議事
○ 座長
ただ今から第9回の「労災保険制度検討小委員会」を開催いたします。今日は、田中委員の欠席が通告されております。小委員会は、検討を始めて今日が9回目ですが、だいぶ検討回数も進んでまいりましたので、残る議題等については精力的に審議を進めていきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
前回、労使から提出されました労災保険制度についての改善要望事項等で、残った項目について審議するのが今日のメインの議題ですが、その前に、前回の小委員会で質問のありました事項について、事務局の方からまず御説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。
○ 事務局
前回の質問のあった点につき、一括して御説明したいと思います。資料の2の5頁からです。最初に、労働保険適用促進奨励金の関係を事務局からお願いいたします。
○ 事務局
前回、適用促進の絡みで、適用促進の奨励金の支給基準あるいは額、実績、収入増加の状況、具体的な支給額の例というようなことで指摘がありました。資料の6頁ですが、支給基準は、適用促進の奨励金については、労働保険事務組合が計画に基づいて保険関係成立の手続の勧奨を行って、新たに成立手続を行ったというものに対して支給する、というものです。(2)「適用促進活動費」については、成立には至らないが具体的に事業場訪問をし、成立手続の勧奨を行ったものに対して支給をするというものです。支給の額については、2にありますように一元適用の事業、二元適用の事業で差を設けています。さらに、5人未満の事業場については若干支給額は上乗せになっており、5人未満の一元適用の事業場については13,020円、5人以上については10,920円、二元適用についてはその半額ということです。また、適用促進の活動費については、1事業場当たり2,730円ということです。実績ですが、平成10年度415,791,000です。
4は「適用促進の効果」ということで挙げてあります。これによって保険料がどのくらい増えるのかということですが、労働保険事務組合に事務処理を委託している事業の平均的な保険料額が30万強ということで、これに平成10年度、新たに加入した事業所45,000事業場を掛けますと139という増収になります。1件辺りにこれを割り戻すと9,171円というような実績です。
以上です。
○ 事務局
資料の7頁です。前回、特別加入の場合の保険料について、365日を乗ずるのはどうしてかという質問がありました。特別加入というのは、労働者ではないのですが、その実態に鑑み労働者に準じて保護するにふさわしいという方々について労災保険に加入する道を開いている制度です。そういう趣旨からして、1にありますように、既存の保険技術、労災保険の制度的な点を活用して、そういった特別加入の制度を開いているということです。通常の場合は、2にありますように、企業の1年間の総賃金を出し、1年間の賃金総額に両関係の料率をかけて保険料を算出するということをしています。特別加入の場合、労働者の賃金に相当するものがありませんので、特別加入者が選択した補償額として希望する給付基礎日額に365を乗じて、企業で言えば1年間の賃金総額に相当するものを出すということです。これに関連の保険料率を掛けて1年間の保険料が出てくるということです。ちなみに、歴日の365日を掛けるというのは、労働者の平均賃金、これがほとんどの場合の給付基礎日額になるものですが、これを出す場合には、算定すべき事由の発生した日以前3カ月の賃金を歴日数で割るということになっていますので、それとの兼ね合いということもあり、365日を乗じているということです。いわば、選択した給付基礎日額に見合うような年収をこういう形で出して、保険料を算出するという考え方でやっているということです。
8頁、労災保険と社会保険の調整の関係で、介護保険の場合にはどうなるのかという質問でした。介護保険は、いろいろ議論はありますが、来年の4月1日から施行の予定です。労災保険でも介護(補償)給付があります。これとの調整をどうするかということですが、これについては介護保険法、介護保険法施行令において調整が規定されております。これは、労災保険制度の介護(補償)給付との関係については、労災保険側が優先給付され、介護保険側で支給停止され、労災保険給付の上限を超えた部分は、介護保険から支給されることになるということです。 具体的にどういうことかというと、介護保険の在宅サービスは、要支援を入れると、要支援、要介護度1〜5ということで6段階に分かれます。その6段階ごとに介護費用が決まってくるわけです。まだ正確には決まっていないようですが、厚生省に聞くと、いちばん介護度が強い要介護度5の場合で約37万円程度であろうということです。労災の被災者の場合は、常時介護の場合は108,000円まで介護(補償)給付が出ます。現実にヘルパーを呼ぶための費用がかかったという場合に、上限108,000円まで出るということですが、それまでは労災のほうが支給され、それを超えた部分については介護保険のサービスが支給されるということです。現実の調整のやり方としては、要介護度が認定された場合には、ケアマネージャーが介護が必要な方の所へ来て介護プランというのを作ります。その時に、ここの部分は労災、ここの部分は介護保険のサービスというように、最初から仕分けをしてプランを作るということでどうかということで、今具体的なやり方については厚生省とも事務的な連絡をとりながら調整を図っているところです。いずれにしても、労災保険と介護保険の調整については、労災保険が優先的に支給され、それを超える部分については介護保険が支給されるという考え方で決まっているということです。
資料の15頁ですが、メリット制の増減幅は今、一般産業は±40%、建設等については±30%としています。これを例えば±50%の幅でメリットを適用した場合にどうなるかという質問がありました。上が全業種についてやったもので、現行平均料率が1000分の9.1ですが、料率換算が0.5とあります。影響額というのは、メリット幅を±50%にすれば、メリットの適用を受けて保険料が少なくなるというところで、これだけ減るということです。それを全体でカバーしなければいけないということで、料率は0.5厘引き上げる方向に作用するということです。右のほうに「料率への影響(事業場割合)」と書いてありますが、料率が減る事業場の割合が6.7%、増減なしはほとんどなし、増加が93.3%ということです。なお、メリット制については、基本的には100人以上の事業場ということになっていますので、そもそもメリット制というものが適用される事業場の割合は8%弱で、92〜93%の事業場は、メリット制は適用されないということです。
個別の事業で影響の大きいのは、石灰石の関係とか、港湾荷役の関係です。現行の、例えば石灰石では1000分の60が1000分の2.1上がる、港湾荷役であれば1000分の0.9上がるようなことで働いてくるということです。ちなみに、いちばん低い料率が今1000分の6ですが、大体上がるのですが、上がる割合としては1000分の0.1〜1000分の0.3ぐらいです。ただ、現行の労災保険率の決め方が1000分の1の単位で決まっています。これが例えば1000分の6.いくつというのも、まるめて1000分の6ぐらいにしている所もあるわけで、事業によっては上がる割合が0.1、0.3であっても、今の考え方でいきますと、1000分の7というふうに料率が設定される事業場も出てくる可能性はあるということです。
以上でございます。
○ 座長
以上、前回宿題となっておりました資料が出ておりますが、御要望なさった方で御意見、再質問がありましたらどうぞ。
○ 委員
介護保険と労災保険の関係ですが、10頁にありますように労災保険の方で、ホームヘルプサービスとか、ショートステイ的なものとか、短期滞在介護というようなものがあるわけです。こういうものは介護保険法でも、11頁にありますように、訪問介護とか、通所介護とか、そういうものがありますので、ダブっているわけです。介護保険の方は、例えば要介護度5ということになれば37万円ぐらいが限度額ということになっていて、この限度額というのは、どこに使うかというのは本人とケアマネージャーとの相談の中で決められるということですから、ホームヘルプサービスのものを少なくして、リハビリならリハビリの方のサービスをたくさん受けようとかいうことが出来るわけですね。ということは、労災保険の方の労働福祉事業として行われるホームヘルプサービスというものを仮に100%受けて、一方において介護保険法のほうのホームヘルプサービスは全く受けないということをケアプラン上で作れば、結局、介護保険法の上限の37万円というものプラス、労災のホームヘルプサービス10万円と、短期の滞在介護サービスが受けられるということになるわけだと思うのです。逆にそういう選択をせずに、介護保険のほうでホームヘルプサービスを選択すれば、その部分が労災の方のホームヘルプサービスから出るということになるのですか。何か不均衡が出ませんですか。
○ 事務局
私の説明が足りなかったかもしれません。まず、介護(補償)給付が支給される人が、仮に10万円とします。ホームヘルパーを呼んで、現実に10万円ぐらいかかったということであれば、労災から介護(補償)給付が10万円出ます。10万円分をまず労災から出し、これを超える分については、介護保険のサービスをヘルパーでもいいですし、ショートステイでもいい、使ってくださいということになります。ただ、もちろんその部分については、1割負担が本人にかかるわけですが、介護(補償)給付の対象になるものについては労災から出しましょうという考え方です。
