生活環境審議会生活環境部会事務局
(厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室)
1 概要
平成12年10月30日に開催された「平成12年度第1回生活環境審議会生活環境部会」において、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和48年法律第117号)第2条第2項に規定する第一種特定化学物質の指定の可否について」の審議が行われ、その結果、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール及びN-モノ(又はジ)メチルフェニル-N'-モノ(又はジ)メチルフェニルパラフェニレンジアミンについては、その性状から第一種特定化学物質に指定することが適当であるとの判断を得るに至りました。
これを踏まえ、厚生省及び通商産業省では、これらの化学物質を第一種特定化学物質に指定すること、及び指定に伴う規制措置に関する政令改正案の概要を取りまとめ、その内容について、以下のとおり意見募集を行いました。
(1)期間:平成12年11月15日〜同年12月5日の3週間
(2)告知方法:厚生省ホームページへの掲載(通商産業省ホームページへの掲載と同時)、記者発表等
(3)意見送付方法:電子メール、FAX、郵送のいずれか
この度寄せられました御意見につきましては、取りまとめの便宜上、案件ごとに適宜集約させていただきました。
今回、御意見をお寄せいただきました方々の御協力に厚く御礼申し上げます。
2 受付意見件数
合計 13件(意見提出者数)
<内訳>
提出意見については、ほとんどが複数の項目について述べられており、のべ意見数は39件となりました。
3 受付意見の概要
意見(のべ意見数)の内訳は以下のとおりであり、案件ごとに適宜集約したもの及びそれらへの対応・回答については、別紙に記載します。
なお、寄せられた御意見が対象としている内容により、厚生省、通商産業省が分担して対応・考え方を示しております(別紙の「意見に対する考え方」の各項目で、【厚生省】又は【通商産業省】と表示)。
<内訳>
○ | 第一種特定化学物質に指定することの可否に対する意見 (長期毒性の評価内容に対する意見を含む) |
: | 7件 |
○ | 指定に伴う規制措置の内容に対する意見 | : | 17件 |
○ | 第一種特定化学物質に指定することの可否に対する意見 (長期毒性の評価内容に対する意見を含む) |
: | 1件 |
○ | 指定に伴う規制措置の内容に対する意見 | : | 14件 |
注:平成12年12月25日付けで掲載した別紙は、生活環境部会に提出されていた資料ですが、生活環境部会の審議において出された意見等を踏まえ、別紙の「意見に対する考え方」の2(2)(1)〜(4)の意見に対する回答について修正したものを改めて掲載しております。
(照会先) 厚生労働省医薬局審査管理課化学物質安全対策室 (旧厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室) 化学物質係 高江 (内線2424)
別紙
1.2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール[略称:TTBP]について(1)第一種特定化学物質に指定することの可否に対する意見(長期毒性の評価内容に対する意見を含む)
該当箇所 | 意見の概要 | 意見に対する考え方 |
1.第一種特定化学物質の指定 (1)(2)蓄積性 (3)長期毒性 |
以下の理由により、TTBPを第一種特定化学物質として規制対象に提案するのは時期尚早であり、さらなる調査研究が必要と考える。最終的に規制として施 行する前に、入手可能なすべての分解性、蓄積性及び毒性データを漏れなく評価することが極めて重要である。 (1)PCBは発がん性があるのに対し、TTBPをラットに1000ppmという高濃度で24ヶ月間混餌投与しても腫瘍誘発反応が認められなかったことから、両者には毒性の差があると考えられ、TTBPが第一種特定化学物質として、PCBと同様に規制されるための十分な根拠が示されているとは言えない。 |
