99/03/11 第4回生殖補助医療技術に関する専門委員会議事録 第4回 厚生科学審議会先端医療技術評価部会 生殖補助医療技術に関する専門委員会 議事録 厚生省児童家庭局母子保健課 生殖補助医療技術に関する専門委員会議事次第  日 時:平成11年3月11日(木) 午後1時05分〜4時40分  場 所:国立がんセンター内 国際研究交流会館   1.開  会   2.議  事 (1) ヨーロッパの生殖補助医療の現状と法制度について   (2)質疑・意見交換   3.閉  会 注:今回の議事録には、専門委員会の前に開催した特別講演会の内容を参考資料として   つけています。この議事録及び参考資料におけるイギリスの Bourn Hall Clinic の   Peter Brinsden 所長、ドイツのミュンスター大学の Herman Behre 副教授の発言は   通訳を通じたものを記載しているため、本人の発言と若干異なる場合があります。 ○北島課長補佐  それでは、これより生殖補助医療技術に関する専門委員会を開催させていただきたい と思います。  まず、本日先生方に御紹介をさせていただきたいと思いますが、私どもの研究費で矢 内原先生に主任研究者をお願いしております生殖補助医療の意識に関する研究班で、主 にアンケートづくり、それから、集計等をお願いしております山梨医科大学の山縣助教 授に今日お越しいただきました。山縣先生の方から、議事の最初に是非、今の進捗状況 等をお話しいただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。 ○山縣先生  ただいま御紹介いただきました山梨医科大学の山縣でございます。よろしくお願いい たします。  矢内原先生を班長といたしまして、調査のお手伝いをさせていただきました。皆様御 存じのように、一般国民の方4,000人、それから、生殖補助医療技術を行っていらっしゃ る施設が400、それから、一般産婦人科の先生方が400、小児科が400、患者さん800とい うことで、6,000人の方に調査をいたしました。一般の方々は、200地点で20名ずつ無作 為抽出を行ったものです。回収がほとんど終わりまして、今こちらの方に先ほど課長の 方からも御案内がありましたが、全部で産婦人科の先生方、専門家の先生方入れて3,200 回収出来ております。一般国民の方に関しましては転居の方、それから、最初から拒否 の方の今人数を把握しておりますが、約1割ぐらいそういう方がいらっしゃるよう です。ですから、実際の回収率としましては、55%から60%程度になるのではないかと 思っています。 ○中谷委員長  イギリスのエッグドネーション(卵子提供)についてのコンサルテーションペーパー は、たしか2万5,000通が出て、回答が9,000だったと思いますけれども、九千幾らか。 ○ブリンスデン所長  大体そんなものだと思います。詳しくは分からないのですけれども。 ○中谷委員長  カナダで、やはり全国的なレベルのアンケート調査をやったのです。それは、4万人 が対象でした。その最終のロイヤルコミッティーの報告書が1993年11月30日に出ている のですけれども、アンケート調査の結果について300人の専門家がそれを分析したとある のですが、大変な数ですよね。だから、世論といいますか国民一般の意識調査というの はとても難しいと思います。先生方いかがお考えですか。 ○山縣先生  今、入力の方に入っておりますので、恐らく2週間ほどしたら私の方で、データのス クリーニングと集計をいたします。3月の末から4月の1週、2週辺りで、班長の矢内 原先生とそれを吟味しまして、その後、御報告をしたいと思っております。  以上でございます。 ○北島課長補佐  どうも山縣先生ありがとうございました。ちょっと所用がおありということで、山縣 先生はここで退席させていただきます。 (山縣先生退室) ○北島課長補佐  それでは、中谷先生お願いいたします。 ○中谷委員長  ブリンスデン先生にちょっと伺いたいのですけれども、イギリスですと、HFEAの ライセンスのある施設でDI、ドナー・インセミネーションの場合ですけれども、精子 をそこで提供してもらいまして、家に持ち帰って自分でホームかハウスか知りませんけ れども、人工授精が出来るように認められているようですが、これはどういう場合です か。非常に例外的な場合だと思いますけれども、どういう場合にそれが認められるので しょうか。 ○ブリンスデン所長  非常にまれです。しかも、それは励行されておりません。