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室内空気汚染に係るガイドライン(案)に対する意見の募集結果について

平成12年12月15日
厚生省生活衛生局企画課
生活化学安全対策室

1.概要

 平成12年9月25日に開催された「第4回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」において検討された「室内空気汚染に係るガイドライン(案)」の内容につき、以下のとおり意見募集を行いました。

(1)期間:平成12年10月24日〜同年11月24日の約1ヶ月間
(2)告知方法:厚生省ホームページ、記者発表等
(3)意見送付方法:電子メール、FAX、郵送のいずれか
 このたび寄せられましたご意見につきましては、取りまとめの便宜上、案件ごとに 適宜集約させていただきました。
 今回、ご意見をお寄せいただきました方々のご協力に厚く御礼申し上げます。

2.受付意見件数

 合計 31件(意見提出者数)

<内訳>
・企業 13件
・団体 13件 (事業者団体 9件、NGO 4件)
・個人 3件
・官公庁 2件

 提出意見はほとんどが複数の項目について意見が述べられており、のべ意見数は142件となりました。

3.受付意見の概要

 意見(のべ意見数)の内訳は以下のとおりで、意見の詳細及び対応・回答については、別紙に記載します。

<内訳>
・指針値全般に対する意見 15件
・個別物質に対する意見 25件
・TVOCに対する意見 71件
・指針値の適用範囲に対する意見 19件
・その他 12件


1.指針値全般に対する意見

No. 意見の概要 件数 意見に対する対応・考え方
1 ・全ての室内空間に計測が困難で影響がはっきりしない微量レベルの化学物質についてガイドラインを定める意味があるのか。健康が観点とすれば、濃度という結果ではなく原因のほうから取り組むべき。 1 揮発性有機化合物(VOC)による室内空気汚染が「シックハウス症候群」発現の一因である可能性について指摘されており、厚生省が実施した「居住環境中の揮発性有機化合物の全国実態調査」においても、一部の家屋でVOCによる室内空気汚染が高いレベルであったという結果が得られています。このような状況に鑑み、VOCに関する室内濃度指針値を策定することで当該VOCによる室内空気汚染の低減化が促進され、「シックハウス症候群」の一因と考えられる原因を取り除くことによって、快適で健康的な居住環境が確保されることが期待されます。また、原因究明の観点から、病態としての「シックハウス症候群」の発現機序については、厚生科学研究事業の推進により積極的に研究を行って、原因究明に向けた努力を行っているところです。
2 ・指針値には法的拘束力はないと理解しているが、一般的には指針値を超えれば危険と見なされるものと思われる。これまでの指針値策定に用いられた資料には質的にばらつきがあると思われるので、安全性資料に対するガイドラインの設定を強く望みます。 1 御指摘のとおり、VOCに関する指針値に法的な拘束力はありませんが、指針値の策定によって、住宅施工者による、VOCの室内濃度の低減化のための、自主的な住宅構造や仕様等の改善の取組み(指針値を越えるおそれのある物質を建材等の製品に使用しないこと等を含む)が期待でき、その結果として室内空気汚染の低減化が促進され、快適で健康的な居住環境の確保が期待されるものと認識しています。また、指針値の策定に当たっては、原則として、レビューを受けた既存の学術文献や、WHO等の国際機関が毒性学的な見地から作成した評価レポートなど、実験方法や評価項目などが多様な、各種の毒性研究報告を調査の上、これらを総合的に斟酌しています。
3 ・指針値は各物質の濃度を指針値以内に収めて快適な空間を得るために設定され、それ以内であれば使用してもかまわないと理解している。しかし一部に指針値が設定された物質の使用を避けるという動きがあることから、指針値設定の意味と目的を徹底していただきたい。 1 指針値設定の意味については御指摘のとおりです。また、指針値策定の目的については、住宅施工者による、VOCの室内濃度の低減化のための、自主的な住宅構造や仕様等の改善の取組み(指針値を越えるおそれのある物質を建材等の製品に使用しないこと等を含む)を期待し、その結果として、室内空気汚染の低減化を促進し、快適で健康的な居住環境の確保を図ることにあります。なお、指針値が設定された物質の使用を避けるという動きについては、当該物質の使用が自主的に控えられることは望ましいと考えるものの、現時点で指針値の策定に至っていない他の化学物質が代替品として使用される可能性が否定できず、実施中の室内空気汚染実態調査の結果も踏まえ、必要に応じ、引き続き指針値の策定を進めていくこととしています。
4 ・この問題は国際的なものであるので、指針値は国際的に通用するものでなくてはならない。つまりは国際機関等で取り上げられた物質について設定されるべきで、新たな物質を独自に定めるのは時期尚早である。 1 「シックハウス問題」については、国際的な問題であるとともに、日本国民の健康を守り、快適で健康的な居住環境を確保するために解決されるべき国内的な問題でもあると認識しています。したがって、VOCの指針値策定については「『シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会』中間報告書−第1回〜第3回のまとめ」(平成12年6月26日公表)に示されているとおり、WHO空気質ガイドライン等で指針値が提示されていることや、外国で新たな規制がかけられたこと等の理由により早急に指針値策定を考慮する必要があること等の、諸外国における動向について考慮するとともに、「居住環境内における揮発性有機化合物の全国実態調査」(厚生省)等の結果から室内空気汚染の原因と考えられること等の、日本国内の現状についても考慮の上、総合的に検討して、指針値策定の対象となるVOCを選定することとしています。
加えて、経済協力開発機構(OECD)加盟国を対象に調査を行ったところ、これら各国における「シックハウス問題」への対応(VOCの指針値策定等を含む)は必ずしも進んでいるものとは考えにくいですが、我が国では、これら加盟国に先駆けて取組を進め、その成果を国際的に積極的に還元していくことが重要と考えています。
5 ・指針値に法的強制力を持たすべき。指針値を超える恐れのある物質を製品に使用させないことが重要。 1 まず、指針値が策定されることによって、住宅施工者による、VOCの室内濃度の低減化のための、自主的な住宅構造や仕様等の改善の取組み(指針値を越えるおそれのある物質を建材等の製品に使用しないこと等を含む)が期待できると考えています。指針値の策定後も汚染実態に改善がみられないことが明らかになった場合には、法的な裏付けのある規制値の設定についても検討する必要があると考えます。
6 ・不確実係数が個々の要素毎に「10」となっているが、その根拠が不明である。 1 多くの化学物質において、評価可能なヒト暴露に関する研究データはほとんど存在しないのが現状であるため、一般に動物試験データの評価結果から、ヒトに対して外挿する方法が採られます。実験動物で認められた毒性所見を種の異なるヒトに外挿するに際しては「種差」を、また、感受性の差などヒトにおける「個体差」を、それぞれ考慮する必要があり、この「種差」及び「個体差」に関する不確実係数としては、それぞれ「10」が一般的に広く認められています。また、動物実験で「無毒性量(NOAEL)」が直接求められておらず「最小毒性量(LOAEL)」しか求められていない場合には、NOAELの代わりにLOAELを用いて毒性発現が認められない用量を評価することになり、この場合にも不確実係数として「10」を採用することが一般的です。さらに、クロルピリホスの場合には、当該物質の暴露による新生児及び小児への影響を未然に防止する観点から、米国環境保護庁(US-EPA)は小児等弱者への適用のため、安全係数(不確実係数と同義)として「10」を採用しています。以上については、WHOなどの国際機関における毒性評価においても広く用いられている考え方です。
7 ・新たな指針対象の現況調査のデータを公開して欲しい。 1 今回の指針値策定対象物質を含むVOC等による、室内空気の汚染実態については、現在、調査が継続中であり、調査結果がまとまり次第、公表することとしています。
8 ・濃度設定の考え方が安全率100%を大きく超えているようで、厳しすぎる印象がある。 1 上記6の意見に対する対応・考え方で説明したとおり、指針値の策定に際しては、動物実験データ等の評価結果からヒトに対して外挿する方法を採っており、その場合には、国際的にも広く用いられている不確実係数に関する考え方に基づき、対象化学物質の室内濃度指針値を策定しています。なお今回のクロルピリホスのように、特に小児への健康影響が懸念されるような場合には、通常成人を対象とした場合よりもさらに厳しい不確実係数による補正を行うこともあります。したがって、指針値策定における考え方は妥当なものであり、特に厳しすぎるとは考えておりません。
9 ・今回の4物質についてシックハウス症候群として健康被害報告事例があるのか。 1 今般指針値が設定される4物質が直接の原因と考えられる、シックハウス症候群などの健康被害事例については、現在のところ報告を受けておりません。むしろ、個別物質の指針値の策定を進め、またTVOCの考え方を導入することによって、健康被害を未然に防止できるような安全対策を進めていくべきと考えています。
10 ・前回は測定方法もあわせて提示されたが、今回も提示されるのか。簡易的な分析法は認められるのか。
・拡散型サンプラーを用いた方法を提案して欲しい。
・指針値は示されているが、捕集・分析方法が示されていません。
クロルピリホスは指針値が低く、フタル酸エステルはブランクコントロールが難しいので早急に示して欲しい。その際にはなるべく条件を同じにし、作業性や経済性も考慮して欲しい。
3 今回も標準的測定法として、参考とすべき測定法を公表する予定です。それ以外の測定法や機器についても紹介することとしていますが、どの方法を選択するかは測定の目的に応じて判断して下さい。
11 ・前回にあわせてμg/m3で表記すべき。 1 御指摘のとおり、今回の4物質の室内濃度指針値については、前回にあわせてμg/m3で表記することとします。
12 ・他の物質についても個別の指針値を設定すべき。 1 「『シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会』中間報告書−第1回〜第3回のまとめ」(平成12年6月26日公表)の内容を踏まえ、個別のVOCについては、引き続き指針値の策定を進めていくこととしています。
13 ・クロルピリホスの代替薬剤として他の有機リン系殺虫剤が使用されることが考えられるので、合計のガイドラインの検討をお願いします。 1 御指摘のとおり、今般のクロルピリホスの室内濃度指針値策定に伴い、現時点では指針値の策定に至っていない他の有機リン系殺虫剤が、今後、代替品として使用される可能性は否定できません。実施中の室内空気汚染実態調査の結果も踏まえ、今後必要に応じ、これらの有機リン系殺虫剤の室内濃度指針値の策定を検討していきたいと考えています。また、合計の考え方については、今後リスク評価に基づいたTVOC指針値策定を目指す過程で各物質群ごとの寄与について検討を行うことから、その中で有機リン系化合物についても対応したいと思います。


