99/03/19 第6回厚生科学審議会総会議事録 第6回厚生科学審議会総会議事録 1.日  時:平成11年3月19日(金) 14:00〜 16:00 2.場 所:厚生省別館 共用第23会議室 3.出席委員:豊島久真男会長        矢崎義雄研究企画部会長 寺田雅昭先端医療技術評価部会長代理        (委員:五十音順:敬称略) 大塚栄子 軽部征夫 岸本忠三 木村利人 柴田鐵治         曽野綾子 竹田美文 船越正也 4.議  事:(1)平成11年度における厚生科学研究費補助金公募研究事業について  (2)研究企画部会の審議状況について(報告)        (3)先端医療技術評価部会の審議状況について(報告)        (4)その他 5.資  料:        1-1.平成11年度における厚生科学研究費補助金公募研究事業について          (研究企画部会報告)  1-2.平成11年度における厚生科学研究費補助金公募課題案  2.厚生科学審議会の審議状況について  3.WHO憲章における「健康」の定義の改正案について ○事務局  開会に先立ちまして、本日の総会は議事公開にて行いますので、傍聴される方々にお かれましては、あらかじめお配りしてあります要領等に従い、議事の進行にご協力いた だきますよう、お願い申し上げたいと思います。  また、本日は飯田委員、大石委員、飯田委員、茂木委員の4名の方々からはやむを得 ず御欠席の旨のご連絡をいただいております。  また、曽野委員、木村委員におかれましては現在、所用によっておくれておられると いうことでございますが、後ほど参加される予定でございます。  それでは定刻となっておりますので、第6回厚生科学審議会総会を始めさせていただ きたいと思いますが、事務局から本日の配付資料の確認をさせていただければと存じま す。 (以下、資料の確認と説明)  よろしければ、議事の進行を会長にお願いいたしたいと思います。 ○豊島会長  年度末のお忙しいところお集まりいただいてありがとうございます。それでは本日の 議題に入りたいと思います。  まず初めに研究企画部会から「平成11年度における厚生科学研究費補助金公募研究事 業について」という報告が参っておりますので、矢崎部会長からご報告をお願いいたし ます。 ○矢崎部会長 お手元の資料1−1にございますように、3月12日に厚生大臣から諮問が当部会に付 議されました「平成11年度における厚生科学研究費補助金公募研究事業について」の件 でありますが、第13回部会におきまして審議の結果、諮問どおり了承するということに なりましたので報告いたします。 なお、その詳細につきましては事務局より報告をお願いいたしますけれども、よろし くご審議をお願い申し上げます。 ○事務局 それでは事務局よりご説明を申し上げます。資料のほうは資料1−1、資料1−2を ご参照いただければと思います。  資料1−1でございます。表紙をめくっていただきますと、先ほど部会長からご報告 がありましたとおり、「諮問のとおり実施することが適当である旨決議したので報告す る」ということで、会長あてに報告がなされております。 具体的な諮問書につきましては、2ページについております。その中身でございます が、最後のページでございます。「厚生科学研究費補助金公募研究事業(新規研究事業 分)の方針について」という表がついております。  去る12月に継続の研究事業分につきまして、総会で公募方針案につきましてご了承い ただき、すでに官報告示をし、採択の手続を行っておりますが、新規事業として平成11 年度に新たに厚生科学研究費補助金の公募をとり行う2事業につきまして、その公募方 針について諮問させていただいているわけでございます。  研究事業が2つございます。1つ目は社会保障国際協力推進研究事業、二つ目といた しまして特定疾患対策研究事業でございます。  まず社会保障国際協力推進研究事業でございますが、資料1−1の1ページも参照い ただければと思います。課題の採択方針は資料1−1でございます。「医療保険・年金 公衆衛生等を含めた広義の社会保障分野に係る国際協力の推進方法の開発や、国際協力 の人材育成の在り方に関する研究」という採択方針で、資料1−2にございます公募研 究課題ということで、官報に告示をするテーマの現時点での案ということで、二つの課 題を記載をさせていただいております。  2番目のほうの特定疾患対策研究事業でございますが、資料1−2の2ページ、3 ページをご参照いただければと思います。公募の課題採択方針は、「原因が不明、治療 方法が未確立な難治性稀少疾患を対象とする発症機序の解明及び治療方法の開発に関す る研究」ということでございます。  ただし書きがついておりまして、「平成11年度の新規公募については、次の事項に関 する研究を除く」ということで、1番目といたしまして「臨床調査研究のうち次に掲げ るものを除く」ということで、1番目の血液凝固異常症から21番目のスモンまで、これ につきましては公募をしないということでございます。 公募をしない分野といたしまして「横断的基盤研究のうち次に掲げるもの」というこ とで、特定疾患の研究評価に関する研究につきましては平成11年度の新規の公募はしな いということでございます。 それから資料1−2の2ページ、3ページに、それぞれ官報で告示をする公募の研究 課題の現時点での案ということでお示しをさせていただいているわけでございます。こ れにつきまして、先ほどご報告があったとおり、研究企画部会でご審議いただき、諮問 案どおりということで報告を、この審議会の総会のほうにいただいているわけでござい ます。以上でございます。 ○豊島会長  どうもありがとうございました。矢崎部会長、何かございませんか。 ○矢崎部会長  特につけ加えることはございません。 ○豊島会長  それでは、ただいまのご説明につきましてご質疑等お願いいたします。何かご質問あ るいはご意見がございましたら、よろしくお願いします。 ○木村委員  大変わかりやすくまとめてくださってどうもありがとうございました。11年度の厚生 省の科学技術関係の予算ということで、今年度、予算の規模が少しふえて、新しい研究 という点ではいかがでございましょうか。 ○事務局 平成11年度の厚生科学研究費の内容につきましては、参考資料につけさせていただい ておりますが、ただいま木村委員からご指摘のとおり、平成11年度の厚生科学研究費の 科学技術関係の総額につきまして、初めて 1,000億円の大台に達したという点では非常 に大きな特筆点ではないかと思います。 ただし、平成11年度におきましては、その重点を、現在最も社会的な関心が高いダイ オキシン類あるいは内分泌かく乱化学物質関係に強化の重点を置いておりまして、研究 費の増額という点では、その分野の生活科学総合研究分野に大きく割いております。 また、これの実行の形態といたしましては、10年度に引き続き、原則として官報等を 通じ、またインターネットによる広報を通じた公募によりまして、特に11年度は国会で の審議が非常に速やかに行われており、次年度4月1日当初からの予算執行が可能にな るものと考えておりますので、できるだけ速やかに研究者の手元に研究資金が渡るよう 引き続き努力していただきたいと思っております。 ○木村委員  直接そのお話を伺いましてはっきりとわかったわけですが、公募研究につきましては きょうの審議もインターネットで一般の目に触れることになるわけですが、公募の内容 につきましてもはっきりしますし、応募の仕方についてもインターネットその他でご指 示なさるとおりでいいわけですが、第一に毎年何人ぐらいの応募があるというような データはあると思いますが、如何でしょうか。