日時 | 平成12年7月12日(水)10:00〜12:00 | |
場所 | 労働省省議室 | |
議題 | (1)「職業能力開発促進法施行令の一部を改正する政令案要綱」及び「職業能力開発促進法施行規則の一部を改正する省令案要綱」について
(2)今後の職業能力開発施策の在り方について(第7次職業能力開発基本計画の策定を含む) (3)その他 |
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配布資料 | No.1 「職業能力開発促進法施行令の一部を改正する政令案要綱」及び「職業能力開発促進法施行規則の一部を改正する省令案要綱」(諮問)
No.2 今後の職業能力開発の在り方研究会報告 No.3 第6次職業能力開発基本計画の進捗状況 No.4 第39回技能五輪国際大会日本開催の決定について |
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出席委員 | 学識経験者 | 今野浩一郎 大澤 眞理 尾高煌之助 小池 和男 早川宗八郎 古郡 靹子 |
労働者代表 | 市川 清美 平山 和雄 堀口 雅行 |
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事業主代表 | 青山 伸悦 尾崎 朋泰 小嶋 隆善 讃井 暢子 山田 恒夫 |
(会長)
ただいまから、中央職業能力開発審議会第185回総会を開催します。
それでは、早速議題に入りたいと思います。最初の議題は「職業能力開発促進法施行令の一部を改正する政令案要綱及び職業能力開発促進法施行規則の一部を改正する省令案要綱について」です。それでは事務局からご説明をお願いします。
(事務局)
資料No.1をご説明します。資料No.1は諮問文と要綱案、後ろに参考資料1、2、3が付いています。
資料No.1の1枚目は、労働大臣から本会に対する諮問の写しです。そこにあるとおり、職業能力開発促進法施行令の一部を改正する政令案要綱と、同法の施行規則の一部を改正する省令案要綱について、意見を求める内容となっています。改正の内容は「第1」にあるとおり、技能検定職種に、新たに「産業車両整備」という職種を追加して、「織機調整」という職種を廃止しようというものです。
後ろから2枚目に「参考資料3」がありますが、それをご覧いただきたいと思います。技能検定は、職業能力開発促進法に基づいて、労働者の有する技能の程度を一定の基準に基づいて検定して、これを公証する国家検定制度です。労働者の技能と地位の向上を図ることを目的としており、昭和34年度より実施されています。技能検定は、労働大臣が政令で定める職種ごとに、労働省令で定める等級に区分して、実技試験と学科試験により実施しています。現在はその最後の頁にあるように、133の職種について検定を実施しています。必要に応じ職種の新設、あるいは統廃合を行っているし、また試験基準の見直しも順次行っています。ちなみに平成11年度には、全国で19万7,000人受験申請があり、約10万人の方が合格しています。また、累計では250万人ぐらいの方が「技能士」という称号を称しています。技能検定の合格者には労働大臣、あるいは都道府県知事から合格証書が交付されています。
本日ご審議いただく政令案の概要については、2枚ほど戻っていただいて、参考資料の1でご説明させていただきます。今回、追加を予定している産業車両職種の「産業車両」というのは、フォークリフトや無人搬送車といったような荷役作業に使用する車両です。これらの車両の点検、分解、組立て、修理、あるいは測定といった整備を行う職種です。産業車両は、近年その使用が増加していて、生産台数は年間60万台ほどになっています。また、今後ともその需要は増大することが見込まれています。産業車両に従事する労働者については、全国的に1万6,000人程度と見込んでいます。こういった中で、我が国のこれからの産業にとっても、フォークリフト等の産業車両は不可欠なものとなると思っていますが、これらを安全かつ効率的に作業するために、その適切な整備が重要となっており、従事労働者の技能の向上が求められていることと、従事する労働者の技能と地位の向上を図ることを目的として、技能検定職種として追加したいと考えています。
また、「織機調整」は主にタオル生地を織る織り機ですが、これについては昭和40年度から技能検定職種として導入していますが、技術革新の進展により、手作業による調整がなくなり、ほとんどコンピューターによる機械化という形になり、いまのところ検定をすべき技能がないということもあり、今回廃止という形を取らせていただきたいと思います。
次に職業能力開発促進法施行規則の改正についてご説明したいと思います。次の頁に「参考資料2」があります。要綱自体は前のほうにありますが、参考資料2を使ってご説明させていただきます。
職業能力開発促進法においては、技能検定は実技試験と学科試験によって行うことが定められています。また、それぞれの試験の基準と、そのほか技能検定の実施に必要な事項は、労働省令で定めることとされています。本日ご審議いただきますのは、その基準等が適切であるかということをお諮りしたいためのものです。
まず「産業車両整備」職種に関しては、1級と2級の等級を設けて試験を実施したいと考えており、その試験基準を設定したいと思っています。また「織機調整」職種については、廃止を予定しているので、当該試験基準を廃止したいと考えています。さらに「産業車両」職種とは別に検定をしていた「鉄道車両製造・整備職種」については、昭和63年度から技能検定を実施していますが、学科試験と実技試験に、鉄道車両の点検と調整に関する基準を加えて、これを選択科目として、検定を受けていただく方に選んでいただくこととしたいと思っています。そのために、基準を加える予定をしています。鉄道車両の点検・調整というものは、定期点検等の際に必要となる技能、点検や調整、それから簡単な試験、あるいは検査といった技能であって、これらの技能について、技能検定を行いたいと考えています。
2の(2)です。技能検定の職種を追加する場合、「技能士コース」という短期課程の普通職業訓練の基準を整備してきました。これは受験生の皆様に基準を示して、主として通信による訓練を行っていただいている場合が多いと思いますが、そのために「産業車両整備科」を追加します。「織機調整」の廃止に伴い、「織機調整科」を廃止します。また、「鉄道車両製造・整備」職種の中に、「鉄道車両製造・整備科」という選択科目を追加するものです。さらに、これらの改正に伴い、技能検定試験の合格者が称する名称について、定める所要の整備を実施したいと考えています。さらに経過措置等、必要な措置を講じたいと考えています。
(会長)
本件については、当審議会の技能振興部会でご審議いただいています。技能振興部会長よりご報告いただきたいと思います。
(部会長)
ご報告申し上げます。ただいまの事務局から説明のありました案件については、本年3月22日に開催された技能振興部会で審議申し上げました。すなわち、まず1つは「産業車両整備に係る技能検定職種の新設及び織機調整職種の廃止」、もう1件は「産業車両整備職種に係る技能検定試験基準の新設及び鉄道車両製造・整備職種に係る技能検定試験基準の追加」です。これは車両点検・調整作業です。それについて、専門調査員による専門的、技術的検討の結果等を踏まえて審議して、これを了承いたしました。
(会長)
ただいまの説明について、何かご質問なりご意見がありましたらどうぞ。
特にご意見もないようですので、「職業能力開発促進法施行令の一部を改正する政令案要綱及び職業能力開発促進法施行規則の一部を改正する省令案要綱について」は、妥当であるということで答申してよろしいですか。
(異議なし)
(会長)
それでは、事務局から答申案を配っていただきます。よろしいですか。それでは事務局に読んでいただきます。
(事務局)
それでは本文を読み上げさせていただきます。「平成12年7月12日付労働省発第21号をもって諮問のあった職業能力開発促進法施行令の一部を改正する政令案要綱及び職業能力開発促進法施行規則の一部を改正する省令案要綱について、下記のとおり答申する。記。職業能力開発促進法施行令の一部を改正する政令案要綱及び職業能力開発促進法施行規則の一部を改正する省令案要綱は妥当なものと認める」。以上です。
(会長)
ありがとうございました。ただいま事務局が読み上げた答申案のとおりでよろしいですか。
(異議なし)
(会長)
それでは、ただいまの内容で、本日付で労働大臣に答申することといたします。どうもありがとうございました。
2つ目の議題は、「今後の職業能力開発施策の在り方について」です。第7次職業能力開発基本計画の策定に関連した議題になりますが、まず事務局から説明をお願いします。
(事務局)
資料No.2と資料No.3により、ご説明申し上げます。職業能力開発については、職業能力開発促進法に基づき基本計画を策定することになっています。現在、第6次の職業能力開発基本計画が施行中です。これは資料No.3にあります。
この第6次職業能力開発基本計画は、対象年度が12年度までとなっていて、来年の3月をもって一応対象期間が終わることになります。このため、今後、第7次職業能力開発基本計画を策定し、施行していくことになるわけです。そういう観点から、中央職業能力開発審議会において、第7次職業能力開発基本計画についてのご議論をいただきたいと考えています。計画だけでなく、併せて、今後の職業能力開発施策の在り方についてもご議論いただきたいと考えています。
