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(1) 診療報酬体系の位置づけ
(2) 現行体系の評価
(1) 医療保険財源に影響を与える構造的変化
(1) 安定した公的医療保険制度の確立
平成11年4月16日
医療保険福祉審議会制度企画部会
1 はじめに
医療は、国民の生命に関わる重要なサービスである。こうした医療を国民に公平に提供するため、大正11年には健康保険法が、昭和33年には国民健康保険法が制定され、さらに昭和36年には国民皆保険制度が実現するに至った。その実現後の高度成長期における賃金上昇によって医療費財源は拡大し、これを原資とした診療報酬改定などによって、保険診療の範囲・内容は充実され、医療提供体制の整備が促進されてきた。現在、国民は、比較的軽い負担で、相当水準の医療を受けることが可能となっているが、これまで国民の健康の確保に貢献してきた国民皆保険制度は、今後とも、維持していかなければならない。
2 診療報酬体系の位置づけと現行体系の評価
(1) 診療報酬体系の位置づけ
国民の健康の維持向上に重要な役割を果たしてきた国民皆保険制度は、次のような内容から構成されており、これまで数多くの見直しが行われてきた。
この中で、診療報酬体系は、「国民が保険診療として医療機関等から受ける医療の範囲・内容(給付内容)」及び「保険診療に係る個々の行為の価格(診療報酬点数)」を定めるという重要な役割を担っている。
(2) 現行体系の評価
現行の診療報酬体系は、市場に代わって保険診療の価格を決定する体系としてみた場合、体系の内外に、医療の質の低下や非効率な資源配分を発生させる誘因を抱えている。診療報酬体系改革の前提として、現行体系に、制度上、どのような誘因があるのかを、まず検証することが必要である。
3 診療報酬体系に関わる構造的変化
「新医療費体系」の創設後、保険診療の範囲・内容及び価格について逐次の改定が行われてきているが、こうした診療報酬改定の効果もあって、現在では、必要な医療を国民に提供する基盤は、基本的に確保されていると考えられる。
(1) 医療保険財源に影響を与える構造的変化
(2) 保険診療の範囲・内容に影響を与える構造的変化
(3) 医療提供体制における構造的変化
しかし、今日、国民皆保険制度は大きな岐路に立っていると考える。経済基調の構造的な変化が生じる一方で、国際的にも例のない急速な高齢化の進行が予測されている。さらには、国民意識や疾病構造の変化、医療の高度化・国際化、公的介護保険制度の成立など、国民皆保険制度をとりまく環境も大きく変化している。
こうした環境変化の下、国民皆保険制度の中長期的な安定を図るため、どのように給付と負担の均衡を図るのか、またその枠組みの中で、どのように良質かつ適切な医療を効率的に確保するのかが重要な課題となっている。持続可能で国民にとって望ましい制度とはどのようなものかという観点から、今後の制度のあり方を早急に検討しなければならない。
このため、本制度企画部会は、これからの診療報酬体系のあり方について、これまで18回にわたり審議を重ねてきた。国民皆保険制度における診療報酬体系の位置づけを明確にして現行の体系の評価を行い、さらに診療報酬体系に関わる構造的変化を整理した上で、今後実施すべき診療報酬体系改革の基本方向について検討を行った。
この間、「診療報酬体系見直し作業委員会」に対し、本制度企画部会での議論を具体的に進めるため、素材提供の作業を依頼したところである。
以下、診療報酬体系のあり方に関する本部会の審議結果について報告する。
また、診療報酬体系は、患者総数や医療機関のサービス提供量等とあいまって、国民が最終的に負担する国民医療費を決定することになるが、特に、わが国では患者が自己の判断によって医療機関等を自由に選択できる仕組み(フリーアクセス)となっていること、また現行体系は原則として医療機関等は出来高で報酬を受ける仕組みとなっていることなどから、診療報酬体系の持つ意味は大きい。
現行の体系は、昭和33年に施行された「新医療費体系」を出発点とし、これまで、新技術の導入に係る項目の追加を行うなど逐次の改定を経て、現在では、6千種類以上の医療サービスの価格から構成されているが、体系的にみた場合には、抜本的な変更が加えられることなく、今日に至っていると考えられる。
通常の財・サービスでは、市場における需給関係によって価格が決定されることを通じ、自動的に資源配分の効率性が確保される。しかし、医療サービスは、他のサービスとは異なり、国民一人ひとりに公平に提供することが必要なサービスであって、かつ、患者自身は、医師の判断に依存しなければ何が必要なのか判断できない(情報の非対称性)サービスであるという特性がある。こうした医療サービスの特性を踏まえ、これまで「保険診療の範囲・内容」及び「診療行為の価格」の決定を市場に任せるのではなく、中央社会保険医療協議会の意見を聴いた上で、国がこれを行う仕組みがとられてきた。
