平成12年版厚生白書の概要

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第4章 高齢者の自立を支える新しい介護制度

第1節 これまでの高齢者保健福祉

1 老人福祉法の制定

〇 老人福祉法の制定(1963年)により、低所得者に対する保護施策を超えて、加齢に伴う一般的な介護ニーズが制度の対象として位置づけられた。
 しかしながら、徐々に施設整備等も進められたものの、介護を要する高齢者の数に比べて施設が不足したため、結果的に低所得者等が優先された。また、所得調査があるなど一般の人に必ずしも利用しやすいものではなかった。
〇コラム『「介護」という言葉』から

 老人福祉法制定時から法律の中では「介護」という言葉は使われていたが、一般になじみのある言葉として定着するのは後になってからのことであった。

2 高齢者介護ニーズの一部も担った医療

〇 1973年には老人医療費の無料化が実施されたが、高齢者の受診を容易にした反面、老人医療費は著しく増大した。また、福祉施設と医療機関の費用負担の格差や手続きの違いなどから入院を選択する、いわゆる「社会的入院」という問題も指摘された。
○ 高齢者医療の負担の公平化と、壮年期からの総合的な保健対策の実施を目指して、老人保健法が1982年に制定された。

3 在宅介護サービスの創設と医療・福祉の連携

〇 高齢者福祉の分野では、1970年半ば以降、在宅福祉が重要との認識が高まり、1980年頃から、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)が制定され、訪問介護の所得制限も引上げられた。
〇 高齢者にふさわしい看護や介護に重点をおいたケア、医療と福祉と連携した総合的サービスの提供が求められるようになり、1986年に老人保健施設が創設された。

4 在宅介護サービスの充実

〇 1989年に策定されたゴールドプランおよび1994年に策定された新ゴールドプランの推進により、在宅介護サービスをはじめとする高齢者保健福祉の基盤整備が急速に進んできた。加えて、住民に身近な市町村が、在宅福祉と施設福祉を一元的かつ計画的に提供できる体制も整備された。
〇 施設が地域で在宅サービスを提供する拠点としての役割をもってきた。高齢者の視点に立って医療と福祉にわたる在宅介護サービスを適切に提供するため、1990年には在宅介護支援センターが創設された。

第2節 介護を必要とする高齢者の自立を国民皆で支援

○ 高齢者介護への新たな対応の必要性
 寝たきりや痴呆の高齢者の増加、介護期間の長期化など、介護ニーズがますます増大すると見込まれる中、核家族化の一層の進行、介護する家族の高齢化など家族をめぐる状況も大きく変わりつつあり、介護の問題が、家族にとって大きな負担としてのしかかってくる状況が生じてきた。
 一部の限られた問題ではなく、普遍的な問題となった高齢者介護に対して、国民皆で介護を支え合おうとするものとして、新たに介護保険制度が導入された。
○ 自立支援の理念
 介護保険制度では、要介護状態になった者が「その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」必要なサービスを提供することとされ、単に身の回りの世話をすることを超えて、「高齢者の自立支援」を理念としている。こうした理念は、住み慣れた地域での生活を続けることができるよう、自立を支える多様な在宅サービスを重視している点にも現れている。
○ 高齢者の介護ニーズに普遍的かつ公平に応える仕組み
 これまでの措置による制度と異なり、介護保険制度では、高齢者の介護ニーズのみに着目してサービス提供が決定され、権利として適切なサービスを選択して受けることができる。
 サービス給付の前提となる要介護認定については、「介護の手間」を判断の基準として行われ、所得や家族の状況に関わらず必要な介護サービスが受けられることが明確にされた。また、公費や若い世代の負担を含め、全国的な負担の上に成り立っていることから、全国を通じて客観的で公平な基準に基づいて行うこととされている。
○ 国民皆で支える制度
 40歳以上のすべての者を加入者とし、国民皆で介護サービスを支える仕組みをとっており、高齢世代も制度を支える立場を位置付けられている。

第3節 高齢者の立場に立ったサービスの総合化

○ 福祉と医療の垣根を取り払った介護サービス
 介護保険制度では、これまで高齢者福祉サービスと高齢者医療サービスに分かれていた介護サービスが一つの制度として統合され、総合的なサービスを利用しやすい仕組みとなっている。(図4-3-1)
 これまで制度間や利用者間にあった利用者負担の不均衡が是正されており、原則としてかかった費用の1割を公平に利用者が負担する仕組みが採られている。

