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「ポリオ」と「ポリオの予防接種」について知っていただくために

厚 生 省

公衆衛生審議会感染症部会
ポリオ予防接種検討小委員会

平成12年8月31日


目 次
I はじめに
I−1 この春のポリオの予防接種の見合わせの背景とその後の経過
I−2 ポリオの予防接種を全面的に再開します。
II ポリオってどんな病気?
II−1 ポリオに感染すると手や足に麻痺があらわれることがあります。
II−2 ポリオは、人から人へ感染します。
II−3 ポリオによる麻痺には、確実な治療法はありません。

III ポリオの予防接種はなぜするの?

III−1 予防接種によってポリオに対する免疫(抵抗力)をつけます。
III−2 例年、95%以上注4のお子さんがポリオの予防接種を受け、最も安全なワクチンとして定着しています。
III−3 しかし、今年は約60%注4のお子さんしか受けていません。

IV ポリオワクチンってどんなもの?

IV−1 現在のポリオワクチンには、毒性を弱めたウイルスが入っています。
IV−2 ポリオの予防接種を受けた人の中には、ポリオにかかった時と同じような麻痺を生じることがあります。
IV−3 ポリオの予防接種を受けた人の周囲の人にも、ポリオにかかった時と同じような麻痺を生じることがあります。
IV−4 ポリオウイルス以外にもポリオによく似た症状をあらわす感染症があります。

V ポリオの予防接種は、今も必要なの?

V−1 予防接種によってポリオの大流行を防ぐことができました。
V−2 今でも、海外からポリオウイルスが国内に入ってくる可能性があります。
V−3 ポリオに対する免疫をもつ人の割合が減ると、流行する危険があります。

VI ポリオの予防接種の方法は?

VI−1 生後3か月から18か月(1歳6か月)の間に2回、ワクチンを飲みます。
VI−2 法律に基づく予防接種は、市町村が実施します。
VI−3 予防接種を受ける際は、必ず受ける前に医師と接種を受ける人(保護者)が十分にお話をする(予診)必要があります。
VI−4 予防接種を受ける際は、医師が受ける人の体調や体質などをチェックします。
VI−5 病気やアレルギー、免疫機能の低下のある人は、予防接種を受けられない場合があります。
VI−6 予防接種を受けた後にも、注意していただくことがあります。

VII ポリオの予防接種をより安心して受けていただくために

VII−1 予防接種は、予防接種を受ける前に受ける人や保護者に効果や副反応について理解していただいた上で 行うことが必要です。
VII−2 相談窓口を確認しておいてください。
VII−3 ロット39のポリオワクチンを使用しても差し支えありません。

(別 添) 「ポリオ」と「ポリオの予防接種」について


I はじめに

I−1 この春のポリオの予防接種の見合わせの背景とその後の経過

 現在、ポリオ(急性灰白髄炎(きゅうせいかいはくずいえん))の予防接種に使用している(飲んでいる)生ワクチンは、最も安全で確実な効果があるワクチンの一つと考えられていますが、この春、比較的短い期間に、ある県にお住まいの二人のお子さんが続けて、脳炎で亡くなったり、手足の麻痺や無菌性髄膜炎(むきんせいずいまくえん)という症状があらわれたという報告がありました。二人のお子さんは、ともにこれらの症状が出る直前にポリオワクチンの接種を受けており、厚生省は、念のためにこの二人のお子さんに使用していたのと同じロット39という製造番号(以下「ロット39」という)のワクチンの安全性を確認することとし、それまでの間、このワクチンを使用する予防接種の見合わせをしました。その後、厚生省は、調査団を派遣してこの二人のお子さんの症状や経過などの調査を行いました。その結果、二人のお子さんのうち脳炎で亡くなったお子さんの症状はポリオワクチンとは関係がないこと、もう一人の麻痺の症状があらわれたお子さんは、当初、ポリオワクチンとの関係が疑われたものの、その後の検査結果で関係がないことがわかりました。
 一方、ほぼ同じ時期に他の県においてポリオの予防接種を受けたお子さんの父親に、ポリオと同じ様な麻痺の症状があらわれたという報告がありました。これについても厚生省は、地元の県や医師会の参加を得て調査団を編成し、調査を行いました。調査の過程では、症状はこれまでにもポリオの生ワクチンの接種の後に時おり周囲の人に起こると報告されているものであることがわかりました。また、同時期に他に同様の事例の報告はなく、頻度的にも多く発生しているとは考えられませんでした(「IV−3 ポリオの予防接種を受けた周囲の人にもポリオと同じ様な麻痺を生じることがあります。」参照)
 また、ロット39のワクチンの製造過程も調査しましたが問題はありませんでした。ワクチンの輸送や保存にも問題はありませんでした。
 これらの事実を整理してみますと、二人のお子さんの事例はポリオの予防接種とは関係がないこと、父親の事例はポリオの予防接種と関係があるものの症状や頻度はこれまでにも報告されている範囲内と考えられること、ワクチンの製造過程などにも問題がないことがわかりました。このような状況から、ロット39のワクチンに問題はなく、今後も使用して差し支えないと判断されました。

I−2 ポリオの予防接種を全面的に再開します。

 日本では、1980(昭和55)年の1例を最後にポリオの自然感染(野生株のポリオウイルスによる感染)の報告はありません。このような状況の中で、なお、ポリオの予防接種を継続する必要があるのだろうかという意見もあるかも知れません。しかし、今でも海外からポリオウイルスが国内に入ってくる可能性があること(V ポリオの予防接種は、今も必要なの?」参照)、一方、予防接種によりポリオの感染予防や流行を防ぐ効果は極めて高いことから、厚生省では、これからもポリオの予防接種を引き続き行う必要があると考えています。
 なお、ポリオの生ワクチンは、その製造施設、製造方法などについて自家検定、国家検定と厳しいチェックを行っており、これらに合格したもののみが使用されています。また、輸送、取り扱いなどのあらゆる場面で安全性のチェックが十分に行われています。しかし、ポリオの生ワクチンの性質上、予防接種を受けた人やその周囲の人にポリオと同じ様な症状があらわれることがあります(「IV ポリオワクチンってどんなもの?」参照)。厚生省では、これまでも予防接種についての正しい知識の普及に努めていますが、今回、ポリオの予防接種を全面的に再開するにあたり、あらためてポリオやワクチンの専門家、正しく情報を提供する報道の専門家などからなる委員会を設け、受ける人や保護者に十分にポリオやポリオの予防接種について理解していただくとともに、予防接種を実施する市町村等の関係者も正しい知識を持って適切に対応していただくために検討を行いました。
 この冊子に書かれている内容を十分に理解していただき、納得していただいた上で、ポリオの予防接種を受けて下さい。
 なお、何か質問等があれば、市町村の担当者に問い合わせて下さい。

# 市町村、都道府県等の問い合わせ先を記載のこと



II ポリオってどんな病気?

