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新たな高齢者医療制度のあり方について

平成11年8月13日
医療保険福祉審議会制度企画部会


 高齢者の医療については、これまで老人保健制度によって、医療保険各保険者が老人保健拠出金を通じ、その費用を共同して負担する仕組みが採られてきたが、近年、老人保健拠出金が急激に増加し医療保険各保険者の運営の圧迫要因となってきたことなどから、現行制度を基本に立ち返って見直し、新たな高齢者医療制度を構築していくことが喫緊の課題となってきた。
 こうした事情を背景に、本制度企画部会においても、昨年5月より新たな高齢者医療制度のあり方について審議を重ね、同年11月には「高齢者に関する保健医療制度のあり方について」をとりまとめた。その際、新たな高齢者医療制度に関する基本的な枠組みについては、大きく分けて高齢者全体の医療をその他の医療から区分し独立した仕組みとすべきとの考え方と、保険者機能を積極的に活かしつつ、国民健康保険(以下「国保」という。)グループ、被用者保険グループの各グループごとにそれぞれ高齢者の医療費を負担すべきとの考え方の2つに加え、さらに後者を基本としつつ、その際、両グループ間に生じると考えられる年齢や所得による負担の不均衡については積極的に調整を図るべきとの考え方に意見を集約した。
 その後、本部会では上記の考え方について、制度モデルに基づいた財政試算を行うなど、財政面、実務面の問題点の詳細な検討を行い、意見の一層の集約に向けた努力を重ねてきた。
 また、審議の過程で、全国市長会、全国町村会及び国民健康保険中央会から、年齢や職域等で区別することなくすべての者を対象とした医療保険制度を創設するという考え方が示されたので、これについても改めて検討を行った。
 その結果、新たな高齢者医療制度のあり方について考え方を一元的に集約するところまでには至らなかったものの、それぞれについて、その意味するところ、問題点等をより明確にできたので、以下改めて報告する。

1.新たな制度を考えるに当たっての基本的な視点

 新たな高齢者医療制度については、昨年11月の意見書でも述べているとおり、効率性、公平性、透明性の観点に十分な配慮をすることが必要であるが、具体的な制度設計に当たっては更に以下の6つの基本的な視点を踏まえる必要がある。

(1)医療における高齢者の位置付け

 高齢者は多くの疾病を併せ持ち、その疾病は一般に慢性的な経過をたどり、完治が困難であるなど若年者とは異なる特性がある。このため、高齢者に対する医療については、一般に予防医学的な側面が重要であり、個々の疾病に対する対応だけでなく、全人的・包括的対応が重要である。また、これらの医療内容の相違だけでなく、一般に高齢者は疾病に罹るリスクが極めて高いという特性を有している。
 こうした高齢者の医療の特性に着目し、高齢者の医療と若年者の医療をそれぞれ別の制度的対応とすべきとの考え方がある一方、医療にはもともと個別性・特殊性がつきものであり、高齢者医療のみを殊更に特別視して対応することは、かえって一種の高齢者に対する差別を助長することにもなりかねず不適当とする考え方がある。

(2)税方式中心か社会保険方式中心か

 若年者の医療費は保険料と自己負担を主な財源としてこれを賄うべきという点については共通の理解があるが、(1)のような高齢者医療に対する考え方の相違を反映して、高齢者の医療費の負担の方式については2つの考え方がある。
 第1の考え方は、高齢者は疾病に罹るリスクが若年者に比べ極めて高いことから、高齢者の医療費については、若年者と同じ社会保険で賄うことは基本的に困難であり、公費(税)を主な財源としてこれを負担する仕組みとするものである。その方が高齢者を含めた国民全体で高齢者の医療費を賄うこととなり、費用負担のあり方としても明確であることから国民の理解を得やすいとする。
 ただし、この場合も、全額を公費負担とすると、高齢者が権利として医療を受けるという側面が弱くなることが懸念されることから、社会保険の方式を採り、高齢者も一定の保険料を負担する仕組みとすることが望ましいとされる。
 第2の考え方は、高齢者の医療を若年者の医療から殊更に区別すべきでないとする考え方から、高齢者の医療費についても、若年者と高齢者が等しく加入する社会保険の枠組みの中で負担するものである。リスクの異なる者を加入させ、そのリスクをプールすることにこそ社会保険の意義があり、高齢者も若年者と同等の立場から社会保険に参加すべきとする。
 いずれにせよ、高齢者の医療費については、公費、保険料、そして患者一部負担を含めた三者の適正な負担割合のあり方について真剣な検討が必要である。

