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雇用均等政策研究会報告書

〜 変革期における企業の人材活用と個人の働き方の調和を目指して 〜





平 成 1 2 年 2 月




雇用均等政策研究会

(五十音順、敬称略)
阿部 正浩 一橋大学経済研究所助教授
荒木 尚志 東京大学法学部助教授
上田 貴子 筑波大学社会工学系講師
北浦 正行 (財)社会経済生産性本部労働・福祉部長
河野 真理子   (株)キャリアネットワーク常務取締役
冨田 安信 大阪府立大学経済学部教授
西川 真規子 東京大学社会科学研究所助手
   ◎  樋口 美雄 慶應義塾大学商学部教授
○  脇坂 明 学習院大学経済学部教授
        (◎ 座長  ○ 座長代理)
         

目 次


 T はじめに


 U 女性労働の動向

  1 女性労働力の量的変化
  2 女性労働力の質的変化
  3 失業構造の変化
  4 労働力需給の見通し
  5 M字型カーブの変化
  6 労働条件の変化


 V 女性労働に関わる企業と個人の変化

  1 企業の変化
   (1) 企業を取り巻く経済社会の変化
   (2) 多様な人材活用の進展
   (3) 能力業績重視への転換
   (4) コース別雇用管理制度の変化
   (5) 仕事と生活のバランス
   (6) ポジティブ・アクションに対する取組
   (7) 再就職女性の活用

  2 個人の変化
   (1) 就業意識の変化
   (2) ライフスタイルの多様化
   (3) 就業継続の状況の変化
   (4) 再就職の状況の変化
   (5) 就業形態、働き方の多様化
   (6) 家庭責任を取り巻く変化
   (7) 税制、社会保険制度等の影響


 W 政策の方向

  1 実質的な男女均等の実現
  2 企業のポジティブ・アクションの促進
  3 女性のエンパワーメント(力をつけること)
  4 育児・介護など家庭責任との両立支援
  5 働き方の見直し
  6 多様なキャリアパターンの実現
  7 均等・公平を確保するための環境整備
   

T はじめに
   −男女が主体的に働き方を選択し、十分に能力を発揮できる社会の実現に向けた
    課題−

  現在働く人の約4割が女性である。女性が働くことに対する社会一般の考え方、家
 庭のあり方、男女の役割に対する意識、あるいは結婚や子供を持つことに対する意識
 は大きく変わりつつある。女性自身も、「仕事か家庭か」の選択ではなく、「仕事も
 家庭も」という考え方の中で、生涯を通じてそのバランスをいかに図るかを考えるよ
 うになっている。人それぞれ、またライフステージにより、働く理由は様々であろう
 が、女性も男性と同様に、仕事を持ち、働くことを通じた生き甲斐、自己実現、ある
 いは社会貢献を、ごく自然に求めるようになっている。こうした中で、男女が主体的
 に自分に合った働き方を選択でき、十分にその能力を発揮できるようにするために、
 いま何が求められているのか。
  女性労働者を取り巻く状況は、昭和61年の男女雇用機会均等法の施行から平成1
 1年の改正均等法の施行を経て現在までに、大きく変化した。女性労働者に対する社
 会一般の意識、企業の雇用管理の制度面における男女均等取扱いは改善されつつある。
 募集・採用から配置、昇進、退職に至るまで、雇用のあらゆる分野における女性に対
 する差別が禁止され、男女均等確保対策は新たなステージを迎えた。折しも、経済社
 会の急速な変化の中で、企業も性差よりも個人差に着目した雇用管理が、今後の企業
 間競争を勝ち抜くためにも必要な方策であることを認識しはじめている。しかしなが
 ら、足下の実態は、厳しい経済情勢の影響もあり、女子学生の就職問題に象徴される
 ように、必ずしも女性の活用が順調に進んでいるとは言い難い。現下の状況にのみと
 らわれず、近い将来の労働力供給の減少も見通して、今から具体的な取組を進めてい
 くことが、我が国企業の競争力の維持・強化のためにも不可欠である。すなわち、男
 女均等取扱いの推進は、女性にとってのみプラスになるものではなく、企業にとって
 もメリットは大きく、さらに、働き方の選択肢の拡がり、社会全体のパイの拡大に資
 するという点で、男性にとっても得るものは大きいと言える。
  もう一つの重要な課題は、仕事と生活のバランスである。女性労働力は増加してい
 るが、その多くは未婚女性と育児から手の離れた既婚女性が供給源である。0〜3歳
 児を抱える母の就業状況、あるいは30歳台から40歳台前半の既婚女性の就業状況
 については、自営、家族従業者から雇用者へのシフトはみられるものの、トータルで
 みるとここ10数年大きな変化はみられない。他方、核家族化や高齢化に伴う要介護
 者の増加などにより、男女を問わず働きながら一個人の担う育児・介護などの負担は
 今後否応なく増大することが見込まれる。そうした様々な家庭・生活事情に対して、
 企業あるいは社会全体として、いかなる配慮、サポートをしていくことが求められる
 のか、それにより企業、社会全体として得られるメリットも考慮しながら検討すべき
 課題である。
  さらに、働くことに対する価値観、働き方も多様化してきている。経済環境が変わ
 り、かつてのように、学校を卒業して就職した会社で勤続し、昇進していくといった
 ビジョンがなかなか持てない中、「会社人間」的な生き方を否定し、プロフェッショ
 ナルを目指したり、あるいはプライベートな生活を重視しようとする傾向も高まって
 いる。今後、ライフスタイルや価値観に応じて、選択するキャリアパターンはますま
 す多様になるであろう。その中で、個人は、それぞれの選択に責任を持ち、自らの能
 力の開発等に努めることが求められると同時に、企業あるいは社会全体としても、個
 人の意欲、能力が十分に発揮でき、適切に処遇されるようなシステム、個人がその選
 択によって不合理な損失を被ることのないようなルールを整えていくことが重要とな
 ろう。特に女性の場合、キャリアパターンは男性以上に多様であり、ライフステージ
 に応じて正社員以外の働き方をする場合も多いことから、異なる働き方の間の処遇・
 労働条件のバランスをどのように考えるかも重要な課題である。
  以下では、こうした問題意識の下、今後、経済社会が転換期を迎える中で、企業の
 雇用管理、個人の就業意識はどのように変化するか、そうした変化が女性の働き方に
 どのような影響を与えるかを展望した上で、今後の政策の方向について考えることと
 する。


   

U 女性労働の動向

 1 女性労働力の量的変化 −増加の大きい女性雇用者数−

   女性の労働力人口は着実に増加しており(2,367万人(S60)→2,755万人(H11))、
  女性労働力率も平成2年以降50%を超える水準で推移している。
   女性労働者の中でも特に増加の大きいのが雇用者であり、平成10年には女性労
  働者の8割が雇用者となっている(67.2%(S60)→80.4%(H11))。同時に、雇用者全
  体に占める女性比率も上昇傾向にあり、約4割を占めるに至っている(35.9%(S60)
  →39.7%(H11))。

   