私自身は、1例としてそう いった事例は存じません。 ○中谷委員長  日本では絶対に出来ないことなものですから。 ○ブリンスデン所長  一般的に受け入れられるべきではないと思いますが、禁止はされていません。勿論、 そのライセンスを受けたセンターでなくてはいけません。 ○小田母子保健課長  この委員会は、一応先ほどの講演会の続きということで委員の先生方で御質問を継続 されたい方のために両先生に引き続き出席していただいていますので、先生方の方から も御質問があればお願いします。 ○高橋委員  先ほどのお話でイギリスでは、IVF-ETの治療成績を公表して新聞などに発表 する。それによって患者がいいところを選んで治療を受けるというお話がありました が、悪いところはライセンスを取り上げられる。そうすると、ちょうどアメリカでも同 じようなことがあって、クリニックが患者を餞別して成績を上げるというような傾向が あるということがありましたが、そういうことはないでしょうか。 ○ブリンスデン所長  そういう傾向は英国ではございません。そういうことをやっているらしいようなうわ さは出ていることはありますが、実際には起きていません。 ○辰巳委員  東京で産婦人科医をしています。ブリンスデン先生にお聞きしたいのですが、イギリ スでは50歳未満までエグドネーションのレシピエントになっていいということで、45歳 以上の妊娠が結構たくさん出ていると思うのですが、それによって周産期死亡、妊婦死 亡が非常に増えて社会問題になっているということはありませんでしょうか。 ○ブリンスデン所長  これも研究すべきテーマなのかもしれませんが、まず、一般的に言えることは母子と もに、やはり母親の年齢が高齢になると予後が悪いということは周知の事実ということ が1つあります。これは、別にIVFに限ったことではなく、あらゆる妊娠といった意 味で45歳を越すと、そのリスクが高まる訳なのですけれども、これに関しては十分に規 模の大きな検討がされておりません。したがって、はっきりとデータに基づいて、例え ばリスクが母子それぞれ何%増えるとか、これだけ変わるというようなデータが出てお りません。勿論このような妊婦を扱うクリニックでは特に注意してケアしているという ことは言えると思うのですけれども、何しろ対象となる例数自体が少ないですから、 せいぜい年間で20から40例ぐらいですので、もう少し規模の大きなきちんとしたスタ ディーをすべきかもしれません。 ○辰巳委員  エグドネーションを受けるレシピエントの年齢は何歳ぐらいの方が多いのでしょう か。やはり、プリマチュア・オーバリアン・フェーリアのケースが多いのか、あるいは 年齢がただ単に高くなったために、自分の卵では妊娠が出来なくなったためにドネー ションを受けようという方が多いのか、どちらが多いのでしょうか。 ○ブリンスデン所長  今、数字を持っていないのですが、私が出しました報告書の中には数字が入っており ます。コピーをたしかこちらの委員会の方に送ってあると思いますので、今でなくて結 構です、後でごらんいただければと思います。そこに数字が載っております。  私が見るプリマチュア・オーバリアン・フェーリアの患者さんは、大体45歳未満、40 歳とかそのぐらいのところが多いです。 ○石井(ト)委員  質問が2つあります。1点は、ブリンスデン先生が精子のドナーを10人に限ったとい うことをおっしゃいましたが、その根拠をお聞きしたいと思います。 ○中谷委員長  ドナーを10人に限ったのではなくて、1人のドナーから産まれる子どもの数を10人で す。 ○石井(ト)委員  その根拠をお聞きしたいということと、もう一点は、お二方の先生からお聞きしたい のですが、治療施設を認可しまして、その後の実績が一つの評価ということが分かった のですが、そのほかどういう形で質の評価をなさっているのか、そのシステムと内容を お聞きしたいと思います。 ○ブリンスデン所長  これは、任意の数字です。  ただ、例外扱いが1つありまして、もう既に10人子どもが産まれているのだけれ ども、その産まれた子どもの10人のうちの1人が、もう一人兄弟を欲しいという場合に は11人が認められるということです。 ○ベーレ医師  ドイツの場合には、まず申し上げましたように、勿論こういった治療をするセンター はライセンスを受けなくてはいけませんし、更に義務づけられていることとして妊娠に 関するデータを提出しなくてはいけなくなっています。