性の年齢階級別労働力率)
 
(2)就業者
   平成11年の女性の就業者は、前年に比べ24万人減少し、2,632万人であった。
  家族従業者(291万人)の減少傾向が続く一方、2年連続で増加していた自営業
  (217万人)も減少した。増加傾向にあった雇用者も平成10年以降は2年連続で
  減少し、2,116万人となった。女性就業者に占める雇用者の割合は80.4%で引き
  続き増加傾向にある。
 
  (第1−2表 従業上の地位別就業者数及び構成比の推移)
  
(3)完全失業者
   平成11年における女性の完全失業者は123万人で前年より12万人増となった。
  完全失業率は各年齢層で上昇し、全体では4.5%(男性4.8%)と前年より0.5%ポ
  イント上昇し、過去最高水準となった。
 
  (第1−2図 男女別完全失業率の推移)
 
(4)失業をめぐる状況
   女性離職者の離職理由をみると、女性は男性に比べ「個人的な理由」による離
  職者の割合が高いが(平成10年女性72.6%、男性56.7%)長期的には低下傾向にあ
  る。雇用情勢の悪化による「契約期間満了」「経営上の都合」等の離職者割合が
  上昇しているためでもあるが、「結婚・出産・育児等の理由」による離職者割合
  が継続的に低下している(昭和53年20.0%→昭和63年15.3%→平成10年11.4%)こ
  とから、女性の離職理由の変化は、景気変動によるものだけではなく構造的なも
  のもあると考えられる。
   過去1年間の離職経験者のうち、現在、非労働力人口となっている者の割合を
  みてみると、長期的に縮小する傾向(昭和62年58.4%→平成5年46.6%→平成11年
  43.9%)にあり、離職時に非労働力化する動きが長期的に弱まりつつあることが
  みてとれる。
   また、女性の完全失業者に占める離職失業者(求職理由が離職である失業者)の
  割合は、長期的に上昇してきている。厳しい雇用情勢によるものでもあるが、失
  業者として労働市場に留まるようになったためではないかと考えられる。
   このことが、女性の失業率を押し上げている要因となっていると考えられる。
  〔ポイントT−(2)〕
 
  (第1−3表 離職理由別、離職者の構成比の推移)
 
  (第1−3図 現在の就業状態別過去1年間の離職経験者割合の推移)
 
  (第1−4図 完全失業者に占める離職失業者の割合)
 
(5)雇用者
   平成11年の女性雇用者数は、2,116万人で前年より8万人減少(前年比0.4%減)
  し、2年連続の減少となった。雇用者総数に占める女性の割合は、39.7%で前年
  に比べ0.1%ポイント上昇した。
   職業別にみると、事務従事者が724万人で最も多く、女性雇用者総数の34.2%
  を占めているが、比較可能な昭和28年以降初めての減少(10万人減)となった。
  〔ポイントT−(3)〕
   雇用形態別にみると、平成10年に昭和49年以降24年ぶりの減少となった常雇
  (常用雇用)は、平成11年も引き続き23万人の減少となった。一方、臨時雇は15万
  人の増加となり、前年よりも増加幅(平成10年11万人増)が拡大した。
 
  (第1−4表 女性の職業別雇用者数、構成比及び雇用者総数に占める女性比率)
 

2 新規学卒者の就職状況

   平成11年3月の新規学卒就職者総数に占める大卒の割合(33.4%)は上昇したが、
  短大卒の割合(30.3%)は、7年度をピークとして年々低下している。
   女性の高等学校卒業者の就職率は18.1%(10年20.5%)と、進学率の上昇に加え、
  新規学卒労働市場の悪化により低下している。また、女性の短期大学卒業者の就
  職率は60.5%(同67.0%)、女性の大学卒業者の就職率は59.8%(同64.5%)ととも
  に、前年より大きく低下した。


