第354回 労働者災害補償保険審議会 議事録

日時 平成12年2月18日(金)15:00〜17:00
場所 通産省別館第825号室
出席者  
〔委員〕公益者代表 野見山会長代理、岩村委員、松本委員
労働者代表 北裏委員、佐藤委員、高松委員、田中委員、真島委員
使用者代表 久保委員、桜井委員、高梨委員
〔事務局〕野寺労働基準局長、横田審議官、荒労災管理課長、
笹川補償課長、安部労災保険業務室長、本川労災保険財政数理室長、
田邉主任中央労災補償監察官、高崎企画官、石井職業病認定対策室長、
田中労災保険審理室長、浅野監督課長、中野計画課長、西本建設安全対策室長
議題

○ 「労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令案要綱」( 介護(補償)給 付及び葬祭料の額の引上げについて)について

○ 建設事業におけるメリット増減率の見直し等について
議事

○ 会長代理
 最初に一言お断りを申し上げます。本日は保原会長が御都合によりご出席できないということです。このため、労働者災害補償保険審議会令第4条第3項に基づき、私が当審議会の進行を務めさせていただきます。
 ただ今から第354回労働者災害補償保険審議会を開催いたします。本日は、保原会長のほか、岸委員、金城委員、松浦委員、宇田川委員、早川委員、廣田委員が欠席されています。
 それでは議事に入りたいと思います。本日の議題は諮問案件であります、介護(補償)給付の額の引上げ及び葬祭料の定額部分の引上げを内容とする労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令案要綱について、前回以降議論が続いています建設事業におけるメリット率増減の見直し等について御議論をいただきたいと思います。
 まず、諮問案件であります「労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令案要綱」について、事務局から説明をお願いいたします。

○ 事務局
 資料の1に基づきまして説明させていただきます。諮問内容は冒頭ございますように「労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令案要綱」について本審議会の意見を求めるというものです。
 2頁、内容は、今会長代理から御説明がありましたように、1つは「葬祭料及び葬祭給付の引上げ」です。もう1つは、第二にありますように「介護補償給付及び介護給付の引上げ」についてです。いずれも消費者物価等々の諸般の事情に鑑みまして引き上げるということで、12年度の政府予算案の中でセットされているものです。
 内容については4頁です。最初に葬祭料と葬祭給付についてです。葬祭料等につきましては、労働者が業務上又は通勤により死亡をした場合、その葬祭を行う人に対して、その費用を支給するというものです。その額は、内容は2つに分かれています。1つは定額部分ともう1つは賃金比例部分です。今回の引上げに係る部分は定額部分の引上げです。定額部分、現在は30万5,000円です。これを31万5,000円に引き上げるという内容です。考え方としましては従来と同様ですが、消費者物価指数におきます過去2年分の個人サービス料金、公共サービス料金の伸び率の平均を乗じて算定するという考え方で、引上げ額を算出しています。
 具体的な数字としましては、平成9年と平成10年の消費者物価指数の公共サービス、それから個人サービスの対前年上昇率を使っています。具体的に申し上げますと9年の公共サービスにかかる対前年上昇率が1.9%です。個人サービスの対前年上昇率が2.3%、単純平均が2.1%です。10年が公共サービスが1.9%、個人サービスが1.0%、平均が1.5%ということです。これを現行の30万5,000円に1.021、それから1.015を乗じますと、細かい金額は31万6,076円になるわけですが、きりのいい額ということで31万5,000円ということで、予算でセットされているわけです。本年の4月1日以降、葬祭料の定額支給部分を31万5,000円に引き上げるという内容の改正です。
 次が介護(補償)給付の引上げです。介護(補償)給付につきましては、障害(補償)年金、あるいは傷病(補償)年金の受給者で、常時又は随時介護を要する状態の者に対して、毎月介護に要する費用を支給しているという内容です。
 1つは、例えば実際にホームヘルパー等の方に来ていただいて、介護に要する費用を支出したという場合の最高限度額を決めています。常時介護を要する場合、これは主に年金の1級に該当するような方ですが、現行10万8,000円です。これを10万8,300円に引き上げるという内容です。随時介護を要する者は現行5万4,000円ですが、これを5万4,150円に引き上げるということです。考え方は、介護(補償)給付の引上げについては、原爆被爆者に対する介護手当の引上げ幅と同様の幅を使うということで従来からきています。具体的には11年度の人事院勧告のベアのアップ率0.28%を乗じまして、引上げ額を算定しているという内容です。
 次に親族介護時の最低保障額です。これは費用を支出して介護を受けた日がない場合等でして、その親族による介護を受けた日があるという場合に支給する額です。現行常時介護を要する場合には5万8,570円を5万8,750円に引き上げ、随時介護を要する者については、現行の2万9,290円を2万9,380円に引き上げるというものです。この介護(補償)給付の引上げにつきましても、本年の4月1日から実施するという考え方をとっていまして、いずれも12年度の政府予算案の中でセットされているものです。以上です。

○ 会長代理
 どうもありがとうございました。ただ今の諮問案件につきまして、御意見、御質問等がありましたら伺いたいと思います。どうぞお願いいたします。

○ 委員  葬祭料等の引上げの問題ですが、先ほどの説明で消費者物価の個人サービスと公共サービスのアップ率を使ったということですが、公共サービスというのはどういうものが入っているのか。電気代、ガス代みたいなのだとか、JRだとか、銭湯とかいろいろなものがあるのだと思うのです。ここで言っている公共サービスの範囲というのは、どういうものなのかということを教えてもらいたい。もし、仮に電気代だとか何かが入っているとすれば、それと葬祭料というのは、要するに葬儀を行うための費用ですから、いろいろな祭壇を設けたり、そのための人を手配したり、結構人件費部分が入っているのかと思うのです。どういうものが公共サービスの範囲なのかということを、教えてもらえると有難いという点が1つです。
 もう1つは、消費者物価そのものは11年の歴年で見ると、いまは確か0.3%ぐらいマイナスの時代になっているのですが、ここは個人サービスと公共サービスということで、従来からそういうやり方をとってきているのだと思うのですが、全体の物価がマイナスのような動きをする中で、こういうものをどういうふうに考えるか、その辺があるような気がするのです。
 前段の公共サービスの範囲というのはどの辺なのか教えてもらいたいと思います。