現時点で判明している毒性等各種知見について総合的に評価した結果、御指摘のような追加的な調査研究や評価等を行わなくとも、TTBPを第一種特定化学物質に指定して必要な規制措置を講ずることは、時期尚早ではないと考えます。 その理由については、以下に示すとおりです。 (1)第一種特定化学物質に指定するための要件の一つとして、当該化学物質が「継続的に摂取される場合に、人の健康を損なうおそれがある」こと、すなわち「長期毒性」の性状を有することが挙げられます。「発がん性」というのは「長期毒性」の性状の一つであると認識されており、よって、「発がん性」が認められているPCBについては、「長期毒性」の性状を有するものであり、難分解性及び高蓄積性の性状を有することと併せて、第一種特定化学物質として指定されております。 ところで、化審法における「長期毒性」というのは「発がん性」に限定されるものではなく、「慢性毒性」や「催奇形性」等についても「長期毒性」の性状を示すものの一つであると認識しています。よって、「PCBは発がん性があるのに対し、TTBPをラットに1000ppmという高濃度で24ヶ月間混餌投与しても腫瘍誘発反応が認められなかった」という御指摘の点については、「長期毒性の性状の一つである「発がん性」をPCBが示したのに対し、TTBPは示さなかったことを意味するに過ぎず、これをもってTTBPに「長期毒性」がないとは言い難いものと考えます。 むしろ、TTBPについて実施された2年間の慢性毒性試験で認められた毒性所見や推定された無影響量(NOEL)の30ppm未満(約1.5mg/kg未満)から、TTBPについては「長期毒性」の性状の一つである「慢性毒性」を有することが科学的に評価されたと考えるのが適当です。 したがって、PCBとTTBPの両者は、毒性発現の様態は異なるものの、「長期毒性」の性状を有するという点で同等に扱われるべきものと考えられ、また、TTBPが第一種特定化学物質として、PCBと同様に規制されるための根拠は十分に示されているものと考えます。 【厚生省】 |
(2)構造的に類似な物質であるブチルヒドロキシエチルベンゼン(BHEB)の最高3000ppmをラットに13週間混餌投与した試験において、肝細胞壊死及び出血が観察されているが、最高200mg/kg/日の用量でビーグル犬に13週間経口投与した場合に同様の所見が観察されなかったこと、及び食品添加物として何年も使用されており、ヒトへの有害な健康影響は報告されていないブチルヒドロキシトルエンを投与されたラットで肝細胞壊死及び出血が観察されたことを考慮すれば、TTBPを最高5280ppmの濃度でラットに90日間混餌投与した試験で観察された肝細胞壊死及び出血は、ラットに特異的なものであって、ヒトをはじめとする他の種では起こらない可能性がある。 もし、そうでないとしても、測定された環境中濃度レベルを勘案すれば、推定されたNOELは人の健康に対する安全性の観点からは十分な余裕があるものと考えられる。 |
(2)御指摘の点については、「ラットで観察された肝細胞壊死及び出血がラットに特異的なものであり、ヒトをはじめとする他の種では起こらない」ことが事実として明示されない限りは推測の域を超えるものではなく、科学的な毒性評価の過程で言及するのは適切でないと考えます。 一般に、毒性評価に際して、動物実験から得られた知見をヒトに外挿する場合には、ヒトの感受性が動物に比して高い、すなわち、実験動物で観察された毒性所見がヒトではより低用量で発現する可能性が否定できないと考えます(例えば、定量的には「不確実係数(UF:Uncertainty Factor)」として適当な数値(「種差」の場合、一般に10)でNOEL等が除されます)。 このことに鑑み、ラットで観察された肝毒性は、ヒトでは、さらに低い用量で発現する可能性も危惧されるところです。 なお、TTBPの「長期毒性」の評価に際しては、より長期間の摂取(暴露)が行われたデータである「ラットを用いた2年間反復投与毒性試験」の結果を主体に評価しており、この長期データの評価の結果、TTBPについては「継続的に摂取される場合に、人の健康を損なうおそれがある」、すなわち「長期毒性」の性状を有するものとして、化審法における「第一種特定化学物質」として指定されることが適当と判断されたところです。 また、御指摘の「測定された環境中濃度レベルとの勘案」について、現時点では、TTBPによる環境汚染の程度を評価するに足る十分な情報があるとは言えないことから、TTBPの環境汚染により人の健康を損なうおそれがあるかどうかについては明確に判断できないと考えています。それゆえ、御指摘のように「測定された環境中濃度レベルを勘案すれば、推定されたNOELは人の健康に対する安全性の観点からは十分な余裕がある」ものとは考えておらず、むしろ、難分解性、高蓄積性かつ長期毒性というTTBPの性状にかんがみ、将来において環境汚染により人の健康を損なうおそれがないとは必ずしも判断できないと考えているところです。 したがって、将来起こり得ることが否定できないTTBPによる環境汚染及びそれにより人の健康が損なわれることを防止するために、今般、TTBPを化審法における「第一種特定化学物質」に指定して、必要な規制措置を講ずることとしたものです。 【厚生省】 |
