「平成12年版労働経済の分析」 <要 約> −高齢社会の下での若年と中高年のベストミックス− 平成12年6月 労 働 省 目次 骨子 第T部 平成11年労働経済の推移と特徴 第1章 雇用・失業の動向 第2章 賃金、労働時間、労働安全衛生の動向 第3章 物価、勤労者家計の動向 第4章 労使関係の動向 第U部 高齢社会の下での若年と中高年のベストミックス 第1章 経済構造変化と高齢化の進展  第1節 経済構造及び雇用行動の変化  第2節 高齢化とマクロ経済への影響 第2章 若年者の雇用・失業問題  第1節 若年者の就業・失業と学卒労働市場の実態  第2節 若年者の就業意識の変化と就業行動  第3節 企業の採用行動と学校等のマッチング機能  第4節 今後の課題 第3章 高齢化と雇用・就業問題  第1節 中高年齢者の就業・失業の実態  第2節 高齢化に伴う高年齢者の属性と意識の変化  第3節 高齢化への企業の対応と課題  第4節 中高年齢者の労働移動の実態と課題  第5節 引退過程における雇用・就業と生活  第6節 今後の課題 まとめ          高齢社会の下での若年と中高年のベストミックス    我が国経済は、景気には少し明るさがみえはじめている中で、雇用失業情勢は、求人や所定外労働時間の増加等いくつか明るい動きもみられるものの、2000年2月、3月の完全失業率は4.9%と既往最高となるなど、依然として厳しい状況が続いた。ただ、そのうちいわゆる需要不足による失業は約4分の1であり、それ以外の4分の3は需給のミスマッチなどによる構造的・摩擦的失業であり、現在の失業問題には、構造的な問題が大きく横たわっていることがわかる。構造要因として、様々な要因が考えられるが、その中で、若年者の意識の変化や若年者に偏りがちな企業の雇用需要構造なども、一方で雇用需要がありながら、他方で失業が増加してしまう要因になっていると考えられる。  今後、10年間に、高齢化の一層の進展の下で、若年者の急減と高年齢者の急増という大きな供給構造の変化が確実に進む。そのような中で、需要側の対応が進まないと、年齢間のミスマッチがさらに拡大し、構造的失業を一層増加させてしまうおそれもある。そうならないためには、企業において「より少ない若年とより多い中高年」による仕事の進め方が確立される必要があり、それは同時に企業が活力を維持し続けるためにも不可欠なことである。  加えて、若年者の自発的離職失業の趨勢的な高まりやいわゆるフリーターの増加には、彼らの就業意識の変化が大きく影響していると考えられる。こうした若年者の就業意識の変化にどう対応し、どう働きかけていくかということも、構造的失業問題への対応を考える際に重要な要素である。  そこで、「平成12年版労働経済の分析」(平成12年版労働白書)では、第T部「平成11年労働経済の推移と特徴」において、景気の緩やかな改善がみられる中で、依然として厳しい労働経済の動向について、1999年を中心に分析した。また、第U部「高齢社会の下での若年と中高年のベストミックス」では、高齢化のマクロ経済や労働市場に及ぼす影響などについて概観するとともに、若年者の就業意識や高齢化の下での様々な雇用問題について、実態を分析し、若年者、中高年各々がその能力を十分に発揮できる状況、いわば働き方における若年と中高年のベストミックスの道を探った。  その概要は以下のとおりである。 骨子 第T部 平成11年労働経済の推移と特徴 1999年 (平成11年)の雇用・失業情勢は、年平均の完全失業率が4.7 %と前年より0.6 %ポイント上昇し、既往最高となるなど厳しい状況が続いた。景気の緩やかな改善を受けて、年央以降求人倍率の上昇など若干の持ち直しの動きもみられるが、完全失業率が2000年2月、3月と既往最高の4.9 %となるなど、依然、厳しい状況が続いている。現金給与総額は2年続けて減少した。総実労働時間は引き続き減少した。消費者マインドに持ち直しの動きもみられるが、収入の低迷から消費支出には足踏みがみられる。 第1章 雇用・失業の状況 (年前半悪化し、年後半に明るい動きもみられたが依然として厳しい雇用・失業情勢)  1999年の雇用・失業情勢は、年前半にかつてない雇用過剰感の高まりの中、雇用調整が強まり、雇用情勢が一段と悪化し、非自発的離職失業が増加し、完全失業率は3月4.8 %と既往最高、求人倍率も5月には0.46倍と既往最低となり、雇用者数の減少幅も、年前半は1998年を上回った。年後半以降は、景気の緩やかな改善を受け、製造業所定外労働時間や求人が増加に転じ、雇用調整の動きが鎮静化し、求職者も減少に転じ、有効求人倍率も上昇した。しかし、雇用過剰感は若干低下したが、依然高水準であり、採用抑制の中、新規学卒就職状況は依然厳しく、雇用者も常雇の減少、臨時の増加が続く等厳しい側面が依然残っている。完全失業率は、2000年2月、3月4.9 %と既往最高を更新した。 第2〜4章 賃金、労働時間等の動向 (2年連続して減少した現金給与総額と引き続き減少した総実労働時間)  所定外給与が増加したが、所定内給与が初めて減少し、特別給与も大幅減少が続いたことから、現金給与総額は2年続けて減少した。総実労働時間は、生産の持ち直しから所定外労働時間の減少幅が縮小したが、出勤日数の減少により所定内労働時間が減少したことから引き続き減少した。勤労者家計は、消費者マインドに持ち直しの動きがみられたが、実収入の現行の調査開始以来最大の減少から消費支出は大幅な減少となった。 第U部 高齢社会の下での若年と中高年のベストミックス 第1章 経済構造変化と高齢化の進展 業況の改善にもかかわらず、雇用過剰感の高まりなどから、一部の企業では入職抑制を中心とした雇用調整を伴うリストラクチャリングを実施、計画する動きがみられ、その厳しさは第1次石油危機時に匹敵する。一方、新たな雇用創出の動きもみられる。また、パートを多く活用する業種・業態の拡大などから非正規雇用比率がこれまで以上のテンポで拡大しているが、同一企業での一般からパートへの代替は比較的少ない。  高齢化のマクロ経済への影響としては、技術進歩の活発化、消費需要の拡大等、需給両面でプラスの効果を期待できる。労働力人口の少子・高齢化に対応して企業の雇用需 要構造を変革していく必要がある。労働力人口減少への対応としては、高年齢者、女性の有効活用をまず考えるべきである。 第2章 若年者の雇用・失業問題  学卒労働市場は厳しい状況にあり、供給側の要因も働いて、学卒無業者比率は高卒で3割を超えている。若年の失業は自発的離職による失業が最も多く、親等の経済的支えによる側面もあると思われる。若年者の自発的離転職率の最近の高まりはフリーターなど離転職の多い非正規労働者のウェイトの上昇によるところが大きい。  最近の若年層の就業行動の背景には、職業に対する目的意識の希薄化や経済的豊かさなどの影響がある。近年増加しているフリーターの意識は多様であり、「自己実現型」、「将来不安型」、「フリーター継続型」、「その他」の4つに類型化できる。フリーターの3分の2はいずれは定職に就きたいと思っているが、実際には能力開発機会の乏しさから正規雇用への移行がうまくいかない者もいる。先の見通しの無い離転職の増加は、本人のみならず社会にとっても技術・技能の蓄積等の面で損失が大きい。  新卒採用を基本としつつ、大企業を中心に、緩やかながら中途採用拡大の動きがみられる。今後、転職による産業間労働力調整の必要性も高まる。中途採用市場の整備に向けた課題への対応が必要である。学卒採用システムについては、仕事を選ぶ際に必要な知識などの付与や、職業や職場の実態に接し、体験する機会の提供が重要である。  今後、若年者意識や産業構造変化に伴う構造的問題への対応が重要である。学校から職業への円滑な移行のためには、企業内での長期的育成システム、若年者の初職選択への真剣な取組やその環境作りの他、学校、行政、企業が一体となったマッチングが重要である。特に高卒については、質の向上に加え、より広い範囲の企業へのアプローチなどの取組が必要である。また、再チャレンジ可能な柔軟なシステムとなるよう、企業外の職業能力開発機能の充実などを図るとともに、企業における定着対策等が重要である。 第3章 高齢化と雇用・就業問題  現在、60歳までの失業の方が深刻であるが、団塊の世代が60歳台前半にさしかかる10年後には、65歳までの就業の必要性が増すものと考えられ、それまでに雇用・就業機会確保のための環境条件を整備する必要がある。60歳台前半層で過去と比較すると、雇用者割合は大きく上昇し、しかも55歳当時の企業での継続雇用が増加している。  60歳男性の平均余命は20年と、60歳定年が言われ始めた1970年頃と比べ5年延びている。高年齢者雇用を考える際に、専門的知識の蓄積など年齢とともに上昇していく能力を有効に活用する仕組み作りが重要である。我が国高年齢者の就業意欲は国際的にも高く、厚生年金支給開始年齢の引き上げは、就業への動きをさらに強めることが予想される。  賃金カーブはフラット化している。成果主義的賃金の拡大が予想されるが、企業の評価制度は課題が多い。高齢化の下で昇進の遅れがみられる。逆転人事も珍しくなくなっており、企業は、職位でなく仕事そのもののやりがいで労働者のインセンティブを引き出す新しいシステムを形成しつつある。65歳までの雇用継続は徐々に広がっている。継続雇用で、賃金や雇用形態は変わるが、仕事の内容や勤務形態は変わらないことが多い。  中高年齢者の再就職はこれまでの職種領域をベースとした移動が主体であることを踏まえた能力開発が必要である。求人の年齢要件設定が中高年の再就職を困難にしている。出向の機能としては、移動のショックの緩和、雇用機会の確保があるが、出向先の確保に苦心している。