これは、例えば移植1体当たり の妊娠のデータだとか、それから、多胎妊娠の数字、合併症の数字、これは毎年報告が 義務づけられています。例えば、ある特定のセンターで非常に三つ子の率が高いと。例 えば、8%というような場合には、管轄している委員会が実際にそのセンターに調査に 行きます。そして、最終的にこの問題が解決されない場合にはライセンスを取り上げら れます。  もう一つつけ加えるならば、この委員会にデータの報告義務がありますが、これはす べて前向きな形でプロスペクティブに報告しなくてはいけなくなっています。したがっ て、女性がクリニックにやってきたら、そして、この治療をスタートという段階で、も うその患者さんの名前は委員会の方に出すことになっていますから、後でデータをいじ るということは出来ない仕組みになっています。 ○ブリンスデン所長  英国でも類似のプロセスがあります。すなわち、この治療周期ごとの数字というのを 報告しなくてはいけない。HFEAに報告します。これは、治療だけに限らずに、例え ばラボ、施設、培養室等で用いられているプロトコールに関しても、それが例えば受精 率等に関してもすべて報告して分かるようになっています。さっき申し上げましたよう に、これが新聞に発表されまして、ランクづけがされます。トップのナンバー1からナ ンバー64まで報道されますので、これだけで十分努力をしなくてはいけない駆動力にな っております。  また、ドイツと同じようにスポットチェック、抜き打ち検査というのがありますの で、HFEAの人が何か問題がありそうだと、おかしいなと思ったところにはいきなり 出向きまして、すぐその場で査察をするということです。 ○矢内原委員  いわゆるランクづけという話が出たのですけれども、これはどういうところまでの デーを出しているのですか。例えば、出生率とか移植する数のあれとか、細かく言えば 幾らでもたくさんデータは出てくるのですけれども、何を。 ○ブリンスデン所長  報告書に載っているのですが、まず、最初に見るのが生産率です。 これは、周期の初めから何ベビーという見方と、それから、採卵から子どもが産まれる まで。それから、胚の移植から産まれるまでです。この3つのメーンが評価項目です。 今年はもうやめてしまったのですけれども、昨年まではもう一つやっていたこととし て、平均年齢と患者ごとの困難度に基づいて数学的に補正もしていました。ただ、これ はやっても余りうまくいかないということで今年はやっておりません。 ○中谷委員長  多胎率なども出ていますよね。患者のためのガイドブックというのがありまして、そ れを見ますと、いろいろなものがあって、こういうことを聞きなさいというのに随分い ろいろな項目がありましたね。 ○ブリンスデン所長  我々にとっては大変なのですけれども。非常に手続、官僚主義というのが大変です。 ディクテーションして内容を録音して、質問を入れてやって、情報がこのぐらいのパッ ケージになります。 ○中谷委員長  例えば、女性のお医者さんがいますかと。その女性のお医者さんにずっと続けて治療 してもらえますかとか。 ○ブリンスデン所長  もう一つ、コード・オブ・プラクティスという規範集のようなものがあると申し上げ ましたけれども、そこで義務づけられることとして、患者からの申立て、クレーム処理 のための手順を設けなくてはいけないとしています。したがって、どんな内容の不満で も例えば、食事のことだとかドクターのこと、ラボのこと何でもいいのですけれども、 これを扱うための基準を設定しておいて、これもHFEAの検査の対象となります。 ○吉村委員  兄弟姉妹からの卵子、精子の提供に関してはどう思いますか。 ○ブリンスデン所長  英国では、IVFの精子の提供、卵子の提供、それから、胚の提供すべて許可されて います。例えば、ある女性が卵をドネーションが必要な場合に、もし、妹とか姉からそ れをもらうことが出来れば、それも許されています。条件としては、その提供者の姉妹 の方が適切なカウンセリングを受けてアドバイスを受けて情報を受けるということ です。我々としては、このやり方、すなわち姉妹間のドネーションというのは非常によ いというふうに評価しています。すなわち姉妹間のドネーションであるとか姉妹間のサ ロガシーというのは、本当に助けてあげたいという気持ちが優先的に、その気持ちにの っとってやってあげる、お金儲けのためとかそういう動機ではないです。 ○吉村委員  親族や友人からの配偶子の提供に関してですが、将来、社会的な問題が出てくるので はないですか。 ○ブリンスデン所長  多分、そのうち問題は出てくるでしょう。