99/07/19 第19回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録 第19回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録 1.日 時:平成11年7月19日(月) 14:00〜16:00 2.場 所:厚生省特別第一会議室 3.出席委員:高久史麿部会長        (委員:五十音順:敬称略)         柴田鐵治  竹田美文  寺田雅昭 (専門委員:五十音順:敬称略)         雨宮 浩  入村達郎  小澤えい二郎  加藤尚武  金城清子         廣井正彦  松田一郎 4.議  事:(1)ヒト胚性幹(ES)細胞等を利用した研究の現状と将来について         (講演)        「ES細胞からの臓器形成とその臨床応用」        東京大学医科学研究所癌病態学研究部 教授 中畑 龍俊        「再生医学に向けた肝幹細胞の同定分離と羊膜細胞の利用」        国立小児病院小児医療研究センター実験外科生体工学部長 鈴木 盛一                                              (2)その他(報告事項) 5.配付資料:(1)ES細胞からの臓器形成とその臨床応用        (2)ヒト胚性幹細胞(Human embryonic stem cells ; human EScells)          研究の現状        (3)バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本戦略        (4)東京大学医科学研究所附属病院からの報告 ○事務局  本日の厚生科学審議会先端医療技術評価部会は議事公開にて行いますので、傍聴の 方々におかれましては、あらかじめ配っております諸注意等に従いまして、議事の進行 に御協力のほどお願いいたしたいと思います。  定刻より少し早ようございますが、部会長はじめ委員の先生方おそろいでございま す。ただいまから第19回厚生科学審議会先端医療技術評価部会を開催いたしたいと思い ます。 なお、委員の異動がございましたので、御紹介申し上げます。今回から国立小児病院 小児医療研究センター長 雨宮浩先生、また国立精神・神経センター神経研究所長 小 澤えい二郎先生の御両名が新しく参加されております。また、日本赤十字社医療セン ター院長の森岡恭彦委員におかれましては、任期終了に伴いまして、今回より参加され ておりません。  また、委員のうち、軽部征夫委員、木村利人委員、曽野綾子委員のお三方から本日や むを得ず欠席の旨の御連絡をいただいております。  また、本日の議題にあります「ヒト胚性幹細胞等を利用した研究の現状と将来につい て」ということで、東京大学医科学研究所癌病態学研究部教授 中畑龍俊先生、また国 立小児病院小児医療研究センター実験外科生体工学部長 鈴木盛一先生のお二方に御参 加をいただいております。  また、本日の配付資料につきまして、議事に先立って確認をさせていただきたいと思 います。 (以下、資料の説明と確認) ○高久部会長  それでは、第19回目の先端医療技術評価部会を開かさせていただきます。 前々回の部会で、ES細胞、すなわちヒトの胚性幹細胞等に関しまして、その進歩が非 常に著しいということと、社会的な関心も高まっているということ、さらにヒトの胚性 幹細胞が将来医学の面で応用される可能性が非常に高いことなどから、この分野につい て、先端医療技術評価部会で皆さんにいろいろ知っていただくといいますか、勉強して いただいておいた方がよいのではないかということで、本日、中畑・鈴木両先生から最 近の情勢についてお伺いするということを、両先生にお願いいたしましたところ、快く 引き受けていただきました。  中畑先生からは、「ES細胞からの臓器形成とその臨床応用」について、さらに鈴木 先生からは、「再生医学に向けた肝幹細胞の同定分離と羊膜細胞の利用」ということに ついて、各々二、三十分お話をしていただくことになっています。お話が終わってから 中畑・鈴木両先生に予定された時間の範囲内でいろいろまた質問をさせていただきたい と思いますので、よろしくお願いしたいと思います。  両先生には、本日お忙しいところ、また暑い中をおこしいただきましてどうもありが とうございました。最初に、中畑先生からお話をお伺いしたいと思います。  中畑先生は、信州大学医学部を卒業後、小児科を専門とされまして、アメリカに留学 の後、平成5年に東京大学医科学研究所に移られ、さらに本年の9月からは京都大学医 学部小児科の教授になられる予定であります。御専門は造血幹細胞、サイトカインなど 幅広い分野で、最先端の分野で研究をなさっていらっしゃいます。  それでは中畑先生お願いします。 ○中畑教授  御紹介いただきました中畑でございます。  私がES細胞に興味を持ち出したのは今から五、六年前でございます。その頃はもち ろんマウスでございますけれども、ES細胞からいろいろな臓器といいますか、いろい ろな細胞系列が生まれてくるということで、非常に古いビデオですけれども、そのころ 撮ったビデオがありますので、まずそれを観ていただいて、マウスの例ですけれども、 実際ES細胞からいろいろな臓器、いろいろな細胞ができてくるんだということをご覧 いただきまして、その後、本題に移りたいと思います。7分程度のビデオです。                 (ビデオ映写)  ちょっと古いビデオで、編集のときにダビングして少し画像が悪くなってきておりま すので、それほど満足いくビデオではありませんけれども、ES細胞とは一応こういう ものだということでご覧いただけたらと思います。  最初は、受精卵が分割・増殖してinner cell mass(内部細胞塊)というところからE S細胞というのが生まれるんですが、その瞬間を撮ったビデオであります。これが受精 卵、今、精子が来て受精するところです。受精をしますと、やがて受精卵の分割が始ま ってES細胞をつくる。ちょうど内部細胞塊というのができてきますが、今ちょうど受 精をした、これが受精卵です。やがて卵割が始まって二つの細胞に分かれていく。また さらに、それが分かれて4卵の卵化によって、お手元の4枚目ぐらいに簡単な絵が書か れてありますけれども、2分割の段階が大体マウスだと受精してから1.5 日ぐらいで、 これが桑実胚という8個ぐらいになる段階ですけれども、これが大体2日半ぐらいしま すと、こういった段階になってきまして、やがて胚盤胞という時期に当たります。ここ のところをinner cell mass といいますけれども、内部細胞塊をとって培養してES細 胞というのをつくるのでございます。  ここの細胞を長い間培養して、ES細胞の細胞株(セルライン)をつくるということ で、受精卵からは少し時期が経っているわけです。実際、ES細胞を培養していますと ご覧になるとわかりますが、いろいろな細胞が増殖してきます。ここにたった1個だけ 細胞が少し動いているのが見えます。これが心筋の始まりですけれども、やがて心筋が あちこちでこういうぐあいに動き出すようになりまして、実際ES細胞から、たった1 個の細胞段階から心筋ができてくるという瞬間がわかります。かなり拍動も違うんで す。ここは二つあります。こっちは割とゆっくりな拍動をしていますけれども、こちら の方が少し早い拍動をしています。細胞としては今10個ぐらいの段階ですけれども、か なり活発に拍動している。やがてそれが増殖していきますと、心筋の塊になってきまし て、力強い拍動が見られるようになってきます。  普通、ES細胞は、後でお話ししますように未分化な段階でいるわけですが、分化す るような培養系に変えますと、こういった心筋ができてくる。これだと画面いっぱいが 心筋として動いているということで、ES細胞から心筋をつくることができるというの は、こういった画像から見ることができます。最初幾つか拍動があるわけですが、大き な拍動にやがてフュージョンしていく様子が見られます。少しこちらとこちらと別な拍 動があるようですけれども、全体が動いているということです。  これは血液です。真ん中に見えるのが赤血球ですけれども、こういった血液の塊も見 られるようになってきます。ここで見えるのは主に赤血球ですけれども、赤血球以外の 細胞もES細胞からつくることができます。これが赤血球で、ここでは周りにもう少し 未分化の段階の細胞がありまして、周りに飛び散っている、赤血球以外の血液細胞もE S細胞からつくることができるということが分かります。ES細胞からできてくる赤血 球は、最初は非常にプリミティブな段階の赤血球ですが、我々の体の中に存在するよう な、成人でみられるようなヘモグロビンを持った赤血球もできるということが最近わか ってきています。 これは血液の細胞の塊ですけれども、肥満細胞とか、いろいろな細胞がその中から生ま れてまいります。  これはちょうど神経ができてくる瞬間を撮ったんですが、ダビングしたためにちょっ と画像がはっきりしませんけれども、周りに非常に細い神経の突起が生まれてきていま す。これは全体が神経塊、神経細胞だけではありませんけれども、主に神経細胞で、こ ういった塊ができてくる。周りに神経繊維が伸びてきている様子が分かります。長さと しては100ミクロン以上の長い突起にこの時点でなっています。これは暗くて見にくいで すけれども、こういった長い神経の突起が生まれてきています。 これもそうですけれども、非常に長い神経突起が出ていく様子がみられます。この場 合はここには赤血球があるんです。ここの部分は赤血球です。周りのここのところが神 経が伸びていく様子が分かります。普通に培養したのではいろいろな臓器が一緒くたに できてしまう。だから、神経をつくるもとのstem cellsと血液をつくるstem cellsと、 これから同定してはっきりお互いを区別して培養するような系をつくっていく必要があ ります。現時点ではまだそれは成功しておりません。これはそういった神経突起が非常 に長くなって、これが神経の細胞だと思いますけれども、こういった長い突起が生まれ てきている様子がわかります。電話線を引いたような感じで非常に長い突起が出て、そ れがさらに進みますと、こういったかなり太い神経の繊維が生まれてきます。中には1 センチ近くに伸びるような非常に長い神経繊維も生まれてきます。これがそうです。こ ういった形で神経細胞が生まれてくる。中には神経の束ができていまして、このような 神経細胞を見ると、後でお話しするようないろんな神経の病気に治療上も実際使えるの ではないかという気がします。これは神経の束で全部神経繊維です。非常に長い神経繊 維ができてくる様子がわかります。しかも神経繊維は伸びて、一つの単核の神経の細胞 と連絡をとって何らかの情報交換をしているんじゃないかというようなことを思わせる ような像も見られます。                 (ビデオ終了)  ということで、このビデオで観察できるのは、少なくとも心筋はしっかりできてく る。しかも、非常に強力な拍動ができるような心筋ができてくる。それからまた血液 も、赤血球だけではなくて、いろんな血球ができてくるし、恐らくそのもとになる造血 幹細胞もつくられるだろう。