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診療報酬体系のあり方について(意見書)


目 次

1 はじめに

2 診療報酬体系の位置づけと現行体系の評価

(1) 診療報酬体系の位置づけ

(2) 現行体系の評価

(1) 医療情報の非対称性
(2) 患者のコスト意識
(3) 医療機関のコスト意識
(4) 医療技術の価格設定基準

3 診療報酬体系に関わる構造的変化

(1) 医療保険財源に影響を与える構造的変化

(1) 経済基調の変化
(2) 国民生活の変化
(2) 保険診療の範囲・内容に影響を与える構造的変化
(1) 少子高齢化の進展と国民意識の変化
(2) 疾病構造の変化と医療の高度化・国際化
(3) 医療提供体制における構造的変化
(1) 医療提供体制の変化
(2) 公的介護保険制度の施行

4 診療報酬体系改革の基本方向

(1) 安定した公的医療保険制度の確立

(1) 給付の不合理な不均衡の是正
(2) 医療費財源、診療報酬改定のあり方
(2) 患者主体の良質かつ適切な医療の確保
(1) 医療情報提供の基盤整備と保険者の役割
(2) 予防への取り組み
(3) 医療需要の多様化と医療技術の高度化への対応
(3) 医療機関の機能分担と連携による効率的な医療提供
(1) 機能分担と機能高度化の促進
(2) 連携強化への取り組み
(3) 大病院への外来集中の解消
(4) 医療機関の健全性と効率性を促進する価格体系
(1) 医療技術を重視した体系化
(2) 出来高と包括の最善の組合せ
(3) 投資的経費の評価のあり方

5 終わりに


診療報酬体系のあり方について

平成11年4月16日

医療保険福祉審議会制度企画部会

1 はじめに

 医療は、国民の生命に関わる重要なサービスである。こうした医療を国民に公平に提供するため、大正11年には健康保険法が、昭和33年には国民健康保険法が制定され、さらに昭和36年には国民皆保険制度が実現するに至った。その実現後の高度成長期における賃金上昇によって医療費財源は拡大し、これを原資とした診療報酬改定などによって、保険診療の範囲・内容は充実され、医療提供体制の整備が促進されてきた。現在、国民は、比較的軽い負担で、相当水準の医療を受けることが可能となっているが、これまで国民の健康の確保に貢献してきた国民皆保険制度は、今後とも、維持していかなければならない。
 しかし、今日、国民皆保険制度は大きな岐路に立っていると考える。経済基調の構造的な変化が生じる一方で、国際的にも例のない急速な高齢化の進行が予測されている。さらには、国民意識や疾病構造の変化、医療の高度化・国際化、公的介護保険制度の成立など、国民皆保険制度をとりまく環境も大きく変化している。
 こうした環境変化の下、国民皆保険制度の中長期的な安定を図るため、どのように給付と負担の均衡を図るのか、またその枠組みの中で、どのように良質かつ適切な医療を効率的に確保するのかが重要な課題となっている。持続可能で国民にとって望ましい制度とはどのようなものかという観点から、今後の制度のあり方を早急に検討しなければならない。
 このため、本制度企画部会は、これからの診療報酬体系のあり方について、これまで18回にわたり審議を重ねてきた。国民皆保険制度における診療報酬体系の位置づけを明確にして現行の体系の評価を行い、さらに診療報酬体系に関わる構造的変化を整理した上で、今後実施すべき診療報酬体系改革の基本方向について検討を行った。
 この間、「診療報酬体系見直し作業委員会」に対し、本制度企画部会での議論を具体的に進めるため、素材提供の作業を依頼したところである。
 以下、診療報酬体系のあり方に関する本部会の審議結果について報告する。

2 診療報酬体系の位置づけと現行体系の評価

(1) 診療報酬体系の位置づけ

 国民の健康の維持向上に重要な役割を果たしてきた国民皆保険制度は、次のような内容から構成されており、これまで数多くの見直しが行われてきた。

(1) 国民は何らかの公的医療保険制度に必ず加入し保険料を支払うこと。
(2) 国民は一部負担を支払えば、原則として全ての医療機関において医療を受けられること。
(3) 保険者は国民が受けた医療について、公定された診療報酬点数に基づき費用を支払うこと。
(4) 保険者は創意と工夫によって健康診査等の健康の保持増進に必要な事業を行うこと。
(5) 国等は、公的医療保険制度の適切な運営のため、保険者及び医療機関等に対し必要な指導・監督などを行うこと。

 この中で、診療報酬体系は、「国民が保険診療として医療機関等から受ける医療の範囲・内容(給付内容)」及び「保険診療に係る個々の行為の価格(診療報酬点数)」を定めるという重要な役割を担っている。
 また、診療報酬体系は、患者総数や医療機関のサービス提供量等とあいまって、国民が最終的に負担する国民医療費を決定することになるが、特に、わが国では患者が自己の判断によって医療機関等を自由に選択できる仕組み(フリーアクセス)となっていること、また現行体系は原則として医療機関等は出来高で報酬を受ける仕組みとなっていることなどから、診療報酬体系の持つ意味は大きい。
 現行の体系は、昭和33年に施行された「新医療費体系」を出発点とし、これまで、新技術の導入に係る項目の追加を行うなど逐次の改定を経て、現在では、6千種類以上の医療サービスの価格から構成されているが、体系的にみた場合には、抜本的な変更が加えられることなく、今日に至っていると考えられる。
 通常の財・サービスでは、市場における需給関係によって価格が決定されることを通じ、自動的に資源配分の効率性が確保される。しかし、医療サービスは、他のサービスとは異なり、国民一人ひとりに公平に提供することが必要なサービスであって、かつ、患者自身は、医師の判断に依存しなければ何が必要なのか判断できない(情報の非対称性)サービスであるという特性がある。こうした医療サービスの特性を踏まえ、これまで「保険診療の範囲・内容」及び「診療行為の価格」の決定を市場に任せるのではなく、中央社会保険医療協議会の意見を聴いた上で、国がこれを行う仕組みがとられてきた。
 すなわち、診療報酬体系は、市場に代わって、保険診療の範囲・内容や価格を公定することによって、若年世代、高齢者世代双方に負担を求めて強制的に確保する医療保険財源の効率的配分と、医療を提供する医療機関等の健全性と効率性の促進とを図る仕組みと位置づけられる。薬価制度や医療材料価格制度の位置づけも、診療報酬体系と同様である。
 このような関係にあることから、診療報酬体系や薬価制度は、高齢者医療制度、医療提供体制と一体的に検討され、見直すことが求められていると考える。