今日の中央職業能力開発審議会総会においては、第6次職業能力開発基本計画の進捗状況と、今後の施策の在り方に関して議論を行っていただいた「今後の職業能力開発の在り方研究会」の報告についてご説明したいと思います。
本研究会は、今野学習院大学教授を座長として、13回にわたって検討を行ってきたものです。本日付で研究会の報告がまとまりましたので、ご説明申し上げ、ご議論の参考にしていただきたいと思います。
資料No.2によりご説明します。4枚目の「報告」を開けていただきたいと思います。最近、IT化等の技術革新、あるいは経済のグローバル化という社会経済情勢の変動が非常に大きくなっています。また、雇用面ではミスマッチという問題が大きな問題になっています。報告は、そうした構造的な問題を取り上げて、分析しつつ、今後のあるべき職業能力開発施策について提言をしたわけです。
まず、経済・社会の変化、企業側の状況について見ると、やはり何といってもIT化という技術革新、あるいは経済のグローバル化といった進展が、需要構造の変化等を通して、企業の在り方を大きく変えているということが大きな点だろうと思います。具体的に企業の在り方として、これまでは産業内での企業間競争というものが主だったわけですが、今後はむしろ産業の融合や既存産業衰退、新規分野創出といった新しい動きが出てきています。そうすると、一定の需要を前提とした業界秩序の下におけるシェア争いや系列化中心の動きといった従来の動きは変わり、新分野へ進出するとか、あるいは他産業との連携というような産業を超えての動きが出てきています。そうすると、企業の在り方というものもかなり変わってくる。例えば組織、人事戦略について見ると、これまでのようなどちらかというと指揮命令系統がはっきりした組織、職務編成から、プロジェクト方式の採用など、柔軟でフラットな職務編成を目指す傾向が強くなっています。
労働力についても、急激な需要の変化に対応するため、例えばアウトソーシングをかなり進めていく動きがみられる。そして内部労働力についても、専門職層を充実する反面、パート労働者や派遣労働者の活用が目立っていて、いわばアウトソーシングと内部労働力もいろいろ多様化していますが、そういったものを組み合わせて環境変化に対応しようとしているというのが大きな特徴ではないかと思います。ある意味で外部労働の活用を進めるとともに、内部労働市場もかなり変わってきているということが言えるのではないか、ということが企業側の状況です。
労働者側の状況ですが、高齢化社会に突入して、職業生活の長期化が見込まれるわけです。しかしながら、反面、その間、技術革新等の急激な変化が予想されるわけです。こうした中で、今までのような能力開発の在り方に限界が出てくるということになる。また、一方で、就業形態が非常に多様化してきている。こうなると、労働者について、それぞれ個別的に希望・適性・能力によってどのようなキャリア形成を行うか、また、それに伴ってどのような能力開発を行っていくかと、かなり個別に見ていかなくてはいけない。しかもそれは長期にわたるので、キャリアという点をしっかり押さえてやっていくということが必要になってくる、ということが労働者側の事情として言えるのではないか。
そして具体的にいま申し上げたようなことを、職業能力開発の面でどうポイントとして押さえたらいいかということが次の課題です。第1が「職務編成の変化への対応」ということで、タテ系列の指揮命令がはっきりした職務編成から、柔軟でフラットな職務編成になってくるわけです。これはある意味では、これまでのように需要が一定していれば、企業内でもその需要に応じて職務配分して、比較的職務内容というものが明確だったわけです。そういう比較的明確な職務を前提に、OJTによって習熟化を図っていくということがこれまでのやり方であったであろうと思います。
しかし、需要構造が大きく変わる、環境変化がどんどん進んでいくことになると、こういう指揮命令がはっきりした職務配分の明確な組織というよりも、柔軟に対応できる組織が求められてくる。いわばフラットで柔軟な組織なわけですが、そうすると能力についても、一定の職務を前提として、それに習熟するという方向から、むしろ柔軟に対応できるような能力、すなわち新たな課題に対応できる能力であるとか、自ら問題を発見したうえで、これを解決していく能力の向上が求められるようになってきている。
また、企業にとっても、労働者に能力を発揮していただくということになると、やはり職務がその労働者の方に合った適正なもの、その希望に合ったもの、あるいはキャリアに合ったものということを考えて配置していくことがおそらく必要になってくる。そういう意味で、企業側のニーズを明確にしたうえで、ポストにそれぞれ労働者側の希望を聞いてすり合わせをしていく。いわば、配置を前提としたうえでのキャリア面の配慮をしたコンサルティングが、おそらく重要になってくるのではないか。
能力そのものについても、職務に習熟するだけではなく、能力の幅というものが求められてくる。より突き詰めて言うと、企業内においても、労働者の能力の市場価値を高めていくことが必要になってくるのではないか。よく労働力は流動化するから、流動化した市場の中で、市場価値を高めないと雇用がなかなかできないということを言うわけですが、実は企業内の市場においても同様のことが起こっている。むしろ企業がどこへ行くかわからないということになると、労働者自身も自分の市場価値を高めて、企業がいろいろ方向転換する際にそれについて行く、そういう多様な能力を身につけることが必要である。それはいわば企業内においてもエンプロイアビリティというか、就業能力を高めて、企業として、そういうエンプロイアビリティの高い人材を育て、かつつなぎ止め処遇していくことが、これからの企業の生残りにとっても非常に重要ではないかという指摘です。
したがって、能力開発の方法についても、労働者自らが職業能力を高めることを奨励、支援していくことがますます必要になるのではないか。これは企業側が、個々人のエンプロイアビリティをどう高めたらいいかということはなかなかわからない。やはり自分で市場価値を高めるような努力が必要ですし、企業はそれを推進していくことが今後の重要なポイントになってくるという指摘です。
2番目ですが、「能力主義、成果主義の傾向への対応」です。最近、傾向として成果と報酬を直接に結びつける傾向、いわば能力主義の傾向がかなり強くなってきているわけです。そうすると、能力評価についても、目標管理制度とセットで、アウトプット評価というものが適正かどうかわかりませんが、アウトプット評価のシステムの導入の動きが出てきているわけです。こういう能力主義的な人事管理制度を有効に機能させていくためには、企業側が期待する職務の内容、役割を明確化していくことが必要です。それと労働者の希望・適性・能力を見定めて、適切にマッチングを行っていくということがますます重要になってくるということが言えようかと思います。
能力開発の観点からは、企業が組織として持続をしていくことが必要なわけなので、短期的な観点から能力主義を言うのではなくて、長期的な観点から、能力というものを考えていく視点が必要であろう。節目節目ごとにキャリア・コンサルティングを行いながら、適切な能力開発や自己啓発を進めていく。長期的な観点からの能力開発が必要だろう。したがって、成果主義、能力主義といっても、これを単に短期的な観点だけでなく、節目節目ごとにキャリアを考えながら能力というものを引き出していく。そういうことが、能力主義といっても必要ではないかという指摘です。
3番目は「キャリア形成の個別化」です。先ほど申し上げたように、職業生活が長期化する一方で、大きな環境変化に巻き込まれることが予想されるので、労働者の方にとって節目ごとに自分のキャリアを振り返ったり、適正能力、いわば能力を棚卸しして、自分を見つめることが必要になってくるのではないか。そうしたうえで、今後のキャリアをどうしていくかを決めていただく。しかもそのキャリアも、これまでのように一律の昇進を目指したものではないわけです。企業内においても、極めて多様となると考えられるわけです。
それから能力開発、自己啓発というものも、このようにキャリアが個別化していくと、その個別のキャリア形成によってどういう能力開発をするか、あるいは自己啓発をやっていくかが決まってくるわけです。企業内においても、必ずしも一律の能力開発というわけにいかなくなってくると思います。能力評価についても、その個別のキャリア形成をしていくうえでの基準になるので、能力評価の方法も、その労働者の個別のキャリアを振り返って、それを評価し、さらに今後の形成につなげていくということで、キャリア形成と結びついた評価の在り方を考えていかなければいけないということです。
4番目に「労働移動の増加への対応」です。労働移動の増加が見込まれると、当然、自らの市場価値を高めることがますます重要になります。「内部労働市場」と「外部労働市場」という言葉がありますが、労働移動の増加につれて、内部労働市場と外部労働市場の関連性が次第に強まっていくことになります。そうすると、そういう面からも職業能力について市場価値というものを見ていかなくてはいけない、重視していかなくてはいけないということになりますが、一体そういう市場価値の基準やポイントはどのようなものか、という確立したものは当然現在ではないわけです。しかも労働者の方の市場価値を高めるための能力開発は、個別的にならざるを得ない。
