第4章 社会保障は今後どのような方向に向かうのか
第1節 社会保障制度改正の最近の動向と欧米諸国の取組み
○ 1990年代後半から、経済の低成長基調や社会保障に対する需要の多様化等を踏まえ、成熟した社会・経済にふさわしい社会保障とするため、国民経済と調和を図りつつ制度全般の見直しを行う社会保障構造改革に取り組んでいる(図4−1−1)。
○ 社会保障構造改革の方向として、以下の4つがある。(1)制度横断的な再編成等による全体の効率化。(2)個人の自立を支援する利用者本位の仕組みの重視。(3)公私の適切な役割分担と民間活力の導入の促進。(4)全体としての公平・公正の確保。
○ 欧米諸国においても、高齢社会における社会保障給付の増大、経済基調の変化、高い失業率等の現状から、社会保障と経済・財政の調和が共通の課題となっており、社会保障制度の見直しが行われている。
第2節 21世紀の社会保障の方向を展望する
○ 我が国では、社会保障制度の充実が図られ、さらに、21世紀の本格的な高齢化社会の到来を見越して、社会保障分野において様々な対応が講じられてきた。しかし、一方で現役世代に対する世論調査をみると、社会保障制度の将来について約6割の人が大いに不安を感じており、約4割の人が少し不安を感じているという結果になっている。年齢別では年齢が高くなるほど不安を感じている人が多くなっている。
○ 欧米諸国に比べて急激に進展する高齢化等を背景に、将来の高齢社会における負担増、とりわけ給付面に対する負担の重さが強調されてきたことも、不安感の増大に影響を与えていると推測されるが、次のような点から、我が国の社会保障の将来に対して、過度の不安感を抱く必要はないものと考えられる。
○ 今後、少子高齢化が進展していくため、医療費や年金等の増大に伴う負担の増大が予想されるが、これらは給付と負担のあり方について国民全体の合意が得られるように、随時適切な見直しをしていくことで対応できる。現役世代の世論調査の結果をみても、全体の6割の人は、現在の社会保障の水準を維持していく必要があり、高齢化に伴う給付費増のため、必要最小限の増税や社会保険料の負担はやむを得ないと答えており、必要最小限の負担増であれば合意が得られることを示唆している(図4−2−2)。
○ また、現在でも、高齢者は、健康水準や収入、資産、家庭環境など個人差が大きく、多様性に富んだ集団であり、高齢者像を画一的に捉えることは問題である。現役世代の視点からも高齢者を経済的には弱者ではないとする人が多数となっている。
さらに、21世紀には、現在の「団塊の世代」が「新しい高齢世代」になることから、高齢社会の姿を大きく変えていくことが予想される。また、新しい高齢世代は、多様なニーズをもった大消費者層の出現でもある。
○ 本年は「国際高齢者年」であるが、そのテーマは「すべての世代のための社会をめざして」となっていて、高齢者だけを特別扱いせずに、高齢世代も若い世代もともに住みやすい社会をつくりあげていくことを提唱している。
21世紀の高齢社会は、高齢者は社会に支えられる存在ではなく、社会を支える存在であるという「活力ある高齢化(Active Aging)」や、年齢のみで区別をつけることが不合理なものについては「エイジレス(年齢による区別がない)」の時代を迎えるであろう。
○ これからの社会保障のあり方を考える上で、次の5つの視点を提案する。これらの視点を持ちながら、現行の社会保障制度について、経済社会の変化や国民生活の変化等に適切に対応できるように適宜見直しを行い、社会を構成する皆で支え合い、より良いものにしていく努力が重要である。