99/04/19 第15回厚生科学審議会研究企画部会議事録 第15回厚生科学審議会研究企画部会議事録 1.日  時:平成11年4月19日 (月) 14:00〜16:00 2.場  所:経団連会館「ルビールーム」(千代田区大手町) 3.出席委員:矢崎義雄部会長        (委員:五十音順:敬称略)         柴田鐵治 寺田雅昭        (専門委員:五十音順:敬称略)         加藤尚武 杉田秀夫 高久史麿 寺尾允男 初山泰弘 眞崎知生 柳澤信夫 4.議  事:今後の厚生科学の在り方について 5.資  料:1.「今後の厚生科学研究の在り方について」(諮問書、付議書)        2.「今後の厚生科学研究の在り方について」(部会報告書案・未定稿) ○事務局 ただいまから第15回厚生科学研究企画部会を開催いたします。 本日は前回に引き続きまして加藤委員が御出席されております。  また、大石委員、土屋委員、眞柄委員、宮本委員、山崎委員の5名が御欠席です。な お、高久委員からは若干遅れるという御連絡をいただいております。 まず、配付資料の確認をさせていただきます。 (以下、資料の説明と確認) それでは部会長、よろしくお願いいたします。 ○矢崎部会長  先週の月曜日に引き続き、本日もお集まりいただきましてありがとうございました。  「今後の厚生科学研究の在り方について」は、委員の皆様方にずっと御討論いただい たところでありますが、最終的には資料1にございますような厚生大臣からの諮問書に 対する研究企画部会からの答申という形にさせていただきたいと思います。できますれ ば、5月10日に厚生科学審議会総会が開かれますので、本日で大体のまとめとさせてい ただければ大変ありがたく存じます。よろしくお願いいたします。 それでは、本日の議事次第に入ります前に、WHOで前回、「健康」の定義というこ とで新しく spiritualという言葉が入りまして、それに対して白熱した議論があったと 思います。今日も厚生科学審議会から加藤尚武委員が御出席いただいています。その後 1週間たって何かアイデアがございましたら、またお話しいただければと思います。 ○加藤委員 翻訳を決めないと、受け入れるか受け入れられないかを判断できないのではないかと 思います。そして翻訳については、例えば高校生が英語の字引を引いて調べた場合にも 無理のない、いわばうそのない翻訳でなければならないだろうと思います。 そうしますと、改正点の第一である dynamicについては、これは「力動的」という訳 でいいのではないかと思います。この dynamicという概念は19世紀の初めごろに哲学者 シェリングによって有機体説的な意味に切り換えられました。それまでは全く力学的な 意味しかなかった言葉です。意味内容としては「自己治癒力を持っている」、だから内 発的に治癒の可能性を持っている状態であるというように理解できるだろうと思い ます。 mental と spiritualは、これは泣きどころなのですが、一応常識的な訳として考え れば「心理的及び精神的」ぐらいが可能な訳語であって、「心霊的」という訳語は普通 採用され得ないのではないかと思います。ですから、「精神的」を「心理的」と訳すの はちょっと変だという御意見もあるかもしれませんが、常識的な訳語としてはそんなと ころではないかと思います。 well-being というのが今までは「福祉」と訳されてきたのですが、これは今までも いろいろ非難されていた点ではないかと思います。これはもともとは「エルエスト」と いう言葉の英訳であって、「エルエスト」はしばしばハッピネスというように訳すこと もできる言葉です。そして「福祉」という意味と「快適さ」という意味と両方あります けれども、本来の意味は「快適さを感じられるような根拠となる状態」という意味 です。具体的に言えば、「過不足のない状態」というのが well-being の正しい意味内 容ではないかと思います。 しかし「過不足のない状態」というのは訳語としてちょっと座りが悪いので、私なら ば「健やかな状態」というぐらいにとどめたいと思います。そして国際的な審議の場面 においては、日本においてはあくまでも「健康」という概念はセキュラーなレベル、つ まり脱宗教性のレベルでしか理解できないという付帯条項付の受け入れ方をすべきであ って、そのことを通じて日本における「健康」概念の中に、「宗教的健康」という概念 が導入されることについてはあくまで留保すべきではないかと思います。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 あの訳は50年以上前の訳で、例えばフィジカルは、普通は我々は「身体的」と考えま すので、もし変えるのだったら最初から見直してやらないと無理ではないかなという感 じがします。 今の御意見を参考にして委員の皆様方に御議論いただこうと思います。資料2「厚生 科学研究の在り方について」の一番最初のところに、「厚生科学の意義」の下から4行 目、「今まで確実な所与のものと考えられていた『人間』に関するパラダイム (思考の 枠組み) の転換を迫っている」が、人間に対する理念などが転換を迎えているというよ うに、私としてはある程度哲学的な意味ということもあったのですが、委員の先生方に これでは少しわかりにくいのではないかというお話をいただいて、加藤委員に、もし可 能であればもう少しかみ砕いてわかりやすい言葉に何かアイデアをいただければ大変あ りがたいと思うのですが。 ○加藤委員 これは不適切というよりは、かなり異論があっても当然であるような見方であると思 います。 まず第1点は、パラダイムというのはトマス・クーンの「サイエンティフィック・レ ボルーション」によってあらわされた考え方で、その時にクーンは、科学についてのパ ラダイムという考え方は認めたけれども、人間観についてもパラダイムという概念が成 立するかどうかということについてはそれほどはっきりと断定したわけでは ありません。 そしてこの考え方ですと科学技術、つまり人間についてのオペレーションの進展が人 間観という意味でのパラダイムの転換を迫ると書いてありますが、そうなると科学技術 そのものはいわば自律的に動いていて人間観はそれに合わせて二次的に動いていくもの という見方が、この2行の中に含まれています。 そういう考え方を認めるか認めないかということについては、技術論や技術倫理の中 の非常に大きな問題になっていて、むしろ技術というものがまず勝手にひとり歩きして それにあわせて人間観のパラダイムがついていくという、後追い型の人間観は危ないと いう見方もかなり有力なものであると思います。 ですから私としては、「生命科学の発達は、生命や身体を操作可能とすることによる 今までの科学に対する規制、科学に対する舵取りの在り方にさまざまな転換を迫ってい る」という程度の表現でいいのではないか、あえてパラダイムという哲学的に言うとか なり間違いを含んだ言い方は避けるべきだと思います。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 私どもとしては、必ずしも二次的ということではなくて、21世紀にこれから生命科学 医療、科学技術の進歩が飛躍的に進む可能性がありますね。その時に、社会との調和と 同時に人間観との調和は当然考え直さざるを得ない状況になるかと思われるわけです。 ○加藤委員 人間観とのインターフェイスが変わるということだと思いますけれども、人間観その ものが変わるとなると、例えば梅原猛さんのように、臓器移殖のために死という観念を 変えられるのは困るという異論も出るわけですね。ですから、人間観と科学とのイン ターフェイスというか中間領域の規制についての考え方などが変わるということは確か であっても、それによって人間観そのものが変わると言われると「おれは絶対許さん」 と言う人が出てくると思います。 ○矢崎部会長  貴重な御意見をどうもありがとうございました。 それでは、今日の「今後の厚生科学研究の在り方について」、ようやく報告案らしく なってきました。最終的に先生方から御意見をお伺いして、それをもとに案をつくりた いと思います。 まず事務局から御説明いただけますでしょうか。 ○唐澤室長  それでは、前回のものと比べまして要点を御説明いたしたいと思いますけれども、最 終ということでございますので朗読させていただきます。その間に委員の皆様方にしっ かり見ていただきたいと思います。その後で少し前回との異同の点をコメントさせてい ただきます。 ○矢崎部会長  よろしくお願いいたします。 ○事務局 それでは資料2をごらんください。表紙に「今後の厚生科学の在り方について」 (部 会報告案、未定稿) とあります。 目次がございます。大きく5つの章に分けております。 それでは、読み上げてさせていただきます。                 21世紀に向けた            今後の厚生科学研究の在り方について               (部会報告案・未定稿) I 厚生科学の意義 ○ 20世紀は偉大な科学技術の世紀であり、その飛躍的な進展は、人類に大きな福音 もたらし、人々は健康で豊かな生活を享受できるようになった。今後、21世紀に向 け、2003年を到達目標とするヒトゲノム解析に続き、各遺伝子の機能を解明する研 究の推進により、がん、糖尿病、高血圧といった生活習慣病を含む多くの疾病の成因や 病態生理が遺伝子レベルから解明されるとともに、その情報を基盤として病態に的確に 対応する治療法の開発や、分子設計による創薬、さらには再生医学を用いた革新的治療 法の開発など厚生科学の一層の発達が、人類の福祉の向上と経済社会の発展に大きく貢 献するものと期待されている。 ○ 厚生科学とは、保健・医療、生活衛生、福祉等の分野について、医学、薬学、工学 経済学、社会学等の関連諸科学の手法を用いて、健康増進、福祉水準の向上、疾病の原 因解明、予防・診断・治療の向上、生活環境の安全性の確保、をめざした研究及び開発 の総称である。厚生科学は、健康で自立と尊厳を持った生き方を支援する科学である。 その推進には、人間と社会に対する幅広い総合的な視野を持ち、深い洞察力に基づいて 行わなければならない。同時に、諸科学の進歩は、人類に文明の恩恵を与える一方、こ れまで経験したことのない健康危害や地球環境問題など多くの課題をもたらしたことに も留意しなければならない。また、生命科学の発達は、生命や身体を操作可能なものと することにより、今まで確実な所与のものと考えられていた「人間」に関するパラダイ ム(思考の枠組み)の転換を迫っている。今後、生命科学を含めた厚生科学に求められ るものは、国民の信頼感と満足度を向上させ、尊厳のある生活に貢献するものでなけれ ばならない。 II 厚生科学研究のこれまでの推進状況 ○ 当審議会の前身ともいうべき厚生科学会議は、昭和63年の「厚生科学研究の基盤 確立とブレイクスルーのために」において、国民の生命・健康の保持、生活の質(QO L)の向上を図っていくため、厚生科学における11の重点研究分野の設定、研究基盤 の確立を提言した。さらに、平成7年には「厚生科学研究の大いなる飛躍をめざして」 において、新たに4分野21項目の重点研究分野を設定している。 ○ 平成9年5月に発足した当審議会においては、研究企画部会を中心として、総合的 な視野の下に、統一的な評価に基づき、重点的かつ効率的な研究方針を策定し、こうし た方針に沿って厚生科学研究を推進してきた。また、厚生科学研究費補助金についても 平成10年度には、競争的な研究環境を形成するため、原則公募型とするとともに、研 究の大型化に対応するため、研究事業をそれまでの34から18に集約した。 ○ また、政府全体においても、我が国の科学技術の厳しい現状や若者の科学技術離れ 等を踏まえ、平成8年に、新たな研究開発システムの構築、研究開発基盤の整備、研究 開発投資額の拡充等を内容とする「科学技術基本計画」を閣議決定した。さらに、平成 9年には、科学技術会議で「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」が策定され 特に国が取り組む領域として、脳、がん、発生工学等を掲げ、生体システムとゲノム等 の基礎的生体分子に着目した研究開発を選定した。 III 厚生科学研究を取り巻く状況の変化 ○ 厚生科学研究を取り巻く状況は、21世紀に向けて大きく変化しており、遺伝子や 細胞といったミクロレベルから地球全体のマクロレベルまでの様々なレベルで次のよう な変化が生じている。 1.個体レベル ○ 近年、生命現象のメカニズムを解明しようとする生命科学の進歩は著しく、遺伝子 領域では、ヒトゲノムの解析が2003年(あるいは2001年)にも一応完了すると いわれ、今後、幅広い分野での疾病構造の解明、発病予測診断・治療法の開発等におい て更に大きな貢献が期待される。 ○ 他方、遺伝子治療、細胞医療、あるいは生殖補助医療や発生工学的アプローチの発 展とともに、科学技術と個人の生命観や諸制度との間に、法的・社会的・倫理的な問題 が発生している。 ○ 長寿社会における健康の意味、尊厳ある生活のかたちが問われており、要介護者、 高齢者などの生活の質(QOL)の維持向上について、関心が高まっている。 2.社会レベル ○ 高齢者人口の急増、合計特殊出生率の低下など少子高齢化に伴って、信頼できる効 率的な医療、年金、福祉の社会保障制度の構築や、予防、治療、リハビリテーション、 地域ケアを含む保健・医療・福祉システムの包括的・効率的な再構築が求められて いる。 ○ 社会の複雑化や急速な変化により、ストレス、心的外傷後ストレス障害(PTS D)や、青少年を中心に深刻な社会問題となりつつある薬物乱用について、治療法の確 立等が求められている。 ○ 患者に妥当、適切な医療を提供するために、インフォームド・コンセントの普及定 着を図っていくとともに、EBM(根拠に基づく医療)の推進が必要である。このため その基礎となる疾病情報の収集や蓄積及び国民に対する正しい情報の提供について関心 が高まっている。 ○ ゲノム創薬等に基づく次世代医薬品や人工臓器等の画期的医療用具の研究開発を進 めることは、その成果を社会全体に還元することにより、医学・医療の進歩への貢献は もとより、次世代産業の創出も含め、今後の我が国の産業経済の発展、活性化を図る (科学技術創造立国)ことにもつながることから、大きな期待が寄せられており、知的 所有権の保護などの対応が求められている。 ○ 毒物混入事件や食中毒のみならず、国際的にも病原体を用いたテロリズム(バイオ テロリズム)などへの対処について関心が高まっており、感染症、医薬品、飲料水等を 始めとする様々な分野において健康危害が発生した場合、迅速・的確な健康危機管理体 制の整備の必要性が高まっている。 3.地球レベル ○ 世界のグローバリゼーション等により、エボラ出血熱、コレラ、マラリア、HIV 腸管出血性大腸菌O157など新興・再興感染症による健康への脅威が増大している。 また、医療の進展に付随して、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性腸 球菌、多剤耐性結核菌などの問題も発生しており、新たな感染症対策が求められて いる。 ○ ダイオキシン類、内分泌かく乱化学物質等の環境問題による健康影響や、新興・再 興感染症の蔓延等が懸念されており、地球規模で取り組むべき課題となっている。 ○ また、我が国の国際的地位の向上に伴い、内分泌かく乱化学物質の研究や大量化学 物質の規制、医薬品等の許認可についてのグローバル・スタンダード作成への参画等、 国際協調の推進や、発展途上国に対する保健医療、水道、社会保障制度等の面での技術 協力等、国際貢献が求められている。 IV 新たな変化に対応して求められる研究領域 1.健康科学研究の推進 ○ 創造性に富み、かつ疾病の克服を視野に入れた基礎的な研究を引き続き推進すると ともに、基礎研究の成果を臨床応用につなぐためのトランスレーショナル・リサーチ (基礎研究と臨床研究の橋渡しを行う研究)の推進が重要である。 ○ 産官学の連携のみならず、臨床研究に対しての国民の理解を得る努力が必要であり そのためには、被験者の積極的依頼方策の検討や、患者が安心して協力できる仕組みが 重要である。 (1)健康科学の視野の下での生命科学研究 ○ 生命科学の分野では、ヒトゲノム解析の進展等急速に技術革新が進行しており、が ん、循環器疾患、精神・神経疾患、リウマチ等の自己免疫疾患、アレルギー疾患及び感 染症等の本態・発症機構を解明し、診断・予防・治療法を開発していくことが、引き続 き重要である。 ○ 特に、疾病関連遺伝子の解明、遺伝子の発現形態である蛋白質の解析と機能解明に 基づいたゲノム創薬等の分野は、次世代の医薬品開発として注目されている。また、遺 伝子レベルで疾病を治療する遺伝子治療研究分野は、次世代の治療法として注目が集ま っている。また、国内における遺伝子治療におけるベクターの開発や安全性のチェック などの基盤の整備が重要である。 ○ 遺伝子解析により疾病の素因の見つかった人のプライバシーと人権の保護を図りつ つ、発病抑制を目指した生活習慣の改善、予防医薬品、特定保健用食品(いわゆる機能 性食品)の開発等の研究を推進していくことが重要である。 (2)生活の質(QOL)の向上 ○ 生活の質(QOL)の維持・向上の視点から、生活習慣に関連する疾患(生活習慣 病)に関する行動科学的・社会科学的研究や、難聴、耳鳴り、視力低下等の感覚器の障 害や失禁など、生活の質を低下させる疾患等に関する研究の推進及び評価が重要で ある。また、患者の立場に立った医療の一層の推進を図る上で、治療効果のみならず満 足度の評価研究等を含む医療技術評価研究の推進が重要である。 ○ 末期医療における苦痛の緩和や在宅ターミナルケア等の政策に資する研究やストレ ス、心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の複雑・高度化する現在の精神保健に関す る問題に対応した研究の推進が重要である。 2.少子高齢化社会への対応とノーマライゼイションの推進 ○ 少子化、長寿化、人口減少化及び価値観の多様化等が21世紀社会に及ぼす影響を より正確に把握し、包括的、効率的な保健・医療・福祉制度の構築や社会保障制度の構 造改革に関する政策に資する研究の推進が重要である。 ○ 少子高齢化に対応し、高齢者の健康の維持に資する生理的老化の研究や老年病や痴 呆の原因解明・予防・治療法の開発を目指した老年病学、老人医学の研究及び女性の生 涯にわたる健康支援対策、小児の心身にわたる健康育成対策に関する研究の推進が重要 である。 ○ 介護保険制度の導入に伴うリハビリテーション技術の効率的な利用や高齢者、障害 者の安全な生活、社会参加のための各種福祉器具等の開発と評価に関する研究を推進し ていくことが重要である。 3.根拠に基づく医療等の推進と情報技術の活用 (1)臨床疫学研究の推進 ○ 臨床研究領域では、ヒトにおける長期間の観察や無作為対照研究を行う疫学研究の 充実がEBM(根拠に基づく医療)の基礎をつくるものとして重要である。 ○ 医療行為・技術の有用性・有効性を評価するメディカル・テクノロジーアセスメン トを医療上、医療経済上のプライオリティーの高いものに対して進めることが重要であ る。 (2)根拠に基づく医療等の推進のための情報技術の活用 ○ 医療関係者が、最新の確立された医療サービス提供をおこなう根拠となる、簡便に 利用でき、かつ、随時更新されていくデータベースシステムの整備と利用の促進が重要 である。また、医療を安全に提供するための手法や、提供される医療サービスの質を維 持・向上させるための管理手法等に関する研究の推進が重要である。 ○ 疫学情報等の提供と利用は、医療関係者のみならず広く国民に関わるものであり、 情報の保存、加工、蓄積、応用の方面からの推進が重要である。その場合、国民の生命 や健康等の情報を取り扱う特殊性から、改ざん防止やプライバシーの保護や公共性の確 保のための研究が不可欠である。 ○ 保健・医療・福祉政策の総合的評価指標として、健康寿命やDALY(障害調整生 存率)等が提起されており、これらを活用し、世界保健機関(WHO)などと協力しつ つ総合的評価を推進することが重要である。 ○ 在宅医療、へき地医療の向上や障害者の社会参加、介護保険の円滑な実施等を支援 する情報システムの研究及び整備が重要である。また、GIS(地理情報システム)を 活用した保健・医療・福祉の地理的情報データベースや、健康危機管理を円滑に実施す るための緊急時の情報ネットワークの構築のための研究の推進が重要である。 4.健康への脅威と生活の安全の確保 (1)新興・再興感染症への対応 ○ 新型インフルエンザ、クリプトスポリジウムなど新しく対応を迫られている感染症 や寄生虫疾患に対する迅速診断法の開発や、発生情報を的確に把握、分析し対策を行う ための疫学等の研究の推進が重要である。また、HIV/AIDSや多剤耐性結核菌な ど再興感染症に対する新たなワクチンや治療薬等の開発に関する研究の推進が重要であ る。 ○ 医原性疾患ともいうべきメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイ シン耐性腸球菌(VRE)による感染症などの実態把握や院内感染対策の開発、化学療 法剤等の使用適正化等に関する研究の推進が重要である。 ○ 動物がナチュラルホストの場合の疾患については、動物由来経路も念頭においた疫 学や検査法の開発を関係省庁と連携して推進することが重要である。 (2)食の安全の確保 ○ 食の安全の一層の確保を図るため、予測微生物学を用いた食品の微生物学的リスク 評価に関する研究や、食品中化学物質の様々な健康影響に関する研究、また、これらを 踏まえた最適な行政手法の選択に資する研究の推進が重要である。 ○ 高度化・多様化が著しいバイオテクノロジーを応用した食品の安全性評価に関する 研究や、食品中アレルギー物質によって人体に重篤な影響を与えるアナフィラキシー・ ショックなどの食物アレルギーの発症メカニズムの解明、実態把握等の研究の推進が重 要である。 (3)新たな化学物質問題や環境問題への対応 ○ レギュラトリーサイエンス(適正規制科学)に基づく日常生活における微量化学物 質暴露について、安全性の分析・評価法の確立、及びダイオキシン類や内分泌かく乱化 学物質等の分析・評価技術や排出低減技術の開発の推進が重要である。 ○ リサイクル技術に関する研究や資源循環型社会経済システムへの転換等の政策を支 援する研究、及び環境への負荷の少ない適切な廃棄物処理技術に関する研究の推進が重 要である。 ○ 水源水質の悪化、水道施設の老朽化などに対応し、安全で良質な水道水を適切なコ ストで安定的に供給するための新たな水処理技術や水道施設の質的改善に関する技術等 の研究推進が重要である。 5.画期的な医薬品及び医療機器等の開発と安全性の確保 ○ 医薬品、医療機器等の安全性の向上を目指し、副作用の発生を防止、低減する方法 等の研究を推進するとともに、特に、ゲノム情報に基づいた病態に的確に反応する画期 的な新作用機序の医薬品等の開発が必要である。また、上市後の医薬品の副作用防止策 の徹底、とりわけ薬剤疫学の普及などの、適切な安全性確保に関する研究の推進が重要 である。また、薬物依存の形成や中毒性精神病の発現の機序について、分子レベルで解 明する研究も重要である。 ○ 骨、皮膚等の他者からの提供組織の利用や、本人の正常組織部分等の利用により、 損傷部位や機能不全に陥った臓器を修復していく、いわゆる再生医学(リジェネレーシ ョン・メディシン)が期待されている。これは、医療と創薬、医用工学の特質を併せ持 つものであり、倫理性、有効性、安全性の確保のための制度的検討が重要である。また 副作用が少なく、安定的供給にも寄与することが期待される人工血液や、人工臓器及び 超微細技術を活かしたマイクロマシンなどを応用した高度先端治療機器の臨床応用に向 けた開発や研究も重要である。 ○ 医薬品、医療機器の研究開発については、産官学の連携の確保、知的所有権の保護 ベンチャー企業の育成及び長期的視野に基づいた投資戦略が必要であり、また、円滑な 臨床試験のための基盤整備・体制充実が必要である。こうした研究開発の成果は医療、 福祉水準の向上と我が国経済の活性化に貢献するものである。 6.厚生科学の国際化 ○ 長寿科学や新興・再興感染症分野の技術、水処理に関係する技術など、福祉イニシ アティブの精神を生かした発展途上国に対する国際貢献が重要である。また、国内外の 研究者の積極的受け入れ制度の検討等により、発展途上国も含めた諸外国と我が国の研 究者との交流を一層推進することが重要である。 ○ 医薬品、医療機器及び食品等については、国際ハーモナイゼーションへの積極的な 関与とそれに対応した国内規制、規格及び評価方法の整備・推進が重要である。 ○ ダイオキシン類や内分泌かく乱化学物質など化学物質の安全性評価については、経 済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)などの場を活用し、各国分担に よる共通の指標、規格、基準及びデータを作成・利用していくことが重要である。 ○ 疾病関連遺伝子の解析、ゲノム創薬、遺伝子治療研究等の分野は、次世代の治療技 術開発として、各国による激しい競争下にあり、このため、我が国においても、これら の基礎となるヒトゲノム解析及びその関連先端科学研究分野に関し、知的所有権保護の ための検討が必要である。 V 今後の厚生科学研究の推進方策 1.今後の厚生科学研究推進の基本的考え方  今後、厚生科学研究を効果的に推進する上で、次の基本的考え方が重要である。 ○ 第1は、EBM(根拠に基づく医療)等の推進である。  EBMの考え方に基づき、新たに開発された技術のみならず、既存の技術についても 客観的な評価を加え、医療現場に普及させるとともに、国民への情報提供を行うことは 医療に対する信頼感の確保と満足度の向上のために重要である。 ○ 第2は、厚生科学研究を総合的に推進するため、法制面も含めたシステムの検討で ある。  厚生科学研究の基盤を強化するためには、疾病等の個人情報や医療機関等からの情報 を集積することが必要であり、そのためには情報の保護や共同活用など厚生科学研究推 進の環境整備に関する総合的なシステムの整備について、法制面も含めて検討すべきで ある。 ○ 第3は、社会的・倫理的観点からの研究実施体制の整備である。  生殖医療や遺伝子治療等の高度先端医療の進展に伴い、科学技術と社会との調和を図 るため、社会的・倫理的観点からのガイドラインの整備など研究実施体制の整備を図る ことが重要である。 2.今後の厚生科学研究の推進方策 (1)研究組織及び研究費の配分 ○ グラント型(研究者の応募による小規模研究)とプロジェクト型(大型の組織的な 研究)の事業を、研究の目的・領域や行政ニーズに応じた政策研究としてそれぞれの特 性を生かして活用すべきである。また、研究費の執行にあたり、対象期間や費目につい て柔軟な対応が図れるよう検討することが必要である。 ○ グラント型では国立試験研究機関等、大学、民間の研究者からの幅広い公募を基本 とし、課題の重要性や科学的創造性と研究者の遂行能力等の評価により、最適な研究計 画を選択することが重要である。 ○ 大型の組織や長期にわたる研究が必要な分野では、国立試験研究機関や国立高度専 門医療センター及び高度専門医療施設を明確な目的と使命を持つ研究拠点施設として位 置づけることにより、その基盤の強化を図り、責任ある研究を推進する体制を確保すべ きである。その際、米国のNIH(国立衛生研究所)等を参考とし、大学や他機関との 連携を図りつつ集中的、集学的な研究が実施できるよう、研究組織の改革強化を図るこ とが重要である。 ○ 中央省庁等改革等に伴い、厚生科学研究を行う国立試験研究機関の多くと国立高度 専門医療センターは、国立機関として存続し、国立病院・療養所については、独立行政 法人に移行するが、これらについては政策医療とそのネットワークを推進・活用しなが ら、疾患データベース、治験、健康危機管理機能など、厚生行政と一体となって役割を 果たしていくべきである。 (2)新たな分野の人的資源の養成・確保 ○ 厚生科学研究を積極的に推進するためには、次のような人材の計画的な養成・確保 が重要である。  (1)新分野の研究者 ○ 今後、厚生科学研究を進める上で不可欠な新分野の研究者の養成確保の推進が重要 である。特に、生命倫理学、生物統計学、臨床疫学及び医療経済学等の分野の専門家の 人材養成が必要であり、国立研究機関等もこの観点から事業の強化を図ることが必要で ある。  (2)研究支援者 ○ また、臨床研究の現場を支えるリサーチ・ナース、過去の臨床研究の成果の集積と 提供を行うリサーチ・ライブラリアン、CRC(臨床試験コーディネーター)等人材供 給の少ない分野においては、養成と教育を組織的に行うことが必要である。また、実験 動物等の飼育、繁殖、管理や特殊な機器の管理・操作といった試験研究を支える業務を 担う人々の適正な確保も重要である。  (3)若手研究者 ○ 若手研究者の任期付採用やポストドクターの活用による人材の流動性を確保すると ともに、研究費配分や採用・昇格の各段階に公募などの競争的環境を取り入れ、研究者 の経済的基盤の確保と資質向上を図ることが重要である。 (3)研究体制の整備と研究資源の確保  (1)疫学情報等の活用の在り方に関する制度的な検討と基盤の確立 ○ 今後、EBMに基づいて医療・介護サービス等の質の向上を図っていくためには、 適切な情報の共有及びその活用が重要である。このため、各種統計情報、研究者個人の 蓄積した長期にわたる疫学研究情報等を公共財として共同利用していく観点から、次の 点について、推進及び検討が必要である。 ○ がん研究等の推進の観点から、疾病登録システムの在り方について、個人情報の保 護との整合性を考慮したシステムの検討を行う必要がある。また、国際的に保健・医 療・福祉情報を協力して集積・分析する可能性のあることを想定し、その場合の、個人 情報の保護に関する国際的な調和の確保が必要である。 ○ 国立試験研究機関並びに国立高度専門医療センター及び高度専門医療施設を頂点と する国立病院・療養所の政策医療ネットワークを活用した臨床研究を推進する必要があ る。 ○ 個人情報を扱う医療情報については、特に、情報機器や情報システムに対するセキ ュリティー体制と個人情報保護の制度的な検討が必要である。  (2)電子医学図書館機能の充実 ○ EBMの推進の観点から、医療行為・技術の有用性や有効性について評価を進める ことが重要である。我が国における過去の臨床研究の成果に関し、その集積と解析を行 う電子医学図書館機能の充実について、コクランライブラリーを参考としつつ、検討す る必要がある。  (3)研究資源の提供基盤の充実 ○ 研究の信頼性向上と効率化に向けて、共通基盤となる研究資源の確保と研究手段の 向上が必要である。このため、ヒト由来遺伝子、細胞及び組織並びに特殊実験動物、病 原体、標準物質及び標準検体等を、収集、保存及び提供するリサーチリソースバンク機 能の充実及びその他の研究資源の開発を進める体制を整備することが重要である。 (4)研究成果の公開と知的所有権の保護 ○ 研究成果を行政の科学的根拠として積極的に利用するとともに、研究の発展と国民 の啓発に向けてホームページの活用やシンポジウム等を通じて研究成果の公開が重要で ある。 ○ 研究成果を知的所有権等として保護するため、研究者に対する啓発活動や研究評価 における特許取得の位置づけの明確化など知的所有権の取得に向けたインセンティブを 高めるとともに、リエゾン機能(研究成果から知的財産を見出し、権利化するとともに 企業に技術移転させ、事業化に結びつける機能)を果たす仕組みを推進すべきである。 また、産官学連携に関するルールを明確化しつつ、その取り組みを推進することが重要 である。 (5)社会的、倫理的観点からの研究実施体制の整備 ○ 生殖医療や遺伝子診断・治療など生命科学の進歩による新技術の出現に伴って、こ れまで経験したことのない社会的、倫理的課題が発生している。社会と科学技術の調和 を図る観点から、臨床研究における被験者の権利の尊重及び、研究を進める上での倫理 性確保がこれまで以上に重要である。  (1)倫理委員会審査準則の制定と自主審査体制の充実 ○ 現在、遺伝子治療については、各研究機関の倫理委員会の自主審査に加え、当審議 会及び文部省において各研究機関の治療計画の事前審査を実施している。 ○ 今後、こうした治療研究の増加やクローン技術、遺伝子、ヒトゲノム解析及びヒト 胚幹細胞(ES細胞)など新しい技術の応用・開発に対応していくためには、国におい て倫理委員会審査準則を制定し、各研究機関に設置されている倫理委員会の委員構成、 審査事項等の共通化など自主審査の充実を図ることがむしろ必要である。同時に、国に おいて、各研究機関で自主審査が適切に行われたかどうかを評価する仕組みを設けるべ きである。  (2)インフォームド・コンセントの徹底と情報の公開等 ○ こうした審査体制の充実とともに、遺伝子治療や生殖医療技術の実施等にあたって は、患者に対するインフォームド・コンセントの徹底と情報の適切な公開を進めていく ことが重要であり、併せて、研究者や研究補助者に必要な倫理観や法知識について教 育・研修を行うことが必要である。 ○ 新しい診断・治療法の研究においては、新薬の臨床治験にならって、ランダム化比 較対照試験等の臨床試験が多用されることに伴い、被験者の募集、及び被験者に対する インフォームド・コンセント、プライバシーの保護等の臨床研究において被験者が安心 して協力できるような体制の整備が重要である。 (6)健康危機管理の推進 ○ 国際的に化学物質、微生物等による健康危機管理体制の整備の重要性が指摘されて おり、地域における保健所を中心とした体制の整備や、地方衛生研究所の役割、国及び 国のブロック機関と医療機関、医師会等の専門職能団体及び地方自治体との連携等につ いて、技術面、法制面を合わせた検討を行うとともに、健康危険情報収集のためのグ ローバルネットワークの構築が必要である。 (7)厚生科学研究に対する理解と協力 ○ 研究成果の享受と研究のための情報提供は表裏一体であり、蓄積された疾病情報等 は最終的には国民に還元され、医療や科学技術の向上と透明性の確保に資することとな るものである。このため、厚生科学研究の推進には、国民の厚生科学研究に対する理解 と協力が不可欠であり、研究等に対する理解の促進、啓発、情報発信等に努めることが 重要である。 おわりに ○ 以上、本報告書においては、先行する当審議会の報告や他機関によって提言されて いる事項についてはできるかぎり重複を避けることとし、重点領域を特定するというよ り、当面必要とされる厚生科学の研究体制の整備・施策について提言したところで ある。したがって、本報告書に掲載されている研究領域についてはあくまでも例示であ り、本報告書に記載されていない研究領域が重要でないという意味ではないことに留意 されたい。 <資料 了> ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 先般の厚生科学審議会総会以来、この研究企画部会の委員の方々にも大変細かい点ま で御指摘いただきましてありがとうございました。 先般の厚生科学審議会総会のときの議論で大きな点は2つあったかと思います。1つ は、報告書の全体のフレームワークをどのようにつくるかということで4つの指摘があ ったと思います。それは、まず厚生科学のポリシーをしっかり確立すること、2番目は 研究推進のための体制の整備をどのようにもっていくか、もう1つは人材を含めた研究 のリソースの確保をどのようにするか、そして最後に、どういう重点領域を定めるかと いうことであります。重点領域に関しましては幾つか書いてありますけれども、「おわ りに」にありますように、これに書いていないものは重要ではないという意味ではない ということを入れさせていただきました。 いろいろな意見を聞いて、それを調整しているといつの間にか「今後の」が「現在 の」という形になってしまうので、できるだけ「今後の」という視点から報告書をまと めていただきたいという御要望があったかと思います。 そういうことを踏まえて本日委員の方々に、室長からポイントを説明していただきま す。 ○唐澤室長 前回と比較をいたしましたポイントだけ簡潔にお話しさせていただきます。 まず、前回以降、多数の先生方からいろいろ御意見をいただきまして大変ありがとう ございました。特に前回の御意見でもございましたように、全体のバランスをもう少し 考えた方がいいという御意見がございましたので、そういうバランスの点を手直しをい たしましたところと、御意見が重なったところにつきましては、部会長と相談をいたし まして整理をさせていただいております。そういうところについてはまた御意見をいた だければと思っております。 まず、1ページにつきましては、これは前回のものをまとめるとともにその分量を増 やしておりますけれども、特に国民の信頼感でございますとか満足度の向上という事柄 についても厚生科学の意義として触れているところでございます。 2ページにつきましては「厚生科学研究のこれまでの推進状況」でございますが、こ れはこれまでの既存の計画などもございますので、表現を正確にさせていただき ました。 3ページの「厚生科学研究を取り巻く状況の変化」でございますが、状況の変化のと ころでは個体レベルと社会レベルと地球レベルの中にそぐわないものが入っているので はないかという御意見がございまして、中身の場所を移し変えさせていただきました。 それから個体レベルの方では、生殖補助医療という事柄を入れましたり、社会レベルの ところでは少子化については全然触れておりませんでしたので、少子化という事柄につ いても触れさせていただいております。 4ページでございますけれども、「バイオテロリズム」が前は裸で片仮名だけで出て おりましたので、なかなかよい日本語訳がないのですが、説明をその前に加えさせてい ただいております。 次は5ページでございますけれども、5ページは最初の「生命科学分野」のところを 少し書き加えましたことと、トランスレーショナル・リサーチの関係でベクターの開発 等の基盤整備について触れさせていただいております。 5ページの一番下のところでございますが、こちらの方では生活習慣の改善という事 柄も含めて全体の文章を整理をさせていただきました。 次は6ページでございますけれども、6ページは感覚器の障害などがございますので 前は耳の関係しかございませんでしたが、少し視力の関係を入れさせていただきました のと、2は「少子高齢化社会への対応とノーマライゼーションの推進」ということで、 前々回のノーマライゼーションが前回はなくなってしまっておりましたので、「ノーマ ライゼーションの推進」というタイトルを加えさせていただきました。 具体的には、少子高齢化の2番目の「○」の中で痴呆の問題でございますとか、女性 の健康の問題でございますとか、小児の健康育成の問題などを入れさせていただいてお ります。 一番下の3の「根拠に基づく医療等の推進と情報技術の活用」でございますけれども これは前は5になっておりましたけれども、間に科学物質の安全性の問題などが入って またEBMの話に戻るのは多少手戻りだという御意見もございましたので、前の方の医 療の関係のつながりの中で触れさせていただいております。それから「臨床疫学研究」 ということで言葉を整理させていただきました。 次は7ページでございますが、7ページの下の4の「健康への脅威と生活の安全の確 保」のところから次の8ページにかけまして、食の安全、化学物質問題や環境問題につ きましては集約した形にさせていただいております。 次の9ページでございますけれども、9ページは最初の「○」の副作用の発生の防止 低減方法の研究の推進、ゲノム情報等の医薬品について少し触れさせていただいており ます。 一番下の「厚生科学の国際化」のところは全体の事項を少し整理を、縮めさせていた だきました。 10ページでございますが、V「今後の厚生科学の推進方策」の1.「今後の研究推進の 基本的考え方」でございますが、第1のEBMの推進のところで書いてございまして、 前回は戦略目標の設定あるいはそうした事柄が書いてございましたけれども、EBMの 内容はむしろ国民に対する情報の提供、あるいは信頼感の確保ということが重要ではな いかという御意見がございまして、文章を全面的に直しております。 第2の総合的に推進するためのシステムでございますけれども、前回、総合的なシス テムとだけ書いてございましたので、よくわかりにくいという御意見をいただきまして 法制面も含めたシステムの検討という表現にさせていただいております。 次の11ページは、第3の社会的・倫理的観点の関係でございますけれども、一番上の 部分にございますが、ガイドラインの整備などについて触れさせていただいており ます。 11ページでございますけれども、前回は企画の充実と評価というように書いてござい ましたけれども、これらは研究組織及び研究費の配分ということでばらばらになってお りました項目をまとめさせていただきました。そういう形で「研究組織及び研究費の配 分」という形にしております。 ここの3つ目の「○」で、「大型の」というところにございますが、こちらの方では 組織の改革強化ということの中に大学や他機関との連携が大変重要なことなのでという ことで、こうしたら事柄についても触れさせていただきました。 12ページでございますが、12ページにつきましては「(3)若手研究者」のところがござ いますが、特にポストドクターの人たちなどの若手研究者についての経済的基盤という ことも重要な事柄であるのでということで、そうした点についても触れさせていただき ました。 13ページでございますけれども、こちらの方では、前回は「電子医学図書館」として おりましたけれども、固有名詞のようでございますので「電子図書館機能」という言葉 で整理させていただきました。 次の14ページでございますけれども、14ページでは「社会的・倫理的観点からの研究 実施体制の整備」ということで、臨床研究における被験者の権利の尊重という事柄につ いて全体的に文章を整理、充実させていただきました。 真ん中あたりにございます「(2)インフォームド・コンセントの徹底と情報の公開等」 ということで、この中には遺伝子治療や生殖医療技術という事柄を、具体的にわかりや すいという観点から入れさせていただいております。 15ページ、最後でございますけれども、「おわりに」は、大変広い分野でございます ので念のためということで、例示という性格であることを念のため申し添えさせていた だいたということでございます。 以上でございます。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 各先生方に御意見をいただきながら、この間、課長をはじめ厚生科学課にも大変御苦 労をおかけしてここまでまとめてきましたので改めて御礼申し上げたいと思います。皆 様方におかれましては御意見をいただきましたけれども、さらに御意見を賜れば大変あ りがたいと存じます。順序にとらわれずに御指摘いただければ大変ありがたいと思いま す。 ○柴田委員 前回休ませていただいてまことに申し訳なかったのですが、その後ファックスで意見 を寄せまして、取り入れていただいたところがたくさんあり、ありがとうござい ました。 ただ、どうしてもまだちょっと不満なところがありまして、特に1ページです。「厚 生科学の意義」というところで前は4つあったのを2つに絞られた、それは構わないの ですけれども、1の全体状況の説明は、こういうことが期待されているというところま では実によく、しかも細かく書かれているのですが、私はこの場合絶対必要なのは、こ ういう期待されることがあると同時に、新しい進歩が新しく生命や健康を脅かすような 事態を必ず招くと思うんですね。そのことに対する配慮なり、そのことをどう防いでい くかということが厚生科学の一番、しかも新しい必要性ではないかと思うんです。 ですから「期待される」の後に、2の方にこれまでにも健康被害があったという話は 出ていますけれども、そうではなくて、これから進むところにあるいはもっと大きな危 害、あるいは生命や健康を脅かすものが起こってくる可能性があるということを、1項 目の最後にでもそこへの目配りが厚生科学の一番大事なことだと書き加えてはどうかと 思います。 2項目目については、社会のところで、例えば真ん中に「深い洞察力に基づいて行わ なければならない」あたりに、例えば「深い洞察力に基づく新しい生命倫理のもとで行 わなければならない」というような言葉を挟むことによって新しい事態を強調されては いかがということが1つ。 もう1点は、一番最後のところですけれども、「生命科学を含めた厚生科学に求めら れるものは、国民の信頼感と満足度を」と、先ほど室長も言われたように新たに入れて いただいて、これは大変結構だと思うのですが、これだけではすっと読み飛ばしてしま うのではないかと思うんですね。 