3 労働条件の状況

(1)平成10年の女性労働者の賃金
   女性一般労働者(パートタイム労働者を除く)のきまって支給する現金給与額は
  22万6,800円(前年比0.7%増)で、そのうち所定内給与額は21万4,900円(同1.0%
  増)と、ともに前年より増加したが、伸び率はともに前年(1.8%増、1.5%増)を
  下回った。

(2)一般労働者の男女間賃金格差の推移
   一般労働者の所定内給与額の男女間賃金格差は年々縮小しており、平成10年に
  おいては、男性を100.0とした場合、女性は63.9となっている。
   このような男女間の賃金格差は勤続年数、学歴構成、職務、職階、労働時間等
  が男女によって異なることによってもたらされていると考えられる。
   企業規模別にみると、金融・保険業の格差が一番大きく、平成2年以降は拡大
  傾向にある。金融・保険業で格差が拡大しているのは、男性の賃金が上昇してい
  るのに対し、女性の賃金が横ばいになっていることによる。また、この産業で女
  性の賃金が横ばいであるのは、金融・保険業の女性労働者のうち半数を占める保
  険業で賃金が低下しているためである。
   企業規模別では、中小企業での男女間賃金格差がかなり縮小している。縮小し
  ている要因としては、賃金格差が比較的小さい産業であるサービス業に勤める女
  性労働者が増加しているためと考えられる。〔ポイントT−(4)〕
 
  (第1−5図 所定内給与額の男女間格差の推移)
 
  (第1−5表 産業別男女間賃金格差の推移)
 
  (第1−6図 金融・保険業における男女別所定内給与額の推移)
 
  (第1−6表 中分類別、金融・保険業における所定内給与額と労働者数の推移)
 
  (第1−7図 企業規模別男女間賃金格差の推移)
 

4 パートタイム労働者の状況

  平成11年における女性の短時間雇用者(非農林業で週間就業時間が35時間未満の
 雇用者)は773万人(短時間雇用者総数の67.9%)で前年に比べ17万人増加した。
 また、女性の非農林業雇用者(休業者を除く)に占める短時間雇用者の割合は37.4
 %で前年に比べ0.9%ポイント上昇した。〔ポイントT−(5)〕
  また、平成10年におけるパートタイム労働者の平均勤続年数は4.8年で、前年に
 比べ0.3年短縮し、5年ぶりの短縮となった。女性のパートタイム労働者の1時間
 当たりの所定内給与額は886円で前年に比べ15円増加し、前年比では1.7%増となり、
 前年の増加率(0.1%)を上回った。
 
  (第1−8図 短時間雇用者(週間就業時間35時間未満の者)数の推移
                                −非農林業−)
 

U 大卒女性の就業意識と就業行動

1 学歴別にみた女性の労働力率及び潜在的労働力率

(1)年齢階級別労働力率−大卒女性は“きりん型”−
   平成元年、平成11年ともに大卒女性の労働力率は、卒業後の20〜24歳層は大半
  が労働市場に出るが、その後35〜39歳層(平成元年は30〜34歳層)まで低下し、特
  に平成11年は、40歳以上の年齢層の労働力率は高卒ほど顕著に上昇せず、60%前
  後でほぼ横ばい状態となっている。その結果、大卒女性の労働力率はカーブはM
  字型ではなく、“きりん型”−首の部分(若年層)が極めて長く(高く)、背中
  (中高年層)が平坦である−となっている。〔ポイントU−1(1)〕
 
  (第2−1図 女性の学歴、年齢階級別労働力率の推移)
 
 
(2)年齢階級別潜在的労働力率−40歳代までは80%前後の高い水準維持−
   大卒女性の潜在的労働力率は、M字型ではなく、20〜24歳層をピークに、40歳
  代までは80%前後の高い水準を維持する。特に、ボトムの35〜39歳層では労働力
  率が60%前後まで落ち込むのに対し、潜在的労働力率は80%を上回る水準を示し
  ていることから、結婚、出産・育児等で退職する者のうちかなり多くの者が現実
  には就業を希望していたと言うこともできる。〔ポイントU−1(2)〕
 
