平成10年版厚生白書の概要

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【第1章 人口減少社会の到来と少子化への対応】

I.人口減少社会の到来

○ 1996(平成8)年の合計特殊出生率は1.43。 21世紀初頭、我が国の人口は減少に転じ、以後21世紀を通して減少を続け、2100(平成112)年には約6,700万人、老年人口割合は21世紀半ばまで上昇を続け、2050(平成62)年には32.3%まで上昇すると見込まれている。

○ 少子化がもたらす経済面の影響として、労働力人口の減少、経済成長を制約するおそれ、現役世代の負担の増大、そして、現役世代の手取り所得の低迷が予想される。また、少子化がもたらす社会面の影響として、家族の形態の多様化が予想されるとともに、子どもの健全な成長への影響、住民に対する基礎的なサービスの提供等について懸念される。

○ 少子化がもたらすマイナスの影響をできるだけ少なくするために、人口成長を前提として組み立てられてきたこれまでの社会の様々な枠組みを新たな時代に適合したものへと早急に組み換えることが求められている。

○ しかし、第二次ベビーブームの団塊ジュニア世代が後期高齢期に入る21世紀半ばを視野に入れると、人口減少社会の姿は相当深刻な状況が予想されるといわざるを得ない。

II.少子化の要因とそれを巡る社会状況

○ 戦後の出生率安定期(1950年代半ば〜1970年代半ば)は、総人口の増加、経済の高度成長、雇用者化、日本型雇用慣行の普及、郊外住宅地の形成、核家族化・専業主婦化の進行、高等教育の普遍化など社会が一定の方向へ急激に変化した時代。
 また、1970年代半ばころの日本は、「男は仕事、女は家庭」という男女の固定的役割分業が最も徹底された社会だった。

○ この時期の若い女性にとって、サラリーマンと結婚し、煩わしい近所付き合いもなく、仕えるべき舅・姑もいない、郊外のこぎれいな住宅団地での専業主婦生活は夢。

○ しかし、夢の郊外住宅団地での専業主婦生活の現実は、決してバラ色ではなく、子どもが小さい間は、アパートの一室で育児書を片手に一日中一人で乳幼児と向き合うという状況が、妻たちの孤独感、負担感を生み、子どもが学校に上がるようになると、子どもの教育が、妻の時間と関心を受け止めるようになった。しかし、子育て終了後の40歳代後半の妻たちは、役割を失い、喪失感に悩むようになる。
 役割分業型家庭生活の中で、女性には漠たる不満が生まれ、それが一つには既婚女性のパート(非常勤)就労、カルチャーセンターや生協活動などにつながり、もう一つには未婚女性たちの結婚先延ばし、晩婚化の進行につながったのではないだろうか。

○ 団塊の世代に続く昭和30年代生まれの女性たちにとって、郊外専業主婦生活は、それだけでは「夢」ではあり得なくなった。生活のために結婚しなければならないという制約から解放され、「付加価値のある結婚生活」をさせてくれる相手をじっくり選ぶことが可能となったことが、晩婚化につながっていったと考えられる。

○ 晩婚化が進んでいった1980年代後半以降、雇用者化、居住空間の郊外化などが更に進行。雇用者化が進んだ職場においては、家庭よりも仕事を優先させることを求める企業風土が維持され、夫の子育て支援は期待できない状況。
 また、生活空間の郊外化の中で、地域社会は子育て支援の力に乏しく、兄弟姉妹による子育ての相互支援機能も失われ、子育ての負担が母親に集中してかかる状況は一層進行。

○ こうした状況の下、仕事と家事・育児の両立を志向する女性には極めて負担が重く、専業主婦にとっても一人で終日子育てに追われ、自分の時間を持つことが困難な「優雅」なものではない結婚の現実。さらに、学(校)歴偏重社会は、母親にも大きな負担。

○ 昭和40年代生まれの女性にとって、結婚は、夢や希望の感じられるものではなくなってきた。豊かさを享受してきたこの世代にとって、「豊かで居心地の良い結婚生活」を確信できない結婚にはなかなか踏み切れない。
 この世代は、「結婚は個人の自由」といいながら、「いずれは結婚したい」という気持ち自体はあるが、結婚に対し、積極的な夢や希望を見い出せないまま、自由気ままな未婚の「今」を楽しみ、結婚を先送りすることで、晩婚化が進んでいるのではなかろうか。

III.少子化の要因等への対応

○ 人口減少社会の深刻さを軽減するために出生率回復を目指した取組みをするかどうかは、最終的には国民の選択。そして、出生率回復を目指す取組みとは、結婚や子育てに個人が夢を持てる社会をつくることにほかならない。
 このような取組みにより、今後、出生率が回復するとしても、それが生産労働力人口として反映されるのは、おおむね21世紀の第2四半世紀から。少子化への対応に取り組むのならば、その対応は今から始めなければならない。

○ 出生率回復を目指した取組みをするとしても、妊娠・出産に関する個人の自己決定権を制約したり、個人の生き方の多様性を損ねてはならない。

○ 男女が共に暮らし、子どもを産み育てることに夢を持てる社会とは、多様な価値観を持つ男女が、それぞれの生き方を尊重し合い、従来の固定的な役割分業にとらわれることなく、共に子育てに責任を持ちながらその喜びも分かち合うような新しい家族像を基本に据え、そのような家庭を形成・運営する個人を、地域、職場、学校更には社会全体で支援していくような社会なのではないだろうか。
 そのためには、画一性・固定性から多様性・流動性へと大きく移行し始めた変化や改革 の動きを、このような社会をつくる方向へと活かしていくことが大切なのではないか。

○ このような観点から、次章以下、幅広く、家族、地域、職場、学校の新たな姿を、近年の変化や改革の動きも踏まえ、展望。


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