ですから、もう少し強い言葉でこれからの医療が目指すべきもの、これもここで前か ら何度も議論になっているEBMですけれども、やはりEBMをただ直訳しも要約して もしようがないと思うので、EBMが持っているものと同時に、私はEBMには何か非 常に冷たい医療のような感じがしてしようがないのでそれを少し改良して、例えば「科 学的で温かみのある医療」というような言葉をつくって、それを目指すのだという方向 性を打ち出してはいかがでしょう。それで信頼を回復するというような形にしていただ けるといいのでは。 私がファックスで挙げた意見を念のために言っておきますと、「厚生科学は近年、次 第に深刻になってきた国民の医療に対する不信感を払拭し、真に国民から信頼される 『科学的で温かみのある医療』を改めて構築することに寄与し、貢献する」というよう な表現を、できればもう1項目立ててもいいのではないかと思うのです。そういう表現 ででも、今信頼感が失われてきているのだ、それをここで改めて国民から本当に信頼さ れる医療を再構築するのだ、「再構築」はちょっと強過ぎるかもしれませんが、そのぐ らいの強い表現をここではっきりさせて、今の状況を明確にすることができないか、と いうことを再提案させていただきます。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 こういう倫理その他の面では専門集団、医療従事者の間には行き渡っているところも ありますが、さらにテイクノートするという意味で柴田委員が御意見をおっしゃられた と思いますが、どうもありがとうございました。 そのほかにいかがですか。 ○寺田委員 一番最後の「おわりに」に、「厚生科学の研究体制の整備・施策について提言したと ころである」とあります。これでは最初のこの題からしておかしいわけでありまして、 この報告書は厚生科学の研究の在り方について提言をしているわけですから、最後のと ころで「重点的領域を特定するというより」はまだいいのですが、「当面必要とされる 厚生科学の研究体制の整備・施策について提言したところである」となりますとこの報 告書は体制を提言しているものなのかという感じがします。もしそうならこういう研究 が大切であるということは全部抜かなければいけないのではないかとさえ思います。逆 に言いますとこの言葉を入れたために、この報告書の目的がはっきりしなくなったと思 います。それが1つです。 2番目は、ここで生命科学と健康科学、厚生科学がばらばらに使われているところが あります。最初に厚生科学として定義をして、その範囲内で話をする。健康科学が途中 から出てきますけれども、定義をはっきりして、健康科学は厚生科学の一部であるとい うようにした方がいいのではないか。 3番目ですが、大まかなところですが、どういう研究を行うとかどういう体制という ところはいいのですけれども、11ページあたりから「研究組織及び研究費の配分」にな りますと、ここに出てきますのは、一部大学や3番目の項目に「他機関との連携」とい う言葉が入っているだけで、他の研究機関あるいは民間の研究組織に関してはほとんど 触れておられない。それは片手落ちになるのではないか。前のときは地方分権という、 「分権」という言葉は別にしましても、地方の衛生研究所等ということがありまして、 そこに例えば「多くの地方自治体の医療機関あるいは研究機関」という言葉を、あるい は「民間」を入れればいいなと思ったのですが、その項目がなくなってしまいました。 厚生科学研究というオールジャパンの研究がぐっと矮小化したような感じが組織のとこ ろでしました。 以上3つです。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 寺田委員の御指摘は、前回もオールジャパンの姿勢で厚生科学を進めてほしいという ことがありましたので、もう少し加えさせていただきたいと思います。 ○寺田委員 例えばオールジャパンは必ずしも大学を言っているわけではなくて、1回か2回ぐら いは「民間」という言葉が出てきましたけれども、民間の研究機関と一緒にやらないと なかなかやっていけないところも随分あると思いますし、当然のことながら、地方のが んセンターや国立がんセンターの場合はありますけれども、製薬会社やいろいろな財団 で建てられている研究所などとも協力しなければいけない。これはほかの方が見ますと 除外されたような感じがします。 ○唐澤室長 まず、先ほど柴田委員の御指摘いただいたものにつきましては、またほかの委員から も御意見をいただいて、文章をどういう形で表現するかということでまたお知恵をいた だければと思います。 寺田委員からいただきましたのは、私どもがここに書きましたのは、国の研究機関も きちんとしなければいけないという趣旨でして、ほかのことに触れてありませんので、 国の研究機関ばかりのように確かに見えますので、今の御指摘のところをどういう形で どこにつけるのか、あるいは起こすのがいいのかということも含めて、文章を入れるよ うに考えさせていただければと思います。 ○矢崎部会長  確かに「おわりに」にこう書いてありますので、例えば「厚生科学研究の推進」の2 番目の「○」に「産官学の連携のみならず」と、その産官学の連携のところがもし寺田 委員の御意見であれば、ここにオールジャパンの立場から推進するという文言あるいは ワンフレーズを入れさせていただいて、先ほどの「研究組織及び研究費の配分」ですけ れども、これにつきましても、ここに書いてあるものは一応残させていただいて、それ に加えて、今御指摘のような誤解を招かないような文言を加えさせていただくという2 点で対処させていただきたいと思います。文言ができましたら、また委員の皆様にお送 りして御意見いただければと思いますので、よろしくお願いします。 ○寺田委員 もう1つだけ、最初に柴田委員がおっしゃいました1ページのイントロダクションの ところ、これはこのまますっと読みますと、どうしてもライフサイエンスに偏った厚生 科学のイントロダクションになるんですね。例えば画像、情報とか実際の外科の普通の 手術の材料の問題がイントロダクションには全然出てこなくて、後の方の各論で出てく るだけです。最初に読んだときに、多分これはヒトゲノムの解析という個別化された問 題にすっとそちら側へ寄ったイントロダクションではないかという感じが 私はしました。  実はもっと早く意見を送らなければいけなかったのですが、今朝事務局に送ったとこ ろなのでまだ反映されていないと思います。一番大きい進歩はこれまでは、ライフサイ エンスもそうですけれども、画像処理とかコンピューター処理もそうで、現在の医療に 多く入ってきております。そういうものがここには何もはなしに出てきていません。医 療機器開発の問題が入るような感じを入れてください。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 確かに、例えば「分子設計による創薬」という言葉が入っていますので、寺田委員が おっしゃるように、画像処理の進歩、マイクロマシーンによる医療技術の進歩、いわゆ るバーチャルリアリティーを含めた医療の手段の改革、そういうものも比較的遠い将来 ではなくて近い将来で実現する可能性がありますので、そういう部分も少し加えさせて いただきたいと思います。どうもありがとうございました。 そのほかにいかがでしょうか。 ○柳澤委員 これは厚生科学の範囲にかかわることですが、非常に広い範囲にわたって記載がござ いまして、特に健康科学研究の推進に関係して、例えば産業医学、労働衛生などに関す るいろいろな研究はここには全く触れられていませんけれども、それはどのように位置 づけられるかということです。実際にこれから21世紀になりますと、もちろん産業医学 的な仕事についての心身に対する影響の研究は当然必要になりますし、それから余暇を どのように利用するかということについても、健康科学という観点からの研究が当然必 要になってくるだろうと考えられます。 そういう領域は省庁の統合のこともございますし、どのように考えるのか。今になっ てそういうことを持ち出して恐縮ですが、それはどうなのでしょうか。 ○唐澤室長 大変大事な御指摘だと思います。私どもの役所的なことを申し上げて恐縮ですけれど も、この審議会は厚生省の政令に基づきまして設置されておりますので、第一義的に検 討する範囲には厚生省の所管に属するということでございます。もちろん関連の事柄に 触れてはいけないということではございませんので一緒に議論させていただいて結構だ と思いますが、諮問に答えていただくのは、まずは中心部辺、ただし柳澤委員のお話に あったようなことはこれからの方向としては大変重要ですので、中央省庁再編になりま すと一緒に間もなく御議論いただけることになると思います。 ○柳澤委員 ちょっと細かいことですがよろしゅうございますか。これは恐らくこのまま報告書に なるだろうと思いますので細かいことを申し上げたいのですが、4ページですけれども 先ほど唐澤室長が新しく入れたとおっしゃいましたけれども、3つ目のパラグラフの 「毒物混入事件」云々で、「国際的にも病原体を用いたテロリズム (バイオテロリズ ム)」となっておりますが、これは国際的には「病原体や化学物質を用いた」というこ とで、バイオロジカル・アンド・ケミカルという言葉で使われておりますし、我が国の 場合もそういう現象がありますから、こういう表現を使うならば「病原体や化学物質」 と「化学物質」を入れた方がよろしいかと思います。 その場合、「バイオテロリズム」という言葉は無くてもいいと思いますし、「バイ オ・ケミカルテロリズム」という言葉があればですけれども、括弧の中は御検討いただ いた方がいいかと思います。 次は6ページですが、「生活の質 (QOL)の向上」の一番上の「○」の2行目に、 「難聴、耳鳴り、視力低下等の感覚器の障害」とありますが、これは細かくなりますけ れども、この領域の医学的な観点からいきますと、耳鳴りは難聴や視力低下と同一レベ ルでは扱われませんので、「耳鳴り」はとっていただいた方がいいと思います。「難聴 視力低下」ということで十分に感覚器障害ということがあらわれされるだろうと思いま す。  もう1つは、13ページ。一番下のパラグラフで、前から申し上げて恐縮ですが、「イ ンセンティブ」という言葉についても日本語で少し表現を加えておいていただければと 思います。  以上です。 ○眞崎委員  今まで御指摘あったと思うのですけれども、ゲノムというのは非常に大事なのですけ れども、私も余りにもそれに振り回されているのではないかと思います。厚生科学全体 はもう少し違うところにあるのではないかという気が前からしています。例えば精神障 害というのはどうなのでしょうか。それは1つも入っていないような気がします。  もう1点は、国際化とは何かという問題ですね。ここには知的財産の問題とハーモナ イゼーションの問題が書いてありますけれども、もう少し違う国際化があるというよう に私は思うんです。例えば、研究者の交流というのは書いてありますけれども、外国の 研究者はなぜ日本に定着しないのか、その点もファックスで指摘させていただいたと思 うのですが。