99/11/19 第10回生殖補助医療技術に関する専門委員会議事録 第10回    厚生科学審議会先端医療技術評価部会      生殖補助医療技術に関する専門委員会  議  事  録                                        厚生省児童家庭局母子保健課                           厚生科学審議会先端医療技術評価部会          生殖補助医療技術に関する専門委員会議事次第 1 日  時:平成11年11月19日(金) 14:00〜16:35 2 場  所:厚生省共用第6会議室 3 議  事 (1)生殖補助医療技術に関する有識者からの意見聴取    (対象者)    ・福武 公 子氏   弁護士    ・岩志 和一郎氏   早稲田大学法学部教授 (2)その他 ○椎葉課長補佐 それでは、ただいまから第10回厚生科学審議会先端医療技術評価部会生殖補助医療技 術に関する専門委員会を開催いたします。 本日は、お忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。本日は石井美智 子先生が御欠席という連絡をいただいております。  また、本日の議題の1でございます有識者からの意見聴取でございますけれども、本 日お話をお伺いする弁護士でございます福武公子先生と早稲田大学法学部教授の岩志和 一郎先生にも御出席をいただいております。 それでは、議事に入りたいと思います。中谷委員長、議事進行方よろしくお願いいた します。 ○中谷委員長 どうもありがとうございました。  今日は、福武先生と岩志先生にはお忙しい中をこの委員会に御出席いただきましてあ りがとうございます。  議事に入ります前に、事務局から今日の資料の御確認をお願いいたします。 ○武田主査  本日の資料の確認をさせていただきます。まず、1枚目が議事次第でございます。次 に資料1でございますが、福武先生の意見発表の資料でございます。それから資料2で ございますが、こちらの方は岩志先生の意見発表の資料でございます。参考資料の1で ございますが、インターネットで国民の皆様から寄せられた御意見でございます。次に 机上配布資料として、先生たちのお手元にお配りしている資料でございますが、ドイツ 連邦医師会のガイドラインを訳した資料でございまして、中谷先生から御提供のあった 資料でございます。次に机上配布資料2、枝番で2−2というものでございますが、本 日の参考資料として岩志先生から御提供のあった資料でございます。  以上でございます。 ○中谷委員長 どうもありがとうございました。  では次に、議事1の「生殖補助医療技術に関する有識者からの意見聴取」に入りたい と思います。  事務局から福武先生と岩志先生の御紹介をお願いいたします。 ○武田主査  本日ヒアリングをさせていただきます両先生の御紹介をさせていただきます。  まず福武公子先生でございますが、昭和20年生まれでございまして、現在福武法律事 務所の弁護士でいらっしゃいます。それから日本弁護士連合会の生殖医療プロジェクト チームのメンバーでございます。本日は日本弁護士連合会において検討されている生殖 補助医療技術にかかわる法律的問題と法律実務家としての立場からの生殖補助医療技術 に関する御意見をいただけることになっています。 それから岩志和一郎先生でございますが、昭和24年生まれでいらっしゃいまして、現 在早稲田大学法学部の教授でございます。専門の方は民法でございまして、本日は生殖 補助医療技術に対するドイツの対応等についてのお話をいただけることになっています。 中谷先生からの御紹介で本日は御出席いただいております。 以上でございます。 ○中谷委員長 どうもありがとうございました。  両先生には御多忙中のところ、当委員会のために御出席をいただきましてありがとう ございます。 では、福武先生から30分程度御意見を伺いたいと思いますので、よろしくどうぞ。 ○福武氏 弁護士の福武でございます。よろしくお願いいたします。 まず日本弁護士連合会でどのような議論をしているかということを先に申し上げたい と思います。弁護士連合会の中にはいろんな委員会がございますが、そのうち人権擁護 委員会というのが一番大きなところです。その中で第4部会に医療部会というのがござ います。脳死の問題とかいろいろやっている部会なんですが、その中で数年前から生命 倫理小委員会を設けて議論を重ねてきました。去年からは両性の平等に関する委員会、 これはもともとは「女性の権利に関する委員会」という名前だったんですが、男性には 権利はないのかという意見があったものですから「両性の平等に関する委員会」と名前 を変えております。それと子どもの権利の委員会から委員の派遣を得ていますので、3 つの委員会から委員を出している生殖医療プロジェクトチームをつくったということで す。そして生殖医療技術に関する法的問題について議論を重ねて、今年度中には一応人 権擁護委員会としての意見を出そうということになっております。  ただ、ここで検討の対象としているのは生まれた子どもの法的地位とか、女性のリプ ロダクティブ・ヘルス/ライツとか、利用しうる技術はどの辺までなのかという点に限 りました。というのは、出生前診断とか、遺伝子操作とか実験の関係についてはかなり 議論が錯綜していることと、法律実務家としてどこまで言えるかという問題がございま すので、そこは今は省いております。 まず法律実務家としての問題意識ということで、できるだけ法的な観点について問題 を申し上げたいと思います。 一番問題になっているのは子どもの権利ということです。それともう一つは、不妊治 療の対象になるのがほとんどが女性なものですから、女性が男性と同じように平等の権 利をもって不妊治療に臨んでいるのかどうかがかなり疑問であるということが出されて おります。まず、家族のあり方、家庭のあり方を決定する権利というのは、一応弁護士 なものですから、これは自己決定権の一つというふうに考えております。そして、その 自己決定権というのは憲法13条が規定する幸福追求権のうちの一種であるということで す。そして幸福追求権の中にはプライバシーの権利というのがずっと言われてきたんで すが、プライバシーの権利というのは、かなりの面で1人で放っておかれる権利とか、 自己に関する情報をコントロールする権利ということで若干ネガティブな意味での権利 なんです。それに対して自己決定権というのは、もう少しポジティブな権利だというふ うに考えています。その中には家族のあり方を決定する権利があるということになって おりますが、その中で特にリプロダクティブに関する権利というものも含まれていると いうふうに考えております。この辺については恐らく異論はないと思われます。そして そのリプロダクティブに関する権利というのは男性も女性も両方とも持っているという ことなんですが、現実には女性に対する差別というのがあるのではないか。特に家庭で 子どもが生まれないということになってきますと、「嫁して3年子なきは去る」という のが現実的な圧力としてきている。ですから、女性が不妊治療を受けたいという中には 自分が決定していると同時に、他から決定させられているという面がどうもあるのでは ないかというふうに考えております。  ただ、それにいたしましても、生殖補助医療を使ってまで行うような権利については やはり制約があるというふうに考えています。それは何かと言いますと、生殖医療技術 を使うということはリプロダクティブの権利及び義務なんですが、それは生まれてくる 子どもがいるということなんです。その辺については自分だけで決定するわけにもいか なくて、子どもというものは別個の権利を持っているものですから、それを最優先で考 えなくてはいけないという制約があるというふうには考えております。子どもの権利と いいますと、父母に養育される権利がございますし、父母を知る権利がございます。そ れにつきましては、世界人権宣言及び子どもの権利条約に記載されておりまして、それ についても異論はないということになっております。 この辺までは弁護士としては余り異論がないんですけれども、子どもの法的地位とい うものを確定しなければいけないのはなぜなのかということについて少し述べたいと思 います。特に弁護士が気にしているのは夫婦間で生殖医療技術を使って子どもさんが生 まれるということについては、それはそれなりの技術の進歩であり、使えるものだった ら特に否定をする必要はない。ただ、第三者の精子又は卵子を使用することについては やや大きな問題がございますので、今の民法上の問題では、子どもの法的地位は決定的 に欠けていると考えております。つまり嫡出推定否認制度というものが、日本は西欧と 比べて血統主義によって覆される可能性が非常に強いということなんです。といいます のは、民法では妻が婚姻中に懐胎した子どもを夫の子と推定するとなっておりますが、 これは推定規定であって、みなし規定ではないんです。推定規定ということは、ある条 件があった場合にはそれを覆すことが可能であるということです。そして覆す材料とい うが、ほぼ血統主義だというのが日本の裁判所の考え方なんです。それで本来であれば 民法上は親子関係の否認ができるのが、夫が出生を知った日から1年以内ということに なっておりますが、民法上規定のない親子関係不存在確認の訴えという類型が裁判とし ては存在しております。これは主に遺産分割などでもめたときに、あれは亡くなった人 の子どもではないという意見が出されてくるケースです。現実にどこにも規定はないに もかかわらず、親子関係不存在確認の訴えというのが類型としてあって、それの証拠と してほとんど決定的なのは遺伝の関係なんです。今は血液鑑定以外でもDNA鑑定を用 いれば、お亡くなりになっている人の場合でも結構分かるということですから、それが 大きな問題になっております。  欧米法、特にフランスなどにおいては、私は専門ではないんですけれども、嫡出推定 というのがかなり強い推定なんです。つまり、これが親子だ、父親と子どもであるとい うことを推定されたとしたら、それを否定する材料というのが、例えば父親側からDN A鑑定をやってくれといっても、今は裁判所ではそれを採用しないです。ただ、子ども の方から否定する場合には採用しているということなんです。つまり外形的な事実から 親子として認められている状況があるんだったら、それをあえて血統主義で引っくり返 す必要はないということで、推定の力がかなり強いんです。アメリカにおいても、母親 の恋人が、自分の子どもはあそこで生まれたあの夫婦の子どもであるということで、父 親と子どもとの間の親子関係を否定しようという裁判をやったときに、血統的には確か に母の恋人と子どもが親子関係ではありますけれども、裁判所は法律上の父子関係の否 定はしなかったんです。つまり、社会的にも親子として存在しているのだから否定する 必要はないということで、推定がかなり強いんです。ところが、現実には日本では推定 は簡単に覆されるのです。それも今ですと、技術的と言いますか、医学的にはほとんど 確実に親子関係が否定される状況になってきた場合には、日本の裁判所はそれをもとに して、例えば親子でないというような鑑定が出たときに、それでもやはり親子である、 社会的に見て親子であるという決定はほとんど出さないと考えられます。そうすると今 の非配偶者間人工授精において父親ということが現実に推定されていたとしても、それ だけでは子どもの地位というのは全く不安定になってくるということです。そして、も しこれが親子でないということを否定されたときに、嫡出子として届け出が出されてい るんだから、それを養子縁組として無効行為の転換がなされないかという意見はいつも 出てくるんですけれども、今現実には最高裁で無効行為の転換は認めていないという状 況にありますので、10年も親子として存在していたものが血液鑑定だけで引っくり返さ れる可能性は確実に持っているということなんです。  