2.個別指針値

エチルベンゼン
No. 意見の概要 件数 意見に対する対応・考え方
1 ・指針値が高すぎる。低い実測値や外気なみを目指すことが重要である。 1 得られた毒性に係る知見から、科学的に説明できる範囲で、最も厳しい数値を算出しています。その結果として、例えばWHO空気質ガイドライン値(22000μg/m3)のおよそ1/5になっており、今回提示した指針値は、国際的にみてもより厳しい値と考えられます。
2 ・エチルベンゼンはIARCで「グループ2B」と評価されており、発ガン性を考慮した指針値を設定すべき。具体的にはEPAで評価された発ガンリスク10万分の1に相当する20μg/m3とすべき。WHOヨーロッパ事務局の芳香族炭化水素50μg/m3(個別物質はその半分以下)とされていることからも20μg/m3とすべき。 1 実験動物では発がん性を示唆する証拠が認められるものの、定量的には十分ではなく、またヒトでは認められていないことから、現時点ではその他の毒性指標を基に耐容1日摂取量を算出して指針値を求める方法を採りました。今後ヒトへの発ガン性を示唆する十分な証拠が得られた場合には、指針値の算出方法も含め見直しを検討したいと思います。またご指摘の芳香族炭化水素50μg/m3という値は、1990年の第5回空気質と気候に関する国際会議にて、TVOC300μg/m3という値と併せて、TVOCを構成する各物質群の濃度の目安として提示されているものです。これらの数値はリスク評価に基づいた指針値ではありません。今回本検討会では、室内空気汚染の更なる低減化を目指して、実測値から算定したTVOC暫定目標値を提示いたしました。しかし、各構成物質群の濃度上限については、リスク評価に基づいたTVOC指針値設定が可能となり、併せて各構成物質群の健康影響への寄与を科学的に説明できるようになった時点で明らかにしたいと思っております。

スチレン
No. 意見の概要 件数 意見に対する対応・考え方
1 ・指針値が高すぎる。低い実測値や外気なみを目指すことが重要である。 1 得られた毒性に係る知見から、科学的に説明できる範囲で、最も厳しい数値を算出しています。その結果として、例えばWHO空気質ガイドライン値(260μg/m3)よりも10数%低い値になっており、今回提示した指針値は、国際的にみてもより厳しい値と考えられます。
2 ・スチレンはIARCで「グループ2B」と評価されており、発ガン性を考慮した指針値を設定すべき。具体的にはEPAで評価された発ガンリスク10万分の1に相当する20μg/m3とすべき。WHOヨーロッパ事務局の芳香族炭化水素50μg/m3(個別物質はその半分以下)とされていることからも20μg/m3とすべき。 1 スチレンの発がん性を示唆する証拠は、一部の動物実験に限定されており、またヒトでのスチレン暴露と癌発生の関連性は否定されていることから、現時点ではその他の毒性指標を基に耐容1日摂取量を算出して指針値を求める方法を採りました。今後ヒトへの発ガン性を示唆する十分な証拠が得られた場合には、指針値の算出方法も含め見直しを検討したいと思います。
3 ・JIS等に準拠して有効数字二桁の数字で表記すべきである。 1 ご指摘の通り、修正致します。

