平成10年版厚生白書の概要

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【第4章 多様な生き方と調和する職場や学校】

第1節 職場

I.職場をめぐる変化

○ 就業者の8割以上は雇用者、雇用者の年齢構成は高齢化、失業率は近年上昇。経済の基調は低成長に変化し、従来のような高成長は期待し難い。
 若年労働力が減少し、今後は労働力人口も減少。国際競争が本格化し、情報通信が高度化。

II.日本的雇用慣行と日本の企業風土

○ 日本的雇用慣行(一般に、長期雇用を前提に、新規学卒者一括採用、企業内訓練、年功序列型賃金等により特徴付けられる雇用慣行)は、成長人口、高度成長経済という条件の下、企業・雇用者の双方に利点のあるものとして、戦後の日本の企業に広く普及し定着。

○ 日本的雇用慣行は、雇用の長期安定をもたらすという利点がある一方、職場での強い一体感、職場の仕事や人間関係を優先する企業風土をもたらし、日本的雇用慣行の基幹労働力である男性雇用者から、家庭や地域での活動に参加する時間的・心理的ゆとりを失わせ、その結果、女性に子育て負担が集中し、地域社会の人間関係が希薄になるなどの問題が生じているのではないか。

○ 日本的雇用慣行の下で、女性にとって、結婚や子育てのための離職がその間のみでなく復職後も含めた収入減少につながっている。こうしたことが、未婚率上昇の要因の一つとなっているのではないか。

○ このように少子化をもたらす要因に関わる諸問題を生んでいるのではないか、と考えられる日本的雇用慣行について、雇用の安定を保障しつつ、自立した個人の生き方とどう調和させるかという観点から問い直す必要があるのではないか。

III.職場優先の企業風土

○ 長期雇用、年功序列という慣行の下、同期横並びで比較的時間をかけて選抜していく雇用管理が、競争をより長期化させている面があり、こうしたことが家庭より職場の都合を優先させる企業風土を生み出していると指摘されている。
 さらに、個人を、個人の業績中心というより勤務態度や意欲に重点を置いて評価する慣行が、定時を過ぎても帰りにくかったり、有給休暇を取りづらい職場の雰囲気を生んでいるとの指摘がある。

○ 追いつけ型経済の終焉や国際競争の本格化により、集団に協調するだけでなく、個々人が、業務遂行における自立性や自己完結性が求められる。
 このような状況の下で、職場の都合を最優先する意欲、態度を過度に評価するような雇用管理のあり方については見直すべき時期。めりはりのある効率的な働き方を進めるなど、多様な取組みを通じて、職場優先の企業風土を是正することが求められている。

IV.採用方法・年功序列型賃金

○ 新規学卒者の一括採用の偏重は、学校歴偏重につながりやすく、受験競争を激化させるひとつの誘因となっていると考えられる。
 また、中途採用枠が十分でないことなどにより、子育てにより一旦職を離れた後、再就職する場合に、処遇の低い職にしか就けないといった問題も生じている。

○ 新規学卒に偏った採用を見直し、採用時の年齢制限を撤廃し、中途採用枠を拡大していくことが求められる。

○ 年功序列型賃金制度は、雇用者にとって長期的な生活設計が立てやすいという利点はあるが、転職や子育てのための就業中断の費用を過大にしており、企業も能力のある人材を外部から得にくくなっている。
 また、女性が継続就業しにくい企業風土を生んだり、企業にとって、高齢者の就業の費用を過大にしている面があり、それが女性の長期就業や高齢者の継続就業を阻んでいるというような問題も生じている。

