99/04/28 第3回眼球・アイバンク作業班          第3回  眼球・アイバンク作業班         日時   平成11年4月28日(水)              10:00〜12:00         場所   虎ノ門パストラル              5階 「菊の間」 出席者 (○:座長 敬称略)  鎌田  薫 ○木下  茂  佐野 七郎  篠崎 尚史  眞鍋 禮三  丸木 一成  八木 明美  横瀬 寛一 1.開 会 2.議 題      (1)角膜以外の眼球組織の利用について      (2)レシピエント選択等のあり方について      (3)その他 事務局  おはようございます。ただ今から第3回公衆衛生審議会疾病対策部会臓器移植専門委 員会「眼球・アイバンク作業班」を開催いたします。先生方におかれましては、本日は お忙しいところご出席いただきまして、誠にありがとうございます。最初に本日の委員 の出席の状況でございますが、小口委員、金井委員、お二方から、ご欠席とのご連絡を いただいております。また、鎌田委員におかれましては、少し遅れているようでござい ます。尚、本日は網膜移植についてご説明いただくために、東邦大学医学部附属佐倉病 院の山本先生にご出席いただいておりますのでご紹介させていただきます。  続きまして、本日、お手元にお配りしております資料の確認をさせていただきます。 最初に議事次第ですが、本日の議題は(1)角膜以外の眼球組織の利用について、( 2)レシピエントの選択等のあり方について、(3)その他(アイバンク・コーディ ネーターのあり方について)を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。  続きまして本作業班の委員の先生方の名簿、座席図、本日の資料一覧がございます。  資料といたしまして、「資料1-1:角膜以外の眼組織の移植について」が2ページ、 以下、順次、資料1-2が3ページ、資料1-3が2ページ、資料2が4ページ、資料2 (参考)が3ページ、資料3が2ページ、資料4が2ページ、参考資料1が2ページ、 最後に参考資料2が1ページとなっております。本日の資料は以上でございます。  それでは木下座長、よろしくお願いいたします。 木下座長  どうもありがとうございました。みなさんおはようございます。それでは、第3回眼 球・アイバンク作業班を始めたいと思います。まず、本日の議題の(1)ですが、「角 膜以外の眼球組織の利用について」ということについて、議論していただきたいと思い ます。前回のこの作業班におきまして、角膜以外の眼球組織の利用として強膜、そして 網膜の利用について、少しご検討いただいたと思うんですが、その際に、これらの移植 への利用に関して、医療の現状について、専門家からご説明をうかがったうえで、さら に検討しようということになったかと思います。ということで、先ほどご紹介にありま したように、本日は強膜移植については眞鍋先生、網膜移植については東邦大学の佐倉 病院、山本先生にご説明をいただきたいと考えております。資料にもありますけれど も、各先生方に約15分間でこの移植についてご説明をいただきまして、お二人のご説明 が終わりましたところで、まとめてご質問などをお願いしたいと思います。それではま ず、眞鍋先生から、強膜移植についてご説明をお願いします。 眞鍋委員  強膜移植に関して、共同発表者といいますか、切通先生にお願いしてあったんです が、ちょうどウィークデーになってしまって手術があるということで、私が代わりに説 明させていただきます(スライド1-1:表題)。  資料の最後のほうにも同じような図が出ていますが、眼科の先生ばかりではなく、他 の方もいらっしゃいますので、一応、説明させていただきます(スライド1-2:眼球断 面図)。角膜が前にあり、後ろにある白い部分が強膜といわれる部分です。眼球の形態 を保持している支持組織といっているものです。  眼球は、外壁と内容に分けられています(スライド1-3:表)。眼球自身は細胞が集 まって組織ができ、組織が集まって器官、いわゆるオルガンというものができていると いうことで、臓器移植法案の中にも、いちばん最後のところに眼球というのがオルガン の中に入れられているんですが、そういう意味では組織の集まりでできているというこ とで、眼球はオルガンであるという形になっています。組織が外壁と内容に分かれてお り、外壁の中身は外膜、中膜、内膜というふうに3つに分けられます。外膜には、先ほ ど言いましたように形を保つための支持組織としての角膜と強膜があります。角膜のほ うは透明で、光学的な機能を持っていますが、強膜のほうはまったくの支持組織という ことで、形を保っていると言ってもいいかと思います。中膜はぶどう膜といわれるもの で、これはカメラにたとえると暗箱に相当するものでありまして、強膜の内側を色素を 持った黒い膜で覆って、光が横から入らないように、角膜のほうからだけの光が入るよ うになっています。ぶどう膜にも3つの組織があり、いちばん前のほうが虹彩といっ て、これはカメラのしぼりの役目を果たしています。光が多すぎるとしぼりをしぼり込 んで小さくして光量を加減する。暗いところでは大きく開いてたくさん光を採り入れま す。毛様体というのは、ひとつは水晶体をぶら下げていて、そして周囲から引っ張って おり、水晶体小帯あるいはチン氏帯と呼ばれるもので引っ張っておりまして、調節に関 係している。近くを見るときに水晶体を膨らませ、遠くを見るときには水晶体を引っ張 って扁平にして遠くのほうにピントを合わせるというように調節に関係している。それ と同時に、毛様体からは、房水と呼ばれる透明な液体がここから分泌されまして、そし て眼圧という、眼の中の圧力を一定に保つ作用も持っております。脈絡膜というのは、 もうひとつ後ろ側のほうにありまして、これは読んで字のごとく、血管の膜でありま す。もちろん、先ほど言いました暗箱の作用をしていますから、虹彩も毛様体も脈絡膜 も、すべて色素を含んでおりまして、暗箱の役割をすると同時に血管の膜でありますか ら、これは網膜に栄養を与えている。とくに網膜のうちの外節といいまして、視細胞と か、双極細胞は、どちらかというと、この脈絡膜のほうから栄養が来ていると言っても いいと思います。内膜の網膜は、ここに書いてありますように、薄い膜なんですが、十 層から成っています。それがいちばん外側というか、脈絡膜に近い側にまず暗箱の役目 をする色素細胞、色素上皮があります。それから視細胞がある。視細胞は外節と内節の 2つに分かれていますが、いずれにしても光を感じる細胞の層があり、それから、その ちょうど外節と内節の間に境界膜というものがあります。境界膜というのはミューラー 細胞という細胞の基底膜から成っている。その次に外顆粒層というものがあります。こ れはいわゆる視細胞の内節に相当するところです。それから外網状層と次の内顆粒層、 これは双極細胞という細胞なんですが、その間を結ぶ神経繊維層なんです。それから内 顆粒層。これは双極細胞というものです。それから神経節細胞につながり、繊維層、神 経繊維、これが集まって視神経となっているわけです。その表面を先ほどのミューラー 細胞の基底膜が覆って、内境界膜といって、硝子体との間の境になっている膜があるわ けです。それが網膜というもので、これは山本先生から、またあとで詳しくご説明いた だけると思います。その中のどの部分を移植するのか、全部を移植するのかというよう な話になると思います。それから、内容としましては、前房水、水晶体、後房水、硝子 体というふうになっています。水晶体は、もちろんピントをあわせるためのレンズの役 割をするものですし、硝子体はその中を循環していて、空間を保つスペースの役割を果 たしています。  わが国では角膜移植がいちばん最初に行われたんですが(スライド1-4:わが国にお ける移植の歴史)、1800年代からもう既に……このときは人間の角膜ではなくて動物の 組織を移植するというようなことから始まったわけですが、表層移植を水尾源太郎先生 が、全層移植は越智先生が1926年ですから、実際これは、もちろん死体からではありま せんが、Filatov教授が世界で初めて死体眼からやったのが1928年ですから、それより2 年前に全層移植が日本でもやられていたようです。1950年、これはまだ角膜移植に関す る法律ができていないときですが、既に中村康先生は、164例もの角膜移植の報告をして おります。このときには、生きた人で角膜はきれいだけれども網膜がだめであるとか、 あるいは他に病気があるというようなことで眼球をとってしまった人の角膜を利用して 使っていました。また、このときには既に死体眼からの角膜移植も成功するということ が世界的に分かっていましたから、もちろん病理解剖とか、そういうところからいただ いたものを使ったようですが、とにかく164例というたくさんの症例報告を日眼総会でし ているということです。1958年、昭和33年に法律ができまして、それから5年後にあっ せん業の許可基準ができ、アイバンクができました。79年になって、角膜及び腎臓の移 植に関する法律ができました。その後、数年たってから、総務庁からこの法律が施行さ れた状況を監査するという意味で、アイバンク及び腎バンクを全部調べて、その結果が 報告されました。そのときに、非常に残念なことに、アイバンクの中に、利用率が非常 に悪いアイバンクがたまたまありまして、総務庁としては、せっかくの善意が無駄にな っているということえを報告されていました。新聞等では「捨てられる眼球」といった ショッキングな報道がなされまして、それまでは順調に伸びてきていた献眼が、急激に 落ち込んでしまい、現在も非常に眼球が不足しているという状態が起こっています。そ れに対応して、ぜひ、無駄になることがないようにということで、広域眼球あっせんシ ステムというものができまして、中核アイバンクというものが全国に5つほど決めら れ、それを中心にして、緊急の場合には互いに融通しあって使いましょう、と。もし余 った眼球があったら、それは報告すれば、必ずどこかで使いたいというところがあるわ けですから、そこにまわしましょうという、広域眼球あっせんシステムというものがで きました。そして97年に臓器の移植に関する法律ができ、それまでにあった角膜及び腎 臓移植に関する法律が廃止され、全部、臓器の移植1本に絞られたということです。現 在では、全国に51のアイバンクが稼働しています。  ここでは78年以降のデータしかありませんが(スライド1-5:角膜移植の推移)、そ こまではずっと増えてきたんですが、1987年頃がピークで、ここから先は横ばいを続け ている状態です。広域あっせんシステムも働いてはいるんですが……それまでには確か に提供眼球がこれだけあるのに対して利用眼球がこれだけしかなかったので、ここで、 それではいけないということで、この部分、利用しない眼球をなくそうということで、 広域あっせんシステムがつくられたんですが、肝心の提供眼球数ががくんと落ちてしま って、現在、非常に困っているという状態です。  現在51行あるアイバンクにおいて、まず、献眼登録をやっています(スライド1-6: アイバンクの現状)。ドナーカード式ではなく登録をやっており、実登録者が既に100万 人を超えています。眼球提供者の累計も2万4,000人の方からいただいて、4万4,000眼 ぐらいの提供です。そのうち角膜移植に利用されたのは3万6,000眼ぐらいです。1998年 度、今年3月末の統計が出ておりますので、それを写してきましたが、2,000眼ほどの提 供がございます。そのうち1,716件の移植が今年の3月末までの1年間で行われていると いうことです。ところが各アイバンクが把握している角膜移植の待機患者は、まだ5,699 名いらっしゃるということです。