すなわち、診療報酬体系は、市場に代わって、保険診療の範囲・内容や価格を公定することによって、若年世代、高齢者世代双方に負担を求めて強制的に確保する医療保険財源の効率的配分と、医療を提供する医療機関等の健全性と効率性の促進とを図る仕組みと位置づけられる。薬価制度や医療材料価格制度の位置づけも、診療報酬体系と同様である。
このような関係にあることから、診療報酬体系や薬価制度は、高齢者医療制度、医療提供体制と一体的に検討され、見直すことが求められていると考える。
医療における患者と医療従事者との間の情報の非対称性については、医療サービスの特性上、完全に解消することは困難であるが、特にわが国の状況については、形式的には患者が自己の判断によって医療機関等を自由に選択できる仕組みとはなっているが、実際には、患者が医療機関の医療水準を比較したり、医療機関を選択する際に必要な情報がないなど、情報格差が大きいのではないかとの指摘がある。
一方、医療を提供する側からも、長時間待ち短時間診療の現実の中で、ゆとりを持って患者に対応し、一回の診察では患者に満足を持ってもらえる状況にはないとの指摘があるが、この指摘は、医療に対する患者の不満の多くが医療従事者との不十分な意志疎通に集中していることに対応するものである。
この問題は、患者への良質かつ適切な医療を効率的に提供するための重要な課題であり、その改善が急がれる。
この点については、この仕組みは国民の医療依存度を高め、結果的に安易な受診行動を生み出しており、少なくとも高齢者については医療費の多くを保険料で負担している若年者と同様の定率負担とすべきであるとの指摘がある一方で、医療を経済性との関係においてのみ論じるべきでなく、また高齢者については寝たきりを防止し生活の質を高めるために必要な早期受診を妨げないよう負担面にも配慮すべきであるとの指摘もある。
医師の判断によって患者の医療需要は定まるものであるため、患者は、定率の患者負担を通してはじめて診療報酬体系と具体的な関わりを持つことになる。この患者のコスト意識という視点は、国民の可処分所得、医療費負担の世代間の均衡、患者の受診機会の平等などと並んで、患者負担のあり方を検討する際に留意すべき重要な視点である。
出来高払いを原則とする現行の体系は、医療供給が不足していた時代には大きな役割を果たしていたが、無秩序な高額医療機器の導入、過剰な検査や薬剤の使用などの誘因を内在しており、医療費の無駄と非効率の要因の一つとなっているのではないかと指摘される一方で、国民に対し必要な医療を効率的に提供でき、また診療内容が透明な仕組みであるとの指摘がある。
また、現在の包括払いについては、診療報酬明細書(レセプト)では診療内容が審査できず患者にとっても評価がわかりにくいため、医療機関によっては、粗診粗療の強い誘因が発生するとの指摘がある一方で、老人医療、精神医療の分野での包括化によって医療水準が低下したとの報告はなく、かえって医療機関の自由度が高まっているとの指摘もあり、現行の出来高払い、包括払い双方についても、それぞれ評価は分かれている。
サービス提供側が、限られた資源を有効活用し、効率化を図ることによって、国民が質の良いサービスを少ない負担で享受できるようになることが望ましいことは、医療サービスであろうと他のサービスであろうと変わることはない。医療は生命に関わるという点で他のサービスとは異なる特性があるものの、基本的には、より良質なサービスをより安価に提供した者が成長し、質の悪いサービスを提供する者は市場から撤退するような誘因が高まる仕組みとすることが必要と考えられる。
通常の財・サービスの需給調整は価格の変動によって自動的に行われるが、医療サービスの場合には、診療報酬体系が異なる診療行為の価格の間の整合性を確保することによって、この調整が行われることになる。したがって、診療行為の価格の間の整合性が確保されていないことは、特定の診療行為について供給過剰や供給不足を生じさせ、医療サービス全体の非効率な資源配分を発生させる誘因となる。
これまで、国民の医療需要に応えるため、診療報酬改定財源の範囲内で必要とされる診療行為の価格を新たに設定したり、価格を引き上げるなどの配慮を行うことによって、医療サービスの供給拡大の成果をあげてきた。しかし、医療サービスについては、薬剤のように市場における価格交渉がないために、その結果を公定価格に反映することができず、また、これに代わるような基準づくりも実際上困難であったことから、必ずしも価格相互の関係の整合性を確保する明確な基準が設定されるまでに至っていない。