○ 年功序列型賃金制度については、年齢による賃金勾配をなだらかにする、業績評価の比重を高めるなど、見直しの必要性が増していると見られる。

V.男性中心の企業風土

○ 日本的雇用慣行は、「男は仕事、女は家事・育児」という男女の役割分業に支えられていたものであったため、女性雇用者は排除されがち。
 結婚退職や出産退職の慣行など女性が継続就業しにくい企業風土を生んでいる状況などが見られる。
○ パートタイム労働者は、比較的中高齢の女性に多い。仕事内容において正規従業員と変わらぬ働きをしているパートタイム労働者も増加しているが、労働条件、雇用管理には、改善すべき課題が多々見られる。今後、職務内容や能力に応じた処遇・労働条件の改善が期待される。

○ 同質な男性中心の職場では、異なった価値観、生活を持ち、それに応じた働き方をする者に配慮し、共に仕事を遂行する風土が形成されておらず、それが男性の間に、女性を同僚として尊重しない意識や性的な関心・欲求の対象として見る意識を生じさせやすくしている。女性に対する性的嫌がらせ(セクシュアル・ハラスメント)は、このような環境で起きやすいといわれている。

○ 近年、パートタイム労働、派遣のほか、専門職、地域限定職、短時間勤務正規職など就業形態が多様化。就業コースの多様化は、個人の希望に応じて働ける選択肢が増えるという意味において望ましい。
 今後、就業の内容に応じて適切に処遇されることと、一旦選んだ就業形態が個人の意欲と能力と生活環境に応じて途中で柔軟に変更できることが重要。

○ 就業コースの多様化、変更の柔軟化は、男性中心の職場の風土を変え、暗黙の前提を必ずしも共有していない者たちとも一緒に、円滑に仕事を進めていけるような透明性の高い職場の形成につながると考えられ、その結果、仕事と家庭や地域での活動とも両立できる、個人を尊重する職場風土の形成につながると期待される。

第2節 学校とその他の教育の場

I.学校とそれをめぐる社会の変化

○ 高等学校・大学等への進学率が上昇する一方、学(校)歴偏重の社会的風潮などの下で、過度の受験競争が生まれ、それは依然として厳しい状況。

○ 過度の受験競争の中で、子どもはゆとりを失い、家庭も子どもに対するしつけやくつろぎなどの機能を喪失。
 家庭の中でも、受験競争の中でよい成績を修める方が「よい子」であると評価されるような画一的価値観の浸透は、学校でも家庭でも地域でも居場所を見いだせない子どもたちの問題にもつながっているとも指摘されている。

II.生徒の多様化に対応した教育

○ 中学校・高等学校において、子どもや親がその興味・関心、能力・適性等に応じた教育内容を主体的に選択できるよう、その選択幅を拡大する方向での改革が進められている。
 例えば、高等学校教育における総合学科の創設、選択中心の教育課程の編成、中学校においても、選択教科に充てる授業時数を拡大する方向での教育課程の見直し。

○ 学校教育における選択幅の拡大は、多様性を積極的に評価することで、いじめや登校拒否を生んでいるといわれる同質志向の改善にもつながると考えられる。

○ 就学コースの柔軟化を進める方向での改革も進められている。高等学校においては、過度に学年制に偏った運用を改め、学年を超えて科目履修ができる単位制高等学校の整備が進められている。大学においては編入学・転入学枠や社会人枠の拡大が進められている。

III.学校の「スリム化」(学校、家庭、地域社会の適切な役割分担)

○ 学校週5日制の完全実施や、しつけ、学校外での巡回指導補導を家庭や地域社会へ返していくことにより、学校を「スリム化」することが求められている。

○ 学校の「スリム化」が、地域や家庭など学校以外での子どもたちの生活の厚みを増すことにつながるためには、子どもたちがその一員として役割を担い、他の家族と多面的に向かい合えるような家庭、様々な人たちと関わりながら、子どもたちが活動に参加できるような地域社会が必要。

○ そのためには、生活圏にあったまちづくりが進むとともに、職場中心の企業風土の改善がなされ、親が家庭で子どもたちと多面的に関わることができる時間的・心理的ゆとりを得るとともに、地域に専業主婦だけでなく、雇用者、自営業者などが多様な形で参加していくことが求められよう。



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