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ポリオワクチン接種後の
健康障害報告への対応マニュアル

平成12年8月31日

公衆衛生審議会感染症部会
ポリオ予防接種検討小委員会


目  次

I マニュアルの趣旨

II 健康障害の種類と定義

III 行政の対応

IV その他の留意事項

資  料

図1 行政の対応の基本的流れ
図2 異常性の判断
表1 ワクチン接種後健康障害の分類
別添1 判断するのに必要な二次情報(都道府県・国レベル)
別添2 判断するのに必要な一次情報(市町村・保健所レベル)
別添3 情報収集システムについて
別添4 実地調査の例



I マニュアルの趣旨

 今般、ポリオワクチン接種との関連が疑われるとして某県から報告された健康障害の2事例に対し、厚生省は、調査団を派遣して実地調査を行うとともに、ワクチンの品質確認調査を行った。

 当初、これらの健康障害は、ポリオワクチンに起因することが疑われたが、臨床的、ウイルス学的、疫学的調査及びワクチンの品質の確認調査により、ワクチン接種との関連は否定された。

 一方、関係各機関における対応の検証を行い、その問題点及び反省点について考慮すると、今回の事例は、ワクチンの使用の見合わせから、調査、結果の判明を経て、予防接種の再開までの間が、1か月、秋の再開まで入れると5か月かかる結果となっており、使用の見合わせを行っている間に、本来ならばワクチン接種を受けるはずであった方々の感染の可能性もあることから、多くの示唆を与えるものと言わざるを得ない。

 そもそも、予防接種法に定めるワクチン接種は、自然感染した場合に起こり得る症状の重症化や合併症とワクチンによる避けがたい健康被害とのバランスを勘案した上で、公衆衛生審議会による知見をもとに、法律で定められているものである。

 従って、健康障害の原因究明が完全にはなされていない段階で、予防接種の見合わせを行うというような社会的影響の大きい意思決定については、適切な段階を踏み、科学的根拠に基づき、合理的かつ迅速に行う必要がある。

 本マニュアルは、上記結果を踏まえ、今後同様の健康障害がポリオワクチン接種後に発生した場合に、行政機関が的確な対応を遅滞なく行うことを支援するために作成したものである。


II 健康障害の種類と定義 (表1)

 はじめに、本マニュアルで使用する用語の定義について整理しておきたい。ワクチン接種後の健康障害は、(表1)に示すように分類することができる。すなわち、(1)ワクチンを正しく接種した場合でも起こり得る反応(予防接種後副反応)、(2)予防接種行為自体に対する反応、(3)予防接種が先行していたためにワクチン接種との因果関係が一見考えられる事例(紛れ込み事例)、(4)ワクチン自体に問題がある場合や接種の方法に問題がある場合(ワクチン関連物的・人的問題)に分類することができる。さらに、(4)ワクチン関連物的・人的問題は、@)ワクチンの品質に問題がある、A)ワクチンの取扱いに問題がある、B)接種上の間違い、の3つの場合に細分することができる。

 なお、本マニュアルでは、ワクチンとの因果関係が証明された健康障害のみを「健康被害」と呼び、それ以外のものは、広く「健康障害」と呼んでいる。

 また、予防接種法に基づく予防接種による健康被害の救済に関する措置においては、予防接種による疾病、障害又は死亡について、上記の健康障害の分類を用いて健康被害の認定を行っている訳ではない。


III 行政の対応

III―1 基本的な流れ (図1)

 予防接種法に基づいて行われる予防接種は、感染症対策における最も基本的かつ重要な手法であり、「予防接種を見合わせる」には、十分な根拠が必須であり、そのためには、厚生省及び地方公共団体が協力して、ここに定める段階を踏み、意思決定を行う必要がある。それを怠った安易な意思決定は、国民を感染症から守るという観点から厳に慎むべきである。

 健康障害の第1報を受けた後、行政機関が適切な対応を行うために踏まなければならない段階については、その全体的な流れを(図1)に示す。

(都道府県レベル)

