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平成11年7月5日
保健医療局結核感染症課
1.経緯
○平成6年に改正された予防接種法の附則第2条において、施行後5年を目途とした検討規定が設けられており、公衆衛生審議会感染症部会のもとに、予防接種問題検討小委員会を設け、昨年6月から計18回の審議を行ってきたもの。
○本年6月29日に報告書とりまとめのための最後の小委員会が開催され、その際の議論を踏まえ一部修正を行った上で、最終的なとりまとめを行い、本日(7月5日)に開催された感染症部会において小委員長から報告書として報告されたところである。
2.意見書の主な内容
○インフルエンザの予防接種について
・高齢者を対象としたインフルエンザワクチンを予防接種法に基づく予防接種として実施していくことについては、実務的な予防接種の手続きを固めつつ、具体的な予防接種法上の取扱いの検討を早急に進めていくことを提言。
・小児等のインフルエンザについては、厚生省において有効性等に関する調査研究を行い、その結果に基づいて早急に検討することを提言
○風疹の予防接種について
・平成6年の予防接種法改正における経過措置としての中学生の風疹の予防接種対象者であって、未だ受けていない者を対象として、法に基づく風疹の予防接種を勧奨することを提言。
○その他
・対象疾患の類型化(予防接種法上新たな位置づけ)の検討
・市町村相互の連携等の適切な実施体制の確立
・予防接種センター機能(都道府県単位)を有する施設の確保
・予防接種に関する情報収集・分析の的確な実施と提供
・予防接種手帳(仮称)の作成と配布
・予防接種による健康被害救済制度の充実
天野あきら | 日本小児科医会長 |
磯村 思无 | 名古屋大学医学部教授 |
岡部 信彦 | 国立感染症研究所感染症情報センター室長 |
柏木征三郎 | 九州大学医学部教授 |
加藤 達夫 | 聖マリアンナ医科大学小児科教授 |
金田麻里子 | 東京都多摩立川保健所長 |
○神谷 齊 | 国立療養所三重病院長 |
小池麒一郎 | 日本医師会常任理事 |
近 寅彦 | (社)全国地区衛生組織連合会理事長 |
堺 春美 | 東海大学医学部助教授 |
高杉 豊 | 大阪府保健衛生部長 |
高橋 滋 | 一橋大学法学部教授 |
田代 眞人 | 国立感染症研究所ウイルス製剤部長 |
富野 七子 | 主婦連合会専門委員 |
西埜 章 | 新潟大学法学部教授 |
藤枝 亜弥 | オフィス・トゥー・ワン プロデューサー |
南 砂 | 読売新聞編集局解説部主任 |
山川洋一郎 | 古賀総合法律事務所弁護士 |
山崎 幹夫 | 新潟薬科大学客員教授 |
−目 次−
(1)対象疾患及び対象者
(2)国及び地方公共団体の責務
(3)国民の責務
(4)実施体制
(5)情報収集・分析と提供
(6)健康被害救済制度
本委員会は、予防接種法附則第2条に基づき、平成6年の予防接種法改正以後の状況を総合的に分析するとともに、予防接種を取り巻く諸問題について検討し、予防接種制度のあり方について必要な検討を行うことを目的として、公衆衛生審議会伝染病予防部会(現感染症部会)のもとに設置された。平成10年6月8日に第1回の委員会を開催して以降、平成11年6月まで、約1年の間に計18回の委員会を開催し、審議を続けてきた。この間、予防接種を用いることができる全ての疾患について有効性・安全性等の観点から包括的に検討するとともに、関係学会、予防接種に関する学識経験者、現場の接種医、予防接種による健康被害者団体の代表、ワクチンメーカー等から意見聴取を行った上で、予防接種の目的と理念、国や国民の責務、対象疾患や対象者の考え方、健康被害救済制度のあり方等について審議を行い、その途中経過を中間報告として平成10年12月に公表し、広く各界からの意見を求めてきたところである。
また、中間報告公表後においては、さらに具体的検討を進めるため、インフルエンザ等の4疾患に対象を限定した上での詳細な検討とともに、予防接種の具体的実施方法、情報収集等のあり方、健康被害救済制度等についての審議を進めてきたところである。今般、本委員会として、今後の予防接種対策の進め方について一定の方向性を取りまとめたので、感染症部会に報告する。
2.予防接種対策推進の基本的考え方
予防接種は、感染症対策において主に感受性対策を受け持つ重要なものであり、有効性・安全性が認められている予防接種については、その目的に応じて積極的に推進していく必要がある。特に、予防接種がこれまでの人類の感染症対策の歴史において果たしてきた役割、今後の新興・再興感染症対策における期待とともに、これまで極めて稀であるが重篤な健康被害が発生したことがあったという事実、今後も極めて稀であるが発生することがあり得るといった事実について国民に正確に伝え、国民の理解を得ながら積極的に推進していくことが極めて重要である。