今のところは深刻な問題は姉妹間でも友人 間でも生じていません。  もう一つ、2か月前にごく最近HFEAが決定したことなのですが、卵を共有してい いということです。また、IVFの料金を払えないような人がに対して、別の人で卵を 必要な人がいたとしたら、その人は卵の提供者のためにIVFの料金を払ってあげるこ とが出来ます。その卵の半分は自分でキープしておいて、半分は払ってくれた人にあげ るということです。これはエッグシェアと言います。私は、余りこれは気に入っていま せん。でも、これはごく最近HFEAでこれもよしとしました。 ○矢内原委員  胚はどうでしょう。 ○ブリンスデン所長  それはやったところはありません。 ○矢内原委員  違うファミリーでも兄弟が出来てしまうのではないですか。 ○ブリンスデン所長  それは、起こらないはずです。必ず、母か父のどちらかの精子なり卵は使うようにす るので、そういうことにはならないはずです。 ○中谷委員長  そうすると、先ほどお話があったドナーとレシピエントの匿名性の問題はどうなるの ですか。 ○ブリンスデン所長  この匿名性というのは絶対に必要ということではなくて、もし望むならということな のですが、今の英国の状況としましては非常に卵が不足していまして、エッグのウエイ ティングリストは2年から3年分あります。例えば、姉が妹から卵を欲しいのだけれど も、何らかの理由があって姉妹間であげたくないというときには、あげることの出来る お姉さん、妹なりは別の女の人に匿名でそれをあげることが出来ます。わざとウエイテ ィングリストの上の方に持っていくために、そういうことが出来るということです。あ るいは、友人でもいいのですけれども。 ○中谷委員長  非常に柔軟ですね。 ○矢内原委員  ただ、ドナーがレシピエントに会うというようなことに今話になっていると思うのだ けれども、これは一つ大きな問題ではないか。そういう権利はありますか。それはド ネーションと言いますか。ドナーがもらう人を選ぶということになってしまう。 ○ブリンスデン所長  それは、出来るんです。それは、許可されています。アメリカとは違いまして、アメ リカではインターネットで取引しますから、みんな背の高いハンサムな人を選びたがる というのがありますけれども、写真が出ますので。英国では、匿名でやっています。選 べるのは、髪の毛の色と目の色と身長と体重です。 ○矢内原委員  血液型はどうですか。 ○ブリンスデン所長  プラス、マイナスだけです。 ○矢内原委員  ドイツでは全くそういうことが出来ない訳ですけれども、ドイツのドクターはそうい うことを非常に希望している人が多いのですか。つまり、イギリス的になるということ は余りにもプロテクションが強過ぎるので、それはどうなのでしょうか。 ○ベーレ医師  申し上げましたように、エグドネーションは全くだめということです。勿論、不満に 思うことがあります。特に、例えば、25歳ぐらいの若いときにプリマチュア・オバリア ン・フェーリア(早発閉経)になってしまう患者がいて、全く手の施しようがない訳で す。あるいは子宮を喪失してしまったような若い患者さんで、サロガシーのための卵も 提供出来ないような場合。ただ、個人個人レベルの患者さんの問題にはなっているけれ ども、これが世の中に取り上げられて大きな話題になるという状況ではないです。 ○ブリンスデン所長  決して誤った印象を与えたくないのでお断りしておきたいのですが、このサロガシー であるとかエグドネーションというのは、決して英国で行われている治療法として大き な部分を占めているということではありません。ごくごくわずかな一部です。これは報 告書にも載っておりますけれども、年間の件数も非常に少ないです。エグドネーション の場合は全体で30万件の中で、例えば 200例ぐらい、それから、サロガシーの方は10件 から20件ぐらいですから、決して適切な考慮をせずにどんどんやってしまうということ ではない、きちんと慎重に選択した上でやっています。だから、アメリカみたいに英国 に行ったら何でもしてもらえるという印象を誤って受けないでいただきたいと思い ます。 ○丸山委員  ベーレ先生にお伺いしたいのですけれども、保険でカバーされるということなのです が、人工授精が6サイクル、IVFが4サイクルという、これはいつごろから始まった のですか。 ○ベーレ医師  実は、これは多少変更がありまして、保険でカバーされていたのは最初のIVFの 1982年から1989年まではこれでカバーされていました。