第174回 中央職業安定審議会専門調査委員雇用保険部会 議事録

1 日時 平成9年9月11日(木) 午前10:00〜12:00
2 場所 省議室
3 出席者 【委員】公益代表 諏訪委員、中窪委員
雇用主代表浅地委員、金田委員、成瀬委員
労働者代表逢見委員、熊谷委員、高尾委員
【事務局】日比職業安定局次長、上村雇用保険課長
4 議題 雇用保険制度の今後の在り方について
5 議事

○部会長
 ただ今から第174回雇用保険部会を開会する。
 本日の議題は、雇用保険制度の今後のあり方についてである。まず、事務局より資料の説明をお願いする。

○事務局
 (資料説明)

○委員
 国民負担を抑える中、国庫と保険料のどちらを減らすのか。国庫の減少分は保険料で補填するという意見もあるが、基本的に雇用保険も国民負担率の一部であり、できるだけスクラップアンドビルドで合理化を進めるべき。今後財政支出が増大するものもあり、やはり本格的に切るところは切る必要がある。一種の既得権が残っているが、本来セーフーティーネットとはミニマムであり、上等なネットを高いところに張る必要はない。できるだけ厳しい立場で考えねばならない。
 介護休業給付は、育児休業給付とのバランス等もあり、検討が必要。
 自己啓発に対する助成は、基本的に方向が見えてきている。労使双方で努力することとし、三事業における措置は臨時的なものと考える。法制度をできるだけ早く整備していただきたい。
 65歳以降は基本的に年金により負担されるべき世代である。65歳以降も働いているなら雇用保険を適用するというが、働いていても適用されていないこともあり、65歳以降は年金でカバーすべき。
 三事業は、雇用促進事業団等の見直しの中でかなり変わるのであろうが、整理として官なのか民なのか。民ならば、三事業は国民負担に入らない。将来どう考えればいいのか。民営化も含めて、本来の性格を確認する必要がある。

○委員
  本来の趣旨を踏まえ、できるだけ効率的に労働者が雇用される方向で制度を見直すよう議論するのが部会の課題である。その観点から、セーフティーネットの問題、積極的雇用政策にどれだけこの制度が関与できるのかを議論してきたし、こうした問題が重要である。国の制度であるから国家財政を意識するのはいいが、国家財政を最優先していて、積極的な議論を展開できるのか。当然それを意識しないといけないが、部会ではセーフティーネット、積極的雇用政策の観点から議論をするべき。そういう点で、スクラップという観点ではなく、より積極的かつ相応しい対応をお願いする。
 介護休業に係る給付は、労働者の働き方や、今後の高齢化を考えると、育児休業給付と並んで重要である。期待も高く、積極的な検討が必要。
 能力開発では、具体的にどんな支援ができるのか。能力開発への意識はかなり高く、そこを巧く雇用保険制度から支援できるかということである。
 高年齢求職者給付金の問題では、65歳までの継続雇用がどう対応してくるのか。

○委員
 昨今の経済情勢において、ゼネコンでは会社更生法の申請が相次いでいる。政府では着実な回復という見方をとっているようであるが、反対の見方も出ている。実際、小売業において破産や和議等の問題が相次いでいる。政府が進める6大改革において、競争促進、金融ビッグバンが打ち出されている。加えて、公共事業費抑制があり、今後、雇用不安が、かなり生じるのではないか。そういう状況であるからこそ、雇用保険制度のセーフティーネットとしての役割が重要。
 完全失業率が高い水準で推移して、今後不安があるからこそ、失業したとき直ちに生活に困らない、セーフティーネットとしての役割が重要。完全失業率が高まれば、社会的費用として失業給付費の上昇はどこの国でもある。無駄な給付は切り詰めなければならないが、必要な給付は行うことをもう一度確認していただきたい。

○委員
 来年の4月にかけての雇用情勢を危惧している。失業率が上昇した場合、本当に困っている人への給付のため、困っていないが、もらえる物はもらうというような失業者への給付については、スクラップの必要がある。そうしないと原資を増やさざるをえない。
 本当に必要な場合に支給するという制度を今のうちに整えることが大事。スクラップアンドビルドは必要。

○委員
 今後の制度の改廃においてはゼロサムとするのか。

○委員
 スクラップアンドビルドについて、不要となったものはスクラップするべきである。問題はプライオリティの付け方である。もう一つはゼロサムなのか、社会的コストとして右肩上がりで考えるのか。この点を議論しなければならない。

○委員
 三事業の給付金は複雑で理解できない。特定の対象者には意味があるのだろうが、種類が膨大すぎる。育児休業給付とは別に、三事業でも育児関連の助成金がある。違うのかもしれないが、整理できないのか。

