U 女性のライフコースと再就業


1 我が国の女性のライフパターン 


 (1)女性の労働力率

    年齢階級別の女性の労働力率及び有業率は、30〜34歳層をボトムとするM字
   型を形成している(第2−1図)。
    「有業者」に「無業者のうちの就業希望者」を合わせたいわゆる潜在的有業
   率は、女性の場合も台形を描き、実際の有業者の割合を示す有業率との差が、
   特に30〜34歳層で大きい。この年代層において、働く希望を持ちつつも現実に
   は就業する環境が厳しいため就業を控えている女性が多く、働くことに関して
   希望と現実との乖離が最も大きい年齢層であるといえる。
   [ポイントU−1(1)] 

  
 (2)女性が子育て期に就業を控える理由

    我が国の女性は出産後も仕事を辞めずに仕事と子育てを「両立」するライフ
   コースを理想とする者が増加しているが、実際には「両立型」よりも「再就職
   」するライフコースを選ぶ者が多い。 
    5年前、10年前と比較すると「両立」を理想とする女性の割合が大幅に増加
   し、「専業主婦」を理想とする者の割合は大幅に減少している。一方、「予定
   とするライフコース」では、「専業主婦」とする者の割合が減少しているもの
   の、「両立」とする者の割合は、10年前からほとんど変わっていない(
   第2−2図)。
    女性の職業意識は、この10年間に高まりを見せているが、現実面の働き方
   に対する意識にはあまり変化がみられないといえる。
    また、「女性は結婚したら、自分自身のことより夫や子どもなど家族を中心
   にして考えた方がよい」という考え方について、「賛成」又は「どちらかとい
   えば賛成」とする女性の割合が58.1%、「女性は仕事をもつのはよいが、家事
   ・育児はきちんとすべきである」という考え方に対して、「賛成」又は「どち
   らかといえば賛成」とした女性の割合は84.6%で、平成4年とほぼ同割合であ
   った。
    女性の就業に対する意欲は大きく変化している一方で、育児等を優先する考
   え方がほとんど変わっていない。これは、就業意識の高まりにも関わらず、再
   就職志向にあまり変化が見られないことと何らかの関係がある。
    我が国の女性は「仕事と家庭の両立」を理想としつつも、育児とりわけ低年
   齢児の育児と本格的に仕事を行うことの両立は、時間的、体力的な負担が大き
   困難であるため、育児負担が最も大きい特定の時期(25〜35歳)にだけ、やむ
   なく就業を中断することを選択し、育児に専念、それが一段落した後、自己の
   就業希望を実現すべく再び職業を持ち、社会の中で自己の能力を活かし、更に
   高めていきたいと望んでいる者が多いのではないだろうか。
   [ポイントU−1(2)]



  
2 女性の再就職の実態と意識


 (1)女性の再就職パターン 

    女性は、学卒時に事務職等の正社員として就職するが、結婚、出産等で退職し
   、30歳台後半から、技能工、製造・建設作業者や労務作業者にパートタイム労
   働者として、労働市場に再び参入する者が多い。[ポイントU−2(1)] 



 第2-3図 女性就業者の職業別構成比の推移(平成9年の年齢が45〜49歳層)

 第2-4図 年齢階級、雇用形態別雇用者数の割合

 第2-5図 年齢階級別入職者数の割合

  
 (2)再就職についての女性の意識 

    潜在的に就業希望を持っている者が多い30歳層、40歳層の女性の希望就業形
   態は「パート・アルバイトの仕事をしたい」とする者が約7割を占めている。
   また、「正規の職員・従業員として雇われたい」とする者は20歳台前半から40
   歳台前半にかけて減少する傾向にあり、「自分で事業をしたい」と希望する者
   の割合は10歳台後半から30歳台後半にかけて高くなる傾向がある(第2−6図
   )。
    過去の仕事内容別に見ると、「専門的な知識が必要な仕事」や「公的な資格
   が必要な仕事」、「コンピュータ関連の技能職」に就いていた者に、専門的・
   基幹的職務志向である傾向が強く、「事務系」の仕事を行っていた者にはその
   傾向が弱い。また、「大学・大学院卒」及び「専門的な知識が必要であった
   仕事」に過去就いていた者には、就業形態にこだわらず経験や専門性を活かし
   たいとする女性が多いことが目立っている(第2−7図)。
   [ポイントU−2(2)] 
    しかし、高学歴の者ほど「学校」で身につけた知識等を活かしたいとする者
   が多いが、女性は文学・語学を専攻する者が多く、企業の求める専門的能力と
   一致するかは疑問である。
    自分が働けるようになる状況について、子供の成長段階による特徴も学歴差
   が大きく、「子供が中学生になったら」とする者では、大学卒の割合が29.0%
   と「高校卒」(17.2%)、「短大・高専卒」(8.1%)に比べて際だって高い
   。大学卒の者は再就業までの期間を長く考えている傾向がある。
    学歴が高い者は、職業選択の希望として自分の資格や経験、専門性を活かせ
   ることを重要視する傾向にあるが、子供が10歳前後になるまで不就業期間を
   置く場合には、不就業期間中の能力開発にかなり努力しないと労働市場が求め
   る専門性を維持することは困難であろう(第2−8図)。
    女性が子育て後、再就職するに当たっての問題点としては「仕事と家庭の
   両立」や「企業の能力活用や能力評価」等を挙げる者が多い(第2−9図)。