起業者に占める中高年齢者の割合が上昇してる。  引退過程では、経済的な面で就業の必要性が低下しており、就業理由も生計目的以外の理由が増加している。一方、諸外国と比較してみると年金等への将来不安や、人とのつながりが希薄であることが老後生活への満足度を低めている。精神的にも豊かな老後生活を送るためには、若い時からの働き方を含め、地域等とのバランスのとれた関わりを考える必要がある。  高年齢者活用の条件は、(1)年齢による制約の少ない賃金・処遇制度、(2)第一線でそれまでの経験をいかした業務、(3)責任、権限の分権化である。65歳までの雇用機会確保のための方向性は、(1)今後10年間での65歳定年制への労使の自主的取組、(2)65歳までの本格的就業機会確保に向けた段階的な取組、(3)企業の年齢に対する固定観念の払拭(求人年齢要件の緩和)、(4)確固たる能力を確立するための自己啓発への支援である。 第T部 平成11年労働経済の推移と特徴 第1章 雇用・失業の動向  (平成11年(1999年)の雇用・失業情勢の特徴) ○ 1999年の雇用・失業情勢は、1998年の大幅な悪化の後、依然厳しい状況が続いた。有効求人倍率は5月に既往最低を記録し、新規求人数が季節調整値で1999年後半に増加に転じたものの、有効求人倍率は低水準で推移した。雇用者数も、1999年後半以降減少幅は縮小したものの、常雇を中心に大幅な減少が続いた。完全失業者も非自発的離職失業者、自発的離職失業者を中心に増加が続いたが、年央以降増加幅は縮小した。完全失業率も3月、4月、6月、7月にそれまでの既往最高の4.8%となるなど、厳しい状況が続いた。その後、景気の緩やかな改善を受けて、年央以降有効求人倍率が若干上昇するなどの動きもみられたが、2000年に入っても2月、3月と完全失業率が既往最高の4.9%となるなど、雇用・失業情勢は依然として厳しい状況となっている(第1図)。  (7〜9月期から前年同期比で増加した新規求人) ○ 新規求人数(新規学卒者を除く)は1999年平均で前年比0.7%減と2年連続で減少した。四半期別にみると、1997年10〜12月期以降前年同期比で減少が続いていたが、1999年7〜9月期以降増加に転じた。季節調整値前期比でみても、1999年7〜9月期以降は増加が続いた。産業別には、1999年平均では製造業、建設業等の減少幅が縮小し、サービス業、卸売・小売業, 飲食店が増加に転じた(第2図)。増加幅が最も大きいサービス業の中でも大きく増加している業種としては情報サービス業、医療,教育,社会福祉等があげられる。  (増加幅が縮小した新規求職) ○ 一方、新規求職者は1999年平均で前年比4.2%増と1998年より増加幅は縮小したものの、依然高水準で推移した。常用新規求職者の増加を自発的離職求職者、非自発的離職求職者、離職者以外の求職者に分けてそれぞれの寄与度をみると、1999年に入って自発的離職求職者は減少に転じ、非自発的離職求職者も4〜6月期を除いて減少し、離職者以外の求職者も増加幅は縮小した。その結果、離職求職者は1999年平均で減少に転じ、2000年1〜3月期も非自発的離職求職者の減少幅が拡大し、離職求職者は減少した(第3図)。こうした状況を背景に、雇用保険の受給者実人員は1999年平均で過去最高水準となったものの、前年比5.0%と1998年に比べ増加幅は縮小し、2000年1〜3月期は1991年4〜6月期以来の減少となった。  (有効求人倍率は過去最低水準の後、上昇) ○ 有効求人倍率は1999年平均で0.48倍となり、比較可能な1963年以降で最低となった。四半期別にみると、1999年1〜3月期0.48倍の後、4〜6月期、7〜9月期0.47倍と過去最低水準の後、10〜12月期は0.49倍、2000年1〜3月期0.52倍と上昇し、6四半期ぶりに0.5倍台となった(前掲第1図)。この動きについて、前期差を新規求人・求職、繰越求人・求職に要因分解してみると、7〜9月期には新規求人が上昇に寄与して横ばい、10〜12月期には繰越求人の上昇寄与が拡大し、新規求職も減少して上昇寄与に転じたことから有効求人倍率は上昇し、2000年1〜3月期も新規求人の上昇寄与の拡大等により有効求人倍率はさらに上昇した(第4図)。新規学卒労働市場は、大卒、高卒とも1999年の就職率は過去最低となり、2000年も引き続き厳しい状態にあった(第5表)。  (男女とも低下が続く労働力率) ○ 労働力人口は1999年平均で前年差14万人減と、1974年以来の減少となり、男女いずれも減少した。労働力率の動きをみると、年平均で62.9%と前年より0.4%ポイント低下し、2年連続の低下となった。男女別には、男性が76.9%で0.4%ポイント低下、女性は49.6%で0.5%ポイント低下となり、いずれも2年連続で低下となった。1999年の労働力率の低下について年齢階級別にみると、男性はほとんどの年齢層で低下したが、労働力需給の状態に敏感に反応しやすい15〜24歳層と65歳以上層で低下寄与が大きく、特に15〜24歳層は、若年労働市場の厳しさ等から低下寄与が拡大した。女性は25〜34歳層が上昇寄与となったものの、15〜24歳層の低下寄与が拡大した。また、人口構成変化要因についてみると、高齢化による人口構成変化によるマイナス効果が近年拡大し、女性の労働力率が1999年は0.3%ほど引き下げられている(第6図)。  (大幅な減少の続く就業者数) ○ 就業者数は、1999年平均で6,462万人、前年差52万人減と2年連続で減少となり、減少幅も比較可能な1954年以降で最大となった。男女別にみると、男性は4〜6月期前年同期差46万人減の後、減少幅は縮小し、10〜12月期同9万人減となったが、2000年1〜3月期は同23万人減と減少幅は再び拡大した。女性は1〜3月期に前年同期差47万人減の後、減少幅は徐々に縮小し、10〜12月期、2000年1〜3月期は同6万人減となった。就業者を自営業主、家族従業者、雇用者に分けてみると、自営業主と家族従業者は前年比減少が続いているほか、就業者の8割近くを占める雇用者で前年差37万人減と減少幅が拡大したことが、就業者数の減少幅の拡大に大きく影響した。  (製造業等で減少が続く雇用者数) ○ 雇用者数は、1999年平均で5,331万人、前年差37万人減と2年連続で減少し、減少幅も拡大した。年前半の大幅減の後、景気の緩やかな改善を受けて、年後半以降は減少幅は縮小した。産業別にみると、製造業は1999年は1998年に比べて減少幅が縮小した。建設業は経済対策の政策効果等から7〜9月期は増加となったが、10〜12月期以降再び減少に転じた。卸売・小売業, 飲食店は小売業や飲食店の増加が寄与して年を通じて増加が続いた。サービス業は、常雇の減少から1〜3月期に減少に転じた後、増加と減少を繰り返し、10〜12月期以降は増加した(第7図)。従業上の地位別にみると、臨時・日雇が前年差で引き続き増加となったのに対して、常雇は2年連続で減少し、減少幅も前年から拡大した。  (ホワイトカラー職種により厳しい雇用情勢) ○ 職種別の動きをみると、技能工、単純工で雇用過剰感が大きく低下し、ブルーカラー職種で1999年の雇用者の減少幅は縮小した。専門的・技術的職業従事者の増加幅は大幅に縮小した。また、事務従事者は減少に転じ、管理的職業従事者は減少幅が拡大するなど雇用過剰感が依然として高い状態もみられる(第8図)。  (活動指数に遅れて鈍化・減少した1999年のサービス業の雇用者) ○ サービス業の雇用者数の伸びは1998年に比べて大幅に鈍化した。個人消費の低迷から対個人サービス業等で減少傾向で推移した。サービス業の活動指数は1997年10〜12月期以降1999年10〜12月期まで前年同期比で減少し、サービス業の活動が低調に推移したことが、遅れを伴って、サービス業の雇用の鈍化、減少となって現れたと考えられる(第9図)。  (生産・所定外労働時間が増加しても減少が続く製造業の常用雇用) ○ 製造業の所定外労働時間、常用雇用指数、鉱工業生産指数の動きをみると、今回の不況においては、生産と所定外労働時間が1999年に入って回復の動きをみせ始めたものの、常用雇用指数は引き続き、悪化を続けた。  (すぐに減少した今不況期の生産と常用雇用) ○ 過去の景気後退局面について、常用雇用指数と生産指数の動きをみると、第2次石油危機後、円高不況期には常用雇用も生産もほとんど減少せずにすぐ回復に向かったのに対し、今回の景気後退局面では初めから常用雇用、生産ともに減少している(第10図)。今回の不況は、バブル後の不況の後に常用雇用が回復しないうちに再び不況に入ったため、バブル期後から直近までのトータルの常用雇用の減少幅は大きくなっている。    (依然として高い企業の雇用過剰感) ○ 雇用人員判断D.I.の動きをみると、1999年に入って、生産の持ち直しに合わせて若干過剰感が低下したものの、依然高い水準で推移した。製造業、非製造業ともに規模が大きいほど雇用過剰感の水準は高い(第11図)。  (雇用調整実施事業所割合も依然として高水準) ○ 雇用調整実施事業所割合の動きをみると、水準は高いものの1999年1〜3月期をピークに低下傾向にあった。製造業における雇用調整実施事業所割合は他業種に比べて高い水準にあった。雇用調整等の方法別では、残業規制や配置転換等の方法の実施割合が高く、希望退職の募集、解雇といった厳しい雇用調整方法は1〜3月期に過去の不況期に比べて高い割合となったが、その後はそうした動きは落ち着きがみられた。  (完全失業率は既往最高水準で推移) ○ 完全失業率(季節調整値)は1998年に引き続き上昇し、3月、4月、6月、7月と4.8%を記録し、その後やや低下したものの、2000年2月、3月は4.9%と比較可能な1953年以降で最高水準を記録した。