次に母親についていいますと、母親については認知の規定は法律上あるんですが、最 高裁判所の判例で分娩の事実から当然に親子関係、母と子どもの関係が発生するという のがあります。といっても昭和37年の判決ですけれども。それがありますので分娩の事 実がある。だから母子関係があるといったとしても、例えば他人の卵子を使って母親が 出産をしたというときに、分娩の事実からすぐに母子関係が生ずるというふうに言える かというと、これは判例ですので判例はいつでも引っくり返せる。特に親子判定をやっ て違うとなった場合には、多分引っくり返されるであろうということで、やはり親子関 係については、今の民法のまま非配偶者間人工授精を行うとか、あるいは体外受精で他 人の精子、卵子を使うということについては危惧すべき状況であるというふうに考えて おります。 では、どういった方法が考えられるかといいますと、一つは大分前になりますが、産 婦人科のお医者さんが生まれた子どもを別の夫婦の間の実子として届け出たということ が大きな問題になった。そしてその結果特別養子制度ができました。それができたのは そこに資料を書きましたけれども1988年なんです。1988年に出したこの制度の一番の大 きな利点といいますのは、血液型の合う親子、つまり遺伝的な親子の間の親子関係を社 会的に見れば消すということなんです。つまり親子の断絶を図った上で、実際に育てる 夫婦との間に親子関係を求めるという利点です。それは随分その当時は画期的なものだ ったんです。 つまり、日本の血統主義に対して大きな批判を与えたという意味でいいんですが、現実 に申し立て数とか、認容数がどのぐらいあるかを資料としてつけました。昭和63年に出 されたので、平成元年が一番ピークなんですが、そのときでも年間1,200 人、今はずっ と減少しております。昨年度では375 人が認容されたということです。そうすると大体 トータルとしてそこに書きましたけれども6,000 人ぐらい。今の非配偶者間人工授精の 子どもが1万人を超えているということですので、それの半分ぐらいではないか。ただ これが10年間の統計ですので、現実には多分今非配偶者間人工授精が年間200 人ぐらい というふうに言われているんですが、そこは私は正確なことは分かりませんが、それと 比べれば倍近い人数ではあるというふうに思っております。 それともう一つは、他人同士の胚を使うということが日本では行われてはおりません けれども、それに対して一体どのように考えるべきかというのも議論はいたしました。 ただ、それについては夫婦のどちらとも遺伝的な関係がないわけです。その場合には本 当にそれが実子と認めるのが妥当かどうかという議論はありました。ですから、今問題 としているのは、やはり他人から精子又は卵子を受けて生まれた子どもの親子関係をど うするかということをきちんとすべきではないか。それ以外の技術については、やはり 使わない方がいいのではないかということです。そして子どもの立場になってみますと やはり自分の親が誰かということを知る権利というものはあるんだと考えられます。特 別養子制度の場合には戸籍をたどっていけば実の親にたどり着くことは可能なんです。 ただ、親子関係は否定されております。そういう場合には子どもが、例えば非配偶者間 人工授精で生まれた子どもが自分の父親は誰なのかと探したときに、あなたはもう何も 分かりませんよとやるのはやはりおかしいのではないか。イギリスでも現在父親を知る 権利というものを法文化しようかという話が出ているというふうに私は聞いておりま す。その辺についても子どもの権利というものを考えていった場合に今のシステムでは 困るということです。 それから特に弁護士が気にしておりますのは、今、産婦人科でこのような生殖医療技 術を使って生まれた子どもの情報がそこにしか置かれていないということなんです。つ まり、その産婦人科が廃業するとか、何らかの形で移転するとかなった場合に、子ども が何かを知りたいといったときに行く場所がない。それはおかしいのではないかという ことが一つ。それから、例えば1人のドナーから子どもが何人も生まれる。同じ父親か ら生まれた子どもが結婚する可能性がある。それはおかしい。例えば何人かに制限しな くてはいけないといったときに、それぞれの医療機関がばらばらでやっている場合には それの制限が不可能になってくるということ。 それから後で岩志先生の方から、もちろん話があると思いますけれども、日本では医 師会というのが任意団体だというのが外国とは決定的に違うところだと思うのです。つ まり、医師会において会告などの自主規制のものをつくって、それに違反するというこ とで除名をしたとしても、それが社会的に見れば、それが医者としての権利といいます か、医者としての仕事をする、つまり生殖医療技術を使ってさらに行う、ほかの人に対 して施術を行うということを規制することが全くできていない。それは決定的にまずい のではないというのが私どもと弁護士会の今の意見です。そうすると何らかの形で機関 をつくって、その機関が認可をする。それは施設及び医師を認可する。医者としての資 質という意味ではなくて、生殖医療技術を使うことができるような機関及び医師につい て認可するというような制度はつくるべきではないか。そして、そこがいろいろな情報 を全部集めるべきではないかということを考えております。 時間もありませんので、一応今弁護士会の人権擁護委員会でまとめて提言しようとし ているものの骨子だけを申し上げます。 まず一つは法律の制定をすること。それは先ほど述べましたように、医師会が強制加 入団体でない国においては法律で規制するほかはないのではないか、それによって適正 な利用もより図られるのではないかということです。 それからその次は認可及び管理機関の整備ということです。これは生殖医療技術を利 用できるような医療機関と医師というのを認可制にしていく。そして調査をした上で何 かあった場合には認可の取り消しをする。そして、認可されていない医療機関及び医師 によって何かなされた場合には、それは罰則規定を設ける必要があるのではないという ふうに考えております。それからその機関が情報を一元的に管理をする。そして情報の 中には子どもの出自を知る権利を保障するような情報まで全部確保すべきではないか。 ただ、提供者の氏名まで知るべきであろうというふうな書き方をいたしましたが、それ については多くの弁護士はそうすべきだとなっておりますが、ただ、それについては結 構批判はあります。もしこのようにした場合には提供者はいなくなるということが一番 大きな批判だとは思われますが、ですから、それについては多分議論の余地はあると思 いますが、何らかの形で提供者の属性ぐらいまでは知りうるべきではないかというふう に考えております。 それから精子とか卵子、受精卵も一元的に管理をする。物理的にそこで管理をすると いう意味ではないんですけれども、情報としては全部管理をしておかなければ医療の質 が確保できないのではないか。東京の弁護士会の中にも医療部会がございまして、精子 バンクを見に行ったという人が現実にいます。心配になって帰ってきたということを言 っておりましたが、商業主義というものがあるものですから、それを排除するためには 精子、卵子、受精卵の一元的な管理、保管というのが必要になってくるのではないかと いうふうに考えております。 それから審議会を設置しなくてはいけないというのは、今の医師会のガイドラインと いうのは多分弁護士の意見なども入っているんだろうと思いますが、もっとオープンな 形で審議会でガイドラインをつくるべきではないかということと、特にこういうケース の場合には施術をしてもいいのかどうかというのが、やはりクリティカルな面で問題に なるケースがあるんだと思うんです。そのようなケースについてはケースごとに是非を 議論すべきではないかということです。そこまでが大枠です。 その次に、利用者とか提供者については条件を定めて条件を整備する必要がある。そ れについては利用者は婚姻関係にある、つまり、法律上の夫婦又は事実上婚姻関係にあ る男女に限るというふうに考えておりますが、事実上婚姻関係にある夫婦で体外受精そ の他いろいろなものをやった場合に、認知を強制的にさせなくてはいけないという問題 が発生いたします。そういった面はありますが、やはり今夫婦別姓もきちんと決まって いるわけでもありませんし、家庭のあり方を決める権利というものによって法律的な届 け出をしたくないという夫婦もないわけではありませんので、そういう意味では事実上 婚姻関係にあるということが分かるんなら、その男女に限ってもいいのではないかとい うことです。 それからカウンセリング制度とインフォームド・コンセントの義務づけが必要だろう というふうに思っております。それは特に小さなクリニックで何かを行ったという場合 に、やはり危惧するのはカウンセリングをどこまでやったのだろうか、それからインフ ォームド・コンセントをどこまでやったのだろうかという点が外から見て分からないん です。もっときちんとした形での制度をつくらなければ、患者さんは振り回されるだけ ではないかという気がしております。 それから第三者から精子、卵子の提供を受ける際には、これは厳格な条件をつけるこ と。特にカウンセリングとか、インフォームド・コンセントを必ず行うこと。と同時に 同意書を医療機関に提出して、それを管理機関が保管するということが必要ではない か。ただ、今恐らく弁護士会でつくる意見書はこのような形になると思うんですが、私 は個人的に言えば裁判所が関与すべきだというふうに思っています。つまり、特別養子 制度と同じように、第三者の精子又は卵子を使ってやる場合には、片方にとっては養子 なものですから、そのときに本当に生殖医療技術を使いたいという男女が、それにふさ わしい者かどうかを何らかの後見的な形でチェックする機関としては家庭裁判所しかあ り得ないと私は思っています。ただ、まだそこまでほかの弁護士の同意がとれているわ けではないので、公正証書による同意だけでいいのではないかというふうな意見書にな りそうです。 それから利用できる技術と利用できない技術というのを法律で決めなくてはいけない ということです。精子、卵子の提供については現実に行われておりますし、それについ ては匿名性を要件とするのが一番私は妥当だと思っておりますが、親族とか知人からも らいたいといったときに、それを拒否する理由として余りないんじゃないかと思ってい ます。ですから、その場合には審議会などで審議して、こういう場合にはOKですよと いう形でやっていった方がいいのではないかというふうに思っています。  胚の提供については禁止すべきだというふうに考えております。これは今の戸籍制度 の問題とリンクするのですが、今の戸籍制度については、特別養子についてはきちんと 特別養子だということが分かるような形になっておりますが、生殖医療技術を使った親 子関係については通常の届け出しかなされていない。それを新たに別個の届け出をさせ ようというのは無理があるんだろうと思っております。その場合には通常の法律的な届 け出をしているというときに、胚を使ってやった場合にはどちらにとっても実態は養子 なのに、法律的には両方の嫡出子であるという形になってくるのは乖離が激し過ぎるの ではないかというふうなことで、とりあえず今の時点では禁止すべきではないかという ことです。 それから代理母及び借り腹については、これは後で少し出てきますが、誰を母親と見 るかということと、もう一つは女性の身体的、精神的負担が大きいということと、やは り商業主義になる可能性がある、女性の尊厳を損なうおそれが強いということで、これ は禁止すべきであるというふうに考えております。 