  (第2−2図 女性の学歴、年齢階級別潜在的労働力率の推移)
 
 
2 大卒女性の現状

(1)新規大卒者の卒業後の状況
   新規大卒女性の就職率の推移をみると、若干の上下を繰り返しているが、やや
  低下傾向ある。
   大卒女性は、経済的自立や生きがいを実現するために就職する意欲は強いもの
  の、就職口が高卒女性より少ないという厳しい状況にあり、加えて、就職口はあ
  っても自己実現が図れる仕事や自分が希望する条件に合う就職口がない場合には、
  妥協せずにすぐ就職しない者が高卒女性よりも多いものと推察される。
   大学での専攻分野の多様化に伴い、職業分野も拡がっており、特に理科系では、
  就職するに当たって大学で学んだ知識技能を役立てようと考え、実際に学校での
  職業指導が役立ったと感じている者が多いことから、大学で学ぶ知識技能や大学
  での職業指導等が、その後の職業に役立っているかどうかは専攻分野により違い
  が出ていることが分かる。ただし、職業指導については、4人に1人がそもそも
  受けていないという状況がある。〔ポイントU−2(1)〕
 
  (第2−1表 学歴、学校卒業直後の正社員等経験の有無、
            正社員等としてすぐ就職しなかった主な理由別若年者割合)
 
  (第2−2表 学歴、学校教育、職業指導の影響別若年者の割合 

(2)大卒女性のライフサイクル
   1977〜82年に結婚した「高校」卒の妻の平均初婚年齢は24.53歳、「大学以上
  」卒では25.99歳で1.46歳の差があったが、1987〜92年に結婚した妻では「高校
  卒が25.18歳、「大学以上」卒が27.33歳で格差が2.15歳と拡がりつつあり、高学
  歴の妻ほど晩婚化の傾向にあることがわかる。
   晩婚化は出産年齢に影響を及ぼしており、平均出生間隔から子の出生順位別に
  母の平均年齢を算出してみると、第1子出産は29.4歳、第2子出産は32.4歳であ
  り、「高校」卒の妻の平均出産年齢(それぞれ26.8歳、29.6歳)より3歳近く高
  くなっている。
 
  (第2−3表 最終学歴別の平均初婚年齢)

   学歴別に女性の平均的なライフサイクルを比較してみるため、平成9年に結婚
  した高卒をモデルA、大卒をモデルBとして設定し、モデル図を作成してみた。
  それによると、平均的な大卒女性は、20歳代後半に結婚、30歳代前半までに子供
  2人を出産し、30歳代は子育ての真っ最中であり、結婚、出産・育児等で退職し
  た者が末子の小学校入学を機に再就業しようと考える頃は40歳前後になっている。
  他方、平均的な高卒女性は、20歳代半ばで結婚、30歳になるまでに子供2人を出
  産し、30歳代前半は子育て、末子の小学校入学を機に再就業しようと考える頃は
  30歳代半ばになっている、というライフサイクルが考えられる。
  〔ポイントU−2(2)〕
 
  (第2−3図 学歴別女性のライフサイクルモデルの比較)
 
 
3 大卒女性が継続就業しない要因と対応策

(1)就業継続をするか否かを左右する意識
   就業を継続している大卒女性のうち出産経験者について就業継続理由をみると、
  同一企業での継続就業者は、「もともと結婚・出産しても働き続けるつもりだっ
  た」、「就業継続しやすい制度が整っていた」、「やりがいのある仕事をしてい
  た」、「夫が家事・育児に協力してくれた」を継続理由として挙げる者が多く、
  転職による継続就業者の場合も同一企業で就業を継続している理由と類似の傾向
  にある。
   一方、大卒の退職無業者が仕事をやめた理由は、「仕事にやりがいがなかった
  」が最も多く、次いで「もともと結婚時に退職するつもりだった」、「結婚・出
  産後も就業を継続する同学歴の女性が少なかった」、「残業や休日出勤が多く、
  労働時間が長かった」を挙げる者が多い。
   以上から、就業継続をするか否かの大きな要因は、大学卒業時の働き方に対す
  る志向、仕事のやりがいの有無、労働時間の長短や就業継続しやすい制度の有無
  等の労働条件、家族の協力の有無である。〔ポイントU−3(1)〕
 
