99/03/23 第13回疾病対策部会臓器移植専門委員会 厚生省    第13回 公衆衛生審議会疾病対策部会臓器移植専門委員会          日時  平成11年3月23日(火)             14:00〜17:50          場所  東京厚生年金会館              「ロイヤルホール」 出席者 (○:委員長 敬称略)  井形 昭弘  大久保 通方  大島 伸一  菊地 耕三  桐野 高明 ○黒川  清  小泉  明   田中 紘一  谷川 久一  野本 亀久雄  藤村 重文  町野  朔   眞鍋 禮三  矢崎 義雄  山谷 えり子 1.開 会 2.議 題   (1)今回の臓器移植に係る一連の手続の経過について      (2)今回の臓器移植に係る論点について      (3)その他 〇事務局  お待たせしました。定刻になりましたので、ただ今より第13回公衆衛生審議会疾病対 策部会臓器移植専門委員会を開催させていただきます。  最初に本日の委員の出欠でございます。大塚委員、小柳委員から都合により欠席との ご連絡が入っていることをご報告させていただきます。  また専門委員の変更がありましたのでご連絡させていただきます。最初に社団法人日 本医師会参与の森岡委員の後任に、社団法人日本医師会副会長でいらっしゃいます小泉 先生が新たに委員になられたことをご報告させていただきます。  続きまして、前回ご報告しました座間委員の後任に、社団法人日本臓器移植ネット ワーク近畿ブロックセンター・チーフ・コーディネーターでいらっしゃいます菊池先生 が新たに委員になりましたことをご報告させていただきます。  続きまして今回の臓器移植に係る一連の経緯を検証し、様々な論点について検討して いただくため、新たに委員に加わっていただきたいと考えております先生方をご紹介さ せていただきたいと思います。  最初でございますが、浅野先生が少々遅れているということでございます。  日本大学教授であります板倉先生です。  杏林大学名誉教授であります竹内先生でございます。  続きまして本日の討議にあたり、参考人として出席をいただいております先生方をご 紹介させていただきます。  最初に高知赤十字病院院長であります開発先生でございます。  高知赤十字病院救急部部長であります西山先生でございます。  日本臓器移植ネットワーク常任理事であります寺岡先生でございます。  日本臓器移植ネットワーク近畿ブロックセンター・チーフ・コーディネーターであり ます小中先生でございます。  大阪大学第1外科福嶌先生でございます。  信州大学第1外科川崎先生でございます。  東北大学第2外科藤盛先生でございます。  国立長崎中央病院臨床研究部長であります進藤先生でございます。  高知医科大学眼科学教授であります上野先生でございます。  京都大学循環病態学教授であります篠山先生でございます。  埼玉医科大学内科学第3教授であります藤原先生でございます。  社会保険小倉記念病院名誉院長であります武下先生でございます。  杏林大学医学部救急部教授であります島崎先生でございます。  山梨医科大学脳神経外科教授であります貫井先生でございます。  以上14名の先生方のご出席をお願いしております。  では、会議を始める前に、保健医療局長伊藤が一言ご挨拶申し上げます。 〇伊藤局長  本日は専門委員の先生方はもとより、臓器提供施設、移植実施施設をはじめとする関 係の方々におかれましても、大変にお忙しい中、多数お集まりいただきましてありがと うございました。ご承知のように今般臓器移植法の制定後、はじめての脳死の方からの 臓器の提供がございまして移植の手術が行われたところでございます。  臓器をご提供いただいた方のご冥福をお祈りすると共に、移植を受けられた患者さん が着実に回復することをお祈り申し上げたいと思います。また臓器をご提供いただいた 方、またご家族、また本日お集まりいただきました関係者の方々をはじめ、臓器移植の 実現に寄与された多くの方々に深く感謝を申し上げたいと思います。  そこで今回の第1例目につきましては、臓器提供摘出手術、搬送、移植手術にわたる 関係者のご努力の結果が、わが国の移植医療への国民の理解を深めた一方で、様々な問 題や今後の課題が明らかになったものと考えているところでございます。  幾つか事例を申し上げます。  例えば臓器提供者及びその家族を特定しかねないような報道内容など、臓器移植の透 明性の確保と関係者のプライバシーの保護はどのように両立させていくかという問題点 でございます。  また、臓器移植法に基づきまして臓器提供施設に対する省令、ガイドラインなどの内 容の周知徹底、また、移植希望者の選択に際しまして、ミスがあったわけでございます が、このようなミスが発生しないような体制などを含めまして、臓器移植を支えるシス テムそのものを、この第1例目を参考に、どのように今後整備していかないといけない のかという点が2点目としてあろうかと思います。  また3点目としましては、脳死判定等に係るいろいろな医学的事項についてきちんと 検証していくということも必要かと思います。  これらいろいろの問題点につきまして、厚生省としましても、専門委員会におきまし てきちんと議論をしていただきまして、今回のいろいろな問題点や課題を、2例目を実 現するときには具体的にはっきりと改善されたということが、国民の目にわかるような 対応をするべきではないか、というのが今回急遽皆様方にお集まりいただきました理由 でございます。  したがいまして、あまり今回の事例に対する検討につきまして時間をかけないで、い つ2例目が来るか分かりませんが、その時には今回の検証の結果を生かして対応できる というように考えておりますので、できるだけ時間をかけないで報告をおまとめいただ けたらとお願い申し上げたいと思います。  大変簡単でございますが、今後移植医療をわが国に普及し国民の理解を深めていくた めに、どのようにしたらいいのかということを、この1例目の事例にそいまして、幅広 い観点からご審議をお願いすることを申し上げましてご挨拶にかえさせていただきたい と思います。 〇事務局  では会議の前の会議資料等のご確認をさせていただきたいと思います。一番最初でご ざいます。第13回公衆衛生審議会疾病対策部会臓器移植専門委員会議事次第でございま す。その後ろに専門委員会の名簿が載っております。続きまして今回の参考人の名簿で ございます。続きまして委員会の座席表です。  次が第13回公衆衛生審議会臓器移植専門委員会会議資料になっております。  資料1 今回の臓器移植に係る一連の手続きの経緯について。  資料1−1 「高知赤十字病院経過概要」です。    1−2 臓器移植ネットワーク関係で高知赤十字病院臓器提供の経過    1−3 大阪大学関係です。心臓移植症例でございます。    1−4 信州大学関係です。脳死者からの肝移植実施に関する報告。    1−5 東北大学関係です。脳死ドナーからの腎移植経過報告。    1−6 国立長崎中央病院関係です。腎移植患者の経緯。    1−4 高知医科大学関係です。角膜移植の経過報告。  資料2 今回の臓器移植に係る論点について(事務局案)  資料3 脳死判定等に係る医学的評価に関する作業班(仮称)について(事務局案)  参考資料1 臓器移植に係る守秘義務及び記録について(参照条文等)  参考資料2 臓器搬送に係る消防庁及び各都道府県消防防災担当部局の協力について  参考資料3 我が国における各臓器の移植に関する保険適用について。  なお、先生方の方には法的脳死判定に係るデータについては、先日大阪における公表 において、既に口頭で発表されておりますが、それを紙にしたものを配付しており ます。そういうことで先程高知赤十字病院より承っておりますので先生方の方には配付 されております。部数が足りないため出席委員の方と参考人の方のみに配付されており ますが記者の方々については、必要な場合については臓器移植対策室の方にご連絡いた だければ配付いたします。資料等につきましては以上でございます。何か不備がござい ましたら事務局の方にご連絡をいただければと思います。では黒川委員長よろしくお願 いいたします。 〇黒川委員長  では議題にはいります。カメラに退席いただくのは事務局にお任せいたします。議題 の1です。本日はお忙しいところ、先生方本当にありがとうございました。この会がこ のように定期ではなく入ったのは当然のことですが、はじめて法に基づく、脳死からの 臓器移植が行われましてから約1ヵ月弱ですが過ぎました。そういうわけで、臨時に開 かせていただきます。  第13回ということでして、今回の提供あるいは移植の経緯につきましては、新聞テレ ビその他で報道されておりますし、ある程度先生方の方も経緯についてご存じだと思い ますし、実際にかなりご存じの先生方も多いと思います。  その報道のあり方あるいは実際にどのように行われたのかということについて、幾つ かの課題も指摘されております。それよりも何といいましても、はじめて臓器提供をい ただいたドナーのご家族の方から、今度の臓器移植について、プライバシーその他につ いての問題点のご指摘もいただいておりますところであり、今後の移植医療に資するた め、先程の局長のお話にありましたように、できるだけ早いところでこの検証をして、 次にまたいつ起こるか分かりませんが、できだけ次に起きたときには、同じようなこと がきちんきちんと行われるように是非したいと思っているわけでして、このような会を 開かせていただきます。  そのようなわけですので、いろいろな資料がお手元にありますが、この資料の提供に ついてもご了解を頂いているところですのでお断り申し上げておきたいと思います。  この専門委員会におきましては、まず今回の臓器移植に係る一連の経緯について、今 日、お忙しいところ関係者の先生方に来ていただいておりますので、まずご説明を伺い まして、事実関係を確認して、その上で必要な検討に入っていきたいと思っており ます。そのようなわけで、普段よりは時間を余分にとってございますが、私の方としま しては提供施設となられました高知赤十字病院は大変であったと思いますが、まずご報 告をお願いしたいと思っておりますのでよろしくお願いします。開発先生と西山先生か らのご報告を受けたいと思います、よろしくお願いします。本当に今日はご苦労さまで ございます。 〇開発院長(高知赤十字病院)  ではまず臨床経過を主治医の西山の方から報告させていただきます。それから脳死判 定の経過につきましては私の方から報告させていただきます。 〇西山部長(高知赤十字病院)  資料1−1をおめくりください。そちらの方に2ページに渡って経過の概要を示して おります。それに沿ってお話をさせていただきます。  2月22日。  20:00 自宅で頭痛と吐き気を訴えられた患者さんがおりました。  22:34 救急車が現場に到着しまして、患者さんを収容しました。そのときにJCS で200点、痛みに対して動くことはできるけれどというところです。血圧は219 /72で す。瞳孔の方は右4mm、左6mm、対光反射はその時はありませんでした。  23:09 病院に到着しております。距離的にもちょっと離れたところですので30〜40 分ほどかかっております。病院に到着されたときは、まだ呼吸はありますが上記と似た ような状態でした。  23:13 頭部のCTを撮りました。CTの方ではくも膜下出血、脳内出血を作ってい る。脳槽とかは見えなくて、脳の腫れがかなり激しかったです。脳槽は見えなく、脳溝 の方も隙間が殆どない。中心線のミッドラインが片方に寄せられている。脳幹の方にか なり浮腫がみられる。脳幹の方が圧排されているという状態でした。  CTを撮りおわりましたところで、全身痙攣を起こしております。そのときに、抗痙 攣剤を投与して、自発呼吸がなくなりましたので人工呼吸を開始しました。その時には 両側の瞳孔は同じように散大をしました。  医師の方からの患者さんの家族への説明として、くも膜下出血で脳内出血を合併して いる。恐らく脳動脈瘤などの破裂ではなかろうか。脳圧を下げる薬を使います。そして 症状が少しでもそれで改善すれば検査、そして手術になりますが、その可能性は低く、 今は切迫脳死の状態ですと説明しております。  23:40 HCUに入院しました。治療の方は人工呼吸、脳圧の降下剤、止血剤という 治療を続けております。自発呼吸はこのときはかすかにありますが、十分な呼吸とはい えず、コントロールベンチレーションしております。  23日 3時頃 来院されてから4時間後くらいですが、かすかにあった自発呼吸の方 がなくなりまして、瞳孔は不同なく両方散大、尿量の方はこの時点で1,400 mlとなって おりますが、1,800 mlほど出ております。脳圧を下げる脳圧降下剤、高浸透圧利尿剤で すが、それを投与し、尿量の方は大分出てはいるのですが、症状は徐々に悪化してしま った。  9:55 翌朝です。このままいけば2時間くらいしか持たないかもしれない。最短を 考えて2時間くらいしか持たないかも知れないと説明しました。すると家族の方からア イバンクカードと臓器提供の意思表示カードの2枚の提示がありました。それと後は腎 バンクの方にも入っているのだが、そのカードが見当たらないのですがということを言 われました。それと同時くらいに血圧の方がストンと低下しまして、昇圧剤を開始して おります。  10:15 腎バンク協会の森下コーディネーターというコーディネーターに私の方から 連絡しております。  12:00 血圧がやや昇がりましたが十分ではなく、更に昇圧剤を増やしております。 この時に家族の方に、一度脳波でもとってみましょう。臓器提供意思表示カードを示さ れているのですが、脳波の方も一回みてみましょう、脳波がまだ平坦ではない。ですか らこの臓器提供の意思表示カードについては、今のところは考えなくてもいいですよと いうような判断材料に脳波をとりました。  13:00 さらに昇圧剤でドーパミン、ドブタミン併用で、8ガンマ、くらいになりま すが増量しております。尿量はこの時点では非常に少なくて、逆にフロセマイドの利尿 剤を投与しております。  14:53 心停止下の腎臓提供の話を聞くことができることを説明して、家族がコーデ ィネーターの話を聞くことを希望されました。  17:00 昇圧剤が8ガンマ投与されていて、血圧は105/50と若干上昇しました。その 頃、森下コーディネーターの方から献眼のことについてライオンズクラブに連絡してい ます。ライオンズクラブがなぜ出てくるのかというと、心停止下の献眼のことについて は高知の場合はライオンズクラブがしておりますので、なかなかこの血圧ではもたない のではないかと思っておりましたので、ライオンズクラブの方に献眼のことについての 連絡を入れております。  17:25 警察の方に、腎バンク、アイバンク登録、及び脳死下臓器提供意思表示カー ドを持っていて、生命の危ないくも膜下出血の患者さんがいます。検視の必要はないと 思いますが、心停止下、腎提供のときに検視が必要かどうかの判断をうかがいました。 すると警察の方が、そうしたら一回そちらの方を見に行きますと電話を切って おります。  17:50 コーディネーターから家族に対して心停止下の腎提供について説明をしてい ただいております。これが大体19:00くらいまで及んでおります。  18:00 話の途中ですが体温は40.2度まで上昇して、血圧の方が低かったので、いろ いろな坐薬とかは使えませんので、冷水による胃洗浄で体温は下げております。  18:53 心停止後の腎臓、角膜の提供についての承諾をいただいております。  19:05 警察が事情聴取にこられました。  19:30 それまで事情聴取の話を家族及びコーディネーターと警察の間でしていただ き、警察からこれは検死の必要はありませんと私の方に連絡がありました。 24日深夜です。   2:00 尿量は少々出てきました。   9:00 再び脳波を測定してます。いま現在脳波は出てますので、臓器提供意思表示 カードについてはまだ考えなくてもいいですというお話をしております。  12:00 血圧はある程度安定してきまして、徐々に昇圧剤を減量してます。ところが このときには逆に尿量が出すぎる、尿崩症という状態になって、電解質バランスが崩れ はじめております。脳圧降下剤のグリセオールを中止して、Naなしの点滴に変更して おります。この日はこれで経過しました。  25日   9:00 再び脳波を測定しております。頭部のCTを撮っております。これでは全脳 が淡くLow Densityに出ている。脳槽や脳溝は殆ど見えないという状態になっておりまし た。  11:00 脳波の結果ですが脳波は平坦なようです。他の脳死判定テストを行ってみま す。これは無呼吸テストについても説明して、モニターをすること、及び血圧下降など があれば途中ストップすることがありうることも説明して、脳死判定テストを行いまし た。  12:00 行ってます。  14:00 ご主人の方に、病状の経過についての説明をさせていただきました。まず脳 死判定基準を満たしているようです。脳死の可能性が大きいということをお話させてい ただきました。頭部CTで出血量はさしたる増量はありませんが、脳梗塞が広範囲に出 てます。炎症を示すCRPが28と高く、レントゲンではこの日に胸部X線を撮っており ますが、肺炎とは言えませんが肺炎になりかけている可能性があるということです。脳 死下のドナーカードをもっていますので、臓器提供の話を聞きたければ、コーディネー ターに連絡をしますので、聞く気になれば西山を呼んでくださいといって別れておりま す。  15:00 家族からコーディネーターの話を聞きたいという旨の申し出がありました。  15:43 コーディネーターから家族に話をしていただいております。このときに主治 医の私と婦長が同席しております。  17:55 一旦別れたのですが、家族の方が承諾書を書いております。  18:40 脳死判定委員の招集  19:15 脳死判定委員会の開催をしまして、判定医を2名選定しております。  20:13 第1回の脳死判定を22:30までしております。  22:30 判定医の方から法的脳死判定基準は満たしていないとの判定をいただいてお ります。  26日。  12:58 もう一回脳波を測定しております。するとこれは平坦ではなかろうか、ご主 人了承の元、他の脳死判定、無呼吸テストを含む脳死判定をしてみようと思うのですが ということで、どうぞしてくださいということでしております。  14:48 臨床的に脳死ではないかと診断しました。  16:40 ご主人に説明して、もう一度臓器提供の話を聞きたければ西山を呼んでくだ さいといって別れております。  20:30 ご主人の方から西山がおりますかということで詰所の方にこられて、臓器提 供の話を聞きたいということでした。  20:52 西山の方からコーディネーターに臓器提供の説明を依頼しております。  21:40 コーディネーターから家族に対して臓器提供についての説明をしてました。  22:54 承諾書をいただいております。この承諾書というのは脳死判定の承諾と臓器 摘出の承諾書です。  23:30 脳死判定委員の招集が行われました。  27日  11:12 脳死判定委員会を開催して判定医2名を選定しております。  11:40 第1回目の脳死判定を開始しました。17:45に1回目が終わっております。  28日   1:40 第2回脳死判定を開始して、脳死ではなかろうかという判定をいただいて摘 出手術に進んでおります。  以上が高知赤十字病院での治療の概要です。 〇黒川委員長  ありがとうございました。では開発先生お願いします。 〇開発院長(高知赤十字病院)  大体の時間的経過については脳死判定委員会等も話をされましたので、少しダブルと ころがあるかも知れませんが簡単に述べさせていただきます。  最初の脳死判定承諾書、臓器摘出承諾書が2月25日、午後5時55分、署名捺印された ものを、主治医の方から院長の方に、脳死判定申請書と共に提出されてきました。  それで脳死判定委員長に脳死判定を依頼するということで、当時は委員長はもう帰宅 しておりましたので電話にて連絡しております。  