それから、多胎減数手術については母体保護法の改正まで必要だというふうに思って います。これについては特に今は申しません。 それから私が一番初めに申し上げた誰が親かという点については、親の定義というの が今の民法ではきちんとなされていないのです。それを改めるということです。つまり 第三者から精子の提供を受けて出生した子どもの父親については、同意した利用者とみ なすというみなし規定を置くしか方法はないと思っております。そのようにみなした場 合に、それの情報を管理するのが管理機関としてきちんとしていないとだめなんです。 それが必要だと。 それから生殖医療技術を利用する場合であってもなくても、子どもの母親というのは 分娩した女性であるというふうにすべきではないかというふうに考えております。 あと、法律でやるべきものについては、商業主義の禁止とか、あるいは無認可手術、 商業主義、秘密漏泄罪については刑事罰を科すというところまで法律として整備してい けば、とりあえずはよろしいのではないか。本来であれば、生命倫理法のような形をき っちりつくって、生命とは何かということをやるべきだと思いますが、今それをやって いるよりも、現実に発生しているものに対応していくべきではないかというのが実務家 としての意見ですので、今申し上げたような形での意見書をできるだけ今年度いっぱい 中にはまとめて対外的には出していきたいというふうに思っております。 以上簡単ですが、私の報告はこれで終わらせていただきます。 ○中谷委員長 どうもありがとうございました。  皆様から御質問、御意見などおありでしたら、どうぞどなたでも挙手をなさって御発 言いただきたいと思います。 ○高橋委員  多胎減数手術については母体保護法の改正が必要とおっしゃったと思いますが、具体 的にはどういうような議論になったのでしょうか。 ○福武氏  母体保護法ですと、人工妊娠中絶手術というのが人工的に胎児及びその付属物を母体 外に排出することということになっているんですね。ところが、減数手術に関してはそ のようなやり方ではなくて、胎児を抹消していくということです。はっきり言いまして 減数手術という言葉がどうもおかしいというような意見がかなり強いんです。胎児とい うのはものなのかというふうに思えてしまうんですが、もう少し名前を変えていただき たいというのが私の意見なんですが、とにかく、人工妊娠中絶の一種だと思うんです。 だけれども、今のまま母体保護法でやっていくとそれには該当しない。解釈上疑義があ るというふうに思われます。そうすると人工妊娠中絶で母体保護法で規定されているよ うな形の場合には、これは刑法上の堕胎罪の違法性阻却事由になりますので、それはむ しろ解釈を余り疑義があるような形で置いておくべきではないのではないか。つまり堕 胎罪の構成要件に該当するか否かということを考える場合には余り不明確な規定のまま ではよくない。その場合には人工妊娠中絶の定義を変えて、母体保護法の条件に合って いる場合には減数手術は可能であるというふうにすべきではないかと考えています。そ ういう意味なんですが。 ○中谷委員長  その点については、イギリスの90年の法律の37条をごらんになりましたか。 ○福武氏  それは拝見しました。 ○中谷委員長  あそこでは別に何も断りなしに人工妊娠中絶に該当するということになっています ね。それで、ただ、feticide(胎児殺)についてだけは期間が定められていないと。そ れ以外は24週というのが決まっているわけですけれども、イギリスではその規定でいい んだというふうに言われていますけれども、先生は母体保護との関係でどうしても法2 条2項は改正しなければならないとお考えなのですね? ○福武氏  日本で母体保護法で規定があるものですから、つまり人工妊娠中絶の定義としてもう 少し広い定義にすべきではないかというふうに思っています。つまり人工妊娠中絶の定 義を広くしておいて堕胎罪の適用を免れるような形をきちんとした方がいい。つまり、 まだ今のこの条文上では疑義は払拭できないのではないかと、そういう意味です。 ○中谷委員長  高橋委員は日母の方の関係で、その検討を今やっていらっしゃるものですから、それ で御質問があったと思うんです。ありがとうございました。  ほかにいかがでしょうか。 ○石井(ト)委員  嫡出推定するというのが日本ではかなり弱いということをおっしゃいましたが、私の 考えでは、かなり推定が強力な意見で、それがほぼ通説だとはいうことを聞いていま す。もう一点は、みなすということと推定とどう違うのでしょうか。 ○中谷委員長  法律家だとそれははっきりしているんですけれども、法律家でいらっしゃらないので ご質問を出されたのだと存じますのでご説明をお願いいたします。 ○福武氏  推定ですと、反対事実があった場合はその推定は覆されるということなんです。見做 すというのは、反対事実があったとしても、つまり自然的な親子関係がないということ が分かったとしても、もう既に親子としてみなしている場合にはそれは覆さないという 意味なんですね。ですから、今の民法では推定規定しかありませんので、それをみなし 規定にきちんとしておくべきではないかということです。それから日本の嫡出推定が強 いということでは、今年の5月に法務省民事局長が参議院の決算委員会で夫が嫡出否認 の訴えを起こさないで1年過ぎると、法的には地位が確定するというような言い方をし たというような議事録を私は拝見いたしましたが、それは父親と子どもとの関係では、 父親からは否認ができないという意味であって、ほかの人から、つまり親子関係不存在 確認というのは第三者から起こす。それまで否定はできないということなんです。 ○中谷委員長  昭和55年の7月に発行されました人事法1という鈴木録也先生と唄先生共同執筆の教 科書をごらんになりましたか。 ○福武氏  はい。 ○中谷委員長  あれだとほとんど確定なんですね。それで、人工生殖子というのは推定の及ばない子 というふうにいわれていますね。あの御意見はどうお考えですか。 ○福武氏  推定が及ばない子というのはそのとおりだと思います。今の民法で推定が及ぶこと、 推定が及ばないというのは、例えば夫が5年も刑務所にいるのに子どもが生まれたとい うのは、それは推定が及ばない子になりますので、もし夫がもともと子どもをつくる能 力がないということがはっきりしているんだったら推定は及ばないんだろうと思うんで す。 ○中谷委員長  戸籍上は何も記載がありませんから、確定しちゃうんですね。夫が子どもが生まれて 1年以内に嫡出否認をしない限りは。 ○福武氏  ただ、親子関係不存在確認の訴えというのはその後でも出せるし、現実に結構出てい るんです。それは誰が出すかというと夫が出すわけではなくて、よくあるのは夫が死亡 した後にほかの相続人の間から。 ○中谷委員長  必ず問題になりますよね。 ○福武氏  そうです。ほかの方から出てくるんですね。それで、今出された親子関係不存在確認 の訴えというのは、生殖医療技術を使ってということではなくて、昔は妹の子どもを姉 の子どもにするとか、妹が父が分からないような子を産んだので、それではみっともな いから別の人にと、そういう形でやっているのが結構多いんですね。その場合に親子関 係不存在確認の訴えというのは結構あるんです。その場合にはほとんどが血液鑑定で行 いますので、血液鑑定で親子関係がないとすれば否定はされるんです。それがあります ので、生殖医療技術を使って子どもを産んで、夫が何も文句を言わないということであ ったとしても、その後第三者、第三者といっても全く他人という意味ではなくて、利害 関係のある人から出された場合には否定される可能性というのがある。先ほど言ったよ うにフランスなどの場合には、現実に親子関係が社会的に存在していた場合には血液鑑 定自体も行わせないということになっていればいいんですが、日本は結構血統主義なも のですから、裁判所は何かいうと親子鑑定は採用するんです。その上で否定するという のが多いものですから、その可能性が非常に強いというふうに考えています。だから、 それは親子関係、父親と子どもの関係というよりも、父子関係から生ずるその他の家族 関係という意味で否定されるということになるんだと思うんです。 ○中谷委員長  私もそのように考えておりましたんですけれども、夫自身が否定しないものを、嫡出 子否認でしないものをはたの者が覆すことができるかというと、またそれはそれなりの 問題が出てきそうなんですね。 ○福武氏  民法上パターンがないにもかかわらず、親子関係不存在確認の訴えというのが現実に 存在して、それは一つの訴訟類型になっているということからみれば。 ○中谷委員長  例えばその夫が父親でないとすれば、夫の母親、母親の方が子どもよりも長生きする 場合がありますから、本来は相続権のない人が相続できる、あるいは兄弟で姉妹なども なおさらですけれども、そういう問題はあるだろうと思いますけれども、ただ、同意の 件につきましては、ドイツは同意契約をしているんです。書面で作成しているんです。 だけれども、後になってから子どもが生まれて大きくなって自分と似ても似つかない子 になってだんだん嫌になりまして、あれは本来自分の子じゃないんだということを申し まして否認したんです。ドイツは否認権が行使できるのは2年以内ですか。 ○岩志氏  ただし、起算点が日本と違って自分と血統がつながっていないことが明らかに認識し たときからですから。 ○中谷委員長  2年より遅れてもいいという。 ○岩志氏  ですから、50歳になろうが60歳になろうが、そのとき気がつけば、それから2年で す。 ○中谷委員長  その事案の判例のBundesyerichtshof(医学最高裁判所)の判決ですけれども、1983年 の4月7日の判決なんです。それによると、AIDの生殖補助による子についての同意 の契約書はあるけれども、AIDで子どもをつくって、子どもが生まれたら自分はその 子どもの親としての権利義務の一切を負うという、そういう契約書なんですけれども、 でも、それを後になって否認したわけです。その場合に裁判所は何と言ったかというと 嫡出否認の権利というのは憲法上保障された人の権利であって、そういうものを一片の 私人の契約書で覆すことはできないということで夫が勝訴したという判決なんです。日 本にはそういう事例はありませんけれども、日本であったのは去年の12月の地裁の判決 ですよね。あれはAIDの治療を受けることに同意しなかったという事例で、全然別の ケースですから。 ○吉村委員  大筋の1番から3番までのものというのは私たちにも非常に分かりやすかったし、誰 が試案を作ってもこういうような意見になるんじゃないかという感じがします。プラテ ィカルなことでちょっと聞きたいんですけれども、子の出自を知る権利に対しては我々 もAIDをやっていまして非常にナーバスになっております。今何とかしてそれを確保 できるように思っているんですが、先生方の弁護士会で子の出自を知る権利の保障をす るというのは、どこまで保障し、どういうような状況で出自を知る権利が認められるの かといったことを具体的にもう少し言っていただけませんか。例えばどういう状況があ った場合にどうするのか。日本の場合には子が出自を知る権利というか、出自が何かと いうことを疑わないケースが非常に多いわけですから。先生方はどういうようにお考え になっているのか。 ○福武氏  出自を知る権利というのは何でもかんでも他人が教えるという意味ではなくて、子ど もがおかしいと思ったときがまず発端なんです。それは顔が似ていないとか、そういう 話になってくるのかという気もいたしますけれども、何か変だ思ったときに、どこで調 査ができるかということなんです。