(2) 現行体系の評価

 現行の診療報酬体系は、市場に代わって保険診療の価格を決定する体系としてみた場合、体系の内外に、医療の質の低下や非効率な資源配分を発生させる誘因を抱えている。診療報酬体系改革の前提として、現行体系に、制度上、どのような誘因があるのかを、まず検証することが必要である。

(1) 医療情報の非対称性
 サービスの需要側と供給側に情報の非対称性があることは、サービスの質の低下や非効率な資源配分を発生させる誘因となる。
 医療における患者と医療従事者との間の情報の非対称性については、医療サービスの特性上、完全に解消することは困難であるが、特にわが国の状況については、形式的には患者が自己の判断によって医療機関等を自由に選択できる仕組みとはなっているが、実際には、患者が医療機関の医療水準を比較したり、医療機関を選択する際に必要な情報がないなど、情報格差が大きいのではないかとの指摘がある。
 一方、医療を提供する側からも、長時間待ち短時間診療の現実の中で、ゆとりを持って患者に対応し、一回の診察では患者に満足を持ってもらえる状況にはないとの指摘があるが、この指摘は、医療に対する患者の不満の多くが医療従事者との不十分な意志疎通に集中していることに対応するものである。
 この問題は、患者への良質かつ適切な医療を効率的に提供するための重要な課題であり、その改善が急がれる。

(2) 患者のコスト意識

 国民皆保険制度の下で、患者は、比較的軽い負担で相当水準の医療を受けられるようになっているが、通常のサービスでは消費者が費用を全額支払うことと比較すると、この仕組みは、過剰な医療需要が発生する誘因を内在するものと考えられる。
 この点については、この仕組みは国民の医療依存度を高め、結果的に安易な受診行動を生み出しており、少なくとも高齢者については医療費の多くを保険料で負担している若年者と同様の定率負担とすべきであるとの指摘がある一方で、医療を経済性との関係においてのみ論じるべきでなく、また高齢者については寝たきりを防止し生活の質を高めるために必要な早期受診を妨げないよう負担面にも配慮すべきであるとの指摘もある。
 医師の判断によって患者の医療需要は定まるものであるため、患者は、定率の患者負担を通してはじめて診療報酬体系と具体的な関わりを持つことになる。この患者のコスト意識という視点は、国民の可処分所得、医療費負担の世代間の均衡、患者の受診機会の平等などと並んで、患者負担のあり方を検討する際に留意すべき重要な視点である。

(3) 医療機関のコスト意識

 現在の体系は、出来高払い方式を原則とする体系であり、包括払い方式は、療養型病床群、緩和ケア病棟などごく限定された分野にとどまっている。
 出来高払いを原則とする現行の体系は、医療供給が不足していた時代には大きな役割を果たしていたが、無秩序な高額医療機器の導入、過剰な検査や薬剤の使用などの誘因を内在しており、医療費の無駄と非効率の要因の一つとなっているのではないかと指摘される一方で、国民に対し必要な医療を効率的に提供でき、また診療内容が透明な仕組みであるとの指摘がある。
 また、現在の包括払いについては、診療報酬明細書(レセプト)では診療内容が審査できず患者にとっても評価がわかりにくいため、医療機関によっては、粗診粗療の強い誘因が発生するとの指摘がある一方で、老人医療、精神医療の分野での包括化によって医療水準が低下したとの報告はなく、かえって医療機関の自由度が高まっているとの指摘もあり、現行の出来高払い、包括払い双方についても、それぞれ評価は分かれている。
 サービス提供側が、限られた資源を有効活用し、効率化を図ることによって、国民が質の良いサービスを少ない負担で享受できるようになることが望ましいことは、医療サービスであろうと他のサービスであろうと変わることはない。医療は生命に関わるという点で他のサービスとは異なる特性があるものの、基本的には、より良質なサービスをより安価に提供した者が成長し、質の悪いサービスを提供する者は市場から撤退するような誘因が高まる仕組みとすることが必要と考えられる。

