平成12年版厚生白書の概要

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第1部 新しい高齢者像を求めてー21世紀の高齢社会を迎えるにあたって

第1章 多様な高齢者

第1節 「高齢者の世紀」の始まり

1 高齢化の推移と見通し

○ 1970年には65歳以上人口は739万人、総人口に占める割合(高齢化率)は7.1%であった。2000年には65歳以上人口は2,187万人、高齢化率は17.2%(概ね人口の6人に1人)となり、この30年間に急速に高齢化が進行してきた(図1-1-1)。
 一方で少子化も進んでおり、すでに65歳以上人口は、0〜14歳の年少人口(2000年には1,860万人)を上回っている。

○ 今後更に高齢者数と高齢化率は増加し、2020年には65歳以上人口は3,334万人、高齢化率は26.9%になると予想され、今後20年間の高齢者数の増加は現在の東京都人口にも匹敵する規模である。まさに、これから「高齢者の世紀」が始まる。
 これは、例えば、生まれた子どもの半数が80歳以上の長寿を享受できる社会の達成でもあり、国民生活の向上と社会保障の充実の成果でもある。

図1-1-1 高齢化の推移と将来推計(1950〜2050年)

2 高齢者も多様な世代の集まり

○ 高齢者は、多様な人生経験と価値観をもつ世代の集まりであり、今後、更に人口規模の大きな世代が高齢期を迎え、多様な高齢者が多く現れるであろう。

○ コラム『65歳以上を「高齢者」と見る見方について』から

 現在では、65歳以上人口を「高齢者人口」、その総人口に占める割合を高齢化率(高齢者人口割合)」として高齢化の程度を見ることが多い。
 また、高齢化率7%を超えた社会を高齢化社会と呼ぶことがあるが、これは1956年の国連の報告書において、当時の欧米先進国の水準を基にして仮に呼んだことが始まりともいわれている。我が国の国勢調査においては昭和35年までは60歳以上を「老年人口」としており、65歳以上を「老年人口」としたのは昭和40年からであった。
 このように、高齢者人口をみるときの年齢区分は、固定的なものではなく、人口や社会経済状況によっても変わってくるものと考えられる。


3 高齢化の地域性

○ 今後も高齢化は全国的に進行し、2020年にはすべての都道府県で世帯主が65歳以上の高齢世帯の一般世帯に占める割合が30%以上、秋田県など7県では40%以上と見込まれる(図1-1-6)。

図1-1-6 都道府県別高齢世帯割合の推移

○ 今後、三大都市圏の高齢者人口の伸びは全国平均より大きい(図1-1-7)。東京都の高齢化率も2010年には22.8%となり、全国の高齢化率を0.8%上回ることと見込まれる。地方でも都市圏や人口の多い都市部に住む高齢者の数が大きく増加する。

○ こうした背景には、特に高度経済成長期に地方から都市圏に移動した、戦後生まれの人口規模の大きい集団が高齢期を迎えることが考えられる(図1-1-9)。
 かつてのニュータウンでも今後一斉に高齢化が進展し、全国の高齢化率を上回ることが予想される。住民の高齢化とともに、こうした地域では、小中学校の統廃合とともに、その施設を活用して高齢者向けの施設整備が構想される例も見られる。

○ 現在65歳以上の者では雇用者であった割合は50〜65%程度、これからの15年に65歳以上となる現在50〜64歳の者では70〜85%近くが雇用者である(図1-1-13)。

○ 地域社会との結びつきが必ずしも強くない都市に住む退職した雇用者の職場からの軟着陸と、そうした高齢者の知識や経験を地域や社会で活かせる機会を作っていくことが、高齢者自身の生きがいの観点と活力ある高齢社会と社会保障のあり方を考えていく上でも重要となろう。

図1-1-7 三大都市圏の高齢者人口の推移(1975〜2025年)

図1-1-9 同時出生集団(コーホート)・年齢別にみた東京圏の人口

図1-1-13 同時出生集団(コーホート)別にみた就業者の雇用者割合の推移(男女総数)

第2節 高齢者と家族

1 高齢者が属している世帯

○ 1998年には、65歳以上の者のうち、一人暮らしの者は13.2%(うち8割は女性)、夫婦のみの世帯に属する者は32.3%、子どもと同居している者は50.3%(うち、子ども夫婦との同居は31.2%、未婚の子どもとの同居は19.1%)と推計される。

2 子どもとの関係

○ 子どもとの同居率は、都市化の進行や家族形態の変化の中で、1980年の7割程度から現在の5割程度へと年々低下してきている。
○ 高齢者の年齢階級別に同居率をみると、高齢者の年齢が上がるにつれて高くなる傾向があり、身体機能が弱くなったりして子どもとの同居を始める「加齢による影響」が考えられる。一方、年次推移をみるとすべての年齢階級で子どもとの同居率が低くなるという「世代による影響」がみられる(図1-2-3)。現在の中高年の意識などからみると、全体としては今後も更に低下していくことが予想される。
 なお、同居率には、東北日本で高く西南日本で低いという地域性もある。

図1-2-3 高齢者の年齢階層別、子どもと同居の者の割合の推移(1975〜2010年)

○ 同じ敷地内や近隣に住む「準同居」や「近居」が近年増えており、1998年には12.7%(うち準同居は4.1%)の高齢者がこうした形態をとっている(図1-2-7)。
 これからの高齢世代は個人としての生活を大切にしながら、精神的なつながりやいざというときの支援を家族に求めるなど意識や住まい方が変化していくことが考えられる。
○ 配偶者のいない子どもと同居する高齢者の割合は、1980年の16.5%から1998年の19%と増えており、婚姻年齢が上昇している中で独立した世帯を構えず親と暮らす子どもが増えていることが想像される。

