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【調査の概要】

1.調査の方法

  帝国データバンクの企業台帳COSMOS2に収録されている企業 1,108,228社
 の中から、社員数の多い順に 3,000社(鉱業、農林漁業、飲食店等を除く)を無作
 為に抽出し、人事担当者宛に送付した。アンケート調査は 2000年1月に実施し、調
 査対象企業3,000社に対する有効回答は591社、有効回答率は19.7%であった(無効
 票4票を除く)。

参考表1 業種構成/企業規模構成(%)


合計数 建設業 製造業 電気・
ガス・
水道・
熱供給
運輸・
通信業
卸売業
(商社
を含む
小売業 金融・
保険業
不動産
サー
ビス業
その他
【総  数】 591 9.5 41.5 0.8 6.8 5.4 11.2 8.3 0.7 15.6 0.3
【正社員数】  
1000人未満 200 7.5 34 0 7.5 8.5 12.5 8 0.5 21 0.5
1000〜
2000人未満
243 9.9 42.4 1.2 6.6 3.7 11.1 9.5 1.2 14 0.4
2000〜
3000人未満
60 10 33.3 0 3.3 6.7 15 10 0 21.7 0
3000〜
5000人未満
44 18.2 54.5 2.3 4.5 4.5 6.8 6.8 0 2.3 0
5000人以上 44 6.8 68.2 2.3 11.4 0 4.5 2.3 0 4.5 0

 

2. 調査結果の概要

 (1) 人事戦略の基本方針〜能力主義・業績主義の徹底と人材育成・教育訓練の強化、
  終身雇用慣行の維持には消極的〜

   企業は「終身雇用慣行の維持」や「能力主義・業績主義の徹底」、「人材育成
  ・教育訓練の強化」といった人事戦略についてどのように考えているのであろう
  か。人事戦略の基本方針を重視比率(「重視する」と「やや重視する」の合計比
  率)でみると、企業は「能力主義・業績主義の徹底」(同比率97%)も「人材育
  成・教育訓練の強化」(88%)も重視する、つまり業績主義の徹底によって短期
  的な成果を求めると同時に、人材育成もまた重視する方針をとっている。それに
  比べると「終身雇用慣行の維持」については回答率10%と非常に消極的である
  (図表1)。
 
 (2) 業績管理

  ア 全社レベルの業績管理〜今後はキャッシュフロー、EVA、株価など収益性
   や市場評価に関する指標が重視される〜

    企業は全社、事業部、個人の各レベルにおいて、何らかの指標をもって業績
   を管理している。まず、これまでの全社レベルで重視している業績指標を見る
   と、売上高(83%)、利益額(77%)、利益率(68%)、コスト削減(68%)
   といった財務指標を基本にし、それに顧客満足度(52%)、品質(51%)を加
   えるという構成になっている(図表2)。
    それでは企業は今後、どのような指標を重視しようとしているのだろうか。
   業績指標の方向性指標(「今後」の回答率−「これまで」の回答率)に注目す
   ると、売上高(▲24%)が大幅に後退し、これまでのような量的拡大主義の考
   え方は終焉する傾向にある。これにかわってキャッシュフロー(同+38%)、
   経済的付加価値(EVA)(同+17%)、株価(同+11%)といった収益性と
   市場評価に関連する財務指標に加えて、顧客満足度(同+16%)、新製品開発
   (同+11%)、価格競争力(同+11%)といった競争力強化に関する指標、組
   織・事業改革(同+18%)といった内部の管理体制に関する指標が重視される
   傾向にある(図表3)。
 
  イ 事業部レベルの業績管理〜「ヒト」に関連する指標が重視される〜

    事業部レベルでは、全社レベルと同様に売上高(73%)、利益額(71%)、
   利益率(68%)、コスト(61%)などの財務指標が主要な業績管理指標となっ
   ているが、全社レベルの業績管理と比べて、人件費(55%)、要員数(43%)、
   人材の育成(38%)といった「ヒト」に関連する指標がより重視されている点
   に特徴がある(図表4)。
 
  ウ 個人レベルの業績管理〜大企業、ホワイトカラー職種で進む目標管理〜

    個人レベルの業績管理のために目標管理制度を導入している企業は63%であ
   り、業種別には卸売業と小売業で、企業規模別には大企業ほど、労務構成別に
   は大卒者の多いホワイトカラー型企業ほど導入が進んでいる(図表5)。
    この目標管理制度において、企業が最も重視する目標は業務の改善(51%)
   であり、売上(43%)、利益額(38%)、コスト(32%)、利益率(25%)と
   いった基本的な財務指標がそれに次いでいる(図表6)。
 