○委員
 全く時代に合わなくなった給付は見直すべきである。産業構造の変革の中にあって、雇用政策はますます重要。今の時代何をしなければならないかということから、まずビルドが必要。スクラップアンドビルドという考え方が、今の時代の政策に相応しいのか疑問に思う。

○委員
 問題は財源である。ビルドの財源は、国庫負担か、保険料のどちらかである。しかし、国庫負担を減らす必要があるとされる中で、保険料を増やすとなると、労使共に受け入れられない財源をどこから捻出するかということになり、捻出ができない場合は、合理性があればスクラップもでてくる。スクラップとビルドのどちらが先か後かを議論しても意味はないが、財源はどこから調達できるのか。行政全体が逼迫しており、余裕もない状況であることを押さえる必要がある。

○委員
 雇用政策は国の根幹に係わり、それを含めて「一切の聖域なし」の削減とすることには疑問である。

○事務局
 自己啓発の給付、介護休業の給付など、いくつか検討すべき具体的な給付があり、その検討時に財源面も含め具体的な議論を願う。また、現状及び先を見た場合に、今回の見直しで全部終わるのか、もし、検討をさらに行うならば、どのような方向で行うのか議論をいただきたい。
 ゼロサムの問題では、現在保険料が暫定的に引き下げられている点をどう考えるのか。多額の積立金の黒字を抱えていたことに端を発して、平成4年度に暫定的に保険料を下げた。現在の給付体系は原則の1000分の11で設計されている。段階的に下げるときに、余裕があるのであれば必要な給付を創設すべきであるとの意見を受け検討を行い、雇用継続給付を作った。1000分の11の保険料率をどこまで念頭に置くかであるが、必要な給付措置を講じたが構造的に余るならば、1000分の11までの財源は不要となる。積立金があり、財政的には赤字ではないが、10分の11に基づく給付体系を考えるのか、必要な給付を行ったときに財政はどうなるのかを考えないといけない。ゼロサムを議論する場合も基準となる保険料率が動いており、どの水準で考えるかで違ってくる。今後議論いただく介護休業給付などで、保険事故としての失業とみなせるのかどうか、保険事故としてもどの程度補償するのか、という具体的な議論の中で「スクラップアンドビルド」について考えたほうが効率的である。

○部会長
 ほかに御質問等はないか。

○委員
 個人に支給されるものは、労使折半が基本。失業給付と三事業のバランスの問題も議論すべき失業予防の観点からの費用対効果のアセスメントができれば、議論しやすいが。

○委員
 日本の場合には政策効果の評価体系ができていないので、スクラップアンドビルドの問題においても議論が難しくなる。
 財政的な収支については三事業のほうが苦しいのか。

○事務局
 三事業には雇用調整助成金等があるので、景気の波の影響を受けて当然である。今年度から給付が減少する時期になり、これからは雇用安定資金の積み増しの時期になる。雇用安定資金は平成8年度は2000億円台にまで落ちており、単年度収入の40%程度である。過去の景気回復期と比べて4割程度では少ないため、今年度、来年度と積み立てる。積立可能となった原因は景気だけでなく、福祉施設の削減等もあるが、基本的には雇用安定事業の支出がかなり鈍化し、雇用調整の経費が低い水準で推移する時期に来ているためである。

○部会長
 個人の能力開発支援が重要となるが、その費用負担をどう行うべきかという点について、御意見があれば発言いただきたい。

○委員
 労働者の自発的な能力開発の支援を充実させるとすれば、その費用負担の在り方も課題となる。
ここの議論を深めていく中で費用負担を整理したい。三事業の枠組みに縛るべきと強く主張するものではない。

○部会長
 給付を創設する際、コストをどう捻出するのか、また、その場合の基本的な考え方を検討する必要がある。

○委員
 産業構造や就業構造が大幅に変化する中で、リストラ対象者の支援を今から準備して、しかるべき形で動いてほしい。しかし一方では、ボイラー技師では一定の資格を得ると、他の職場に移ることが多い。それは経営者からは好ましくないことであるが、労働者本人にはいいことなのであろう。本人のためという広い心を持っていればいいが、制度化するということになると、躊躇する。産業構造の流れからは全く問題ないのだが。

○委員
 産業構造、就業構造の変化と併せ、労働者の意識の変化も、若年層を中心に出てくるのではないか。そこまで含めて自己啓発を考えるのかどうかと思っている。三事業以外の枠組みで行っても、労働者の意識が変化する中で、仕事があるにもかかわらず、他の企業に移るために能力開発を行いたいという者まで支援するのか。自己啓発を積極的に支援したいが、その対象をもう少し具体的に考える必要がある。費用負担の在り方を整理してもその問題は残る。
 中央能力開発審議会との連携は、どのような議論で、いかに連携をとるのか。中央能力開発審議会での議論を教えていただきたい。