特に男性は2000年3月、過去最高の5.2%となった(第12図)。1999年平均でも4.7%と1998年よりさらに0.6%ポイント上昇し、過去最高となった。男女別にみても、男性4.8%、女性4.5%と、男女ともこれまでにない水準となった。完全失業者数は1999年平均で317万人(前年差38万人増)、男女別には男性194万人(同26万人増)、女性123万人(同12万人増)といずれもこれまでの最高水準となった。 ○ 完全失業率が1999年年央まで上昇した背景には、厳しい経営環境下で1998年度末にかけて雇用人員の削減を行う企業があったことや、入職抑制により春先から学卒未就職による失業者が増加したことなどの影響も考えられる。一方、年後半は、生産に持ち直しの動きが出始め、企業の雇用過剰感もやや低下したことから、完全失業率はやや落ち着いた動きとなった。2000年1〜3月期は、求人の増加が失業者の再就職に結び付きにくくなっており、男性失業者で滞留傾向が強まっていることから、男性を中心に完全失業率が上昇した。  (高い水準で推移する非自発的離職失業) ○ 完全失業者数について求職理由別にみると、各属性とも大幅な増加となり、既往最高の水準となった。特に非自発的離職失業者が102万人(前年差17万人増)と、増加幅は1998年より縮小したものの、初めて100万人台を記録した(第13図)。世帯主との続き柄別にみても、いずれの続き柄も増加が続き、それぞれ過去最高の水準となった。  (ほとんどの年齢層で失業率が上昇) ○ 完全失業率を年齢階級別にみると、ほとんどの年齢層で上昇した。従来あまり完全失業率の上昇がみられなかった男性中堅層でも上昇の動きがみられ、厳しい状況となった。  (就業から失業への流れは伸びはやや鈍化) ○ 労働力状態の変化(フロー)をみると、就業者が非労働力人口となる動きは男性で微増、女性で減少したものの、完全失業者が非労働力人口となる動きが男女とも増加して、労働力率は低下した。一方、就業者が失業化する流れは、1999年に入って男女とも伸びは鈍化したものの高い水準で推移しており、失業から就業への動きを上回っている(第14図)。  (水準は依然高いものの落ち着いた動きとなった需要不足失業) ○ 完全失業率を構造的・摩擦的失業率と需要不足失業率に分けてみると、構造的・摩擦的失業率は1998年以降3%台で、需要不足失業率は1998年前半に急上昇した後1%台前半で推移している。2000年1〜3月期に完全失業率が上昇するなど高水準で推移した背景には、構造的・摩擦的失業率の上昇の寄与があったことも考えられる(第15図)。フローデータを用いた試算では、1999年は失業頻度は男女とも上昇幅が縮小し、失業継続期間も女性で長期化の幅が縮小、男性では短縮に転じた。2000年1〜3月期は男性で失業継続期間が長期化し滞留の動きもみられる。  (障害者実雇用率は前年と同水準) ○ 1999年6月1日現在における障害者実雇用率は1.49%、法定雇用率未達成企業の割合は55.3%となった。これを改正法施行前の前年調査の集計対象範囲及び法定雇用率でみると、それぞれ1.48%(前年と同水準)、49.7%(前年差0.2%ポイント低下)となった。同様に企業規模別にみると、300人以上規模企業では前年に比べ上昇したが、300人未満規模企業では1994年以降実雇用率の低下が続いている。また、障害者の解雇届出数は1998年に比べれば減少したが、1997年以前の水準には回復していない。  (外国人労働者の動向) ○ 我が国における外国人労働者は合法・不法を合わせ1998年現在約67万人である。就労する日系人はこれまで一貫して増加していたが1998年には初めて減少した。就労目的の新規入国外国人は1999年には1998年に比べ6.0%増加した。また、1999年の外国人雇用状況報告結果によると、直接雇用の事業所数は前年に比べ2.5%増となり、産業別には製造業、サービス業、卸売・小売業,飲食店の3産業で全体の約9割を占めている。 第2章 賃金、労働時間、労働安全衛生の動向  (賃金の動向) ○ 1999年の賃金(事業所規模5人以上)は、所定外給与が微増に転じたものの所定内給与が比較可能な1991年以降で初めて減少し、特別給与も大幅に減少したことから、現金給与総額は前年比1.3%減と、2年連続の減少となった(第16図)。所定内給与減少の要因としては、賃上げ率の低下、所定内労働時間の減少、パートタイム労働者構成比の上昇、及びパートタイム労働者の給与が初めて減少したことが考えられる。実質賃金も前年比0.9%減と2年連続の減少となった。 ○ 労働省労政局調べによる1999年の民間主要企業の春季賃上げ率は2.21%で、2年連続で前年を下回り、1965年以降で最低となった。一時金についても夏季一時金は対前年比は5.65%減と最大の下げ幅、年末一時金は4.40%減と、2年連続で減少した。「毎月勤労統計調査」(事業所規模5人以上)では、中小企業も含めた夏季賞与は2年連続、年末賞与は3年連続の減少となった。  (引き続き減少した総実労働時間) ◯ 1999年の総実労働時間(事業所規模5人以上)は、前年比1.1%減(1998年も1.1%減)と引き続き減少した(第17図)。所定内労働時間は出勤日数の減少の影響などにより減少し、事業所規模別にみると、各規模とも減少幅が拡大した。  (製造業の所定外労働時間は2年ぶりに増加) ◯ 1999年の所定外労働時間は、生産の持ち直しが見られた製造業、年後半から建設工事が増加を続けた建設業等で増加した。一方、1998年からの景気や個人消費の低迷を受けた卸売・小売業,飲食店、サービス業では減少となった。 (死傷災害の動向) ◯ 1999年における労働災害の発生状況をみると、死傷者数(死亡及び休業4日以上)は13万7,316人、(前年比7.4%減)と引き続き減少した。また、死亡者数は1,992人(前年比8.0% 増)となり、2年連続で2,000人を下回ったものの、前年比は増加に転じた。 第3章 物価、勤労者家計の動向  (物価の動向) ○ 1999年の国内卸売物価は、前年比1.5%下落と、1998年(同1.5%下落)に引き続いて下落したが、7〜9月期以降は下げ止まりの動きがみられた。消費者物価(総合)は、前年比0.3%下落と4年ぶりに下落し、下落幅は前年との比較が可能な1971年以降で最大となった。消費者物価の動きを商品・サービス分類別にみると、公共料金、生鮮商品の下落が低下に寄与した(第18図)。    (勤労者家計の動向) ○ 1999年の勤労者世帯の家計収入(実収入)は世帯主収入の大幅な減少から、前年比名目 2.4%減少、同実質 2.0%減少と、減少幅はいずれも現行の調査開始(1963年)以来最大となった(第19図)。また、可処分所得も、前年比名目2.4%減少、同実質2.0%減少と2年続けて減少した。 ○ 1999年の勤労者世帯の消費支出は、平均消費性向が現行の調査開始以来最低の水準となった前年から0.2%ポイント上昇し1990年以来の上昇となったものの、実収入が大幅な減少寄与となったことから、前年比名目2.1%減少、同実質1.7%減少と、ともに前年に引き続き減少した(第20図)。可処分所得は引き続き減少したが、消費者マインドにやや持ち直しの動きがみられたことから、平均消費性向が上昇したものと考えられる。 ○  財(商品)・サービス別では、財(商品)は、教養娯楽耐久財が増加したものの自動車等購入費の減少から耐久財の大幅減少、半耐久財、非耐久財の減少から、前年比実質1.8%減少となったが、サービスは、通信の増加などから同0.2%増加となった(第21図)。 第4章 労使関係の動向  (2000年春の労使交渉) ○ 2000年春季労使交渉は、我が国経済は厳しい状況を脱していない、雇用情勢は完全失業率が高水準で推移するなど、依然として厳しい状況下で行われた。主要単産における大手企業の賃上げ額は、電機500円(ベア・35歳ポイント回答)、鉄鋼が2年間でベア1,000円、自動車6,494円(定昇込・平均賃金方式・11社単純平均)、造船6,000円(定昇込・平均賃金方式)だった。今回の交渉では、雇用延長への取組が特徴としてあげられる。 第U部 高齢社会の下での若年と中高年のベストミックス 第1章 経済構造変化と高齢化の進展  第1節 経済構造及び雇用行動の変化  業況の改善にもかかわらず雇用過剰感が非常に大きかったことなどから、一部の企業 においては入職抑制を中心とした雇用調整を伴うリストラクチャリングを実施、計画す る動きがみられ、その厳しさは第1次石油危機時に匹敵する。雇用過剰感などは人件費 削減などにより低下に向かっており、一部の分野では新たな雇用創出の動きもみられる。 またパートを多く活用する業種・業態の拡大などから非正規雇用比率がこれまで以上 のテンポで拡大している。同じ企業の中での一般からパートへの代替は比較的少ない。  (今なぜ雇用調整を伴うリストラクチャリングか) ○ 景気には緩やかな改善の動きがみられるが、一部の企業においては雇用調整を伴うリストラクチャリングを実施、計画する動きがみられる。 ○ こうした動きは、個別の業種、企業の置かれた環境によるところも大きいと考えられるが、背景にある共通の要素として、(1)今回の不況局面においては、過去の不況期と比べても生産の落ち込みが大きく、かつてない雇用過剰感の高まりがみられたこと(第22図)、したがって生産が回復に向かっても雇用過剰感が大きい企業では雇用調整が続いていること(第23図)、(2)高齢化の進行などにより人件費負担が増大し(第24図)、労働分配率も高水準であること、などが考えられる。 ○ 雇用調整の程度は、その厳しさにおいて、第1次石油危機時に匹敵するが、雇用調整の方法は入職抑制が中心である(第25図)。 ○ こうした動きは企業経営上必要と判断され実施されているものではあるが、それが従業員のモラールに及ぼす影響(第26表)、さらには消費などを通じてマクロ経済に及ぼす影響など、より多面的な影響について十分留意する必要がある。 ○ 雇用調整を伴うリストラクチャリングの動きに影響を与えている労働分配率、雇用過剰感などは業況感の改善やこれまでの人件費削減効果により低下に向かっている。また、情報サービス、福祉などの分野では新たな雇用創出の動きもみられており(第27図)、今後こうした動きが雇用情勢全体に改善をもたらすことが期待される。  (非正規雇用拡大の要因) ○ もう一つ、最近の雇用の動きで特徴的なのは、パートなど非正規雇用比率がこれまで以上のテンポで拡大していることである(第28図)。このような非正規雇用比率の上昇について、まず需要側の要因をみてみる。最近10年間のパート比率の上昇については、産業構造変化効果(パート比率の高い産業における雇用の増加による効果)による寄与は少なく、多くは産業内変化効果(各産業内のパート比率の上昇による効果)でもたらされている(第29図)。特に、卸売・小売業,飲食店、サービス業において、パート比率の上昇が顕著になっている。この背景としては、営業形態の特性、仕事の性質からパート活用を図ったり、パート・アルバイトを多用する業態の急成長が考えられる。 ○ また、雇用の増減パターンでみると、一般を減らし、パートを増やす、いわゆる代替をしているところは1割弱と少ない。最も多いのは一般もパートも減少しているところで4割となっている。一方、一般もパートもともに増加させているところは3割強であるが、それぞれの増加程度をみると一般に比べてパートの増加の方がずっと大きくなっている(第30図)。これは雇用過剰感や労働分配率の高まりの下で雇用を削減している分野では一般もパートも減少しているが、一方、先行き不透明感から、成長分野でもパート主体の雇用拡大をしており、この結果、全体としてパート比率が上昇していると考えられる。 ○ 企業は、経済環境の変化に対応するため、組織のフラット化を図ったり、成果主義的な制度の導入などの取組みを積極的に行っている。こうした動きは高齢化への対応方向、すなわち「年齢による制約の少ない働き方、賃金処遇制度」の方向性と一致した動きである。  第2節 高齢化とマクロ経済への影響  高齢化のマクロ経済への影響としては、技術進歩の活発化、消費需要の拡大等、需給両面でプラスの効果を期待できる。  労働力人口の少子高齢化に対応して企業の雇用需要構造を変革していく必要がある。労働力人口減少への対応としては、高年齢者、女性の有効活用をまず考えるべき。  (高齢化のマクロ経済への影響) ○ 今後、中長期的に若年者の急減と高年齢者の急増という年齢構成変化が見込まれる中で、高齢化や人口減少が経済社会の活力を低下させ、マクロ経済面にも悪影響をもたらすとの議論がある(第31図)。しかし、これまでの諸外国の経験も含めた結果では、労働力人口増加率の低下はむしろ技術進歩の活発化をもたらしている(第32図)。一方、需要面では、高齢化は、豊かな個人金融資産の活用、介護サービス等の新たな消費需要の創造などを通じて、消費拡大や雇用需要の拡大に大きな役割を果たす可能性が高い。  (高齢化の下での年齢間ミスマッチ拡大のおそれ) ○ 今後10年程度で、労働力人口は、若年層(15〜29歳)が400万人減、高年齢層(55歳以上)が380万人増と、年齢構成が大きく変化する。現在の若年層に偏った労働力需要構造が今後も変わらないとすると、高年齢者の失業問題が深刻化する一方で、企業にとっても若年層の急減による大幅な要員不足が生産活動への隘路をもたらす(第33図)。このため、着実に企業における雇用需要構造を「より少ない若年とより多い中高年」という供給構造に見合ったものに大きく変革していく必要がある。  (労働力人口減少への対応) ○ 中長期的にはより顕著となる労働力人口の減少への対応としては、高年齢者活用に向けた世代間の働き方の仕組みの構築に加え、就業を希望しながら育児との両立の難しさや能力を活かせる形での雇用機会の不足から活用に至っていない女性の有効活用をまず考えるべきである。   2025年までのラフな予測によれば、今後、高年齢者、女性の積極的な活用を図れば、一人当たり2%の成長の達成は十分可能と考えられる(第34表)。 第2章 若年者の雇用・失業問題  第1節 若年者の就業・失業と学卒労働市場の実態  学卒労働市場は厳しい状況にあるが、職種等のミスマッチも存在する。学卒無業者比率は高卒で3割を超えているが、これは需給関係だけでは説明のつかない増加となっている。また、若年の失業は自発的離職による失業が最も多く、親等の経済的支えがそれを可能にしている側面もあると思われる。若年者の自発的離職率の最近の高まりはフリーターなど離転職の多い非正規労働者のウェイトの上昇によるところが大きい。  (厳しい学卒労働市場とミスマッチ) ○ 企業による採用抑制中心の雇用調整が続く中、学卒労働市場は厳しい状況にあり、求人が大幅に減少している(前掲第5表)。就職者は進学率の上昇に伴い高卒の減少、大卒の増加傾向がみられ、1997年以降、大卒就職者が高卒就職者を上回っている(第35図)。職種別には特に事務従事者で学歴構成の変化が著しく、最近では大卒のみならず、短大卒よりも高卒就職者が少なくなっている(第36図)。 ○ しかし、高卒女子の希望職種は依然、一般事務に偏っており、他職種での就職可能性があっても就職しないという意味でミスマッチの一因となっている(第37図)。また、企業規模間のミスマッチも大きく、学卒求人減少の一方で、中小規模企業の未充足求人も相当数存在しており、5〜29人規模の高卒求人の充足率は47.3%に止まっている。  (学卒無業者の増加) ○ このような中で、学卒無業者がここ数年急増しており、無業者比率は高卒で3割、大卒で4分の1となっている(第38図)。学卒無業者の増加には需給関係のみならず、若年者の意識変化など供給側の要因も働いているものと考えられる。  (不況期でも増加する自発的離職による失業) ○ 若年失業率は男子で10%を超えている。このところ非自発的離職によるものが少し増えているものの、自発的離職によるもののウェイトが最も高く、それはバブル期だった10年前と変わっていない。他の先進諸国と比べても若年失業におけるそのウェイトの高さは特徴的である。(第39図、第40表)。  (単身世帯よりその他の家族で増加している若年失業者) ○ 単身世帯より家族と同居している者の失業率が高く、親等の経済的支えが若年者の失業を可能にしている側面もあるとみられる(第41図)。  (いわゆるフリーターについて) ○ 近年いわゆるフリーターが増加しており、その数を推計すると1997年で151万人で82年に比べ3倍に増加している(第42図)。男女別では、男性61万人、女性90万人と女性の方が多く、年齢別には20歳台前半層をピークに、20歳台後半、30歳台になると減少するが、近年はその減少率が若干低下しており、滞留する傾向がみてとれる(第43図、第44表)。 ○ フリーターの属性をみると、最終学歴別では、高卒が4割弱 、大学・大学院卒が2割 弱、高専・短大卒が1割強となっている。フリーターの業務は「コンビニエンス・スーパ ーの店員」「ホールスタッフ」などのサービス的業務が6割強と多く、1カ月の平均収入 は10〜14万円未満が3割強と最も多い。また、家族と同居している者が8割を占めている。  (自発的理由が多い若年の離転職率) ○ 若年者の離転職は多く、学卒就職後、3年目までに離職する者が高卒で約5割、短大卒で約4割、大卒で約3割となっている。 ○ 離職理由別に離職率の推移をみると、自発、非自発ともに上昇傾向にあるが、特に自発的離職率の上昇が大きい。傾向として、不況時には景気循環的な要因が自発的離職を減らす方向に働くが、趨勢的な増加傾向がこれを打ち消す動きをしている。加えて、ここ数年は過去の傾向以上に離職率が高まっているが、その一つの要因としては、フリーターなど離転職の多い非正規労働者のウェイトの上昇で全体の離職率が高められていることが考えられる(第45図)。  第2節 若年層の就業意識の変化と就業行動  最近の若年層の就業行動には、職業に対する目的意識の希薄化や経済的な豊かさなどの影響がある。4割は正社員として仕事に就く気が無かった。近年増加しているフリーターの意識は多様で、おおまかに「自己実現型」、「将来不安型」、「フリーター継続型」、 「その他」の4つに類型化できる。フリーターの3分の2はいずれは定職に就きたいと思い、男性ではより年齢が上がるにつれそうした希望が高まるが、実際には、能力開発機会の乏しさから正規雇用への移行がうまくいかない者もいる。先の見通しの無い離転職の増加は、本人のみならず社会にとっても技術・技能の蓄積等の面で損失が大きい。  (変化する若年層の意識) ○ 高等学校の進路指導担当者等に対して実施したヒアリング調査によると、最近、生徒の就職や職業に対する目的意識の希薄化が指摘されている(第46表)。自営業比率の低下などで、昔に比べて仕事というものが見えにくくなっており、その内容や目的についての具体的なイメージが持てなくなっていることが、経済的豊かさとともにその一因と考えられる。フリーターについて、学卒後、正社員としてすぐに就職しなかった者の4割は「正社員としての仕事に就く気が無かった」と答えている(第47図)。 ○ 若年者が会社を選ぶ際に、仕事の内容・職種を重視する傾向が強まっている一方で、会社の将来性、規模、知名度を重視する傾向は弱まっている(第48図)など会社とは意識の上で一定の距離を置いている若年者の姿が浮かび上がる。