「平成10年版労働経済の分析」 <要  約> ─── 中長期的にみた働き方と生活の変化 ─── 平成10年7月 労  働  省 目次 前 書 骨 子 第T部 平成9年労働経済の推移と特徴 第1章 雇用・失業の動向 第2章 賃金、労働時間、労働安全衛生の動向 第3章 物価、勤労者家計の動向 第4章 労使関係の動向 第U部 中長期的にみた働き方と生活の変化 第1章 安定成長期の経済・雇用情勢  第1節 経済構造等の変化  第2節 雇用・失業の構造変化 第2章 働き方の中長期的変化  第1節 就業形態の多様化  第2節 職業生涯の変化  第3節 労働条件の変化  第4節 働き方の変化の方向と今後の課題 第3章 生活の中長期的変化  第1節 消費行動の変化  第2節 生活の変化  第3節 労働者の意識の変化と生活の充実に向けての課題 まとめ  「平成10年版労働経済の分析」の記述は、平成10年6月22日付け景気基準日付検討委員会による平成5年10月(谷)以降の景気の山(平成9年3月)の暫定設定が行われる前になされたものであり、当該設定は考慮されていない。 中長期的にみた働き方と生活の変化  まもなく21世紀になろうとする中で、我が国は高度成長期、安定成長期に続く新たな時期を迎えている。すなわち、この半世紀を振り返ると、最初の四半世紀(1945〜1974年) は、戦後復興とそれに続く高度成長の時代であり、先進諸国へのキャッチアップを目指した時期であった。次の四半世紀(1975年〜現在) は、高度成長から安定成長へ移行し、2度の石油危機、1985年以降の円高、バブルの発生と崩壊といった大きなショックを経験するとともに、労働力需給両面に様々な構造変化が生じた時期である。  この間の労働力供給の変化としては、高齢化の進展、女性の職場進出、高学歴化などがあげられ、また、若年層を中心として就業意識・行動も大きく変化している。また、労働力需要の変化としては、国際化、経済のサービス化、技術革新の進展、情報化などの動きがみられる。こうした中で、雇用環境面でも、産業・職業別就業構造や労働移動、失業等労働市場に中長期的な変化が起こるとともに、労働者の働き方も就業形態や職業生涯、労働条件等の各面で大きく変化している。また、消費や生活時間構造にも変化がみられる。  今後、21世紀に向けて新たな構造改革の時期を迎える中で、多様な労働者がその持てる能力を十分発揮し、生活の充実を図っていくためには、そうした雇用環境、働き方、生活面の中長期的な動向と新たな変化の動きを見極めることが大切である。  そこで、「平成10年版労働経済の分析」(平成10年版労働白書)では、第T部「平成9年労働経済の推移と特徴」において、景気の動向等を反映して厳しさを増していった労働経済の動向について、1997年を中心に分析した。また、第U部「中長期的にみた働き方と生活の変化」においては、上のような観点に立って、安定成長期の経済・雇用情勢を概観した上で、就業形態、職業生涯及び労働条件といった働き方並びに生活面の中長期的変化の方向・内容とその背景・要因を明らかにするとともに、今後一層急激に進むと考えられる経済社会の構造変化に柔軟に対応し、我が国経済の活力を維持していくための方策について検討した。  その概要は以下のとおりである。 骨 子 第T部 平成9年労働経済の推移と特徴  1997年(平成9年)の我が国経済をみると、1〜3月期の消費税率引上げ前の駆け込み需要の後、7〜9月期にはその反動減から立ち直りつつあったが、秋以降、景気は足踏み状態となり、さらに1998年初には景気は停滞し、一層厳しさを増した。こうした中、雇用失業情勢は年前半は厳しいながらも改善の動きがみられたが、年後半以降厳しい状況となり、1998年3月には完全失業率が既往最高の3.9%を記録するなど、更に厳しさを増していった。一方、消費者物価の上昇幅の拡大から4〜6月期以降実質賃金は前年を下回ったほか、年間総実労働時間は1,891時間と初めて1,900時間を下回った。 第1章 雇用・失業の動向 (年後半には、有効求人倍率が低下、雇用者の増加幅も縮小)  1997年の有効求人倍率は、7〜9月期まではおおむね横ばいで推移していたが、有効求人の減少と有効求職の増加幅の拡大から10〜12月期以降低下し、1998年1〜3月期には0.61倍と1986年10〜12月期以来の水準となった。雇用者数は7〜9月期以降景気が足踏みから一層厳しさを増したことを反映して、その増加幅を大きく縮小させ、特に男性で増加幅縮小が大きく、1998年1〜3月期には減少に転じた。 (完全失業率は期を追って上昇)  完全失業率は、1〜3月期の 3.3%から10〜12月期に 3.5%、1998年1〜3月期には3.6%と期を追って上昇し、1997年平均でも 3.4%と1996年に並び既往最高水準となった。特に10〜12月期以降の完全失業率の上昇には、企業の業況感の悪化による雇用需要の減退が影響している。 第2〜4章 賃金、労働時間等の動向 (4〜6月期以降前年を下回った実質賃金と減少に転じた総実労働時間)  実質賃金は、消費者物価の上昇幅の拡大から4〜6月期以降前年を下回った。また、労働時間は、週40時間制の全面適用を背景に所定内労働時間が減少したことなどから減少に転じ、年間総実労働時間(事業所規模5人以上)は初めて1,900時間を下回った。 第U部 中長期的にみた働き方と生活の変化 第1章 安定成長期の経済・雇用情勢  安定成長期には、国際化、サービス化、情報化等の経済構造の変化や、高齢化、女性の職場進出、高学歴化等の労働力供給面の変化のほか、労働市場や労働条件に関する制度も大きく変化している。  就業構造はサービス化、ホワイトカラー化が進んでいる。また、転職率は中長期的に上昇しているが、男性中高年齢層等の基幹層で労働移動が活発化しているわけではない。完全失業率も中長期的に上昇しているが、世帯主等での上昇は小さく、若年層と男性高年齢層で上昇が著しい。  今後は、高齢化から少子・高齢化へ変化するので、その対応が重要である。また、企業の雇用維持努力を前提としつつ、雇用面のセイフティネットの充実と労働力需給調整機能の強化が重要である。 第2章 働き方の中長期的変化  就業形態の多様化は、若年層、女性中年層及び男性高年齢層を中心に進展している。  職業生涯の変化をみると、企業の新規学卒者、若年者重視に大きな変化はないが、パートや中途採用の活用等採用戦略に多様化がみられる。また、団塊の世代以降昇進に遅れがみられ、人事管理制度の多様化、個別化の動きがみられる。職業能力開発は、自己啓発が重視されている。平均勤続年数は長期化しており、企業、労働者とも長期雇用に対する期待は強い。60歳以上定年の普及と退職形態の多様化が進んでいる。  労働条件面では、賃金の年齢間格差が縮小し、賃金制度は能力・実績重視の動きがみられる。労働時間は大幅に短縮が進んでいる。福利厚生は、個々のニーズに応じ、多様化している。職場環境は、死傷者数全体では減少しているが、死亡者数は近年横ばい傾向にあり、職場ストレスが増えている。  働き方の個別性、自律性重視の流れの中で、長期雇用を維持するためにも、働き方の仕組みを変えていくことが重要であり、働き方の自己選択の確立と評価制度の構築、個別紛争への対応等の新しいルールの整備が重要である。また、従来の働き方の下で経験を積み重ねてきた中高年齢層への配慮が必要である。新しいルールの整備等には、労使の努力が基本的に重要であり、政府の役割も重要である。 第3章 生活の中長期的変化  増加傾向にあった勤労者家計の収入及び消費支出は、1990年代に入り収入の伸びは緩やかで、実質消費支出は横ばいである。保険や住宅ローン等の増加による家計の自由度の低下に加え、バブル崩壊後の不透明感の影響により、平均消費性向は低下傾向にある。貯蓄は生命保険などを中心に大幅に増加し、負債は住宅ローンを抱える中年層で大きく増加している。  生活時間をみると、週休2日制の普及もあって、週末の仕事時間が減少し、自由時間が増加している。有業女性の生活時間構造は、結婚、出産とライフサイクルが進むにつれて大きく変化し、男性との差が大きくなっている。  今後一層の生活の充実のためには、構造改革等による我が国経済と雇用に対する不透明感の払拭と高齢社会における具体的な生活のビジョンが必要であり、また内外価格差の是正や自由時間の充実を図るほか、企業中心のライフスタイルの転換のため、社会や企業の仕組みの変革と併せて労働者自らの発想の転換が必要不可欠である。 まとめ  我が国が安定成長期に入ってから四半世紀が経過している。この間、労働条件や生活水準が着実に向上するとともに、経済社会の構造変化の影響を受けて、雇用面や働き方、生活の面で様々な変化が生じている。今後、21世紀に向けて我が国は新たな構造改革期を迎えており、経済社会の構造変化は一層急激になるであろう。これに伴って、労働者にも大きな変化がもたらされることが予想され、それだけ将来の生活や雇用に対する不安感が強まっている。したがって、一方でこの不安感を払拭しつつ、変化に柔軟に対応して我が国経済の活力を維持していかなくてはならない。そのためには、基本的には長期雇用慣行を維持しつつ外部労働市場の機能も強化することにより雇用の安定を図るとともに、労働者の働き方を、従来の画一的・集団的なものから、個人個人の置かれた状況、意識、将来設計、能力などに応じて自ら選択し、かつ自律的に働くものへと変えていく必要がある。これには、企業はもとより労働者の努力の積み重ねが重要であり、行政の支援も必要不可欠である。 第T部 平成9年労働経済の推移と特徴 第1章 雇用・失業の動向 (年後半以降厳しさを増した雇用・失業情勢) ・ 我が国経済は、1997年(平成9年)に入ってから消費税率引上げ前の駆け込み需要もあって、1〜3月期には高い成長を記録した。4〜6月期はその駆け込み需要の反動減から大幅な減速となった後、続く7〜9月期には反動減から立ち直りつつあったが、秋以降、景況感が厳しさを増し、景気は年末にかけて足踏み状態となった。さらに、1998年初には景気は停滞し、一層厳しさを増した。そうした中、雇用・失業情勢は、年前半は厳しいながらも雇用者の大幅な増加などの改善の動きがみられたが、年後半には雇用者の伸びが鈍化し有効求人倍率が低下する中で、失業率が依然高水準を続けるなど厳しい状況となり、1998年1〜3月期には更に厳しさを増した(第1図)。 (増加幅が縮小した新規求人) ・ 新規求人(新規学卒を除く)は前年比5.2%増と前年(同11.9%増)に引き続き増加となったが、増加幅は縮小した。これを四半期別にみると、1996年10〜12月期をピークとして、その後は期を追って増加幅が縮小し、1998年1〜3月期には前年同期比9.5%減とやや大きく減少した。産業別には、建設業で4〜6月期以降は減少に転じたほか、製造業、卸売・小売業,飲食店、サービス業等の主要産業において、いずれも期を追って伸びが鈍化、あるいは減少に転じたことが要因となっている(第2図)。 (再び増加に転じた新規求職) ・ 一方、新規求職者の動きをみると、1997年に入って再び増加基調に転じ、年平均では前年比4.7%増となり、その水準は比較可能な1963年以来最高となった。