  (第2−4図 同一企業継続就業型の未婚・既婚別就業継続の理由)
 
  (第2−5図 退職理由(退職無業者))
 
  
(2)大学卒業時の働き方に対する志向と実際の働き方
   大学卒業時に就業継続志向型だった者は、その6割弱は出産を経験しても継続
  就業をしており、結婚・出産により就業中断した者は3割弱、退職した者はわず
  か6%となっており、大学卒業時の就業継続意思がその後の就業行動を支えてい
  ることがわかる。〔ポイントU−3(2)〕
 
  (第2−4表 大卒時就業意識別継続就業者の継続就業の上位理由(複数回答))
 
 
(3)「仕事のやりがい」
   大卒女性が最初の勤務先に就職した理由としては「自分の適性に合った、自分
  の能力を活かせる仕事ができると思った」が最も多く、仕事のやりがいを最も大
  きく感じるときは「自分の仕事が評価されたとき」(75.1%)と「仕事の達成感
  を味わったとき」(73.5%)が圧倒的に多い。
 
  (第2−6図 卒業時の考え方別最初の勤務先に就職した理由
                            (有業者/複数回答))
  
   また、仕事に関する考え方についてどちらの考え方に近いか二者択一で聞いた
  ところ、管理職よりはスペシャリスト、能力を適正に評価されない長時間の雇用
  よりは短期間の雇用でも適正な能力評価、気楽な仕事よりはきつくても研修や昇
  進の機会のある仕事、アシスタントよりは責任ある地位への昇進、を志向してい
  る。
   以上から、大卒女性はスペシャリストや責任ある地位を志向しており、自己の
  適性・能力と仕事とのマッチングや、自己の能力・仕事に対する適正な評価と昇
  進が、仕事のやりがいにつながり、ひいては就業継続に結びついていくと考えら
  れる。
 
   ワークスタイル別に大学卒業後初めて就いた職(初職)の種類をみると、どの
  ワークスタイルでも「一般事務職」が半数を超えているものの、同一企業継続就
  業型では「専門・技術職」が3割強と他のワークスタイルに比べ高い割合を占め
  ているのに対し、退職無業型で「一般事務職」の割合が高く(66.2%)、「専門
  ・技術職」は低い(19.9%)。
 
  (第2−7図 キャリアパターン別初職の職種)
 
   以上から、大卒女性は、「一般事務職」に就いている場合には相対的に就業継
  続につながらない場合が多く、逆に「専門・技術職」に就いている場合には就業
  につながっている場合が多いことがわかる。
   就業希望者が希望する職種としては、「事務職」が半数を占め、次いで「専門
  ・技術職」(32.8%)、「教育職」(27.5%)が続いている。
   しかしながら、昨今、女性の求職者が多い事務的職業の求人倍率が最も低くな
  っており、また、今後(おおよそ5年)、大卒等若年者に関して社内で余剰にな
  るとされる職種として、「その他の事務職」、「営業」、「総務」、「経理」等
  が挙げられている。また、少子化の中で教育職も求人減少も予想されることから、
  大卒女性の仕事に対する意識が変わらない限り、希望職種と求人側との間のミス
  マッチは引き続き起こりうる。〔ポイントU−3(3)〕
 