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(3)生物濃縮性試験が、非常に薄い濃度で行われている。 魚での生体内濃縮度試験の結果に基づき高蓄積性であると結論づけているが、TTBPのラットを用いた代謝試験によると、(詳細な)データが示されていないものの脂肪中濃度の低下の時間的推移については、TTBPの脂肪への沈着がさほど懸念するに及ばないということを示しているとも考えられる。 また、当該試験における用量は、環境汚染で予測される濃度よりも高く、半数致死量(LD50)の概ね1/5となる260mg/kgと設定されており、さらに投与に際しては油を媒体として使用していることから、仮にTTBPが、生物体内や環境中での適切な濃度レベルで水性懸濁液として投与されたならば、吸収速度は減少するであろうと考えられる。 投与された高濃度では、環境中での適切な暴露レベルで機能していたであろう代謝的消失・解毒経路が機能しなくなってしまったのかもしれず、また、ラットを用いた2年間の混餌投与試験結果が示唆するところによれば、当該試験での低い用量レベルにおいて、蓄積量や体内負荷量の増大がみられていないことなどを考慮すれば、環境中で起こり得る濃度では、キャパシティーの小さな代謝経路でも解毒するには充分であると考えられる。 |
(3)生物濃縮試験は、OECDテストガイドラインに基づいて、適切な濃度、条件下で実施したものであります。 【通商産業省】 当該代謝試験における脂肪中濃度については、御指摘のとおり投与後2日目にピークを迎え、その後8日目まで減少していますが、単に「減少している」という事実をもって「TTBPの脂肪への沈着がさほど懸念するに及ばないということを示している」と考えるのは、科学的な観点からは適切でないと考えます。また、当該試験においては、各臓器におけるTTBPの挙動がまちまちであり、脾臓中及び腎臓中の濃度については24時間後も大きな減少は認められておりません。 一方、御指摘の中で述べられている「環境汚染で予測される濃度」の定義が不明確であるため、ラットを用いた代謝試験における投与量(260mg/kg)が「環境汚染で予測される濃度」と比較して高いのかどうかを判断することは困難であり、当該用量が半数致死量(LD50)の概ね1/5であることについても同様です。また、投与媒体についても、御指摘のように考えられなくはないものの、「水性懸濁液として投与された場合に吸収速度は減少する」との具体的なデータなしでは、やはり推測の域を超えるものではなく、科学的に判断するのは困難と考えます。 以上のような科学的知見を考慮すれば、TTBPは生体内に取り込まれた場合に「難代謝性」の性状を有するものと推察され、このような性状を有する化学物質に、少量とは言え継続的に摂取(暴露)された場合には、「難代謝性」であるがゆえに生体内における蓄積が進み、その結果、ラットで認められた毒性所見が人で発現するに足る量の蓄積に伴い、人の健康を損なうおそれが否定できないことになります。したがって、御指摘のように「環境中で起こり得る濃度では、キャパシティーの小さな代謝経路でも解毒するには充分である」とは考え難いものと認識しています。 【厚生省】 |
(2)指定に伴う規制措置の内容に対する意見
該当箇所 | 意見の概要 | 意見に対する考え方 |
2.第一種特定化学物質の指定に伴う措置 (2)当該化学物質が使用されている製品の輸入規制について |
(1)MITI推定の潤滑油中の濃度0.05%を大幅に低減することは可能だが、技術的に削減不可能な水準である数ppmレベルのTTBPを含有するフェノール系酸化防止剤及びそれを使用した製品を規制対象として指定すべきではない。 (主な理由) ・TTBPは、フェノールをブチル化して製造する製品には理論上すべて副生する可能性あり。 ・副生するTTBPを0にすることは不可能。 ・フェノールをブチル化して製造する物質は全ての石油化学樹脂の安定剤・添加剤として使用されており代替物質は現在のところない。 |
(1)不純物であっても、工業技術的・経済的に低減可能なレベル以上にTTBPを含有させているものについては、化審法上の製造・輸入・使用等の規制の対象となると考えられるものの、極微量の不純物については、環境の汚染が生じる恐れがない範囲において、規制の対象としないことが適当であると考えます。 なお、製造工程(主として精製工程)より発生する精製残差等の副生物については、廃棄物処理法に基づき適正に対処されることとなります。 【通商産業省】 |
その他 | (1)猶予期間の確保 ・潤滑油の添加剤の切り替えには評価等に相当の期間を要するので、切り替えに要する期間を確保すべき。 |
(1)潤滑油等の製品の輸入規制については、各種機器類の安全性確保のための性能評価等に必要な最低限の期間をおいて施行することとしております。 【通商産業省】 |
2.N-モノ(又はジ)メチルフェニル-N'-モノ(又はジ)メチルフェニルパラフェニレン[略称:PDA-Z2]に関する意見
(1)第一種特定化学物質に指定することの可否に対する意見(長期毒性の評価内容に対する意見を含む)