○ 第1報を受けた場合は、(別添1)に沿って、健康被害とされる症状について情報確認及び同様の発生状況の把握に直ちに着手する。

○ 同時にワクチン製造業者に、健康被害が疑われる症例に関する情報を提供するとともに、製品についての情報等関連情報の入手に努める。

○ 市町村(特別区を含む。以下同じ。)及び保健所は、相互に密接な連携を図り、(別添2)及びそれに付した「ポリオ様疾患患者調査票I」(及び必要に応じ、同調査票II)を用いて、地域における類似感染症の流行状況等の関連情報の収集を行う。

○ なお、情報収集においては、患者の検体(便からのウイルス分離等)の検査は、最も基本的かつ重要であり、検体の採取が早い時期に確実に行われていることを確認する必要があることは言うまでもない。

○ 都道府県は、地域内専門家への相談と収集された情報の分析とを行う。

(厚生省レベル)

○ 厚生省は、都道府県から相談を受けた場合、情報の精度と矛盾の有無をチェックし、助言を行う。

○ 厚生省も(別添1)を用いて、必要に応じたワクチンの品質の確認を含む全国的情報収集を行う。

○ 厚生省は、全国的観点から情報分析を行うとともに、厚生省の「予防接種専門家諮問グループ」その他の専門家の意見を聴取する。

○ これらの情報収集及び分析は、学術専門団体である日本医師会と十分な連携を図りながら行う。

(厚生省及び都道府県の共同作業)

○ 厚生省及び都道府県は、それぞれ総合的に情報を分析し、「異常の有無」に鑑みて発生事例の分類を行う。 この場合、紛れ込み事例や明確なワクチン関連物的・人的問題の把握に十分配慮しなければならない(図2)。

○ 対応策の決定に当たり、厚生省と当該都道府県は、必ず協議を行い、整合性の取れた対応を行う。

○ 都道府県の対応策としては、(1)予防接種継続、(2)予防接種継続しながらモニタリング(健康障害の発生の有無を継続的に監視)、(3)予防接種を見合わせ緊急調査実施、の3つの選択肢がある。

III―2 異常性の判断と適切な対応策の検討 (図2)

 適切な対応策を決定するためには、当該事例が「異常な事例」であるか否か、判断を行う必要がある。そのためには、まず、(図2)に示す要領で、迅速に適切な情報収集を行い、合理的な判断を行わなければならない。情報収集の基本は、症状及び発生頻度の確認である。発生頻度の把握を行うためには、当該事例の発生した地域の近隣地域における状況(同一ロットでの副反応の発生状況を含む)についても情報収集を行う必要がある。

○ 収集した情報をもとに、(表1)の定義に沿って、(1)予防接種後副反応、(2)予防接種行為自体に対する反応、(3)紛れ込み事例、(4)ワクチン関連物的・人的問題(@)ワクチンの品質に問題がある、A)ワクチンの取扱いに問題がある、B)接種上の間違い)のいずれに該当するかの確認を行う。

○ このうち、(1)予防接種後副反応、(2)予防接種行為自体に対する反応、(3)紛れ込み事例、については、可能な限り、接種医、主治医及び市町村・保健所レベルで確認がなされ、その可能性が検討されるべきである。

○ その際に、接種医及び主治医は、少しでも因果関係のある可能性があれば、「因果関係を完全には否定できない」として回答する場合があるため、収集情報の精度を上げるためには、「因果関係がある可能性は相当高い」、「因果関係がある可能性は相当低い」、「因果関係がある可能性はない」、「判定できない」の選択肢を示すべきである。

○ また、(4)ワクチン関連物的・人的問題についても、丁寧な情報収集により、この問題のうちの比較的単純なもの(例えば、ワクチンの接種量や接種方法の誤り等の(4)B)接種上の間違い)についても早い段階で検討されるべきである。

○ こうした一連の情報収集及び分析の結果、予防接種見合わせを含む重大な意思決定が必要となるのは、(図2)に沿って考えれば明らかなように、(1)予防接種後副反応様の症状であっても、通常想定されるよりも多数発生しており、かつそれらが紛れ込み事例とは考えにくい場合、(2)典型的な副反応とは異なる重篤な症状の見られる事例が多数発生している場合、(3)典型的な副反応と異なる、極めて異常な症状が見られる場合、であり、その原因がワクチン関連物的・人的問題であるか判定する必要がある。

