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診療報酬体系見直し作業委員会報告書


平成11年1月13日

目次

I はじめに

II 診療報酬体系見直しの背景と視点

1 新たな医療提供体制を実現するための診療報酬体系の構築
2 現行診療報酬体系の課題
3 診療報酬体系見直しの視点

III 具体的検討

1 医療機関の機能に応じた評価
2 患者の病態(急性期・慢性期医療等)に応じた評価
3 医療技術の評価
4 投資的経費、維持管理経費の評価
5 薬剤の適正使用の推進
6 老人医療の特性
7 精神医療の特性
8 歯科医療の特性
9 医療情報提供の基盤整備
10 質の高い医療従事者の確保

IV 終わりに

診療報酬体系見直し作業委員会委員名簿
診療報酬体系見直し作業委員会の検討経過

別紙1〜7 (略)


I はじめに

 現行診療報酬体系は、昭和33年に施行された「新医療費体系」を出発点とし、爾来、新技術の導入に係る項目の追加を行うなど、逐次改定がなされてきている。この間、昭和56年の「検査の包括評価の導入」、昭和58年の「老人特掲診療報酬の導入」、昭和63年の「看護料の入院期間による逓減制の導入」、平成2年の「老人入院医療に係る包括点数の設定(特例許可老人病院)」、平成6年の「甲表、乙表廃止(一本化)」「新看護体系の導入」等の変化はあるものの、体系的にみて抜本的な変更を加えることなく今日に至っている。
 診療報酬体系見直し作業委員会では、医療保険福祉審議会制度企画部会からの要請を踏まえ、平成9年9月に与党医療保険制度改革協議会でまとめられた、「21世紀の国民医療〜良質な医療と皆保険制度確保への指針〜」(以下「与党協案」という。)を基本とし、新たな診療報酬体系に求められているものや現在の診療報酬体系が有している問題点を明確にしつつ、今後の診療報酬体系の姿をできる限り具体的な形で提示し、同部会での今後のより具体的な議論の素材とするとの観点から、平成10年9月以降13回にわたって検討を続けてきた。また、個々の分野では、委員以外の協力者との共同で検討を進めたものもある。
 以下、検討結果を本報告書として提出するものである。なお報告内容には、意見の分かれた点や考え方の提示のみにとどまっている点もある。これは、当委員会が将来の診療報酬体系の将来像を決定するものではないことから、あえて無理なとりまとめを避けた結果である。この報告書が、制度企画部会において、具体的な議論の素材となることを期待している。

II 診療報酬体系見直しの背景と視点

1 新たな医療提供体制を実現するための診療報酬体系の構築

(1) 国民に開かれた医療提供を実現する基本的考え方

 国民に開かれた医療提供を実現するため、与党協案では、「良質な医療の提供」「医療資源の効率的活用」という基本的な考え方を示している。今後のあるべき診療報酬を検討するに当たっては、このような医療提供の基本的な考え方を踏まえて行うことが必要と考えられる。

(1) 良質な医療の提供
 患者の立場を尊重し、患者と医療従事者の信頼関係を維持しながら、医療における情報公開を推進し、国民の選択により良質な医療が提供される体制を目指す。
 医療内容の説明不足など、国民の医療に対する不安や不満を解消し、国民が安心できる医療提供体制を確立する。

(2) 医療資源の効率的活用
 必要な地域医療を確保しながら、限られた医療資源の効率的活用を図り、安定した医療提供体制、医療保険制度の確立を図る。
(2) 医療提供体制整備の基本方向

 与党協案では、医療提供体制の整備方向として、次のような基本方向を示している。診療報酬体系の見直しに当たっては、このような基本方向に基づく医療提供体制の整備を推進するため、診療報酬としてどのように対応するのが適切かとの観点が必要と考えられる。

(1) 患者の立場に立った医療の提供

 医療の現場において、医療従事者による適切な説明と患者の理解に基づいた医療(インフォームド・コンセント)の徹底を図る。また、病院における個室化や食堂の設置等の療養環境の改善や患者の苦情や相談に対応するための相談体制の整備を図る。

(2) 医療における情報公開の推進

 地域住民が身近な地域でプライマリケア(初期診療における総合的な診断と治療)を担う医師、歯科医師から適切な医療サービスを受けるため、患者の選択の基礎として、広告規制緩和、専門医の認定基準の統一、病院評価事業の推進、医療費明細書の発行等の国民、患者への情報提供の基盤整備を図る。

(3) 医療機関の機能分担と連携の推進

 病院、診療所等の機能分担の明確化、連携強化を図るとともに、かかりつけ医機能を担う医師、歯科医師の育成、救急医療体制の整備等を図ることにより、地域での適切な患者への医療提供を行う。
 このため、大病院については、入院医療に重点を置き、大病院への患者の集中を是正するため、外来は原則紹介制とするとともに、病床や高額医療機器の共同利用などを通じてかかりつけ医機能を支援する地域医療支援病院の体制の充実を図る。また、公私医療機関の機能分担とその連携を図る。

(4) 病床及び入院医療の適正化
 急性期病床及び慢性期病床にとって、それぞれふさわしい医療従事者の人員配置基準及び構造設備基準を定め、患者に良質な医療を提供する体制を整備する。
 また、入院医療における看護体制の充実、退院時期を明確にした診療計画の策定や在宅医療、訪問看護等の在宅ケアの整備を進めることによって、入院期間の短縮、社会的入院の是正を図り、国民、患者が身近な地域で安心して生活できる環境を整備する。

(5) 医療従事者の質の向上
 かかりつけ医機能を担う幅広い知識及び技能を有した医師の育成を図るため、医学教育や生涯教育の充実を図る。医師、歯科医師の卒後の臨床研修について、指導体制の充実と研修中の手当が支払われるような措置を講じた上で必修化するなど、国民、患者が医師、歯科医師との信頼関係を築ける環境を整備する。
2 現行診療報酬体系の課題

 現行の診療報酬体系については、次のような体系上の問題点が指摘されている。新たな診療報酬体系を構築する上で、与党協案の示す医療提供体制の今後の方向性も踏まえつつ、現在の診療報酬の構造上の問題をどのような方向で解決していくかという観点が必要と考えられる。

(1) 医療機関の機能別の評価体系の問題

 現行診療報酬体系は、昭和33年に施行された「新医療費体系」を基礎とするものである。当時の医療提供が、診療所における医師個人によるものが中心的な形態であったことを背景に、現在でも、医療機関の機能(体制)を全体として適切に評価するという体系的な整理が十分になされていないと考えられる。また、こうした現在の診療報酬体系のあり方が、病院、診療所といった医療機関の明確な機能分担の促進を阻害する要因の一つとなっている側面もあると考えられる。
 一方、わが国の医療において、病院が果たしている役割の比重が高まり、病院と病院、病院と診療所等の連携を図ることによって、大病院の3時間待ち、3分診療といった状況を改善し、患者の理解に基づくより良質な医療を提供することが可能となる環境となったが、現行の診療報酬体系は、こうした連携強化への対応も十分ではないと考えられる。
 診療報酬体系については、こうした病院、診療所等の医療機関の機能分担と連携強化を促進する体系とすることが必要である。

(2) 患者の病態に応じた評価体系の問題

 現行の診療報酬体系は、主として感染症などの急性疾患が医療の中心であった時代に制定されたことを背景に、診療行為ごとの出来高払いを中心とする体系となっている。
 しかしながら、現在では、慢性疾患が増大するなどの疾病構造の変化や高齢者の増大等の社会的な変化が生じているが、これらは、急性期医療と比較して、かなり定型的な治療が行われている。また、諸外国では、急性期医療においても、標準的な医療の試みが進められている。
 一方、わが国では、いわゆる一般病床に急性期と慢性期の患者が混在していることを背景に、急性期医療における看護職員の配置が欧米と比較して低いとの指摘や平均在院日数が長いとの指摘がなされている。
 こうした状況を踏まえ、診療報酬体系については、患者の病態に応じた適切な医療提供の体制を確保するという観点から、患者の病態に応じた評価体系を構築することが必要である。

(3) 医療技術の評価体系の問題

 従来、薬や治療材料については、「もの」であることから、市場での取引価格が存在し、これに基づき薬価等を設定してきた。しかし、医療従事者の専門的な医療技術については、市場による評価が困難であり、またその効果的な評価の仕組みもなかったため、結果的に「もの」の評価と技術評価の不均衡が生じていると考えられる。
 現在設定されている点数について技術相互の点数の不均衡が指摘されているが、これも技術相互の関係を相対的に評価する仕組みがないまま、限られた医療費財源の中で逐次改定を行ってきたことに起因していると考えられる。
また、入院医療を中心に医療従事者のチームによるサービス提供が行われてきているが、現在の評価体系はこうした状況を反映していないと考えられる。
 診療報酬体系の見直しに際しては、「もの」よりも技術の専門性を重視するという観点も踏まえ、諸外国での技術評価の体系化の取り組みも参考にしつつ、こうした「チーム医療」が普遍化しつつある状況を踏まえた技術評価の体系化を図ることも必要である。