○ 事務局  既に発言の中でご指示があったかと思うのですが、公共サービス料金の中には光熱水道費であるとか、交通関係であればJRの運賃料金等々、通信の関係では葉書あるいは通話料、入浴料等々も含まれています。おそらくこれは従来から公共サービスと個人サービスの消費者物価指数の平均をとりまして、2年に1回見直すということできていますが、考え方としては、葬儀も公営葬儀場とかいくつかあるということを勘案しまして、公共関係の物価指数、対個人サービスの物価指数、この平均をとって伸び率を勘案しているのではないかと私どもは理解をしています。
 なお、2つ目の問題、確かに11年の平均消費者物価指数の伸び率は、−0.3%です。光熱水道費等も−1.6%です。ただ、先ほど申しましたように、葬祭料につきましては予算の中でセットをしなければいけないという事情があります。そうしますと、政府予算案を確定させますのが、通常年末ということになっていまして、11年の状況がまだ分からない事情の段階で、予算としてセットをしなければいけないということもありまして、使う数字としては9年と10年の数字を使っているというような実情にあります。以上です。

○ 会長代理
 どうもありがとうございました。ほかに何か御質問、御意見がございましたらどうぞ。ほかにございませんでしょうか。ほかに御意見等もないようですので、ただ今の諮問案件につきましては、当審議会としてはこれを了承することにしたいと思いますが、いかがでしょうか。

(異議なしの声あり)


○ 会長代理
 ありがとうございました。それでは当審議会としては、この諮問を了承するということにさせていただきたいと思います。なお、答申案の文案につきましては従来どおり会長に一任するということですが、そのような扱いでよろしいでしょうか。

(異議なしの声あり)


○ 会長代理
 ありがとうございました。それでは、これに基づいて答申をいたしたいと存じます。次の議題である「建設事業におけるメリット増減率の見直し等」につきまして、議事に入りたいと思います。事務局で資料を準備をしてもらっていますので、説明をしていただきたいと思います。