第二にその中から一応スクリーニングし て、いくつかの非常に優秀な研究に公募の予算がつくということになると思うんですけ れども、そのプロセスはわれわれはわからないわけですが、他省庁ですと、いろいろ審 査、インタビューその他あるようですけれども、厚生省ではそういうところをどういう 形でやっているのでしょうか。それからまた、第三に成果をどういう形で厚生省側とし ては把握しているのか、その三つの点についてお伺いします。 ○事務局  応募数につきましては概数でございますが、たとえばすでに募集いたしました、平成 11年度継続となる事業内容での新規の案件ということでございますが、約1,400件ほどの 応募をいただいて、その中から選択をしていくということでございます。 これは分野あるいは課題によりまして、より倍率が高く、数十倍に達するところから 十数倍のところまで様々でございます。研究につきましては通常3年程度もしくは単年 度、いずれかの形で行われるものが多いわけでございますが、毎年の報告のほかに、終 了年度におきまして、まとめの報告を出していただくという形にしておりまして、今年 度中にも、平成9年度におきます研究事業の報告概要を各研究内容ごとに、国立公衆衛 生院の図書館の協力によりまして、インターネットにより検索、閲覧が可能な形で提供 を準備中でございます。そのほかのものにつきましても順次同様な形で、広く一般の利 用に供しようと考えております。  また、刊行物といたしましたものについては、これを国立国会図書館等に寄託するこ とによりまして広く利用に供したいと考えております。また研究事業によりましてはC D−ROM等新しい技術の利用を進めているところもございます。  また、さらに平成11年度からの事業といたしまして、研究の成果を発表会なり、ある いは市民向けの啓発のシンポジウムといったような形で広く国民に還元していただくよ うな事業についても研究の推進事業の一環として取り組みたいということで、現在、そ ういう推進事業をいたします財団に相談を行っているところでございます。 ○矢崎部会長 すでに研究企画部会から研究の評価のあり方ということで、審議会から出させていた だきましたけれども、採択に当たります事前評価と、進行状況をチェックする中間評価 と、終了した後の事後評価と3点でチェックして責任を高めるという努力をいたしてお ります。 ○軽部委員  先ほど外因性の内分泌かく乱化学物質の研究を今回重点的にプロモートするというよ うなお話だったんですが、具体的にはもう少し内容をお話ししていただきたいと思うん ですが、たとえばゲノムレベルまで研究するようなアプローチを考えておられるんでし ょうか。 ○事務局  場合によっては、この事業を中心として運営いたします生活衛生局から補足をしてい ただければと思いますが、とりあえずは、先生方ご承知のとおり、外因性の内分泌かく 乱化学物質について、その具体的な定義についてもなかなか明確じゃないところがあり ます。  また、内分泌かく乱化学物質の作用の程度、あるいは毒性の程度と申しますか、そう いったものについても測定方法が非常に様々であり、確立をしていないといった問題も ございます。  したがいまして、現在取り組もうとしておりますところは、いわゆるそのようなもの と思われているものに加工しながら、そういったものの制度とか、あるいはその評価法 について科学的に確立したものにするための取り組み、こういったものを中心に取り組 んでいくということになっておりまして、そういったものを通じながら、いま軽部委員 ご指摘のような、おそらくゲノムレベルあるいは体毛レベルまでの掘り下げといったこ とが出てくるものではないかと思っております。 ○内山委員  今後の厚生科学研究の展開等のいろいろな原案と申しましょうか、ビジョンというの を、いま部会でいろいろお考えになっていらっしゃるということもございましたので、 言葉といいましょうか、分類といいましょうか、考え方というのを少し確認をさせてい ただきたいと思ったんですが、本日の諮問書の中にございますきわめて簡単な言葉で、 特定疾患医療関係の中では原因と対策に関することが書いてありますね。発症機序の解 明と治療方法の開発と。これは明らかに原因と対策だと思います。この二つをその下で 読みかえているのは、臨床調査研究と基盤研究というふうに読みかえております。これ もある程度正しいというか、表現としては正しいと思います。基盤研究は各分野に共通 の方法論を使うから横断的という言葉を使われたんだと思うわけです。  一つ伺いたいのは、これまでいろいろな病気についてのお話が出てまいりましたが、 臨床調査研究という言葉が比較的新しい感じがいたしますが、今後はこういう言葉をお 使いになるのかどうかというのが一つです。  もう一つは、各疾病に関して治療薬の開発というのは、医薬品開発のほうにまとめて それを横断的な治療薬開発のための研究というふうにまとめておられるというふうに考 えてよろしいのかどうか。この二つを伺いたいと思います。 ○事務局  場合によっては、この事業の所管であります保健医療局から補足をお願いするべきか とは思いますけれども、新しい事業としての特定疾患対策研究事業は実はかなり古い伝 統を持っておりまして、いわゆる難病の研究の中に包含されていたものを、やはり競争 的な環境による公募型の研究に切りかえるということで、平成11年度から厚生科学研究 補助金事業のほうに組み入れたものです。いわば旧事業を廃止して、こちらに新設をし た形になっております。したがいまして、形式的には新しいものでございますが、事業 内容としては、疾病に着目した臨床調査研究ということでは相当の伝統を持っているも のでございます。 したがいまして、おそらく現在、研究企画部会でいろいろご検討いただいております 新しい厚生科学研究のあり方の中で、またご議論の結果によっては変更が出るかもしれ ませんが、「臨床調査研究」という言葉は当面引き続き採用されるものではないかと事 務局では考えております。 また、厚生科学研究の特色的なものではありますけれども、縦割り、横割りの両方が 組み合わさった形で事業が展開しております。その様な中で医薬品に関しましては、そ の安全性等の確保に着目いたしました医薬品等総合安全研究ともうしまして、医薬安全 局が所管課となって進めておりますものと、健康政策局研究開発振興課が所管課となっ ております創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業といった、新しい医薬品開発にか かわる事業、それから厚生省の外郭団体であります医薬品機構におきます保健医療分野 の基礎研究といったような事業、さまざまな研究が厚生科学の中で進められており ます。 力点をどちらに置くかによりまして、いわゆる医薬品開発を目しているものであって も、特定疾患に着目して、その治療方法の開発の一環で取り組まれるという形で、疾患 に起源を置いた研究事業の中に包含されている医薬品あるいは医療機器開発もあります し、それから創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業のように医薬品の基盤的な技術 の開発ということで、医薬品の開発の中に整理されているもの等、両方ございます。こ れらのあり方につきましても、厚生科学研究というものの特色の中で、どちらにもそれ ぞれ一理ある点ではないかと思っておりますが、今後のあり方の論議の中でまたご指摘 いただければありがたいと思います。 ○内山委員 よくわかりました。したがいまして、医薬品開発に関するものは、いま言われた三つ のところに横糸の関係で入っているわけですから、できればそのほかの分野で医療でも って取り上げられているいろいろな疾病、これは大切だと言っているわけですから、そ れに対するものが重点的になるという感じを受けざるを得ませんが、それでよろしいで すか。 ○事務局 縦糸、横糸の関係についてはやはり厚生科学審議会、また研究企画部会を中心にご論 議いただく中で、うまく縦糸、横糸がそれぞれ補い合うように、織り上がるようにご意 見をいただければ一番ありがたいことだと思っております。 ○内山委員 あまりにも病気の名前がたくさんありまして、それを全部を重点的に医薬品開発をし ろと言われて、医薬品開発の予算がどれくらいついているのか、いま頭の中で計算して いたものですから、なかなか大変な作業だなと考えております。 ○高原課長 補足させていただきます。ただいま事務局から申し上げましたように、縦糸、横糸の 両方から、これは基本的には研究者の方々がアプライされるわけですので、何が重点的 かというふうなことはある程度は、こういった公募資料の中でここらへんが重点だなと いうシグナルを送ることはできるわけですが、そこに応募がなければ仕方がないわけで ございます。 事務局も申し上げましたように、各課題によって倍率とかそういうふうなものがいろ いろ違う。場合によれば担当者の間で、うちではとれないけれども、そちらのほうでア プライするとした場合、可能性はありますかというふうなことは科学技術調整官会議等 事務局のほうでやりまして、応募者のほうに、こちらのほうで審査をされるといくらか 有利になるかもしれませんよという程度のアレンジメントはやらせていただいておりま す。 しかし基本的には、特に公募型になってからは、非常に若手の先生方の、具体的にい いますと助手、場合によればドクターコースの方まで含めて応募がふえてきておりまし て、非常に活気を呈しているわけでございます。 そういうふうなことで、必ずしもあるサイクルをとりますと、重点というふうになっ たところに重点的に研究のアプリケーションが集中するというふうにはなっておりませ んが、これはいたし方ないことだと思っておりまして、また見直すときに先生方のご意 見を聞いて、応募しやすいような区分に切りかえてまいりたいと考えております。以上 でございます。 ○豊島会長 いまの中間評価とか、あるいは3年目の評価ということによって、多少その後の重点 をどこに置くかということはやはり変わっていくわけでございます。動いていくわけで ございますね。だから、必ずしもいつまでも均一ということじゃないということで了解 したほうがいいのかなと思います。 ○内山委員  もちろんそういうことでよろしいんですが、私がお伺いしたもう一つの理由は、特定 の疾患に対する治療薬を開発している人は、臨床調査研究にアプライをするんですか、 あるいは医薬品開発にアプライをするんですかということです。 ○事務局  これにつきましては現段階では両方とも可能性がありますとしか言えないんですが、 大蔵省的な感覚からしますと、臨床現場に近いところの研究と、そこからたって物に近 いところの研究では場合分けがあるんじゃないですかというようなご指摘もあります。 ○内山委員  日本の場合にはみんな属人主義ですから、だれがどこの学部にあるかということで、 どこへ出すかというのが決まりますから、大体そういう感覚じゃないですか。 ○寺田部会長代理  私、特定疾患の評価会議のほうをやらせてもらっていますので追加いたしますと、い ま先生言われましたように、どちらかといいますと薬のほうは具体的に一人の班が1,000 万円から 2,000万円の間なんですね。とてもじゃないけれども、それで薬の開発は無理 で、現実的には医薬品開発とか、そういうほうへアプライズされているんじゃないか。 これはどちらかというと、ここに書いてありますように、非常に珍しい病気だけれど も、病気としては治療法も何もないし、国民が悩んでおられる。薬の立場からいうと、 どちらかというとオーファンドラッグ的なところがあって、逆に薬を開発してくださる 方があまりいないというのが現実的なところじゃないかと思います。 それでも 108か 110ぐらいの難病対策の中の、これだけはとにかくやろうと、研究と して国民に何かリターンする方法はないかということで、日本の全体の中でどれぐらい の方が毎年発症していて、ベストの方法はどういうことであって、これを普及するには どうしたらいいかという、かなり現場に沿った、新しいものをつくってどうのこうのと いう、薬のほうよりも、どちらかというと、こちらに書いてある臨床調査研究、先生が 鋭く指摘されたこういう言葉であらわされるような研究だと思っておりますけれど。 ○内山委員 あまり発言しないようにしますけれども、お話を伺うとつい何か伺いたくなってぐあ いが悪いんですが、いまのお話はこの別添の資料だけのお話ですが、私がお伺いしたの はご理解いただけなかったかもしれないけれども、こういう質問は、実は寺田先生の主 宰されたがんの研究班でも同じようにしたんですね。がんの評価委員会でも私は同じよ うに、がんの医薬品の開発というのは一体どこでやるんですかと伺ったことがあり ます。 したがって、すべての医療について、それは別にどこでやらなくちゃいけないという ことはありませんし、いままさに事務局がおっしゃったように、どこでもやれる。重点 だと思われるほうへ出す、あるいはアプリケーションを書いた人が選んで出す、そうい う原則で私はいいと思いますけれども、両方ともにアプライできるんだということを実 は確認をしたかったんです。 ○木村委員 特定の疾患とか薬のほかに、非常に特色があると思いますし、先ほどからご説明をお 伺いして、何回もこの審議会でお話が出たわけですが、社会保障国際協力推進研究が新 しく入ったわけですよね。ですから、これは新しい分野で、しかも広義の社会保障分野 にかかる国際協力の推進とか、政策面での予算がついたということは大変にユニークな ことだったと思うんですが、その点何か、特に今年度想定されている特別な何かがある んでしょうか。 ○大臣官房国際課 金子課長 国際課長の金子でございますが、私どもこういう研究費ができましたので大変喜んで おりますが、厚生省分野の国際協力が大変最近ふえてまいりまして、量質ともふえてま いりました。 特に前総理がサミットで世界福祉構想というのを推進されて、非常に広い、公衆衛生 を含めた広い意味での社会保障についての経験を途上国も先進国も共有していこうとい う構想が出されてから特にふえてまいりました。 いろいろな研究への期待はあるんですけれども、たとえば一例を申し上げますと、い ま個別の疾病対策とかということを途上国にいろいろ援助しようとしても、そのベース となる途上国の医療制度をどうつくっていくか、それがしっかりできていないとなかな かいろんな援助がうまくいかないというような、各国がそういうような共通認識を持つ ようになってきたんですけれども、じゃ、途上国でどうやったら、その国にふさわしい 医療制度をつくれるのか、システムとしてつくっていけるのかというようなことを研究 していただくと、私ども大変ありがたいと思っております。 一例でございますけれども、そんなイメージを持っております。 ○木村委員 これは大変に画期的なことになると思いまして、ただいまのご説明を伺っておりまし て、すばらしいことだと思うんですね。 