もう1つ分かりにくいのが、労災事業としてのホームヘルプサービス事業だと思います。これは、介護保険のサービスとダブるのではないかという印象を持たれる方もいるかと思いますが、介護保険のほうは原則として65歳以上の方で要介護の方々です。65歳未満の人については、アルツハイマーとか、高齢、加齢に伴う疾患に伴って介護が必要になった場合だけです。労災では、ホームヘルプサービスについても65歳以上ということではなく、重度被災者ということでやっていますから、介護保険の認定の対象に入らない人もいるわけです。また、要介護度の認定の考え方も、介護保険というのは、どれだけ手間がかかるかということで要支援から要介護5までを認定する。労災のほうは、実際の障害の程度によって、1級、2級、3級の程度によって重度かどうかを決めているということで、介護保険だけでホームヘルプのサービスが労災の人も全部カバーできるかというと、必ずしもそうではない。年齢の問題とか認定の問題で、介護保険で認定されない人も出てくる可能性があるということで、事業としてはホームヘルプサービス事業というのも労災でやっているということです。
ただ、実際問題、介護保険が施行されるということも勘案して、予算的には労働福祉事業を議論した時も御報告しましたが、相当絞り込んだ予算を組んで、労災の中でやっているということです。
○ 委員
労災の方は、ホームヘルプサービスの場合はこうですよということで、一定の限度額が設定されているわけですね。
○ 事務局
今のような調整の対象になるのは、給付というレベルで、労災保険と介護保険の給付が両方受給できる、という人達で、こういった調整をするということです。
○ 委員
例えば、ホームヘルプサービスとかショートステイサービスを労災被災者で65歳以上の人が受けようとする時には、ホームヘルプサービスを何回受けるかというのは、本人の選択でいろいろ幅があるとしても、介護保険法上のサービスはすべて受けられる。一方において、労災保険の労働福祉事業としてのホームヘルプサービス、あるいはショートステイは、介護保険法のサービスとは全く別の形で給付が受けられるということでいいのですね。
○ 事務局
自己負担の割合が違っておりまして、例えばホームヘルプサービス事業であれば、労災特有の介護というものについて、ヘルパーには講習とかノウハウを教えておりますので、費用がかかっているという意味で自己負担が3割ということになっていまして、そこは介護保険とは差があるわけです。3割でもいいから、自分に合った介護を受けたいということであれば、こちらの方を選択できるということです。
○ 委員
要するに、介護保険法のサービスは完全に受けていて、それとは別に労働福祉事業のサービスは、自己負担はもちろんありますが、それはそれで全く介護保険法で給付を受けていようがいまいがにかかわらず、受けられるということですね。
○ 事務局
ただ、現実問題としては、介護保険で要介護度が認められれば、労災でも介護(補償)給付の対象にはなるのではないか、そういう人が多いのではないかと思います。そういう給付レベルでは調整します。
○ 委員
在宅の介護サービスのことですが、現状の制度においてそうなっているということですね。しかし、それはおかしいと思うのです。完全に介護保険法に埋没させる必要はないと思います。やはり、災害を受けているという特殊性がある方々の問題ですから、それなりの対応というのはあっていいのだろうと思いますが、しからばそれで介護保険法のホームヘルプサービス、あるいはショートステイサービスというのはそちらの方の制度で受けて、それとは全然別の形で、もちろん自己負担はあるにしろ、労働福祉事業としてのサービスが受けられるというのは、どういう方法が良いのかは直ぐには答えが出てきませんが、何らかの施策的な対応が必要ではないかと思うのです。
○ 委員
行政の方がどうお考えになっているか分かりませんが、労働福祉事業は、少なくとも現在のところ、介護保険と違って特定の状況にあれば必ずこれだけの給付をするという仕組みにはなっていませんから、たぶん被災者の方の方から労災ホームヘルプサービス事業の派遣を受けたいといった時に、行政の方で然るべき調査をして、必要な限度でサービスを行うということになるのではないかと思いますので、先ほどの御懸念にあるような形での重複というのは、あまり問題にならないのではないかという気がいたしますが。
○ 事務局
委員の想定されるのは、介護保険では要介護度が認定されるが、労災の介護(補償)給付の対象にはならないという人のレベルですね。
介護(補償)給付の対象になれば、給付レベルでは調整しているわけです。要介護度が認定されて介護(補償)給付の対象にならないというのが全くないとは言い切れませんが、そういうケースが実際問題どのくらいあるかということだと思うのですが。
○ 委員
要介護度の1〜5の方々というのは施設サービスが受けられるわけですね。1の方でも入れるし、5の方でも施設サービスは受けられる。ただ、どのくらい入れるかというのは別なのですが。しかも、今までであれば措置制度ということですから、市町村の行政措置で特別養護老人ホームに入るということだったのですが、今回からはそういう制度ではなく、契約によって施設に入るということになって、その時にケアマネージャーがケアプランを作るということですから、行政措置によって入所ということとは今度は変わってくるわけですね。
私が申し上げているのは、施設サービスを受ける方の問題ではなくて、要介護度4とか5の方々でも、在宅サービスを受けようという方々が現実に大勢いらっしゃるわけで、そういう方々で労働福祉事業としてのホームヘルプサービスを受けようとする方々の、その辺の問題というのが調整されていないというのが、政策的に問題があるように思いますけれども。
○ 座長
ほかに何か御意見はございませんか。
○ 委員
これは、今回の法の改正ではなく、介護保険制度が出来た時に、労災による介護(補償)給付との関係をどう取り扱うかということで、すでに整理がされてある問題ですよね。その整理をした中で、いわゆる優先をして労災の保険の給付を適用するということになっていて、それを超える部分については、全部介護保険制度からカバーがされる、ということに整理がされていますから、在宅介護を選択した場合でも、それに必要なものについては108,000円までを限度に、労災保険のほうから補償されるし、それを超える費用がかかるということであれば、あとは介護保険から出るということで整理がしてあるので、何もおかしくないと思うのですが。これは、もうすでに整理してあるものでしょう。
○ 事務局
委員の御意見は、労働福祉事業でやっているものについても、介護保険の給付と調整すべきではないかという御意見ではないかと受けとれるのですが、考え方は、おそらく給付レベルで、それが個人の権利になっているものについては、介護保険と労災保険それぞれ調整する必要があるだろう。ただ、労災保険の方で、いわば恩恵的、福祉的にやっている部分についてまで、個人の権利のものと調整するのは、今の社会保険なり労災保険の考え方にはないと思うのです。給付ということでは、当然要介護ということで支給事由は同じわけですから、それは調整しなければいけませんが。
○ 委員
今言われたのは、そのとおりですか。労働福祉事業で行っている分まで、調整をすべきだという御意見ですか。
○ 委員
実態として、ホームヘルプサービス的なものを受けられる状況というのは、保険給付で行われる部分と、労働福祉事業として行われる部分と両方あるわけですね。労働福祉事業として行われる部分については自己負担がありますよということの違いがあるわけですが、もちろん法律に基づいて権利として給付されるものと、労働福祉事業として給付されるものとの性格的な違いはありますが、しかし労働福祉事業として行われるものであっても、個々人が申請をした時に断るということは、ほとんど出来ないというのが実情の世界だと思うのです。そういう方々が、一方において来年4月から介護保険法が施行になるという段階で、保険給付の段階のものについては一応の調整がなされることになっているみたいですが、ただその場合でも、片方は包括的な形での限度額の設定、他方、労災保険の方は、介護に要した費用ということで、必ずしもホームヘルパーに来ていただくかどうかというのは、別の形で出しているという面もあるわけですね。
○ 座長
今、この問題について委員から再三御意見がございました。他の委員の方々は特段御異論はないようですので、一応、委員の御意見は御意見としてテイクノートしておくということにしたいと思いますので、それで御了承いただきたいと思いますが、それでいかがですか。
○ 委員
また別途の機会にお願いします。
○ 座長
それ以外で資料が出ておりますが、特段なければ積み残しのテーマに入りたいと思います。では、本題に入りたいと思います。労使から出された制度改善要望事項の中で、前回の小委員会で出ておりました資料、使用者側から出された事項で積み残しが「積立金の財政方式の見直し問題」「給付基礎日額の最低・最高限度額の見直し」「民事損害賠償との調整問題」、この3つについて審議をしていきたいと思いますが、順次それぞれいきたいと思います。
まず、積立金の財政方式の見直しについて、使用者側から意見が出ていますが、事務局の考え方も含めて、とにかくまず意見を聞いた上で審議に入りたいと思います。よろしくお願いします。
○ 事務局