現在の診療報酬体系は医療従事者の報酬の配分表という性格のものとして認識されているのではないかとの指摘や、これまで基本的には診療報酬が下がることがなく医業が全体として保護されてきたのではないかとの指摘は、このような事情を背景としていると考えられる。
また、医療を提供する側からは、医療従事者の技術評価が低く抑えられてきておりその改善が必要との指摘がある一方、情報公開の流れの中で、医療を受ける国民の側から、個々の診療報酬の間の関係などを明確に説明することが求められるとの指摘もあるが、こうしたことも踏まえつつ、医療の質の確保と資源配分の効率性を確保するため、医療を受ける側と医療を提供する側双方が納得できるようにするため、価格設定の基準の明確化など、合理的かつ透明な価格体系を構築することが必要である。
第二の課題である異なる医療機関や医療従事者が提供する同種の診療行為についての価格設定については、現在のところ、医療機関や医療従事者の質の違いに着目せず、診療行為の有無、人員配置、病床の面積等にのみ着目して、価格が一律に設定されている。これは、医療機関や医療従事者の質が全て同一であるという前提での仕組みであるが、実際には、医療機関や医療従事者が患者に提供するサービスは、医療機関の方針の違いや医療従事者の習熟度などによって、その質に差異があると考えられる。
こうした仕組みは、医療機関や医療従事者の質の向上の努力を妨げる誘因があるとの指摘や、質の良くないもの、技術のないものまでが一律に評価され、無駄が生じるとの指摘がある。良質かつ適切な医療は、質の高い医療機関や医療従事者によって提供されるものであり、今後、医療機関や医療従事者の質の向上の誘因を高めるような仕組みの検討が必要である。
しかし、診療報酬体系については、今後対応すべき次のような構造的変化が生じている。こうした構造的変化にどのように対応するかが重要な課題である。
この数値は、欧米諸国と比較して決して高い比率ではないが、少子高齢化の進行に伴う医療費の増加傾向と、現下の経済情勢の中での賃金低下などによって、各保険者は苦しい財政運営を強いられている。構造的にみて、今後ともかつてのような高度な経済成長が望めない状況にある一方、国際的にも例のない急速な高齢化の進行などによる医療費の増加と次代を担う子供の数の著しい減少が予測されている。
こうした中で、現行制度のまま推移すると、現役世代の医療費負担が過重となって、国民皆保険制度そのものの崩壊の危機を招くことになりかねない状況にあり、その抜本的な改善が急務となっている。
こうした状況を反映し、国民の可処分所得のあり方、すなわち医療費負担を含む国民負担(租税・社会保障負担)のあり方について、国民の関心が高まっており、この問題について国民的合意を得ることが急務となっている。
また、「より良い生き方を自己の判断で選択する」という国民の意識の変化が、医療の面でも生じており、「自分で理解した上で治療を受けたい」「良質な療養環境で医療を受けたい」という患者が増加するなど、患者の医療に対する需要は多様化しているが、こうした変化に対応した制度の確立が求められている。
また、医療技術という面では、臓器移植等の高度で先進的な医療技術の導入、外国製の新薬や医療用具の臨床現場への導入など、医療の高度化、国際化には目覚ましいものがある。さらに、医療に必要不可欠な「もの」の中には、国際市場における価格変動に直接影響を受けるものも増加してきている。
医療の高度化・国際化は、医療費の縮減、増大双方の要因になり得るものであるが、こうした傾向は、あらゆる分野での国際化の進展とともに、今後とも急速に進むものと予測される。こうした変化に対応して、保険診療の範囲・内容等の見直しが迅速かつ効率的に行われるような仕組みが必要とされている。
また医療機関は質的、量的に拡充されているが、病院、診療所、薬局相互の連携を図ることや、患者の地域における療養生活を支援するための在宅医療・訪問看護や外来機能の充実によって、さらに良質かつ適切な医療を提供することが可能な環境となっている。
こうした医療提供体制の変化に応じた、資源配分の効率化の促進が急務となっている。
一方、高齢者にとっては、介護需要と医療需要が重複して発生する場合が実際上も多いと考えられる。給付と負担の両面での整合性の問題も踏まえつつ、公的医療保険制度と公的介護保険制度とが、どのように役割分担をして連携を強化していくか、また、どのように資源配分の効率性を確保していくかが重要な課題である。
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