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 ○唐澤室長  精神の関係ですけれども、PTSDという感じで一部触れさせていただいているので すけれども、もうちょっと全体的な事柄について触れるべきではないかという御意見で はないかと思っております。  研究者の定着の問題は大変重要な御指摘でございまして、特に日本の場合は外国に出 ている研究者の方が多いわけで、日本になぜ定着しないかというのは大変重要なテーマ でございます。  今、その辺の問題はむしろ我が国の研究全体の問題になっていまして、科学技術庁な どではもっと画期的な方法を導入すべきではないかと。例えば5年間くらいの期限を区 切って大変大きな予算を導入して、リーダーに研究費の配分はもっと大きく任せたらい いのではないかというような御意見もあるのですけれども、今までの私どものところで は、重要なのですが大きさとして手に余りまして、それで触れていないということでご ざいます。また御意見をいただければと思います。 ○杉田委員  眞崎委員から精神の関係を言っていただいたのでつけ加えたいと思うのですが、心の 健康という記載が少ないんです。やはり健康に mentalityに spiritualが入る時代です から、心の健康のことにもっと触れられていいと思うんですね。 今、唐澤室長が言われたPTSDは災害や事故による精神症状であって、社会が幾ら 高度になってもPTSDにはならないわけです。これは分けるべきだと思います。  したがって、3ページの「社会レベル」のところのセカンドパラグラフに、「ストレ ス、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や」云々、その上に「社会の複雑化や急速な 変化により」、これはストレスはくるけれどPTSDにはならない。ここは分けるべき だと思うんですね。  むしろ、ここに書いていただけるならば、例えばストレスによる心身症、うつ、神経 症、いわゆる心の健康が問題になるというように書いていただければここはいいのでは ないかという気がするわけです。PTSDというのは、事故や犯罪などに関係するスト レスに対する精神症状ですから、もし入れるのであれば「健康危機管理の推進」でPT SDということに触れた方がいいのか、あるいは「社会レベル」に入れた方がいいのか ちょっと場所をお考えいただいて、PTSDは大きい意味のストレスではありますけれ ども、普通に言われる社会の構図の複雑化による精神症状とは違う事を明記すべきと思 います。  あとは細かいことですけれども、「新たな分野の人的資源の養成・確保」の「(3)若手 研究者」のところは任期制採用となっているのですが、今後研究者の任期制採用という ことは全く問題にしなくていいのかということです。  もう1つ、次に13ページ、「研究資源の提供基盤の充実」にリサーチリソースバンク のことが書いてありますけれども、これはそれこそ先ほどから問題になっていますよう に、各省庁がリサーチリソースバンクのことをやっているので、他省庁間、民間あるい は海外との交流が非常に大事ではないかと思うわけです。そういう文言をちょっと入れ ていただけるとありがたい。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。  確かにこれから大きな健康障害の部分を占める精神障害を厚生科学として取り上げる ということと、先ほどの部分と3ページに「ストレスによる心の健康障害」というよう な言葉を入れさせていただいて、杉田委員の御指摘に対応したいと考えます。  また、各項目について御指摘いただいたことについては検討させていただきたいと思 います。  外国の研究者の定着の問題ですが、今までは公務員法が大きなバリアになっていまし て、客員教授などはいいのですが、外国の方を採用するには大分大きなバリアがあり、 そういう研究職に関して特例を認めていただくようなことも、研究者として活躍される というのは研究費だけの問題ではなくてある程度の身分の保証も今後解決しなければな らない問題ではないかと思います。 ○眞崎委員  ここでは議論することではないのですけれども、要するに基本的に外国人が来て英語 が通じないことが一番の大きな問題なんですね。 ○矢崎部会長  そういうところもありますね。 ○唐澤室長  外国人の研究者の多い機関は、会議を英語でやっているところが確かに多いよう です。眞崎先生からお話のあった研究者の交流ですとか、杉田委員にいただきました任 期付採用の問題は、これから新しい研究を思い切ってしていく上では大変大事なことな のですが、ただ、今言ったように公務員法との身分の問題もございますので検討しなけ ればいけない問題だと思っております。  それから、ここは特に若手研究者ということで触れさせていただきまして、全体的に そういう議論はもちろんあると思いますが、何歳まで若手研究者なのかという問題があ りますが、主には若い方にできれば任期付で活躍をしていただいて、お年がいってから あちこちへ行くのも大変ですので、特にこういう人たちのところで力を入れてやってい ったらどうかという趣旨でございます。もちろん全体的に大事だと思っております。 ○高久委員  幾つか申し上げたいのですが、1つは「厚生科学の意義」の2番目、「人間と社会に 対する幅広い総合的な視野を持ち、深い洞察力に基づいて行わなければならない」とい う言葉に当然、生命倫理の問題に対する配慮が含まれていると私は思います。  柳澤委員がおっしゃった「化学物質と病原体」の点ですが、最近特に欧米ではバイオ テロリズムが問題になっています。それでバイオテロリズムになったのだというふうに 理解をしていました。  もう1つ「ノーマライゼーション」という言葉は、一般の方はわからないのではない かと思います。  6ページの一番最後のところで「臨床疫学研究の推進」とありますが、確かに日本で 臨床疫学を推進しなければならない。欧米に比べて劣っている。しかし遅れているのは 臨床疫学だけではなくて、臨床研究そのものが遅れているのではないか。確かにEBM には臨床疫学が非常に重要ですが、EBMのもとになるしっかりした臨床的研究を行っ て、それを疫学的にきちんと解析しなければならないということです。日本でも病気の 遺伝子の研究などでは非常に良い研究は出ているのですが、幅広い臨床的な研究が臨床 疫学だけではなくて一般的に不十分である。そのために、日本独自のEBMがなかなか 発信できないという問題があるので、その点を考える必要があるのではないかと思いま す。  あとは細かいことですが、9ページの「再生医学」の所でわざわざ「リジェネレーシ ョン・メディシン」という言葉を使わなくても、京都大学には再生医学研究所もできて いますので、再生医学という言葉は一般化してきたと思います。  この前のときに事務の方に指摘したのですが、14ページのES細胞はエンブリオニッ ク・ステム・セルですから、ヒト胚性幹細胞、胚幹細胞と胚性幹細胞は意味が違うので ここは直しておく必要があると思います。  以上であります。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 ○眞崎委員  前の骨子案にEBMを推進する研究というのが入って、今度はこれはとれてしまって いるんですね。それは臨床研究ということなのですか。 ○高久委員  臨床研究といってもいろいろな研究があります。例えば先ほど申し上げたように病気 の原因となる遺伝子の異常を見つける、このような研究は日本人は得意でしていろいろ な新しい研究の発表が日本の研究者によってなされている事は御存じのとおりと思いま す。その他新しい手術法の開発等もあります。EBMの場合にはたくさんの症例を対象 にして臨床に役に立つような科学的な根拠をつくり出すということですから、臨床研究 すべてがEBMとは限らないと私は理解しています。 ○寺田委員  今の話ですけれども、臨床研究ではかなりぼやっとしているんですね、御存じのよう に病気指向から患者指向の研究までを入れる人と、患者指向研究だけを臨床研究と入れ る人がいます。高久委員は「日本が」と言われましたけれどもアメリカ側も危機感を持 っていまして、臨床研究はもう落ち目になってどうしようもない、何とかこれを入れな ければいけないとNIHのバーマス博士が特別委員会をつくって定義から始めて今いろ いろやっているわけです。また申し上げたいのは臨床疫学というよりも病気指向の臨床 研究で日本は割合強いんですね。要するに日本ではMDが研究に入っていきますから、 何だかんだ言っても多いのです。しかし、論文が出やすいものだからどうしても病気指 向の研究になっていく。もう少し患者指向の研究もやった方がいいという意味で臨床研 究と大きくくくって臨床研究を強調するのには私も賛成です。 ○高久委員  EBMのもとになるような臨床研究を進めるべきだというように、もとになる臨床疫 学の研究ではなくてEBMのもとになる臨床研究を進めるというのが重要なことだと思 います。 ○矢崎部会長  それでは「臨床研究の推進」でその下に、余りにも大きな領域ですので、特にEBM の根拠になるような臨床研究ということを下に加えさせていただくことにしたいと思い ます。どうもありがとうございました。 ○高久委員  文章はこのままで、「臨床研究の推進」として、「臨床研究領域では、ヒトにおける 長期間の観察や無作為対照研究を行う疫学研究の充実がEBM(根拠に基づく医療)の 基礎をつくる研究」、この「つくる研究」の推進が重要であるとすれば良いと 思います。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。  そのほかにいかがでしょうか。 ○初山委員  高久委員からノーマライゼーションの御指摘がありましたけれども、これは大変申し 訳ないのですが、リハビリテーションと同じでなかなかいい日本語がございませ。「正 常化」という表現もあったのですが、「障害者プラン」の中で「ノーマライゼーション 7カ年計画」という副題になっておりまして一般化されているものと考えて復活をお願 いしたものです。 ○高久委員  私の方がそういう問題に暗くて申し訳ありません。一般化されているのなら良いと思 います。 ○寺尾委員  今のことに関係するのですけれども、これを読みますといろいろな英語が出てくるん ですね。例えばナチュラルホストなど、それ以外にたくさんありますけれども、こうい うものを一般の人が読んでわからないと思うんですね。ですから、日本語があるものに ついては積極的に日本語を入れるようにした方がいいと思います。  例えば今のナチュラルホストもそうですし、リサーチ・ライブラリアンとか、これは 日本語があるかどうか知らないのですが、もしあれば日本語にした方が、少なくとも一 般の人は横文字よりは理解できるのではないかという気がいたしますね。ですから、日 本語にして括弧で横文字を入れるということはいいのかもしれませんけれども、そうい うところが案外安易に言葉を使い過ぎているのではないかなと思います。 ○唐澤室長  確かに片仮名が多い傾向がありますので、日本語を大事にするという観点で直したい と思います。部会長とも御相談しながら言葉を整理したいと思います。 ○眞崎委員  それに関連して非常に細かいことで恐縮ですけれども、5ページの上の方に「トラン スレーショナル・リサーチ」とありますね。