国際的なスケールで、WHOも「西暦2000年にすべての人に健康を」ということで、 その内容がまさにいま金子課長の言われたように、開発途上国における価値観とか、あ るいは医療システムの問題とか、そういうことを含めて、疾病とか薬とかの問題だけじ ゃなくて、人間存在のあり方を含めた医療とのかかわりの問題にだいぶ力を入れている という状況があるわけでして、バイオエシックスの問題なんかも当然その中に入るわけ ですので、たとえばヨーロッパにおいてもバイオエシックスの問題をめぐって欧州評議 会などが条約をつくりましていろいろやっているわけですが、そういう観点から非常に これは期待できる内容の予算がついたということで大変評価をしたいと思います。 ○豊島会長 時間も過ぎてまいりまして、大体ご賛成の方向のお話のようでございますので、いま 説明いただきました研究企画部会の報告どおり厚生大臣に答申したいと思いますが、そ れでよろしゅうございますでしょうか。 (一同了承) どうもありがとうございます。答申の時期につきましては、すでに平成11年度予算案 が国会で成立いたしておりますので速やかに実施したいと思います。どうもありがとう ございました。 それでは次に、各部会から現在の審議状況につきましてご報告をお願いいたします。 まず研究企画部会についてよろしくお願いします。 ○矢崎部会長 お手元の資料の2の1ページに書いてございます、研究企画部会の審議状況の中で、 初めに「バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本方針」というのが出されました。 2番目は、先ほど木村先生からご指摘いただいた点、それから次が本日のご承認いただ いた件でございます。  最後に内山委員にもご指摘いただきました、今後の厚生科学研究のあり方についての 審議でございます。それを簡単に申し上げますと、この研究部会におきまして事務局と 相談の上、過去6回の議論を踏まえました骨子案作成のメモ的なものを提出し、さらに ご議論をいただいたわけであります。今後は4月中に2回ぐらい開催しまして、できる だけ早くまとめて総会に御報告したいと考えております。なお、研究企画部会ではまだ メモという段階でありますので、ここに資料としてお出しできておりませんけれども、 ご意見をいただきますれば大変ありがたく存じます。私どもが考えております概要につ いて簡単に述べさせていただきますと、例えば厚生科学の意味、厚生科学研究のこれま での進捗状況、厚生科学研究を取り巻く新しい時代の変化、そのような変化に対応して 求められる研究領域、あるいは厚生科学研究推進の方法など詰めて述べていきたいと考 えております。厚生科学の意義と定義のようなものですけれども、そこでは厚生科学の 特徴を述べまして、その内容としましては、疾病を克服するとともに、健康と福祉の向 上に貢献し、人間の未来を開く真に創造性の高い科学として、厚生科学に期待される役 割が大変大きいという視点からの、医学医療の哲学的な考え方までも含めた意義を述べ させていただきたいと思っております。厚生科学のこれまでの推進状況につきましては 科学技術会議など制度全体においての生命科学から健康科学への取り組みについてもい ろいろ審議されておりますので、それについても私どもで考えていきたいと思っており ます。  さらに厚生科学研究を取り巻く新しい時代の変化としましては、細胞あるいは遺伝子 のミクロのレベルから、グローバルな国際的な、あるいは地球全体のマクロのレベルま で、時代の変化について考えながら提案していきたいと考えております。  また、このような新たな変化に対して求められる研究領域としましては、たとえば健 康科学研究の推進そのものですね。それから具体的には、たとえば少子高齢化社会への 対応とか、健康への脅威と生活の安全の確保、画期的な医薬品及び医療機器などの開発 と安全性の確保、根拠に基づく医療の推進と情報技術の活用、あるいは厚生科学の国際 化など、それぞれの分野で求められております研究領域について述べる予定であり ます。  そして最後に、実際に厚生科学研究推進の方法としまして、厚生科学研究の推進に求 められている特徴的なもの、それから研究企画、すなわち研究分野の設定と調整、この 企画の充実、さらには中核となる研究所、これは国立試験研究機関などの位置づけも含 まれると思います。それから人的資源の確保と整備、研究資源の確保あるいはその体制 の整備、研究情報の公開、研究成果の公開、調査研究データの共有化、これは先ほど木 村委員からもご指摘いただきました。  そして最後に、科学としての技術の進歩と社会との調和が厚生科学研究の大きなテー マの一つでありますことから、研究実施体制におけます社会的、倫理的、法的側面から の整備検討などについて、私ども厚生科学研究の推進方法について具体的に提言してい きたいと考えておりますので、この審議会でご意見をいただきまして、そのご意見をさ らに研究企画部会に反映して、よい提言をつくっていきたいと存じますので、よろしく お願いいたします。以上です。 ○豊島会長  どうもありがとうございました。事務局のほうから追加はございますか。 ○高原課長  本日はこれに関する資料を出しておりませんで大変恐縮でございます。まだ研究企画 部会のメモということでございますので、骨子案の段階になりましたら各委員の皆様に お送りして、それに基づいて具体的なご意見を事務局なり部会長のほうにお寄せいただ ければと思っております。  スケジュールといたしましては、部会長からご報告なさいましたように、4月に2回 程度、それでもうちょっと時間がかかるようでありますと、5月の初旬ぐらいには何と かこの総会でご議論いただきたいと考えております。以上でございます。 ○豊島会長  どうもありがとうございました。それでは、「21世紀に向けた厚生科学研究の中長期 的なあり方」ということでは、いまお話のとおり、さらにこれから議論を進めていただ くということでございますので、ここでいろいろご意見をいただきまして、それを参考 にしながらまた進めればという部会長のほうのご意向でございます。どうぞご意見ござ いましたら。 ○木村委員 いま部会長からお話しのように、一番最後のほうで大変に重要なご指摘をいただいた ので、その点につきまして倫理的、法的、社会的側面について、いまのお話ですと、一 番最後のほうに大きなスケールで、それについて重点的に述べていただくということで 大変望ましいことであるし、またそうでなければならないと思っておりますので、何と ぞよろしくお願いいたします。 ○内山委員 骨子を拝見する前にお願いだけしておきたいことが2点ございまして、ぜひお願いし たいと思います。  まず、「今後の」というのがついておりますので、今後のということがわかるように お書きいただきたいというのが一つです。  というのは、どうしてもいろいろな分野のいろいろな意見を集めますと、「現在の」 になりがちなんです。もちろん現在を含んでも構わないんですけれども、現在から、必 ず今後に向かったお話にしていただきたいというのが一つ。  もう一つは、それぞれの分野からご意見をいただかなければこういうものはなかなか できません。分野からお話をいただいてつくり上げるのはいいんですが、これをおつく りになるときにぜひお願いしたいのは、これもやはり縦糸、横糸の関係ではありますが 読んだときにお話の流れがわかる必要がある。  これはどういうことかといいますと、まず研究のあり方というのにはポリシーが、要 するに方向づけが必ずなくちゃいけない。