先ほど申し上げましたとおり、今日本である、例え ば産科クリニックで行われても、そこ自身が閉鎖されたりしている、あるいは母親が何 も言わないということだと調べようがないのではないか。そうした場合には何らかの形 で管理機関があって、そこに情報が集約をされているということだったら、そこに行っ て自分についての情報を知りたい。それが変な目的ではない場合だったら、それは教え るべきであるというふうに考えているんです。ですから、変だと思うときというのは多 分十何歳以上だろうと思っておりますし、あるいは結婚するときかもしれませんし、ひ ょっとしたら父親自身が亡くなって、ほかの兄弟から、あんたは違うよと言われて遺産 相続が何だかんだとなったときかもしれませんけれども、そのときに調べに行くという ことなんです。だから、そのための情報が全部あるということなんです。つまり戸籍を 見ても、実際には特別養子と違いまして分からないわけですよ。分からないんだけれど も、血液鑑定で引っくり返されそうな感じも受けるような場合にはそこに行く。そのた めには情報の一元管理が必要だということ。  もう一つは、今のイギリスのように生殖補助医療を使って生まれた子どもであるとい うだけでいいのか、あるいはもう少し実際にどこのどういう人なのかというところまで 知るべきかということについてはかなり議論はあります。ただ、余り中途半端な形で生 殖医療技術によって生まれたということだけ分かっても、それは自己の出自を知る権利 の保障にならないのではないかというふうに思うんです。そうすると、子どもの権利か ら考えればどこの誰というところまで必要なのではないかというふうに思っています。 ただ、それで親子関係が発生するということは阻止しておくべきだということから、先 ほど言ったような、みなし規定をおいておけば、父親が2人いるということにはなりま せんので、そのぐらいは考えております。ただ、そうするとドナーが減るのではないか という感じは受けておりますが。 ○中谷委員長  そうするとスウェーデンの1985年法を理想となさるというわけですか。 ○福武氏  比較対照して全部やってはおりません。 ○中谷委員長  出自を知る権利についてはスウェーデンのそれが最初ですから。 ○福武氏  そうですね、多分そうだと思います。 ○中谷委員長  初めは法案では18歳になったときとあったんですが、法律になったときは18歳をとり まして、物心といいますか、判断力がついた時点で本人が希望した場合にはというので カルテの70年間の保存義務を医療施設に命じているわけですね。そこまで認めるのか、 それともフランスは完全匿名制ですからしょうがないですね。このスウェーデンハパラ ンダ事件最高裁判決がでた(1983年3月)直後にドイツでも同じような最高裁判決があ ったものですから、ドイツでも法制度が問題になりましたが、結局法律は制定しないで 憲法裁判所でそれを認めるような判決が4例か5例が続いて出されていて、「出自を知 る権利」は法的に認められているといえます(但し少数の反対意見はある)。 ○吉村委員  出自を知る権利のことについては大体分かりました。  また次の質問にいきたいんですが、卵子と精子の提供に関する5番目の問題点ですけ れども、先生は匿名性の方がベターであるというふうにおっしゃいました。私も個人的 にはそう考えておりますが、例えば親族や知人からの提供、この点に関しては先生の御 意見はどうなんでしょうか。 ○福武氏  私はその点についてはケース・バイ・ケースだと思っているんです。なぜ審議会のよ うな形をつくる必要があるかといいますと、それはガイドラインをつくるということ以 外に、今後は境界領域的な技術の利用というのは出てくるんだろうと思うんです。その 場合には今の医療ではいろんな大学などで倫理委員会をつくって、この場合にはこうす る、この場合にこうするとやっておりますね。それと同じような形で審議会で、こうい うケースの場合には認めてもよい、こういうケースの場合にはいろいろ問題があるので はないかということで分けてやっていくべきではないかというふうに思っています。だ から、一概に否定する必要はないけれども、誰でもいいですよというふうにはいかない ものですから、原則的には匿名だろうと思うんです。 ○中谷委員長  外国では親族、知人というのは出てこないんですけれども、日本のアンケート調査に よりますと結構多いんですよ。 ○福武氏  日本は血統主義。 ○中谷委員長  おっしゃるように血統主義なんだろうと思いますね。 ○丸山委員  ブリンスデン先生のお話ではイギリスでは多少あるということではなかったですか。 ○田中委員  一番望ましいと言っていましたけれども。 ○中谷委員長  イギリスでは特定はできないようになっていますけれども、ただ、生殖補助医療を行 ったかどうかだけが分かるという、そこまでしか認めていないわけで、あとは1人のド ナーから生まれる子どもは10人以内、フランスは絶対5人以内ということです。 ○丸山委員  親族からの提供の問題ですが。 ○中谷委員長  私は存じません。 ○丸山委員  多少あると言っておられたんじゃないですか。 ○吉村委員  少数のケースがあるというふうに。それからもう1点、商業主義を禁止すると記載す ることは非常に簡単なんですが、精子の提供であれば、ある程度私は商業主義は排除で きると思うんです。それは危険も伴わないし、比較的簡単に提供できますし、簡単にと いうのは物理的にですね。ところが、卵子の提供になりますと、アメリカは最低2,500 ドル、高いところだと今5,000 ドルになっています。この前インターネットで女子モデ ルの1,200 万円の卵子というのがありました。卵子の提供は、少なからず第三者の女性 に対して医学的なストレスを加えるわけですから、商業主義を完全に排除してできるか ということです。もしやるとしたならば、これは不可能だと思うんです。だから、商業 主義を排除すると決めるのは非常に簡単なんだけれども、どうやって排除していくよう にお考えですか。 ○福武氏  卵子の提供については精子とは同視ができないとは思っているんです。つまり精子だ ったら精子バンクができますが、卵子の卵子バンクというのは、凍結ができるという話 にもなっているそうですけれども、むしろ卵子の場合には親族からとか、そういった話 が一番大きく出てくるのではないかと思っています。誰か他人に幾ら払ってという話に なってくると問題が出てきますけれども、知人だとか、親族だとか、そういう形からの 卵子提供だったら、それまで否定はできないのではないかということと絡んでいるんで す。 つまり商業主義で、例えばびた一文渡してはいけませんということ、それはあり得ない んだろうと思うんです。それは精子提供についても、実費か交通費か知りませんけれど も、渡しているのでしょうし、卵子についてはかなりの期間拘束はされる。身体的には すごい大変だろうと思いますので、それに対する通常の労働に見合うような形のものは 渡さざるを得ないんだろうと思うんですが、その辺については商業主義とここで書きま したが、例えば実費程度は認めるかとか、幾らまでいいかということまで書けなかった ものですから。 ○吉村委員  実費程度というと非常に難しい。どこまでを実費とするか。そうなると兄弟、同胞か ら卵子を提供された方がいいだろうという考えに安易になっていくと思うんですけれど も、これはまた非常に大きな問題点を含くんでいると思うんです。ただ、卵子をもらっ た方は余り感じないと思うんです。ところが、与えた方というのは、30年、40年にわた って何らかのカウンセリングも必要になってきます。となると同胞ということは非常に 難しいのではないかというふうに考えるのですが。 ○中谷委員長  産婦人科の先生方は(5)の3の代理母と借り腹を禁止するということ、例外を認める必 要はないとお考えですか。矢内原先生と吉村先生に伺いますが。 ○吉村委員  僕は個人的にはこれは禁止するがいいと思います。 ○中谷委員長  矢内原先生いかがですか。 ○矢内原委員  今、血統主義ということを考えると、借り腹というのは一番確かな血統主義なんで す。実際にアンケートをとってみますと代理母と借り腹、両方比較すると借り腹の賛成 の方が多いんですね。実際に母親が子どもたち夫婦の子どもを産んでやるというのは美 談じゃないかという話が、最初にそういうことができたときにみんなの中で出たぐらい 案外受け入れられる。確かにここに書かれているように、それには我々産婦人科医とし てはお産というのは命をかけているんだというふうに思っていますから大変リスキーで あるので、ただ、厳格にここに言うように絶対禁止ということになると、また地下に潜 ってよほど禁止の条項をきちんとしない限り出てくるというように思います。代理母に 関しては女性側も反対が多いので、代理母に関しては多分そう行われることはないので すけれども、借り腹は非常に心配なので、もし厳禁、だめだということにするときに は、法律的なもので縛らない限り一番起こりうることではないかという認識はしており ます。  そこで、それに関連した質問なんですけれども、結局そうなるといろいろな法律の縛 りだとか、認可制を必要とするということになりますけれども、実際に施設の認可制の 主体は一体どこが持ったらいいとお考えですか。 ○福武氏  一応考えていたのは、今度変わるのでしょうけれども厚生省、政府の外局のような形 です。 ○矢内原委員  そうするとドイツで言っているような医師会とか、そういう行政権のある委託された ところですか。 ○福武氏  ドイツとか、ほかの国のように強制加入団体だとか、そこから例えば除名される、あ るいは何らかの形で業務停止をくらった場合に、仕事ができないということぐらいの医 師会だったら私はいいと思うんですよ。では日本では現実にそうなっていない。それが 今回の根津さんのような事件を起こしても、それで除名されても、やはり自分はやりま すよと言えばやっていけるということの一番根源だろうと思うんです。こういったガイ ドラインをつくるとか、あるいは法律で禁止するとかいうのをどちらを重視するかとい うのは、それまでの社会の違いだろうと思うんです。ですから、フランスだとか、ある いはイギリス、ドイツのように、医師会がそれなりの強制加入団体でガイドラインを守 らないと自分の職業的なものがなくなるというところでしたら、そこが何らかの認可機 関になっても意味があるんだろうと思うんです。ところが、日本はそうではないと私は 思っているんです。 ○矢内原委員  日本はどういうふうにしたらよろしいとお考えですか。 ○福武氏  それは、例えば医師会だとか、あるいは産科婦人科学会を強制加入にしろというのは それは難しいんだろうと思うんです。そうすると別個のところで何らかの認可機関をつ くって、そこが管理をしていくということしかあり得ないのではないかというふうに思 っているわけです。 ○中谷委員長  アメリカではそういう機関がありますか。 ○福武氏  アメリカは野放しみたいな形です。 ○中谷委員長  州によってまちまちですよね。 ○田中委員  今、先生が言われた問題は、まさしく現在問題になっている点を鋭くえぐっている点 だと思います。根津先生もあの問題は急にああいうふうに思い立って言われたのではな くて、多分長い間考えたり、日産婦に打診したりしていたのではないかと思います。そ のときに取り上げて審議をちゃんとしていたのなら、あのような発表にはならなかった のではないでしょうか。一番の問題は、矢内原先生がおっしゃいましたけれども、どこ が、誰が責任を持って審議を行うかであると思います。我々は日本産婦人科学会に属し ていますから、日本産婦人科学会の理事会で決まったことに従わないと除名という厳し いペナルティがあります。