そして脳死判定委員会が午後7時15分から7時50分に開催されております。委員は10 名です。一人は学会出張のため9名で開催されております、その委員会で、家族の同意 の確認、ドナーカードの確認、主治医からの臨床的な経過と臨床的脳死ということで、 説明があがっております。その会で脳死判定の開始と判定医2名の選出がされておりま す。  1度目。同日の午後、20時13分から第一回の脳死判定が開始されております。22時30 分、脳死判定結果が報告されました。脳波で左側一部導出において、相極誘導で平坦で ないところが認められ、患者の脳波は完全に平坦ではないと判断し、脳死と判定しない というふうな結果が報告されました。  それでまた元に戻るということになりました。このことについては明朝早くから厚生 省に連絡しまして、それの取扱等についてはご相談申し上げたところでございます。  2度目。平成11年2月26日午後10時54分、脳死判定承諾書と臓器摘出承諾書に署名捺 印がなされ、脳死判定申請書が院長宛に提出されました。この時の状況ですが、家族の 要望という言葉になっておりますが、これは当然のことであるというふうに言われてい るのですが、まず今までの経緯からして、今後の脳死判定については、一切公表しない こと、臓器摘出後報道関係者の撮影取材等を受けることなく、平穏に帰宅できること、 報道関係者は患者及び家族のプライバシーに触れる報道のあり方を検証し、また反省す ること。報道に関しては臓器摘出開始時間については報道してもよろしいということで 承諾するということが来ました。  これの対応については病院だけでは非常に難しいと判断しまして、当時来ていらした 厚生省の方にご相談申し上げ、その対応について協議をさせていただきました。  家族と相談する原案を作るのに27日の午前3時30分まで大体かかっております。そこ で大体の原案をどういうふうにするのかということを説明すべく、コーディネーターの 方に患者家族の方にいっていただきましたが、就寝中であり非常に疲れておられるとい うことで、翌日相談にいくということで、その日はそのままになっております。  なお、脳死判定委員長には承諾書が出た時点で一応待機を命じておりました。3時30 分頃ですが、話し合いができないということで、一旦判定委員会というのがここで帰っ ていただいております。  翌27日の午前9時15分から、10時にかけて、家族の方とご相談申し上げたことは、公 表についてはしかるべき時に、社会的意義を考えて同意をしていただきたいということ と、臓器摘出後に平穏に無事に帰宅できるということに関しては、できる限り努力し、 報道機関にお願いし、協力していただくということ。報道のあり方等について、これは 厚生省・病院・ネットワークで報道とプライバシーについて検証しますということで、 家族との話し合いが得られたために、午前10時30分、脳死判定委員長に委員会の開催と 判定を依頼しました。  午前11時12分から、11時21分にかけて、脳死判定委員会が開催されております。ここ においては2度目ということでありますし、脳波について検討が行われ、脳死判定をは じめるということが決まり、判定医2名が選出されております。  午前11時40分から第1回の脳死判定が開始され、脳死判定には家族の立会いの希望が あり、家族立会いの元に行われております。  17時45分に第1回の脳死判定が終わっております。第2回の脳死判定が28日午前1時 40分、判定が開始されております。以上のような経過でございますが、その判定結果の データについては、お手元にお配りしております。  2月25日の検査結果について申し上げます。  2月25日午後8時13分。体温が36.9度、血圧151 /86、心拍数105 、昏睡についてJ CS300 プラスGCS、E1 M1 VT。自発運動、除脳硬直、除皮質硬直、痙攣全 てありません。瞳孔について瞳孔の固定があり、瞳孔径については左5.5、右5.5 です。 脳幹反射については全てありません。右左ともありません。  平坦脳波については該当しない。無呼吸テストは100 %酸素10分間の人工呼吸後、10 分間の人工呼吸器を外し毎分6ネの酸素を器官内チューブから流し、動脈の連続モニ ター、心電図の連続モニター、パルスオキシメーターによる酸素を見ながら無呼吸テス トが行われております。  開始時のPaco2が47.1、10分終了時の88.8mmHg、Pao2開始前が469.6 、終了 時が441.0mmHg、自発呼吸発現なし、聴性脳幹反応はI〜V波まで全て消失、判定日時が2 月25日午後10時30分です。  2度目の第1回目の検査結果について申し上げます。  2月27日午前11時40分、体温37.1度C、血圧124 /76、昇圧剤は使われて おりません。心拍数は73、深昏睡はJCSで300 、GCSはE1 M1 VT です。 自発運動、除脳硬直、除皮質硬直、痙攣等ありません。瞳孔は固定され、瞳孔径が左が 5.0、右が5.0です。脳幹反射は全て右左ともありません。  平坦脳波は該当する。無呼吸テストは100%酸素、10分間人工呼吸後、人工呼吸器を外 し、外している間の酸素流量は毎分6ネ、官視としては心電図、動脈の連続、パルソオ キシメーターによる酸素飽和度の監視モニターの下、検査が行われております。  開始前がPaco2 45.1、8分36秒の終了時85.4、Pao2が318.6 mmHg、終了時 が253.6 mmHgです。自発呼吸の発現はありません。聴性脳幹反応はI〜V波まで全て消失 判定日時が2月27日午後5時45分であります。  2度目の2回目の検査結果を申し上げます。  2月28日午前1時40分、体温が37.5度C、血圧が120 /56、昇圧剤は使われておりま せん。心拍数は73、深昏睡についてはJCS300 、GCSがE1 M1 VT 自発運動は なく、除脳硬直、除皮質硬直もありません。痙攣もありません。瞳孔は固定、瞳孔径が 左5.0 、右5.0 、脳幹反射は右左全てありません。  平坦脳波については該当する。無呼吸テストは一度目と同じ条件でおこなわれており ます。開始時のPaco2 37.6、終了時8分28秒、80.3 mmHg、Pao2 開始時が342.1 mmHg、終了時が258.4 mmHg、自発呼吸の発現はありません。聴性脳幹反 応についてもI〜V波までありません。  2回目の判定日時については家族の同意が得られておりませんので、記載しておりま せん。  以上ですが第1度目、2月25日の検査の手順について無呼吸テストと脳波とが前後し ていた。すなわち無呼吸テストが先に行われ、脳波検査が後に行われたというふうに聞 いております。このことについては、管理者として非常な責務として感じております。 報告は以上の通りであります。 〇黒川委員長  開発先生、西山先生本当に有り難うございます。今のを聞きますと、いろいろと報道 その他で伺っているとは思いますが、本当に現場の大変さがよくわかると思います。特 に西山先生にあっては、救急の部長として大変にご苦労さまでありました。それからこ の委員会を代表してというのはおかしいのですが、ドナーになってくださった方の決断 ご意志とご冥福をお祈りすると共に、ご遺族の方の御理解に対して、この委員会を代表 して感謝と敬意を表したいと思います。  さてこのご報告ですが、これにつきまして何かご質問いただきたいと思います。どな たかございますか。桐野先生どうでしょうか。 〇桐野委員  勿論、非常に厳格にやっておられてとくに申し上げることはないのです。比較的循環 系がよい状態で維持されて最終的な脳死の段階になられたなという感じがいたします。 〇黒川委員長  特に桐野先生としては脳外科の方としては、その辺の経過について何か特にご意見が あればと思ったのです。 〇桐野委員  これは典型的な重症くも膜下出血でありまして、ご存じのようにくも膜下出血を起こ しますと約3分の1から半分の方が亡くなるわけですが、その中でも最も激烈なタイプ の症例であると思います。 〇黒川委員長  神経内科医としては井形先生いかがでしょうか。 〇井形委員  特にございません。ちょっと僕が聞きたいと思ったのは尿崩症は恐らく下垂体の障害 によって生まれるわけで、この尿量がその後どのように変化していってどんどん酷くな っていったのか、あるいは尿崩症の若干抗利尿ホルモンなどを使われたのかについて教 えていただきたいと思います。 〇西山部長(高知赤十字病院)  22日に来られて23日の検査の時点でクレアチニンが2.0 でちょっと腎不全になってま いりました。これがお昼くらいのデータです。来たときには利尿剤のマニトールを直ぐ に投与して、その後にグリセオールを投与したのですが、それでだーと尿量は出たわけ ですが、その後に出にくくなってまいりました。それでクレアチニンが2.0 ということ で、これはラシックスを使う、フロセマイドをiv(静脈注射)しながら、尿量を保とう としたのですが、なかなか出てこない。  23日の晩くらいから徐々に出始めたということです。24日に尿量が出てきたのですが この日は尿崩症になりかけでどんどんなっていくわけですが、かえってウオッシュアウ トした方がいいだろうということで抗利尿ホルモンは使わずに、どんどん入れて出し、 入れて出しという形でやりました。  26日になりまして、クレアチニンが0.8 まで改善しましたので、そこで抗利尿ホルモ ンを使って、尿量の方の調節に入っております。12時から18時まで抗利尿ホルモンを使 ったのですが、そうしますと今度はまた尿量の方が減ってきましたので、この時点でス トップして、それ以降は普通のような尿量の出方という形でした。 〇黒川委員長  確かにこのような場合、あるいはトラウマの場合もそうだと思うのですが、途中で尿 崩症になって、そのまま持続すると、今度は分泌調節がきかなくてホルモンがどんどん 出てくる相のあることがありますね。その意味では非常に神経を使われたところであろ うと思います。他にご意見はありませんか。特に救急の立場、脳死その他についてです が,今日は特別に竹内先生も来ておられますから竹内委員から何かご意見はありません か。 〇竹内委員  今伺って大体の様子がよくわかりました。先程桐野先生が言われたように、短時間の 間に2回続けて破裂を起こしたと思われる動脈瘤の症例で、非常に激症であったと考え られます。ただこの経過概要、資料1−1をもう少しわかりやすくするためには、IC Uチャートのようなものに、1枚の紙に全部を書き込むような形で表として出された方 が、脳死の状態をキャッチするためにも、非常に分かりやすくなるのではないかと思い ます。もしそういうことをやっていただければ大変に助かります。 〇黒川委員長  その他に何か委員の方で、特に救急の場合、それから脳死の判定のその他とございま すが、何かご意見はございますか。  ではまた後で伺うことにします。ご質問もまた出てくるかと思いますが、これでは次 にいろいろな方のご意見を伺いたいと思いますが、実際にこの報告を受けて斡旋を担当 されました移植のネットワーク、実際のコーディネーターの方からも実際のご意見を伺 うと、これからもうちょっと事情が皆さんの中に明らかになるというか、もうちょっと リアルに出てくるかなという気がします。  では臓器移植ネットワークの方の寺岡先生、小中さんコーディネーターとして今度担 当されましたが、このお二人から報告を伺いたいと思いますのでよろしくお願い します。 〇小中コーディネーター(臓器移植ネットワーク)  日本臓器移植ネットワーク近畿ブロックセンターのコーディネーターの小中と申しま す。今回の高知赤十字病院での臓器提供の経過をお話させていただきたいと思います。 今回は、コーディネーターが臓器提供施設に6名、ネットワーク本部に2名、計8名で 斡旋業務を行っております。資料を皆様のお手元に資料1−2にお届けしております。 この中身を斡旋の承諾手続き、レシピエント選定、臓器摘出手術、搬送、ご家族のプラ イバシーという項目に分けてご説明していきたいと思います。  まず斡旋承諾手続きです。最初の資料1−2を見ていただきます。  平成11年2月23日  14・53 から18・53これにつきましては心臓停止後の腎臓提供ということについて コーディネーターが出向いて説明をさせていただいて承諾をいただいております。  これにつきましては、中国四国ブロックセンターが中心になって業務を行ってまいり ました。  続いて脳死後においての提供につきましては2月25日の14時30分から17時55分という ことで、斡旋承諾の手続きを行っております。脳死下での斡旋承諾手続きを行っており ます。2月25日の23時に脳波が僅かに残っているということで、この経緯は全て白紙と いうことになっております。  次2回目の脳死下での斡旋承諾手続きにつきましては、2月26日14時48分から22時54 の間にご説明させていただき承諾書に署名捺印をされております。これに基づきまして は脳死下での斡旋承諾手続きですが、基幹ブロックセンターであります近畿ブロックが 中心になってまいりましたが、まずガイドライン通りの臨床的に脳死と診断されてから 関わったということであるとか、私どもが説明させていただいた中身につきましては別 紙の1に書いております。  臓器提供についてご家族の皆様方にご確認いただきたいことというふうに取りまとめ ております。これにつきましては、口頭で説明をさせていただいて、なおかつ、ここに お配りしております3枚のページにまとめておりますが、このまとめたものをご家族に お渡ししております。  次に、レシピエント選定についてまとめてお話をしたいと思います。  まず最初の心臓停止後の中国四国ブロックセンターが中心になって行ってきたもので すが、まずレシピエント選定です。2月24日3時から腎臓の移植適合検索を行っており ます。これはその前日の23日18時53分、心臓停止後の腎臓と角膜提供承諾書への署名捺 印をいただいて、この承諾書をいただいた後に、すぐに検索作業に心臓停止後の場合は かかっております。  次に脳死下でのレシピエント選定になっております。脳死下の場合には、2月25日に 1回目の斡旋承諾の手続きを行っておりますが、これが終了しましたのが17時55分です が、この後、レシピエント選定は行っておりません。まず20時30分に臓器移植ネット ワーク本部で、心臓、肺、肝臓移植の適合者検索の手続きを開始しておりますが、レシ ピエント連絡であるとか移植部への連絡は行っておりません。ここでもこの後23時にこ れまでの経緯は全て白紙となっております。  次に2回目になりますが、脳死下での手続きになります。それが終了した2月26日の 22時54分に承諾書をいただいておりますが、実際に適合者検索を行いましたのは、2月 27日に第1回目の脳死判定が終了した頃に、23時、ネットワーク本部で心臓、肺、肝臓 移植適合者検索を実施しておりますが、直接意思確認を行いましたのは、2回目の脳死 判定が終了して脳死と判定されてから、行っております。  28日の6時49分に死亡診断書、脳死判定記録、脳死判定的確実施の証明書などの書類 を本部がファックスで受領、それから6時58分、第一候補の登録施設、国立循環器病セ ンターの担当医に提供者のデータ、登録個人情報のファックスを致しております。7時 10分、第二、第三、第四候補者の登録施設であります大阪大学に提供者のデータ登録、 個人情報をファックスしております。  ただ2月28日の一番下の7時20分というところにありますが、ちょっと説明が抜けて おりますが、大阪大学の第二候補B氏のステータス1の類型日数が間違っているという ことを、大阪大学の福嶌医師より指摘をいただきました。ただちに検討の結果、計算間 違いが判明、正しいデータの再入力をしまして、心臓移植適合者検索3回目、及び検索 結果の印刷、個人情報の印刷を致しております。  本当に私どもの検索ミスで候補者連絡を誤ったことを、ここで改めてお詫び申したい と思います。申し訳ありませんでした。レシピエント選定への流れはこういうことにな ってます。  次に臓器の摘出手術です。先生方のお手元にお配りしております別紙の3になりま す。別紙の3にまとめておりますが、摘出チームはコーディネーターの指示の下に チームをもって動いていただいて手術記録の時間が入れておりますが、ここに記入され ているように無事に摘出手術が終了いたしております。  次に搬送です。別紙の2でお手元にお届けいたしております。まず心臓、肝臓、腎臓 となっておりますが、心臓は搬送時間は1時間36分です。総阻血時間が3時間15分 です。肝臓につきましては搬送時間が1時間59分、総阻血時間が7時間9分。腎臓につ きましては搬送時間が7時間10分から7時間20分、総阻血時間が9時間というふうに なっております。搬送については特に問題はなかったと思っております。  最後になりますが、ご家族のプライバシーの保護ということであります。私どもはご 家族へのご説明のときに、プライバシーの保護は出来るかぎりさせていただきます。今 回の場合ももしかすると1例目の脳死下での最初の事例であることから、マスコミで報 道されることがありうるでしょうというお話もさせていただきました。まさか脳死とい うふうに確定される前から、しかも個人が特定されるような情報が出るということは、 私どももご家族もそこまでは思っておられなくて、この全経過を通じて非常に動揺をさ れておられました。そういう中で私どもがその動揺を少しでも少なくできるように支え てさしあげることが出来なかったことを反省いたしております。  経過をご報告させていただきました。 〇黒川委員長  ありがとうございました。寺岡先生その他補足をお願いします。 〇寺岡理事(臓器移植ネットワーク)  ただいま小中チーフコーディネーターの方から、これまでの斡旋業務の経過が説明さ れましたが、私寺岡の方からほんの少し補足をさせていただきます。先程小中コーディ ネーターの方からご説明がありましたが、斡旋業、特にその中での承諾手続きは大きく 3つに別れます。  第1番目が2月23日、これはあくまでも心停止下での腎臓、角膜の提供に関する承諾 手続きであります。  2番目が2月25日の脳死下での臓器の提供を前提とした承諾手続きであります。一部 の報道におきまして、ネットワークはどうも早く動きすぎたのではないかという報道が ございましたが、私どもがはじめてこの情報を受信しましたのが25日の15時10分でござ います。これはガイドラインに書いてありますとおりに、主治医の先生が臨床的に脳死 と診断し、そして主治医の先生からご家族に臓器の提供についてコーディネーターの説 明を聞くかどうかというお話がされまして、その後でご家族の方からコーディネーター のお話がお聞きしたいという申し出があったということで、日本臓器移植ネットワーク の方に連絡が15時10分に参ったわけでございます。  その後、コーディネーターより主治医そして婦長さんの同席の下でご説明し、17時55 分に脳死判定承諾書、臓器摘出承諾書にご署名ご捺印をいただいたわけでありますが、 先程からも何度もお話されてますように、法的な脳死判定基準を満たしてないというふ うな判断の下に、これまでの作業、手続きを全て白紙に戻しました。それで2月26日に もう一度その作業を行ったわけであります。これが臓器提供の承諾手続きでござい ます。最後の2月26日になされた承諾手続きが正式なものとしてなったわけでございま す。  次にレシピエント選定に関してでございます。この選定に関しては承諾手続きが得ら れた段階で、承諾書に署名捺印された段階で、コンピューター上での検索はやってもよ ろしい、しかしその後の具体的な移植施設への連絡等の具体的な行動に関しては、法的 に死亡とされた後であるということが、これはガイドライン上にはっきりと示されては おりませんが、厚生省との間で我々の合意内容でございます。  これにしたがいまして、私どもはご家族から、脳死判定承諾書、臓器摘出承諾書、こ れに署名捺印をいただいた段階で、コンピューター上での検索を行っております。しか しこれに関しましては、それの結果は全て、鍵のついたロッカーの中に厳重保管しまし て、外部には一切これは漏らしておりません。