 2 女性労働力の質的変化 −勤続年数の伸長、高学歴化の進展−

   女性労働者は、量的に増大するのみならず、質的にも変化している。
   女性雇用者の勤続年数は延長される傾向にあり、同一企業における勤続年数が平
  均で8年余り(6.8年(S60)→8.2年(H10))、約3割が10年以上の長期勤続者とな
  っている。
   また、女性雇用者のうち、有配偶者が6割弱を占めており、子供のいる世帯にお
  いても、母親のうち半数以上が就業者である。ただし、末子の年齢が3歳以下の世
  帯の母親についてみると、就業者率は3割弱にとどまっており、この水準は近年変
  化していないことが特徴である。ただし、有配偶女性については、就業者のうち雇
  用者(非農林)の割合が増加傾向にあり(就業者率:50.2%(S60)→48.6%(H11)、雇
  用者率:29.6%(S60)→36.5%(H11))、子の年齢が3歳以下の世帯の母親についても、
  雇用者率でみると上昇傾向がみられる(20.5%(S60)→23.4%(H10))。
   さらに、女性の進学率の高まり、高学歴女性の就職率の上昇を背景に、女性雇用
  者の高学歴化が進んでいる(大卒:4.3%(S60)→9.9%(H10)、高専・短大卒:14.0%
  (S60)→26.7%(H10))。
   就業形態については、一層の多様化が進んでおり、女性雇用者のうち、パートタ
  イム労働者を中心とした非正規雇用者の割合は45%に達している(32.1%(S60)→
  45.2%(H11))。
   また、産業別の女性雇用者の構成比は、「製造業」で大きく減少している一方(
  28.1%(S60)→25.7%(H2)→19.2%(H11))、「サービス業」(30.0%(S60)→30.9%(H2)
  →35.8%(H11))、「卸売・小売業、飲食店、金融・保険業、不動産業」(32.2%(
  S60)→33.4%(H2)→33.9%(H11))などで増加している。職業別には「技能工、製
  造・建設作業者」で大きく減少している一方(22.7%(S60)→20.6%(H2)→15.9%(
  H11))、「事務従事者」(32.8%(S60)→34.4%(H2)→34.2%(H11))、「専門的・技術
  的職業従事者」(13.6%(S60)→13.8%(H2)→15.7%(H11))などで増加している。

   

 3 失業構造の変化 −弱まる女性の「就業意欲喪失効果」−

   経済の動向を受けて、男女とも平成10年以降完全失業率は急速に上昇(2.6%(
  S60)→2.1%(H2)→4.7%(H11))しており、特に非自発的理由による離職失業者が高水
  準となっている。また、新規学卒者の就職についても、近年男女とも厳しい状況に
  あるが、特に女子は、平成11年3月末卒の就職(内定)率は、大卒89.2%、短大
  卒88.4%、高卒91.6%にとどまるなど、男子の大卒93.2%、高卒95.4%と比較しても
  さらに厳しい状況となっている。
   男女別の失業構造に関しては、従来から、女性については、自発的な理由による
  離職に伴う失業のウエイトが大きく、他方男性については、非自発的な理由による
  離職に伴う失業のウエイトが高いという特徴がみられる。これは、女性については、
  結婚、出産・育児期における離転職に伴う失業が多くみられるのに対し、男性につ
  いては、定年退職後の失業が多くみられることが背景となっている。男女の完全失
  業率を比較すると、ここ数年女性が男性を上回る状況にあったが、平成10年には、
  中高年男性の非自発的失業の大幅な増加等の影響で、男性の完全失業率の方が高く
  なっている。
   さらに、女性については、従来より、離職した場合にあきらめて非労働力化する
  という行動パターン(就業意欲喪失効果)がみられ、特に景気後退期にはその効果
  が大きくなる傾向がみられたところであるが、長期的にみて、これが景気後退期も
  含めて全般的に低下する傾向にあり、女性の完全失業率を押し上げる一因となって
  いる。

   


 4 労働力需給の見通し −2005年以降男女とも減少の見込まれる労働力人口−

   15歳以上人口は、1990年から1995年には463万人増加したが、今後2000年から
  2007年にかけては122万人の増加にとどまり、その後2007年から2010年には20万人
  の減少が見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所中位推計(1997年1月))。
  また、生産年齢人口(15-64歳)に対する老年人口(65歳以上)の比率は、1995年の
  20.9%から2000年には25.3%、2010年には34.6%と大幅に上昇することが見込まれ
  ている。
   労働力率については、今後人口構成の変化等により全体としては低下していくこ
  とが見込まれる。ただし、女性について年齢階級別にみると、晩婚化、未婚率の上
  昇などを背景に、ほとんどの年齢層で上昇することが見込まれている。
   こうした人口及び労働力率の見通しによれば、労働力人口は、1999年の6779万人
  から2005年までに約80万人増加し、その後2010年までに約120万人減少するものと
  見込まれる。年齢階級別には、若年層(15-29歳)の大幅な減少が見込まれる一方、
  高年齢層(55歳以上)では大幅な増加が見込まれる。女性については、1999年の
  2755万人から2005年までに約20万人増加し、その後2010年までに約30万人減少する
  ものと見込まれる。

   

 5 M字型カーブの変化 −比較的小幅にとどまる30歳台前半層の上方シフト−

   我が国の女性の年齢階級別の労働力率は、欧米諸国と異なりM字型カーブを描く。
  このM字型カーブの形状は、長期的にみると少しずつ変化しており、M字型の谷は
  昭和50年には25〜29歳であったのが、晩婚化等を背景に、30〜34歳に移動してい
  る。カーブ全体が上方にシフトしてきているが、最近においては、上昇幅は特に
  25-29歳層で大きく(54.1%(S60)→69.7%(H11))、M字型の谷にあたる30-34歳層で
  は比較的小幅(50.6%(S60)→56.7%(H11))にとどまっていることが特徴である。
   年齢階級別の労働力率を未婚・有配偶に分けてみると、M字型はみられず、未婚
  者では谷のない台形型を描くのに対し、有配偶者では30歳台後半から上昇し、40歳
  台後半をピークとして、その後下降する山形を描く。未婚者のカーブは、全体的に
  上方にシフトしており、特に30歳台において上昇幅が大きい。有配偶者では20
  歳台後半と40歳台後半以降の層で上昇しているものの、30歳台から40歳台前
  半の年齢層についてはほとんど変化していない。しかし、雇用者率でみると、有配
  偶者についても全体的に上方シフトしており、自営、家族従事者として働く有配偶
  者が少なくなる一方、雇用者として働く者は多くなっていることが分かる。
   以上のことから、M字型カーブの上方シフトの主要な要因としては、未婚率の上
  昇と、未婚者の労働力率の上昇の両面があることが分かる。

   


 6 労働条件の変化 −いまだに大きい男女間賃金格差−

   平均現金給与総額、平均所定内給与額における男女間格差は、年々縮小傾向(男
  性の所定内給与額100に対する女性の割合:59.6%(S60)→63.9%(H10))にある。こ
  の格差は、職務(職種、職階)、勤続年数、学歴構成が男女間で異なることなどに
  よるところが大きいと考えられるが、近年、女性の勤続年数の伸長により、勤続年
  数の違いが格差に与える影響は徐々に縮小している一方、職階の違いが格差に与え
  る影響はほとんど変わっていない。企業規模別にみると、1,000人以上規模の大企
  業においては、昭和63年以降格差が拡大し、また、その格差は、勤続年数が長く
  なるほど拡大する傾向にある。また、産業別にみると、金融・保険業、次いで製造
  業において格差が大きいが、特に金融・保険業においては、近年格差が拡大傾向に
  あることが特徴的である。なお、我が国の男女間賃金格差は、管理職への登用が少
  ないなど女性の能力発揮の場が十分でないこと等を反映し、欧州諸国と比べると未
  だ大きくなっている。
   また、女性のパートタイム労働者と一般労働者の時間あたり賃金の格差は、平成
  10年にはやや縮小したものの、近年拡大傾向にある。これは、勤続に伴う賃金の
  上昇程度がパートと一般の間では大きく異なり、一般、パートともに勤続年数が長
  くなる傾向にあることが格差を拡大させる方向へはたらいていること、いわゆるパ
  ートの就業調整の問題が労使双方の賃金引き上げに対するインセンティブを下げて
  いることなどによるものと考えられる。
   労働時間については、労働者一人平均年間総実労働時間は男女とも着実に減少
  (女性労働者一人平均の年間総実労働時間(毎勤):1950時間(S60)→1692時間(
  H10))している。特に、女性労働者の労働時間の短縮については、フルタイム労働
  者の労働時間の短縮に加え、パートタイム労働者の増加の影響もあるものと考えら
  れる。