資料16頁です。これは、今のいわゆる充足賦課方式といっております年金の将来給付の積立の考え方を簡単に説明したものです。労災というのは、基本的には事故を起こした事業主、あるいはその世代の事業主集団が責任を持つべきである、というような考え方です。逆に言いますと、事故に責任がない後の世代の事業主に負担を求めるというようなことは基本的にはしないという考え方で、将来の年金給付に必要な費用というものも事故を起こした時点で徴収するというような考え方でやっています。したがって、将来の給付に必要な原資といったものが、積立金として必要になるということです。
下に図が書いてありますが、非常に抽象化して説明すれば、事故を起こした年に必要な将来の年金給付額というのを点線で示していますが、これを保険料として徴収するわけです。斜めの線は、運用益なども含めて将来の年金給付に当てていくということです。いわば、必要な額というのは、その時点で短期的にとり、長期的に運用益も含めて支給していくという考え方です。ただ、こういった考え方をとったのが平成元年からで、平成元年以前においては、年金の必要給付額の6年分について徴収するという考え方でやってきたわけです。そういう意味で、平成元年以前の年金の受給者については、積立不足が生じているということです。
そのような点も含めて今後の見通しですが、17頁であります。現在、年金受給者数は約22万人です。単年度では、必要な年金給付額が約4,500億円ほどです。いわば、この22万人の受給者に対して、10年度末の積立金が6兆5,000億円ございます。22万人の年金受給者について、平均的には30年ちょっと支給する受給期間があるのですが、6兆5,000億円で将来の22万人の全額を賄うということです。積立不足があるというふうに申し上げたのですが、平成元年以前の分について積立不足があり、今のところは76%の充足率です。本来であれば、その22万人に将来年金を滞りなく払っていくためには、8兆5,000億円の積立金が必要なのですが、現在のところ6兆5,000億円しかない。したがって、充足率は8割弱であるということです。
これが今後どういうふうになるかということですが、最近、労災事故の減少ということもあり、新規の年金受給者が若干ずつ減っております。それを毎年0.5%ぐらいずつ減少するというふうに想定しますと、11年度以降に発生する年金受給者ということで、例えば平成20年には7万人、平成30年には12万人となってまいります。こういった今後発生する年金受給者の方々については、その時点で必要な将来分を見越した額を徴収するということで、必要な額を積立金に回していくという考え方をとっているわけです。
考え方としては、「年金原資と保険料」というふうにまとめてありますが、過去に発生した年金受給者に対する給付は、その前年度までの積立金とその運用収入によって賄う。毎年徴収している保険料は、その年に発生した労災被災者に対する給付を賄う分だけであって、過去に発生した年金受給者に対する給付分は含んでいないということです。
平成元年からこういう方式にしたということで、比較するとどうなるかというのが18頁の表です。平成元年の充足賦課方式に見直した時の推計によれば、平成30年までの30年間に、過去の不足分を積み立てるといったことでやってまいりました。その時、過去債務の必要に充てるということで1000分の1.5といったものを料率に含めて、過去債務として徴収していたわけです。30年間で1000分の1.5で過去債務がすべて解消するというような考え方でやってまいりました。
その後、平成の初期の頃の、いわゆるバブルの時の保険料収入が予想外に伸び、積立金の額が増えたわけです。そういったことを勘案して、30年間で過去債務を解消するということは変えずに、その時々とる料率を1000分の1.5から1000分の1.1にしたのが平成7年です。さらに平成10年からは1000分の1.0ということでやっております。30年間で過去の積立不足を解消するという考え方は変えずに、積立の状況に応じて、毎年の過去債務として徴収する料率を下げてきたという経緯です。
現在の推計と先ほどの推計を比較してみますと、平成10年時点では、元年では充足率50%ぐらいであろうと想定していたのですが、現在では76%まできているということです。ただ、76%まできたから遅らせてもいいのではないかということではなく、30年間ということは変えておりません。絶対に変えられないということでもないかと思うのですが、変えれば、例えば40年間で積みましょうと言えば、平成30年から40年までの事業主集団、平成元年以前の事故に全く責任のない事業主集団が、平成元年以前の債務も負担するということになって、過去の債務を将来の事業主集団にどんどん繰り延べていくということになり、それは適当ではないのではないかと考えているわけです。
結論的に申し上げますと、充足賦課方式というものは、事故を起こした事業主集団が将来の年金給付についても責任を持つという考え方で妥当なものであろうと考えておりますし、過去債務につきまして、30年間で解消するといった考え方は変えない方がいいのではないか。ただ、積立の状況によっては、これまでの1000分の1.5から1000分の1.1、1000分の1.0というふうに下げてきましたが、これは保険数理に基づき必要な計算をした上で、下げても大丈夫だということであれば、それはそれで対応していける問題ではないかと考えているところです。
○ 座長
事務局の考え方を伺いましたが、見直しを要望されている使用者側の方から何か御意見はございませんか。
○ 委員
18頁のところですが、推計の前提条件がありますが、賃金上昇が3%でいったものが、やがて2%になって、1.2%になる。現価率というのは、予定利率というか割引率だと思いますが、5.5%というのが、やがて2.0%ということで描いておられる。厚生年金の改正法案が今、国会に出ていますけれども、その時の現価率といいますか、予定利率というのは、今まで5.5%を使っていたのが、今は4.0%です。また、賃金ですが、従来はたしか4%を使っていたのが、今回の改正で3.5%か3%に落としたと思うのです。厚生年金の方の賃金の動き、割引率というのは、要するに運用の利回りの話ですから、従来であれば大蔵省に預託しているのが、労災の方は従来どおり、しかし厚生省の方はこれから自主運用をやるということで、若干の違いはあるにしろ、同じ政府が使っているものとして、厚生省がやっているのと労働省がやっているのとの違いについて、どういうふうに判断されて、こういうふうに現価率2%とか、あるいは賃金上昇1.2%とかいうふうにされたのか、その辺はどうなのでしょうか。
○ 事務局
まず、賃金上昇率の件について申し上げます。この1.2%というのは、この7月に経済審議会「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」、いわゆる経済計画のようなものですが、ここに今後20年程度の姿を描いております。そこに国民所得が今後どれくらい伸びるかという数字が出ており、その国民所得の伸びを賃金水準に換算した結果が約1.2%ということになり、その1.2%を見通しとして用いたわけです。
次に現価率ですが、労災年金の積立金というのは、全額大蔵省の資金運用部に預託をしております。今現在、新規の預託の利率、長期の7年ものから数カ月のものまでいろいろあるわけですが、その中でいちばん利率の高い7年ものの利率が現在約2%ということになっておりますので、その水準がずっと続くという仮定で2%と置いたものです。
○ 委員
この見通し自体は、ごくごく最近の時点で見通したものということですと、過去債務分料率というのは今現在は1.1厘ですが、その時に推計をしたものとは違うわけですね。
○ 事務局
1.5厘を1.1厘に変えた時は、賃金の上昇率は3%、現価率は4%と見込んでいたわけです。
○ 委員
賃金はずっと3%でいきますと。現価率はずっと4%でいきますというふうに平成7年の時の推計ではしていた。それを今年の7月のデータを使って、8、9月ぐらいでもう一度見直しをした時に、このようにしたということですか。
○ 事務局
はい、そうです。
○ 委員
そうすると、厚生省の予定利率4%というマクロのものは全く考えないで、国民所得の伸びをそのまま使うということをなさったということですか。
○ 事務局
伸びというか、将来予測です。
○ 委員
これは、実質国民所得ですか、名目ですか。
○ 事務局
名目です。
○ 委員
そうすると、物価がたぶん1%ぐらいは上がるとすれば、賃金は0.2%ぐらいしか伸びないという前提条件になりますね。
○ 事務局
そのとおりです。
○ 委員
前提条件について、少し議論をする必要があるのではないでしょうか。
○ 座長
今の経済計画で、物価上昇率を年1%まで見ていますか。そんなに高くは見ていないのではありませんか。
○ 委員
たしか1%だったと思うのですが。
○ 委員
平成7年に推計された時には、平成30年で充足率が100%になるという想定をされたのでしょうが、これは見直して、数字がこれだけ変わって最終年度が合うというのは、どこにどういう変化があったのか、それだけをちょっと教えてください。
○ 事務局
先ほど事務局の方から御説明申し上げたとおり、これまでずっと料率を見直す際に、その都度それまでの過去債務の充足状況についてチェックをしまして、それ以降、どれくらいの料率を設定したら30年までにちゃんと積み上がるかという計算をしたわけです。最近では、10年の4月に見直しをした段階で、1.0厘にすれば30年までに積み上がるということになったわけで、見通しの違いというのは、料率の見直しの段階で過去債務分の設定を変えることによって調節をしてきたということです。
○ 委員
平成7年の時には、平成10年以降の過去債務分の料率は、当初の設計は1.0厘ではなかったということですね。
○ 事務局
はい、そうです。
○ 委員
その変化の中身を、前のがありましたら教えてください。