それ以降は、保険から外されま した。一回、中止になったのですけれども、患者がこれを裁判所に持ち込みまして、 結局、保険の対象になるということで判決が下りました。したがって、保険の対象でカ バーされなかった分もさかのぼって保険がきくようになりました。したがって、ずっと きいていることになっております。4回のIVF周期の治療を受ける権利は患者にあり ます。したがって、あなたは治療出来ないと断ることは出来ない、そういう権利があり ます。 ○丸山委員  そのインシュランスカバリーはクライアントの行動に影響していますか。5回目はや めようとかいう趣旨ですね。 ○ベーレ医師  そういうことはありません。 ○吉村委員  ドイツではIVFを行う際に精子の提供は出来る、これは許されているけれども、同 じIVFでも卵のドネーションのものは許されていないと。これは、矛盾するのではな いですか、問題になりませんか。 ○ベーレ医師  非常に妥当なコメントです。確かに矛盾があります。マザーフッドが優先されるとい うことですので、法律としても遺伝的なものと生物学的なものでマザーフッドがアスプ リットしては困るという見解です。ただ、おっしゃるとおり矛盾があります。 ○ブリンスデン所長  さっきの話でも触れましたけれども、英国でも米国でもそうなのですが、これは西洋 の国々では非常に強い傾向が最近あるのですが、もし、精子のドネーションは許すけれ ども卵子は許さないとしたら、性差別だということで大きなトラブルに陥ってしまいま す。何しろ、西洋の社会というのは女性差別というのは絶対だめということになってい ますので、片方の性だけに何かを許すというのは受け入れられません。したがって、も し、エグドネーションを禁止すれば大デモになると思います。 ○矢内原委員  精子と卵子は採取の仕方からして全然違うから、差別にならないのではないですか。 ○ブリンスデン所長  そうではなくて、基本的な考え方として、もし女性が自主的に、あくまでも任意に例 えば自分のお姉さんを助けたいからということで、全くお金を目当てにしないでドネー ションしたいという希望を持った場合には、しかも、その場合には勿論どのような合併 症があり得るかとかすべてリスクなども理解した上でですけれども、そういった場合に は、女性は自分で決定をする権利がある、その権利が与えられるべきであるというのが 西洋の考え方です。この権利が認められないと、これはすなわち差別となってしまい ます。 ○中谷委員長  大変、議論が楽しくて尽きないのですけれども、そろそろ時間になりました。 最後に、石井美智子委員の方から1つ御質問があるそうですので。 ○石井(美)委員  確認したいのですけれども、先ほどからエッグドネーションの話が出ているのです が、エッグドネーションにお金を支払うことは禁じられたのですね。 ○中谷委員長  実費だけの支払いということになったんですね。 ○石井(美)委員  先ほどのエッグシェアの話は、実質的には報酬を与えているのと同じではないのです か。現実にはどういうことが許されているのでしょうか。また、支払いを禁じたことに よって、ますますドネーションが減っているというような影響はあるのですか。 ○ブリンスデン所長  そうなんです。もっとエッグがもらえなくなるので、本当に欲しかったらアメリカま でお金を払って行かなくてはいけない時代になっています。でも、それは倫理的だとは 我々は思っていません。我々のほとんどの意見としては、エッグシェアは余りよい方法 ではないと考えています。したがって、HFEAの今回の決定というのはある意味で意 外であったというか、裏切られたという気がします。 ○中谷委員長  それについてのアンケートみたいな意見を求めていますよね。意見は来ているから、 そのデータが欲しければ要求すればあげるよというふうに書いてあったのですけれ ども。 ○ブリンスデン所長  私からでもいいですし、あるいは直接HFEAの方からも得られると思います。 ○中谷委員長  どうもありがとうございました。  それでは、司会が不手際で時間をオーバーしてしまいましたけれども、事務局の方か ら何か。 ○北島課長補佐  本日は特にございません。次回以降の日程だけ、前回決めていただきましたので再度 の御確認をお願いします。 ○事務局  次回は、5月6日の1時半からでございます。 ○中谷委員長  それだけでよろしゅうございましょうか。それでは、これで議事を終了させていただ きます。長時間にわたってありがとうございました。