また、平成6年の予防接種法の改正において、被接種者の接種に向けての対応が従来の「義務接種」から、「努力義務接種」に変更されたところであるが、平成6年以降の状況を考慮すると、再び「義務接種」に戻すべき積極的な理由はなく、今後とも国民の理解を前提とする現行の体系を基本として予防接種対策の推進を図るべきである。
3.今後の予防接種対策の具体的推進
(1)対象疾患及び対象者
予防接種は、感染症対策の中での唯一の根本的対策であり、国民を感染症の脅威から守っていくために重要な要素である。したがって、有効性・安全性が確認されたワクチンについては、現行の定期の予防接種の対象である7疾患と同様の取扱いとするか否かに関係なく、国民の理解を前提とした上で、接種の推進に努めていくべきである。
本委員会においては、予防接種法における対応を前提として、予防接種が有効である数多くの疾患の中で、特に国民の各々の年齢層において等しく感染又は発病する可能性がある疾患として、インフルエンザ、水痘、流行性耳下腺炎及び肺炎球菌性肺炎を中心に検討を進めてきた。
(1)インフルエンザ
インフルエンザは、一般的に風邪と混同されて軽い病気であると考えられがちであるが、高齢者等が罹患した場合にあっては、肺炎を併発して重症化する場合や時には死亡に至ることがあり、通常の風邪とは明確に一線を画して予防を強力に押し進めていかなければならない疾患である。予防対策として、マスク、うがい等の一般的な方法はもちろんであるが、インフルエンザを予防していく最大の手段はワクチン接種である。ワクチンの有効性については、これまで我が国において様々な議論が続けられてきたが、高齢者等のインフルエンザに罹患した場合の高危険群の者を対象と考えた場合等において、国内外の報告においてその一定の有効性は証明されている。
平成6年の予防接種法の改正時には、このようにインフルエンザワクチンの発病防止・重症化防止の効果を評価し、各個人がかかりつけ医と相談しながら接種を受けることが望ましいとする一方、それまでの同法に基づく学童等を対象としたインフルエンザの予防接種については、インフルエンザの社会全体の流行を阻止する効果は証明されていないことから、同法の対象から除外されたものである。
しかしながら、予防接種法の対象からインフルエンザが除外されたことにより、国民の間でインフルエンザの疾患としての重要性とワクチンの有効性がさらに軽視されることとなり、個人予防の観点からの発病防止・重症化防止を目的としたインフルエンザワクチンの必要性の認識が必ずしも国民に定着していない状況にある。また近年、高齢者施設等におけるインフルエンザの集団感染事例やインフルエンザによる高齢者の死亡、小児におけるインフルエンザ脳炎及び脳症が報道され、人口動態統計(速報)においても、平成10年から11年にかけてのシーズン(昨冬)において、例年の同時期に比べて多数の死亡者が報告されており、専門家の間ではインフルエンザの関与も指摘されている。
以上のことから、個人の発病防止・重症化防止を主な目的として、高齢者を対象としたインフルエンザワクチンを予防接種法に基づく予防接種として実施していくことについては、接種の同意の取り方、禁忌の者を的確に除外するための問診票の検討等の実務的な予防接種の手続きを固めつつ、後述の対象疾患の類型化を含めた具体的な予防接種法上の取扱いの検討を早急に進めていくことを提言する。
また、小児等がインフルエンザによる脳炎・脳症の危険性等から高齢者同様に高危険群であり、保育所や幼稚園においてインフルエンザに罹患する危険性も高く、予防接種法に基づくインフルエンザの予防接種の対象とすべきとの意見もあった。小児等のインフルエンザについては、有効性等についての調査研究が不十分であることから、本委員会としては、今後、厚生省において小児等のインフルエンザに関する有効性等に関する調査研究を行い、その結果に基づいて対応に関して早急に検討することを提言する。
なお、医療機関の従事者や高齢者施設の介護者等については、インフルエンザに罹患した場合に高齢者等の高危険群に対する感染源となる可能性が高いことから、インフルエンザワクチン接種の重要性等についての認識を高めていくことが重要である。
(2)水痘