したがって、相当にルーチンにやられているんです が、1,700人に対してほぼ6,000人近い待機患者ということは、約3年間待たないと、普 通の順番ではまわってこないというのが平均的な状態です。  眼球は、このように全眼球でいただきます(スライド1-7:眼球保存法)。そのまま 持ち帰り、それを今は強角膜片として移植病院に保存しています。よほど熟練した者で あれば強角膜片という状態でいただくこともできないことはないのですが、それは移植 する側にとっても、また、角膜をいただく側からしましても、内皮に傷がつくのではな いかというような心配があるわけです。全眼球でいただけば、いわゆる当直医のよう な、熟練していない人が眼球をいただいてきたり、あるいは外科医や内科医など、他の 科の先生の応援においても問題なく角膜をいただけるというわけです。  強膜移植ですが、これは角膜が破れてしまって、どうしようもないという状態です( スライド1-8:写真)。当時、まだ角膜の緊急の広域あっせんができていなくて、なん とかしなければならないということで、保存強膜で表面を覆ったという事例がありま す。  これがそうなんですが(スライド1-9:写真)、強膜で一時的に覆いまして、一週間 後ぐらい待って角膜が入りましたので移植しました。強膜は、いつまでも冷凍保存でき たということで、ふんだんにありましたので使えたのです。  これはリューマチで強膜がどんどん溶けてくるような状態の人に対する術後です(ス ライド1-10:症例経過(1))。これは白内障を平成4年に手術して、6年後に右目の ほうは保存強膜を移植し、それから11月には強膜ではだめだということで、今度は保存 角膜を移植したんですが、それもだめになり、保存強膜と角膜のレンチクルを移植しま したけれども、なかなかうまくいかず、もう1回、7年の8月11日に保存強膜を移植し たという、非常に難治性の融解性強膜軟化症、穿孔性の強膜軟化症が起こりました。さ らに反対側にも同じように起こってきまして、ここにも何回もやりまして、最終的に は、強膜がもう使えないということで、脳の硬膜を使ってなんとかおさまったんです が、そのうちに、硬膜はクロイツフェルドヤコブ病の病原がうつるのではないかという ことが問題になりまして、これもできなくなりました。今後、こういう問題が起こった 場合にどうしたらいいのかという問題になっているわけです。  これはそのときの強膜で、中からぶどう膜が出てきている状態です(スライド1-11: 写真)。われわれは、これをぶどう腫と呼んでいるのですが、これを放っておきます と、そこが破れて中身が出てしまって失明しますので、どうしてもその部分を押さえな ければならないということです。  これは押さえたのですが、そのうしろのほうからどんどん溶けてきて、うしろに強膜 をずっと継ぎ足しているというところです(スライド1-12:写真)。  結局、どちらも人工水晶体が入っていて、後ろからどんどん破れてきて、そこへ1枚 足し、さらに2枚足し、さらに奥のほうに3枚、4枚というふうに足していったわけで す(スライド1-13:症例経過(2))。左のほうは、最終的には大きく脳硬膜で覆っ て、なんとかたすけたという状態です。リウマチによる融解性強膜軟化症はこのよう に、非常に大きく溶けてくるわけです(スライド1-14:写真)。  これはそれを強膜で埋めたところです(スライド1-15:写真)。これでは足りません ので、結局、最終的には硬膜に変えました。  以上のように、強膜というのは非常に単純な組織ですので、表面をただ覆って、それ 以上破れないようにするだけですので、機能とか、そういうことはほとんど考えなくて いいものですから、昔から保険にも適用されておりますし、どんどん使われていたんで すが、角膜に関する法律ができてから、非常に使えなくなってしまったということで す。こういう人は数は少ないんですが、たしかに今でもありますので、ぜひ、強膜移植 ができるようにお願いしたいわけです。 木下座長  どうもありがとうございました。参考資料としまして、資料1-1のところに眞鍋先生 からご提出いただきました角膜以外の眼組織の移植、強膜移植についての文章がありま す。これもご参考にしていただきまして、あとでご意見、ご質問等がありましたらお受 けしたいと思います。それでは山本先生、網膜移植についてお願いいたします。 山本先生  網膜移植は1980年代の終わりから研究がスタートした、非常に新しい分野であり、実 は医療と言うには、まだちょっと、おこがましい、ほとんどが実験段階の問題です。今 日は、その中でも比較的臨床に近い部分の現況についてご説明させていただきたいと思 います。これは先ほどの眞鍋先生のお話にもあった眼球の構造です(スライド2-1:眼 球の構造)。ここで問題となるのは、いちばん奥のほうです。この眼球のちょうど中心 にあたる部分が黄斑部です。網膜の黄斑部というと、ものを見るのにいちばん重要なと ころで、これからお話しすることは、この眼球のちょうど真後ろの部分にあたるという ことをご理解いただきたいと思います。  ここの部分の断面です(スライド2-2:断面図)。上が眼球の内側、下が眼球の外側 で、いちばん下にあるのが、先ほどのお話にあった強膜です。網膜は、強膜、脈絡膜と あって、さらにその内側にあります。さらに網膜は十層に分かれていて、いちばん脈絡 膜に近いところが網膜色素上皮層というふうになっています。その内側にあるのが網膜 神経網膜といって、神経細胞のかたまりです。これが非常に重要なところです。細胞の 勢いとかが非常に重要で、ちょっとした酸素の欠乏、ちょっとした栄養の欠乏で、すぐ 細胞そのものがだめになってしまうという、非常にシビアな環境に置かれています。光 は眼球の中側、この図でいうと上から入ってきます。1回、網膜を全部貫いて、網膜の 外から2番目にある視細胞というところで光を感じます。  網膜移植の目的というのは、お手元の資料1-2に私なりに書いてみましたが、この網 膜の機能が障害されますと、要するに光を感じなくなり、ものが見えなくなるわけで す。その障害された部分を取り替え、正常な組織、あるいは正常な細胞と置き換えて、 ものが見えるようにするというのが網膜移植の究極の目的です。これまでの実験段階 で、移植が可能と考えられているのは、この、網膜のうちの、いちばん外側にある網膜 色素上皮層、それから、その1つ内側にある、光を感じる細胞である視細胞、この2つ の移植について、研究、実験が進められています。3番目に「網膜移植の対象となる疾 患」と書きましたけれども、今お話ししたように、この色素上皮細胞が障害されてもの が見えなくなる病気、あるいは次の視細胞が障害されて見えなくなる病気が対象となり ます。ここの移植のみが現在、考えられていますので、対象となる疾患、病気に関して は、それよりも内側の網膜は神経細胞が1つ、2つ、3つと連結して信号が脳に伝わっ ていきますけれども、その内側のほうは少なくとも正常である、あるいは正常に近い機 能を持っているということが、網膜移植を行ううえでの条件になります。ですから、網 膜全部がやられてしまう、たとえば糖尿病による網膜症とか、いろいろとありますが、 網膜全部がやられてしまう病気の場合には、残念ながら網膜移植というのは、現況では 行えません。  具体的な病気として、今お話ししたように網膜の色素上皮細胞移植と視細胞移植とい うのが対象となります(スライド2-3:網膜移植)。具体的な病名としまして、色素上 皮移植の対象としては加齢黄斑変性症、それから視細胞の移植については特定疾患に認 定されている網膜色素変性症。これが具体的な網膜移植の対象となり得る疾患だと思い ます。  4番目に、網膜移植のドナーとしてはどのようなものが考えられるか(スライド2-4 :網膜移植研究)。この研究がスタートした当初は、やはり米国が中心ですけれど、ア イバンクアイ、すなわちアイバンクから得られた眼球の前だけを使って後ろ側を捨てて しまうのはもったいないじゃないかということで、アイバンクアイを使った研究が主と して進められましたが、ここで大きな問題が起こりました。通常、角膜をまずとってか ら、それから後ろのほうが、われわれ網膜の研究者のほうにまわってくるものですか ら、細胞の勢い、細胞のいきが非常に悪い状態です。もちろん、死後に摘出するという 問題もありますし、角膜をとってからまわってくるということもあります。それから、 アイバンクで提供される方の年齢が、どうしてもご高齢であるということで、それによ る細胞のいきの悪さというのも大きな問題となっています。  そこで注目されたのが、2)に書きました、中絶胎児から摘出しようということで す。だいたい、妊娠20週ぐらいまでの中絶胎児ですと、眼球の大きさがそこそこありま すので、操作も用意である。それから胎児ということで非常に細胞の活性が高い。要す るにいきがいいわけです。それから、新しい環境への適応が非常に柔軟である。これは 妊娠20週の中絶胎児から摘出した網膜の色素上皮細胞を培養下に置いた写真です(スラ イド2-5:写真)。この黒いところが、もともととった色素片ですけれども、1週 間、培養に置くだけで、もう、みるみる外側に細胞が増殖して広がってくる。これが眼 の中で起きてくれれば、仮に小さな移植片でも、もっと大きな欠損部位にも働いてくれ るのではないかということが期待されるわけです。ところが拒絶反応の問題など、いろ いろな問題があって、最近では自分の眼球のいいところから移してくるという方向性も 出てきています。  これは正常な眼底です(スライド2-6:写真)。先ほどお話ししました、ものを見る のに非常に大事な黄斑部というのはここです。少し、色が茶色っぽくなっています。人 間は、ほとんどここで見ています。ここが損なわれると、とにかく視力が下がるという ことです。  加齢黄斑変性症というのは、読んで字のごとく、歳をとってくると出てくる病気です (スライド2-7:写真)。89年の調査では50歳代では2万人に1人の有病率が、80歳代 になると1,500人に1人というふうに、有病率が年齢ととのにどんどん上がっています。 原因はいろいろ言われていますが、現在のところ不明です。網膜の1つ外側にある脈絡 膜から異常な血管が網膜に向かって伸びてきて、網膜に出血あるいは網膜剥離を起こ す。この眼底写真では、ちょっと赤く、ポツポツとなっているところが黄斑部ですが、 ここに、脈絡膜のほう、下から血管が伸びてきて出血を起こしている。さっきから申し 上げているように、視力に非常に大事な部分です。他のところにこんなことが起きても 何の問題もないんですが、黄斑部に起きるために視力が急激に下がってくるということ です。  これは特殊な造影検査の写真です(スライド2-8:写真)。血管の中に造影剤を入れ ると、このように、異常な血管から造影剤が漏れてくる。黄斑部が非常に腫れている、 水浸しの状態、あるいは血だらけの状態になっています。  これが進行しますと、このように黄斑部を含む眼の奥全体が非常に斑痕形成と申しま すか、傷んで、この部分の網膜がまったく働かないという状態になります(スライド2- 9:写真)。ですから、こういう患者さんは、まわりは見えるんですが、真ん中の、見 たいと思うところがまったく見えないという状態に陥ってしまいます。  これはその断面です(スライド2-10:加齢黄斑症(AMD))。ここから上が網膜 で、この下が脈絡膜。そこからこのような新生血管が生えてきて、網膜の下に出血をつ くる、あるいは網膜剥離をつくるという状態です。これに対する治療法としては、現 在、いちばん有効と考えられているのは、この、生えてきた血管にレーザー光線を当て て、ここを焼きつぶすという方法が、広く一般的に行われています。ただ、問題点がい くつかあって、たとえば視力に大事な真ん中のところにこういうものがある場合、そこ をレーザー光線で焼いてしまうと、その部分は一生涯にわたって働かなくなってしま う。