クロルピリホス
No. 意見の概要 件数 意見に対する対応・考え方
1 ・(社)日本シロアリ対策協会等と調整を行った上でガイドライン公表に踏み切ったほうがよいと思われる。一方でガイドライン、一方で安全宣言では混乱する。 1 (社)日本シロアリ対策協議会によれば、来年からクロルピリホスの使用を自粛する旨の決定をしたことが公表されており、本検討会でのクロルピリホスの室内濃度指針値策定が、使用自粛の決定に至る要因のひとつとなったものと理解しています。
2 ・今回の指針値はEPAのADI 0.0003mg/kg/day を採用しているが、食品衛生調査会ではWHOのADI 0.01mg/kg/day を採用している。厚生省では2種類の安全性評価があるということでしょうか。 1 本検討会では、特に小児への健康影響の未然防止の立場から、より直近の知見として、低濃度での影響が確認されているUS-EPAのリスク再評価に用いられた知見を採用することで、科学的に説明できる範囲で最も厳しい指針値策定を行いました。ご指摘の残留農薬基準値については、別途、慎重な検討がなされるものと思料致します。
3 ・クロルピリホスの室内汚染実態調査の結果を明らかにされたい。 1 平成10年の2月〜4月にかけて、試験的に、27家屋44検体について防蟻剤の室内空気濃度を調査した結果、6検体からクロルピリホスが検出されましたが、室内濃度の最高値は0.25μg/m3、他は定量下限値未満(<0.03〜0.04μg/m3)であり、人の健康影響の面から直ちに問題となる汚染は検出されませんでした。また同年8月〜10月にかけて、同じく試験的に、92家屋について調査した結果、33家屋からクロルピリホスが検出されましたが、その濃度範囲は0.023〜0.52μg/m3であり、人の健康影響の面から直ちに問題となる汚染は検出されませんでした。またこれらの試験的な測定結果は、今回策定した指針値レベルの測定分析が可能であることを示しています。
4 ・子供の神経系に影響を及ぼすのはクロルピリホスだけではない。他の殺虫剤、可塑剤、難燃剤、を含めた総合的な有機リン系化合物の規制を目指していく必要がある。 1 クロルピリホスにおいては、母ラット暴露による新生児への発達影響、特に脳の形態学的変化に係る知見を考慮し、小児を対象としたより厳しい指針値設定を行いました。今後も個別物質の指針値策定においては、同様な考え方を適用することにしています。また他の有機リン系殺虫剤等も指針値策定の今後の対象にすると同時に、今後スク評価に基づいたTVOC指針値策定を目指す過程で各部質群ごとの寄与について検討を行うことから、その中で有機リン系化合物群についても対応したいと思います
5 ・乳児など弱者を対象とした指針値レベルでは測定することが不可能である。測定不可能な値を設定することは社会的に混乱を招く。(7)
・クロルピリホス(小児)の指針値は現実的な検出限界以下であるので、下限を定めて検出されないこととするほうが明確である。
8 策定した指針値レベルは、本検討会にて提示した測定方法で定量可能な範囲と考えています。(定量下限値:0.01μg/m3
6 ・クロルピリホスは家庭用殺虫剤や防虫加工剤にも使われていると聞いているので、「家庭用品規制法」の指定物質として家庭内空気汚染を防止するようお願いいたします。 1 クロルピリホスについては、本検討会での指針値の設定と併行して、(社)シロアリ対策協議会が使用自粛を決めたことから、今後生産流通は中止されていくものと思われます。従って室内空気汚染の防止のためには、ご指摘のような家庭用品規制法の指定物質とするよりは、在庫処理による大量使用といった不適切な使用によって汚染が拡大しないよう監視していくことが重要と考えています。