また現地でのコーディネーターの方にも この内容に関しては一切連絡はしておりません。  先程、小中コーディネーターの方からご報告がありましたように、最終的に法的に死 亡とされた2月28日未明でございますが、その段階でその連絡を受けましたが、その後 意思表示カードの写し、臓器提供承諾書、脳死判定承諾書の写し、脳死判定記録書、脳 死判定的確実施の証明書の写し、死亡診断書の写し、をファックスで受領し、全てを確 認した上で、2月28日の朝6時58分から意思確認のための移植施設へのご連絡を開始し たという次第でございます。  ただこの過程におきまして大変な間違いがありました。この点に関しましては私の責 任でありまして深くお詫び申し上げます。具体的には、心臓移植に関しましては緊急度 の高い順番に選ばれるわけでありますが、最も緊急度の高いステータス1を構成する要 件が実は4つございます。その4つの内、この大阪大学の患者さんは二つの要件を満た しておりまして、ところがその一つの方しか計算してなかったというのがミスでござい ます。これに関しましては、現在のコンピューターでは手計算でやるようになってまし て、これを3名の独立した人間で計算を行い、最終的に私が確認したわけでありますが 私が確認のときにそれの間違いに気づかず、患者さんご本人及びご家族の方々、また当 該医療機関の皆様方には大変にご迷惑をおかけしました。また社会的にもこれは選定と いうのがちゃんと行われているのかどうかという不安を与えた可能性もありまして、こ の点に関しましては二度と起きないように、現在対策を立てているところでござい ます。  また4月から新しいコンピューターが導入されますが、このコンピューターでは待機 日数あるいはステータス1の累積日数はコンピューター上で計算されますので、勿論、 コンピューターに任せれば大丈夫というわけではございませんが、このようなことはな くなるだろうと考えております。  もう少しシステム上の確認の問題を、今後はしていこうと考えております。この点に 関しましては大変にご迷惑をおかけましたことを重ねてお詫び申し上げます。  また搬送業務、摘出手術に関しましては、コーディネーターの指示の下に、皆様方が 一糸乱れぬ行動・作業で極めて効率的に行われました。特に搬送業務におきましては、 私は身内でありますが、コーディネーターの方々に100 点をあげてもいいのではないか と考えております。また手術に関しましても、提供者の方に対し礼を尽くし、また一糸 乱れない行動で極めてスムーズに摘出されたと報告を受けております。その点では関係 者の皆様方に深く感謝いたします。  また搬送に当たりましては、警察、消防、いろいろな行政の方々に大変なご協力をい ただきまして、お蔭様で先程小中チーフコーディネーターの方からご説明がありました ように、極めて短時間で搬送することができました。特に心臓におきましては血流遮断 から血流再開まで4時間以内でないといけないということがございましたが、これは極 めてスムーズにまいりまして、総阻血時間が3時間15分ということでございます。また 実際の搬送にかかった時間は1時間ちょっとでございますので、極めてスムーズにいっ たと考えております。以上補足させていただきました。 〇黒川委員長  ありがとうございました。この報告について何かご質問あるいはコメントはございま すでしょうか。菊池委員いかがでしょうか。 〇菊地委員  私は当事者でもありましたが、一つだけ小中チーフコーディネーターに質問がありま す。まず現場の施設内において6名のコーディネーターがおられたということで、現場 においてはどのような役割分担を行っていたのかということと、今回の経験から、今後 脳死した方の身体からの臓器提供について、どのような体制と、どのようなコーディ ネーターの教育が求められるのかというのを聞いておきたいと思います。 〇小中コーディネーター(臓器移植ネットワーク)  現場での役割ですが、まず一つはご家族へ対応する役割の者と、搬送・院内体制を行 う役割の二つに分けて動きました。中心に一人のヘッドクオーターをおきまして、その 両方が連絡調整できるような形で、数は比較的通常の斡旋の時よりも多いのですが、そ ういうことをして協調性がとれるように、統制が取れるように行ってまいりました。  今後の体制の話です。全くこれは個人的な意見になるかと思います。日本の中での脳 死下での移植というのは1例目がやっと終わって今は検証の間でございます。今後2例 目、3例目というふうに行われていくことだろうと思いますが、アメリカでの移植、 ヨーロッパでの斡旋というものとは、日本は違うと思います。勿論私どもも向こうでの 研修、書物による勉強は行ってきておりますが、過去の献腎移植の経験を生かし、なお かつ諸外国での研修を生かしながら、日本における斡旋というものを作っていくこと、 一つずつ積み重ねていくことが大切なことではないかと思っております。まずは日本で 一つのチームという考え方をもって、どの地域で起こっても、そのチームで行ってきち んとしたものを確立していくのがいいのではないかと私自身は思っております。  コーディネーターの教育ですが、これは非常に難しいことであると思います。まずは ご家族への対応が大きいと思います。ご家族へ強要しない、これは提供する方にも提供 しない方にもそうなのですが、そういう物の言い方、対応というのは非常に大事なこと であると思うのですが、ご家族は今は本当に真意は何を思っておられるのかということ を、きちんと把握できるコーディネーターの必要性を感じております。  あとは知識や技術の研鑽は当然のことながら必要になると思いますが、今さらながら に非常に重要なことであろうと思っております。以上です。 〇黒川委員長  ありがとうございました。その他にもどうぞ。 〇大久保委員  2点お願いします。まず、この検証の際に脳死の判定医のお名前がないとか、コーデ ィネーターにどなたが当たられたのかという名前とか、それから摘出チームがどこが当 たったのかということは、具体的にこういうところでは出さないとなっているのかどう かということです。  もう一つはレシピエントの選定に関してです。実際に第2回脳死判定後に各施設にお 知らせになっているということですが、かなり摘出までの時間から考えて、非常に時間 的に短かったのではないか。ご準備をされている施設にとっては大変ではなかったのか と思います。これは事前に第1回の脳死判定が終わった後に、ひょっとしたら変わるか も知れない、できなくなるかも知れないということは前提としてある程度予備的に施設 にお知らせするということはできないのか、その2点をお願いしたいと思います。 〇黒川委員長  それについてはいかがでしょうか。寺岡先生お願いします。 〇寺岡理事(臓器移植ネットワーク)  まず最初のご質問にお答えします。先程ありました別紙の2をご覧いただきたいと思 います。これは臓器搬送に関する記録でございます。心臓、肺、肝臓、腎臓、上の方が 摘出チームでして、ここに所属名が示されております。ですので、この辺をご説明すれ ばよろしかったのですが、ただし肺に関しましてはご存じのように移植は不可能である ということから、肺の摘出は断念され、実際には心臓を大阪大学を中心とした摘出チー ム、肝臓に関しては信州大学・北海道大学を中心としたチーム、腎臓に関しては国立長 崎中央病院を中心としたチームで摘出されております。  2番目のご質問であります。確かに大久保委員のご指摘の通りであります。大変に短 い時間に患者さんの意思確認をし、インフォームド・コンセントを行って、しかも遠隔 地にある病院に着いて、そこで打合せをし、臓器の評価をして、臓器を摘出しないとい けない。その時間をどのくらいに短縮できるのかという多少の不安もございました。  しかし現実には6時58分に意思確認を開始し、つまり移植施設への連絡を開始し、こ こに書いてあるように資料2の上の往路と書いてあるのが摘出チームの到着時刻でござ います。実際にはその日の13時18分、お昼過ぎまでには摘出チームは角膜の摘出チーム を除く心・肝・腎の摘出チームが全員揃っておりまして、コーディネーターを中心とし たミーティングの後、14時に手術室に入室するというスケジュールで行われており ます。  このことに関しては、交通の手配をしてくださった方々、また消防庁あるいは警察の 方々、いろいろなところのご協力を得てこれが可能になってきたわけですが、しかし極 めて初回にしては、この摘出チームの到着に関してもスムーズにいったのではないかと 考えております。 〇黒川委員長  もう一つは誰が返事したらいいのでしょうか。朝浦室長どうぞ。 〇朝浦室長  厚生省からご説明することが適当かどうかわかりませんが、判定医の方のお名前につ いて情報公開をしてほしいという声があるというこは聞いておりますが、病院のご判断 で現在のところは判定医のお名前は公表しないとお聞きしておりまして、私どもとして も病院側のご判断を尊重したいと思っております。 〇黒川委員長  結構であると思います。それについて何か、あるいはその他についてでも結構です。  この次の今のいろいろなご意見は確かに本当にコーディネーターは大変であると思い ます。実際に今までも腎臓については、心臓死の間で実際の現場の場数を踏んでいるわ けですが、これは今まで一生懸命考えていても、海外の研修にいっても、全てがバーチ ャルであったわけだから、それが前々から予測はされているわけですが、数も少ないし 十分なところがあるかどうかわからないのに、これだけやられたというのは大変であっ たと思います。特にコーディネーターだけではなく、今回はマスコミの方も完全に浮足 立ってしまって、何かみっともなかったという気が随分します。本当に皆さんよくやっ たのではないかと思います。 〇井形委員  私は今回のことを非常に高く評価してます。全員が上手くいかされたということでネ ットワークも非常によくやったという評価もっております。一つお聞きしたいと思った ことは、先程の西山先生からのお話の中に、家族は角膜と腎臓の提供のドナーカードと いうか意思表示と、ネットワークの意思表示という二つのお話がでました。  実際にネットワークのドナーカードは全部をカバーできる。心臓死のときも提供でき るとういことも含まれているわけで、一つでカバーできるというルールになっていたの ではないかと思いますが、その当たりの取扱をどうされたかお聞きしたいと思います。 〇西山部長(高知赤十字病院)  今回僕の方で考えたのは、まずアイバンクカードをもっておられるということ、腎臓 の方にもドナー登録をされているということも言っておられたので、ドナー登録をされ ているのかどうかを確認させていただいた。そして臓器提供意思表示カードについては 1番のところに○がされていて、2番のところではなかったので、この3枚のカードが ありますが、このカードについては、これは考えなくてもいいからということです。脳 波を測定したときにはこの二つの腎バンクとアイバンクのカードについて考えていきま しょうということでお話をさせていただきました。  それで脳波がなくなった時点で、3枚目のカードが出てきた。これについても考えま しょうというふうに患者さんには説明させていただきました。 〇黒川委員長  その他にはいかがでしょうか。実際の救急の現場、コーディネーターのご努力、実際 の摘出チームの話、摘出から搬送されて移植施設に着くまで、かなり時間的な制限があ るわけですが、その辺のプロセスです。これから移植を実際されたところについてのご 報告を伺いますが、そこまでのところで他にもありましたらどうぞ。  西山先生に伺いたいのですが、前々からマスコミで言われているところなので、この 会は公開されているのでいいのではないかと思いますので伺います。無呼吸テストにつ いては先生の方で何かおっしゃりたいことはありますでしょうか。25日の11時に無呼吸 テストについても説明、モニターすること、及び血圧下降などがあれば途中でストップ することもありうることも説明したという話ですが、それについていかがでしょうか。 〇西山部長(高知赤十字病院)  臨床的脳死診断をまず私の方はしてから次に法的になるわけです。臨床的な診断と法 的な診断が食い違うということは、家族にかなり混乱を与えてしまうかなというのがあ りました。そして臨床的な診断のときに、例えば4点しますが、それでほぼ脳死でしょ うというときに、法的な診断に入ったときに、5点目のところで呼吸が出てます。他の 4点に関しては先生のいう通りですということになってしまうと、家族に余計な心配を かけてしまい混乱を与えてしまうと思いましたので、私は臨床的脳死診断の段階でやっ ておいた方がいいのではないかと判断しました。  ただ私の方で甘かったのは、脳波の方が、毎日見ておりましたので、段々なくなって きている。これはアーチファクトかなとかで、次の日に無くなっているので、これは脳 波平坦になってしまったのではないかということで倍率とかを竹内基準で記されている 以上に上げずにやってしまったということは、折角無呼吸テストをしたにも関わらず、 家族に混乱を与えてしまったということで反省をしております。 〇黒川委員長  25日の夜の8時13分からの開始のときの脳波の感度を竹内基準に記されている以上に は上げなかったということですね。それは脳波の判定委員がするわけだからという気持 ちもしないわけではないが、モニターするときに、先生が十分にそれをやればよかった というのは先生のお気持ちにあるということですね。その他に何かいかがですか。 〇大島委員  高知赤十字病院のご苦労を考えますと、本当に頭が下がる思いで、これ以上突っ込ん でお聞きするのは非常に心苦しいのですが、先程大久保委員が質問された問題です。脳 死判定委員というのは、名前を出さなくてもいいのかどうかという問題というのは、こ れを前例としてずーと今後もそういう形で進めていっていいのかというのは、少し問題 があるような感じがして引っ掛かってしょうがないのですが、いかがでしょうか。 〇黒川委員長  それについていかがでしょうか。いろいろな意見があるのではないかと思いますが、 ある程度ガイドラインのようなところで、それも公表しろというのかですね。 〇大島委員  医療者側としてはなくてよいものなら、こんなありがたい話はない。別に構わないな らそれでいいわけです。 〇開発院長(高知赤十字病院)  率直な意見を述べさせていただきます。公表することに何ら異議はありません。けれ ども脳死そのものあるいは移植そのものに反対をされている方も知っております。現実 に、例えば病院に対してもいろいろな文書が回ってきております。それで今回いろいろ なことがありましたが、個人の名前を上げることは、少し不味いのではないかという判 断だけであります。  もう一つは厚生省にもお聞きしたのですが、一応、我々の病院の判定医の名前を公表 しろということであれば、今回の判定医ではなくして、判定医の名前を上げろというこ とであれば、それは情報公開を求められれば公表するというふうにガイドラインに書い てあるように思います。ただ今回判定医その者の名前をあげるのかどうかということに ついては、今いったような考え方で、今回は伏せさせてくださいということを申し上げ た次第でございます。 〇黒川委員長  それももっともなご意見であると思います。その他に何か。脳死の判定委員のことに ついては病院の委員会ですからあるわけですね。これについては公表するもしないも病 院の中にいけばあるわけですね。 〇浅野委員  私は医療に関して全く素人ですが、今の判定委員の氏名公表は、つまりマスメディア がそれを報道するかどうかという問題であると思います。ですから専門的な人達がそれ を確認できるかどうかということです。例えばオウム裁判においては、弁護団の弁護士 の名前であるとかは団長だけにしているとかです。その意味で今は嫌がらせであるとか 反発をご懸念されているのであれば、病院として開示するが、メディア側が自主的に報 道をしないという方法も検討できるのではないかと思います。 〇黒川委員長  そうですね。恐らく院長先生の方ではしかるべき人が来て、どなたであったのでしょ うかと言った場合には、名前を言わないということではないと思います。公開されてい て一般の人にどんどん言っていいのかどうかということについて、現時点では引っ掛か るというご趣旨であると思いますが、そういうことでよろしいでしょうか。  確かに院長先生がおっしゃったように、今の状況ですと、その人にまたいろいろな話 を聞きにいく人がいるので、差し控えたいということであろうと思います。 〇浅野委員  いろいろな方から報道の問題が出ています。これは後の方で議論が出ると思いますが 黒川委員長も割りと厳しいことを言われた報道の姿勢です。西山先生も開発先生もご家 族との関係の中で大変であったということを言われて、小中さんも個人が特定されるよ うな事態は、家族も私どもも全く想定しなかったといわれましたが、家族の方がそれぞ れの方々に何を一番問題にされて、何が困り、何に当惑したと言われたのか、差し支え なければ教えていただきたいと思います。 〇小中コーディネーター(臓器移植ネットワーク)  ご家族が一番問題になさっておられたのは、日本の社会はまだ臓器移植というのが個 人の医療としては社会的な認知を受けてない。そういうような場所で、お子さんがおら れます。お子さんが学校に行った場合に、子供さんの方に残酷なことをしてというよう な表現ではなかったと思いますが、とにかくいじめに合うのではないかということを、 一番心配なさっておられました。そういうことがご家族の心配でありました。  私が考えますのは、そういうことを心配する中で、段々と個人が特定されるような情 報が出ている中でご家族が動揺しました。勿論私どもも動揺しました。ただ私どもの行 動も制限されるような状況もありました。その意味合いでコーディネーターとしての業 務が十分に行えない。勿論、能力的なものがあるのは十分に存じておりますが、コーデ ィネーターの業務が十分に行えなかった部分もあるのではないか。ご家族の動揺もかな りきつかった。そういうあたりでよろしいでしょうか。 〇西山部長(高知赤十字病院)  このことは家族の方は情報公開のことに関しては非常に積極的であったのです。1回 目に私が臨床的脳死状態でなかろうか。脳死の可能性が大きいねといったときに、そし て承諾書を書かれるまでの間に、情報公開は摘出が終わったら、その時に記者団とかを 呼んでやりましょうかということで、非常に積極的でありました。  ところがその場でも言われていたのが、とにかく子供のことが心配である。子供にだ けは迷惑をかけたらいけない。自分たちに対する中傷はなんでも構わない、はね除ける だけのものは持っているが、子供にだけは迷惑をかけたくない。その思いだけでした。  結局は皆が移植というものに賛成であれば、名前を出すとかは全然構わないこと です。ところが反対される方がおられる。すぐ側におられるかも知れない。特に子供 さんの場合というのは、わりと残酷な言葉でも平気で冗談のような感じでいってしまい ます。それがいじめの原因にならないだろうか。とにかく子供のことだけやというふう に、はじめはおっしゃっていて、そこまで考えておられるのだと思って承諾書をもらっ て、外に出たら既にマスコミが一杯おったわけです。アレーと私は思ってしまったわけ です。  とにかく家族の方は情報公開に関しては、情報公開をするというのは嫌といっている わけではなくという表現で僕は家族の言葉を代弁して書いていたら、先生これは違う、 嫌といっているわけではなく、情報公開はするといっていたではないか、先生とそれを 約束したではないかというくらいに、積極的でした。  そしてプライバシーの保護と情報公開を、私は混同しているとテレビのある報道番組 で言われましたが、それは違います。それは何故かというと、家族の方は摘出時間をい うのはいくらいっても構わないと言っている。だって摘出する手術の時間をいっても、 個人がわかるわけでもなんでもない。ところが2回目の脳死判定時刻だけは勘弁してく れ。というのは住所までもう分かっているわけです。脳死判定時刻をいってしまうと誰 と特定されてしまう。