特に、ブリンスデン先生、ベーレ 先生本当にありがとうございました。心から御礼申し上げます。 [参考資料ー特別講演会「ヨーロッパの生殖補助医療の現状と法制度」] ○北島課長補佐  それでは、お約束のお時間を少々回りましたので、これより講演会を始めさせていた だきます。  本日は、大変御忙しい中、御参集いただきまして誠にありがとうございます。また、 講師のブリンスデン先生、それから、ベーレ先生には御遠方からお越しいただきまして 誠にありがとうございます。  それでは、特別講演会『「ヨーロッパの生殖補助医療の現状と法制度」―生命倫理の 視点から―』を開催いたします。  その前に、ブースの使い方を御説明申し上げます。机に座られておられる皆様方に は、机のところにマイクとイヤホンがついております。イヤホンを当てていただきまし て、今チャンネルが2に合っていると思いますが、2の方に合わせていただきますと、 英語から日本語への同時通訳が入ります。また、チャンネル3が日本語から英語への同 時通訳になっております。  また、マイクにつきましては、御講演の後、意見交換がございますので御発言の方は このマイクを立てていただきまして、右下のスイッチのマイクON/OFFというとこ ろをONにしていただきますと、マイクが入るようになっております。また、御発言が 終わりましたら、マイクをOFFにしてしまっていただきたいと思います。よろしくお 願いいたします。  それでは、主催者を代表いたしまして、厚生省児童家庭局母子保健課長の小田からご あいさつを申し上げます。 ○小田母子保健課長  それでは、高いところからではございますが、主催者を代表いたしまして一言ごあい さつ申し上げます。  この会は、ヨーロッパの生殖補助医療の現状と法制度ということで、私どもの厚生科 学審議会先端医療技術部会の専門委員会と、それから、矢内原先生の我が国における生 殖補助医療の実態とその在り方に関する研究班、それと、私どもの三者で共催させてい ただいているものであります。  既に御承知のことかと思いますが、外国からの先生もおられますので若干、経緯を振 り返ってみたいと思いますが、我が国の生殖補助医療あるいは出生前診断についていろ いろと問題が生じてきている、あるいは議論になってきているということで、一昨年の 7月に厚生科学審議会の先端医療技術部会というところでいろいろ審議を始めました。 まず、初めに関系団体のヒアリング、それから、論点の整理といったことをやってきた 訳ですが、更に、専門的な議論が必要であろうということで、昨年の10月から先端医療 技術部会の中に生殖補助医療に関する専門委員会、更に、出生前診断に関する専門委員 会という2つの委員会を設けまして、現在、議論を重ねているところであります。  本日は、生殖補助医療に関する専門委員会の関係でありますが、その中で議論になっ たのは、我が国の国民の皆さんあるいは産婦人科、小児科あるいは不妊治療に当たって いる一般の方々の考え方をまず調査しようということで、現在これは調査を実施してい るところでありまして、約6,000通の調査票をお配りいたして、現在3,218ほど返ってき ておりまして、50%を超える回収率であります。  それと、もう一点は、各国によって制度が非常にまちまちであります。ですから、既 に法制度等含めて制度化されている、特に、ヨーロッパの国々の状況についてもう少し 勉強する必要があるのではないかということで、矢内原先生の研究班にお願いしまし て、今日はドイツとイギリスの生殖補助医療を巡る法制度あるいはそれがつくられたい きさつ、それから、現在どのように運用されているかといった点も含めて御講演をお願 いしたいというふうに考えている訳であります。  勿論、その後で質疑応答の時間も十分に取っておりますので、マスコミの方あるいは 一般の方を含めまして御議論を深めていただければと思います。  勿論、主な論点というのは、やはり産まれてきた子どもの権利、親を知る権利を初め としてさまざまな権利があります。それから、両親がだれなのか。いわゆる遺伝的なお 父さんとお母さん、それから、実際の戸籍上のお父さん、お母さんの間で、まだ我が国 においては十分な整理がなされていない状況にあります。そういった点をどう考えてい くか。  更には、どういったレベルの生殖補助医療まで許されるか。これも各国によってさま ざまであります。AIDまでが許容範囲だというところから、借り腹あるいは何でも OKというところまでいろいろな国がある訳でありますので、日本ではどの程度のとこ ろまで許されるかといった点の議論が今行われている訳であります。  