○事務局
 具体的な内容は、次回能力開発課長よりヒアリングを行うので、その時点で議論いただければと思っている。

○委員
 先程御指摘のあった労働者の移動について、事業主全体で保険料を払っており、結果的にいずれかの事業主の利益になれば事業主全体としてバランスが取れるではないのか。能力の高い労働者を引き抜けることでバランスは取れる。適材適所が進み、雇用が安定して本来の保険事故の失業が減れば理屈があう。
 中高年齢労働者等受講奨励金は、いつできたのか。二点目に誰がどういう要件で定めるのか。三点目に、三事業での個人支給はほかにも例があるのか。

○事務局
 昭和62年に創設した。定年退職後の再就職に備え、在職中から労働者個人に勉強の機会を与えるために始めた。その後個人の自己啓発に対する重要性が見直される中、先の通常国会において職業能力開発促進法が改正され、自己啓発に対する支援を国、あるいは事業主で実施しようという趣旨で拡充を検討した。在職者の対象年齢を45歳から30歳としたが、三事業としての制約から早期退職優遇制度または事業主都合による離職者のように、離職理由が事業主に求められるときのみに限定している。
 三事業は、事業内容の基準を省令で定める。さらに具体的な内容は省令に基づき、局長通達により決定している。三事業はそれぞれの事業を所管する局で定め、能力開発は中央能力開発審議会で審議を経ている。
 雇用保険課としては、財政を預かる立場であり、歳出抑制のため新規の事業については、不要なものは認めないようにしている。
 第三点目の、事業者以外へ支給される給付金には、積雪寒冷地における職業転換のための冬期技能講習受講給付金等である。

○部会長
 この問題は、次回以降詳しく御議論をいただく。それ以外に御意見はないか。

○委員
 派遣労働者の適用問題については、制度改正をするのか、適用基準の改正でやるのか。並列的なのか、どちらかをメインに考えるのか。

○事務局
 部会では、両方の議論があった。やれることをやる。基本的な議論を行うこともあり、いずれか一方ではない。

○委員
 社会保険の適用問題で派遣業界は揺れている。社会保険料の額は大きく問題となるが、雇用保険も問題は同じである。
 制度的に適合しない部分があることはよく分かるが、だからといって法を守らないのは困る。そうすると適用基準を手直しして、それを行いつつ議論し、早期に意見がまとまればその方向で対応策を考える。時間がかかるようであれば、引き続き議論することが必要。

○委員
 派遣法の見直しを見据えながらの検討が必要。派遣法では、規制緩和、経済構造改革等の観点もある。ネガティブリスト化、96号条約の改正等の議論があり、方向は派遣労働者の範囲拡大である。この良し悪しはともかく、今後派遣労働者を増大させるという議論があれば、それに対しての検討が必要。適用基準の見直しは、運用面の手直しだけで済むのか。派遣労働者もセーフティーネットでカバーされるように、その就労実態にあった制度の議論を進めるべき。

○委員
 単に適用基準だけでなく、給付の在り方にも関係してくる。従って、簡単な一部手直しでは済まない。

○委員
 高年齢求職者給付金に関連し、2001年から定年後の年金における空白期間が懸念される。雇用保険を役立てられないか。2001年は間もなく来るが、あまり議論されていないのではないか。

○部会長
 その点は新しい問題提起である。

○事務局
 高年齢雇用継続給付は60歳定年を前提に、給付制度で何かできないかということで創設した。65歳までの雇用の継続を図るための政策については、同給付のほかにも60歳代前半層の雇用を奨励する高年齢者多数雇用奨励金等があり、現にその観点から施策を実施している。今後も65歳までの雇用の継続のためにどのような対策をすべきか議論が必要。

○部会長
 具体的に何らか手段を打つべきという意見はあるか。
 特になければ、高年齢求職者給付金の見直しに合わせて議論する。

○委員
 介護休業給付について、この制度設計をどのように行うのか。育児休業給付を参考にするということであるが、育児休業給付では25%のうち5%を職場復帰後6ヶ月経ってからの支給としている。この点についての安定所における受給者からの評判はどうか。
 また、介護休業が3ヶ月間では短いので、労使の議論では1年くらいが適当ではないかとの意見も出ている。制度として義務化されるのは確かに3ヶ月であるが、実際に取得している期間との差はどのように考えるのか。

○部会長
 今の質問にはポイントが二点ある。一点目は育児休業給付がどのように使われているのか、あるいは窓口でどのような評価を受けているかである。二点目の介護休業給付については、資料が用意されているので、最初に事務局より説明をいただき、そのあとに議論を進める。