(4)対応策
  イ 学校教育と職業選択−進路指導と関連付けた情報提供、カウンセリングの実
   施−
    就業継続するか否かは大学卒業時の継続就業意思の有無に大きく関わってい
   ることから、男女を問わず学校教育の早い段階から自己の適性や仕事に就いて
   考えていくよう意識啓発を行い、結果として複数のワークスタイルから自己の
   適性や能力に合った働き方を自由に選択できるようにすることが望まれる。
    また、大卒女性は自己の適性・能力と仕事内容のマッチングを重視しており、
   仕事に対する志向性(スペシャリスト志向、責任ある地位志向)と現実の仕事
   内容とのギャップがある場合には仕事のやりがいが感じられない傾向が窺われ
   た。
    このため、産業・企業構造の変化や、産業界の動きを踏まえ、学校教育の早
   い段階で進路指導と関連づけて、適切な職業選択のための情報提供やカウンセ
   リングを行うことが必要である。〔ポイントU−3(4)イ〕

  ロ 企業のポジティブ・アクションの促進等−女性の能力発揮促進のための積極
   的取組−
    男女の処遇についての不平等感が強いと、女性は仕事のやりがいをなくし、
   ひいては、退職無業者に転じてしまい、女性の能力を活用できないということ
   になりかねない。
    性別にとらわれない雇用管理を徹底するため、男女雇用機会均等法に基づき
   男女の均等取扱いの確保対策の充実・強化を図ることが必要である。
    また、男女均等な雇用管理が制度面で実現されても、実際には女性の能力が
   十分に生かし切れていないという事態がみられ、早急に改善していく必要があ
   ることから、企業においては、女性の能力活用の障害となる問題点の分析・検
   討をした上で、昇進・昇格基準や管理職への登用を進めるための人事考課基準
   の明確化、女性の能力発揮の促進を図るために必要な研修の実施など、女性の
   能力発揮促進のための積極的取組を進めていくことも重要である。
   〔ポイントU−3(4)ロ〕

  ハ 仕事と家庭責任とを両立しやすい環境の整備−柔軟な労働時間制度の普及−
    労働時間の長短や就業継続しやすい制度の有無等の企業における労働条件、
   家族の協力の有無など、仕事と家庭責任とを両立しやすい環境にあるかどうか
   も、継続就業するか否かを分ける要因となっている。
    このため、企業においては、正社員のフレックスタイム制度や短時間勤務制
   度などの労働時間の柔軟性を高める制度を普及していくことが重要である。ま
   た、育児休業を取りやすく、職場復帰しやすい環境の整備や、そのような職場
   の雰囲気の醸成を図ることも重要である。〔ポイントU−3(4)ハ〕


4 大卒女性が中断後再就業しない要因と対応策

(1)就業を希望する無業者の意識
   無業者(就業経験のない者8.7%を含む。)のうち、子育ての負担が最も重い
  と考えられる30〜34歳でも就業希望者(「今すぐ働きたい」+「今は働けないが、
  そのうちできれば働きたい」)は86.8%、35〜39歳層では80.5%、40歳以上でも
  60.6%に達している。就業希望のうち、「今は働けないが、そのうちできれば働
  きたい」とする者が各年齢層とも最も多いものの、年齢層が高くなるにつれて高
  まり、40歳以上では2割強となる。
 
  (第2−8図 年齢別就業希望(無業者))
 
 
   就業を希望する理由としては、30〜34歳では「自由に使えるお金を稼ぎたい」
  が最も多いが、「社会から取り残されそうだから」が次いで多く、ある程度のキ
  ャリアを形成し、離職後ほどない期間にある女性の職務復帰への焦りのようなも
  のが感じ取れる。35〜39歳では「社会から取り残される」が「教育費や老後の資
  金などのため」と並んで多く、40歳以上では「専門知識や経験を活かしたい」が
  最も多くなっている。また、35〜39歳層、40歳以上の年齢層いずれも「社会に貢
  献したい」とする者の割合がたく、子育ての負担が軽くなる年齢層では、社会貢
  献や、知識や経験を活かし自己実現を図るために就職したいという者が多くなっ
  ている。
 
  (第2−9図 働きたい理由(無業再就職希望者/複数回答))
 