  
 (3)女性の再就職をめぐる企業の動向 

    近年、企業の間では、終身雇用慣行を見直し、人事労務管理を年功序列主義
   から能力主義へと見直す動きが活発化している(第2−10図)。
    企業が中途採用の女性を「現在活用している」職務は、「定型的な作業の
   職務」、「アシスタント的な職務」、「最終責任を問わない職務」、「人と接
   する職務」、「専門知識や技術が必要な職務」が多い(第2−11図)。
    正社員について企業の女性の中途採用実績をみても、専門的・基幹的職務へ
   の採用は余り多いとは言えない(第2−12図)。 
    しかし、将来に向けて専門的・基幹的職務の中で中途採用の女性を活用して
   いこうとする意欲を窺わせている企業も少なくない(第2−13図)。
   [ポイントU-2(3)]
    また、正社員として就職する女性には年齢制限が厳しく(第2−14図)、
   企業は、再就職女性に対して、家庭責任とのかねあいで業務に支障が出ること
   を好ましく思わない傾向にあり、労働者としてのしっかりとした職業意識を求
   めている(第2−15図)。 




3 女性の再就職を促進するために


 (1)女性の再就職の意義 

    子育てのために就業を中断し、その後再就業を希望する女性にとって、現状
   はその意向に十分応えられる状況にはなっておらず、このことは、女性個々人
   の生活満足度を下げており、社会的にも損失が生じていることになる。また、
   少子化の要因ともなっている。仕事と育児との両立を望む女性にとって、子育
   て後の再出発の後の職業人生においても、自分の意欲と能力を十分に活かして
   、生き生きと働けるような仕組みを構築していくことが必要である。
   [ポイントU−3(1)]


 (2)再就職促進のための方策 

    企業には、人事労務管理制度における年功序列主義を見直す動きが見られる
   。効率的な人材の確保の手段としては、今後は従来のような一律的な新規学卒
   採用に偏らず、中途採用者の拡大すなわち年齢や性別にこだわることなく、高
   い専門的能力を有した者を中途採用する形も拡がっていくと予測されている。
   [ポイントU−3(2)]
    中途採用が拡がっていくという変化の中で、企業には再就職型女性の積極的
   な活用が我が国の経済活性化、少子化対策のうえでも強く求められていること
   の認識に立ち、能力開発、能力評価制度等の整備が求められるものである。
    もちろんこうした復帰可能システムにしていくためには、労働者側の努力が
   不可欠である。中途採用、あるいは職場復帰といっても何年も職業生活から遠
   ざかっていた者を直ちに企業内で戦力として活用することは困難なケースもあ
   るであろう。その期間、復帰に向けての知識、技術のキャッチアップあるいは
   労働市場において企業が求めている知識・技術は何か等、需要の動向を把握す
   るための不断の努力が求められるわけである。[ポイントU−3(3)] 


 (3)能力を生かす多様な働き方 

    サービス経済化、業務のOA化を背景に就業形態の多様化が進んでおり、従
   来からの正社員やパートタイム労働等の働き方のほかに、新しい働き方が生ま
   れてきている。
    高学歴の女性や過去に専門的な知識が必要な仕事に就いていた女性は就業形
   態にはこだわらず経験や専門性を活かしたいと望む者や独立したいと望む者が
   比較的多かった。また、家庭責任を持つ女性にとって、正社員等は勤務時間・
   勤務場所に拘束を受けやすい働き方で、現状では仕事と家庭の両立を図り難い
   場合もある。
    出産、育児を中心に変化するライフステージの中で自分にあった能力発揮の
   できるプランを積極的に設計していくことが重要であり、以下で、正社員等以
   外で能力発揮しうる働き方の例として専門職パート、在宅就業、起業家、ワー
   カーズ・コレクティブ、ボランティア的就業を紹介する。
   [ポイントU−3(4)] 