ですから、あえて除名されてまでやる気はありませんが。と いって十分に理事会の先生が理解して審議していただけるのかという疑問もあります。 ですから、誰もが信用できる審議会が対応していただけるのであれば、僕は根津先生み たいなことが起きなかったと思います。あるところは大学の決定と専門の学会の決定が 違うことがありますが、どっちに従っていいか分からない。そういことのないように、 厚生省でも裁判所でもかまいません、一元的に組織決定が決められるような審議会の設 置を熱望いたします。これから先も多くの問題が提起されるはずです。その度に十分な 審議が公にできるようになればありがたいのですが。  以上です。 ○矢内原委員  今の田中委員のコメントで、この前まで理事会側におりましたので、ちょっと訂正を させていただきます。根津先生の問題は、個人的な名前は申し上げてはいけないんです けれども、前もって何回も学会に、又は1回でもいいんです。こういうことのケースが あるから卵子の提供がしたいんだという申し出があったら、これは審議事項に入ったと 思うんです。それはないんです。なくて行ったというところが大きな問題でありまして それがあれば問題は別で理事会とか、あそこが責められてもしょうがなかったことだと 思うんです。これは記録に残りますもので、私の知る限りではそういうことはございま せん。ですから、ナガタ先生のところみたいに、着床前診断みたいにああいうふうにく る。ところが、ああいうふうに申し出があるとかえって厳しく審査されるという可能性 はすごくあったので、根津先生はそこを躊躇されたというところがあるかも分かりませ ん。 ○吉村委員  田中先生もちゃんと倫理委員会に出されておりますから。 ○中谷委員長  まだまだ御議論が続きそうでございますが、福武公子先生には本当にありがとうござ いました。大変な御研究の御成果、大変分かりやすく御説明いただきましたことに対し て一同に代わりまして御礼申し上げます。ありがとうございました。  それでは、引き続きまして、岩志和一郎先生から30分程度御意見を伺いたいと思いま す。御多忙中恐れいります。ドイツの制度等について、みんなわりに分からないもので すから、ぜひ先生にお伺いしたいと思いましておいでいただきました。どうぞよろしく お願いいたします。30分程度で御報告いただければありがたいと思います。 ○岩志氏  今日は、中谷先生の方から生殖補助技術に対するドイツの対応ということで少し話し てくれというお話をいただきまして、それで参りました。  幾つか資料を持ってまいりましたけれども、一番最初は今日話すレジュメです。その 次に、中谷先生の方で一番新しいガイドラインを御準備いただきました。次に「立法紹 介」というのがついておりまして、「胚保護法」というのがございます。これは齋藤純 子さんという方がおまとめになったものですが、これが胚保護法までの歩みを見るには 一番よい資料と思いましたので、これを添付いたしました。  それからリューベックの88回、85年の医師会決議とその医師会決議で議決されまし た。今日、中谷先生の方で訳されたものの元になっている一番最初のガイドラインがご ざいます。  そのガイドラインの後ろの12ページのところには、やはり医師会のガイドラインで、 「初期のヒトの胎芽に関する研究のための指針」というものも訳されていますので、一 緒につけてございます。  それからあと、話の中で政府の報告としてベンダ報告書というものが時々出てくるか と思います。ベンダ報告書の内容は、これは私が10年以上前にある研究会で使った資料 としてまとめたもので、ちょっと読みづらいと思いますが、表にしたものがございま す。  それでは、内容に入らせていただきます。  まず最初に、「はじめに」ということでございますが、ヒトの受精卵の発生及び取り 扱いを規制する法律として1990年の12月13日に「胚の保護に関する法律」が制定され、 1991年1月1日より施行されております。この胚保護法に幾つかの関係法律規定と医学 界の基準が加わって現在のドイツの生殖技術利用に関する規定の全体が形成されている わけでありますが、その規制は御承知の方も多いと思いますが、他の国々と比べまして 最も厳格な内容を持つものとして位置づけられております。ある規制を法律的な意味で 厳格であるというときには、これは二つの意味で使うことができるであろうと思いま す。  一つは、その規制によって設定される要件が厳しくて、対象となる行動の許容範囲が 狭いという意味においてであります。いま一つは、その規制に違反したときのサンクシ ョン(制裁)が厳しいという意味においてであります。ドイツの規制の場合には、この 両方が当てはまるように思います。今回はこの厳格さというものの二つの意味に注目し て、ドイツの方がどういう点が厳格であるのか、また、そのような厳格さを導いた理由 は何なのか、また、その厳格さに対するドイツにおける反応、これがどうなのかという 視点から若干ドイツに対して分析をしようというものであります。  ただ、規制の内容に入ります前に、少し複雑でありますので、規制の経緯と現状につ いて簡単に触れておきたいと存じます。ドイツにおいて生殖技術の利用をめぐる議論が 本格化してまいりましたのは1980年代の半ばごろからであります。まず議論のイニシア チブをとりましたのは医学界でありまして。1985年の5月に、先ほどちょっと触れまし た第88回のリューベックにおいて開催されましたドイツ医師大会におきまして、体外受 精が法律上の婚姻関係にある夫婦の不妊治療として承認されました。そして、その中で 連邦医師会の「ヒトの不妊治療としての体外受精と胚の移植の実施に関する基準」が医 師の職務法の一つとして採用されたわけであります。その基準は1985年以来数度の改正 を経まして、今日諸先生の前に、中谷先生の方から配られました「生殖補助の実施に関 する基準」として継続しております。  連邦医師会はこの基準のほかに、1985年の10月に、不妊治療の方法の改善、先天的な 疾病の識別や予防、あるいは受胎及び受胎障害の機序の解明などを目的としまして、受 精後14日以内の胚の研究を認める「ヒトの早期の胚に関する基準」というものを発表い たしました。しかし、これは医師会の内部でも全体的な合意が得られませんで、先ほど 言いました体外受精に関する基準とは全く逆に、発表されただけで何らか効力を持つこ となく、ただ、実質的には規定がない状態では一つの目安として存在するというだけの 意味をもって存在することになりました。その基準につきましても、先ほどの大島先生 の訳で綴じてございます。  一方、政府サイドでも80年代の早くから議論が始まりまして、連邦法務省と研究技術 省が共同で、元の連邦憲法裁判所の長官でありましたE・ベンダという方を委員長とす る検討委員会を設置しました。設置は1984年でありますけれども、これが1985年11月に 「体外受精、ゲノム解析及び遺伝子治療」と題する報告書、通称ベンダ報告を発表いた しまして、この報告書は、体外受精の目的の制限、代理母の原則的禁止、余剰胚の研究 転用の一部許容などの内容を打ち出しました。これがその後の連邦政府の活動の起点と なったわけであります。  このベンダ報告を受けまして、1986年には受精卵及び生殖技術の濫用に対処するため に連邦法務省が胚保護法の立法準備に入りました。さらにそれと並行いたしまして、連 邦と州、ドイツは連邦制でありますので、いわゆる法の管轄、生殖技術に関する規制が 州が管轄するのか、連邦が管轄するのか、そこが実は不明確でありましたので、連邦と 諸州が共同で作業グループ、共同委員会というものをつくり、そこで生殖医療の問題全 般について検討することになりました。この共同委員会の方が早く報告書を提出いたし ました。1988年であります。この共同委員会の「生殖医療」という名の報告書は、卵子 提供、胚提供、代理母、あるいはAIDを含む人工授精のすべてをカバーする大規模な ものでありまして、内容的には卵子提供及び胚提供の禁止とか、代理母の禁止、胚の研 究の禁止など50項目以上にわたる勧告を行いました。  そのような過程を経て、連邦政府の方が行っておりました胚保護法の立法、これが実 現しましたのが先ほど申しましたように1990年であります。 ○中谷委員長  胚保護法は施行は1991年ですよね。これは90年になっていますが、誤記ですね。 ○岩志氏  すみません。91年1月1日が施行です。  また胚保護法の成立前に、1989年の1月27日に養子縁組斡旋法が改正されまして、そ の養子縁組斡旋法の中に代理母斡旋に関する規定が置かれました。これは代理母の斡旋 を刑罰をもって全面的に禁止するという規定であります。そしてその後、私のレジュメ の方の1994年の10月というところにボン基本法の改正というのがございますけれども、 ドイツの実質上の憲法でありますボン基本法が改正されまして、臓器移植及び生殖医療 に関する事項については連邦に管轄権がある、ということになりました。そして1997年 12月16日に、民法の親子法規定がほぼ全面的に改正になりました。 これは親子関係法改正法と言いますけれども、その中に、実は三つの人工生殖に関す る問題がその中で提起されました。第一は、母を確定するかどうか。それについては規 定が置かれました。母は子を産んだ女子を母とする規定が民法典の中に置かれたわけで す。それから第二がAIDで生まれた子どもの地位、父をどうするかという規定を置く かどうか。連邦参議院では、これは置くべきだという議論が最後まで強かったわけであ りますけれども、最終的にはこれは置かないということになりました。それは一つは民 法典の中に唐突にそれを置いてもおかしいということであります。それからもう一つは 判例によってある程度、後で述べますけれども、父子関係等については一つの道筋がつ けられている。それを立法において承認するか否定するかということが少し難しいとい うことです。それからもう一つは、学会においてかなり議論が分かれているということ この三つの理由でそれは置かないということになりました。  最後に第三は、先ほどのお話にもありましたように、子の出自を知る権利を民法典の 中に入れるかどうか。これも最後まで連邦参議院は固執いたしましたけれども、結局入 れない。連邦参議院が固執したその内容といいますのは、その子は父を知ることができ る。ただし、そこには生物学的を父を知ることができるだけであって法律的な関係はつ くらない。こういう規定でありました。しかし、そういう抽象的なものを置いても、あ る意味では権利としてなかなか実現が難しく、少し民法にはそぐわない。その権利の内 容がいま一つ明確にならないということで、民法の家族法規定の中には置かないという ことになりました。したがって、最終的に置かれましたのは母子関係に関する規定だけ であります。ただし、これら三点は議会の場面でかなり最後まで議論があった重要な問 題であったということで、注目に値することだと思います。  それでは、少し具体的に現在の規制の内容を見ていきたいというふうに思います。先 ほど厳しいという話をいたしましたけれども、厳しいということは一つは限定の問題だ ろうというふうに申し上げました。限定の問題につきましては、そこにありますように 目的の限定、それから実施を受ける者の限定、それから実施をする者の限定、この三つ を検討してみました。もう一つ、これはサンクションの厳しさの問題ですけれども、こ れにつきましては刑法的規制がしかれていますので、その点についてお話をすることに したいというふうに思います。  まず最初に目的の限定ですが、第一に妊娠を目的としない胚の発生は禁止される。胚 保護法は、包括的に先ほどの連邦・州の共同作業グループなどで非常に広い議論がなさ れているにもかかわらず、胚の濫用についてのみ規定をしました。