こういうタイプの研究は科学技術庁では 「戦略的研究」というのではないでしょうか。トランスレーショナル・リサーチという のは私は知らなかったのですが。 ○唐澤室長  これは私も戦略的研究とちょっと違うようなものだと思います。むしろ委員の皆様方 からお話しいただいた方がいいかもしれないのですが、いい日本語はないだろうかとい うことでお聞きしたのですけれどもなかなかなくて、それで注意書きのような形になっ てしまいました。 ○杉田委員  科学技術庁が言っているのは本来は基礎研究、そして近未来ないし中期未来に応用可 能な研究を戦略的基礎研究と言っているわけですね。私もトランスレーショナル・リ サーチというのは余りよくないと思うんですね。何かいい日本語があった方がいいとは 思います。戦略的基礎研究とはちょっと違うニュアンスに考えるように私は理解してお ります。 ○高久委員  これは括弧が要らなくて、「基礎研究の成果を臨床応用につなぐような研究の推進が 重要である」で十分わかるのではないかと思います。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございます。  確かに概念的にはあるんですね。ですから、眞崎委員が言われたように恐らく基礎研 究、重点研究、戦略研究、その上に応用研究があって臨床開発があるのですけれども、 重点・戦略領域と応用研究の間の研究の言葉がなくて、それでこういうふうに。  先ほどから私も気になっていたのですが、ターミナルケア等の片仮名も結構入ってい ますし、企業には既に定着しているのでそういう言葉に変えたいと思うのです。往々に してヒトゲノムなども片仮名が先に入ってしまって、省庁のこういう報告書はたしか片 仮名厳禁なんですね。国粋主義的な考え方もあって、そういう意味でサイエンスの領域 といいますか、科学の領域ではどうしても片仮名が入ってきますが。 ○加藤委員  でも、「根拠に基づく医療」と言われても、今までの医療は根拠に基かなかったのか という感じになって全くわからなくなりますね。 ○高久委員  先ほどトランスレーショナル・リサーチのことを言いましたが、「基礎研究と臨床研 究の橋渡しを行う研究」という括弧は、その前に既に「基礎研究の成果を臨床応用につ なぐ」と言っていますから要らないと思うのですが、トランスレーショナル・リサーチ という言葉を使ってもよろしいのではないか。こういうことが非常に重要であることを 強調するためには、英語でも敢えて出していいのではないか。 ○矢崎部会長  何かいい言葉はございますか。 ○高久委員  このままでいいのではないかと思います。その前に、「基礎研究の成果を臨床応用に つなぐための」とか「ような」研究ということで、トランスレーショナル・リサーチと いう言葉は重要なことです。 ○矢崎部会長  そうですね。何か言葉があるといいのですが、応用研究というと随分違った話になり ますし。 ○高久委員  この前の言葉が説明になっていますから、むしろトランスレーショナル・リサーチを 括弧にして、その推進が重要であるとする。日本ではEBMでもそうですが英語の方が 意外と早く伝わるようです。私はこういう報告書が全部日本語でなければならないとは 思っておりませんし、必ずしもそうではないと思います。報告の時期によって違うかも しれませんが。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございます。  そうしますと、「基礎研究の成果を臨床応用につなぐための研究」で、そして括弧し てトランスレーショナル・リサーチとさせていただきます。 ○柴田委員  今のお話のように、英語の方が早くわかる人たちがいらっしゃるのですから、全部抜 かなくてもいいと思います。けれども、最初に日本語をきちんと書いて、それに括弧し て英語を入れる、そういうことを原則にすることだと思います。  ただ、最初に話題になったパラダイムなどはやめてほしいと思います。 ○矢崎部会長  わかりました。 ○柴田委員  それと関連してもうひとつIV−1.−(1)○「遺伝子解析により疾病の素因の見つ かった人のプライバシーと人権の保護を図りつつ」という部分は軽く流れている気がし てなりません。もとの文章にはここにさらに「社会的差別をなくす」という言葉もあっ たわけですね。  疾病がもたらす社会的な差別の問題は、私はものすごく重要な問題だと思います。ハ ンセン病やその他、疾病による差別はこれまでも日本の社会では特に根強かったと思う んですね。それがこれから新しい科学の進展のもとに、遺伝子レベルまで遡っていろい ろな差別が起こってくれば大変なことなのです。ここは改めて、そういうことが起きな いようにむしろ「社会的差別」という言葉をぜひ使って、そういう差別をなくさなけれ ばいけないという警鐘を鳴らしていただきたいと思います。非常に細かいことなのです けれども、これでは流されてしまうのではないか、そこの強調が余りないような気がす るので。  先ほどの続きの意見ですが、10ページの「今後の厚生科学研究の推進方策」の「第1 はEBM(根拠に基づく医療)等の推進である」、このEBMには私はちょっと異議あ りなんですね。第1がEBMというのではもの足りません。EBMはお医者さんにはわ かりやすい言葉なので使っていけなくはないのですけれども、それが第1というのでは 寂しい。先ほど私が提案した「科学的で温かみのある医療」という言葉を使えば、温か みがあるという意味はEBMにはないですから、これは新しい概念ということになりま す。そういう新しい概念で、それを推進するのだということになります。  というのは、EBMはアメリカの中でも、医師は病気は診るけれども人間を見ないと いうような形での、いわゆる医学批判が非常に強いわけですね。日本にももちろんあり ます。そういうことに対して、科学的であることは非常に大事なのだけれども、もうひ とつ人間的な温かみのある医療を我々はこれから目指すのだということを社会に対して 宣言してほしい。  その説明の中には必ずEBMという言葉を入れて、つまりEBMに人間味、温かみを つけ加えたものなのだという説明をしていただければ、お医者さんにもわかるし、EB Mを否定するのでもなければ、むしろEBMをちょっと加工したものなのかなというこ とで済むように思うんです。EBMは一般の人には何のことだかほとんどわからないで すね。日本語の「根拠に基づいた医療」はなおわからないですね。これでは全然わから ないというのが私の意見です。 ○眞崎委員  蒸し返しになって恐縮ですけれども、加藤委員にお聞きしたいのですが、パラダイム というのはもともとトマス・クーンの言った言葉の意味と大分違ってみんなが使って定 着しているのではないですか。 ○加藤委員  定着しても、みんな誤用として定着してしまった場合にそういう言葉を使うのがいい かどうかという問題だと思います。 ○矢崎部会長  確かに、人間観がそういうもので動いていったらいけないということですね。 ○加藤委員  パラダイムの場合には、ある観測がパラダイムに拘束されるという考え方があるわけ ですね。特定のパラダイムによって初めて観測が成り立つ、その観測のニュートラリテ ィーだとか決定実験の不可能性という概念が含まれているわけです。そうしたパラダイ ム概念を人文科学領域に簡単に使うのはやはりやめた方がいいのではないかなと思いま す。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。  柴田委員、「温かみのある医療」というのがこれまた漠然としてアメニティーとかそ ういう意味にとられる可能性もあるので、例えば「全人的な医療」とか「生命に対する 尊厳性のある医療」というような言葉で表現させていただくことで よろしいでしょうか。 ○柴田委員  私は「人間味のある」でもいいし、どういう言葉でもいいのですけれども、国民の信 頼感を得る、いわゆる不信感を払拭して新たな信頼感を構築するというときに、国民が 一番望んでいることは、医療に温かみが欲しいということなのではないかなと漠然と思 うんですね。「温かみ」では非常に漠然としているんですけれども、何か伝わるものは あるだろうと思います。それが一番いいとは思いませんが、「根拠に基づく」というよ りは「科学的」という方が人々にはわかりいいだろう。そうするとそこに何を加えるか 「科学的で人間味のある」でも構いませんけれども、「温かみ」のような言葉で一般の 人には通じるだろうという気がするんですね。  ただ、一番大切な読者であるお医者さんが読んだときに「この温かみは何だ、おれた ちにないと言うのか」と言って、多分相当お叱りを受ける言葉だろう。「今までなかっ たはずはない」と抵抗感があるであろうことはよくわかるのですけれども、これからの 厚生科学の第1はEBMだというのではちょっと寂しいのではないか、第一わかりませ んよと、いうことだけは言いたいんですね。 ○高久委員  確かに柴田委員がおっしゃったとおりの問題があって、アメリカの場合にはEBMが HMO(Health Maintenance Organization)の制限の根拠になっていて、それに対し て患者さんの方から不満が出て来ている等というような問題があると思います。ただ、 日本はまだその前の状態で、EBMがまだ行われていない状態なのですね。V−1「厚生 科学研究推進の基本的考え方」の中の「根拠に基づく医療の推進」というのは少しおか しい。EBMだけでは医療はできない。ですから、「EBMに関する研究の推進」とい うことではないのか。「EBM 医療の推進」だとEBMだけでは困るという声が出て くると思ったのですが。ますます部会長を悩まさせて申し訳ありません。 ○柳澤委員  今の問題に関してですけれども、以前にもEBMの議論のときに問題になったと思い ますが、ここで柴田委員がおっしゃるような科学的でかつ人間味、温かみのある医療と EBMを結びつけて記述したり論じたりするのは誤解を生じるのでやめたほうがいいだ ろうと私は思います。  その理由は、高久委員もおっしゃいましたけれども、EBMの1つの大事な意味は、 これからEBMを進めていくということはここにも書いてありますけれども、インフ ォームド・コンセントを得るために患者が主体的に医療を選択できるような科学的な データを提供するための臨床研究という意味合いがかなり強いだろうと思います。  そうすると、それは人間的とか温かみということとはちょっと別の次元の事柄であり ますので、我が国でともすれば軽視されてきた臨床研究の必要性ということと、患者の 主体的な選択によって医療が行われていくということの基礎的なデータを得るための臨 床研究という意味合いを強調されて、先ほどの「温かみのある医療」とは別の形で取り 扱った方がいいのではないかと思います。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。  そうしますと、高久委員の言われたように、「根拠に基づく医療の研究等の推進」と させていただいて、これは柳澤委員が今言われたように、科学的というのは冷たく処理 するということではなくて、個々の患者さんにベストの医療をしっかりした根拠で考え るということであって、全部同じものを科学的に評価したものを個々の患者に画一的に やるということではなくて、基本は医療を受ける患者の公平性といいますか、どんな患 者もベストの医療を受けられる可能性を確立するためのシステムで、科学的というのは すなわちベストの医療ということだと思います。