○ ワクチン関連物的・人的問題については、当該事例が広範かつ継続的に問題を引き起こす可能性が示唆される(例えば、品質に問題があるワクチンの使用範囲が大きく、広域的に使用されている等)場合には、速やかに厚生省に連絡され、国レベルの対応が検討されるべきである。

○ また、ワクチン関連物的・人的問題は、それが判明した段階で、直ちにその除去を行うことが原則である。

○ (4)@)ワクチンの品質に問題があることが考えられる場合であって、その確認に時間がかかることが想定される場合には、他の都道府県における予防接種に対する影響も考える必要があり、予防接種の見合わせを行うことを含め、重大な意思決定が必要となり得るので、厚生省と十分に協議すべきである。

III―3 予防接種再開の条件

 一旦予防接種を見合わせた場合、予防接種を再開するか否かの決定は、原則的に厚生省が行うものとする。

 再開のための条件は、疫学的に異常がなく、ワクチンの品質に問題が認められないことが確認されることであり、具体的には、次の条件が満たされる場合である。

(予防接種再開の条件)

(1) 疫学的に異常がない
 同一バイアル、同一ロットで接種を受けた、同一時期にワクチン接種を受けた被接種者のいずれからも類似の健康被害が予想される頻度以上に発生していないことが確認されている

(2) ワクチンの品質が確認されている
・ 製品の製造過程に問題がない
・ 国家検定の成績に問題がない
・ 症状から特定の原因が想定される場合には、それに対応する検査を行い、異常が認められない


IV その他の留意事項

IV―1 情報の収集と確認について

(1) 情報収集システム

 健康障害への対応において迅速に情報の収集を行うためには、通常時から正確な情報収集システムが確立していることが鍵となる。ワクチン接種との関連が疑われる何らかの報告があった場合には、速やかに詳細な情報の入手と精度の確認を行うことが重要である。

○ 通常時の情報収集システムとしては、予防接種制度及び薬事法に基づく副反応(副作用)の情報収集システムがある(別添3)。

○ 予防接種制度(予防接種後副反応報告)においては、その情報の流れは、「医師等」→→「市町村」→「都道府県」→「国」とされている。市町村長が報告書を作成することとされていることから、一次レベルの情報の収集は、市町村の役割であり、それを都道府県(必要に応じて国)が支援することとなる。

○ 薬事法においては、その情報の流れは、一般的に「医師等」→「製造業者」→「国」であり、製造業者が情報収集の主体となっている。

○ 予防接種法に基づく報告と薬事法に基づく報告は別のシステムであるが、医師の負担を軽減するとともに、より効果的な情報収集を行うため、都道府県は、症例について入手した情報を製造業者に提供し、製品についての情報提供を依頼する等、相互に情報を共有し、迅速な対応を可能にするシステムの構築を行う必要がある。

○ 新たなシステムを構築するよりも、これら現行システムの徹底を図り、報告の遅滞がないように努める必要がある。

(2) 情報の伝達

 情報は、伝達はされても、発信側の意識と受信側の意識のずれがある場合等、内容が異なって伝わる場合がある。情報伝達の確実を期すため、伝達手段としては、詳細情報をファックスあるいは電子メールで送付した上で口頭で伝達確認する。また、その都度、情報伝達については時刻及びその内容について記録することが望ましい。
 また、伝達する情報は、「発生事例についての収集情報」、「それに対する対応」に分けて聴取する。情報収集がどの段階まで進んでいるのか、収集されている情報については、(別添1)を共通様式として確認することが望ましい。

(3) 地域内専門家への相談と情報の分析

 都道府県は、医師会等の協力を得て、平常時から相談できる予防接種の専門家との地域内連絡相談体制を確保することが重要である。収集された情報が十分なものであるか、更に収集すべき情報がないかを判断した上で、情報の分析を行う際には、原則として必ず、これらの地域内専門家に相談することとする。なお、地域内に相談できる専門家がいない場合には、厚生省が「予防接種専門家諮問グループ」に照会することが適当である。