これは人の行動の自 由の制限がある意味では非常に難しい。にもかかわらず、人間の尊厳に反する場合は必 然的に制限をしなければならない。したがって、最低限人間の尊厳に反すると思われる ような範囲について、まずは規制をようということでつくられたわけであります。その 第一の問題がこの妊娠を目的としない胚の発生の禁止であります。最初から研究その他 の理由を目的とし、妊娠を目的としないヒトの卵細胞の受精、体外での培養、受精卵の 摘出などは胚保護法によって一切禁じられております。胚保護法では妊娠をもたらす以 外の目的で卵細胞を受精させる者(1条1項2号)、ヒトの卵細胞にヒトの精子細胞が 侵入する事態を人工的に生じさせる者及びヒトの卵細胞にヒトの精子細胞を人工的に移 入する者(1条2項)、ヒトの胚を体外で発育させる者(2条2項)は刑に処される。 また胚を生命の維持に役立たない目的で子宮への着床完了前に、洗い出しなどで取り出 す者も、これは同様に刑に処される(1条1項6号)。このようなヒトの胚の発生に関 する胚保護法の厳格な目的設定の背景には、ナチス時代の人体実験や優生政策への強い 反省というドイツ固有の要素を見逃すことはできません。もちろん胚保護法の立法過程 を見る限り、この反省が殊更強調されたり、明示的に言及されてきたというわけではあ りません。しかし議論の過程において、戦後ドイツの価値秩序を定めたボン基本法の中 に定められている人間の尊厳の不可侵(基本法1条1項)と生命の尊重(基本法2条2 項1文)という基本的価値とのすり合わせが丹念に行われてまいりました。  人間の尊厳が基本法の最高価値であり、その不可侵を明示する条項が常にナチス時代 を意識し、その行いを繰り返さないための防壁と目されてきたことは憲法制定会議の経 緯から見て明らかなことであると言われております。この人間の尊厳と生命保護との要 請がどのような形で結びつくかについては様々なとらえ方が存在しますけれども、とり わけ、1980年代の人工的生殖補助技術の規制をめぐる議論の中で主流となってきたのは その中でも最も慎重な憲法解釈でありました。1990年に制定された胚保護法は、このよ うな最も慎重な憲法解釈を前提としているのであります。その考え方は、何人といえど も、自己あるいは第三者の利益のために利用することを目的として、ヒトを発生させる ことはまさに典型的な形でヒトの生命を他者の利益の客体として使用することになり、 それゆえ生命尊重及び人間の尊厳という憲法要請に違反するという考え方であります。 受精卵と生命尊重及び人間の尊厳の関係につきましては、既に連邦憲法裁判所が人工 妊娠中絶の刑法規定に関する1975年の2月25日の判決におきまして、子宮着床後(これ は受精後14日後) の受精卵は個体としてヒトの生命であり、「生命が存在する場合には その生命には人間の尊厳が認められる」として、両者が結合することを判示しておりま す。人間の尊厳と生命保護との同視という考え方であります。もちろんこの判断は、母 体内にある受精卵に関するものでありますが、体外にある14日以内の受精卵については 何ら触れるところはありません。このため、このような早期の受精卵の生命としての評 価をめぐっては議論が対立してまいりました。胚保護法の立法者は、ヒトの生命は受精 過程の終了、すなわち受精した卵細胞内における細胞核融合によって発生するという立 場を採用いたしました。胚保護法はその8条1項で、胚とは受精し、成長能力を有する 核融合以後のヒトの卵細胞をいうと定義いたしました。これは生まれてくるヒトの全遺 伝因子が完全に決定される核融合の時点にヒトの生命が発生し、それ故、その生命には 人間の尊厳の保護が及ぶと解するからであります。  このような考え方からは、精子侵入後であっても、核融合前の卵細胞はヒトの生命と はいえないということになります。「しかし胚保護法は1条の2項で、妊娠を目的とせ ずに、ヒトの卵細胞にヒトの精子細胞が侵入する事態を人工的に生じさせるもの及びヒ トの卵細胞にヒトの精子細胞を人工的に移入するものは」刑に処すると規定しておりま す。これは受精過程の終了前の卵細胞を冷凍保存すること、これは認められていますの で、これを後日解凍して研究に転用するというようなことがある可能性を考えました。 したがって、これは妊娠を目的としない場合にはそういうことはしてはいけないという ことを禁止するものであります。このような生命と人間の尊厳の理解のもとに、胚保護 法では、さらに妊娠をもたらす目的で発生されたが、子宮内に戻されることのなかった 胚、これは余剰胚というものですが、その胚を実験や研究に転用することも認められて おりません。体内外を問わず、この発生された胚をその維持に役立たない目的のために 譲渡、取得、または使用した者(2条1項)、妊娠をもたらす以外の目的で体外で成長 させ続けた者(2条2項)は刑に処されることになっております。  胚保護法では、1月経周期内に移植できる胚の数は3個以内とされており、受精もそ の数を超えてはならないとされているため、余剰胚が発生する可能性はもともと少ない ものであります。医師会のガイドラインはさらに多胎回避のため、35歳以下の女性につ いては受精移植とも2個に限ることが望ましいというふうにしております。これは中谷 先生のお訳しになった医師会基準の4の1というところではそういうことになっており ます。ですから、余剰胚はなお発生する可能性は少ないということになろうと思いま す。このような厳格な禁止に対しましては、基本法に保障されている学問研究の自由に 照らして、医学や生命科学の発達から取り残されるという批判が寄せられております。 しかし、最も早期の段階にあるものであっても、ヒトの生命を他者の利益の客体にする ことは人間の尊厳に反する。したがって、その違反は極めて高度の研究をもってしても 埋め合わせることができないというのが立法者の考えであります。  次に、実施を受ける者の限定であります。まず最初に卵子提供、胚提供の禁止という ことでありますが、卵子の受精や胚の移植は妊娠を目的としなければならない。これは 先ほど述べました。その目的たる妊娠は、卵細胞の由来する女子についてもたらされる ものでなくてはなりません。未受精卵を別の女子に移植すること(1条1項1号)、別 の女子に移植する目的で体外で顕微受精を含めて行うこと(1条1項2号)、別の女子 に移植するために、着床前に子宮から胚を取り出すこと(1条1項6号)は禁じられま す。卵子提供あるいは胚提供によって遺伝学上の母と分娩上の母とが分裂することは法 律上の母子関係の決定に困難をもたらし、子の福祉のために好ましくないというのがそ の理由であり、生まれてくる子の福祉の確保は子を持つことを望む現に存在する者の基 本法2条1項に保障される人格の自由な発展に対する権利、性的自己決定権、あるいは 子を持つ自由を根拠とする生殖補助技術の利用の自由よりも優先する、胚保護法の立法 者は判断したということであります。  しかし、このような禁止に対して、非配偶者間人工授精という方法で従来から行われ ている精子提供によって生じうる父子関係の分裂が問題とされていないこととの矛盾が 指摘されております。また胚保護法の禁止に違反して子が生まれてくる場合に備えたと はいえ、先ほど言いましたように1997年の民法改正によって、母とは子を分娩した女子 をいうという規定が置かれました。立法の動機はともかく、結果的にはこれによって法 律上の母子関係が混乱する可能性はなくなったわけであります。そのことから、法的身 分関係の不安定を理由とする胚保護法の卵子提供や胚提供の禁止が論理的は力を失った とも言われております。  次に、非配偶者間での精子提供についてお話をいたします。生殖技術の利用を法律上 の夫婦に限定する規定は胚保護法には存在いたしません。ドイツでは非配偶者間人工授 精は既に長い歴史を持っており、1970年のドイツ医師大会の決議において、好ましいも のではないが認めるという言い方でその実施が承認されております。これに対して体外 受精や卵管内配偶子移植などAID以外の生殖補助については医師会の基準により、原 則として法律上の夫の夫婦の精子しか使用してはならず、第三者の精子を使用するとき には医師会に設置された委員会の承認が必要であるとされております。この第三者の精 子を使用する条件というものにつきましては、これは中谷先生の訳されたのでは10ペー ジ目あたりでしょうか、ここに四つ、五つばかり使用する際の要件が設定されておりま す。この場合、原則として夫とされておりますけれども、これは婚姻関係にない男女で も安定的な共同生活関係にある場合には医師会に設置された委員会の事前の審議と承認 を得て実施することができるというふうにされております。  ドイツでは、先ほどの1997年の親子法改正で嫡出子と非嫡出子という区別がなくなり ましたので、非嫡出子に比べて公的に不利益を被るという理由は、論理的に意味がなく なっております。今回の中谷先生の方の解説ではそのことが触れられていると思いま す。ただ、なぜ婚姻中の夫に限っているかというと、これは父の推定の規定、婚姻して いる場合は夫を父というふうに第一次的に考えておりますので、したがって、父の決定 の仕方が婚姻している場合には夫というふうにすぐ特定できる。これに対して、そうで ない場合は認知か、あるいは訴訟上の確定が必要ということになり、若干違うので、と いうのが、新しいガイドラインで完全に非婚姻共同体でもいいというふうにフリーには しなかった理由だというふうに考えております。  ドイツの親子法には精子提供によって生まれた子の父子関係に関する特別の規定は、 先ほども申しましたように存在しません。判例によれば、妻がAIDによって産んだ子 については夫はAIDに対する同意の有無にかかわらず、その子との父子関係を否認で きるとされております。ただ、その場合、否認しても同意を与えていれば、これは同意 によって扶養の契約を結んでいるので、第一次的にその契約に基づいて扶養義務を負 う。もしその夫が扶養できないときには、これは解釈ではその精子提供者に対して認知 を求めて、そして最終的にはそこに扶養請求できると、学説ではそういうことまでいう ものもあります。これは先ほど日本はかなり血縁主義だと言いましたけれども、ドイツ は父子関係につきましては徹底した血縁主義をとりますので、これは幾つになっても、 その子が自分の子でないということが分かったときから2年であれば父子関係を引っく り返せることになっています。  さらに、連邦憲法裁判所の判例によれば、子には自己の血統を知る権利が基本権とし て認められ、子が精子提供者の指名を知ることを希望したときには、医師は守秘義務を もってしても、それを拒絶することはできないというふうに解釈されております。ただ 母のプライバシーとぶつかる場合には子の開示請求は制限されることがある。他の人の 権利を害してはならないということです。医師会基準のとる精子提供の禁止は、このよ うな解釈の不安定から生ずる困難を避けるためでありますけれども、基準外にあるAI Dは無条件に許容されている。その意味では日本の状況と非常によく似たところがある んですが、体外受精の場合にこれは禁止して、AIDは基準がないというのではアンバ ランスは否めないところがございます。  次に代理母ですが、自己の子を出生後第三者に永続的に引き渡すことを意図している 女子、これを代理母と定義しております。その女子に人工的な受精を行う者、あるいは 胚を移植する者は胚保護法によって刑に処されます。1条1項7号であります。ただし これは依頼者、代理母は処罰されません。刑に処されるのは受精を行った者、あるいは 移植した者、基本的にお医者さんです。