(4) 医療技術の価格設定基準

 現在の体系には、医療技術の価格設定基準について、異なる診療行為の間の価格の整合性の確保という課題と、異なる医療機関や医療従事者が提供する同種の診療行為についての評価という課題の、二つの課題がある。
 通常の財・サービスの需給調整は価格の変動によって自動的に行われるが、医療サービスの場合には、診療報酬体系が異なる診療行為の価格の間の整合性を確保することによって、この調整が行われることになる。したがって、診療行為の価格の間の整合性が確保されていないことは、特定の診療行為について供給過剰や供給不足を生じさせ、医療サービス全体の非効率な資源配分を発生させる誘因となる。
 これまで、国民の医療需要に応えるため、診療報酬改定財源の範囲内で必要とされる診療行為の価格を新たに設定したり、価格を引き上げるなどの配慮を行うことによって、医療サービスの供給拡大の成果をあげてきた。しかし、医療サービスについては、薬剤のように市場における価格交渉がないために、その結果を公定価格に反映することができず、また、これに代わるような基準づくりも実際上困難であったことから、必ずしも価格相互の関係の整合性を確保する明確な基準が設定されるまでに至っていない。
 現在の診療報酬体系は医療従事者の報酬の配分表という性格のものとして認識されているのではないかとの指摘や、これまで基本的には診療報酬が下がることがなく医業が全体として保護されてきたのではないかとの指摘は、このような事情を背景としていると考えられる。
 また、医療を提供する側からは、医療従事者の技術評価が低く抑えられてきておりその改善が必要との指摘がある一方、情報公開の流れの中で、医療を受ける国民の側から、個々の診療報酬の間の関係などを明確に説明することが求められるとの指摘もあるが、こうしたことも踏まえつつ、医療の質の確保と資源配分の効率性を確保するため、医療を受ける側と医療を提供する側双方が納得できるようにするため、価格設定の基準の明確化など、合理的かつ透明な価格体系を構築することが必要である。
 第二の課題である異なる医療機関や医療従事者が提供する同種の診療行為についての価格設定については、現在のところ、医療機関や医療従事者の質の違いに着目せず、診療行為の有無、人員配置、病床の面積等にのみ着目して、価格が一律に設定されている。これは、医療機関や医療従事者の質が全て同一であるという前提での仕組みであるが、実際には、医療機関や医療従事者が患者に提供するサービスは、医療機関の方針の違いや医療従事者の習熟度などによって、その質に差異があると考えられる。
 こうした仕組みは、医療機関や医療従事者の質の向上の努力を妨げる誘因があるとの指摘や、質の良くないもの、技術のないものまでが一律に評価され、無駄が生じるとの指摘がある。良質かつ適切な医療は、質の高い医療機関や医療従事者によって提供されるものであり、今後、医療機関や医療従事者の質の向上の誘因を高めるような仕組みの検討が必要である。

3 診療報酬体系に関わる構造的変化

 「新医療費体系」の創設後、保険診療の範囲・内容及び価格について逐次の改定が行われてきているが、こうした診療報酬改定の効果もあって、現在では、必要な医療を国民に提供する基盤は、基本的に確保されていると考えられる。
 しかし、診療報酬体系については、今後対応すべき次のような構造的変化が生じている。こうした構造的変化にどのように対応するかが重要な課題である。

(1) 医療保険財源に影響を与える構造的変化

(1) 経済基調の変化

 国民皆保険制度の実現後、高い経済成長の下での賃金の伸びに支えられて医療費財源が増加するという枠組みの中で、診療報酬改定によって保険診療の範囲・内容の充実と診療行為の価格引上げとを行う一方、高額療養費制度等によって患者負担を一定範囲内に抑えてきた。高齢化の急速な進展等もあり、国民医療費は高い伸びを示し、現在では、国民医療費は30兆円を超え、国民所得の約8%に相当する規模になっていると見込まれる。
 この数値は、欧米諸国と比較して決して高い比率ではないが、少子高齢化の進行に伴う医療費の増加傾向と、現下の経済情勢の中での賃金低下などによって、各保険者は苦しい財政運営を強いられている。構造的にみて、今後ともかつてのような高度な経済成長が望めない状況にある一方、国際的にも例のない急速な高齢化の進行などによる医療費の増加と次代を担う子供の数の著しい減少が予測されている。
 こうした中で、現行制度のまま推移すると、現役世代の医療費負担が過重となって、国民皆保険制度そのものの崩壊の危機を招くことになりかねない状況にあり、その抜本的な改善が急務となっている。

(2) 国民生活の変化

 高度成長期以降、国民の生活水準は急速に向上し、特に、一般の高齢者は公的年金の充実等によって、若年世代と遜色のない負担能力を有するようになっている。また、こうした生活水準の向上をも背景として、「より良い生き方を自己の判断で選択する」という意識が、近年、若年世代、高齢者世代双方に等しく生じていると考えられる。
 こうした状況を反映し、国民の可処分所得のあり方、すなわち医療費負担を含む国民負担(租税・社会保障負担)のあり方について、国民の関心が高まっており、この問題について国民的合意を得ることが急務となっている。

(2) 保険診療の範囲・内容に影響を与える構造的変化

(1) 少子高齢化の進展と国民意識の変化

 少子高齢化の進展によって、若年者に比較して医療需要が高い高齢者が増加することになる。これに伴い、寝たきりではなく健康的な生活を送りたい、仮に寝たきりになっても住み慣れた地域で生活したい、終末期も自己の選択に基づき迎えたいなど、国民が医療サービスに求める重点も大きく変化しつつあり、これに応じた資源配分の効率化が急務となっている。
 また、「より良い生き方を自己の判断で選択する」という国民の意識の変化が、医療の面でも生じており、「自分で理解した上で治療を受けたい」「良質な療養環境で医療を受けたい」という患者が増加するなど、患者の医療に対する需要は多様化しているが、こうした変化に対応した制度の確立が求められている。

(2) 疾病構造の変化と医療の高度化・国際化

 従来、わが国では、主として感染症などの急性疾患が医療の中心であった。しかし、現在では、公衆衛生対策の進展や抗生物質などの薬剤の開発、普及等によって、感染症が減少する一方で、生活習慣病等の慢性疾患が増加するなど、疾病構造が大きく変化してきている。こうした疾病構造の変化に応じた資源配分の効率化が急務となっている。
 また、医療技術という面では、臓器移植等の高度で先進的な医療技術の導入、外国製の新薬や医療用具の臨床現場への導入など、医療の高度化、国際化には目覚ましいものがある。さらに、医療に必要不可欠な「もの」の中には、国際市場における価格変動に直接影響を受けるものも増加してきている。
 医療の高度化・国際化は、医療費の縮減、増大双方の要因になり得るものであるが、こうした傾向は、あらゆる分野での国際化の進展とともに、今後とも急速に進むものと予測される。こうした変化に対応して、保険診療の範囲・内容等の見直しが迅速かつ効率的に行われるような仕組みが必要とされている。