   


V 女性労働に関わる企業と個人の変化

 1 企業の変化

  (1) 企業を取り巻く経済社会の変化 −低成長下で進む企業の経営変革−

    我が国の経済社会は現在大きな転換期に当たっている。経済は成熟期を迎え、
   今後の経済成長については、中長期的にバブル崩壊前のような高い実質経済成長
   率を期待することはできない状況にある。また、技術革新、中でもコンピュータ、
   データ通信等の情報技術の導入・活用による情報化の進展、経済社会のグローバ
   ル化、規制改革の推進は、我が国の産業構造を変化させるとともに、国際競争を
   激化させることが見込まれている。さらに、我が国の高齢化は世界に例を見ない
   速度で急速に進むと同時に、出生率の継続的な低下による少子化も進行しており、
   今後10年のうちに人口が減少に転じることが見込まれている。
    このような構造的な変化に加え、平成9年度、10年度の実質経済成長率は2
   年連続でマイナス成長となるなど景気は低迷し、11年度に入ってからは緩やか
   に改善しているが、雇用情勢は依然厳しい状況が続いている。こうした中で、企
   業においては、経営の効率化、事業環境の変化への機動的対応、競争力の強化な
   どを目指して、長期継続雇用型の労働者だけでなく、中途採用や派遣・契約社員
   などの多様な人材を活用しようとする動きがみられるとともに、人事・処遇制度
   を年功重視から能力業績重視の方向へ見直す動きもみられる。
    現下の経済情勢は、男女労働者の均等取扱いの推進にとっても厳しい環境とな
   っている。昭和61年に男女雇用機会均等法が施行されて以来十数年が経過し、
   社会一般あるいは企業の女性労働者に対する意識は大きく変化した。企業におけ
   る雇用管理についても、制度の面での男女均等取扱いは徐々に浸透してきており、
   また、募集、採用、配置、昇進から退職に至るまでのすべての段階における女性
   への差別取扱いを禁止した改正均等法が平成11年4月に施行された後は、求人
   (募集)は男女不問に切り替わるとともに、深夜の時間帯を含む交替制勤務への
   女性の配置など職域拡大もみられる。しかしながら、現下の厳しい経済情勢の下
   で、依然として採用選考の段階で女子学生に不利な取扱いがみられ、また、管理
   職に就く女性の比率が、中小企業を中心に、足踏みあるいはやや後退の動きもみ
   られるほか、女性であること又は妊娠・出産等を理由とした解雇がみられるなど、
   実態面の課題は多い。
    また、産業構造の変化や情報化、技術革新等に伴い、単純、定型的業務が縮小
   傾向にある中で、事務職に対する求人は、他の職種に対する求人に比べ落ち込み
   の度合いが大きくなっている。これは、女子学生をはじめとする女性の求職ニー
   ズとして事務職志向が強いこととのミスマッチを拡大させ、一層女性の就職を厳
   しくするものとなっている。さらに、一部の企業においては、事務部門をアウト
   ソーシングする動きや、従来、一般職が行っていた業務を派遣労働者に代替させ
   る動きもみられるところである。


  (2) 多様な人材活用の進展 −キャリアコース、就業形態の多様化−

    企業においては、国際競争の激化、産業構造の変化、景気変動の振幅の拡大や
   長期化等に対応し、長期継続雇用型の労働者だけでなく、仕事内容に応じて、中
   途採用、派遣・契約社員など多様なタイプの人材を活用しようとする動き(人材
   のポートフォリオ化)がみられる。また、長期継続雇用型のコア人材については、
   できる限り少数精鋭化しようとする動きがみられるとともに、正社員としてのキ
   ャリアコースもジェネラリスト型だけでなく、専門能力の育成により重点を置い
   たスペシャリスト型のコースへの多様化が進んでいる。
    このような長期継続雇用型以外の人材をも活用しようとする動きや正社員のキ
   ャリアコースの多様化は、女性の働き方の選択肢を拡げる点でプラスの評価がで
   きる。他方、少数精鋭化されるコア人材とそれ以外との労働条件面での格差が拡
   がることにより、女性が相対的に良好な就業の場から排除されてしまう懸念もあ
   る。アメリカにおいては、女性やマイノリティなどを含めた多様な人材をその意
   欲、能力に応じて活用していくための、diversity managementと呼ばれる個別管
   理の手法が近年拡がりをみせており、我が国においても、職種や職務を基礎にし
   つつ、個別評価を強化した雇用管理の手法を導入しようとする企業も出てきてい
   る。
    同時に、経営の合理化等を図るため、単純・定型的な業務を中心に、パートタ
   イム労働者などの労働者へ切り替えようとする動きも一部みられる。そうした雇
   用・就業形態の多様化も女性の選択肢の拡大にはつながるが、これらの労働者の
   間の処遇、労働条件等について、均衡を失することのないよう留意が必要である。
   一方で、専門知識を活かして相応な処遇を受けるパートタイム労働者や、正社員
   の短時間勤務を導入する例も出てきており、これは良好な選択肢として評価でき
   る。
    また、様々なタイプの労働者が同じ職場内で働く場合、就業管理の煩雑化、集
   団凝縮力の希薄化、あるいは労働者間のコミュニケーションが困難になるなどの
   課題が生ずることが考えられることから、これらの課題に対し適切に対応するこ
   とが重要となってきている。


  (3) 能力業績重視への転換
            −賃金、配置・昇進等にみられる能力、業績・成果の重視−

    同時に、企業においては、従来の年功重視から能力業績重視へと人事・処遇制
   度の見直しが進んでいる。
    賃金については、年功的要素を軽減し、職務遂行能力、職務内容又は業績・成
   果の加味を大きくする傾向がみられる。我が国においては、職能資格制度に基づ
   く職能給が一般的にみられるが、職務遂行能力をより的確に把握しようとする動
   きや、仕事内容又は業績・成果に対応する部分を増やしていこうとする動きがみ
   られる。
    また、人事配置、人材育成等に関しては、従来は、配置転換、転勤等を経験さ
   せながらジェネラリストとして育成する人事管理が一般的で、そうした経験が一
   律に昇進要件とされる例もみられたが、現在は、事業展開に必要な高い専門能力
   を持つプロフェッショナルの確保、育成を重視する傾向がみられる。また、人事
   配置も、職務ごとに必要な能力、経験等をより個別具体的に洗い出し、個々の労
   働者の能力、適性等に照らして行おうとする傾向がみられる。職務ごとに必要と
   される能力の明示や社内公募制の導入を行う企業もみられる。
    このような能力業績重視の雇用管理が進めば、性差よりも個人差に重点を置い
   た処遇が浸透していくことが見込まれ、これは男女均等取扱いの推進に対しては
   好ましい影響を与えると考えられる。その際、能力業績重視の雇用管理を真の男
   女均等取扱いに結びつけるためには、能力業績評価や人事配置の基準、手続きの
   公平化、透明化を進めることも重要となってくる。