II−1 ポリオに感染すると手や足に麻痺があらわれることがあります。

 ポリオウイルスに感染しても、多くの場合、病気としての明らかな症状はあらわれずに、知らない間に免疫(その後、ポリオに感染しない抵抗力)ができます(不顕性感染(ふけんせいかんせん))。しかし、ウイルスが脊髄の一部に入り込み、主に手や足に麻痺があらわれることがあり注1、多くの場合、その麻痺は一生残ります。成人が感染することもありますが、1〜2歳の子どもがかかることが多かったので、かつてはポリオのことを「脊髄性小児麻痺(略して「小児マヒ」)とも呼んでいました。

注1 麻痺があらわれた患者さん一人の周囲には数百人から千人程度の不顕性感染の人がいると言われています。言いかえるとポリオウイルスに感染した場合、数百人から千人に一人の割合で麻痺があらわれると考えられます。感染してからこのような麻痺の症状が出るまでの期間(潜伏期間)は4〜35日(平均して15日)です。

II−2 ポリオは、人から人へ感染します。

 ポリオは、ポリオウイルスが人の口に入って腸の中で増えることで感染します。増えたポリオウイルスは、再び便の中に排泄され、この便を介してさらに他の人へと感染していきます。

II−3 ポリオによる麻痺には、確実な治療法はありません。

 麻痺の進行をとめたり、麻痺を回復させるための治療が試みられてきましたが、現在、残念ながら特効薬などの確実な治療法はありません。麻痺に対しては、残された機能を最大限に活用するためのリハビリテーションが行われます。
 従って、感染しないようにすること、つまり「予防」こそが、麻痺を防ぐ唯一の方法なのです。



III ポリオの予防接種はなぜするの?

III−1 予防接種によってポリオに対する免疫(抵抗力)をつけます。

 赤ちゃんは、お腹の中にいるうちには胎盤をとおして、生まれてからは母乳によってお母さんから免疫を譲り受けるため、生まれて間もない時期には様々な感染症から守られていますが、この免疫は生後数か月で自然に失われていきます。
 その後は、いろいろな感染症にかかることによってそれぞれの免疫がついていきますが、感染症にかかることなく人工的に免疫をつける方法が予防接種です。現在行われているポリオの予防接種は、ポリオウイルスの毒性を弱めたウイルスを生きたまま口から入れる(飲む)ことによって免疫をつける方法です。

(1)法律に基づいて予防接種を行っています。

 予防接種は、一人一人に感染症に対する免疫をつけることが目的ですが、皆が免疫をもつことによって、地域全体の感染症の流行をおさえることができます。現在、日本では、ポリオをはじめとする8つの感染症(ポリオ、ジフテリア、百日せき、破傷風(はしょうふう)、麻しん(はしか)、風しん(三日ばしか)、日本脳炎、結核を法律(予防接種法、結核予防法)の対象として、それぞれ受ける年齢などを決めて予防接種を行っています。一方、予防接種を行ったことが原因と考えられる健康障害があった場合の救済制度を設けています。

参考1 予防接種健康被害救済給付制度の概要

(2)法律で対象とする年齢以外にも予防接種が効果的な場合があります。

 海外では、依然としてポリオが流行している地域があります。これらの地域に行く際には、予防接種を受けていない人はもちろん、予防接種を受けた人でも注2、より確実に免疫をつけるために、追加の予防接種を受けてから行くことが安全です。免疫は、ふつう予防接種を受けてから約1か月程度でつくといわれています。
 なお、理由はよくわかっていませんが、昭和50年から52年生まれの人たちについては、十分な免疫がついていない人の割合が比較的高いということがわかっています注2。特に、これらの年齢層の人が流行地域に行く際には、追加の予防接種を受けることをお勧めします。
 これらの予防接種は、病院や診療所などの医療機関、検疫所などで受けることができます注3が、任意接種の扱いとなり費用は自己負担になります。

注2 ポリオウイルスには、I,II,III型の3つタイプがあり、ふつう、健康な人がきちんとポリオの予防接種を受けた場合は、それぞれに対する免疫がつく割合(抗体保有率)は、I型で98%、II型で99%、III型で87%です(平成6年度流行予測調査より)。しかし、受ける人の体質、その時の体調などによって免疫がつかないことがあります。また、予防接種を1回しか受けなかった場合にも十分に免疫がつかないことがあります。(「IV−1 現在のポリオワクチンには、毒性を弱めたウイルスが入っています。」参照)
 昭和50年から52年生まれの方については、I型の抗体保有率が低い(昭和50年生:56.8%、昭和51年生:37.0%、昭和52年生:63.8%)ことがわかっています。しかし、この年齢層でもII型に対する免疫は十分についていますので、I型やIII型に対してもある程度の感染予防の効果はあるといわれていますが、ポリオの流行地に行く際やお子さんがポリオの予防接種を受ける際には、子どもの頃にポリオの予防接種を受けた方でも予防接種を受けることをお勧めします。
注3 全部の医療機関で行なわれているわけではないので、希望する予防接種が受けられるかどうかは、事前に各機関にご相談ください。


参考2 ポリオの流行地域の状況

参考3 当面のポリオ予防対策について(平成8年11月28日健医感発147号)

参考4 検疫所の一覧、連絡先

# 市町村等においては、任意の予防接種の実施機関等を記載のこと


III−2 例年、95%以上注4のお子さんがポリオの予防接種を受け、最も安全なワクチンとして定着しています。


III−3 しかし、今年は約60%注4のお子さんしか受けていません。

 夏かぜ、下痢などの症状を起こすウイルスによる感染症にかかっている場合、腸の中でそのウイルスとポリオワクチンのウイルスとが影響しあい、予防接種の効果が十分に期待できないことがあります(干渉作用)。そのため、多くの市町村ではこれらの感染症が多い夏の時期を避けて、春と秋の2回の予防接種の時期を設けて予防接種を行っています(「VI−2 法律に基づく予防接種は市町村が実施します」参照)
 今年は、春の予防接種の時期に、ロット39のワクチンを使った予防接種の見合わせをしました。ロット39のワクチンは、この時期、全国的に使われていたため、今年はまだ予防接種を受けていない人が多いと考えられます。

注4 全国で実施した人数(保健所運営報告の「定期の予防接種被接種者数」)を対象人口(標準的な接種年齢期間(生後3〜18か月)の総人口を総務庁統計局推計人口から求め、これを12か月相当人口に推計した数)で割った数。
 平成9年は、1回目99.2%、2回目97.2%
 今年の春のシーズンは、60.4%程度と推定されます(都道府県を通じての調査結果)。

参考5 平成12年度ポリオワクチン予防接種者数



IV ポリオワクチンってどんなもの?

