平成12年10月13日
生活衛生局乳肉衛生課
食品衛生法に基づく畜水産食品中の残留動物用医薬品基準設定については、平成12年6月30日から7月31日までインターネットのホームページ等を通じて御意見・情報を募集したところ、1通の御意見・情報をいただきました。
お寄せいただいた御意見・情報とそれらに対する当省の考え方につきまして御報告いたします。
御意見・情報をありがとうございました。
意見1
レバミゾール及びチルミコシンについては、食肉中に残留する未変化体の量は総残留物の一部にすぎないため、これらの理論最大摂取量を算出するにあたっては、JECFAの考え方と同様に代謝物等を考慮して、もとの本体濃度を換算する必要があると考えます。また、エプリノメクチンの基準値はエプリノメクチンB1aについての値なので、この場合も本来はJECFA同様にエプリノメクチンB1aの濃度をエプリノメクチントータルの総残留濃度に換算する必要があると考えます。 |
(別紙1)
各組織ごとに、上段:JECFA、中段:日本成人、下段:日本小児
組織 | 摂食量 (g/日) |
基準値 (μg/g) |
理論最大摂取量(μg/日) | ADI 比(%) ※2 |
|||
親化合物として (摂食量×基準値) |
フリーの代謝物 (レバミゾール相当量) |
組織内結合物 (レバミゾール相当量) |
結合物の重量※1 (レバミゾール相当量) |
||||
筋肉 | 300 80.3 51.1 |
0.01 | 3 0.803 0.511 |
125 33 21 |
125 33 21 |
35 11 22 |
|
脂肪 | 50 80.3 51.1 |
0.01 | 0.5 0.803 0.511 |
21 33 21 |
21 33 21 |
6 11 22 |
|
肝臓 | 100 80.3 51.1 |
0.1 | 10 8.03 5.11 |
208 167 106 |
31 25 16 |
239 192 122 |
66 64 128 |
腎臓 | 50 80.3 51.1 |
0.01 | 0.5 0.803 0.511 |
10 17 11 |
2 3 2 |
12 20 13 |
3 7 14 |
JECFA計(筋肉+脂肪+肝臓+腎臓) | 397 | 110 |
※1「未変化体の重量は総残留物の重量の2.4%である」事に基づき、以下の通り換 算する
※2 ADI6μg/kg体重/日から、体重をJECFAは60kg、日本人成人は50kg、日本人小児は15.9kgとして、比を算出。
(別紙2)
各組織ごとに、上段:JECFA、中段:日本成人、下段:日本小児
組織 | 摂食量 (g/日) |
基準値 (μg/g) |
理論最大摂取量(μg/日) | ADI 比(%) ※2 |
|
親化合物として (摂食量×基準値) |
総残留物重量※1 (チルミコシン相当量) |
||||
筋肉 | 300 80.3 51.1 |
0.1 | 30 8.03 5.11 |
60 16 10 |
3 1 2 |
脂肪 | 50 80.3 51.1 |
0.1 | 5 8.03 5.11 |
10 16 10 |
0 1 2 |
肝臓 | 100 80.3 51.1 |
1(牛,羊) 1.5(豚) |
100 80.3 51.1 |
2000 1606 1022 |
83 80 160 |
腎臓 | 50 80.3 51.1 |
0.3(牛,羊) 1(豚) |
15 24.09 15.33 |
150 240 153 |
6 12 24 |
乳 | 1500 134.8 184.9 |
0.05 | 75 6.74 9.25 |
150 13 19 |
6 1 3 |
JECFA計(筋肉+脂肪+肝臓+腎臓+乳) 日本人成人(肝臓+乳) 日本人小児(肝臓+乳) |
2370 1619 1041 |
99 81 163 |
※1 未変化体の重量が総残留物の重量に占める割合に基づき、以下の通り換算する。
※ 上の表において、肝臓は牛又は羊で、腎臓は羊で摂取するものとして計算した。
※2 ADI40μg/kg体重/日から、体重をJECFAは60kg、日本人成人は50kg、日本人小児は15.9kgとして、比を算出。
<当方の考え方>
厚生省では現在のところ、動物用医薬品の理論最大摂取量の試算に際して、食肉中の濃度については親化合物又はマーカー物質に係る基準値案のうち最も高い濃度を用い、摂食量は国民栄養調査の結果を用いています。
食品中の濃度については、ご指摘の代謝物及びマーカー物質以外の異性体を考慮しなくとも、親化合物又はマーカー物質に係る基準値案のうち、最も高い基準値を用いることにより、安全を見込むことが可能と考えています。
また、食品の摂食量については、ご指摘のJECFAで用いられている食品の摂取量は、過大であり、国民栄養調査の結果がよりわが国の食生活を反映していると考えます。
仮に、食品中の濃度につきまして、JECFAと同様に代謝物、異性体を含めることとし、食品の摂食量は、日本人の実状にあわせ、国民栄養調査による日本人の平均の摂食量(注)を用いて理論最大摂取量を計算しても、レバミゾールでは、21%(子供では43%)、チルミコシンでは、18.5%(子供では38.6%)となり、何れも理論最大摂取量は、ADIの5分の1〜3分の1程度となります。