IV―2 緊急調査実施について

(1) 調査の実施目的

 都道府県における収集情報及び地域内専門家への相談と情報の分析のみでは、当該事例の症状等について(1)予防接種後副反応、(2)予防接種行為自体に対する反応、(3)紛れ込み事例、(4)ワクチン関連物的・人的問題、のいずれに該当するのか同定することが困難である場合、厚生省において「予防接種専門家諮問グループ」を編成して照会に答えるものとするが、より高度の専門的な情報収集及び分析が必要とされる場合には、緊急調査が実施される。

(2) 調査班の構成

 二次的な情報収集を行うことから、基本的に、都道府県又は厚生省が主体となる調査が行われる。都道府県又は厚生省が事務局となり、日本医師会等の協力を得て、ウイルスの専門家、感染症の疫学専門家、当該地域の臨床専門家等で調査班を構成する。

(3) 調査の内容

 某県の事例においては、臨床的な情報と疫学的な情報の収集のために実地調査が行われた。疫学調査を基本として、更に、ワクチンの性状及び取扱い、予防接種の手法、提供されたサービスについても調査が行われた。その際の実地調査の流れを(別添4)として添付する。
(参考)

 世界保健機関(WHO)では、調査の手順について、「調査にあたっては、調査を行う前に可能な限り基礎的な情報について収集し、それに基づき、仮説を立てることが重要である。仮説は調査の過程で変わることもあるが、その後、調査の焦点は、仮説を検証することになる。また、調査中の定義による明確な症例の定義は不可欠である。調査では、地域の全ての症例を同定し、疑われるワクチンの接種を受けた全員について結果を明らかにする必要がある。疾患の危険性について、ワクチンを接種した人としていない人について比較しなければならない。」としている。
 さらに、「並行して、病原体及びワクチンの品質に着目した調査も行われるべきである。検査によって疑われる原因が確認されたり、判明することもある。」とされている。

(4)情報の管理

 都道府県においては、調査が実施されることについて厚生省と協議の上で公表するが、 現地における訪問先等の詳細情報については、調査結果と併せて後日提供することとする。なお、情報提供窓口については、一元化すべきである。

IV―3 関係機関の連携

 健康障害への対応を行うに当たり、市町村、都道府県、厚生省、日本医師会等の関係機関がそれぞれの役割を十分に果たすと同時に、これらの機関が十分な連携を図ることが重要である。

IV―4 報告患者等への対応

 患者やその関係者に対しては、ワクチンとの因果関係の有無に関わらず、十分な配慮が必要である。特に、死亡した例等の場合には、親族を亡くした心の痛みに配慮すべきである。

IV―5 対応の記録と評価

 全ての症例の調査について、時系列的に明確に記録することが重要である。調査の結果を公表する際及び今後同様の事例が発生した場合にもよりよい対応が可能となる。

IV―6 情報の提供と公開

○ 都道府県及び調査団等において収集された情報については、原則として、全て公開する。当然のことながら、十分な確認作業が行われた上で、確認できたことのみならず、不明な点についても分かりやすい形で説明を行う必要がある。

