平成10年版厚生白書の概要

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【第3章 自立した個人が連帯し支え合える地域】

I.都市部の地域社会

○ 1950年代後半から1970年代前半にかけて、都市の郊外に大規模な住宅地が次々と開発されていった。
 その郊外住宅地域の姿は、年齢も家族構成も生活様式も極めて似通った住民から成り立ち、人間関係は希薄で、地域社会の共同体意識は低い。地域社会への参加は、専業主婦中心、雇用者は参加しにくい状況で、地域社会は多様性や厚みがない。

○ 都市部において地域社会に共同性(共同体としての意識と支え合い)を取り戻すには、職住を分離するのではなく、できるだけ生活圏にあったまちづくりを進めることが求められる。
 職住を近接させることによって、地域を、単に寝るためだけに帰るまち(ベッドタウン)ではなく、仕事をし、生活し、子どもを育てるところとする人々が増え、そこへの帰属意識、参加意志が高まることが期待される。このことは、地域社会を多様性ある豊かな厚味のあるものとしていくと考えられる。

○ 都市中心部でも、居住人口の減少、家内工業や小規模商店の閉鎖などにより、地域社会の共同体意識が低下。空洞化が進む中心市街地の活性化が必要。中心市街地の再生の試みも進められている。

II.農村部の地域社会

○ 農山村では、過疎化、高齢化が進展。伝統的な地域共同体、親族共同体が残存。画一的な個人の生き方や家族のあり方を求める地域風土が根強い。

○ 農村部における「結婚難」は、子育ての負担よりも、多様な生き方、家族のあり方を受け入れず、画一的な「農家の嫁」であることを求める地域風土に原因があるのではないか。

○ 「結婚難」のため、1980年代半ばごろから農村部においてアジア地域などの女性との国際結婚が急速に広がり始めた。
農村部における国際結婚が一般的に問題があるというわけではないが、日本の若年女性には受け入れられにくい家庭や地域の人間関係を改善することなく、事情に疎い他国の女性に替わりを求めるような形での結婚のあり方は見直されるべき面があるのでなかろうか。

○ 若年女性が憧れるような農村の実現のため、家庭や地域の人間関係や習慣のあり方を改善することが求められている。

○ 近年、都市を始めとした他地域との広域連携や交流が様々に進められる中で、多様な価値観や生き方を受け入れる風土が地域に形成され始めている。
今後、異なる生活の仕方を受け入れ尊重する新しい地域風土の形成がさらに進んでいくことが求められる。

III.住民参加と分権型社会

○ 雇用者が急速に増加してきた中で、雇用者には、職場に対する強い帰属意識や通勤時間の長さなどから、地域社会の様々な活動に積極的に参加するための時間と意欲に乏しい人が多いという現状。しかし、徐々にではあるが、雇用者の地域活動への参加も始まっている。

○ 民間団体の非営利活動では、例えば住民参加型在宅福祉サービスにみられるように、公 的サービスの提供者と受益者、営利事業者と顧客という関係ではなく、住民が同じ住民としての立場で一緒に取り組むという水平の関係で活動を展開できることが、人間の優しさや創造性を誘い出すといわれている。
 民間団体の非営利活動のあり方は、自立した個人が連帯し支え合える新しい共同性(共同体としての意識と支え合い)を地域に生み出すものとして期待される。

○ 民間非営利団体の多元主義的な活動は、個人の多様な生き方、家族の多様なあり方を尊重する形での新たな共同性を地域社会に生み出すものとして、大きく期待される。

○ 地域社会の子育て支援力が増すためには、何よりもまず地域住民が自らの住む地域社会への関心を高めることが重要。そのため、住民サービスを直接に提供する地方自治体へ住民が関わっていくことが必要。
 今まで以上に住民にとって参加する意欲の湧く自治体にするという意味でも、地域のことは地域で決められる分権型社会への転換が求められる。特に、住民に最も近い存在である市町村への権限委譲の推進が重要。

IV.子育てサービス

○ 就学前の保育サービスの中核は認可保育所。サービスの多様化は進んでいるものの、認可保育所以外のサービスは少ない。

○ 認可外保育施設は、認可保育所が応えていない多様な需要に対応しているが、質のばらつきが大きい。認可保育所以外の保育サービスでは、基本的に利用者の負担により賄われている。

○ 今後、認可保育所の保育サービスの充実や多様な民間主体の活用によるサービスの多様化が求められる。

○ 利用者の保育需要が多様化する中で、地域による子育て支援の一層の展開を図るためには、効率性、公平性の観点も踏まえ、保育サービスに対する公的助成がどのようにあるべきかについて、検討することが必要。

V.地域における子育て相談

○ 最近の少年非行の増加・凶悪化の背景としては、社会的環境のみならず、家庭における子育てのあり方も要因と考えられる。少年本人に対する相談支援にとどまらず、関係機関が連携しながら親をはじめとする家庭に対して総合的な支援を行うことも重要。
 相談支援機関においては、単に相談に来るのを待ち構えているばかりでなく、地域に根ざした積極的な子育て相談の実施や情報の提供を行うとともに、相互に十分に連携を図るなど総合的な相談体制を整備することが必要。



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