それから一番活発に増殖してくる細胞としては神経の細胞 がある。しかも、そこからは非常に長い神経突起がつくられるというような様子がよく 分かります。  それ以外にも、ES細胞というのは、マウスの系では、実際その細胞をそのままマウ スの体の中に打ち込みますと、それ以外のいろんな臓器ができてくる。腸管から始まっ て、膵臓とか、骨とか、軟骨とか、あるいは皮膚の細胞とか、中にはこういう毛までで きてくるということで、いろんな多臓器に分化する能力を持った細胞であるということ が分かっています。  それでは、お手元の資料を見ていただきたいと思いますが、最初に、「ES細胞と は」というのが2ページ目からありますが、ES細胞というのは、Embryonic stem cell 日本語だと胚性幹細胞という名前を付けますが、先ほどのビデオにも出てきましたよう に、胚盤胞(blastcyst)の内部細胞塊と呼ばれるところを取り出して、それを培養して そこから樹立したものをES細胞と呼びます。ES細胞が増殖するためには、leukemia inhibitory factorと呼ばれる特殊なホルモンみたいなものが必要なわけですが、そうい った状態で一旦樹立されると、その細胞は自分と同じものをほぼ半永久的につくり続け るということが分かっています。最近の研究では、テロメアというものがほとんど短く なっていかない細胞だということがわかっておりまして、それにはテロメラーゼという ものが非常に豊富にあるということがわかっています。このような非常に未分化の状態 で継代可能なわけですが、一旦分化するような培養系に移しますと、その細胞はほとん どすべての臓器に分化できるということがわかっていますので、いわゆる全能性、ある いは多分化能を持った細胞ということができます。  マウスでは、先ほどの胚盤胞の段階でES細胞をその中に入れて混ぜまして、それを マウスの子宮に戻しますと、要するにキメラマウスというのが生まれてまいりますが、 そのキメラマウスをかけ合わせることによって、たまたまES細胞由来の遺伝子が生殖 系列の細胞に入っていた場合には、ES細胞由来の遺伝子を持ったマウスを次の世代で つくり出すことができるということが分かっています。1代あるいは2代経ないとES 細胞由来の遺伝子を持ったマウスというのは生まれてまいりません。  それからまたもう一つ、ES細胞と非常に似た細胞でEG細胞と呼ばれる細胞があり ます。それはEmbryonic germ cell (胚性生殖細胞)と呼ばれる細胞ですが、これは始 原生殖細胞から樹立した細胞株でES細胞と非常に似た性質を持っているということが 分かっています。その細胞を維持するためのサイトカイン、ホルモンの必要性などは少 し違ったりしますけれども、ES細胞に比べると、全能性ということでは少し劣る場合 が多いんですけれども、ほぼ似た性質を持っているというぐあいに考えられます。  次のページを開いていただきますと、「ES細胞とEG細胞の作成法」ということで つくり方というのが書いてありますけれども、先ほど見たように、ES細胞は inner cellmass (内部細胞塊)から樹立してくる。一方、EG細胞というのは、それ よりもはるかに妊娠が進んで、要するに中絶した胎児の始原生殖細胞というところから 樹立してまいります。この場合はstem cell factrとLIF とFGFと呼ばれるサイトカイン が必要ですけれども、一番上に書いてありますように、ES細胞は受精卵を培養して作 成する。一方EG細胞というのは人工中絶した胎児から作成する。マウスでは受精後大 体8.5 日の胚からつくりますが、昨年報告されたヒトのEG細胞のペーパーでは、ヒト の場合は受精後5週から9週の間人工妊娠中絶した胚から始原生殖細胞をとってきて、 そこから樹立したということで、ES細胞とはかなり樹立する時期が違っています。後 で倫理的な問題などもいろいろ話題になるかと思いますけれども、ES細胞の場合は受 精卵を扱う。受精卵をどう考えるかということなりますが、EG細胞の場合は中絶した 胎児をどうこれから扱っていくのかということで、そこで倫理的なバックグラウンドも 違ってくると考えられます。  それから次のページにありますように、ES細胞、EG細胞からどんな組織ができる かというのを書いてありますが、先ほどのビデオであったように、一応神経細胞と心筋 と血管内皮細胞と血液と、これだけは確実にできるということが分かっています。あと インビボのいろいろなスタディ、移植の実験等からそのほかの骨とか、軟骨とか、腎臓 とか、腸とか肝臓、肝臓は余りはっきりしませんけれども、膵臓とか、そういった組織 も恐らくこのES細胞からつくることができるのではないかというふうに考えられてい ます。  それでは、実際ESあるいはEG細胞を使ってどんな研究を行っていくのか、あるい はそれが将来どんな臨床応用が可能なのかということになってくるわけですが、ナン バー5というところに書いてありますが、ES細胞からはいろいろな細胞ができてくる ということで、研究面でいろいろな貢献をするだろうと考えられます。  その一つは、現在ヒトの遺伝子をすべて明らかにしようというヒトゲノムプロジェク トが世界的に進んで、恐らく2001年あるいは2002年にはすべての遺伝子が分かるだろう という言われております。けれども、未知の遺伝子がいっぱい分かってきたとしても、 それを確実にみるいい方法が今はない。今まではノックアウトマウスというような手法 を使って、マウスのそれに類似した遺伝子をつぶしてどんな症状が出るかというような ことで見てきたわけですけれども、マウスとヒトとはかなり様子が違う。マウスのデー タをそのままヒトには当てはまらないということがいろいろな面でわかってきておりま す。ヒトでいろいろな組織に分化できるES細胞の遺伝子をつぶして、どんな分化の異 常が起こるかというような方法が可能になると思われます。恐らくヒトゲノムプロジェ クトをこれから進める上でこのような技術は必須な手法になるのではないかと考えられ ます。  一番上にありますような、新規遺伝子の同定とか、その機能解析とか、新規の蛋白の 同定、それから組織形成に必要ないろいろな遺伝子を同定したり、その分子を同定す る。それからまた神経や筋肉や血管内皮や血液や、そのほかの臓器のもとになる幹細胞 を同定して、その細胞が増殖・分化するのに必要ないろいろなファクターを明らかにし ていく。そういった研究では必須な技術となってくるのではないかと考えられます。  また医療面での貢献ということで考えてみますと、一番下の方に書いてありますよう に、人工臓器とか、ハイブリット臓器の開発をしてくる。現在、臓器移植のための臓器 が世界的に非常に不足しています。特にアメリカなどではそれが非常に不足していると いうことが叫ばれているわけですけれども、将来の臓器移植をこういったES細胞を使 っていろいろな臓器をつくり出して、それを移植医療に用いるということが世界中で考 えられているわけです。また私がやっております血液の分野においても、ES細胞から 造血幹細胞をつくってきて、それを用いて移植をする。あるいはES細胞から造血幹細 胞をつくり、そこからいろいろな血液製剤をつくってしまう。現在献血に頼っている血 液製剤を、すべてES細胞から工場でつくるというような、そういったことも考えられ るわけです。  また新薬の開発とか、一番下にありますような薬効の検査、毒性の検査、こういった ことにも使われるだろう。現在毒性あるいは薬効の検査ではなかなか動物が使いにくく なっているんです。動物愛護の問題もありまして、実験動物といえども、今後なかなか 使いにくい状態にますますなっていくだろうということで、動物を使って行っていた実 験を細胞を用いた実験系に変えようというのが世界的な動きなわけです。その場合に、 ヒトES細胞は格好の薬効あるいは毒性試験のもとになるような細胞だろうと考えられ ます。  実際に移植医療ということだけを考えてみますと、その次の6ページにありますよう に、いろいろな疾患への応用が考えられます。例えば神経細胞であれば、神経のもとに なる細胞から神経細胞をたくさんつくって、それを移植する。それによってアルツハイ マー病とか、あるいはパーキンソン病、こういった疾患の治療に用いられるだろう。現 在アメリカでは、パーキンソン病等の治療で実際、腫瘍細胞を脳に移植しているんで す。テラトカルチノーマというES細胞に非常に似た細胞ですけれども、それは生まれ た後できた腫瘍の細胞ですがパーキンソン病の人に実際に移植するというスタディが始 まっています。腫瘍細胞を脳の中に入れるというような方法に比べると、ES細胞から 神経系列の細胞をつくってきて、それを治療に使おうということは、特にアメリカなど では非常に熱望されていることでございます。  それからまた心臓についてもいろいろな疾患、あるいは血管についても人工血管をE S細胞でつくるというようなことが考えられますし、先ほどのように造血幹細胞を使っ た移植、あるいはほかのいろいろな移植に必要な臓器をつくってくる。こういった移植 医療への応用が可能になるのではないかと思います。  また移植医療の将来ということを考えてみますと、移植の場合は必ずHLAの違いが 問題になるわけですけれども、ES細胞に患者さんからとったDNAを入れて、あるい は患者さんの皮膚の細胞なり、その成熟した細胞から核をとってES細胞の中に入れて 患者用のES細胞をつくる。そのES細胞から患者に合った臓器をつくってくる。そう いった発想で恐らく研究としては進んでいくだろうというぐあいに考えられます。この ようなオーダーメイドの臓器移植というような概念も生まれてくることが考えられます し、それから輸血医療ということでも、要するに工場で血液製剤をつくる。こういった 絵にかいたようなことが本当に現実になるかどうか分かりませんけれども、現在研究の 方向としては、そういった方向に向かっていると考えられます。実際ヒトのES細胞と いうのは、昨年11月の『Science 』という雑誌に、Wisconsin 大学のThomson 教授が発 表されたわけですけれども、ヒトのES細胞ができたのではないかという話は去年の春 ぐらいから伝わってきていたんです。 去年の6月ぐらい、日本の幾つかの会社にヒトのES細胞の細胞株を買わないかという ようなアプローチも実際に去年の6月ぐらいから始まっているんです。雑誌に出る相当 前にパテントが提出されていますし、パテントが確かだという段階から、ES細胞を日 本にも売りにきている。そういったことが現状だというぐあいに考えられます。 またES細胞と同じようなEG細胞というのもほとんど同じ時期に、雑誌としては 『PNAS.USA』という雑誌の去年の11月号に、Johns Hopkins大学のGearhart博士らのグ ループによって発表されました。アメリカのGeron社という会社がパテントを両方ともと っているわけですけれども、こういったつくり方とか、そういったものに対するパテン トはGeron 社が現在細胞株を持っております。Thomson博士のつくったのは、ヒトの新鮮 な卵子、あるいは凍結卵を人工授精しまして、そこから先ほどの胚盤胞のステージまで 培養して、そこから内部細胞塊をとってきて、そこからマウスと大体同じような方法で ES細胞をつくりました。