本日は、イギリスにおける生殖補助医療の現状と法制度につきまして、Bourn Hall Clinic所長のPeter Brinsden博士、それから、ドイツにおける生殖補助医療の現状と法 制度につきまして、ミュンスター大学の副教授でいらっしゃいますHerman Behre博士、 このお二方にわざわざおいでいただきまして、御講演をお願いした訳でございます。こ ういった諸外国の状況を踏まえて、また、審議会あるいは国民的な世論も盛り上げてい って、出来るだけいいものがつくられるということを私どもも念願している訳でござい ます。  先生方には非常にお疲れのところでございますが、是非、私どもに先進国としての御 経験なりあるいは運用の状況なりをお話しいただければと思います。  それでは、ちょっとあいさつが長くなりましたが、これから講演に移らせていただき ます。 ○北島課長補佐  それでは、早速ですが、講演に入りたいと思います。  本日の講演会の進行役座長を厚生科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業「我が国 における生殖補助医療の実態とその在り方」研究班の班長でございまして、また、生殖 補助医療技術に関する専門委員会の委員でもございます、昭和大学の矢内原巧教授にお 願いしております。  それでは、矢内原先生よろしくお願いいたします。 ○矢内原座長  皆さんこんにちは。矢内原でございます。今日の講演会の進行役を承っております。  お二方外国からお見えになった先生方にお話をそれぞれいただきまして、お一方終わ られた後で2つないし3つ、簡単な確認の御質問をちょうだいしたいと思います。それ が終わりました後で、総合討論として約40分間ぐらい取ってございますので、私も中に 入って一緒に討論に加わりたいと思います。先生方の活発な御質問または皆さんからの 御意見等を賜ればと思います。  では、最初の演者の方を御紹介いたします。先ほど厚生省の方から御紹介がありまし たけれども、ピーター・ブリンスデン博士でございます。イギリスのボーンホールクリ ニックの所長をしていらっしゃいます。英国の中では最も早く、そして、この生殖医療 の分野では大変有名なところでございますし、伺いますと、英国の法制度が出来たとき のいわゆる議会でのメディカルアドバイザーとして、その成立に参与されているという ふうに言っておられました。  今日は、英国におけるいわゆるART、Assisted Reproductive Technologyのレギ ュレーション、規制と申しますか規約ということについてお話をいただきたいと思いま す。 特別講演1 「イギリスにおける現状と法制度」 Dr.Peter R Brinsden MB FRCOG,Bourn Hall clinic 所長  矢内原先生ありがとうございます。また、今回御招待いただきましてありがとうござ いました。非常にこちらにお邪魔出来ることを光栄に思います。  明かりを落としていただけますか。スライドをお願いします。  それでは、本日、私の方からは私自身の経験をお話し、また、イングランドの同僚の 経験を御紹介したいと思います。英国では、10年近くの間厳しい規則、規制が引かれて いました。特に、ここで厚生省の方々に御礼申し上げます。今回、来日することが出来 たのも厚生省のお陰でございます。また、先端技術協議会の方々、特に、中谷先生に厚 く御礼申し上げます。また、生殖補助医療の実態とその在り方研究班の方々、また、矢 内原教授本当にありがとうございます。本日の経験が、皆様にとって有意義であること を祈っております。  来日するのをいつも楽しみにしております。母から聞いたのですが、私は日本で受胎 されたということなんです。したがって、私はメイド・イン・ジャパンということでご ざいます。そして、実際に産まれたのは中国なのですが、母が受胎したのは日本という ことで日本に来るたびに非常に親しみを覚えております。  それでは、私どもの経験を御紹介させていただきます。いかに我々がこのケンブリッ ジのクリニックで対応してきたか、これはケンブリッジの郊外にあります非常に美しい ところなのですが、もともと事の発端はルイス・ブラウンが産まれたときです。1978年 のことでした。彼女は今年21歳になります。7月がお誕生日です。ステプト先生がいら っしゃいます。1988年に亡くなりました。そして、私が後任者として1989年に就任いた しました。