(3)保険集団のあり方

 医療費の大部分を公費で賄う仕組みを果たして社会保険とみなしうるかという問題はあるが、高齢者の医療費を社会保険の方式で賄う場合には、どのような者を保険者とするかということが極めて重要である。その際、特に以下のような点に留意することが必要である。

(1)保険集団と連帯感
 社会保険制度は沿革的に職域で形成され、徐々に地域を単位とした制度も発展して今日に至っているが、これは一つには職域が相扶共済の仕組みの前提となる連帯感の醸成に最も適した集団であることによる。こうした沿革を考えると、新たに保険者を設けるに当たっても、こうした社会保険制度の基礎となる連帯感への十分な配慮がなされるべきであるとの考え方がある。
 これに対して、社会保険制度の沿革がどうであれ、むしろ、地域や職域を越えて連帯を普遍化していくことが社会保険の理念にかなうとする考え方がある。
(2)保険財政の安定性
 保険者は医療費について最終的な財政責任を負っており、将来にわたって安定的な財政運営が可能となるよう財政的自立性を持った主体であることが不可欠である。特に保険集団の規模が小さい場合には、財政運営が極めて不安定になるおそれが強いので、この点についての十分な留意が必要である。
(3)医療費の適正化・効率化(保険者機能の発揮)
 今後も医療費の増大が予想される中、医療の質を確保しつつ、その適正化・効率化を図り、被保険者の保険料負担増をできる限り抑制していくことは、保険者の責務である。そのため、保険者は、医療費の適正化・効率化の誘因が生じるような規模及び仕組みとすることが必要である。
(4)保険者事務の円滑な遂行
 保険者は、単に医療の費用負担をするだけではなく、被保険者の適用、保険料の賦課・徴収等の複雑な実務を効率的に執行することが求められる。したがって、新たな保険者は何よりもこうした実務を適切に行い得る者でなければならない。

(4)制度(保険者)間の負担調整のあり方

 複数の保険者がある場合、各保険者間において、被保険者等の年齢構成の相違や所得水準の格差、地域ごとの医療費格差等により、保険料負担の不均衡が生じる可能性が考えられる。
 これらの不均衡のすべてが、公平の観点から見て問題であるとは言えないが、被保険者の年齢や所得の相違に基づく負担の不均衡については、何らかの調整を講じ、その是正を積極的に図っていくべきである。
 これに対し、多数の保険集団に分立している現状を克服するためには、むしろ保険者の再編・統合を図るべきとの考え方がある。

(5)世代間の連帯と公平

 社会保険としての医療保険制度は、疾病に罹るリスクの高低に関係なく負担能力に基づき医療の費用を負担する仕組みであり、高齢者をその対象とする限り税あるいは保険料のいずれを中心に行うにせよ、リスクの低い若年者からリスクの高い高齢者に対し一定の支援を行う仕組みとならざるを得ない。そうしたことから、世代間の対立を生じることなく将来とも安定的にこうした支援の仕組みを維持していくためには、世代間の連帯感がその基礎としてしっかり根付いていなければならない。
 しかし、公的年金制度の成熟化等により、平均的に見れば高齢者の1人当たり可処分所得は若年者とほぼ同水準となり、貯蓄額等資産保有についても高齢者の方が若年者よりもむしろ高い水準になってきたことなどから、近年、若年者の側に高齢者の負担に対する不公平感が高まってきており、世代間の連帯感に翳りをもたらしつつある。このようなことから、新たな高齢者医療制度を考えるに当たっては、老若間の負担面での公平に十分な配慮をしていくことが、特に重要であ
る。

(6)医療費の適正化・効率化

 新たな高齢者医療制度をどのような仕組みとするにせよ、これを将来にわたり安定的に運営していくためには、高齢者医療を中心に医療費の適正化・効率化を図ることが不可欠である。このため、診療報酬体系や薬価基準制度、医療提供体制の見直しを図るほか、生涯を通じた健康管理・疾病予防について総合的な対策を講じるべきである。
 また、医療内容や医療費に関する十分な情報開示等を確実に実施し、医療保険制度をめぐる不信感を払拭していくことが求められる。

2.新たな制度の具体的な枠組みについて

 本部会は、以上のような基本的な視点を踏まえ、新たな高齢者医療制度に関する複数の具体的な制度案について検討を行ってきたが、既に述べたように、改革案を一つにとりまとめるには至らなかった。しかし、それぞれの具体的な制度案の考え方について子細に検討をした結果は以下のとおりである。