 
   「今は働けないが、そのうちできれば働きたい」者が、就業が可能となる状況
  は年齢層によって差がみられ、30歳代前半の頃は、子供の保育態勢が整うか、子
  供が小学校に入学したら働く心づもりでいるが、いざ子供が小学校に入学した後、
  つまり30歳代後半になると、子供が小学校高学年になってからや中学校に入学し
  てからと考える者が多くなり、子供の成長につれ、自らの就業を先送りしている
  かのようにもみえる。
   一方、40歳以上では、再就職に当たって専門知識や資格の習得の必要性を挙げ
  る者が多い。子育てに長期間専念し、離職期間が長くなれば、従前習得していた
  就業に必要な知識経験が通用しなくなることの表れともみることができるが、能
  力開発への意欲の高さなど前向きな姿勢が窺われる。
 
  (第2−10図 就業が可能となる状況
             (無業再就職希望−そのうち働きたい−者/複数回答))
 
 
   現実に再就職に向けて行っている準備としては、いずれの年齢層でも「新聞広
  告・チラシ・店頭募集などに気をつけている」が4割を超えているが、30歳代で
  は「特に何も準備をしていない」者が多くなっており、子育て負担の重さが窺わ
  れる。子育て負担が軽減される40歳以上ではワープロ等のほか「自宅で専門の勉
  強」」、「仕事に関する雑誌や本を読む」、「専門学校や各種学校へ通った」が
  それぞれ1〜2割で他の年齢層よりも比較的高くなっており、専門知識や資格を
  身につけたら働きたいとする考えがそのまま表れている。
 
  (第2−11図 再就職に向けた準備(無業再就職希望者/複数回答))
 
 
   当面希望する就業形態としては、30〜34歳では正社員希望とパート希望が拮抗
  しているが、35歳以上になるとパート希望が多くなる。子供のいる者では、パー
  トが45.6%、正社員が22.3%とパート希望者が倍となっており、仕事と家庭の両
  立を考慮していることが窺われる。しかしながら、長期的にみて希望する就業形
  態としては、「正社員でずっと働き続けられる勤め先に再就職したい」者に、当
  面はパートだが、将来的には正社員志向である者を合計した正社員志向の割合は、
  30〜34歳では48.8%と半数近く、35〜39歳では41.5%、40歳以上でも36.0%を占
  めており、正社員志向の高いことがわかる。
 
  (第2−12図 当面、希望する就業形態(無業再就職希望者))
 
  (第2−13図 長期的にみて希望する就業形態(無業再就職希望者))
 
  
   就業希望者が新しい仕事を選ぶ場合に最も重視することとしては、「仕事内容
  」と「勤務時間帯が都合がよいこと」の2つが大きな割合を占めているが、後者
  に「土日に休めること」や「休暇がとりやすいこと」など勤務時間の柔軟性にか
  かるものを加えてみると、30歳以上の年齢層は勤務時間を重視しているが、40歳
  以上では仕事内容重視のウエイトが相対的に高まっている。
 
  (第2−14図 仕事を選ぶ場合、最も重視すること
                       (無業再就職希望者/複数回答))
 
  
   ところで、再就職を希望しているが、将来希望する条件の仕事への再就職が無
  理と答えた者は19.8%で、その理由として、「不況で就職口そのものがない」も
  多い(50.6%)が、「年齢制限があるから」が72.2%で最も多い。特に、35〜39
  歳(81.8%)、40歳以上(72.4%)の者が、年齢制限が女性の再就職にとってか
  なり厳しい条件になっているとしている。このほか、「勤務時間や出勤日が希望
  と合わない」、「必要な資格や免許を持っていない」、「仕事に関する能力や経
  験がない」、「自分の適性、条件にある仕事がない」ことが再就職が無理と考え
  る理由として挙げられており、年齢制限という企業側の問題以外に、仕事と家庭
  の両立を可能とする働き方を希望したり、再就職に当たって能力開発が必要と考
  える者が多いことが窺われる。
 
  (第2−15図 再就職が無理と考える理由(複数回答))
 