どういった方向に、あるいはどういうことを 解決するための研究なのかというポリシーが一つ。  その次がシステムですね。システムとリソースというのはシンクロしておりますから 体制のあり方の問題、それからリソース、リソースというのは一番大きいのは人材だと 思いますけれども、ポリシーがはっきりわかって、体制のあり方が書いてあって、人材 養成の方向づけというのがあった後で、実はその特別な領域の重点課題が示されている と、読んでよくわかるんです。  ですから、そういうようなことが落ちないように、ぜひよろしくお願いしたいと思い ます。 ○矢崎部会長  どうもありがとうございました。ただいまの内山先生のご意見は、いま審議会の委員 でいらっしゃいます柴田先生からも研究部会でご指摘いただきまして、哲学的な、ある いはそういう方向づけをしっかり持った提案をつくっていきたいというふうに努力いた しますので、またその点についてさらなるご指摘あるいはご意見をいただければ大変あ りがたく存じます。 ○豊島会長  ほかにいかがでございましょうか。  いま木村委員から倫理、法的なお話も出ましたけど、いま非常に基礎的な面での医学 生物学研究が進んで、進み方が早くなっていると思いますので、21世紀ということです とかなりいろいろな面が変わってくると思います。変わるに当たっては、ソシアル、エ シカルなことも考えに入れながらということがものすごく重要になってくると思います ので、ぜひそのあたりよろしくお願いします。 ほかに何かございますでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。 それでは引き続きまして先端医療技術評価部会のご報告、寺田部会長代理からよろし くお願いいたします。 ○寺田部会長代理 先端医療技術評価部会の部会長代理として報告させていただきます。 二つ大きな問題点がありまして、一つは遺伝子治療に関するもの、もう一つは生殖医療 に関するものです。資料2の2番目のところに先端医療技術評価部会の要約が書いてご ざいます。  遺伝子治療に関しましては、東京大学医科学研究所付属病院の遺伝子治療臨床研究、 これは腎臓がんについてでございますが、総括責任者からの経過報告を受けました。順 調に進んでいるということであります。  2番目、東京大学医科学研究所附属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画、これは肝臓 がんについてでございますが、肝臓がんをP53遺伝子で治療しようとするものです。 事務局から説明を聞き、がん遺伝子治療臨床研究作業委員会に付託することにいたしま した。  3番目、これらの二つの遺伝子治療の説明でございますが、千葉大学医学部附属病院 これは食道がんに対するP53遺伝子による治療と、財団法人がん研究会附属病院にお ける薬剤耐性の遺伝子mdr遺伝子を入れて大量の化学療法を行うという遺伝子治療で、こ れらに関しますがんの遺伝子治療臨床研究作業委員会の開催状況について事務局からの 説明を受けました。  4番目に岡山大学付属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画、これは肺がんでございま す。肺がんに、やはりP53と、シスプラチンという抗がん剤を投与する臨床研究計画 でございますが、これにつきまして少し変更があったということ、その内容につきまし て事務局から報告を受けたということであります。  なお、生殖医療に関する二つの専門委員会では現在作業中でありまして、特に報告す べき段階にはないと聞いております。以上であります。 ○豊島会長  どうもありがとうございました。何かご意見、ご質問ございますでしょうか。 ○事務局  補足させていただきますと、実は生殖医療に関します2つの専門委員会の内、出生前 診断に関する専門委員会につきましては、実は本日並行して開催しており、事務局を担 当します児童家庭局母子保健課の者全てそちらに行っております関係上、関係者が出席 できないことをお詫び申し上げます。 ○豊島会長  よろしゅうございますか。それではこれで先端医療技術評価部会の報告は終わらせて いただきたいと思います。  最後に、健康の定義に関しますWHO憲章の改正案につきまして事務局よりご説明を お願いいたしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○金子課長  それでは資料3に基づきましてご説明をいたします。「WHO憲章における『健康』 の定義の改正案について」という資料でございます。  1ページ目でございますが、従来よりWHOの憲章の前文の中に「健康」の定義がご ざいまして、現在の「健康」の定義は「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態で あり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」というふうに定義をされてきてお りました。 これにつきまして、平成10年、昨年のWHOの執行理事会で2点の変更が議論されま した。一つは「spiritual」。physical、mental、socialに加えまして「spiritual」を 加えるという変更でございます。 2点目が状態、stateの前に「dynamic」、「dynamic」な状態であるという、この2点の 修正でございます。議論の結果、投票になりまして、賛成が22、反対0、棄権8で、総 会に提案をすることが採択されました。ことしの5月にWHOの総会がございますが、 ここにこの憲章改正案が提案されます。総会では参加国の3分の2以上の賛成があれば 採択をされます。その後、加盟国の3分の2以上が批准をしますと発効というか、効果 が出てくるわけでございます。  なお、批准の手続は通常、憲章改正の関係では数年以上の期間を要しております。  この「健康」の定義の変更を提案した背景でございますが、事務局からは明確な見解 が得られていないんですけれども、spiritualにつきまして、WHOの過去の会議などの 議論から、健康の確保において、生きている意味あるいは生きがいなどの追求が重要と いう立場から提起されたものと理解をいたしております。  平成10年の執行理事会の際には、ここにありますように、spiritualityというのは、 人間の尊厳の確保やQuality of life、「生活の質」を考えるために必要な本質的なも のだという積極論と、一方で、2ページ目でございますが、少数ですが、「健康」の定 義の変更は基本的な問題なので、もっと十分時間をかけて議論をすべきではないかとい う意見も出されました。  ところが、先ほど申しましたように投票になりまして、提案することが決まったもの でございます。  dynamicのほうにつきましては、健康と疾病は別個のものではなくて連続したものだと いうような意味づけの発言がこの執行理事会で行われております。  参考といたしまして、1989年版のOXFORD英語辞典、英文ですが、抜粋で掲げておりま す。3ページにこれの仮訳でございますが、日本語訳をつけております。また最後の ページに、憲章の「健康」定義の新旧対照表をつけております。 「健康」の定義の変更という大変重要なテーマでございますので、ぜひ委員の皆様方 のご意見をお聞かせいただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。 ○豊島会長  どうもありがとうございます。それではご意見を賜りますれば。 ○岸本委員  まず質問しておきたいんですが、いまご説明いただいた「健康」の定義に関する2点 の改正、spiritualityとdynamic、この言葉の解釈は別といたしまして、この改正がもし 批准された場合、WHOが具体的にどういうふうに変わっていくんでしょうか。 ○金子課長  spiritualityをどういうふうに解するかにもよると思うんですけれども、WHO自身 事務局が、これでどういうふうにWHOが変わっていくかということを明確には言って いないんですが、いろいろな点においてspiritualityの重視ということが反映されてい くんだと思います。  ちょっと抽象的な答えで恐縮ですが、spiritualityをどう理解するかというところに かかってくるんじゃないかと思っています。 ○曽野委員  もともと定義するのは不可能なものをあえてやらねばならないというところに皆様方 のご苦労がおありだという気もします。今回問題になったのはdynamicというところと spiritualというところの2ヵ所だけだったのかもしれませんが、一番気になるのはcomp leteというところですね。こういうものはあり得ませんから。  たとえばいま私が一市民として一番おかしいのは、「老人の皆様方、市民の皆様方が 安心して暮らせる」とおっしゃる候補者や政治家の言葉です。これは全くの嘘で、人間 の一生が安心して暮らせるなんてことはないんですから、それを言った途端に嘘になる わけですね。そのような意味で、completeというのは本当はこわくて使えない 言葉です。 ○柴田委員  大変大事な変更のようで、やっぱりひとつわからないんですよね。でも、いまこの時 期にこれを変えたいという提案が出てきて、圧倒的多数で通ったということにはそれな りの意味がもう少しありそうな気がするんです。なぜピンとこないのかということは、 一つには言葉の意味のところの訳なのかもしれないと思うんですけれども、いま厚生省 は、こういう意味からこういう意味に変わるんだという説明を言葉としてする場合はど ういうふうに説明されるんでしょうか。 ○金子課長  今回先生方のご意見をお伺いするというのも、私ども、どういうふうに理解すべきな のかということからまだはっきりしていないものですから、十分いろんな方のご意見を お伺いして、実はまだ成立していなくて、5月のWHO総会にかけられるわけですね。 そのときに私共がどういう態度をとるかも含めて、賛成するのか、反対するのか、保留 にするのか、それを決めなければいけないものですから、それに当たって先生方のご意 見をぜひお願いしたいなと思っておりますが、どういう説明をするか、そこはこれから つくるという段階なので、先生方のご意見をお伺いして。  いまの時期に何でこういうのが出てきたかということですが、過去にも一度そのよう な動きがあったようなんですけれども、そのときには改正まで至っていなかったんです が、今回いろいろな過去の議論、執行理事会での議論ではなくて、ほかの専門家の議論 などを見てみますと、たとえばAIDSになった人とか、AIDSの患者さんとか、あるいはが んの患者さんでも、その人が何か信念を持っているとか、非常に強くある宗教を信じて いるとか、あるいは生きがいを持っているとか、そういう方の場合には長生きするとか がんやエイズになっても元気でというんですか、そういうのがいろんなところで出てき ているという報告とか議論とか、それはWHOの専門家の間でされております。だから 大変大事な側面なのかなと、いま勉強しつつ思っている状況でございます。 ○柴田委員  これが出てきた一番の動機は、そうすると、いまのような生きがいというようなもの つまり病気にかかった人だって生きがいを持っている人は違うんだという考え方でしょ うか。 ○金子課長  過去の議論の中から、そういう面もあるんだろうと理解をしております。 ○木村委員  私もWHO関連NGOであるCIOMSというのがあるんですけれども、CIOMS ではかねてからヒューマンバリューとヘルスポリシーの問題を中心に、いろいろ論議を 蓄積してきているわけですね。  先ほど申し上げましたが、「西暦2000年にすべての人に健康を」ということでも、い ままでの健康、たとえば天然痘の撲滅とか、具体的な医療技術の充実あるいは政策の充 実による各国での、特に開発途上国を含めたいろんな政策をいろいろやるんですが、世 界を冷静に見渡してみると、ほとんどの世界の諸国の方々が何らかの意味の宗教的なバ ックグラウンドを持って生きている。イスラムにしてもカソリックにしてもプロテスタ ントにしても、仏教にしてもそうですけれども、そういう現実があるということを、あ まりにも医療技術の優越の中で、いままでどっちかというとまともに取り組んでこなか ったんじゃないかというようなことが、歴史的な背景としてはあると私なんかもつくづ く感じているわけです。  ですから、いま国際課長の言われたように、そういう流れが昔からありまして、そう いう中で、これが特に現段階でいろんな宗教的なことも含めた、たとえば癒しの問題で すね。病気を治すというんじゃなくて、心も体も精神もspiritualな点での癒しというこ とをもう一遍考えていくとか、そういうことを含めた、いわば文化の中での病とか癒し をどうしても取り上げ、それに直面せざるを得ない状況が出てきたので、これはきょう ここで議論は尽きないかと思いますが、私は当然、日本の代表としては積極的にこれを サポートするということが当然のなりゆきであるように思うんですね。  日本の社会というのはある意味では非常に早くから世俗化・非宗教化されたというか そういう意味では、果してどういう形で宗教性が日本人の心の中に生きているかどうか いろんな問題があるかと思いますが、全世界並びに我々の病あるいは癒しということを 見れば見るほど、そういう精神性、特にspiritualityの必要性ということはどうしても 指摘せざるを得ないという状況にあるんではないかと思いますし、生命倫理の分野でも そういう点の研究が非常に幅広く行われているということになると思います。 ○曽野委員  厚生省の予算その他も何も存じ上げませず、まことに余計なことなんですが、会議に お出になる前に、フランスのルルドという街に必ずいらっしゃることをお勧めいたしま す。  私はキリスト教ですが、聖母が現れてそこに奇跡の泉が沸いたことを信じるかどうか はどうでもいいんです。ただルルドには世界中から明日をも知れない重病人が来ていま す。ノーベル賞を受けたアレキシス・カレルという人は、そこで本当に治った人を見た と言うんですけど、それもお信じにならなくてよろしいんです。  ただ、そこへ行きますと、今日死ぬかもしれない人を、一緒に祈り歌う場に連れ出し ているんです。そうすると、人間の生涯というものは病と健康が込みであるということ 言いかえれば、我々人間というのは、健康人と病人が一緒にいる、それが社会なんだと いうことがありありとご覧になれるんじゃないかと思います。  いまおっしゃいました癒しの問題ですけれども、私は40歳過ぎてから四十の手習いで 新約聖書を習いました。原文がギリシャ語です。その中に「癒す」という言葉が二つあ る。それは「セラペウオウ」と「ソウゾウ」という言葉です。 セラペウオウというのはセラピーのもとですが、「心にとどめる」「記憶する」「仕 える」という意味なんです。 ですから、いつも私はこのことを思い出すたびに、院長回診というのは何という違う ことをやっているんだろうと思う。お仕えするんじゃなくて、上からどなたか偉い方が ごらんになるというのは全く癒しと反対のことです。  