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コンピュータ西暦2000年問題とは、コンピュータ・プログラムが西暦2000年以降の日付に対応していないために、コンピュータシステム、マイクロコンピュータ搭載機器等に異常が発生する可能性があるというものです。
政府においては、平成10年9月11日、高度情報通信社会推進本部(本部長:小渕恵三内閣総理大臣)において「コンピュータ西暦2000年問題に関する行動計画」を決定しました。その中で医療は、国民の健康・生命に影響を与えることから、重要分野に指定されており、各医療機関における遺漏なき対応が求められています。
この2000年問題については、発生日時等があらかじめ予測できるため、事前の対策を講ずることにより問題発生の確率を減らすことが可能です。このような観点から、各医療機関には、保有する医療機器等の安全性確認、危機管理計画の策定等をすでにお願いしているところです。
医療機関において策定する危機管理計画とは、万全の対策を講じたとしても万が一の事態が発生した場合に備えて策定するものです。そして、危機管理計画は、2000年問題に起因する予測できない問題発生に適切に対応し、「患者の生命・健康を守ること」を目的とするものです。したがって、各医療機関の実状に応じて、現実的に実行可能な危機管理計画を策定することが求められています。
今般、厚生省では社団法人日本医師会と協力して、各医療機関における危機管理計画策定の一助となるよう「医療機関におけるコンピュータ西暦2000年問題危機管理計画策定指針」を作成しました。
本指針は、危機管理計画策定にあたっての考え方や最低限考慮しなければならないポイントをまとめたものです。各医療機関においては、本指針を参考に、各々の組織や取組状況に応じて、2000年問題への実際的な対応を図られるようお願いします。
1.コンピュータ西暦2000年問題とは
2.医療機関における危機管理計画策定の意義
3.医療機関における事前対応措置
4.優先医療機器等の使用にあたっての基本的考え方
1.危機管理の基本的考え方と危機管理計画
2.対応の重点化
3.危機管理計画に盛り込むべき内容
4.危機管理計画の策定時期
III 危機管理計画の作成
1.越年時に患者を収容している医療機関における対応
2.越年時に患者を収容していない(診療を行わない)医療機関における対応
VII 参考資料
1.コンピュータ西暦2000年問題とは
コンピュータ西暦2000年問題とは、コンピュータが西暦年数を下2桁のみで処理することに起因するさまざまな問題及び影響のことです。つまり、コンピュータが西暦年数を下2桁で処理する場合、1999年から2000年に変わる際、2000年がコンピュータ上で「00」と表現され、1900年と誤って認識されてしまうためにさまざまな問題を生じる可能性があります。
この仕組みはコンピュータに広く内在しているため、同時多発的・広域的に発生する可能性があります。また、電気、ガス、水道などの社会インフラについても同様に問題が発生する可能性があります。
一方、問題が発生する可能性のある日時や機器等がある程度特定できるので、適切な防止対策を講じることにより、その危険性を確実に減らすことが可能です。したがって、機器等の安全性の確認や危機管理計画の策定など、事前に可能な限りの対応を講じることが大切です。
2.医療機関における危機管理計画策定の意義
医療機関には、マイコンチップを搭載した医療機器やコンピュータシステムが幅広く導入されています。医療機関において2000年問題による障害が発生した場合、患者の生命・健康に影響を及ぼす可能性があるため、この問題への適切な対応が求められます。
具体的には、患者の生命・健康に影響を及ぼす医療機器、医療情報システム等(以下、「優先医療機器等」という)の把握及びそれらの安全性確認などがまず必要です。
しかし、万全の対策を講じても不測の事態の発生が考えられることから、対応体制、対応手順などを定めた危機管理計画の策定が必要となります。この危機管理計画については、各施設の設備・機能、人員等に応じて、問題発生時に迅速かつ適切な対応が図れるような内容でなければなりません。
3.医療機関における事前対応措置
医療機器等については、安全性を確認するために点検を行うことが求められます。
点検の実施にあたっては、「医療分野における「コンピュータ西暦2000年問題」への対応〜自主的総点検表〜」(平成11年3月厚生省・(社)日本医師会)を参照するとともに、以下の手順を参考にしてください。