だからそれを止めてくれといったのであって、それ以外の特定さ れないものであればいい。  もっと極端にいえば、子供に迷惑がかからない情報であれば、今現在、院長が読みま した血圧が幾らであるとか脈拍数が幾らというのは、こういうことは全然特定にはなり ませんので、いくらでも情報は出せます。  ところが住所が限定されてしまったために、情報が出せなくなってしまっているので あって、初めからご家族は情報公開については非常に積極的な方であった、ということ を一言申し添えておきます。 〇黒川委員長  その他この件につきまして、もし委員の方々から何かありましたらどうぞ。  実際には移植ネットワークでは、最初の症例が出たときにどうするのかということを 厚生省とも随分話し合いをしたわけです。確かに最初のドナーが出そうだという時には マスコミは押しかけてしまうだろう。実際に横浜の症例のときもそうだったわけですが 病院も大変迷惑するし、ドナーの家族の方も大変に迷惑することは分かっているので、 マスコミの方々にも、ちゃんとしている記者には止めてよねとね。1週間とか2週間し たらちゃんとしたプレスをするからというので、マスコミの人もそれはそうですねとよ くわかるのだが、抜かれたら私は首になるというし、うちの部長も首になるから抜かれ るなということで発破をかけられて、非常に次元の低い話をするわけですが、それが現 実かなということもあります。  その意味では非常に成熟度が低い社会であろうかと思います。今の西山先生のお話も そうですが、そういうところがあります。建前はそうかも知れないが、実際にはそうは いかないというのが結構あるのではないかと思います。  後で新聞などに聞かれたときに、抜かれたら面子がたたないというのであれば、1面 で、うちはこういうことで自粛しておりますとちゃんと書きなさいといったのですが、 そうすれば言い訳はたつのですが、なかなかそこまではしそうにないですね。  山谷委員どうですか。 〇山谷委員  プライバシーが侵害されたということで、脳死提供が出たということすら報道しなく ても2例目はいいのではないかという意見もおきてますが、それは混同であって、脳死 提供者が出たということはきちんと報道して、その後のプライバシーの侵害の問題はマ スコミで自主ルールを作ってやっていくという形でないと、2例目以降の信頼が得られ ないと思います。 〇黒川委員長  するとマスコミの方はこれを自分たちで検証するのでしょうかね。期待しましょう。 〇野本委員  今回の移植の際は私は直接介入はしてないのですが、ルール作り、すなわち法の成立 のプロセスは一応看板をはったつもりです。何度かはっきり孫に被害が及ぶような脅迫 状がきました。教室員が慌てて、皆で幼稚園に送り迎えをしたのですが、命に関わるこ とに関して勝手にそういう言動をするなら、お前さんの孫にも同じことが起こるぞとい う文書が来て、これは誰にも話はしておりませんが、教室員をあげて孫のプロテクショ ンにかかったのです。3通くらい来ましたが、3通のうちの1通は本当にやりかねない ということを感じたものがありますので、これは何もメディアではないと思うのですが いろいろな活動をするとき、子供を人質にとるような言動とか行動は絶対に止めるとい う癖は付けていただきたいと思いました。  私が当惑したのはそのことだけです。後は私はいくら言われても屁でもないのですが 今のお話と同じですね。質が同じです。そこは日本社会全体として、そういうのは止め るくらいの成熟度になっていかないと困るという気がします。 〇田中委員  コーディネーターの方にお聞きしたいのです。最初にご家族より主治医に意思表示 カードが提示されたということがありました。意思表示カードを書くときに家族の署名 があって、ドナーカードをもっているかどうか分からないというのが一時問題になった のですが、これは家族が一緒に署名していたのですか。 〇小中コーディネーター(臓器移植ネットワーク)  ご家族は一緒に署名をなさっておられました。ご家族は生前に一緒にお話もなさって おられました。 〇黒川委員長  その他に何かありませんか。では何かありましたらまたご質問を受けることにしまし て次に進ませていただきたいと思います。では実際に摘出が行われた。この辺につきま しても、実際に到着したチーム、時間、どのようにされたのかというのが資料の1−2 にありますので、次に心臓移植を実施されました大阪大学第一外科から今日は福嶌先生 が来ておられますので、ご報告お願いしたいと思います。 〇福嶌助手(大阪大学)  松田に代わりまして福嶌が報告させていただきます。まず最初にドナーの方あるいは ドナーのご家族の方に感謝と敬意を表したいと思います。それとドナーの方のご冥福を お祈りさせていただきます。  最初にこの資料についてです。ここまで公表されるということを私は存じあげており ませんでして、年齢とイニシャルが入っておりますが、くれぐれもマスコミの方よろし くご考慮お願いしたいと思います。最初に申し訳ないのですが付け加えたいと思い ます。 最初に症例の簡単な登録までの経緯と移植までの経緯が書いてあります。敢えて書い てありますのは、実は待機日数のこともありますので、一応97年10月の時点で、既にカ テコラミンを使ってICUにいた患者であってステータスが1であるということを一応 これでご了解いただけると思います。  次のことについてご報告させていただきます。一応臓器対策室の山本先生の方から、 最初の経緯のことについても一応記載をしておいほしいということで、そこから書いて あります。皆さんがなぜ私どもの患者が1番ではないかということを私が質問したのか ということが、皆さんの気になることだと思います。さっきのところで示しましたよう に、登録の最初の日からステータス1で血液型が一致していたということです。そうい う患者さんがそれまで学会その他の公表の中でいらっしゃらないということは、分かっ ていたわけです。  実際に患者さんの登録された数字がファックスで送られてくるわけですが、そこの数 字にステータス1で待っていた日数が125 日であると記載されておりました。それで仮 にもし501 日の方がいらっしゃるのかどうかというのは、はっきり勿論わからないわけ ですが、少なくともその数字を最初に確認させていただくことが私の責務であろうと思 いましたので、それを確認させていただきました。  だから間違っているという指摘ではなくて、まず数字を確認させていただいて、寺岡 先生に調べていただきまして、どうやら1位のようだということで報告を待ったという のが最初の経緯であります。  1番になる可能性というのは非常に高いので、私たちの病院としては準備を始める必 要がありますので、7時20分頃から各関係者に連絡をしていって、正式に連絡が入った のは38分の時点です。ですから38分で私が摘出メンバーとして飛び立ったのが9時38分 ですので、たった2時間の間で準備をしないといけないというのがありました。  一応、マスコミの方がドナーがあるかも知れないということを二日ほど前から公表さ れていたので、現実問題として、病院としてどうなるのかということをいつも考えてい たお陰でできましたが、現実問題、これが本当に第2回目の脳死判定の後、報告を受け て2時間で飛べるかというのは不可能であると思います。これだけはここで、私どもの 責務として申し上げたいと思います。  それを先に申し上げた上で、まず7時38分に第一候補ということになりますと、意思 の確認をしないといけません。私がすぐに病室に参りまして、家族とご本人にお話をし ました。幸いご家族の方はその日の7時に面会にこられるということであり、いらしゃ ったので非常にスムーズであったのですが、このことにつきましても、本当ならこれは あり得ないことであろうと思います。  ご報告しましてその上で病院本部に連絡しました。私どもの病院では、一応移植医療 小委員会というのがありまして、そこでの評価をして、病院長の認可がないとネット ワークの方にはOKという書類を出せないということになっておりますので、病院とし て受けれるかどうか、それとご本人の意思があるかどうか、それで前もってその患者さ んが移植の適応であるかどうかという評価をされております。そういうことを全部合わ せて、約40分の間でそれを決定しまして、8時10分、久保委員長から移植の許可をいた だきまして、8時12分にネットワークの方に我々のところで移植を実施させていただく ということを連絡しました。  その後、協力体制ということで、今日もここの傍聴席にいらっしゃいますが、国立循 環器病センターの中谷移植対策室長補佐に我々のところの患者が第一候補であることの 連絡をし、協力を依頼しました。その後すぐに摘出班、移植手術班というものを結成し ました。この時点で摘出班が飛び立つ飛行機というのが決定されていたということで、 現実問題としてはこういうこともできないのではないかと思います。それに合わせて摘 出チームを組み、インフォームド・コンセントを松田教授と松宮助手がやれるような状 態でありました。後は我々のところの協力ということで中谷医師、小林医師に国立循環 器病センターの方から来ていただきまして、摘出班に加わっていただきました。  その時に我々のところのチームは一応肺もありましたので、肺のドクターが1名、あ とは心臓のドクターが7名、合計の8名が同行するということでファックスを送らせて いただきました。  今回、摘出班が飛び立つ時刻というのはマスコミに公表せざるを得ない状況になりま したので、中途半端なところから隠れて出ていくと、かえって問題があるだろうという ことで、一応9時40分から50分の時点に、センターから出るということを公表して出る ことにしました。そこから出て伊丹空港についていきました。  あとは移植学会の理事長、循環器学会の理事長に我々の代表者から連絡しまして、そ の上で11時35分に赤十字病院に到着しております。その後、ここにいらっしゃいます西 山部長、あとは循環器の先生方とドナーの患者さんの循環動態についていろいろとお聞 きして、ここで超音波なども全て見せていただいたのですが、第一例目ということもあ りますし、第三時評価は自分で行うべきだという判断で、もし術後心臓が上手く機能し なかったというときの責任というのは、本来摘出チームが持つべきであるという判断の 下で、もう一度お願いして超音波をさせていただきました。  超音波その他をさせていただきまして、ドナーであるということに問題はないであろ うということを私が判断させていただきまして病院の方に連絡しました。  今回の手術で特色のあるのは、レシピエントが人工心臓がついていたということで、 一度胸を開けた患者さんであるために、開胸するのに非常に時間がかかる、そのために レシピエントが入室する時刻とドナーが入室する時刻を一緒にしないと手術ができない ということが一番の難点でした。そういうことをしたということです。  あとは、ドナーの心臓、最終的には開胸して心臓の形態を見ないといけないのです が、見た上でないとレシピエントの麻酔が開始できない、麻酔を開始してから今度胸を 開けるのに1時間近くかかるということで、ここで肝臓のチームの先生方には非常にご 迷惑をおかけしたのですが、摘出の方の時間をちょっとゆとりをもってほしいというこ とで、後はヘリコプターが飛び立つ最終時刻というのがありますので、それのぎりぎり のラインで、摘出の時間を決定させていただいて、肝臓の先生方のご協力の下で、非常 に良いタイミングで摘出ができたとおもいます。  実際に約10回くらい病院との間で連絡をとりながら、摘出の手術をやらせていただき ました。16時57分に大動脈を遮断し、17時03分に心臓の摘出を終了して、その17分後に は残りの者4名を残して我々は飛び立ったわけです。  心臓が到着すると同時にレシピエントの心臓を摘出するというのが、一番保存時間が 短いということですので、病院に到着する時刻を常に連絡をとりながら、病院に到着し ました。病院に到着するほぼ直前に人工心肺を開始しております。これは交通事故でも あれば特別ですが、病院のほぼ構内に入ったという時点で人工心肺を開始していただい て、それで心臓が到着して直ぐに心臓の手術ができたということになってます。  摘出あるいは心臓の移植手術そのものは、それほど問題なく行いました。21時12分に 人工心肺から離脱し、手術を0時35分に終了、ICUに1時12分に入室しております。  簡単なサマリーはここに書いてある通りです。その後の病状についても5ページに書 いてあります。  術後拒絶と感染症というものはありませんでしたが、薬の副作用による肝機能障害と 好中球の減少が認められました。それにつきましては、薬の投薬その他で治療ができま して、現在はほぼ正常値になっております。  ご本人も、このいただいた新しい人生を大事にしたいということを言っておられます ので、今後ともこの心臓を大切にして、第二、第三の心臓移植ができるように努力した いと思います。ありがとうございました。 〇黒川委員長  ありがとうございました。大変ご苦労であったと思います。これに対しましてご質問 がありましたらどうぞ。矢崎先生いかがでございましょうか。 〇矢崎委員  丁度この日は日曜日でありまして、大阪大学から私の方に連絡がございました。今日 陪席しておられます心臓適応循環医学界の委員長の篠山先生に早速連絡を申し上げまし て、丁度お留守ということで副委員長の和泉先生にご連絡申し上げて、両方とも連絡が 取れない、また時間も迫っているということで、近畿地方の循環器の理事である神戸大 学の横山先生と篠山先生のところの助教授の松森先生に直ぐ現場に来ていただき ました。  私どもはこれは支援体制ということで、行われている実際のプロセスを第三者の目で 監視ということではありませんが、プロセスを確認していただく、特に患者さんに術前 に会っていただければということで、幸いに松森先生が患者さんにお会いすることがで きました。その意味では今回は日曜日ということであったにも関わらず、関係者がそこ に駆けつけることができたという事で、その意味ではプロセスが十分に確認できたとい う結果になって、私どもとしても大変に良かったと思っております。 〇黒川委員長  ありがとうございました。その他委員の先生から何かございますでしょうか。 〇山谷委員  ファックスが7分かかって届いて、しかも間違えていた云々があるのですが、これは 後ほどの日本臓器移植ネットワークの体制整備の論点にも上がっているわけですが、情 報のあり方として、どのようなものが望ましいと思われましたか。 直ぐに待機期間が間違いであるということが分かって、すぐに連絡しなおしたので構 わないのですが、2月28日の7時04分から15分くらいですね。もしもコンピューターな どで皆が共有できれば、こういうことはないのではないのではないでしょうか。 〇福嶌助手(大阪大学)  これをコンピューターで共有するのは非常に難しいですね。情報が漏れる可能性とい うのは非常にあります。勿論ファックスでもあると思います。待たざるを得ないです。 最初にお電話があったときに確認したかったのですが、私ももしかして数字を間違えて 入力している可能性というのは否定はできませんので、まずは送られてきたものを見て それに間違いがあるかどうかを確認させていただくことが先だと思ってファックスを待 ったわけです。ただこの場合に幸いであったのは、私がずーと病院に泊り込んでいたか らこれができたので、もし泊り込んでなかったら、これが出来なかったことであると思 います。 〇山谷委員  そうですよね。だからオープンにコンピューターにいかないで、クローズな形でいく というようなことはできないのでしょうか。 〇福嶌助手(大阪大学)  ただあとは当直体制がありますので、もう5分とか10分遅れたなら、当直のものが確 認することはできると思いますが、これほど電話を受け取って3分後に見るということ は、恐らく出来なかったと思います。 〇黒川委員長  福嶌先生もおっしゃいましたが、これは最初だからいろいろなことが、例えば漏れな いとか絶対に間違いないように、決まったマニュアル通りという話でこのようになって いるわけですが、もうちょっとペンディング、可能性のある人にはある程度本人に行く かどうかは別として、あらかじめやっておかないと殆ど準備ができない。たまたま今回 はこのような良いタイミングであったからできてますが、普通ならそういうことは多分 上手くいかなかったと思います。でも手順でないと、最初の1例の場合はということで 後手後手に回って、全てがOKになってはじめて動きだすということだから、実際の止 血時間その他があっても、非常にタイトなスケジュールで大変であったと思います。  もうちょっと例えば移植が何例かになってくれば、多分もうちょっと前の時期に、可 能性がありますという話は、もっと前のところに行けると思います。それでないととて も大変な状況だなと思います。寺岡先生から何かありますか。 〇寺岡理事(臓器移植ネットワーク)  わからなかったのですが、まず7分どうしてかかったのかとお考えになるかも知れま せんが、これは膨大な資料をお送りします。枚数にしますとかなりの枚数になります。 これは提供者の方の医学的な情報から、その候補者となられた方の情報まで皆お送りし ますので、その資料を全部お送りするにはそれくらいかかるかもしれません。  それから、コンピューターから直接というお話がありますが、私どもはコンピュー ターネットワークをオンラインで結ぶ段階で、そういうことも最初は考えたのですが、 これは現在の段階では極めて危険であります。個人の特定の情報は全て流れてしまう。 またウイルスなどが進入してきたら大変なことになりますので、今の段階ではどのよう にセキュリティをかけてもなかなか難しいというのが現状ですので、御理解をいただき たいと思います。 〇黒川委員長  膨大な資料というのは具体的に何枚くらいですか。 〇寺岡理事(臓器移植ネットワーク)  膨大というのはちょっと大げさ過ぎたかも知れません。大体15〜20枚くらいです。 〇黒川委員長  それなら時間はかかるかも知れませんね。その他にちょっと伺いたいのです。せっか く今日お見えですので、篠山先生から何かございますでしょうか。この患者さんの場合 待機時間の問題、そういう話です。それからこのレシピエントの方はたまたま補助心臓 を受けているというのは、資料1−3の1ページにありますが、1997年10月に登録され ているという話から、1年後に今度は補助心臓を着けているということもありますので その辺についてありましたらお願いします。 〇篠山教授(心臓適応評価委員長)  この患者さんは私どもが心臓移植の症例を検討しはじめまして、恐らく19番目か20番 目くらいに申請されてきた患者であると思います。拡張型心筋症という普通は比較的収 縮力が保たれる疾患の患者であります。それが急速に拡張型心筋症に進行していった患 者であります。大変に急速に機能が障害されていった患者であると思います。もうちょ っと記憶しておればよろしいのですが、私の記憶している限りではそのような患者さん であったと思います。  本当にこれはほっておくと、非常に予後が悪い患者さんで、これ以上は待てないくら いの状況ではなかったのかと思いますが、今回このように上手く心臓移植がわが国で達 成することができて大変良かったと、私自身も喜んでいるところであります。  実際問題としまして、私もこの役を約2年くらいやらせていただいてきたわけであり ますが、アメリカでは大体1996年、一昨年のデータが今出てますが、2343例という症例 が1年間で実際に心臓移植が行われております。わが国で約2年間で登録されてまいり ました症例数が67例でございまして、まだまだ人口がわが国はアメリカの半分としまし ても、重症度その他病態が違うと思いますが、そのまま比例配分すると、1,000 例以上 の患者さんが日本で行われる可能性がある。  確か日本の疾患は重症度からいくと、それほど重症でないかも知れませんが、67例と いう申請の数は、まだほんの一角に過ぎないと思います。これを機会に、ぜひ心臓移植 の恩恵に浴することができる患者さんが沢山出てくることを心から希望しているところ でございます。 