(4) 医療機関の投資的経費、維持管理経費の評価体系の問題

 現行診療報酬体系は、投資的経費、維持管理経費の評価については、個々の診療行為に係る各点数の中で薄く広く評価するという仕組みである。この仕組みについては、医療機関からみると評価内容が不明確であることから、評価が不十分であり、これが原因で低水準の療養環境に止まらざるを得ない等の指摘がある。
 その一方で、医療法等によって医療機関が有すべき医療機器の標準化がなされていないため、高額医療機器の過剰な投資を招いているとの指摘もなされている。
 この問題は、医療機関の自由開業制と医療資源の計画的配置の必要性との調整という医療提供体制上の問題に関わるものであり、単に診療報酬上の評価体系だけから捉えることは困難であるが、患者にとって、より良質な医療環境をどのように公平かつ効率的に確保するかという観点からの検討が必要である。

(5) 出来高払いを原則とする体系上の問題

 出来高払いを原則とする現在の体系は、医療供給が不足していた時代や、診療所による急性期医療が中心という時代には効率的な仕組みであったが、医療提供体制が一定以上に整備され、高齢化社会の進展等により疾病構造等も変化した現在では、費用対効果が悪いと考えられる点も生じている。
 また、医療機関に費用管理を行う経済的誘因が少なく、質の高い医療を行った医療機関に比べて、過剰診療や長期入院等の漫然とした診療を行った医療機関が収入を増やすとの問題点も指摘されている。一方、包括定額払いについて、過少診療のおそれが危惧されているが、例えば老人医療や精神医療などでは、医療の質の低下は観察されていないとの報告もある。
 医療費が年々増大し、かつ今後急速に人口の高齢化が進むことが予測される現在、良質な医療の効率的提供は国民的な課題である。診療報酬の体系的な整理を進める中で、「患者に良質な医療を効率的に提供する」という医療機関の誘因を高める仕組みを、定額払い、出来高払いのそれぞれの特性を生かしつつ、どのように構築するかという観点から、診療報酬体系のあり方について検討することが必要である。

(6) 適切な医療を提供するための財源の問題

 診療報酬体系は、最終的には医療費財源を医療機関にどのように分配するかを決定する仕組みであるが、経済成長が鈍化、停滞する中で、高度化・多様化する患者の医療ニーズに全て医療保険制度として対応することは実際上困難となっている。また、医療機関の経営安定の観点から、診療報酬以外の医療機関の資金調達方法の多様化も必要とされている。
 その一方で、医療技術等の評価基準の確立がなされない中で、患者負担を求めることを広げることは、単に患者負担を強化するにとどまるとの指摘もある。
 診療報酬体系の見直しについては、こうした状況も踏まえ、患者への十分な医療情報の提供を前提としつつ、必要な医療を提供するための適切な財源の組合せ(保険料、公費、患者負担)という観点にも留意することが必要である。

3 診療報酬体系見直しの視点

 以上のような背景と課題を踏まえると、今後の診療報酬体系の見直しは、具体的には、次のような四つの視点から進めることが必要と考えられる。

(1) 患者主体の医療提供の実現と安定した医療保険制度の確立

 できるだけ住み慣れた地域で医療を受け自立して暮らしたい、救急の際に的確な治療を迅速に受けたい、良好な療養環境で入院したいなど、生活水準や意識の向上等に伴い多様化する患者のニーズに柔軟に対応し、また、これを実現する医療技術の進歩が適切に評価される体系を構築するとともに、医療費の効率的な使用が促進される仕組みを導入し、長期的な医療保険制度の安定的な運営を確保する。

(2) 医療機関の機能分担と患者主体の適切な選択の促進

 地域にある医療資源を有効活用して効率的な医療提供の実現を図るため、様々な患者のニーズに応じて医療機関の機能の明確化や連携の強化を誘導する体系を構築するとともに、患者に対し必要な医療情報を提供する仕組みを整備し、患者主体の適切な医療、医療機関の選択を促進する。

(3) 病態に応じた良質な医療サービスの適正な評価と医療機関の健全な経営の確保

 医療従事者の努力による患者の病態に応じた良質な医療サービスの提供が適正に評価されるとともに、患者主体の適切な医療を効率的に提供する経済的誘因を高め、医療機関の健全な経営を促進する体系を構築する。

(4) 診療報酬体系の透明性の確保

 複雑かつ不均衡、不合理な面を有する現行の仕組みを改善し、国民、患者にわかりやすい透明性の高い体系を構築するするとともに、診療報酬体系に関する情報提供を推進する。

III 具体的検討

 当委員会では、四つの見直しの視点を踏まえつつ、与党協案の論点ごとに検討を行い、与党協案に基づく定額払いと出来高払いの最適の組合せの具体的な方法等についての考え方の整理を行った。

1 医療機関の機能に応じた評価

(1) 与党協案の考え方

 与党協案では、医療機関の機能に応じた見直しに関し、次のような方向を提示している。

●大病院
 :入院機能を基本的な機能として重視。
 外来については原則として紹介制(専門外来)。

●中小病院及び診療所
 :外来でのプライマリケア機能を基本的な機能として重視。
 入院機能については、それぞれの病院特性、診療科特性に配慮。

 この仕組みは、わが国の機能分化が進んでいない医療機関の状況を踏まえ、個々の医療機関が特色のある高い機能を有するという形で機能分担を進めるとともに、それぞれが地域の中で連携を図ることを誘導するような診療報酬体系を構築することによって、患者が、身近な地域で、安心して良質な医療を効率的に受けられるような地域医療体制の整備を促進するという考え方と理解される。

(2) 具体的仕組みの検討

(1) 医療機関の機能区分と評価体系の基本的考え方

 個々の医療機関が特色のある高い機能を有するという形で機能分担を進めるためには、医療機関の有する機能に着目した区分に応じ、評価体系を区分することが必要と考えられる。もちろん、離島、へき地等の経営基盤が脆弱にならざるを得ない地域において適切な医療を果たしている医療機関については、国民、患者に対する必要な医療提供を確保する観点から、一定の配慮を行うことが必要と考えられる。
 なお、評価体系を区分するとしても、同じような規模の医療機関でも各地域の状況によって、その果たすべき役割も異なり、また個々の医療機関の経営上の戦略を重視する必要もある。特に民間病院については、地域に密着した医療を行う病院から研修・研究機能等をあわせ持つ病院まで病院ごとに違った機能を有していることから、どの評価体系を選択するかは、一定の範囲で医療機関の自由裁量に任せることも必要と考えられる。

<病院の機能区分>

 病院の機能区分については、設置主体にその規模を組み合わせることにより、大きく病院の機能による区分ができると考えられる。
 具体的には、研究・研修的機能を果たすべき大学病院(特定機能病院)、政策医療を行うべき国公立病院、民間病院(地域医療支援病院を含む)という設置主体別の区分に、大病院と中小病院という規模の区分を組み合わせることが基本になると考えられる。
 大病院と中小病院の区分の基準としては、病床規模が基本となると考えられる。現在の診療報酬体系における区分等を勘案すると、病床規模が200床を超えるか否かが一定の基準になると考えられるが、必要に応じ構造設備や人員配置、診療実績などの機能を加味することも考えられる。また、長期入院を解消し、できるだけ地域での生活を促進するという観点から、専門的にリハビリテーション機能を果たす病院についても、その機能に配慮することが適切と考えられる。
 なお、国公立病院が行うべき政策医療とは何かについて、現在の医療供給体制の状況を踏まえつつ、公私の役割分担の観点から検討することが必要である。

<病院機能の評価体系の基本的考え方>

 病院の機能区分に応じた評価体系としては、入院という組織的な医療提供の体制を総合的に評価し、その効率的な医療サービスの提供を誘導できる新たな仕組み(ホスピタルフィーの体系)を検討することが必要と考えられる。
 具体的には、現在の入院環境料、看護料、入院時医学管理料などを基本として、病床面積、医師数、看護職員数、薬剤管理体制など、入院医療を適切に実施できる体制であるかという観点に、紹介患者の比率、政策医療の実施実績等、当該医療機関が、その機能を十分に果たしているかという点を加味して総合評価する「入院基本料」(仮称)という仕組みが考えられる(別紙1参照)。
 これにより適切な入院医療サービスの提供体制の確保と、質の高い病院の経営の安定化に資するものと考えられる。

<診療所の機能区分>

 診療所の機能については、プライマリケア機能を果たす体制にあるか否かに着目し、さらに病床の有無を組み合わせることによって、大きく区分できると考えられる。

<診療所機能の評価体系の基本的考え方>

 診療所の機能区分に応じた評価体系としては、プライマリケア機能を発揮できる体制を総合的に評価し、その効率的なサービス提供を誘導できる新たな仕組みを検討することが必要と考えられる。
 具体的には、現在の初・再診料の一部分などを基本として、地域における他の医療機関や関係機関との連携体制の構築、地域での救急医療当番制への参加など、かかりつけ医としての機能を十分に発揮できるような体制であるかという観点に、他の医療機関への紹介率、往診などの在宅医療の実績等、当該医療機関が、その機能を十分に果たしているかという点を加味して総合評価する「外来基本料」(仮称)という仕組みが考えられる(別紙1参照)。
 これにより適切なプライマリケアの提供体制の確保と、質の高い診療所の経営の安定化に資するものと考えられる。