これら規定により人工授精型から借り腹型まで すべての形態の代理懐胎は許容されません。代理母の合意は必ずしも遵守されるとは限 らず、子がその引き渡しをめぐる当事者間の紛争に巻き込まれる可能性があるという、 子の福祉に対する現実的危険が禁止の理由とされておりますが、同時に、妊婦の母体内 にある子との緊密な個人的関係の意味が重視され、それが無視されることで子の人間の 尊厳自体がないがしろにされるという判断も大きな理由となっております。この点はベ ンダ報告以来の考え方であります。  続きまして、実施者の限定であります。胚保護法によれば人工的受精、これはいわゆ る人工授精を含むものでありますが、胚移植、胚又は精子の侵入した卵細胞の保存、こ れは医師のみが行うことができる。胚保護法9条です。医師以外の者がこれを行った場 合には刑に処されることになります。11条であります。このような限定を明示する規定 は当初の政府草案にはなく、参議院の意見を入れて置かれたものであります。適切な生 殖医療の処置を施す前提として不妊原因に対する広範な診断力の知識が必要である上、 実施を受ける夫婦に対して考えられる選択的治療法、効果及び危険に関する丹念な説明 インフォームド・コンセントがなされなければならず、それを行うのは医師以外にな い。それらは医師の行為にほかならないというのがその理由であります。胚保護法は明 示しておりませんが、医師会基準ではその生殖技術の利用を他の治療方法では効果がな い、又は効果が上がる見込みがない一定形態の不妊治療として位置づけております。そ のため、医師会基準では、子宮内移植を伴う試験管内受精、卵管内生殖子移植(GIF T)卵管内胚移植を伴う試験管内受精(EIFT)、それから細胞質内精子細胞注入 (顕微授精)といった方法ごとにその医学的適用と禁忌をきちんと定めております。生 殖技術の実施は治療行為でありますが、医師はその処置に協力することを義務づけられ ません。10条であります。生殖医療の処置は、一般の治療法行為とは違って、不妊の原 因を治癒するものではなくて、その原因の上を単に橋をかけて渡るものに過ぎず、国民 の一部には反対の声も強い。そのような行為に協力を強制することは基本法の4条1項 に保障される両親自由、これは医師の場合でも同様であると判断されて、それに反する と考えるからであります。   以上が限定の問題でありますけれども、次に、サンクションの問題になります。  胚保護法は刑法の付属法、ネーベンゲゼッツであります。刑法的規制で臨むことにつ いては技術利用の限界を明確にすべきであるという立場から賛成の声がある一方、技術 の濫用には自然科学や医学の側からの自主規制で十分対処できる。刑法的に規制される ことによって自然科学の発展に柔軟に対応できず、人類の福祉に役立つ知識の獲得に障 害が生ずる、あるいは基本法に保障されている学問研究の自由が不相当に制限されるな どとして反対する声も強かったのであります。このように意見が幾重にも対立した中で 立法者は、自然科学者や医師が人の生命にとって必要な責任を自覚していると認めるこ とができるとしても、そのことが自ら法的許容の限界を確定する立法者の責務を免ずる ものではないとして規制に踏み切ったわけであります。その際、立法者は、刑法的規制 の重要性に鑑み、規制の範囲を、先ほども申しましたように人間の尊厳や生命尊重とい う憲法上の価値、あるいは子の福祉の確保といった特に高位の法益の保護のために不可 欠な事項に限定いたしました。しかし、範囲を限定したとはいえ、既に挙げました胚の 発生や胚の移植、胚の利用や譲渡、人工授精に際して性選択を行うこと(3条)、生殖 系細胞の遺伝情報の改変(5条)、クローニング(6条)、キメラ及びハイブリッドの 作成(7条)など禁止行為の種類はかなり多く、刑事罰の最高も5年の自由刑でありま す。サンクションは決して軽いとはいえません。  なお、胚保護法は、その禁止する処置を実施した者、これは原則として医師でありま すが、医師のみを罰する法律であります。卵子や精子の提供者、胚の移植を受けた者、 人工授精を受けた者、代理母などそれら諸処置の実施を受けた者は、たとえ、その者た ちが実施を依頼した場合であっても処罰されません。それらの者は愛他的な理由から実 施を受け、あるいはそれに協力する場合が稀ではなくて、その場合には刑事罰が相当と は言えない、あるいは公益保護のためには、医師や生物学者として、あるいは治療補助 の職にある者として生殖医学の新しい技術を使用し、それら技術の濫用のマイナス結果 を自らの能力の範囲で認識できる者だけに刑法的に責任を負わせれば十分だ、という考 え方などがその理由であります。  以上、種々述べて参りましたが、規制は自由の制限を意味しているわけであります。 生殖技術の利用の場面において主張される自由は、一つは子を持つ自由であり、いま一 つは学問研究の自由であります。学問研究の自由は一つ置くといたしまして、子を持つ 自由は憲法に規定された人格の自由の発展に関する権利の一内容として位置づけられる のであり、それを制限しうる原理は人間の尊厳の不可侵と他者利益の不可侵ということ だけであります。  ドイツでは再三繰り返してまいりましたように、生命保護と人間の尊厳を連動させる ことで、子を持つ自由よりも生命保護を優先させてきたのであります。しかし、このよ うな考え方に対しましては、一部の憲法学者から強い疑念が呈せられており、かつ、そ れが徐々に勢力を持ちつつあるのであります。すなわち、人間の尊厳に反しても生命を 侵害しないことがある。と同時に、逆に生命保護があっても、人間の尊厳に反する場合 もある。それ故、両者は決して一体ではなく、切り離して考えるべきであるとする考え 方であります。例えば余剰胚の実験転用を検討する場合に、胚を壊死させることが本当 に人間の尊厳に合致するのかどうか。生命を消滅させることが人間の尊厳に合致するの かどうかが問われなければならないというのであります。  また他者の利益の不可侵というときにも、精子提供や卵子提供あるいは代理母さえも 任意でこれを行い、強制して行うわけではない以上、人間の独立と平等、それに伴う自 由というものの淵源とされている人間の尊厳に反するところはないという考え方が広が ってきております。また子の利益をいう場合にも、子が生まれてくること自体が人間の 尊厳に反すると評価してしまうような理論は許容できないとする考え方もあります。こ れらの考え方、最近の議論の趨勢に考えてみれば、ドイツの厳格な法状況に対する評価 は、ドイツの中でも決して肯定的なものであるとは言えません。しかし同時に、現在の 法状態が人間の尊厳の不可侵という憲法秩序の最高価値の上に築かれている以上、これ を変更するには根本的な価値観の転換から始めなければならないという大きな困難が存 在するわけであります。個人の自由も生命尊重の観念も、抽象的には多くの法秩序にお いて共通の意味を持っております。個別の問題における具体的なあらわれ方は、当該問 題に関する各社会の価値観によって異なってくるわけであります。特に生殖技術のよう な先端技術の利用については各社会の価値観は多様であり、それ故、規制のあり方の幅 も広いと思いますが、その幅を一方において緩やかなもの、一方において一番厳格なも のというもので区切ってみたときに、その一方の極端にあることが確かであるドイツの 規制のあり方というのをみることは一つの有益な資料になるだろうといふうに考えま す。  以上であります。 ○中谷委員長  どうもありがとうございました。大変詳細な御報告で、法律学を専攻している者にと っては施行過程が非常によく分かりました。大変興味深く伺わせていただきました。  時間が少し押せ押せになっておりますので、どうぞ御遠慮なく御質問をどうぞ。 ○加藤委員  この刑罰を受けた人がいるんですか。 ○岩志氏  それは私はちょっと分かりません。 ○丸山委員  同じような質問なんですけれども、幾つになっても、分かって2年内なら親子関係を 否認することができるということに関して、実例はございますか。 ○岩志氏  これは法律の規定がそうですので。 ○丸山委員  実際の。 ○岩志氏  AIDでですか、この人工生殖の問題としてですか。 ○丸山委員  AID。 ○岩志氏  AIDの問題としては判例は幾つか出ておりますけれども、これはまだ子どもが小さ いものばかりだと思います。 ○丸山委員  先ほど例に挙げられたようなものはないですか。 ○岩志氏  これは民法の一般論として、その規定からいえば、要するに自己の子であるというこ とに反する事情を知ったときから2年以内であれば、父は自分の父であること、父性を 否認できる。ですから、例えば50歳になって血液型が違うということが分かったという ときに、これは52歳までの間であれば理論的には。 ○丸山委員 それで25ぐらいのお子さんが、そういうのは現実にはあったんですか。 ○岩志氏  それはないと思うんですけれども、明確には分かりません。 ○丸山委員 調べづらいとは思いますね。 ○中谷委員長 最初の事例はスウェーデンのハパランダ事件最高裁判決(1983年3月)の直後の連邦 最高裁判決(1983年4月7日)で、その後のものは連邦最高裁判例集の中に4〜5例あ ったと思いますから、これで確認できる筈です。  ベンダ報告書というのは結局何十巻でしたか。随分たくさんあったでしょう。 ○岩志氏  ベンダ報告書自体は、私、今日持ってこなかったんですけれども、この判で厚さはこ んなものです。ペラペラなものです。 ○中谷委員長  あれに関連するのが出ているでしょう。 ○岩志氏  あれはドイツのこういうところの委員会が集めていろんな、例えば医師会でやったと か、女子法律家大会でやったとか、そういうものを全部集めた集成みたいなものになっ て、あれは30巻ぐらいになります。 ○中谷委員長  34巻だったような気がしますけれども、その中で生殖医療については何巻目か忘れま したけれども、大変詳細なものですね。 もう一つ、先ほどもちょっとナチスの影響といいますか、そういうものがチラッと出 てきましたけれども、出自を知る権利について憲法裁判所の判例が幾つもありますよ ね。それに対してユルゲン・バウマンが反対しているのは御存じですか。 ○岩志氏  よく存じませんけれども。 ○中谷委員長  そういう出自を知る権利というのを追求すると、ナチスドイツみたいなに由来を探る ことになるからかえってだめなんだということを言っているんです。そういう見解はバ ウマンのほかにどなたかいますか。バウマンというのは東西ドイツが分かれていたころ に西ベルリンの法務大臣もした人です。 ○岩志氏  結構出自を知る権利に対して反対する人たちはおります。その権利自体を認めるにし ても、そこで何を求めるのか。また訴訟手続をどうするかとか、そういう細かい問題に なってくると、これがすり合わすことができない。抽象的に権利はあるといっても、そ れを請求して実現するにはいろんな問題を克服しなきゃならないので、それをどうする か。せいぜいカルテ開示とか、そういったところからしかいけないのではないか。連邦 憲法裁判所も、出自を知ることを完全に請求することは、あらゆるものを通じて知らせ ろと要求することはできないんだというふうにいっているんです。だから、もちろん他 者利益とか、そういったものとの関係で絶対的に優先する権利として認めるわけにはい かない。それはそういう権利とのぶつかり合いの中で、どっちにしても人格的な権利、 例えば母が自分の相手の男性を黙っている権利もあるわけです。知りたいという子ども の権利もある。それをぶつけたときにどっちが優先するとはいえないから、絶対に優先 する権利とはいえない。その辺をどこまで認めるか、そういう点について権利がまだ熟 成していないので、そういうものについて明示的にしてしまうと非常に困るだろう。