図4-3-1 従来の高齢者福祉・高齢者医療の介護保険への再編成

〇 ケアマネジメントによるサービスの計画的な利用
 多くのメニューの中から、一人一人の高齢者のニーズにふさわしいサービスが提供されるよう、新しい専門職である介護支援専門員(ケアマネジャー)が、ふさわしい介護サービスの内容を検討し、地域の様々なサービス提供事業者と連絡調整を行い、継続的なサービス利用を確保することとされている。

第4節 高齢者の選択に基づくサービス提供

1 介護サービス市場の登場

〇 これまでの措置制度ではサービス提供は行政が責任をもち、利用者が事業者を選択することは制度的には保証されていなかったが、これからは、利用者も事業者を選択し、契約を結ぶ当事者としてサービスを利用する。こうした介護サービス市場の登場により、サービス供給量の増加と質の向上が期待される。
〇 介護サービスを担う事業主体は、一定の条件を満たせば都道府県による指定を受けて参入できる。在宅介護サービス事業では、社会福祉法人、医療法人、民間企業、農協、生協、特定非営利活動法人などの多様な主体の参入が期待される。(図4-4-2)
○ 同じ事業者の介護保険によるサービスと保険給付外のサービスを組み合わせて利用することもできる。また、事業者によっては、都道府県に届け出て割り引いた価格でサービスを提供することもできる。
 さらに、市町村は、高齢者の保険料を財源に、給付上限を引上げたり、法定外のサービスを保険給付の対象にすることもできる

図4-4-2 主体別に見た居宅サービス指定件数

2 介護事業の振興と利用者の保護

〇 健全な競争が働いてサービス供給の充実が図られるよう基盤整備が重要となる。
 厚生省では、サービス事業者に対する情報提供、支援など介護事業の健全な振興に取組んでいる。介護関連事業振興政策会議の取組みも紹介。
〇 利用者の選択の支援と保護のため、人員・施設・運営基準によるサービス水準の確保、サービス事業者等に関する情報提供、契約の支援、事業者と利用者を橋渡しする介護相談員の派遣といった取組みも進められている。
〇コラム『身体的拘束の原則禁止』から

 特別養護老人ホーム等の運営基準にある身体的拘束の原則禁止に関して、福岡県の取組みを紹介するとともに、今後介護現場において、本人や家族の理解を得ながら拘束をしないためのケアの工夫を重ねていくことが求められていることを紹介。

第5節 市町村を中心に地域がつくる介護サービス

○ 介護制度の運営主体は市町村
 介護サービスの地域性や、市町村のこれまでの実績を勘案し、住民に最も身近な市町村を中心的な運営主体としている。市町村は、65歳以上の被保険者の管理や被保険者証の発行、住民の要介護認定、保険給付としての費用の支払いなどを行う。
○ 市町村行政に与える影響
 市町村が運営主体となることにより、住民の意見を踏まえた行政が促されること、サービス供給のための負担についても市町村が責任をもつこと、市町村の判断で制度を柔軟に組み立てられることなど、市町村行政にも大きな影響を与える。広域的な取組み状況も紹介。
 実際には、高齢者福祉に関するこれまでの取組み状況の違いから、地域によってサービスの水準に差はみられるが、住民のニーズに応え、地域の間で切磋琢磨することで、介護サービスの基盤が充実していくことが期待される。

○ 地域に密着したサービスの提供
 介護サービス事業は、地域の中で雇用機会を作り出す側面ももつ。また、サービスの担い手の資質がサービスの質的側面に影響を与える。こうしたことから、地域で質の高いサービスを確保するため、高い資質をもった担い手の育成も今後一層重要となる。

第6節 よりよい介護保険制度に向けて

○ 社会保障の新たな方向を示す介護保険
 介護保険制度は、高齢者を等しく社会の構成員として捉えながら、老後の最大の不安である介護を国民皆で支え合い、高齢者の自立を支援していこうとするものであり、この理念と仕組みは、これからの社会保障の新たな方向性を示すものでもある。
〇 新たな介護保険制度がもたらすもの
 介護保険を契機として、地域の中で共に支え合おうとする機運が育まれたり、介護保険の運営を広域的に実施するなど、地方自治のあり方の上でも大きな影響を与えている。少子高齢社会の介護という大きなテーマを通じて、社会全体のあり方にもいくつかの効果をもたらしている。
○ より良いものに皆で育てていく制度
 多くの国民に関係がある新しい制度であるため、施行はされたものの、課題は残されており、その普及と定着を図るとともに、より良いものに育てていくことが必要である。
 「よりよい介護保険を育てる会」などを通じて、介護サービスの質の確保等について有識者と率直に意見を交換し、国民からの声も聞きながら、今後の施策及び制度運営に反映させるように図っている。


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