また、いったん就職してもその企業における将来の地位について明るい展望を描きにくくなってきていることも若年者の離転職行動に影響していると考えられる(第49図)。こうした中で転職希望率も高まりをみせている。  (経済的豊かさの影響) ○ 親の年齢層(50歳台)の可処分所得や金融資産(1985年から1999年にかけて1.7倍に増加)が増加しているなど、若年層を取り巻く環境が経済的に豊かになってきていることも就業行動に影響している。  (フリーターの意識) ○ 近年、増加しているフリーターの意識は多様である。おおまかに類型化すると、(1)確固とした将来の目標を目指してそれに向けた努力をしているが、日常の生活のための収入を得るためにフリーターをしている「自己実現型」、(2)正社員になることなど将来の漠然とした目標はあるが、それに向かっての取組は特に行っておらず、現状に対する不安を抱きつつ、当面はフリーターをしている「将来不安型」、(3)今後も継続してフリーターをしていくとする「フリーター継続型」、(4)家庭に入りたい等の「その他」の4つに分類できる(第50表)。4割は「将来不安型」であり、彼ら自身が希望している正社員などへの移行が円滑になされるかが課題である。  (フリーターのその後) ○ 正社員化の希望については、女性の20歳未満では7割弱が希望しており、また、男性ではより年齢が上がるにつれそうした希望が高まる(第51図)が、学卒無業者についての追跡調査によると3年後も無業でいる確率が高く、正規雇用への移行がうまくいかない者もいる(第52図)。これにはフリーター期間における能力開発機会の乏しさも影響していると考えられ、アルバイト経験が将来就きたい職業に役立つと考えているフリーターは3割に満たない。 ○ 正社員への移行について、前職が一般正社員であった者と比較すると、異分野の職種、産業への移行の割合が高く、前職の経験がいかされていない。賃金についてはパートから正社員への転職であるが、「変わらない」、「減少した」が半数となっている。ただ、満足度については前職一般正社員より高くなっている(第53図)。  (離転職、フリーターとキャリア形成) ○ 転職回数が多いほど賃金が低下したり、離職期間が長期化する傾向がみられる。若年者の離転職行動に伴い、1つの職場での継続就業期間が短くなることにより、彼らの技能形成が妨げられていることがわかる。また、離転職に際して、先の見通しを立てた上で失業を経ずに転職をした場合は、そうでない場合に比べて、前の就業経験の活用程度、転職への満足度、賃金増加の点で、利点が大きい(第54図)。先の見通しの無い離転職の増加は、本人のみならず社会にとっても技術・技能の蓄積等の面で損失が大きい。  第3節 企業の採用行動と学校等のマッチング機能  新卒採用を基本としつつも、大企業を中心に、緩やかではあるが中途採用拡大の動きがみられる。今後、転職による産業間労働力調整の必要性も高まる。中途採用市場の整備に向けた課題への対応が必要である。  学卒採用システムについては、仕事を選ぶ際に必要な知識などを付与し、また、職業や職場の実態に接し、体験する機会を提供することが重要である。  (中途採用は増えているか) ○ 全体として中途採用のウェイトは高まっていないが、大企業を中心に、新卒採用は基本としつつ、緩やかではあるが中途採用拡大の動きがみられる(第55図、第56図)。これは、中途採用比率の高いサービス業の拡大や各産業で専門・技術職などを即戦力として中途採用する傾向が広がりつつあるためと考えられる。 ○ 今後、新規学卒が減少する中で、産業構造変化への対応としても、転職による産業間労働力調整の必要性が高まることとなる(第57図)。こうした流れは、今の仕事とは別の形で自己実現を図りたいと考える若年者の再チャレンジの可能性を広げる動きでもある。 ○ このような観点から中途採用市場の整備が必要であるが、客観的な能力判定や情報不足など企業も労働者も中途採用に当たって課題を抱えており、これらの課題への対応として、能力評価の仕組みの充実、転職希望者に対するキャリアカウンセリングシステムの構築などが必要不可欠である。 ○ また、若年者を中心として企業のパートタイム・アルバイト需要が拡大しており(第58図)、フリーターが増加している1つの要因となっている。ただ、その3分の2が定職に就きたいと考えており、彼らの正規雇用への移行を円滑にする環境作りの必要性が高まると考えられる。  (学校のマッチング機能) ○ 学卒採用システムについて、職業指導が十分でない、校内選考の基準として本人の興味や適性よりも生活態度や学業成績が重視されているなどの問題点が指摘されている。仕事を選ぶ際に必要な知識などをできるだけ付与したり、インターンシップなど生徒自身が様々な職業や職場の実態に直接的に接触したり、体験する機会を提供することが重要である。 第4節 今後の課題 今後、若年者意識や産業構造変化に伴う構造的問題への対応が重要である。学校から職業への円滑な移行のためには、企業内での長期的育成システム、若年者の初職選択への真剣な取組やその環境作りの他、学校、行政、企業が一体となったマッチングが重要である。特に高卒については、質の向上に加え、より広い範囲の企業へのアプローチなどの取組が必要である。また、再チャレンジ可能な柔軟なシステムとなるよう、企業外の職業能力開発機能の充実などを図るとともに、企業における定着対策等が重要である。    (今後の若年者雇用の課題) ○ 今後、10年間に学卒就職者が2割弱程度縮小し(第59図)、需給がひっ迫に向かう中で、 意識や産業構造の変化に伴う需給のミスマッチなどの構造的問題への対応が課題であり、 学校から職業への円滑な移行、再チャレンジ可能な柔軟なシステムが重要である。  (学校から職業への円滑な移行) ○ 学校から職業への円滑な移行を図る上では、企業の考え方、若年者の意識、両者のマッチングの3つの要因がある。第1の企業の考え方では学卒採用を基本とする企業の姿勢は変わっていない。新卒者を企業内で長期にわたって育てるシステムが依然として重要であり、行政としても積極的に支援していく必要がある。第2の若年者の意識ではキャリア形成を真剣に考えた初職選択への取組とその環境作りが重要であり、職場体験の機会を豊富にすることなどが重要である。家庭の役割も大きい。第3の両者のマッチングでは学校や公共職業安定機関の役割が大きく、企業とも一体となって取り組む必要がある。企業の具体的な情報を的確に把握、提供するほか、ものづくりの体験・学習の機会を設定することや、福祉人材の養成等の取組が重要である。特に、高卒者について、応募者の質の向上への取組とともに(第60表)。広範囲の企業へのアプローチや、生徒の意識の人材ニーズへの適合、人材ニーズに応じた能力開発なども必要である。  (再チャレンジ可能な柔軟なシステム) ○ 一方、豊かな時代になって働く側の選択肢も広がっている。再チャレンジ可能な柔軟なシステムに向け、企業外の能力開発機能の充実等が必要である。ただ、頻繁な転職は本人や社会にとって損失が大きく、若年者意識の変化を踏まえた企業の定着対策も重要である。 第3章 高齢化と雇用・就業問題  第1節 中高年齢者の就業・失業の実態  現在までのところ、60歳までの失業の方が深刻となっているが、団塊の世代が60歳台前半に差しかかる10年後には、より65歳までの就業の必要性が増すものと考えられる。それまでに雇用・就業機会確保のための環境条件を整備する必要がある。60歳台前半層で過去と比較すると、就業者割合は変わらないが、雇用者割合は大きく上昇し、しかも55歳当時の企業での継続雇用が増加している。  (10年後に就業の必要性が増す60歳台前半層) ○ 中高年齢者の失業率をみると、60歳以上の男性で特に高いが(第61図)、これは定年退職により、失業頻度が特に高いことが影響している。一方、失業継続期間は40歳台、50歳台前半の方が長い。50歳台はまだ生計費がかかるが、それに見合った求人が少ないために失業が長期化する(第62図)。60歳台になると、失業と非労働力の間を移動する層も多いため、失業継続期間は短い。 ○ こうしたことから、現在までのところ、60歳までの失業の方が深刻となっているが、10年後は団塊の世代が60歳台前半に差しかかる。この世代は、厚生年金の定額部分の支給開始年齢の65歳への引き上げが完了する最初の世代であり、より65歳までの就業の必要性が増すものと考えられる。それまでに雇用・就業機会確保のための環境条件を整備する必要がある。  (多様化する高年齢者の就業形態) ○ 55歳以上の高年齢者男性について年齢別の就業状態をみると、一般的な定年年齢である 60歳の前後を境に不就業者が大きく増加し、普通勤務雇用者が大きく減少している。また、60歳以降は自営業・家族従業者や短時間勤務雇用者が増えており、高齢期には就業形態が 多様化している様子がわかる(第63図)。   ただ、男性60〜64歳層の就業状況を過去と比べると、就業者割合は変わっていないが、雇用者割合が顕著に高まっている(第64図)。これは、全体としての雇用者比率の高まりに加え、60歳以降の継続雇用の進展も影響しているものと考えられ、実際、55歳時点での雇用者が60歳、65歳時点で同じ企業に継続して勤務している割合が高まっている。  第2節 高齢化に伴う高年齢者の属性と意識の変化  60歳男性の平均余命は20年であり、60歳定年が言われ始めた1970年頃と比べてちょうど5年延びている。高年齢者雇用を考える際に、専門的知識の蓄積など年齢とともに上昇していく能力を有効に活用する仕組みを作っていくことが重要である。  我が国高年齢者の就業意欲は国際的にみても高く、厚生年金支給開始年齢の引上げは、就業への動きをさらに強めることが予想される。  (重みを増す就業という選択) ○   に充実したものにするか、多様な選択肢があり得るが、人口の高齢化、減少を考え併せると社会的にも「就業」という選択が重みを増してくる。  (過去に比較して高まっている高年齢者の体力) ○ 一般に高年齢者については、健康面や体力面の不安から、社会的弱者のイメージでみられがちであるが、平均余命の伸長に伴い、健康状態の面でも元気な者の割合が高く、体力面でも過去の同年齢の世代に比べ、高まってきている考えられる(第66図)。60歳以上男性労働者で健康であるとする者は、50歳台後半層よりむしろ割合が高くなっている。  (年齢とともに上昇していく能力も存在) ○ 加齢と職務能力の変化をみると、体力等は加齢により低下するが、「専門的知識の蓄積」や「不測の事態への対応」など加齢により上昇する能力も存在する(第67図)。企業としては、体力など加齢に伴って低下する能力を補いつつ、高齢になっても落ちない、あるいは上昇し続ける能力を第一線で有効に活用する仕組みをつくっていくこと、また働く側も長く働こうと思えば、こうした能力を意識的に高め、高齢期に至っても、第一線で存在価値のある人材であり続けられるように努力を怠らないことが重要である(巻末囲み)。  (勤労観の違いが大きな要因) ○ 国際的にみても我が国の高年齢者の就業意欲は高い。経済的理由ばかりでなく、日本人の勤労観がこうした高い就業意欲をもたらしている面がある(第68図)。また、老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げは、さらに高年齢者の就業への動きを強めることが予想され(第69表)、高年齢者の本格的就業のための環境作りを早急に進めていく必要がある。 第3節 高齢化への企業の対応と課題 賃金カーブはここ20年でフラット化している。今後は成果主義的賃金の拡大が予想されるが、企業の評価制度は課題が多い。高齢化の下で役職者割合が高まっているが、 それでも昇進の遅れがみられる。逆転人事も珍しくなくなっており、企業は、職位でなく仕事そのもののやりがいで労働者のインセンティブを引き出す新しいシステムを 形成しつつある。65歳までの雇用継続は徐々に広がっている。継続雇用で、賃金や雇用形態は変わるが、仕事の内容や勤務形態は変わらないことが多い。  (企業における高齢化の実態) ○ 卸売・小売業,飲食店、金融・保険業といった高齢化が比較的進んでいなかった産業で近年高齢化スピードが速くなっており、高齢化の進展が産業全体に広がっている。規模別には、高齢化の進んでいなかった大規模企業で近年高齢化が急速に進行している。  (フラット化してきている賃金カーブ) ○ 賃金カーブはここ20年で中高年齢者を中心にフラット化しており(第70図)、その程度は高齢化のスピードの速い業種、規模ほど大きい傾向があることから、高齢化が進んでいる企業ほど年齢による制約の小さい賃金制度に変化している傾向があると考えられる(第 71図)。同一年齢における賃金のばらつきは、大卒40歳台以上の他は拡大しておらず、全体としては、賃金決定の基準が年齢から能力や成果に移行しているというよりは、高齢化の下で、年齢間の賃金配分が徐々に変わってきた可能性が強い。 (拡大が予想される成果主義的賃金制度) ○ 今後は、大卒、管理職以外も含め、成果主義的賃金制度が広がっていくことが予想される(第72図)。これにより労働者の労働意欲が高められるかどうかは、仕事分担の明確化、裁量範囲の見直し、能力開発機会の保証等の施策が講じられるか、評価基準の明確化や評価結果の透明性などにかかっている。企業の評価制度はまだまだ課題が多い。  (中年層での教育費出費が大きい日本の生計費) ○ 日本、アメリカ、ドイツの賃金カーブとそれに関わりの大きい生計費カーブを比べると、日本の方が傾きが急である。特に日本は中高年齢層での教育費負担が大きい(第73図)。 (役職者割合の高まりと昇進の遅れ) ○ 高齢化の下で役職者割合が高まっている。この傾向は特に高齢化スピードの速い大規模企業において著しく、年功処遇に苦心する企業の姿がうかがわれる。役職者割合の年齢別の変化は、若年でやや低下し、高い年齢で大幅に上昇している(第74図)。しかし、これは、役職に就く割合が相対的に高い大卒者比率の上昇によるものであり、学歴別では、役職への昇進の遅れがみられ、さらに、大卒でも役職に就けない者が増えている(第75図)。    (珍しくなくなってきた逆転人事とインセンティブを引き出す新たなシステムの形成) ○ こうした中で、同学歴で年下の者が年長者の上司になること、いわゆる逆転人事も珍しくなくなってきている。そうしたことがある程度行われている企業では、できるだけ責任を与え、権限委譲を進めたり、専門的な仕事への配置などにより、年長者のモチベーション維持が図られている(第76図)。また、そのような立場に置かれている50歳台、60歳台の労働者のほとんどが「会社のシステムであり他の同年配も同じであるから」「仕事中心で職位にこだわらない雰囲気だから」等の理由で抵抗感はないと答えている。   このように、従来のような年功的処遇が困難になってきている中で、企業は職位ではなく、仕事そのもののやりがいによって労働者のインセンティブを引き出す新たなシステムを形成しつつある。働く側もこうした動きに適応しつつある。このような新たな仕組みの中では、職位によらずに組織の中で存在価値が認められる確固たる能力を身につけているかどうかが本人の働きがいに直結することになる。  (専門職制度の実施状況と問題点) ○ 専門職制度については、導入割合は1990年代に入り、頭打ちになっているが、その内容は職位の不足を補う処遇ポスト的なものから、各分野のラインの業務の中で個々の労働者の専門性をいかすことを目的としたものに変化してきている。労働者にとって組織の中で存在価値が認められる確固たる能力を身につけることの重要性が増しており、こうした中で、自己啓発の取組やこれを支援する企業の取組も活発化している。  (60歳定年制の雇用効果) ○ 政策や労使の積極的な取組により60歳定年制は、1980年代、1990年代を通じ普及率が着実に上昇し、定着したといえる。1980年代以降の50歳台後半の雇用状況の改善、残存率の高まり、勤続年数の伸張などをみても、60歳定年の雇用効果は明らかである(第77図、第78図)。早期退職優遇制度も普及した。なお、1980年代半ばには、定年延長にあわせて新規採用の手控えがあったが、好況期の1989年にはほとんどなくなっている。  (65歳までの雇用継続の広がり) ○ 65歳までの希望者全員の継続雇用制度がある企業は2割前後で推移しているが、65歳まで雇用するなんらかの制度を有する企業割合は5割以上となっており(第79図)、また、60歳定年後の継続雇用制度を有する企業は約7割、定年到達者への勤務延長・再雇用制度の適用者割合の高まりなど、徐々にではあるが60歳以上の継続雇用の動きは広がりつつある。一方、50歳代の労働者に、60歳代前半層の望ましい働き方を聞くと「今の会社でフルタイム」等継続雇用を希望する者が多い(第80図)。  (継続雇用制度導入企業の実態) ○ 継続雇用制度導入企業の実態をみると、役職、雇用形態は変化するが、仕事の内容や勤務形態は変わらない場合が多い。所属部署も知識・技能・経験や人脈をいかす等の理由で変わらない場合が多い。賃金は約3割低下するが、60歳台前半で再就職する場合(約5割)に比べ、その低下幅は小さく、職務継続性も継続雇用の方が高い(第81図、第82表)。 (阻害要因と対応) ○ 継続雇用制度を導入せず、その予定もない企業では、作業能率の低下、賃金や処遇の問題などを阻害要因として挙げている。継続雇用を実施している企業では、作業能率の低下に対しては、高年齢者が負担を感じずに安心して働ける職場づくり、賃金や処遇・ポスト面については、生計費や体力との調和を図りつつ賃金コスト増を少なくし、雇用形態の切替えで、人事の停滞を防ぎつつ、高年齢者のこれまでの経験・能力の活用により、対応を図っている(第83図)。 (再就職あっせん等の実態) ○ 定年到達者への再就職あっせん制度や早期退職優遇制度、転職援助あっせん制度、独立開業支援制度の状況をみると、規模計では低いものの、5,000人以上規模企業ではある程度導入が進んでいる。  (今後の60歳以降の雇用方針) ○ 年金支給開始年齢の引上げに伴って、自社内で60歳以上の継続雇用を「積極的に進めていきたい」、「進めざるをえない」とする企業は8割以上に上っている。実際、2001年度からの年金支給開始年齢引上げを目前にして、65歳継続雇用に向けた労使の取組が活発化しており、電機や繊維産業などの大手企業を中心に65歳までの雇用延長について大枠での労使合意に達している企業も増えてきている。  第4節 中高年齢者の労働移動の実態と課題  中高年齢者の再就職はこれまでの職種領域をベースとした移動が主体であることを踏 まえた能力開発が必要である。求人の年齢要件設定が中高年の再就職を困難にしている。 出向の機能としては、移動のショックの緩和、雇用機会の確保があるが、出向先の確保 に苦心している。起業者に占める中高年齢者の割合が上昇している。  (これまでの職種領域をベースとした中高年の再就職) ○ 中高年齢者の職種別再就職の状況は、前職と全く同じか、その関連職種、いわばこれまでの職種領域をベースとした移動が主体であるが、一部、運転手、守衛・警備・清掃など前職と関連のない職業への移動もある(第84図)。こうした移動パターンを前提にした時、再就職の際に必要とされるのは、現在持っている能力をベースとして、それが市場で評価されるよう、専門性に磨きをかけたり、幅を広げたりするための能力開発を行うことである。