常用新規求職者の増加を自発的離職求職者、非自発的離職求職者及び離職者以外の求職者に分けてみると、いずれの寄与も増加に働いている。特に1996年におおむね減少基調で推移していた非自発的離職求職者は再び増加に転じ、1998年1〜3月期には前年比27.6%増となった(第3図)。 (有効求人倍率は10〜12月期以降低下) ・ 有効求人倍率(季節調整値)は、1〜3月期から7〜9月期までおおむね横ばいで推移していたが、求人の減少、求職の増加幅の拡大から10〜12月期には0.69倍に低下し、1998年1〜3月期は0.61倍と1986年10〜12月期以来の水準となった(前掲第1図)。 (労働力人口、就業者数、雇用者数とも年後半に男性の増加幅が縮小) ・ 労働力人口、就業者数は年平均では前年に引き続き増加幅が拡大したが、四半期別にみるといずれも年前半には大幅な増加をみせたものの、年後半に男性の増加幅が大きく縮小したことを受け、7〜9月期以降増加幅が縮小し、就業者数は1998年1〜3月期には前年同期差3万人増にとどまった。就業者を自営業主、家族従業者、雇用者に分けてみると、雇用者数が年前半に大幅に増加したものの、7〜9月期以降男性を中心に増加幅が大きく縮小したことが就業者の動向に大きな影響を与えた(第4図)。  また自営業主、家族従業者は年平均でみると前年差7万人増、同6万人減となり、1996年と比べ自営業主は増加に転じ、家族従業者も減少幅が縮小しており、年平均の就業者数の増加幅の拡大に寄与している。特に自営業主の増加は1987年以来10年ぶりである。 (7〜9月期以降は製造業、10〜12月期以降は建設業で雇用者数が減少) ・ 1997年の雇用者数は、前年差69万人増と前年の増加幅をやや上回ったものの、1〜3月期に大幅に増加幅が拡大した後、7〜9月期、10〜12月期の増加幅は1〜3月期に比べ半減した。その後、景気が一段と厳しさを増したことを反映して、1998年2月及び3月には前年を下回る水準となり、1998年1〜3月期で前年同期差1万人増にとどまった。産業別にみると、サービス業は1997年に入って以降も専門サービス業や対事業所サービス業を中心に堅調に増加した一方で、7〜9月期以降は製造業、卸売・小売業,飲食店の減少ないし増加幅縮小、加えて10〜12月期以降建設業が減少に転じたことが年後半以降の増加幅縮小の要因となった(第5図)。 (短時間雇用者が引き続き増加) ・ 非農林業雇用者について、週間就業時間が35時間未満の短時間労働者と、35時間以上の労働者に分けてみると、35時間以上の労働者が男女とも特に年後半に増加幅が縮小したのに対し、35時間未満の女性については1997年から1998年1〜3月期にかけて、比較的安定した増加を続けた(第6図)。これを産業別にみると、特にサービス業や飲食料品小売業、飲食店等の女性の増加が大きく、男性への雇用需要が減退した産業と女性短時間労働者に対する需要が増加した産業は異なっており、両者間の代替がおきているというより産業間の業況や雇用需要の差が両者の動きの差をもたらしていると考えられる。さらに、非農林業雇用者を常雇と臨時・日雇に分けてみると、常雇の増加幅が縮小し、1998年1〜3月期には減少に転じたが、臨時・日雇は増加を続けた。男女別には、特に男性常雇が年後半以降増加幅が縮小し、1998年1〜3月期にはやや大きな減少に転じた一方、臨時・日雇は、男性は10〜12月期以降増加幅が大きく縮小したが、女性では大きな変化がなかった。 (1997年後半以降の男性雇用者数の伸びの低下の背景) ・ 1997年7〜9月期以降の男性雇用者の動きを詳しくみると、産業別では、年後半は卸売業の減少幅の拡大とともに建設業、小売業,飲食店及び製造業の増加幅の縮小、減少がみられた。また企業規模別には100人未満規模企業における増加幅の縮小ないし減少に加えて1998年1〜3月期には1,000人以上規模の減少が大きく、従業上の地位別には常雇の年後半以降の増加幅の縮小ないし減少が大きいことなどが指摘できる。  こうした男性への雇用需要の伸びの鈍化を反映し、1997年前半には上昇していた男性の労働力率が、7〜9月期以降低下に転じ、労働力人口の増加幅も縮小したと考えられる。男性労働力人口の動きについて、労働力状態の変化(フロー)の面からみると、4〜6月期以降は就業者から非労働力人口への流出が大幅に増加し、7〜9月期以降は非労働力人口から就業者への流入が縮小するなど、そのいずれもが非労働力化に寄与したことが主因となって、労働力人口の増加幅が縮小したことが分かる(第7図)。 (完全失業率は期を追って上昇) ・ 1997年平均の完全失業率は3.4%となり、比較可能な1953年以来最高水準であった1996年と同水準となった。季節調整値の推移をみると、1997年1〜3月期の3.3%から10〜12月期には3.5%となり、1998年1〜3月期には3.6%と四半期でみて比較可能な1953年以来最高の水準に上昇した(前掲第1図)。また単月では1998年に入って2月3.6%、3月3.9%と既往最高水準を2か月連続して更新した。男女別にみると、男性は年前半には3.3%、後半には3.4%と年後半にやや上昇した後、1998年1〜3月期には3.8%と大幅に上昇しており、女性も月によって上下しながら、年を通してやや上昇気味に推移した(第8図)。 (10〜12月期以降再び増加した非自発的離職失業者) ・ 求職理由別の完全失業者数の推移を四半期別にみると、自発的離職失業者が年間を通じて増加している中で、年前半は非自発的離職失業者が減少を続け、「その他」の者も横ばい傾向であったのが、年後半には景気に足踏みがみられる中、非自発的離職失業者が10〜12月期に再び増加に転じ、1998年1〜3月期には非自発的離職失業者の増加幅が拡大したことに加え、「その他」の者も増加幅が拡大したことから、全体の増加幅が拡大した(第9図)。また、世帯主との続き柄別にみると、「その他の家族」が男女とも7〜9月期以降増加幅が拡大するとともに、世帯主も年前半の減少傾向から年後半は増加傾向となった。さらに、年齢階級別にみると、男女若年層及び男性60〜64歳層の完全失業率は引き続き高い水準にあるが、1997年後半には、男性はおおむね各年齢層とも失業率が上昇している中で、特に高年齢層の上昇が著しく、女性は40歳未満で上昇し、40歳以上では低下した。 (製造業の労働投入量と労働生産性) ・ 製造業について、労働投入量の動きを生産の動向とともにみると、生産指数は1992年10〜12月期を底に前年比のマイナスが縮小し、それに伴って、労働投入量の前年比も1993年4〜6月期から上昇を始めたが、雇用者数はその後も減少幅を拡大させており、1996年後半になって前年比プラスに転じた。この時期に長引いていたバブル崩壊後の雇用調整がほぼ終了したとみることができる。その後、1997年に入ると、生産の伸びが7〜9月期以降大きく鈍化する中で、労働投入量も10〜12月期には減少となった。年後半の特徴は、雇用者数の前年比が生産と同時に低下したことであり、これは雇用面の調整が一段落し、雇用の本格的拡大に入る前に在庫調整が始まったことによる影響とみられる(第10図)。 ・ 稼働率の影響を考慮した労働生産性と労働生産性のタイムトレンドを試算し、両者を比較すると、1992年から1993年頃にかけては稼働率調整労働生産性がトレンドを大幅に下回って推移しており、労働密度の低下が過去と比べても大きなものであったことがわかる。このため、今景気回復過程の初期においてはすぐに雇用の増加には結びつかない状況にあり、労働投入量にこの時期減少がみられたと考えられる(第11図)。 (第3次産業の生産、労働投入量、労働生産性) ・ サービス業について、生産と労働投入量、労働生産性の関係をみると、1991年以降の景気後退期も他産業に比べて活動指数の落ち込みは比較的小さい一方、労働投入量は労働時間短縮もあり1991年から1993年にかけて活動指数と同様低下し、労働生産性は景気後退期にも低下しなかった。1997年に入ってからは、活動指数の伸びは一進一退を繰り返す中で、再び労働時間が短縮したことから労働投入量は横ばいとなって、労働生産性は低下しなかった(第12図)。卸売・小売業,飲食店について同様にみると、1991年以降雇用者数の増加が続く一方で労働時間短縮が進んだが、活動指数の低下が大幅であったため、労働生産性は1992、93年と低下した。1997年に入ってからは後半になって活動指数が急落したが、労働時間の短縮により労働投入量も同様に低下し、労働生産性は低下しなかった。 (1997年後半には各産業で業況が悪化) ・ 企業の業況を業況判断D.I.でみると、1997年の半ば以降急激に落ち込んだが、産業別には、建設業は1997年1〜3月期から落ち込み始めているのに対し、卸売・小売業は4〜6月期以降、製造業は7〜9月期以降であり、また、サービス業は落ち込みそのものが緩やかであった。ただし、1998年1〜3月期にはおおむねいずれの産業でもやや大きく落ち込み、建設業及び卸売・小売業では1975年以降で最も低い水準となっている(第13図)。 (高まりがみられた雇用過剰感) ・ 全国企業の雇用人員判断D.I.の推移をみると、製造業では1994年以降、非製造業でも1995年8月調査以降総じて過剰感は緩やかな低下の動きがみられていたのが、1997年後半になって改善の動きに足踏みがみられ、再び雇用過剰感が高まった(第14図)。 (雇用調整実施事業所割合も10〜12月期に上昇) ・ 雇用調整実施事業所割合は、景気回復の足踏みや業況の悪化、雇用過剰感の高まりを反映し、建設業で1997年10〜12月期に大幅に上昇したほか、製造業でも1997年後半には上昇がみられた。その他の産業でもおおむね10〜12月期に上昇した(第15図)。 (業況の悪化を受け年後半以降厳しさを増していった雇用失業情勢) ・ 企業の業況感の悪化や雇用過剰感の高まりを背景に、1997年後半以降雇用需要が減退した。産業別にみると、建設業で早くから業況が悪化し、4〜6月期には新規求人、7〜9月期には所定外労働時間が減少となった後10〜12月期には雇用者数の減少が始まった。次に卸売・小売業,飲食店において消費停滞の影響が所定外労働時間や新規求人に現れ、年後半には雇用者数も前年比減少ないし横ばいとなった。製造業では7〜9月期以降所定外労働時間、新規求人の伸びが鈍化し、雇用者数も前年比減少となった。こうした中で、サービス業の雇用者数は大幅な増加を続け、雇用全体の下支えとなった(第16図)。雇用需要の減退は年後半以降の求人倍率の低下、失業率の上昇に影響した。 (障害者実雇用率は前年と同水準) ・ 1997年6月1日現在における障害者実雇用率をみると、1.47%と前年(1.47%)に続き過去最高の水準となった。これを企業規模別にみると、300人以上規模では各規模とも前年を上回ったが、300人未満規模では1994年以降実雇用率が低下している。一方雇用率未達成企業の割合をみると、300人以上規模では低下しているものの300人未満の規模では上昇しており、中小規模企業での障害者雇用に厳しさが出てきていることがうかがわれる。 (外国人労働者の動向) ・ 1997年における就労目的新規入国外国人は前年に比べ増加した。また、就労を目的とする在留資格での外国人登録者数も1996年には前年に比べ増加した。一方、外国人雇用状況報告結果によると、1997年の直接雇用の事業所数、外国人労働者数は前回(1996年)よりもそれぞれ11.7%、10.6%増加した。産業別には製造業、サービス業、卸売・小売業,飲食店の3産業で全体の約9割を占めている。 第2章 賃金、労働時間、労働安全衛生の動向 (賃金の動向) ・ 1997年の賃金(事業所規模5人以上)は、所定内給与の伸びがほぼ前年並みであり、所定外給与の伸びは前年よりやや縮小したが、賞与支給時期のずれもあって特別給与の伸びが大きく拡大したため、現金給与総額で前年比1.6%増と、1996年(同1.1%増)よりも伸びが拡大した(第17図)。実質賃金は、消費税率の引上げ(1997年4月)等に伴って消費者物価の上昇幅が拡大したため4〜6月期以降前年同期比マイナスで推移し、1997年平均では前年比保合い(前年同1.1%増)となった。 ・ 労働省労政局調べによる1997年の民間主要企業の春季賃上げ率をみると、1996年2.86%から1997年は2.90%となった。また、一時金についても夏季一時金は前年比2.9%増、年末一時金も同2.8%増と、夏季一時金、年末一時金とも1996年の伸びとほぼ同水準となった。なお、「毎月勤労統計調査」により、中小企業も含めた1997年年末賞与の支給状況(事業所規模5人以上)をみると、規模が小さい事業所では前年より減少した。 (実労働時間の動向) ・ 1997年の事業所規模5人以上の年間総実労働時間は1,891時間と、初めて1,900時間を下回り、事業所規模30人以上では、1,900時間となった。  事業所規模5人以上の総実労働時間の伸び率は、所定内労働時間の減少幅の拡大等により、前年比1.4%減(前年同0.1%増)と減少に転じた(第18図)。所定内労働時間は小規模事業所ほど減少幅が大きくなっているが、これには法定労働時間週40時間制の全面適用の影響が大きい。 (年後半に伸びが急速に鈍化した製造業の所定外労働時間) ・ 1997年の所定外労働時間は、金融・保険業を除く非製造業では減少し、製造業では年後半になって、生産の動きを反映して伸びが急激に鈍化した(第19図)。 (死傷災害の動向) ・ 1997年における労働災害の発生状況をみると、死傷者数(死亡及び休業4日以上)は15万6,726人、前年差6,136人減(前年比3.8%減)となり、引き続き減少した。また、死亡者数も2,078人、前年差285人減(前年比12.1%減)となり減少した。 第3章 物価、勤労者家計の動向 (物価の動向) ・ 1997年の国内卸売物価は、前年比0.6%上昇と、1991年以来6年ぶりの上昇となった。全国消費者物価(総合)は、前年比1.8%上昇と、4月の消費税率引上げにより上昇幅が拡大した後は総じて安定して推移した。商品・サービス分類別の伸び率をみると、一般商品がプラスに転じたほか、各分類ともプラスの伸びとなった。なかでも公共料金は消費税率の引上げ、診察料の本人負担の引上げ等により、2.5%上昇となった(第20図)。 (勤労者家計収支の動向) ・ 1997年の勤労者世帯の実収入は実質で前年比 1.1%増となり、前年の伸びを下回った。また、可処分所得は実質で前年比 0.1%増とほぼ横ばいとなった。 ・ 1997年の勤労者世帯の消費支出は、消費税率の引上げ前後で大幅な駆け込み需要とその反動減がみられたが、年全体では、実収入の増加幅が拡大したものの、平均消費性向がほぼ横ばいとなり、特別減税の終了等に伴う非消費支出の増加及び消費税率引上げ等による物価の上昇が大きくマイナスに寄与したことから、実質で前年比 0.1%増と前年の伸びを下回り、足踏み状態となった。また、年末には相次ぐ金融機関の破綻等から消費者マインドが大きく悪化し、消費性向が低下し、消費支出は大幅に減少した(第21図、第22図)。商品とサービス別にみると、商品は前年に比べ実質で 0.8%減、サービスも同 0.1%減といずれも前年の増加から減少に転じた。商品では、耐久財が駆け込み需要の反動減等から実質で前年比 4.6%減と大幅に減少した。 ・ 収入階級別の動向をみると、実収入の伸びの格差がみられたほか、低収入階級で消費性向が低下したことから、収入階級間の消費支出の格差が広がった(第23図)。 第4章 労使関係の動向 (1998年春の労使交渉) ・ 1998年春季労使交渉は、我が国経済が停滞し一層厳しさを増し、雇用情勢は雇用者数が減少し、完全失業率が既往最高となるなど更に厳しさが増す中で行われ、賃上げ額・率ともにおおむね昨年を下回る内容となった。主要単産における大手企業の賃上げ率は、鉄鋼1.73%、電機0.51%(電機は定昇含まず。以上35歳ポイント回答)、自動車2.78%だった。 第U部 中長期的にみた働き方と生活の変化 第1章 安定成長期の経済・雇用情勢  第1節 経済構造等の変化  安定成長期の働き方や勤労者生活の変化は、国際化、サービス化、情報化の進展などの経済構造の変化、高齢化、女性の職場進出、高学歴化といった労働力供給面の変化、労働市場や労働条件に関する制度の変化を背景に進展した。 (経済構造の変化) ・ 我が国経済は、戦後長期間にわたって高度成長を続けてきたが、第1次石油危機により大きな打撃を受けた(第24図)。その後、第2次石油危機、円高といった危機を乗り越え、いわゆるバブル期には、成長率は安定成長期で最高となったが、バブル崩壊後は、景気が底を打った後も回復のテンポは緩やかである。また、この20年間の経済構造をみると、国際化の進展、サービス化の進展、技術の進歩と情報化の進展という大きな変化があった。 (労働力供給構造の変化) ・ この20年間の労働力供給面の変化をみると、労働力人口の高齢化が急速に進展している。今後は団塊二世層の労働市場への流入が終了し、高齢化は一段と進展する(第25図)。また、女性の職場進出が進んだ。女性の労働力率の推移を年齢別にみると、いわゆるM字カーブの底は25〜29歳層から30〜34歳層へと移動し、かつ浅くなっている(第26図)。労働者に占める大卒の比率は、40歳未満についてはほぼピークに達しているが、40歳以上については、今後も上昇すると考えられる。また、女性の大学進学率はこの20年間も上昇しており、若年女性労働者の高学歴化が進行中である。 (労働に関する制度の変化) ・ 第1次石油危機後、雇用対策については、失業者の再就職の促進を中心とする対策から失業の予防などの事前的対策への転換が行われた。その後、高齢化、女性の職場進出、技術革新、サービス経済化等の変化に対応して、1986年に60歳以上定年の努力義務化(1998年から義務化)、1985年に男女雇用機会均等法及び労働者派遣法の制定などの施策がとられた。法定労働時間については、1987年の労働基準法の改正、1992年の時短促進法の制定等により段階的に縮減され、1997年4月から週40時間制が全面的に適用になった。 第2節 雇用・失業の構造変化  産業別就業構造は、サービス業を中心に第3次産業の構成比が高まっており、職業別にはホワイトカラー化が進んでいる。また、転職率は、パートタイム労働者比率の上昇等を背景に中長期的に上昇しているが、常用労働者、特に男性中高年齢層といった基幹層では労働移動は活発化していない。一方、完全失業率は長期的に上昇傾向にあるが、男性中堅層、世帯主等の失業率の上昇は小さく、若年層、男性高年齢層の上昇が著しい。また、均衡失業率の上昇に加え、最近は需要不足失業率が高水準にある。  今後は、少子・高齢化への対応が重要である。また、企業の雇用維持努力を前提としつつ、雇用面のセイフティネットの充実と労働力需給調整機能の強化が重要である。 (サービス業の拡大が進む産業別就業構造) ・ 産業別就業構造の長期的な変化をみると、第2次産業就業者構成比は近年横ばいで推移し、1990年代にはやや低下した。第3次産業では相対的に労働生産性の上昇が小さいことに加え、中間投入の変化や国内最終需要の増加からサービス業を中心に堅調な就業者の増加がみられたことにより構成比が高まっている(第27図)。 (ホワイトカラー化が進む職業別就業構造) ・ 職業別就業構造の長期的変化をみると、専門的・技術的職業従事者や事務従事者等のホワイトカラーの構成比が高まっている。また、1990年代に入って技能工等の構成比がやや低下している(第28図)。 (雇用の創出と喪失の動態的変化) ・ 企業の従業者数の増減を事業所新設に伴う増加寄与、既存事業所の増加寄与、事業所廃止に伴う減少寄与に分けてみると、新設事業所による寄与が高い(第29図)。しかし開業率は近年低下傾向にあり、新規開業に好ましい経済環境の整備の重要性が増している。 (若年層及び女性を中心に上昇している転職率とその背景) ・ 転職率は、高度成長期から安定成長期に移行した際にいったん低下した後、中長期的に上昇しており、特に若年層及び女性の転職率の上昇が顕著である(第30図)。ただし、男性の中高年齢層の転職率には高まりはみられていない。 ・ 転職率の水準が高いパートタイム労働者等の割合の上昇が、全体の転職率の上昇の大きな要因である(第31図)。若年層の転職希望の顕在化も影響を与えているとみられる。 (高まりのみられない常用労働者の転職率) ・ 一方、常用労働者の転職入職率には中長期的な高まりはみられず、常用労働者、特に男性中高年齢層といった基幹的な労働者層では労働移動は活発化しているわけではない(第32図)。また、女性常用労働者はパートタイム労働者を含めて定着化の傾向にある。ただし、正規雇用者でも、若年層では転職率が上昇傾向にある可能性がある。 (流入超過であったサービス業及び建設業) ・ 産業別転職率をみると、卸売・小売業,飲食店が最も高く、サービス業は、転職率の水準は際立って高い水準にはなく、建設業と並び転職者の吸収産業としての役割を担ってきた。職業別には、専門的・技術的職業従事者への他職業からの転職は困難となっている。 (長期的に上昇傾向にある失業率) ・ 完全失業率は、景気循環に伴う変動を伴いつつ長期的に上昇傾向にある(第33図)。属性別には、@女性の失業率が1980年代半ば以降男性をおおむね上回り、A男女若年層、男性高年齢層で失業率の上昇が著しく、男性中堅層は比較的落ち着いた動き、B続き柄別には、その他の家族、単身世帯の上昇が大きく、世帯主は60〜64歳層を除き上昇は小さく、配偶者も上昇傾向は緩やかである(第34図)。性格別には、@自発的離職失業率が上昇傾向にあるが、非自発的離職失業率は上昇傾向にはない(第35図)、A失業頻度が上昇傾向、失業継続期間もやや長期化しているが、長期的な失業率の上昇は失業頻度の寄与が大きい。 (失業率の長期的上昇の背景) ・ 女性の失業率の高まりは、景気後退期に非労働力化しなくなったこと等による。若年層の失業率の上昇は、自発的離職失業の増大によるところが大きく、失業率の高いパートタイム労働者等の割合の上昇や転職意識の顕在化が影響しており、失業頻度が上昇している。男性高年齢者(60〜64歳層) の失業率の上昇は、非自発的離職失業の増加が大きく、高齢化が進む中で雇用需要の増加が供給増に追いつかないことによる。 ・ サービス業の雇用失業率は非農林業計を下回り、サービス業のウェイトの高まりは必ずしも失業率の上昇要因とはいえないが、産業間・職業間の移動は同一産業・職業内の移動に比べ困難であり、構造変化の中、産業間労働移動の拡大は失業増大要因のおそれがある。 ・ 均衡失業率(構造的・摩擦的失業率)が長期的に上昇傾向にあることに加え、最近は需要不足失業率が高水準なため、失業率は高水準となっている(第36図)。 (景気循環と企業の雇用行動) ・ 今回景気循環過程での雇用調整パターンをみると、@生産変動に対して、労働密度の変動や労働投入量(労働時間)の変動で対応し、雇用の変動は小さい、A雇用の抑制も入職抑制が中心であり、企業は雇用行動の基本的スタンス(雇用維持重視)を変えていないが、雇用が生産等の変動により敏感となり、パートタイム労働者等の活用等の変化もみられ、また、景気後退が長引いたり中期的な期待成長率が低下した時に企業の人件費負担感が急速に高まるおそれがある点に留意する必要がある。 (高齢化から少子・高齢化へ) ・ 今後は、構造変化がこれまで以上に急激に進むと考えられるが、供給面の最も大きい変化は高齢化から少子・高齢化への変化である。今までは高齢化といいつつ、実は若年層も増加していたが、今後は若年層が減少し高年齢層が一段と増加するので、高年齢者の本格的な活用が、我が国経済・企業にとって必要になってくる(第37図)。また、高齢化は第2次産業で進んでおり、産業構造の変化と方向を異にしているが(第38図)、女性の職場進出や大卒者の増加は産業や職業構造の変化と同じ方向であり、高齢化が最も大きな問題である。高齢化が急激に進むのは10年後であり、残された10年間の対応が大きな鍵である。 (依然として重要な企業の雇用維持努力) ・ 我が国では、長期雇用慣行の下、柔軟な配置転換による内部労働市場が大きな役割を果たしており(第39図)、今後も企業や労働者は長期雇用慣行を維持しようとする考えが強い(第40図)。今後も企業の雇用維持努力を前提に内部労働市場が構造変化への対応の調整機能を発揮することが重要であり、また、出向等の準内部労働市場の活用等により労働者ができる限り失業を経ずに労働移動が円滑に行われるような環境整備が重要である。 (雇用面のセイフティネットの充実と労働力需給調整機能の強化) ・ 一方、外部労働市場の役割も今後一層増大すると考えられ、その機能の充実のためには、 雇用面のセイフティネットの充実に加えて、労働力需給調整機能の強化が重要である。 第2章 働き方の中長期的変化  第1節 就業形態の多様化  就業形態の多様化は、若年層、女性中年層及び男性高年齢層で進んでいる。また、自営業主、家族従業者や家内労働者が減少する一方、派遣労働などの新しい就業形態が増加している。 (低下傾向にある常雇比率と高まるパートタイム労働者比率) ・ 常雇比率は、男性でほとんど変化がみられない中で、女性で大幅に低下したことと女性雇用者割合の上昇により、中長期的に緩やかな低下を続けている(第41図)。短時間雇用者比率は大幅に上昇し、女性では全体の3分の1に達している(第42図)。勤め先での呼称によるパート・アルバイト比率も短時間雇用者比率とほぼ同様の動きとなっている。 (多様化が進む若年層、女性中年層及び男性高年齢層) ・ 就業形態の多様化は、進学率の高まりと意識の変化を背景とした若年層(15〜24歳層)、40歳台を中心に短時間就業者比率が大きく上昇している女性中年層、需給両面の要因が影響している男性高年齢層で進んでいる。一方、男性中年層及び男女25〜34歳層では多様化の動きはみられない。また、産業別には、製造業及び第3次産業で多様化が進んでいる。 (パートタイム労働者増加の背景) ・ 需要面では、産業構成の変化に加え、コスト面や人材確保面が主たる雇用理由となっている。製造業では1980年代後半以降、割安なパートタイム労働者を恒常的な労働力として活用する動きが生じている。卸売・小売業,飲食店でもより戦力化する動きがみられている。一方、供給側の要因として、強い時間選好がみられる(第43図)。 (多様な就業形態) ・ 自営業主、家族従業者は減少傾向であるが、専門サービス業や専門的・技術的職業に従事する自営業主は増加傾向にあり、独立開業の拡大が期待される。家内労働者は大幅に減少している。在宅就業への関心が高まっている。派遣労働者は増加傾向にあり、業務委託も広がりをみせている。シルバー人材センターは、高年齢者の就業機会の増大に一定の役割を果たしている。ボランティアの発展も期待される。 第2節 職業生涯の変化  企業の新規学卒者、若年者重視の採用傾向は変わっていないが、パート、アルバイトや中途採用の活用等採用戦略が多様化している。  高齢化、高学歴化の中で管理職比率は全体としては高まっているが、学歴別・年齢別にみると低下しており、特に団塊の世代以降に昇進の遅れがみられる。また、人事管理制度の多様化、個別化の動きがみられる。 (若年者重視の採用動向) ・ 入職者に占める新規学卒者の割合はこの20年間ほぼ2割前後で推移している。年齢別入職者割合をみると30歳未満の割合はこの20年間6割前後で推移しており、企業の若年者採用重視の傾向は変わらない。 また、1,000人以上の大企業に入職する学卒者の割合は、景気に応じた変動がかなりみられ、1976年以降では1991年に最高の35.7%となった後、1996年に最低の22.7%まで下がっている(第44図)。 (多様化する採用戦略) ・ 企業の今後の採用についての考え方をみると、ほとんどの企業は規模にかかわらず新規学卒者の採用を中心としている(第45図)。しかし、大企業を中心に、企業の内部にいない人材の獲得や組織の活性化を目的とした正社員の中途採用や派遣社員を積極的に受け入れる企業は増加しており、採用戦略の多様化がみられる(第46図)。また、企業の新規学卒者採用方法にも職種別採用や通年採用といった新たな動きがみられている。 (「就社」から「就職」へ) ・ 30歳未満の若年層の初職選択理由をみると、規模・知名度や将来性を重視した者の割合はこの10年間で低下し、代わって仕事の内容・職種を重視している者が増加しており、若年者の就職意識は「就社」から「就職」の方向へ動いていると考えられる。 (管理職比率は傾向的に上昇) ・ 全労働者に占める管理職(部長及び課長)比率は、1976年の 5.7%から1996年には8.2%と傾向的に高まっており、これまでのところ全体としては管理職ポストを用意することができてきた(第47図)。 (遅れる昇進) ・ しかし、学歴別、年齢別にみると、高卒、大卒ともほとんどの年齢層で低下傾向にあり、特に49歳以下で低下が大きい(第48図)。1937年から1956年生まれの大卒者について5歳刻みのコーホートでみると、世代が後になるほど昇進が遅れている。また、団塊の世代以降の世代では、昇進が遅れるだけでなく、管理職に就かない大卒の増加が予想される。 (同期入社の昇進格差拡大) ・ 同期入社の労働者については入社後一定期間は同時に昇進させる人事管理をする企業が減少し、代わって「同期入社であっても、同時昇進にはこだわらない」企業が増加している。今後の昇進方針についてみると、7割近くの企業が同時昇進にはこだわらないとしており、同時昇進の人事管理方針をとる企業は相対的に少数となると見込まれる。 (設定の趣旨に見合った専門職制度の見直し) ・ 専門職制度の今後の方針をみると、「当面現在の専門職制度、運用方法を維持」する企業はやや減少する一方、「もっと能力主義的なものに強化」する企業割合は増加しており、本来の設定の趣旨に沿った形の専門職制度に見直そうとの動きがみられる(第49図)。 (大企業で普及が進む新しい人事管理制度) ・ 企業はこれまでの画一的・集団的な雇用管理を見直し、専門職制度のほかにも労働者の希望に応じて能力を発揮することを可能にする多様な人事管理制度を導入する動きを示している。複線型人事管理制度、社内人材公募制度、出産等による退職者の再雇用制度、勤務地限定制度はいずれもまだ1割台の導入率だが、勤務地限定制度を除くと導入予定の企業が2割を超える。また、現在は大企業中心だが今後は中小、中堅規模でも導入予定がかなりある。役職定年制についても、大企業を中心に普及している。  管理職、事務職等では相対的に人事異動の周期は短く、専門職、技術・研究職では長く、その違いは大きくなっている。また、管理職のキャリアを広げようとする動きがある。  職業能力開発では、企業、労働者とも自己啓発を重視している。  平均勤続年数は、男女とも長期化しており高年齢層になるほどその程度が大きい。また、企業、労働者とも長期雇用に対する期待は大きい。  60歳以上定年が普及している一方で、退職制度の柔軟化も進んでいる。 (中高年の出向者が増加傾向) ・ 配置転換を実施した企業の割合の推移をみると、300人以上規模の企業では9割前後の実施率であるが、300人未満規模の企業では低下している。 ・ 出向について、全入職者に占める割合の推移をみると、1988年の 1.6%から1996年の2.0%へと高まっている。年齢別には男性の45〜49歳が大きく増加している。 (職種により異なる人事異動の周期の変化) ・ 人事異動の周期は、管理職、事務職等で相対的に短く、専門職、技術・研究職では長く、その違いは大きくなっている。また、管理・企画・事務部門では管理職に昇進するまでに経験する仕事の分野が増えるなど、企業にはキャリアの幅を広げる動きがある(第50図)。 (企業も労働者も自己啓発重視) ・ 職業能力開発に対する意識をみると、今後は、集合研修(Off-JT)優先から現場教育(OJT)優先に変化しているとする企業が増加するとともに自己啓発を重視する企業が多い(第51図)。また、労働者も自己啓発を重視している。自己啓発の実施に当たっては、「自己啓発のための時間がない(忙しい)」、「自己啓発のための費用がかかりすぎる」などといった障害が指摘されている。 (平均勤続年数は長期化) ・ 平均勤続年数は、男女とも長期化傾向がみられ、その程度は高年齢層ほど大きい。これは高度成長期に入って以降労働移動が安定していたことと定年延長が要因である(第52図)。 ・ 勤続年数の長期化はどの規模でも進んでいるが、その程度は規模が大きいほど大きい。ホワイトカラー、ブルーカラーのいずれでも長期化が進展しているが、ブルーカラーでより進展している。 (欧州大陸諸国と同程度に長い勤続年数) ・ 我が国の平均勤続年数は、欧州大陸諸国とともに、OECD諸国の中では長い方だが、特別に長いわけではない。勤続年数の短いアメリカ、イギリスなどとの差は開いている(第53図)。 (根強い長期雇用慣行への支持) ・ 現状では8割の企業が労働者を定年まで雇用するとし、今後についても6割もの企業が定年まで雇用するとしており、基本的に企業は長期雇用慣行を維持しようと考えている。長期雇用慣行のメリットは、モラール・帰属意識の高まりと人材育成、デメリットとしては人件費負担、職務と能力の開きがあげられている。 ・ 労働者の意識も、終身雇用制を良いものとして評価する者は7割程度と長期雇用への期待度は高いが、最近の雇用不安や高齢化の影響もあって、現在の会社に定年まで勤められると考えている者は減っている。 (退職) ・ 定年年齢については、どの規模でも60歳以上定年が普及し、定年後の継続雇用についても最高雇用年齢を65歳以上とする企業割合が緩やかに上昇するなど、より高年齢層まで働くことのできる仕組みが普及している(第54図)。一方、大企業を中心に早期退職優遇制度が普及し、その適用開始年齢も 5,000人以上規模企業では49歳以下とするものが大幅に増えるなど退職制度の柔軟化が進んでいる。実際の退職形態も多様化している(第55図)。 ・ 退職出向の目的を1986年と1998年を比べると「出向先企業の経営指導や技術指導のため」などの積極的目的の出向が減少している。 第3節 労働条件の変化  賃金はこれまで年功的な運用がされてきたが、団塊の世代を含む層から見直しが進んでいる。近年では賃金制度に年俸制などの能力・実績重視の動きがみられるが、従業員は評価の正確性等に不安を持っている。賃金の規模間格差では高齢化・高学歴化の要因を除くと縮小傾向にある。  労働時間は、労働基準法の改正を契機に1988年以降大幅に短縮している。 (団塊の世代から進む賃金の年齢プロファイルの見直し) ・ 我が国の賃金の年齢プロファイルは、ホワイトカラー・ブルーカラーともに年齢が上がるにつれて上昇しており、年功賃金と呼ばれている。標準労働者の賃金プロファイルでは、年齢間格差は縮小傾向にあるが、高卒ブルーカラーではその程度が緩やかである(第56図)。年齢階級別にみると団塊の世代を含む1946年から1950年にかけて生まれた層の年齢上昇とともに徐々に賃金プロファイルが見直されている。 (賃金制度に能力・業績重視の動き) ・ 近年、賃金制度に能力・業績重視の動きがみられている。今まで年功賃金を重視してきた企業でも、できるだけ能力主義でいくとする企業が増えている。具体的な賃金制度の変更項目では職能給的要素を増やすと回答した企業が減っているが、能力主義的に運用する必要性は現在でも多くの企業が感じており、能力給の運用を制度の本来の趣旨をいかした運用に変えていきたいと考えている企業が多いことを示している。また個人業績のボーナスへの反映、年俸制の活用等、業績や担当する職務によって賃金を決める傾向が強くみられる(第57図)。 (評価の正確性が不安) ・ しかし賃金の年功部分が全くなくなると考えている企業は1割程度にとどまっている。年功部分に配慮する理由については、従業員の生活の安定のためとする企業が増えている一方、賃金管理の仕組みとしての年功制を評価する企業は大きく減っている。従業員の意識では、成果主義的賃金は「必要だが不安」とする者が7割に達しているが、その理由としては、収入が不安定になることよりも、評価の正確さに不安を持つ者や能力を発揮できる職務に就けるかを不安の理由としてあげる者が多くなっている。 (規模間賃金格差は労働者構成の影響を除くと縮小傾向) ・ 規模間の賃金格差は、1970年代後半から1980年代後半までは拡大、1990年代初めにかけて縮小した後、バブルの崩壊後は再び格差が開いている(第58図)。これを要因分解すると、年齢・勤続・学歴別の賃金変化は格差を縮小させる方向に働いており、規模間格差の変化は高学歴化・高齢化の動きが規模間によって異なっていることの影響が大きく、これを除くと格差は中長期的には縮小傾向で推移している。 (中小企業でも普及した退職金制度) ・ 退職金制度は、小規模企業においても既に普及率が9割に達した。退職金の勤続年数別の支給月数のカーブが緩やかになっている。退職一時金の算定方法は、大企業を中心に退職時の基本給の一部や別テーブル方式等を算定基礎にする企業が増えている。 (1988年以降減少傾向で推移している労働時間) ・ 労働時間は労働基準法の改正(1987年、翌年施行)を契機に減少傾向にあり、1997年は1,900時間 (事業所規模30人以上) となった(第59図)。労働時間の減少は、主に週休2日制の普及により出勤日数が減少したことによる。製造業生産労働者について労働時間の国際比較を行うと、1996年で日本は、アメリカ、イギリスとほぼ同じ水準となっているものの、ドイツ、フランスとの格差はまだ大きい(第60図)。 (労働時間短縮が進んだ背景とその効果) ・ 1988年以降労働時間短縮が進んだ背景としては、労働基準法の改正等の労働時間対策に加え、労使の積極的な取組み、余暇志向や時短志向の高まりにより、生産性上昇の成果が賃金に加え時短により配分されるようになったことがあげられる (第61図) 。労働時間の短縮が進む時期には生活に相対的なゆとりがみられている。また、労働時間の短縮により、生産性の向上、消費支出の拡大という経済効果があった。 (労働時間制度の新しい動き) ・ 労働基準法の改正を契機に、労働時間の弾力化やみなし労働時間制の整備等が行われており、変形労働時間制度の導入企業割合は大幅に拡大している (第62図)。フレックスタイム制や裁量労働制は、現在のところ大企業の一部の部門への導入にとどまっているが、今後は、経済の情報化、サービス化が進む中で、創造的な能力発揮、専門的な知識をいかす、労働者の自律性を高める業務形態として導入が進むことが予想される。  法定福利費の伸びは著しいが、法定外福利費は伸びが小さく、規模間格差が大きい。また、福利厚生は、ニーズの多様化に対応して多様な個別の施策へと変化し、また効率化が図られている。  死傷者数は全体では減少傾向だが、死亡者数は近年横ばい傾向にある。心身の疲れや職場ストレスを感じる者の割合が高まっている。 (著しく増加する法定福利費と賃金より大きい法定外福利費の規模間格差) ・ 法定福利費は、高齢化に伴う社会保険料率の改定等の影響で大きく増加している。一方法定福利費の増大に圧迫されていることや福利厚生を適用されることが少ないパートタイム労働者の増加等を背景に法定外福利費のウェイトはやや低下している(第63図)。法定外福利費の規模間格差は、現金給与の格差より大きく、従来拡大傾向にあったが、バブル期に縮小した後、バブル崩壊後は中小企業との格差はやや拡大した(第64図)。 (福利厚生に対するニーズの多様化と多様化への対応) ・ 福利厚生のニーズは、生活水準の向上による価値観の多様化のほか、高齢化や女性の職場進出による従業員構成の変化により多様化している。また、ニーズの多様化や人事管理の個別化等を背景として、一体感醸成のための画一的な施策から個々のニーズに応じた多様な個別の施策へと変化するとともに、多様化によるスケールメリットの減少と法定福利費の増大に対応するため制度の効率化が図られている。住宅関連では、費用負担が大きく、住む場所・建物が画一的な社宅の設置率が低下し、その中でも企業所有から借上げへと比重が移行している。また、アウトソーシングの動きもみられ、体育館や保養所の運営形態は、企業単独が減少し第三者との利用契約が増加している(第65図)。 (死傷者数は減少傾向、死亡者数は近年横ばい) ・ 死傷者数は、各産業での労働災害発生率の低下のほか、労働災害発生率が相対的に低い卸売・小売業等のウェイトの上昇により、長期的に減少傾向にある。一方、死亡者数は長期的には減少傾向にあったが、近年横ばい傾向にある(第66図)。 300人以上の大規模事業場では、1990年代に入ってからは、度数率の低下が止まり横ばい傾向で推移しているため、死傷者数もほぼ横ばい状態で推移しているが、その背景をみると、 500人以上企業では1990年代に入ってから安全衛生費用の伸びが緩やかになっている。 (死亡者数が減少しない背景) ・ 死亡者数が近年横ばい傾向にある背景としては、@建設業で、建設需要の増加を背景とした雇用者数の増加と死亡災害発生率の低下度合いの緩慢化により、死亡者数が近年横ばいであること、特に、公共工事の需要が増加している土木工事や住宅建設需要が増加している木造家屋建築工事で死亡者数が横ばいあるいは増加傾向にあり、また高齢化の進展も影響していること、A製造業の死亡者数が近年微減にとどまっていること、B陸上貨物運送事業で、貨物輸送量の増加を背景にした雇用者数の増加と交通事故の増加傾向から、死亡者数が緩やかな増加傾向にあることが挙げられる。 (心身の疲れや職場ストレスの高まりと規模により異なる健康づくりへの取組み) ・ 普段の仕事で身体・神経の疲れを感じる者の割合が増加している(第67図)。また、高齢化の進展等に伴い、高血圧、糖尿病等を中心に持病のある者の割合が増加しているほか、定期健康診断の有所見率も上昇傾向にある。また、職場ストレスを感じる者の割合も高まっており(前掲第67図)、心身両面にわたる健康管理が重要となっている。一方、企業の健康管理施策については、定期健康診断の実施率が次第に上昇し現在では大半の事業所で実施されているものの、有所見率が高い高年齢者の割合が多い小規模事業所ほどその実施率が低くなっている。また、心の健康対策の実施は、規模間格差が特に大きくなっている。 (就業形態の多様化と労働条件) ・ 3%程度の安定した伸びを続けてきた女性パートタイム労働者の年間収入は、1990年代に入って景気の動向や所定内労働時間の減少を反映しておおむね横ばいで推移している(第68図)。また、属性の違い等もあって、一般労働者との賃金格差は拡大している。パートやアルバイト等への退職金制度や福利厚生制度の適用は、正規労働者を下回っているが、今後、福利厚生の適用範囲を拡大しようとする動きもある。女性パートタイム労働者の所定内労働時間数は1980年代後半以降減少を続けており、週休2日制の普及が影響を与えている。在宅就業者は属性による違いが大きく、6歳未満の子供のいる女性では家事や育児等の合間に就業している場合が多い。また、年収は就業時間との相関がみられる。派遣労働者の年収には、雇用形態による労働時間の違いも影響していると考えられる。また、常用の派遣労働者の労働時間は一般労働者とほぼ変わらない。なお、パートタイム労働者や派遣労働者は、賃金等と並んで職場訓練の満足度が低くなっている。 第4節 働き方の変化の方向と今後の課題  働き方の個別性、自律性重視の流れの中で、長期雇用を維持するためにも、働き方の仕組みを変えていくことが重要であり、働き方の自己選択と評価制度等の新しいルールの整備が重要である。また、中高年齢層への配慮が必要である。新しいルールの整備等には、労使の努力が基本的に重要であり、政府の役割も重要である。 (働き方の個別性、自律性の重視) ・ 日本型雇用慣行は、現業部門に最も適しており(第69図)、今後は研究部門や管理部門などで変化していくが、労働者のモラール、長期的な能力開発などの点で優れた仕組みである(第70図)。また、雇用安定の確保や生涯設計の立てやすさという点でも重要であり、雇用維持の仕組み(長期雇用慣行)を維持しつつ、労働者の個別性、自律性を重視し多様な選択肢のある仕組みに変えていくことが重要になる(第71表)。 (自律的な働き方のための環境整備) ・ 労働者が自律的に働いていくためには、人事管理制度を多様化、個別化し、職業生涯の節目節目で労働者が働き方を自ら選択できることが重要である。また、自らの職業キャリア等を客観的に把握できる仕組みの構築と自己啓発の促進が求められる。 ・ 新しい働き方に適合したルールの整備が重要であり、第1に、客観性、公平性、透明性があり、労働者の納得が得られる評価制度の確立、第2に、異なるタイプの労働者に応じ、バランスのとれた人事管理、キャリア設計や能力開発、第3に、労働条件その他について個別の労使間の争いに対応する仕組み等が重要である。 ・ 従来型の雇用制度下で働いてきた中高年世代に自律と自己責任を求めるには、長期的な賃金と貢献のバランスの観点等からも賃金面等十分な配慮が必要である。 ・ 働き方のルールの設定と適切な運用、個別紛争の解決等には労使の努力が重要であり、労働組合が新しい働き方に柔軟に対応しつつ多様化する労働者のニーズを的確に汲み上げること、企業が人事労務管理等を柔軟に対応させつつ雇用維持の努力を行うことが期待される。また、社会全体の共通のルールの整備と監視等に関する行政の役割も重要である。 第3章 生活の中長期的変化  第1節 消費行動の変化  勤労者世帯の収入及び消費支出は、1975年以降増加傾向にあるが、1990年代に入り、収入の伸びは緩やかで、実質消費支出は横ばいである。平均消費性向は保険や住宅ローン等の増加による家計の自由度の低下に加え、バブル崩壊後の不透明感の増大により、低下を続けている。貯蓄は増加傾向にあり、生命保険などの増加が著しく、負債は住宅・土地のための負債を中心に増加し、中年層で大きく増加している。 (妻の収入の割合が上昇) ・ 勤労者世帯の実収入及び可処分所得は1975年以降、名目、実質とも増加傾向であるが、バブル崩壊後は伸びが緩やかである。また、既婚女性の職場進出が進んだことを反映して、実収入に占める妻の収入の割合が上昇傾向にある。 (低下傾向にある平均消費性向) ・ 消費支出は1975年以降増加傾向であるが、1990年代に入り実質消費支出は横ばいである(第72図)。平均消費性向は1980年代初め以降低下傾向で(第73図)、その要因は、40〜49歳層を中心に住宅ローン、保険等の契約性黒字の増加で、家計の自由度が小さくなったことに加え、バブル崩壊後は今後の生活や雇用に関する不透明感の影響も考えられる。 (消費支出のサービス化) ・ 消費支出の構成をみると、生活のための基礎的な性格が強い食料、被服及び履物や物価上昇率が低い家具・家事用品は低下傾向にあり、生活の豊かさを支える性格が強い教養娯楽、交通・通信や相対的に物価の上昇が著しい教育、住居及び光熱・水道は上昇傾向にある。消費水準の上昇などから、消費支出のサービス化が進んでいる。 (貯蓄・負債とも増加) ・ 貯蓄は増加傾向で、1997年で年間収入額の 1.6倍であるが、生命保険などの増加が著しく、また、高年齢層ほど大きな増加である。負債は住宅・土地のための負債を中心として増加傾向で、特に30〜39歳層及び40〜49歳層での増加が顕著である(第74図)。 第2節 生活の変化  週末は週休2日制の普及もあり仕事時間が減少し、自由時間が増加している。有業女性の生活時間構造をみると、未婚から結婚、出産とライフサイクルが進むにつれて大きく変化し、家事時間の増大等により男性との差が大きくなっている。 (週末は仕事時間が減少し、自由時間が増大) ・ 週末は週休2日制の普及もあり仕事時間が減少し、自由時間が増加しているが、平日の仕事時間はほぼ横ばいとなっている(第75表)。平日を年齢別にみると、男性の20歳台後半から40歳台では仕事時間が増加し、自由時間が減少している。女性は20歳台後半で仕事時間、自由時間は増加、家事時間は減少しており、晩婚化の影響がみられる。また、国際的には、我が国は勤務関連時間が長く、自由時間は短く、生活時間の使い方による男女間の役割分担度合が高い。意識面をみると、生活時間の使い方に対する満足度では、我が国は各国と異なり「不満」とする者の割合が「満足」とする者の割合を上回っており、特に女性で「満足」とする者の割合が低い。 (結婚・出産で自由時間が減少する有業女性のライフサイクル) ・ 有業女性の生活時間構造をみると、未婚から結婚、出産とライフサイクルが進むにつれて大きく変化し、家事時間の増大等により男性との差が大きくなる(第76図)。女性の晩婚化の理由については、経済的理由と並んで生活の自由度が重視されており、結婚・出産による生活時間の自由度の低下のおそれが未婚女性増加の一因となり、晩婚化・少子化につながっている可能性がある。 (住宅面積は拡大、通勤時間は横ばい) ・ 居住者1人当たりの床面積はこの20年間に約5割拡大している。価格についてマンション価格の年収倍率でみると、20年前を上回る水準となっているが、1戸当たり面積の拡大や、住宅購入の原資となる勤労者の年間の黒字額の増加を考慮すると住宅取得が困難になっているとはいえない(第77図)。しかし、国際的には依然高価で面積も狭い。通勤時間は、平日有業男性の行動者平均時間をみると、20年間ほぼ横ばいとなっている。しかし、全国平均に比べて通勤時間が長い東京圏の労働者は通勤時間に不満を持つ割合が高く、国際的にも我が国の通勤時間は長い。 第3節 労働者の意識の変化と生活の充実に向けての課題  今後一層の生活の充実のためには、我が国経済と雇用に対する不透明感の払拭と高齢社会における具体的な生活のビジョンが必要であり、また内外価格差の是正等による消費者物価等の低廉化や自由時間の充実を図るほか、企業中心のライフスタイルの転換のため、社会や企業の仕組みの変革と併せて労働者自らの発想の転換が必要不可欠である。 (国際比較による消費水準) ・ 労働者の生活水準は大幅に向上しているが、名目消費支出の国際比較と購買力平価で換算したものでは差があり、その背景には、内外価格差という問題がある(第78図)。また、住宅価格も国際比較をするとまだ高い。豊かな生活の実現のためには内外価格差の是正・縮小等により消費者物価や住宅の価格等を低廉なものとすることが重要である。 (今後の生活の見通しに不透明感) ・ バブル崩壊後、今後の生活についての不透明感が強まっている兆しがみられる。今後の生活の見通しについて悲観的な考え方が楽観的な考え方を大きく上回っている (第79図)。この背後には、我が国経済の将来や雇用に対する不透明感の高まりや高齢化の進展などに対する不安感の強まりがある。したがって、構造改革等により我が国経済と雇用に対する将来の不透明感の払拭と高齢社会における具体的な生活のビジョンの明示が重要である。 (企業中心のライフスタイルの転換) ・ 労働時間短縮が進んでいるが自由時間をもっと欲しいとする労働者がまだ多い。今後労働者が自律的な働き方を求められていく中で、メリハリのある働き方により家庭生活、社会活動の充実を図っていくことが必要であり、一層の労働時間短縮等により自由時間の充実を図ることが重要である。 ・ 我が国では欧米諸国と比較して家庭生活のパターンが男女で異なっている度合いが大きく、特に女性は結婚・出産後に生活時間構造が大きく変わり、自由時間が減っているが、こうした役割分担についての意識も次第に変化してきている。男性も家庭生活を重視するようになってきている。したがって、働き方の面からだけではなく、家庭生活や地域生活への参加を進めていく観点からも企業中心のライフスタイルを変えていくことが求められている。そのためには、社会や企業の仕組みの変革と併せて労働者自らの発想の転換が必要不可欠である (第80図)。 まとめ (1997年の労働経済の特徴)  1997年(平成9年)の我が国経済は、1〜3月期には消費税率引上げ前の駆け込み需要もあって高い成長を記録した。4〜6月期はその駆け込み需要の反動減から大幅な減速となった後、続く7〜9月期には反動減から立ち直りつつあり、緩やかながらも回復傾向にあったものが、秋以降我が国の金融機関の破綻やアジアの通貨・金融不安のもとで景況感が厳しさを増し、景気は足踏み状態となった。さらに、1998年初には停滞し、一層厳しさを増した。雇用・失業情勢は、年前半は、失業率が高水準にあるなど厳しい状況であったものの雇用者の大幅な増加などの改善の動きがみられたが、年後半は、景気の足踏みを反映して雇用者の伸びが鈍化し有効求人倍率が低下する中で、失業率は依然として高水準を続けるなど、厳しい状況が続き、1998年1〜3月期には景気が一層厳しさを増す中で、更に厳しさを増し、3月には完全失業率が3.9%と既往最高となった。  年後半以降の雇用需要の減退は、バブル崩壊後の雇用調整がようやく終了したところで景気が足踏みとなり、企業の業況が悪化して雇用過剰感が高まったことによる面が強い。  バブル崩壊後の雇用調整について、製造業では1992年から1993年頃にかけて労働生産性がトレンドを大幅に下回り、労働密度の低下は過去と比べても大きかったため、今景気回復過程の初期はすぐに雇用の増加には結びつかない状況であった。その後、リストラの進展等から1996年後半に労働生産性の水準がトレンド上に回帰し、この時点でバブル崩壊後の雇用面での調整はほぼ終了した。しかし、1997年後半になると生産の伸びが大きく鈍化すると同時に雇用者数が減少したが、これは、長期にわたった雇用面の調整が一段落して企業が先行きに自信を持ち雇用の本格的拡大に入る前に在庫調整が始まったことが影響していると考えられる。第3次産業では、1997年後半の生産活動が停滞した時期に雇用は増加あるいは維持されたが、同時に労働時間短縮の進展により生産性の低下は起こらなかった。  景気が足踏みから一層厳しさを増したことにより、建設業、卸売・小売業,飲食店、製造業等の各産業で業況が悪化し、雇用需要が減退したが、業況の低下が比較的緩やかであったサービス業では雇用者数は大幅な増加を続け、雇用全体の下支えとなった。1997年後半以降の雇用者の増加幅の縮小は男性で大きく、1998年1〜3月期には前年同期比減少となった。女性も週35時間以上の雇用者は同様の動きとなった。一方、女性短時間労働者に対する需要は相変わらず強かった。産業別にみると、男性は建設業や卸売業における雇用需要の減退の影響が大きいのに対し、女性短時間労働者はサービス業、飲食料品小売業、飲食店での増加が大きく、両者間の代替がおきているというより産業間の業況や雇用需要の差が両者の動きの差をもたらしていると考えられる。なお、女性の週35時間以上の雇用者は製造業の減少が目立っていたが、1998年1〜3月期には男女とも製造業の減少が著しい。  雇用需要の減退の影響で、失業者が就業しにくくなりその分失業率の上昇につながり、繰越求職が増えた結果有効求人倍率の低下につながったほか、特に1998年1〜3月期に倒産や解雇による非自発的離職失業者が増加し、非自発的離職失業の多い男性高年齢層及び世帯主の失業が大幅に増加した。これらに加え、若年層の自発的離職失業が増加を続けたため、年後半以降有効求人倍率の低下、失業率(特に男性)の上昇が起こった。一方、厳しい雇用情勢の中で、職探しをあきらめた者も多く、男性高年齢層の労働力率は年後半以降低下した。  賃金は、所定外給与の伸びは前年より縮小したが、賞与支給時期のずれもあって特別給与の伸びが大きく拡大したため、現金給与総額の伸びは前年より高まった。しかし、消費者物価の上昇幅が拡大したため、4〜6月期以降実質賃金は前年を下回った。 