ベストの医療が受けられる根拠をつく るという意味が含まれていて、個々の患者ごとに基づいた医療を主治医の裁量権で根拠 に基づいて行うというように私どもは考えているのですけれども。 ○柴田委員  私はEBMを否定しようと思っているのではなくて、EBMはもっと推進すべきだと 思います。高久委員が言われたように、確かに日本はそのもうひとつ前の段階だと言わ れればそのとおりかもしれないと思うのです。ただEBMといっても一般の人はわから ない。厚生省がこれからの新しい研究の在り方という指針を出したときに、それは一体 何だというときに、EBMの推進だということはよくわからない。「根拠に基づく」で は多分もっとわからないでしょうから、わかるようにするのだったら「科学的な根拠に 基づく」だと思うんですね。そこは「科学的な根拠に基づく」でないと恐らく日本語と してはわからないのではないか。  そういうとますます医療が冷たく感じられるというのは、明らかに誤解です。ただ、 このことを全部知っておられる方から見れば誤解だとわかりますけれども、科学的根拠 がもっと進んでいけば1人1人の患者に適した一番いいものを選ぼうということにつな がることで、決して科学重視の人間無視ではないということはEBMの思想に入ってい ると思うのですけれども、そのことが国民に伝わらなければだめではないかという感じ がするんですね。  ですから、より正確さとその意味というよりは、ここで目指すものと、もう1つは信 頼感の回復が一番大事なことだと思うものですから、そういう意見に多少こだわりまし たけれども、そういう趣旨であることをおわかりいただければそれで結構です。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。  よく考えさせていただいて、また御相談申し上げたいと思います。  医療に対する国民の不信感といった場合には、先ほどから問題にあります健康被害の 問題、そういうことが結構大きな問題にあるかと存じます。例えば9ページの「画期的 な医薬品及び医療機器等の開発と安全性の確保」の中に医薬品の副作用防止策の徹底だ けではなくて、副作用をチェックするシステムの整備、そういうものも加えさせていた だいたらいかがなものかなと思っていました。 ○柴田委員  私も大賛成で、国民の不安感の1つに薬害エイズ問題など薬害の問題があるわけです ね。それら科学の進歩という形を背負って出てくるものが新たな危害を加えている例が 余りにも多いのではないか、もっと遡れば公害などもそうでしょうけれども、一番はっ きりするのはいわゆる新薬だと思うんですね。新しい薬が出てきたときに逆に新たな被 害を生んだ例は過去にたくさんあるわけですね。だから、本当はそういう過去の実例か ら出てくる反省をもっと強烈に書いた方がいいのではないかとさえ思うんです。  そういうことからくる不安感と、もう1つはゲノム解析や、さらに遺伝子治療という ような言葉が新聞紙上を賑わしていますし、一方では生殖技術がどんどん進んでいく。 そうなると、生命、健康だけではなくて人間の尊厳を脅かすという新たな事態が起こっ てくるのではないかという不安感も出てくるわけですね。そういうものまで含め、医療 に対して本当に大丈夫なのかという国民の大きな不安感があると思うんです。そういう ところから先ほどの温かみや人間味という言葉が欲しいと思う、私の根拠はそういうと ころから出ているのです。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。 ○加藤委員  柴田委員の今の話はとても重要な点が含まれていて、例えば安全性の問題というので ダイオキシンなど因果関係がよくわからない危険度がたくさん増えてきているとか、あ るいはまた医学そのものが新しい病気をつくり出している面の問題と、例えば遺伝子操 作や人工的に創られた生殖などが今までの人間観とは違う生殖形態を生み出していると いうのは全く別の問題ではないかと思うんですね。  今は医療倫理や技術倫理の問題の1つの焦点は、安全性を安全性としてきちんと処理 するシステムをつくることと、いわゆる人間性の古い伝統、例えば親子関係などとぶつ かる問題が出てくるということをはっきり分けないと非常に危ない。むしろ安全性とし て処理されなければならない問題と人間観が違ってくるのではないかという問題を一緒 にすることの中にかなり大きな誤解の原因があるように思います。  ですから、おっしゃる気持ちはわかるのですが、いわゆる安全性で処理されるレベル といわば伝統的な人間観と技術がぶつかるという問題はかなり違う問題だというように 考えた方がいいのではないかと思います。 ○柴田委員  これを議論し出すと大変なことになりますけれども、一般の人はそこをそんなに区別 して考えていないと思うんですね。薬の副作用にしても、副作用をなくす研究と言うこ とには私は多少疑問があって、副作用はなくならなくてもいいと思うんですね。副作用 がきちんとわかっていて、それよりもプラスの方が大きいということで使われればいい わけで、副作用をなくさなければとか副作用が少しでもあってはいけないという論理は 成り立たない。それと同じように、同じ1つの生殖技術が出てきたときにそれがもたら すプラスの面、不妊者が喜ぶという面と、一方、それが新たな人間の尊厳を損なうよう なことにつながっていかないかという不安と、一般の人の見る目はそれほど差はないと 思うんですね。ですから今、科学とか医学、医療を見る目もそうなっているのではない かと敢えて加藤委員に異を唱えさせていただきますが、これを議論しだすときりがない のでもうやめます。 ○高久委員  先ほど10ページのEBMのことで言いましたが、この表題が「今後、厚生科学を効果 的に推進する上で、次の基本的考え方が重要である」ということですから、このままで はいいと訂正したいと思います。  それから、別の会議だったと思うのですが、EBMをどのように訳すかということで 議論になったときに、「根拠に基づく医療」では不十分な日本語だとお考えの方と、 「科学的根拠に基づく医療」とすると冷たく響くので困るというお考え方の2つがあっ た。その時に2つとも書いておいた方がいいのではないかという意見がありました。例 えば、表題には「根拠に基づく医療」としておいて、文章の中で「科学的根拠に基づく 医療」という表現も使ってはという意見でした。 ○唐澤室長  多くの御意見をいただきましたのでよろしいですか。  私どもがここを整理させていただいたのは、皆様方からいただいたような考え方と実 は同じでございまして、ただ、どのように表現するのがよいかとちょっと悩んでおるわ けでございます。私どもが考えておりますのは、1つには医療、医学の研究を推進する ためには患者、国民がいなければ研究も進歩も何もないわけでございますけれども、し かしそれは医療関係者だけで進められるわけではなくて、医療を受ける患者が、柴田委 員のお話のような温かみを感じて信頼できて協力できる形にならなければ結局研究も進 まないというように、ぐるっと一回りした構造になっているのではないかと思います。  そこで、今の現実の医療の問題では実際上、私もドクターではなく事務屋なので私の 感じで申し上げますと、医療機関にかかって治療をしていただいているときに、自分の 受けている治療は一体どのぐらいの水準なのか、ごく普通の方法なのかどうかというこ とが全く自分にわからないものですから大変不安な気持ちも他方であるわけですね。そ ういうものを国民の側からアクセスできるようなデータをEBMのような考え方でつく っていただいたらどうかと思うわけでございます。  もちろん実際の医療の提供にはEBMが防衛医療のような形で使えても仕方がないわ けでございますので、国民が信頼できる、医師と患者の信頼関係でございますけれども そういうものを構築するのに役立てるような医療にならないだろうかということで、問 題意識は私どもはそれほど違わないと思っているのですが、むしろいい表現をいただけ ればということで御相談させていただければと思います。  以上でございます。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。  そろそろ時間が参りましたので、これで大体まとめさせていただいて、委員方にまた フィードバックして最終的な形にもっていきたいと思います。  一番は柴田委員の言われる医療不信に対する提言ということで、1つは先ほど議論に なりました副作用あるいは先端医療技術のもたらすさまざまな問題をきちんとチェック するシステムを確立し、いち早く情報を公開することが不信感をとる1つの大きな手立 てではないかと思います。  もう1つは、先ほど唐澤室長が言われたように、自分の受けている医療が本当に確か なものだろうかということが一般国民の疑問の1つですので、それを解決する手立てと して科学的な根拠を提示して、患者さんの理解のもとで決定権が行使できる環境をもた らす、インフォームド・コンセントをとる基盤となるデータが我が国にない。そういう ことを解決することによって医療に対する信頼感が回復するのではないかということで 厚生科学で理論的になぜその不信感があるかということを解析しながら、それに対応す ることをこの中に含ませていただきます。「人間味あふれる温かな医療」については、 実際はどうかというと具体的なイメージがわきませんので、もう少し論理的に分析して 書かせていただきたいと思います。  「厚生科学の意義」で、「人間と社会に対する幅広い総合的な視野を持ち、深い洞察 力に基づいて行わなければならない」ということが全体を網羅しているという意味だっ たのですけれども、これだけでは理解がいかないということであればもう少し書き加え させていただきたいと思います。  今日、いろいろ御意見をいただきましたことを、また事務局と十分議論しながら、な るべく早くまとめて委員の皆様方にフィードバックして御意見をいただければ大変あり がたいと思います。  「今後の厚生科学研究の在り方」につきましてはもう10回近くに及ぶ議論をしていた だきまして、まだまだ不完全だと思いますが、事務局とよく詰めながら最終的な報告案 を作成していきたいと思いますので何とぞ御指導のほどろしくお願いいたします。  それでは、本日は貴重な御意見を賜りまして討論いただきありがとうございました。  事務局から連絡することはございませんか。 ○唐澤室長  今、部会長のお話にございましたように、本日の御意見を踏まえまして部会長と御相 談をして、それぞれ個別に御相談させていただきながら、最終的な案文として確定させ ていただければと思っております。よろしくお願いいたします。 ○矢崎部会長  そういうことでございますので、何とぞよろしくお願いいたします。  それでは本日の部会はこれで終了させていただきます。どうもありがとうございまし た。                                     (了) 問い合わせ先 厚生省大臣官房厚生科学課 担 当 岡本(内線3806) 電 話 (代表)03-3503-1711 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