〇黒川委員長  ありがとうございました。確かにこの福嶌先生の報告書の資料1−3の2ページ3 ページなどを見てもそうですが、実にタイトロープを渡っている感じですよね。今回は いろいろな幸運なとこもあったというのは、先生がおっしゃったようにこれだけスムー ズにいったわけで、患者さんへのインフォームド・コンセントも、実際にあったときの いろいろな話で十分に時間を取るということも、もっとあれば本当は望ましいと思いま すが、その辺は随分時間が迫っているという、非常に厳しい状況であったのだなという ことが伺われます。  特に実際の手術になると、もっともっとタイトであるというのは、先生のおっしゃる 通りでありまして、こういうことがよくできると思われる方も多いと思います。実際に 医療に携わっている者から見ても、大変なご努力がないとこういうことはできないとい う気がします。 〇大久保委員  先程の件です。各施設に知らせることに関しては、1回の脳死判定以後、2回目を待 つ必要はないのではないかと思います。それの規定はどうしても2回を待たないといけ ないのでしょうか。 〇黒川委員長  寺岡先生いかがでしょうか。答えられますか。 〇寺岡理事(臓器移植ネットワーク)  純粋に医学的には確かにご指摘の通りに早ければ早いほどよろしいと思います。ただ これは厚生省の方の考えですので、厚生省の方からお答えになっていただいた方がよろ しいと思いますが、法令の解釈上は法的に死亡とされてから具体的な行動を行ってもら いたいということでしたので、今回はそのような形で行いました。 〇朝浦室長  寺岡先生がおっしゃった通りでございます。2回目の脳死判定が終わった時点で死亡 という整理をしておりますので、その前に具体的に行動を起こすことは、問題であろう と考えておりまして、今の取扱ではそういう形を取らせていただいております。 〇黒川委員長  これは今までのいろいろな経緯もあって随分議論のあったところであると思いますが 大久保委員の言っていることも、誰にでも理解できることであると思います。今までの 話からいうと、例えば1回目の後からすると、救急の方の努力がどうなるのかというプ レッシャーをできるだけ排除したいということもいろいろあって、議論されてきたとこ ろであると思います。 その他には、もう一つはたまたま日曜日ということもあったのかも知れませんね。特 に移植をされる側、摘出チームもそうだし、条件も確かに良い条件というか、その中で は非常に恵まれていたということはあると思います。  これがこのような委員会で検証する、次の場合にはどういうことを注意しないといけ ないのかということが実際に分かってくると、これだけの国民の中の医療としての位置 づけられ、あるいは定着することによって、そういうことが段々変わってくる可能性が 十分にあると思います。いかに信頼されるのかというのが一番大事だと思います。 〇寺岡理事(臓器移植ネットワーク)  これは言わずもがなかも知れません。お耳を汚すようなことになるかも知れませんが 確かに大変ではあります。移植の摘出チームの先生方も大変でしょうし、私どもも大変 です。しかし、この際忘れてはいけないのは、一番大変なのは遺族の方と提供に協力し ていただく施設の先生方であります。  私たちはこういうことを申し上げていいのかどうか分かりませんが、移植に関しまし ては、負の遺産を背負ったところから出発をせざるを得なかったというところがござい ます。それが現在の厳しい法律になってきている。しかし一旦決まったルールでありま すので、このルールの中できちんとやっていかないといけないだろう。それによっては じめて黒川委員長がおっしゃっておりましたように、移植医療あるいは医療全般に対す る信頼を回復させていけるものであると思います。  その過程で一番重要なことは、先程開発院長もおっしゃいましたが、いろいろな文書 がきます。私たちが一番ここで注意しないといけないことは、その提供施設に対する負 担をいかに少なくするか、またそこに対していかにきちんとした手続きを行って、どん なに大変であっても、そこにいろいろなご負担がかからないように、ご迷惑がかからな いようにしていく、そういう配慮を私どもが致しませんと、恐らく次は出てこないだろ うと私は考えております。そういうことですので、どんなに厳しくても、この状況でき ちんとやっていきたいと私自身は考えております。 〇黒川委員長  ありがとうございました。特に移植の施設の方は限られていて、最初からそうですか ら、シュミレーションその他にしても、心構え、チーム作り、ということが随分あって 福嶌先生や川崎先生のところもこれから伺いますが、できているとしても、実際に提供 がでる場所については、全く見当がつかないということかありますから、皆さんはそれ ぞれの準備状況ができて、委員会、その他についてもきちんとできて手を挙げられてい るわけですが、とはいっても本当に出てくると、非常に大変なわけです。その意味では 今回は高知赤十字病院には大変なことであったと思います。本当に敬意を表したいと思 います。  次に肝移植の実施に関する報告を受けたいと思います。信州大学の川崎教授からよろ しくお願いします。 〇川崎教授(信州大学)  信州大学の川崎でございます。肝移植実施に関する報告をさせていただきます。資料 1−4です。そこに細かく書いてございます。上の方がドナー状況及びドナーチームに 関する時間的経過です。下にレシピエントに関する時間的経過を別々に記してございま す。  28日、7時25分にネットワークから電話連絡がありまして、40分にファックスが着信 しまして、これを見て、その時点で1時間以内に患者が移植に同意するかどうかを確認 してほしいということでした。たまたま入院されていたということもありますし、内科 の主治医が近くに住んでいました。外科医だけで説明しては良くないだろうということ で主治医も呼んで、外科医と一緒にインフォームド・コンセントをし、同意を取ること ができました。  ただこれに関しましては、場合場合によってかなり難しい、1時間以内にインフォー ムド・コンセントがきちんと取れて、同意が曇りなくとれるという状況はむしろ稀であ ると思います。今回はたまたまであると思います。先程からたまたまという言葉が何回 も出てますが、そういうことであると思います。  8時40分に要請受理の旨を連絡しまして、10時26分に信州大学のグラウンドから、こ れは県のご好意によるものですが、防災ヘリコプターで名古屋までいって、名古屋から チャーター機です。初めに14時にドナー手術を開始していいかという打診がネットワー クからありまして、何とか対応いたしますというご返事を申し上げたので、いろいろ探 したのですが、定期便を使っていると間に合わないということで、チャーターをしまし た。お金が掛かるということはあったのですが、チャーター機で高知空港につき ました。以下はご覧の通りです。  帰りもチャーター機ですが、その後救急車で20時06分にグラフトが信州大学に到着し たということです。  レシピエントに関する時間的経過はここに書いてございます。  8時20分に内科の主治医及び外科側が立ち会ってご説明して、インフォームド・コン セントの形でサインをいただいた。術前準備を開始して、15時45分、これはドナー手術 がもう始まっておりまして、肝臓は移植可能であるということで、手術室の入室はもう 少し早くても良かったのですが、それを確認して麻酔をかけて、手術を開始しました。 23時05分に患者の肝臓を摘出しました。23時15分に保存液から肝臓を出しまして、下大 静脈ヒト大静脈吻合を開始して、日が替わって 0時06分に門脈−門脈吻合を終了して血 流を再開しました。  保存液から出して吻合を終了して、血流を再開するまでが51分になります。全保存時 間に関しましては7時間09分ということになってます。通常の欧米の脳死肝移植と比較 してそれほど長い時間ではないと認識しております。  あとは肝動脈と総胆管を繋いで手術終了です。全手術時間は12時間14分でした。  レシピエントの術後経過です。  手術中から胆管から流れ出てくる胆汁は非常に薄くて、機能はあまり良くないのでは ないかという危惧をしておりましたが、肝細胞が壊れるときに出る逸脱酵素はほぼ直線 的に上昇しまして、次のページに書いてあります。LDHは肝臓以外のファクターも含 まれる数字ですが、GOT、GPTはこのように上昇しています。正確に申しますと門 脈の血流を再開して35時間後にピークに達しました。どこでピークに達するのか分から なかったものですから、もっと上がれば、よく言われておりますプライマリーノンファ ンクション、典型的ではありませんが、もっとあがるとそういう形になったのではない かという危惧をいたしました。幸いそこでピークが収まって、以後はほぼ順調な経過を 辿っております。現在は非常に良い状態と認識しております。以上です。 〇黒川委員長  これもこの時間の経過を見ていると非常にタイトなことでありまして、先生がおっし ゃたように、患者さんの方のインフォームド・コンセントの時間的制限などは、年間に 行われている数が、アメリカのように1,000 、2,000 、3,000 となっていれば、患者さ んの方も実際にリアリステックに普段から話を聞いていても本当にあるのかなと思って おりますから、心構えができているのでしょうが、日本の場合には普段からそういう話 をされていても、本当に起こるのかなと思っているでしょうから、実際にインフォーム ド・コンセントをどこまで真剣に自分のこととして受けるのかということは非常に難し い状況になっているわけです。それを朝突然言われて、さあどうしますかと言われるの は、本当に大変なことだろうと思います。普段から一生懸命話をして、納得されていて も可能性がないというのでは非常に気の毒なことなので、その辺が非常に大変なことで あったと思います。  その辺を含めて、ご存じのように摘出チーム、資料1−2の7ページを見ていただけ ればわかるように、肝臓の場合には摘出チームは信州大学から7名の他に、北海道大学 から藤堂先生のところからお二人、藤堂先生も行かれているわけです。その辺のご連絡 それから実際の移植には、報道にもあるように、ここにおられる田中委員もおられたの ですが、その辺についてはどうだったのでしょうか。 〇川崎教授(信州大学)  北海道大学藤堂先生、古川先生には来ていただきまして、ドナーの肝臓の摘出を直接 ご指導いただきました。これに関しては、第1例目が行われる前からそういうお約束に なってまして、曇りなく行うためには一番経験豊富な方にご指導いただくのがいいとい うふうなコンセンサスを、これは信州大学も京都大学もとっておりました。それについ ては、私は直接藤堂先生の携帯を寝床で鳴らしたのですが、もう札幌空港に向かわれて おりまして、これは意外でした。  それから田中先生からもお電話いただきました。幕内教授に関しては、信州大学の非 常勤講師でもありますし、プレッシャーがかかる状況で万全を期す意味から、前々から 来ていただくというお約束になってましたので来ていただきました。京都大学の田中教 授、それから猪俣助教授にも来ていただきまして、何かあったらということで、ご支援 いただきました。 〇黒川委員長  その意味では確かに摘出したときの肝臓の状況その他によって、沢山の経験のある人 が診るといろいろなことがわかると思います。藤堂先生のように、沢山の経験の有る方 がすぐに行くというのは大変に素晴らしかったのではないかと思います。それについて この肝臓の移植について、田中委員の方からはいかがでしょうか。 〇田中委員  実際は今川崎教授の言われた通りです。肝臓の方はいろいろなチームがお手伝いしよ うということで、私も行ってスムーズに行くのをじっと横から見ていただけです。何一 つ言うことはなく順調に進んだのではないかと思います。ただ、レシピエントに対する 対応は、時間がもう少しいただけたらなという気がします。 〇黒川委員長  きついですね。そう思いました。レシピエント側からいうと、選定その他に関わって おりました谷川委員からの方からお願いします。 〇谷川委員  はじめ日本肝臓学会は脳死の肝移植を推進するのに、3本柱の一つとしてまいりまし たので、今回の脳死間移植に関係した方々、特に川崎先生、我々の仲間に心から感謝を 申し上げたいと思います。 ちょっと私が思っていることがあります。その一つは、移植が終わった後、GOT、 GPTは非常に高くなった、マスコミの方々がどうしてかという質問があったのですが GOTやGPTが非常に高い、LDHが高い、プロトロンビレも非常に低いというので すが、これは多分一過性のDICあるいは再還流障害ではないか、血液がよく流れてい るという話でありますので、心配ないのではないかとお答えして、実際にそうであった わけです。  ただそこでちょっと考えたのは二つのことです。一つは勿論検索されたのだろうと思 いますが、ここに今までご説明がなかったのですが、ドナー肝の評価です。例えば脂肪 肝であると非常につきが悪いとか、そういうドナー肝の評価をどこでされたのかという ことを、皆さんに公表申し上げた方がいいのではないかということです。  もう一つは、肝移植も段々進んでまいりますので、あるしかるべきときに、もう少し 移植のできる施設を増やして、勿論、7時間というのはそう長い時間ではないのですが もっと短い時間もできるのではないかということも、将来考慮していただきたいという ことです。  もう一つは、私ははじめに聞いたときに意外に思ったのはレシピエントが家族性アミ ロイドポリニューロパシーという元来の肝疾患でないものをなぜ選ばれたのかというと ころに、ちょっと疑問があったのです。それは後で藤原担当委員長もお答えになるかも 知れません。血液型がどのような重症度にも関わらず最優先されるのかというのは、他 の人にとってちょっとです。肝臓は必ずしも血液型が合わなくてもいいのではないかと いう話が昔からあったのですが、その辺のところをご説明していただいたら、もっと理 解ができるのではないかと思います。 〇黒川委員長  まずドナーの肝臓のことについて川崎委員からどうぞ。 〇川崎教授(信州大学)  これは先程もご説明しましたように、北海道大学の藤堂教授、古川先生、それから私 どものメンバーが一致して移植しうる、脂肪肝は肉眼的に見て視診上ないということで ございました。それから手術前のドナーの肝機能に関してはそれほど問題はないという データを得ておりました。  ただ欧米でもこのプライマリーノンファンクションに関しては、勿論、皆は移植可能 であるといって摘出して移植するわけですが、その中でも5〜10%は起こる、これは患 者さんにも手術前にきちんとインフォームド・コンセントのときに、生体肝移植とかな り違うのはその部分である、5〜10%はちゃんと評価しても起こってしまうということ はご説明しました。典型的なプライマリーノンファンクションというのは、胆汁が全く でませんし、アシドーシスがどんどん進んだり、典型的なものはそうですが、そういう 形ではなかったのですが、かなり痛んでいたというのは確かでございます。これに関し ては、正直申し上げて意外な感じがしました。保存時間とかいろいろなファクターから 考えてです。保存液の問題とか後でいろいろと調べたのですが、特に原因となるような ものはよく分かりませんでした。欧米でもよくわからないことが、この%あるというこ とだけはご理解いただきたいと思います。 〇黒川委員長  多分そのところは先生方は実際に摘出のときには、藤堂教授がおられたわけですから 藤堂教授と随分お話をされたと思いますが、藤堂教授のコメントとしては、摘出したと きの感じではどうであったとおっしゃってましたか。 〇川崎教授(信州大学)  問題はないということでした。実際にこれは申し上げていいのかどうかわからないの ですが、移植手術は一応門脈を再還流したとき、私は藤堂教授に先生これはどれくらい GOT、GPTが上がりますかねと聞いたら、1,000 はいかないでしょうねというお話 で、私も多分そんなものだろうと、経験上そういう感じだろうと思ってましたので、こ の高さは意外でございました。 〇黒川委員長  藤堂先生は何百例も経験した上でそのようにおっしゃっているわけだから、ちょっと 意外だったのだろうなと思います。その他に寺岡理事から聞きたいのですが、この患者 さんがレシピエントで上がったことのプロセスについてです。 〇寺岡理事(臓器移植ネットワーク)  肝臓の選択基準に関しましては、これは臓器移植ネットワーク準備委員会の肝移植の 作業部会、これは水戸教授が座長でございますが、そこで選択基準が決まっており ます。これは疾患群を3つに分けまして、その疾患群に20点、10点、3点を与え、重症 度、この重症度は非常に難しいのですが、1ヵ月以上生存できないと考えられる方を9 点、1〜6ヵ月間生存しうると期待できる方を6点、6ヵ月以上生存するという方を3 点としております。それに血液型が一致すると1.5 点、一致しないが適合している場合 は1点この計算で全てポイント数で1位から順番に選ばれてまいります。したがいまし て、今回の血液型では疾患群が20点の単位で重症度が9点ではなかったということでこ うなったわけであります。  コンピューターで上から順番に出てきますので、いかなる操作もしようがございませ ん。コンピューターで出てきた1位の方から順番に当該施設の方にご連絡をさせていた だいたということでございます。 〇黒川委員長  そのような優先順位のポイント数になっているわけですが、それは谷川先生もよくご 存じだと思いますが、せっかく来ておられますので今日は藤原先生の方から肝臓適応評 価委員会の委員長ですので、藤原先生から今のような基準について何かコメントがあり ましたらお願いします。 〇藤原教授(肝臓適応評価委員長)  まず結論から申しますと、今回の適応ないしは選択は全く問題なかったと考えており ます。選択につきまして適応評価委員会としましては、適応基準と選択基準に則って、 今寺岡先生がお話をされましたように点数化して、総合得点の高い順番で選ぶという点 で問題はなかったということになります。適応につきましては余命が1年以内と予測さ れるということが原則とされておりますが、先天性疾患の場合に限ってQOLを重視し て、肝移植が意味ある限界時期としているものもあるということです。  今回のこの家族性アミロイドポリニューロパシーもその一つであります。発症から5 年を適応の限界としているということであります。同一の点数の方が複数いる場合には 待機時間が参考にされるということで行っております。以上です。 〇黒川委員長  一応そういう基準があるわけなので、多分全くこういうことのファミリアでない方が なぜあれは5点なのか、なぜこれが3点なのかというなぜ4点ではないかというのがあ るのかも知れませんが、それは当然移植の数が多くなれば問題はないわけですが、でき るだけその場合場合の決定をなるべく個人的なバイアスが入らないように、今までの外 国でのデータ、医学的な点数化をしようという話で委員会であげていただいているとい うシステムになっているわけです。誰かがどこかで線を引かないといけないという辛い 決断をしないといけない。数が増えてくれば、この数字によって一つ一つのケースの問 題は殆どクリアされるのではないかと思います。 〇井形委員  成功したことを心から喜んでおります。特に先程お話になりました藤堂先生、幕内先 生、田中先生が参加されたということは、現実としても非常にプラスであったし、また 対外的にも移植が日本の総力をあげたというイメージを与えて点で、私は非常に正解で あったと思います。医学界は比較的にこういうことは珍しい、その意味ではそのことを 少し評価することも強調したいと思います。 〇黒川委員長  これからは珍しいことではないと思います。実際にそういうことなので、森亘先生が やっておられる移植関係学会合同委員会の設備、施設認定のときも、最初の数例はどこ から何が出ても、オールジャパンでやったらいいのではないですかという話が、議論と しては出ていたと思います。