○ 事務局
それは18頁に載っておりますように、平成7年の段階では、1000分の1.1と見込んでいたわけです。
○ 委員
資料をお願いしたいのですが。前提条件は、いろいろある意味で科学的に、しかも先の話ですから、当たるか当たらないか分からない点もあるわけですが、たまたま厚生年金が予定利率を4.0%で設計をしておりますので、仮にそうであるとすればということで、どうなるかというデータを御提供いただきたいという点が1つ。併せて賃金上昇率なのですが、これも厚生年金の財政再計算で用いた賃金上昇率をそのままの形で使ってみたらどういうふうになるかという、あくまでも計算上の参考のためのデータですが、それを別途御提供いただければと思います。
○ 事務局
今のデータの計算はしてみます。ただ、申し上げておきたいことは、私どもは平成10年から30年までの20年間、ずっとこれでやるということを申し上げているわけではありません。料率改定というのは、3年に1回ということでやっております。その都度、基本的な料率改定と併せる形で、積立金の状況、賃金の状況、金利の状況を踏まえて、必要な再計算を3年ごとにしていくということです。今やったから20年間ずっとこれでやるということではない、ということを御理解いただきたいと思います。
○ 委員
ついでに今申し上げたものに加えて、過去債務分の料率を現状の1.0厘のままで引っ張れば、要するに100%になるのはいつの時点になるかというのが分かるはずだと思いますので。
○ 事務局
1.0厘で引っ張った場合に、30年までに積み上げるという前提でやっているわけです。
○ 委員
そうではなく、過去債務分の料率を1.0厘、現価率を4.0%にして、賃金上昇率を厚生省のものと同じにすれば、いつの時点で100%の充足になるかというのが分かる表を御提供いただければということです。
○ 座長
結論というか、要するに議論の焦点は、過去債務の解消、充足率100%について、事務局は平成30年度をメドにしたいと。その間、雇用の情勢、あるいは賃金の情勢、あるいは現価率が動けば、当然過去債務分の料率も動いていくということを考慮すると、30年を一応のメドにするという考え方が良いのか悪いのか。あるいはもっと伸ばすべきだというのか、あるいは情勢がよくなって充足率がどんどん上がっていけば30年前に片付く可能性もある、あるいは片付かなくてもいい、その場合は料率を下げて30年までの余裕を持ってやればいいではないかとか、いろいろ意見があると思うのですが、その辺のところを少し議論していただければいいと思うのですが、どうでしょうか。
○ 委員
仮に賃金上昇率を3.5%か3%ぐらいで引っ張って、現価率を厚生省が使っている4%でやると、過去債務分について1.0厘で持っていかなくても、早目に充足率100%になるであろうという点が1つ。もう1つは、平成元年時点で30年の計画で充足率100%にしようということできたわけで、今、その3分の1が経過したわけですが、そういう観点からすれば、必ずしもあと20年間で充足率100%にしなくても、例えばあと25年とか、あるいは30年とかということで充足率100%に持っていくということもあり得ると思うのです。問題は、政策的な判断で、何年ぐらいを目標に充足率を100%に持っていくかということで、極端に言えば、常にある一定部分は先送りしても、要するに事業主が1人も日本からいなくならなければ大丈夫だという考え方も一面においてはあるのです。そこまで言うのはともかくとして、必ずしもあと20年間で充足率を100%に持っていかなくても、もう少し延ばした形で持っていっても良いのではないかと思っているのです。そういう観点で、いろいろな資料をお願いしたいと思います。
○ 座長
その点は、事務局の方から説明がありましたね。要するに、今災害をたくさん起こしている人の負担を、災害を減らしていった30年先の事業主の負担にすり変えてもいいのかどうかということについて、先ほどから事務局は言っていましたが、その辺の考え方も含めて、先延ばしが良いのかどうかという議論をしていただいたほうがいいと思うのです。
○ 委員
今ここで議論しているのは過去債務分についての議論で、前の頁で出てきた充足賦課方式の方については、事務局の考え方のとおりとすれば、今現在災害を発生させた事業主の、その責任部分を将来に引っ張るということではない。要するに、平成元年時点で借金があった。その元年時点での借金をどうやって返していくかというのが、この過去債務分についての問題ですので、そこのところは政策的に、あるいは事業主の最近の状況ということを考えながら、全く払わないつもりはないし、必ず払わないといけないわけですが、そこのところの選択の問題だというふうに思います。
○ 座長
今の災害は今の時点で払って積立てていくという、それはそれでいいのです。
○ 委員
当面の保険料率を軽減するということが、主張の趣旨、背景にあるということは分かりましたが、今、確かに状況は厳しいのですが、むしろ不正未加入を少なくするとか、未払いをきちんと払わせるとかいうことこそ、現状では重要なことではないかと思います。私どもとしては保険の本来の趣旨からいけば、早く整理をして、当年払いという保険の趣旨にかなった積立方式にしていくということをするためには、やはり20年程度が限度ではないかと考えているということを申し上げておきたいと思います。
○ 事務局
御指摘のあった計算は、やってみますが、賃金上昇率と現価率がどういうふうに効いてくるかといいますと、賃金上昇率というのは、要するに必要な年金支払い額が増える方に効いてきます。どういう意味かといいますと、賃金スライドがかかりますから、賃金上昇率を高く見込むと、必要な年金原資は多く見込まなければいけないということになります。一方、原価率というのは、逆に運用益がいっぱい入ってくるということで、いわばプラスの方に働く。今の2.0%を4.0%にして、1.2%を3.5%ぐらいにしてしまうと、逆に賃金上昇率の方が割合としては高く見込むことになり得るので、必ずしも委員が想定していることには場合によってはならないかもしれません。これはいずれにせよ計算の結果だと思います。
それから、過去債務分、平成30年というのは延ばしてもいいではないかということは、私どもの考えを言えば、平成元年時点で30年ローンで組んだわけです。それを要するにいまの段階で親子ローンに組み換えようと、しかも子供がいないわけです。今からいくと20年後の事業主集団というのはわからないわけです。そういう意味では、そういった公平という観点からは、一旦30年で過去の債務を精算しようということを延ばすのは、将来の事業主集団との公平の観点からいくと、どういうものなのかなと私どもは考えたわけです。
○ 委員
もちろん、その点があることは否定できないのですが、結局、当初平成元年の時点で、過去債務分を1.5厘に設定してきたわけですね。しかし実際には予定されたよりも積み上がってきたわけです。ということは、平成1桁時代の事業主というのは、余計に負担をしてきたと、結果としてですが、そういうことが起きているわけですので、その辺はここしばらくの間で調整してあげないと、事業主もどんどん変わっていくので、そういう意味では、いろいろな側面を勘案しながら検討していっていい課題ではないかと思います。
○ 委員
言葉尻を取って悪いのですが、余計に負担というのは、計画よりもたまたま積立金が大きくなっただけで、当時の事業主がずっと災害を起こしてきたわけだから、これは本当は当年度分ということからいえば、特別に払いすぎたわけではないということです。
もう1つは、私はあまり賃金上昇率とか、現価率などということには触れたくないと思っていたのですが、こだわられるようですから。やはり4%で厚生省並みに見積るという、よそがやっておけばいいのかということではないと思うのです。現在はゼロ金利時代と言われているわけですから。本当に厚生省が見積っているような新規の預託利率は、最高が今3%と言われたわけだから、3%を超える利率で見積られても実際に合わないから、それは私は拒否をします。だから今の現状で考えるとすれば、現在の最高利率の3%というものを超える利率で計算するということは間尺に全然合わない。この辺はよそがしているから、ということには全然ならないということを考えておかなければ。これはあまりにも他力本願ですから、これははっきりと言ったほうがいいと思いました。
もう1つは、今から20年を5年延ばした場合に、保険料率がどれぐらい引き下がるのかも併せて試算で出していただければ。できれば資料を作るのならば、大体従業員100人の所でどれぐらいの負担軽減になるのかということが分かるもの、そういうものも付加していただきたい。
○ 座長
ほかに委員の御発言はございませんか。それでは、いろいろと推計の前提条件になる点について御要望もあるようですし、ほかの代替案もあるようなので、その辺の御意見を踏まえて、もう1度いくつかの選択肢を提示していただいて、その上で過去債務問題等についても一応の結論を出していきたいと思いますが、よろしいでしょうか。それでは、さらに次回、資料をいただけますか。見直し問題については、事務局の意見もあるようですが、労使の御意見もあるので、さらに次回展望していきたいと思います。
以上で、労使から出された意見の中で、使用者側から「その他」というのがありましたが、これはまだ準備が整っていないみたいなので、過去の建議で議論された事項の審議に入りたいと思います。まず最初が給付基礎日額の最低・最高限度額の問題について、事務局から御説明をどうぞ。
○ 事務局