(3) 医療提供体制における構造的変化

(1) 医療提供体制の変化

 従来、わが国の医療提供は、診療所における医師個人によるものが中心であったが、現在では、病院の果たす役割が高まり、入院医療を中心に医療従事者のチームによる医療提供が普及してきている。
 また医療機関は質的、量的に拡充されているが、病院、診療所、薬局相互の連携を図ることや、患者の地域における療養生活を支援するための在宅医療・訪問看護や外来機能の充実によって、さらに良質かつ適切な医療を提供することが可能な環境となっている。
 こうした医療提供体制の変化に応じた、資源配分の効率化の促進が急務となっている。

(2) 公的介護保険制度の施行

 従来、公的医療保険制度は、社会的入院という形で、事実上、介護サービスの不足する状態を補ってきたと考えられるが、平成12年度には、公的介護保険制度が施行される。これによって、介護サービス提供の基盤が整備されるものと考えるが、一部の医療機関が介護施設として指定を受けるなど、医療提供体制も大きな影響を受けることとなる。
 一方、高齢者にとっては、介護需要と医療需要が重複して発生する場合が実際上も多いと考えられる。給付と負担の両面での整合性の問題も踏まえつつ、公的医療保険制度と公的介護保険制度とが、どのように役割分担をして連携を強化していくか、また、どのように資源配分の効率性を確保していくかが重要な課題である。

4 診療報酬体系改革の基本方向

 良質かつ適切な医療の効率的な提供のためには、国や医療機関等が有する医療情報を国民にわかりやすい形で開示し積極的に提供すること、医療機関の機能分担や医薬分業を進めること、疾病予防や健康増進を進めること、医療機関や患者のコスト意識を高めること、医療機関等の提供する医療サービスの質の評価体制や指導・監査体制の整備を図ること、医療従事者の資格制度を見直すことなどの医療制度全般にわたる多様な取り組みが必要であり、診療報酬体系改革もこうした総合的取り組みの中の一つとして位置づけられる。
 診療報酬体系改革については、現行体系が抱える誘因を踏まえつつ、次のような基本的な事項についてさらに具体的検討を進め、診療報酬体系をとりまく構造的変化に的確に対応した新たな体系を構築することが必要である。

(1) 安定した公的医療保険制度の確立

 国民の健康の確保に貢献してきた国民皆保険制度を維持するためには、給付と負担の均衡を確保することが不可欠であるが、中長期的に、この均衡をどのような方向で確保していくのかが最も重要な課題である。

(1) 給付の不合理な不均衡の是正

 高い経済成長の下での賃金の伸びに支えられて医療費財源が増加するとの構図が崩れた現在、給付と負担の均衡を確保するためには、まず、従来にも増して、給付面における重点化、効率化の取り組みが必要と考える。
 現在、高齢者1人当たりの医療費は、医療費の多くを負担する若年者の5倍にもなっているが、こうした世代間の給付と負担の不均衡が大きい状態が継続することは、中長期的には、若年世代の公的医療保険制度に対する信頼を喪失させる可能性が高い。
 高齢者については、健康面からみて、若年世代に比較して医療を必要とすることはやむを得ないとしても、診療報酬体系での取り組みをはじめ、疾病予防や健康づくりのための方策、医療機関や患者にコスト意識が働くような方策などの総合的な取り組みを通じて、給付面での不合理な不均衡を是正していくことが必要である。ただし、コスト意識については、これを過度に醸成すると、早期の診断と治療を損ない、結果的に医療費の増大につながる可能性もあることに留意しなければならない。

(2) 医療費財源、診療報酬改定のあり方

 医療費財源の今後のあり方、すなわち給付と負担の均衡を図る方向性については様々な考え方があり、さらに議論を深める必要がある。しかし、いずれにしても、急速に少子高齢化が進む中、保険料、公費、患者負担の組合せのあり方という問題も含め、将来の現役世代が負担できる限度をどの水準に設定するのか、可処分所得をどの程度確保するのかという国民的合意が前提となる課題である。この際、医療をはじめ、雇用、年金に対する国民の不安は大きいことから、あまりに過大な負担には耐えられないという前提の下で、国民に信頼を与える道を探していくことが重要と考えられる。

(給付と負担の均衡を図る方向性についての複数の考え方)

○ 医療は国民の健康の維持向上のための投資と公的に位置付けて、これまで以上に公的医療保険制度への資源配分を重点的に行うべきである。
○ 医療費支出と保険料収入との均衡を保つことは、既に限界であり、医療費の伸びは、経済成長の範囲内とするべきである。
○ 現在の財政規模に加えて新規の医療費財源を投入することの可否は、少子高齢化、医療の高度化、人件費の上昇等の医療費の増加要因を分析し、その要因ごとに判断すべきである。
○ 公的な医療保障水準については十分に達成されており、現在の水準以上は、個人の判断に基づく民間保険の活用を検討すべきである。

 また、公定価格制度であるために生ずる医療の需要と供給の不均衡等を調整することを目的として、概ね2年に1度の頻度で診療報酬改定が行われてきているが、この改定は、医療機関等の収入と支出のバランスを勘案して改定率を設定し、必要な財源を確保した上で実施されてきた。本来的には、診療報酬改定と薬価改定は直接関係するものではないが、従来、診療報酬改定と薬価改定は同時期に行われている。その結果として、薬価差を縮小することで生じた財源が、診療報酬改定財源に充当されてきたという現実がある。
 こうした診療報酬改定のあり方は、経済変動の状況、医療の質の向上、公的医療保険制度の安定の確保、資源配分の効率性等の観点から、さらに検討することが求められる。