つまり労働者の方の市場価値がそれぞれ個別であるので、訓練目標もそれぞれ個別化していくということがあります。そうすると、やはり今までのようなやり方だけでなく、市場価値というものを極力明らかにするとともに、そうした基準に基づいてコンサルテイングや評価を行っていく。あるいはそういう基準を目標にやっていくことが必要ですので、そういうシステムを整備することが重要になります。そのほか派遣労働者の方やパート労働者の方が非常に増えているわけですが、こういった方についてもキャリア形成ということを考えながら、自己啓発の支援を行っていくシステムというものを、社会的に作っていくことが必要であろうという指摘です。
以上のような分析、基本的な方向を踏まえてまとめると、4頁の枠で囲っていますが、このようなことが今後重要ではないかというメッセージです。第1が、個別的なキャリア形成というものを中心に考えていく必要性が極めて強くなった。第2に、そういう個別的なキャリア形成を進めるための能力評価の制度が必要である。それから能力開発についても、個別的なキャリア形成を促進するような内容のものが求められてくる。特に、職業能力の開発、育成のポイントとして、市場価値というか、エンプロイアビリティの向上、高度な職業能力の育成、問題発見、解決能力の涵養が今後ますます必要になってくる。それから能力開発、能力評価と併せて、自己啓発も大きな柱として立て、これを支援していくことが必要である、ということになると思います。
具体的に(1)から(3)に書いてあるように、施策の柱として職業生涯にわたるキャリア形成を位置づけ、個別の労働者が適切なキャリア形成を行えるよう支援を行うということになります。したがって、能力開発、能力評価、自己啓発というものは、個別的なキャリア形成を促進するものとして、位置づけ直していくということが適当ではないか。キャリア形成を進める前提として、当然能力評価のやり方も、技能検定という仕組みだけでなく、キャリアをベースとした能力評価システムを設けていく必要があるのではないか。
企業内外におけるエンプロイアビリティの向上が、今後ますます必要になってくるだろう。そうすると、専門的なコンサルティングを行ったうえで、エンプロイアビリティを高めるような施策が必要ではないか。また、自己啓発を促進するための環境整備が必要ではないか。能力開発の中身として、これまでの個々の専門的な能力の向上は当然必要ですが、それに加えて問題発見、解決能力の涵養ということも目標として加えていく。
それから自己啓発を、先ほど言っていたような能力開発、能力評価と並ぶ施策の重要な手段に位置づけていく。自己啓発を施策の大きな柱として位置づけ、これを促進していくことが求められるのではないかということです。
5頁以下に、今申したことに若干敷衍して書いています。「個別的なキャリア形成を支援するための体制の整備」という問題が最初にあり、続いて「個人の適正なキャリア形成を支援するための職業能力評価制度の整備」、3番目が「エンプロイアビリティ向上のための能力開発施策の推進」、4番目が「自己啓発への支援の強化」です。
新しいところが、この第1の「個別的なキャリア形成を支援するための体制の整備」です。これはこれまで萌芽的には出ていたのですが、こういう形ではっきり施策として考え方を打ち出すのは初めてです。まず、やはり労働者の能力をはっきり知る。労働者の能力を、キャリアの節々で棚卸しすることが必要になります。そういう能力をはっきり知るという仕組みをどう作っていくかということです。それを前提に能力開発、自己啓発の目標としていくということになります。
そのためには企業側も労働者に能力を知らせる仕組みを考えていく必要がある。それは具体的にはどのようなキャリアにおいて、どのような仕事を行い、どのような成果を出してきたか、ということです。つまり、どういう課題があって、その課題についてどういうふうに能力を発揮して対応してきたか。単に履歴書のようなものから脱皮して、むしろどういう能力が使われてきたか、発揮してきたかということを明らかにするような作業が必要である。そういう意味で、客観的にそういう能力がわかるような記述、いわばキャリアシートといったものを作っていく必要があるのではないか。これが履歴書的なものではしょうがないわけで、もう少し突っ込んで、課題に対してどういう能力を発揮したか、ということを記述し、かつそれを基に評価するような専門的な体制の整備も考える必要があります。
このキャリアシートについては、現在、労働者が何をやっているか、自分はこういう能力を身につけたとか、発揮してきたと書き込むのがベースです。ただ企業側もそういうキャリアシートを見て、キャリア・コンサルティングを行っていくことになると、単に労働者側の自己申告だけでなく、企業側としてもそういうキャリアの積上げについて、何らかの情報を持って、そして相談していくことが望ましいのではないか。ですからキャリアシートというものについても、もちろん労働者側が書くのが中心になりますが、企業側も何らかのキャリアシート的なものを備える、という仕組みも考えられるのではないかと思います。これは今まであまり出ていない論点ですが、今後いろいろご検討願いたいと思っていることの1つです。
それから、当然そういうキャリアシート的なものを転職の際に持ち運びをし、新しく就いた企業の中で、それを前提にキャリア形成を相談してもらう。そういう仕組みが必要であるということです。
具体的にキャリア形成を支援する仕組みも整備していく必要があるわけですが、いまのようなことを前提に、企業内でどう行うかが次の問題です。企業としては、当然職務編成ということがあるわけですので、その職務編成で求めている職務ごとの人材像、こういった能力を求めているのだということをまずはっきりさせる。そのうえで労働者のキャリアを、先ほど申し上げたシートなどで十分把握して、それを評価する。そして適性・希望を照合して、今後のキャリア形成をどうするという方針を確定していくことが望まれるわけです。
この点については9頁に簡単な流れを示しています。段取りとしては、1から6まで書いてあることが、いわば企業のキャリア・コンサルティングなどの中心になってくるのではないかと思います。人材戦略に基づいて、まず企業が求める能力を決定して、それに個人が持っている能力をキャリアシートなどで把握して、それとのすり合わせを行っていく。「企業が求める能力を個人が知る仕組み」と、「個人が持っている能力を企業が知る仕組み」ということで、能力評価という点からも、能力開発の目標という点からも、ここがキーになってくるのではないか。そして評価を行って、教育訓練や自己啓発の計画を立てる。そして6番目に書いてあるように実施していく。大まかに言うとこういう流れになってくると思います。
こういうキャリア形成を支援し、労働者の能力を引き出す企業像というものが、今後必要になってくるのではないかと考えられるわけです。能力開発施策としても、そういう企業像を推進していく必要がある。具体的には5頁の下にあるように、「キャリア形成支援を担当する者を明確にする」ということで、例えば能力開発推進者という制度がありますが、そういった者にキャリア形成も担当してもらう、ということも考えられようかと思います。行政として、こういうシステムが整備されるように支援していくということが、今後の大きな眼目として考えられるのではないかということです。
いま企業内のことを申し上げましたが、やはりそういうシステムを導入できる企業は、必ずしもすぐにたくさん出てくるわけではないと思いますし、外部労働市場に出てくる方、市場をまたがって、企業を超えて動かれる方も当然多いわけですので、社会的にこういうキャリア・コンサルティングを行える仕組みを整備していくことが必要になろうかと思います。
また、企業内外のそういうキャリア・コンサルティングという業務が重要になってくるので、そういう専門家の養成も考えていく必要がある。専門家としては、人事・労務管理全般について、専門的な知識を持ったうえで、キャリア・コンサルティングができるかということになってこようかと思います。それからキャリア形成促進策として、情報提供、あるいは能力開発計画を作成する体制も、併せて公的に構築していく必要があるということです。
以上が、ある意味では就職して、これからのキャリアを積んでいこうという方に対する対策ですが、(5)に書いてあるのは、学卒未就職者の方のキャリア形成です。本格的なキャリアを積む以前に、どうしたらいいかということを探索しておられる若い方が非常に多いわけです。こういう方については、やはり学校教育の段階で、職場体験等、啓発的な体験を行う機会も必要です。離職した方についても同じように啓発、あるいはいろいろなボランティアや職場体験をしていただく。離職者の方についても、そういう対策が非常に重要であろうということで、キャリア形成支援という観点から、こういう施策も併せて一貫して取り込んでいくことが今後重要だと思われます。
次に、能力評価制度です。これは今までの所で申し上げたことと重複しているわけですが、現在、国による技能検定制度があります。そのほかに民間の行う検定制度を認定するシステムとして、技能審査認定制度と、企業内の能力評価を行った場合の認定ということで、社内検定認定制度があります。こうした制度というのは、それなりに能力の向上に寄与してきているわけですが、ただ、これからはこうした技能検定だけでなく、より幅広い能力を評価するシステムを開発していかなければいけないのではないか。これまでの検定は、どちらかというと特定の技能、知識などに関する評価、専門的な能力の評価ということでしたが、これからはキャリア形成ということを考えた場合、キャリアをベースとして実践的な能力を評価するシステム、さらにはこれは先のことになるかもしれませんが、エンプロイアビリティの基準、ポイントを明らかにして、そういったものを前提として、能力評価をしていくことも考えていく必要がある。それから職業能力評価を受ける機会も非常に重要です。これまで能力開発はやってきたわけですが、自分の能力の棚卸しをして見つめ直す、そういう機会の確保が必要ですので、それをどう確保していくかという視点の政策も必要だろう。