  (4) コース別雇用管理制度の変化 −問われるコース区分や処遇の合理性−

    コース別雇用管理制度は、均等法施行前後に、それまでの男女別の雇用管理制
   度を改め、総合職、一般職のコースを設定し、コースごとの処遇を行うシステム
   として、金融機関を中心に導入されたものである。労働省では、平成3年に「コ
   ース別雇用管理の望ましいあり方」を公表し、コースの定義と運用方法の明確化、
   各コースが男女ともに開かれていること、コース間の転換を認める制度を柔軟に
   設定すること、各コースにおける男女公平な採用、選考、雇用管理の実施等を望
   ましいあり方として示したところである。
    コース別雇用管理制度は、その後大企業を中心に導入が進み、最近においては
   中小企業へも拡大をみせている。コース別雇用管理制度の導入により、基幹業務
   を担い、将来の管理職候補となる総合職として女性が採用され始め、また、従来
   補助的業務に従事していた女性についても、転換制度等により、職域を拡大させ
   たり、昇進する女性があらわれる等企業における女性登用の一つの契機となった
   と考えられる。
    一方、制度の運用において男女異なる取扱いがなされたり、固定的役割分担意
   識等から総合職のほとんどを男性が占め、一般職が女性のみとなっているなど、
   事実上の男女別の雇用管理として機能している事例も多くみられる。総合職女性
   の意識としては、責任ある仕事が与えられているかどうかについての満足度につ
   いてはばらつきがみられるが、将来の昇進・昇格への展望については不満に感じ
   る人が多く、将来展望のないことが、出産、育児等家庭責任と合わせ、総合職女
   性の退職につながっているという指摘もみられる。
    さらに、一般職の勤続年数が長期化する中で、その積極的活用が大きな課題と
   なるとともに、コース区分の合理性や、コース間の処遇の格差について、本人が
   納得できないとする事例も多々みられる。
    こうした中で、コース別雇用管理制度を廃止し、個別評価を強化しつつ職種や
   職務を基礎とした人事制度に見直す企業も出てきている。


  (5) 仕事と生活のバランス −個人の生活・家庭事情への配慮の高まり−

    共働き世帯の増加、核家族化の進行、高齢化に伴う要介護者の増加等により、
   男女を問わず仕事をしながら一個人が担わなければならない育児や介護の負担は
   今後ますます増大することが見込まれる。労働者の意識としても、趣味や交際、
   自己啓発、地域での活動などの仕事以外の生活を重視しようとする傾向がみられ、
   大企業労働者の中にも、海外駐在を拒むケースや、転勤を嫌って転職するケース
   などが出てきている。このように様々な生活・家庭事情を有する労働者が増加す
   る中で、企業においても、必要な人材の確保・維持を図るために、例えば、地域
   限定社員の制度や配偶者の転勤に伴う休職制度を導入するなど、労働者のキャリ
   アプランのみならず、ライフプランにも配慮した雇用管理を行う動きがみられる。
    また、経営者団体からも、少子化の進行による労働力人口の減少の中では、多
   様な人的資源の確保と有効活用のため、柔軟な勤務体系や、異動、配置転換、転
   勤制度の運用に際しての家族事情への配慮が必要であるとの提言が出されている。


  (6) ポジティブ・アクションに対する取組
             −経営合理性からも求められるポジティブ・アクション−

    前にみたとおり、男女雇用機会均等法の制定以降、女性労働者に対する社会一
   般の意識や、企業の雇用管理の制度面における男女均等取扱いには改善がみられ
   たが、実態面においては、女子学生の就職問題や女性の管理職の登用など、まだ
   まだ課題が残されている。
    こうした課題の背景には、従来の慣行や固定的な意識に根ざした雇用管理が、
   見直されないまま繰り返されている実態があるのではないかと考えられる。一方、
   グローバルな事業展開が進んでいる業界等を中心として、経営合理性の追求、国
   際的スタンダードへの配慮等を背景に、女性の積極的活用に対する企業の問題意
   識は高まっており、女性の能力活用の障害となる問題点の分析・検討、具体的取
   組計画の策定、女性の割合の増加、女性の離職率低減などの目標の設定、女性の
   管理職登用を進めるための人事考課基準の明確化などの取組がみられるようにな
   ってきた。
    今後、能力業績重視の雇用管理が進めば、次第にこうした先進的な取組が拡が
   り、事実上の格差も解消されていくものと考えられるが、できる限り早急な事態
   の改善を図るためには、まず企業トップはじめ関係者に対し女性の置かれている
   現状について十分な理解を促し、問題点について認識を深めた上で、具体的な取
   組を促進していくことが重要となっている。


  (7) 再就職女性の活用 −活かしきれていない再就職女性の能力−

    今後、企業の採用戦略においては、環境変化への機動的対応のため、即戦力と
   なる中途採用に対するニーズは増大する見込みである。
    女性については結婚・出産等をきっかけとして一旦退職し、育児から手が離れ
   た後に再び就業するというパターンを希望する者が多く、企業の再就職女性の活
   用方針は、女性の能力発揮にとって重要な要因となっているが、現状においては、
   定型的な職務、アシスタント的な職務、上司の指示どおりで責任の問われない職
   務などでの活用が多くなっている。
    しかしながら、今後については、企画の職務、高度な判断を必要とする職務な
   どに活用したいとする企業も少なくない。また、時間的制約がある者について、
   専門的、管理的な分野で、短時間勤務として活用するといった事例もでてきてい
   る。
    就業形態、キャリアパターンの多様化に伴い、今後ますます様々なバックグラ
   ウンドを有する女性が再就職市場に参入してくることが見込まれるが、再就職女
   性に対する就業の場としてはまだまだパートタイム労働者など非正規社員で単
   純・定型的な職務に就く以外の選択肢が少なく、女性の能力を活かしきれていな
   い。特に高学歴女性においては希望する仕事内容と求人のミスマッチが言われて
   いる。一方で、女性のエンパワーメントに対する企業のニーズも高いことから、
   労働市場から退出している間の職業能力の維持向上、再訓練などの条件が整えら
   れれば、企業においては、さらに再就職女性の本格的活用が進むものと見込まれ
   る。

   

 2 個人の変化

  (1) 就業意識の変化 −若年者を中心とした転職志向の高まり−

    経済社会の変化や企業における雇用管理の変化等を受けて、労働者の就業意識
   も徐々に変化している。転職希望については、景気や労働力需給の状況によって
   大きく左右されるが、傾向的に高まっており、特に若年層で割合が高く上昇幅も
   大きい。
    また、若年層を中心として一つの会社に長く勤め続けようとする意識が弱まり、
   多様な働き方を希望する者が増え、また、専門家志向の強まりがみられる。働く
   目的については、所得獲得を挙げる者が最も多いものの、その割合は減少してい
   る。さらに、職業選択の際に、従来のように昇進の見込みや賃金、労働時間等だ
   けでなく、自己能力発揮の可能性及びその結果としての仕事への充実感が重要視
   されている。
    また、男女問わず、いわゆるフリーターや学校卒業後就職も進学もしない者が
   増加傾向にある(図表40、41)。後者の増加については、最近の雇用情勢の影響
   に加え、自分の希望に沿った仕事をしたいという志向の高まりを反映したものと
   も考えられる一方で、若年期において、職業生涯を通じてベースとなる職業意識、
   能力の形成が十分に行われなくなることも懸念されている。


  (2) ライフスタイルの多様化 −晩婚化、生涯未婚率の上昇−

    結婚又は出産をするかしないか、あるいはいつ結婚又は出産をするか等、女性
   が自らのライフスタイルを主体的に選択することについて、社会一般の意識は改
   善しつつある。結婚、出産あるいは家族構成について、標準的なスタイルを考え
   ることはもはやむずかしくなっている。
    選択肢が広がる中で、仕事とのバランス等を考慮に入れながら、自らのライフ
   スタイルを決定する女性も増えている。そうした中で、仕事と家庭との両立がな
   かなか図りにくいこともあって、全体的には、晩婚化、生涯未婚率の上昇、子供
   を持たない者の増加などの傾向とともに、女性の労働力供給の増大がみられる。