幾つかのESの細胞株がつくられていますけれども、染色体 の変化もなく同じような性質をずっと保持し続けている。またいろいろな臓器に分化で きる。マウスでできたES細胞と非常に性質が似ているということが分かっています。  またEG細胞の方につきましては、胎生9週の人工中絶の胎児からつくっておりまし て、そこから始原生殖細胞をとり出して、マウスの細胞といろいろなサイトカインの存 在下で培養しまして、細胞株を樹立した。この細胞の場合も、20代以上継代しています けれども、性質は変わらない。未分化の状態を維持している。また、いろんな組織に分 化できるということがこの細胞においても確認されておりますので、マウスのEG細胞 と同じような細胞であろうというぐあいに考えられています。実際こういったヒトEG 細胞を用いた研究というのは、企業レベルでもいろいろなところで研究が始まっており ますし、また研究者レベルでも、ここに書いてあるだけでも、先ほどのWisconsin大学 とJohns Hopkins大学 のグループ以外にも、アメリカあるいはオーストラリア、イギリ ス、シンガポールとか幾つかやっているという便りを聞いておりますので、世界各国で 今この研究が始まっているというぐあいに考えられます。  実際ヒトES細胞を用いて日本で研究する場合の問題点ということに最後に少しだけ お話をしたいと思います。やはり一つは倫理的な問題というのは非常に大きな問題でご ざいます。いろいろな考え方がありますので、いろいろ難しい面があると思いますが、 そのときには、ES細胞株を樹立するための問題点、それからそれを使うときの問題点 ときっちり分けて考える必要があると考えられます。それから樹立する場合でも、Aと 書いてある余剰卵を使用するためのいろいろな問題点といいますか、規制とか、あるい はガイドライン、その辺をきっちりつくる必要があるだろうというぐあいに考えられま す。  それからまた、ここのところは厳密にやらないといかんわけですけれども、余剰卵を 生殖医療には絶対使わない。それからクローン羊というようなことが問題になっており ますけれども、卵の段階はそういうことに使うことは可能ですので、余剰卵を絶対そう いうことには使わないという、そこはかなり厳密な規制をする必要があるだろうと考え ます。ES細胞樹立の段階での問題点ということについては、ここについてもガイドラ インをつくったりする必要があるだろう。それからES細胞を樹立以外の目的では余剰 卵は絶対使わないというようなことを厳密にやっておく必要があるだろう。また余剰卵 を使うにあたっては、提供したお母さんあるいはお父さんのインフォームド・コンセン トをしっかりとったり、プライバシーの保護をしたりとか、あるいは施設内、場合によ っては国の審査機関というのが必要かもしれませんけれども、そういった厳密な規定の もとでやるということは当然のことでございます。  それからまた、これはどこでやってもいいのかという問題ですが、最初の段階は限定 した幾つかの施設で始めるべきだろうと私自身は考えています。それはそんなに多く必 要はないのだろう。せいぜい日本に二つとか、三つとかの施設で始めて、どうしてもそ ういったヒトのES細胞をつくりたいというような研究者はそこへ行って、そこで一緒 に研究をする、そういった形にしないと難しい面がいろいろ出てくるのではないかと考 えています。また当然そういったES細胞株を樹立するにあたっては、すべての倫理委 員会なり、そういったところは公開にして、プロトコールの内容もできるだけ公開す る。サイエンティフィックな面も少しありますので、すべてが公開できるかどうかわか りませんけれども、できるだけ公開の原則をとる。  それからまた、ES細胞の段階になってしまえばクローンとは全く違いますので、そ こを混同していらっしゃる方もいらっしゃると思いますけれども、卵の段階で扱う場合 は確かクローンということは非常に問題になりますけれども、ES細胞に樹立する。樹 立したES細胞を使うということではクローンとは全く違いますので、そこのところは 十分御理解していただきたいと思います。  それからまた、一旦できたES細胞を使うときには全く問題がないのかということも ありますが、それについても倫理規定なり、ガイドラインを使って、一応それに沿った ような形でES細胞というのは使うべきだろう。それから当分の間は使用可能な施設を ある程度限定していった方がいいだろう。そこでどういった研究が行われているかとい うことは一応公開すべきだろうというぐあいに考えています。それからまた当然きっち りした研究プロトコールをつくって、倫理委員会なり、国の審査機関に出す、そういっ たことが必要になるのではないかというふうに考えています。  それからまた、こういった問題は、当然社会的なコンセンサスを得るということは非 常に大事なことです。ただ、その場合には、やっていることをきっちり正直に科学的に 説明する。ちょっとおどろおどろしいような感じで受け取る方がいると思いますけれど も、それはそうじゃなくて、サイエンティフィックにきっちり理解していただけるよう に説明するということが一番大事ではないかというぐあいに考えられます。  それからEG細胞の場合は、樹立するときは人工妊娠中絶の胎児を使うという、また 違う倫理的な問題があるわけです。しかも非常に早い時期です。先ほどのJohns Hopkins の場合は9から15週というような非常に早い時期の胎児を使う。そのときの問題という のは、日本産科婦人科学会等でもいろいろその辺は詰めていただく必要があると思いま すけれども、きっちりした規程のもとに、あるいはガイドラインのもとにES細胞株を 樹立する必要があると考えられます。  ただ、一番下にありますように、既に樹立されているES細胞、EG細胞を使うこと についてはいろいろな意見があるわけです。ほかの細胞株、いろいろな臓器から細胞株 というのは樹立されているわけですけれども、それと、このES細胞とか、EG細胞と いうのはどこが違うんだというような問題がいわれるかと思います。分化した組織から つくった細胞と、細胞株ということでは非常に似ているわけですし、実際に現在私自身 でも、手に入れようと思えばアメリカから手に入れることができるわけです。それから また生殖医療やクローン羊など、ああいった技術とは全く違う技術である。しかも、そ れはES細胞、EG細胞から臓器をつくる、あるいは細胞をつくる、そういった非常に 限定した研究の中で使う。そこのきっちりした歯止めさえできれば、ある程度使っても いいんじゃないかという考え方を持っている人がかなり多く、私の知っている人の中に は非常にたくさんみられます。  ただ、日本の将来ということを考えた場合、いつまでもアメリカでつくったES細胞 あるいはEG細胞を我々はもらって、それで研究していくということで本当にいいのか どうか。日本でも十分議論をした上で日本人オリジンのES細胞、あるいはEG細胞を つくっていくような努力もしていくべきではないかと私は考えています。  最後のところで、なぜES細胞が研究の上に必要かということを羅列してありますけ れども、生命科学の基礎研究として極めて重要である。ヒトの臓器形成のメカニズムを 明らかにできる。各臓器の幹細胞というのを初めて同定でき、その増殖・分化機能を明 らかにできるだろう。ヒトゲノムプロジェクトの推進に必要不可欠だろう。新規のヒト 遺伝子の作用をこの細胞を使って同定できる。これからの創薬研究の大きな武器となり また動物に代わる薬の評価系ができるだろう。動物愛護にもなるだろう。また将来様々 な臓器移植のソースになり、また血液製剤をつくることが可能になってくるだろう。実 際そのような方向で各国で研究が開始されているということで、人によれば、21世紀は ゲノムと特にESを中心とした再生医療の時代だろうというぐあいに断言している方も いらっしゃいます。  以上でございます。 ○高久部会長  中畑先生どうもありがとうございました。また後でいろいろ質問させていただきたい と思いますので、よろしくお願いします。 引き続きまして、国立小児病院小児医療研究センターの鈴木盛一先生にお話をお伺い したいと思います。  鈴木先生の略歴を簡単に御紹介いたしますと、鈴木先生は、1970年に千葉大学を御卒 業になり、外科の方に進まれておられます。その後、筑波大学の方に移られ、さらにフ ランスのパリ・ボールブルース病院に行って研究されておられますけれども、1980年に 国立循環器病センターの実験治療開発部の方に研究室長として移られまして、1992年に 国立小児病院小児医療研究センター実験外科生体工学部長になられておられます。  本日はHuman embryonic stem cell のお話を伺うと聞いております。 鈴木先生よろしくお願いします。 ○鈴木部長  どうもありがとうございます。早速スライドをお願いします。 (スライド1:再生医学に向けた肝幹細胞の同定分離と羊膜細胞)  私たちの研究のテーマでありますけれども、主に肝臓です。肝臓の再生医学に向けた 研究を行っております。そこでは、当然ES細胞も視野の中に入れておりますけれども 現在はまだES細胞を用いた研究は進んでおりません。主に肝臓の幹細胞、肝幹細胞と いいますけれども、ちょっとわかりにくいので、肝幹細胞(カンミキサイボウ)という ふうにここではいいます。肝幹細胞の同定分離と羊膜細胞を利用した再生医療というこ とであります。  次のスライドをお願いします。 (スライド2:肝幹細胞の同定分離)  まず最初は、肝幹細胞の同定分離でありますけれども、これはまだ世界中で、この幹 細胞が同定分離されたという報告はありません。この同定分離に向けた研究というもの を現在やっているところであります。これはまた、現在筑波大学の臨床医学系の谷口先 生との共同研究でもあります。   次のスライドをお願いします。 (スライド3:In vitro Colony Assay of Hepatocyte Progenitor Cells)  肝細胞の分離でありますけれども、マウスを用いて行っております。マウスから肝臓 を取り出しまして、この肝臓から細胞を細かく分離しております。それをFACSといいま して、細胞分離装置にかけまして、肝細胞と思われる分画を1個取り出してきます。こ れをカルチャーすることによって大きなコロニーをつくる分画を選び出していきます。 そして、この分画から幹細胞としてのマーカーを同定しようとするものであります。  次のスライドをお願いします。 (スライド4:一個のCD45 ̄TER119 ̄細胞から形成されたクローン性コロニー)  実際にこれが取り出しました幹細胞と思われる分画の一つであります。これを試験管 の中で培養していきますと、だんだん細胞分裂して増殖していきまして、ちょっと見に くいのですけれども、6日目になりますと、このように大量の細胞コロニーを形成しま す。  次のスライドをお願いします。 (スライド5:一個のHPP-HCFUにおける分化マーカーの発現)  そのコロニーを、これはメッセンジャーRNAで見ているのですけれども、RNAの レベルで見てみますと、一つの細胞からつくられたコロニーが肝臓のマーカー、あるい は胆管のマーカー、あるいはそれ以外の細胞のマーカーというように、多分化能を持つ ということが示されたわけであります。  