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雇用均等政策研究会報告書の概要

〜 変革期における企業の人材活用と個人の働き方の調和を目指して 〜



T はじめに −男女が主体的に働き方を選択し、十分に能力を発揮できる社会の実現
        に向けた課題−

  今後、企業の雇用戦略、個人の就業意識はどのように変化し、また女性の働き方に
 どのような影響を与えるかを展望した上で、今後の政策の方向を考える。




U 女性労働の動向 

 1 女性労働力の量的変化 −増加の大きい女性雇用者数− 

 2 女性労働力の質的変化 −勤続年数の伸長、高学歴化の進展−
 
 3 失業構造の変化 −弱まる女性の「就業意欲喪失効果」− 

 4 労働力需給の見通し −2005年以降男女とも減少の見込まれる労働力人口− 

 5 M字型カーブの変化 −比較的小幅にとどまる30歳台前半層の上方シフト− 

 6 労働条件の変化 −いまだに大きい男女間賃金格差− 




V 女性労働に関わる企業と個人の変化

 1 企業の変化

   (1) 企業を取り巻く経済社会の変化 −低成長下で進む企業の経営変革− 
 
   ・ 経済の成熟化、グローバル化、技術革新の進展、少子・高齢化の進行など経
    済社会の変化に伴い、企業では、多様な人材を活用しようとする動き、人事・
    処遇制度を年功重視から能力業績重視へ見直す動きがみられる。 
   ・ 事務職求人の落ち込みによる女性の求職ニーズとのミスマッチの拡大、事務
    部門のアウトソーシング、一般職が行っていた業務の派遣労働者への代替の動
    きがみられる。 


  (2) 多様な人材活用の進展 −キャリアコース、就業形態の多様化− 

   ・ 企業では、長期継続雇用型の労働者だけでなく、仕事内容に応じて、中途採
    用、派遣・契約社員など多様なタイプの人材を活用しようとする動き(人材の
    ポートフォリオ化)、単純・定型的業務を中心にパートなどの労働者へ切り替
    える動きもみられる。 
   ・ こうした動きは、女性の働き方の選択肢を拡げる点でプラスの評価。他方、
    これらの労働者の間の処遇、労働条件等の均衡について留意が必要。 


  (3) 能力業績重視への転換
            −賃金、配置・昇進等にみられる能力、業績・成果の重視− 

   ・ 人事・処遇制度の年功重視から能力業績重視への見直しが進めば、性差より
    も個人差に重点を置いた処遇が浸透していくことが見込まれ、男女均等取扱い
    の推進にとっては好ましい影響。能力業績重視の雇用管理を真の男女均等取扱
    いに結びつけるためには、能力業績評価や人事配置の基準、手続きの公平化、
    透明化を進めることも重要。 


  (4) コース別雇用管理制度の変化 −問われるコース区分や処遇の合理性− 

   ・ コース別雇用管理制度の導入により、女性に管理職となるコースが開かれた
    こと等は女性登用の一つの契機。一方、事実上の男女別雇用管理として機能し
    ている事例や、一般職の勤続年数が長期化する中で、コース区分の合理性や、
    コース間の処遇の格差について本人の納得を得られない事例もみられるほか、
    コース別雇用管理を廃止する企業もみられる。 


  (5) 仕事と生活のバランス −個人の生活・家庭事情への配慮の高まり− 

   ・ 今後、核家族化の進行、高齢化に伴う要介護者の増加等に伴い、男女を問わ
    ず一労働者が担わなければならない育児や介護の負担は今後ますます増大する
    ことが見込まれる中で、企業においても、必要な人材の確保・維持を図るため
    に、労働者のキャリアプランのみならず、ライフプランにも配慮した雇用管理
    を行う動きがみられる。 


  (6) ポジティブ・アクションに対する取組 
             −経営合理性からも求められるポジティブ・アクション− 

   ・ グローバルな事業展開が進んでいる業界等を中心に、女性の積極的活用に向
    けた取組がみられるが、未だ残されている事実上の男女間格差を改善するため
    には、ポジティブ・アクションを促進していくことが重要。 


  (7) 再就職女性の活用 −活かしきれていない再就職女性の能力− 

   ・ 再就職女性に対する就業の場としてはまだまだ非正規社員で単純・定型的な
    職務に就く以外の選択肢が少ない。一方、女性のエンパワーメントに対する企
    業のニーズも高く、職業能力の維持向上などの条件が整えば、再就職女性の本
    格的活用は進むものと見込まれる。 



 2 個人の変化 

  (1) 就業意識の変化 −若年者を中心とした転職志向の高まり− 

  ・ 転職希望の高まり、専門家志向の強まり、職業選択の際の自己能力発揮の可能
   性、その結果としての仕事への充実感の重視。 
  ・ 男女問わず、いわゆるフリーターや学校卒業後就職も進学もしない者が増加傾
   向。 