実際にそういうのは強制力はないわけですが、実際に自発 的にそういうことが行われたというのも大変に良かったと思います。  私も全く個人的なことですが、川崎先生が非常に疲れた顔でテレビなどに出ていたの ですが、あれを見ていて、摘出は藤堂先生が行かれたし、実際に立ち会っているのも田 中先生と幕内先生もおられるわけですから、これ以上のことは望めないということから いうと、医療関係者は非常に安心したのではないかと思います。  これですと心臓の方の摘出も阪大と国循の先生方が一緒に行かれておりますし、その 意味で大変に良かったということは、先生がおっしゃる通りに是非評価したいと思いま す。その他肝臓の移植についての報告は何かございますでしょうか。ございませんよう でしたらまた質問がありましたらお受けすることにします。  次に腎臓移植が行われました東北大学及び国立長崎中央病院でありましたが、東北大 学の第2外科の藤盛先生からご報告お願いします。 〇藤盛講師(東北大学)  東北大学第2外科の藤盛です。里見に代わりまして報告させていただきます。  腎移植の方は最初はネットワークの方から説明がありましたように、当初は心臓死の 献腎移植ということが情報が入っておりまして、たまたま当院の登録患者さんが優先順 位2位ということになりました。これが2月24日の早朝4時です。その4時に第2外科 の私たちの施設の当番医の方にコーディネーターから連絡が入っております。  ただちに患者に連絡しまして移植の意思があるかどうかをその時に確認しており ます。その後、その日の11時10分にドナーの状態の情報がコーディネーターから1回目 入っております。この患者さんは東北ブロックの方に登録されているわけですが、血清 の方が少し時間が経過しておりまして、改めてクロスマッチ用の血清を新鮮なものが必 要であるということで、このクロスマッチ用の血液を搬送するということになり ました。実際にはコーディネーターが高知まで血清を搬送しております。  その結果が日本臓器移植ネットワークより25日の深夜連絡が入っております。その後 情報がマスコミからの情報だけになりまして、いろいろとこれは大変なことになりそう だということであったわけです。  2月27日の午前中に腎移植予定者を、元々はこの患者さんは私たちのところに登録は しておりましたが、私たちの施設で透析を受けている患者さんではございませんでした ので、まず入院してもらいましていろいろと検査を再度しようということで、27日の午 前中に入院してもらっておりました。  28日になりまして、朝ブロックコーディネーターから脳死での臓器摘出がなされる、 今後摘出に向かうからということがありまして、28日の午前中に移植患者さんに最終意 思確認をしておりました。  コーディネーターは、摘出されるということで臓器を取りにいくということでしたの で、私たちの施設ではてっきりコーディネーターは高知に向かっていたものと思ってい たのですが、突然摘出間際になりまして、臓器受領にいくというファックスがコーディ ネーターから入りました。いろいろな報道を見ますと、なかなかこれでは今日中に高知 にはたどり着けないのではないかという話がありまして、ネットワークの方といろいろ な相談をしました結果、最短では腎臓だけを高知から羽田への最終便で腎臓だけを送っ てもらう、羽田で受け渡してもらって、運ぶのが一番適当ではないかということになり まして、ここに書いてあるような時間経過になりました。私たちの施設の方に到着しま した。  レシピエントの手術は3月1日の深夜の1時58分から始まりまして、早朝の6時09分 に終わっております。  移植後直ぐ、ここに20分後と書いてありますが、尿が出始めまして、移植後は一度も 血液透析をせずに現在に至っております。現在はクレアチンの値が1.2 から1.5 という ことで、高血圧も非常に良好な経過になっております。以上です。 〇黒川委員長  ありがとうございました。これともう一つ国立長崎中央病院の進藤先生からももう一 つの腎臓について、ご報告をお願いします。 〇進藤部長(国立長崎中央病院)  腎臓移植手術までの経過は資料に出してありますように、今東北の先生からもお話が ありましたように、24日に心臓死での腎臓の提供があるということで第一報をいただき ました。ただちにレシピエントの方に意思の確認を行っております。 28日になりまして脳死下での腎臓の提供ということに変更になったということを、ネ ットワークから連絡がございました。その日に患者さんの入院をしていただきまして、 再度今度は脳死下での腎臓移植を受ける意思があるのかどうかの確認をしました。  この方は腎臓移植ですので、インフォームド・コンセントに関してましては登録時に 1回行いまして、今年の2月に年に1回の更新登録があるのですが、丁度2月に更新に こられまして、その時に再度意思の確認を行ってますが、今回はそういうことで心臓死 での提供ということで24日に、28日に脳死下での提供ということで、インフォームド・ コンセントと意思確認を行っております。  もう1点です。今度は搬送の件です。長崎ですので高知からの搬送に関しましては、 ネットワークの方が非常に苦労なさいまして、3回ほど搬送の経路の変更がございまし て、最終的には移植をさせていただく、移植病院としましては、時間的に最短の搬送を お願いしたいという希望はあったのですが、ほぼそれに叶うような形です。長崎県の コーディネーターが大阪まで出向きまして、大阪で腎臓を受け取りまして、JRで博多 まで行きまして、博多から長崎までは九州ブロックのチーフコーディネーターと、長崎 県のコーディネーターによる緊急車両による陸路の搬送ということになりました。  勿論その間、福岡県、佐賀県、長崎県のパトカーによる先導を受けての搬送でござい ます。そして、3月1日の1時20分に腎臓を受け取りまして、3月1日の2時05分から 手術を開始して、6時28分に終わっております。  術後の経過は、ここに書きましたように、次の日の術後1日目に、3時間の血液透析 を行いましたが、その後は利尿がつきまして、大体安定した状態でございます。そこに 書いてありますように、一般状態その他は特別に変わりはありません。  プライバシーの問題です。はじめは病院の中までマスコミの方が多く入ってこられた のですが、ドナーの方の情報提供とドナーの方への報道の反省などもありまして、報道 の関係の方は代表者を出してこられた形での報道になりました。比較的私たちのところ ではある程度整然と行われたということで、本人、ご家族の方の意思は、個人が特定で きるようなことは発表してほしくない。それからインタビューとか写真は出したくない ということで、その意向に沿って行っております。以上です。 〇黒川委員長  ありがとうございました。二つの腎臓が移植されたわけですが、それについて腎臓の 場合は心停止であるかも知れないというところで連絡をうけていたわけですが、何かこ れについてご質問はありますでしょうか。これは二人とも6マッチだったわけですね。 ブロックの外に出てますので6マッチで一番良いマッチだあったということです。腎臓 については比較的コーディネーターの方も体制ができていて、慣れているということが あるので、他よりは少しスムーズだし時間的な余裕があったということについては、か なり良かったのではないかと思います。にも関わらず運んだりするのに、6マッチであ ったら全国ネットにいきましたので、地域ブロック内ではなかったということで、搬送 のルートにそれなりに苦労されたというのがわかると思います。ご質問はございますで しょうか、ございませんでしたら、何かありましたら受けます。  最後になりましたが、角膜移植を実施された高知医科大学の眼科の上野先生からご報 告をお願いします。 〇上野教授(高知医科大学)  高知医科大学眼科の上野でございます。簡単にご説明いたします。2月28日朝、日直 医のところに移植コーディネーターの方よりご一報をいただきまして、今日中に角膜の 摘出がありますので待機をお願いしますという連絡がありまして、8時半に科の中の4 名で、赤十字病院にいただきにまいるチームを作りました。それでコーディネーターの 方のご連絡を待ちまして、午後3時半に我々の大学を出発しまして4時半に到着、6時 10分より角膜とその回りの白い強膜がついた強角膜片を摘出しまして、7時には両眼と もいただきました。  眼科の場合にはオプチゾールという保存液がございまして、これは1週間から10日く らい保存がききます。そういうことで緊急手術ではございませんで、準救急手術という ことになりましょうか。それで一応細隙灯顕微鏡という道具で外から保存液の中の組織 を見まして透明である、病歴上ご本人のドナーの方に角膜疾患がない。あるいは禁忌と されている疾患がないということで、これは使えると判断しまして、その日の夕方から 角膜移植を希望されて、予約ノートに記載されている患者さんに連絡しました、お二人 です。これも初診日、あるいは再診日、最終的な角膜移植の手術をするというふうに予 約されるときには、十分にインフォームド・コンセントをして、これは角膜移植しかあ りませんということはよく話をしておりますが、お二人とも入院患者ではございません ので、お電話を自宅にして、かくかくしかじかであるということで、手術を受けられま すかということを確認して、次の日に入院していただきました。入院時にインフォーム ド・コンセントをして書類でとっております。  そこに書いてありますような時間に午後からお二人の手術を行いました。  お一人は70歳代の女性で両眼とも悪い、特に右目が高度に7歳の時から悪いというこ とで、移植を行いました。この方は角膜を切除してみますと、やはり高齢でございます ので白内障もありまして、白内障も手術し、眼内レンズも移植しました。トリプルプロ シデュアといいますが、これを行いましたので、やや時間がかかりました。  お二人目の方はお若い40歳代の方ですが、外傷によるもので、第1例の方の70歳代の 方は角膜全層が白く濁ってましたので、全層角膜移植ということを行いました。  第2例目の40歳代の女性は、右眼ですが、この方は角膜の深層からデスメ膜の当たり は透明でありましたので、これは全部うちぬかなくても、深層角膜移植を行えばいいと 判断しまして、そのようなデープラメラーケラトプラスティを行いました。これの方が 安全であるということでございます。  両眼の角膜を、右と右ですが、これは腎臓と違いまして全く問題はございません。  最終的にここに書いてありますように、3月15日には術後2週間で70歳代の女性は視 力が、ここにちょっとミスプリントがありますが、矯正で0.2 出ております。  もう一人の40歳代の方は0.1 ですが、70歳の方は術前が0.04でしたから、0.2 に改善 しておりますし、40歳代の方も0.01から0.1 ですから良くなっております。多分もう少 ししますと角膜は細い糸ですが、糸をかけますと角膜乱視になりますので、半年くらい たちますと、抜糸を行いますが、ハードコンタクトレンズを付けますと結構視力は出る と思いますが、今回のこの視力はそれをやったものではなく、普通の眼鏡による矯正で ございます。3月18日木曜日ですが、40歳代の方は退院して外来で経過観察を行ってお ります。  角膜移植の場合には、移植ネットワークによる施設の指定というようなものがありま せんので、アイバンクがある県はアイバンクがいろいろ間に入ってくださってますので 我々の県はアイバンクはないのですか、それに代わる組織がございまして、そこからご 連絡を受けてやっております。  そういうことで角膜移植自体は、昭和33年から法制化された臓器移植では一番古いも のでございますので経過も順調で、格別に変わったことはございません。私から一つお 伺いしたいのです。不勉強で申し訳ございません。  今回の我々がいただきました角膜移植、心臓、肝臓を摘出した後に最後にいただきま した。赤十字から出たデータには、患者さんのご希望であろうと思うのですが、死亡時 間が出ておりません。それとコーディネーターの方からのコピーを貰っておりますが、 ご家族の方の承諾書をみますと、脳死後に心臓、肝臓、肺、腎臓、眼球を提供するとい うふうに眼球のところに○をされております。  2番として心臓が停止した後、下記の臓器を提供しますの方には眼球もありますが入 っておりません。  黄色いドナーカードには脳死後に眼球あるいは角膜という項目はございませんが、そ の辺は我々のやったことは脳死後の移植になるのでしょうか、あるいは心臓停止後の移 植になるのでしょうか。私は心停止後の移植と理解しているのですが、その辺はいかが でしょうか。 〇黒川委員長  これについては、眼球についてはもうちょっと整理しないといけないことがいろいろ あるので、事務局からよろしいですか。 〇朝浦室長  事務局としては脳死後の角膜の眼球の摘出と理解しております。 〇黒川委員長  眼球、角膜については整備しないといけないことが実はあるということがありまして 今真鍋委員の方に、委員長をしていただいておりますので、真鍋先生から今のことに関 してご意見をお願いします。 〇眞鍋委員  この問題が起こった後、朝日新聞であったと思いますが、朝日新聞に角膜も利用した という報道がありました。その時に私ははじめて角膜も提供してくださった。全部の臓 器を提供すると報道されていたが、角膜のことが全く出てこなかったので、どうなって いるのかなと思いながら、しかも高知にはアイバンクがないのです。唯一アイバンクの ない県で眼球も提供するということになったら、どういうことになるのかなと、ちょっ と内心ですが心配しておりました。そうしたら朝日新聞の方から、実はこうこうで上野 先生のところでやってくださったというので、私は後から新聞社の方から教えていただ いて知ったのです。  脳死からの臓器移植のこの法案ができてから、角膜移植というものの、今までのアイ バンクのやり方が見直される時期に来ておりまして、アイバンクの中ではドナーカード を拒否しているようなアイバンクもありまして、うちは絶対に献眼登録だけでいく。ド ナーカードで提供された人に対しては全部断っているという県もあります。  そういう全く我々としては理解できないような対応をしているアイバンクもありまし て、これは余程調整しないといけないという感じはしております。  高知県につきましては、上野先生もいいましたように、読売さんが一応代行をしてく ださってまして、全くないといっても読売のアイバンクが支障なくやってくれているの で、その点では法律的にも問題はないと思います。  ただコーディネーターが、脳死下での提供の場合のコーディネーションの仕方と、心 臓死で角膜などの提供の時のコーディネーションの仕方がちょっと違うのではないかと 思います。時々トラブルが起こっておりますので、そのことにつきまして、現在ワーキ ングを作って整合性を出すように今頑張っており、そのうちに答えが出ると思います。 〇黒川委員長  ありがとうございました。今真鍋委員のおっしゃった通りです。角腎法からなってい るところ、実際は日本の場合には角膜移植の希望者と実際のアイの数のディスクレパン シーがかなりあって、この辺を整備しないといけなので、真鍋委員から委員会を作って いただいて、もうそろそろ出てくるのではないかと思いますが、どうするのかという話 をしております。実際はその背景にはアメリカでは摘出された眼球と実際の角膜移植の 数からいうと、眼球がうんと余っているという状況がありまして、そのようなこともあ るので、この辺も全部整備しないといけないということで、今お願いしているところで あります。  その他に何かこの件につきましてございますか。もしよろしければ、全体を通してご 質問、ご意見がありますかということで伺いたいのですが、実はその他にも今日は参考 人というのは変な話ですが、最初の高知の話ですが、脳死の判定その他についてご質問 があったところです。  資料の最初の高知の1−1の脳死の判定の1度目、2度目、1度目は無呼吸テストが 10分で、Pco2とPo2の値が出てますが、2度目のときには無呼吸テストの8分36 秒、2度目が8分28秒となって、Paco2とPao2が記載されてますが、10分間人 工呼吸器を外すということになってますが、これについて西山先生いかがでしょうか。 〇西山部長(高知赤十字病院)  二度目の脳死判定の無呼吸テストですが、これは3分目、5分目、8分目で血液ガス を取っております。5分後の血液ガスがco2が74.4と60を越して75近くまで上がって いるわけです。その74.4の結果が戻ってまいりましたので8分36秒目になりますので、 この時点で打ち切った。そして8分36秒ですから8分目の血液ガスはとってます。機械 に入れている最中で結果はまだ出てません。その8分目の結果が、co2が85.4という ことであって、8分36秒で止めてますので、恐らく36秒たってますので、恐らくこれは 86くらいには上がっていたと思います。  ちょっと測定する誤差はあります。血液ガスの検査データがリアルタイムで出るわけ ではないからということです。2回目の8分28秒というのは、そういうことで5分目の 血液ガスが68.0まで上がりましたので、その結果が分かったのが8分28秒の時点である ということです。 〇黒川委員長  これは実際には10分間呼吸器を外すという話についてはどのように整合性をするのか ということについて、何かございますか。  つまり1回目は10分までしているということだが、これは10分の値なのかそうではな いのかということについてはどうでしょうか。 〇西山部長(高知赤十字病院)  1回目の時は10分間外して行っております。このときの無呼吸テストのことについて はいろいろあると思います。10分間という時間よりもco2の値の方が問題である。c o2が60を越している時点で、実際に呼吸が出ているかどうかということです。  ただ10分までやったのは、ある報告によりますと、75mmHgまで上がったときに呼吸が 出たという新宮先生の報告とかがいろいろありますので、このときは10分間外して行っ たということです。 〇黒川委員長  すると、メディカルな先生方の判断に従ってこのようにやられたと理解してよろしい でしょうか。するとそれなどについても、実は竹内先生コメントがありましたら、今日 はまた武下先生や島崎先生もおられますので,ちょっとコメントをたいだければと思い ます。よろしいでしょうか。 〇竹内委員  今西山部長の言われたとおりですが、武下先生から一言コメントをいただいた方がよ ろしいかと思います。 〇武下名誉院長(小倉記念病院)  今西山先生からご報告のありましたことは、非常に妥当なところでございます。時間 が大事か、Paco2が大事かということになりますが、本来の目的はPaco2であ りますが、大体時間で見当がつくものであります。  先程も言われましたようにタイムラグというのがありまして、今リアルタイムで出る のがあるのですが、これは非常に高価でとても一般の病院が持つようなものではありま せん。その他では、私は全体を通して、この無呼吸テストには全く問題はないと思って おります。しばしば報道などで無呼吸テストのリスクが言われましたが、これは私ども も竹内先生と一緒に覚書を出してありますので、それをよく見ていただきますと、大多 数の症例で安全にできるわけです。この2回目のやり方などは、恐らく覚書を見ていた だいて、その通りにやっていただいたのではなかろうかと思います。 〇黒川委員長  両方とも実際はPao2の場合には200 以上は十分に保たれているというと、Pac o2がここまで上がって、次の予測もあるかも知れないが、これでも自発呼吸があるか も知れないというポイントをきちんと押さえられたということであると思います。  その他に救急の立場から今回の脳出血の方ですが、島崎先生と貫井先生からも伺いた いと思います。 〇島崎教授(杏林大学)  無呼吸テストに関しましては特に問題はなかったと思います。マスコミ等で無呼吸テ ストは非常に危険で云々という誤解があるのですが、ガイドラインにも危険な場合には ただちに中止するということになっております。