    イ 専門職パート 

      近年、パートタイム労働者の勤続年数が5.1年(平成9年。昭和62年は
     4.2年)と長期化するとともに、専門的・基幹的職務に就くパートタイム
     労働者も増えてきている(平成2年6.7%→平成7年8.1%)。 
      サービス経済化の進展、パートタイム労働者数の増加、就業意識の多様
     化等を背景に、今後は、パートタイム労働者を補助的・臨時的労働者とし
     て一律に捉えるのではなく、パートタイム労働という働き方の中で専門的
     能力や資格を活かしていくことが人材確保の一つの手段として重要である。
      例えば、パートタイム労働者の雇用管理制度の中にも職能資格制度等を
     設け、意欲のある者には、一定の判断能力を有する業務や管理的な職務へ
     の登用を行うなど、短時間就業であっても意欲・能力を活かした働き方を
     可能にすることが望ましい。

   
    ロ 在宅就業 

      情報通信技術の発達やパソコン等情報通信機器の普及、また、企業の業
     務の外部委託志向の高まりに伴い、パソコン、ファックスなどを使って自
     宅において企業から請け負った仕事を行う在宅就業への関心が高まってい
     る。
      在宅就業者は家庭責任を有する女性に多く選択されている就業形態であ
     り、育児を行っている場所で仕事もできるという意味で、仕事と育児を両
     立する上で働き易い形態であり、また、仮に本格的な働き方が無理だとし
     ても、毎日の通勤による勤務が不可能な時期に、自分の職業能力の維持や
     社会との繋がりを持ち、情報収集を続けられる手段としても良好な働き方
     だからであろう。 
      しかしながら、それがために在宅就業は注目を集め、その供給が急拡大
     している一方で、発注者と在宅就業者の契約方法、工賃等の条件の明示方
     法等のルール化が遅れているほか、中には労働対価についての価値付けを
     求めずに就業する者もあり、市場の混乱の要因となっている。
      また、仕事の契約も口頭による場合が多く、発注者との間で報酬支払い
     等に関するトラブルも少なくない(第2−16図)。在宅就業の職種には
     単純なものと高度な専門性があるものとのばらつきが多い上、新規参入者
     が増えているため、全体的な仕事の単価が下がり、高い専門性を有する業
     務の単価まで押し下げている等の問題も指摘されている。 
      これらについては、早急に在宅就業者の保護や支援の観点からも枠組み
     づくりが求められている。


    ハ 女性起業家

      過去に専門的な知識が必要な仕事に就いていたことのある女性には、自
     分で事業を起こすことを希望する者が比較的多い。これは、自分の能力を
     発揮し企業に雇用されることによっては実現できない自分の希望を自らが
     事業を起こすことによって叶えようとする者が多いためと思われる。
      自ら事業を起こした女性の起業家数は、明確に把握できないが、帝国デ
     ータバンクによると、平成9年の女性社長数は58,634人で前年の57,356人
     より1,278人(2.2%増)増えている。
      問題点としては、資金調達面の困難さ、社会的信用力の不足を挙げる者
     が多い。また、開業、運営上の情報提供、家事との両立サービスの充実等
     を希望する者が多い。
      このような要望を踏まえ、関係機関が連携して、さらに踏み込んだ情報
     提供、ネットワークづくりに対する支援、信用保証等きめ細かな起業家支
     援事業の展開が必要である。


    ニ ワーカーズ・コレクティブ 

      ワーカーズ・コレクティブとは、専業主婦等を中心に同じ志を持つ者数
     名が自ら資金を出し合って、そこで働く労働者自身、自らが管理、経営、
     運営を行いながら事業を行う事業形態のことである。欧州では、長い歴史
     を持ち従事している人も相当数みられるが、日本では昭和50年代後半頃か
     ら生まれた新しい事業形態で、自らが労働者として働き、かつ経営者とし
     て責任をもつというところにその特徴がある。
      その事業分野は、主婦を中心とした地域社会への参加、貢献を目的とし
     た団体が多いため、食品販売・弁当・惣菜製造販売等が多いが、リサイク
     ル、医療、託児サービス、家事援助サービス、介護サービス、清掃、編集
     、設計、修理等多岐に渡り、行政や企業では補いきれない分野や、利益を
     追求する企業にはなじまない分野等が主流である。
      子育て後、社会貢献をすることに生き甲斐を求める女性の新しい働き方
     として動向を見守る必要がある。


