平成11年版厚生白書の概要

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第3章 我が国の社会保障制度はどのような水準に到達しているか

第1節 高い水準に到達した保健・医療

○ 保健・医療施策の成果として、以下の3点を挙げることができる。

(1)世界最高水準の平均寿命
 男性:77.19歳、女性:83.82歳、1997(平成9)年
 100歳を越える人:10,158人(1998(平成10)年、1963(昭和38)年の66倍)
(2)高い保健医療水準
 低い水準の乳児死亡率や死因別死亡率の低下、がんの治癒率の向上等
(3)健康寿命の延伸
 痴呆や寝たきりにならない状態で生活できる期間の延伸

○ 我が国の医療制度について、利用者側から見た長所として、(1)国民の誰もが、公平に医療サービスを受けることができること、(2)一定の質が確保された医療を、比較的低い自己負担により受けることができること、(3)患者が自由に医療機関を選択できること、の3点が挙げられる。
 これらの背景には、国民皆保険が達成され、医療関係者や医療施設等の医療提供体制も整備されてきており、また、患者が医療機関を自由に選ぶことができ、どの医療機関でも受診可能というフリーアクセスの仕組みをとっていることがある。

○ 我が国の医療費を国際比較すると、対国内総生産比(対GDP比)は、OECD加盟29か国中18位であるが、総医療費はアメリカに次いで2位、一人当たり医療費では6位という状況になっている。

○ 医療サービスの国際比較をすると、我が国では医療機関で受診しやすいことから、外来受診率が大変高くなっている。一方で、病床数が多く、入院患者の平均在院日数が長い(表3−1−12)。
 また、国民医療費や老人医療費の増大が大きな課題となっている。国民医療費は1999(平成11)年度には初めて30兆円を超えるものと見込まれ、そのうち老人医療費が3分の1以上を占めている。老人医療費の増大に伴い、老人保健拠出金が増大し、各医療保険者の財政運営の圧迫要因になっている。

第2節 所得保障の充実

○ 我が国の公的年金制度の特徴として、(1)全ての国民が年金制度の対象となる国民皆年金体制であること、(2)基礎年金と上乗せ部分が組み合わされた制度であること、(3)物価スライド等の仕組みにより給付の実質的価値が維持された年金が終身にわたり給付されること、(4)段階保険料方式をとり少なくとも5年に1度財政再計算を行って制度を見直し、給付と負担の長期的安定を図っていることが挙げられる。

○ 現在では、国民の5人に1人は公的年金の受給権者であり、平均年金月額も、国民年金4.7万円、厚生年金17.2万円、共済組合22.3万円となっている(1998(平成10)年3月末)。

○ 高齢期の収入源として公的年金に対する国民の期待は大きい。公的年金は、高齢者世帯の生活を支えている。(総務庁「家計調査」によれば、高齢夫婦無職世帯の平均的な家計における実収入の約93%を社会保障給付が占めており、消費支出及び非消費支出の約88%を賄っている。また、障害基礎年金や遺族基礎年金等の制度を通じて障害者や遺族の生活も支えている。さらに、現役世代においても、親の扶養負担の軽減を通じて自分達の生活の安定に寄与していると考えられる。

○ 厚生年金をめぐって積立方式への変更や民営化(廃止)の議論があるが、これは老後の所得保障を不安定にさせるといった大きな問題がある。また、制度の切り替え時に生じる「二重の負担」(注)という問題もある。

(注)「二重の負担」の問題とは、積立方式への移行期間中の現役世代が、移行後に自らの年金分を積み立てるために必要な負担と、過去期間に対応して既に支払を約束している給付に要する費用のうち将来の保険料で賄うことを予定していた部分の負担とを同時にしなければならなくなるという問題

○ 生活保護制度は、生活困窮に陥った国民の「最後のよりどころ」である。その適用者数は、1950年頃の200万人から、経済成長や年金制度等の充実によって減少し、最近では90万人程度になっているが、1996(平成8)年度以降は上昇傾向に転じつつある。生活保護受給世帯の内訳をみると、近年では、高齢世帯、特に女性の高齢単身世帯の割合が高くなってきている。

○ また、欧米諸国の公的扶助制度を比較すると、制度の仕組みや対象者、扶助の内容、受給状況など国ごとに異なっている。例えば、我が国の保護率は0.72%と、アメリカ(医療給付のみ)の約13%、スウェーデンの約8%よりも非常に低い。