フタル酸ジ-n-ブチル
No. 意見の概要 件数 意見に対する対応・考え方
1 ・可塑剤工業会等と調整を行った上でガイドライン公表に踏み切ったほうがよいと思われる。一方でガイドライン、一方で安全宣言では混乱する。 1 指針値策定の過程においては、「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」を公開にて開催しており、また、指針値を含む「室内空気汚染にかかるガイドライン」については、策定前にいわゆる「パブリックコメント」として広く御意見を募集し、いただいた御意見を適宜、策定される指針値等に反映しているところです。このように、検討の過程においては「議論の透明性」に十分配慮しており、御指摘の可塑剤工業会等とも、このような過程を通じて必要な意見交換が行われているものと認識しています。
2 ・DBPは蒸気圧が低く、使用量も減っているので指針値設定の必要性は低いと考えられるが、値自体はWHOと同じで妥当である。その他のフタル酸エステル類については国際機関の指針値がまだ無い現状では、国際的整合性の観点から指針値設定は時期尚早である。 1 御指摘のとおり、「フタル酸ジ−n−ブチル」以外の「フタル酸エステル」については、WHO空気質ガイドラインをはじめ、国際機関によって策定された指針値が未だ存在していません。しかし、「シックハウス問題」については、国際的な問題であるとともに、日本国民の健康を守り、快適で健康的な居住環境を確保するために解決されるべき国内的な問題でもあると認識しております。よって、「『シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会』中間報告書−第1回〜第3回のまとめ」(平成12年6月26日公表)に従って、個別のVOCの指針値策定を進めているところであり、「フタル酸ジ−n−ブチル」以外の「フタル酸エステル」についても指針値策定の対象とされていることから、今後、引き続き指針値策定の作業を進めていくことが適当と考えています。
3 ・DBPでは経口毒性データを吸入暴露に置き換えているが、このような置き換えは疑問がある。室内空気の指針値設定には吸入毒性値を用いるべきであり、無い場合は試験をしてデータを集める等、最善を尽くす必要があると思われる。 1 「シックハウス症候群」の一因として、VOCによる室内空気汚染が指摘されており、室内空気中に存在するVOCを吸入した結果として、居住者に様々な体調不良が生じている可能性が挙げられます。室内空気中VOCの暴露経路についても、室内暴露としては主に吸入暴露が考えられるため、室内空気中VOCの指針値設定に際しては吸入毒性データを第一に評価することが科学的に妥当と考えます。よって、御指摘のとおり、「フタル酸ジ−n−ブチル」につ濃度指針値の策定に当たっては吸入毒性データの評価を最初に実施することが原則と考えています。しかし、残念ながら「フタル酸ジ−n−ブチル」の場合、吸入暴露による毒性関連情報は限られており、毒性評価を行うに際し必ずしも十分なものであるとは言い難く、一方、ラットにおける世代試験データについては、たとえ経口投与毒性データであっても、認められた毒性所見は、他の投与経路でも起こりうる重要なデータであって、十分に注目すべきものであると考えます。
したがって、経口投与毒性データを用いて室内濃度指針値を策定することについては妥当であると考えています。なお、御指摘のとおり、吸入暴露毒性試験を実施してデータを取得することも一つの方法ですが、VOCによる室内空気汚染の現状等に鑑み現状において入手可能な科学的知見に基づいて指針値の策定を鋭意進めていくことが重要であり、策定された指針値については、今後集積される新たな知見や、それらに基づく国際的な評価作業の進捗に伴い、将来必要があれば変更され得るものであると認識しています。
4 ・指針値が高すぎる。同型のDEHPらと共に指針値をもっと厳しくして代替品への移行を推進する必要がある。 1 指針値の策定に当たっては、ごく最近までの「フタル酸ジ−n−ブチル」に関する毒性研究報告、具体的には既存の学術文献や、WHO等の国際機関が毒性学的な見地から作成した評価レポートなど、各種の毒性研究報告について調査を行い、その結果を総合的に斟酌しています。今般、提案している「フタル酸ジ−n−ブチル」の指針値については、結果的に、WHO空気質ガイドラインで提示されている指針値と同じ数値となっており、毒性学的な評価に基づく指針値の数値としては妥当なものであると考えています。また、フタル酸エステルの一種である「フタル酸ジ−2−エチルヘキシル」についても、今後、室内濃度指針値の策定を進めていく予定です。
5 ・ラットの発育データから算出した値としては適当であるが、齧歯類と霊長類では毒性作用が異なることがあるので規制対象とするのは早計。化学構造から生分解性や蓄積性は予測できるので、霊長類での結果を見た上で総合的に判断願いたい。 1 「フタル酸ジ−n−ブチル」をはじめとするフタル酸エステルについては、「『シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会』中間報告書−第1回〜第3回のまとめ」(平成12年6月26日公表)に示されているとおり、国内外の状況等を総合的に斟酌した上で指針値策定の対象としているものです。御指摘のとおり、齧歯類と霊長類とでは「種差」のため、毒性作用が異なることが予想されますが、一般に動物試験データの評価結果をヒトに対して外挿する場合、「不確実係数」を適切に設定することで「種差の影響を考慮することになり、ヒトを対象としたVOCの指針値については、科学的に妥当な方法で策定されていると考えています。なお、化学構造から生分解性や蓄積性を確実に予測するのは必ずしも容易ではないと考えられ、霊長類でのデータ取得についても、VOCによる室内空気汚染の現状等に鑑み、現状において入手可能な科学的知見に基づいて指針値の策定を鋭意進めていくことが重要であると考えています。策定された指針値については、今後集積される新たな知見や、それらに基づく国際的な評価作業の進捗に伴い、将来必要があれば変更され得るものであると認識しています
6 ・フタル酸ジ-n-ブチルのみ指針値を策定した理由は何か。 1 「『シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会』中間報告書−第1回〜第3回のまとめ」(平成12年6月26日公表)に従って、個別のVOCの指針値策定を進めているところです。このうち「フタル酸エステル」については、WHO空気質ガイドラインで指針値が提示されていることに鑑み、まず最初に「フタル酸ジ−n−ブチル」の指針値策定に着手したものであり、今後、他のフタル酸エステルも対象にして指針値の策定を進めていくこととしています。
7 ・フタル酸エステル類については内分泌かく乱作用が指摘されており、環境庁の調査でも胎児に高い濃度での移行が報告されています。予防原則的な立場からより低い目標値の検討と、今後の研究成果に伴う速やかな見直しをお願いします。 1 御指摘の、フタル酸エステルの内分泌かく乱作用については、発生機序の明確化や因果関係の究明等を指向した研究が、現在もなお精力的に行われており、科学的知見の集積を図っているところです。このような状況下、フタル酸エステルに関する指針値については、室内空気汚染の現状等に鑑み、現状において入手可能な科学的知見に基づいて指針値の策定を鋭意進めていくことが重要と認識していますが、策定されたフタル酸エステルに関する指針値については、内分泌かく乱作用に関して今後集積される新たな知見や、それらに基づく国際的な評価作業の進捗を考慮した上で、必要に応じて見直しが行われ、変更され得るものであると考えています。