資料の19頁です。「給付基礎日額の年齢階層別最低・最高限度額について」です。まず制度の趣旨ですが、年金給付ということになると、割と長期間にわたって支給されることがあるということです。そういう点から考えると、この趣旨の(1)にあるように、例えば日本の年功賃金制の下で、若いときに被災すると、若いときの賃金水準がそのまま給付基礎日額に反映して、そのままで長い期間年金が支給されるという問題、逆に中高年で賃金が高いところで被災すると、一般的には高齢者になると稼得能力が落ちるのにもかかわらず、高い給付基礎日額で年金が支給されるという問題がありました。そういった点で不合理ではないかということで、昭和61年の労災保険法の改正で、年齢階層別の最低・最高限度額といったものが年金の給付基礎日額について設けられています。
具体的な設定の仕方は、労働省の賃金構造基本統計調査を使い、年齢階層別の賃金について第1・20分位数および第19・20分位数を基礎として、年齢階層別の就業実態、その他の事情を考慮して定めるとなっています。少し分かりにくいかと思いますが、具体的には上5%のところで最高限度額を決める、下5%のところで最低限度額を決めるという発想です。ただ、65歳以上については、一般的にはリタイアする人も多くなるということで、上5%、下5%を考えるとき、非労働力人口の割合も一定程度勘案するということになっています。
ただ、制約が2つありまして、最高限度額については、ILOの第121号条約、これは業務上災害についての条約で、我が国も批准していますが、この条約によれば、給付の最高限度額を作るときは、全労働者の賃金第3・4分位数に満たない場合には、それを下回ってはいけないという規定があります。したがって、その最高限度というのは、このILOの条約の制約がかかるということが1つです。
最低限度額については、給付基礎日額の最低保障額を決めています。現在4,290円ですが、下5%の賃金というものがこれを下回る場合には、最低4,290円にするという制約があるということです。
具体的にどう決まっているかというのが20頁です。年齢階層については、下の横軸です。19歳まで、それから20歳以降は5歳刻みになっていて、70歳以上はまとめています。
下のステップ、19歳の所であれば4,388円、20〜24歳であれば5,335円、これは賃金構造基本統計調査で見て下5%で取った賃金で、これを最低限度額にしています。意味合いとしては、例えば、22歳の人が、その人のもらっている給料に従って給付基礎日額を計算すると、例えば、5,000円になったということであれば、その人についてはその5,335円まで給付基礎日額を引き上げて年金を支給するという制度です。
逆に、上は、例えば30〜34歳であれば1万6,770円という額が出ています。これが賃金構造基本統計調査で見た上5%で取った賃金です。意味合いとしては、今度は逆に例えば33歳の人が業務上災害に遭い、その人の賃金に照らして給付基礎日額を計算すると、例えば1万7,000円になったという場合には、1万6,770円に引き下げて年金を支給するということです。ほかの上の階段も下の階段の意味合いもそうです。
上の方で、1万3,430円が24歳以下、それから70歳以降が1万3,430円、これは同じ金額です。なぜかというと、先ほどのILOの第121号条約で、最高限度を決めるときは、その労働者の4分の3の順位のところを下回ってはいけないという規定があると申し上げたのですが、そのILOの規定が効いてきているのがこの階層です。ちなみに、真ん中の折れ線グラフは、平成10年の賃金構造基本統計調査により算出した年齢階層別の平均賃金です。現状はこういう制度になっているということです。
これについて、次の頁ですが、平成6年の建議では次のような指摘がなされています。真ん中ですが、「労災保険制度は、労働災害によって失われた稼得能力の補填を本来の趣旨・目的とするものであるが、現行の給付基礎日額の最低保障額や年齢階層別最高限度額においては、労働市場における賃金の変動が機動的に反映されていないこと等により、稼得能力が必ずしも適正に評価されていない面がある」ということが指摘されています。
私なりに考えてみると、20頁にお戻りいただいて、例えば最低限度額で見ると、40〜44歳をピークとして、45歳以降はだんだん下がってくる状況にありますが、一方賃金構造基本統計調査で見る平均賃金は、45〜49歳層も上がって、50〜54歳層をピークにして、だんだん下がってくる傾向があり、この辺の差をどう考えるかとか、あるいは、この平均賃金の上がり方と上の階段の上がり方のカーブは、厳密に計算したわけではないのですが、最高限度額の上がり方のほうが若干多いのかなという感じもしますし、その辺を稼得能力との関係でどう考えるかという問題が、平成6年の建議で指摘されたのではないかと受け止めています。
この点についてどう考えたらいいのかということは、何回か前のこの小委員会にも御報告しましたが、労災保険制度のあり方に関する研究会で取り上げたところです。22頁以下ですが、最初は制度の現状の問題点等なので省略させていただいて、例えば、では稼得能力をきちんと反映するにはどういう方法があるか、ということを検討したのが25頁以下です。
まず若年者で、給付基礎日額が低いままとなってしまうのは問題ではないかという点については、例えば平均賃金まで引き上げてはどうか、という方法を検討していただきました。ただ、これについては、先ほどの20頁の図からもわかるように、平均賃金まで引き上げてしまうと、最低限度額が大幅に引き上がりすぎるという問題点があって、いかがなものかということであるとか、27頁で、では高齢者のほうを下げるにはどうしたらいいかということですと、例えば年齢スライド制を導入したらどうかという点を議論いただきました。ただ、それもそれなりに、ではどういう年齢スライドを作るかとか、業種別に作らなければいけないかとか、職種別に作らなければいけないかとか、いろいろ制度が煩雑になるだろうという問題点があります。結局は、最低の方がある程度年功制を反映して上がる、最高限度額の方も、高齢者になると稼得能力が減るという現状を踏まえてある程度減っていくという両方を解決できる制度というのは、やはり今の年齢別の最低限度額・最高限度額を定めるといった制度がいいのではなかろうかと。ただ、ではこれが上5%を取る、下5%を取るということで、日本の年功賃金制の下で稼得能力をきちんと反映しているかどうかというのはまた別の問題で、例えばこの研究会の報告では、10%でやってみてはどうかという点が提案されているわけです。
実はこの年齢階層別の最高・最低限度額というのは年1回改定しています。賃金構造基本統計調査が出るのが確か5月ぐらいでしたので、その年の8月から翌年の7月までの年金に適用するということで、1年に1回、賃金構造基本統計調査を踏まえて改定をしています。私どもの考え方は、労災保険制度のあり方に関する研究会報告なども踏まえて、来年の改定時に、現行制度の下で稼得能力をより的確に反映するようなやり方を検討いただいて、当然労災保険審議会にも報告したうえ、最高限度額・最低限度額を適正に設定していくということがよろしいのではないかと考えています。
○ 座長
ありがとうございました。基礎日額の最低・最高限度額の問題について、稼得能力を公平に表すということで、いろいろな方法がありますが、結局これだということで研究会報告に基づいてやってきているのですが、いまのようなやり方で今後とも続けていく、実施していくということですが、いかがでしょうか。
○ 事務局
制度は、今のままで5%をとった方がいいのか、10%をとった方がいいのかというのは、その時点、時点で御検討いただくのがいいのかなと思います。あるいは必要があれば別の要素を勘案する。
○ 座長
その5%を10%に変えた場合、影響がどのぐらい出てくるかという試算等はあるのですか。
○ 事務局
研究会のときに確かやったのですが、今は記憶になくて。今どれぐらい効いているかというのは、下の方では、いちばん高いところでは40%ぐらいの労働者の給付基礎日額が上がっている。最高のところでは、1割から2割ぐらいの層が下がっているということがあります。それを10%にした場合も確かやったと思うのですが、今は記憶にありません。
○ 委員
確か資料を作ったのですね。
○ 事務局
そうです、あります。
○ 委員
その考え方というのは、研究会の中でも討議した上で出たことですから、労使とも、これについては意見は出されなかったのですか。
○ 事務局
研究会は大学の先生に入っていただいて、特に労使からヒアリングするとかはやっておりません。
○ 委員
発表された時点で組合が意見表明したとか。
○ 事務局
今のところ、そういうことはありません。
○ 委員
昭和61年に入れたときの発想が、賃金体系が年功的だからということでやっているのだとすれば、その時点と今の賃金体系についての労使の考え方には、変動というか、変化があるのだろうと思います。あるいは意識の点での変化の問題と、実態的な点での変化があるので、端的に申し上げれば、この賃金について、年功的なものの要素をなくすとか、あるいはぐんと少なくするとかそういう方向で、この賃金というのは、その御本人の成果とか、業績で測っていくということのウエイトが高くなってきているということだと思うのです。そういう意味からすれば、物事を見るときに、年齢で見ていって、年齢が上がるから上げないといけないという考え方は払拭していかないといけないと思うのです。