3 小規模化の進行

○ 高齢者を含む家族の小規模化が進行している。こうした家族形態の変化は、高齢者介護など今後の社会保障の展開を考えていく上でも重要な要素となる。(図1-2-11)

図1-2-7 子どもと別居(子どもの居住地別)している高齢者の割合の推移(1986〜1998年)

図1-2-11 高齢者の所属世帯人員別割合

第3節 高齢者の経済的実像

1 高齢者の経済的な状況

○ 65歳以上の者のいる家族の一人当たり所得は、全ての世帯の一人当たり所得と比べ概ね遜色ない水準となっている(表1-3-2)。

〇 「世帯主65歳以上の世帯」の一人当たり所得は、近年「世帯主40〜49歳の世帯」と同程度の水準となっている(図1-3-5)。高齢世帯主の年齢が低いほど一人当たり所得は上がっている。

○ 世帯主65歳以上の家族(二人以上)の一人当たり消費支出の伸び率は、1985(昭和60)年から1998(平成10)年にかけて、全年齢層を通じて最も大きく、高齢世帯の経済力の向上が推察される(図1-3-6)。
 また、消費支出の内容の年次推移をみると食費の割合は減り、教養娯楽費や交通・通信費の割合が増えている(図1-3-7)。

表1-3-2 65歳以上の高齢者のいる世帯の所得(1997年の所得)

図1-3-5 世帯主年齢65歳以上の世帯における1人当たり所得の推移(全世帯=100とした指数)(1988〜1997年)

図1-3-6 世帯主年齢階層別にみた1人当たり消費支出の推移(1985年=100とした指数)(1985〜1998年)

図1-3-7 世帯主65歳以上の世帯における消費支出構成比の推移(全世帯)(1980〜1998年)

2 高齢者の所得の多様性

○ 高齢者のいる世帯は、高所得の世帯はあるものの、全世帯と比べ世帯規模が小さいことから中間から低所得の割合が大きくなる(図1-3-9)。しかしながら、一人当たりの所得をみると、高齢者の所得分布も他の年齢層と大きな違いはみられない(図1-3-11)

図1-3-9 高齢者の世帯における所得階層別にみた世帯分布(1997年の所得)

図1-3-11 世帯員の年齢階層・1人当たり所得階層別世帯員分布(1997年の所得)

○ 高齢者が属している家族形態による違いをみると、「夫婦と未婚の子のみ」、「一人暮らし男性」と「夫婦のみ」に属する高齢者の一人当たり所得は比較的高く、「一人暮らし女性」、「一人親と未婚の子」、「三世代同居」の世帯に属する高齢者では比較的低い。しかしながら、高齢者以外の家族の所得も含めて一人当たり所得を比べると、家族形態による違いは小さくなる。(図1-3-14)
 「三世代世帯」は、平均的には、高齢者の所得よりも同居する高齢者以外の家族の所得の方が高く、高齢者以外の家族が高齢者を支えている面が推測されるとともに、子供との同居率の低下の背景には、経済的に自立している高齢者の増加も推察される。
○ なお、「一人暮らし女性」と「夫婦で暮らしている高齢者」との一人当たり所得の差は、1985年の6割程度から1998年の7割程度と小さくなってきている。
 また、高齢者個人についてみると、所得の低い者の割合は低下している。

図1-3-14 高齢者(65歳以上の者)が属する世帯構造別にみた高齢者個人が得ている所得と世帯員1人当たり所得

3 高齢者の所得が多様である要因と社会保障給付が果たしている役割

○ 高齢者のうち所得の高いグループでは、雇用者所得、事業所得、財産所得などの割合が大きく、こうした所得の大きさが所得格差の要因と考えられる。
 公的年金などの社会保障給付は、特に中間所得層以下の所得の相当部分を占めており、高齢者の所得の安定化と所得格差の是正に大きな役割を果たしている(図1-3-16)。
 また、家族形態からみても、女性の一人暮らし世帯や三世代世帯では、所得に占める社会保障給付の割合が大きい。
○コラム『高齢者に対して公的年金が果たしている役割』から

 「給与所得者と専業主婦の世帯」と「自営業の夫婦世帯」を比べると、受給している公的年金の額は給与所得者世帯の方が大きいが、所得全体で比べるとあまり差がなくなり、自営業者世帯は高齢になっても稼得能力が高いことがうかがえる(図1-3-21)。現状では給与所得者と自営業の年金制度の違いはその目的に応じた一定の役割を果たしている。


図1-3-16 高齢者の所得階層・所得の種類別所得の状況

表1-3-21 夫婦の現役時代の経歴類型別夫婦の平均年金額・平均収入額

4 高齢者と資産

○ 高齢者は、比較的高い貯蓄の世帯に属する割合が高い。
 貯蓄の高い世帯は所得も高いが、中程度の貯蓄を有する世帯でも所得の大きな高齢者世帯もある(図1-3-29)。
 高齢者の持ち家率は高く、所得が高いほど持ち家率も高い。
 高齢者のいる世帯の住宅宅地資産の状況をみると、所得が高い世帯ほど高い資産をもっている傾向にあるが、年収がそれほど大きくない世帯でも相当の資産をもつ世帯もある。また、若い世代と比べても、相当の住宅宅地資産を有しており、こうした資産の有効活用も今後求められるであろう。(図1-3-35)

図1-3-29 貯蓄階層・所得階層別にみた高齢者世帯の構成比(1998年)

図1-3-35 住宅宅地資産の資産額階層別にみた世帯分布(1994年、10万分比)


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