 (3) 人件費管理

  ア 人件費管理の基本方針〜ゆるやかに進む総額人件費管理〜

    人件費管理の基本方針には、総額人件費管理を指向する一括管理型(給与、
   賞与、退職金、福利厚生費などを一括して管理する)と、積み上げ型管理を指
   向する個別管理型(それぞれを個別に管理する)の二つがあるが、これまでは
   一括管理型が51%、個別管理型が48%とほぼ拮抗した状況にあった。しかし、
   今後の方針をみると一括管理型が60%に増えるので、全体としては総額人件費
   管理化が進むと予想される(図表7)。
 
  イ 賞与・一時金の総原資の決め方〜業績管理と賞与の強い結びつき〜

    賞与・一時金の総原資をきめる際に、企業はどの程度経営業績を考慮してい
   るだろうか。「考慮している」と「ある程度考慮」を加えると、95%の企業が
   経営業績を考慮している。さらに今後をみても、賞与・一時金への経営業績の
   反映の度合を拡大する企業が80%に達しており、業績管理と賞与を結びつけよ
   うとする動きは強い(図表8)。
 
  ウ 賞与・一時金に対する経営業績の反映度〜上位職になるほど業績の反映度が
   高い〜

    経営業績によって賞与・一時金の額が変動する企業は少なくないが、それで
   はそうした変動部分のある企業では、どの程度業績が反映されているのだろう
   か。部長クラスは賞与の3.7 割、課長レベルは3.4 割、一般は2.4 割が業績に
   より変動する(図表9)。つまり、上位職になるほど業績の反映度が高くなる
   傾向にある。
    さらに、この変動幅を規定する業績には部門業績と個人業績があり、部長レ
   ベルでは部門業績3.6割・個人業績6.4割、課長レベルでは部門業績 2.9割・個
   人業績7.1割、一般社員では部門業績 1.5割・個人業績が8.5割と、上位職にな
   るほど部門業績の割合が高い。
 
 (4) 要員管理

  ア 要員計画の策定システム〜積み上げ型からトップダウン型へと移行〜

    要員計画の策定方法には、積み上げ方式(個々の部門から要求のあった要員
   を積み上げる)とトップダウン方式(経営層の方針を人事や経営企画部などが
   とりまとめ、各部門に要員を配分する)の二つがあるが、これまでは積み上げ
   方式に偏っていた(「同方式である」19%、「どちらかと言えば同方式」42%
   )が、今後はトップダウン方式の増加が予想される(「どちらかと言えば同方
   式」47%、「同方式である」27%)(図表10)。
 
  イ 長期要員計画の今後〜非正社員化、中途採用へシフト〜

    企業の雇用形態別の長期要員計画を見ると、正社員については減らす方針、
   非正社員・派遣社員については増やす方針が主流である(図表11)。また、職
   種別に見ると、管理要員と製造関連要員は減らし、営業販売要員と研究開発関
   係要員は増やそうという方針が主流である(図表12)。最後に採用形態別では、
   新卒採用を減らし、中途採用を増やすが基本的な方向である(図表13)。
 
 (5) 教育訓練費

  ア 教育訓練費予算の策定の基準〜ゼロベース型がやや多い〜

    企業は本社管理の教育訓練(OFF−JT)予算を作成するさいに、主に
   「毎年必要な額をゼロベ−スから積み上げて」(43%)のゼロベース型か、
   「前年度予算の実績」(35%)を考慮して作成する前年実績考慮型の方法をと
   る(図表14)。
 
  イ 教育訓練投資の規模〜昨年度社員1人当たり平均8.44万円を投資〜

    昨年度1年間の本社能力開発部門で主催した教育訓練(OFF−JT)の実
   施状況を、社員1人あたり受講日数で見ると平均 1.6日である。また、社員1
   人あたりの費用に注目すると、直接費用が平均4.67万円であり、教育訓練期間
   の機会費用は3.77万円、合計8.44万円となる。
 
  ウ 教育訓練費の今後の方針〜長引く不況下でも教育訓練費用を減らさない企業
   が多数派〜

    教育訓練費の今後の方針は、増加を考えている企業が36%(「大幅に増やす
   」+「やや増やす」)、現状維持が47%、減少を考えている企業が15%(「や
   や減らす」+「大幅に減らす」)であり、長引く不況下においても教育訓練費
   を減らそうと考えている企業は少ない(図表15)。
 
 (6) 教育訓練費の配分戦略〜一律型から多様型へと個別ニーズにあわせた研修へシ
  フト〜

   教育訓練投資の配分戦略のひとつに、どのような教育訓練分野に費用を当てて
  いるのかという訓練分野別資源配分戦略がある。今後の方針として、重視比率
  (「現在より重視する」と「現在より少し重視する」の合計比率)に注目すると、
  階層別研修(38%)といった社員一律型の研修よりも、職能別研修(61%)や課
  題別研修(56%)といった仕事の違いに合わせて専門能力を養成する戦略が重視
  されている(図表16)。
 