(1) 公費を主要な財源とし全ての高齢者を対象とした地域単位の新たな医療保険制度を設ける考え方

(全ての高齢者を対象とする新たな医療保険制度の創設)

 高齢者は医療内容が若年者とは異なること、一般に疾病に罹るリスクが極めて高いという特性を有していることなどから、若年者とは別に高齢者のみを対象とした新たな高齢者医療保険制度を設ける。
 その際、就業構造が流動化している中で、高齢者をサラリーマンのOBである者と自営業者等のOBである者とに区別する理由は見出し難いことから、すべての高齢者を被保険者とする。

(対象年齢は75歳以上又は65歳以上)

 対象となる高齢者は、高齢者の平均余命が伸びていること、対象となる医療費の範囲が縮減されることから、75歳以上の後期高齢者とする。一方、介護保険制度が65歳以上の高齢者を対象としていることから、将来におけるこれとの制度一元化の可能性を念頭に、65歳以上の者とすべきとの考え方がある。

(地域を単位とする保険者)

 保険者は、高齢者の生活の場に最も近い基礎的自治体である市町村とするのが適当であるが、財政運営の安定や医療・保健・福祉の基盤整備との関連性にかんがみ、複数の市町村により構成される2次医療圏などを基礎とした広域的な保険者の設置を推進する。

(公費を中心とした費用負担)

 高齢者は疾病に罹るリスクが、若年者に比べ高いため、このまま現行の医療保険制度の枠組みの中で高齢者の医療費を賄うとすると、若年者の保険料負担は急増せざるを得ないが、これについて若年者の納得を得ることは基本的に困難である。したがって、高齢者の医療と若年者の医療とを区分し、高齢者の医療には公費(税)を重点投入する。

(社会保険の形式を維持)

 高齢者の医療費は、公費(税)を主たる財源とするが、その全額を公費負担とすると高齢者が権利として医療を受けるという側面が弱くなることが懸念される。したがって、新たな制度は社会保険の方式を採り、高齢者が一定の保険料を負担する仕組みとする。

(公費の財源)

 公費の主要な財源としては、若年者だけでなく高齢者も公平に負担する消費税を充てることが考えられるが、このほかに、高齢者の資産保有の状況を踏まえ、高齢者の保有する資産の活用や相続財産の活用、更には国有財産の処分、医療費の増加と因果関係の強いたばこ等への課税など幅広い検討を行うべきである。
 なお、消費税等を通じた公費負担のあり方は、税制や年金等の社会保障制度のあり方とも関連するので、今後、国民に対し積極的に問題提起を行っていくべきである。

 この考え方に対しては、以下のような問題点等の指摘があった。

○ 高齢者の医療費の全額を公費負担としても、医療給付の権利性が弱まることにはならない。しかし、高齢者の医療を若年者の医療と切り離し、高齢者の医療制度に対してのみ多額の公費を投入する仕組みは、昭和48年から昭和58年までの間に実施された老人医療費無料化政策の考え方に戻るものであり、高齢者は弱者であるという発想に立つものであることから、社会・経済の成熟化が進み、高齢者も社会・経済の担い手であるべき成熟社会の下での医療制度のあり方としてはふさわしくない。
○ 新たな高齢者医療制度の対象者を75歳以上の者に絞り込んだ場合でも、例えば、総医療費の9割(=総医療費から患者一部負担及び保険料を除いた部分)を公費で賄うとすれば、保険料負担が1兆1千億円減となる一方、公費は約1兆5千億円増となり(平成12年度における粗い試算)、財源の見通しもないままこのような大幅な公費負担増を期待することは現実的ではない。
○ 高齢者の医療費を消費税で賄うこととした場合、将来の消費税負担は相当高水準となることが予想されるが、年金・介護保険制度に係る公費負担との関係も含め、国民経済全体から見てこのような負担が吸収可能かどうかについて十分な検討が必要であり、このような検討なしに公費負担増を安易に認めるのは問題である。
○ 医療費財源の大部分を公費(特に国費)に依存する制度では、給付と負担の関係が一体として捉えられないため、保険者に医療費適正化の誘因が生じにくく、医療費の効率化がほとんど期待できない。

(2) 国保グループとは別に被用者保険グループの高齢者のみを対象に新たな医療保険制度を設ける考え方

(被用者保険グループOBの高齢者を対象とした新たな医療保険制度の創設)