○ また、関係者のプライバシー等については、十分に注意し、情報公開を行う場合には、事前に十分な理解と同意を得ておくことは大前提である。

図1 行政の対応の基本的な流れ

図2 異常性の判断


表 1

ワクチン接種後健康障害の分類

 ワクチン接種に関連すると思われる有害事象について、本マニュアルでは、下記の分類を用いる。

(1) 予防接種後
副反応
ワクチンを正しく接種しても起こり得る事象。軽微なものと重篤なものがある。
(例)ポリオワクチン接種により引き起こされる軽微な反応としては、発熱、下痢等があり、重篤なものとしては、急性弛緩性麻痺がある。
(2) 予防接種行為
自体に対する反応
ワクチン接種を受けるという行為自体により不安や痛みが強く見られる事例。
(3) 紛れ込み事例 ワクチン接種が原因でない偶発事象であるのにもかかわらず、たまたまワクチン接種が時間的に先行していたため、因果関係があるかのように思われる事例。
(例)ポリオワクチン接種の場合は、乳児突然死症候群や他のエンテロウイルス感染症等が紛れ込み事例となることがある。
(4) ワクチン関連
物的・人的問題
ワクチンの品質又はその取扱い、接種医等による接種上の誤りにより起きる事例。
@)ワクチンの品質
に問題がある
ワクチンの製造過程に問題がある。
(例)予期しない毒性復帰、不純物の混入等。
A)ワクチンの取扱
いに問題がある
定められたワクチンの取扱い方法が守られていない(例)温度管理が不適切、有効期限切れのものを使用している等。
B)接種上の間違い ワクチンの接種量、接種方法(経口・注射等)の誤り、接種不適当者、接種要注意者に対する不注意な接種等、適切な問診等で回避できるはずの重篤な反応。

〈表1の解説及び具体的な資料は以下の通りである。〉

(1) 予防接種後副反応

 ワクチン接種の目的は、ワクチンによって、自然感染に近い免疫を誘発することであるが、その過程で副反応が生じることがある。ワクチン接種後の副反応は、一般的に見られる軽微な反応と、希に見られる重篤な反応に分けられる。ほとんどの場合、副反応は軽微なものであり、そのまま鎮静する。

 一般的に見られる軽微な反応としては、局所的反応、発熱、全身症状が免疫反応の一環として起きることがある。さらに、ワクチンに含まれる他の成分に対する反応が起きることもある。有効なワクチンはこうした反応を最低限に抑え、最大限の免疫を作るものである。 ポリオ生ワクチンの接種後の一般的に見られる副反応としては、発熱、嘔吐、下痢があり、いずれも接種後5日以内に数%の頻度で見られる。また、重篤な反応としては、極めて希に(440万人当たり1人)弛緩性麻痺が見られることがある。

(2) 予防接種行為自体に対する反応

 例えば、注射による予防接種では、注射した結果(痛み刺激として)、個人や集団が反応を起こる事例が報告されている。また、予防接種に対する不安から過換気となり、特定症状(軽い頭痛、めまい、口周辺や手の痛み)が発症した事例も報告されている。
 幼児は、嘔吐を伴う一般的な不安症状が認められることもある。注射を避けるために泣き叫んだり、走り出すこともある。

(3) 紛れ込み事例

 ワクチン接種とは関係ない偶発事例であるにもかかわらず、たまたまワクチン接種が時間的に先行していたために、それが誤ってワクチンの結果とされてしまうことがある。
 ワクチン接種の対象となるのは、通常、感染症や、潜在的な先天的または神経学的症状の発現を含む感染症以外の疾病の発症が多く見られる幼児である。従って、偶発的な死亡を含む多くの事例がワクチン接種に起因すると誤解される可能性がある。
 例えば、わが国では年間約400名が報告されている乳児突然死症候群(SIDS:sudden infant death syndrome)は、早期予防接種の年齢周辺に、発生のピークを迎える。従って、SIDSがワクチン接種を受けた直後の小児に起きることがある。この中には、ワクチン接種に関連するものとして報告され、紛れ込み事例となっているものがあるものと考えられる。
 紛れ込み事例となり得るものの中には、明らかに無関係で調査を必要としない(肺炎等)ものが多い。しかし、そういった場合でも、聞き方によっては、「因果関係は完全には否定できない」とされることがある。
また、死亡の転帰をとった場合等は、特にそれまでは健康であった場合等、予防接種と時間的に強く関連するために、保護者や地域がワクチンの責任を問うこともある。

(4) ワクチン関連物的・人的問題

 ワクチン関連物的・人的問題は、ワクチンの品質に問題がある、ワクチンの取扱いに問題がある、接種医等による接種上の間違いがあることによって発生する。ワクチン関連物的・人的問題では、一般的に、特定のロットのワクチン接種、特定の会場、特定の日における接種等、物、場所、時間、人の集積性が観測される。