○ 事務局
 資料2−1以下につきまして説明をさせていただきます。この問題につきましては、前回建議をいただく際に、建設業のメリット増減幅を拡大するという問題については、法案要綱を当審議会に労働省が諮問をする前にもう一度議論をすべしということでした。そういった経緯を踏まえまして、今回説明をし、御議論をいただければと考えているところです。
 最初に労災保険のメリット制の概要です。趣旨は従来から説明していますように、この4行目ですが、「事業主の負担の更なる公平性を図る」、その「災害防止努力を促進する」といった目的で、いわゆるメリット制を採用しています。災害防止努力をしまして、災害が減ったという所には保険料率あるいは保険料の点で優遇し、逆に事故が増えたといったような事業主に対しては保険料あるいは保険料率の面で若干増えるということで、こういった事業主の負担の公平を図る。あるいは財政の面から災害防止努力を促進するということを目的として、こういった制度をつくっているわけです。
 真ん中辺りですが、なお、通勤災害は災害防止努力とはある面で別の要素が多く、事業主の災害防止努力が及ばないという考え方から、通勤災害に関するものは除くというような考え方です。
 小規模事業場においても、事故が無いといった状況が事業主の災害防止努力によるものか、そもそも労働者が少ないから事故が無い、たまたま偶然に無いのか、その辺が判然としないということもありまして、保険数理の考え方に従いまして、一定規模以上の労働者数がメリット制の適用要件とされているということです。
 その内容については、一般のいわゆる継続事業については、原則100人以上の労働者を使用する事業、20人から100人未満の事業であっても一定の条件を満たす事業にあっては、メリット制が適用になるということです。
 特に今回問題となる建設の関係は、一括有期事業、あるいは単独有期事業ですが、一括有期事業については、確定保険料の額が100万円以上、あるいは建設の事業にあっては、請負金額が1億2,000万円以上といった、いずれかの条件を満たすものについては、メリット制の適用になるということです。なお、一括有期と単独有期はイメージ的には、一括有期事業は例えば工務店がいくつかの工事をやっているという時に、1事業場当たりの概算保険料の額が160万円未満という場合には、それをすべて総合して一括して保険関係を成立させるという意味合いのものです。単独有期事業というのは、わりと大きな事業で、例えば1つのビルを造るとか、ダムの工事をやるとかいった期間が決められているような有期事業です。
 次頁、災害の状況によりまして、保険料あるいは保険料率を増減させる幅が、継続事業の場合には、建設、立木の伐採以外は一般の場合ということになるわけですが、±40%の範囲内で保険料率を増減させるというものです。一括有期事業で、建設及び立木の伐採事業は±30%、有期事業は±30%の範囲内で、これは保険料を増減させるという制度になっているわけです。
 従来、建設と立木の伐採の事業ですが、これが±40%ではなくて±30%の幅であったという事情は、ほかの産業に比べて建設も林業も災害の発生が比較的多い産業でした。そういう意味では下がるほうも40%下がるのですが、上がるほうも40%の幅で上げなければいけないということで、デメリットというのでしょうか、上がる幅の多いような事業主も増えてくるということが懸念されまして、一般の産業よりはその幅が若干少なくて、30%の範囲内で上げ下げするという事情になっているわけです。
 7頁、従来の経緯がどうなっているかということについてです。メリット増減幅についても、従来、一定範囲で拡大されてきています。一般の継続事業ですが、昭和26年にメリット制がスタートをしました。その時は±30%の範囲でした。建設事業の関係は昭和30年から±20%の範囲でスタートをしています。一般の継続事業とは10ポイントの差があったわけです。その後、継続事業につきましては、昭和51年に5%幅が広がりまして±35%、その時は同時に建設の事業につきましても5ポイント幅が広がり、±25%になっています。その後、昭和55年には継続事業が±40%、建設事業が±30%ということで、昭和55年以降、現行制度が継続しているという事情です。
 なお、昭和51年に5ポイント拡大する、あるいは昭和55年に5ポイント拡大するという趣旨としては、企業あるいは事業体の災害防止努力といったものを、こういった経済面あるいは財政面から更に促進しようという考え方の下に、それぞれ5ポイントずつ、昭和51年、あるいは昭和55年にこのメリット幅を拡大したという事情、経緯があるわけです。
 8頁、建設の事業に係るメリット増減幅の拡大について、労働省はどう考えるかという問題です。経緯としましては、皆さんご承知のように、昨年の夏以来、当審議会に制度検討小委員会を設けまして議論をする中で、労使から検討事項を提出していただいたわけですが、この問題は経営者側から出された事項の1つです。その問題をそもそも事務局はどう考えるかということですが、まず1にありますようにメリット制の趣旨というのは、企業の災害防止努力を促進するということが基本であろうと考えています。
 従来、建設の事業等については10ポイント少なかったという事情は、要は災害発生がほかの産業より多かったというような事情に照らして、その事業主の負担増に繋がるということが懸念されたわけです。そういった中で一般は±40%、建設の事業等につきましては±30%ということで、昭和55年以降、こういった制度できています。
 3ですが、そもそも災害防止努力を企業に促進する、あるいは企業間、事業主間の負担の公平性を図るという趣旨からいけば、メリット増減幅について産業間で差があるのは望ましいことではないのではないかと基本的に考えられると、私どもは考えています。さらに近年においては、建設の事業における災害発生状況も、従前と比較しますと一定程度の改善が図られています。これは後ほど資料で説明をいたします。
 保険料を負担する建設業界の主な団体も、増減幅の拡大を要望しています。これは40%にしてほしいという団体と、35%にしてほしいということで、まだ意見が分かれているようですが、いずれにせよ拡大を主な団体が要望している。そういった中では、私どもとしては、その事業に係るメリット増減幅を、他産業に近付ける方向で見直しを行う必要があるのではないかと考えているところです。
 9頁、先ほど、建設業においても災害の発生状況が一定程度改善しているという話をいたしましたが、度数率と強度率で見た数字です。労働省が実施している「労働災害動向調査」による数字です。全産業、いちばん下の平成10年では度数率が1.72、強度率0.14ということになっています。建設業は平成10年では度数率1.32、強度率0.39ということで、度数率は平均を下回るものの、強度率は全産業平均を相当程度上回るという事情にあります。
 先ほどメリット幅が拡大してきた経緯を資料の7頁で説明いたしましたが、一般産業を±30%から±35%、建設については±20%から±25%に拡大した時点が昭和51年ですが、この時と比較してみますと、全産業の度数率が4.37、強度率が0.36という状況です。平成10年、9年の建設業の度数率1.32とか1.11と比べますと、建設業は昭和51年の全産業よりは相当下回っている。強度率についても0.36と0.39ですから、その当時の強度率に近い数字にあるという状況です。そういったことを考えると、建設業における災害発生状況というのも、一定程度改善を見ていると言えるのではないかと我々は考えています。
 10頁、前回も問題になりましたが、メリット増減幅を拡大すると、いわゆる「労災かくし」に繋がるのではないかという問題です。我々の基本的な考え方としては、メリット制の趣旨というのは、企業の災害防止努力を促進するということでして、いわゆる「労災かくし」とは問題が違うと考えているところです。ただ、メリット増減幅の拡大が「労災かくし」に繋がるのではないかというような懸念、心配につきましては、当然、一定程度そういう心配は理解できるわけです。事務局としても「労災かくし」自体はあってはいけないことでして、対策を強化していきたいと考えています。
 現在の取組みとしては、平成3年の局長通達を基にしまして、ここにありますように、その関係書類、例えば安全衛生法に基づく労働者死傷病報告が出される、あるいは労災の関係で休業(補償)給付の請求書が出されるといった点、相互に突き合わせしまして、矛盾する点がないか、おかしい点がないか、「労災かくし」がないか、それをチェックをする。当然のことながら被災労働者等から申告等があれば、それに対して適切に対応するということで、事案の把握に努めているわけです。
 さらに、事案を発見した場合には、具体的には労働安全衛生法違反という事案になるわけでして、これは労働者死傷病報告を出さないとか、あるいは虚偽の報告をするという意味合いで安全衛生法違反になるわけです。そういったものに対しては厳正な司法処分を行うという考え方で臨んでいます。そのほか、当然のことながら、労働基準局、あるいはその監督署の幹部から関係の事業主に対して、きちんとした警告をする。
 建設の関係では無災害表彰というものをやっていますが、これについても、その後で「労災かくし」が発覚したということであれば、そういった表彰状の返還を指示するといった措置を実施しています。
 さらに今後、次のような対策を建設業を重点に展開をしたいと考えています。そもそも「労災かくし」を考えますと、労災保険法の制度の趣旨自体を事業主等が理解していない、あるいは理解をしていてもきちんと守らないということが問題であろうと考えています。そういう意味では、特に建設業の関係の団体に対して、「労災かくし」をしない、あるいはそれを防止する対策を業界団体としてもやってほしいという文書を事務局として発出する。さらには企業あるいは医療機関、その労働者自身も労災保険制度自身をきちんと理解していただいて、労災保険を活用することが重要な1つのポイントだと思いますので、そういった意味で労働者向けのリーフレット、企業、医療機関向けのポスター、リーフレット等を作成する。そういった意味で啓発といったことを積極的に展開していきたいと思っています。
 さらには安全パトロール等を実施していますので、この安全パトロールの場等を活用しまして、いま申し上げました労働者向けのリーフレットであるとか、企業向けのリーフレットとかを配布する。
 以上、メリット増減幅の拡大についての考え方、「労災かくし」の今後の取組みについて説明いたしました。私からの説明は以上です。