 国保グループ0Bの高齢者と被用者保険グループ0Bの高齢者とでは、生活実態や所得形態が異なり、両者を同一制度に含め同じ保険料基準を適用することは公平ではないこと、被用者保険グループOBの高齢者に対して支援するのであれば、若年被用者からも負担について納得が得やすいことから、被用者保険0Bの高齢者のみを対象とする新たな医療保険制度を設ける。

(対象者は被用者年金受給者)

 新たな医療保険制度の対象者は、過去に一定期間以上の被用者年金加入期間を有する被用者年金の受給者とする。

(全国一本の民営保険者)

 保険者は、被用者OBの高齢者が住所地等を変えた場合にも、適切にその適用、保険料徴収等を行う必要があることから、全国一本の保険者とする。また、保険者は、現在進められている行政改革の趣旨及び医療費適正化努力を高める観点から民営の保険者とする。

(社会保険方式による費用負担)

 新たな医療保険制度の被保険者となった高齢者は、被用者保険の保険料負担の額を参考として保険料を支払うが、高齢者の医療費を賄うのに不足する部分は、被用者保険制度に加入する若年者が負担することにより、社会保険方式による費用負担の仕組みを基本的に維持する。ただし、その際、高齢者の医療費に対して少なくとも現行制度と同程度の公費負担を行う。

(公費による制度間の負担の不均衡の調整)

 各グループでそれぞれの高齢者の医療費を負担する仕組みとすることから、現行制度と比べ、高齢者割合が低い被用者保険グループの保険料水準が低下する一方、その割合の高い国保グループの保険料水準が上昇することが予想される。
 このような場合には、制度(保険者)間で直接的な負担の調整を行うのではなく、国保グループと被用者保険グループの高齢者比率の違いに着目して公費を重点配分することにより両グループ間の負担の調整を行う。

 この考え方に対しては、以下のような問題点等の指摘があった。

○ 就業構造が流動化している中で、高齢期となってからも被用者と非被用者を区分して医療費を賄うことは、社会連帯の理念から見て、現行の老人保健制度よりも後退を意味する。
○ 公平の観点からも、被用者年金の加入期間が一定期間以上の者のみ新たな制度の対象とし、この期間を満たさない者の医療費は全て国保グループの負担とする点は問題である。
○ 保険者は民営としているが、退職後の転居等に応じた被保険者の住所管理が可能か、年金からの保険料の天引きが可能か等事務処理体制について詳細な検討が必要である。
○ 保険者は全国一本としているが、医療費の地域格差が保険料率に反映されなくなり、保険者の医療費適正化・効率化努力はほとんど期待できない。

(3) 現行の保険者を前提とし保険者の責によらない事由(特に年齢構成)に基づく各グループ(保険者)間の負担格差についてはいわゆるリスク構造調整を行う考え方

(現行の保険者を前提に全年齢を対象としたリスク構造調整)

 現行の老人保健制度は、70歳以上の高齢者の加入割合のみに着目して制度(保険者)間の負担の不均衡の調整を行う制度となっているが、これに代わり、全年齢を対象として各保険者間の年齢構成の相違による負担の不均衡を調整する。
 これにより、現行の保険者を前提としつつ、全年齢リスク構造調整(具体的な仕組みについては、参考を参照)を行えば、個人はどの制度(保険者)に属していたとしても、年齢構成の相違により負担に格差を生じることがないという公平性を実現することができる。また、実際にかかった医療費ではなく、一定の基準医療費を設定(例えば全国平均の年齢階級別医療費)して調整するため、各保険者に医療費適正化の誘因が働き、効率性が確保される。

(リスク構造調整の対象)

 具体的にリスク構造調整を行うに当たっては、医療費総額は、保険料・公費(税)・患者一部負担の三者を財源とするが、実現可能な三者の比率を基礎にして、保険料部分について全制度(保険者)間における年齢リスク構造調整を行う。
 なお、国民の間に所得捕捉に対する抜き難い不平等感が存在するため、差し当たり所得構造調整は行わず、国保等に対する所得調整のための公費(税)投入は維持する。

 この考え方に対しては、以下のような問題点等の指摘があった。

○ 我が国では、国保グループと被用者保険グループで、所得形態、所得捕捉や財源構成の実態等根本の部分が異なっており、両グループ間で年齢構成の相違によるリスク構造調整のような保険者間の調整を実施することは、納得できない。

(4) 現行の医療保険制度を一本化して新たな医療保険制度を設ける考え方

(現行の医療保険制度を一本化)