あるいは、いったん焼きつぶしても、また違うところに生えてくる。あるいは、広 い範囲にわたって、こういう血管が出ている場合には、焼きつぶすこと自体が非常に困 難になる。以上のような問題があります。そこで最近考えられた、新しい手術として出 てきたのが、この出血というか新生血管板そのものを、網膜の下に機械……細いピンセ ットを挿入し、これをつまんで引き抜いてくるという手術が最近、行われるようになり ました。広く行われているとは言えませんが、網膜硝子体の手術を専門としているとこ ろでは行われるようになってきています。レーザー光線に比べると、比較的再発が少な いといった成績が報告されていますが、ここでまたもうひとつ問題点があります。この 黒いところが手術でとるところですが、その下に、ポツポツと四角く書いてあるのが網 膜の色素上皮層です。この黒いところをとろうとすると、ついでにここの部分の網膜の 色素上皮も一緒に引き抜かれてしまう。昨日、私どもの病院でも、この手術をいたしま したが、とったものを見ると、この膜……いわゆる脈絡膜新生血管板に、びっしりと網 膜色素上皮が一緒にくっついていたわけです。そうしますと、無事とれて網膜剥離が治 ったとしても、この部分は網膜の色素上皮層がない状態です。するとどうなるかという と、網膜上皮細胞というのは、光を感じる視細胞にとっては、揺りかごあるいはベッ ド、あるいは母親ともいえる、生存に欠かせない細胞層です。ですから、なくなってし まうと、汚いものはとったけれども、本来、働いてもらうべき視細胞が働けないという 状態が出てくる。そこで、じゃあ、とったあとに正常な網膜の色素上皮細胞を植えてや ればいいじゃないかということで、網膜移植という発想が出てきます。  お手元の資料の2枚目になりますが、加齢黄斑変性症への網膜色素上皮移植というの が、実は動物モデルではなかなかいいものがないので、いきなり1997年に、米国とスウ ェーデンの共同研究で、臨床実験という名の人体実験が行われています。このときは加 齢黄斑変性症で、新生血管板をとったあとに、中絶胎児から採取した網膜色素上皮を移 植しました。これはそのときの眼底写真です(スライド2-11:写真)。真ん中に黒く見 えるのが中絶胎児からとった色素上皮です。  その視力の結果です(スライド2-12:AMDにおける胎児RPE移植)。これはちょ っと特殊な表示で、上に行けば行くほど視力が悪くなります。下のほうが視力がいいと いう表示です。横軸が手術後の経過です。加齢黄斑変性症は、病気によっていくつかの タイプに分かれますので、それによって違いますが、術後、視力がずーっと悪くなって しまう症例もあるけれども、視力が変わらない症例もある。ただ、少なくとも、良くは できないだろうということが、この段階で分かっています。  これは、先ほどお示ししたのと同じ症例です(スライド2-13:写真)。手術してから 1年たつと、なんとなく移植した細胞自身が小さくなって、そのまわりが、もやもやっ としてくるのがお分かりいただけるかと思います。この移植片のまわりに、かなり強い 炎症反応が起きてきて、繊維化というんですが、要するにかさぶたのようにまわりが固 まってきてしまうということが分かっています。  なぜこれが起きるのかというと、やはり拒絶反応ということです(スライド2-14:R PE移植の今後の展開)。要するに脈絡膜というのは非常に血管系に富んだところです から、そこと直接接するところに、まったく自分と関係のない細胞を植え込んでいます ので、免疫系にさらされる状態が生じて拒絶反応が起きてくるということです。最終的 に、この15例すべてが、程度には差がありますが、何らかの形で拒絶反応が起きてき て、一時的にはよかったけれども、やはり最終的には視力の改善が得られない、あるい は先ほどグラフでお示ししたように、視力が逆に下がってしまうという結果となってい ます。じゃあ、拒絶反応を抑制すればいいじゃないか、と。他の、心臓とか腎臓とか肝 臓などの移植時のように、免疫抑制剤を使えば治まるじゃないかということはあります が、ひとつには、生命に直結しない、視力というだけのこと、眼球という非常に狭い範 囲の移植に対して、全身的に負担が非常に強い免疫抑制剤を長期間にわたって患者さん が内服できるかどうか、あるいはそれを投与するということが医療として正統化できる かどうかというのが議論になると思います。それを避けるために、アメリカではDDS (ドラッグ・デリバリー・システム)といって、薬を含んだ小さなかたまり、要するに 薬のかたまりを眼球内に埋め込んで、徐々に眼球内に免疫抑制剤が放出されて、全身的 な影響はなしに、眼球内だけで免疫抑制がかかるようなシステムを開発してはどうかと いう試みもされています。それに関して、じゃあ、拒絶反応が問題ならば、自分の細胞 を移植してはどうだろうかという試みも、もうひとつの方向性としてあります。  ひとつは、今、問題となるのは、この、眼球のいちばん後ろの黄斑部です(スライド 2-15:眼球断面図)。加齢黄斑変性症の場合には、この真ん中だけがやられてしま う。ですから、もうちょっと離れたところは一見、正常です。本当に細胞レベルで正常 かどうかは分かりませんが、見た目は正常ですから、こういうところの細胞をはずして 持ってきてはどうか、ということ。それからもうひとつ、網膜の色素上皮細胞というの は、ずーっとつながって、前のほうへ行っています。この、茶眼の虹彩の部分と、実は 発生学的にはおおもとの起源は一緒なので、ここの細胞をはずして後ろに持ってきては どうかという方向性もあります。  というわけで、網膜の色素上皮細胞の移植に関しては、やはり、拒絶反応をどうクリ アするかというのがいちばんの課題です(スライド2-16:写真)。手術のテクニックと しては、そんなにたいしたことはない。網膜硝子体の手術にたけた人間であれば、危険 なくできますが、やはり拒絶反応の克服というのが、ひとつの大きな課題となっていま す。  次に、網膜色素変性症についてお話をさせていただきます。網膜色素変性症の病気の 概要としては、このプリントにお示ししたように、だいたい3,000〜5,000人に1人の割 合で発症し、光を感じる細胞である網膜視細胞の遺伝子の異常で起きています。遺伝子 異常で起きるため、現状では有効な治療法がないとされています。  症状としてはプリントに書きましたように、視力低下、夜盲、視野狭窄が徐々に進行 するということです。発症の年齢は10代で発症する方もいれば50代になって気づく方も いらっしゃいますけれども、少しずつ見えなくなってくるということで、患者さんにと っては非常に恐怖心の強いものです。ある日突然見えなくなるというのではなく、だん だん見えなくなってくる。何カ月という単位では何もないけれども、3年、4年単位で 比較すると、やはり明らかに悪くなっている。いつ失明してしまうんだろうかという不 安を抱きながら病気と戦っておられる、そういう患者さんが非常にたくさんいらっしゃ います。現状としては治療法がないんですが、現在、研究段階ではあるけれども進めら れていて可能性のある治療法としては、ここにあげた3つだと思います(スライド2-17 :網膜変性症治療の可能性)。網膜移植は、正常な視細胞を移植してくるということ。 遺伝子の異常であるならば、正常な遺伝子を導入してやればいいんじゃないかという考 え方。そして、3番目はまったくSFの世界になりますけれども、ものを見るという機 能、光を感じるという機能そのものを機械に代用させてしまえ、と。最近のテクノロ ジーの進歩により、非常に小さな光を感じるマイクロチップが開発されてきていますの で、それを最初から眼の中に埋め込んでしまえばいいじゃないかというような考え方も あります。  実は、ここの3番目に書きましたけれども、網膜色素変性症の視細胞移植というの は、動物実験レベルでは有効性がまったく証明されていないんです。これは以前、私が マウスでやった実験のデータです(スライド2-18:写真)。実験モデルとして、網膜 色素変性症と同じような病態を起こすネズミがいます。そのネズミに正常な視細胞を植 えたものです。この、青く染まっているのが植えた細胞です。移植後1年たっても、こ のように正常な形態を保っています。ですから、植わることは植わる。1年間たって も、ちゃんと正常な形を維持して細胞がいるということが分かっています。ただ、この 細胞が、この形からすると光を感じることは間違いないと思いますが、光を電気のシグ ナルとして感じ、そのシグナルが神経を伝わって脳まで行くかどうか……。行かなけれ ば、見えるということにはなりませんので、この次の、もともとのホストというか、移 植を受けた網膜との間にコネクション(接続)ができるかどうかというのがいちばんの問 題です。ところが、その部分が実は、動物レベルではクリアされていないんです。これ は非常に長いこと、みなさんとやっておりますが、なかなか、これという結果が出てい ません。  お手元の資料の2)ですが、じゃあ、眼の見えない患者さんに直接植えてしまって、 見えるか見えないかを聞けばいいじゃないか、というのがアメリカ人の発想です。  これは1997年に報告されたものです(スライド2-19:網膜色素変性症における視細胞 の移植(1))。視力がない、まったく光を感じない網膜色素変性症の患者さんに、ア イバンクからもらった眼球の視細胞を移植したということです。移植したところ、手術 前、光覚がなかったのが、やはり手術後も光覚がない、光を感じない。ただし、幸いな ことに何ら拒絶反応は起きなかった。先ほどの、網膜の色素上皮細胞のときにみられた ような拒絶反応、あるいは炎症などはなかったという報告です。  さらに、インドとアメリカの共同研究がなされています(スライド2-20:網膜色素変 性症における視細胞の移植(2))。これは全部、インドで手術が行われていて、患者 さんはインド人ですが、中絶胎児からとった視細胞を移植したところ、不思議なことに ……不思議といってはなんですが……12例中5例で視力が改善したという報告が出てい ます。光しか見えなかった患者さんが手の動きが分かるようになった、あるいは光しか 見えなかった患者さんが指の数が数えられるようになった、あるいは指の数しか分から なかった患者さんの視力が0.2に上がった、というような報告がされています。ただ、な ぜ、このような視力の改善が得られたのか、本当に移植した視細胞が働いて改善された のかどうかというのは非常に疑問であり、この研究データに関しては、この業界では眉 につばをつける研究者が多いことは事実です。  ざっと今お話ししましたのが、視細胞網膜移植の現況です。いちばん最後に、これま での経過から、医療として問題点がどこにあるのかというのをまとめてみました。やは りいちばんは、ドナーをどこに求めるのか。つまりアイバンクアイでいけるのか、それ ともやはり中絶胎児を使ったほうがいいのか、あるいは倫理的もしくは法律的問題を回 避するためにも、自己の細胞を移すほうがいいのか、という問題。それから、拒絶反応 をどうやってクリアするか。そして3番目に、これを言っていいのかどうか、ちょっと 考えましたけれども、網膜視細胞移植というものが、本当に医療として成立するのかど うか、というのが現在の問題点ではないかと思います。 木下座長  どうもありがとうございました。委員の方々、どなたか、ご質問等、ございますでし ょうか。ないようでしたら、実際の法的な考え方等について、事務局からご説明をいた だき、それをふまえてご質問、ご意見等をお聞きしたいと思います。 山本補佐  眼球に関する移植医療の中で臓器移植法ができたわけですが、今後、網膜・強膜移植 をどう考えるかということで、法律上の整理をさせていただいております(資料1- 3)。2番のところ、法令上の規定振りですが、これは前回も参考資料でお付けしまし た。