実際に不整脈が出たりとか、血圧が下 がったり、あるいは場合によっては低酸素血症になったりした場合はリアルタイムで、 これ等でわかりますから直ちに中止します。ですから今回テストをやりおえているとい うのはそれなりにテスト中異常事態に陥ってなかったということですので、今回は特に 問題はなかったと思います。  それからお聞きしたいのですが、2度目の脳死判定の検査が午前11時40分から午後5 時45分と約6時間と非常に長時間に渡っているようですが、これはどうしてでしょ うか。 〇開発院長(高知赤十字病院)  まず一つには、1度目というか25日に一応臨床的脳死から法的脳死でないという判定 を下しております。そういうことで、非常に慎重にならざるを得ないということは、判 定医にかなりプレッシャーにかかったのではないかと思います。 ノイズを取る等の工夫に対してかなり努力がいったということ、記録も見せてもらい ましたが、結局30分ではなく、その後にまた30分取ったりして、これが良いか悪いか私 には分かりませんが、かなり慎重にさぜるを得なかったのではないかというふうに聞い ております。  もう一つは聴性脳幹誘発反応についてもノイズ等で少し時間がかかっているというふ うな、その二つの点で時間が非常に係ったようになっています。以上でございます。 〇黒川委員長  島崎先生よろしいでしょうか。その他にございませんか。 〇島崎教授(杏林大学)  救急医学会とか脳神経外科は本来臓器提供とは基本的には対極の立場にあるといいま す。しかし脳死状態となってしまったのちは、次善の策として、ドナーの方の意思と、 家族の御希望をかなえる橋わたしをしてあげたいわけです。臓器提供施設としてはその 意味で協力していきたいですが、実際に400近い臓器提供施設でアンケートを取ってみる と、積極的に協力するかという施設は多いとみるか少ないとみるか別ですが、半数ぐら いです。  積極的には協力できないとする約半数の施設の大半の意見は、一つは病院内の準備不 足とか環境の不整備ということですが、もう一つは、多くの救命センターでは若い先生 方を含めて、肉体の限界で働いているのです。ですからこれ以上の負担は御免だという ことです。実感としての意見は非常によく分かります。そういうことも含めてドナー施 設へ国あるいは社会が充分に理解を深めていただきたいと思っております。 〇黒川委員長  ありがとうございました。では貫井先生、私は最初に桐野先生にも伺ったのですが、 脳神経外科の立場としてでもよろしいですしお願いします。 〇貫井教授(山梨医科大学)  今回の脳死判定に関して、報道を見ておりましてまた今日説明を受けましたが、1例 目ということで大変なプレッシャーの中でやっておられた。僕等の臨床医としますと、 日常臨床活動をどうしていたのかと思うくらい心配しておりました。ああいう状況で今 日経過を見せていただきましたが、大変に慎重に的確にやっておられたということに関 して、脳神経外科医として、実際に判定をされた先生方に敬意を表したいと思っており ます。  今島崎先生がおっしゃいましたように、脳神経外科学会というか、脳神経外科の医者 としましても、患者さんの貴重な善意、ご家族の方の善意を生かすために協力をするこ とに関してはやぶさかではないのですが、いろいろな状況がまだまだ整ってない、是非 移植医の先生方もそうですが、それを含めた移植医療に携わる厚生省を含めた方々の協 力と、とにかくマスコミの協力は大変に必要であると思うのです。今回も大変に苦労さ れたと思うのですか、そういうところを是非考慮していただきたいと思っております。 以上です。 〇黒川委員長  ありがとうございました。何か他にございますでしょうか。ございませんようでした ら、何かありましたらまた受けますが、次の議題に入りたいと思います。  今回の臓器移植に関わるいろいろな論点がございます。先程からいろいろな方から発 言をいただいておりますが、とくに今回については情報公開という論点とプライバシー の保護という視点、あるいは報道のあり方等をはじめとして、いろいろな問題が既にい ろいろなところから指摘されているところであります。  今後このようなことについて、この専門委員会においていろいろな課題についての検 討をいただきたいと思っております。どういう課題があるのかということを明らかにし て一応整理していただきたいと思います。  そこで今回の移植に関わる論点について、大枠を事務局でとりまとめて整理していた だきましたので、それについて事務局から説明をいただきたいと思います。 〇朝浦室長  では資料2につきましてご説明をさせていただきます。これはあくまでも事務局のた たき台ということでご覧いただきたいと思います。  今回の臓器移植が起こりました後、私どもの方でも事務的に検討し、また今回今日の 議論でも出てまいっておりましたが、幾つかの大枠の論点に分けられるのではないかと 考えております。  1点目は、移植医療の透明性の確保とプライバシーの保護の両立をいかに図っていく かという問題でございます。  移植医療というのはドナーとレシピエントを遮断するという大原則がございます。そ ういう立脚点に立って、プライバシーの保護の問題と、透明性の確保をいかに図ってい くべきかということを今後検討する必要があるのではないかと思っております。  2点目は、臓器移植を支えるシステムをいかに整備していくかという問題でございま す。臓器提供施設、斡旋機関、厚生省を含めて関係機関が総力をもって臓器移植にかか わる必要があるわけですが、今回、一連の作業の中で幾つかの手順のミスとか、あるい は単純な計算ミスとかで非常に皆様方にご迷惑をかけているという状況を真摯に受け止 めて、今後、2例目や3例目にはこういうことがないように、それぞれの関係機関にお いてきちんとした体制整備を図っていく必要があるのではないかと考えております。  臓器提供施設におきましては脳死判定の手順にミスがあったということで、この点に つきましては厚生省の規則で示しております規定についての周知徹底を図るなど、その 他の臓器提供施設において守っていただくべきガイドライン等についても周知徹底を図 っていく必要があるのではないかと思っております。  臓器の斡旋機関につきましては心臓の移植希望者の選択の過程において、ミスがあっ たわけですが、こいうことを含めて中立公正な斡旋ができるような体制整備をきちんと 図っていく必要があるだろうと思っております。  コーディネーターのあり方につきましては、先程小中さんからもお話がありましたよ うに、必ずしも十分なドナーからの信頼を得てなかったという反省点な聞かれましたが 今後ここに書いておりますような、ドナー家族の心理的なサポートを図っていくことも 含めて、再度あり方について検討していく必要があるのではないかと思っております。  私ども厚生省としましても、ドナーのご家族の方からプライバシー保護の問題につい ても厳しいご指摘をうけておりますし、あるいは我々がこれまで発してきました通知あ るいはガイドラインの中で、非常に不十分な文言とか、あるいは意を尽くしてない文言 等がございまして、現場サイドに非常に混乱なり、あるいはご迷惑を与えているという ことがわかりまして、まず直すべき点は直していきたいと考えております。  個人情報を保護するための体制ということです。今回は報道等によって個人に関する 情報がかなり早い段階から伝えられて、結果的にドナーのご家族に非常に心痛を与えた こと、これにつきましては我々としては非常に重く受け止めておりまして、今後関係機 関が個人情報の保護に万全を期するように、それぞれの最善の努力をはかっていく必要 があるのではないかと思っております。  具体的にどのような体制を整えていくのかというのが、検討課題としてなってくるの ではないかと思っております。  3点目の論点です。今回の脳死判定等にかかる医学的評価についてでございます。本 日審議の中でも救急治療の面、脳死判定、あるいは臨床的な脳死判定、脳死診断につい て様々なご議論が交わされましたが、最初の事例でもございますし、ご家族と病院のご 了解が得られれば、救急治療それから脳死判定等について、専門家による医学的評価を 行っていく必要があるのではないかと思っております。この評価の仕組みをどのような 方法で行っていけばいいのかということをご議論いただければと思っております。 〇黒川委員長  ありがとうございました。資料の2について簡単な論点整理ということであったわけ です。  1点は、移植医療の透明性確保と関係者のプライバシー保護の両立をいかに図るかと いうことで、ドナー側の、ドナー及びそのご家族のプライバシーの保護、レシピエント 及びその家族のプライバシーの保護、移植医療の透明性についてという3つの論点。  2点は、臓器移植を支えるシステムをいかに整備するのかということについて、提供 施設のことについて、先程私もちょっと言ったわけですが、準備状況がかなりそれぞれ で違いますから、その手続きの周知徹底、勿論ネットワーク、厚生省もそうですが、何 かあったときに、すぐにスタンバイしながら適切な対応ができることというのは、今ま でずーと考えていたのですが、具体的におこると、腎臓の移植でさえも、書いてない思 ってないようなことがどんどん出てきますので、その意味では対応をどうするのかとい うことが凄く大事だと思います。  それから臓器の斡旋機関としての日本臓器移植ネットワークの体制整備、移植希望者 の選択等についてのこと、さらにスムーズにして間違いがないようにする、臓器移植の 移植提供に対する意見もっている提供者・家族に対する提供への意思を貫くための心理 的サポート。移植コーディネーターについてもそうですが、ドナー側のコーディネー ター、レシピエント側のコーディネーター、いろいろなコーディネーターの立場という のがありますので、この辺もネットワークとしても非常に苦心しているところでありま す。マンパワーの養成、教育というとこもあるわけです。  厚生省という当局のガイドラインその他もありますが、この方も、書いている方は皆 が分かっている人達が書いているので、分かったつもりになっているのですが、受ける 方は全てバーチャルな世界の話をしているわけなので、なかなか意思の疎通が十分でな い。出す方と受ける方は違うということについてどうしようかです。  個人情報を保護するための体制です。  3点目は、今後の医学的評価についてということもあります。事務局がいったように 救急の治療と脳死判定等についても検討したいということです。これについては、また 次の資料について簡単に説明させていただきます。  この論点について、何でもよろしいですからご意見を簡単でよろしいので1.2.3 特に1と2についてご意見をいただきたいと思います。野本委員どうでしょうか。 〇野本委員  大体、移植学会理事長という立場で話せということであろうと思います。今度のよう なケースが起こった場合には、これは法に基づいて行動されるわけですから厚生省がき ちんと指導してネットワークを動かしていく。さらに移植施設を動かしていくという形 になろうかと思います。  我々医学界というのは法・省令・ガイドラインに書いてないことを担当するのが役割 になると思います。今度、あの間に移植学会として実際に担当したのは長年培ってきた 全包囲型支援体制がゴーで、動けという指令を出しただけのことです。これからああい う一連の動きの中で何かということになってきます。一番クリティカルなことは、情報 がメディアから横っ腹に来ることを避けて、僕は政府や移植学会から真っ正面に来る情 報だけしか入らない体制でいろいろな判断をしていったわけです。それを見てまして、 あれだけの短い時間に動いたとしては、うまくいった。  ただ問題はどこからか情報が早くスースーと抜けていく。これはどこから抜けていく のか、勿論メディアはメディアという専門職ですから情報を探してやっていくプロであ るのはわかるのですが、我々としては、患者さんが望まない情報が出ていくことは、き ちんと断ち切っていく努力はしないといけない。それと情報の公開は意味が違います。  高知のドナーの家族の方も情報公開を嫌がったわけではないというのは非常にはっき りしておりますので、その当たりは考え直さないといけないと思っただけです。後は本 当によく動いたという感じで、この3つの大きな問題に関しても、致命的であると思っ たところはありません。改善しないといけないところは随分ありましたが、これは致命 的で途中でストップかとの気持ちに追い込まれたことは、ありがたいことになかったで す。 〇藤村委員  私は肺移植を専門としているものですから、今回、肺移植はどうなるのかと思って注 目していました。肺の移植にはご存じのように両側肺移植と片肺移植がございまして、 そのうちのどちらの移植がどのような順序で決まっていったのかというのは大変に関心 深いものでした。結果的には医学的理由ということで肺移植は行われなかった。これは 恐らく気管支鏡で喀痰をとってみたら、それが膿性であったということであったためと いうことであったと思うのです。それにしては血液ガス所見がわりと良いということで すので、胸部X写真ではどの程度であったのかというのは、大変に知りたいところでご ざいます。  それはそれとして、今回の移植については、大変に上手くいったと私も評価して ます。ただ情報公開あるいはプライバシーの保護ということが、今回一番大きい問題と して残ったのというのを通説に感じます。これについてはこれからメディアの方々と共 に、しっかりした協定を作って、守っていかなければならないと感じております。 〇眞鍋委員  今度の場合に本当に、高知日赤及び関係の方々の大変なご努力で非常に上手くいった のではないかと思います。今後第2例第3例が起こった場合に、これと同じような細か い手違いが起こらないようにやっていく必要があるとは思います。 〇矢崎委員  情報公開と報道とはまた別問題である、というのは今のご指摘の通りであると思いま す。もう一つ、私が指摘したいのは第1例目でこんなに上手くできたのは、外国での医 療技術の発達をそのまま取り入れたということで、外国では多大な努力と多くの犠牲を 払ってこういう医療技術ができてきたわけです。私どもはわが国でもこのような医療技 術の開発というのは、この臓器移植だけではなく、いろいろな方面で国民的な議論を進 めて、コンセンサスを得て、どうすべきかということを考えて、常日頃医療は国民とと もにあるとういうことを意識しながらしないと、突然こういうことが起こったので、報 道の方も客観的でない、いろいろな情報に振り回されたということになると思います。  常に、先端医療技術がどうあるべきかということを、国民全体で自分のこととして議 論をすすめていっていただきたい。そうすればこのような過剰な反応も起こりません。  肝臓移植の方は生体部分肝移植が行われておりまして、これはわが国が誇るべき技術 であると思いますが、心臓の移植に関しては、勿論、阪大、国循の先生方のご努力を感 謝申し上げますが、外国の今までやってこれらた方々に深甚なる感謝を申し上げ、わが 国もこういうものをもう少し自分のものとして、報道の方も国民の皆さんも、考えてい っていただきたいというのが私の願いでございます。 〇黒川委員長  肝臓移植、生体肝移植の話がでましたが、田中委員からどうでしょうか。それは別と してでも結構ですが、今回信州大学にも参加されましたのでね。 〇田中委員  この移植医療が成熟してくれば、この報道との関係もちょっと変わってくると思いま すが、現実には患者の方に力を加えるべき、あるいは家族に十分に配慮すべきところを かなりの部分が報道への対応にも振り回されるというのが現実ですので、もう少しその 辺はちょっといろいろなところで整備できる可能性はあるのではないかと思います。  というのは一つ一つを、こと細かにデータを出すのがいいのか、それともじーとある 程度たってからきちんとプロセスを公開するのがいいのか、その辺はもうちょっと1例 1例の中で論議していけばいいのではないかと思います。 〇黒川委員長  情報公開といてっもリアルタイムで全部を知らせないといけないのかというのは、全 く別な話であると思います。その点からいうと大島先生いかがでしょうか。 〇大島委員  私も移植医療の今度の透明性ということと、プライバシー保護の問題は大変重要だと 思います。あれだけ大きく報道されるのを見ていて、これほど大変な問題であったのか というのを片一方で思いながら、しかし、これで本当に良いのかということを常に考え ていたわけです。  元々、公益であるとか公共性というのはオープンという言葉で語られる話で、プライ バシーというのはどちらかというと密室でこそ守られるわけですから、公共性とプライ バシーというのは、非常に相性が悪いというのは当然のことであろうと思います。これ は医療にずーと関わっておりますと、常に考えさせられてきたことであると思います。  移植医療に関する公共性とは一体何を基準にして、誰が決めるのか、公共性とは何か というのが、実は誰も移植医療における公共性、公益というのはこうであるということ を具体的に提示することがない。実際に私は見たことがない。考えなければいけないの は、基準になるのは、31年前の札幌で行われた和田移植が、一番基準になることであっ て、一体何が指摘されたのかというのを一つの基準にして物事を考えていくべきではな いか。  あの時に指摘されたことはそう沢山あったわけではないと私は思います。脳死判定と 移植医が一緒であった。医学的事実が非常に不透明であった、不明瞭であった。あるい はプロセスが非常に不透明であった。あるいは医学的事実を証明する材料というのはど こかにいってなくなっていた。そういうような具体的にあげてもそう沢山のことはない し、そういうことを基準にして物事を考えたときに、公共性とか公益というのは、これ から日本の中で移植医療をきちんとした形で進めていくために、社会にどれだけの材料 をあたえるべきかというのが、札幌の反省の上に立ったところで、ある程度考えられて 出てくるのではないかと私は思っております。  この問題の多くは、全ては思ってませんが、メディアの方の自主的判断、あるいは自 主的な物の考え方で、ある一定のガイドラインかどうかは分かりませんが、そういうも のが基本的に示されて出てくるべきではないかと私は思います。 〇黒川委員長  これは実際の今の移植患者さん、あるいはレシピエントになりうる人を沢山診ておら れる先生方からお話を聞いたのですが、実際に救急の現場に関わっておられる桐野先生 今回の今いった問題点の整理について、どこでも結構ですのでお願いします。 〇桐野委員  この脳死移植がなかなか進まないという段階で、第1例がどういう形で行われるのか というのは、個人的には随分心配していたのです。寺岡先生がおっしゃった通りで、い ろいろな難しい問題があったにしても、それを全て守った形で、100 点満点の移植をす るしかない。もし簡単に上手くいかなければ10年かかっても構わないということを彼は おっしゃって、なるほどそのように移植側の先生は考えておられるのかと思いました。  ところが今回行われました移植は、もういろいろな委員の先生がおっしゃられた通り で、殆ど問題なく、致命的な欠陥がない移植が行われたと思います。  その意味でこれに関わっている人達は、30年前に行われた移植のときとは精神構造が 根本的に違ってますし、あるいはこれは医学界に対していろいろと報道側から言われて おります不信感を、ある程度改善させる非常に良いチャンスなので、その意味で、情報 公開というのはされた方がいいと思います。これと個人のプライバシーは全く別問題で す。それはマスコミの方も十分におわかりになると思います。  我々は脳死の移植に関しては、治療の敗北のところから次の新しい治療の勝利がはじ まってくるというところにおりまして、何となく我々にネガティブな役割を負わされる わけですが、しかし脳外科学会も、既にこの脳死移植については基本的に協力していく という立場を表明しておりますし、私自身も可能なことは協力していきたいと思ってま す。 〇黒川委員長  ありがとうございます。もう一つ救急の場、それから今回の脳死判定その他につきま して、ぜひ竹内先生から一言いただきたいと思います。それだけでなくても結構です。 