IV−1 現在のポリオワクチンには、毒性を弱めたウイルスが入っています。

 ポリオの予防接種に使用しているワクチンには「生ワクチン」「不活化ワクチン」の2種類があります。現在、日本で行っているポリオの予防接種の場合は「生ワクチン」を使っています注5
 ポリオウイルスには、I,II,III型の3つのタイプがあるため、ポリオの生ワクチンには、毒性を弱めたこれら3つのタイプのウイルスが入っています。ワクチンを接種する(飲む)ことで、それぞれに対する免疫がつき、ポリオの感染を予防することができます。1回の接種だけでは1つか2つの型だけに対する免疫しかつかないことがあるので、時期を離して2回接種することになっています(「VI−1 生後3か月から18か月(1歳6か月)の間に2回、ワクチンを飲みます。」参照)

注5 ポリオワクチンの種類
(1)「生ワクチン」は、ポリオウイルスの毒性を弱めてつくったものです。その感染症にかかったときに近いしくみで免疫ができます。
 (その他、麻しん(はしか)、風しん(三日ばしか)のワクチン、結核のBCGがこれにあたります)
(2)「不活化ワクチン」は、ポリオウイルスを殺し、免疫をつくるのに必要な成分を取り出して毒性をなくしてつくったものです。
 (その他、百日せき、日本脳炎のワクチンがこれにあたります。)


IV−2 ポリオの予防接種を受けた人の中には、ポリオにかかった時と同じような麻痺を生じることがあります。

 現在、予防接種に使っているワクチンは生ワクチンであり、入っているウイルスは毒性を弱めているとはいえ生きていますから、ポリオにかかった時と同じように手や足に麻痺があらわれることがあります。これは、ワクチンを飲んだ後、飲んだ人の腸の中でウイルスが増えていく過程で毒性が強くなることがあるため(突然変異)です。その頻度は、440万回の接種に1回注6程度です。毒性が強くなったウイルスの場合も、ポリオウイルスに感染したときと同様に、多くの場合は、明らかな症状が出ずに免疫だけができます。しかし、まれにそのウイルスが脊髄の一部に入り込み、手や足の麻痺があらわれることがあります。これらの重い症状があらわれた方には大変不幸なことですが、生ワクチンによって免疫をつけるしくみを考えると避けられない副反応注7といわざるを得ません。これらの症状は、予防接種を受けた後、多くは1週間〜1か月半以内にあらわれます。また、体の免疫機能が弱っている時は、毒性を弱めたウイルスでさえも、麻痺を起こすことがあります。
 症状があった場合は、ただちに医師に相談して下さい。また、その他いつもと違う症状があり心配な場合も、医師に相談して下さい。

注6 1977年から1996年の20年間にポリオワクチンが関連したと思われる麻痺患者の発生数と頻度の調査(伝染病流行予測調査、予防接種の効果的実施と副反応に関する総合研究(1992年、1993年)から計算した数字。)
 米国CDCのデータでは、生ワクチンによる1回目の接種では、140万回の接種に1回、1回目と2回目をあわせると620万回に1回(どちらも免疫機能に異常がない場合)といわれています。

注7 副反応とは、予防接種を適切に行っていても、ワクチンの性質や接種を受けた方の体調、体質によって起こる健康障害。現在、予防接種に使用しているワクチンは、この副反応が極力起こらないように注意していますが、それでも一定の確率で起きています。
 この副反応を含めて、予防接種を行ったことが原因と考えられる健康障害があった場合、法律(予防接種法)によって救済する制度が設けられています。

参考6 日本薬局方・生物学的製剤経口生ポリオワクチン


IV−3 ポリオの予防接種を受けた人の周囲の人にも、ポリオにかかった時と同じような麻痺を生じることがあります。

 580万回の接種に1回注6程度という頻度ですが、予防接種を受けた人に接触した人の中にも、ポリオと同じ様な麻痺などの症状があらわれることがあります。これは、ポリオの生ワクチンに含まれるウイルスが腸の中で増殖するうちに毒性を回復し、このウイルスが便の中に出て周囲の人に感染したことによるものです。ポリオの予防接種を受けていないお子さんなどポリオウイルスに対する免疫を持っていない人(「III−1 予防接種によってポリオに対する免疫(抵抗力)をつけます。」の注2を参照)、免疫機能が低下している人は、このウイルスに感染する可能性が高いので麻痺の症状が現れる可能性が高いと考えられます。予防接種を受けてから約1か月程度はウイルスが便の中に出ています。この期間、おむつ交換の後などには十分に手を洗うなどして、便の中のウイルスが他の人の口に入らないように気をつけ、感染の危険を少しでも小さくすることがすすめられます。

VI−4 ポリオウイルス以外にもポリオによく似た症状をあらわす感染症があります。

 ポリオウイルス以外にもポリオによく似た症状をあらわす感染症や病気があります。夏に流行する「夏かぜ」の原因となるウイルス感染症には、症状からだけではポリオと区別できないものもあります。特に、ポリオと似た麻痺症状があらわれるギラン・バレー症候群という病気もあります。ポリオの予防接種を受けた後に、これらの症状があらわれた場合には、便の検査などによって予防接種が原因であるかどうかを注意深く調べる必要があります注8

注8 ポリオであること(あるいはポリオの予防接種の副反応であること)を調べるためには、便の検査でポリオウイルス(あるいはポリオの生ワクチンのウイルス)を確認することが基本です。



V ポリオの予防接種は、今も必要なの?