角膜移植法、角腎法、それから臓器移植法というふうに書いてありますが、角腎 法、角膜移植法では「角膜移植術のために」ということで明記してあったわけですが、 臓器移植法の場合には「臓器もしくは眼球」という形で定義されています。また、移植 術に使用されなかった部分の臓器について、つまり眼球では角膜移植以外の部分は焼却 するというような考え方も書いてございます。  それではどうするかということですが、もともと臓器移植法が成立する過程では、従 来の角膜移植法、もしくは角腎法を取り込む形で法律がつくられましたので、この臓器 移植法をつくったときには強膜移植や網膜移植は想定されていなかったというのが実際 かと思います。そのうえで、国会でこの臓器移植法が成立する過程で、いろんな審議が なされていますが、角膜移植以外の議論がなされていないというのが現状です。ただ、 現在の臓器移植法の規定では、先ほど申し上げましたように、摘出の目的は角膜移植と は明示されておらず、一般的な臓器移植というような表現になっていますので、文言上 で見ますと、眼球の角膜以外の部分の移植への利用ということも可能であろうかという ふうに考えます。また、通常、医学というのは徐々に進歩していくものですから、医学 の進歩によって、摘出された眼球の一部を、他の部分を使う移植が確立していくのであ れば、それを行っていくことが適法であるということも言えるのではないかというふう に存じます。  法的には強膜移植、網膜移植を行うことが可能だという結論になった場合に、具体的 にどうするかということについては、いくつかの手続きは必要になろうかと思います。 たとえばあっせん業の中で、これを取り扱うことになれば、アイバンクのあっせん対象 業務ということになるわけですが、これまで各アイバンクにおいては角膜移植にかかる あっせんの業務許可を得ているということになりますから、たとえば強膜移植、網膜移 植を行う場合には、その具体的な手段について、各アイバンクは変更届、報告を厚生省 に出していただいて、たとえば強膜もあっせんしていくということになろうかと思いま すし、ただ、その際、ご存じのとおり、臓器移植法にございます、各種法的手続きがあ ります。いろんな書類や帳簿等、それは当然、強膜移植、あるいは網膜移植にもかかっ てくるということになりますので、そういう手続きをふまえたうえでやるということで す。もうひとつは(2)に書きましたが、ひとつはそういう対象にするかどうかという のは、医学の進歩、もしくは移植医療の定着度合いを見て判断していく必要があろうか ということなので、今日、強膜移植と網膜移植のプレゼンテーションをいただきました が、そういう医学的な移植医療としての定着度合いも考慮したうえで、アイバンクの対 象業務にするかどうかというのも検討していく必要があろうかと思います。 木下座長  ありがとうございました。今の眞鍋先生のお話、山本先生のお話、それから山本補佐 のお話を含めまして、ご質問、ご意見等、ございますでしょうか。角膜以外の眼球組織 の疑問について、どういうふうに考えているか、強膜移植、網膜移植について、できれ ば今日、それなりの見解を出せればと考えているんですが。 佐野委員  法律としては人間から人間への移植ということだと思うんですが、今の山本先生のお 話を聞きますと、その前の段階の移植、たとえば動物実験だとか、そういう移植も含め て、非常に実験的な要素をやらなければいけない段階だと思うんです。一応、角膜移植 の場合はもう、既にいろいろ既成事実ができたりもして、成功するかどうかはべつとし て、だいたい、やればよくなる。このへんを今度、網膜の移植の場合に、どうクリアカ ットしていくかという点で、非常に大きな問題があるような気がします。聞くところに よると、アメリカあたりは死んだ方の臓器は物体とみなし、たとえば眼球をとってき て、場合によっては余りを医学生が実験に使うとか、そういうことまで許されている。 このへんのことも含めて考えていかなければいけないと思いますけれども、そこまで、 一ぺんに飛躍する時間はありませんので、取り敢えず、これをどういうふうにしていく か、ということです。強膜のほうは分かるんですが、網膜の場合は、ここでどういうふ うに、それをこれからの課題としていくのか、そのへんがポイントなのではないかと、 今、お話を聞いていて感じました。 木下座長  先生のご意見は、基本的に強膜のことはそんなに問題はないだろうけれども、網膜の ように、実験的な段階のものはどう考えるのか、少し検討の余地があるというようなご 意見だと思います。丸木委員、いかがですか。 丸木委員  私も今、技術的なことをお聞きしまして、たしかに強膜に関しては必要とされている 人がいて、今のままではなかなか提供されないということであれば、それについての模 索は必要であろうかと思うんです。ただ、網膜に関しては、今、初めてお話をうかがっ て、実験的というようなことを言われると、なんとなく、それを推進していくことにつ いては疑問に思う部分ではあります。ただ、山本補佐のほうからご説明がありました、 アイバンクの変更を伴うという件については、たとえば強膜をやる場合には、そういう 手続きがないと現状では、前の角腎法の規定が生きていてできないものなのか、それと も、そういうことはある程度きっちり決めなくても、現状、行われているのか、そのへ んをちょっと、知りたかったんですが、いかがでしょうか。 山本補佐  まず、手続きのお話ですが、先ほど2ページ目で申し上げましたけれども、現状のア イバンクのあっせん業の許可というのは、臓器移植法ができてから許可をとった一部の アイバンクを除いて、角膜移植のための角膜をあっせんするという形で許可をとってお られますので、強膜をあっせんする形にはなっていません。じゃあ、現状の強膜はどこ から来ているんだろうという話は、各民間アイバンクのご専門の方がおられるので、実 態をご説明いただけるかと思います。 丸木委員  ぜひお願いします。 木下座長  眞鍋先生の文章の中に書いてありますが、先生方にご説明いただけますか。 眞鍋委員  眼球そのものはアイバンクのほうからいただいてしたこともあるんですが、それはず っと昔の話です。こういうことがはっきりと表に出てきますと、やはり許されないとい うことで、現在では、いわゆる篤志解剖として、研究に使ってくださいということで解 剖用に全身を提供される場合があります。篤志解剖の場合には1眼だけは残すことにな っていますので、1眼は学生の実習等に使わせていただく、1眼は眼科のほうで使って くださいということです。もちろんご遺族からの許可をいただいてからの話ですけれ ど、眼球をいただきます。強膜の場合、非常にいいことに、冷凍しておけば1年でも2 年でも使えます。強膜細胞がずっと生きていなければならないということではありませ んので、1個でも保存して冷凍しておけば、何人かの人がたすかるということです。  もうひとつ、篤志解剖の他に、病理解剖があります。病院で亡くなったときに、遺族 の方から、眼球を研究に使わせて欲しいという形でいただくことがあります。アイバン クを通していないものですから、角膜だけをいただくという約束をしていませんので、 この場合の眼球も冷凍保存しておいて使わせていただいているというのが現状です。 丸木委員  数的には足りていると考えていいんでしょうか。結構、患者数が多いのではないかと 思うんですが。 眞鍋委員  足りていないものですから、先ほども言いましたように、仕方なく、強膜ではなく硬 膜を使うというふうに変わってきて、今度は硬膜もだめだということで、どうしよう か、という状態になっています。 丸木委員  個人的な意見なんですが、やはりそういうことになると、網膜については私は判断の 規準を持ちませんのであれですけれど、ある程度、強膜に関しては、一応、つくるべき ではないのかなあ、と。アイバンクに関しては、提供者の意思はべつに角膜だけに限る ものではないという感じがしますので、やはり、それはきちっと意思を生かすという意 味でも、適用できるのでないかという感じがします。 横瀬委員  今の話をうかがっていて、患者さんがいる限り必要なものであるならば、やはり「角 膜および強膜、その他云々」というふうな形に、できれば訂正したほうが、今後、研究 なさる立場としても大変やりやすい状況になるのではないかなあという気がしました。 八木委員  強膜だけについてというのではなくて、本当に、今後、網膜も研究していけばもっと いい方法というか、移植の道ができてくるのかもしれませんし、広く、どこでも使える ように、できるだけ変えていけたらいいと思います。 篠崎委員  強膜については、当然、進めるべきだと思います。医療としても確立していますし、 保険点数もとっくについているわけですから、それがどこから来ているのか分からない というのも困りますし、クォリティ・コントロールの面からも、アイバンクがしっかり 管理すべきだと思います。網膜など、その他の眼球組織においては、たとえば研究しな いでいきなり移植するわけにはいきませんから、研究が必要であることは当然だと思い ます。その場合に、現状で何が行われているかというと、たとえば私もアメリカのアイ バンクとの関係がありますので、年間、数十件、研究用の細胞の要請があってアメリカ のアイバンクに依頼して、「こういう元気な状態で、こういう保存で送ってくれ」とい うことで、送料だけでお願いして、アメリカのものを使っています。これは日本の医学 の発展のためには仕方ないことだとは思うんですが、日本でアメリカ人の細胞を使うの は許されて、日本人のものを使わずに日本人が研究をするということで、非常に忸怩た るものを感じていますので、リサーチという面も含めて、何らかの方策をとらなければ いけない。「病理解剖でとりなさい」であれば、それでもいいですし、あるいは献眼さ れた方の意思がいちばん大事だと思います。先ほど、山本補佐からもありましたよう に、しっかりした手順を踏んで……ちなみに、うちのアイバンクでは、既にフォーマッ トの中に「角膜および強膜」とか、名前がずっと書いてあって、その承諾をとるように しています。一応、説明させてもらっていまして、「現在は角膜移植しかやっておりま せんが、強膜など、こういったものも使える状態にあります」と。現在は、こうやって スクラッチしてもらっているんですが、昨日もありました。昨日の提供者の方も、使え るものだったら何でも使ってくださいというお話がありましたので、やはり、承諾する 方、日本の場合ですと眼はご遺族ですが、ご遺族の意思を生かしていくということ、あ るいは本人の意思ももっとあります。とくに網膜の場合には、網膜色素変性症の患者さ んなどで、遺言書を書いて、ぜひ、死後に研究に使って欲しいというのが、かなりの 数、来ているという話も聞いております。そういった意思を生かすことも、やはり必要 ではないかと思います。 木下座長  ありがとうございました。鎌田委員、お願いします。 鎌田委員  法解釈に関しましては、前回もちょっと発言させていただきましたのですが、今日、 事務局から出していただいたペーパーのとおりで結構なのではないかと思います。法律 の解釈は文理解釈と実質的あるいは目的的な解釈の複合で成り立つわけですが、文理の うえでの問題はありませんし、実質的な部分でも、当時は角膜のことしか問題になって いなかったから角膜の議論しかしなかったわけで、他のものの移植を積極的に排除する という趣旨ではないというふうに理解できると思いますので、そういう意味では角膜移 植というのではなくて眼球組織の移植なんだということで、制度の趣旨にも反しない し、先ほどお話があったようにドナーの意思を尊重する意味でも適用できるだろうと思 います。ただ、インフォームドコンセントの段階で、きちんとしておくことが望まれる と思います。  