  (2) ライフスタイルの多様化 −晩婚化、生涯未婚率の上昇− 

  ・ 女性は、自らの結婚、出産をはじめとするライフスタイルについて、仕事との
   バランス等を考慮に入れながら、主体的に選択する傾向。全体的には、晩婚化、
   生涯未婚率の上昇、子供を持たない者の増加などの傾向。 


  (3) 就業継続の状況の変化 −増加する継続就業型の志向− 

  ・ 女性が働くことに対する考え方については、最も多いのは再就職型であるが、
   継続就業型が近年増加。特に30〜40歳台で継続就業型の増加幅が大きいこと
   が特徴。 

  ・ 女性の就業継続のためには、入職時の就業意識に加え、仕事と生活のバランス、
   結婚・出産時までの仕事に対する満足度、将来の仕事に対する期待度などが重要
   な要因。 


  (4) 再就職の状況の変化 −現実には依然として多い再就職型の選択− 

  ・ 再就職に当たっての問題点は、家庭生活と両立できる雇用管理実施企業が少な
   い、子育て・介護の支援施設が少ない、能力を生かせる場が少ないなど。再就職
   の仕事を選ぶ際に重視することは、勤務時間帯が都合がよいこと、土日に休める
   こと、仕事内容など。 

  ・ 大学・大学院卒女性については、従来、結婚・出産・育児期に就業率が低くな
   った後、再びあまり上昇しない傾向がみられたが、最近はやや上昇している。 


  (5) 就業形態、働き方の多様化
           −拡がる就業分野、パート、派遣等の非正規型労働者の増加− 

  ・ 近年、特に女性について、パートタイム労働をはじめとする非正規型の労働者
   の割合の増加が顕著。 

  ・ パートタイム労働や派遣労働等への就業形態の多様化は、時間選好の強い女性
   労働者のニーズに合った働き方を可能としている一方、正社員として働けないた
   めにやむを得ずそうした働き方をしている女性が、派遣労働者や契約社員につい
   ても少なくないことに留意が必要。 


  (6) 家庭責任を取り巻く変化 −男女ともに重くなる育児、介護などの負担− 

  ・ 今後、一労働者の担わなければならない育児、介護等の負担の増大が見込まれ
   る中、男性についても仕事と生活のバランスに対する意識の変化はみられ、今後
   は、男女とも生涯を見通してキャリアプランと同時にライフプランを考えるよう
   になると考えられる。 

  ・ 男性の家事・育児等の負担が少ない背景には、労働時間の長さ、職場優先の企
   業風土、長く職場にいることが評価されるような職場の雰囲気、働き方などの問
   題がある。 


 (7) 税制、社会保険制度等の影響 −個人の就業選択に与える中立的でない影響− 

  ・ 税制、社会保障制度、賃金制度等の諸制度・慣行の中には、個人の就業選択に
   対して中立でない影響を与えているものもあるものと考えられる。 

  ・ パートタイム労働者のうち、3割強が就業調整を行っており、この割合は近年
   上昇。配偶者手当については、制度を有する企業の割合は近年8割弱で推移して
   いるが、そのうち支給制限を設けている企業の割合は約半数で近年増加傾向。 




W 政策の方向 

  以上より、企業、個人の動きとしては、次のことを挙げることができる。 

   @ 性差ではなく個人の能力に基づく雇用管理を行うことが、個人の能力発揮の
    促進のみならず、企業の競争力強化、効率的経営の推進の観点からも求められ
    ていること 

   A 仕事と生活のバランスに配慮することは、個人の家庭責任の増大や仕事以外
    の活動を重視する傾向に合致すると同時に、企業にとっても必要な人材の確
    保・維持を図るため、労働者のキャリアプランのみならず、ライフプランにも
    配慮した雇用管理の必要性が認識されはじめていること 

   B 雇用・就業形態の多様化は、個人のキャリアパターンの選択肢を拡げるとと
    もに、企業にとっても事業に必要な様々なタイプの人材を適材適所により活用
    することを可能とすること 

    こうした企業と個人の動きは、相矛盾するものではなく、一定の条件を整える
   ことにより、双方が望ましい方向へ進む途があるものと考えられる。そのための
   政策の基本的方向は、以下のとおりである。 


 1 実質的な男女均等の実現 −性別にとらわれない人事管理の徹底− 

  ・ 企業が競争力を高めていくためにも、性別にとらわれない人材活用は不可欠で
   あり、男女雇用機会均等法に基づき、男女の均等取扱いの確保対策の充実・強化
   が必要。 