V−1 予防接種によってポリオの大流行を防ぐことができました。

 日本でも、比較的最近までポリオの流行が問題になっていました。1960(昭和35)年には、ポリオの患者さんの数は5千人を超え、かつてない大流行となりました。その次の年も大流行の兆しがあらわれ始めたため、急遽、外国から生ワクチン(「IV−1 現在のポリオワクチンには、毒性を弱めたウイルスが入っています。」注5 参照)を輸入することによって全国の子どもたちに予防接種を行いました。その結果、ポリオの流行がおさまりました。それ以降は国産の生ワクチンを使って予防接種を行っています。患者の数は1962(昭和37)年は289人、1965(昭和40)年は76人と激減し、1980(昭和55)年の1例を最後に現在までポリオの新たな患者はありません。

V−2 今でも、海外からポリオウイルスが 国内に入ってくる可能性があります。

 このように、日本ではポリオの新たな感染はなくなりましたが、海外では依然として流行している地域があります。インドやパキスタンなどの南西アジア、サハラより南のアフリカ諸国などです。
 ポリオウイルスに感染しても、麻痺などの症状が出ない場合が多いので、海外で感染しても感染したことに気がつかないまま帰国(あるいは入国)してしまう可能性があります。症状がなくても、感染した人の便にはポリオウイルスが排泄されています。

V−3 ポリオに対する免疫をもつ人の割合が減ると、流行する危険があります。

 仮に、ポリオウイルスが国内に持ち込まれても、現在、ほとんどの人が免疫を持っているので、大きな流行になることはないと考えられます。しかし、予防接種を受ける人が減り、免疫をもつ人の割合が減ると、持ち込まれたポリオウイルスは免疫のない人からない人へと感染し、ポリオの流行が起こる可能性があります。



VI ポリオの予防接種の方法は?

VI−1 生後3か月から18か月(1歳6か月)の間に2回、ワクチンを飲みます。

 予防接種法では、生後3か月から90か月(7歳6か月)の間注9に、6週間以上の間隔をあけて2回の予防接種を定めていますが、特に生後3か月から18か月(1歳6か月)の間に行うことを勧めています。1回目と2回目の間隔は長期間離れていても2回行っていれば免疫をつける効果に差はないとされていますが、早い時期に確実に免疫をつけるためにはこの期間内に行うことが良いと考えられます(IV−1 現在のポリオワクチンには、毒性を弱めたウイルスが入っています。」参照)。予防接種は、ワクチン液を0.05ml飲みます。

注9 その他の年齢で行う場合には、法律に基づかない任意の予防接種となります。
 (「III−1(2)法律で対象とする年齢以外にも予防接種が効果的な場合があります。」参照)

VI−2 法律に基づく予防接種は、市町村が実施します。注10

 法律に基づいてお子さんに行う予防接種は、市町村が実施し、費用(の一部:市町村の状況に合わせて書き分けること)は公費で負担されています。市町村は、予防接種の対象となる人に予防接種の時期や場所などの連絡をします。ポリオの予防接種を集団接種として行う場合、多くの市町村は、春と秋に予防接種の時期を設けています(「III−3 しかし、今年は約60%のお子さんしか受けていません。」参照)が、個人ごとに医療機関などで行う体制が整っている市町村では「個別接種」で時期に関係なく行っています(それぞれの市町村に尋ねて下さい)

注10 予防接種法に定める以外の年齢や方法で行う場合には、法律に基づかない任意の予防接種となります。医療機関にご相談下さい。
 (「III−1(2)法律で対象とする年齢以外にも予防接種が効果的な場合があります。」参照)

VI−3 予防接種を受ける際は、必ず受ける前に医師と接種を受ける人(保護者)が十分にお話をする(予診)必要があります。

 予防接種を受ける際には、予防接種を受ける人(保護者)が、予防接種の必要性や副反応がおこる可能性や内容について理解をしておく必要があります。その上で、医師は、受ける人がどの予防接種を希望しているか、体調や体質が接種を行ってよい状態かなどについて確認して接種を行う必要があります。もし、これらの確認が十分できない場合など、医師が不適当であると判断した場合は、予防接種はできません。

VI−4 予防接種を受ける際は、医師が受ける人の体調や体質などをチェックします。

 予防接種を受ける前には、必ず医師の診察を受けることが定められています。診察の際には、予防接種を受けることを希望しているか、予防接種を受けた際の健康への影響や効果などについて十分に理解しているか、受ける人の体調や体質などが予防接種を受けられる状態か、などをチェックします。医師の指示のもとに、必要な事項を予診票(問診票)に記入していただいたり、看護婦や保健婦などがおたずねする場合もあります。

VI−5 病気やアレルギー、免疫機能の低下のある人は、予防接種を受けられない場合があります。

 発熱がある場合や、病気にかかっている場合、過去にポリオワクチンに対してアレルギー反応があった場合、免疫機能が低下している場合などには予防接種はできないと判断をする場合があります。
 また、予防接種は健康状態の良い時に行います。特にポリオの予防接種は生ワクチンですから、ひどい下痢、ウイルス感染による下痢等の症状がある場合は予防接種の効果が十分に得られません(「III−3 しかし、今年は約60%のお子さんしか受けていません。」参照)。治ってから受けることが必要です。

厚生省では、特に注意が必要な人が予防接種を受けることを希望する際に専門家などによる相談や実施に対応 できる予防接種センターの整備を支援する事業をはじめました。また、お近くに予防接種センターがない場合も、予防接種を受けようとする際には、都道府県や市町村の予防接種の担当者、医療機関などによく相談して下さい。

VI−6 予防接種を受けた後にも、注意していただくことがあります。

 予防接種を受けた後には、受けた人やその保護者には、体調や便の取り扱いに注意していただく必要があります。
 発熱や頭痛、吐き気など症状があらわれた場合、医師に相談して下さい。
 また、予防接種を受けてから1か月位は、ウイルスが便の中に排泄されています。おむつなどを交換した後は、便の処理をきちんと行い、必ず手洗いをしましょう。



VII ポリオの予防接種をより安心して受けていただくために

VII−1 予防接種は、予防接種を受ける前に受ける人や保護者に効果や副反応について理解していただいた上で 行うことが必要です。

 予防接種を受ける際には、予防接種を受ける人(保護者)に予防接種を受けることについての同意をいただいています。予防接種の効果や副反応がおこる可能性について理解していただいた上で、予診票にサインして下さい。