いま申し上げたことは(1)から(3)に書いてあります。(1)は重なるので省略します。「エンプロイアビリティ評価」ですが、エンプロイアビリティ基準を、できるだけ実践的なものとして明確にしていくことが重要で、雇用対策としても重要な意味を持つだろう。民間団体等で、いろいろ能力評価などを行っているわけでして、そういう評価基準というものを明らかにして、相互に関連性をつけていく。そういうことによって、徐々に社会横断的な評価基準、あるいはエンプロイアビリティ基準というものを形成していくことが重要であろう。そういう意味で、民間団体の能力評価システムもきちんと整備して、位置づけ直していくことも(3)に書いてあるように必要になってきます。
続いて、「エンプロイアビリティ向上のための能力開発の推進」です。先ほど申し上げたように、やはり市場価値ということが、労働力移動に伴って当然出てきますし、企業内でもそういう傾向が強くなっている。こういったものにターゲットを当てて少し基準を明確にしていき、能力開発の個人ごとの目標作りを手伝っていく。そういう作業を徐々にやっていかなければいけないだろう。今すぐできるということではありませんが、そういうことを目指してやっていくべきである。エンプロイアビリティ基準に基づいて評価して、不足している能力について、能力開発、自己啓発により市場価値を高めていく。そういう目標を個人ごとに示すという意味でも非常に重要ではないかと思われます。
それから受け皿として、そういう能力開発をやる場合に、いろいろ多様なコースを準備する必要がある。これは公共、民間問わず、教育訓練コースの多様化、弾力化を図って、そういう個別の能力開発の必要性の受け皿としていく必要があるだろうと思います。能力の中身として、これからますます創造性や問題発見能力などが重要になりますので、公的な訓練機関においても、こういう新しい手法を取り入れていく必要があろうと思います。
4番目ですが、自己啓発というものがますます重要になってくるということになります。エンプロイアビリティ向上というのが非常に個別的である、個人ごとであるとすれば、企業がそれを一律にやっていくことはなかなか難しくなっている。むしろ労働者個々人が自己啓発を行っていく。それを企業が支援していく体制が必要であろう。そういう意味で、例えば教育訓練休暇制度とか、自己啓発休暇制度など、こういった環境整備も重要になってくるのではないかということです。
以上のような研究会報告で、ある意味ではこれまでの能力開発施策から一歩踏み込んで、個別のキャリア形成支援という点を明確にして、それを軸に能力開発、能力評価という仕組みを再編し直すという提言です。こういったことをベースに、総括部会等で今後の在り方をご議論いただければと思います。そういうことを踏まえて第7次職業能力開発基本計画の今後のあるべき施策というものを事務局としても作っていきたいと考えている次第です。
参考までに資料No.3で、「第6次職業能力開発基本計画の進捗状況」というものをお配りしています。これは平成8年に策定した計画です。1頁をお開きいただきたいと思います。第1部総説、「計画のねらい」が書いてあります。この基本計画は昭和46年度から5次にわたって作ってきて、これが6次目になるわけです。この6次目の計画の背景というと、3行目から書いてあるように、バブル経済の崩壊とか、為替相場の急激な変動等による景気への影響が生じている。中期的には国際化の進展、情報通信技術をはじめとした技術革新、少子・高齢化という環境変化を前提に、能力開発の方向としては、変化に迅速かつ的確に対応でき、高度で専門的な職業能力を有する人材の育成ということが、まず第1に経済発展の基盤をなすものとして重要。特に2番目ですが、事業の高付加価値化とか、新分野展開を推進するに当たって、優れた熟練技能の維持発展も重要である、ということが書いてあります。今後の人材育成の取組みについては、労働者個人が自らの能力に関心を持ち、その向上を図っていくという主体的取組みを積極的に推進する、ということが挙げられています。したがって、能力開発の方向として、「事業の高付加価値化・新分野展開に取組む企業に対する人材育成面での支援」、「自発的な職業能力開発に取組める環境整備」、「職業能力の適正な評価」、「人づくりを通じた国際社会への貢献」といった点が指摘されているわけです。
2頁目ですが、いま申し上げたようなことで、5つ項目が並んでいるわけです。1番目が「産業構造の変化に対応して雇用の安定・拡大を目指す職業能力開発の展開」。これは具体的には、今出てきた高付加価値化や新分野展開、それからホワイトカラーについての能力開発という点がポイントになろうかと思います。2番目は「個人主導による能力開発への取組み」ということで、自己啓発を促進していくという観点です。3番目は「能力評価の推進と技能の振興」です。技能検定制度、それから民間の能力検定を認定していく。それからホワイトカラーの能力評価として、ビジネス・キャリアという制度を作っていますが、こういったものによって、ホワイトカラーについても能力評価できる仕組みづくりをしていく。4番目が「企業内外における効果的な職業能力開発の推進体制の整備」ということで、計画的な職業能力を進めていくことが1つのポイントになってきます。最後に、「人づくりを通じた国際社会への貢献」といった柱で、各般の施策について書き込んである形になっておりますが、細かいご説明は省略させていただきます。
この計画を前提に、元に戻っていただいて、資料No.3にあるような「基本施策」の右側に「主な進捗状況」ということで整理しています。これも個々にご説明申し上げませんが、主だったところとして、例えば「高付加価値化・新分野展開を担う人材の育成」という所で、「民間企業における教育訓練の高度化への支援」として、人材高度化能力開発給付金を平成7年に創設しています。高付加価値化や新分野展開というものを、人材面から応援しようということで、平成12年度には、額として128億円の予算を確保しているところです。また、「公共職業訓練の高度化」ということで、平成11年に、職業能力開発総合大学校を設置するとともに、職業能力開発短期大学校の大学校化、これまで短期大学校というものは2年だったわけですが、これに加え2年間の応用過程を設置する大学校化を図っています。そういう意味で、公共訓練についても、高度化への対応を進めてきつつあるわけです。
そのほか「労働力の確保・育成が求められる分野の人材の育成」ということで、「21世紀人材立国計画」というものを昨年から始めています。これは地域ごとに産学官関係者が結集して、21世紀に必要とされる人材、例えば業を起こそうというようなときに、どういう能力を付与したらいいか、どういうコースを作ったらいいかということや、高齢者の方が能力を生かすような能力開発、若年の方がいろいろ職場体験ができるようなコースの開発、そういったものを産学官が集まって、地域のニーズに応じたコース設定をしていこう。いわば地域における能力開発のフロンティアみたいなものを作っていこうということで、昨年からやっています。
そのほか「情報通信分野の人材育成」ということで、公共職業能力開発施設においてもいろいろやっています。特に下に書いてあるように「コンピュータ・カレッジ」ということで、情報処理技能者の養成もやっています。
2頁目にいくと、「職業能力開発による企業間・産業間移動の円滑化」、それから「ホワイトカラーの能力開発システム」ということで、アビリティガーデンという施設で行っています。先ほど申したビジネス・キャリア制度ということも1つのポイントになっています。
そのほか、3頁で「労働者の個性を活かす職業能力開発の展開」ということで、(2)の「能力開発の機会の整備・拡大」で、教育訓練給付制度というものをやっています。これは労働者の方が自己啓発で、指定した講座を受けた場合、最高20万円、8割まで助成するというシステムです。これは今までなかったかなり画期的なシステムだと思います。平成12年度において294億円という額の予算を確保しています。あとは省略させていただきますが、そういう計画に基づいて、各般の施策を現在展開している状況です。こういったことを踏まえて、今後の職業能力開発基本計画の策定、あるいは施策の在り方についての議論の参考にしていただければと思います。
(会長)
どうもありがとうございます。今日のご報告は大事なことなのですが、同時に皆様のご意見をお伺いすることも大事なことです。最初に、委員は「今後の職業能力開発の在り方研究会」の座長でしたが、何かおっしゃることはありますか。
(委員)