 将来にわたって安定した医療保険制度を確立するためには、就業構造の変化や急速な高齢化の進行等により一層深刻化する被用者保険と国保の給付と負担の不均衡を解消する必要がある。そのため、都道府県又は国を新たな保険者として現行制度を一本化し、被用者か否か、あるいは高齢者か若年者かで区分することなく、すべての者を対象とした新たな医療保険制度を設ける。

 この考え方に対しては、以下のような問題点等の指摘があった。

○ この考え方は、将来の医療保険制度のあり方としては有力な選択肢の一つであるが、新たな保険者をどうするか、五千以上の既存保険者の取扱いをどう考えるか、保険料の事業主負担の位置付けをどうするか、所得形態、所得捕捉の実態が異なる被用者と自営業者に同じ保険料基準を適用することをどう考えるかなど、社会保険制度の根幹に関わる問題があり、平成12年度を目途とした当面の具体的改革案の一つとすることは適当でない。
○ 保険集団構成員の連帯感や保険制度運営の効率性という観点から制度の完全一本化は適当ではない。

3.高齢者の負担について

(1)高齢者の患者一部負担について

 平成10年国民生活基礎調査によれば、高齢者世帯の1人当たりの可処分所得は182.9万円となっており、これは全世帯平均の187.4万円とほぼ同水準である。また、平成10年貯蓄動向調査報告によれば、60歳以上の者が世帯主である世帯の貯蓄額は平均で2000万円を超えるなど、若年者世帯に比べ高水準となっている。このように、平均的に見れば高齢者の所得や資産の額が大きくなる中で、近年、保険料負担が増加傾向にある若年者の側に、自分たちよりも負担が軽減されている高齢者に対する不公平感が高まっているが、世代間の連帯感を引き続き維持していくためには、高齢者と若年者の負担面での公平を十分考慮する必要がある。
 また、急速な高齢化の進行に伴い、今後高齢者の医療費の増加が不可避な一方、低成長経済下で若年者の負担が更に重くなることを考えれば、公的医療保険でカバーする医療費についても極力適正化・合理化を図っていく必要がある。このため、高齢者にも応分の患者一部負担を求めるなど、高齢者が医療についてコスト意識を持てるような仕組みとすることが不可欠である。
 これらを踏まえた場合、当面、高齢者については診療に要した医療費の1割程度の患者一部負担を求めることが必要である。ただし、高齢者の中でもひとり暮らしや女性については、所得の低い者の割合が高いなど所得や資産保有の状況は、個人差も大きいことから、低所得者については、過大な負担にならないよう特段の配慮をすべきである。
 具体的な高齢者の患者一部負担については、若年者と同様に高齢者の医療についてもコスト意識を重視する観点及び介護保険制度との均衡を図る観点からは、定率負担が適当であるとするのが大方の意見であった。一方、特に外来患者の定率負担については、医療機関等の窓口での負担が予測できないこと、重症患者ほど高額の負担を強いられる等安心して医療が受けられないおそれがあること、過度な受診抑制が生じる懸念があること等から、若年者と著しく異なる高齢者の心身の特性に配慮し、定額制、定率制それぞれの長所・短所を比較した上で慎重に検討すべきとの意見があった。
 なお、定率負担とした場合に窓口での負担が予測できないことは、若年者も同様であり、高齢者に対する定率負担を不適当とする理由にはならないとの指摘があった。

(2)高齢者の保険料負担のあり方

 現行制度においては、高齢者は、適用されている医療保険制度の相違により保険料負担のない者から保険料負担をしている者まで様々である。
 新たな高齢者医療保険制度を設ける場合には、若年者との負担の均衡を考慮し、高齢者についても被用者保険の保険料負担額を参考とした保険料を負担すべきとの考え方がある一方、高齢者の負担能力に配慮し、高齢者に対する負担は一部負担と保険料を合わせて医療費の一定率以下の水準にすべきとの考え方がある。

 本部会としては、以上のとおり、新たな高齢者医療制度のあり方について、6つの基本的な視点に拠りながら、考え得る具体的な制度案とその問題点について考え方をとりまとめた。今後、政府においては、本部会の検討結果に対する国民の意見等を踏まえ、新たな高齢者医療制度の具体案について成案を得、平成12年度の診療報酬制度、薬価基準制度等の抜本改革に合わせて、速やかにその実現を図るよう強く望むものである。


照会先
担当者 老人保健福祉局 企画課 課長補佐 宮本 直樹 内線3917


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