  (3) 就業継続の状況の変化 −増加する継続就業型の志向−

    女性が働くことに対する考え方をみると、「子どもができてもずっと職業を続
   ける方がよい」とする考え方(「継続就業」型)が近年増加しているものの、最
   も多いのは「子どもができたら職業をやめ大きくなったら再び持つ方がよい」と
   する考え方(「再就職」型)となっている。どの年齢層においても、継続就業型
   の考え方は増加しているが、特に30歳台、40歳台の女性において継続就業型
   が大幅に増加していることが特徴となっている。実際の就業パターンとしては、
   再就職型が大半であった年齢層において、逆に継続就業型を望ましいとする割合
   が高いことは、現実に再就職する際の困難さや、継続就業に比べた処遇面での不
   利益の実態などを背景としたものではないかと推察できる。
    結婚、出産又は育児を理由とした退職は、全体として減少傾向にあるものとみ
   られる。ただし、出産又は育児を理由とした退職は、それほど変化していないも
   のとみられる。また、結婚、出産・育児を機に仕事をやめた理由についてみると、
   「時間的、体力的に困難」、「もともと退職するつもり」、「仕事に魅力がなか
   った」の順に多くなっている。
    こうしたことから、女性の就業継続については、入職時の就業意識に加え、仕
   事と生活のバランス、結婚・出産時までの仕事に対する満足度、将来の仕事に対
   する期待度などの影響が大きく、就業継続の促進のためには、長期的なキャリア
   展望を持つこと、及びそれを可能とする環境の整備が重要な要因となるものと考
   えられる。


  (4) 再就職の状況の変化 −現実には依然として多い再就職型の選択−

    女性の就業パターンとしては、依然として再就職型の希望が多いが、現実に一
   旦退職した女性に働けるようになる状況をきくと、子供が一定の成長段階に達す
   ること、働くことに夫や家族の理解が得られることなどを挙げる者が多い。一方、
   再就職に当たっての問題点としては、家庭生活と両立できる雇用管理実施企業が
   少ない、子育て・介護の支援施設が少ない、再就職女性が能力を活かせる場が少
   ないなどを挙げる者が多くなっている。
    なお、0〜3歳の子供のいる世帯の母の就業率は、10数年前と比較しても上
   昇していない。また、有配偶者の30歳台から40歳台前半の労働力率も上昇し
   ておらず、乳幼児期を中心とする育児期のサポートのあり方が重要な要因と考え
   られる。
    再就職の仕事を選ぶ際には、都合のよい勤務時間帯であるかどうかを重視する
   人が最も多く、次いで土日に休めること、仕事内容が自分の望むものであるかど
   うかを基準に置く人が多くなっている。中でも高学歴の女性については、仕事内
   容を重視する者が多いことが特徴となっている。就業形態についてみると、再就
   職を希望する女性については、正社員希望は少数で、パート、アルバイト希望が
   多数となっている。
    大学・大学院卒の女性については、従来、結婚・出産・育児期に就業率が低く
   なった後、再びあまり上昇しない傾向がみられたが、最近では就業率がやや上昇
   してきている。大卒女性の割合が上昇する中で、大卒一般職女性が増加するなど、
   大卒女性の就業行動パターン、希望する仕事内容等が多様になっていること、景
   気低迷による夫の所得の伸び悩み等が影響しているのではないかと考えられる。


  (5) 就業形態、働き方の多様化
           −拡がる就業分野、パート・派遣等の非正規型労働者の増加−

    近年、男女ともに、パートタイム労働をはじめとする非正規型の就業形態で働
   く労働者の割合が増加する傾向にあるが、特に女性労働者については大きく増加
   している。年齢別には、20歳台においては、7割を超える女性労働者が正社員
   として働いているのに対し、30歳台に入ると徐々にパートタイム労働者が増え、
   30歳台後半以降はパートタイム労働者が4割程度、正社員・役員が5割程度と
   なっている。また派遣労働者については、全体に占める割合はわずかではあるが、
   20歳台後半から30歳台前半にかけてその割合が高い。
    パートタイム労働、派遣労働等への就業等女性労働者の就業形態の多様化を促
   している要因としては、「家計の補助・学費を得るため」と併せて、「自分の都
   合のよい時間に働ける」、「勤務時間や日数を短くしたい」といった女性の時間
   に対する選好の強さが挙げられる。これは、女性が家庭責任を多く担っている現
   状において、生活とのバランスを重視する傾向が高いことを示している。派遣労
   働者、契約社員については、「専門的な資格・技能が活かせる」という積極的な
   理由も多くなっている一方、「正社員として働ける会社がなかった」という消極
   的な理由もみられ、また、他の就業形態に変わりたいとするものも比較的多い。
   このようにパートタイム労働や派遣労働等への就業形態の多様化は、時間選好の
   強い女性労働者のニーズに合った働き方を可能としている一方で、正社員として
   働けないためにやむを得ずそうした働き方をしている女性が、派遣労働者や契約
   社員についても少なくないことに留意が必要である。
    また、在宅ワーク、契約労働、テレワーク、起業、NPOにおける就業などの新
   たな働き方も拡がりつつある。
    さらに、女性の職業生涯を考えた場合、ライフスタイルに応じて、一つの企業
   で継続して働く、一旦労働市場から退出した後パートタイム労働者として働く、
   転職しながら時々のニーズに合った就業形態で働く、起業するなど、男性以上に
   様々なキャリアパターンをとる可能性がある。また、職業選択において、女性向
   きと言われる職業にとらわれず、新たな分野にチャレンジしようとする女性や、
   専攻分野として、社会科学、理工系を選択する女性も増えてきている。そうした
   中で、自分の希望する仕事への就職、転職、キャリアアップを目指して、資格取
   得、講習・研修の受講、スクーリング、留学など、学習に対する女性の意欲は高
   まっているものとみられる。


  (6) 家庭責任を取り巻く変化 −男女ともに重くなる育児、介護などの負担−

    前にみたとおり、核家族化の進行、高齢化に伴う要介護者の増加等により、男
   女を問わず働きながら一個人が担わなければならない育児や介護などの負担は今
   後ますます増大することが見込まれる。そうした中で、男性についても生活との
   バランスに対する意識の変化はみられはじめており、今後は、男女労働者とも生
   涯を見通してキャリアプランと同時にライフプランを考えるようになるものと考
   えられる。
    しかしながら、現状においては、まだまだ妻に多くの家事負担がかかっている。
   夫の家事関連時間は妻の有業、無業を問わずきわめて短い。若い世代については、
   わずかながら夫の家事関連時間が長くなる傾向にあるものの、共働きの妻の「仕
   事」時間と「家事関連」時間の合計時間は、夫や専業主婦と比べても長い。
    現在、男性の家事・育児等の負担が少ない背景には、労働時間の長さや、職場
   優先の企業風土、長く職場にいることが評価されるような職場の雰囲気、働き方
   の問題があることにも留意が必要である。
    実際に育児・介護を行う労働者が希望する支援としては、育児については、保
   育施設の時間延長、休日保育、子どもの疾病時の対応、保育に要する経費等の援
   助、保育施設の整備・拡充、勤務時間についての配慮が多く、また、介護につい
   ては、短期的な病気の家族の看護のための休暇制度、フレックスタイム制度、介
   護サービスにかかる費用の助成等が多い。