それから、もし将来、コンピュータで何かやっておきますと、パッと自分に必要な治 療法なんていうのが出てくるようになるかもしれないと言われているわけですね。「癒 し」というのは、その病人一人ひとりを心に留めるという絶対の条件があるんですが、 それをギリシャ人は当時から知っていたということです。  「西暦2000年までにすべての人に健康を」とおっしゃいますが、アフリカの多くのと ころでは今でもHealerです。動物の牙とか何とかをくっつけて祈る呪術師です。医者に 行くということはHealerに行くということなんです。私はそれでは治らないだろうと思 うんですけど、治ったという人がいるわけですね。Healerにお礼にヤギを1頭送るとか いろいろな話があるわけで、まだその段階の膨大な地域が地球上にあるということもお 忘れにならないでご論議をいただきたいと思います。 ○金子課長  spiritualが今度WHO総会で決まった場合、日本語にどういうふうに訳したらいいの か。mentalのほうに「精神的な」という日本語を充てているんですね。そうすると、 「精神的な」というのはspiritualも含んでいる日本語なのかと思いますけれども、今 度新たにspiritualが出てきた場合どういう日本語を当てるべきなのか、それも大変 迷っておりまして、その点についてもご意見をいただければ大変ありがたいと 思います。 ○豊島会長  むずかしいですね。 ○木村委員  たとえば「霊的」とかですけれども、霊という言葉があんまり現代にはなじまないよ うになっちゃっているんですが、しかし日本の、たとえば「霊性の危機」という本を書 いた植村正久、かあるいは「日本の霊性化」を書いた鈴木大拙とか、そういう人が「霊 性」という言葉を明治の初期にはずいぶん使って書いていたんですけど、現代ではあま り使わない。しかし最近でも、「エコロジーと霊性」という本を書いた人も中にはいま すけどね。カトリックの神学者ですけれども。  「スピリチュアル」とカタカナで書くと一番わかりやすいんですが、むずかしい点で すね。日本ではmentalを「精神的」って言っちゃっていますから。 ○内山委員  決して私に適当な訳が思いついたというわけじゃありません。これを考えるときに、 いま言葉を置きかえて考えていたんですが、これは昭和26年の訳ですよね。ですから、 先ほど曽野委員からcompleteのお話が出ましたが、これは「完全な」と訳していますか ら気になるわけですけれども、一番大事なのは「単に疾病または病弱の存在しないこと ではない」というところが、前の訳のときには主張したかったことだと思うんですね。  ですから、「単に疾病または病弱の存在しないことではなく、肉体的にも精神的にも 社会的にもwell-beingの状態である」とするとよくわかります。これまでの古い「健 康」の定義は。 新しくなったらどうだと今お話がありましたけれども、これは今申し上げたのに充て はめると、「単に疾病または病弱の存在しないことではなく、肉体的にも精神的にも」 実はこの訳を考えながら、WHOは日本人の忘れていることを思い出させようと思って こんなものを入れたんじゃないかと思ったんです。もしそうだったら、こっちも忘れて いることを思い出すような言葉を入れたらいいかと。  ですから、「単に疾病または病弱の存在しないことではなく、肉体的にも精神的にも 社会的にも」じゃなくて、「肉体的にも精神的にも信仰上も社会的にも、良好なはつら つとした状態にある」という感じですね。 ○木村委員  信仰上となるとちょっと違います。 ○内山委員  違います。だけど、忘れていることを思い出させるならそう書かなきゃ。 ○豊島会長  いま内山委員のおっしゃったような考え方もあるかもしれませんけど、さっき曽野委 員のおっしゃった、completeに対するコメントはぜひ入れておいてください。そういう ことをやはり思っているからdynamicという言葉が出てきたんじゃないかなと思います。 だから、そのへんの一つの結びつきというのは気にとめておく必要があるんじゃないか と思いますが。 ○木村委員  ですから、いま内山委員の言われた、日本人の忘れているという点からすると、信仰 というのは確かに鋭いご指摘だと思うんです。だから、spiritualityというのは信仰も 含めた宗教的な情操のみならず、他のところにエネルギー源を持ったspiritualityとい うのがあるわけですので、ですから、宗教的な対象でない信仰というのもあり得ますか ら、そういうふうに定義すれば信仰という言葉もいいのかもしれませんが。 ○内山委員  言葉が無いですね。 ○木村委員  それだと失望だと思うんですね。ですから今迄と違う表現を加える。あるいは厚生省 で新しい日本語をつくるというのもいいかもしれませんね。 ○矢崎部会長  先ほどの今後の厚生科学のあり方で、いままで厚生科学というのは、メインは疾病の 克服にあって、それに向けて生命科学から健康科学を推進するということであったわけ ですね。  それで、「健康」の定義の改正に当たりまして、先ほど岸本委員から、実際にどうい うふうに変わるのかというお話をいただきましたけれども、これは私どもにとっても非 常に大きなインパクトがありまして、従来は、遺伝子・細胞レベルから地球レベルまで の間には、個人・個体のレベル、社会的なレベルというふうにございますね。個体ある いは個人のレベルで、一人ひとりの人間としての尊厳の確保とか命の質をどう考えるか ということも、健康の向上をめざす厚生科学としてはそういうことも含んで議論してい かなければならないということでありますので、ぜひともそういうわかりやすい言葉で それを表現していかなければいけないので、大変な宿題だと思いますので、木村委員ほ かの方よろしくお願いしたいと思うんですけれども。 ○木村委員  それこそ21世紀はもう間もなくですが、日本の文化の方向づけに新しいインパクトの あるようなことになる要素があると思うんですね。ですから、これは慎重に討議する良 い機会ですし、我々意見交換をやるときに、たとえば信仰的、宗教的あるいは霊的と使 っちゃいますが、非常に信仰的であっても全然霊的でない人とかいろいろいるわけです よね。非常に霊的であるけれども信仰は特に持っていないとか、ですから、霊的と信仰 的とはやはりどこか違うところがあるので、spiritualということの内容を、日本人は、 しかし霊性とか霊という言葉で、一応は明治期の初めぐらいまではあらわしてきた。 それは確かに、たとえば新聞なんかですと、読売の「こころのページ」とか「心に訴 える」とか、心に訴えるというのは、そういう一種のspiritualityを体験した日本人の 心みたいなのがあるわけで、しかし、「こころ的健康」という言葉はありませんし、で すから、これは討議してすばらしい言葉ができれば、特にここには色々な分野の先生方 もいらっしゃるわけですから、大変いい提案をいただけるとありがたいと私は思います けれども。 ○柴田委員 自分でもよくわかっていないのに言うのは変なんですが、大変大事なことなんじゃな いかという気がします。せっかくそういう定義が変更されるというチャンスと、今後の 厚生科学のあり方を論じている時期とがちょうどフェーズが合ったので、「健康」の新 しい定義というのを何とか先取りをして、それを日本の厚生科学の一つの目標に掲げた らいいのではないかと、この前、研究企画部会でも申し上げたんですけれども、それに はやはり日本語だと思います。 日本語をどうつくるかというのは一番大事なところで、そういう点、明治時代に比べ 戦後の日本は非常にサボってきたと思います。