次のスライドをお願いします。 (スライド6:コロニーのアルブミン染色)  例えば、このコロニーをアルブミンで染めてみます。アルブミンを産生しているかど うかでありますけれども、一つのコロニーがこのようにアルブミンを産生しておりま す。  次のスライドをお願いします。 (スライド7:コロニーのサイトケラチン19染色)  全く同じコロニーでありますけれども、これはサイトケラチン19といいまして、胆管 を染める染色でありますけれども、全く同じコロニーが胆管の機能も持っているという ことです。このようにマウスから幹細胞と思われる分画を同定したわけでありますけれ ども、これを用いて、もっとはっきりしたマーカーをこれから突き詰めていく予定で す。そして、これが将来どういうものに使えるかということですが、次のスライドをお 願いします。 (スライド8:肝幹細胞の臨床利用における可能性)  臨床的には、現在、先天性の肝臓の代謝異常、スライドのようにいろいろありますけ れども、これの根治治療としては現在肝臓移植しかないわけです。しかしながら、こう した疾患の患者さんの場合は、自分の肝細胞の一部を取り出して、そこから肝幹細胞を 同定分離することにより、そこに欠損した遺伝子を入れ、それを戻すことによって完全 に治すことができる可能性があります。臓器移植をしなくても、治癒できる可能性が高 いということです。  次のスライドをお願いします。 (スライド9:肝細胞から作ったクローン臓器の臨床利用における可能性)  さらには、もっと将来の話でありますけれども、患者さんから、幹細胞を今と同じよ うに取り出しまして、その幹細胞の中に分化決定遺伝子を導入することによって試験管 の中で患者さんのクローン臓器をつくってやることができる可能性があるわけです。そ うしますと、つくったクローン臓器は全く自己と同じですので、移植することによって 拒絶反応は起こらず完治できるというものです。  次のスライドをお願いします。 (スライド10:羊膜細胞の利用) 次は羊膜細胞の利用です。これは国立精神・神経センター神経研究所 櫻川先生との 共同研究であります。  次のスライドをお願いします。 (スライド11:ラットの羊膜上皮細胞) これはラットの胎児を示しておりますけれども、ラットの胎児はこのように羊膜で包 まれております。この羊膜を拡大しますと3層になっており、内側の羊膜上皮細胞を用 います。  次のスライドをお願いします。 (スライド12:培養ラット羊膜上皮細胞のアルブミン染色) 羊膜上皮細胞は多分化能を持っておりまして、一つは、肝臓様の機能、もう一つは神 経様の機能を持つというところがあります。私たちは肝臓様の機能を持つことに注目し 肝臓の幹細胞と同等なものとして移植に使えないかということで検討を進めておりま す。これは分離してばらした細胞を培養したものでありますけれども、このように赤く ピンクで染まる細胞、これは全部アルブミン染色でアルブミンを出しております。肝臓 のような機能を持つ細胞であると考えられます。  次のスライドをお願いします。 (スライド13:培養ラット羊膜上皮細胞の蛍光標識;PKH26色素)  それで、この羊膜細胞を色素染色します。すなわち、マーカーとして染色するので す。そしてこれをラットに移植してみました。  次のスライドをお願いします。 (スライド14:蛍光標識ラット羊膜上皮細胞の肝内移植;移植後8日目) これはラットの肝臓の門脈を通して肝臓の中に投与したものです。そうしますと、拡 大図では染色した羊膜細胞がラットの肝細胞の中で生着して生存していることを示して おります。肝臓の細胞の中で羊膜細胞が十分生存するということがこれで示されまし た。  次のスライドをお願いします。 (スライド15:培養ラット羊膜上皮細胞への遺伝子導入;AdexlacZ) 羊膜細胞には遺伝子導入も可能で、スライドは試験管の中で、羊膜細胞の中に、大腸 菌のベータガラクトシダーゼという酵素の遺伝子を導入したものです。遺伝子導入しま すと、青に染まるのが全部そうでありますけれども、その酵素が大量に発現していると いうことが示されました。  次のスライドをお願いします。 (スライド16:ヒト羊膜上皮細胞を用いた実験に際して倫理面の配慮)  そのようなことをもとに、ヒトの羊膜細胞を用いての研究も同時に進めております。 この研究は、当然のことながら、ヒトの材料を使う研究ですので、私たち国立小児病院 の倫理委員会に申請をし、一定の条件のもとに許可を得て行っております。  次のスライドをお願いします。 (スライド17:ヒト羊膜上皮細胞の特徴)  ヒトの羊膜上皮細胞の特徴ですけれども、羊膜組織の状態ですと、インスリン様成長 因子を出しておりますが、肝細胞の特徴でありますアルブミン、アルファ・フェトプロ テイン、アシアロ糖蛋白リセプターといったものは全く発現していません。ところが、 それをばらばらにした細胞を培養していきますと、経過とともに、肝臓の特徴であるア ルファ・フェトプロテイン、アルブミン、アシアロ糖蛋白リセプターが発現してきま す。しかも、おもしろいことに、組織適合抗原のクラス2抗原が全く発現していま せん。それはサイトカインで刺激しても発現してきません。それからクラス1抗原が弱 陽性であるということから、移植に用いた場合に拒絶反応が起こりにくい可能性があり ます。しかも、培養が60日位まで可能です。  次のスライドをお願いします。 (スライド18:培養下のヒト羊膜上皮細胞;培養25日目)  これは25日目の培養の組織像です。このようにびっしりと羊膜上皮細胞が生えており ます。  次のスライドをお願いします。 (スライド19:ヒト羊膜上皮細胞の培養中へのアルブミン分泌)  培養上清中には、9日をピークにアルブミン産生がみられます。  次のスライドをお願いします。 (スライド20:免疫不全マウス(CB17-SCIDマウス)を利用したヒト羊膜上皮細胞の肝内 移植)  この羊膜細胞を拒絶反応を起こさないSCIDマウスの肝臓の中に、門脈を通して投与し てみました。そうしましたところ、このマウスの肝でヒトの羊膜細胞がアルブミンを産 生しており、生着しているということが認められました。ヒトの羊膜細胞が生体内で生 着し、増殖することを示しているわけです。  次のスライドをお願いします。 (スライド21:マウス肝内に定着したヒト羊膜上皮細胞) アルブミンばかりではなくて、アルファフェトプロテインもこのように陽性に出てい ます。それからもう一つ、試験管の中で遺伝子導入した羊膜細胞でありますけれども、 これも先ほどと同じようにベータガラクトシダーゼの酵素を入れたものですが、これを 投与しましてもマウスの肝臓の中で生着して酵素を発現するようになります。遺伝子導 入が可能であるということです。  次のスライドをお願いします。 (スライド22:ヒト羊膜上皮細胞へのUDP-グルクロン酸転移酵素遺伝子導入による ビリルビン抱合能の出現;GUNNラット由来変異肝細胞との共培養実験) GUNNラットは、ヒトのクリグラー・ナジャール症候群のモデル動物です。間接ビリル ビンの代謝が行われずに、全身にビリルビンが蓄積し、ヒトで最も重篤な例では大脳の 基底膜に沈着して致死となる重症な疾患であります。GUNNラットの肝臓を試験管の中で 培養しますと、間接ビリルビンのピークだけが出てきますが、ヒトの羊膜細胞にその酵 素を遺伝子導入したものを共培養しますと、抱合型のビリルビンが初めて出てきます。 羊膜上皮細胞に遺伝子導入して、このような疾患を治療させる可能性があることを示し ています。  次のスライドをお願いします。 (スライド23:羊膜上皮細胞の利点)  羊膜細胞について利点をまとめてみますと、ヒト由来の細胞として技術的、倫理的に 無理なく採取できるということが一つに挙げられます。帝王切開で得られた胎盤から採 取するのですけれども、現在の臍帯血の採取と同じように、赤ちゃんが無事生まれた後 に要らなくなった胎盤からいただけるということです。それから培養が1ケ月ほど可能 です。細胞にばらして凍結保存が可能ですので、細胞バンク化ができるという利点もあ ります。それから神経幹細胞、あるいは肝幹細胞様の性質を示すものがあることから、 これらを使い、再生医療へ応用の可能性があります。肝内への生着が可能で、遺伝子導 入も可能であるということなど様々な利点があり、ヒトに応用できる可能性も高いとい うことです。  次のスライドをお願いします。 (スライド24:ヒトES細胞の応用の可能性) 今お示ししましたような肝幹細胞、あるいは羊膜細胞を用いる肝再生療法というもの は、ヒトのES細胞を用いれば、もっと容易にできる可能性があります。先ほど中畑先 生がお話ししたように、細胞移植のドナーとして様々な細胞に分化・誘導させることも できるわけで、また、かなり先の将来だと思いますけれども、臓器形成を試験管の中で 誘導する可能性もあります。近未来的にはバイオ人工臓器開発のコンポーネントとして の利用もできます。  次のスライドをお願いします。 (スライド25:ヒトES細胞に関する倫理的争点) そんなES細胞に関する倫理的な争点をまとめてみました。詳しくはお手元のパンフ レットの中に書いてありますけれども、ここでは簡単に要点だけを御説明します。もち ろんES細胞固有の争点というのがありますが、多くの場合は体外受精とか、クローン 技術での争点と共通点があります。それゆえに、クローン問題で議論がほとんど出尽く されたという感じもあり、欧米での反応はそれほど高くないのが現状ではないかと思わ れます。  次のスライドをお願いします。 (スライド26:ヒトクローンに関する各国、各機関の対応) ヒトクローンに対する欧米各国各機関の対応でありますけれども、欧米といっても、 米国とヨーロッパでは非常に異なった面があります。生命倫理に関する基盤は、ヨーロ ッパでは宗教的倫理に基づいたものが多いように思われます。ヨーロッパ各国では、国 の宗教の主教派というのがほぼ決まっており、国全体としての統一した意見が得やすい ということで、法律によって禁止していることが多いようです。ヨーロッパ各国におき ましては、ヒトのクローンをつくることに対しては法的には禁止しております。またヒ トのキメラとか、ヒトのハイブリッドをつくることも禁止しているところが多くみられ ます。イタリア、オランダでは、ヒトばかりではなくて、動物のクローンも禁止してい るようです。これに対して、米国ではどうかということであります。米国の場合は多民 族国家、多宗教国家ということで、国家レベルでそれを規制することができないという のが現状ではないかと思います。そうした研究に対して研究費を出さないということで 規制していることが現実です。  次のスライドをお願いします。 (スライド27:ヒトの受精卵の成熟過程(受精後 4 1/2日))  これは先ほどの中畑先生のお話と重なると思いますが、ヒトの受精後の受精卵の成熟 過程をみたものです。30時間で2細胞期、40時間で4細胞期、4日で桑実胚になりま す。スライドは4日半の断面図でありますが、内細胞塊と外細胞塊ができてきます。内 細胞塊が胚結節で、そこからES細胞がつくられます。