内容については、すでに詳しくお話いただきましたので、研究会の進め方について、少しお話できればと思います。13回研究会を開催したのですが、まず、労働省が現在行っている能力開発政策の全体を順次レビューしながら議論したわけです。そのときの基本的な観点は、個々の政策の細かい改善など、そういう点がありますが、そういうことよりもむしろ、もう少し大きく変えることとか、何か新しいことがあるとか、今後の状況を考えたときにこういう方向に向かったほうがいいのではないか、という論点にできるかぎり絞って、委員の皆様のアイデアをいただこうという運営の仕方をしました。したがって、私自身は最初からどういう結論があるか、シナリオがあったわけではなくて、自由な議論の中から、これからはこれが重要だろうという論点がいくつか出てきて、その論点を整理して報告書を作ったというまとめ方をしてあります。もう1つ、労働省にお願いしたことは、報告書を作るに当たって厚いものはやめてほしい。薄くしてくださいということで、10頁もない短いもので整理をして、この報告書を作ったというのが研究会全体の進め方です。
(会長)
それでは、ただいまの説明にご意見なり、ご質問なりをどうぞ。
(委員)
5頁で「労働者に能力を知らせる仕組み」と書いてありますが、これは労働者が自らの能力を企業に知らせるという意味ですね。ですので、これは「企業に能力を知らせる仕組み」としたほうがわかりやすいかなと。1で「労働者が能力を知る」、2で「企業に能力を知らせる仕組み」という意味ではないのですか。
(事務局)
(1)と(2)はセットである。労働者が知るというのは裏側返せば企業が知らせるという意味ですが、一体として読んでいただけるかと思いますが。
(会長)
いまの点はよろしいですか。
(委員)
(2)のこの部分については、主に事務局のおっしゃられたことはあるのですが、全体の文意としては、会社はきちんと、労働者がどんな能力を持っているかということを労働者に知らせる仕組みを作るべき、というのが大きな趣旨だと思います。
(会長)
つまり(2)は企業が労働者にということですね。
(委員)
そうですね。
(会長)
書かれた趣旨はそのようです。ご意見がありましたらどうぞ。
(委員)
7月の中ごろまで開催されていた、第88回ILO総会において、ご承知のように人材育成、能力開発の一般討議がありました。その中で、エンプロイアビリティの定義等も相当論議されていて、そこでの結論は政・労・使三者で合意されたものですから、是非次回あたりに資料を提供していただきたいと思います。この中でもかなり言葉が使われていますが、まだ解釈が必ずしも固まっているというものではありませんので。
それともう1つ思うのは、「キャリア」という言葉なのですが、「キャリア開発」、「職業キャリア形成」ですとか、さまざまな所で使っていますが、従来から当然使ってきた言葉ですが、このほどの新しい職業能力開発基本計画の策定の時に、この言葉を用いるときに、できるだけ全体の者により良く認識してもらうためには、どういう言葉に日本語として置き換えていったらいいのか。
例えば「仕事と女性の未来館」のキャリアアップセミナーのテキストでは、まずキャリアを考えるについて、キャリアというのは一体どういうことなのかということで、経験、経歴、生涯という、その3つの意味を持っていますということで説明されているわけです。したがって、今度作るものについても、できるだけわかりやすいものにするということを、是非心掛けていただきたいと思います。
(会長)
いまの点は2つあります。1つはILOのエンプロイアビリティのある種の定義というか、議論、それは委員、お出になっていらっしゃったのですか。
(委員)
事務局がお出になられていたと思います。
(会長)
それは今もしわかっていなければ次回でも是非。
(事務局)
次回ご説明いたします。
(会長)
そうすると第2点、「キャリア」は日本語ではないわけでしょうが、なるべくなら日本語でわかるように、意味を鮮明にするということで、その点はどうですか。
(事務局)
それは当然そうしていきたいと思います。これまでの用語で使っておりますが、むしろその辺を今度分析して、どういった表現にしたらいいか。特に「キャリア」というと経歴という訳が多いわけですが、「キャリア形成」といった場合は過去のものでなく、これからどうしていくかということもありますので、単に「経歴」と訳すと、これからの部分がなかなか表現されていないという難しさがあるわけです。その辺は日本語としてどうするか、工夫しなければいけない部分だと我々も考えています。
(会長)
これは大変面倒で、それをやっていくと、たぶん私の考えでは、非常に内容に踏み込んだ議論になっていくと思うのです。ですから、そういう意味では是非どうぞ、今後総括部会も何回もあると思いますので、そこでお出しくださっていいと思います。つまり「キャリア」というと、1つの企業の中での仕事経験という意味もありますが、例えばコンテンジェントワーカーが長期のワーカーになり、またあるいはコンテンジェントに戻る、あるいは自営業の業種になったりという移り変わりを言う場合もありますので、ある意味で何でも入るのです。ですから、大事すぎてなかなか意味がはっきりしない場合がありますから、是非追及すべき重要な課題だと思います。
(委員)
5頁以降、今後推進すべき職業能力開発施策ということで、いろいろな視点で掘り下げて提案されています。この中でもし方向性等、ある程度決まっているのでしたらお教えいただきたいと思います。7頁の(3)に「民間団体が実施する職業能力評価システムの整備」ということで、非常に画期的だと思われるような考え方が導入されていますが、この方向性なり、例えば後どのようにやっていくのか、いつまでやっていくのか、そういうことがもしおわかりでしたら教えていただければと思います。
(事務局)
いま民間団体が実施するのは技能審査認定制度というものと、社内検定認定制度というものがあります。技能審査認定制度というのは、いわば技能検定の補完みたいなところもありますが、例えば介護関係とか、そういうものについて、まだ全国的に展開するに至っていないものについて、準じて認定していくという仕組みがあります。それから社内検定認定という、企業が行う能力評価を認定していく仕組みがあるわけです。今後、そういったものをどう位置づけ直していくか、こういう機軸が変わることによって、どのように位置づけ直していくか。さらにはある意味ではそういった検定も、特定の技能に関する検定ですので、先ほども申し上げたような、より幅広いキャリアをベースにした能力評価やエンプロイアビリティ評価など、そういうものを視野に置いていった場合に、能力評価の仕組みをどう整理し直すかということを少し検討する必要があるのではないか。そして、できればそういうものをベースに、職業能力開発基本計画にも段階を追ってそういうものを整備していくようなことで書き込めればと考えています。
(委員)
先程の委員の発言は大変重要だと思っているのですが、前回の職業能力開発基本計画では、国際的な問題については「人材育成のための協力」と、「人づくりを通じた国際社会への貢献」という程度でしか書かれていないのですが、国際社会との関係というのは、もうそのようなものではなくなってしまっていると思うのです。いまエンプロイアビリティの話がありましたが、外国人労働力、あるいは能力の問題、その評価の問題、システム、全部国際的に見ないと間に合わない状況だと思うのです。ですから、国際的なこととどうかかわっていくのかということが、もう少し明確になるような方向で、実際計画を立てていかなければいけないのではないか。国際的な流れとの関係は一体どのように見ていきますか、ということを是非意識していただきたいというのが私の希望です。
(事務局)
今おっしゃった点は、非常に重要だと思っています。やはりグローバル化の中で、例えばイギリスであるとかアメリカのコンピテンシーを含んだ基準づくり、いわばアメリカ、イギリス流のエンプロイアビリティの表現だろうと思いますが、そういうものが出来てきていますし、日本の職能制度というものとある意味でかなり近寄ってきている。したがって、能力評価の基準も各国でバラバラだったものが、グローバル・スタンダードとか、国際基準みたいなものに近づいて行くという面はあるわけですので、おっしゃった点は今後の職業能力開発計画でも十分ご議論いただいて、しかるべく位置づけていくということで、ご議論いただきたいと思っています。
(委員)
この能力評価システムについては、研究会では国際化との関係を意識して、具体的には議論をしなかったのです。ただ、全体的な委員会の意識としては、国際化も含めていろいろな評価システムがあるわけです。つまり国を超えた評価システムがあるし、あるいは国内でも公的な評価システムがあるし、民間もある。あるいは公的でも省庁によっていろいろ評価システムがあるので、少し横を見たらという趣旨ですかね。それぞれこうやっていないで、少し横を揃えるというか、関連性を少し整備することが必要だろうというのは、何となく全体の意識としてあって、それが先ほどの報告書でいくと7頁の(2)や(3)のような表現をするときのベースにある。ですから、国際化との関係というのは、具体的には先ほど言いましたように議論はしていませんが、その延長線上には当然あるだろうとは思います。
(会長)
能力評価と国際化に、議論がわりと集まっています。それは大事なことなので、それに関係したコメントがありましたらどうぞ。もしなければ、私はこれは非常に大事というのは、よその国もまだ成功していない領域だというのが私の印象で、90年代に多くの国が努力していて、法律を作ったりいろいろやっているけれどもまだうまくいっていない。それを日本が今までの経験を踏まえてやれば、少し先んずることが可能かもしれないというぐらいにすら思っているのです。