○事務局
 (資料説明)

○委員
 育児休業給付について、経営側からの不満は特にないのか。

○事務局
 育児休業給付では特段の声は聞かない。

○委員
 企業においても介護休業を1年間取得できるよう労使交渉で働きかけている。個別企業でも協定の締結が進み、過半数が1年を超えている。それが、社会的コンセンサスとなるのではないか

○事務局
 何が、社会的コンセンサスであるかについては議論をいただくが、平成8年の調査では、介護休業制度を導入している事業所が23.2%であり、その中で制度上の休業期間の上限を1年とする企業が過半数を超えている一方、休業取得の実態は、3ヶ月を超える者が3割未満である。今後の義務化されるのは基本的には3ヶ月間であり、この点を踏まえて検討が必要。

○委員
 3ヶ月を超える支給期間とすると、休業が無い者からも財源を取っての所得再分配となる。全体として制度が整っているところまでが、まさに社会的コンセンサスではないか。

○委員
 労働協約では1年が多い。最長1年とする企業が過半数であるという事実を認識してほしい。3ヶ月以上取得する者が4分の1程度いるならば、給付期間を3ヶ月とした場合、4人に1人は給付が打切られた状態での介護休業を迫られる。その点を認識する必要がある。
 職場復帰給付金は、子供が1歳になるまで1年の休業が多い育児休業では問題ないかもしれない。しかし、介護は1ヶ月未満の者が3分の1程度いる。わずか1ヶ月程度の休業で、半年経たないと残りが出ないのは問題がある。
 当然育児休業給付を念頭に置いた検討が必要であろうが、育児と介護は異なる。休み方が違う実態も踏まえて制度設計が必要。利用者が使いやすい制度を念頭に置いて検討すべき。

○部会長
 その点は論点として含めていただき、今後も検討する。

○委員
 介護と育児が同時に生じた場合、併給は可能か。現実にありえることなので、予め考えておく必要がある。
 介護福祉サービスなどの整備のほか、介護保険も検討されているがその点との関係を伺いたい介護休業給付を整備することの必要性は十分承知しているが、その場合は限定的であるべき。

○部会長
 併給調整は、今後の整理が必要。

○委員
 社会的コンセンサスが確立している範囲とは何かというのは微妙な問題である。給付水準について、育児休業給付では、失業給付とのバランスを考慮して、年齢、被保険者であった期間を参考に検討した。範囲と、支給期間は触れられているが、給付水準も検討対象として議論を進めることが必要。

○委員
 我々の世代では、一つの会社での雇用継続が会社にとっても労働者にとっても好ましかった。
 行政当局は生涯雇用における望ましい姿を、どのように考えているのか。マーケットに合わせるのか、それとも日本的経営と言われる従来の姿を追求するのか。そこを明確にして考えておくことが必要。

○委員
 この点ばかり議論するわけにはいかないが、それなりの見通しを持ちつつ進める必要がある。制度は基本的に中立であることが必要。そうした意味では必ずしも見通しだけから制度が決まるわけではない。

○委員
 どちらの前提でも、雇用保険の重要性は変わらない。しかし、企業内にとどめるのか、マーケットに出すのか、どちらにするのか。現実とのマッチングは必要であるが、政策としてのスタンスもあってしかるべき。

○委員
 積極的に活用という場合、企業内で抱えていた者は誰が面倒を見るのか。しかし、雇用保険制度は基本的には中立であるべき。推進、あるいは押し止める、ということになると、制度設計は難しい。
 終身雇用を前提としていた時代でも、労働力の流動性の高い中小企業は存在した。他方、終身雇用がこれまでほどではなくなっても、全てが変わることはなく、残される部分もある。もし制度が中立的でなくなると、非主流の立場に置かれる者は、コストだけ負担し、給付を受けられない。

○事務局
 雇用の安定については今後も議論の上、進める必要がある。必ずしも、どちらかということではなく、これからの議論の中で整理させていただきたい。

○委員
 これまで、セーフティーネットとして弱者に対して機能を果たし、そのあと積極的に機能を果たすことを議論してきた。雇用対策の基本は長期安定雇用である。確かに、これまでの雇用形態とは異なる働き方を希望する者が増えてきたのも事実である。その中で、セーフティーネットとしての役割をどう果たしていくかということは重要である。制度の中立とはそのようなことを踏まえてのことである。

○委員
 介護保険の状況はどのようになっているのか。

○事務局
 参議院は通過していないので臨時国会で審議される。しかし、介護休業給付とは直接に関連ない。

○部会長
 それでは本日の部会を終了する。

(注)本文中に記載されている資料については多量なため省略しております。
 資料についての問い合せについては、職業安定局庶務課 03-3593-1211(代)までお願いします。




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