水痘は、感染症発生動向調査における小児科を中心とする定点医療機関からの報告において、毎年定点当たりで約70人から100人が認められており、小児に残された重要なウイルス感染症である。この水痘に対するワクチンは、当初、ネフローゼ患児や白血病罹患児等の水痘に罹患した場合の高危険群の感染防止を目的として開発され、我が国では1987年以降、任意の予防接種として用いられてきている。最近は、水痘が発症した場合に発疹、掻痒感、睡眠障害等が認められるとともに、保育園、幼稚園、学校等への登校又は登園を中止しなければならないといった問題が指摘されており、健常児の水痘感染防止の観点からも予防接種が行われる場合が多い。ワクチンについて、我が国で開発された水痘(岡株)生ワクチンは、有効性・安全性について世界中で評価の定まったワクチンであると考えられる。
以上のことから、水痘は、発病した場合であっても症状は軽く、合併症や後遺症も稀である一方、ワクチン接種の目的として乳幼児や学童及びその保護者の精神的、社会的負担の軽減といった面があることが指摘されており、個人の発病防止・重症化防止の観点からの検討を進めていくべきである。
(3)流行性耳下腺炎
流行性耳下腺炎は、無菌性髄膜炎、脳炎、聴力障害等を起こすことから、弱毒生ワクチンが開発され、我が国では1981年から任意接種のワクチンとして使用され、1989年からはMMR(Measles(麻疹)、Mumps(流行性耳下腺炎)、Rubella(風疹))ワクチンとして用いられることになったが、無菌性髄膜炎が多発したとして、現在では単味の流行性耳下腺炎ワクチンとして用いられている。流行性耳下腺炎の患者数は、感染症発生動向調査に基づいて実施されている小児科を中心とする定点医療機関からの報告において、毎年10人から100人と流行の規模に幅が認められているが、小児に特徴的な感染症として水痘に次ぐ発生規模を有意する疾患である。ワクチンの有効性については、米国における1971年以降の経験、国内外の研究成果によってほぼ認められているが、一方、従来のMMRワクチンを接種した場合に1000件から2000件に1例の頻度で無菌性髄膜炎が発生するとの報告がある。
以上の点から、予防接種法における流行性耳下腺炎の位置づけ又は麻疹ワクチンの定期接種時に希望に応じて混合ワクチン(MMRワクチン)としての接種を可能とする方法が考えられるが、安全性の面で慎重に検討していくことが必要であると考えられる。なお、平成5年から接種が見合わせられているMMRワクチンについても、改良(副反応減少化)を図り、その信頼性の確保に努めていくことが重要である。
(4)肺炎球菌性肺炎
肺炎球菌感染症は、Streptococcus pneumoniaeによる感染症であり、健常人の上気道に広く常在し、通常は病原性を発揮しないが、他の感染症等が原因で気道組織の破壊等があると発育・増殖が促進され、下部気道に移行して問題となる。臨床的には、肺炎、まれに敗血症、心内膜炎及び化膿性髄膜炎が問題となるが、特に高齢者において治療が困難な感染症である。肺炎球菌は、血清学的に84型に分類され、現在流通しているワクチンは臨床検体から高頻度に分離される血清型を23種混合しており、病原性の強い肺炎球菌の70〜80%以上に対応していると言われている。米国等においては、個人の発病防止・重症化防止を目的として、65歳以上の高齢者等に対する接種の推奨が行われているが、我が国については、使用実績が少ないことから、患者数やワクチン接種の有効性・安全性に関する十分な調査が行われておらず、医療現場におけるワクチン接種の必要性等についての議論も十分になされているとは言えない状況にある。
以上のことから、将来的には予防接種法の対象疾患として位置づけることも検討すべきであると考えられるが、その前提として、ワクチンの有効性・安全性に関する調査、患者数等の把握をしていくことが重要である。
(5)対象疾患の類型化
各疾患について、予防接種法の対象として位置づけるとした場合であっても、1)ワクチン接種の目的や疾患の特性、2)国民の接種に向けての努力義務、3)接種費用や健康被害救済における一定の公的関与等の観点から、必ずしも現行の7疾患と同様の制度的対応を図る必要はないという考え方がある。
その可能性としては、まず第一に、国民に対して予防接種の重要性に向けての理解を促すとともに、国の考え方を明確にすることを目的として、予防接種法の対象疾患全てについて国が接種勧奨をするといった明確な規定を新たに設けた上で、対象疾患の感染力や罹患した場合の重篤度からみた社会的影響が現行の7疾患と同等であるか否かによって被接種者の接種に向けての努力義務を課す疾患と課さない疾患に分類することが考えられる。この場合は、努力義務の有無に応じた接種費用の公的負担や健康被害救済の内容にも差異を設けることとなる。