VII−2 相談窓口を確認しておいてください。

 ポリオの予防接種を受けた後も、予防接種を受けた人の体調や便の取り扱いなどに注意することが大切です。予防接種を受けた人やその保護者は、予防接種を受ける際に注意事項を確認するとともに、何か心配なことがあった場合に相談する窓口を予防接種を実施した市町村や医療機関などにあらかじめ確認しておきましょう。

VII−3 ロット39のポリオワクチンを使用しても差し支えありません。

 使用の見合わせを行ったロット39のワクチンには、異常がないことが確認されました。このワクチンを使って予防接種を行っても差し支えありません。

参考7 公衆衛生審議会感染症部会の審議結果


予防接種健康被害救済給付制度の概要

 昭和51年の予防接種法等の改正により創設された制度であり、昭和52年2月25日以降に受けた法に基づく予防接種による健康被害が対象であり、医療費、医療手当、障害児養育年金、障害年金、死亡一時金及び葬祭料の給付を行うものである。
 なお、昭和52年2月25日以前に受けた予防接種による健康被害についても、同法施行日以降この制度の給付を行うものである。

区 分 給 付 の 内 容 給付額(改善等) 準拠する給付等
医療費 予防接種を受けたことによる疾病にかかっている者に対し、当該疾病に係る医療費を支給する。 診察、薬剤又は治療材料の支給、医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術、病院又は診療所への収容、看護、移送の医療に要する費用の額を限度すること。ただし、当該医療について健康保険法等の規定により医療に関する給付を受けることができるときは、その額を控除した額を限度とする。 健康保険の例により算定した額のうち自己負担相当額
医療手当 医療費の支給を受けている者に対し、入院通院等に必要な諸経費として月を単位に支給する。   (平成11年4月〜)   健康管理手当(原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律)
通院3日未満(月額) 34,330円   ◎健康管理手当と同額
通院3日以上(月額) 36,330円   ◎健康管理手当+2,000円
入院8日未満(月額) 34,330円   ◎健康管理手当と同額
入院8日以上(月額) 36,330円   ◎健康管理手当+2,000円
同一月入通院(月額) 36,330円   ◎健康管理手当+2,000円
障害児
養育年金
予防接種を受けたことにより、一定の障害の状態にある18歳未満の者を養育する者に対し、障害の程度に応じて支給する。
*在宅の1、2級の者については、介護加算を行う。
  (平成11年4月〜)
[2,419,200円]→
(平成12年4月〜)
[2,421,600円]
障害児養育年金(医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法)
1 級(年額) 1,555,200円   ◎障害児養育年金1級の額×1.8
[1,820,400円]→ [1,822,000円]
2 級(年額) 1,244,400円   ◎障害児養育年金2級の額×1.8
*上段[ ]内は介護加算後の額
障害年金 予防接種を受けたことにより、一定の障害の状態にある18歳以上の者に対し、障害の程度に応じて支給する。
*在宅の1、2級の者については、介護加算を行う。
  (平成11年4月〜)
[5,836,800円]→
(平成12年4月〜)
[5,839,200円]
障害年金(医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法)
1 級(年額) 4,972,800円   ◎障害年金1級の額×1.8
[4,552,800円]→ [4,554,400円]  
2 級(年額) 3,976,800円   ◎障害年金2級の額×1.8
3 級(年額) 2,983,200円   ◎障害年金1級の額×0.6×1.8
*上段[ ]内は介護加算後の額
死亡
一時金
予防接種を受けたことにより、死亡した者の遺族に対して支給する。   (平成11年4月〜)   遺族年金(医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法)
43,500,000円   ◎遺族年金額×10年×1.8
葬祭料 予防接種を受けたことにより、死亡した者の葬祭を行う者に対して支給する。   (平成11年4月〜)
176,000円 →
(平成12年4月〜)
179,000円
葬祭料(原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律)
◎葬祭料と同額

介護加算
    (平成11年4月〜) (平成12年4月〜) 介護手当(原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律)
1 級(年額) 864,000円 → 866,400円 ◎介護手当(中度)と同額
2 級(年額) 576,000円 → 577,600円 ◎介護手当(中度)×2/3


ポリオの流行地域の状況
WHO:2000年2月21日時点のもの



健医感発第147号
平成8年11月28日

各都道府県・指定都市
  衛生主管部(局)長 殿

厚生省保健医療局
エイズ結核感染症課長

当面のポリオ予防対策について

 標記については、平成8年10月16日公衆衛生審議会伝染病予防部会より別添のとおり意見が出されたので、これに基づきポリオの抗体保有率が低い年齢層(現在19歳から21歳(昭和50年から52年生まれ)の者)に対し、下記の点に留意の上、各都道府県及び市町村において情報提供及び予防接種の接種機会の確保等にあたられるよう指導方お願いする。
 なお、不活化ポリオワクチンとの併用接種の導入等に関しては、今後、検討していく予定である。

1 ポリオ常在国へ渡航する場合は、ポリオの免疫を有していなければポリオに感染するおそれがあるので、抗体保有率が低い年齢層(現在19歳から21歳(昭和50年から52年生まれ)の者)に対して、別添2「ポリオワクチンの追加接種について(概要)」又は別添3「ポリオワクチンの追加接種について」 を参考に、広報等を通じ情報提供を図ること。

2 ポリオの定期の予防接種を受ける者(通常乳幼児)の保護者が、抗体保有率が低い年齢層である場合は、別添3「ポリオワクチンの追加接種について」を参考に、被接種者の予診の際に、当該保護者に対して、きわめて稀であるが、家庭内感染の可能性がある旨の情報を伝えること。

3 抗体保有率が低い年齢層の者が予防接種を希望したときは、別添3「ポリオワクチンの追加接種について」を参考に、ポリオワクチンの免疫効果、予防接種による副反応及び副反応が発生した場合の救済制度についての情報、予防接種法に基づかない任意の接種(有料)であること等を被接種者に説明するよう関係者に周知徹底をすること。

4 接種希望者が円滑に予防接種を受けられるよう都道府県・指定都市において必要に応じ医師会等関係機関と調整の上、医療機関等の確保を図ること。

5 実施医療機関等に対し、ポリオワクチンの免疫効果、予防接種による副反応及び副反応が発生した場合の救済制度についての情報、予防接種法に基づかない任意の接種(有料)であること、及び接種の際の注意事項について別添3「ポリオワクチンの追加接種について」を参考に周知徹底するとともに、「予防接種ガイドライン」(日本小児科連絡協議会)及び「ポリオワクチンの添付文書」に記載された接種の際の注意事項を遵守するよう周知徹底すること。