  (7) 税制、社会保険制度等の影響 −個人の就業選択に与える中立的でない影響−

    個々の労働者が性別にかかわらず主体的に職業を選択できるようにすることは
   重要な課題であるが、税制、社会保障制度、賃金制度等の諸制度・慣行の中には、
   個人の就業選択に対して中立でない影響を与えているものもあるものと考えられ
   る。
    特にパートタイム労働者についてはいわゆる就業調整の問題も指摘されている。
   所得税に関しては、かつて非課税限度額103万円を超えると本人の収入に対す
   る課税に加え夫の配偶者控除が受けられなくなることにより、家族全体の手取り
   所得が逆に減少するといういわゆる逆転現象がみられたが、この点については、
   昭和62年に導入された配偶者特別控除の導入により解消されている。しかしな
   がら、この結果、年間70万円未満の低収入の主婦の夫に対しては配偶者控除と
   配偶者特別控除の最高額の控除を認めることとなり、専業主婦や短時間しか働か
   ないパートタイム労働者の就業意欲を抑制する効果も否定できない。
    年金保険や医療保険という社会保険制度については、年収130万円という被
   扶養者認定基準を超えると保険料の徴収によりかえって手取り所得が減少すると
   いう逆転現象が生じるとともに、事業主の保険料負担も生じる。
    また、多くの企業において、配偶者手当制度が設けられているが、支給要件と
   して配偶者の所得制限がある場合が約半数であり、これにより逆転現象が生じて
   いる場合もある。
    実際に、パートタイム労働者のうち、3割強が税金、社会保険料、配偶者手当
   を考慮し、年収が一定限度額にとどまるよう就業調整を行っており、この割合は
   近年上昇している。また、配偶者手当については、制度を有する企業の割合は近
   年8割弱で推移しているが、そのうち支給制限を設けている企業の割合は約半数
   でこれは近年増加している。支給制限の要件としては、配偶者の年間所得額につ
   いて、配偶者控除を受けられる上限の103万円とする企業が大多数であるが、
   最近では社会保険の被扶養者認定基準の130万円とする企業も増えている。な
   お、配偶者手当については、処遇、人事制度が能力業績重視へと見直される中で、
   生活給的な意味合いの強いものとして廃止する企業の例もみられる。
    さらに、年金制度において、いわゆる第3号被保険者は保険料が免除されてい
   ることについて、異なる世帯形態間の公平性や、年金制度の個人単位化の観点か
   らの議論があるように、税制、社会保障制度については、個人の就業選択に対す
   る影響を中立的なものにするという視点にも配慮した見直しが議論となっている。


   

W 政策の方向

  以上、マクロにおける女性労働の現状と、企業の雇用管理、個人の就業意識の変化
 についてみてきた。
  企業においては、経済の成熟化、グローバル化、技術革新の進展などに伴い、厳し
 い経済環境を生き抜くための雇用管理のあり方を模索している。また、個人について
 は、今後の少子高齢化の中で、男女労働者とも生涯に担わなければならない育児・介
 護などの負担は増大することが見込まれ、また仕事以外の生活を重視する傾向がみら
 れる中で、価値観、ライフスタイルに合った柔軟な働き方が求められるようになって
 いる。
  こうした企業が雇用管理を変えようとする動きと、個人が働き方を変えようとする
 動きは、相矛盾するものではなく、一定の条件を整えることにより、双方が望ましい
 方向へ進む途があるものと考えられる。特に、労働力供給の減少が目前に迫っている
 ことを考えれば、条件整備を促進すべく、そのための政策に着手する必要がある。
  企業、個人の動き及び双方が望ましい方向へ進むための条件としては、雇用機会の
 確保を図ることとともに、次の事項を挙げることができる。

  @ 性差ではなく個人の能力に基づく雇用管理を行うことが、個人の能力発揮の促
   進のみならず、企業の競争力強化、効率的経営の推進の観点からも求められてい
   ること、
    その際、性別にとらわれない雇用管理のあり方について納得性、公平性を得る
   ためのルールづくりを行うとともに、能力により処遇が決まるという雇用管理が
   主流となることを前提として、個人のエンプロイアビリティを高める仕組みが必
   要であること

  A 仕事と生活のバランスに配慮することは、個人の家庭責任の増大や仕事以外の
   活動を重視する傾向に合致すると同時に、企業にとっても必要な人材の確保・維
   持を図るために、労働者のキャリアプランのみならず、ライフプランにも配慮し
   た雇用管理が必要であることが認識されはじめていること、
    その際、今後は、男女ともに様々な生活・家庭事情を有するようになることを
   前提とし、そうした労働者が最大限に能力を発揮できる社会システムを、個人、
   企業、及び社会全体が応分にコスト負担をする仕組みと併せて、構築することが
   必要であること

  B 雇用・就業形態の多様化は、個人のキャリアパターンの選択肢を拡げるととと
   もに、企業にとっても事業に必要な様々なタイプの人材を適材適所により活用す
   ることを可能とすること、
    その際、正規型と非正規型の労働者の二極分化が生じないよう、働き方に応じ
   て、適切な評価、処遇を受けられる環境を整えるとともに、個人の選択によって
   不合理な不利益を被ることのないようなルールをつくっていくことが必要である
  こと

  こうした条件を整備し、企業、個人双方のニーズを満たしていくことは、とりもな
 おさず、女性が働きやすく、能力を発揮しやすい社会をつくることであり、また、今
 後さらに増加の見込まれる様々な価値観、ライフスタイル、家庭・生活事情等を有す
 るすべての人々にとって働きやすい社会をつくることと言っても過言ではない。さら
 に、今後、少子・高齢化の進行により、労働力人口の減少が見込まれる中で、我が国
 経済の持続的発展や国民全体が豊かで質の高い生活を享受することを可能とすること
 でもある。
  以下では、これらの課題に対する政策の基本的方向について考えることとする。

   


 1 実質的な男女均等の実現 −性別にとらわれない人事管理の徹底−

   経済環境の変化により国際競争が激化するとともに、人口構成が変化する中で、
  我が国企業の競争力を高めていくためには、能力業績重視への転換、性別、年齢に
  とらわれない人材活用が不可欠となっている。企業においては、改正均等法の施行
  に伴い、雇用管理制度については男女均等なものへと見直しが進んだが、総合職と
  して採用されても、将来の昇進・昇格に展望が持てないとする女性が少なくないな
  ど、実態上の課題は多い。今後、企業が急速な環境変化に対応するためには、真に
  性別にとらわれず個人がその能力を発揮でき、処遇される仕組みを早急に整えてい
  かなければならない。実際に、キャリアコースの多様化は女性だけでなく、男性に
  ついても進んでおり、それに伴い男女による差はむしろ小さくなっている。企業は、
  個性に着目した人材活用を進めるべく、女性の活用のみならず人材全体の活用のあ
  り方も見直す必要がある。特に、女性労働者の勤続年数が伸びる中で、従来型の勤
  続年数が短く入れ替わりの頻繁な女性労働者と長期継続雇用型の男性労働者を想定
  した雇用管理を行っていたのでは、女性労働者の能力を十分に活用することはでき
  なくなっている。これは、効率的な経営を目指す企業にとっても、人材の有効活用
  がなされない非効率な状況と言える。こうした状況を踏まえ、性別にとらわれない
  人事管理を徹底するため、男女雇用機会均等法に基づき、男女の均等取扱いの確保
  対策の充実・強化を図ることが必要である。
   その中で、企業の雇用管理の変化に対応し、男女均等の確保という観点から雇用
  管理の望ましいあり方についての情報提供を行うことも必要であろう。特に、コー
  ス別雇用管理制度については、依然として事実上の男女別雇用管理として機能して
  いる例や、一般職の勤続年数が長期化する中で、コース区分の合理性や、コース間
  の処遇の格差について納得を得られにくい例もみられるところである。コース別雇
  用管理をはじめとする職務や職種による区分型の雇用管理について、法違反の是正
  という観点だけでなく、そうした雇用管理が企業規模を問わず拡がりつつあること
  を踏まえて、真の均等法の趣旨の実現という観点から、望ましいあり方についての
  指針等を示すことは必要と考えられる。
   さらに、雇用の分野における真の男女平等の実現に向け、実質的に男女均等な雇
  用管理を徹底する方策等について、今後均等取扱いやセクシャルハラスメントに対
  する苦情、紛争が増加すると見込まれることも踏まえ、事前防止型に加え事後処理
  型のシステムの拡充も含め、幅広い検討を進めることが必要である。
   また、妊娠中及び出産後も継続して働き続ける女性が増加していることから、母
  体や胎児の健康・安全が十分確保されるよう、妊娠、出産期における母性保護規定
  の遵守を徹底するとともに、妊娠、出産を原因として、雇用管理面で不利益な取扱
  いを受けることのないよう企業の望ましい雇用管理のあり方やそのための環境整備
  に向けての方策等について検討を行うことが必要である。さらに女性は、その身体
  に妊娠や出産のための仕組みが備わっているため、ライフサイクルを通じて男性と
  は異なる健康上の問題に直面することを踏まえ、リプロダクティブ・ヘルスに関す
  る意識の浸透、女性の生涯を通じた健康支援への取組も重要である。