    ホ ボランティア的就業 

      近年、我が国では社会参加活動に対する意識が高まっており、ボランテ
     ィア活動に参加する者が増えてきている(平成9年約546万人=全国のボ
     ランティアセンターへの登録者数。全国社会福祉協議会調べ)。社会福祉
     、環境、国際協力、まちづくり等様々な分野にわたるそれらボランティア
     活動の推進組織は「NPO(民間非営利組織)」と位置づけられ、新たに
     制定された法律により法人格も取得できることとなり、昨今、注目を集め
     ている。
      そうした組織活動の中に住民参加型在宅福祉サービスがあり、これは自
     発的な福祉活動に参加志向を持つ者が、組織を作り非営利で有料・有償の
     家事支援サービス等を実施する活動である。サービス提供の対価として利
     用料の授受が行われるため、一般のボランティア活動とは異なるものであ
     るが、サービスの提供者と利用者が、同じ会の会員として会費等を納め、
     平等な立場に立った上で、利用者は料金を支払うことにより気詰まりなく
     頼みやすくなり、提供者は組織運営に必要な経費を得ることにより継続的
     に活動を維持しやすいという利点をもっており、団体の数も急激に増加し
     ている。
      労働省女性局が(財)婦人少年協会に委託して行っている「保育サービ
     ス講習事業」、「老人介護者育成事業」からもこのような団体が生まれ、
     全国に広がっている。また、ファミリー・サポート・センターも地域に根
     ざした子育てのための相互援助活動を支援する事業であり、社会参加を希
     望する女性等の活躍の場として一層の発展が期待されている。




4 まとめ

  我が国の女性の職業意識は急速に高まりつつあり、子供を持っても仕事を辞めず
 に働き続ける「継続就業型」を理想とする者が増えているが、仕事と育児の両立は
 時間的、体力的にも負担が大きいと感じている女性が多いため、育児期だけ就業意
 欲を抑えて会社を退職、子育て後に再び社会に出て就業希望を実現させる者が多い
 。
  特に30歳台の無業女性は就業意欲が強く、この年代の後半からこれらの女性達は
 、再び社会の中で働くことを目指す者が多くなってくる。
  しかし、再就職女性に対する能力評価が適正に行われていないことや能力活用の
 場が少ない等の不満を持つ者、子供を預かってもらえる場が制約されている、家庭
 責任との両立ができるような雇用管理を行う企業が少ない等仕事と家庭の両立の困
 難さを訴える者が多く、これは、再就職を望む女性の最も大きな問題点である。
  高学歴や専門的知識・技術を持つ者ほど、就業形態にこだわらず、経験や専門性
 を活かしたいと考える者や起業等を望む者が多いという事実は、裏を返せば、再就
 職を望む女性にとって正社員への就職が困難であるとともに、仮に正社員として採
 用された場合でも、能力を発揮できる場が余り用意されていないために、正社員と
 しての就業をあきらめているということではないかと考えられる。
  しかし、これまで見てきたように、専門的な知識や技能を有した労働者に対する
 企業のニーズは少なくなく、また、能力主義的な雇用管理制度への見直しを行う企
 業も増加してきていることから、専門的知識や技能を活かすために再び職業を持つ
 ことを希望する女性にとっては、今後の労働市場は、自分のライフスタイルに合っ
 た就業形態で自らの能力を発揮できるステージになり得る可能性もある。
  我が国の30歳台の女性の就業意欲は高い。旺盛な意欲と好奇心をもって、様々な
 知識と技術を吸収していくことのできる年齢である。就業に関する適切な情報や能
 力開発の機会を提供し、企業側の理解と評価と相乗すれば、30歳台以降からの再出
 発でも、質の高い人的資源に成長する。
  そして、今後労働力人口の減少が見込まれる中で、こうした質の高い人的資源を
 確保することは、我が国の経済が今後とも一定程度の成長を維持していくための原
 動力となることと思われる。
  そのためには、再び働くことを望む子育て中の女性が、労働市場において、どの
 ような業種や職種のニーズが高いのかについての情報を得られ易くすること、子育
 てしながらそのような業種や職種に必要な能力開発ができる体制の整備が必要であ
 ろう。また、企業に対しては必要な専門的知識・技能を有した再就職希望者の情報
 提供を行うことや、育児等家庭責任を有する者の雇用管理とりわけ時間管理のノウ
 ハウの普及、専門的・基幹的業務への再就職者の採用、適正な処遇方法等に関する
 情報提供等が必要である。
 また、雇用以外の働き方を選ぶ者に対しても、起業や非営利的事業を志す者に対し
 ても開業準備や運営上のノウハウに関する情報提供等様々な支援が必要である。
 [ポイントU−4(1)(2)] 
  そして、どのような働き方を選択しても、多くの再就業女性が持つ共通の問題点
 は仕事と家庭の両立である。根本は、男女の固定的な役割分担意識の是正にあるの
 であろうが、育児負担を持つ者が男女を問わず安心して働くことができるよう保育
 施設や育児サービスの充実等の社会的な支援体制を整備していく必要がある。 
  育児期だけ就業を中断し、その後再び働くというライフコースは、現状として、
 家事負担の重い我が国の女性にとって、選択されやすい一つのライフスタイルであ
 る。継続就業型のライフコースを外れると、能力を発揮できる良好な就業機会が少
 なくなってしまうという状況は改められるべきである。育児後の再出発でも良好な
 就業機会を確保しやすくできるような就業環境を整備していくことが重要である。
 [ポイントU−4(3)] 


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