つまりアメリカを例に取ると、94年にナショナル・スキル・スタンダード・アクツという法律を作っています。クリントン政権でしたか、その下でいろいろやるのですが、まだ本当のアウトプットは1つも出ていないというのが私の印象で、なぜ作ったかというと、それは先ほどのご意見と少し食い違うので、これも1つの問題ですが、つまり今までいろいろな職業団体が作ってきたお免状は大事なのですが、それだけではうまく技能は評価できないだろうという雰囲気が出てきたのです。それは何かというと、どうも実務経験に根ざしたスキルを評価するということで、それはどうしたらいいかということがなかなかわからない。それでいろいろな業界団体と組合を合わせて、やってくださいという枠組みだけを作ってきた。
似たような動きがイギリスでもあって、イギリスもまだアウトプットが出ていないというのが私の印象です。要するに職業団体のライセンスも大事だけれども、プラス実務経験を踏まえたある種の技能をどう評価していくかについてはまだ混沌たる状況で、それは非常に重要なこの第7次職業能力開発基本計画で取り組むべき課題だという気がします。
(委員)
いまの話ともつながるのではないかと思うのですが、今回の「今後の在り方」の部分については、本当に日本の能力開発というのは雇用の安定、あるいは職業の安定のためにという部分で、やはり企業がOJTをするのがいちばん第一原則ではないかと思っています。その中で、今回「キャリア形成」という部分に大きく視点を移したという部分は、今後の能力開発のやはりポイントかなと思っています。
そこで8頁にあるように、企業内のキャリア形成システム、特に知らせるという、いわゆる求められる人材像の提示というところで、「人材像」というとかなり漠としていますが、この部分を求められる産業なり業種なり、いま自分の働いている環境の中で、能力開発をどうプラスしていくかというように読みたいのです。
いま会長が言われたように、自分のキャリアの中で何ができて、これからは何ができなければいけないのか、あるいは今後どうあるべきかという部分を、どこで労働者にあるいは働く人たちに提示していくのかという、提示の目標の大きなものがあるべきではないかと思うのです。それは例えば何々産業では将来的にはこうあるべき、あるいは何々産業の何業種では、こういう体系的、段階的にというように。能力開発の基本理念では、「体系的な段階的な」という文言があるので、その体系的、段階的な体制づくりというのは、各産業なり業種なりは持っていると思うのですが、その部分がここにくるのではないかと思っています。またそれがあることによって、評価に移れるのではないかと思うので、ここの「人材像」という部分の目標とするキャリアの体系や段階という部分は、もう少し何とか各労働者が見たときにスッと入れるような文言も含めて整理できないかと、いま考えています。
もう1つは、これは主に企業内のキャリア形成システムですが、離転職者、特に失業をして、次にキャリアアップして就職をしようという、いわゆるエンプロイアビリティの部分なのですが、いまの制度だと例えば3カ月とか6カ月という一定のコースしか入れないのです。ですから、1人ひとり経験も違うし、自分のこれから望むものも違ったとしたら、どこどこ学校の何コースに入れということでなく、私はこういうキャリアを持っているのですが、このキャリアとこのキャリアとこのキャリアを追加したいという部分で、1年ぐらいで3コースか4コースぐらい取れて、自分が目標とする職業能力を身につけて、そしてエンプロイアビリティを向上させて就業できるということで、是非その失業期間中のいまの失業給付も含めた体制を、個々の働く人だという視点を置いて、この報告書にあるような形で大きく変えていただきたいという部分は、1つ要望とさせていただきます。
(事務局)
おっしゃるように、いま3カ月、6カ月という形でやっています。当然キャリアということを重点に置くと、それぞれ非常に個別化していくということは必然だろうと思いますので、どこまでそういう個別化に受け皿のほうが対応できるかということは、1つの大きな課題だと思っています。ですから、全体のバランスの中でそういうものをどう組み込めるか、ご議論いただきながら詰めていきたいと思います。
(会長)
今おっしゃったのは2点あって、第1点は要するに、働いている人がわかるように人材像を書けないかということですね。
(事務局)
エンプロイアビリティというのが、ある意味では一般的なエンプロイアビリティというのはなくて、業界、技術の体系ごとにあるのだろうと認識しています。それは国際的な競争の中で、日本の業界がそれぞれ生き残っていくためには、そういうものの基準を作って、目標を明確にしていく。そして人材を養成していくことがおそらく必要だろうと思います。そういう意味で、国内ではそういうものを支援していく。業界がそういうエンプロイアビリティを作っていくのを支援していくというのが基本的なスタンスになる。ただ、そういう動きをどういう形で進めていくか。あるいは国はどういうことができるかとか、そういうことを詰めていくのが重要ではないかと思います。
(委員)
いまの点で非常に重要だと思うのは、求められる人材像というのは、たぶん言わなくてもいままでは回っていたと思うのです。いまそれを企業の側も言ってみれば長期的なイメージで出せずにいる。これは別に良い悪いの問題ではなくて、産業構造の問題も含めてこれでいけるというのがはっきり出せない。おそらく「IT、IT」と言っても、いま全員がその能力を仮に身につけても、今後5年間、雇用が保証されるなどという保証は全然ないわけで、あくまでいまの時点の切り口でしかない。やはり持続可能というか、安定の雇用ということについてはイメージできていないのだと思うのです。
その場合に、ただ、これはそれこそ会長のご専門ですが、柔軟性ということは実は企業内では働く側からはやらされ、あるいはやってきているわけです。むしろそれが企業の壁を超えるときに、ご指摘のように閉鎖性というところがいま問題になっているわけです。職務にしろ、経験にしろ、つまりどうキャリアを語っていいかわからないような製造業では多能工的に、ホワイトカラーで言えばいろいろなジョブ・ローテーションの中で、まさに総合的に身につけ、あるいは逆に言えばまさに総合的評価をされるというのがそこにあるわけです。そこはどうしても欧米型と違う、よほど一部の専門職を除けば、やはりジョブというものがしばらくないことを想定して、我々はキャリアの形成、能力評価を考えていかなくてはいけないのかなと思っているのです。
そうなると、後ほど出てくる評価基準、あるいは評価システムということがどういう前提に基づくのか。つまりヨーロッパ型、欧米型のジョブ・ディスクリプションだとは日本型の場合たぶん思わないのです。この研究会の中ではどういうイメージで語られるのか、もう少し詳しく教えていただければ助かるのですが。
(委員)
これは全員ではないのですが、私もそうで、かなりの委員はこういう気持が強かったと思うのです。特に企業内で、従業員の人たちに「頑張って勉強しなさい」ということを企業は言うわけですが、果たして何の能力がほしいと思っているのかをきちんと言語化して伝えているのか。この点だけに焦点を絞った調査もこの研究会でやっています。この研究会は13回やり、調査もやりましたが、会社が労働者に求める能力を知らせる仕組みをきちんと会社は持っているのか、というのが非常に問題意識としてあって、そういうことも会社に対しても調査をしましたし、個人に対しても調査をしました。
その結果はそのうち上がってくると思いますが、たぶん全体的に言うと、いまおっしゃられたように、柔軟な能力が必要です、多能的な能力が必要ですと、ずっとこれまで言ってきたのですが、このこと自体は何も言っていないことと一緒で、これではキャリアの目標にはならない。だからもう少し具体的に言語化してもらわないと困るという気持がすごく全体的にあって、ではどうするのと言われると、それはまず考えて、ということなのですが。
ですから、そのようなことがベースとしてあるので、そういう気持はたぶん今回の報告書のいろいろな所に出ていると思うのです。そのときに、いまおっしゃられたように具体的な細かい職務に対応して能力と言って表現するのか、もう少し大括りなのかというところまでは議論はしていないのです。そういう方向が必要であると。しつこいようですが、もう一度言いますが、その辺を言語化してもらわないと、個人が一生懸命勉強しようと、あるいは何かしようと思ってもしようがない。ですから、一種の労働力の買手というか、会社のほうは何を買いたいのかはっきりすべきというのはやはりあったのです。
(委員)
今のところがものすごく重要な論点だと思うのは、育成して、長いスパンで処遇していくという慣行で来たので、やはりその場合に何がほしいかというときには、ある意味で企業が人材に対して投資をして、そこで長い目で見ていくと、今の時点でほしいかどうかというのは、逆に言うと私どもの立場から懸念しているのは、今の短いスパンで即戦力的に外部市場から調達すればいいではないか、別に我が社で育成しなくてもいいではないかと。全部がそうなっているとはもちろん申し上げませんが、やはりそういうところに少しスタンスが移っているという懸念を持っています。
ですから、いまの時点でほしいことを言語化する場合には、おそらくまさに派遣の方を調達されるような意味合いだと、たぶん出てくるのだと思うのです。そういうシステムで本当に、まさにキャリアとして日本全体を考えた場合、あるいは業界全体を考えた場合に、それで本当に持続可能で再生産が可能かというと、どうもそういうイメージが持てないのです。ですから、まさに今おっしゃられたように、今何がほしいかというときの幅と同時にスパンの問題を併せて考えないと、これは5年間という計画ですので、5年間通用するものになるかというのは、そういうことにかかっているのかなという気がしているのです。