ただ、さはさりながら、1つの仕事に就いていれば、経験とかあるいはノウハウとか、そういう面が充実してくるという点がないわけではないのです。その辺は結局勤続という形でなかなか取りにくいので、そういう意味では、年齢という問題も1つのメルクマールかなとは思いますが、あまり年功賃金の要素だから、こういう最低・最高を設けたという考え方ではなくて、要するに実態として1人の人がキャリア形成をしていこうとする中で、若い年齢で被災したときに、その人がキャリア形成があればもっと上がっていったであろうということから、どうするかという発想かなと思ったりするのです。そういう意味からすると、いまの5%が適切かどうかという点はあるので、もっと上の方、下の方をカットしていくという方向は、1つの方向だろうと思います。ただ、それは年功賃金という考え方はどうかなと私は思います。
○ 事務局
一言で年功賃金と申し上げたのですが、私の考えていることをもう少し正確に言えば、日本の現実を見ると、やはり年齢階層別に稼得能力に差があるでしょう。若いときに被災して、例えば非常に重度の障害を負って働けなくなってしまったということであれば、その人は年齢が高くなれば、稼得能力が高まった可能性があるにもかかわらず、低いままでいくのはやはりおかしいではないかということで、こういう制度を作っているということです。年功賃金自体が、おそらく見直しの気運にあるというのは委員のおっしゃるとおりだと思います。
ただ、現実に賃金構造基本統計調査などを見ると、年齢階層別に平均賃金に割と差があるということも事実なので、それを年功制というかは別にして、年齢階層別に、キャリアが長くなれば稼得能力が高くなるということは窺われるので、それを年金の給付基礎日額にも、ある程度反映する仕組みは必要ではないかという考え方です。
○ 委員
言うまでもなく、年金の趣旨は稼得能力を補填するというものです。それから給与制度、体系が変化してきていることも私どもは承知しています。そういう変化が起これば起こるほど、若いときに被災をした人の稼得能力を補填するという制度の趣旨からは遠ざかるという傾向が最近出てきているとも考えるわけです。低いところを上げて、基本的には上げることについては、そういう方向で私も賛成をしたいと思いますが、まず前提として、20頁の表がありますが、上限に引っ掛かる人は何人ぐらいいるのか、下限に引っ掛かる人がどの程度いるのかということがもし分かっていれば教えてもらいたい。
年功賃金部分、いわゆる平成10年の賃金構造基本統計調査で、平均賃金が出してあるこの表でも分かるように、今は仕事給や能力給のウエイトが50%、あるいは平均的には上回るということになっているので、若い人の最低賃金と高齢者、働き盛りの人の高いときのピーク賃金との格差が実態として非常に狭まってきているのです。そういうことから言うと、19歳までの下限と、54歳のところの上限金額との格差、階差というか、これが6倍ぐらいというのは、いわば古い賃金制度時代のものが残っているのではないか。上下5%ぐらいを切ると、これは特異な分野で、金融分野などは特に銀行を中心にして飛び出た賃金実態があるので、これらが表れているのではないかとも思いますが、見直すに当たっては、やはり賃金の平準化というか、従来に比べてそういった最低と最高の間の差というか、倍率というか、そういうものが非常に縮んでいるという実態などを踏まえて、給付の上限と下限とについて見直していただくということがいいのではないか。
ただ、下だけを上げて、上を切らないということになると、先ほどの議論に戻って、過去債務の積立てが20年で本当にできるかどうか、というものにもかかわってくるので、これは新たな料率の見直しを提起しない範囲で、そういう現在起こっている矛盾を改善するという立場で、是非議論をさせていただきたい。
○ 座長
今の御意見は、上下の最高・最低の幅を縮小していくと。だからそれは5%から10%にするとか、それは高いところが下がってくるのは当然です。下が上がっていくでしょうから。10%がいいかどうかですが。
○ 委員
上下10%にするのではなく、例えば20頁の19歳までのところの下限の4,388円と平均の5,953円との間が非常に接近している。ところが50〜54歳のところの7,431円と平均賃金との間、そしてまたその上の2万4,000円の最高額との間の割合がちょうどバランスしているのかどうか。だから前提条件としては、上限に引っ掛かっている人、下限に引っかかる人がどの程度おられるのかという実態を見ていただいて、その辺を新しい線を引くことが適当ではないかと思います。
○ 座長
稼得能力を反映させていくという意味でいけば、労働市場の賃金がどうなっているかということの反映でもあるから、それはよく見た上でやれば。
○ 事務局
今何人というのは持っていないのですが、パーセントでこういった限度額が適用される年金受給者の割合はあります。まず最低の方からいくと、20〜24歳が29%、25〜29歳が35%、大体あとは30%の上ぐらいです。逆に最高限度額の方は、例えば30〜34歳であれば2%、35〜54歳まではそれぞれ全部1%です。ただ高齢層になると、65〜69歳層が14%、70歳以上は19%ということで、高齢層になると稼得能力が一般的には落ちるということを反映させるという趣旨は、できているのかなと考えています。
○ 委員
今の2%、1%という数字は。
○ 事務局
100人年金受給者がいれば、1人がこの最高限度額を超えているので、そこに落ちているということです。
○ 座長
それではこの研究会報告に基づいた最高限度額・最低限度額の調整等については、やはり稼得能力の変化を反映させていくということで、限度額の設定について改善していくことが必要ではないかと思うのです。大ざっぱに言うと、そういう方向かなという感じがしていますが、一応議論としてはよろしいでしょうか。
それでは、民事損害賠償との調整問題、これは建議として従来からある問題で難しいのですが、事務局としての考え方をお願いします。
○ 事務局
問題の所在としては、資料の33頁を見ていただきたいと思います。今座長からも出された平成6年の建議で、なお書きの所ですが、要するに二重補填がなされる可能性があるという問題があることを前提として、専門的な検討が行われる必要があるということで、それを受けて、法律の専門家による検討を行うべしということで宿題をいただいています。これについては、研究会で検討していただいたものとして、何回か前に御報告もしましたが、それも併せて、今回、御説明させていただきたいと思います。
29頁ですが、まずそういう問題を考える前に、現行の民事損害賠償と労災給付との調整の方式について簡単に御説明します。まず民事損害賠償には2つのパターンがあります。事故を起こしたのが当該事業主である事業主責任の災害の場合と、いわゆる第三者、事業主ではない別の方がその事故を起こした場合と2つのパターンがあるわけです。
まず最初に事業主の責任損害の場合の調整の方式です。下の図を見ていただきたいと思いますが、どういうことかというと、上が「民事損害賠償」、下が「労災年金」です。まず「既支給分」が労災年金のいちばん左側です。要するに、これは労災年金で支払われた分については、民事損害賠償から免責され、それは払わなくていいですよと、これは当然のことです。あともう1つ、労災年金で給付される分のうち、前払一時金最高限度額、これは要するに、失権など身分に変動があっても、少なくともこの額は間違いなく年金受給者に払われるということが決まっている額です。これは何があっても労災年金の受給者はもらえるお金ですから、それについても控除していいということで、それ以外のものについて民事損害賠償の方はお金を払いなさいということです。
さらにもう1つ、労災年金については、前払一時金の最高限度額を超えて、ずっと年金が払われるわけですが、将来払われる部分については免責の対象とはなっていないわけです。ただ、そのうちの一定期間、9年間については労災の方で支給停止はしていますが、民事損害賠償の立場からいくと、将来の支給分については控除というか、免責の対象にはならないという取扱いになっています。
この取扱いについては、実はそれに関係する最高裁の判例があります。資料の34頁にその関係の判例の概要をまとめています。現在、この関係については、最高裁判所の大法廷判例という確定したものがあるわけですが、これは支払いを受けることが確実な給付は控除の対象になるが、そうでないものは控除の対象にならない。将来支払われるであろう労災の年金は、支払いが確実な給付ではないという最高裁判例が出ていて、それに沿った形の取扱いに労災の方もなっているわけです。
逆に言えば、それを変更することについては、今のままではできない。最高裁判例との関係もあるので、できないということになっています。
それでどうするかということですが、この点については、専門家による研究会で、非常に精力的に検討していただいた結果、もちろん研究会もそういう状況を十分踏まえた上で御検討されたわけですが、結果として、将来分の労災年金、この図でいえば(3)の部分も含めて、民事損害賠償から控除できるようにすればいいわけです。そのためには、今の最高裁判例からいうと、この(3)の部分がその横の「前払一時金最高限度額」と同様に確定した給付と言えるような制度を新たに組まなければならないということになるわけです。
なぜそういうことになるかというと、例えば御主人がお亡くなりになった遺族の奥様が年金受給者になった場合、その方が再婚すると、その身分を失うことによって、年金受給権を失うわけです。そうすると本当は(3)の分を丸々年金でもらえると思っていて、民事損害賠償からその分を控除したのだけれども、実は労災からもらえないという事態になるわけです。その場合には原則に戻って、民事損害賠償の方で、改めてもらい直さなければならないわけですが、例えばその時点で、その事故を起こした事業主が倒産していて居ないかもしれないという事態も生じるわけです。