(2) 大病院の機能の明確化

 医療機関の役割分担を進め、連携強化を促進する観点から、与党協案の指摘するように大病院については、入院機能を重視し外来は原則として他の医療機関からの紹介とすることで、地域医療のネットワークを形成する方向を進めることが必要である。

<入院機能>

 入院機能については、その病院の体制に応じて「入院基本料」で基本的な評価を行うこととし、初再診・手術・高額な処置等については出来高での評価を組合せることが考えられる。
 高度な入院医療を提供することが前提とされる特定機能病院等については、入院医療において当然行われるべき処置・投薬・検査・画像診断などの個々の診療行為についても、できるだけ広い範囲で「入院基本料」に包括化を進め、医療機関の自由度を高める中で医療の効率的な提供を促進することも考えられる。
 一方、その病院が担うべき機能を十分に果たしていない場合には、現在、医療法で定める標準を下回る医療機関に対し行っている診療報酬上の措置と同様に、減額等の一定の措置を講ずることも考えられる。なお、このような措置を講ずる場合、医療機関が機能を十分に果たしているかどうかを認定するための基準等について明確にすることが条件と考えられる。

<紹介外来>

 現在の大病院への外来集中は、病院と病院、病院と診療所等の連携体制が十分に確立していない状況にあるとともに、患者が医療機関の有する機能について的確な情報を有していないことやコスト意識が不足している中で生じている現象である。こうした紹介の有無に関わらない大病院への外来患者の集中は、従来より、医療資源の効率的な利用の面から課題と指摘されている。
 こうした大病院の紹介外来を促進する手法として、患者の行動を直接的に制限するようなものは好ましくないと考えられ、あくまで、医療機関の診療機能に関する患者への情報開示や患者教育の推進、診療報酬による医療機関の誘導や患者のコスト意識による誘導といった、情報提供と経済的な誘導の手法により実現することが妥当と考えられる。また、大病院への外来集中を是正するためには、大病院における専門的な診療が行われた後は紹介元の医療機関に患者を戻す、いわゆる逆紹介の誘導・促進も重要である。
 しかし、現在の紹介がない場合における初診料に係る特定療養費の仕組みについては、徴収額はあくまで医療機関の任意で決定され、患者から徴収する料金が少額の場合、紹介により受診した場合に比べてかえって自己負担が低くなり、逆の経済的誘因を与えているとの問題点がある。
 大病院の外来集中等を適正な方向に誘導する方策として、次のような意見があった。

○紹介率及び逆紹介率が低い大病院については、十分な機能を果たしていないとして、「入院基本料」を減額する等の診療報酬上の措置を講ずる。

○特定機能病院等において、紹介のない外来患者があった場合は、初再診料等の基本的な診療相当額を全額自己負担とする。

○紹介元医療機関が検査データ等を紹介状に添付し大病院に紹介する比率が高い診療所等については、プライマリケア機能を効果的に実施する体制を有するものとして診療報酬上の評価を行う。また、大病院側も検査データの添付がないものは紹介率として算入しない等の検査データ等の効果的利用を促進する経済的誘因を設ける。

○大病院において紹介元医療機関での受診継続の意思の有無等を患者に確認する。

(3) 中小病院、診療所の機能の明確化

<中小病院>

 中小病院は、救急医療も行う地域密着型の一般病院のほか、特定の診療科を中心とする専門病院や、療養型病床群を中心とする病院、へき地中核型の病院などもあり、入院機能という面でみて、その機能には多様性がみられ、一律にどの機能を果たすべきと定められるような状況にはない。あくまで、その医療機関の判断により、その地域の実情を踏まえ、自ら役割を選択していくことが原則になると考えられる。
 また、外来も、療養型病床群を中心とする病院など一部の病院を除き、地域医療において専門性のあるプライマリケア機能という面で大きな役割を果たしているものも多い。
 こうした中小病院については、その実情に応じて、入院機能は「入院基本料」で、プライマリケア機能は「外来基本料」で、その体制に応じて基本的な評価を行い、出来高での評価を組み合わせることが適切と考えられるが、あくまで、それぞれの医療機関の選択によることが必要と考えられる。

<診療所>

 診療所についても、高齢者の健康管理等も含めた地域医療全般を担う診療所、専門的医療技術を有する診療所、入院機能も併せ持つ有床診療所などがあり、その機能には多様性がみられる。
 しかしながら、これらの診療所は共通して、地域におけるプライマリケア提供体制を構築する上で重要な役割を担うべきものと考えられる。初期医療、時間外対応等の救急医療の他、今後は、急性期医療の充実・強化に応じて、地域リハビリテーション、在宅医療等の面での役割も大きくなっていくと考えられる。
 こうした診療所の機能を果たす体制を「外来基本料」として評価することとする際には、患者がその診療所が連携する関係機関の内容がわかる情報提供の仕組みや、その実績がわかる仕組みの導入が前提となると考えられる。患者は、こうして提供された情報に基づき医療機関を選択し、適切な競争が促進される中で、医療の質の向上が図られると考えられる。
 また、有床診療所の入院機能については、医療法に基づき療養型病床群とそれ以外の病床に区別して評価体系を設定することが必要である。療養型病床群については、慢性期医療の評価体系に準じたものとし、その他の病床については、その地域において果たしている機能や当該地域における医療提供体制の状況を踏まえた評価体系とすることが考えられる。

<プライマリケアと保健事業の連携>

 中小病院、診療所の果たすべきプライマリケア機能については、単に診療報酬における評価という現行の枠組みにとどまらず、老人保健事業などの保健事業(健診・予防事業)と連携を図って総合的に評価することができれば、より効果的なものとなると考えられる。
 これを一律に実施することは現状では困難であると考えられるが、例えば健康保険組合と特定の病院、診療所が保健事業と保険診療の総合的実施について特定契約を結び、多様な給付を行う試行的な取り組みの可否について検討すべきではないかと考えられる。保険者と医療機関の創意と工夫により、現行の画一的になりがちな医療保険制度では実現できない、柔軟なプライマリケア機能の発揮が期待できる。
 なお、この場合、被保険者のフリーアクセスを制限するような仕組みではなく、患者の健康への影響にも配慮して、フリーアクセスの維持を基本とした検討が必要である。


2 患者の病態(急性期・慢性期医療等)に応じた評価

(1) 与党協案の考え方

 与党協案では、患者の病態に応じた評価に関し、次のような方向を提示している。

●急性期医療
 :入院については、入院当初は出来高払い、一定期間経過後は1日定額払い。
 入院患者の疾患別定額払いについて基礎調査を進め、その導入を検討。
 外来については、原則出来高払い。

●慢性期医療
 :入院については、原則1日定額払い。
 外来については、原則出来高払いとするが、一定の慢性疾患は定額払いの在り方を検討。慢性疾患の急性転化及び急性疾患併発の場合には出来高を組み合わせる。

 この仕組みは、わが国の一般病床では、集中的な治療により早期退院が可能な急性期患者と病態が安定し長期にわたる療養が必要な患者が混在し、平均在院日数が長期化しているとともに、患者の病態に応じた適切な医療の提供が困難な状況にあることを踏まえ、急性期・慢性期医療を提供するにふさわしい入院病床の人員配置・構造設備を確立し、また患者の病態に応じた診療報酬の支払い方式を導入することによって、個々の医療機関が患者に対し、適切な医療を効率的に提供できる体制の整備を促進し、長期入院の解消を図るという考え方と理解される。

(2) 具体的仕組みの検討

(1) 急性期・慢性期の区分

 現在、与党協案に基づき、人員配置と設備構造を基準にして一般病床を急性期病床と慢性期病床とに区分することの医療法の見直しが検討されている。このような病床の機能の違いに着目した区分が行われれば、通常は、急性期病床では急性期医療が、慢性期病床では慢性期医療が実施されることになると考えられる。また、こうした区分を進めることは、患者への適切な医療を確保する観点や医療機関経営の効率化を図る観点からも必要不可欠なことと考えられる。
 急性期病床、慢性期病床の区分に応じ、「入院基本料」として、病院の基本的な体制(入院環境、看護体制、医学管理体制等)について適切に総合評価することを基礎として、それぞれの病床に通常入院することとなる患者の病態等に応じ、投薬・検査・画像診断等に係る評価体系を、通常治療が定型的(標準的なもの=包括定額)か、または非定型的(例外的、特殊なもの=出来高)かという基準のもとに区分することが必要と考えられる。これによって、患者の病態に応じた適切な診療が効率的に行われる誘因が生じると考えられる。
 なお、これは医療提供体制の見直しの議論が整理された段階でより具体的に検討すべき事項であると考えられる。