○ 会長代理
 どうもありがとうございました。本日は特に諮問を正式に受けているわけではありませんが、かねて懸案でありましたメリット増減幅の見直し問題について、事務局の考え方が一応示されましたので、これにつきまして率直な意見交換をしていただければ有難いと思います。よろしくお願いいたします。

○ 委員
 今お話いただきまして大変有難いと思いました。業界といたしましては、メリット増減幅の拡大を強くお願いしたいと思っています。この根拠としては、先ほど事務局から御説明いただいたように、55年から約20年間、ほとんどメリット増減幅が動いていない。特に我々は近代産業というものを目指している中で、それに沿って災害の発生率も相当落ちてきている。
 資料の9頁の強度率などにいたしましても、この55年にメリットが動いてから激減してきている。これはメリット制の効果が相当上がっているのではないかと私は思っています。ただ、近年これが0.39、あるいは0.37ぐらいで止まっています。どうしてもあと1つメリット増減幅を拡大して、安全に対するインセンティブを高めていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

○ 委員
 メリット制そのものが労働災害をなくす、なくした使用者側の一定の経済的負担を軽くするといった意味合い、ある意味では罰則的な意味合いの両方をもっていると思うのです。そういう意味合いでメリット制そのものを否定する議論をしようとは思いませんが、この際、使用者側から出されました要望は、±40%であるとか±35%にするというもの。各業界の意見を聞かれたと言いますが、建設業というのは非常に下請構造も複雑ですし、いろいろな業界団体があるわけです。建設省所管の業界団体を数え上げても数十ある。そういった団体についても御意見をお聞きになったかどうか、それを教えていただきたいと思います。

○ 事務局
 私どもが要望をいただいている団体としましては、全国建設業協会、ほかに要望をいただいている団体としては、社団法人日本建設業団体連合会、日本土木工業協会、建築業協会。確か住宅生産連合会、プレハプ建築協会、経団連自体も、政府全体に対しての規制緩和要望の中に入れています。建設工業労務研究会からも要望をいただいているという経緯です。
 もちろん委員からお話がありましたように、建設業の全部の団体から意見を聞いたかというような質問に対しては、全部聞いたということはありません。今言ったようないくつか。ただ、いくつかと言いましても、我々としては建設関係の主要、あるいは主な団体というふうに理解をしています。そういった団体からは建設業のメリット幅を拡大してほしいという要望をいただいている状況です。
 さらに本審議会の経緯としましても、昨年、経営者側委員からの要望事項ということで、当審議会に対して、メリット増減幅の拡大をしてほしいということを御提起いただいていますので、そういう意味では建設関係の主な団体、あるいは主な意見をいただいているのかなというふうに私ども理解をしています。

○ 委員
 建設業と言いますのは、非常に就業者数も多い産業です。それと、下請負と言いますか、重層下請負が他の産業に比べて非常に多いと言いますか、厚いと言いますか、そういう状況の中では、それぞれの段階でいくつかの業界団体が作られています。いま挙げられた団体は日本を代表するような大手ゼネコン、大手住宅メーカー、プレハブメーカーといったところの団体です。全国建設業協会には地方のゼネコンも加えていただいているようですが、どちらかと言うと元請の立場に立たれる比較的業界では優位に立たれる団体です。優位に立つという言い方が正しくなければ、請負においては通常お互い対等な関係で下請負が行われるということはいろいろな文書も出ているわけですが、現実には下請負の厳しい実態があるわけです。もう少し幅広く意見をまず聞いてみるべきではないか、そのように思うのですが、そこはいかがでしょうか。

○ 事務局
 ゼネコンあるいは地場でも大きな所だけではないかというご意見だと思うのです。先ほど申しましたように、建設業を代表するような企業等々が属している団体、例えば建設業協会であれば、いわゆる専門工事の関係企業なりも会員としてはある程度入っているという状況を考えますと、改めて建設業のほかの団体に私どもからどうかという意見を聞くことをする必要はないのではないか。大体の建設業の意見を反映するような団体から要望が出されているのかなと理解をしています。

○ 委員
 私としては、非常に重要な問題でもありますから、くどいかも分かりませんが、その点言い過ぎましたら止めてください。今の説明の中にもありましたが、平成3年に基準局長通達が出ています。いわゆる「労災かくしの排除について」ということで、基準局長が文書を出すということ自身は、「労災かくし」が現実にあるということを認められた上で出されている。そうしたことがないようにという内容になっています。労働省が掴んでいる「労災かくし」ということが明らかな件数と言いますか、何を基準にされてもいいのですが、ここ数年の状況について把握しているものがあれば御報告いただきたいと思います。

○ 事務局
 平成3年12月に、今御指摘のいわゆる「労災かくしの排除について」の局長通達を発出しております。背景としては、当時、割と悪質な「労災かくし」の事案があったということもありました。それから国会等でも議論があったということを背景にしまして、こういった通達を発出し、「労災かくし」について厳正に対処するといったようなことを、もちろんこの通達がなくても当然やらなくてはいけないことだと思いますが、改めて地方機関に対して指示をしたという経緯になろうかと理解しています。
 なお、「労災かくし」の事案ということで件数的にどうかということですが、労災事案がどういう形で発覚してくるかと言いますと、先ほども申しましたが、労働安全衛生法上、業務上の災害なりがあった場合、監督署に労働者死傷病報告を出さなければいけないという規定があります。それをそもそも報告をしない。あるいは、例えば大きな下請負の事業者が、元請の工事現場で事故があったにもかかわらず、自分の所の事故であるかのような報告を行うということで、死傷病報告の虚偽なり報告をしないという形で把握できるわけです。今私の手元にあるのが平成6年からですが、そういったものの送検件数が平成6年が59件、平成7年が62件、平成8年が61件、平成9年が72件、平成10年が79件です。なお、このうちで7割から8割ぐらいが建設業であろうと考えています。