   

 2 企業のポジティブ・アクションの促進
                   −均等の実効性確保のための手法の普及−

   男女均等な雇用管理が制度面で実現されても、過去の経緯などにより、女性の能
  力を十分に活かし切っていない状況がなかなか改善されないケースも多いことから、
  均等な制度を実効あるものとし、女性の能力を最大限活かすための人材活用の手法
  として、企業のポジティブ・アクションの取組を促進していくことが不可欠である。
  このため、企業においては、女性活用の現状を客観的に把握し、男女の活用状況に
  アンバランスがある場合には、その原因分析、問題点の把握を行った上で、問題点
  に即したポジティブ・アクションを、その効果を検証しながら進めていくことが重
  要であり、そうした企業の取組促進に向けた一層の支援を行うことが必要である。
   具体的には、経営トップや中間管理職クラスに対し、ポジティブ・アクションが
  人材の有効活用、経営効率化にもつながるものであることについて理解を促し、職
  場の意識改革を図るとともに、企業のポジティブ・アクションを促すための仕組み
  として、女性の職域拡大や管理職比率に関する目標の設定など企業が取り組むべき
  措置を指針として示すこと等が必要である。さらに、企業のポジティブ・アクショ
  ンの実施状況について把握をするとともに、諸外国の制度も参考にしながら、ポジ
  ティブ・アクションの取組を一層実効あるものとするための手法について検討する
  ことも必要である。

   


 3 女性のエンパワーメント(力をつけること)
                   −適切なキャリア選択と能力開発の促進−

   同時に、女性労働者の側にも、これまで以上に積極的に能力を発揮していこうと
  する意欲、姿勢が望まれる。企業の女性活用に対する考え方が大きく変わろうする
  中で、今後、能力、意欲次第で女性が力を発揮しやすい環境は整備されていくこと
  が見込まれる。しかしながら、女性の意識として、女子学生の事務職志向にみられ
  るような女性向きの仕事といった固定的な考え方や、管理職への昇進に対する消極
  的な姿勢が残っており、企業における女性の職域拡大や登用の阻害要因となってい
  るとの指摘もある。もとより、働き方の選択肢は拡がりつつあり、男女を問わず、
  昇進よりも仕事内容、仕事から得られる充実感を重視するなどの傾向がみられる中
  で、個人が主体的に選択を行い、能力を発揮できることが重要であり、適切な選択
  のための準備についての情報提供や選択を実現するための能力開発の実施等により、
  女性のさらなるエンパワーメントを図ることが不可欠である。
   このため、学校教育の早い段階から男女平等意識や職業意識の醸成のための教育
  を充実させるとともに、進路選択、職業選択に当たり、女子生徒・学生に対し、職
  業人となるための自覚を促すことや、とりわけ進路指導担当者に対して、将来の職
  業構造なども含めた適切な情報提供を行うことが必要である。また、就職後におい
  ても、女性は男性以上にキャリアパターンが多様であることを踏まえたキャリアカ
  ウンセリングの充実や、仕事と家庭との両立に関して、女性が抱える様々な問題を
  解消するための生活環境整備、ライフデザイニングに関する情報提供などが必要で
  ある。
   特に、近年の経済環境を背景に、女子生徒、学生の就職は厳しい状況になってお
  り、やむを得ず正社員ではなくフリーターやアルバイトとして就職し、短期間のう
  ちに離転職をするというケースが増えているが、将来どのようなキャリアパターン
  を選択するにせよ、若年期において、ベースとなる職業能力を身につけておくこと
  が、そのキャリアパターンを実現し、十分に能力発揮するために重要である。従来
  は、就職した企業におけるOJTにより、そうした職業能力形成が一般的になされ
  てきたが、今後は企業外の教育訓練も含めた様々な機会を活用することにより、基
  礎的な職業能力形成を身につけていくことが、将来の就業選択の幅を拡げるために
  も重要であり、そのための自己投資を支援する仕組みを整備することも必要と考え
  られる。

   


 4 育児・介護など家庭責任との両立支援
                   −育児期等における多様な働き方の推進−

   女性の働き方についての考え方をみると、出産・育児に際しても、就業を継続す
  ることが望ましいとする者が増えているものの、現実には、育児期の就業率にはこ
  のところ大きな変化がみられない。今後、労働力供給の減少が見込まれる中で、育
  児期の就業継続をいかにサポートしていくかが重要な課題であり、保育行政など関
  連施策も含めた、総合的な対策の展開が求められる。
   このため、育児については、まず、男女ともが、育児休業を取りやすく、職場に
  復帰しやすい環境の整備、職場の雰囲気の改革を図ることが重要である。併せて、
  育児休業を取得せずに働き続けようとする労働者や、育児休業復帰後の労働者の育
  児期の働き方として、より多様な選択肢を用意していくことが極めて重要と考えら
  れる。さらに、出産、育児のための休業中や、育児をしながら働く期間において、
  職業能力が低下することのないよう、その間の職業能力開発の促進やモラールの維
  持・向上を図ることも重要である。
   育児期の働き方については、我が国においては、現在のところ、正社員・フルタ
  イム労働か非正社員・パートタイム労働かのほぼ二者択一を迫られるというのが実
  情であるが、諸外国ではより柔軟な働き方が確立されており、我が国においても、
  国民全体として、育児期の働き方等についての議論を深め、コンセンサスを形成し
  ていくことが必要と考えられる。具体的には、正社員の短時間勤務制度やフレック
  スタイム制度などの柔軟な労働時間制度や、フルタイム労働とパートタイム労働な
  ど異なる就業形態の間の相互転換制度、ジョブシェアリング(2人で一つの仕事を
  分け合うもの)などが選択肢として考えられるところである。育児休業に加え、こ
  れらの各種制度をニーズに応じて組み合わせることにより、育児を両立させながら、
  雇用の継続を図ることができる仕組みを、社会全体で構築することが必要である。
  なお、育児の責任は、女性、男性が共に担うべきであり、以上の育児休業の取得や、
  育児期の働き方の問題を、女性のみの問題として捉えるのではなく、男性について
  も同様の課題として考えていくことが重要である。
   介護についても、高齢化に伴う要介護者の増加などにより、男女を問わず、一労
  働者が生涯に担う負担は増加することが見込まれており、育児・介護休業法に基づ
  く介護休業が取得しやすい環境の整備等を図ることが重要である。
   なお、育児・介護をはじめとする家庭責任と仕事との両立に対するサポートにつ
  いては、両立を図ることによって、労働者個人のみならず企業、あるいは社会全体
  としてもメリットが得られることを考慮し、両立のための負担を、労働者個人、企
  業、社会全体がバランスよく担っていくことが重要である。また、育児・介護や様
  々な家事負担に関しては、現実のニーズに即した多様な施策、サービスが、官民双
  方により用意されていくことが必要であり、こうした分野への民間事業者の参入促
  進も含めた環境整備が望まれる。特に、育児については、利用者の多様な保育ニー
  ズに対応したサービスの提供、都市部などニーズの高い地域における計画的な保育
  サービスの整備などが必要である。家事負担については、家庭内におけるバランス
  を図ることが必要であり、また、今後、家事代行サービスが普及すること等により
  家事負担が社会的に軽減されることも考えられるであろう。
   さらに、欧米の企業においては、労働者の家庭・生活事情を配慮した「ファミリ
  ー・フレンドリー」な雇用管理制度として、柔軟な労働時間制度のほか、家族看護
  休暇制度、在宅勤務、転勤に当たって家庭の事情を配慮するといった、労働時間、
  就業形態・就業コース、就業場所の各面において柔軟な働き方を可能とする制度の
  導入がみられるところであり、今後、我が国においても、そうした制度の普及促進
  を図ることが重要である。
   また、中央省庁再編に伴う労働、厚生両省の統合を控え、従来、両省が行ってき
  た関連施策のより総合的、効率的な展開を図ることが重要である。従来の両省の施
  策は視点は異なるものの、職場における均等対策あるいは家庭との両立支援対策と、
  少子化対策あるいは家庭における保育対策は背反するものではなく、相互にプラス
  にはたらく表裏一体の関係にあるものであり、積極的な取組が要請される。