別添1

当面のポリオ予防対策について

平成8年10月16日
公衆衛生審議会伝染病予防部会

1 病原微生物検出情報 Vol.17 No.9 に報告された症例は、ポリオウイルスが分離されていないため確定診断に至らなかったものの、両下肢に弛緩性麻痺を伴う臨床症状と髄液中のポリオ中和抗体価の経時的上昇が見られたことから、ポリオ疑似症例として報告されている。しかし、病歴や検査値の情報が不足していることから、ポリオ疑似症例と結論づけるためには、さらなる調査が必要である。もし、本症例がポリオ疑似症例であるならば、発症の1カ月半ほど前に家族の幼児が生ポリオワクチンの接種を受けていたことから、ワクチン由来の家族内感染による発症も否定できない。
 一般的には、ワクチン接種者から家族等への接触感染による発症率は極めて低い。特に、この患者はワクチン未接種という状況にあり、現在のポリオワクチンの高い接種率のもとでは、このような事例が感染例とすると極めて稀と考えられる。

2 一方、ポリオワクチンを接種したにもかかわらず、抗体保有率が低い年齢層(現在19〜21歳)が存在する。1981年以降、国内の野生株によるポリオ発生はないことからポリオの大流行が起こる可能性は低いと考えられるが、この年齢層の人々が、今後ポリオ常在国へ渡航する場合には、ポリオに感染発症する可能性を否定できず、また、極めて稀ではあるが、ワクチン接種を受けた家族と接触する場合には、感染する可能性も否定できない。
 このため、抗体保有率が低い年齢層の人々に対して予防接種の効果とリスクを含めた情報提供を行うとともに、希望に応じて追加接種を受けられるよう対応することが望ましい。

3 現在、世界的にポリオが根絶されつつあり、WHOは西暦2000年までのポリオ根絶を目標としている。我が国をはじめ多くの国々で使用されているポリオワクチンは、経口生ワクチンであり、有効性、安全性ともに高いと考えられている。一方、不活化ワクチンは、ポリオに対する流行阻止能力が生ワクチンより劣るとされているが、ワクチン関連ポリオ発症の恐れはなく、定期接種に導入している国もある。
 今後、わが国のポリオ発生状況、海外のポリオ根絶計画の進捗状況、生ワクチン関連ポリオの発生状況及び免疫不全者の存在などを総合的に勘案し、不活化ポリオワクチンとの併用等を選択肢の1つとして小児のポリオ定期接種に導入することについて、検討を開始する必要がある。


別 添 2

ポリオワクチンの追加接種について(概要)

 昭和50年から52年に生まれた方について、ポリオの免疫を保有している方の割合が他の年齢層に比べて低いことが、厚生省の調査でわかりました。

 昭和50年から52年に生まれた方は、

1 ポリオウイルス常在国に渡航される時
2 お子さまがポリオワクチン接種を受ける時
 に再度ポリオワクチンの予防接種を受けられることをお勧めします。

別 添 3

ポリオワクチンの追加接種について

1 ポリオ(小児まひ)について

 ポリオに感染した人の便中にポリオウイルスが排泄され、これが口に入ることによって感染します。ウイルスに感染しても、90〜95%の人は何ら症状が出ないで免疫ができます。5〜10%の人はカゼ様症状を呈し、感染者の 0.1〜0.5%に麻痺が現れ、永久に麻痺が残ったり、呼吸困難により死亡することがあります。

2 ポリオに対する免疫について

 ポリオウイルスに感染すれば症状が出なかった方にも免疫ができます。また、ポリオワクチンの予防接種により免疫ができた方についても同様です。免疫ができれば、ポリオにかかる心配はありません。

 厚生省の流行予測調査事業(参考資料1)において、免疫を持っている人の割合(抗体保有率)は、現在19歳〜21歳(昭和50年から52年生まれ)の方については、I型という種類の抗体保有率がやや低くなっている(昭和50年生・・56.8%、昭和51年生・・37.0%、昭和52年生・・・63.8%)ことが明らかになっています。

 日本にはポリオウイルスはいないと判断されていますが、免疫を持っていない方が、ポリオ常在国(患者発生状況についてはWHO報告「各国のポリオ発生状況」参考資料2参照)に旅行した場合、ポリオに感染し発症する可能性があります。
 ポリオウイルスに感染した場合、200人から1,000人のうち1人の割合で麻痺が現れています。

 また、現在、接種されているポリオワクチンウイルスは体外に排泄されます。このワクチンウイルスが人から人へとうつっていく間に、弱めた毒性があともどりして強い力を持つようになり、発症するという可能性があります。日本でワクチン投与(乳幼児に投与)に関連して発生したと思われる麻痺患者の割合は、約200万回の投与に1人で、その内訳は、接種を受けた本人に関しては約400万回の投与に1人、接種を受けた者から感染し、免疫を持っていない家族等が麻痺をおこした人に関しては約500万回の投与に1人などとなっています。

 以上ポリオ及びポリオワクチンの概略について説明いたしましたが、これらをごらんの上、さらに5の接種を受ける場合の注意事項をご参考の上、接種を希望される方については、次に示す時期に、ポリオワクチンの予防接種を受けられることが適当です。(免疫効果、副反応については3、4で詳述)

昭和50年から52年に生まれた方で、
1 ポリオウイルス常在国に渡航される時
2 お子さまがポリオワクチン接種を受ける時(受ける時期はお子さまと同時期)

 なお、希望により、抗体検査実施後、予防接種を受けることも可能ですし、抗体を有している方が予防接種を受けたとしても、特に副反応の発生する率が高くなるということはありません。上記年齢以外の方についても希望されれば、予防接種を受けることも可能です。

 以上の場合の予防接種は法律に基づくものではなく、任意接種の対象となりますので、自費で接種を受けることになります。

 また、抗体検査費用についても同様に自費となります。

 なお、以下に免疫効果、大人に対する副反応等について詳しく説明します。

3 ワクチンの免疫効果について

 ポリオ生ワクチンによる抗体保有率は、平成6年度の流行予測調査事業によれば、1回投与の場合はI型で92%、II型で99%、III型で66%、2回投与の場合はI型で98%、II型で99%、III型で87%となっています。