《参考》医療機器等の点検手順
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4.優先医療機器等の使用にあたっての基本的考え方
越年前後に使用する優先医療機器等については、患者の生命・健康への影響を防止するため、安全性が確認されているものを使用することが求められます。
そのため、優先医療機器等の安全性確認によって、患者の生命・健康に影響を及ぼすことが明らかになった機器等については、製造業者等の協力を得て、プログラムの修正、交換など、安全性確保のための措置を講じることが必要です。
患者の生命・健康に影響を及ぼすことが明らかになっているにも関わらず、所要の措置が講じられていない優先医療機器等については使用すべきではありません。また、安全性が確認できない優先医療機器等についても原則として使用すべきではありませんが、やむを得ず使用する場合には、万が一に備えて、特に万全の体制をとった上で使用することが必要です。
1.危機管理の基本的考え方と危機管理計画
危機管理とは、予測される危機を洗い出し、事前に必要な対策を準備することにより、危機発生時に迅速かつ適切な対応が行えるようにしておくことです。
2.対応の重点化
危機管理計画は、不測の事態を想定して策定されるものであり、その性格から、最も重要なもの、影響の大きいものを優先して対策を講じることになります。したがって、計画の策定にあたっては、部門では患者への影響が特に大きい部門に重点をおき、患者では医療機器等の異常により生命・健康に危険性が及ぶ可能性の高い患者、医療機器等では重症患者や救急患者に対して使用する機器等、業務では問題が発生すると患者への影響が大きい業務など、優先的に対応すべきものをあらかじめ抽出し、それらの対応方法を決定しておくことが大切です。
3.危機管理計画に盛り込むべき内容
危機管理計画は、責任体制、問題発生時の対応体制、対応手順、復旧方法、代替措置、連絡先及び連絡手順等の内容が含まれていなければなりません。
4.危機管理計画の策定時期
危機管理計画は、危機管理計画の実行に必要な代替措置の確保等の時間を見込んで、遅くとも1999年9月末までに策定することが望まれます。また、医療機関自らの対応状況、関連する医療機器等の納入業者や保守点検業者等の対応状況、さらには危機管理計画を職員に対し教育訓練する過程で発見した問題点等を踏まえて適宜修正を加え、より完成度の高い危機管理計画に作り直していくことが必要です。
1.越年時に患者を収容している医療機関における対応
越年時に入院患者等を収容している医療機関(病院、有床診療所等)については、越年時における優先医療機器等の問題発生に備えて、患者の容態変化の早期発見・措置のための対策及び手順をあらかじめ明確化しておく必要があります。
1)責任体制の明確化
各医療機関において2000年問題対策に係る責任体制を明確化するため、医療機関全体の責任者及び各部門(病棟、部科など)ごとの責任者を選任する必要があります。選任した部門責任者を中心に各部門における2000年問題への対応体制、対応手順について検討し、決定します。また、全体の責任者は、医療機関全体の対応方針の決定、危機管理計画の策定等を行うとともに、各部門の責任者からの報告を受け、対応の進捗状況等の管理を行います。
2)重点対応部門の選定
重点対応部門の選定は、重症患者が多い、医療機器等に問題が発生した場合にその影響が大きい患者を収容している、などを総合的に勘案し、各医療機関において判断します。
3)部門ごとの対応方針の決定
重点対応部門を中心に、各部門責任者のもとに、優先医療機器等に問題が発生した場合に想定される患者等への影響の内容、及びその対処方法を事前に整理・把握しておきます。
4)越年時の対応体制の確保
越年時の対応にあたっては、各部門ごとに、責任体制と個々のスタッフの役割分担を明確にしておく必要があります。各部門責任者を中心に、越年時及び越年後の対応に必要な人員等の確保及び役割分担などを決定します。特に年末年始は、医療機関全般に職員が不足しがちなため、計画的に対応に十分な人手を確保しておく必要があります。
5)代替機器等の確保と復旧手順の確認
問題が発生した場合の患者への対応を適切に行うためには、問題発生の可能性のある優先医療機器等の復旧方法及びその手順についても、事前に確認しておくことが望まれます。また、復旧までの代替措置、代替機器等についてもあらかじめ確保しておく必要があります。