   


 5 働き方の見直し −職場優先の企業風土の改革、効率的な働き方の推進−

   職業生涯が長期化する中で、仕事と生活とのバランスを図るためには、現在の働
  き方を見直して、仕事だけでなく、個人のプライベートな時間、例えば趣味や交際、
  学習や地域での活動などを幅広くバランスをとって充実させることができるように
  していくことも必要である。また、仕事以外の様々な活動を充実させる中で、夫の
  家事参加が進めば、妻の仕事と家庭とのバランスも変化し、現在は家事負担のため
  に、働くことのできない、あるいは短時間しか働くことのできない女性の能力発揮
  の促進にもつながるものと考えられる。
   現在の働き方については、職場優先の企業風土や、長時間職場にいることが評価
  されるような職場の雰囲気、チームで仕事をするために個人の仕事の範囲が不明確
  になりがちな仕事の仕方などの問題が指摘されている。このため、仕事とそれ以外
  の生活とのバランスについての一層の意識改革、職場優先の企業風土の改革に対す
  る労使の取組の促進を図るとともに、フレックスタイム制や、平成10年の労働基
  準法改正により導入されることとなっている新たな裁量労働制の活用、労働時間の
  長短のみに左右されない能力業績の適切な評価、個人の仕事の範囲の明確化などに
  より、効率的な働き方を推進していくことが重要である。

   


 6 多様なキャリアパターンの実現
                −良好な選択肢としての非正規型就業の整備−

   企業における多様な人材の活用や、個人の多様な働き方へのニーズに対応し、雇
  用・就業形態の多様化は今後もさらに進むことが予想される。雇用・就業形態の多
  様化は、女性がその価値観、ライフスタイルに応じて選択できる就業の場を拡げる
  点でプラスの評価ができるが、正規型と非正規型の労働者の二極分化の懸念もあり、
  その選択肢を良好なものとしていくことが重要である。まず、パートタイム労働者
  については、女性労働者全体に占める割合が急速に高まり、現在約4割に達すると
  ともに、質的にも専門職や現場管理者などへの多様化が進んでおり、多様性に応じ
  たきめ細かな対策を講じていくことが必要となっている。また、パートタイム労働
  者の就業実態、通常の労働者との均衡等を考慮して、労働条件の確保等雇用管理の
  改善を進めることが必要である。また、在宅ワークについては、育児期を中心とし
  て仕事と家庭の両立が可能となる就労形態として、近年急速に拡がりつつあり、契
  約条件の明示や適正化を図ることにより、今後、健全な発展を図る必要がある。さ
  らに、テレワーク、SOHO、NPOなどの新たな働き方についても、それぞれ他とのバ
  ランスのとれた良好な雇用・就業形態となるよう、環境整備を図ることが重要であ
  る。
   職業生涯を通じたキャリアとしてみても、今後、性別を問わず、個人のその時々
  の家庭・生活事情等に応じて、フルタイムと短時間や他の勤務形態との間を転換す
  る、仕事を一時中断して再教育を受けるなどの、様々なパターンが出てくるものと
  考えられる。個人が、労働市場からの出入りを含め自らの働き方を選択し、十分に
  能力を発揮し、適切な評価を受けることができるよう、多様な雇用管理制度や処遇
  のあり方について、企業に対する情報提供を行うことが重要である。また、個人に
  対しては、自らの責任の下に適切なキャリア選択が行われるよう、キャリア設計に
  関する情報提供、相談援助等も必要である。
   女性のキャリアパターンとして、再就職型が依然として多い現状を踏まえれば、
  再就職女性の能力発揮の場の確保が特に重要である。企業が再就職女性を受け入れ
  やすい環境を整備するため、労働市場から退出している間の職業能力開発あるいは
  再教育の促進、再就職に当たっての職業能力の評価・検証のあり方の検討、マッチ
  ングシステムの整備などが必要である。職業能力の評価に関しては、サービス業に
  おける対人スキルのように、これまであまり標準化の進んでいない種類の能力評価
  についても留意が必要である。また、マッチングに関しては、インターンシップや
  「紹介予定派遣」(いわゆるジョブサーチ型派遣)の活用も考えられる。
   さらに、求人における年齢制限の緩和・解消とともに、時間選好が高いといった
  再就職女性のニーズに対応した、正社員の短時間勤務などの本格的活用の方法を普
  及していくことも重要である。企業にとっても、多様な選択肢を用意することは、
  事業内容に応じた必要な人材の確保を容易にするという点でメリットがあると考え
  られる。

   


 7 均等・公平を確保するための環境整備
                 −総合的な個別労使紛争処理システムの整備−

   能力業績を重視した個別管理への移行等に伴い、賃金はじめ労働条件、配置転換、
  昇進・昇格、セクシュアルハラスメント等様々な問題についての個別の苦情や労使
  紛争が増加すると見込まれているが、その中で男女の均等取扱いの確保が、今後、
  一層重要な課題となると考えられ、このような苦情に対し、的確かつきめ細かな対
  応が行われるとともに、紛争が公正、透明な手続きの下で迅速に解決が図られるこ
  とが必要となっている。このため、個別の苦情に対し、企業内の労使による相談体
  制を整備するとともに、公的機関としての相談窓口等の拡充を図ることが必要であ
  る。また、均等法に基づく機会均等調停委員会制度の周知、活用のための支援、さ
  らに均等のみならず、女性が働く上で直面する労働条件等をめぐる幅広い紛争につ
  いての総合的な個別労使紛争処理システムの整備が必要である。
   さらに、税制、社会保障制度、賃金制度等については、パートタイム労働にもみ
  られるように、個人の就業選択に対し中立でない影響を与えている面があることを
  踏まえ、その影響をできる限り中立的なものとするよう、様々な世帯形態間の公平
  性等をも勘案しながら、個々の制度の撤廃も含め、検討を行うことが必要である。
  特に、多様な就業形態の普及が見込まれる中、このような制度が中立でない影響を
  与えることのないよう留意が必要である。また、退職金や年金、保険などについて、
  長期勤続が有利に働くような仕組みがみられるが、離転職や労働市場からの退出、
  再参入に際してできる限り不利にならないようなあり方について、検討を行うこと
  も重要である。


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