受精後、約6日目で子宮に着床 します。  次のスライドをお願いします。 (スライド28:胚研究を含む生殖医療において 世界的に定着しつつある自然科学的見解)  胚研究を含む生殖医療において、世界的に定着しつつある自然科学的な見解としては おおよそこんなところではないかと思われます。体外受精に関しては、受精後2週間以 内のヒト初期胚の研究利用は概ね認めていると思います。これは未分化組織の集合体と しての認識があるものと思われます。クローン技術に関しては、先ほど申しましたよう に、欧米主要各国では原則禁止、米国ではモラトリアムによる規制、中国、ロシアをは じめとするこれ以外の国では情報不足で分かりません。次に、受精後2週間以内の胚と いうものがどういうものであるかということですが、次のスライドをお願いします。 (スライド29:ヒト胚発生第2週末) ヒト発生第2週末のヒト胚の断面図です。ここに胚盤葉上層と胚盤葉下層があります が、これを上方から見てみますと、右図のようになります。原始線条がちょうどでき始 めるころです。  次のスライドをお願いします。 (スライド30:ヒト胚15日胚子断面図) 前期の図を断面で見てみますと、原始線条が脊索前板に向かってできていき、そこか ら細胞がちょうど胚盤葉下層と胚盤葉上層の間に嵌入しています。胚盤葉下層が内胚葉 それから上に中胚葉、その外側が外胚葉となります。すなわち臓器、組織を形成する原 基ができ上がる時期と考えられるからです。  次のスライドをお願いします。 (スライド31:ES細胞の特性に関する倫理的争点)  倫理的争点を少しまとめてみました。一つは先ほどの議論と同じでありますけれども ES細胞核は既存の細胞核と同等の扱いでよいのではないかという意見があります。す なわち、それ自身が胚に戻ることはないということが根本にあり、分化した組織から樹 立した多くの細胞株とどこが違うのかという意見であります。もう一つは、体外培養で 用いる限り、ヒトクローンの問題から切り離されて倫理的に容認されるのではないかと いう意見もあります。その背景としましては、細胞移植のためのマテリアルとしての利 用が可能であること。あるいは医薬品開発などのためのテストシステムとしての利用が 可能であることなどが挙げられ、それによって、動物実験が少なくできることから動物 福祉の推進にも極めて大きいと考えられます。結果的により多くの人の福祉に対する社 会的貢献が大きいという意見であります。また、理論的には自分の体細胞核を除核した 卵子に移入し、自分のES細胞をつくることが可能でありますが、自分のES細胞を自 分の移植に用いる場合は承認されるのではないかという意見もあります。  それから動物の卵子を使い、除核した動物卵子にヒトの体細胞核を入れた場合、そこ からつくられたハイブリッド胚は果たして容認されるかどうかということも挙げられま す。すなわち動物のハイブリッド胚というのは、果たしてヒト胚といえるのかという意 見であります。  次のスライドをお願いします。 (スライド32:米国でのヒト胚を用いた研究:公的研究費使用の禁止(モラトリアム)) 米国では、先ほどのGeron 社の話でありますけれども、これについては詳しく中畑先 生がお話しされましたので申し上げませんが、結局民間資金を財源とした場合、その所 有権が会社にライセンシングされます。そうしますと最終的には国民の福祉とか、公的 な活用の障害になるのではないかという意見も出てきております。  次のスライドをお願いします。 (スライド33:アメリカの現状(各資料より取りまとめ) )  アメリカの現状を各資料からまとめて考えてみますとこんなことだと思います。ES 細胞の研究開発に対しましては、94年のNIH所長あてのHuman Embryo Research Panel の報告で、胚が明らかに研究目的でつくられるのではない限り容認されるという意見を 出しております。現在は胚を用いた研究に対しては、公的研究費の使用は禁じられてお りますが、将来、研究助成が行われた場合、既存のES細胞を利用した応用研究に助成 が行われるかどうかということは現在のところで不明です。連邦レベルでガイドライン をつくるべきであるという論評もあります。それからNIHの反応としては、現在のと ころ、公的助成は行わないということですけれども、『Science 』誌のインタビューに 対して、Legal Counsel のトップ側近の話として、「ES細胞は既に胚へと発育しない 細胞であるから、胚細胞に関する法律から免れるかもしれない」という意見を述べてお ります。  それから先ほどEG細胞のことがありましたが、EG細胞は始原生殖細胞からつくら れたものです。これは「受精卵」ではなく、「胎仔組織」に由来することから、法律上 同じ問題を有しているとはいえず、それは胎児の扱いに関する議論となるとする意見が あります。またGeron 社では独自の倫理審査委員会を設けているそうです。そこには、 五つの宗派の代表者から構成されているということです。  以上ES細胞の研究を取り巻く現状について簡単に御説明しました。どうもありがと うございました。 ○高久部会長  鈴木先生どうもありがとうございました。  予定では、中畑先生・鈴木先生にいろいろ質問をさせていただくことになっておりま す。お2人に同時にでもいいのですけれども、順番として、まず中畑先生に質問をさせ ていただいて、あるいは中畑先生の方からも、まだ言い足りなかった点を追加していた だきまして、その後、鈴木先生の御報告にいろいろ質問をさせていただきたいと思いま すので、よろしくお願いいたします。  それではまず最初に、中畑先生のお話に対しまして、どなたか御質問おありでしょう か、おありでしたらどうぞ御遠慮なく。 ○寺田委員  マウスのES細胞なんか扱っていますと、LIFなんか濃度変えたりしますとゲノムの不 安定性は非常によくおきますね。ヒトの場合、造腫瘍性ということに関してはどれほど まで、あるいはゲノムの安定性はどのぐらい分かっているわけでしょうか。 ○中畑教授  その辺についてはWisconsin大学のThomson博士とJohns Hopkins大学のGearhart博士の ところしか今のところレポートとしてはないわけですけれども、あるいはそれを少し応 用したという話は聞いていますけれども、少なくともヒトのES細胞も8か月以上ずっ と培養していったけれども、染色体の変化は全くなかった。すべて46XXなり46XYで 染色体の核型異常も表れなかったということ。それからテロメアの長さなども余り変化 はなかった。ただ、同じ培養条件下で培養していても、一部分化した細胞がその中から も出てくるようなものもある。それと、クローンの違いも少し違いも少しありそうだと いうようなところでありますけれども、先生が今御指摘のゲノムの不安定さについて、 まだ詳細に検討した報告は私の知る限りはないと思います。 ○寺田委員  何に対してパテントをとっているわけですか。要するにES細胞をつくること、ある いは今売り出しているES細胞に対してパテントをとっているのか、あるいはつくり方 か、あるいはグロスファクターに対して持っているのか、どこにパテントなのかお教え ください。 ○中畑教授  私の聞いているところでは、あの方法でつくるつくり方も一応パテントの中には入っ ている。ちょっとパテントを見ていませんし、公開されているかどうかまだ分からない のですが、つくり方も一応パテントの中にインクルーズされているということを聞いて います。ただ、あそこで使われているサイトカイン、あるいはES細胞の場合はLIF、そ れからマウスの胎仔のファイブロブラストを使っているわけですけれども、それ自身は 別にそう新しいことではないし、ほかのモンキーなんかのES細胞をつくる段階でも使 われていますし、ほかのグループでもやられていますので、そこは恐らくパテントの対 象にはならないと思います。彼らが樹立したES細胞を使って、これから新しいものを 発見していくというものは一応パテントの対象となるのだろう。  けれども、ただ、去年聞いた話だと、向こうとしても、どういった形でこれが医療と して、あるいは物とりの形で利用されていくか分からない。要するに共同実験というよ うな形である程度そこで発見された知識をシェアしていくような形で進むのではないか というようなことも一部聞いています。時間とともに向こうの考え方も変わってきてい るかもしれません。  今年の初めぐらいに聞いたところでは、一応細胞を出す。例えばそこから神経の幹細 胞を見つけた。その性質はこういう細胞だということを見つけた。その細胞をこういう 条件で培養すれば神経だけができるというような条件をつくったというようなことにな れば、その場合は恐らくパテントをシェアするというような形で進むだろうというぐあ いにその時点では聞いております。 ○寺田委員  今のお話に私も賛成です。しかし日本の中で独自の、例えばヒトのES細胞をつくる ということに関しての利点は何でしょうか。今言ったような個々のES細胞そのもの、 あるいはそれからできるであろう血管とか、そういうものに対してすべてパテントがカ バーされるようなパテントだったら別ですが。そうぎりぎり言わなくても、ある程度パ テント代を払ってやるというのも一つの考え方ですね。ところが、それぞれの大まかな 包括的なパテントじゃなくて、おっしゃるようにLIFとか、フィーダーレィヤーとか新し いものを作り、自分でちゃんと別のES細胞をつくると、それはパテント問題外である というなら、そうなるとまた違う話になってきますから学問的な話ではないですが、そ れでお聞きしたんです。 ○中畑教授  また公開されたら、できるだけ早く見たいと思っていますけれども。 ○高久部会長  ほかにどなたか御質問ございますか。 ○廣井委員  これからの見通しを教えていただきたいんですけれども、私ども着床前診断でデュシ ャンヌ型筋ジストロフィーはなかなか難しい病気であるというようなことで、先生の表 の中にも出ておりますけれども、こういうES細胞などを使うことによって何年ぐらい までに治療できるかということがもしある程度分かれば教えていただきたいと思ってお ります。 ○中畑教授  治療という段階は恐らく早くても数年先になるのではないかと考えられますけれども ただ、ものによっては、例えば先ほどの神経なんかだと、テラトカルチノーマという腫 瘍細胞を実際入れていますので、そういった特殊な分野は意外と早くESからつくった 神経細胞を実際に医療に使うということが出てくるかもしれません。私自身はES細胞 から各臓器がつくられてくる道筋というのを明らかにして、例えば神経だけをつくる条 件、あるいは心臓だけを、筋肉だけをつくるような条件というのをしっかり同定してや っていく必要があるのではないかと思います。といいますのは、ES細胞という未分化 の性質を保持した状態の細胞が少しでも混ざっていると、その細胞を患者さんに戻した ときには、テラトカルチノーマという病気を逆につくる可能性があるわけです。だから ES細胞から分化した細胞だけをつくってくるという条件をきっちり、要するにサイエ ンティフィックに、今はできるだけ早くそういう研究をやる必要があるのではないか。 その研究を急いでやらなければいけないというぐあいに私は考えています。 ○高久部会長  お伺いしたいのですが、将来医学的応用が可能になったときに、お金(パテント料) を払わなければならないという問題が当然おこると思います。日本でもES細胞の研究 を進める必要はあると思うのですが、医療だけの面からいいますと、お金を払えば外国 製のES細胞でも良いということになりますか。 ○中畑教授  こういった細胞への核移植の技術というのはまだ確立されておりませんので、これは 将来ということで資料には書いてあるわけですけれども、当分はいろいろなHLA、日 本人のHLAの型を持ったようなES細胞というのが近未来の臓器移植を考えた場合は 必ず必要になるだろうというぐあいに考えられます。 ○高久部会長  ただ、ロスリンとGeron社 とが会社をつくってES細胞に核移植をするという事がも う始まっているので、意外と早くできるかもしれないですね。 ○中畑教授  かもしれません。 ○金城委員  3点ばかり伺いたいんですが、まずGeron社からそういうふうに売りましょうと来て、 日本で買った人はいるのかどうかということです。それから2番目は、これはミスプリ ントだと思うんですけれども、オーストラリアのPera博士がやっていらっしゃって、ど この大学なのかということです。それから3番目は、EG細胞は胎児の細胞からつくる ということですけれども、人工妊娠中絶の仕方、いろんな方法があると思うんですけれ ども、それと、EG細胞をつくるもとを取り出す場合に関係があるのか。どんなやり方 で人工妊娠中絶をしても取り出せるのか、その3点を伺いたいと思います。 ○中畑教授  人工妊娠中絶の仕方というのは私も専門外ですので、むしろ産婦人科の先生にお答え いただいた方がよろしいかと思いますけれども、少なくとももJohns Hopkins 大学でつ くったEG細胞については、人工妊娠中絶をした胎児からとったということで、恐らく 普通の人工妊娠中絶の胎児からとったのではないかというぐあいに考えていますけれど も。 ○高久部会長  Pera大学となっているけれども、この名前の大学があるのですか。 ○中畑教授  オーストラリアのMonash大学のPera博士です。 ○高久部会長  あともう一つ、日本の研究者でGeron社から買った人がいるかどうか御存知ですか。 ○中畑教授  一応僕のところにも何社かから相談があったんです。日本の企業で3社ぐらい、そう いう話があるというから、どうしたらいいかという話が、一番最初にあったのは去年の 6月です。その時点では将来どういうかっこうになるかわからないし、企業のイメージ という問題もありますし、かなり慎重にした方がいいのではないでしょうかという話を しました。水面下で買われた会社があるかもしれませんけれども、私の知る限りは、日 本で手に入れているということは聞いておりません。ただ、手に入れようと思えば可能 な状態でございます。 ○高久部会長  EG細胞をつくるときの、人工流産の方法で特別にこういう方法でなければ始原生殖 細胞をとれないということはないと思いますが。廣井先生そうですね。 ○廣井委員  恐らく人工妊娠中絶がかなりやられていますから、それからつくることは容易にでき るんじゃないかと思うんですけれども、これはその人の、よくデザイナーベビーと言わ れて、子どもがおかしくなったから弟か妹をつくって、その子どものために、移植をす るためにつくるというようなことではなくて、一般的なもので使えるわけですね。 ○中畑教授  そういうことでは全くありませんで、一般的に利用するということでございます。 ○廣井委員  大きな問題はないと思います。 ○高久部会長  それでは時間の関係もありますので、次には鈴木先生のお話について御質問のある方 はどうぞ御遠慮なくお願いしたいと思います。 ○松田委員  質問じゃないんですけれども、先ほど最後におっしゃっていたGeron社が別につくって いるという倫理委員会ですが、ここに3月、4号のヘイスティングリポートがその特集 になっていまして、それにあるんですけれども、極めて短いんです。ほんの6項目ある だけで、読んでも当たり前で、例えば先生がおっしゃったように胎児にして子宮に戻さ ないとか幾つか書いてあります。フィーダーレアのときに注意しなければいけないこと がいろいろ書いていますけれども、ちょっとこれだけでは実際の有用性は余りにもオー ソドックスというか、当たり前の内容だと思うんです。もし実際に考えるなら、確かに でき上がった細胞を使うことに関しては先生のおっしゃるとおりで余り問題ないと思う んですけれども、つくる過程がかなりいろんな問題が出てくると思うんです。  御存じと思いますけれども、これは新聞の話だからあてにならないけれども、今日の 日本経済新聞を見ていますと、つくるときに関してはアメリカ政府はお金を出さない。 でき上がった細胞の研究に関しては出すということをちょっと書いていますけれども。 ○高久部会長  それは間違いで、大統領のナショナル・アドバイザリーボードの報告ではES細胞を つくるのに政府のお金を出すようです。これはもちろん議会の承認を得ていませんが、 ただ、受精卵をリサーチのためだけにつくる事には反対である。余剰の受精卵を使って ES細胞をつくる事についてはアドバイザリーボードとしてはオーケー。ただ、議会の 反対がありますから、本当にそれが可能であるかどうかというのはまだ分からないとい うのが最新のニュースのようです。 ○松田委員  そうですか。 ○鈴木部長  1月のNIHの発表ですと、幹細胞の研究と胚細胞というのは明らかに分けてあって 幹細胞の研究は助成を出すという方針ではないかと思います。 ○高久部会長  ES細胞についても余剰胚を使うES細胞の研究に政府の研究費を使う事を認める報 告書を数日前のインターネットのニュースで見ました。基本的にはNIHのバーマスな どの方針をサポートする事になります。 ○松田委員  確かに細胞を壊すことなるので、問題があるということに関してはかなりディスカッ ションをしていますね。 ○高久部会長  あと鈴木先生にお伺いしたいんですが、oval cellという細胞が肝臓の幹細胞になるわ けですね。ごく最近、ラットで骨髄中にoval cellの幹細胞があるという事が報告されて いましたね。ヒトでも骨髄や臍帯血中に肝臓の幹細胞がある可能性がありますね。 ○鈴木部長  可能性は十分にあると思います。特に、骨髄幹細胞は筋肉の方にも分化するというこ とが云われて、いろいろな組織に分化する可能性があると思います。 ○高久部会長  その中に肝臓が入っている可能性があるわけですね。 ○鈴木部長  はい。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。 ○金城委員  前の先生に伺った方がいいかもしれないのですけれども、このES細胞については、 日本に対する特許はどうなっているのでしょうか。アメリカと日本は違いますよね。製 品特許というのは日本はやっていませんよね。そういうことで若干違いがあるし、将来 この問題を対処するのに、日本で特許などについてどうするかというのはすごく問題に なると思うんです。それは法律家の責任だと思うんですけれども、先生が御存じのとこ ろがございましたら教えていただきたいと思います。 ○中畑教授  日本での特許がどうなっているかということについてちょっと僕は知りませんけれど も、国際特許という形で日本の特許庁にまでそれを申請をしていることは、まだ今の段 階ではないのではないかというような気もしますけれども、私、正確には分かりま せん。実際もし特許がどこまで及ぶか。細胞の特許というのは非常に曖昧なところもあ りまして、その細胞を使ってある物質がとれたという場合は、恐らく物質特許の方が優 先してしまいますので、これから日本でES細胞をつくって、そこからある特定の新規 の物質をとったといった場合は、恐らくその物質特許の方が国際的にも優先すると僕は 考えております。 ○高久部会長  Geron社が言ってきているのは細胞を買えということですね。 ○中畑教授  細胞を買えということです。 ○寺田委員  鈴木先生のヨークザックの話、おどろおどろしい話ですけれども、それの所属、要す るにこの培養細胞でもいっぱいとって、何か有用なものが出たら、もともと培養細胞を エスタブリッシュした人にある程度権利がいくとかありますね。ヨークザックの場合は どういうふうに考えておられますか。 ○鈴木部長  インフォームド・コンセントをとるときは、患者さんに対しては、提供することによ って、いかなるデメリットもメリットもないということは書類で書いていただいており ます。 ○高久部会長  ほかにどなたか。 ○入村委員  少し前の議論とちょっと関係があるんですが、研究が進むにつれて、アダルトのbone marrow stem cellでいろんなことができるということもわかってきて、ヨークザックの 話というのも、ある程度までディベロップしたエンブリオ由来のものである。ですから これは研究というか、学問が進むに従って、ES細胞でなければできないことと、アダ ルトなもので、できることと実現可能なことが分かれてくるのではないかと思うんで す。それを明らかにするためにも、今はES細胞を使うことが是非必要だというのが私 の理解なのですが、そのあたり、将来的にはどの辺までES細胞というか、非常に早い ものが必要なのでしょうか。難しい質問ですが。 ○中畑教授  確かに先生御指摘のように、私もちょうど血液の幹細胞というのをずっと長年研究し ているのですけれども、非常に限定され血液しかつくらない細胞だろうというぐあいに 考えていたのですが、その範囲というのがだんだん広がってきているというのが現実で ございます。骨髄の幹細胞を使って、本当に臓器をつくるようなレベルまで可能かどう かということになりますと、私自身はかなり懐疑的でありまして、やはりそういった臓 器というようなレベルのものをつくるには、もうちょっと幼弱なES細胞とか、あるい はその臓器に限定されたstem cell を使うような形でしかいかないのではないか。臓器 に限定されたstem cell というのが、どこまで増殖能をもって臨床に使えるぐらいの臓 器形成までいけるかどうかということについてはまだちょっとわからない点が多いので はないかと思います。先生御指摘のように、しばらく両方いろいろな形で学問というも のを進めていかなければいけない。ES細胞を使った学問も当然進めなければいけない し、また各臓器特有のstem cell を同定したり、その増殖因子を探したりするような研 究もしていかなければいかんだろうし、あるいはそれ以外の多方面での研究を進めてい くという、そういった意味でES細胞の研究というのは必要ではないかというように考 えています。 ○鈴木部長  私もそのとおりだと思います。今、臓器特有の幹細胞というものは骨髄幹細胞以外は ほとんど見つかっていないわけです。どっちから攻めていった方が早いかというと今の 時点ではどちらとも言えないということで、やはり両方から攻めていかなければいけな いのではないかという感じがします。 ○高久部会長  両先生のおっしゃるとおりで、ただ、自分自身のstem cell からという研究は最近も のすごく進んでいまして、先ほどの骨髄から肝臓の細胞ができるというのも今年の報告 ですし、更に今年になって骨髄から心臓の心筋細胞ができるとか、あるいは筋肉の細胞 も動物ではできるとか、それから脳の脳室や、脊髄を覆っている膜の細胞の中にニュー ロナルstem cellがあるとか報告されています。ですから、本当に両方競争で、どっちが 先かということは分からないと思います。ES細胞で一番問題になるのは、先ほど中畑 先生がおっしゃったように、確か3%他の細胞がまじっているとテラトカルチノーマに なる。ですから、100 %ピュアにしないとES細胞から分化した細胞を臨床的な応用が できないというテクニカルな問題を克服しなければならないという点はあります。両方 で攻めてやっていくというのはやむを得ないと思います。 それから、臓器に関しては既に動物で血管や膀胱などはできています。自分の細胞を 使ってポリマーのスキャホールドを使って組み立てていく。膀胱などは簡単な入れ物で すからいいのかもしれません。生体内で結構役に立つのができています。この分野の先 端医学の進歩は我々が想像できない速さです。その事がまた同時にいろいろな倫理的な 問題も起こしてくる可能性があるというのが現状ではないかと思います。  まだ二、三分ありますからどうぞ。 ○柴田委員  ちょっとその問題に関して一般論でお聞きしたいので、お2人のうち、どちらでもお 答えいただければいいと思うんですけれども、ES細胞に限らず、いわゆる倫理的な問 題を含む生命科学の、いわゆる際どい医療技術、そういうものの研究の最大の歯止めは 公開性の確保だと思うんです。公開性の確保ということに対して、先ほどのお話のパテ ントとか、あるいはパテントだけではなくて、研究のプライオリティの確保のための秘 密性とか、そういうものが公開性を阻害するおそれがというようなものがいろいろ考え られると思うんです。そういう意味で、公開性の確保というのはどういう形で考えてい かなければいけないのか。実際に研究なさっている方々はどんなに道筋を考えていらっ しゃるのか、一般論としても結構ですからお答えいただけたらと思うんです。 ○高久部会長   お二人どちらでも結構ですが。 ○鈴木部長  私たち研究者として公開性というのは、自分の行った研究を逐次学会で発表するとい うことが公開性だと思っております。だから、それが完成されたものにならなくてもい いわけで、その経過の各段階で学会等で公表していくということが公開であると思って おります。 ○中畑教授  純粋な意味でのサイエンティフィックな成果ということは公開性がなかなか難しいと ころがあります。少なくともES細胞を使って、こういった研究をやる。少なくともス タートの時点ではそれは全面的に公開して、こういった方向で私はこういうことをやっ ていくんだと、あるいはES細胞をつくるという段階でも、こういう目的で、こういっ た方法でES細胞をつくっていくんだと、そういったことは公開の場できっちりすべき だろう。できた細胞を使って、そこから新しいサイエンスをつくっていくという段階で は、すべて公開するということはなかなか難しいのではないかと思います。 ○鈴木部長  公開のことでもう一言よろしいでしょうか。今、中畑先生がおっしゃったとおりで、 最初にどういう方向で、どういうものを使ってやっていくんだということを我々は倫理 委員会に審査を仰ぎます。その倫理委員会自身が公開性になっているかどうかという問 題だと思います。倫理委員会が公開になっていれば、その辺のことも余り問題にならな いと思います。 ○柴田委員  それで結構だと思うんですけれども、その場合にそれを阻害する要因が、パテントだ とか、ほかに考えられることはないかどうかということなんです。特にこういう研究を 始めるというところで、その公開性がきちんと確保されないとまずいのではないか。そ の場合に公開性には二段階あるだろうと思うんです。今おっしゃるように倫理委員会に 公開する。倫理委員会がパテントその他について、どうしても社会的には秘密にしなけ ればいかんことは、プライバシーやなんかもあるでしょうけれども、そういうものは確 保する。だけれども、倫理委員会にはきちんと報告するというような公開性、そういう 二段階性はあるだろうと思うんですけれども、そこのところのそれを阻害する要因は何 かないだろうかという心配なんですけれども。 ○高久部会長  動物実験のレベルの場合には余り問題にならないと思いますが、ヒトの場合には当然 倫理委員会にかけなければならない。それはどんなことでも当然かけなければならない と思います。  それでは、そろそろ時間がきましたので、これで終わらせていただきたいと思いま す。  お2人の先生方には、お忙しいところ時間をお割きくださいまして、我々に勉強させ ていただきましてどうもありがとうございました。  引き続きまして、事務局の方から報告がありますので、よろしくお願いします。 ○事務局  お手元の資料の3でございますが、2ページめくっていただきますと、平成11年7月 13日という日付で「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本戦略」という文章が公 表されております。これは本年1月に我が国の産業再生計画という今後の方針が閣議決 定されました際、科学技術庁長官、文部大臣、厚生大臣、農林水産大臣及び通商産業大 臣の5大臣によりまして、「我が国のバイオテクノロジー産業の創造に向けた基本方 針」というものが申し合わされております。その基本方針の概要につきましては、この 資料3の一番末尾に抜粋をつけてございます。ここでは1月29日の5大臣申し合せに基 づきまして、具体的な戦略計画を各関係省庁におきまして練ったものを3ページ以降、 約17ページにわたるものとして取りまとめております。これはあくまで産業創造に向け た基本戦略ということでございますが、このバイオテクノロジーということが、応用の 面におきまして、この部会において御審議いただいております先端医療技術等と深く関 連しておるというところがございますので、本日もES細胞の、あるいはES細胞その 他の幹細胞についての利用の問題について専門の先生からの御講演をいただいたように 非常に関連の深い面がございますので、御紹介申し上げたいと思っております。 大部のものでございますで、1ページ、2ページの概要の方をもちまして御説明させ ていただきたいと思っております。  この産業再生計画のうちのバイオテクノロジー産業につきまして、向こう5年間程度 を見通した長期的な戦略ということで、この関係の5省庁が協力して当たっていくとい うこととともに、これが将来の我が国の産業創造に向けて、所要の資金を国として投入 していくということがまず初めに述べられております。  この産業化の加速的促進のための具体的施策といたしまして、四つの分野に分けて提 言がなされております。この中で、まず産業創造のための基盤整備ということでは、ヒ トゲノムをはじめといたしましたゲノム解析の加速度的な促進と、ヒトゲノム解析につ きましては2010年と言われていたものが、最近では2001年にもシークエンスーについて は解析がどんどん早まっておりますけれども、これに関連して我が国におけるゲノム解 析についても更にスピードアップを図ろうというものを、またこれに関連いたしまして 特に厚生省関連ではやはり疾患関連遺伝子、あるいは薬剤反応性に関連する遺伝子とい った疾病とその治療に関連いたしました分野について力を傾注していきたいということ が述べられております。またこのようにせっかく解析を進めましても、それがばらばら に発表されているだけでは役に立ちませんので、それを知的基盤の充実とネットワーク 化によりまして、日本全国或いは世界中の方々が利用できるような形に取りまとめてい こうというものがその次でございます。また、そういった非常に膨大な生物関連情報を 取りまとめる、いわゆるバイオインフォマティクスというものについても、これを充実 させる必要があるとしております。  次に、2ページ目でございますが、このような技術開発がなされて、知的所有権化さ れました場合に、それを産業化する段階、すなわち学問から産業へ転化する際の事業化 支援、あるいは技術支援といった点が次の項目で出てきております。すなわち国立試験 研究機関、病院あるいは大学等で研究されました新しい発見というものを知的所有権化 するとともに、これの産業化を支援していくということが述べられております。  また3番目の分野といたしまして、このようなバイオテクノロジー全体の環境整備と いう点でいろいろなことが述べられています。その中でも、とりわけ安全の適正な確保 と規制の適正化ということが述べられております。このような研究を推進する上で、今 日の先生方からも御指摘がありましたとおり、この安全性の確保ということ、またそう いったことの応用において十分な安全性確保を図るということともに、過剰な規制にな らないということも併せて指摘されているところでございます。また、そういったもの の知的財産としての保護ということについても、十分考えられ、支援されなければなら ない。  また最後の第4番目の分野といたしまして、こういったバイオテクノロジーの応用と いうものについて非常に新しい技術でもあり、また生命操作と呼ばれるような例に代表 されますように、こういったものに対する国民的な不安がまた指摘されているところで ありまして、こういったものについてできるだけ必要な情報の公開と、正しい情報の伝 達といったことについても大いに手立てがされなければならないということが出てきて おります。また特に個人の遺伝情報というものがゲノム解析では当然かかわってまいり ますので、そういったものを取り扱う際におきますインフォームド・コンセントのみな らず、個人のプライバシーの保護といった点についても十分な配慮が要るということが 出てきております。そのほか関連の情報を諸々盛り込まれたものでございまして、全体 としては非常に大部なものになっておりますので、適当な時期にまたお目通しをいただ きながら、今後この具体化につきまして、またいろいろと御指導、御助言をいただいて まいりたいと考えております。  現在5省庁におきまして、さらにこれの具体的な施策への展開に向けまして、それぞ れ準備を進めておりますが、厚生省におきましては、関係の課長を委員といたします省 内の調整会議を設けまして、具体的な施策展開にこういった基本戦略に立ったものをで きるだけ早期に、少なくとも平成12年度以降の5年間において具体的な展開が図れるよ う調整を進めておるところでございます。また、順次途中で経過を御報告してまいりた いというふうに考えております。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。  今、事務局の方からお手元にある資料の3の「バイオテクノロジー産業の創造に向け た基本戦略」ということで概要を説明していただきましたけれども、どなたか御意見、 御質問おありでしょうか。これは20ページにわたる報告でありますから、急に言われて も難しいかもしれませんが、何か御意見がおありでしたら、御質問をどうぞ御遠慮 なく。何かありますか。 ○松田委員 SNPsスニプスの件なんですけれども、これは恐らく将来、家系と生活習慣病とか、そ ういった関係とのディスカッションになっていくと思うんですけれども、実際にそれを 手がけている人たちは、僕は日本人類遺伝学会に所属しているのですが、かなりナーバ スになっていまして、一般の人からサンプルをもらわなければならないわけですし、そ の人たちのいろんなバックグラウンドの情報を確保しなければいけないから、それをど のようにしたらいいかとか、その辺のところのディスカッションをぜひ詰めなければい けないというので、僕は学会の倫理委員なものですから、僕の方に問い合わせがきまし て、何とかしてくれないと動けないんだということで、かなり緊急なディスカッション が要るというふうに伺っていますけれども、その辺に関してどのようにお考えなのでし ょうか。 ○事務局  実はヒトのSNPsにつきましては、科学技術会議のところでもゲノム科学委員会、さら にヒトの遺伝子多型関係の委員会が設けられておりまして、そちらでも同様な議論がさ れております。厚生省におきましての調整会議の中でも、人の御協力をいただく際のイ ンフォームド・コンセントの在り方、それから得られました情報の保護の仕方、そこら 辺のところが重要な鍵になるということで検討課題として挙げられております。その辺 についても、できる限りこういった場をかりながら進めてまいりたいというふうに思っ ております。 ○松田委員  具体的には、我々の日本人類遺伝学会の方では、それに向けての作業を開始しようと いう動きに現在なっているんですけれども、ぜひそのとき、いろいろ厚生省の方の情報 をいただくとか、チームをつくるときに、そういったものを勘案していただけるとか、 いろいろしていただきたいというふうに思いますけれども。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。  今の点に関しましては、特にヒトのSNPsの場合に、標準SNPsはわずか数人の方を対象 にしてやるものですから、もちろん提供者の御了承を得なければなりませんが、個人の 情報ということは余りないと思います。しかし疾患に関連したSNPsの場合には、二つ問 題がありまして、一つは、どのようにうまくコーディネートして余り研究の重複がない ようにしなければならない。個人の研究は重視しなければなりませんが、例えば糖尿病 とか、高血圧とか、動脈硬化とか、がんのような極めて重要な疾患に関してはある程度 コーディネートして、全体としてうまく研究をすすめていかなければならないのではな いか。患者数の限られた特定の疾患につきましては研究者の競争という意味もあります し、進歩のために必要だと思いますから、必ずしも研究の全体をコーディネートする必 要はないと思いますが。疾患の場合には確かに松田委員のおっしゃったように個人の情 報、特に病気に関する情報とSNPsの変化とを関連付けなければならないものですから、 そこの点が一番大きな問題点です。疾患になりましたら、厚生省は関係が深いものです から、この場でも御議論願わなければならないと思います。日本人類遺伝学会の方でそ ういう点について十分に御議論していただければ、その結果をまたいろいろ教えていた だければ、我々も非常に役に立つのではないかと、そういうふうに思っています。 ○入村委員  時間があったら、これはどのような形で、こういう戦略というのが出てきたか私はち ゃんと理解していないんですが、拡充を図るということをうたっているわけですが、現 在の研究が行われている、この枠組みの中で拡充することができるというふうに、そう いう立場で出てきているのか、それとも体制というか、こういうことを対象にしている 研究所なり、研究室なりというのを大幅に増やしていこうというふうに、そういうこと をうたっているのかというのがちょっとわからないんですが、これはどういうことなん でしょうか。 ○事務局  とりあえずは、資金面の拡充という形になっておりますが、問題はその他に当面5年 間程度ということになっております。そういった点でこれから新しく建物を建てるとか 何かということではなかなか追いつかないだろうというふうには考えられています。た だ、これに関連いたしました、例えば科学技術会議の井村委員を中心にしまして取りま とめられました生命関連のいろんな研究のところでは、新世代型研究拠点といったよう な形で、従来の大学の枠組みを越えた新しい研究開発拠点、特に若い専門家を中心にし た自由闊達な研究を行わせるべきであるといったような趣旨の提言であるとか、あるい は大学の中だけ、あるいは国立の研究機関の中だけといったものではなく、産業界とア カデミアとの交流であるとか、産業界といわゆる国立機関等の交流であるとか、そうい った形でのより多面的な取り組みが可能になるような拠点といったことも提言されてい るようであります。そこら辺、具体的にどういったことが今後展開されていくのかとい うことについては、5省庁それぞれで今検討を進めておりますけれども、これの事務局 は実は通商産業省、これは表題のとおり、「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基 本戦略」ということになっておりますので、通商産業省が取りまとめの事務局になって おりますけれども、5省庁では産業面においての検討を進めるとともに、一方で、科学 技術庁が事務局をやります科学技術会議の方でもゲノム科学委員会が既に数年来稼働し ておりまして、そちらでも調整を進めながら進行を図っていくというふうに聞いており ますし、私どももそういった形で協力を進めていきたいと思っております。 ○高久部会長  金城委員どうぞ。 ○金城委員  「国民的理解の促進」というところに、「バイオテクノロジーが社会にもたらす成果 の国民への情報提供の充実」ということが書かれているので、大変望ましいことだと思 います。しかし、単にこういう問題については、情報提供だけではなくて、研究がすご く今必要なのではないかと思うんです。日本の現状を見ると、その分野は非常に遅れを とっていると思いますので、そういう点についても十分御配慮いただきたいと思い ます。 ○寺田委員  その面だけではなくて、バイオは圧倒的に負けている認識を持っているんです。だか ら、こういうのが出てきたんだと思うんですけれども、いわゆる一つの面だけじゃなく て、おっしゃるように社会全体、国民の皆さんのすべてがある程度理解するとか、非常 にコンプレックスなプロセスをやらないと、健康科学あるいは生命科学は進まないとい う意味で、おっしゃるとおり国民への情報をどういうふうに伝えるかとか、本当にそれ は正しい情報かとか、厚生省として、或いは厚生科学審議会としては、やはりここに一 言だけ書いてあって、これは通産省がつくったのだからしょうがないんですけれども、 やはり安全確保とモニタリングとか、日本にはCDC(米国疾病管理予防センター)も 無いし、FDA(米国食品医薬品局)も無いし、EPA(米国環境保護庁)は環境庁だ け、とにかく、そういう2,000 人、3,000 人でちゃんと実行部隊がアメリカにいて、そ れで規制しているところと、日本のように審議会でやっているところと、おたおたしな がらやっていくというところでどうしても理想的には進まないというので、産業を進め るためには、企業で安全はなかなか守れませんから、国がある程度そこを保障すると企 業は安心して前へ進めるという意味では、努力はされていると思うんですけれども、そ ういうところもぜひ頑張っていただきたいと思います。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。もう一つ非常に大きな意味がありますのは、私の理 解では、ここにありますように五つの省庁がよく相談して、こういう報告を出したとい うことでして、日本の場合に、各省庁が今までばらばらにゲノムやバイオのことをやっ ていて、そのために遅れをとったというような点がないわけでもなかった。こういうふ うにいろんな省庁が相談をして、お互いにある程度のすみ分けといいますか、得意な部 分をどこがやるというように決めて、そして効率よく研究するということを考えるとい う意味でも、基本戦略は意味があるのではないかと思っています。  ほかにどなたかございますか。  それでは、次にもう一つ議題がありまして、お手元の資料4に「東京大学医科学研究 所附属病院からの報告」というのがあります。  では、事務局の方からよろしくお願いします。 ○事務局  資料4でございます。当部会に御審議いただきまして現在進行中であります東京大学 医科学研究所附属病院におきます腎がんを対象としました遺伝子治療臨床研究の計画実 施にかかわる報告でございます。  基準では、計画にかかわって参加された患者さん等における死亡等があれば、報告を するようにということを求めておりまして、それに基づいて医科学研究所附属病院長で あります浅野先生、また総括責任医師・谷先生から御報告があったものでございます。  内容的にはそこに書いてありますとおり、「腎癌遺伝子治療臨床研究第1例目の患者 (61歳男性) は、平成10年12月10日より11年4月27日の間、計10回の遺伝子導入自家腫 瘍細胞ワクチンの接種を完了し、その後筑波大学にいて加療を受けていましたが、平成 11年7月8日に現病の自然経過を辿り死亡いたしました。」以下省略いたしますけれど も、こういう趣旨の報告をいただいております。  ここにありますとおり、ここで御審議いただきました計画の最中、あるいは計画に基 づく患者さんへの接種等において亡くなられたということではなくて、当初予定の計画 への参加をいただいて、その後死亡されたというものでございます。詳細につきまして は、学内の臨床検討会及び倫理委員会におきまして、この臨床経過について御論議をい ただき、更にこちらにまた御報告等いただくことになると思いますが、現段階では、と りあえず御報告ということでございます。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。  この件に関しまして、何か御質問、御意見はおありでしょうか。  特になければ、まことに残念でありますけれども、腎癌の遺伝子治療臨床研究の第1 例目の患者さん、元々かなり進行した患者さんであったというふうに理解をしておりま すけれども、7月8日に現病の自然経過を辿って亡くなられたということを御報告いた します。 ○事務局  次回の部会でございますが、9月にいかがかということで、御予定の記入をいただく 用紙をそれぞれ先生方のお手元に配付させていただいております。まだ御記入でなけれ ば、後日、通例どおり事務局あてファックスなりでいただければありがたいと思いま す。その上でまた部会長と御相談の上、期日を定めたいと思っております。 ○高久部会長  そういうことですので、よろしくお願いいたします。  それでは、これをもちまして本日の部会を終わらせていただきます。どうもありがと うございました。特に中畑先生、鈴木先生どうもありがとうございました。                                     <了> 問い合わせ先 厚生省大臣官房厚生科学課 担 当 宮本(内線3804) 電 話 (代表)03-3503-1711 (直通)03-3595-2171