また、自らの意識改革や自分の仕事能力を明確に人に伝えられる能力も重要である。  (中高年の再就職を困難にしている求人年齢要件設定) ○ 求人の平均的な上限年齢が41.1歳と年齢制限がある状況では、中高年齢者の再就職は容易ではない。年齢要件設定の理由としては体力的な理由、賃金水準の高さが多いが(第85図)、必ずしも実際に雇用し問題が生じて年齢要件が設定されているわけではない。   なお、中高年齢者では需給調整における公共職業安定所の役割が大きい。  (増加している系列外出向・転籍) ○ 出向・転籍による企業間移動は、賃金差額補填など移動のショックの緩和、出向元企業の定年後の雇用機会の確保に一定の機能を果たしているが、最近、大企業を中心に系列外出向の広がりが顕著で、出向先確保にかなり苦心していることも窺われるほか、人件費増大など受入れ側からの問題指摘もあり、多くを求めるのは難しい(第86図、第87図)。  (中高年齢者の割合が高まっている「起業」) ○ ここ数年、起業者に占める中高年齢者の割合が上昇している。起業経験者にとって、開業まで勤務した企業での経験やそこで形成された人脈が役立っている。また、高齢化の下で、ニーズに近いところにいる高年齢者が新たな市場を創り出す可能性も大きい。  第5節 引退過程における雇用・就業と生活  引退過程では、経済的な面で就業の必要性が低下し、就業理由も生計目的以外の理由が増加している。一方、諸外国と比較した年金等への将来不安や人とのつながりの希薄さが老後生活への満足度を低めている。精神的にも豊かな老後生活を送るためには、若い時からの働き方を含め、地域等とのバランスのとれた関わりを考える必要がある。  (引退過程における家計と就労) ○ 高年齢者においては、必要生計費の減少や年金受給額の増加により経済的な面での就業の必要性が低下している(第88図)。就業理由も健康上の理由や、生きがい、社会参加等のためといった生計目的以外の理由が増加している。  (なだらかな引退と引退過程の都市と地方の違い) ○ このような就業をめぐる状況変化は、働き方にも変化をもたらす。一つは、自営業やシルバー人材センターのような地域の中での働き方であり、いま一つは短時間勤務の広がりである。また、引退過程における自営・家族従業者割合の高まり方は、大都市圏外の方が高く、大都市では年齢を経ても雇用者割合やフルタイム指向が高い(第89図)。  (健康、経済面では高い水準にある日本の高年齢者) ○ 「健康」、「現在の経済的生活」、「将来の経済的生活」、「社会的活動」、「隣人・友人」の5項目からなる「ハッピーリタイアメント指標」(第90図)を作成し、諸外国の高年齢者と日本の高年齢者を比較してみると、日本の高年齢者は健康面、経済面では水準が高く、他の国よりも恵まれた状況にあるが、人とのつながりについては他の国よりも水準が低い。また、経済面についても、年金や介護などについての将来不安が、他の国より大きい。  (満たされていない人とのつながり) ○ 諸外国と比較して我が国の高年齢者は人とのつながりが希薄であり、これが生活への満足度を低めている(第91図)。この傾向は特に被用者、大都市及び男性でより顕著である。これは現役時代の生活が仕事に特化しており、地域社会とのつながりが希薄なため、企業から離れた時に孤独な状況に置かれることによるところが大きい(第92図)。精神的にも豊かな老後生活を送るためには、企業、家庭、地域とバランスのとれた関わり方を考える必要があり、さらに、高年齢期に至ってからも、地域社会と就業やボランティアなどを通じて関わりをもつことで老後生活をより豊かなものとすることができると考えられる。  第6節 今後の課題   高年齢者活用の条件は、(1)年齢による制約の少ない賃金・処遇制度、(2)第一線でそれまでの経験をいかした業務、(3)責任、権限の分権化である。65歳までの雇用機会確保のための方向性は、(1)今後10年での65歳定年制への労使の自主的取組、(2)65歳までの本格的就業機会確保に向けた段階的な取組、(3)企業の年齢に対する固定観念の払拭(求人年齢要件の緩和)、(4)確固たる能力を確立するための自己啓発への支援である。  (高年齢者活用のための条件) ○ 企業の高齢化への対応を整理すると、(1)高齢化の下での企業の組織効率との調和のため、賃金・処遇制度を年齢による制約の少ないものにすること、またその際、働く側に対する、 賃金、職位に代わるモチベーションとして、(2)中高年齢者になっても第一線でそれまでの 経験をいかした業務を遂行すること、(3)責任、権限の分権化を進めること、が挙げられる。  (65歳までの雇用機会確保のための方向性) ○ 65歳までの雇用機会確保のための方向性は、第1に、労使の自主的な取組を促進することにより、今後10年かけて65歳定年制の定着を目指した取組を図る必要がある。65歳まで を一つの雇用管理の単位とし、途中引退の選択肢は残しつつ、賃金、処遇、働き方をトー タルに設計することが働く側のキャリア形成や能力の有効活用からも望ましく、そのため、 賃金、処遇、働き方を、年齢による制約の少ないものに変えていく必要がある。   第2に、65歳までの本格的就業機会確保に向けた段階的な取組を進めることである。定年の段階的引上げや再雇用制度、短時間雇用等を含め、何らかの形での65歳までの雇用継 続の仕組みを整備し、それを本格的就業機会の確保への足がかりとすることである。   第3に、企業の年齢に対する固定観念の払拭を進めていくことである。年齢制限により中高年齢者の再就職は難しいが、企業としても優秀な人材獲得のチャンスを失いかねない。 行政としても求人者に対し、年齢要件の緩和を積極的に働きかけていくことが重要である。  第4に、働く側が職位によることなく組織の中で存在価値を認められる確固たる能力を 確立するための自己啓発を積極的に支援することである。 ○ 若年と中高年による、より効果的な仕事の進め方(=若年と中高年のベストミックスの仕組み)により、各々が社会の中でその能力を十分に発揮できる状況を目指すべきである。                まとめ  景気には少し明るさが見えはじめているが、雇用・失業情勢は依然として厳しく、2000年2月、3月の完全失業率は4.9%と既往最高となった。ただ、そのうち雇用需要不足による失業は約4分の1で、それ以外の4分の3は需給のミスマッチなどによる構造的・摩擦的失業である。そこには若年者の意識の変化や若年者に偏りがちな企業の雇用需要構造などが影響している。今後高齢化の進展で、若年者の急減と高年齢者の急増という供給構造の大きな変化が確実に起きることを考えると、ミスマッチが一層拡大し、構造的・摩擦的失業がさらに増加するおそれもある。それを防ぐためには、企業において「より少ない若年とより多い中高年」による仕事の進め方が確立される必要があり、それは同時に企業自身が活力を維持していく上でも重要である。また、若年者の就業意識の変化にどう対応し、どう働きかけていくのかも重要な課題である。若年者、中高年齢者各々がその能力を十分に発揮できるための課題は以下のとおりである。 (若年者雇用の今後の課題)  今後、若年人口は急減するため、年齢別需要構造が中高年齢者の方にある程度シフトしたとしても、若年雇用の需給は基本的にひっ迫の方向に向かう。ただ、若年者の意識変化の問題、産業構造の変化に伴う需要と供給のミスマッチの問題、近年厳しい状況にある高卒者に関わる需給がどうなるのかなど考慮すべき構造的問題も存在しており、こうした問題への対応が今後重要となる。  この問題への対応を考える視点は、学校から職業への円滑な移行、再チャレンジ可能な柔軟な仕組みの二つに整理される。 (学校から職業への円滑な移行)  若年者の雇用安定、効果的な人材育成を図っていくためには、まず学校から職業への円滑な移行が図られる必要がある。それを可能とする条件として、企業の考え方、若年者の意識、両者のマッチングの3つが考えられる。  第1の企業の考え方については、中途採用を広げるとしても学卒採用を基本とする企業の姿勢は変わっていない。日本経営者団体連盟の調査でも「新卒一括採用重視」と「新卒一括、中途採用の折衷」で9割弱が新卒一括採用を考えている。労働集約的な分野の海外移転が進み、国内の仕事内容にますます高度化が要請される中で、新卒者を企業内で長期にわたって育てるシステムは依然として重要であり、行政としてもこうした企業の取組を積極的に支援していく必要がある。  第2の若年者の意識についてはどうであろうか。フリーターで学卒後正社員とならなかった者の4割は「正社員としての仕事に就く気が無かった」と答えているが、フリーターの3分の2はいずれは定職に就きたいと思い、特に正社員化への希望については、女性の20歳未満では7割弱が希望しており、また、男性では年を経るごとに強まる。しかし、定職に就く上で今のアルバイト経験が役立つと思う者は3割に満たず、実際、移行が円滑にいかない者もみられる。初職選択に真剣に立ち向かえる環境作りとともに、若年者自身も初職選択時に自らのキャリア形成を長期的視野で考え、それに基づいて行動することが重要である。  初職選択に際しての目的意識の希薄化が指摘されているが、これには身近な人の働く姿が見えなくなる中で、仕事に対する具体的イメージを持ちにくくなっていることも影響していると思われる。地元企業との接触やインターンシップなどの取組を通じて、在学中に仕事に接する機会を多く持ち、働くことの実像、意味をとらえることが、単に「サラリーマンになる」ではなく、具体的に「○○をする人になる」というイメージにつながる。仕事に対する目的意識も豊かになり、主体的な適職選択能力も育成されていくと考えられる。  