(委員)
2つの点があると思うのですが、大変市場が不透明とか、技術の変化が非常に激しいので、どういう人材がいいかというのがわかりにくいとおっしゃる。わかりにくくても言ってくれと。それはわかりにくいから言えないということでずっと過ぎていくと、何も進まないので、それにもかかわらずはっきり言語化する努力をしていただきたいというのと、ただそのときにはどういう人材がほしいかというときには、当然長期と短期の問題があるので、それは両方考えながら言語化してほしいということです。
あと、この報告書の趣旨は、10年後の能力開発をどうしようか、15年後の能力開発をどうしようかという観点では書いていないのです。つまり、会社側はこういう能力がほしいのだということを言語化してほしい、と我々は言っているわけです。労働者の人たちは何の能力を持っているかということを、明確にもう少し我々はきちんと把握しようではないかということを言っていて、あとはつなぎの仕組みをうまく作ろうと言っているわけです。ですから、そういう点では時間軸というのは永遠と言えば永遠なのです。そういう観点でこれは作ってあると思います。
(会長)
言語化していくというのはとても大事ですが、それですべて片付くようなレベルでは競争力は高まらないだろうということも、十分知ったほうが得ではないか。つまりあるレベルまでは言語化できる。ところが非常に面倒な、まさに十分予測可能でないような問題を処理する人というのは、日本の中堅層にはほかの国に比べて非常に多いというのが私の認識です。そういうものを強いて言語化したら曖昧化して、実は書いたことにならない。にもかかわらず言語化をある程度しなければならない。よくわかります。そうすると、つまり個別化の基礎というのはそこに1つあって、つまり非常に面倒な、まだ十分わかっていない問題を処理する中堅層をさらに伸ばすためには、まだ十分わかっていないのだから、どのコースが適切かどうかはその本人以外にはなかなか適切にわからない。だからむしろ、個別の自分に適したコースを選んでいくという、個別化の1つの現れですね、その根拠がある可能性がある。これはすべて総括部会送りの議論でよろしいわけですから、総括部会でどんどん議論していただく問題点を、今日は出していただければ非常にありがたいと思います。
(委員)
ものの考え方としては、いろいろ考えたらこれは1つの道だろうと思うのですが、やはり具体化するときにどうしても大変だなと感じられるのがいまの期待像も含めると3つあるのです。この個別ということに1つ重点を置かれている。キャリアということにもう1つ置かれている。「個別」というと、極論すればどうしても1人ひとりになってしまうのです。だけど実際に何か実行するとなると、ある種の個別のグルーピング化というか、標準化みたいなものは必ず必要になってくると思いますが、個別をこのままにしていたら、どうも施策はできないと思うのです。要するに1人ひとりに任せる格好で。そうすると、その「個別」というものの攻め方を実際どうするのか。
それからどなたかおっしゃいましたが、「キャリア」がどういう意味かというと、やはりジョブとの関係、いままでは「プロフェッショナル」とかいろいろな言い方をしていますね。企業が必要とする人材は何ができるかというときに、それをキャリアと言うのか、何かの専門家と見るのか、それによって違うだろう。それは今まで単なる個々の専門家でなくて、もう少し組み合わせたキャリアを持った人がほしいのだという意味での、これは1つの提言だろうと思うのですが、その基になるのはやはり何か具体的な専門もあるだろうという感じが、背景にあると思うのです。
いま我々企業の実務家から言うと、過去の反省はどうしてもジェネラリストだった。ジェネラリストはある意味では意図が計画的だったか、自然栽培的だったかという差はあるのですが、ある意味ではキャリアなのです。だから我々の反省としては、キャリアは非常に大事だということで、キャリア・ディベロップメントでも挑戦しましたし、いろいろなことをやりましたが、いま戻っているのがむしろ根っこにある1つの専門をビシッと、どこまで本当に力を持っているのだ、というところをやはり尋ねたいというのがどうしてもあるのです。個別にしろ、キャリア形成にしろ、そのとおりだと思うし、これが大事だということをものすごくわかるのですが、日本のいま置かれた状況での攻め方として、では個別にどう攻めるのかと。更に言えば、個別というのは攻めていったら、労働市場の関係があって、結局個人が企業を選ぶとか、仕事を選ぶというところに絡まってくるわけです。本当の個別といったら企業内の個別ではなくて、どうしても個人ごとの社会的な意味でのキャリア形成ということになってくるだろう。そこまで話をすると話が広がりすぎるのですが、どうしてもその辺をイメージで描くので、ものの考え方としてはそのとおりだと思うものの、そこのところをどう押さえていかれるのかなと、個別ということとキャリアということ。中で論議されていたらひとつと思います。
(事務局)
おっしゃるとおりです。ですから、ある意味ではまず個別と言いつつも、企業内でどのようにやっていくか。実際は企業で雇用され、その中の多様化を押し進めると個別化になるわけです。ですから、ある程度おっしゃるようなこういうグループ、こういうグループというのは当然あるだろうと思います。そこをいくつか示してそこから選択していくとか、それはおそらく試行錯誤的にどうやって考えていくかということになるかと思いますが、そのときにやはりここで言っているのは、企業側がいくつかのコースを示して人材像を示すと同時に、本人の希望・適性を把握したうえで、適切な組合わせをやっていくことが非常に重要だと思います。
ですから個別化といった場合に、ある程度企業の人材像というのはこういうタイプ、こういうタイプとあるわけですが、それを前提として、その中でコンサルティングをやって、適切な組合わせをしていくという形のものを考えていく必要があるだろう。ですから、おっしゃるようにまず企業の中で個別化をどういう形でやるか。それはおそらくいろいろな多様化という形を少し整理して、人材像を提示してもらう。その中から選び取っていくような、そういうイメージがあり得るかなとは思っているのですが。
(委員)
そうすると、キャリアということとジョブとの関連ですね。あるいはスペシャリストとの関係ですね。
(事務局)
これは当然おっしゃる通りだろうと思います。キャリアといっても、やはり専門的な能力を基本に据えつつ、いまのような流動化のときにどういうものを付加していったらいいか、あるいはコンピテンシーというものをどうつけていくか、ということの組合わせかなという感じは抱いているわけです。おそらくエンプロイアビリティということになると、個別の技術や技能の体系というか、それを共通言語化で少し基準を示していくということが基底にあって、そのうえでコンピテンシーというものをどう考えるかとか、企業独自のものをどう考えるかとか、そういう組合わせになってくるのかなという、漠然としたイメージを持っています。この辺は相当議論しないと、姿が明らかにはなってこないかなと。とりあえず現段階では、こういう方向で書いているに留まっているということです。
(委員)
後半のキャリアの件なのですが、今おっしゃられた、これからは企業は昔と違って専門能力がなければいけない。従業員は専門能力があるかどうかというのを試したいとおっしゃられたのですが、それを言ってほしいのです。つまり企業としてはこういう専門分野をこのようにして、ここではこういう能力がほしいということを言ってほしいというのがこの趣旨です。それがここで言っていた「労働者に知らせる仕組み」とでも言うような意味なのです。会長がおっしゃられるように、それで能力を全部表現できるなどとは我々も思っていないのですが、最低限の必要条件みたいなものがあるでしょうから、そこぐらいはきちんと言語化して伝えていただかないと、これからの企業内の能力開発は難しいだろうということです。
もう1つ、ジョブとの関連なのですが、これは別に研究会でそういう議論があったわけではないのです。いまの日本の企業のように、比較的目標管理的にずっとやっていく傾向が続くとすると、個別に毎年皆さん、主要な目標というのはいつもリストアップして出すわけですから、これは言ってみると仕事経験の中身を表現しているのです。これを全部データベース化してあげれば、個人の10年間の仕事のキャリアが表現できるわけです。そうすると、たぶんほかの部門の人からしても、こういう業務を経験した人は誰と誰というのが、そのデータベースを見ればわかる。そういうことをやっている企業はすでにいくつかあると思いますが、いずれにしてもそういう形で、ジョブのつながりでキャリアが形成されて、現在のキャリアがあると考えると、比較的そのジョブで追いかけやすい状況にはなっているのではないかと、これは私の個人的な意見ですが、そのように思います。
(会長)
世界の趨勢は1つの「ジョブ」ではなくて、関連のある「ジョブズ」という感じになってきているのではないでしょうか。それをむしろ日本がいちばん先頭を切ってやってきたのではないかという気はしますが。
(委員)