(2) 急性期入院医療
<出来高と定額の組合せ>

 入院の急性期医療について、与党協案の原則出来高と定額払いの境目となる「一定期間」を定めることの趣旨は、「入院当初は病態が不安定であったり集中的な検査や治療が必要である」ことに配慮したものであると考えられる。
 こうした期間を一律に設定することは、疾患や個々の患者の年齢、病態によって異なるため、難しい問題を含んでいると考えられる。こうした急性期入院医療において出来高払いを原則とする「一定期間」を定める場合には、白血病のように急性期治療に比較的長期間を要する疾患もあることから、疾患や治療の特性、患者の病態等に配慮して定めることが必要になると考えられる。
 これを診療報酬請求の観点から適正な評価・審査等を行うためには、標準的な疾患名の分類方法や主病名の記載方法の整理が必要不可欠な条件になると考えられる。複雑な仕組みとなる可能性もあるが、「一定期間」について細かく疾患ごとに設定したり、個々の患者の病態による例外を認めるような制度設計も視野に入れつつ、疾患名の分類等の作業を早急に進めることが必要と考えられる。その際、クリニカル・パスウェイの手法を活用することも有用である。

注:クリニカル・パスウェイ

 ある入院患者が辿るであろうと考えられる臨床経過と、そこで提供される医療について、医師、看護婦を中心に関係者の間で治療計画を作成し、患者に説明した上で実行・評価する手法

 こうした疾患名の分類が適切に実施されること、幾つかの例外を設けること等を前提とすれば、与党協の考え方を実現する可能性はあると考えられ、この場合、「一定期間」が経過した後の支払方式は、慢性期医療における支払方式と基本的に同様になると考えられる。
 なお、この点については、次のような意見があった。

○ 手術後等の安定期については、全包括による診断群別の一件当たり定額払い方式の導入についての検討が必要である。

 当面、「一定期間」を設定することに時間を要する場合には、入院期間を通して「入院基本料」を基礎に出来高払いを組み合わせる方式になると考えられる。その際、薬剤や検査の多用等に対応するため、種類・回数に応じた点数の逓減制、処方ガイドライン等に基づく同一グループ薬剤の重複投与の防止、または包括化等の適正化の仕組みの検討が必要である。
 また、急性期入院医療の「入院基本料」については、平均在院日数の短縮を図るため、逓減制またはこれに代わる仕組みを設けることが必要と考えられる。

<急性期医療の診断群別定額払い方式>

 急性期医療の診断群別定額払い方式については、昨年11月から試行が開始されたところである。急性期医療の診断群別定額払い方式は、在院日数の短縮など医療提供の効率化に向けた経済的誘因が働くだけでなく、診療の標準化の促進や医療の質を評価する基盤整備が図られる一方で、医師の配置が不十分である、看護体制が低いなど、これを実施する医療機関の有する機能によっては、医療の質の低下が懸念されるとの指摘がある。
 現在進められている試行は、基本的には同質の国立病院等の公的10病院において、183診断群に関して実施されているにとどまっている。診断群分類について逐次見直すことが必要と考えられ、また、医療の質や医療機関経営への全般的影響、医療機関の機能との相関関係を適正に評価するには、その母数が少ないのではないかと考えられる。
 中央社会保険医療協議会で議論すべき事項であるが、試行の長所、短所を評価するとともに、大学病院や民間病院等の機能の異なる病院の参加など試行病院数の拡大、症例数をできるだけ多く収集して対象疾患の拡大と診断群分類の見直しとを進めることが不可欠と考えられる。その上で、急性期医療に診断群別定額払い方式を導入することの可否、その条件等の検討を行うことが必要と考えられる。

(3) 慢性期入院医療
 入院の慢性期医療については、医療法に基づき一般病床の区分が行われるのであれば、急性期病床から早期に移ってくる患者が増え、従来にも増して、急性疾患の併発や急性転化への対応、リハビリテーション等の社会復帰を促進する医療サービスの提供が求められると考えられる。
 こうした慢性期病床については、基本的には、通常、患者の病態が安定していることから、「入院基本料」に投薬・検査・画像診断等を包括した1日定額払いを導入し、医療サービスの効率的な提供を図る経済的誘因を医療機関に付与することが必要と考えられる。また、これに併せて、「入院基本料」について一定の逓減制を導入することやリハビリテーションについての出来高での評価などにより、社会復帰等を促進する誘因を与えることが必要と考えられる。
 一方、入院患者の中心が社会復帰に時間を要する重度障害者等である医療型の療養型病床群や専門的にリハビリテーション機能を果たす病院については、逓減制の緩和等の措置を検討するとともに、漫然と長期入院をさせ社会復帰への努力も少ないような医療機関については、「入院基本料」の減額、逓減制の強化等により、これを解消するような誘因を高める措置を講ずることも検討することが必要と考えられる。この点について次のような意見があった。

○慢性期入院医療においても、1日定額ではなく、一定期間定額という考え方もある。また、医療資源の必要度に応じて1件当たり定額を設定する方法が米国の一部では採用されており、こうした方法の検討を進める必要がある。

○慢性期であっても、例えば人工呼吸器や中心静脈栄養などが必要な患者では、相対的に多くの医療コストを必要とするが、全ての慢性期の症例を一律の1日定額で評価すると、医療機関側になるべくコストのかからない症例を入院させたいという誘因が働くことになる。このため、慢性期患者について、効率化の促進、質の評価、管理基盤の確立という観点からも、資源必要度に基づき類型別に定額部分の価格を定める仕組み等の検討を進める必要がある。

 なお、急性疾患の併発・急性転化の際の投薬・検査・画像診断等については、患者の病態等を勘案して、出来高で評価することが必要と考えられる。

(4) 外来・在宅医療

 急性期、慢性期に関わらず、外来・在宅医療における定額払いについては、老人の外来総合診療料等のごく一部を除き、現行診療報酬体系には導入されていない。これは、疾患ごとの治療方法の定型化(標準化)の取り組みの遅れや診療報酬体系の過去の沿革に由来するものである。
 しかし、現状では、治療技術の進歩等によって、顎下腺腫瘍摘出術や白内障などの疾患の日帰り手術や一定の病態の安定した慢性疾患(合併症のない高血圧、糖尿病、高脂血症、消化性潰瘍、肺気腫、虚血性心疾患の安定期等)については、定型的な治療が可能となってきており、こうした疾患については、定額払いの導入を検討することが必要である。
 また、医療機関がプライマリケア機能や在宅医療機能を果たすためには、日頃の健康管理等、個々の診療行為に関わらない費用が生じるが、こうした機能全体を評価するためには出来高払いより定額払いの方が優れている面もあるとの指摘もある。こうした特性を踏まえ、プライマリケア機能評価という観点から、定額払いの導入や在宅医療の強化の可能性について、さらに検討することが必要である。なお、救急医療は出来高を基本とすることが必要と考えられる。

3 医療技術の評価

(1) 与党協案の考え方

 与党協案は、医療技術の評価に関し、次のような方向を示している。

●技術評価
 :医師、歯科医師などの診療科の特性や技術の難易度を評価する。

●看護評価
 :看護必要度を加味した評価とする。

●その他
 :特定療養費制度を参考に、一定の範囲内で医師、歯科医師などがその技術や経験が評価できる途を開く。

 この仕組みは、現行の診療報酬体系において、通常、技術料と言われてきた点数は逐次の改定により個々の点数相互の関係が不明確になっていることを踏まえ、医療従事者のチームによって提供される医療サービスや専門性の評価等を加え、医療機関や医療従事者の努力に報いる診療報酬体系を構築することによって、患者に適切な医療を提供する誘因を高めようという考え方と理解される。

(2) 具体的仕組みの検討

(1) 診療科特性、技術難易度に応じた技術評価

 病院における機能(体制)評価体系である「ホスピタルフィー体系」や診療所におけるプライマリケア機能の評価体系に組み合わせる、個々の診療行為の評価体系について検討した。

<チーム医療>

 現在の診療報酬において、外来部門の看護を評価していない等の医療従事者のチームによる医療サービス提供の評価が不十分であるとの批判がある。従来は、医師をはじめ医療従事者の行為を個々に分解して出来高で評価するという形が中心であったが、患者が受ける「医療従事者のチームにより提供される診療行為」の質について公平な評価を行うという考え方からは、チーム医療を総体として評価する体系の方が適切ではないかと考えられる。
 こうした観点も踏まえると、与党協案において「ドクターフィー」とされる技術料は、新しい仕組みの中では、例えば「診療行為料」と呼ぶ方が適切なのではないかと考えられる。
 また、現在の医療水準を踏まえると、医師等が個々の診療行為を行ったら評価するという出来高による評価ではなく、患者に対し各職種が協力して行う一連の医療サービスを包括的に診療報酬として評価し、仮に提供されるサービスが必要な水準以下であれば減額するという考え方に立つことも、結果として、医療機関が提供する医療サービスの質の向上や効率性の向上を促進することになるのではないかと考えられる。