要するに、そういう不測の事態等もカバーするような、例えばもう1度そういう部分について再保険制度を設けるとか、そういう手当をすることにより、(3)の部分について、最高裁が判示している免責可能な対象となる給付にするような制度を仕組むという形でやれば可能だということで、そういう案を中心に検討すべきだという提案をいただいたわけです。
これを踏まえて、政府内でこういう民事法の関係の体系を担当している法務省の民事局とも事前に打合わせしたところ、民事局もそれはそれでいいでしょうということになっています。ここからは我々の考えですが、この点については、そういう意味では過去の建議を踏まえて専門家による議論を経た結果、問題の所在が非常にクリアになったわけですので、今後、引き続きそこの部分をどう仕組むのか、あるいは仮にそれが仕組めたとしても、例えばそれに非常に大きなお金がかかってしまうのであれば、どちらが得かという話もまたあるかもしれません。そういう意味で、その辺りも含めて、総合的な検討を行政でやらせていただければと考えています。それが事業主責任災害の方の関係です。
次に第三者行為による災害の場合です。31頁を見ていただきたいと思います。これは現行の制度については書いてあるとおりで、要するに労災年金で支払われた部分については、その災害を起こした第三者に対して労災保険の方で求償することになっていて、逆に不支給分については、民事損害賠償からは除かれるという取扱いになっています。
それ以降の関係については、災害発生から3年間については控除しますが、それ以降については、労災の方も支払うということで、まさにそこで二重取りではないかという問題があったわけです。
この点についても、その是正策について、専門家による研究会で御検討いただいた結果、1つの有力な案として、事前求償という制度を御提案いただいています。この制度はどういうことかというと、将来にわたって労災年金で支給することが決まっているわけですから、その部分の原資というのは、本来であればその事故を起こした第三者が、上の民事損害賠償を払わなければならないべきものを、代わりに労災保険が払うということですから、その分の将来分まで、前もって民事損害賠償の人からもらってしまうということです。その限りにおいて、第三者の損害を起こした方は民事損害賠償の責任を免れるということにして、そのお金をもって、労災年金の方で遺族の方なり、怪我をされた方にお金を払っていくという制度にするのがいちばん事務も簡素だし、二重補償、二重の支払いという問題を是正できると御提言をいただいたわけです。
この点については、政府の中でもいろいろやりましたが、これについては非常に大きな問題があります。今事前求償と申し上げましたが、労災の側から見ると、将来、年金という形でお金を払うから、その分の原資をまとめて先に取るのが事前求償なのですが、要するに労災の方としては、お金を全部払い切っていないわけです。ただ、民事法の体系においては、自分がお金を払ったあとに、その範囲内において、そのお金を本来負担すべき人間から取るというのが求償で、いわば事前求償というものは現行の民事法の体系にはない制度です。かつそれは非常に大きく変更を伴う制度で、この点については、非常にハードルが高いというか、難しいということもあります。
そうなると、この点については研究会の方でも、仮にそれが難しい場合については、行政の運用ですね、今3年間の形で求償しているという実態をそこに書いていますが、こういう運用を改善することで対応するということも出されています。我々としては、現行の民事法の体系を考えた場合に、法制上、この問題を解決するのはなかなか難しいということであるとすれば、今後は制度的な解決ではなくて、逆に言えばそういう意味では制度はあるわけなので、これを実行する体制、あるいは実施の手段、方法等の改善について、検討させていただければと思っています。
○ 座長
ただ今、この建議に対する事務局の考え方の説明がありました。研究会の報告で、このようにしたいという制度的な面、あるいは運用面の話が出ましたが、いかがでしょうか。
○ 委員
これは法律家を中心に検討したものですから、中身もかなり法律の議論に偏っていて、あるいは難解かもしれませんが、趣旨は今事務局から御説明いただいたとおりです。あとは法務省との間で調整がつくかどうかということと、特に使用者行為災害との場合は、先ほども御説明があったように、事情の変更が生じてしまった場合に、損害賠償の履行を確保するための措置を労災保険の制度の中にいかにうまく組み込めるかというところにかかっているかと思います。その辺のところは研究会でも必ずしも細かく議論できてはいないので、今後審議会その他において、御検討いただければと存じます。
○ 座長
今お話がありましたように、制度面的な検討等、それから第三者行為災害等については運用面での改善ということで、行政当局にもいろいろな考え方を進めていくということのようなので、その取組みを一応してもらうということでいいのではないかという感じがしますが、委員、どうぞ。
○ 委員
長期間にわたって学者の先生方が御苦労なさった報告書に基づくものなので、役所にお任せすることに結果的にはなるのですが、この二重負担の問題というのは、かねてからの懸案の事項です。どう考えても、両方の負担をするというのは制度的におかしいし、最高裁の判例も、結局立法措置をしていないために、今の立法の中での最高裁の判断はこうだということを言っているわけです。我々、政策を議論する労災審議会としては、もちろん最高裁の判断は1つの判断として横に置きつつ、立法政策として、どういうものがいちばん公平で事務手続も複雑にならないかを見い出していくことだと思うので、何とか短期間のうちに成案を得て、具体化をしていただきたいと思います。
もう1つの第三者行為の問題は、同じことになるのですが、言葉の問題なのかもしれませんが、事前求償というと、求償権というのはそもそも払ってから発生するということに理屈としてはなるのでしょうが、要するに事前に調整をすることによって二重補填を防ぐということなので、本当は法務省に是非理解してもらいたいのですが、なかなか理解が進まないのかもしれません。運用できちんとできるとすれば、それはそれでありがたいのですが、是非この2つの問題は永年の懸案事項なので、早急に成案を出していただければありがたいと思います。
○ 事務局
事業主責任災害の場合ですが、完全でかつ事務的にも簡素なという、我々もそういう方法があれば是非やりたいと思うのですが、おそらく完全にやろうとすれば、事務手続は非常に煩瑣になる。1つひとつの債権管理を全部やらなければいけないとか、例えば遺族給付でも、その方がもし民事でも勝っていたとしたら、そこをずっとフォローしていかなければいけないとか、これはかなり相矛盾する要請で、なかなか難しいのかなという感じがしています。
あと制度的に完全、あるいは相当程度完全に近い調整ができたとしても、いわゆる示談金や和解金のレベルになると、そもそも趣旨が損害賠償なのかどうなのかということすら分からないわけです。おそらく労災と民事損害賠償の調整で、その示談金とか和解金の世界を排除しようというのは、そうなったとしても難しいだろうというのは御理解いただければと思います。
○ 座長
いろいろと難しい問題を抱えていますが、長年の懸案ですので、是非行政当局における取組みの積極化をお願いしたいということで、まとめていきたいと思います。よろしくお願いします。
よろしければ、今日の検討項目の議論は一応終わりましたので、最後に前々回、健康確保支援のための措置について資料要求が出ていました。それが準備されているので、説明をお願いします。
○ 事務局
資料3の52頁です。健康確保支援給付について、前々回、どのぐらい対象になるのか、あるいはその給付の具体的なイメージはどういうものなのかという御意見や御質問がありました。まとめたものですが、最初の○が対象者についての試算です。今回、私どもは5カ所の健診機関で、平成11年の1月から6月の間に実施された定期健康診断を受診した4万3,000人強の労働者のうち、いわゆる「死の四重奏」、肥満、血中脂質、血糖および血圧のいずれについても異常所見があるというものを試算しました。
考え方としては、有所見が複数重なるという場合、心疾患あるいは脳血管疾患を発症するリスクが非常に高いということから、こういった複数所見があるという方を対象にしたいと考えています。この4つについて、何らかの異常所見があるものについては、この4万3,000人強のデータによると、0.713%、1%弱です。130人に1人ぐらい、こういった方がいるということです。対象は30万人ということで試算しています。考え方としては、まずベースになるのが対象労働者数4,880万人。これは平成8年現在の労働基準法適用労働者数で、公務員を除いた労働者数です。これに85%を掛けていますが、現段階における安衛法の定期健診を受診している労働者の割合を掛けています。これに0.713%を乗じたということで、全体4,800万労働者のうち30万人程度が、こういった非常にリスクのある状況にあるということです。これを健康確保支援給付の対象に私どもとしては考えたいということです。
具体的な二次健診の検査項目の考え方ですが、ここにあるように、すべての検査を全部対象とする考え方ではありません。必要な検査をメニュー化することで限定したいと考えています。想定し得る検査としては、超音波を利用して心蔵や頸動脈の状況を観察する検査、すなわち心エコー検査であるとか頸部エコー検査、それから血糖や血中脂質について、前日の食事などのかく乱要因を排除した再検査、すなわち空腹時血糖検査、空腹時血中脂質検査等が想定されると考えています。