最初に申し上げたILOの報告の結論を出していただきたいという中で、今日は総会ですから、是非申し上げておきたいのは、エンプロイアビリティという場合に、例えば育児・介護の責任を持っている者については、例えば保育所とか介護のための社会的施設が整っていなければならないのではないか。しかも例えばエンプロイアビリティ、個人の能力を高めると同時に、完全雇用というか、良質な仕事が確保されるというマクロ的な経済社会政策とも関連した中で、捉えておくことが必要だと思うのです。そういうことについて、かなりILOでは論議したペーパーを出しています。今日は総会ですから、そういう広い視点で是非論議をお願いしたいと思います。
(委員)
この研究会の報告書ですが、今後のいろいろな変化が見込まれる中で、能力開発をどのように行っていくべきかという基本的な方向性というか、先ほど委員は「仕組み」とおっしゃいましたが、根本的なものを提示されたということで理解をしていて、その具体的な中身を詰めていくのは、皆様おっしゃったように、これから非常に大変な作業になっていくのかと思いますが、その中で、基本的な方向の中で、やはり自己啓発支援の必要性を打ち出されているということは、大変重要なことだと思います。もちろん第6次職業能力開発基本計画でも、そういうことはおっしゃっていますが、特にエンプロイアビリティということを考えたときに、企業と労働者個々人の努力、お互いの努力のバランスの取れた形で進めていくということが非常に重要であると思いますので、この辺は大変大切な指摘がなされていると思います。
今後の職業能力開発基本計画を策定するに当たっては、官と民と労働者個人がどのように絡んでいくかというか、それぞれ得意な分野があろうかと思いますが、当然自己啓発に重点を置いた主体的な能力開発ということになると、多様な選択肢が与えられて、その中から主体的に選んでいく。そのどのような選択肢があるか、どのような方向があるかということは、やはり十分な情報が与えられなければいけない。そういういろいろなセグメントで、官が得意とするもの、それから民が得意とするもの、もちろん個人個人が選択していかなければいけないものがあるかと思うので、そのような役割分担のようなものを、基本計画の中で明示していかれるということを期待したいと思います。
それから4頁の下の段に、今後の政策推進に係るコストと、それによって得られた成果との関係を評価する手法についても、検討していく必要があるというご指摘がありました。これは大変重要なことであると思います。能力開発というのはサッと結果の出るものではないので、大変難しいかと思いますが、こういう視点は非常に重要であると思いますので、改めてここで申し上げさせていただきました。
(会長)
いろいろご意見はあると思います。当然でして、これはこれからずっと続く問題ですので、恐縮ですが、今日のこの問題についての議論はこれでひとまず打ち切らせていただきます。というのは「その他」の事項がもう1つございますので。
(委員)
一言だけ。今後の総括部会での議論との関係で、少し形式的なことを整理させていただきたいのです。5つあります。1つは、その5つを申し上げる前に、いまのご議論を聞いていて思った感想です。これはかなり総括部会の委員の方々は、大変な作業をなさらないといけないのではないかと。だから腕をまくってやる覚悟が必要ではないか、ということが1つ感想としてあります。
今後の半年ぐらいに決めないといけないらしいのですが、そのときの作業の準備として、5つのことを参考までに申し上げたいと思います。第1番目は、この資料No.3で配られた、従来の施策との関連の中で、この新しい提言をどう位置づけるか、ということが1つ考えられないといけないだろうということです。全く代替するというわけではなくて、ここで第6次の計画でやられたことは、非常に素晴らしいことがたくさんあるわけですが、その中でどの部分を代替するのであれば代替するのか、全く新しく始めるのか等々の位置づけが必要で、いままでやってきたことを全部やめるわけではもちろんないわけです。そのあたりの議論が1つ必要だろう。
それとの関係で、私の個人的な希望を申し上げると、資料No.3で掲げてあることの1つひとつについて、事務局はあるいは私たちはどう評価しているのか。つまりニーズがあって施策をやったわけですが、その施策の1つひとつに全体としてどのくらいのお金を使い、どういう効果が上がり、どこがどう評価されたのか、あるいはまだ足りない所があるのか、それはなぜかといった評価を十分にやって、その次の施策に進む必要があるのではないかということが1つです。要するに、従来の施策との関係をはっきりさせる必要があるだろう。
第2番目は、長期的な観点ということがいまご議論になりましたが、長期的な観点から、例えば委員のおっしゃったような、求められる人材像を示せということは、たぶん難しいのですが、そういうことをあえてやろうとなると、おそらく基礎的な学力や能力ということに関係してくるだろう。例えば感性とか観察力とか、あるいは考察力とか、そういうものを培うということがおそらく柔軟性につながってくるわけです。職場でのそういった感性とか観察力とか考察力、あるいは創造力、ということをどうしたら養えるかという話になる。そういうことになってくると、どうしても普通教育との関係も考えなければいけない。そういうことを踏み込んでやるのかやらないかということを、皆さんに考えていただく必要があるだろうというのが2番目です。
3番目も先ほど委員がおっしゃいましたが、いずれ好況が返ってきて、日本経済が本当に立ち直ると思っていますが、立ち直ると、それこそグローバリゼーションが進行して、具体的にはおそらく労働力不足になる局面が来ると思います。そうすると、外国人労働力を日本経済は求めることになるのではないでしょうか。その外国人労働力が入って来たときに、そういう人たちの訓練も併せて考えるのかどうか、あるいは逆に、日本の企業が海外に行ったときにどうするかということももちろんあるわけですが、ともかく3番目のポイントは、外国人労働力も対象に考えるのですかということ。
4番目はそういうことと関係して、財政的な背景、日本の政府は非常にお金不足になってきたので、その辺をどう考えるかということ。あるいはコスト・ベネフィットという話がいまありましたが、そういうことは別にして、やらなければならないことを言えばいいのか、あるいは財政的な背景も考えて、特に例えば学卒者であるとか、いま言った外国人の方々の訓練ということを考えるときに、ではどういうお金でそういう人たちの訓練を負担するのかということも、経済学者としては考えるべきだと思うのですが、そういうことまで考えていると大変ですが、そういうことも考えるのですかということを、諮問をする側のほうで考えてほしい。
最後に、中央だけでなくて、地方政府の役割ということも、少なくとも理論的には大事だと思うのです。すごく最近の財政学者の議論などを聞いていると特にそうですが、地方自治体とか、あるいはコミュニティ・ベースの活動が必要だということが言われていますが、訓練についてもそういうことを考えたほうがいいのではないか。
そういう5つのことを考えたうえで、第7次職業能力開発基本計画を作るのがよろしいのではないでしょうかということを、会長に申し上げたいと思います。
(会長)
いまの委員の話から、これからさらに審議会を続行してもいいのですが、ただ私の案としては、総括部会に、この第7次職業能力開発基本計画の策定に向けた議論をお願いしたいと思います。総括部会には、所属の委員以外の方もご出席できることになっています。いまの委員がおっしゃった5つの点、それから今日ここで出された様々な点も含めて、総括部会でご議論いただき、そしてその総括部会の議論の結果を、ここにまた改めて、審議会でご報告いただくというように進めさせていただいてよろしいですか。では、恐れ入ります。委員、そういうことでよろしくお願いします。
(委員)
総括部会の委員はどなたですか。
(会長)
総括部会はどなたでしたか。ただ、この総括部会は、先ほど言ったように皆さんに通知が行き、皆さんがお出になって、皆さんがご議論するという慣行であると思うのです。ですから、お話くださるチャンスは十分あります。
(事務局)
総括部会のメンバーは、学識経験者・公益側、猪木委員、今野委員、大澤委員、尾高 委員、島田委員、早川委員です。労働者代表が市川委員、鈴木委員、堀口委員、事業主代表が青山委員、小嶋委員、讃井委員ということで、それ以外に専門調査員の鈴木委員と龍井委員がメンバーです。それ以外の方ももちろん出席できますので、ご案内いたしますから出られる方はお出になってご発言いただくということです。
(会長)
それではあともう1つ、「その他」がありました。これは技能五輪でしたか。
(事務局)
報告案件です。資料No.4をご覧いただきたいと思います。技能五輪国際大会、これは青年技能労働者22歳以下の方の国際交流を1つの目的として競技会を持っているわけですが、2007年の第39回の大会を、日本の静岡で開催することが決まったのでご報告させていただきます。できればこの静岡の大会では、国際アビリンピック、障害者の方の大会と同時に開催してはどうかという提案をしています。これを機会に一層の技能振興を図るとともに、国際関係の充実とか、そういった面に役立てていけたらと思っています。資料が国際大会について、これまでの開催状況、特に日本選手のメダル獲得状況、それと最後にアビリンピックについてのご説明を付けていますが、中身の説明については省略させていただきたいと思います。
(会長)
何かございますか。特にございませんでしたら、本日は以上をもってこの総会を終了したいと思います。今日はどうもありがとうございました。
照会先 厚生労働省 職業能力開発局
総務課 政策計画・調整係(内線5959)