 ある型について免疫がなくても、別の型の免疫を有していれば、その型に対する免疫効果もある程度有していると考えられ、2回の予防接種を受けていれば、必要な免疫を得られると考えられています。

 なお、子供の時にポリオの予防接種を2回受けていれば、今回の追加接種は1回で必要な免疫が得られると考えられます。

4 大人に対するポリオ予防接種の副反応について

 ポリオ生ワクチンは副反応のほとんどない安全なワクチンですが、接種を受けた方又は接種を受けた方の家族等で免疫のない方が、きわめて稀に、生ワクチンのために起こったのではないかと考えられるような麻痺を起こす例があります。

 その割合は、2で述べたとおりですが、これは乳幼児に接種した場合の結果ですので、大人への投与によって副反応がどの程度生じるかはよくわかっていません。

 なお、1984〜1985年にかけてフィンランドでポリオが約20年ぶりに流行した時に、1985年に全人口(約480万人)の96%に対して、ポリオ生ワクチンの予防接種が行われましたが、大人にも子供にもワクチンによって麻痺が発生したという報告はありませんでした。

 また、1994年、1995年に自衛隊員がPKOで海外派遣される時に、約7,400人の方がポリオ生ワクチンの予防接種を受けましたが、副反応の報告はありませんでした。

 なお、30歳を越えると麻痺出現率が高くなると記載されているテキストブックもありますが、この記載は根拠に乏しいとする意見もあります。

5 接種を受ける場合の注意事項

(1)接種を受けることが適当でない方

・明らかな発熱を呈している方
・重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな方
・当該疾病にかかる予防接種の接種液の成分によって、アナフィラキシーを呈したことが明らかな方
・妊娠していることが明らかな方
・無ガンマグロリン血症、先天性胸腺形成不全、HIV患者・感染者等の免疫機能に異常がある疾患を有する方
・下痢をしている方
・その他、予防接種を行うことが不適当な状態にある方

(2)接種をするかどうかの判断に際し、注意を要する方

・心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患及び発育障害等の基礎疾患を有していることが明らかな方
・前回の予防接種で2日以内に発熱のみられた方、又は全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある方
・過去にけいれんの既往のある方
・過去に免疫不全の診断がなされている方


・接種しようとする接種液の成分に対して、アレルギーを呈するおそれのある方
(ポリオワクチンには弱毒化したポリオウイルスに白糖、ゼラチン、硫酸ストレプトマイシン、ラクトビオン酸エリスロマイシン、フェノールレッドが添加されています。)

6 予防接種が実施できる機関

 (各都道府県・指定都市ごとに記入下さい)

7 副反応があった場合の措置について

 もし、ポリオワクチンの接種により健康被害が生じた場合には直ちに医師に相談して下さい。
 市町村が行う定期の予防接種の対象者以外の方が行う予防接種は、予防接種法に基づくものではないため、健康被害の救済に関しては、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(TEL03−3506−9541)へご相談下さい。


○検疫所の一覧、連絡先                      
検疫所名郵便番号住  所電話番号
小樽検疫所 047-0007小樽市港町5番3号
(小樽港湾合同庁舎)
0134-23-4162
小樽検疫所
千歳空港検疫所支所
066-0012 千歳市美々
(新千歳空港内)
0123-45-7007
仙台検疫所 985-0011 塩釜市貞山通3丁目4番1号
(塩釜港湾合同庁舎)
022-367-8101
仙台検疫所
仙台空港検疫所支所
989-2401
名取市下増田字南原
(仙台空港ターミナルビル内)
022-383-1854
成田空港検疫所 282-0004 成田市古込字古込1番地1
(第2旅客ターミナルビル内)
0476-34-2310
東京検疫所108-0075 港区港南3丁目9番35号
(東京港湾合同庁舎)
03-3471-7922
東京検疫所
千葉検疫所支所
260-0024 千葉市中央区中央港1丁目12番2号
(千葉港湾合同庁舎)
043-241-6096
東京検疫所
東京空港検疫所支所
144-0041 大田区羽田空港3丁目4番4号
(東京国際空港国際線旅客ターミナルビル)
03-5756-4858
東京検疫所
川崎検疫所支所
210-0865 川崎市川崎区千鳥町23番1号
(川崎パイロットビル)
044-277-1856
横浜検疫所 231-0002 横浜市中区海岸通1丁目1番地
(横浜第二港湾合同庁舎)
045-201-4456
新潟検疫所 950-0072 新潟市竜が島1丁目5番4号
(新潟港湾合同庁舎)
025-244-6569
名古屋検疫所 455-0045 名古屋市港区築地町11番地の1 052-661-4131
名古屋検疫所
清水検疫所支所
424-0922 清水市日の出町9番1号
(清水港湾合同庁舎)
0543-52-6012
名古屋検疫所
名古屋空港検疫所支所
480-0202 西春日井郡豊山町豊場
(名古屋空港ビル内)
0568-28-2524
名古屋検疫所
四日市検疫所支所
510-0051 四日市市千歳町5番地の1
(四日市港湾合同庁舎)
0593-52-3574
大阪検疫所 552-0021 大阪市港区築港4丁目10番3号
(大阪港湾合同庁舎)
06-6571-3522
関西空港検疫所 549-8681 泉南郡田尻町泉州空港中1番地
(関西空港CIQ合同庁舎)
0724-55-1282
神戸検疫所 652-0866 神戸市兵庫区遠矢浜町1番1号 078-672-9653
広島検疫所 734-0011 広島市南区宇品海岸3丁目10番17号
(広島港湾合同庁舎)
082-251-1836
広島検疫所
広島空港検疫所支所
729-0416 広島県豊田郡本郷町
大字善入寺字平岩64番地31
(広島空港ターミナルビル)
0848-86-8017
福岡検疫所 812-0031 福岡市博多区沖浜町1番22号
(福岡港湾合同庁舎)
092-291-3585
福岡検疫所
門司検疫所支所
801-0841 北九州市門司区西海岸1丁目3番10号
(門司港湾合同庁舎)
093-321-3056
福岡検疫所
福岡空港検疫所支所
812-0051 福岡市博多区大字青木732番地
(福岡空港国際線旅客ターミナルビル2階)
092-477-0208
福岡検疫所
長崎検疫所支所
850-0952 長崎市戸町3丁目913番地1 0958-78-8623
福岡検疫所
鹿児島検疫所支所
892-0822 鹿児島市泉町18番2の31号
(鹿児島港湾合同庁舎)
0992-22-8670
那覇検疫所 900-0001 那覇市港町2丁目11番1号
(那覇港湾合同庁舎)
098-868-1674
那覇検疫所
那覇空港検疫所支所
901-0142 那覇市字鏡水174番地 098-857-0057