第二に、被接種者の接種に向けての努力義務と国の接種勧奨は表裏一体のものとして捉えた上で、国による接種勧奨を行わず、また努力義務も課さないが、国や地方自治体が予防接種の接種機会を提供することを義務づける対象疾患の類型を現行の予防接種法の7疾患の類型に加えて追加する方法が考えられる。具体的には、保健事業的な意味で予防接種を推進する対象疾患の位置づけを設けることであり、その対象疾患については接種費用の一定の公的負担のもとに、接種医は市町村業務の一環として予防接種を実施することとなる。しかし、国や市町村は接種機会の提供を行うことが基本であることから、当該対象疾患の接種を受けるか否かの判断は被接種者が独自に行うことになる。この場合の健康被害救済については、このような新たな対象疾患の法的位置づけを踏まえた上で、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法での対応も含め、具体的に検討していくことが必要である。
このような対象疾患の類型化の考え方は、予防接種を受けるか否かに関する国民の選択の幅が拡大されるとともに、将来的な対象疾患の拡充を含めた予防接種対策の推進を視野に入れた場合においても、一定の意義があると考えられ、本委員会においても導入する必要性があると考えるが、法制的問題も含めて完全に整理できたものではなく、今後、感染症部会において、引き続いて審議され速やかに結論づけられることを期待する。
(6)風疹の予防接種推進の強化
風疹の予防接種については、平成6年までは、妊婦が風疹に罹患したことにより起こる新生児の先天性風疹症候群の予防を主な目的としていたが、平成6年の予防接種法の改正時に、先天性風疹症候群の予防とともに、幼児から小学生における流行の阻止、最終的には風疹の根絶を目的とする観点から、接種時期が中学生の時期から乳幼児期に変更された。その際、平成6年時点において、新しい接種時期である乳幼児期以降の者で中学生に達していない者が、風疹の予防接種を受ける機会を逸することを防ぐため、中学生の時期における予防接種の機会を予防接種法に基づく経過措置として設けている。この経過措置としての中学生の時期の予防接種について、保健所運営報告による接種率が全国平均で約50%となっている他、一部の地域では極めて低い接種率であるとの調査結果も報告されている。今後、風疹の予防接種を受けない成人女性が増加することによって、先天性風疹症候群の患者の増加が危惧されており、母親や子供一人一人にとっても、また今後の少子化社会全体においても極めて重大な問題である。したがって、幼児期における風疹の予防接種率の向上を図ることはもちろんのこと、中学生における個別接種の推進の観点からの後述のような保護者の同伴の取扱いに関する対応と合わせて、平成6年の予防接種法の改正以降の経過措置としての中学生の風疹の予防接種対象者であって、未だ受けていない者を対象として、予防接種法に基づく風疹の予防接種を勧奨する制度的対応を図るとともに、厚生省が文部省や医師会等の医療関係団体と連携を図りながら、教育委員会を通じた学校の場を活用する等、中学生の時期における風疹の予防接種の重要性について強力に指導していくことが重要である。
(2)国及び地方公共団体の責務
(1)基本的な対応
予防接種法に基づいて、国及び地方公共団体が予防接種対策を制度的に推進していることから、接種を希望する者が確実に接種を受けることができ、接種後に健康被害が発生した場合にあっては、健康被害の重篤度や訴訟になるか否かに関わらず迅速に必要十分な救済を図る体制整備を進めていくべきことは極めて重要な国等の責務であると考えられる。このため、国等において具体的な実施体制の構築、情報収集・分析と提供、健康被害救済制度の的確な運用等を図るとともに、ワクチンの供給確保のため、必要に応じ、製造体制の支援について検討すべきである。
(2)ワクチン開発等の調査研究の推進
国民の理解を得ながら予防接種対策を推進していくためには、現行ワクチンの改良の努力、有効かつ安全で接種の簡便なワクチンの研究開発が不可欠である。ワクチンの研究開発や供給確保、予防接種による健康被害の発生状況その他必要な調査及び研究について、国がさらに積極的な役割を果たすことが必要である。
(3)国際協力の推進
感染症対策は、一つの国で完結するものではなく、世界各国がお互いに協力しながら進めていかなければならない地球規模の問題である。我が国における患者発生数が少なくなった感染症であっても、未だに多発している国も数多く認められることから、これらの国々における予防接種対策の推進に向けて、我が国も世界保健機関(WHO)に協力しながら、これまで以上に積極的に貢献することが必要である。また米国から我が国は麻疹の輸出国であるとの批判がなされていることもあり、今後、海外に対する直接的な国際協力だけではなく、国内においても国際的な視野に立った予防接種対策を推進していくことが重要である。
