タイトル:「我が国の労働市場の現状 〜 雇用のトレードオフを超えて」
        〜人事・労務管理研究会 労働市場ワーキンググループ〜
                  調査研究報告
      
発  表:平成12年8月8日(火)
担  当:労働大臣官房政策調査部 産業労働調査課

              電 話 03-3593-1211(内線5245)
                  03-3502-6729(夜間直通)


 企業にとって厳しい経営環境が続く中で、労働市場が現在どのように変化してきて
いるのかを把握することは、今後の労働政策の取るべき方向性を考える上で不可欠で
ある。
 このため、労働省では、労働市場ワーキンググループ(座長 樋口美雄 慶應義塾
大学教授)を開催し、労働市場の現状と今後の方向性、具体的には <1>どのような属
性の人々が失業し、あるいは転職しているのか、 <2>どのような属性の企業・事業所
が雇用を創出あるいは喪失しているのか、 <3>どのような雇用形態の人が増えており、
その背後ではどのようなメカニズムが働いているかにつき調査研究を実施した。
 既に<3>に関しては、本年5月10日に、日本労働研究機構から 「労働力の非正社員
化、外部化の構造とメカニズム(アンケート調査編)」として発表を行っている。本
報告書では、残る<1>、<2>に関して「労働力調査特別調査」等各種統計の再集計によ
り明らかになった基本的な事柄を要約するとともに、幾つかの政策的インプリケーシ
ョンに言及している。


調査結果の要旨

1.労働市場の現状 〜 雇用のトレードオフの発生

(1)離転職・失業行動の動向

  前年就業者が1年後に失業している確率を「失業化確率」と定義した場合、その
 確率は、
 就業者が
     <1>1年以内に離職し、(離職確率=非自発的離職確率+自発的離職確率)
     <2>求職を続け、     (労働力継続確率)
     <3>しかも転職できなかった(転職不成功確率)  
 状態であると考えられることから、
 「失業化確率=離職確率×労働力継続確率×転職不成功確率」と置くことができる。
  ここで、それぞれの要因についてみてみると、
 ・非自発的離職確率は、高齢者や、男性独身者で高い。
 ・自発的離職確率は、男性独身者、子供のいる女性、パートタイム労働者で高い。
 ・継続就業確率は、既婚女性で近年高まっている一方で、乳児を持つ母親の継続就
  業確率が低下している。
 ・転職不成功確率は、性別に関係なく高齢になると上昇し、失業期間は長期化して
  いる。45歳以上層の男性の失業期間が長く、55歳を超えると極端に長くなる。
 ・失業化確率は、職種別に見た場合、ブルーカラーに比べて、ホワイトカラーで低
  くグレーカラー(販売・サービス業)では比較的高い傾向にある。

(2)企業・事業所別に見た雇用の増減

 ・雇用変動の要因としては、既存事業所の雇用者数の増減よりも事業所の開業によ
  る雇用創出が大きく影響している。中でも小企業や建設業の開業が雇用機会を創
  出してきた点が注目される。
 ・97年以降は、小企業の開業減退とならんで大企業の事業所の廃業増加が雇用情勢
  の悪化を生んだ原因として重要である。
 ・若年に対するフルタイムの雇用機会の減少が深刻化したが、その傾向は大企業で
  顕著である。大規模事業所の中では既存社員の中高年齢化が進んでいる場合ほど
  新卒の求人及び採用が大きく減退している。こうした若年者の採用抑制は、中高
  年齢化した既存社員の雇用の維持による「置き換え効果」(若年者の採用と中高
  年齢者の雇用維持のトレードオフ)であるという意見もある。

2.今後の課題

  これらの分析を踏まえると、今後の雇用対策としては以下の点が重要であろう。

(1)労働者や企業の属性、事情に応じたきめの細かい対策  

 ・限られた予算で雇用の安定を図るためには、解雇対象となりやすい労働者層、労
  働の継続が困難な労働者層、再就職が困難な労働者層に対して集中的に就職支援
  サービスを行うことが効果的である。具体的には、高齢者や子供をもつ母親、特
  に乳児を持つ母親等に対する特段の支援が必要である。
 ・雇用の創出に大きく寄与する若い企業に対し、機動的な助成を行うことが必要で
  ある。同時に、そうした企業に対しては、労働者の転職リスクを低減するため、
  企業情報・処遇情報の公開を求めることが必要である。

(2)雇用のトレードオフを意識したバランスのとれた対策

 ・中高年の雇用の維持によって新規学卒者の採用抑制が行われるなど、雇用におい
  ては関係者間のトレードオフの関係が生じている。このため、若年者と高齢者、
  正社員と非正社員、在職者と求職者との間の雇用のトレードオフを認識し、バラ
  ンスのとれた対策を実施することが必要である。

(3)トレードオフを解消するための雇用創出対策

 ・雇用のトレードオフを解消するためには、適度な経済成長が不可欠であり、それ
  を支えるための技術開発や人材育成が必要である。人材育成としては、特に、雇
  用創出能力の高いベンチャー企業の経営者に対する教育や、経営補佐となる人材
  の育成が重要である。



(参考)
   人事・労務管理研究会
   労働市場ワーキンググループ メンバー(50音順)

      阿部 正浩   獨協大学経済学部専任講師
      奥西 好夫   法政大学経営学部教授
      小滝 一彦   大阪大学社会経済研究所助教授
      神谷 隆之   日本労働研究機構
      玄田 有史   学習院大学経済学部助教授
      中窪 裕也   千葉大学法経学部教授
   座長  樋口 美雄   慶應義塾大学商学部教授
      平田  薫    慶應義塾大学大学院

   

  調査の概要


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