3.TVOCに対する意見

No. 意見の概要 件数 意見に対する対応・考え方
1 ・新築、中古の定義が不明なので教えていただきたい。
・新築・中古の定義が曖昧。完成後○年というような定義を示していただけないか。
・新築とは施行完了の時点か、入居の時点か、もしくは施行完了後どこまでの期間を指すのか、また改修などの場合の取り扱いをどうするのか等、実際に即した解説が必要と考える。(3)
・指針が示されると数値が一人歩きして混乱が生じると考えられる。新築から○○期間は、と言うように期間を定めるべき。
・竣工後かなりの日数が経過していても人手を経ていなければ新築と して販売され、その時点で高濃度であればその後の減衰も鈍いと思われる。新築・中古の区分については竣工後の日数で区別するようにしていただきたい。
7 提示した数値は、厚生省が平成10年に実施した居住環境内における揮発性有機化合物の全国実態調査の結果を用いて算出したものです。この調査では、新築住宅を竣工後1又は3ヶ月以内の建物、それ以外を中古住宅と定義して、いづれの場合も、居住・平常時の24時間連続空気採取にて行いました。従って、本検討会の中間報告(平成12年6月26日付)で公表した新築住宅の空気採取条件(入居前状態、30分換気後5時間以上密閉し30分空気採取(アクティブサンプリング))とは異なるものですので、誤解がないように、新築・中古の区別はせずに、居住住宅の空気質の状態の指標としてのTVOC暫定目標値を400μg/m3と致します。また入居前の室内空気に対して、竣工後3ヶ月以内の室内空気の構成は、生活発生源からの新たなVOCsが加わるとしても、本来の住宅建材等に由来するVOCsの種類は同じと予想されることから、提示した目標値については、入居前の新築住宅の場合にも参照することが、室内空気汚染のいっそうの改善に向け、重要と考えます。
2 ・TVOCの暫定目標値で新築と中古の区別をなくし、低い値にすべきである。 1
3 ・新築と中古の必須VOCsリストの物質構成は同じなのか。 1
4 ・TVOCが400μgに下がるまで入居を待つように告知する義務を建築業者に負わせたら好結果が得られるのではないか。 1 ご指摘の通りだろうとは思います。本年10月から住宅品質確保法における住宅性能表示制度が施行されていますが、そのなかには室内空気環境という項目がありますので、建築業者には、積極的に室内空気質の情報を提供することが今後求められてくるものと理解しております。また住宅を購入される方においても、室内空気質の情報には十分注意して、購入の際の判断材料にすることが必要と思います。なお本検討会で提示したTVOC暫定目標値は、まだリスク評価に基づいた指針値ではありませんが、現時点では、空気質の状態や汚染の目安として、室内空気質の汚染の改善促進に利用していただきたいと思います。
5 ・新築1000μgを目標値としてよいのか。引き渡し後の空気質の責任の所在を決めておかないとトラブルの原因となるがどう考えるか。(2) 2
6 ・新築住宅が1000以下となっていれば、安全性は証明できるのか。(2) 1 提示したTVOC暫定目標値は、リスク評価によって設定した指針値ではなく、汚染実態調査の結果から求めた空気質の状態や汚染の目安であることから、個別のVOC指針値の場合とは異なり、その濃度以下であれば一生涯暴露したとしても健康影響は起きないであろうという考え方はできません。TVOCについては、今後の課題として、健康影響の実態調査を実施し、健康影響の起こりうるTVOC濃度域とリスク評価に基づいた指針値設定を目指したいと思います。その間、TVOC暫定目標値は、空気質の状態や汚染の目安として室内空気質の汚染の改善促進に利用していただきたいと思います。
7 ・新築と中古に加えて改修時には1000〜800等の目標値をあげるべきでは。 1 改修の程度によりますが、大規模な建材・内装材の交換や改築の場合は、新築と同じ扱いに該当するものと考えています。
8 ・先の実態調査結果では症状を感じる室内でのTVOC濃度中央値は314μg/m3であるので、400μg/m3では問題のある家も問題なしにされてしまう。指針値は300μg/m3以下になるべきではないか。 1 ご指摘の症状の有無については、自己申告による愁訴であり、専門家の診断による状況把握ではないことから、参考として提示したものです。また提示したTVOC暫定値は、調査対象家屋の汚染実態からみて、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定した値であり、毒性学的知見から求めた値ではありません。TVOCについては、今後きちんとしたTVOCと健康影響の実態調査を実施し、健康影響の起こりうるTVOC濃度域とリスク評価に基づいた指針値設定を目指したいと思います。
9 ・TVOC実態値範囲の上限を暫定目標値としていますが、実態の上限では目標にならない。新築400μg/m3、中古200μg/m3を暫定目標値とし、検討後実行可能なより低い値をガイドライン値とするよう要望します。 1 提示したTVOC暫定値は、実態調査における各VOC濃度の実測値分布が、全般的に低濃度領域に大きな母集団があり、高濃度領域にいくつかの特別に高濃度の汚染事例が散見する分布を示したことから、合理的に達成可能な限り低い範囲でのTVOC値決定においては、分布上より真の平均に近いと考えられる中央値を用いて算出することと致しました。結果として、各VOC濃度の中央値の総和を求め、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定した値となっています。
10 ・オーストラリアの回答でもTVOCが250〜400μg/m3で呼吸器過敏症が報告されており、これを下回る設定をすべき。 1 今後きちんとしたTVOCと健康影響の実態調査を実施し、健康影響の起こりうるTVOC濃度域とリスク評価に基づいた指針値設定を目指したいと思います。
11 ・小児のTVOCの基準値を1/2に下げて欲しい。 1 現時点では、リスク評価には依らない、空気質の状態や汚染の指標としての暫定目標値であることから、今後きちんとしたTVOCと健康影響の実態調査を実施し、健康影響の起こりうるTVOC濃度域とリスク評価に基づいた指針値設定を検討する過程で、小児の場合の評価もしたいと思います。なお目標値の有無にかかわらず、特に小児等弱者に対しては、徹底した空気質管理と継続したモニタリングを心掛けなければいけないと考えます。
12 ・欧米の前例を見るにTVOCの指針値の設定根拠が不明である。人体への毒性影響が明確に立証されなければ指標の設定は出来ないのではないか。
・TVOCの考え方については世界的に疑問視される報告にあり、これからの指針として適切でしょうか。
2 ご指摘はごもっともと思いますが、現時点では毒性評価等に基づいたTVOC指針値設定は困難ではあっても、本検討会としては、現時点で得られる汚染実態等の調査結果を最大限活用し、空気質の状態や汚染の目安として、合理的に達成可能な暫定目標値を提示することが、室内空気汚染の更なる改善を促進する上で有効と考えた次第です。今後できるだけ早くリスク評価に基づいたTVOC指針値設定が可能となるよう、必要な調査研究を進めていきたいと思います。
13 ・TVOC暫定目標値は毒性評価に基づく個々の指針値とは性格が異なるが、世の中に数値として出され、これを基準に管理されると個々の物質の指針値が高いところにあっても意味が無くなる。このような問題点の取り扱いについて一般の人にもわかりやすい説明をすべき。
・エチルベンゼンの3.8mg/m3の意味と、TVOCの暫定目標値400μg/m3の意味を、一般の人に誤解を与えないように明確に示す必要がある。