以上のように何れも、理論最大摂取量はADIを超えていません。
理論最大摂取量の計算方法については、今後、検討して参りたいと思います。
(注:国民栄養調査では、肉の種類別の摂食量は集計されていないので、筋肉、脂肪、肝臓、腎臓については、JECFAの食肉の比率(筋肉:脂肪:肝臓:腎臓=30:5:10:5)を用いています。この計算を行うと、大人(( )は子供)の場合、食肉の摂食量80.3gは、筋肉 48.18(30.66)g、脂肪 8.03(5.11)g、肝臓 16.06(10.22)g、腎臓8.03(5.11)gとなります。)
(レバミゾール) 各組織ごとに、上段:日本成人、下段:日本小児
組織 | 摂食量 (g/日) |
基準値 (μg/g) |
理論最大摂取量(μg/日) | ADI 比(%) |
|||
親化合物として (摂食量×基準値) |
フリーの代謝物 (レバミゾール相当量) |
組織内結合物 (レバミゾール相当量) |
結合物の重量 (レバミゾール相当量) |
||||
筋肉 | 48.18 30.66 |
0.01 | 0.4818 0.3066 |
20 13 |
20 13 |
7 14 |
|
脂肪 | 8.03 5.11 |
0.01 | 0.0803 0.0511 |
3 2 |
3 2 |
1 2 |
|
肝臓 | 16.06 10.22 |
0.1 | 1.606 1.022 |
33 21 |
5 3 |
38 24 |
13 25 |
腎臓 | 8.03 5.11 |
0.01 | 0.0803 0.0511 |
2 1 |
0 0 |
2 1 |
1 1 |
成人合計(筋肉+脂肪+肝臓+腎臓) 小児合計(筋肉+脂肪+肝臓+腎臓) |
66 41 |
21 42 |
(チルミコシン) 各組織ごとに、上段:日本成人、下段:日本小児
組織 | 摂食量 (g/日) |
基準値 (μg/g) |
理論最大摂取量(μg/日) | ADI 比(%) |
|
親化合物として (摂食量×基準値) |
総残留物重量 (チルミコシン相当量) |
||||
筋肉 | 48.18 30.66 |
0.1 | 4.8 3.1 |
9.6 6.1 |
0.5 1.0 |
脂肪 | 8.03 5.11 |
0.1 | 0.8 0.5 |
1.6 1.0 |
0.1 0.2 |
肝臓 | 16.06 10.22 |
1(牛,羊) 1.5(豚) |
16.1 10.2 |
321.2 204.4 |
16.1 32.1 |
腎臓 | 8.03 5.11 |
0.3(牛,羊) 1(豚) |
2.4 1.5 |
24.1 15.3 |
1.2 2.4 |
乳 | 134.8 184.9 |
0.05 | 6.7 9.2 |
13.5 18.5 |
0.7 2.9 |
日本人成人(筋肉+脂肪+肝臓+腎臓+乳) 日本人小児(筋肉+脂肪+肝臓+腎臓+乳) |
370.0 245.4 |
18.5 38.6 |
問2 個別の薬剤について
レバミゾールについて、投与後1日目の卵黄中の残留濃度や、投与後時間内の乳汁中の残留濃度が高いことから、JECFAでは産卵中の鶏や乳牛には使用すべきでないとの見解であり、その故に鶏卵への残留基準値が設定されておらず、また乳汁の基準も棄却されています。また、レバミゾールには発がん性を評価するための十分な試験結果がありませんが、変異原性試験の一部では陽性となっているので、今後適切な発がん性試験が不可欠です。このような現時点で科学的に未解決な要素を含む薬剤に対してわが国においても「産卵中の鶏や乳牛への使用を禁止」すべきであると考えます。 |
<当方の考え方>
レバミゾールの変異原性試験については、専門家委員会で議論され、「陰性となっている染色体試験については、5,000μg/mlまで試験を行っているが、陽性となったヒトリンパ球の試験は250μg/mlまでの結果であり信憑性に問題がある」とされています。また、発がん性試験については、最終的に生存した動物数が少なかったため、発がん性試験としては評価には十分でないとされたものですが、本試験で、がんの発生の増加等は認められていません。従いまして、レバミゾールに発がん性があるとするデータは現在の所、確認されているものではありません。
しかし、当然のことながら、発がん性を含めた安全性の情報については、安全性の情報収集の観点から、今後とも収集して参りたいと思っております。
なお、「産卵中の鶏や乳牛への使用を禁止すべき」とのご意見ですが、動物用医薬品の製造、販売、使用等の規制については、農林水産省で行っております。また、レバミゾールについては、現在、農林水産省において、薬事法に基づく再評価を行っているときいています。
エプリノメクチンの神経系への影響ですがイヌを用いた1年間投与試験等が行われており、残留基準値の設定については、現状の資料で評価が可能と考えています。しかし、当然の事ながら、神経毒性を含めた安全性の情報については、安全性の情報収集の観点から今後とも収集して参りたいと思っております。
以上