次に保健指導の具体的な内容です。栄養指導であれば過食、食べすぎとか塩分、脂肪の取り過ぎ、食生活の偏りなどについても改善指導を行う。運動指導であれば、二次健診結果に基づいて、例えば血圧とか肥満度、血中脂質を低下させるため、どのような種類の運動をどのぐらいの量、頻度で行ったほうがいいかという具体的な指導を行う。生活指導であれば、睡眠とか休養とか、あるいは休養と仕事のバランスとか、そういったものについて医師が具体的に指導を行うというものを想定しているわけです。こういうことで健康確保支援給付を考えたいと思っています。
○ 座長
考えている支援給付の構想、対象、中身等の説明がありましたが、いかがでしょうか。
○ 委員
指導だけなのか、それとも施設利用などに関する費用の補填ということは考えていないのか。いちばん最後に「二次健診結果を踏まえた指導」となっていますが、指導の関係について、ここではないようですから、それについて考えられないのかということなのですが。
○ 事務局
健康保険でも運動指導管理料というのがありまして、高血圧症についてだけなのですが、必要な運動をどの程度やったほうがいいのかという運動指導管理料というのがあります。ただ、これも医師が具体的な指示箋というか、処方箋を出すというところまでで、運動の具体的な場所についての費用といったものは健康保険の世界でも出ていません。
そういったこと等も勘案して、私どもがここで考えているのは、医師の具体的な指導、できれば指示箋を出すというところまでを考え、想定しています。
○ 委員
「健康確保支援給付対象者」と書いてあって、誤解しているのかもしれませんが、ここに4項目ありまして、それらすべてに何らかの異常所見があった場合という前提なのですが、実際の運用の現場で、血圧だとか血糖値で異常に高いが、例えば肥満だとか血中脂質はあまり大したことはないといった場合はどういうことなのでしょうか。4つ全部クリアしないと、ということは実際の運用としてはなりにくいだろうと思うのですが。
○ 事務局
例えば血圧が異常に高いということで、今でも確か最高血圧が200を超えると高血圧症ということで、それ自体がもう病気という範疇になるわけです。私どもはこの4つの項目のうち、2つとか3つ重なった場合というのは今のところは想定していません。4つの所見について、すべて異常所見があるといった人を対象として考えたいと思っています。
○ 委員
先ほど私が申し上げたようなことで、2つが異常に高いといった場合、指導の対象にならないということですか。
○ 事務局
はい。
○ 委員
実際の運用としては、そういうことはあり得ますか。
○ 事務局
そこは、きちんと確認できれば可能だと思っています。
○ 委員
厳密に運用されるとこういう数になるのでしょうが、恐れるのは、そういう運用になっていくと、実際のところ、対象者が4つ引っ掛かった人と、あるいはある1、2項目が非常に高い人ととなると、対象者が相当増えるのではないかという懸念はあるのです。
○ 事務局
前回も御報告しましたが、複数の所見が重なった場合の方が、発症のリスクが非常に医学的にも高まるという考え方がありますので、そういった考え方に即して、私どもは4つと考えたいと思っています。
○ 委員
一次検査でこういう結果が出て、二次健診をやって、その結果については本人に連絡する。プライバシーの問題もいろいろあろうかと思うのですが、この管理監督する立場の人に、そういったものを連絡し、そういった所から病名に対する軽減を図らせるとか、図らせる義務づけるとか、そういったところまで考えられないのかどうか。せっかくここまで発見されておりながら、そのままずるずるといって死に至るというケースが現実に多いのだろうと思うのです。ですから、それを未然に予防するための処置が非常に大事になってくるのではないかと思うので、その辺をどう考えるか。
○ 事務局
現行の労働安全衛生法でも、定期健診の結果、何らかの所見があった者に対しては、その事業主は適切な事後措置を取りなさいということになっています。今回のこの健康確保支援給付についても、必要な情報は事業主に行くような形を考えて、その適切な事後措置がより適切になるように、そういった仕組みを考えたいと思っています。
○ 委員
細かいことで恐縮なのですが、(3)で0.713%という率が出てきています。質問ですが、3つか4つの項目について、血中脂質の数字は調べるわけですね。血圧にしても、高いほうと低いほうとを調べているわけですが、健診の対象になっている血中脂質の項目が4つぐらいだったと思いますが、その4つの中のいずれか1つに異常があった者を血中脂質の異常と取り扱っているのでしょうか。
○ 事務局
基本的には、脂質関係はトータルコレステロールとか、中性脂肪とか、HDLコレステロールとか、そういうものがあるわけですが、全部異常でなければ異常というわけではなくて、1つでも異常があれば、基本的に異常として認めているということです。
○ 委員
ここで言う定期健康診断というのは、採用時は入らないのだと思うのですが、年2回健診をやらなければいけないという人もいます。今度の労災給付の対象について事務局の考え方というのは、どの辺の定期健康診断での有所見者を対象にしているのですか。
○ 事務局
詳細はまだ詰め切っていませんが、例えば深夜業であれば、来年から自主的な健診ということも入りました。例えば深夜業の自主的健診みたいなものは、ここでいう定期健診の中にも位置づける方向で検討はしたいと思っています。採用時の健診はどうするかというのは、まだ詰めていませんが、また次回にでも詰めて御報告したいと思います。
○ 委員
通常の定期健康診断というのは、原則的には常用労働者に対して労働安全衛生法では義務づけられているのですが、一言で言えば常用でない方については義務づけられていないわけです。ということは、そういう方々は、この労災給付の対象にならないという構想だという理解でよろしいのでしょうか。
○ 事務局
それについても、基本的にはそういう方向でいいかと思うのですが、考え方などをまた整理して、御報告したいと思います。
○ 委員
やはり常用労働者という考え方が非常に流動化しているわけですから、その時点における労働者の状態を考えないと。雇用労働者などは3分の1でいいのだという考え方もあるわけですから、そこは少し言い切らないほうがいいのではないかと思います。
○ 委員
というのは、仮に法定給付でやるのだとすれば、その費用を負担している事業主は、すべての労働者を基礎にして保険料を納めているわけです。すべての労働者分の賃金を寄せ集めて、料率を掛けて保険料を納めているわけです。そうすると、どこかで私は限定するのだと思うのです。定期健康診断のない人について、この制度を乗せるわけにはいかないはずです。当初から定期健康診断を前提にしてきたと思いますが、定期健康診断であるから、初めて一次健診で異常があるということが分かってきて、この異常がある項目について、脳・心臓に関係する健診項目に絞ろうということでやってきているわけです。そういうことで、脳・心臓疾患に絞った形にするというのが給付の方ですが、保険料負担の方はそうではなくて、全ての労働者を基礎にした保険料の納付を義務づけるということだと、結局給付と負担との関係が対応しないのです。そういうことを保険制度で設けるのはやはりおかしいのだと私は思うのです。意見になりますから、これ以上は申し上げません。
○ 座長
脳・心臓疾患の多い業種が特定できるかどうかという問題になりますが、そこまで議論できるのですか。
○ 事務局
ほかに負担との関係でいけば、例えば介護でも、その介護が必要な人ということで給付をして、ベースになる保険料は労働者の賃金総額ということで掛けているわけで、介護が必要な労働者だけの所かというと、必ずしもそうではないわけです。だから対象が限定されるからといって、そこが費用負担との関係で、その保険の考え方としてはおかしいということには私はならないのではないかと考えます。
○ 委員
それは違います。というのは、いまお答えになったのは、労災保険法の介護(補償)給付の問題だと思いますが、介護保険法上の問題ではないと思います。労災保険法上の介護(補償)給付の関係で申し上げれば、介護(補償)給付の対象になる方々は、業務上で脊髄を損傷しているとか、業務上でそういう要介護の状況になっている方なのです。その脊髄なりあるいはじん肺なりでというのは、この業務上ということで従来から扱っているし、それからそういう危険性というのは、いろいろな所にある。そのことが保険料率という形で、高い保険料負担をするという形で、保険料の負担もしているわけです。そういう意味で、保険料の負担というものと給付というものとは対応する関係に私はなっていると思います。
○ 事務局
いずれにしても、その費用負担の考え方も含めて、また次回、御報告したいと思います。
○ 座長
まだ御意見はあるかと思いますが、今日は一わたり宿題となっていた項目も終わりましたので、これで一応審議は終わりたいと思います。
これまで小委員会に付託された検討事項についての一応の議論がとりあえず終わりましたので、議論の整理をしてもらった叩き台を、次回事務局から出してもらって、それを中心にまとめの議論に入っていきたいと思っていますので、できるだけ御出席いただきますよう、お願いしたいと思います。一応まとめの段階なので、労使と区分けするわけではありませんが、それぞれの側で、できるだけ意見を組織としておまとめいただければ審議もしやすいかなと考えているので、そのような形で意見交換、叩き台の整理に入っていければありがたいと思っています。その線でよろしくお願いしたいと思います。
本日は長時間にわたり、どうもありがとうございました。
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