(3)国民の責務
(1)正しい知識の習得
被接種者やその保護者に対して、国、都道府県、市町村等が対象となる疾患、予防接種制度、ワクチンの有効性や健康被害発生の可能性等に関する正しい知識を的確に提供していくこと及びそのための体制整備を進めていくことが重要である。その上で、接種を受ける側においても、自らの健康を守るために正しい知識の修得と理解に努め、正確な理解に基づいて、接種を受けるか否かの判断をすることや接種を受けた後の対応に注意することが求められる。
(2)接種医への正確な情報の提供
予防接種による重篤な健康被害を最小限に抑えるためには、接種医が事前に予診を十分に行い、禁忌者を的確に識別・除外する必要があるが、そのためには被接種者やその保護者が被接種者の当日の健康状態等に関する情報を接種医に正確に伝えることが重要である。したがって、問診票の内容や聴取方法をさらに工夫するとともに、接種医への情報提供の重要性について、被接種者とその保護者の理解を求めていくべきである。
(4)実施体制
(1)実施主体
地域住民に一番密着している市町村を実施主体とする現行の制度を変更する必要はないと考えられるが、この場合、被接種者への便宜の観点から、医師会等の医療関係団体の協力を得ながら、市町村相互の連携をさらに進めた予防接種体制を確立していくことが重要である。具体的には、各市町村が当該市町村以外の医療機関とも委託契約を結び、地域住民が個別接種の推進の観点から幅広く接種医療機関を選択できるように、市町村の圏域を超えて広域的に住民を対象として予防接種を実施する接種医療機関について、都道府県が積極的に調整して公示していく方法をより一層活用していくことが必要である。その際、国においても各都道府県と連絡を取り、各都道府県域を越えた相互乗り入れが進んでいく方向に誘導していくことが求められる。
また、実際に接種を行う医師、市町村等で予防接種業務に携わっている保健婦等が接種方法等を正しく理解し、適切な予防接種が行われるよう、必要な研修や情報提供を行っていくことが重要である。
(2)個別接種の推進
国民が安心して接種を受けられるためには、被接種者の普段の健康状態を十分に把握している接種医が接種を行うことが望ましく、個別接種を推進する方向性については、継続することが重要である。但し、地域によっては医師の絶対数が足りない等の事情があり、必ずしも個別接種の推進が容易でない地域があるが、このような地域においても引き続き地域の医師会等との連携、被接種者の利便を考慮した近隣市町村間の連携による個別接種の一層の推進を図るとともに、予防接種センター機能の整備、やむをえず集団接種を行う場合であっても個別接種の意義を十分に踏まえた接種体制の確保を図ることが重要である。
(3)接種医が安心して予防接種を行うことができる体制の整備
予防接種法に基づいた対象疾患については、接種医は個人の立場ではなく市町村の公的業務を代行するという立場で予防接種を行うことになり、万一、健康被害が発生した場合であっても当該接種医の責任としてではなく、国及び市町村の責任に基づいて対応を図っていくことが基本である。このような観点から、被接種者に対して予防接種法の仕組み、接種医の立場を含む実施体制、健康被害が発生した場合の市町村の責任ある対応等について、的確な情報提供を行い理解を求めていくこと等により、接種医がより安心して予防接種を行うことができるようにしていくことが重要である。
(4)臨時の予防接種
予防接種法第6条に規定されている臨時の予防接種の制度については、一昨年香港で発見された新型インフルエンザウイルス(H5N1)や日本で根絶されていても海外で未だまん延している感染症等の日本への侵入を想定した場合を考慮すると、引き続き残しておくことが必要である。
(5)予防接種の具体的実施方法等の検討
予防接種法に基づく予防接種の対象疾患の接種の回数、時期をはじめとして、具体的な接種方法等が政省令等に規定されているが、今回の検討結果を踏まえた上で、小委員会または作業班を設ける等の方法により専門的・技術的検討を行い、検討結果に基づいて改定していくことが必要である。
(6)予防接種ガイドライン
現場の接種医が安心して接種を実施することができるよう、予防接種制度の体系、法律に基づく対象疾患、健康被害が発生する危険性や発生した場合の行政の対応等について、国民に対する周知をより一層充実させていくことが必要がある。具体的には、予防接種ガイドラインについて、医師向けと被接種者(保護者)向けの2種類を作成(改定)することとし、医師向けについてはより専門的な観点から、被接種者(保護者)向けについては、より平易な内容で読者の理解を促す観点からの工夫を図ることが必要である。
(7)予防接種センター機能