有害事象を招くワクチン関連物的・人的問題
ワクチン関連物的・人的問題の例   有害事象
非殺菌注射   感染症
・使い捨て注射器や針の再使用
・注射器や針の不完全な消毒
・ワクチンまたは希釈液の汚染
(接種部位の局所的化膿、膿瘍、蜂巣織炎、全身性感染症、敗血症、毒性ショック症候群、血液に由来するウイルスの感染等)
ワクチン製造の不備
・生ワクチンに使用するワクチン株の予期しない毒性復帰 当該疾患の発症
・不純物の混入 アナフィラキシー
予防接種部位の誤り
・BCGを皮内でなく皮下に注射 局所反応または接種部位の膿瘍
・臀部に注射 坐骨神経損傷
ワクチンの輸送・保管の不備 凍結ワクチン(と効力を失ったワクチン)による局所反応の増悪
  ワクチンの免疫原性が低下
接種不適当者、接種要注意者への接種 回避できるはずの重篤なワクチン反応


別添 1

判断するのに必要な二次情報
(都道府県・厚生省レベル)

○ 周囲の疫学情報

同一バイアル、同一ロットで接種を受けた集団における健康障害発生状況
同時期に接種を受けた集団における健康障害発生状況
同時期の感染症発生動向(感染症発生動向調査及び医療機関情報)

○ 報告患者に関する検査

(例)便、髄液:ポリオウイルスを含むエンテロウイルス分離、抗体検査

○ ワクチンに関する情報

メーカーのワクチン製造、在庫、流通に関する状況
検定に関する状況


別添 2

判断するのに必要な一次情報
(市町村・保健所レベル)

※ポリオ様疾患患者調査票Iを活用。必要に応じ、IIも活用。

○ 報告患者に関する情報

性 年齢 既往歴 家族歴
接種日 接種日の状況
発症日 初発症状 経過及び治療に関する情報
診断(健康被害とされる症状)
診断に要した検査結果(麻痺等の場合には特に画像情報は重要)
診断医の判断(因果関係: 相当高い、相当低い、ない、判定できない)

○ ワクチンに関する情報

ワクチンロット番号 メーカー名
保管状況

○ ワクチンの接種状況に関する情報

接種担当者 接種の手順

○ 周囲の疫学情報

同日に接種を受けた集団における健康障害発生状況
同時期に接種を受けた集団における健康障害発生状況
同時期の感染症発生動向(感染症発生動向調査及び医療機関情報)


ポリオ様疾患患者調査票1

ポリオ様疾患患者調査票2



別添 3

情報収集システムについて

 情報の収集には、通常期の情報の収集と異常事態が発生した際の情報収集に分けて考える必要がある。
 通常期の情報収集としては、現在、予防接種制度に基づく報告として「予防接種後副反応報告」と「予防接種後健康状況調査」が、さらに薬事法に基づく製造業者からの副反応(副作用)の報告がある。

1. 予防接種制度に基づく報告

 予防接種法第19条第3項において、国の責務として、予防接種による健康被害の発生状況に関する調査等を行うものとする旨定められており、この条文等を根拠に次の副反応報告がなされている。

(1) 予防接種後副反応報告

○ 報告の根拠

 「予防接種実施要領」(平成6年8月25日健医発第962号)に基づき、医師が予防接種後の健康被害を診断し市町村に報告した場合や、市町村が保護者等から健康被害の報告を受けた場合には、市町村は保健所を経由して都道府県に報告し、都道府県は速やかに国に報告することとしている。
 国は、報告事項を集計し、コメントを加えて、都道府県を通じて、市町村に通知することとしている。(市町村、都道府県においては、報告事項の検討を行う仕組みにはなっていない。)

○ 報告の基準

 予防接種後に稀に起こり得る典型的な症状と「その他、通常の接種では見られない異常反応」が報告基準として規定されている。なお、報告基準は、予防接種との因果関係や予防接種健康被害救済と直接結び付くものではない。