そ れで反対する人はいるわけです。 ○中谷委員長  子どもの方に権利についてもそうですけれども、今度は提供者(ドナー)の人が子ど もが大変富裕な家、財産があるとかなんとかで、自分は本来は父親と言うことはできな いわけですよね。 ○岩志氏  血統を知る権利からの話からだと、これは知るだけであって、法的な親子関係という ものはつくらないということなんです。ただ、現実にそんなことがあって、どの程度意 味があるかというのは分かりませんけれども。 ○中谷委員長  どうもありがとうございました。  丸山委員どうぞ。 ○丸山委員  胚保護法9条に、医師だけができる行為として、胚の保存もあり、それから人工的に 受精させることというのもあったのですが、これは医師の先生にお聞きした方がいいの かもしれないんですけれども、保存をするという行為に医師の関与というのは必要なも のなんですか。 ○吉村委員  胚を凍結して保存する。 ○丸山委員  ええ。 ○吉村委員  それは必要なんじゃないですか。 ○丸山委員  それはどういう。 ○吉村委員  テクニック上、要するにプラクティカルに、例えば今のプログラムフリーザーででき ますけれども、そういうものでやっていくときも医師が入れるという。 ○丸山委員  医師が入れるということは。 ○吉村委員  一応うちでも、具体的に言えばテクニシャンがやっていますけれども。 ○丸山委員  医師資格を持つ者に限定する必要はなくて、技師レベルでも構わないというんじゃな いですか。 ○吉村委員  できるのはできると思いますけれども、責任は誰がとるかということです。 管理の問題です。 ○丸山委員  ですけれども、この9条は携わること自体が医師でないとできないという規定の仕方 ですね。監督責任を尽くせばよろしいという書き方ではないですね。 ○田中委員  厳しいですね。ほかにもありましたよね。医者がいなければできない。 ○丸山委員  エンブリオロジストというのは医師資格がない者をイメージするんですが、それもこ の規定だと受精にかかわることが許されるのは医師だけということですね。 ○矢内原委員  実際にドイツの生殖医療施設に行ったときには、エンブリオロジストがちゃんといて それがやっていました。ただ、その責任はきっとないんでしょうし、技術開発とか、そ ういうものに積極的に携わっているようです。日本と同じです。 ○丸山委員  実態は医師が監督責任を負うというぐらいなんですね。 ○岩志氏  チームをつくって医師がきちんとやるということだと思うんです。 ○吉村委員  先生がおっしゃったかもしれないんですけれども、僕は分からなかったんですが、非 配偶者間のいわゆるAIDは許されていることはもちろん知っているんですけれども、 ドイツでは精子提供による体外受精も許されて、一応やってもいいということになって いるんですか。 ○岩志氏  この規定では基本的にはだめなんですね。 ○吉村委員  一応できると、禁止ではないと。 ○岩志氏  例外です。 ○吉村委員  その場合にどうして卵子提供や、胚提供を禁止して、精子提供は例外的ではあるがい いという整合性がとれないようなことをドイツでは認められているのでしょうか。 ○岩志氏  卵子提供の場合には女性に対する侵襲度が高いので、卵子提供を許容するのはだめだ という話だったと思います。 ○高橋委員  聞き漏らしたかもしれませんけれども、ドイツの国籍を持っている夫婦がフランスに 行って受けて帰ってきたような場合はどうなるのでしょうか。 ○岩志氏  それがあるので民法で規定を置かざるを得なかった。受けた人は、さっき言いました ように処罰されないんです。フランスで受けてドイツに帰ってくれば、その人が処罰さ れるわけはないんです。ですから、そこでは親が誰かさえ決定すればいいわけなんで す。 ○高橋委員  親はしっかりと特定しなければならないことになっているのですか。 ○岩志氏  はい。そのときは、例えば卵子提供を受けて、そのお母さんがフランスで卵子提供を 受けて、例えばドイツで子どもを産んだ。その場合にお母さんは罰せられない。そこで 生まれた子どもは、胚保護法的には違反ではあるが、民法は、産んだ者が子の母だとい う明文の規定を置いたわけです。胚保護法も、それから医師会基準も結局みんな卵子提 供を禁止しているわけです。禁止しているのに、母を確定する規定を民法に置いたわけ です。それは何のために置くんだったといったら、違反して生まれる場合があるから。 ヨーロッパは地続きですので、あちこちで行ってくるんです。ほかのヨーロッパの国々 がドイツに比べれば緩やかですので、ドイツの一つの懸念は、禁止しても、そうやって 緩やかなところに行ってやるだろう。それから研究者がドイツでできないものだから、 みんな出ていくだろうということなんです。だから、緩めろというんですけれども、さ っきも言いましたように、胚保護法が人間の尊厳の確保ということで理由づけてしまい ましたので、これを今さら人間の尊厳に照らして問題がなかったというふうにいうのは ある意味では非常に難しいんだろうと思うんです。その点はドイツは厳しい状態にある のかもしれないと思います。 ○吉村委員  14日以内でもヒトとみなす。 ○岩志氏  ヒトとみなすというよりは、ヒトの生命である。とにかく受精のときからヒトの生命 が発生する。そしてヒトの生命の存在するところには人間の尊厳がある。だからヒトの 生命である受精卵に対して侵害を加えることは人間の尊厳を傷つけることになるので許 容されないということなんです。 ○石井(ト) 委員 事実婚の場合はAIDは禁止していますね。 ○岩志氏  AIDを禁止するかというよりも、事実婚の場合も、医師会の委員会の審議の許可を 得れば、それはできるんです。 ○石井(ト) 委員  と申しますのは、ドイツは意外に事実婚のカップルが多い状況をふまえ、審議会の許 可という形で設けたという背景なんでしょうか。 ○岩志氏  男女の共同体の約40%ぐらいが事実上の共同体だと言われていますので、婚姻する方 は60あるかないかだと思うんです。半分ぐらいは事実上の関係です。 ○吉村委員  どうやって事実婚であると認定するんですか。例えばどういうケースに、これは非常 に難しいと思うんです。 ○岩志氏  共同生活がある。単なる事実上の関係ではないというふうに言われていますけれども どうやって判断するかというのは私も分かりません。これはどこにも書いていないので 分からないと思うんですが、一般の家族法上の定義で非婚姻生活共同体という定義があ りますので、それに従うんだろうと思うんです。 ○中谷委員長  昨日から同棲したというのはだめだということなのでしょうね。ある程度の継続的な 関係がないと。 ○岩志氏  解消を予定しないで経済的に生活共同をしている、そういう夫婦関係なんですね。 ○中谷委員長  スウェーデンは同棲の方が多いわけですから、あれも要らなくていいということに。 ○吉村委員  同棲でこれは事実婚ですという、日本の事実婚の定義はあるんですか。 ○中谷委員長  同棲で法的に認められているのは労働法関係のがあります。 ○矢内原委員  どうやってそれを証明しているんですか。 ○中谷委員長  日本だと住民票やなんかじゃないですか。 ○矢内原委員  住民票を出さなきゃいけないんですか。 ○中谷委員長  それで確認するとかなんかだと思います。 ○矢内原委員  フランスでその話が出たときに、どうやって証明するんですかといったら、例えばガ ス代の料金を見せるとか、郵便物を見せるとか、そんなことだったですね。 ○中谷委員長  そういう話になってくると話は関心が深くなってまいりますけれども、残念ながらも うそろそろ時間でございますので、どうもありがとうございました。  今日は福武先生、岩志先生から大変貴重な御意見を伺うことができました。本当にあ りがとうございました。今後先生方の御意見も踏まえまして、当委員会でいろいろな意 見をまとめてまいりたいと思っております。もう一度最後にお2人の先生に盛大な拍手 をお送りしたいと思います。(拍手)  最後に、次回のヒアリングについて御相談したいと思います。これ以降の議論につき ましては、ヒアリング対象者の評価の議論にも入ってこようかと思いますので、非公開 にさせていただきたいと思います。傍聴の方はここで御退席いただきたいと思います。  御出席いただきましてありがとうございました。また次回もぜひ御出席くださいます ようにお願いします。 (傍聴者退席・ヒアリング対象者の検討) ○中谷委員長  それでは次回のヒアリングは諏訪マタニティークリニックの根津医師、代理母の海外 の斡旋をされている鷲見氏、それから中央マタニティークリニックで不妊相談をされて いる浜崎氏にお願いしたいと思います。事務局には日程調整をお願いします。唄先生に お話をお伺いしてよく分からなかったんですけれども、人事法1というのを読んでよく 分かりました。どうぞごらんになっていただきたいと思います。その関連部分を私、厚 生省にお届けするつもりだったんですけれども、入っていませんからお送りしますの で。 ○丸山委員  私も探すように努力したんですが、貸し出し中でまた手に入っておりません。 ○中谷委員長  それが絶版で有斐閣にも原本というのが1冊あるだけなんです。その原本というのを 借りまして、関連部分だけコピーしましてお送りしますので。 ○加藤委員  単行本なんですか。 ○中谷委員長  単行本で教科書なんです。新しい法学教科書第5冊目、第5というんですけれども。 ○丸山委員  一つお願いしたいんですが、今日の資料、特に岩志先生の方ですが、かなりのものが 机上配布資料の中に入っているんですね。今日のお話は机上配付資料も組み込まれた話 だったですね。机上配布資料と資料の区別というのは、たしか傍聴の方にお配りするか しないかの区別だったと思うんです。前回のAさんとされていた方のあれも、9ページ 物が机上配布資料で、これもお渡しした方が、御本人さえ了解していただければ御本人 の意にも沿うと思います。今日のお話でしたら著作権の問題は多分ないと思いますので 岩志さんのお話の机上配布資料の1、2、2−2、それから中谷先生の机上配布資料1 も普通の資料の扱いにしていただいた方が、お話になった方、書かれた方の意向に合致 するんじゃないかと思うんです。私はこれぐらいしか申せませんけれども、この上の厚 生科学審議会の木村利人さんなんかでしたらもっと強くおっしゃると思うのです。いず れにせよ、机上配布はなるべく少なくされた方が後々の点でもよろしいかと思うんです が。 ○武田主査  机上配布とさせていただいたのは、机上配布ではなく資料といたしますと、すべてこ ちらの方もそうなんですが、記者クラブの方に配布資料ということで100 部とか刷らな くてはいけないという問題がありましたので、そうさせていただいたのですが、今後検 討させていただきたいと思います。 ○丸山委員  積んでおいたらどうですか。 ○藤崎母子保健課長  例えば資料を提供していただいた方が、これは皆さんに配ってくださいということで あれば、それで結構だろうと思います。 ○丸山委員  事務局の方から配ってよろしいかと尋ねていただいて、構いませんとおっしゃったら 配っていただくと。原則配るということで、お持ちいただいたものは提供した方が良い と思います。透明性が協調される時代ですから透明性に反対の方向と見えるようなこと は減らした方がいいと思うんです。 ○藤崎母子保健課長  分かりました。そのように対応します。 ○中谷委員長  それでは、以上で今回の委員会を閉じさせていただきます。長時間にわたりましてい ろいろとありがとうございました。                                       担当:児童家庭局母子保健課        椎葉 茂樹        武田 康祐