(2) 患者主体の良質かつ適切な医療の確保

 給付と負担の均衡を確保するという公的医療保険制度の枠組みの中で、診療報酬体系として、今後、最も重視すべきことは、患者主体の良質かつ適切な医療を効率的に確保するという視点である。
 国民の求めに応じ、全てを保険給付の対象とすることが可能であれば望ましいが、現実には、高度化・多様化する国民の医療に対する需要に全て応えていくことは困難と考えざるを得ない。公的医療保険制度の最大の使命は、不慮の傷病について患者が満足する治療内容を保障することにあることを踏まえつつ、求められる医療需要の中で、国民の視点から何が最も重要な課題であるかを明確にした上で、診療報酬体系として、その分野に対し、迅速かつ適切に対応することが必要と考えられる。

(1) 医療情報提供の基盤整備と保険者の役割

 公的医療保険制度として対応すべき重要な課題の一つに、国民の医療情報需要への対応がある。患者と医療従事者との間の情報の格差をできるだけ解消し、患者主体の医療を確保するため、医療従事者のわかりやすい説明と患者の納得(インフォームド・コンセント)を大事にしなければならない。患者自らが医療サービスの選択に積極的に関われるようにすることは、医療制度全般の見直しの中に位置づけられ検討されるべきものであるが、診療報酬体系においても、患者に必要な情報が届けられ、医療従事者との信頼関係の向上を図るという視点を持つことが必要である。
 このため、医療技術の評価に当たっては、病状に応じた的確な診断と治療を確保することはもちろんのこと、患者と医療従事者との間の不十分な意志疎通の状況を改善し安心を得るための技術にも重点が置かれるべきと考える。例えば、国民の関心の高い、診療計画や診療結果の時間をかけた適切な説明や、薬剤に関する情報の提供、安全性を確保する服薬指導、処方の二重確認などを促進する適正な評価が必要である。また医療機関等に関する情報が国民に届けられるよう、個々の診療報酬を得る条件の一つに患者への情報提供を付加するなどの診療報酬体系上の仕組みについて工夫することも必要である。
 さらに、患者、医療機関以外の者が、国民の立場に立って、医療機関の質や提供される医療の質を評価する仕組みの整備が重要である。現在、国民(被保険者)の立場に立つべき保険者の役割は、診療報酬を国が一律に定めるという仕組みの中で、診療終了後の診療報酬明細書の審査などに重点が置かれている。
 しかし、これからは発想を転換して、より積極的に国民を支えるとの立場から、診療計画等を通じ各病院が医療の質を相互に競う誘因を高めること、行政が保有する医療機関情報等を活用して国民に提供すること、被保険者証のカード化等による患者情報の共有化を個人情報保護に留意しつつ促進することなどの積極的かつ試行的な取り組みを拡大していくことが必要と考えられる。
 このためには、保険者も医療に関する知識や情報を蓄積し、医療機関等が提供する医療の質を評価できる体制を整えていく努力が必要である。このことは、保険者の機能を高め、良質かつ適切な医療をより効率的に提供することにつながるものと考えられるが、保険者の機能については、さらに議論を深める必要がある。

(2) 予防への取り組み

 予防的な治療技術については、現在、疾病予防等の効果が特に強く認められるものは、給付対象とされているが、健康診査等については、保険者の創意と工夫による保健福祉事業によって実施されている。
 生活習慣病患者に対する運動指導や療養生活指導、小児う蝕の再発防止や咀嚼機能の長期的な維持管理のための技術など、健康な状態に回復し維持することによって、直接的に患者の生活の質の向上と医療費の効率化とを両立できる予防的な治療技術は、今後とも給付対象とし、また評価の充実を図ることを検討することが必要と考えられる。
 しかしながら、健康診査等は、これを受ける者の中には結果として治療を必要としないものが含まれており費用対効果について様々な評価があること、また保険者の創意と工夫によって多様な取り組みが可能であることなどから、現在の財政的な枠組みにおいては、保健福祉事業による対応が現実的と考えられる。
 ただし、保険者が、予防的な給付も含め医療機関と診療報酬に関する契約を結ぶことなどの積極的かつ試行的な取り組みについては、早急に結論を得るべき課題と考える。
 なお、諸外国でも予防を公的医療保険制度の給付対象としている例もあり、また医療費財源のあり方に関係する課題であることから、今後、引き続き、そのあり方について検討することが求められる事項と考える。

(3) 医療需要の多様化と医療技術の高度化への対応

 多様化する患者の医療需要は療養環境という側面でも強くなっており、これに適切に対応していくことが必要である。現在、患者自らの費用の支払に基づく療養環境の選択については、病室という限定された範囲において認められている。
 しかし、例えば長期の療養が必要となった場合については、病室以外に快適な食堂、談話室等の良好な環境を求めるようになるなど、療養環境に対する需要も多様化している。こうした要請を踏まえると、療養環境の平均的な水準の向上を図る一方で、医療の本質ではない施設の利用などについては、患者自らの費用支払いに基づく選択の自由度を高める方向が妥当と考えられる。
 この場合、より良い医療サービス提供の誘因を高めるため、入院医療の提供体制が一定水準以上であること等の条件を設けた上で、患者の適切な選択が保障されるように、費用の支払対象となる療養環境等を明確にすることや、患者に対して十分な情報提供がなされることが必要不可欠と考えられる。
 また、医療保険財政との調整を図りつつ医療技術の高度化を促す仕組みである高度先進医療制度は充実されることが必要と考える。公的医療保険制度上、高度な医療を行う医療機関として位置付けられている特定承認保険医療機関が、少子高齢化に対応した医療技術の開発などの役割を十分に果たせるよう、その体制基盤の質的な強化を促し機能の高度化を図ることが必要である。
 なお、国際化等の進展も踏まえつつ、新規の医療技術についての保険適用ルールの明確化や迅速化などについては、さらに検討することが求められる事項である。