<技術評価の対象と評価の考え方>

 「診療行為料」として評価の対象となる診療行為としては、初再診、手術、処置、投薬、注射、画像診断等があるが、これらの技術については、薬剤等と異なり市場による評価という仕組みがない。このうち、投薬、注射、画像診断等については、今後患者の病態に応じ、また使用の適正化の観点より、「入院基本料」等に包括評価することが考えられる(2 患者の病態に応じた評価参照)。
 これらの診療行為に対する現在の点数設定については、わが国における技術評価方法に係る研究の遅れという状況も反映し、他の診療行為との相対的な関係が不明確である、診療科の特性を反映していない等の各関係者からの批判があり、その評価の適正化のための試案も関係団体より提示されている。
 例えば、外科系においては、手術、処置等の個々の診療行為について、医師の経験年数、協力者数、手術等に要する時間の組み合わせを基準に、評価額を設定する試案(別紙2参照)が「外科系学会社会保険委員会連合」によって示されている。一方、内科系については、診察や処方が主体であるため、外科系と同一の評価基準とすることは困難であり、診察時間の要素を重視すべきとの考え方や医師の経験年数等も基準とすべきとの考え方がある。
 これらの診療科の特性や技術の難易度を適正かつ公平に評価するためには、まず患者に提供される医療サービス間の相対的な関係を定量化することが必要と考えられる。この作業を公平かつ適切に進めるため、早急に医療関係者からなる専門組織を、診療報酬額の検討等の役割を担う中央社会保険医療協議会に設置し、相対化の検討を継続して行うことが現実的な対応と考えられる。
 「診療行為料」の相対的関係を定量化する場合には、チーム医療の普及状況を踏まえ、患者に提供される医療サービスを総体として評価するという基本的観点より行い、この場合、相対化の基準となる指標としては、当該診療に係る標準的な医療従事者数、診療に要する標準的時間が基本になると考えられる。なお、この包括的な医療サービスの評価に当たっては、クリニカル・パスウェイの手法を参考にすることも考えられる。
 また、「診療行為料」の評価に当たっては、「入院基本料」により評価される基本的な入院医療の体制評価との調整等についても留意することが必要である。

(2) 医師・歯科医師の技術・経験の評価

 専門医資格を持つなど高い医療技術を有する者については、医師等の技術向上の経済的誘因を高め、医療の質の向上を図る観点から、一律の評価ではなく、何らかの評価が行われる仕組みの検討が必要と考えられる。
 しかし、その評価の具体的方法については、次のように考え方が分かれた所である。なお、いずれの考え方もその情報が患者に十分提供され、患者の選択に基づくものであることが前提の考え方である。


ア 診療報酬として評価する考え方
○専門医や認定医が医療の質を向上させるとの社会的な妥当性を得られるような基準が確立するのであれば、医師等の努力が報われるよう、これに基づき診療報酬として評価すべきである。

○専門医や認定医の評価が確立しても、診療報酬として評価するためには、その技術の違いにより医療費が効率化される等の具体的な効果測定が必要である。

イ 患者負担として評価する考え方(諸外国でも同様の仕組みはある。)
○厳密な費用分析を正確に行うことは困難であるが、患者のニーズに応える観点から、特定療養費制度を活用し、患者の選択と負担による市場機能を生かして、技術の違いを評価することは可能である。

○こうした仕組みは、患者が受ける給付内容が所得により大きな格差を生じる可能性があるので、こうした患者負担については自由な額設定を制限するとともに高額療養費の支給対象とし、負担限度額を現在の2段階ではなく所得に応じた多段階とすることが適切である。

 現在、専門医資格は、13基本診療科については基準作りが進められているがその基準の評価について議論がなされている所であり、また、これ以外の診療科については、現時点では、基準作りが進められている最中である。医療従事者の技術水準や専門性等に関する情報提供という患者のニーズに応えるため、専門医資格等の基準づくりなどその整備の努力を急ぐことが必要である。

(3) 医療の進歩に対応した技術評価

 医療技術の進歩は、医療費の上昇をもたらすこともある反面、技術の進歩により治癒までの期間の短縮や外来治療が可能となるなど費用低下をもたらす一面もある。診療の質の向上とともに医療費の効率化に資するような新技術を高く評価することが必要と考えられる。
 こうした高度な医療技術の評価に関連して、昭和59年に制度化された高度先進医療(特定療養費)の仕組みがあるが、この仕組みについては、最近の医療技術の高度化に十分対応しているか等の観点より、その運用の見直しについて検討することが必要と考えられる。
 例えば、先端的な医療を保険に導入する場合には、一定の費用対効果の測定が必要と考えられるが、現在の高度先進医療の仕組みにおいて十分にその測定がなされているのか、また新技術の医療経済的な観点からの評価方法を体系化することが必要ではないか等の検討が必要と考えられる。このため、高度先進医療等の保険制度上の取扱いに関する現行の検討機関の充実も検討する必要がある。
(4) 看護必要度の評価

 現行の看護料については、入院患者の重症度や看護サービスの内容に着目するのではなく、入院患者数に対する看護要員の比率や平均在院日数により定められているが、今後は、こうした評価に、入院患者へ提供されるべき看護の必要量に応じた評価を加味することが必要と考えられる。
 一般病床を急性期病床と慢性期病床に区分し、患者の病態に応じた適切な医療提供を推進するとの、医療提供体制の今後の整備方向を踏まえると、患者の重症度に応じた適切な医療を現に実施している医療機関が、看護必要度という指標を通じ、その努力に応じて適切に評価される仕組みを導入することが必要である。
 こうした仕組みは、欧米と比較して入院期間が長く配置人員が少ないとされるわが国の急性期医療の質の向上を図るため、当面、急性期医療に重点を絞って行うことが適切と考えられる。また、この評価は、患者個々の病態等を基本に、病院・病棟単位の全体の患者の分布状況等を指標として行うことが考えられる(別紙3参照)。
 この仕組みを導入することによって、医療機関には、より良質な急性期医療提供を促進する経済的誘因が高まることとなり、医療機関の機能の向上、看護内容の充実や早期退院の促進が図られると考えられる。
 また、こうした看護必要度を評価する急性期病床については、入院医療の提供体制が一定水準以上のものに限定しなければ、かえって医療の質の向上を妨げる可能性があるため、対象とする医療機関の範囲等について十分な検討を加える必要がある。
 なお、看護必要度について、実際の病状より看護必要度を高くして請求する弊害が生じるおそれもあるため、これを防止する仕組みの導入を併せて検討することが必要と考えられる。

4 投資的経費、維持管理経費の評価

(1) 与党協案の考え方

 与党協案は、投資的経費、維持管理経費の評価について、次のような方向を提示している。

●維持管理経費等
 :医療機関の設備投資、維持管理経費については、地域格差を反映した評価を行う。

●療養環境(アメニティ)
 :施設利用料として患者から料金の支払いを受けることを原則自由とする。

 この仕組みは、病室が狭い、食堂がない等、欧米と比較して整備が立ち後れているわが国の病院等の療養環境の現状や地域的な不均衡などを踏まえ、患者が良好な療養環境で適切な医療を受けることができる医療機関の体制の整備を促進するという考え方と理解される。

(2) 具体的仕組みの検討

(1) 経費区分
 維持管理経費は設備投資経費によって変わり得るものではあるが、医療機関の費用構造から診療報酬体系を考えた場合には、一応の区分としては、資本費用(投資的経費)、維持管理経費(間接的経費)、技術に直接関連する経費(直接的経費)とに分けて考えることが適当と考えられる(別紙4参照)。

(2) 投資的経費等

 投資的経費の在り方については、わが国では医療機関は自由開業制で設備投資等も自己の判断で自由にできることや、病床数が過剰と考えられることを踏まえて、検討することが必要である。こうした現状において、仮に医療機関の設備投資(減価償却費)を全て診療報酬等で保障するとした場合には、さらに過剰な設備投資を招き、わが国の効率的な医療提供体制の確立を阻害する可能性が非常に高いと考えられる。
 適切な医療を安定的に供給するためには、投資的経費(減価償却費)の一定の範囲を診療報酬として評価することは必要と考えられるが、一方、設備投資は各医療機関の経営上の長期的判断によるものであり、また現状の水準が適切かどうかも判断が困難なものである。このため、投資的経費(減価償却費)を無理に複雑な体系で診療報酬として評価を行うことは避けることが適切と考えられる。
 従って、投資的経費(減価償却費)については、医療機関の機能別の経費の詳細な調査に基づき、医療機関の機能別にその基本的な費用に相当する分について、範囲、額等を設定し「入院基本料」や「外来基本料」の中で評価することを基礎とすることが適切と考えられる。さらに、診療報酬とは別に、地域医療計画に則した適切な療養環境の整備等の良質な投資と判断されるものについて公費(医療施設近代化施設整備費補助金等)を投入する現状の仕組みを維持・充実する中で、各医療機関の自主的な経営判断・経営努力に委ねることが適切なのではないかと考えられる。
 その上で、医療機関の質に関する情報が十分に国民に開示されていることを前提に、医療機関の療養環境をできるだけ速やかに改善するという点に重点を置き、次のような視点から考えると、施設利用料の自由化はやむを得ない方向ではないかと考えられる。