   一方、求人が充足しなかった企業において年齢制限を設けているのは83.9%で、
  その上限年齢は全職種平均で37.3歳、最も低いのは一般事務の32.3歳であるが、
  女性の場合はそれが足かせとなっているといえる。企業にとっても、やる気のあ
  る、職業能力のある人材を求めるのであれば、年齢制限を設けることはその障害
  になるものと考えられる。〔ポイントU−4(1)〕
 
(2)就業を希望しない者の意識
   無業者のうち就業を希望しない者は5人に1人あり、年齢が高くなるにつれて
  増加し、35〜39歳では19.5%、40歳以上では39.0%となっている。
   就業を希望しない理由としては、「家事・育児のために時間を使いたい」を挙
  げる者が、育児負担が最も重いと考えられる30〜34歳で8割近くと高い。また、
  「自分の趣味や勉強のために時間を使いたい」とする者は30歳代では4〜5割で
  あるが、40歳以上では8割近くことが特徴的である。一方、常勤・パートを問わ
  ず「働きたいと思う仕事がない」とする者も35〜39歳では4人に1人にも達して
  おり、40歳以上でも19.5%いる。〔ポイントU−4(2)〕
 
  (第2−16図 就業を希望しない理由(無業者/複数回答))
 
  
(3)対応策
  イ 職業能力の開発等−インターネット活用による情報提供の整備、ビジネスキ
   ャリア制度の周知・推進−
    大卒女性はスペシャリスト志向が強く、ほとんどが就業経験もあり、潜在的
   には高い職業能力を持ちうることから、その意欲と適性に応じて再就職のため
   の情報提供や職業能力の向上を支援することが重要である。
    このため、行政としては、例えば、自宅でインターネットを活用し、再就職
   準備に向けた自己診断や当人に適した雇用分野の職業情報の提供を受けること
   ができるシステムの整備、ホワイトカラーの職業能力の習得を支援するビジネ
   スキャリア制度の周知・推進などが必要である。
    さらには、専門的な知識を高め、能力開発を要望する者に対する再教育の場
   としての、大学への社会人入学の推進も望まれる。
   〔ポイントU−4(3)イ〕

  ロ 柔軟な働き方への転換−年齢制限の緩和・解消、正社員の短時間勤務等−
    企業においては、男女を問わず労働市場への再参入を阻害している大きな要
   因である求人の年齢制限についてその緩和・解消を図るとともに、勤務時間を
   重視する再就業希望の女性のニーズに対応した、フレックスタイム制、短時間
   勤務制度などの本格的活用の方法を普及していくことも必要である。
    また、行政としては、人材の有効活用等の観点から求人の際に年齢制限の緩
   和を図ることが望ましい旨の発言を行うことが重要である。
   〔ポイントU−4(3)ロ〕
    また、子供が小さい間は自宅での仕事をする者も少なくないことから、在宅
   ワークが良好な働き方となるよう、健全な発展を図る必要がある。

  ハ 女性の就労にかかる諸制度の周知−税制、社会保険制度−
    就労することに伴い、税や社会保険料の支払い義務が生じるため、就業調整
   を行われる実態もみられる。これらについては、個人の選択に対して及ぼす影
   響をできる限り中立的なものとするという視点にも配慮し、検討されるべきも
   のであるが、中には制度の誤解による就業調整の例もみられることから、併せ
   て現行制度について周知を図ることが必要である。〔ポイントU−4(3)ハ〕


5 まとめ
 
  大卒女性が就業を継続、あるいは、結婚、出産・育児後再就業できるようになる
 ことは、女性にとっては自分のワークスタイルの選択の可能性を広げるとともに、
 企業にとっては潜在能力の高い労働力を活用できることになり、少子化時代の労働
 力確保に大きく寄与するものと思われる。
  今後、前記(3(4)及び4(3))の対応策を企業、行政が一体となって取り組むこ
 とにより、働くことを希望する高学歴の女性がその能力を十分に活かせる社会を実
 現していくことが重要である。

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