2 ご指摘の通りであり、報告書において、TVOC暫定目標値の性格と、TVOC暫定目標値と個別VOC指針値との関係について、誤解がないように説明をしたいと思います。
すなわち「 個別VOC指針値はリスク評価に基づいた健康指針値であり、その濃度以下であれば通常の場合そのVOCは健康への悪影響は起さないと推定された値です。しかしその濃度以下であればその空気質が快適で安全ということでは決してなく、実際には複数のVOCsが存在することから、他のVOCについても順次健康指針値を決めていかなければいけません。しかしそれには多大な時間を要すること、またその間に指針値を決めていない物質による汚染の進行を未然に防ぐ目的から、VOC全体としての空気中濃度の目安を示して、個別のVOC指針値を補足することに致しました。その際、TVOCとしてのリスク評価を行うにはデータが不足していることから、国内における室内VOC濃度の実態調査の結果を用いて、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定した値を暫定目標値とした訳です。従って個別VOC指針値とTVOC暫定目標値は、現時点ではそれぞれ独立して扱われるべきものです。しかしながら、将来リスク評価に基づくTVOC指針値が設定された場合には、個別VOC濃度とTVOC濃度の双方がそれぞれの指針値を満たしていないと、その空気質は安全であるとは言えないことになります。従って、関係者においては、暫定目標値が将来指針値として設定し直されたときのことを今から念頭におくと同時に、その間、暫定目標値を室内空気質の状態をモニタリングする際の目安として、是非とも快適で安全な室内空間の確保を目指していっそうの努力をしていただきたいと思います。」
14 ・既に出ている指針値を合計すると暫定目標値より遙かに高く、TVOC目標値のクリアを求めるとするとエチルベンゼンは高すぎます。各指針値とTVOC目標値には関連性がある方がよいと思います。 1
15 ・人体への毒性影響の可能性の有無もしくは確率を現在の知見としてでも示さないと意味がないのではないか。 1 提示したTVOC暫定値は、毒性学的知見から求めた値ではありませんので、その値で人体への毒性影響の可能性がどのくらいあるかという考察はできません。また汚染実態調査において実施した健康状況の調査は、自己申告による愁訴であり、専門家の診断による状況把握ではないことから、評価には利用できません。しかしながら、このTVOC暫定値は、空気質の状態や汚染の目安として、室内空気汚染の更なる改善を促進する上で有効と考えています。
16 ・測定法も確立しておらず、科学的根拠に基づかない指針値策定はいたずらに恐怖心をあおるばかりではないか。 1 現時点で得られる汚染実態等の調査結果を最大限活用し、空気質の状態や汚染の目安として、合理的に達成可能な暫定目標値を提示することが、室内空気汚染の更なる改善を促進する上で有効と考えました。TVOCの測定手順については、暫定値設定に利用した、欧州委員会共同研究センター報告書のTVOC決定の勧告手順が参照できるものと思います。標準的な方法としては、個別物質毎の同定とその検出ピークの定量が可能なGC/MS法が中心になると思いますが、同定しない検出ピークの定量やスクリーニング目的のTVOC定量には、直接読取法が利用できると思います。今後、各手順の技術的な詳細について、本検討会で既に策定した室内空気中化学物質の採取方法及び測定方法を基本に、できるだけ早くとりまとめたいと思います。
17 ・テルペンを除いたTVOCの測定法が確立していないならば早計に策定せず、測定法を確立してからにすべきと考えます。
・測定法はどうなるのか。簡易法は検討しているのか。
・測定方法が明示されないまま暫定目標値のみを先行して出すのはおかしい。測定方法を定めて公表すべき。(6)
・実際に測定して定量する際には「勧告手順」に従って行うということか。
9
18 ・「元のチャートを再解析しないと推測できない」としている数値を根拠として暫定目標値とはいえ具体的な数値を示したことは問題。
・暫定とはいえ実態調査の換算から値を推定するやり方には無理がある。少なくとも再調査をして実態を再確認してからにするべきだ。
2 対象家屋全体の物質毎の実測値データがとりまとめられていたことから、各物質の中央値の総和を用いて、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定した値を暫定目標値と致しました。今後きちんとしたTVOCと健康影響の実態調査を実施し、健康影響の起こりうるTVOC濃度域とリスク評価に基づいた指針値設定を目指したいと思います。
19 ・指針値を定めるのは時期尚早。健康との関連、実態調査等の研究を進め、その成果を逐次発表する方が望ましい。 1 現時点で得られる汚染実態等の調査結果を最大限活用し、空気質の状態や汚染の目安として、合理的に達成可能な暫定目標値を提示することが、室内空気汚染の更なる改善を促進する上で有効と考えました。今後できるだけ早くリスク評価に基づいたTVOC指針値設定が可能となるよう、必要な調査研究を進めていきますが、その成果は適宜公表していきたいと思います。
20 ・テルペンは天然物由来で、健康阻害するものではなく、むしろ他のVOCを除去するのに役立ち、健康に良く快適性をもたらすものなので、必須VOCsリストから除外すべき。(3)
・テルペン類は必須VOCsリストから削除すべき。環境庁の「におい環境指針」で植物の香りを快適な環境を作るための香りとしてあげている。多様な生物活性を有し、利用方法によっては安全かつ有益である。
・天然系のテルペン類は日本の伝統的な木造住宅では当たり前に放散されており、リラックス効果も指摘されている。室内汚染の目安としてTVOCに含むのはどうか。(7)
・必須VOCsリストにあげられた諸物質の設定根拠が明確でない。「フィトンチッド」に相当するものまでTVOCとして計算されることは疑問。
・自然由来の素材は有用性が認められてきており、疑わしいとして全て規制すると、逆にその有用性が失われ別のリスクが拡大しないか。物質の選定は慎重に行う必要がある。(2)
14 テルペン類の効用についてはご指摘の通りで、通常であれば、室内空気中に存在する濃度で人体に悪影響が及ぼすことは考えにくいと思います。しかし物質によっては医薬品に応用されるような強い活性を有するものもあることから、現時点で全てのテルペン類は人体への悪影響がないとは決して言えません。また、化学物質過敏症と呼ばれる症状で苦しんでいる方のなかには、ある物質に高濃度に又は長期間暴露したことがきっかけで、テルペン類を含む他の物質にも過敏になっているケースがありえます。また他の化学物質とテルペン類との混合影響の知見もまだ十分に得られていないと思います。TVOC暫定値の設定において参照した、欧州委員会共同研究センター報告書のなかでは、TVOC決定手順の必須VOCリストにテルペン類が含まれています。
またUS-EPAの室内空気質参照マニュアルにおいては、Contaminantとして、テルペン類に分類されるVOCの測定値が紹介されています。テルペン類については今後のリスク評価において毒性上問題ないことがデータから明かであれば、TVOCを構成する物質群としてのテルペン類の寄与は、傾斜配分によって当然低くなるであろうし、これらの研究は、リスク評価に基づいたTVOC指針値設定を行うための今後の課題のひとつとして、報告書にも明記しているところです。なおその間、本検討会で扱う対象となる物質が全て、生活環境中に存在する濃度で人体に悪影響を及ぼす汚染物質であるとの誤解が生じないよう、報告書の記載内容を工夫致します。