予防接種に関する知識や情報の提供、個別接種の推進、要注意者に対する実際の接種の実施といった観点から、各都道府県が圏域内に一カ所程度、予防接種センター機能を整備する方向で検討するべきである。予防接種センター機能の具体的な内容としては、1)予防接種の効果や副反応、感染症に関する知識、情報等の提供、2)相談窓口の開設、3)要注意者に対する予防接種について十分な医療相談の実施と専門医師による実際の接種の実施等が考えられる。なお、予防接種センター機能については、新たに施設・組織を設けて対応していくことは現実的ではなく、既存の施設等への機能の追加を考えるべきであり、例えば小児科診療の専門家が常勤しており、接種の実施や健康被害が発生した場合に迅速かつ的確な対応を図ることができる医療機関について、地域の予防接種に対する支援病院としての機能も期待して委託する場合が考えられるが、各地域の実状に応じた弾力的な対応を図るべきである。また、予防接種センター機能を有することになる施設等については、予防接種リサーチセンターとの普段からの連携を図っていくことが重要である。
(8)個別接種における保護者の同伴
風疹等の中学生が対象となる個別の定期接種の場合、中学生と親が一緒に接種医のところに訪問することは必ずしも容易ではなく、問診票を見直して、被接種者が一人で来ても接種できるようにしていくべきであるという考え方と、保護者が被接種者の状況を接種医に説明する必要性、最終的な接種に関する判断に保護者が責任を有するべきであるとの考え方がある。後者の問題を可能な限り解決しつつ、予防接種を受けたいと考える者が受けやすい体制を構築することが重要である。具体的には、保護者の同伴を原則とした上で、被接種者(保護者)向け予防接種ガイドラインの作成と配布等による当該予防接種(ワクチン)の特性、効果、副反応等の周知と問診票の改善を図った上で、接種についての保護者の責任を担保する観点から、被接種者及び保護者が記入事項について様式化等により明確化された文書で希望し、その文書において医学的判断で問題がない場合は接種を希望する旨の記載がある場合にあっては、保護者の同伴がなくても予防接種を行うことができるものとする考え方が現実的であると考えられ、まず中学生以上を対象に実施していくべきである。
(5)情報収集・分析と提供
(1)感染症の発生状況等の把握とその結果の提供のあり方
平成11年4月から施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づいて実施されている感染症発生動向調査や感染症流行予測事業の結果等に基づいて、国立感染症研究所感染症情報センター等が、国内外の感染症の発生状況や国民の抗体保有状況等について、国民や医療関係者が必要とする情報を的確に提供・公開していくとともに、予防接種に関する各種施策の基礎資料として活用し、予防接種施策にも活用していくことが重要である。しかし、情報内容や提供方法について、情報を受ける側の関心を促して十分な理解を得る観点から不十分であるとの指摘がある。したがって、各種の情報内容や提供方法のあり方について、報道機関とのより一層の連携を含め、民間が実施している方法、内容を参考にして、改善を図っていくことが重要である。
(2)ワクチン接種状況の把握
現行の予防接種法に基づく定期の予防接種の被接種者数の統計について、正確な接種率が算出できない等の問題があり、現行の情報収集、分析方法について見直すべきである。特に定期の予防接種の対象者が、対象年齢のどの段階でどの程度の接種を受けているかについて、より正確に把握することは、集団予防の観点からも個人予防の観点からも重要である。具体的な方法としては、1)現状の接種に関する集計を年齢階級別、生年別に実施する方法、2)予防接種を受けた方の性別、生年月及び接種年月日を市町村が集計する方法等が考えられ、厚生省、都道府県、市町村等が早急に協議を行い、最も正確性と効率性を両立させることができる全国共通の標準的な接種率の算定方法を示していくことが必要である。
また、定期の予防接種として位置づけられている対象疾患以外の疾患に対する予防接種の実状については、現状では全く不明であることから、医師会等の医療関係団体やワクチンメーカー等の協力を通じて、その実態を把握していくことが重要である。
(3)健康被害(副反応)の発生状況の把握
健康被害の発生状況の把握については、平成6年の予防接種法の改正を契機に予防接種後健康状況調査と予防接種後副反応報告の二つの調査が実施されている。これらの調査を継続して着実に進めていくとともに、その結果を国民や被接種者(保護者)が理解しやすい形でまとめ、医師会、保健所等を通じて接種医療機関に連絡する等、積極的に情報提供していくことが重要である。