(3) 医療機関の機能分担と連携による効率的な医療提供

 これからの診療報酬体系は、患者主体の良質かつ適切な医療を効率的に提供するため、医療資源の活用が図られるような誘因を高めることが重要である。医療法においても、効率的な医療提供体制を構築するため、医療機関の機能の分担及び業務の連携は重要な課題とされている。
 それぞれの医療機関が機能の分担と機能の高度化を図りつつ連携を強化した効率的な医療提供体制の下で、医療機関に関する必要な情報が国民に対して提供され、その情報を基に、患者が医療機関を適切に選択する仕組みとすることが、良質かつ適切な医療の効率的な提供を実現するための条件である。
 このため、診療報酬体系に、医療機関の機能分担と連携を促進する仕組みを導入することが、これまでにも増して必要である。また、医療需要と介護需要が重複して発生する高齢者に対して質の高いサービスが総合的に提供されるよう、介護施設等との機能分担や連携についても重視することが必要である。

(1) 機能分担と機能高度化の促進

 医療法等に定める医療機関の特別の機能としては、特定機能病院、地域医療支援病院、臨床研修病院等があるが、これらについては、その機能、医科や歯科の特性及び診療実績等を含めた質的な側面に着目して、診療報酬上の適切な評価を行うことによって、機能の高度化を促すことが必要である。また、病院については質の高い入院機能等の専門的機能を、診療所については質の高い「かかりつけ」という機能を有するとの形で、機能の高度化を促すことが必要である。
 一方、医療法等に規定のない医療機関の機能についても、患者主体の良質かつ適切な医療を確保するために必要性が高いと判断されるものについては、診療報酬体系として資源配分の重点化を行うことが必要と考えられる。
 今後、介護の必要な高齢者への対応は公的介護保険制度によって進められる中で、公的医療保険制度に求められることは、良質かつ適切な医療を提供し、速やかに健康を回復すること、また、できる限り寝たきり患者を発生させないことと考える。
 早期の的確な診断と治療の確保、急性期における良質かつ適切な医療の提供、質の高いリハビリテーションへの迅速な移行、地域での療養生活を支援する退院後の外来指導や在宅医療・訪問看護の充実など、患者ができる限り速やかに地域社会へ復帰できるようにしていかなければならない。このような質の高い医療提供の一連の流れを充実することは、従来から指摘されている社会的入院、長期入院という問題の解消にも資するものと考える。
 これらの課題の中で、欧米諸国と比較すると、特に、質の高い急性期入院医療の供給という面での対応が遅れていると考えられる。現在、急性期入院医療の重要な要素である看護サービスについては、看護要員の比率や平均在院日数を指標として価格が定められているため、病状の重い患者を積極的に受け入れて質の高いサービスを提供する医療機関とそうでない医療機関とが一律に評価されるという課題がある。急性期入院医療の一層の高度化と医療機関の機能分担を促進するため、入院患者へ提供されるべき看護の必要量(看護必要度)に応じた評価を加味していくことが必要と考えられる。この場合、実際の患者の病状より看護必要度を高くして請求する弊害の発生を防止する方法を併せて検討することが必要である。
 また、急性期入院医療やリハビリテーション等の質の向上という観点からみると、医師やその他の医療従事者についても、人員の有無、配置数等にのみ着目して評価を行う現在の仕組みには、看護サービスと同様の課題がある。医療機関の機能分担と高度化を促進するため、医療機関が医療従事者のチームにより提供する医療サービス総体の質を評価した上で、どのように診療報酬として評価していくかは、今後、早急に検討すべき課題と考えられる。
 なお、国公立病院と民間病院の役割分担についても議論があったが、この問題は、政策医療のあり方、独立行政法人の制度化の動向等を踏まえつつ、さらに検討することが求められる事項である。

(2) 連携強化への取り組み

 病院と診療所との病診連携などの医療機関相互の連携、また医療機関と介護施設、薬局、訪問看護ステーションや地域等との連携が強化され、この情報が患者に対し提供されることは、患者の適切な医療機関の選択と医療機関相互の健全な競争の促進や、医療の効率的な提供に資するものである。
 また、検査データや薬歴情報などの患者情報の共有化がなされれば、重複受診、重複投薬の解消が可能となり、医療の質の向上と医療費の効率化にも資する。
 このような観点から、診療報酬、情報提供の両面において連携強化を促進していく仕組みを検討することが必要である。連携体制について診療報酬上の評価を行う際には、実績等も含めて、質を評価できる一定の明確な指標に基き、評価することが不可欠である。

(3) 大病院への外来集中の解消

 大病院への外来患者の集中については、現実的に患者側には長時間待たされるという不満があり、病院本来の機能である入院患者へのサービスが手薄になる等の弊害が生じているとともに、大病院では外来1件当たりの平均的な医療費の水準が高いという問題もある。医療の質の向上、医療費の効率化の両面から、大病院への外来患者の集中現象は解消することが必要である。
 しかし、この解消のため、これまで種々の措置を講じてきたが、結果的には成果をあげるに至っていない。今後何らかの新たな措置を講ずるためには、病院の入院医療サービスがその質に応じて、診療報酬上、適正な評価を受けているのか、患者に医療の質に関する情報提供がなされるだけで問題は解消するのかなど、医療機関の質の面と経営面及び患者の行動面の双方から、その発生原因等を検証することが必要である。
 患者の行動面からは、診療所に行かなければ大病院に行けないなどの、患者の行動を直接的に制限するようなものは望ましくないと考えられ、地域における医療提供体制の質の向上と併せて、患者が自ら適切な医療機関を選択することの重要性についての理解を深めるため、国民に対して、必要な情報を提供する体制を整備することが必要である。
 なお、患者の集中現象をなくすため、価格(患者負担)を差別化し患者のコスト意識を喚起することによって、需要と供給の不均衡を調整するべきであるとの考え方についても議論があったが、入院患者へのサービスが手薄になる等の現在の問題状況を踏まえ、さらに検討することが求められる事項である。

