医療制度抜本改革の進め方について

平成12年1月31日
厚生省

 今後の急速な高齢化などによる医療費の増加を考えると、医療制度の抜本改革は、当然、避けて通れない課題である。このため、必要な医療を効率的に提供するとともに、給付と負担を時代にあった適正なものとするなど、国民各層の理解と協力を得つつ、改革を一歩一歩着実に進めていくことが必要である。
 改革は平成12年度から順次実施することとし、検討に日時を要する事項については、基本的には平成14年度からの実施を目指して検討を進める。更に社会経済諸情勢の変動に応じ、その後も継続的に検討を進める。

I.薬価制度の見直し

(1) 中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という。)においてとりまとめられた「薬価制度改革の基本方針」(平成11年12月 17日)に沿って具体案を検討し、実施する。その主要な課題については、次のとおり取り組む。

1) 薬価差を解消するため、市場実勢価格の加重平均値に一定のR幅を上乗せするR幅方式に代わる新たな薬価算定ルールを、平成14年度までに導入する。
2) 同一成分・同一効果で複数銘柄が存在する医薬品については、溶出試験の実施等後発品の品質に対する信頼性を確保するための環境整備を速やかに進める。
先発品と後発品との間で公平な競争条件とするための新たな薬価算定ルールの具体的内容について、平成14年度までに検討を進める。
3) 画期的新薬等の薬価算定ルールの見直しについても、(2)と併せて検討する。

(2) 平成12年度においては、薬価制度の見直しの第一歩として次の事項を実施する。

1) 平成12年4月の薬価改定においては、R幅は流通安定のために最小限必要な調整費率とし、一律2%とする。
2) 平成12年10月を目途に、中医協に専門家で構成される薬価算定組織を新設するとともに、薬価算定ルールの明確化・合理化を図り、薬価算定過程のより一層の透明化を図る。

II.診療報酬体系の見直し

(1) 中医協においてとりまとめられた「診療報酬体系(医科、歯科、調剤)のあり方に関する中間報告」(平成11年12月1日)に示された主要課題に従い、医療提供体制の見直しも踏まえて、今後、段階的に診療報酬体系の見直しを進める。

(2) 平成12年度の診療報酬改定については、医療の質の向上と効率化を図るため、診療報酬体系見直しの第一歩として、これまで以上の規模で合理化を行い、医療の質を高めるために必要度の高い分野に配分する等の取組みを行う。

(参考)主な検討項目
(1) 機能分担と連携

・ 病院機能とかかりつけ医機能の明確化
・ 入院機能の質の向上と効率化
・ 小児医療の充実
・ 病院歯科機能とかかりつけ歯科医機能の明確化
・ かかりつけ薬局機能の明確化

(2) 医療技術の適正評価

・ 新規技術への対応
・ 薬剤関連技術料の適正評価と薬剤使用の適正化
・ 齲蝕治療、歯周治療等の評価
・ ものと技術の適正な評価

(3) 出来高と包括の最善の組合せ

・ 包括評価の拡大
・ 既存包括点数の見直し
・ 急性期入院医療定額払い方式の試行

(4) 医療に係る情報提供の推進

・ 診療録管理体制の評価
・ 診療費用等に係る情報提供
・ 薬剤に関する適正な情報提供推進

(5) 療養環境の改善

・ 病室の療養環境改善の評価等

(6) 老人診療報酬

・ 高齢者入院医療の質の向上と効率化
・ 高齢者在宅医療の推進
(診療報酬の合理化に関する主な検討事項)
・ 検査・画像診断の適正化
・ 薬剤多剤投与の減額措置の強化
・ 各種加算、訪問歯科診療、注射等の調剤料の算定単位の見直し
・ 医療材料価格の見直し

(3) 平成12年4月以降も中間報告に即して、引き続き検討を行い、次期改定時にその実現を図る。

III.高齢者医療制度の見直し

(1) 高齢化の進展に伴い増大する老人医療費の問題等に対処するため、高齢者の保健医療の在り方について、1)老人医療費を公平に負担する新たな高齢者医療制度の仕組みづくり、2)高齢者にふさわしい医療が効率的に提供される仕組みづくり、3)生涯を通じた健康管理・健康増進の推進、といった視点から、次のとおり取組みを進める。

1) 新たな高齢者医療制度を構築するに当たり、介護保険法の円滑な施行と定着を図るとともに介護サービス基盤の計画的な整備を進める。

2) 省内に検討チームを設け、老人医療費を公平に負担する仕組みや高齢者にふさわしい医療が効率的に提供される仕組みに係る改革のための具体的措置について、平成14年度を目途に精力的に検討を進める。
この検討に当たっては、年金、介護、医療等社会保障全体の在り方についての総合的な検討の状況にも留意し、その検討結果を踏まえて取り組む。

(2) 平成12年度においては、主として次の事項を実施する。

1) 老人医療に係る患者負担については、抜本改革に向けた第一歩として、平成12年度に、一部負担について定額の上限を設け、過大な負担増とならないよう配慮した上で、定率一割制を導入する。

2) 老人診療報酬の平成12年度改定については、高齢者にふさわしい医療の効率的提供を進めるため、次の事項等について、中医協の審議結果を踏まえ、具体的な内容を決定する。

・ 高齢者入院医療の質の向上と効率化(一般病棟における高齢者長期入院の是正等)
・ 高齢者在宅医療の推進(在宅医療を支える医療機関相互の連携体制の確保等)

3) 健康寿命(寝たきり等にならないで健康に生活できる期間)を伸ばすことに重点を置き、生涯を通じた健康管理・健康増進のため、次の取組みを行う。

・ 平成22年度までに達成すべき具体的目標を定めた「健康日本 21」計画を平成12年度から実施し、生活習慣の改善による生涯を通じた健康づくりを進める。

・ 平成12年度からの老人保健事業第4次計画(仮称)を策定し、健康日本21との整合性をとりながら、個人ごとの健康評価の導入を図るなどにより事業を推進する。

IV.医療提供体制

(1) 医療審議会は、平成11年7月に「医療提供体制の改革について(中間報告)」をとりまとめたところである。これを受け、医療審議会において、次の項目について、平成12年度から順次実施するため、引き続き法制化の検討を進める。

1)入院医療を提供する体制の整備

・新たな病床区分の法制化
 「その他病床」を療養病床と一般病床に区分
 病床区分に対応した人員配置基準、構造設備基準の設定

・ 病床区分に対応した医療計画の見直し

・ 必置施設等に関する規制緩和

・ 適正な入院医療の確保

2) 医療における情報提供の推進

・ 広告規制の緩和

3)医師、歯科医師の臨床研修の必修化

(2) 民間病院と公的病院、病院と診療所の機能分担と連携を地域医療の実情に即して適切に進める。

(3) 良質かつ適切な医療サービスの提供を図るため、医師、歯科医師、薬剤師、看護職員等の医療従事者の資質の向上を図る

(4) 望ましい末期医療のあり方について、引き続き検討を進める。

V.その他

(1) 医療保険の保険者については、医療に関する知識や情報の蓄積等により積極的に国民(被保険者)を支えるとの立場から、その機能の強化を図るための具体的な方策について平成14年度を目途に検討を進める。

(2) 医療保険加入者の利便に資するため、被保険者証の個人カード化について早期の実施を目指し、検討を進める。

(3) 医療機関の医療の質の評価体制、医療機関別や疾病別の医療に要するコストの収集・分析体制、市場取引価格の調査体制等、医療への実証的な取組みの基盤整備について、平成14年度からの実施を目指し、検討を進める。

 


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