第3節 発展・拡大してきた社会福祉

○ 戦後50有余年の間に、社会福祉制度は多様な広がりと変化を示してきている。特に、福祉サービスのあり方を見ると、(1)福祉サービスの一般化・普遍化、(2)利用者本位の仕組みとサービスの質の向上、(3)市町村中心の仕組み、(4)在宅サービスの充実と施設サービスの量的拡大、(5)サービス供給体制の多元化、(6)保健・医療・福祉の連携の強化とサービスの総合化、という方向で変化してきている。

○ 児童福祉の分野で第一に挙げられるのは、保育所の整備である。保育所は、1947(昭和22)年時点で、全国に1,476ヵ所、入所児童数は135,503人に過ぎなかったが、1997(平成9)年10月現在では、全国で22,387ヵ所、入所児童数は、1,738,802人と、昭和20年代の10倍以上になっている。

○ 高齢者福祉の分野では、1963(昭和38)年の老人福祉法制定等を契機に、それまではごく一部の低所得者に限られていた施策から、社会的支援を必要とする高齢者を幅広く対象とする施策へと転換が図られることとなった。1980年代後半頃からは、介護問題への対応が大きな課題となり、在宅サービス充実の重要性が強調されるとともに、高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)が策定され、90年代の10年間に基盤整備を計画的に進めている。

○ 障害者福祉について、その対象となる障害者の範囲の拡大、福祉サービスの種類及び量的拡大、社会参加の促進、自立支援という方向で、施策の拡充が図られてきた。生活支援という面だけではなく、授産事業や職業訓練等を通じて、障害者の自立と社会参加を促進するという点に力が注がれてきたところに、児童福祉や高齢者福祉とは異なる側面を持っている。

○ 児童福祉、高齢者福祉、障害者福祉のそれぞれの分野で、上述した福祉サービスの変化に応じた制度改正が行われたり、ノーマライゼーションの理念の具体化の対応等が行われてきている。近年では、新ゴールドプランを始め3つのプランに基づき、サービス基盤の整備が計画的に進められている(表3−3−2)。

○ 社会福祉事業の規模の拡大とともに、社会福祉法人のみならず、多様な主体が福祉サービス分野に参入しつつあり、サービスの量的拡大と健全な競争を通じたサービス内容の質的向上が期待されている。特に、介護保険制度の実施により、多様な民間事業者の一層の参入が予想されている。このように、社会福祉事業分野では、多様な主体がそれぞれの特性を生かしつつサービスを提供していく「福祉多元主義」とも呼ぶべき状況になりつつある。

第4節 社会保障制度は大勢の人々によって支えられている

○ 社会保障制度は、大勢の人々によって支えられている。医師、看護婦等の保健・医療関係者は約204万人、保育士等の福祉関係者は約113万人の規模となっている。このほか医薬品等の保健医療関連産業や福祉サービス産業など、民間サービス分野で従事している人々も多い。また、サービスの実施にあたっては、保健所や福祉事務所等の行政機関が重要な役割を果たしている。

○ 社会保障関係業務の特性としては、(1)対人サービスであり、かつ、労働集約的であること、(2)地域に密着した生活支援サービスであること、(3)従事者の技量がサービスの質の向上に重要な役割を果たすこと、(4)国家試験による免許制度など各種資格制度に基づいた専門職が中心であること、(5)公的制度に基づくサービス供給が中心であること、(6)サービスを提供する技量とともに、豊かな人間性や強い倫理性を要求されること、という点をあげることができる。

○ 社会保障関係分野においては、人命や人の健康にかかわる業務であることや、サービスの質の向上を図る等の観点から、業務の専門性や能力を客観的に評価し、社会的な信用を確保するために、国家試験による免許制度など、種々の資格が整備されてきている。

○ 社会サービス分野に従事する人々の確保や資質の向上のためには、教育・養成施設の量的整備と教育水準の高度化が不可欠である。量的整備の面では、社会サービスに対する需要の高まりに応じて、教育・養成施設の増大が図られている。また、教育水準の水準の向上も図られており、例えば、4年間の教育期間を持つ看護系大学は、1999(平成11)年度には76大学と、その整備が急速に進んでいる。

○ 近年では、ボランティア活動の活発な状況が見られる。1998(平成10)年度では、ボランティアグループ数は約8万3千、活動者総数は、約620万人に上る。活動内容については、家事や食事援助などの在宅福祉サービスや、相談・訪問・交流活動、手話・朗読・点訳活動など、実に様々な領域にまたがっている。



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