○ 委員
 今の送検件数を見ましても、率直に言って減っているということではなく、送検される件数というのは私の考えでは、氷山の一角ではないかと思うのです。発覚の端緒であるとか、「労災かくし」の動機について、どのように考えているのか教えてほしいと思います。

○ 事務局
 一般的に「労災かくし」がどういう端緒で把握できるかという御質問ですが、これはいろいろなケースがあります。先ほど説明がありましたが、労働災害死傷病報告書が提出された際に、その内容を点検したらどうも内容が変ではないかということで労働基準監督官が現場に行って、会社側の担当者から事情を聞いたところ虚偽だということを自白したケースだとか、いろいろなことがあります。虚偽の場合はそういったことで発覚するのが多くあります。

○ 委員
 その動機も聞いているのですが。。

○ 事務局
 動機は、元請に対する配慮とか、あるいは当事者間でなんとかするようにというような、いわゆる圧力がかかるケースがあるというふうに聞いています。

○ 委員
 平成2年に特別に調査をされたと聞いているのですが、調査内容をもう少し詳しく教えていただけませんか。

○ 事務局
 平成2年の調査は、項目としては件数、発覚の端緒、どういうことで見つけたかということです。それがだいぶ細かくなっているわけですが、申告によるものかとか、事業主からの申立てがあったものかとか、第三者からの通報があったかとか、そういうような発覚をした理由を併せて調べております。

○ 委員
 平成2年に調査をして「労災かくし」のあった総数と建設業の件数とを教えていただけますか。

○ 事務局
 「労災かくし」として特別調査で上がってきた総件数は88件、そのうち建設業が58件、製造業が27件、あとはその他の産業に分かれているということです。

○ 委員
 今日は労災保険の給付をされる関係の方も出ておられると思うのですが、本来、労 災保険であるべきものが健康保険なり、国民健康保険なり、政管健保も含めて健康保 険とした場合に、いわゆる過誤調査ということが行われると思うのですが、ここ数年 のそういう状況について報告をいただけますか。

○ 委員
 厳しい御意見があるのですが、資料番号2−2の3の所で、建設業のメリット幅を拡大していくということについて3つほどの理由が書いてあるわけです。1つは「産業間で差があるのは望ましいことではない」、2つ目「建設における災害発生状況が改善が図られてきている」、3つ目に「要望がある」ということですが、私はこれ以外にもいくつかあるのかなと思っております。
 その1つは、建設業において災害の発生の件数なりが減ってきているのですが、同時に、建設業における安全衛生の管理体制ですか、やはり従前に比べて管理体制を確立していこうということでの意欲なり、またその確立をしているという実績を重ねてきているという所も多くなっているというのがあります。
 さらに申し上げれば、結局同じことかもしれませんが、メリット増減幅を拡大することによって災害を防いでいこうというインセンティブが働いていくのではないのか。また、これもその裏の側面なのですが、結局放っておいても料率が同じだということになれば、何をやっていてもいいと、いわばモラルハザードが働くわけですが、拡大をしていけばそれなりのメリットが受けられる、あるいは逆にデメリットが出てくるということで、モラルハザードの防止ということにもなると思います。
 さらには、先ほど言っておられる「労災かくし」の問題なのですが、「労災かくし」というのはあってはならないと思っておりますし、それは別に建設業に限らず製造業なり、ほかの業界にあってもあってはならない。ですから、今建設業以外の業界が±40%になっているわけですが、そういうところでも「労災かくし」はあってはならないと思いますので、団体としてもそれぞれの団体で努力をしていかないといけないと思います。
 先ほど具体的なデータで、建設業が「労災かくし」の過半数を占めているではないかと、こういう点が事務局からあったのですが、大雑把ですが、死亡災害で見れば建設業が全産業の大体半分を占めているのです。ちょっと古い数字、古い記憶なのですが、休業4日以上の災害で見れば建設業が全産業の大体4割ぐらいを占めていたと思いますので、決定的に建設業における「労災かくし」が他産業に比べてひどいとは、建設業の中には不心得者もいるとは思いますが、決定的なものではなくて、そこは業界としても努力をしていくと、こういうふうに思いますので、是非、御理解を賜れば有難いと思います。

○ 事務局
 先ほど、政管健保の方で、一旦は健康保険に請求をしたけれども労災とされたものがどのくらいあるかという御質問であったと思います。いま把握しているもの、平成7年度から申し上げますが、件数として7年度5万5,000件、平成8年度5万7,000件、平成9年度5万4,000件、平成10年度5万1,000件です。平成2年、3年が6万件を超えるという状況であったわけですが、1万件程度は減少しているということです。
 ただ、これはいわば悪意で労災を隠して健保で請求したのか、あるいはそういうことを意識せずに、故意なり悪意なくやっているというものも含まれていますので、それが全て故意、悪意に基づく「労災かくし」であるかどうかというのは別の問題なのかなと考えています。

○ 委員
 メリット増減率の論議なものですから、先ほどの発言の趣旨というのは、私は建設業界が安全に努力をしているということは、私も建設業などを見た場合に思いますが、問題は、公平性というのと、労働災害に更に努力をしてもらおうというのがその目的ということです。言われるように、この増減率を拡大することによって、「労災かくし」が増えて、今は非常に商売が厳しい時ですから、かえってこれをやることによって下請で働く人たちが、ますます「労災かくし」が増えて逆行するというふうに理解をすれば、なかなか簡単に認めるわけにはいかないのではないかなと思います。
 そこを建設業界も、事務局の方もどういうふうに見ているのか。先ほど来、むしろメリット制をやったら、かえって悪い方にいくのではないのかとの発言が出されているわけですから、それで今いろいろな事例を挙げたわけです。私も、確かにかなり悪質なことをやっているなと思って聞いていたのです。それが更に陰湿になるようなことでは、ますます仕事も減っているし、単価も下がっているものですから、かえって安全に対してよくない方向に向かっていくし、働く人たちに対してよくない方向に向かっていくなら、そう簡単には「そうですか」と言うわけにはいかないということではないですか。そこをどういうふうに理解をしているのかなと思います。