問題になるのは移植以外、とりわけ実験・研究についてどうかということですが、こ れは大変難しいところがあります。個別的に自分の眼を実験、研究に使っていただいて 結構ですよという、こういう個別的な提供はまったく問題ないんですが、バンク事業と いうものがここでは問題になるわけです。移植のために提供した臓器が、どういう形で 使われるかというのを、提供したんだからあとはどうにでも、というふうに一概には言 い切れない部分があります。とりわけ臓器移植法は、すべての臓器をカバーしているも のですから、何がされるか分からないという状態に移植事業というかバンク事業を置い てしまうことの弊害とのバランスなんだろうと思うんです。だから、そういう意味では バンク事業に提供される部分と、それから1人1人は、残ったぶんは実験に使ってくだ さいよという、これは個別的な同意の問題なので、これをうまく組み合わせることがで きれば、うまい対応が可能なんでしょうけれど、今の制度のもとでは、なかなかちょっ と、そういうことまで想定した制度づくりというのは、そのままやっていいというふう には、ちょっと難しいかと思います。将来的に、そういうものをちゃんと受けられるよ うな制度づくりというものをきちんと考えたうえでやらないと、技術が進んでいるだけ に、いろんな事件が起き得る。ある組織を培養して営利事業に使われていくというよう なことが、ないわけではないですから、そういうことまで野放しにはできない。他方 で、あんまり抑制的になっても困るというところの調整については、やはり、少し時間 をかけて全体の体制整備をしていく。それまでは、やはり実験は個別的な同意承諾の中 で処理していくというか……ちょっと、保守的かもしれませんが、現在の制度のもとで はやむを得ないところかなと思います。 木下座長  ありがとうございました。今の全体のお話をお聞きしますと、法律上の文理的なとこ ろでは、眼球のあっせんということですので、一応、強膜等を含めても問題はないので はなかろうかというご意見であったかと思います。とくに強膜移植術については、角膜 のみならず強膜のあっせんも行うということで、ほぼ同意が得られていると思いますの で、具体的に都道府県を通じて厚生大臣の変更内容とか、そういうことを報告していた だいたら、強膜のあっせんが具体的にできるのではないかということで、望ましいかな あと思われます。網膜移植については、現時点では、まだ実験的色彩が強いというとこ ろがありますので、将来的にはもちろん、こういうこともアイバンクの事業としてあっ せんできるようにしていくべきではあるでしょうけれども、これが本当の医療として確 立するところまでは、個別的に対応していっていただくというような考えではないかと お聞きしましたが、鎌田先生、そういうことでよろしいでしょうか。 鎌田委員  はい。 木下座長  あと、先ほどもありましたが、たとえば研究に組織を使えるように、ぜひしたいとい うこと。欧米では、そのように現実になっていますし、今、日本の法律ではそこのとこ ろにしばりがありますから、研究的目的というのは使えませんが、こういったところ は、次の法改正なども含めて、将来的には研究にも使えるようにしたいという、とくに 医学専門家からの要望を、ぜひ、あげていければいいかなあというふうに思うんです が、そういったまとめというか、一応のくくりとして、この班の意見をまとめさせてい ただいてよろしいでしょうか。 佐野委員  ちょっとよろしいでしょうか。 木下座長  はい、どうぞ。 佐野委員  この資料1-3の2の(1)に「角膜移植術に使用しなかった部分の眼球を」と書いてあ りますが、これは法ですね。法律は総理大臣というか、国会を通らないといけないとい うことですが、省令は厚生大臣の権限でよろしいんですよね。この「角膜移植術に」を 「角膜その他、眼球の組織の移植術に」というふうに文言を変えるということは簡単な んでしょうか。それとも大変な問題なんでしょうか。 山本補佐  説明が悪くて申し訳ありませんでした。今、先生は2の(1)ということでお話しさ れたわけですが、(1)、(2)の角膜移植法、(旧)角腎移植法と言われているもの は、もう廃止されていまして、現状は(3)の臓器移植法だけですので……。 佐野委員  ただ、「焼却」というのは省令ですよね。省令をうまく変えることによって、範囲を 広げるということは不可能でしょうか。 山本補佐  (3)の臓器移植法の2つ目の○ですが、法律のほうで「移植術に使用されなかった 部分の臓器を」処理しなければならない、というのがあります。この処理の発想は、ど こかで別の用途に使っていいという発想ではなくて、基本的にそれは移植以外には使わ ないという理念で書かれています。具体的にどう処理するかというのが省令で「焼却」 と書いていますので、基本的には今の話は、法律改正の議論になろうかと思いますの で、厚生省だけの話ではすまない問題なんです。 佐野委員  ちょっとくどいようですが、そうすると、「移植をされなかった部分の臓器」という ところの「臓器」という概念が、眼球の場合は眼球全体を指さないで角膜を指している ということですよね。これを「眼球全体」に変えることは難しいんでしょうか。 山本補佐  「移植されなかった部分の臓器」なので、ここで意図しているのは、たとえば今、角 膜移植のために眼球をとった場合に、角膜をとった残りですので、それは「移植に使わ れなかった部分の臓器」ということで、処理することになります。今のお話ですと、強 膜は移植に使うわけですから、眼球をとって角膜と強膜は移植に使うので、それ以外の 残りということがあるかと思います。そういう意味で、先ほど、鎌田先生が非常にサマ リーしてくださったんですが、臓器移植法というのは移植目的の臓器の摘出と利用とい うことを考えていますので、研究目的というのは基本的には概念に入っていないし、ど ちらかというと排除する、勝手に研究に使っていいという概念は、この中にはないんで すね。そういう意味で、アイバンクはあっせん業の許可をとりますというのは、あっせ ん業の許可というのは移植のための組織、臓器のあっせんなので、研究のためのあっせ んをするという構造にはなっていません。先生のおっしゃる研究的な要素に使うとなる と、もう、この法律の根幹から議論しなおさなければならない問題だと思います。 木下座長  よろしいでしょうか。あと、眼球は臓器移植というふうに考えられていますけれど も、もうひとつ、組織移植という考え方も多少出てくるかと思います。このへんは非常 に微妙なことですので、今日は時間の都合上、もしも何かありましたら、次にお話しさ せていただきたいと思います。それでは以上、強膜移植、網膜移植の考え方、研究に使 う考え方につきましては、一応、先ほどのようにまとめさせていただきたいと思います 。  次に議題の2ですが、「アイバンクにおけるレシピエント登録等の実施について」。 これに関して、前回のこの作業班でも、各アイバンクにおけるレシピエントの登録、選 択について、少しご検討いただきましたが、本日、論点をいくつか事務局にまとめてい ただいた資料がありますので、まず、資料の説明をお願いいたします。 山本補佐  「アイバンクにおけるレシピエント登録等の実施について」(資料2)ということで、 実態については前回、篠崎・眞鍋両委員のほうからご紹介いただきました厚生科学研究 の事例がございました。簡単に繰り返しますと、レシピエント選択のための待機患者リ ストを作成している、登録をしているアイバンクというのは18カ所で、残りは医療機関 がやっている。それから、レシピエントの選択をアイバンクが行っているというのも4 カ所しかなくて、さらにレシピエントの選択規準を明文化しているアイバンクは2カ所 で、非常に少ないです。「アイバンクにおけるレシピエントの選択等のあり方につい て」ですが、(旧)角腎法では、こういうことは書いていなかったわけですが、「臓器 移植法の下では、アイバンクについて(旧)角腎法の取扱いとは異なり、公平かつ適正 な角膜のあっせん」……今回は、強膜のあっせんも含まれるかもしれませんが……眼球 の「あっせんを行うことが」明文化されています。また、「移植医療システムの透明 性」の確保ということも言われていますので、以下の点について検討する必要があると いうことで、論点整理をさせていただきました。  その前にまず、参考のために臓器移植法を引いています。この「公平」「適正」の概 念というのは、臓器移植法の第2条の(基本的理念)の4として、「移植術を必要とす る者に係る移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮されなければならない」 ということがあります。また、(業として行う臓器のあっせんの許可)ということで、 アイバンクは許可をもらっているわけですが、業として臓器のあっせんを行うにあたっ て、「移植術を受ける者の選択を公平かつ適正に行わないおそれがある」場合というこ とで、あっせん業の取り消し条項に入っています。(旧)角腎法の場合は、実は業とし てあっせんをする場合、厚生省で定める許可を受けるときの考え方として、眼球の提供 のあっせんというところだけしか決まっていなくて、提供いただいたものを、今度、移 植を受ける方へまた提供もしくは配分していくというところまで、あっせん業の概念が 入っていませんでした。それで臓器移植法ができ、臓器の提供を受け、それをまた移植 側に配分するというところまで含んだ概念であっせん業ということが広がったというこ とがあります。  まず、(論点1)ですが、「アイバンクによるあっせん対象の移植施設、あるいはあ っせん対象の地域の範囲について」。ひとつは(旧)角腎法に定められていた「提供の あっせん」ではなく、臓器移植法における業としてのあっせんの概念に含まれている 「提供を受けることのあっせん」、つまりレシピエントの登録や選択ということも、今 後のアイバンクは担っていくべきかどうか、という論点があります。さらにもう1点、 今後のアイバンクのあり方として、1カ所の医療機関のみに角膜をあっせんするのでは なくて、地域でいくつか角膜移植を行う、複数の移植機関にあっせんを行うことを基本 とするか、という論点があります。というのは、(旧)角腎法、もしくはその前の角膜 移植法において、眼球提供のあっせん業の許可というのは、こういう人に与えるべきだ ということを、通知で出しています。その中には、1カ所の病院のためだけにアイバン クを設立することも可能になっています。ですから、病院の中にアイバンクがあって、 自分の病院で使うぶんだけ自分が集めて、自分の病院で使うというようなことも、許可 としては認められていますので、広く地域のいくつかの医療機関に眼球をあっせんして いないような概念もあります。以上を、今後、どうやっていくのかということが論点の 1点目です。  次に(論点2)ですが、レシピエントの登録は必要なのかどうか、ということが大き な問題です。先ほど申しましたように、1つの病院のための1つのアイバンクですと、 ことさらレシピエントの登録とか、いろいろあっても、患者の待機リストとほとんどイ コールなので、それはいいわけですが、もし複数の医療機関にアイバンクが角膜なり眼 球組織をあっせんするとすれば、それぞれの病院の患者さんの待機リストを集約して、 それなりにリストアップする必要があるのではないか、という考え方があります。ここ に書きましたように、角膜移植を希望する患者さんが提供される角膜数をはるかに上回 っている現状ですので、何らかのルールで患者さんに配分しなければならないのではな いかという感覚です。前回、篠崎委員からご紹介いただきましたように、アメリカのよ うに充分量の角膜が提供されている場合には、特段のリストがなくても、欲しい人に、 欲しいときに差し上げられると思いますが、わが国においての体制をどうするかという ことです。  