・国民医療費が年々増大する中で、現在の医療費財源とは別に新たに保険料、税金等の負担を求めることは可能なのか。

・現在の医療費財源の一部をこうした投資的経費に充当するとした場合、限られた医療費財源の効率的な使用と評価できるのか。

・患者が納得の上で医療機関を選択し、その環境に応じた施設利用料を支払うことは、過重な負担と評価するべきか。

 ただし、一定の水準以上の入院医療サービスを提供できる体制の病院についてのみ導入を認めるとの工夫の他、いわゆる従前の「お世話料」と同様な不透明な利用料とならないよう施設利用料の範囲・基準の明確化を図ること、また費用が不合理に高騰しないよう医療機関ごとの利用料に関する情報の提供体制を整備すること等をさらに検討することが必要と考えられる。

 なお、以上のような考え方に対し、次のような意見もあった。
○投資的経費については、現在、公私間で格差があり、今後とも拡大することが懸念される。民間病院に対する格差是正のため、診療報酬上の配慮が必要である。また、施設利用料を自由化しても、基本的に減価償却が不要である国公立病院では利用料は低額になると考えられ、民間病院との間では公正な競争とは言えないのではないか。

○投資的経費については、診療報酬点数とは別に、保険財源の中から各医療機関の機能や地域差を評価した上で配分することが適当。その際、地域医療計画に基づき、公私を問わず、医療機関の社会的妥当性に着目して配分することにより効率的な資源配分が可能ではないか。

○投資的経費については、病院債等による資本市場の整備を図ることで対応することが適切ではないか。

(3) 地域差評価

 減価償却費、維持管理経費等の地域差を細かく見ることは、複雑な制度になる可能性が高く、また、結果的には個別の医療機関ごとの違いを評価することと同様になり、場合によっては効率的な医療機関経営の経済的誘因を減ずる可能性もある。新たな体系において地域差を評価するとしても、医療機関経営の効率化を促進する観点から、「入院基本料」の中で標準的な違いを評価するにとどめるべきものと考えられる。
 また、診療所についても、プライマリケア機能を十分に果たしているものについては、「外来基本料」としてその体制を評価する中で適切に評価することが考えられる。
 しかし、現行の地域差評価(入院環境料)については、国家公務員調整手当の地域区分を用いているが、新しい体系で地域差を評価する場合には、介護保険制度等の他制度との均衡を図りつつ、必要があれば地域区分を見直すことも検討することが適切と考えられる。
 なお、地域差評価を行う場合については、その前提として、医療機関の規模別や地域別に、評価すべき明確な差異があるか詳細な調査を行うことが必要である。

5 薬剤の適正使用の推進

 薬剤の適正使用は、現在、制度企画部会で議論が進められている薬価基準制度の見直しの基本的視点の一つであるが、その推進にあたって大きな論点になっているのは、医療現場での患者に対する適切な薬に関する情報提供である。診療報酬及び調剤報酬体系の見直しについては、このような観点も踏まえつつ薬剤の適正使用の体系化を図ることが必要と考えられる。

(1) 保険薬局の機能を活用した薬剤の適正使用の推進

 保険薬局は、独立性、地域開放性、地域密着性、多様性という特徴を活かし、地域におけるチーム医療の一員として、医薬品の適正使用を通じ患者のQOL(生活・療養の質)の向上に貢献してきた。医薬分業の進展に伴い、患者ニーズの変化に応じた調剤サービスの多様化等に対応するため、調剤報酬についても評価の充実が図られてきたところである。
 しかしながら、結果として国民にとってわかりづらい報酬体系となっているばかりでなく、薬剤に係る技術評価が調剤報酬と診療報酬との間で異なっていることなどから、院内投薬と院外投薬の患者負担に格差が生じ、医薬分業が国民に理解されにくいことなどが指摘されている。
 このような問題点を解消し、今後とも医薬分業の利点を生かし、薬剤の適正使用を推進するためには、薬剤師による処方の二重確認や医師への情報提供及び患者に対する服薬管理指導等、薬剤師固有の技術・指導等を適切に評価することに重点を置いて、調剤報酬体系の見直しを行う必要がある。また、医療機関と保険薬局の連携が不十分であるため医療機関側から見ると患者に対して適切な服薬指導が行われているか不安感があるとの指摘も踏まえ、患者への服薬管理指導がより的確になされるよう、医療機関と保険薬局の連携を診療報酬上評価することが重要である。
 こうした調剤報酬体系の見直しにあたっては、技術関連費と管理関連費の2つの柱を基本として、より国民にわかりやすい報酬体系とする一方、包括化の範囲を拡大するなどの検討を行うことが必要と考えられる。(別紙5参照)
 なお、この点に関し、次のような意見もあった。

○適正な薬剤の使用と患者の経済的、肉体的負担を軽減するため、特定の慢性疾患等に係る投薬についての処方箋の複数回利用の容認等を行ってはどうか。

(2) 医療機関における薬剤の適正使用の推進

 病院の薬剤師はチーム医療の一員として医薬品の適正使用の観点から、処方の二重確認や処方支援、調剤や薬剤管理指導業務を通じて薬物治療に貢献し、患者のQOLの向上を図っているだけでなく、医薬品情報の収集や提供、薬剤の保管・管理に当たっているものの、業務に対応した診療報酬上の評価が十分なされていないとの指摘がある。
 こうした患者への服薬指導や医師等医療機関の職員への必要な情報提供という医療機関の中での取り組みは、薬剤の適正使用に必要不可欠の要素であり、薬価基準制度の見直しと並行して適切な措置を講ずることが必要と考えられる。具体的には、こうした薬剤情報の収集・提供の体制を整え、現にその実績をあげている病院については、「入院基本料」に一定の加算等を行うことが考えられる。
 また、診療所等においても、病院と同様に、文書による情報提供等に必要な体制を整え、その実績をあげているものについては、「外来基本料」に加算を行う等の評価を行うことが考えられる。

(3) 薬剤管理費用等

(1) 医療機関における薬剤管理費用等

 薬剤の適正使用の障害となっていると指摘されている薬価差について、薬価基準制度の見直しによりその解消を図ることに伴い、医療機関における薬剤管理費用を適正に評価することが必要と考えられる。薬剤管理費用については、現在、診療報酬全体で広く薄く評価しているとの考え方であり、その整理を行うことが必要である。
 医療機関における薬剤管理費用としては、薬剤の保管・管理、品質の確保及びそれらの医薬品情報の収集・管理に要する人件費や機器・機材等が考えられるが、具体的評価としては、入院患者については「入院基本料」の一部として、外来患者については「外来基本料」の一部として評価を行う方法等が考えられる。この点については、医療機関の機能・規模に応じた評価のあり方等、さらに検討することが必要と考えられる。
(2) 保険薬局における薬剤管理費用等

 独立した機関としての保険薬局についても、投資的費用、維持管理経費は必要な費用と考えられる。医薬品の備蓄等に要する薬剤管理費用を含むこうした経費について、診療報酬における評価と均衡を図りつつ、調剤報酬上の評価を検討することが必要である。

(4) 診療報酬と調剤報酬との整合性

 現在格差があると指摘されている、診療報酬と調剤報酬における調剤料の格差是正や、医療機関での投薬と院外処方の場合の調剤との点数格差の是正について、今後それぞれの特性を踏まえて検討を進めることが必要と考えられる。

6 老人医療の特性

 老人医療についてはその特性を踏まえ、特に次のような点に留意することが必要と考えられる。

(1) 入院医療における特性

 老人医療は慢性疾患がその中心であり、これまでも、老人の心身の特性に応じた医療を提供する観点から、一定の介護力を備えた病床について、1日定額払いの診療報酬が設定され、その採用割合は次第に増加してきている。今後の老人医療の在り方については、入院医療は、先に述べた急性期・慢性期の区分に応じた診療報酬とすることが適当であり、その太宗を占める慢性期については、原則1日定額払いの体系をとっていくことが適切と考えられる。
 一方、老人の急性期医療に対するニーズについても適切な対応が必要であり、これを担う医療機関が、若人の急性期医療と基本的には同様の考え方に基づいて、診療報酬上、適切な評価を受けられるようにしていくことが肝要である。
 さらに、老人の疾患の特性に鑑みれば、急性期から安定期への移行期間における医学的管理を適切に行うことが重要であり、リハビリテーションや在宅支援といった点について、老人医療において積極的な評価を行っていくことが必要と考えられる。
 なお、介護保険制度が施行されることに伴い、医学的管理のもとに介護を提供すべき患者については、介護保険から給付を受けることが原則となる。しかし、慢性期ではあっても、医学的管理を重点的に行う必要のある老人患者については、医療保険において対応することが想定されるため、現行の人員配置基準についても検討を加える必要があると考えられる。