また、定期の予防接種として位置づけられている対象疾患以外の疾患における健康被害(副反応)についても、医師会等の医療関係団体やワクチンメーカー等の協力を通じて、その実態を把握していくことが重要である。
(4)予防接種手帳(仮称)
国民が予防接種を受けたか否かに関する記録として、母子健康手帳が挙げられるが、母子健康手帳は小学校入学以降の予防接種歴を記録していくものとして必ずしも十分ではないと考えられる。近年、日本人の海外渡航は増加する一方であり、日本人が海外で感染症に罹患する機会が拡大するとともに、海外の渡航先から予防接種歴に関する証明書を要求される場合が多い。さらに、国民一人一人が、自らの予防接種歴を正確に把握して感染症から健康を守るといった観点も重要である。したがって、国民が自らの予防接種歴を的確に把握するとともに、海外へ渡航する際の渡航先から要求される証明書等の発行等の支援を図るため、予防接種手帳(仮称)を交付する仕組みを設け、予防接種を受ける毎にその内容を記録して蓄積していくことが重要である。この場合、手帳の保管と活用は個人が行うことが基本であり、行政が個人情報を管理することを目的とするものではない。
また、記録する内容としては、予防接種法に基づく接種の実施状況を基本とするが、各疾患に対する抗体の保有状況、任意の予防接種の実施状況等の内容も記録できるものとし、紛失しないように、カバー等の工夫により母子健康手帳と一緒に保存(単体での活用も可が前提)できることが望ましい。
(5)学校における普及・啓発
感染症の流行状況、予防接種の目的や重要性と接種した場合の副反応等について、学校などにおける普及啓発が重要である。したがって、市町村が接種医や被接種者(保護者)、一般住民に提供していく情報の内容については、教育委員会をはじめとして小学校、中学校等に提供していくこととし、予防接種(ワクチン)の特性、効果、副反応等についての正しい知識が小学生、中学生等に的確に伝わるように、市町村の衛生主管部局と教育委員会が連携を図るとともに、都道府県レベルにおける連携、国レベルにおける厚生省と文部省の連携を図ることが極めて重要と考えられる。
(6)健康被害救済制度
(1)基本的考え方
予防接種法に基づいて実施される予防接種は、被接種者に対して義務接種又は努力義務接種といった形で接種を促すことから、万一、健康被害が発生した場合にあっても、救済を受ける権利とこれを実施する国及び地方公共団体の責任を明らかにする必要があり、昭和51年の予防接種法及び結核予防法の改正において、予防接種による健康被害救済制度が法律に基づく新しい制度として規定された。さらに平成6年の予防接種法の改正において、法の目的(第1条)の中に健康被害救済を規定するとともに、政令による障害児養育年金等を土台とした介護加算の創設等、内容の充実が図られてきたところである。
本委員会においては、健康被害救済制度の目的及び重要性を踏まえ、現行の健康被害救済制度について検討したが、現行制度のさらなる充実と運用の適正化を進めていく観点から、以下の論点について具体的な方向性を示す。
(2)介護手当の独立給付化
現行の介護加算を障害児養育年金又は障害年金とは独立した単独の給付とすることについては、健康被害者やその保護者の方々から給付額の充実とともに強い要望があるが、この要望とともに、現行の介護加算のように定額の現金給付が一律に支給される方が、給付を受ける者の自由度が高く、また給付を受ける際に介護サービスを実際に受けたこと等を証明する事務負担がないこと等から、現行の介護加算においてとられている定額を現金給付として一律に支払う方式を維持するべきであるとの要望も出されている。介護に関する給付を法律上独立に位置づけている他の法制度においては、介護そのものに着目した給付を行う必要性から、全て実際の介護サービスに要した費用を一定の上限額の中で給付する仕組みとなっている。したがって、介護手当を法律上の独立の給付として位置づけた場合、現在の障害児養育年金等の延長線上にある定額・一律の上乗せ加算としての性格は失われ、実際に介護に要する費用を一定の上限額の中で給付することになると考えられる。
したがって、独立給付化することが、申請手続きが繁雑になる等、かえって健康被害者の方々の希望に反することになる可能性もあり、現行の介護加算の方式を基本とした上で、具体的な充実を図ることが重要である。
(3)介護サービス提供体制の充実