労働時間は、週40時間制の全面適用を背景に所定内労働時間が減少し、また、所定外労働時間の伸びが鈍化したこともあって、総実労働時間は減少に転じた。この結果、年間総実労働時間は5人以上規模で1,891時間と初めて1,900時間を下回った。  物価をみると、消費者物価は4〜6月期に消費税率の引き上げに伴い2.0%上昇し、9月に医療保険制度の改正等によりやや上昇したものの、総じて安定して推移した。こうした中で勤労者家計においては、消費税率引上げ前後で駆け込み需要とその反動減がみられたが、年全体としては、特別減税の終了等に伴う非消費支出の増加及び消費税率の引上げ等による消費者物価の上昇幅の拡大がマイナスに働き、実質消費支出の伸びは前年を下回った。また、年末には相次ぐ金融機関の破綻等により消費者マインドが悪化し、消費性向が急激に低下したため実質消費支出が大幅に減少した。  以上のように、1997年の我が国の労働経済は、特に年後半以降厳しい状況にある。こうした中で、我が国は21世紀に向けて構造改革の時期を迎え、労働者の雇用・生活環境も大きく変化しつつある。第U部では、構造改革を経た21世紀の雇用・生活環境の変化を労働者の視点から見通すとともに今後の課題を探るため、中長期的な観点から1975年から現在までの安定成長期の労働者の働き方と生活の変化の方向・内容とその背景・要因について検討した。 (安定成長期の構造変化)  我が国経済は、第1次石油危機を契機に1970年代後半に高度成長期から安定成長期に入った。その後、第2次石油危機、円高不況等を乗り越え、国際競争力を強めてきたが、1980年代末からのバブルの発生とその崩壊を経験し、以降も回復のテンポは緩やかとなっている。  この間、経済構造は、国際化、サービス化、技術進歩、情報化の進展等大きく変化し、供給構造も大きく変化している。第1は高齢化の進展であり、第2に女性の職場進出であり、女性の就業意欲の高まりやサービス化、パート需要の高まり等を背景に女性雇用者が増加を続け、また労働力のM字型カーブの底が25〜29歳層から30〜34歳層に移動しかつ浅くなっている。また、高度成長期の進学率の上昇により、高学歴化が進んでいる。  労働に関する制度も、積極的雇用対策への転換や高齢化、女性の職場進出への対応が進んでいることに加え、労働条件面でも、法定労働時間の短縮等が進んでいる。  産業・職業構造の変化をみると、サービス産業の生産性の伸びが相対的に低かったことと最終需要、中間需要の両方でサービス化が進んだことから、サービス化が進展し、職業構造も専門的・技術的職業従事者を中心にホワイトカラーが増加している。雇用創出の実態をみると、従業者の増加への寄与が一貫して大きい新設事業所の開業率がこのところ低下しており、ベンチャー企業等の新規開業にとって好ましい経済環境の整備が重要となっている。 (労働移動の増加と失業率の上昇)  労働移動は高度成長期から安定成長期に移行した際に低下した後、若年層、女性を中心に長期的に増加している。これは就業形態が多様化し、転職率の高いパートタイム労働者がそれらの層で大きく増加したためであり、また若年層では転職希望の顕在化も影響している。  しかし、常用労働者の労働移動は活発化していない。特に従来の基幹的労働者層である男性中高年齢者に転職率の高まりはみられない。また、女性常用労働者はパートタイム労働者を含めて、最近むしろ転職率が低下傾向にある。  失業率は、景気循環に伴う変動を繰り返しつつ、中長期的には上昇傾向にあるが、非自発的離職失業率は上昇傾向はなく、自発的離職失業率の上昇が全体の失業率を押し上げている。  失業率の上昇傾向の背景を探ると、女性が景気後退期にも非労働力化しなくなったため男性の失業率をおおむね上回るようになっている。また、男女の若年層と男性高年齢層で失業率が著しく上昇しているが、男性の中堅層は比較的落ち着いた動きである。世帯主との続き柄別には、若年の多いその他の家族や単身世帯の上昇が大きく、世帯主は60〜64歳層以外は上昇傾向にない。  若年層の失業率の上昇は自発的離職失業の増加によるところが大きい。その背景は、労働移動が激しく失業率の高いパートタイムやアルバイト労働者等の割合が上昇したことと転職に対する意識の変化であり、主として失業の頻度が上昇している。他方、男性高年齢層の失業率の上昇は高齢化が進む中で雇用需要の増加が供給の増加に追いつかないことによる需給不均衡が原因であり、非自発的離職失業が増加している。  産業別にみるとサービス業の雇用失業率は必ずしも高くなく、サービス業のウェイトの高まりが直ちに失業率の上昇につながるわけではないが、産業間や職業間の移動は同一産業・職業内の移動より困難を伴うので、今後の急激な産業・職業構造の変化は失業を長期化させるおそれがある。なお、企業は景気循環過程での雇用行動の基本的なスタンス(雇用維持重視)を変えてはいないが、生産等の変動により敏感になっており、また、景気後退が長引いたり中期的な期待成長率が低下した時には企業の人件費負担感が急速に高まるおそれがあることに留意する必要がある。  以上のような要因による均衡失業率の上昇に加え、最近は需要不足失業率が高水準にあるため、失業率は高水準となっている。したがって、失業率を低下させていくためには、構造対策と同時に、適度な経済成長により需要不足を解消することが重要である。 (高齢化から少子・高齢化へ)  今後は、構造変化がこれまで以上に急激に進むと考えられ、需要面では、国際化、サービス化、情報化が一層進むとともに、規制緩和も大きな影響を及ぼすであろう。  供給面で最も大きい変化は高齢化から少子・高齢化への変化である。過去10年間は団塊二世層の労働市場への流入が続いていたため、高年齢層の増加と若年層の増加が同程度であり、企業は必要なら若年層を増やせばよく、高年齢層を活用する必要はなかったが、今後は、若年層が減少し、高年齢層だけが一段と増加していくので、高年齢層の本格的な活用が、我が国経済・企業にとって必要である。高齢化は、団塊の世代が60歳に達する今から10年後に急速に進展する。さらに女性の職場進出や高学歴化も進展すると考えられる。  雇用の安定を図るためには、需給両面の構造変化への対応が重要であるが、高齢化と産業構造の変化の関係をみると、建設業、製造業で高年齢者比率が著しく高まっているため、全体では低下している第2次産業就業者割合が高年齢者に限っては上昇しており、産業構造の変化と高齢化が方向を異にしている。一方、女性の職場進出は第3次産業の寄与が圧倒的に大きく、また、大卒者の増加は専門的・技術的職業従事者等のホワイトカラーで著しく、産業や職業構造の変化と同じ方向を向いている。  したがって、高齢化が最も大きな問題である。今後は建設業、製造業の雇用増が期待できず、第3次産業での新たな高年齢者向け職場の開拓や高年齢者の現在の産業、職業からの転換が重要である。高齢化が急激に進むまでの、残された10年間の対応が大きな鍵である。 (依然として重要な企業の雇用維持努力)  今後新規学卒者が減る中で、配置転換、昇進等を通じて企業の中で労働力を再配分する内部労働市場と転職等を通じた外部労働市場が重要になる。  従来、我が国では、長期雇用慣行の下、柔軟な配置転換による内部労働市場が大きな役割を果たしてきた。今後も企業や労働者は長期雇用慣行を維持しようとする考えが強い。また、現在のような厳しい雇用状況の下で、企業が雇用維持努力を放棄すると、雇用不安が更に強まり消費の一層の減退を招いて我が国の経済は縮小均衡におちいりかねない。  したがって、内部労働市場が構造変化に対応した調整機能を発揮することが重要であり、そのため企業の雇用維持努力を前提に構造変化に対応した事業の転換や柔軟な組織、仕事の見直しを常に行っていくことが重要なほか、労働者は変化に対応しうるよう働き方を柔軟かつ自律的なものとすると同時に自らの職業能力の向上に努める必要がある。こうした企業や労働者の努力に対する行政の支援が重要なほか、出向等の準内部労働市場の活用等により、労働者ができる限り失業を経ずに労働移動が円滑に行われるような環境整備が重要である。 (雇用面のセイフティネットの充実と労働力需給調整機能の強化)  一方、外部労働市場の役割は、横断的な労働市場を持つ産業・職業の拡大、急激な構造変化による倒産やリストラの増加、子育て後の労働者や高年齢者など長期雇用慣行になじまない者の活用などから今後一層増大すると考えられる。  外部労働市場が十分に機能を発揮するためには、失業者の生活の安定を守り、次の就職を容易にするセイフティネットが重要なほか、内部労働市場と違って雇用保障によりチャレンジを支える仕組みが内在されていないので、失敗しても再チャレンジが可能となるようなセイフティネットの仕組みの確立が、労働者の積極的なチャレンジの姿勢を引き出し、経済を活性化させるために不可欠である。このため、雇用保険制度を基本としつつ、公共の無料職業紹介機能や新しい仕事に就くための職業能力の再開発機能の充実が重要である。  外部労働市場の機能の充実には、セイフティネットに加え、労働力需給調整機能の強化が重要であり、公共部門と併せて民間の職業紹介機能の充実が求められている。また、求職者のキャリアや能力の評価の仕組みの確立が重要となるほか、長期雇用慣行の下にある者も含め、予期せぬ(あるいは自ら望んだ)労働移動に備え、外部労働市場で通用し企業に雇用されることを可能にする職業能力(エンプロイアビリティ)を磨くことが必要となってくる。 (就業形態の多様化)  安定成長期に入って、就業形態が多様化し、常雇比率の低下、パートタイム労働者の増加がみられる。就業形態の多様化は、若年層、女性中年層、男性高年齢層でみられ、産業別には、製造業と第3次産業で進展している。  パートタイム労働者増加の背景は、企業はコスト面や人材確保が主な理由であり、労働者は時間選好が強い。製造業では1980年代後半以降、円高によるリストラ圧力の中、割安な労働力としてパートタイム労働者を恒常的に使う動きが出てきており、常用パートタイム労働者が増加し、勤続年数も大幅に長期化している。自営業主・家族従業者比率は低下しているが、専門サービス業や専門的・技術的職業に従事する自営業主は増加傾向にあり、独立開業という形の就業形態の拡大が期待される。また派遣労働など新しい就業形態が増加している。 (職業生涯の多様化、個別化)  雇用者全体の7割以上を占める常用の通常勤務労働者の働き方の変化をみると、就職については、企業の新規学卒者、若年の採用重視の傾向は変わっていないが、パート等の活用や中途採用を積極的に行いたいとする企業が増加し、新規学卒者も職種別採用、通年採用など多様化が進んでいる。若年者の意識も「就社」から「就職」の方向へ動いている。  昇進、配置転換については、管理職比率は全体としては上がっているが、学歴別・年齢別にみると低下しており、特に団塊の世代以降に昇進の遅れがみられる。また、同期昇進管理をなくしたり、専門職を設定の趣旨に見合ったものに見直すなどの動きや複線型人事管理、社内人材公募等の制度など人事管理制度の多様化、個別化の動きがみられる。  職業能力開発については、企業、労働者とも自己啓発を重視している。