平成12年度ポリオワクチン予防接種者数

  県  名 標準的な
接種対象者数
(概数)
平成12年度
接種者数
(7月3日現在)
実 施 率
1 北海道 46,283 19,285 41.7%
2 青森県 15,541 15,496 99.7%
3 岩手県 13,346 10,076 75.5%
4 宮城県 21,185 22,879 108.0%
5 秋田県 9,553 3,502 36.7%
6 山形県 10,737 4,879 45.4%
7 福島県 25,847 11,169 43.2%
8 茨城県 27,987 10,093 36.1%
9 栃木県 18,558 9,841 53.0%
10 群馬県 19,191 11,129 58.0%
11 埼玉県 65,159 37,746 57.9%
12 千葉県 53,261 17,340 32.6%
13 東京都 91,622 53,202 58.1%
14 神奈川県 78,825 70,140 89.0%
15 新潟県 23,032 13,212 57.4%
16 富山県 11,130 4,256 38.2%
17 石川県 10,401 4,646 44.7%
18 福井県 8,251 6,457 78.3%
19 山梨県 9,693 3,066 31.6%
20 長野県 20,610 17,925 87.0%
21 岐阜県 20,855 10,397 49.9%
22 静岡県 35,037 28,171 80.4%
23 愛知県 75,960 50,452 66.4%
24 三重県 19,390 8,035 41.4%
25 滋賀県 13,795 13,521 98.0%
26 京都府 23,330 17,749 76.1%
27 大阪府 84,903 65,533 77.2%
28 兵庫県 52,929 26,221 49.5%
29 奈良県 13,953 11,248 80.6%
30 和歌山県 13,670 4,416 32.3%
31 鳥取県 5,235 1,470 28.1%
32 島根県 6,702 3,140 46.9%
33 岡山県 23,274 10,281 44.2%
34 広島県 25,875 25,987 100.4%
35 山口県 13,443 7,603 56.6%
36 徳島県 7,472 1,570 21.0%
37 香川県 9,479 4,982 52.6%
38 愛媛県 18,202 3,277 18.0%
39 高知県 7,565 1,354 17.9%
40 福岡県 52,287 33,362 63.8%
41 佐賀県 9,198 2,434 26.5%
42 長崎県 14,017 10,561 75.3%
43 熊本県 18,333 13,297 72.5%
44 大分県 11,489 12,889 112.2%
45 宮崎県 11,330 6,289 55.5%
46 鹿児島県 19,142 5,220 27.3%
47 沖縄県 18,922 2,989 15.8%
合計 1,205,996 728,787 60.4%
※接種対象者数は、平成2年度から平成10年度の標準的な接種年齢期間(生後3月から18月)の総人口を総務庁統計局推計人口から求め、これを12ヶ月相当人口に推計し、平均値から出した。




(参考資料1)

公衆衛生審議会感染症部会の審議結果
(平成12年6月7日開催)

1 次のような評価結果より、公衆衛生学的にはロット39の製品であるポリオワクチンに問題はないと考えられる。

(1) 福岡県事例の現地調査結果報告より、3歳女児の脳症、死亡例については、ポリオワクチン接種との因果関係は否定的である。

(2) 福岡県事例の現地調査結果報告より、1歳男児の右下肢単麻痺、無菌性髄膜炎例について、麻痺はポリオの典型的な症状である弛緩性麻痺であり、被接種者から麻痺患者が出る割合で想定されるポリオワクチン接種に伴う副反応例の可能性が否定できない。

(3) 全国から報告された健康被害症例(小児接種者10例を詳細に検討)については、ポリオワクチンとの直接の因果関係、福岡県の事例との関係はいずれも否定的である。

(4) 宮崎県の37歳男性の麻痺例については、ポリオワクチンの予防接種を受けた子供からの2次的な感染が疑われるが、接触者から麻痺患者が出る割合で想定されるポリオワクチンの接種に伴う事例と考えられる。

2 ロット39の製品であるポリオワクチンの予防接種の見合わせの解除に関しては、6月15日の中央薬事審議会における品質等製品としての安全性の審議結果を踏まえること。また、わが国においてポリオワクチン接種を継続すべきであり、その再開の時期については、国民の十分な理解を得る努力、エンテロウイルスの流行状況等も考慮した上で慎重に行うことが必要である。ついては、以下の点に留意すること。

(1) 予防接種法に基づくポリオワクチンの予防接種については、秋の予防接種に間に合うように公衆衛生審議会感染症部会の下に次の内容について審議する小委員会を設置し、円滑な実施ができるよう環境整備を図る必要がある。
(1)国民への啓発
(2)今後、このような事例が起きた際の対処方法
(3)将来のポリオワクチン予防接種のあり方

(2) 今回の見合わせにより予防接種法に基づくポリオワクチンの予防接種の機会を失った者については、適切な配慮を行うこと。

(3) 2(1)にかかわらず、海外渡航時等予防接種の緊急性が高い場合の個別の予防接種を行うことを妨げるものではない。


(参考資料2)

中央薬事審議会医薬品等安全対策特別部会の審議結果
(平成12年6月15日開催)

1 福岡県の2事例(3歳女児の脳症、死亡例及び1歳男児の右下肢単麻痺、無菌性髄膜炎例)、全国から報告された健康被害症例(小児接種者10例)及び宮崎県の37歳男性の麻痺例については、平成12年6月7日に開催された公衆衛生審議会感染症部会の評価結果と同様の結論に達した。

2 また、次の報告の内容は妥当と考え、了承した。

(1) 国立感染症研究所において実施したロット39のポリオワクチン及びそれを構成するI型、II型、III型の単価バルクに関する国家検定の結果を厚生省が再確認したところ、特に問題は認められなかった。

(2) 製造業者である(財)日本ポリオ研究所に対し、厚生省がロット39のポリオワクチン及びそれを構成するI型、II型、III型の単価バルク等についてGMP査察を行ったが、検定項目の自家試験成績を含め、特にその品質に影響を及ぼすような問題は認められなかった。

3 以上のような結果により、ロット39の製品であるポリオワクチンについては、品質・安全性に問題はないと考えられる。


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