(2) 外来医療における特性

 外来医療については、その病態が多様であることから、原則として出来高払いが適当と考えられるが、高血圧、糖尿病、高脂血症等の生活習慣病については、治療法が定型化されており、さらに今後は運動指導・栄養指導の重要性が高くなることを踏まえ、それらの技術を包括して評価していくことが適当と考えられる。
 老人医療における外来及び在宅医療については、個々の病態に対応するのみならず、総合的な医学的管理を提供することが重要であり、これを反映した老人慢性疾患外来総合診療料(外総診)、寝たきり老人在宅総合診療料(在総診)が、老人診療報酬特有の点数項目として設けられているところである。老人に対する外来及び在宅医療においては、このように総合的な医学管理を評価する視点が今後とも必要と考えられる。

(3) 健康管理

 老人医療の現状を鑑みると、老人医療をより質の高い専門医療として確立していくことが必要と考えられ、このため、日常的な健康管理に対する給付を含め、老人医療のあり方について、さらに検討を進めることが適切と考えられる。

7 精神医療の特性

 精神医療についてはその特性を踏まえ、特に次のような点に留意することが必要と考えられる。(別紙6参照)

(1) 病院の機能に関する特性

 精神医療は、入院から退院、社会復帰後の支援まで、医師と患者の一貫した関係が必要とされる特性があり、地域密着型の医療が必要となる。また、こうしたわが国の精神医療は、その8割を中小の民間病院が担うという特徴がある。
 こうした精神医療においては、病院の機能区分を進める上で、精神障害者の三次救急・身体合併症の問題や医療と保護に係る公私の役割分担が重要な要素となっており、質の異なるケアに着目し、診療報酬体系上も公私の機能区分が促進する仕組みとすることが必要と考えられる。
 また、病院の入院医療を重視した紹介制の推進だけでなく、精神医療では入院施設から社会復帰施設まで一貫したケアプログラム(指導計画)が必要であり、外来診療はその両者にまたがる重要な位置を占めている。従って、精神医療の診療報酬体系については、病院の外来機能がこのようなケアプログラムを支える重要な役割を持つものとして評価することも必要である。

(2) 急性期・慢性期医療に関する特性

 現行の精神医療の診療報酬体系において、急性期医療または慢性期医療に対して包括評価されているものとして、精神科急性期治療病棟入院料、精神療養病棟入院料、老人性痴呆疾患治療病棟入院料、老人性痴呆疾患療養病棟入院料がある。
 入院における急性期・慢性期医療を区分する方法としては、在院日数、重症度、疾患名などを指標として区分する方法が考えられるが、個々の患者の病状や経過が異なるため、その区分は慎重な検討が必要である。その際、病棟単位での、個々の患者の状態像やニーズの違い、平均在院日数や残留曲線の違いなどに留意することが必要と考えられる。
 なお、精神医療における急性期・慢性期医療の評価体系も、基本的には、一般病院における区分と同様に、良質な組織的医療サービスを提供する体制を評価する「入院基本料」を基礎にして、その上で検査・投薬・画像診断等について、通常治療が定型的か、または非定型かという基準に基づき、包括定額または出来高の評価方法の区分をすることが必要と考えられる。
 この場合、社会復帰を促進する精神科専門療法や、急性疾患の併発・急性転化の際の投薬・検査・画像診断等については、出来高で評価することが必要と考えられる。

(3) 医療技術に関する特性

 精神医療の技術の特性として、精神障害者の医療と保護に係る人権擁護の配慮が医療の質の重要な要素となっている。精神症状等により治療上やむを得ず拘束、隔離をする場合には、人権擁護のための相当の診療、看護が必要となるが、このためには適切な指針を策定することが必要である。こうした指針に基づき、良質な組織的な医療サービスが全ての精神病院で提供されるようになることが必要と考えられる。こうした指針については、診療報酬上評価することが必要と考えられるが、その方法については、その普及状況等も踏まえ、今後検討することが必要と考えられる。
 さらに、人権擁護の体制の確保の観点から、精神保健福祉法に基づく措置入院、医療保護入院、任意入院の入院形態別に対応した診療報酬上の措置を検討することが必要である。また、精神医療に特有のチーム医療についても、その適正な評価が必要と考えられる。

8 歯科医療の特性

(1) 与党協案の考え方

 与党協案は、歯科医療の評価について、次のような方向を提示している。

●出来高原則
 :歯科医療機関は外来が中心であることから出来高払いを原則。
 根管治療などにおける定型的な部分は定額払い。

●固有の技術評価
 :歯科固有の技術評価として、長期的維持管理に着目した評価を行う。

 この仕組みは、歯科医療の特性として、齲蝕、歯周疾患及び歯の欠損等による影響が蓄積し咀嚼機能を慢性的に阻害しやすいこと、歯科補綴物の長持ちが問題になるという点を踏まえ、歯科固有の技術評価として咀嚼機能の長期的維持管理(長持ちする歯科医療)に着目した評価を行うことが、歯科医療費適正化の観点からも重要であるとの考え方と理解される。

(2) 具体的仕組みの検討

 歯科医療についてはその特性を踏まえ、特に次のような点に留意することが必要と考えられる。(別紙7参照)

(1) 支払方式(出来高・包括定額)

 歯科医療は外来診療が大半であることに加えて、患者間で歯科疾患の個人差や歯科補綴の治療内容等の差異が大きいという特性から出来高払いを原則とするが、可能なものについては、出来高払いと定額払いの最善の組合せを検討することが必要と考えられる。
 根管治療(歯内療法)については、歯科補綴物の長期的維持管理の視点からも重要であるが、技術的に定型的な部分については歯科医療の適正化及び請求事務の簡素化の視点から包括化を取り入れることが可能と考えられる。
 なお、その際、難度が高い症例が存在するので評価上、考慮することも必要である。

(2) 固有の技術評価としての長期的維持管理の評価

 固有の技術評価は、咀嚼機能を回復させ長期維持する技術に関連して以下の3つの視点で行う必要があると考えられる。

・歯科補綴物については、その長持ちに関する技術評価を包括的により充実する必要がある。

・小児については、小児の齲蝕多発傾向者に対して、効果的なセルフケアのための手法の拡大を含めた効果的再発抑制及び重度の咀嚼機能障害を伴う不正咬合児への歯科矯正治療を評価する必要がある。

・歯周疾患についてはハイリスク者の再発を効果的に抑制する視点での評価を加える必要がある。なお、その際特定療養費を活用することも考えられる。

(3) 病院歯科の評価

 病院歯科については、病診連携に基づく高次の機能及びチーム医療の評価を行う必要があると考えられる。

(4) その他

 歯科医療の技術評価は歯科固有の技術に着目した評価を優先的に行う必要があるが、その際、固有性が低い項目の評価については再検討する必要があると考えられる。
 また、歯科訪問診療については、その適応の基準の明確化及び医療機関の連携の評価を行うべきと考えられる。
 なお、維持管理経費については、医科無床診療所と同様の考え方とすることが適切である。

9 医療情報提供の基盤整備

 医療機関の機能の明確化、質の向上を図る一方で、国民に適切な医療情報を提供する等の基盤整備を進めることは、患者主体の医療を確保しまた医療費の効率化にもつながるものである。
 医療情報提供の基盤整備は、診療報酬体系の見直しを実効あるものとするため不可欠な要素と考えられ、必要と考えられる措置について検討したところである。

(1) 医療に係る情報公開

(1) 医療機関が提供する医療サービスに関する情報の公開等

 わが国の医療保険制度は、患者が医療機関を自己の判断により選択できるフリーアクセスの仕組みとなっている。しかし、実際には、患者は医療機関を選択する際に必要最低限の情報すら入手することが困難な状況にあり、また、医療機関が実際にどのような医療水準であるかを比較することも困難なため、患者はとりあえずの安心を求めて大病院に集中する等の問題が生じている。

 こうした患者の医療情報不足の状況を解消し、地域に展開された医療提供のネットワークを適切に選択できるよう、まず行政が保有する保険医療機関に関する情報(診療報酬の関係で届け出た事項等)について、わかりやすい形で積極的に患者、保険者に公開することが必要と考えられる。また審査支払機関の有する情報についても公開すべきであるとの意見もあった。
 このような情報について、保険者が共同して、被保険者、患者に提供するような事業を進めることも必要である。また、医療に関する情報開示は、医療機関の機能だけでなく病院機能評価等の評価結果を含めて行うことが可能となれば、より効果的なものになると考えられる。