また、退職については60歳定年制が一般的になり、継続雇用も65歳以上が緩やかに増加している一方、早期退職優遇制度等も増加している。 (根強い長期雇用慣行への支持)  平均勤続年数は、男女とも長期化し、高年齢層ほどその程度が大きいが、これは高度成長期以降労働移動が安定していたことと定年延長が要因である。また、我が国の勤続年数は欧州大陸諸国と同様に長い方に位置するが、我が国だけ特別に長いというわけではない。  長期雇用慣行についての企業の考え方は、現状では8割、今後はやや低下するが6割の企業で労働者を定年まで雇用するとしている。労働者も長期雇用に対する期待度は高い。実際の職業生涯の見通しは、最近の雇用不安や高齢化の影響もあり、現在の会社に定年まで勤めることができると思う者の割合は以前より減少しているが、関連会社への移動や会社のあっせんによる再就職などを入れると広い意味での長期の雇用保障を期待している者が多い。 (労働条件の向上)  賃金はこの20年間で着実に増加して欧米諸国の水準を上回ったが、購買力平価でみるとなお低い。賃金の年齢プロファイルを高学歴化や勤続の長期化の影響を除いてみると、年齢間格差が縮小しており、その程度はホワイトカラーで大きい。  賃金制度は能力や業績をより重視する動きがみられ、年俸制も大企業を中心に導入が進んでいる。業績重視の制度の導入に当たっては評価制度が最も重要でかつ難しい課題である。労働者にとっては、自ら目標を立て、結果を評価することが重要で、自律性が求められる。なお、賃金の規模間格差は年齢・勤続・学歴構成の変化の影響を除くと縮小傾向にある。  労働時間は、労働基準法の改正を契機に1988年以降大幅に短縮し、アメリカやイギリスとほぼ同水準となっているが、これは、労働時間対策の実施や労働者の意識の変化などを背景とした労使の取り組み、生産性の成果をより労働時間に配分することで実現した。また、労働時間短縮は生産性の向上、消費の拡大という経済効果があった。今後、フレックスタイム制や裁量労働制など労働者の自律性を高める制度の導入が進むと考えられる。  また、福利厚生も、多様化する従業員のニーズへの対応とコスト削減の観点から変化している。労働災害については、死傷者数全体では減少しているが、死亡者数は近年横ばい傾向にある。また、職場のストレスが増えている。 (働き方の個別化、自律性重視の流れ)  人材ニーズの多様化、高年齢者や女性のライフサイクルや意識、希望に応じた多様な就業機会の提供、組織の協調性より個人の自律性を重視する仕事の進め方の変化などを背景に働き方が変化してきている。  従来のいわゆる日本型雇用慣行は、どちらかというと製造業の現業部門のような技能の積み重ねと集団の協調を働き方の基本とするところに適しており、この点は今後も大きく変わることはないと考えられる。今後は、研究部門や管理部門を中心にこの仕組みは次第に変化していくこととなろうが、この仕組みに内在されている長期雇用に裏打ちされた労働者のモラールの高さ、長期的な視点に立った能力開発、柔軟な配置転換などは、優れた仕組みである。また、将来不安が大きくなっている現在、生活の基盤である雇用の安定の確保や生涯設計の立てやすさといった点でもこの仕組みは重要である。  したがって、従来の仕組みをすべて見直すのではなく、雇用維持の仕組み(長期雇用慣行)はできるだけ維持しつつ、というよりもそれを維持するためにも、集団的な人事管理、年功的賃金、協調的な仕事の進め方などの働き方自体については、労働者の個別性、自律性を重視し、多様な選択肢のある仕組みに変えていくことが重要であり、企業だけではなく労働者もこれまでと違う自覚と努力が要求されることになろう。 (自律的な働き方のための環境整備)  労働者が自律的に働いていくためには、職業生涯の節目節目において自らのキャリアと能力を見直し、その上で自分で働き方を選択・設計し責任を持つことができることが基本である。そのため、企業の人事管理制度を労働者のニーズに柔軟に応じられるように多様化、個別化し、節目節目で労働者が自ら選択できる制度とすることが重要なほか、自らの職業キャリアや職業能力について客観的に把握できる仕組みの構築と自己啓発の促進が求められる。また、様々な職業や専門性についての見通しの情報の提供が重要である。  また、新しい働き方に適合したルールの整備が重要である。第1に、勤続などの従来型の物差しに替わる評価制度の確立が重要である。評価制度は、短期と長期、個人と組織、スタッフ部門の評価など難しい問題を抱えているが、人事管理の個別化を支え、労働者の自律性を促す基礎となるものであり、客観性、公平性、透明性があり、労働者の納得が得られるものとして構築していくことが重要である。第2に、異なるタイプの労働者間の労働条件や昇進等の人事管理のバランスをとり、それぞれのタイプの特性に応じたキャリア設計や能力開発を進めていくことが重要である。第3に、労働条件その他についての労使間の争いも個別化してくることが予想されるので、これに対応する仕組みをつくっていく必要があるほか、職場のルールが真に自律性を認め支援する制度になっていることも重要である。年俸制、裁量労働制や早期退職優遇制度がこのような目的に沿って適切に運用されることが重要であり、自律性を支援する制度が十分に機能することにより、従来の働き方の問題点としてしばしば指摘されたつきあい残業や周囲に気兼ねした年休の未取得が解消されることになる。  従来型の雇用制度の下で働いてきた中高年世代は、自律性を要求される働き方に習熟しておらず、そのための能力を育成してきていない。また、自らの職業生涯の選択と設計をこれまで許されてこなかった。こうした中高年に対して自律と自己責任を求めるのには十分な配慮が必要である。賃金面についていえば、自律性を要求される働き方に習熟していない労働者の場合、若年の頃は年功的な賃金体系の下で会社に対する貢献が賃金を上回り、貢献を上回る賃金を期待できる年齢になったときに、能力・実績主義的な賃金制度が導入され、貢献に応じた賃金しか得られないということになると、賃金と貢献の長期的バランスが崩れ、それにより不公平感が生じ、モラールダウンにつながることも考えられること、また、中高年齢層の生活面に悪影響を与えることなどに十分留意する必要がある。  以上については、基本的には当事者である労使の役割が重要であり、働き方のルールの設定と適切な運用、不満・問題点の吸い上げや個別の紛争の解決等について、労使協議を積極的に進めるとともに、労働組合が就業形態の多様化等による組織率の低下のなかで、新しい働き方に柔軟に対応しつつ多様化する労働者のニーズを的確に汲み上げること、企業が人事労務管理等を柔軟に対応させつつ雇用維持の努力を行うことが期待される。  行政としても、多様な働き方に応じた最低労働条件等社会全体に共通なルールの整備と監視、職業キャリアや職業能力の客観的評価・把握のための物差しの提供や公共的な個別紛争処理制度の構築などを進めていく必要がある。さらに、新しい働き方の仕組みの現状や展望についての情報を企業や労働者に提供していくことも重要である。 (消費や生活面の充実)  生活の面では、安定成長期に消費は収入の増加に伴って増加を続けたが、平均消費性向は1980年代初め以降低下傾向にあり、この要因の一つには40〜49歳層を中心に住宅ローン、保険等の契約性の黒字の増大に伴い家計の自由度が小さくなったことがあげられ、バブル崩壊後は、これに加え今後の生活や雇用に関する不透明感が影響していると考えられる。  消費支出の構成変化をみると、生活のための基礎的性格が強い食料、被服及び履物や物価上昇率の低い家具・家事用品の比率が下がり、生活の豊かさを支える教養娯楽、交通・通信や物価上昇の著しい教育などの比率が上昇している。また、消費のサービス化が進んでいる。  貯蓄は年間収入の1.6倍に増え、生命保険などの増加が著しく、高年齢層ほど増え方が大きい。負債は住宅・土地のための負債を中心に30〜49歳層で最も増加している。  生活時間については、週休2日制の普及を背景に週末の仕事時間が減少し、自由時間が増加しているが、週末もおおむね在宅型活動の増加であり、積極的活動は増えていない。国際比較をすると我が国は勤務関連時間が長く自由時間が短く、生活時間の満足度が低い。  我が国は諸外国と比べて男女間の生活時間の違いが大きい。特に、女性は未婚から結婚、出産とライフサイクルが進むにつれ、家事時間の増大等により、拘束時間が大幅に増加し自由時間が減少する。このことが、経済的理由と並んで女性の晩婚化の理由と考えられる。  この20年間で住宅の居住面積は拡大し、一定面積の住宅の価格に対する黒字倍率は低下したが、国際的にはまだ狭く高めである。また、通勤時間にはあまり変化はみられない。 (労働者の意識変化と生活充実の課題)  労働者の生活水準は大幅に向上しているが、名目消費支出の国際比較と購買力平価で換算したものとでは差があり、その背景には内外価格差という問題がある。また、住宅価格もまだ高く、内外価格差の是正・縮小等により消費者物価や住宅等の価格を低廉なものとすることが重要である。  バブル崩壊後、今後の生活についての不透明感が強まっている兆しがみられるが、この背後には、我が国経済や雇用に対する不透明感の高まりや高齢化への不安感の強まりがある。したがって、構造改革等による我が国経済と雇用に対する将来の不透明感の払拭と高齢社会における具体的な生活のビジョンの明示が重要である。  労働時間短縮が進んでいるが自由時間をもっと欲しいとする労働者がまだ多い。今後労働者が自律的な働き方を求められていく中で、メリハリのある働き方により家庭生活、社会活動の充実を図っていくことが必要であり、一層の労働時間短縮等により自由時間の充実を図ることが重要である。  我が国では欧米諸国と比較して家庭生活のパターンが男女で異なっている度合いが大きいが、こうした役割分担意識も次第に変化しており、男性も家庭生活を重視するようになってきている。家庭生活や地域生活への参加を進めていく観点からも企業中心のライフスタイルを変えていくことが求められており、社会や企業の仕組みの変革と併せて労働者自らの発想の転換が必要不可欠である。  我が国が安定成長期に入ってから四半世紀が経過している。この間、労働条件や生活水準が着実に向上するとともに、経済社会の構造変化の影響を受けて、雇用面や働き方、生活の面で様々な変化が生じている。今後、21世紀に向けて我が国は新たな構造改革期を迎えており、経済社会の構造変化は一層急激になるであろう。これに伴って、労働者にも大きな変化がもたらされることが予想され、それだけ将来の生活や雇用に対する不安感が強まっている。したがって、一方でこの不安感を払拭しつつ、変化に柔軟に対応して我が国経済の活力を維持していかなくてはならない。そのためには、基本的には長期雇用慣行を維持しつつ外部労働市場の機能も強化することにより雇用の安定を図るとともに、労働者の働き方を、従来の画一的・集団的なものから、個人個人の置かれた状況、意識、将来設計、能力などに応じて自ら選択し、かつ自律的に働くものへと変えていく必要がある。これには、企業はもとより労働者の努力の積み重ねが重要であり、行政の支援も必要不可欠である。