6)問題発生時の連絡先、連絡手順
問題が発生した場合に備えて、優先医療機器等の復旧作業や代替措置を行う担当者及び関係業者、並びに医療機関の管理者等については、緊急連絡先の一覧を作成し、連絡手順を定めておくことが必要です。
7)その他
外来部門、検査部門など越年後に業務を開始する部門においては、優先医療機器等の使用開始前に、動作確認を行い、異常がないことを確認した上で使用する必要があります。
2.越年時に患者を収容していない(診療を行わない)医療機関における対応
無床診療所など越年時に診療を行わない医療機関のうち、2000年問題発生のおそれがある優先医療機器等を保有する医療機関は、越年前に医療機器等の安全性確認を行っておくとともに、越年後、使用開始前に動作確認を行うことにより、患者への影響を未然に防止することができます。
1)対応体制の確保
越年後に診療を開始する医療機関で、問題発生の可能性がある優先医療機器等を保有する医療機関においても、越年前に2000年問題への対応体制及び役割分担等を決定しておく必要があります。
2)動作確認
越年後初めて使用する優先医療機器等については、事前にそれが正常に作動するかどうかを確認する作業(動作確認)を行うことにより、患者の生命・健康への被害発生の防止に役立ちます。
3)問題発生時の連絡先、連絡手順
異常が発生した場合に備えて、優先医療機器等の担当者並びに復旧作業や代替措置を行う担当者及び関係業者の緊急連絡先一覧を作成し、連絡手順を定めておくことが必要です。
4)越年時の問題発生状況に関する情報収集
越年後に診療を開始する医療機関の場合、越年時等における問題発生の有無に関する情報を事前に収集しておくことは、対策を講じる際に役立ちます。
5)救急外来部門を有する医療機関等
越年時に入院患者を収容していなくても、救急外来部門や透析部門を有する医療機関、外来診療部門の規模が大きい医療機関等においては、1.の越年時に患者を収容している医療機関に準じて、責任体制、役割分担などを明確化しておく必要があります。
実際に問題が発生した場合に策定した計画が確実に機能するよう、各医療機関においては、危機管理計画をすべての職員に周知するとともに、十分な教育・訓練を行うことが大切です。教育・訓練を行うことにより、職員が自分の役割と責任を確認し、また計画の見直しを図ることも可能になります。
II 危機管理計画策定の基本的考え方
そして、危機管理計画は、事前に万全な対策を講じたとしても、なお起こりうる不測の事態への対応方法を定めるものです。
医療機関において危機管理計画を策定する目的は、2000年問題に起因する被害の発生を防止し、「患者の生命・健康を守ること」にあります。
したがって、医療機関の危機管理計画においては、「患者の安全性確保」を主眼に、2000年問題が発生する時点における現場での患者への対応方法を明らかにするという視点が不可欠です。そして、各々の医療機関が、限られた資源を活用して対応するための、現実的な計画を策定することが必要です。
重点的な対応が必要と考えられる部門(以下、「重点対応部門」という。)の抽出及びその対応については、各医療機関の施設機能・設備等に応じて行います。重点対応部門の具体的な例としては、ICU(集中治療室)、救急外来、重症患者等療養室、手術室等が考えられます。
また、そこで使用されている医療機器、医療情報システム及び一般・医療設備のうち、2000年問題により患者の生命・健康に影響を与える可能性がある優先医療機器等については、優先的に対応する必要があります。
また、電気、ガス、水道などの社会インフラについては、各業界で対策を講じており、重大な問題が発生する可能性は低いと言われていますが、万が一に備えてこれらの社会インフラに問題が発生した場合の対応を危機管理計画に盛り込むことが適当です。
III 危機管理計画の作成
特に継続的に経過観察を行うことが必要な重症患者等については、越年前日までに選び出し、症状の急変に対応できるようにするなど、対応手順を定めておきます。
人員の確保については、当該部門において患者への影響を及ぼす問題が発生した場合に、患者の生命・健康を守るための対策を講じるのに十分な数を確保する必要があります。必要に応じ、当直者数を増やしたり、交替勤務の場合には越年時に相互の勤務時間が重なるようにするなどの配慮が望まれます。
また、電気、ガス、水道など社会インフラに問題が発生した場合を想定した対応についても検討しておくことが必要です。