〇竹内委員  今までいろいろとおっしゃったことに尽きると思います。私は日頃から我々の立場と いうのは、ドナーになる患者さんの治療の現場なので、その現場に対する理解を望んで います。要するに脳死判定をスタートするということは、あらゆる可能性のある治療方 法を全てやったという段階からスタートするのであって、治療に手抜きがあったという ことを考えられる方がおかしいのではないかと考えております。  一方で移植の成績をよくしたいということからいいますと、脳死判定あるいはその前 の段階というところを、できるだけはしょって貰いたいという希望があります。これは 両価性の問題になるわけです。今回のような形ででも、とにかく脳死判定が行われて移 植をした。しかも現在のところは成功しているというところからいって、納得していた だけるのではないかと思います。 〇黒川委員長  この脳死の法制化からずーとやってきていただきました町野先生。法学部の教授の立 場からしていかがでしょうか。 〇町野委員  あまりお時間をおとりするのも何だと思いますが、出発点は30年前の臓器移植、心臓 移植事件から始まっただろうと思います。あの時から随分マスコミの方も違いますし、 医療関係者の意識も違いますし報道もそれぞれ違ってきていると思います。  プライバシーの保護と報道の問題についていいますと、これは私の感想かも知れませ んが、あの時期のマスコミ側の医療機関に対する欺瞞というのは、相当のものがあると いう感じがします。結局最初のいろいろな情報の提供というのは殆ど医療側がやってい たわけです。マスコミ側の積極的なものはなかったと思います。それでマスコミの側は 最初は大成功であるということで、最初は非常に諸手を挙げて賛成のような感じであっ たのですが、一転してある時点で変わってしまったのです。それが丁度大本営発表のよ うな感じてあったので、それがあった。  確かにマスコミの方も世代が代わってはいますが、それが受け継がれてきているので はないかと思います。  ですから今回の点でも確かにリアルタイムで報道することと情報の公開は違うのは確 かですが、一つ一つの過程を粒さに見たい、そして我々の側にも見せてもらいたいとい う意識があるのはやむを得ないだろうと思います。リアルタイムで見せて、しかしそれ も全部とっぱらって、それを通過点として何もかも全部外に出してしまうのは、マスコ ミとして問題であろうと思います。  ですから報道協定というものもありますが、でも情報管理に繋がるようで、私として は楽しくない、しかしどうしたらいいのかと聞かれると非常に難しい問題です。 〇黒川委員長  ありがとうございました。今日来ていただいておりますが板倉先生、法学者の立場か らどうでしょうか。 〇板倉委員  臓器移植に係る論点の事務局案には全く賛成です。このような問題について検証して いくのは非常に大事なことであると思います。問題は移植医療の透明性の確保とプライ バシー保護の両立が非常に問題です。今回でも透明性確保という見地からしますと、第 2回目の脳死判定の終了時期は発表されてないわけです。これはご家族の意見でもあり ますから、今回はやむを得ないかも知れないのですが、その終了時期は非常に重要なこ とで、そこで法的に死亡したということになるので、非常に重要な情報ですが、伝えら れなかった。これはご家族はそうですし、今回はそうすべきであると思いますが、そう いう状況は作ってはいけないのだろうと思います。 〇黒川委員長  それからこれはこの委員会そのものが全部公開しているのでね。そうでなければ多分 出したと思います。 〇板倉委員  そういうことですから、今回はこれで仕方ないと思いますがね。それにしてもどうい うことを発表するのか、マスコミの一部に相当の行き過ぎがあったのは確かです。相当 に混乱するので、こちらの方で十分に検証した上で、ガイドラインをある程度これらこ の委員会で作って、示していくということが必要ではないかと思います。そうでないと 混乱をしてしまいます。そういうことでございます。 〇西山部長(高知赤十字病院)  何度もいいますように、住所が公表されてなければ、第2回目の脳死判定時刻は公表 しますと家族はいっております。 〇黒川委員長  そういうことです。こういうことは患者さんを特定してほしくないためなので、今日 は公開されていても、来ている人達はそういう人達ばかりであればいいのですが、多分 その人達の上司とかもいて、そういうこともあるのかなと思って、わざわざ消している だけの話です。浅野先生いかがでしょうか。 〇浅野委員  私は犯罪報道と人権の関係をずっとやってきました。今回の事態で今までは、つまり 凶悪事件を起こした人はけしからん、その家族友人を含めプライバシーを暴くというの が昔あって、ここ数年前から被害者が例えば女性であれば、そのプライバシーを暴くと いうのが筑波母子殺人事件とかそういうことでおきてきて、一昨年は東電社員殺人事件 でも、被害者の女性の情報が流れました。そうしたメディアの暴力が、いよいよ善意の 提供者にまで被害を及ぼしてきたということが象徴的であると思います。  これまではマスコミはいろいろな問題があっても、そこまではやらないだろうという のが、恐らく社会の中にあったのが、ここまで来てしまった。これはテレビのカメラが 非常に小さくなったり、衛星を使った中継が直ぐにできたり、予期せぬ事態が起きたと いうことです。  今回の一番の問題は、大変に失礼ですが、高知赤十字病院という名前が出たこと自体 です。私がこのようにいっていることも問題ですが、僕は西日本または中・四国のどこ かの病院で良かったのではないか、あるいは日本のどこかの病院でよかったのではない かと思っているのです。まず、そこは出発点であって、その上でご家族の方の了解を得 ながら公開をしていく。そういうやり方を本当はすべきであったのではないか。  ところがこれを一番最初に破ったのが日本放送協会という公共放送機関であったとい うことです。25日の午後7時のニュースで私は見てないのですが、何度も何度も脳死判 定の正式な手続きに入ってもない段階で、NHKがこれを報道した。これは大変な事態 であると思っております。  これまでは、朝日新聞や毎日新聞や読売新聞、共同通信、とかNHKというメディア と、ワイドショウと週刊誌を分けて論じる研究者が沢山いたのですが、これは去年の和 歌山カレー事件でもそうであったのですが、殆どのメディアがワイドショー化する、そ ういう状態の中で今回の事態が起きてしまって、ドナーのご本人の方は、まさかこのよ うに取材・報道されるとは知らないままにいるのではないかと思います。  そのことが一番の問題です。ところがそのNHKは、その報道について全然反省して ないです。私の知る限りですがね。各紙の報道によると全然問題がなかったようなこと をいっているように思います。新聞社によっては問題があったということを認めて検証 されている新聞社もあります。  私は情報開示とプライバシー保護は対立しないと思います。どこにパブリックインタ レストがあるかということであってね。医療機関の方が一生懸命医療の進歩のためにや っておられることが、正しく市民に伝わればいい。ですからこの患者の方の名前や顔や どういう人であったのかというのは特定する必要はないわけです。これは少年事件で例 えは匿名性を守りながらも、その少年事件がなぜ起きたのか、非行がなぜ起きたのかと いうのを社会が学ぶことができるように、これは医療というのはまさにそういうことが 保証されないと実現できない分野であると思います。他のものに比べると、一番そうい う患者のプライバシーが保護されないと、医学の進歩はありえないと思ってます。  ですから、二つを対立的に捕らえるのではなく、まず家族の方が特定されたくないの だということをいっているのですから、匿名報道を絶対に守るということを社会全体が 約束したい。しかしどうしてもそれを特定しないと脳死移植に関する議題設定ができな い、市民の間で議論をすることができないという段階がくれば、しかしこのことは、一 部の方が協定とかいっておりますが、私はこの委員会でそいうガイドラインを示すべき ではないと考えております。そういうものを作ってほしいと言いたいのですが、作るの は、そちらの傍聴席にいらっしゃるプレスの方々が自主的に作らないといけない。絶対 に厚生省とかはすべきでないですね。僕は医学の学会は関与してもいいのではないかと 思いますが、政府とか政党とかが原則的に関与すべきではないと思います。  ただしいつまでもこのまま続くと、法制化もやむを得ないという議論があってもいい と思います。私はそれを支持しませんが。 イギリスでは国会のカルカット委員会とかが、メディアがちゃんとしないと、プライ バシー保護法を作るぞとか、そういうことを通告した5年の猶予期間を設けて、メディ ア界に要望するとか、そういうことを一貫してやってきた。イギリスの報道倫理綱領で は、医療に対するプライバシーというのは第6章できちんと数行に渡って明示されてい るわけです。そういうお手本がスウェーデンや英連邦諸国にあります。私はそれをメデ ィア責任制度と呼んでいるのです。報道全体で 統一した心持ちと社会的責任を果たしていく仕組みです。  運営するのはメディア3団体です。日本で言えば新聞協会・民間放送連盟・NHK、 労働組合の組織、あるいは日本記者クラブとか、そういう組織でつくるメディア3団体 が一緒になった制度で報道倫理綱領を制定してもらって、それをモニターするプレスオ ンブズマン、報道評議会のようなものを社会的に作っていく。  それは税金ではなくメディア3団体がお金をちゃんと払ってやるべきである。テレビ に関しては「放送と人権等権利に関する委員会機構」という組織ができてもう機能して いるわけです。問題は日本新聞協会が今後どうするのかということです。例えば誘拐協 定とか、あるいは皇太子妃選びのときの11カ月にわたる、「取材はするが報道はしな い」というような取決めとか、これは良いとか悪いという論議はありますが、できない ことはないわけです。メディアの人達が真剣に今回の問題を検証する。ところがそれを メディア全体、日本新聞協会全体がやっているようには私には思えないのです。  新聞協会は個々の報道機関が対応するべきではないかという立場をとっているような 気がします。社会的に力のある団体です。新聞を作ったりして営業している団体ですか ら、そのような団体に、今回のドナー家族の訴えに耳を傾け、取材、報道上の諸問題を 検証してもらって、その時に我々も参加していく。そういう形であくまでも作るのは団 体であるということです。長くなって申し訳ないです。 〇黒川委員長  ありがとうございました。では大久保委員一言手短にお願いします。 〇大久保委員  今の浅野先生のご意見は非常に私も賛同しております。それがいいと思います。自主 的にマスコミの方に考えていただきたいとは思っております。基本的にいってプライバ シーはきちんと守っていただきたいと思っております。今の報道に関しては私はそのよ うな考え方でいったらいいと思います。  もう一つです。先程から出ている細かいデータと個人のプライバシーに関することを ある程度検証するためには、どうても公開では難しい部分があると思いますので、基本 的には、この3番の今回の脳死判定等に係る医学的評価以外に、このようなメンバーで ちょっと人数は多いのでしょうが、もう少し少ない人数で、医学的問題だけでなく、当 然レシピエントに対する選定、それからインフォームド・コンセント、ドナー家族に対 するコーディネーターの接し方、そういう全ての移植全体をある程度検証するような機 関というものを、別に設けた方がいいのではないか。そういうところできちんと、今後 これからこういうことが起きたときに、10例20例になったものを全部検証するわけには いかないと思うので、今後、移植がどんどん進む中で、そういうことをきちんと検証で きる機関を作っておくべきだと思います。それは医療的評価だけには止まらないと思い ます。 〇黒川委員長  ありがとうございました。今回一番大変だったかなと思う菊池委員どうでしょうか。 コーディネーターを代表してというのはおかしいのですが。 〇菊地委員  現場にいた者としてちょっと悩むところもあります。プライバシーの件です。私は浅 野先生のいった通りであると思います。マスコミさんはよくプライバシーの保護と移植 医療の透明性の両立という言葉を使いますが、今回の患者さんは、1点、なぜ住所をい わなければいけなかったのか。そこに限られています。  ですからそういう言葉で誤魔化すのではなく、ちゃんとプライバシーの保護、その1 点を守っていただければいいのではないかと思います。  臓器斡旋機関としましては、今回わが国ではじめての臓器移植ということで、こうし た方がいいのではないかという思いがありながらも、事前の取決めを守ることを優先し ました。ですから、今回の経験からコーディネーターの動きとしては、ガイドラインで あるとかネットワークのマニュアル等で不備な点が沢山あるかと思いますので、関係機 関の方々と相談しながら、実際に沿った形で動けるようなものを作り上げるべきではな いかと思います。以上です。 〇井形委員  これで全く賛成であります。ただこの論点を出すには、今度の事件が成功であったと か、これを妥当であると認めたとか、そういう前提に立って論点というべきだと思いま す。だからこういう委員会を作ったのだから、できればこれは評価できるという意思の 集約を図ってほしいし、もしか集約をなさらないのなら、第一に今回の移植は成功であ ったといえるかという論点をまず書くべきです。つまりマイナスの点だけが論点になっ てますが、プラスの面の論点も是非評価していただきたいです。 〇黒川委員長  すると経過を書いた上で、今回の論点についてはこれこれであるという話ですね。わ かりましたありがとうございました。  先程事務局から言われましたが資料3というのがあります。今言いましたように、今 皆様のご意見を伺ったわけですが、この論点についての事務局案についてはいろいろと ご意見をいただいたわけですので、これも次回以降に引き続いてご検討いただきたいと 思いますし、また今後審議の中で必要であれば、更に委員を追加する、あるいは今日も 沢山の参考人として来ていただいた方々がおられますが、そのように意見を伺いながら 事務局として、もっと整理をするなりしてみたいと思っております。  もう一つ、先程事務局がちょっと触れましたが、論点整理の3につきましてです。作 業班です。前の真鍋先生にお願いしたような角膜移植もそうですが、ここでは全面的に 公開しているということでやってますが、その都度、問題についてここでやるよりは、 大久保委員がいったように、それぞれアドホックの委員会を作っていただきまして、今 は角膜移植の方については整理をしていただいておりますが、それについて今度の脳死 判定等に係る医学的評価に関する作業班というのが資料3にあります。これについて朝 浦さんお願いします。 〇朝浦室長  資料3に書きましたものでござます。先程の論点の3番目の医学的評価について、ど ういう仕組みで行っていくのかということでございます。事務局の案といたしましては この公衆衛生審議会臓器移植専門会の下に、脳死判定等に係る医学評価に関する作業班 を設け、ご家族及び提供医療機関の了解の下に、今回の脳死判定等に係る医学的評価を 行うという形で進めさせていただけないかと思っております。  本作業班は患者のプライバシーにかかる資料に基づき評価する必要がありますことか ら、非公開としまして、その評価結果については、この専門委員会に報告するという形 で進めさせていただけないかと思います。  班員の名簿につきましては、ここで記載をいたしております諸先生方にまずお願いす ることとし、また必要があれば委員長ともご相談して委員を加えさせていただくという 運びでいかがでしょうか。 〇黒川委員長  いかがでしょうか。今のような事務局の提案ですが。 〇井形委員  ネットワークに中央評価委員会というのができているのです。それとの整合性をちょ っとです。何人がオーバラップしているのか、違うとしたら向こうの責任者にも入って いただくとか、そういう配慮をお願いしたいと思います。 〇朝浦室長  ネットワークの中央評価委員会は、あくまでも斡旋機関としての作業がどうであった のかということを、内部で検証する機関であると理解しておりまして、ここで現在この 委員会及び作業班で行っておりますのは、もっと全体の目から見てどうであったのかと いうことを評価するという立場で今後検証したいと思っておりますので、性格は全く違 うと理解してます。 〇井形委員  希望として、せめてオブザーバーとして誰か代表を参加させてもらいたいですね。勿 論建前は違いますがね。検討する内容はほぼ同じことを検討するわけでありますから ね。 〇黒川委員長  しかしネットワークはネットワークとして検証はしなくてはならないわけですね。 〇井形委員  でもそれで結論が食い違ったら大変でしょう。 〇黒川委員長  それはいいのではないですか。一向に差し支えないと私は思います。これはこの専門 委員会が付託する委員会ですから、よろしいのではないかと思います。もしアレでした らそれも考えます。  皆さんあまり偉い先生ばかりだから、もう少し若手の人が2〜3人いないとね。それ は事務局と相談させていただきたいと思いますがよろしいでしょか。ではそのようにし てこの作業班の作業結果については、本専門委員会の方でご報告をお願いするというこ とで、この委員会としてはそういうスタンスで受けたいと思います。これで議事として は議題は終了しました。事務局から何かございますか。 〇朝浦室長  事務局から最後にご説明させていただきます。資料の最後に参考資料が幾つかついて ございます。一つは情報の開示につきまして、臓器移植法の中で書かれております具体 的な規定をあげております。記録をそれぞれの機関が作成して、関係者からの要請があ れば、その情報を開示するという仕組みになっております。  今回、防災ヘリ等を使わせていただいたわけですが、資料2には消防庁との取決めを 簡単に書いてございます。  資料3ですが、移植医療に関する保険適用につきまして整理したものを付けてござい ますので後でご覧いただければと思います。  席上に冒頭配付させていただきましたが、本日残念ながらご出席いただけませんでし た小柳先生から、今回の移植につきましての意見というものをお配りしております。  なお、本日の議題あるいは議事の中で出ましたレシピエントのイニシャルであるとか ドナーの血液型等の個人情報に関わる部分につきましては、取扱についてはご留意願い たいと事務局からお願いを申し上げます。  次回の日程です。4月6日2時からを予定しております。まだ最終的に未確定な部分 がございますが、早急に確定しまして、正式に決まり次第先生方に追ってご連絡を差し 上げたいと思っております。以上でございます。 〇黒川委員長  ありがとうございました。今日は時間が延びてしまって、いろいろなご予定があるお 忙しい先生ばかりで、大変に申し訳なかったと思います。いろいろなご意見を十分に伺 いたいという趣旨でございましたのでご容赦願いたいと思います。このような議論を通 じて今回の最初の脳死による臓器移植についての次の対応というのが、次いつ出るか分 かりませんし、できるだけ早くこのような検証をして、さらにスムーズに次に出た場合 にはしないといけないので、できるだけ早い時ということで、今日行わさせていただき ました。  そういうことからいうと、こちら側は検証をしっかりしたいというのが一番の趣旨で ございます。先程の浅野委員、特にマスコミ論の専門家として、あるいはそれぞれの委 員の方から言われましたように、マスコミの方も自分たちの検証をしっかりして出して ほしいというのが、私は委員長として是非お願いしたいと思っております。よろしくお 願いします。ありがとうございました。                                −終了− 問い合わせ先  厚生省保健医療局エイズ疾病対策課臓器移植対策室    担 当  山本(内2361)、眞鍋(内2364)    電 話 (代)03−3503−1711