(4) 医療機関の健全性と効率性を促進する価格体系

 良質かつ適切な医療を効率的に提供する医療機関が、患者の選択に基づく健全な医療機関相互の競争を通じて、患者、国民に適切に評価される仕組みとしていくことが必要である。
 このためには、従来の薬価差に頼った医療機関経営を脱却し、医療機関が自ら提供する医療サービスの質によって評価され、その評価に基づく技術収入と経営の効率化努力で健全な経営が成り立つよう、現在の診療報酬体系、薬価制度、医療材料価格制度を見直すことが不可欠である。医療機関経営が薬価差等に依存するような状態は、資源配分の効率性を阻害するものであり、早急に是正が必要である。
 これと並行して、医療機関の提供する医療の質や経営の現状を正確に把握するため、医療の質の評価方法の研究や、診療報酬体系が医療内容に与える影響の分析、医療経済実態調査等の充実、関係情報の開示などの取り組みが必要と考える。

(1) 医療技術を重視した体系化

 国民が受けた保険診療に係る価格体系である診療報酬体系については、必要な医療の国民への保障、医療情報の非対称性、また現に市場価格がないなどの観点から、今後とも原則的には公定価格体系を維持することが必要であるが、国民、医療従事者双方に説明可能な透明な価格体系としていくことが重要である。一方、市場価格が存在する「もの」については、医療機関の差益収入が制度的に解消し、適切な情報が患者に提供される中で、価格競争を通じて資源配分の効率化や医療費の効率化が促進されるような仕組みとすることが不可欠である。
 従来、「もの」については、市場価格を基礎とする価格設定の基準が設定されてきたが、「技術」については、医療サービスの特性などに起因して必ずしも明確な基準がない。医療の質の向上を図るという観点から、今後は、「もの」より「技術」の評価のあり方に重点を置いて体系化を図ることが必要である。
 診療行為ごとの価格設定の体系化に当たっては、患者から見て同様のサービスを受けることが期待される場合には同様の価格設定を行うことを原則とし、また、異なるサービスに対する価格については、診療科特性、技術難易度を踏まえつつ、その相互の関係が明確になるよう、定量化の取り組みを進めることが必要と考える。同一の診療行為についての医師を初めとする医療従事者個人の技術の差異の評価については、その技術の向上を促すため、何らかの誘因が必要と考えられるが、当面は、専門医等の医療従事者の資格に関する情報などを患者に提供することに重点を置くことが適切である。
 診療行為の具体的な価格設定に当たっては、平均的な診療時間、人員等、評価の軸となる指標を明確にすることが必要であり、また、医療従事者のチームによって行われている医療の総合的な成果が反映されるような指標の設定についても検討が必要と考えられる。この際、患者と医療従事者の意志疎通の状況を改善し安心を得るための技術、生活の質の向上と医療費の効率化とを両立する予防的な治療技術、急性期医療やリハビリテーションの質の向上に資する技術など、患者主体の医療を確保するために診療報酬体系として重点化を図ることが必要と判断される分野については、適切な配慮が必要と考える。
 加えて、わが国と外国では医療従事者の賃金水準が異なるとの制約や、医療サービスは生命に関わる点で他のサービスとは異なるとの制約はあるが、諸外国における診療行為の価格、他の分野におけるサービスの価格や賃金水準との相対的な関係を検証し、これを通じて、診療行為の価格水準の社会的妥当性を確保することも重要と考える。
 将来的には、医療機関経営の健全性と効率性をより一層促進する観点から、現行の一律の価格設定ではなく、医療機関が一定の幅の中で価格を選択し医療の質と価格によって競争を行うという仕組みや、その幅の中で保険者と契約を行う仕組みなども検討対象の一つと考えられる。
 しかし、いずれにしても医療、特に医療の質を評価して価格を設定する方法については、現段階では、基礎的な研究が不足していると考えられる。当面は現行の診療報酬点数を基礎とする調整的な見直しにならざるを得ないとしても、透明な体系を構築するとの観点や医療の質を高める観点、資源の効率的配分を実現する観点から、国は基礎的な調査研究を急ぎ、その成果を定量化などの取り組みに反映させるべきである。
 なお、指標の一つの考え方である原価計算については、次のように考え方が分かれたが、指標の明確化という観点や資源配分の効率性という観点も踏まえ、さらに検討することが求められる事項である。

○ 各種統計に基づき、医療機関の標準的コストを把握し、算出されたコストの平均値や中央値を診療報酬算定上の基礎とすることが適切。また、医療提供側のコスト意識と、患者、国民側のコスト意識とは異なっている場合もあり、この面での調査も必要。

○ 生産費を補償するという価格決定方式は、努力しても努力しなくても変わりがないという問題があり、できるだけ市場化の方向が適切。通常のサービスの価格は、原価ではなく市場動向によって決定されるものであり、医療もこの方向に向かうべき。

 また、医療従事者の質の向上の誘因を高める手法の一つとして、特定療養費制度を参考とした、医療従事者の技術や経験の評価への自由価格制導入についても、次のように考え方が分かれたが、専門医等の資格の普及状況を踏まえつつ、医療従事者の質の向上を図るという観点から、さらに検討することが求められる事項である。