(2) 予防接種後健康状況調査

○ 報告の根拠

 「予防接種後健康状況調査実施要領」(平成7年12月25日健医発第1525号)に基づき、各都道府県でワクチンごとに原則1実施機関(ポリオの場合は、個別接種の場合は医療機関、集団接種の場合は市町村)を選定し、当該実施機関が規定の対象者を調査し、県に調査結果を報告し、県が国に報告している。国への報告は、予防接種実施後数か月後になっている。

○ 報告の基準

 通常の副反応、極めて稀に起こり得る副反応、予防接種による副反応と考えられていない接種後の症状を報告することとしている。なお、これらの報告は、予防接種との因果関係や予防接種健康被害救済と直接結び付くものではない。

2. 薬事法に基づく副反応(副作用)報告

○ 報告の根拠

 薬事法第77条の3第1項において、医薬品の製造業者は、医薬品の適正使用のために必要な情報を収集、検討し、医療機関、薬局等に対して提供するよう努力する旨が規定されており、同条第2項において、医療機関、薬局等は、医薬品製造業者の情報の収集に協力するよう努力する旨が規定されている。
 また、薬事法第77条の4の2において、医薬品の製造業者は、医薬品の副作用によるものと疑われる疾病、障害又は死亡の発生等を知ったときは、厚生省令で定めるところにより厚生大臣に報告しなけらばならないと規定されている。

○ 報告の基準

 厚生省令において、(1)死亡、障害等の症例(重篤症例)のうち医薬品の副作用によるものと疑われるものであり、かつ、当該症例の発生等が添付文書又は使用上の注意から予測できないもの等は知った日から15日以内、(2)重篤症例のうち医薬品の副作用によるものと疑われるものであり、かつ、当該症例の発生等が添付文書又は使用上の注意から予測できるもの等は知った日から30日以内に報告しなければならないと規定されている。


別添4

実地調査の例
−某県、ポリオ予防接種副反応実地調査実施方針−

1.目的

 報告症例について、ポリオワクチンとの因果関係を疫学的、臨床的に明らかにすることを目的とする。

2.調査内容

(1)報告患者に関する臨床情報の収集

(2)報告患者に関する疫学情報の収集

3.調査の手法

(1)県による事前資料収集

(2)現地ヒアリング及び患者の診察

(3)現地資料調査

4.調査の流れ


5.具体的流れ

(1)県からの状況聴取

(2)関係者からのヒアリング及び資料調査

症例1:診察医療機関、接種医及び接種関係者、保健所、市町村担当者
症例2:診察医療機関、接種医及び接種関係者、保健所、市町村担当者

(3)患者の診察

(4)調査班による検討

(5)県へのブリーフィング及び今後の指示

6.調査事項

(1)背景情報

○ポリオワクチンの疫学情報(県調査)−県が事前に調査
a.同一バイアルで接種を受けた被接種者の人数と健康状態
b.同一投与者によって接種を受けた被接種者の人数と健康状態
c.同一会場で接種を受けた被接種者の人数と健康状態
d.県内で同一ロットで接種を受けた被接種者の人数と健康状態
○急性無菌性髄膜炎・脳炎脳症流行状況について(県調査・当日ヒアリング)
 県が事前に調査するとともに、調査班による県衛生研究所からのヒアリングを実施。
a.患者周辺での発生状況:周辺医療機関に問い合わせ調査。
 疾患の定義については、感染症法に基づく
b.県内での発生状況:発生動向調査の整理

(2)報告患者に関する情報(県調査、当日ヒアリング)

○性 年齢 既住歴 家族歴
○接種日 初発症状
○経過及び治療に関する情報
○診断(健康被害とされる症状)診断に要した検査結果(麻痺等の場合には特に画像情報は重要)
○診断医の判断(無関係、否定的、肯定的、関係あり)

(3)ワクチンに関する情報(当日ヒアリング)

○流通・保管状況
○接種の状況
 接種担当者
 接種の手順

(4)その他の情報(当日ヒアリング)

○報告患者に関する検査の実施状況−病原体情報
 例)ポリオ−便、髄液−ポリオウイルスを含むエンテロウイルス分離、抗体検査


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