また、フリーターの多くが家族からは「本人任せ」にされていると答えているなど、若年者の職業意識形成における家庭の課題も多い。  第3のマッチングについては学校や公共職業安定機関の役割が大きい。人材育成等適切な雇用管理を行っているような企業でも、規模が小さかったり、知名度がないためにマッチングに至らないケースも多い。そうした企業の具体的な情報を把握し、提供できれば企業と若年者双方にとってプラスになる。地域の企業の実情に詳しい企業経験者等によるアドバイザーを活用し、具体的な情報提供、相談を行う方法も考えられる。こうした取組における公共職業安定所、学生職業センターなどの行政機関の果たす役割も大きい。1999年に開設された「学生職業総合支援センター」では、大卒未就職者に対して、各種情報の提供、専門的な職業相談、就職面接会の常設的開催などの総合的就職支援を展開している。  ものづくりの現場では若年技能者の確保に苦慮している。これにはものづくり体験の乏しさによる若年者の現場労働への先入観も働いているとみられ、ものづくりの魅力を認識できるような体験・学習機会の設定がマッチングや産業の技術・技能基盤の確保の上でも必要である。また、今後高齢社会を支える社会福祉分野等の人材育成は喫緊の課題であり、これに対する学校等養成機関の計画的整備、カリキュラムの見直しが必要である。  全体として、若年者の需給はひっ迫の方向へ向かうと考えられるが、特に現在、厳しい状況にある高卒者に対する雇用需要の行方について懸念する見方もある。1990年代に入って高卒採用を中止した企業の多くが経営環境の悪化や雇用調整などをその理由に挙げていることからすると、景気の回復に伴って高卒に対する労働力需要もある程度回復すると考えられる。ただ、高学歴者への代替、応募者の質の低下を挙げる企業もあり、高校において、質の向上への取組とともに、新たな産業分野や人材需要の動向も見極めながら、より広い範囲の企業へのアプローチを公共職業安定所等とも連携して進めていく必要がある。また、生徒の意識を高卒雇用需要の向かっている方向に適合させるべく、在学中の早い段階から、地域の産業動向、求人や具体的人材ニーズの実態について理解を深めるとともに、ニーズに応じた能力開発の実施などの取組を進めていく必要がある。こうした取組については、行政(職業安定機関、職業訓練機関など)、企業(地域の事業主団体など)、学校が一体となって進めていくことが重要である。  以上のような課題を踏まえると、現在取り組んでいる「教育改革」においては「学校から職業への移行の円滑化」に向け、「主体的に進路を選択する能力の育成」や「社会や企業から評価される能力の育成」等の視点が不可欠である。 (再チャレンジ可能な柔軟なシステム)  しかし、豊かな時代になって、今の企業に留まるか転職するか、選択できる状況になったことや、新規学卒が減少していく中で、産業構造変化への対応としても、転職による産業間労働力調整の必要性が高まることを踏まえると、学校から職業への円滑な移行の枠に納まらないケースは今後も増加していくと考えられる。その場合でも、若年者力が十分に社会の中で発揮されるためには、再チャレンジが可能となる柔軟な仕組みが必要である。具体的には、求人情報、職業能力評価制度、転職に不利とならない退職金制度の整備、さらには、企業外の職業能力開発機能の充実などが必要である。  しかし、あまりにも頻繁な離転職、安易なフリーター化は本人の職業生涯のみならず、技能・技術の形成の観点からも損失が大きい。このような観点から企業においても、若年者の意識の変化を十分踏まえた定着対策が行われることが重要である。後述するように職位でなく仕事内容自体を重視したモチベーション管理によって若年者の働きがいを増していくことも有効な方策である。 (高年齢者活用のための条件)  進展する高齢化に、企業は賃金、処遇、働き方の面でどのように対応をしてきているのだろうか。これまでみてきたことを整理すると、(1)年齢による制約の少ない賃金・処遇制度へ、(2)中高年になっても第一線でそれまでの経験を活かした業務を遂行、(3)できるだけ責任を与える(権限委譲)、が挙げられる。(1)は高齢化の下での企業の組織効率との調和を考えるとき、避けて通れない道であるが、問題はその際、働く側に対して、賃金、職位に代わるどのようなモチベーションを用意できるかである。これに対して企業は、(2)や(3)のような形で仕事そのものをやりがいのあるものにすることで各人のインセンティブを引き出す仕組みを形成しつつある。働く側もこうした動きを受け入れ、適応している。こうした中で職位によることなく組織の中で存在価値を認められる確固たる能力を身につけているかどうかがその働きがいに直結することになる。今後の若年者の急減と高年齢者の増加という年齢構造の変化の下で、こうした仕組みが社会全体に広がっていくことが高齢社会を活力あるものにしていくのに重要な条件である。 (65歳までの雇用機会確保のための方向性)  第1に、あくまでも労使の自主的な取組を促進することにより、今後10年かけて65歳定年制の定着を目指した取組を図る必要がある。  65歳までの本格的就業機会の確保を考えるならば、65歳までを一つの雇用管理の単位としてとらえ、途中引退の選択肢は残しつつ、賃金、処遇、働き方をトータルに設計することが働く側のキャリア形成や能力の有効活用からみても望ましい。ただ、このような65歳までのトータルな仕組みを作るためには、まず賃金、処遇、働き方を若い頃からを含め、年齢による制約の少ないものに大きく変えていく必要がある。そのためには企業や働く側の意識の中にある年齢へのこだわりを払拭する必要があり、制度改革をテコとしつつ、意識の転換を図っていく必要がある。なお、定年制撤廃の議論については、アメリカとは異なり、我が国では定年まではよほどのことがない限り解雇されないという判例が確立されており、その意味で定年制は我が国の企業にとって、定員管理のための重要な制度となっていることにも留意しつつ、今後、十分な議論を行う必要がある。  第2に、65歳までの本格的就業機会確保に向けた段階的な取組を進めることである。65歳までのトータルな仕組みが整うまでには時間がかかる。まずは定年の段階的引上げや再雇用制度の整備、短時間雇用の活用等を含めた幅広い選択肢により、何らかの形での65歳までの雇用継続の仕組みを整備し、それを足がかりに本格的就業機会の確保を目指すことが現実的である。なお65歳まで同じ企業に働き続ける仕組みは日本的雇用慣行が変化する時代にあって逆行との議論もあるが、高齢期に入ってからの再就職機会は現時点では非常に制約されている。重要なことは各々の企業での「より少ない若年とより多い中高年」で仕事を進める仕組みの構築であり、まず、これまで経験を培ってきた企業の中で60歳を超えてもその経験を活かせる環境を作り、高年齢者活用のベースを作ることが重要と考えられる。  第3に、企業の年齢に対する固定観念の払拭を進めていくことである。求職者が能力開発などにいかに努力しても、求人に年齢制限があれば再就職は容易でない。企業にとっても、優秀な人材獲得の機会を失う可能性もあり、行政として、求人者に対し、年齢要件の緩和を積極的に働きかけていくことが重要である。ただ、年齢による制約の少ない賃金・処遇制度の広がりが未だ十分でない中で、一律に年齢制限を禁止することについては、企業の求人意欲そのものを削いでしまうおそれもある。まず、門戸を広げることについての企業のコンセンサスを形成していくことが重要である。  第4に、働く側が職位によることなく組織の中で存在価値を認められる確固たる能力を確立するための自己啓発を積極的に支援することである。年齢による制約の少ない賃金・処遇制度を進める中で、働く側も職位によることなく組織の中で存在価値を認められる確固たる能力を身につけることが求められることになる。そのためには不断の自己啓発が必要であり、高年齢者の雇用を促進する観点からもこうした取組に対する行政による積極的な支援も重要である。 (若年者雇用と高年齢者雇用はトレードオフか)  以上、若年者と中高年齢者それぞれが社会の中で活躍できる条件を探ってきたが、それぞれの課題間のトレードオフ、すなわち今後、高年齢者の就業機会の確保と若年者の正規就業の促進という二つの課題を同時達成することが可能なのか、という議論も予想される。この問題を考えるにあたっても、現在の失業の4分の3は一方に未充足求人がありながら、結合がうまくいかないために起きている構造的・摩擦的失業であることを想起する必要がある。若年者の職種や企業規模によるミスマッチへの働きかけを一方で行いつつ、他方で「より少ない若年とより多い中高年」による仕事の進め方により、年齢間のミスマッチを軽減していけば、構造的失業問題はかなりの程度、改善されるものと考えられる。さらに、今後、若年労働力人口が急速に減少していくことを考えあわせると、65歳までの雇用継続などの高年齢者への対応が必ずしも若年者に悪影響を及ぼすということにはならないと考えられる。 (若年と中高年のベストミックスによる雇用創出)  中高年熟練技能者は若手に熟練技能を、若手は中高年齢者に数値制御の機器操作をそれぞれ伝授しあい、地域ぐるみで新しいもの作りに挑戦している取組のように、若年者、中高年齢者とが仕事の上でお互いを補完し合う関係が形成された時、新しい価値が生み出される可能性もある。ゼロサムを前提にしてトレードオフを悲観するのでなく、「より少ない若年とより多い中高年」による、より効果的な仕事の進め方(=若年者と中高年齢者のベストミックスの仕組み)によって、新たな価値を生み出せる状況を作り出し、雇用創出につなげ、各々が社会の中でその能力を十分に発揮できる状況を目指すべきである。