○ 医療従事者の技術に経験年数などによる差があることは事実であるが、この点に着目して差額徴収を行うことは、国民の受診機会の平等性、公平 性からみて問題。

○ 医療技術の進歩などに対応できる医療従事者とそうでない医療従事者を区別せず画一的に評価することは、国民の選択する権利を奪うことになり問題。

(2) 出来高と包括の最善の組合せ

 医療機関の提供する医療の質と経営の効率化は、診療報酬の支払方式によっても大きな影響を受けるものである。
 出来高払いは、過剰診療、過剰投薬等の素地もある一方で、審査委員会が診療報酬明細書を通じ診療内容を審査できる透明性が高いという特性がある。これに対し、包括払いは、粗診粗療の素地がある一方で、原材料費や人件費のコスト削減の誘因が強く働くという特性がある。こうした、それぞれの特性を踏まえ、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる出来高払いと包括払いの最善の組合せを目指すことが必要である。
 現在、高齢者や慢性疾患に対する治療については、わが国における医療提供においても、かなり定型的な治療が広がっており、科学的根拠を重視しつつ、医療従事者のチームにより作成される診療計画の普及等と組み合わせるなど、段階的に包括払いの導入を図ることが必要と考えられる。なお、包括払いについては、現行体系では、総医療費のうち数%程度の範囲にとどまっており、その蓄積が少ないことから、急性期入院医療の診断群別定額払い方式を含め、必要なデータの収集分析等を通じた医療の標準化の作業を早急に進めるべきである。
 また、包括払いの際の価格水準についても、良質かつ適切な医療を効率的に提供する医療機関が、経営上、不採算とならないよう、医療機関経営の状況を踏まえた適正な設定が必要と考えられる。
 一方、診療報酬の支払方式に関わらず、提供された医療内容が適正かどうかを、保険者などの患者、医療機関以外の者が、患者の立場で審査、評価する体制の強化を進めることが必要である。このためには、診断群分類の促進による主傷病名の明確化や、患者の状況、診療内容及び診療成果に関する必要最低限の情報の明確化、診療報酬請求の電算化など、現在指摘されている診療報酬請求の仕組みの改善も必要と考えられる。
 これに加えて、医療機関の評価情報の提供の促進、診療報酬明細書の審査や医療機関への指導監査の充実などを図るとともに、医療提供側も健全性と効率性を高める自助努力がこれまでにも増して必要である。
 なお、出来高払いと包括払いの組合せの今後の方向性については、次のように考え方が分かれたが、医療機関の機能、患者の病態、治療の定型性・非定型性、検査や投薬の適正化、ものと技術の分離などの観点も踏まえつつ、さらに検討することが求められる事項である。

○ 出来高払いは、過剰投薬や過剰検査の誘因を与える。また、漫然とした治療を行った医療機関が収入を増やすという問題がある。医療機関経営の効率化の健全な努力が収益増を生む仕組みとして、診断群別定額払い方式を含め、包括払いの拡大が今後進むべき方向である。

○ 包括払いは、医療機関の水準によっては粗診粗療の誘因を与える。また、包括払いは、患者にとって評価が現在より更にわかりにくくなる。患者の納得を得るため、医療の質を確保する具体的な手順を考えることが前提となる。

(3) 投資的経費の評価のあり方

 病室が狭い、食堂がないなど欧米と比較して整備が立ち後れているわが国の病院の療養環境の現状等を踏まえつつ、患者が良好な療養環境で適切な医療が受けることができるよう、療養環境の平均的な水準の向上を図ることが必要と考えられる。
 また、高額医療機器については、経営の健全化の観点から、疾病を早期に発見できるなどの利点も踏まえつつ、無秩序な導入を避け、共同利用の促進などによって、その利用の効率化を図らなければならない。
 このためには、建物、設備等の減価償却費の面から、医療機関の経営を分析し、良質かつ適切な医療を効率的に提供する医療機関が評価され再生産可能となる仕組みを確立することが必要である。
 しかしながら、わが国では医療機関は設備投資も自己の判断で自由にできることから、療養環境の改善や経営の健全化の誘因を高めるためには、公定価格で一律な評価となる診療報酬の仕組みで全て対応するのではなく、補助金等の他の仕組みと組み合わせることが必要である。診療報酬として評価する際には、他の仕組みとの役割分担を明確にし、技術評価と同様に、指標を明確化することが不可欠である。
 なお、減価償却面での公私格差についても、次のように考え方が分かれたが、政策医療のあり方なども踏まえつつ、さらに検討することが求められる事項である。

○ 国公立病院と比較して、民間病院は減価償却面で負担が重く、診療報酬上、同様に評価することは問題。

○ 公立病院は準公営企業会計であり独立採算であるから、診療報酬体系は、原則、民間病院と同じとすべき。

5 終わりに

 医療保険財源の効率的配分と、医療機関等の健全性及び効率性の促進とを図る仕組みである診療報酬体系や薬価制度は、高齢者医療制度、医療提供体制と一体的に見直されることが必要である。
 政府は、速やかに薬剤給付に係る制度改革に着手するとともに、医療提供体制の見直しをはじめとする改革と歩調をあわせ、診療報酬体系改革を平成12年度より着実に進めるべきである。診療報酬体系改革は膨大な作業を伴い一朝一夕に進むものではないと考えるが、事前分析と事後評価を行いつつ、その実現のため最大限の努力を払うべきである。
 医療費財源の規模と構造、給付と負担の均衡という枠組みについての重要な課題である高齢者医療制度のあり方等については、本部会で早急に結論を得るべく検討を継続する。
 診療報酬のあり方について具体的検討を行う中央社会保険医療協議会においては、この意見書の主旨、本部会における今後の検討結果及び医療審議会における医療提供体制の検討結果を踏まえ、総合的な観点から具体的検討が行われることを要請する。またその際、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会等から本部会に出された提言等と併せて、本部会での審議の素材とした「診療報酬体系見直し作業委員会報告書」についても検討素材として活用されるよう要請したい。特に、医科や歯科の特性の違い等の具体的な問題については、作業委員会報告書の内容を踏まえた検討がなされることを期待する。


照会先 保険局医療課(内3275)


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