次のページですが、それでは、もしレシピエント登録を行う場合には、誰が行うべき なのか。アイバンクが行うのか、それとも移植施設が持っている患者待機リストだけで いいのか、ということもあります。これは( )内に書いてありますが、先ほど申し上 げたように、もし複数の医療機関にあっせんする場合には、複数の医療機関が持ってい る患者登録リストを集約し管理していく必要もあろうかと思います。また、もしも各移 植施設がそれぞれ患者の待機リストを持っていて、アイバンクは医療機関に差し上げ る、あとは医療機関の中で順番を決めてもらうという形になりますと……実際、今、こ の状態が非常に多いんですが……先ほど臓器移植法のところにありました、アイバンク として、つまりあっせん業として公平かつ適正なあっせんをするという責任をどうやっ て担保していくのか、という問題があります。  もし、1カ所の医療機関にしかサービスをしないアイバンクが、その医療機関に設置 されたとしても、その場合、医療機関の役割とアイバンクの役割をどう考えるかという 整理も必要かと存じます。また、2つめの「・」ですが、「一人の患者が複数のアイバ ンクに登録」するということも出てこようかと思われます。これを今後、どのように考 えていったらいいのかということもあります。  次に(論点3)ですが、「レシピエントの選択について」。たとえば公平・公正な角 膜のあっせんを行う、もしくは移植医療を行うという観点から、レシピエントの選択規 準を定める必要があるのではないかという考え方があります。また、移植医療の透明性 の確保の観点から、レシピエントの選択規準がちゃんと公表されている、もしくは明文 化されていて、たとえば患者関係者にも、「こういうルールになっています」というこ とが知らされるべきではないかという考え方もあります。これは他の臓器については臓 器移植ネットワークのほうでレシピエントの選択規準が明文化されていて、それはもう 公開されていて、レシピエント登録のあった患者さんにも、そのルールが知らされてい て、どういうルールであっせんされたかということも明確に公表される形になっていま すが、そうあるべきかどうかということがありますし、その際、レシピエントの選択を 行う主体は誰なのか、と。アイバンクなのか、移植医療機関なのか、という議論があり ます。  先ほど言及しました日本臓器移植ネットワークにおいては、ネットワークとしてあっ せん業としてレシピエントの選択規準を持ち、あっせん業としての選択を行っていま す。実際に臓器をあっせんしたあと、医療的な評価において、その臓器を使うかどうか というような議論は、医療の現場の移植医の判断もプラスされるという形になっていま す。ただ、もし規準をつくるとしたらどんな規準がいいのかということで、考慮すべき 点として、たとえば(1)登録・待機時間(2)両眼に障害がある患者と片眼のみに障 害がある患者について同等に扱うのか(3)緊急手術の必要な患者の取扱い(4)角膜 の内皮細胞数によって、レシピエントの年齢、あるいは原疾患を考慮した配分を行うの か(5)何らかの理由で移植を受けなかった場合の登録順序の取扱い、等々がありま す。  また、レシピエントの選択規準が全国一律で、全アイバンクが同じであるべきなの か、それぞれのアイバンクがそれぞれのルールを持っていればいいのかという問題もあ ります。  最後に(論点4)ですが、「アイバンクにおける体制の整備について」。「レシピエ ントの選択を公平かつ適正に行う」とした場合のアイバンクの体制とは、どうあるべき なのか、それから、今後、強膜等も入ってきますが、あっせんの記録の作成・保管管理 をきちんとやっていくわけですが、その体制の整備は今後どうあるべきか、というよう な議論もあろうかと思います。以上です。 木下座長  ありがとうございました。臓器移植法が施行されまして、アイバンクの位置づけとい うのは自ずと前の(旧)角腎法のときとは異なってきているわけですが、他の臓器のあ っせんについては日本臓器移植ネットワークというような体制が非常に整っています。 角膜移植では、たとえば組織適合ということについてはHLAとか、そういうことは手 術の成績にほとんど関係ないというようなところがあります。他の臓器では、それが非 常に大きく関係しているところも関係があると思うんです。これから各論点について、 ご意見をうかがいたいわけですが、アメリカでも、かなり角膜移植と他の臓器移植とは 異なって扱っているようなところがあるかと思いますので、そのへんのところを少し篠 崎委員にご説明いただいてから、論点のほうに行きたいと思います。 篠崎委員  アメリカの現状ですと、先ほどのお話にもありましたように、年間、9万数千眼の献 眼で4万例ですので、はっきり申し上げて、全部、予定手術です。ということは、アイ バンクは、「来週月曜日の9時半に、こういう患者さんがいるので角膜がいります」と いう、ドクターからの要請でお届けするという状態です。  緊急、あるいは予定手術でも、たまたまその場になかったときにアイバンクが横の連 絡による協力体制をとっている。これは数が多いから問題ないのであって、現状の日本 にはあまりそぐわない話だと思います。そこで、ちょっと話をさかのぼりまして、不足 していた時代のアメリカは、やはり公平性のことで問題になりました。アメリカもご多 分に漏れず、たとえば、ひとつの大学の中だけで活動しているアイバンクが現在でもか なりあります。150カ所のうちの約50カ所近くは1施設の中だけで活動しています。それ 以外はかなり広域にやっていて、とりあえず、各州全域をカバーできる。ただし提供に 関してではありません。提供は、ある一部に限らないと、かなりアメリカは厳しいの で、人口の多いところに限っているんですが、逆にあっせんする先の要件というのは、 各州とか、あるいはひとつのアイバンクから3つの州をカバーしているとかという形で 隙間がないように心がけている。これは、患者さんの公平性を保つのには必要なのかな あという気がします。  先ほどの日本の話でも、医療機関でやっているところがあるというのは、それはも う、構わないことだと思うんですが、逆に抜けている医療機関……患者さんにしてみれ ば、どこの医療機関に行くかというのはチャンスですので、患者さんは、この医療機関 はアイバンクがカバーしているかどうか、ということを分かり得ないので、できればそ のへんの公平性をなんとかして担保するということが必要なのかなあという気がしま す。  あと、この作業班の話からいうと、レシピエントの選択という言葉が、非常に日本の 国内で誤解を招いておりまして、患者さんの適用を決めるかどうかという議論は、当 然、主治医がやることなんですが、それをアイバンクがやるのかというような誤解が非 常に多いようです。やはり、提供があった場合にアイバンクはリスト順なり何なりとい う公平性でいくんですが、その角膜が患者さんに合うかどうかは、やはり主治医が決め るべきなのかなあという気がします。アメリカでも、当然、角膜のオファーはします。 そのときにアイバンク側がどういう年齢で細胞がいくつでという、緻密な情報を差し上 げれば、主治医のほうが、「水泡性角膜症なので、内皮が高いほうがいい。だからこれ はそぐわない」と言えば拒絶する。そして、次に出たときにまた行くという形になりま す。そういったシステムの問題を先に議論したほうが分かりやすいのでないでしょう か。 木下座長  ありがとうございました。レシピエントの登録等の実施についての議題というのは、 なかなか論点も4つぐらいありますので、短時間にできるものではないと思いますし、 実際には、また実態調査とかをしていかないと、現実のものというのは最終的に見えて こないところがあるかと思いますけれども、まず、全般的に、アイバンクによるあっせ ん対象の移植施設あるいはあっせん対象地域の範囲とかを、具体的に、このことひとつ をとってみて、ご意見をうかがいたいと思うんですが、眞鍋先生、いかがでしょうか。 眞鍋委員  やはり、1つの医療機関が1つのアイバンクを持っているというのと、たくさんの医 療機関を抱えているアイバンクとでは、やはり、自ずから違うわけです。1対1のとこ ろでは、そこで公表できるような選択規準というか、そういうものを発表して、うちで はこういう規準にしたがってやっている、と。緊急の場合だけは、よそからも入れるこ とがある、というようなことを公表するということが大事かと思います。  それから、いくつかの医療施設と関わりを持ったアイバンクにおいては、やはり、そ の医療施設そのものに順位をつけるというか、とにかく、そこでどれだけの人が待機し ているかということを数学的にでも計算して、それで順番が自動的に決まるような方式 でやっていかないといけないんじゃないかと思います。たとえば大阪アイバンクを例に とりますと、やはり阪大が大部分の手術をしていて、近畿大学とか関西医大とか、それ 以外の病院でもやっていますが、それは待機している数がそれぞれ出ていますので、そ れぞれのところに、たとえば10あるうちのいくつをどこに出すのか、いくつ目をどこに 出すのか、というようなことも、数学的に計算することが可能になると思いますので、 そういうことをして、どれだけ待機患者がいるのか、あるいはどれだけ待っているのか ということにしたがって、数学的に決めて、それをもとに公平にやっているということ を、全体に分かるように公表する必要があるのではないかと思うんです。 横瀬委員  現状において各アイバンクあるいは病院でやっておられるレシピエントの選択という のが、今の日本においてはいちばん適正なやり方であると考えていいのではないかと思 います。というのは、アイバンクそのものは非常に地域性が強い、そして、たとえば各 都道府県において、それぞれのアイバンクをいろいろ助成するということについても、 せっかく自分の県で出たドナーの眼球が他の都道府県に行ってしまうということは、予 算的にも非常に困るというような話も聞いたことがあります。したがって、できるだけ 近距離の範囲内でもって、それが公平に配分されるということがいちばん望ましいので ないかなあ、と。今までは情報の公開ということもあまりなかったと思いますが、現状 において、きわめて公平にやっているんだということをマスコミ関係に対してもはっき り提示できるような形で、なるべく、今までやってこられたことの集大成として明文化 し、それをそのまま継続されるという形がいちばん、現状においては望ましい方法では ないかと思います。ただし、将来において角膜の提供が増えれば、これはやはり、ある 程度まで、もっと簡便な制度に変えていく必要があるでしょう。それから、今後に問題 となる輸入角膜の問題も、研究用の輸入角膜も含めて、それもあとの問題として議題に 取り上げていかなければならないだろうという気がします。 木下座長  八木委員、実際的な立場からいかがですか。 八木委員  静岡は他県よりも多少、ドナーが多いということもあるのかもしれませんが、静岡の ドクターは他県のドクターに比べて、ちょっとぜいたくかなあという印象があります。 私どもはアイバンクとして、規準以下のものはあっせんしていないんですが、規準ぎり ぎりの場合は静岡のドクターは使われずに、よその県で角膜提供の少ないところのドク ターであれば使ってくださるというようなことがあります。それから、登録順とか待機 期間順を決めて公平にやるというのは、頭の中ではよく理解できるんですが、実際に現 場にいる者の勘というか……たとえば金曜日なら、ここの病院は連絡をしても多分、移 植されないだろうとか、そういうこともあって……順番を決めていって、いちいち電話 をかけていくというのは、確かに公平を守るうえでは必要なことかもしれませんが、時 間のないところでそういうことをやっていると、ここは連絡しても、どのみち今日は使 わないだろうとか、この眼球だったら、ここの医療機関は使わないというのが分かって しまうものですから、そういうときには時間短縮のために、実際にはそこを飛ばして、 使いそうなところに連絡を入れているというのが実態です。