21 ・実際に分析すると無極性カラムではn-ヘキサンよりも早い時間にMEK、2-プロパノール、アセトン、酢酸メチルなどの物質ピークが存在し、幾つかは必須VOCsリストにも入っているがどう考えればよいのか。 1 引用した欧州委員会共同研究センター報告書の勧告手順の9によれば、注釈をつけて説明を加えることになると思います。具体的な取扱については、これから作成するTVOC測定手順の技術的な詳細の中で検討したいと思います。
22 ・TVOCが「汚れの指標」程度の意味であればECAのような多大な費用のかかる定量法ではなく、範囲を定めてトルエン換算するほうが現実的。将来的には個々の物質の定量値とトルエン換算値の関係把握が必要。・検出ピークの特定にはそれなりの専門知識が必要で、多数のピークの検出が予想されるためリストに該当する成分を確認するのも容易でない。成分の特定には個人差が予想されるため、研究ではないガイドラインの目的からはより簡略で早く結果を得られる方法をとるべき。(3)
・TVOCの求め方は分析の作業量として非現実的。より簡略な方法が望ましい。
5 引用した欧州委員会共同研究センター報告書では、新しいTVOC決定の勧告手順に至る前の、TVOC測定方法のひとつとして、個別物質の同定を行わない直接読取法について紹介しており、例としてFID法(水素炎イオン検出法)が最も安定な方法としてあげられています。これはご指摘のように単一物質(トルエン又はn-ヘキサン)についてのみ標準化を行い、一定範囲の全検出ピークをトルエン換算して求める方法です。新しいTVOC決定の勧告手順の方法に従うと、GC/MS法を用いて個別物質毎の同定とその検出ピークの定量を行い、GC/MS法で同定しなかった検出ピークについては直接読みとり法で定量し、両者を合計することで、TVOC値を算出することになると思います。スクリーニングの目的で室内空気質のおよそのTVOCを知りたい場合は、この簡略な直接読取法を用いることはひとつのオプションになると思います。しかしその場合は、物質の性質によって測定強度が異なる場合があるので、同じサンプルを用いたGC/MS法による定量値との関係が検証されていることが必要でしょう。これら方法の具体的な取扱については、これから作成するTVOC測定手順の詳細の中で検討したいと思います。
23 ・勧告手順に検出上位10ピークにそれぞれ該当する化合物を定量することとあるが、検出上位を含有量で選択する場合には全ての物質の定量が必要となり、ピーク面積やピーク高さで選択する場合には検出感度の差から実際と逆転している可能性がある。
・上位10ピークの定性・定量は必ず必要なのか。順位付けや同定困難なピークがあることが予想される。10ピークという曖昧な定義は外すべき。
2 具体的な取扱については、これから作成するTVOC測定手順の技術的な詳細の中で検討したいと思います。
24 ・60ものVOC標準物質を調整するのは非常に労力を要する。
「TVOC測定用標準溶液」が市販で入手できることを望む。
1 TVOC測定用標準溶液が開発されるには、少なくとも必須VOCsリストの整備が不可欠であるので、必要な調査研究の充実により、1日も早く必須VOCsリストを完成させたいと思います。
25 ・60種のVOCについて同定のための、マススペクトル等を含む化学的性質を示したライブラリを作成し、公開していただきたい。 1 今後TVOC実態調査を行っていくなかで、明かにできるものと思います。
26 ・屋外環境との関係や、木材から放散されるVOCの取り扱いをどうするのか。例えば木材だけで造られた家のTVOCが基準を超えた場合の取り扱いなどについて見解を聞きたい。木材以外のVOCの実質許容量は非常に小さいのではないか。 1 19の回答とも関連しますが、これについては、TVOCを構成する各物質群の寄与の程度を毒性学的に明かにする必要があると思います。木材だけで作られた家屋の実態については、今後TVOC実態調査等で挙がってくる個別の事例をみながら検討することになると思います。
27 ・「特定VOC」とは何を指すのか。(必須VOCsリストに含まれる化合物及び検出上位10ピークにそれぞれ該当する化合物のことか。) 1 「特定」を「同定」という言い方に改めます。
28 ・「2-2 Sid(物質を同定したピークの総和) の計算」に記載の表の読み方が不明。右上の153とその下の数値群との関係が不明。 1 実態調査では、対象家屋全体の物質毎の実測値データがとりまとめられており、各物質濃度の中央値が求められています。また、いくつかの背景因子別(新築/中古、夏/冬、症状あり/なし)に層別解析した場合の物質毎の実測値データもまとめられており、同様に各物質濃度の中央値が求められています。表2−2は、これら中央値の総和を示したものです。
29 ・「中央値の総和」とはどういうことか。 1 同定した41物質について、それぞれの実測値の中央値を合計したことを意味します。
30 ・Sidの算出を平成10年度実態調査から引用しているが、サンプル数とばらつきに言及して欲しい。また、正規分布はしているのか。 1 全家屋数205戸に対し、室内空気200試料、室外空気197試料、個人暴露202試料を採取、41VOCsについて濃度測定(n=177〜201)を行っています。全般的に、低濃度領域に大きな母集団があり、高濃度領域にいくつかの特別に高濃度の汚染事例が散見する分布を示したことから、合理的に達成可能な限り低いTVOC値の推定には、平均値ではなく、中央値を用いることにした次第です。これらを報告書に追記致します。なお実態調査の詳細は、次のインターネットサイトで入手できますので、どうぞご利用下さい。 (www.mhw.go.jp/houdou/1112/h1214-1_13.html)
31 ・Sun(未同定ピークの総和)をSidと同量と仮定しているが、この仮定の確からしさの根拠を明らかにして欲しい。TVOCを全国的に把握し、過敏症状が発生する濃度より低い濃度を指針値とする必要がある。(2) 2 引用した欧州委員会共同研究センター報告書のTVOC決定の勧告手順の7において、VOCsの同定の程度について、Sid+Sunの合計が1mg/m3未満のときは、SidがSid+Sunの合計の1/2量に達していれば十分とされています。実態調査の結果を用いたシミュレーションでは、個別物質の同定の程度(ここでは41VOCs)が十分であるとの仮定にたつと、その実測値からは、Sid+Sunの合計が1mg/m3を超えないと考えられたので、未同定物質が同定された物質と同量あるとして計算致しました。TVOCと健康影響との関連については、今後きちんとした実態調査を行い、健康影響の起こりうるTVOC濃度域とリスク評価に基づいた指針値設定を目指したいと思います。
32 ・Sid、Sid+Sunが安全側(達成可能側)になっているのなら、ここでさらに安全側にとる必要はなく、中央値でよいのではないか。 1 竣工後1ヶ月を超えた家屋を対象とした場合の数値(356μg/m3)及び冬季の場合の数値(350μg/m3)を考慮致しました。
33 ・新築住宅における測定は30分採取となっているが、固層吸着/溶媒抽出法では信頼性のあるTVOCは計れない。採取時間の大幅な延長が望まれる。 1 今回のTVOC決定法では、30分採取は規定しておらず、ActiveかPassiveかで試料採取時間は大きく異なりますが、測定系への移動方法によっては、必要に応じた採取時間の延長はありえると考えられます。具体的な取扱については、これから作成するTVOC測定手順の技術的な詳細の中で検討したいと思います。
34 ・家具や什器も汚染源となり得る。これらについて大まかに目標値を提示し、全てを含めた総合値として目標値を定める大きな枠組みを同時に示すべき。 1 貴重なご指摘ありがとうございます。家具等の家庭用品も室内空気汚染の重要な発生源であることから、家庭用品からの化学物質放散量の基準についても、今後検討したいと思っています。