(2) 医療機関の患者への情報提供

 医療機関が患者に提供する情報としては、現時点では院内掲示等によるものであるが、患者が保険医療機関を選択するのに役立つような情報(例えば、医師の専門性についての情報、疾病治療の経験や実績など)について、規制緩和や掲示の義務化等がより一層進めば、患者が医療や医療機関を選択する際の重要な判断材料となり、適切な医療の確保に資すると考えられる。
 さらに、包括定額払いと出来高払いの組合せによる診療報酬体系が適切に機能するためには、患者に必要な情報が提供され、患者の適切な選択が生じることが条件と考えられる。従って、今後、個々の診療報酬点数を取得できる条件に、当該専門分野における診療実績など、できる限り国民、患者が知りたいと考えられる医療情報の提供の義務づけを加えることを検討することが必要である。これにより、安心して医療を受けられるような体制を整えた医療機関であるか否かを患者が判断する材料となる情報が広く公表されることとなり、患者の適切な医療機関の選択と医療機関の適切な競争による質の向上が図られると考えられる。
 こうした診療内容の情報提供を進める際には、その情報を提供する際の基準の策定を併せて検討することも必要と考えられる。なお、診療内容の開示については次のような意見があった。

○医療現場における診療内容に関する患者への情報公開を進めるため診療内容のうち客観的な事項の記録を開示すべきである。

○精神医療の特性から診療内容の開示は慎重に対応すべきである。

(3) 医療情報提供の新たな取り組み

 今後、医療情報の提供として取り組むべき方向の一つとして、患者情報の共有がある。当面、紹介外来の際の検査データの共有化の促進、薬歴手帳の発行等による薬歴情報の共有化など、重複受診、重複投薬等を排除するための仕組みについて、薬剤使用の適正化の観点からの医療機関と保険薬局の連携も含め、これを検討することが必要と考えられる。さらに、電子カルテ、被保険者証のカード化を進めるに当たっても、こうした患者情報の共有化という視点から、診療報酬上、必要な措置を講ずることを検討することも必要と考えられる。
 また、医療情報の提供を促進する取り組みとして次のような考え方もあった。

○患者への情報公開への対応や審査の参考とするためにも、医療機関ごとの診療内容の情報を蓄積し活用するシステムを構築することが必要である。また、このデータを生かして、信頼できる最新のデータに基づく理に適った医療(エビデンス・ベイスド・メディスン)の研究を推進することが必要である。また、これを誘導する仕組みを検討することが必要である。

○適切な診療録管理に基づく情報の収集・整理について診療報酬上の評価を検討すべきである。

(2) 医療の質の確保のための方法

 定額払いの場合には、粗診粗療が起こる可能性が指摘されているが、現在のレセプトの記載では診療内容が把握できないことから、医療の質を確保するための最低限の仕組みとして、使用した薬剤の内容など一定の診療内容について記載を義務づけることを検討することが必要と考えられる。この場合、患者の状況を表す属性、診療内容及び診療成果に関する必要最低限の情報を標準化した様式で記載する方式が適切と考えられる。
 また、適切な診療であるかどうかを判断するため、レセプトには主傷病名を記載することを推進することが必要であり、その際には、ICD10(第10回修正国際疾病傷害死因分類)によるなど一定の基準を定めることが望ましいと考えられる。
 さらに、現在のレセプト審査や指導監査は、医療の質をチェックするという意味で一定の役割を果たしているが、レセプト電算化の進展を促進し、審査・請求事務の効率化を図るとともに、必要に応じ審査に係る基準を明確にしていくことを検討することも必要と考えられる。
 この他、次のような意見もあった。

○第三者機関による審査・評価、厳格なピア・レビュー(医師による審査)、レセプト電算化普及のための誘導措置などの検討も必要である。

10 質の高い医療従事者の確保

 良質な医療は、特色のある高い機能の医療機関において、質の高い医療従事者により提供されることは言うまでもない。
 診療所のプライマリケア機能について、専門医としての研鑽を積んだ医師がプライマリケア医として適切かとの議論があったが、今後の医療機関の方向として特色ある高い機能を有するべきとの観点からは、専門医がプライマリケア医として開業することは必ずしも不合理ではないと考えられる。いずれにしてもプライマリケア医の教育・研修の推進が必要と考えられる。 また、患者ニーズが高い医療従事者に関する技術水準や専門性等に関する情報の提供については、これを促進する観点より、専門医制度の整備などの努力を早急に進め、これを開示することを進めることが必要と考えられる。
 医師等の臨床研修を担当する教育機能を有する医療機関の評価についても議論があったが、次のような意見があった。この問題は、臨床研修を担当する医療機関の機能を診療報酬上どのように評価すべきかという問題であり、医療保険財源への影響も踏まえつつ、検討することが必要である。

○医師等の技術等を向上させ患者に対する医療サービスの質の向上を図るためには、臨床研修は必要不可欠である。これを担当する医療機関では、指導医の配置等の人員配置面、研修に要する経費面で、他の医療機関に比較して特別の費用が生じる。こうした費用は、これまでの臨床研修でも保険診療の中に含まれているという面もあり、診療報酬上、適切に評価することが必要である。

○臨床研修に要する費用は確かに生じるが、当該病院で医療を受ける患者にとっては、特別な医療を受けているかどうかはわからず、医療サービスの対価としての診療報酬で評価することは問題があるので、教育費として別途処理するなど、診療報酬とは別の財源によって手当されるべきである。

IV 終わりに

 診療報酬体系の見直しは、国民にとってわかりにくい改革である。この報告書をまとめるに当たっては、少しでも、国民にとってどのような効果が生じるかという点について理解が進むように留意したつもりである。
 与党協案やこれを踏まえたこの報告書の内容については、各委員より、「終末期医療における医療のあり方や医療と福祉の役割分担について触れられていない」「包括定額払いの大幅な拡大は慎重に行うべき」等の当否に関する意見や「診療報酬体系の見直しは現行の財源の範囲内で検討すべきである」「国民所得の一定割合を医療費とするとの考え方に基づき検討すべきである」等の財源に関わる意見もあった。
 しかし、制度企画部会での具体的な議論を進めるための素材を提供するという診療報酬体系見直し作業委員会の本来の役割を踏まえ、あくまで与党協案を前提に、これを実施するとした場合の論点、方法論等について「議論の素材」とするという各委員の総意により、報告書をとりまとめたものであることを付記する。
 この報告書には別紙としていくつかの参考資料を添付した。本文に記載された考え方をできるだけ具体的にイメージできるようにすることを目的としたものであり、その内容については、報告書本文と同様の性格のものである。当委員会としても、今後、さらに議論すべき事項が多く含まれていると考えている。
 最後にこの報告書をもとに、関係者の様々な議論が起きることを期待して、今回の検討作業を終わることとしたい。


診療報酬体系見直し作業委員会委員名簿

飛鳥田 護 飛鳥田医院院長
安 部 好 弘 水野薬局
出 月 康 夫 埼玉医科大学教授
江 藤 武 俊 日本経営者団体連盟常任理事
○  遠 藤 久 夫 学習院大学経済学部教授
大 塚 宣 夫 青梅慶友病院理事長
金 森 頼 長 白鬚橋病院事務長
樺 山 照 一 杏林大学病院薬局長
亀 田 俊 忠 亀田総合病院理事長
鴨 井 久 一 日本歯科大学教授
苅 家 利 承 東京厚生年金病院内科部長
川 渕 孝 一 日本福祉大学経済学部教授
木 村 佑 介 木村病院院長
五 島 雄一郎 東海大学名誉教授
鈴 木 久 雄 健康保険組合連合会常務理事
高 木 安 雄 仙台白百合女子大人間学部教授
高 嶋 妙 子 聖隷浜松病院総婦長
津久江 一 郎  瀬野川病院院長
内 藤 哲 夫 内藤外科胃腸科医院院長
桝 本 純 日本労働組合総連合会生活福祉局長
宗 正 有 功 宗正歯科医院院長
吉 田 英 機 昭和大学医学部教授

(五十音順)

(注)◎印は委員長、○印は委員長代理を示す。


診療報酬体系見直し作業委員会の検討状況

 

  開催日時 検討内容等
第1回 9月9日(水) ○診療報酬体系見直しの経緯について事務局から説明
○作業委員会における検討項目について
第2回 9月28日(月) ○急性期医療・慢性期医療に係る診療報酬体系について
第3回 10月6日(火) ○医療の質に関する評価・確保及び情報提供について
第4回 10月13日(火) ○診療科特性、技術難易度等に応じた評価方法について
第5回 10月23日(金) ○設備投資・維持管理経費の評価方法について
第6回 11月2日(月) ○歯科医療、調剤の評価方法について
第7回 11月10日(火) ○医療機関の機能に応じた評価について
第8回 11月24日(火) ○主な意見の整理の検討(1)
第9回 11月30日(月) ○主な意見の整理の検討(2)
第10回 12月7日(月) ○主な意見の整理の検討(3)
第11回 12月11日(金) ○報告書案の検討(1)
第12回 12月17日(木) ○報告書案の検討(2)
第13回 12月25日(金) ○報告書案の検討(3)

照会先 保険局医療課 内線(3275)


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