静岡では、今度、角膜のあ っせんの評価委員会をつくろうとしていて、やはり、やりながら矛盾も感じているもの ですから、アイバンクだけではなく、もう少し大勢の人たちの目で実際の、あっせんの 評価委員会というものをつくって、少しでも公平に近づきたいとは思っていますけれど も、本当にすごくきちんと公平にできるかというと、ちょっと自信がないというのが実 情です。 木下座長  ありがとうございます。非常に素直なところでして、人間のコンピューターではじき 出した、その計算結果が出ているということだと思います。 佐野委員  各アイバンクのご努力、大変だと思いますが、これをどういうふうに公共的に広く持 っていくかという問題が非常に大きくあると思うんです。たとえば、ある県の角膜移植 施設で県のアイバンクがそこに提供する。そうすると、実際、その病院へ来て角膜移植 を受ける人の住所がどこかという問題も非常に大きな問題だと思うんです。このあいだ 報道された移植は四国から来ましたけれど、あれは移植できる病院が少ないから、ああ いうふうになったと思うんですが、その県の人を優先するのか、もっと言えば、たとえ ば有名な病院だったら全国から来るから、そういう部分も公表するのか……非常に複雑 な問題があると思うんです。公共性という意味では、眞鍋先生の大阪アイバンクの問題 もありますが、1つの医療機関が1つのアイバンクを担っている制度がいいかどうかと いう問題があると思うんです。極論を言いますと、1つの医療機関で1つのアイバンク を持っているところは、それがもし許されるならば、それはそれで独立しないさい、 と。他のアイバンクからのあっせんは、お互いに融通しないというようなことでもしな いと、非常に不公平になってくるような感じがします。前にもお話ししましたが、1つ の県がいいのか、あるいは多少、搬送とかの点を考慮して、アイバンクをブロックで分 けていくとか、そういう……今の中核アイバンクは5ブロックに分けているようです が、それを中心にして、その傘下に属する地域のアイバンクが相談されて運営していく というのがいいのではないかという感じがします。努力されたぶんが報われないという のも、このあいだお話ししたように、これは大変難しいんですが、急には無理かもしれ ませんが、ある程度公共的に、登録の何割はそのアイバンクの自由、残りの何割は公共 性を保つ意味で、それを全国的に統一したものにするというような形がいいのではない かなあと思っています。 木下座長  ありがとうございます。現在も、日本眼球銀行協会が主になりまして、中核アイバン クとか、まだプリミティブではあるかもしれませんが、それなりのネットワークに近い ようなシステムがありますので、こういったものをさらに充実していくようなことが必 要なのかもしれません。丸木委員、レシピエントの登録や選択も含めて、ご意見をうか がいたいんですが。 丸木委員  お話をうかがってきて、私自身は結論を出せずにいるんですが、それはやはり、この 臓器移植法でいう「公平かつ適正に」というのが法の精神でありますし、それは尊重す る必要がまったくあると思うんです。たとえば患者の立場からいって、ある病院に行っ た場合は2年で移植を受けられ、別の病院に行った場合には3年以上かかる。情報がま ったく公開されていない状態で、こういうことは、やはりどう考えても、変えていかな ければいけないというのは納得するところです。ところが問題は、やはり日本における アイバンクの歴史を見ても、非常に、こういう、いろいろな努力をもとに今の形態がで きてきたというところがありますので、この状態を無視して、ただちにすべて公平にと いう、いわゆる脳死移植のような形にするというのはなかなか難しいだろう、と。じゃ あ、どこに帰着点を求めるべきなのかというので、私自身、あまりにも実態を知らない ものですから、軽々しく言えないんですが、ひとつ、私の立場から言えるのは、やは り、今の先生がおっしゃったような公表というか、この病院ではどれだけの待機患者が いて、というのがアクセスして分かるようなシステムが絶対に必要なんじゃないかとい う気がします。それから、地域性においても、ある程度インセンティブになっていると いうことは否定できない。要するに、各県で、たとえば静岡のように一生懸命やってい るところはそれだけ掘り起こしができて眼球の提供数が多いし、移植件数も多い。そこ にはちゃんとシステムもできつつあり、あっせんの評価の委員会もつくろうじゃないか という、そういう、草の根的……と言っては失礼かもしれませんが……に出てきたもの に対して、申し訳ないけれど、まったく地域的には遅れているところもある。じゃあ、 どういうふうに、そういう人たちのところにインセンティブをつけていくかというふう なことも必要なんじゃないかなあという感じがします。じゃあ、どうすればいいのかと いうと、本当に、法の精神はいるんだけれど、やはりある程度……どこまでわれわれ が、この中でルールを決めるべきなのか……もう少し意見を聞いてから考えてみたいと 思います。 木下座長  ありがとうございます。それでは鎌田委員、とくに法的な解釈の中で、最低限、こう いうところはしばりがないといけないということを含めて、ご意見をお願いします。 鎌田委員  ご意見をうかがうたびに、ますます大変難しいと思うようになってきているんです が、最低限の公平性を担保するための、何らかの手だては、それぞれのバンクが用意し ておいていただかなければいけないんだろうと思うんです。八木委員のおっしゃった、 静岡でやっておられるやり方も、やはり実質的な公平を担保するための、ひとつのシス テムなんだろうと思うんですね。形式的な、機械的な規準ではないけれども、それはや はり、実質的な公平を担保することだと思います。そういうものが、できれば形になっ て表れていて、どこかの部分で、何か問題が感じられたときに、そういう規準に照らし て検証ができるという体制はやはりつくっておいていただかないと、患者さんの間で、 なんとなく不満はあるんだけれども、何が不満なのか、どこがおかしいのかということ がはっきりしないという状態は、やはり、ちょっと具合が悪いという感じがします。そ れと、理想的な形で、まず、アイバンクというものをつくりましょうという話ではなく て、もう、既にいろんな形でいろんなアイバンクがあるところでどうするかという話で すから、機械的に「みなさんこれでやりましょう」というふうなことには多分、なり得 ない。それぞれのバンクがそれぞれの実態に応じて、その中での最大限の公平さを保つ ための規準というものを当面は持ってもらわなければいけないでしょう。長期的には、 やはり、篠崎先生や佐野先生がおっしゃったように、患者さんの立場からすれば、日本 中どこにいても、同じように角膜移植へのアクセスができるという状態を、将来的につ くっていっていただかなければいけないと思いますが、今のところ、それを前提にした 全国的規準をつくってみても、絵空事になるでしょうから、現時点での実態に応じて、 それぞれのバンクが患者さんが最終的にいろんなものを検証したときに納得できるよう な形の規準というものをつくっていただきたい。将来的にはさらに全国の患者さんが、 全国的に見ても公平に運用されていると思えるようなものに向けて、体制を整備してい っていただければというふうに思います。 木下座長  ありがとうございます。鎌田委員のおっしゃった最後のほうのところは、眼球の提供 数が非常に大きく関係してくると思いますので、提供数が増えればアメリカと同じよう に公平性というのはさらにより確保、担保されていくということになるかと思います。 実際には、臓器移植の基本理念を尊重しながら、これから一応、やはり、各アイバンク が現実に実施可能な方法を選択して、また、体制を整えていく必要は最低限のところあ るかと思いますので、このへんにつきましては実態調査を必要な限りで行いまして、ま た、その結果をふまえまして再度検討して、何らかの……。 眞鍋委員  ちょっと、よろしいですか。 木下座長  はい、どうぞ。 眞鍋委員  今度、眼球銀行協会のほうに、厚生省の指導もありまして、評議員会を作りました。 先日、評議員の方が全国からいらっしゃいまして、今後の運用をどうするかということ についても、いろいろとやりました。前々から問題のありました、メディカルディレク ターを各アイバンクに置いてはどうかということが提案されました。各アイバンクで、 たとえば今度問題になりました安全性などの医学的な関係について、また、公平な配分 につきましても、その評価あるいは指導をしていただこうということで、メディカルデ ィレクターというのをつくってはどうかということが提案されました。できれば今年中 に、なんとかそれを発足しようと、今、準備しております。できればそういうところ で、各アイバンクが、どこから見ても納得のいく公平な配分をしているということを明 文化していただく、その助力をしていただくのがメディカルディレクターの初仕事にな ればと思っておりますので、よろしくお願いします。 木下座長  ありがとうございます。日本眼球銀行協会が主になりまして、なんとか、このあいだ の提供眼球の安全性を含めまして、さらに高いレベルのアイバンクを目指そうというこ とで、とくに医学的な規準とかをよく理解したメディカルディレクターという制度を発 足してやっていこうということになっています。ぜひ、そういうものとうまくリンクす るように、さらにそのためにも、大きな考え方を示すことができますと、各アイバンク がより適切な医学規準をつくっていけるのではないかなあと思います。それでは最後 に、アイバンクのコーディネーターのあり方について、少しご議論をいただきたく思い ます。この作業班でも、各アイバンクにコーディネーターの設置が必要であるというよ うなことを検討し始めたところですし、実際に日本角膜学会、日本角膜移植学会、そし て日本眼球銀行協会でアイバンクのコーディネーターというものを設立しようというよ うな、学会主導型の動きもあります。こういった中で、アイバンクコーディネーターと は、今、何なんだということが、まだ、必ずしも明確になっていないところでありまし て、今言った2つの学会と1つの協会でも、そういうことを検討していこうということ になっています。アイバンクが、どのような人材をアイバンクコーディネーターとして 確保していくのが望ましいのかというようなことについて、この作業班で、ぜひ共通認 識を持っておく必要があるかと思います。角膜の提供が非常に多いアメリカでは、各ア イバンクに、アイバンク技術者といったような、名称はコーディネーターとは違います けれども、そういったものを設置しており、その認定制度も非常に確立しています。本 作業班の篠崎委員、八木委員は、この、アメリカのアイバンクのコーディネーターに類 するような、米国の教育を実際に受講しておられる方々ですけれども、まず、米国のア イバンク協会に関わっておられる篠崎委員から、米国の認定制度についてご紹介いただ き、それから簡単にアイバンクコーディネーターについてディスカッションを進めたい と思います。 篠崎委員  アメリカのシステムについて、資料3に書かせていただいたんですが、初めに一言申 し上げますが、アメリカではコーディネーターというのは、認定された技術者の中で、 最低5年では無理だと思いますが、8年なり10年なりの経験を持った人をアイバンク コーディネーターと呼んでいます。したがって、アイバンクコーディネーターの資格は ありません。ただし、認定書を持っていないコーディネーターはいません。ただ、経験 がかなり上だということでご理解いただきたいと思います。