○ 事務局
 先ほどから申し上げていますように、メリット増減幅が拡大するということが「労災かくし]に繋がるのではないかという懸念、心配は理解できます。ただ、それがメリット制に内在する問題かと言いましたら、おそらくそうではないだろう。メリット制というのはあくまでも経済面から災害防止努力を促進するということで、そういったものとして、現在、建設業についてどう考えるかというふうに考えるべきものだろうと思います。
 現実にも資料の7頁に、建設業におきましても昭和51年にはメリット幅を20%から25%、55年には25%から30%というふうに拡大しています。そして9頁、51年から55年の状況は度数率が若干高くなっていますが、その後、数年経ちますと、昭和60年以降は2.0前後で推移するという状況です。もちろんこれはメリット幅だけでこうなったというつもりはありませんが、メリット増減幅を拡大することによって、経済的な面からも災害防止努力を促進することには、一定程度の効果は上がるのではないかと考えられると思っております。ただ、「労災かくし」に繋がるのではないかという御懸念や心配は、私どもとしても十分配慮しなければいけないと思っております。先ほど資料の10頁で御説明させていただきましたように、今後は特に建設業を重点に置きまして、必要な対策を強力に取っていきたいと考えているところです。

○ 委員
 基礎的なことで教えていただきたい。このメリット増減幅の関係で、建設事業は±30%という形になっておりますが、現在いちばん良いメリットを享受している事業というのは、大体どのくらいあるのでしょうか。要するに、もう下がるところまで下がってしまっているのか、どのくらいの率までいっているのかが、もし分かるようであれば教えていただきたい。

○ 事務局
 いわゆる単独有期事業であれば、30%の保険料の減額を受けるという、いちばん良いメリットを受けているのが、メリット制適用事業場数の93.8%ということで、9割以上が下の限界というのでしょうか、上の限界というのでしょうか。

○ 委員
 要するに張り付いているということですね。

○ 事務局
 そういう状況です。

○ 委員
 比較の意味で他産業の場合、−40%に張り付いているというのは分かりますか。

○ 事務局
 44.5%です。

○ 委員
 そうしますと、客観的に建設事業について有期で見ると、ほとんどが−30%のほうへ張り付いてしまっているということですね。そうすると、いかに災害の予防努力をしても、これ以上保険料率は下がらないというところまで、かなりのものがきてしまっているわけですね。

○ 事務局
 経済的な面でのメリットはない。

○ 会長代理
 1点伺いたい。この前のお答えでは、メリット増減幅を拡大すると、建設業全体では負担率が増える可能性があるとおっしゃいましたね。ということは30%か40%か知らないけれど、むしろデメリットが増えてくる一般事業場が多くなるという心配もあるわけですね。その辺はどうですか。

○ 事務局
 平成9年度で見ますと、有期事業全体が10万6,000件ほどございます。メリット制というのは、一定の請負金額以上を要件としておりますから、メリット制の適用を受けるのが約70%、7万4,000件ぐらいです。そういう意味では、そのうち9割ぐらいが−30%のいちばん良いところに張り付いていますから、そこでもし同じような状況が続くのであれば、保険料の減額が35%なり40%になるということです。ただ、その分、建設業というところでは、どこかで負担しなければいけません。そういう意味ではメリットの適用を受けないような所が、ベースの料率が上がるということはあり得ます。
 今年やるとなぜ良いかという点ですが、労災保険料率は3年ごとに見直しております。今年の夏か秋ぐらいから議論を始めまして、来年4月1日から新しい料率体系になります。これはもう建設業だけではなくて、全産業もそうですが、労使の災害防止努力というものがあって、災害全体は減っておりますから、ベースの料率自体は減る方向で作用します。今回、仮に建設業でメリット増減幅を広げることになると、ベースの料率が上がる方向に作用しますが、全体としては災害全体が減っているという中で料率が減りますから、今やると上がるというデメリットも相当程度吸収できるのです。そういう意味でも、今年、このメリット増減幅を見直すというのは良い機会ではないかと私どもは考えております。

○ 委員
 このメリット制の増減幅の拡大について、基本的に考え方はそれでいいと思いますが、今の皆さんのやりとりを伺っていて疑問点が出てきたのは、メリット制のメリットを大きくすることによって、「労災かくし」の方が増えてくるのではないかという指摘があるわけです。そうしますとメリット制の増減幅を大きくすることによって、労災が減る方が多いのか、逆にかくすほうが増えてくるのか、その辺のプラスマイナスは実際はどうなのか。そこのところで最後にひとつ納得できないのです。逆に「労災かくし」が増えるようでは、それこそデメリットが多すぎるという気がするのです。
 その辺りの数字的な説明や資料というのは、おそらくないのでしょうけれど、そこのところをうまく説明しないと、「労災かくし」が多くなりますよと言えば、なるほど、そうかなと思うし、いや、そんなことはない、「労災かくし」は増えるかもしれないけれど、このメリット増減率を広げることによって、逆にメリットの方が多くなるのだという説明をお互いに「こっちが多い」、「こっちが多い」と言っているだけで、はっきりと、実はこちらが多いのだと納得させるものが、今ひとつないような気がするのです。それをちょっと納得させていただけませんか。