4.指針値の適用範囲の在り方について

No. 意見の概要 件数 意見に対する対応・考え方
1 ・指針値の適用範囲の在り方についてが出たことはありがたいが、具体的な数量で指示していただきたい。 1 本検討会で策定した指針値は、特殊な発生源がない限り、原則として、一律に、あらゆる室内空間に適用され、その指針値が遵守されているべきであると考えています
2 ・「生産的な生活に必須な特殊な発生源」とあるが、意味が不明。工場その他は除外されるのだからよけいな条件を付けることはないと思う。 1 例えば、暖房、食料、料理、書籍・雑貨類など。また機能性や使いやすさ又は生産性の観点から今のところ適当な代替品がなく家庭用品や各種設備に使用される素材が該当する。
3 ・空気質の情報開示は供給者側の責任としているが、供給者とは誰か。また継続したモニタリングの必要性をうたっているが、誰の責任で実施するのか。 1 建物の生産者又は管理者は、知り得た空気質の情報を開示する必要があると考えています。またそのためには建材や家庭用品等の発生源を生産・供給する業者による情報開示が必要であると思います。継続的なモニタリングは、建物の生産者又は管理者が、自ら自主的に又は居住者等その室内空間で生活活動を営む者からの要求によって、定期的に空気質汚染のチェックを行いその情報を開示し、双方で監視をしていくシステムが必要であると考えます。
4 ・材料提供者には責任はないのか。 1
5 ・室内空間の汚染はその空間の供給者側の責任と断定されているが、材料及び建材に関する汚染の情報を同時に積極的に開示して欲しい。(6) 6
6 ・その後のフォローや対応案を明確にして欲しい。数値だけでは無責任でないのか。 1 ご指摘については、空気質に関する情報開示と継続的なモニタリングのための体制について、今後の検討課題にしたいと考えています。
7 ・空気質管理と情報開示を求めるのなら法規制が必要。使用開始前の第3者による測定の義務づけと開始後の定期的モニタリング、及びそれらの結果の開示をし、利用者の意志で暴露を防げるようにする必要がある。 1 ご指摘の通りと思います。但し法規制をしなくても実効性のある体制作りは可能と考えられるので、両面からの検討が必要と思います。
8 ・発生源や換気、測定時期、住まい方等のファクターによって影響されることをもっとアピールするべき。 1 ご指摘の通りと思います。日常生活において発生源や換気に気を配り、住宅構造や住まい方における工夫や改善によって、室内空気質の汚染を低減する努力をすることは重要と思います。
9 ・基本的考え方には賛成。まだ解明されていないリスクに対する対処の仕方という社会的な問題と考える。そのため、社会的な弱者の保護と最低限守るべき基準が必要。その上で各者の責任関係の見地から適用範囲を決めるべき。 1 貴重なご意見ありがとうございます。4及び5の回答とも関連しますが、今後追求していかなければいけない事項と考えています。
10 ・保健衛生上の見地から望ましいことではあるが、病院、学校、車両等にも一律の基準を適用するのか。 1 本検討会で策定する指針値は、特殊な発生源がない限り、原則として、一律に、あらゆる室内空間において遵守されるべきであると考えています。特に、病院や学校等は小児が暴露される可能性が高い室内空間であることから、より徹底した空気質の管理と継続的なモニタリングを行うべきと考えています。
11 ・売買や賃貸の契約時に、またシロアリ駆除の際等には指針値のある物質の測定と結果の告知を早急に義務づけて欲しい。 1 3の回答参照。また、本年10月から住宅品質確保法における住宅性能表示制度が施行されていますが、そのなかには室内空気環境という項目がありますので、建築業者には、積極的に室内空気質の情報を提供することが今後求められてくるものと理解しております。
12 ・病院、学校、保育園、幼稚園などでの測定とその値の情報公開を義務づけて欲しい。 1 それらは小児が暴露される可能性が高い室内空間であることから、より徹底した空気質の管理と継続的なモニタリングを行うべきと考えています。3の回答とも関連しますが、継続的なモニタリングは、建物の生産者又は管理者が、自ら自主的に又は居住者等その室内空間で生活活動を営む者からの要求によって、定期的に空気質汚染のチェックを行いその情報を開示し、双方でモニタリングをしていくシステムが必要であると考えます。この空気質に関する情報開示と継続的なモニタリングのための体制については、今後の検討課題です。
13 ・車両との表記は主旨から考えれば自家用車も含むと考えられるが、誤解を生じる恐れがあるので含むか否かを明確にすべき。 1 自家用車も含まれます。
14 ・情報に基づいて選択をするのは消費者の責任と記述されていますが、専門的知識の乏しい消費者が正しい選択をするのは容易ではなく、基本的には事業者が可能な限りの対策をすべき。 1 ご指摘の通りと思います。事業者による情報開示と説明責任が重要であることは言うまでもありません。


5.その他

No. 意見の概要 件数 意見に対する対応・考え方
1 ・建材に使用されている化学物質の情報公開を業界に義務づけるべき。 1 機能を付与する目的で意図的に配合した物質については、求めに応じて適宜情報が提供できるような体制の整備がまず必要であると考えます。
2 ・新築・リフォーム・修理・シロアリ防除を実施した場合、業者に室内空気の分析を義務づけ、指針値を超えて健康被害が出た場合には現状回復の義務を負わせることが必要。 1 測定には費用ががかり、受益者が負担を求められることとなるので、全てを義務づけるのは適当ではなく、むしろ希望に応じて契約時に確認すべきものと考えます。
3 ・室内濃度だけでは具体的対応は不可能。材料及び建材等の放散量の測定方法及び基準を、関連省庁と連携し、同時に発表して欲しい。(5) 5 現在ホルムアルデヒドについては規格基準や測定法が一部制定されており、その他のものについても当検討会と並行して関係各省にて建材からの揮発性化学物質放散量測定法や、規格基準、改修技術等の検討も進められています。それと並行して室内空気汚染実態調査や原因究明のための研究も引き続き進めているところです。
4 ・発生源となる建材等の含有基準を設けて材料の管理もして欲しい。(2) 2
5 ・指針値超過の場合の改善、改修技術の普及が不可欠。 1
6 ・関連省庁と連携してシックハウス症候群の実態調査とその機序や原因等の究明を進めていただくようお願いします。 1
7 ・室内空気汚染実態調査で高い濃度を示した物質について早急に発生源調査を進め、事業者と国民に注意を喚起していただきたい。 1


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