予防接種による健康被害者に対する介護サービス提供体制については、介護が必要な者全体へのサービス提供体制の中で整備していくものと考えられるが、その際、予防接種健康被害者実態調査の結果も踏まえ、健康被害者に対する既存の公的福祉サービスに関する情報提供や予防接種リサーチセンター等が予防接種健康被害者と地方自治体の福祉部局の間の連絡調整を行うこと等により、健康被害者の方々が、緊急時を含め、福祉サービスをより効果的・効率的に利用できるような体制づくりを検討していく必要がある。
(4)定期の予防接種の接種期間の弾力化
現行の政令で定めている定期の予防接種の期間内であっても、実施主体である市町村の実施期間に接種できないような場合については、現行でも「生後90月」といった長期の接種期間が設定されていることから、政令で定める期間内であれば定期の予防接種が受けられるように、実施主体において、個別接種の推進、市町村間や都道府県との連携強化等を行い、接種希望者が、接種を受けられないことがないようにしていくことが重要である。
また、政令で定めている定期の予防接種の期間自体に例外を設けることについては、定期の期間からわずかに遅れて帰国した場合や慢性疾患で長期間接種が受けられなかったが、定期の期間を僅かに過ぎてから治癒して接種が受けられるようになった場合等について、例外的に一定の範囲で定期の予防接種と同様に取り扱うべきとの意見もあったが、例外の設定の方法等に問題が多く、慎重に検討していくことが必要である。
(5)健康被害の認定根拠の明確化
予防接種と健康被害の因果関係の有無の判定は極めて難しい問題であり、専門的観点からの検討が必要であるが、因果関係の有無やその判断理由、蓋然性の程度等について、因果関係を認めた場合と認めない場合のいずれの場合においても、健康被害者やその保護者に対して的確に伝えることが重要である。
(6)審査請求制度の適正化
都道府県に対する審査請求に関する国における審議の公平性や中立性の担保については、審議会の整理合理化が進められている現状において、審議のための審議会等の新組織の新設は行わないものの、当初の公衆衛生審議会認定部会とは委員の重複を完全に排除した形で、都道府県に対する審査請求についての審議を行うこととする方向で検討することが重要である。 また、都道府県に対する審査請求の手続の明確化については、原処分にも関与した厚生大臣に再度見解を求めることを法令上明記することは法制的に難しいことから、上記の取扱いを含め、その手続の内容を関係者への周知徹底を図る等により明確化する方向で検討する。
(7)その他
死亡一時金への年齢の反映については、予防接種法の健康被害救済制度の趣旨や同じく民事上の賠償責任ではない医薬品による健康被害救済を行っている医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法との整合性からは難しいと考えられるが、今後有識者の意見等の世論の反応も踏まえて中長期的に検討する必要がある。
また、予防接種と健康被害の因果関係の蓋然性の程度に応じて給付に差を設けるという考え方については、和解の場合等の当事者間の協議を念頭に置いたものであり、行政認定にはなじまないと考えられること、因果関係の認定事務が非常に煩雑となる可能性があること、給付額の確定事務が繁雑になること等から、問題が多いと考えられる。
本委員会においては、これまで18回にわたって、予防接種法の附則第2条に規定された(1)疾病の流行の状況、(2)予防接種の接種率の状況、(3)予防接種による健康被害の発生の状況はもちろんのこと、現行の予防接種制度全般について審議を進めてきた。この間、様々な分野の方々から数回に及ぶ意見聴取を行うとともに、平成10年12月には審議の途中経過を取りまとめた中間報告を公表し、広く国民各層からの意見を求めてきた。
今般、本委員会における審議、関係者からの意見聴取の結果等を総合し、可能な限り予防接種制度全般について体系的かつ具体的に展望できることを目的に報告書のとりまとめを行ったものである。内容については、具体的に方向づけができた論点がある一方、さらに各論的に検討を続ける必要がある事項も残されている。これらの残された検討事項を含め、感染症部会におかれては、本委員会からの報告書の提出の後にさらに必要な審議を行われ、最終的な意見書を提出されることを期待する。予防接種の推進を考えた場合、疾患の流行状況、新たなワクチンの開発状況等を踏まえた上で、適時的確な検討と見直しを進めていくことが重要である。
最後に、本報告書をまとめるに当たり、昨年6月の第1回委員会開催以降、委員会の場やその他の各般の場面において御意見・御協力をいただいた各分野の方々に対して、厚く御礼を申し上げたい。
連絡先 厚生省保健医療局結核感染症課予防接種係 TEL:03−3595−2263 FAX:03−3581−6251
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