 (7) 教育訓練政策

  ア 変化する教育訓練の方針〜底上げ教育から選抜教育へ、本社主導から現場主
   導へ、社内から社外へ〜

    企業の教育訓練の方針には、「底上げ教育」(社員の能力レベルを全体的に
   高める方針)と「選抜教育」(特定の潜在能力のある社員を選抜して教育する
   方針)の二つがあるが、現在と今後の教育方針を比べると、選抜教育重視派が
   23%→66%に増加しているのに対し、底上げ教育重視派は75%→32%に減少し
   ている(図表17)。
    また、これまでの教育訓練は本社主導型(「本社主導の教育を重視」26%、
   「どちらかと言えば重視」44%)が多く、事業部・事業所主導型(「事業部・
   事業所主導の教育を重視」と「どちらかと言えば重視」)は少ない。今後につ
   いては、本社主導型が70%→53% へと低下し、事業部・事業所主導型が27%→
   43%に増加している(図表18)。
    さらに、これまでの研修方法に対する基本的な考え方は、社内研修派(「研
   修は社内で実施する」26%、「どちらかと言えば社内」40%)が中心で、外部
   委託派(「外部委託・アウトソーシングを進める」7%、「どちらかと言えば
   外部委託・アウトソーシングを進める」25%)は3割強にとどまる。しかし、
   今後の実施方法は、社内派が65%→52%に低下するのに対して、外部委託派は
   32%→44%へと増加している(図表19)。
 
  イ 能力開発の主体〜社員の能力開発の責任は企業から個人へシフト〜

    能力開発の責任主体は企業か個人か。この点に関しては、これまでは8割以
   上の企業が「企業の責任」である(「企業の責任である」27%、「どちらかと
   言えば企業の責任である」55%)と考えたが、今後は「社員個人の責任」とす
   る企業が55%に増加し、「会社の責任」は43%まで低下している(図表20)。
 
 (8) 今後の課題

  ア 「Best Practice」実現のための支援

    企業は、柔軟性・機動性をもった効率的な組織を形成するために、業績主義
   化つまり「結果で評価する管理」の強化を進め、そのなかで従業員には変化し
   高度化する仕事に柔軟に対応することを強く求めてきている。こうした動きに
   対応するためには、新しい雇用管理の成功事例と失敗事例を調査研究し、そこ
   から得られる「Best Pratice」を社会全体で共有することが重要であり、政府
   には、こうした調査研究活動を積極的に支援することが求められる。特に重要
   なのは「結果で評価する管理」への移行への対応である。「結果の評価」の公
   平性・納得性を高めるために、公正で客観性のある評価システムとともに苦情
   処理システムのあり方が問題になり、それに対する労使の取組に対する支援も
   必要になろう。

  イ 人材育成への支援

    本調査から、短期的な成果を重視する業績主義派企業も、長期的な成長を実
   現するために人材育成を重視していることが明らかとなった。しかしながら、
   企業は教育投資の効率性を重視することから、費用負担の面ではこれまで以上
   に個人負担を求め、教育費用の個人配分の面では平等主義的な底上げ教育から
   選抜教育へとシフトし、研修方法の面では外部委託の傾向を強め、研修内容の
   面では専門能力の養成のための職能別研修、課題別研修を重視していこうとし
   ている。
    今後は、個々の労働者が「いまの能力を知る」、「会社(あるいは市場)が
   必要とする能力を知る」ことを通して、自ら能力開発とキャリアの計画を考え
   ることが求められており、政府としては、個人の能力開発計画の作成と個人が
   必要とする能力開発機会の提供を支援する政策を一層充実することが必要であ
   る。
    また、研修方法の外部化・専門化が進むに従い、公共職業訓練機関や民間教
   育訓練機関等を活用した職業訓練を一層促進していく必要があろう。さらに、
   選抜教育を重視しようとしている企業は、従業員の国内外の大学等への留学を
   重視していることから、今後産学交流の機会を一層拡大していくことが必要と
   なろう。

  ウ サービス業における人材育成の支援

    サービス業における人材育成を一層支援することが必要である。
    本調査では、サービス業は正社員数の増加が見込める産業であること、売上
   高に占める教育訓練費比が高い産業であること、さらに教育訓練費を増やすこ
   とに積極的な産業であることを明らかにした。サービス業では、製造業の「設
   備」がまさに「人」であり、人材育成に企業の競争力がかかっていると言って
   も過言ではない。
    高度成長期に企業が新規設備を競って導入したのと同様に、21世紀は企業が
   競争力を高めるために人材育成を競って行うことが予想される。政府としては、
   雇用創出が期待されるサービス業を中心として、今後企業が人材育成を行うに
   際して、より簡易に広範な支援を得られるように制度を改革していくことが必
   要であろう。


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