代替機器等は、それ自体にも異常が発生する可能性があるため、安全性の確認されているもの、可能な限り手動に近いものを用意します。また、代替機器の中には、酸素ボンベのような、使用時間に制限があるものがあることにも注意してください。
Iの4.にあるとおり、2000年問題発生のおそれがあるにもかかわらず修正等がなされていない医療機器等は使用すべきではありません。また、安全性が確認されていない機器等については、越年時には使用しないことが原則ですが、やむを得ず使用する場合は、問題発生に備えて十分な配慮が必要です。
また、越年時には、可能な限り、医療機器等を使用しないで診療を行う体制をとることも対策の一つと考えられます。
対応体制については、優先医療機器等の動作確認や問題発生時の対応を行うために必要な体制を確保しておくことが求められます。
優先医療機器等の使用開始時に問題が発生した場合を想定して、復旧措置、代替措置の確保などの対応体制をあらかじめ決めておく必要があります。
代替機器等については、それ自体に異常が発生する可能性があるため、安全性の確認されているもの、可能な限り手動に近いものを用意しておかなければなりません。また、代替機器の一部は、使用時間に制限があることにも注意してください。
IV 危機管理計画に基づく教育・訓練
訓練は、机上訓練と実地訓練に分けられ、実地訓練は対応策を実施する職員等により、できるかぎり本番に近い条件で行うのが効果的です。また、代替機器等の利用については、日頃使い慣れていない場合もあることから、使用法等について十分習熟しておくことが必要です。
《参 考》
厚生省では、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、平成8年5月10日付で健康政策局長通知「災害時における初期救急医療体制の充実強化について」を各都道府県知事あて発出し、各都道府県における災害医療体制の構築を指導しているところです。2000年問題は、発生の日時、被害の種類等がある程度予測できるという点において、通常の災害とは異なりますが、緊急時の診療体制の確保方策の基本的考え方は災害時のものを応用できます。また、上記通知では、医療機関が自ら被災することを想定した「病院防災マニュアル」の有用性を示唆しており、「病院防災マニュアル作成ガイドライン」を添付しているので、参考にしてください。とりわけ、ライフライン(水道、電気、ガス等)の万が一の停止等による診療機能の低下に備えて、十分な事前の訓練、備蓄の再確認等を、必要に応じて実施してください。
1.防災体制に関する事項
(1)ライフラインの確保方策
2.災害時の応急対応策に関する事項
(1)病院内の連絡、指揮命令系統の確立
3.自病院内の既入院患者への対応策に関する事項
(1)重症者の状況の把握,点滴や人工呼吸器等の状況の把握に努める。
4.病院に患者を受け入れる場合の対応策に関する事項
(1)トリアージ・入院システムの確立 |
部 門 | 責 任 者 | 緊急時の連絡先 | 副 責 任 者 | 緊急時の連絡先 |
全 体 | 院 長 | 副 院 長 | ||
I C U | ||||
手 術 部 | ||||
検 査 部 | ||||
外科病棟 |
表2 問題発生の可能性のある優先医療機器等リスト
部 門 | 機 器 等 名 | 保有台数 | 点検状況 | 製造販売業者 | 担当者名 | 連絡先 |
I C U | ||||||
手 術 部 | ||||||
外科病棟 | ||||||
内科病棟 | ||||||
薬 剤 部 | 調剤システム | |||||
検 査 部 | 検査オーダリングシステム | |||||
施設管理部 | 暖房システム | |||||
給水システム |
表3 患者別代替措置一覧
部 門 | 患 者 名 | 機 器 名 | 代 替 措 置 | 代 替 機 器 |
ICU | ○ 田 ○ 朗 | |||
○ 山 ○ 子 | ||||
外科病棟 | ||||
内科病棟 |
表4 動作確認一覧表
部 門 | 機 器 等 名 | 製造業者名 | 使用予定日 | 動作確認予定日 | 動作確認日 | 確認者 | 確認結果 |
内科外来 | 人工呼吸器 | ||||||
透 析 部 | 人工透析装置 | ||||||
検 査 部 | 自動血液生化学検査装置 |
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