アメリカでは、数が少ない 時代、年間献眼数5,000眼という時代は、日本と同じように医師しか摘出できないとい う、同じ法律がありましたので、そのしばりがあって、なかなか増えないということも ありました。もうひとつの問題として、献眼いただいた角膜の処理という面で、かなり ばらつきがあるというか、かなりクォリティ・コントロールが非常に厳しい時代を過ご しました。その結果、移植しても組織の異常によって、処置の不適正により生着しなか った場合、いわゆるプライマリー・クラフト・フェイルアーとかがありました。あるい は感染が起きたりということがあったので、なんとかクォリティ・コントロールをしよ うということで、やはり今の日本のようにメディカルディレクター制度が始まり、その メディカルディレクター制度の中で、ひとつできたのがアイバンクの技術者ということ で、先生方の中の議論で、慣れていない人が年に1件やる、あるいは一生に1度やって 終わりということよりは、何百もの同じ作業を繰り返し行い、理解した人のほうがいい のではないかということで、始まった認定制度が、このEye Bank Certified Technician、いわゆる認定技術者という制度です。現在、アメリカで認定書をもらって いるのは4百数十名いると思います。1年に2回、試験をやっています。この他に、こ の中にもちょっと出てきますが、TESという、テクニシャンのセミナーがあります。 眼球を摘出し、強角膜切片をつくり、保存し、評価する技術を持った人間をテクニシャ ンと呼んでいますが、この教育セミナーをやっていて、それは1年間に3回、アメリカ の大きなアイバンクを利用させてもらって3カ所で開催します。これはだいたい4日間 のコースで、自分でリサーチ用の眼を持ち寄って、そこで講義を聞きながら、まるまる 4日間、かなり厳しいコースを受けます。朝8時〜夜10時まで、4日間かけて技術を学 びます。この教育セミナーを受けなければいけないということがひとつ。もうひとつ、 この認定試験の中に、半分……これはまる1日かかる試験で、朝6時〜夜8時までかか る試験なんですが……前半は技術的な面をいわゆるメディカルディレクター、あるいは アイバンクのかなり指導的立場にあるテクニシャンの人たちが試験委員となって試験を します。後半は筆記試験ということで、かなり分厚いマニュアル、これが4冊ほどあり まして、これを全部勉強しないと通らないような問題が出ます。ただ、いろいろと問題 があって紆余曲折しまして、十数年間の運営の結果、去年、改正しようということで、 やっと今年から変わるんですが、実はプラクティカルな試験、いわゆる技術的な試験と いうのは、現場でやってもなかなか難しい部分があるのと、結構、テクニシャンのレベ ルですと、将来、コーディネーターを希望している人材、アウトゴーイングで、非常に 陽気で、人とのコミュニケーションが好きな方が半分と、本当に技術的にいきたい方と いうか、性格的に内向的な方がいらっしゃって、彼らに非常にストレスで、手が震えて 試験に落ちるというようなこともありますので、これは2つに分けるべきだということ になりまして、技術的評価を人の前でやらせるのではなく、各アイバンクのメディカル ディレクターにやらせましょう、ということに変わりました。今年から、年に2回の試 験における現場での試験を廃止して、そのかわり、アイバンクのメディカルディレク ターが個々に試験をして、それはチャートになっていて、数十のチェック項目があり、 その評点によって採点しましょう、と。そのメディカルディレクターにレベルの差があ るといけないということで、また、そのメディカルディレクターの試験をするための コースというものも始まることになりまして、結構、波紋を呼んでおり、かなり複雑な システムになっています。いずれにしても、アイデアとしては、ちゃんとしたテクニシ ャンを養成しましょう、ということです。  問題は、公平性を保つために、アイバンク協会の中に委員会がありまして、そこで、 だいたい600〜800問の設問を5つのセクションについてつくり、今まではわれわれが勝 手にいい問題を選んだんですが、一部のアイバンクで合格率が高いとか、いろいろご批 判がありまして、これも不公平があるかもしれない、問題が漏洩しているんじゃないか ということで、民間のプライベートな試験の会社、プロフェッショナルテスティングと いう会社にお願いして、問題を全部送って、向こうでランダムに各項目から選んでもら って試験をするというようなことで、どんどん改正しています。  いずれにしても、この試験をやりまして、単に1回、技術的にうまくなったから、今 度、アイバンクですぐに仕事を、というのは結構、厳しいものがあります。あるいはこ の試験に関しても、いきなり受験しても多分、うからないということで、最初に研修と いうことで、だいたいパート職として、半年〜1年、長い場合は3年ぐらい勉強してい ただいて、その間、アシスタントとして200〜300例のプレパレーションをやったあと で、マニュアルなんかも勉強していただいて受講するというのが一般的な形です。た だ、技術的な進歩もありますし、新しい病気、感染症に対する知識なども供給しなけれ ばいけないので、再認定制度もあります。  また、試験にうからなかった人、これは結局、パート職とはいえ、アイバンクで雇用 している人材ですので、そういう人たちの責任もとらなくてはいけないので、試験に不 合格だった人は、どこの部分が弱かったのかということを、もう1回、テクニシャンの コースを受けてもらって教育し直します。最後には、教育委員会として、どんなことを アップデートしながら教育をしていったらいいのかということも、筆記試験の結果、あ るいは不合格者の状態も調べながらやるということで、実はこの委員会は、客観的な評 価をし教育するほうと認定するほうとの2つに分けて、独立に、同じ委員がだぶらない ように考えながらやっています。  最後にコーディネーターと技術者の相違点について書いてありますが、これは先ほど 申し上げましたように、コーディネーターというのは、やはり外の病院に行って病院開 発し、他の病院の先生方に提供について理解していただく、中立性を担保していただく ということを病院に広めなくてはいけないので、非常にマルチなタレントが要求されま す。八木さんもあちこちの病院をやっておられまして、ご苦労されていると思うんです が、われわれも千葉県内であちこちの病院に行きまして、やはり現状では臓器提供とい うことについて、まだまだ理解されていない、それは国民の権利であるから、なるべく そういった情報を、われわれが行ってお話をしたいと言うんですが、どうしてもまだ、 一般的には医療の中でも、われわれがお願いする形になってしまう危惧が……アメリカ でもいまだに残っているぐらいですから……ありますので、やはりそのへんを理解して もらえるような資質を持った人をいかに確保するかというところが非常に重要かと思い ます。逆に、資質の低い人を出すと、今後、社会的な問題などになるのではないかとい うことで、慎重に行う必要があるのかなあ、と。アメリカの経験からしても、初期のか なり苦しい、最初の10年間を考えると、コーディネーターの資質というのは、非常に重 要なのではないかと思います。 木下座長  ありがとうございました。アイバンクのコーディネーターというのは、かなり個人の 資質にもよるというところであろうとかと思いますが、何か、ご説明に対してご質問 等、ありますでしょうか。 佐野委員  直接の質問ではないんですが、厚生省におうかがいします。今、医療研修推進財団と いうのがあって、あそこでいろんな医療関係者の教育をしているわけです。実は日本眼 科医会は毎年、60万円ということで、日本医師会並に払っているんですが、今のところ ORTの教員養成のことが1回あったきりです。ですから、ぜひ、研修団体で、今、篠 崎先生が言われたようなコーディネーターとメディカルディレクターの、何らかの研修 会を持っていただきたい。というのは、恐らく、篠崎先生が方々に行って講義されてい ます。いちいち行って、要望があるんだけれど、恐らく金がないんですね。ですから、 研修財団でひとつ取り上げていただいきたい、ぜひ、そういう機会がございますよう に。 木下座長  どうも、いいサゼスチョンをありがとうございました。本日、時間的にも定刻をやや 過ぎてしまいましたが、とくにこの、アイバンクコーディネーターに関係することにつ いては、日本大学の澤充教授が日本角膜学会の会長をしておられまして、このあいだ、 つい2〜3週間前にも会合があったんですが、日本角膜学会、日本角膜移植学会、日本 眼球銀行協会で、それなりのたたき台となるようなアイバンクコーディネーターに関す る……実務的なマニュアルとか、そういうところではなくて、組織なんですけれど…… そういった組織会則というものを、学会主導型ではあるんですが、つくりつつありま す。ですから、できれば、それと独立していというよりは、一応、澤先生の考えておら れることを、ここででも、またご説明いただきまして、そういう考えをふまえて、より よい、充実したコーディネーターシステム、あるいはテクニシャン養成システムを…… どれぐらいのレベルのもの、低いレベルか高いレベルか、いろいろな考え方があるかと 思いますので……そのへんについてお聞きしてから、また検討してはどうかなあと思い ます。 篠崎委員  コーディネーターというと、今、臓器があります。今度、組織も始まろうとしている わけですが、アイバンクも含めまして、たとえばわれわれが行って困るのは、バッジも 何もない状態で、昨日も普通の服のまま病院の中をうろうろしていまして、ご家族と話 をしてきました。白衣を着て行けばいいのかもしれませんが、それでもバッジもありま せんし、何か、国として、たとえば佐野先生がおっしゃったような、何らかの研修をす るなりして、認定するというような方向で……組織は難しいかもしれませんが……ネッ トワークに準じたような形で、あるいは統合した形で行う基礎教育みたいなことも少し 考えていただいて、ある程度、何か公的なものをいただけるような方向で考えていただ けると、非常にわれわれとしては立場がはっきりしますので、ありがたいなあという気 がします。ぜひ、よろしくお願いします。 木下座長  これもまた、非常に建設的な、いいサゼスチョンだと思いますので、ぜひ、そのへん のところを検討していきたいと思います。本日、結論にはなかなか時間がありませんで したけれども、次回以降、引き続きまして、このアイバンクのコーディネーター、テク ニシャンの問題についても検討を続けていきたいと思いますので、よろしくお願いいた します。その他、事務局から何かございますでしょうか。 山本補佐  お手元の資料、参考資料等はもう既にディスカッションが終わったものですが、資料 4のところに参考に付けさせていただきました、実際にこの作業班におけるご議論のう えで決定していただきました、角膜移植におけるドナーの適応規準につきましては、臓 器移植専門委員会のほうでオーソライズされ、先だって、各アイバンク、都道府県、関 係医療機関、関係学会、日本医師会のご尽力で、日本医師会の会員全員に対して、こう いう適応規準が定められましたので、これを通知させていただいております。ご参考ま でに添付しております。 木下座長  ありがとうございました。角膜移植における提供者適応規準として、ここで検討させ ていただいたものが成果となって、各関係施設に通知されたということです。それで は、本日の作業班はこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。 問い合わせ先  厚生省保健医療局エイズ疾病対策課臓器移植対策室    担 当  山本(内2361)、眞鍋(内2364)    電 話 (代)03−3503−1711