明治時代を思い起こして、もう一回新し い日本語をここで考え出すということをやりたいなあと思います。いい案ができるとい う自信はありませんが、ちょうどいい機会にぶつかっているんじゃないかという気がす るんですよね。 ですから、どなたの知恵でも、思い切った日本語を、かなり意訳でもいいんじゃない かと思うんですね。直訳じゃなくて、医療関係に溢れている英語を少しでも減らすため にも、ここで新しい日本語をつくっていきたいと思います。 ○木村委員 私どもの委員会というのは、いつもインターネットで議事録もみんな出るわけですが こういう論議をおそらく国民がみんな見るわけですね。ですから、いいお考えがあれば インターネットで受けつけるということも可能ですよね。ですから、おそらく我々の知 らないところで、実際にspiritualの方がいっぱいいらして、我々の目に見えないところ なんかでいろいろやっていらっしゃる方で、非常にいいアイデアをお持ちの方もあるか と思います。しかし、そういう方はあるいはインターネットをごらんになっていないか もしれないし、そこのところを何らかの形でインプットしていただければ大変ありがた いと思いますね。 ○豊島会長 非常にいいアイデアをありがとうございました。寺田委員がおられるんですが、10年 近く前だったと思いますが、遺伝子の研究が進んできて、がんのことがだいぶいろいろ わかってきたという状況で、「対がん10ヵ年」からその後にかわる頃にだいぶ議論があ りまして、そのときに一番ポイントになったのは、完全に治すということは無理で、基 本的には共存の問題。病気との共存。それでQuslity of lifeを大切にしていくという視 点がこれから非常に重要だという話がそのときかなり中心になったわけでございます。 基本線としては病気全体にそういった方向性が、これからは一つのポイントとして出て くるんじゃないかなという気がいたします。 そういう意味では、先ほど曽野委員がおっしゃった、いまのアフリカなどの生存状況 そういう中での一つの、いまの言葉で言えばspiritualな問題かもしれません。それと、 日本においてもまた別な意味でそういうことがある。それぞれの社会でそういうことが あるという意味で、違った面でも、共通の人間としての一つの営みの中で必要なことと いう形で出てくるんじゃないかなという気がいたしますが。 ○船越委員 健康ということをできるだけ完全に定義して、それに近づくように努力するというこ とにつきましては賛成でございますが、医療のことを考えてみますと、すでに健康とい う言葉がいろんなところで使われております。そういたしますと、しばらくの間かもわ かりませんが、いろんな不自由といいますか、混乱が起こるような気もいたしまして、 たとえば卑近な話で、健康優良児を表彰しようというような場合、従来の健康というの と、精神的なあるいは信仰的といいますか、霊的といいますか、そういうものまで含め た健康ということになりますと大変判定がむずかしくなると思います。 また就職等で調査書とか、入学試験でもそうですけれども、健康状態というのがござ いますが、そのときに「健康良」とか、いろいろ医師が記入するわけなんですけれども そうしますと、医師ひとりの判断で健康状態が書けなくなるのではないかというような ことも考えられます。 そういたしますと、従来の意味でのいわゆる健康、それから、このようなWHOが定 義するような、より高度な健康というものが何か区別ができると、あるいはその区別を する必要が起こってくるのではないかというような気もするのでございますが、このよ うな健康に対する定義が世の中に定着していくためには、これの判定方法も合わせて考 えておく必要があるのではないかというようなことを考えます。 ○曽野委員  私は学校のときにカンドウという有名なフランス人の神父から、「健康なる肉体に健 康なる精神が宿るというのは大間違いだ。健康な人というのは全くどうしようもない、 あほらしい精神が宿っていて、少しぐらい病気をしないと困る。」ということを言って おられました。  いま船越委員がおっしゃいましたのは大変重大な問題で、我々は一応あるレベルの健 康ということだけです。それ以上のことというのはむしろ追ってはいけない面がある。  昔、亡くなった引田天功さんという方が相手を催眠状態にして治すとおっしゃったん です。  私には閉所恐怖があって、土木の現場へ入るもので不自由しておりましたので、簡単 に治してもらえばいいかななんて思って、そういうことを言ったことがあります。する と引田天功氏はキッとなって「あなたを治したらあなたでなくなるでしょう。小説が書 けなくなります」と言われた。そのとおりです。  私は閉所恐怖が治ると便利ですが、私ではなくなる。そういうもののところまで配慮 してください。 ○岸本委員  先ほど、学校の身上調書に健康状態を書くときに、spiritualをどう訳しているかによ って、その人が健康であるかないかということが規定される。だから、spiritualが信仰 とか霊感ということになるといけないわけで、mentalというのは、精神科医の関わる分 野で、spiritというのは志とか士気とかそういうもので、それが正しいかどうか、そこ のところが狂ってきているところはたくさんあるわけで、spiritがどうか、健康かどう か、そういう意味でのspiritを入れなきゃいけないということに多分なってきているん じゃないかなと。  だから、mentalというのは医学的に評価できることですけど、社会的に判断しなけれ ばならないほうの心の問題が世界的に問題になっているから、spiritという言葉が重要 な問題になってくるだろうと思います。 ○竹田委員  WHOは公用語に中国語があるはずなんですが、これは中国語ではいまの段階でどう 訳しているんでしょうか。 ○金子課長  中国からの執行理事に同じ質問をしてみたら、いまmentalに当てている言葉がたしか 同じ意味を持っていると。これはとりあえずの仮訳ですけれども「心霊」ですね。心と 霊ですね。内面的な心ということで「心霊」を充ていると。  ただ、執行理事に聞いたときには、もともとある精神、精神は精神なんですけれども それがspiritも含んでいるんだと執行理事は言っていましたけど、どういうふうに本格 的な訳になるのか、これからかと思います。 ○豊島会長  いろいろ有益なご議論ありがとうございました。特にご議論がこれでよろしゅうござ いましたら、これで終わらせていただいて、最後に事務局のほうから何か追加すること ございますでしょうか。よろしゅうございますか。  方、何かございますでしょうか。 ○岸本委員  健康という定義も、21世紀の人間にとっては非常に重要な問題で、だから、アメリカ の厚生省(にあたる保健省)はDepartment of Health and Human Servicesです。 厚生省に「健康」という言葉が消えないような、そういうものをあらわすことがどこか に残っていないといけないというふうに考えていただきたいと思います。福祉とかだけ じゃなしに、Hea-lthということが非常に大事だと。 ○豊島会長 よろしゅうございますでしょうか。ぜひよろしく、そのへんもお願いいたします。 それでは本日の会議はこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございまし た。 (了) 問い合わせ先  厚生省大臣官房厚生科学課 担 当 岡本(内線3806) 須田(内線3804) 電 話 (代表)03-3503-1711