該当箇所 | 意見の概要 | 意見に対する考え方 |
1.第一種特定化学物質の指定 (2)(3)長期毒性 |
PDA-Z2を一成分として含む化学製品に関する我々の毒性研究では、これらの化学物質が動物実験において発がん作用がなく、催奇形性もなく、他の慢性毒性も示さないという結果を得ている。 当社は提案された分類を受け入れるつもりであるが、我々の相当数の研究事例では、これらの化学物質が、通常の製造手段や消費者の通常使用下においては、人体の健康及び環境に対し危険を及ぼすのではないとの結論に至っている。 |
PDA-Z2の毒性影響評価については、若干の見解の相違が認められるようでもありますが、いずれにせよ、貴重な御意見をいただき、ありがとうございます。 【厚生省】 |
(2)指定に伴う規制措置の内容に対する意見
該当箇所 | 意見の概要 | 意見に対する考え方 |
2.第一種特定化学物質の指定に伴う措置 (2)当該化学物質が使用されている製品の輸入規制について |
(1)クロロプレンゴムも指定すべき。
(2)老化防止剤の酸素やオゾン等との反応・分解性等からタイヤを輸入規制製品としないことは適当。 (3)タイヤトレッドは摩耗等によるゴム粉塵により、環境への拡散や生体への取り込みの可能性があり規制すべき。 |
(1)(2)(3) 下記の理由から、ゴム製品として、スチレンブタジエンゴムを輸入規制製品として指定することが適当と考えます。
・スチレンブタジエンゴムを製造する段階ではPDA-Z2の使用が認められるが、クロロプレンゴムの製造段階では当該物質の使用が認められないこと。
・ゴムの構造等からゴム中の老化防止剤は安定した状態で保持されていると考えられるものの、加熱を伴う成型加工段階では、環境汚染の恐れがあること。 ・一方、タイヤ等の成形加工後のゴム製品については、PDA-Z2は安定的に保持され、廃タイヤ置き場での調査結果や高速道路脇の土壌調査において、当該化学物質は検出されなかったこと等から環境汚染は無視しうる程度と判断されること。
【通商産業省】 |
(4)輸入製品と国内製品を公平に扱うべき。 | (4) 本措置は、PDA-Z2を含む製品の使用により環境が汚染されることを防止する観点から実施するものであり、ゴム老化防止剤としての使用等が環境汚染の恐れがあることから、ゴム老化防止剤等を輸入規制製品として指定したものであり、ご指摘のように輸入製品と国内製品を差別したものではありません。 一方、当該化学物質を使用したゴム製品については、その使用においても現時点では環境汚染が無視しうる程度と判断されたため、輸入規制製品としての指定は不要であると考えております。 これらの措置は、それぞれの製品毎にその使用等に伴う環境汚染のおそれ等を判断して行うものであり、輸入製品と国内製品を差別したものではありません。 なお、国内で年間2000トンに及ぶPDA-Z2を供給していた事業者が、自主的に代替化学物質に切り替えられたことは、PDA-Z2及びそれを使用したゴム老化防止剤等による環境汚染の未然防止に有効であったものと考えております。 【通商産業省】 |
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(5)国際協調を図って規制すべき。 | (5) 今後、OECD等の場を通じて各国と情報の交換に努めて参る所存であります。 【通商産業省】 |
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2.第一種特定化学物質の指定に伴う措置 (4)当該化学物質及びそれが使用されている製品の回収等について |
(1)廃タイヤ置き場等でのモニタリング結果から、タイヤ等の回収を行わないのは適当。 | (1) ご指摘の通りと考えております。 【通商産業省】 |
2.第一種特定化学物質の指定に伴う措置 (4)環境中での検出試験結果に関して |
(1)ゴム製品からのPDA-Z2の溶出は環境への放出に繋がらないため、ゴム製品中に使用されているPDA-Z2による水、大気、土壌への汚染はないとの判断は適当。 | (1) ご指摘の通りと考えております。 【通商産業省】 |
(2)環境中での検出結果を明示すべき。 | (2)当該データは、公表資料として、化学品審議会安全対策部会参考資料2に記載されております。 【通商産業省】 |
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(3)分解生成物のモニタリング等を実施すべき。 | (3)PDA-Z2の酸化生成物等を特定できる既知見は、現時点で存在しないものと認識しております。今後、当該生成物が特定でき、人の健康を損なう恐れ等の性状を有する場合には、モニタリング等を実施する必要があると考えております。 【通商産業省】 |