○ 会長代理
 ではお答えの前にどうぞ。

○ 委員
 メリット即「労災かくし」のような印象を受けられるのですが、今建設業でこういう災害を起こしますと、やはり社会的なイメージも一気にダウンしまして、せっかく近代的なものを狙っているのに、汚い産業みたいなイメージが出てくるわけです。我々はそういうことをいちばん心配しているのです。さらに「労災かくし」も含めて、こういう事故を起こしますと、当然、基準局長通知あるいは送検されたりと、厳しい指導が入ってくるわけです。さらに経営事故審査という、入札のときの評価点があります。これがいちばん大きなところです。ここでマイナスという問題になってきますので、入札から外れるという問題も入ってきます。こういう意味でいろいろなものが作用しておりますので、さもメリット制が負担をかけているような印象だけは避けた い。そこは御理解いただきたい。
 それから最近、特に平成3年に基準局長通達が出てから、業界ではものすごい要領、手引き、罰則規定を設けております。元請はもとより、協力事業者の違反に対しては、特に「労災かくし」の違反が発覚した場合の罰則規定が厳しくなっております。そういう意味で、やれることはちゃんとやってきているのです。したがって先ほど事務局から御提案のあった「労災かくし」の問題については、今後も協力してやっていくという方向で。この話はどうも平行線になるような感じがいたしますが、この辺を御理解いただきたいと思っております。

○ 委員
 今日は会長がお見えにならないので、今から言うことを、お見えになるときにも、もう一度発言させて欲しいと思います。日本医師会の中に労災自賠責委員会というものがあって、平成7年に「労災医療の現状と問題点」という答申を出しているのです。その中の2を、ちょっと読み上げます。
 「労災事故であることをかくし、その診療を健康保険等によって行う、いわゆる労災かくしへの対応を求める医療現場からの声が、ここ数年徐々に強くなってきている。そこには、労災かくし事案が増加傾向にあるということばかりではなく、その内容が企業ぐるみで行われている疑いのある事例が増加しているという背景がある。これらの状況によって、制度上当然のこととして労災診療を実施する医療機関側、健康保険等による診療を求める患者あるいは事業主との間のトラブルは、深刻化の一途を辿っている。」そして結論めいたことですが、「本委員会としては労災かくしの背景にある、いわゆる無事故表彰制度、保険料率に係るメリット制等、現行の制度に係る問題点の根本的な解決が必要であると考えた」というくだりがあります。
 要するに今おっしゃられているように、それがプラスするのかマイナスするのか。私もメリット制がすべて悪いと言っているわけではないし、すべての建設業の大手企業あるいは地場ゼネコンが「労災かくし」をしていると言っているわけではありません。今読み上げました文章は、公式に出された文書であるので、1回会長がおられる席で紹介したいと思っておりますが、この文章表現から考えましても、増加の傾向にある、そして企業ぐるみである、被災労働者と事業主との間のトラブルは深刻化しているという指摘を日本医師会の委員会がやられているわけです。
 また、国会でも取り上げられております。大阪医師会と広島県の医師会では、医師に対して「労災かくし」を経験したことがあるかどうかという調査を行っているようです。これも公式に発表されているもので、概ね4割の医者が「これは労災ではないか」と患者に問うと、「それは労災です」というように答えているのです。では、なぜそれを労災にしないのかということを問われて、いろいろ答えている中に、「労災保険料のメリット制の問題もある」などと答えているわけです。もう少し詳しく言わないといけないと思いますが、医療の問題としても、現実に、メリット制と「労災かくし」の関係というのは、極めて関係が深いということが報告されているのです。私は、こうしたことは現実の問題として、そのまま受け入れていいのではないかと思います。
 さらに、それぞれ事業主の皆さんは労災をなくすために非常に努力をされております。足場につきましても、最近は非常にしっかりしたものが行われております。そういったことについて何ら否定するつもりもありません。しかし建設業においては、公益の皆さんも御承知の話だと思いますが、元請責任というものがあるわけです。元請に対して下請負の事業主が、下請負の労働者の事故もかくしたいというように働くという事例がいくつも報告されているのです。
 「建設労働110番」というのが年に何回かあります。今の時代を反映して、賃金不払いの問題が多く出るのですが、そこでは、必ず「労災かくし」の問題も出ます。要するに下請の事業主がいて、そこの労働者からそういう電話相談があるのです。「労働災害だから、労災保険を使わせてくれ」と言っても、元請に顔が立たないとか、次から仕事をくれなくなるということで、その下請の事業主がアウトにするわけです。ここはそういう問題を議論する場所ではありませんが、建設業の実態をよく研究なさる方であれば、そういう弱い立場で、そういった問題が日常茶飯に行われていることは御存じでしょう。
 最近のいろいろな工事でも、指し値発注が当然の如く行われています。「半値八掛け」という言葉が罷り通っているわけです。そういう現状の中で努力をされていることも認めつつ、しかし中には善意でない元請、元請に対して弱い立場の中小企業主、そのまた下請の事業主、あるいは労働者が、一定の配慮をしたり、遠慮してしまい、それが「労災かくし」の送検の件数として出てしまうのです。送検といえば、いちばん厳しいことだと思います。送検の陰には送検されなかった「労災かくし」も、相当数必ずあるはずです。それから先ほどおっしゃったことと同じことですが、この強度率、度数率はこういうことだと思いますが、これを前述の死亡災害等から考えると、依然として建設業が断トツに多いわけです。あるいは4日以上の休業をする災害も多いという現状があります。そしていま聞いてみると、93.8%が−30%に張り付いている。一体どういうことになるのか。勘定が合わないではないかと、私は思うのです。ですから、この問題については、使用者側の皆さんがそういう要請をなさるのは分かりますが、こういう問題を研究なさっている学者の先生も当然お見えになるだろうと思うので、そうした方々からも十分意見を聞くと。さらに私が当初申し上げたように、建設業の従業者数は600万を超えておりますし、その使用者団体もたくさんあります。そういった所も含めて意見を聞くべきではないかと思います。
 また、先程おっしゃいましたが、経営事項審査の点数で反映するというのは良いことだと私たちも思っています。良いことではあるけれど、逆にそのことがかくしにも繋がる。これは建設省の問題ですが、やはり労働安全に注意を払っている事業主の経営事項審査の点数を上げるというのは正しいやり方です。しかし、そのことの裏返しは必ずあります。
 もう一度元へ戻りますが、労働基準局長がわざわざ「労災かくしについて」という文章を出さなければならない状況の中で、あえて今メリット増減率を40%にしなければならない理由はほとんど見つかりません。確かに減少はしているけれど、今の建設業の実態というのは、本当に大変な状況にあります。当然コストの問題が言われれば、安全の分野から手を付けていくといいますか、そのような厳しい状況にあるという実態も踏まえながら、要望があったからということもありますが、なぜこの時期に40にしなければならないのか。20年間ずっと30%できたものを、今40%にする最も明快な理由がないと思うのです。来年になれば、料率の見直しを行うわけです。料率の見直しと相関連する問題でもあるので、今期これを諮問なさるのかどうかは分かりませんが、このままいきますと諮問されるような気もします。しかし、今回の健康確保事業を中心とした一連の論議と合わせて、この問題を片付けるといいますか、あえて諮問に入れることはないのではないかと思います。