  ・ 企業の雇用管理の変化に対応し、男女均等の確保という観点から、コース別雇
   用管理制度などの望ましいあり方について情報提供等を行うことも必要。 



 2 企業のポジティブ・アクションの促進
                  −均等の実効性確保のための手法の普及− 

  ・ 男女均等な制度を実効あるものとし、女性の能力を最大限活かすための人材活
   用の手法として、企業のポジティブ・アクションを促進していくことが不可欠。
 
  ・ 具体的には、経営トップなどの職場の意識改革、女性の職域拡大や管理職比率
   に関する目標の設定など企業が取り組むべき措置の指針化、さらには、諸外国の
   制度も参考にしながら、ポジティブ・アクションの取組を一層実効あるものとす
   るための手法についての検討が必要。 



 3 女性のエンパワーメント(力をつけること)
                  −適切なキャリア選択と能力開発の促進− 

  ・ 女性労働者の側にも、これまで以上に積極的に能力を発揮していこうとする意
   欲姿勢が望まれる。働き方の選択肢は拡がりつつある中で、個人が主体的に選択
   を行い、能力を発揮できるよう、適切な選択のために必要な準備についての情報
   提供や、選択を実現するための能力開発の実施等により、女性のさらなるエンパ
   ワーメントを図ることが不可欠。 

  ・ 具体的には、学校教育の早い段階からの男女平等意識や職業意識の醸成のため
   の教育の充実、進路・職業選択に当たっての女子学生等に対する職業人となるた
   めの自覚の促進、将来の職業構造なども含めた情報提供、就職後のキャリアカウ
   ンセリング、家庭との両立に関する問題を解消するための生活環境整備、ライフ
   デザイニングに関する情報提供などが必要。 



 4 育児・介護など家庭責任との両立支援 
                  −育児期等における多様な働き方の推進− 

  ・ 育児期の就業継続を支援するため、男女ともが、育児休業を取りやすく、職場
   に復帰しやすい環境の整備が重要。併せて、育児期の働き方として、正社員の短
   時間勤務制度やフレックスタイム制度をはじめとする多様な選択肢を用意してい
   くことが重要であり、そうした制度をニーズに応じて組み合わせることにより、
   雇用の継続を図ることができる仕組みを社会全体で構築することが必要。 

  ・ その他、家族看護休暇制度、在宅勤務、転勤に当たっての配慮など、「ファミ
   リー・フレンドリー」な制度の普及促進も重要。 



 5 働き方の見直し −職場優先の企業風土の改革、効率的な働き方の推進− 

  ・ 職業生涯が長期化する中で、仕事と生活とのバランスを図るためには、現在の
   働き方を見直して、仕事以外の様々な活動を充実させていくことが必要。その中
   で、夫の家事参加が進めば、家事負担のために働くことのできない、あるいは短
   時間しか働くことのできない女性の能力発揮の促進にもつながる。 

  ・ 具体的には、仕事と生活とのバランスについての意識改革とともに、フレック
   スタイム制、新たな裁量労働制の活用、労働時間の長短のみに左右されない能力
   業績の適切な評価、個人の仕事の範囲の明確化などにより、効率的な働き方を推
   進していくことが重要。 



 6 多様なキャリアパターンの実現
                −良好な選択肢としての非正規型就業の整備− 

  ・ 今後、雇用・就業形態の多様化の中で、それぞれの選択肢を良好なものとして
   いくことが重要。パートタイム労働者については、その就業実態、通常の労働者
   との均衡等を考慮して、労働条件の確保等雇用管理の改善を進めることが必要。
 
  ・ 生涯を通じたキャリアパターンとしても、個人が、労働市場からの出入りを含
   め自らの働き方を選択し、十分に能力を発揮し、適切な評価を受けることができ
   るよう、企業、個人に対する情報提供が必要。 

  ・ 再就職女性の能力発揮促進のため、労働市場から退出している間の職業能力開
   発、再教育の促進、再就職に当たっての職業能力の評価・検証のあり方の検討、
   求人における年齢制限の緩和・解消などによる本格的活用が重要。 



 7 均等・公平を確保するための環境整備
                −総合的な個別労使紛争処理システムの整備− 

  ・ 今後、個別の苦情や労使紛争が増加し、男女均等取扱いの確保が一層重要とな
   ると考えられる中で、苦情に対する相談体制の拡充とともに、均等法に基づく機
   会均等調停委員会制度の周知、活用のための支援、さらに総合的な個別労使紛争
   処理システムの整備が必要。 

  ・ 税制、社会保障制度、賃金制度等については、個人の就業選択に対する影響を
   できる限り中立的なものとするよう、様々な世帯形態間の公平性等をも勘案しな
   がら、個々の制度の撤廃も含め、検討を行うことが必要。また、退職金や年金、
   保険などについて、離転職や労働市場からの退出、再参入ができる限り不利にな
   らないようなあり方について、検討を行うことも重要。
 

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