○ 事務局
 一般論で申し上げまして、メリット増減幅の拡大が労災防止努力を促進するというのは確実だと思います。収支改善協議会というものがあります。保険料の納付と給付がどのくらいか、この収支を改善しようという経済的なインセンティブを与えつつ、災害防止努力をしていくものです。もちろん本来、災害防止努力それ自体でやらなければいけないのですが、企業が置かれている経営環境という点から見ますと、やはり経済面からのインセンティブを与えることは、さらに確実に災害防止努力を促進するということが言えるかと思います。
 確かに御指摘されているように、それを利用して「労災かくし」をしようという悪意の事業主がいるのではないかということも、おそらく否定できない事実だと思います。そこら辺は、どちらがどうかというように、数字的に出せれば良いのでしょうけれど、そもそも一方は隠そうとしているわけですから、これを定量的に出すのは、おそらく難しいのではないかと思っております。私どものスタンスとしては、メリット制というのはそもそも経済面から災害防止努力を促進するというものです。これは今までの経緯を見ても、非常に効果のあるやり方だと思っております。ただ一方で、「労災かくし」を助長する、「労災かくし」が横行するのではないかという心配や懸念は十分理解できるところです。私どもとしては、労災かくしを防止する対策というものをより強力に取っていく必要があるだろうと考えているところです。そういう点を是非御理解いただければと思っております。

○ 委員
 今の事務局の説明はそのとおりだと思います。悪いほうにも良いほうにもインセンティブがある話ではあるのですが、事務局の経験則というか、理論的な判断からしても、良いほうのインセンティブのほうが強く働くだろうという説明であるようですので、それはそれで良いと思うのです。
 そのついでに、もう1つお願いがあります。先ほど平成2年の調査で、隠された労災の件数というか、それが発覚した件数の話が出ましたね。実態はどうなのかということが分かれば、皆さんにも教えていただきたいと思います。その関連で、先ほどもおっしゃいましたが、いろいろな調査はあるのでしょうから、平成6年から平成9年までの数字でペーパーになっているものがあれば、もし良ければ差し支えのない範囲で、是非いただきたいというお願いです。

○ 事務局
 では次回に用意いたします。

○ 委員
 資料の10頁に、「労災かくし対策について」というのが出ていますね。その対策として、「安全パトロール等を活用した」と書いてありますが、私は何年か前に労災防止指導員というのをやっておりました。場所によってなのでしょうけれど、委員になっても一度も安全パトロールの案内が来なかったということが結構ありました。やはりそれを言う以上は、そういうこともきちんとやっていただきたいと思います。今の議論とは全然違いますが、そういうことを徹底的にやるとすれば、体制も十分取っていただきたいなと思います。

○ 会長代理
 労災防止指導員の活動については、いかがですか。

○ 事務局
 資料2−3にある「安全パトロール等」というのは、行政が労災防止指導員等と行っている活動とは別です。お話にありました労災防止指導員の活動につきましては、各県によって取組みに差があるところはございます。いろいろな歴史的な経緯もありまして、活動が活発な所や、そうでない所もあります。我々といたしましては、積極的に労使の経験者を活用するようにというところがありますから、ただ今のお話のようなことではまずいと思いますので、きちんと活動するように、改めて周知を徹底したいと思っております。

○ 委員
 私見ということでお聞きいただきたいと思います。私は事業所で中央安全衛生委員会の委員長ということで、2年ほど安全問題を担当してきました。その実感といたしまして、やはりこの「災害かくし」というのは、大変な問題であります。発覚いたしますと、企業にとっても、あるいはその業者にとっても、致命的な問題なのです。そういう意味で、こういうことのないようにということで、相当重点的に取り組んできたのですが、にもかかわらずいろいろな業種の中であるということについて言いますと、やはりそのことによって上の方といいますか、元請の方、あるいは発注者の方に対して迷惑をかけたくないということが意識として非常に強いと思うのです。その結果のかくしということですから、今議論がありますように、メリット制云々を気にかけてかくしがあるというよりも、やはり発注問題とか、上の企業、元請や発注者に対して迷惑をかけたくないというところが極めて強いのではないかということを実感いたしましたので、参考までにお話させていただきます。

○ 会長代理
 私も一委員として。この「労災かくし」については厳正な措置をやればやるほど隠すことに繋がっていくので、むしろ事後対策よりも予防対策に力を入れると。今後、取組みを一生懸命やっていただくようですので、この辺を少し具体的に実行に移していくことになればと思います。これは特に元請というより親企業教育が大事だと思いますので、その辺は関係部局でご努力いただきたいと思います。ほかに御意見はございませんか。
 それではご意見等も出尽くしたようですので、本日はこれで終わりたいと思います。事務局におかれましては本日の議論等を十分考慮の上、今後、法案要綱等の検討に当たっていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 本日はこれにて散会いたします。どうもありがとうございました。

照会先
労働基準局労災管理課

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