それから、エドワーズ教授です。多くの方は御存じと思います。特に、教授 の方々はよく御存じと思いますが、非常に今でもエネルギッシュに活躍していらっしゃ います。  長いスライドですが、ここでサマリーという形で今までの経緯を振り返ってみたいと 思います。1968年から1978年の間英国におきましては、規制はありませんでした。これ はすべて新しい進展です。それから、1982年の段階でウォーノック委員会が任命されま した。この委員会ですが、1984年、すなわち2年後にウォーノックレポートを発表いた しました。この報告書におきまして、英国におけるARTの将来の方向性が示されてお りました。生殖補助技術に関してです。そして、暫定的なグループが2つその間に設置 されまして、そして、1990年の段階でヒトの受精及び胚に関する法律が制定されまし た。そして、これに基づきまして、ある団体、機関が議会の指示の下に結成されまし て、そして、ここで1年経ちますと規約集(Code of Practice)というのが発行になり ました。これは規則集ということです。これは、拘束力がある規約ということです。 このルールブック、規約集でありますが、これは定期的に改訂されております。  このウォーノックレポート報告でありますが、その感覚としてすべての医師、そし て、クリニックは次のことに関して許可を受けなくてはいけないとしております。ヒト の胚をつくる場合、これは提供された精子、卵子を使う治療をするために、また、あら ゆる配偶子あるいは胚を凍結し保存する場合、そして、また、すべてこの胚に関する研 究は許可を受ける必要があるということでした。  そして、この討議、審議の中で一部の人々がこの胚に関する法律に異論を唱えまし て、1963年の中絶法と胚に関する法律を故意に混同させようとしました。私個人的に思 いますのは、やはり胚と胎児ははっきりと区別すべきだと思います。これを混同しては いけないと思います。中絶法はこの胎児の法な訳です。したがって、この2つの問題は はっきりと分けておかなくてはいけません。胚の研究と言ったら、決して中絶のことを 言っていることではないということです。  そこで、1990年に議会で受精卵及び胚に関する法律が通過しました。しっかりとした 活発な審議がされました。そして、自由投票の形が取られました。したがって、党の決 定に縛られずに、あくまでも個人の意思に基づいて投票が出来た訳です。その投票の結 果は、2対1ないし3分の1の結果で適切にコントロールされた治療が、支持されまし た。IVFに関して、また、配偶子の提供にかかるすべての治療に関して、そして、ま た、この胚のあらゆる保存に関して支持されたということです。  人の受精および胚の研究等に関する認可庁が1991年から設置されていて規制をしてい ます。そして、ライセンス、許可を与えております。非常に強力な機関です。そして、 すべてのクリニックはまずライセンスを受けないと治療が出来ません。体外で胚をつく るすべての治療はライセンスを受けるとなっております。また、提供された配偶子の治 療も、それから、それを凍結保存する場合もです。繰り返しになりますが、やはりこれ は重要だと思います。このガイドラインがあるということです。  そして、この認可庁が設置されましたときに当初、幾つか問題がありました。それほ ど大きな問題ではありませんでしたが、1つ法律で言っていたのは、すべての治療は完 全に秘密を保持しなくてはいけない、プライバシーを保護しなくてはいけないとされて いました。ところが、これが厳し過ぎるということが分かってきました。余りにも強く 規制し過ぎている、実際にはうまくいかないということが分かりまして、これを変更す る必要がありました。したがって、また議会に戻しまして、もう少し自由度を与えた訳 です。勿論プライバシーの保護の範囲内です。  また、税金のような制度が設けられまして、どのようなカップルであっても40ポンド ないし50ポンド治療を受けるたびに支払う必要がありました。我々にとっては非常に悪 いアイデアだと思いました。なぜならば、もう既に患者はその治療費を負担しなくては いけないからです。更に、それに加えて、税金のようなライセンスフィーを払わなくて はいけません。  もう一つの問題としては、この胚の保存に関して、これは5年までとなっており ます。後でお話しいたします。それから、もう一つの問題としては、このHFEA(認 可庁)でありますが、HFEAが成績表を発表すると決めたことです。クリニックの中 で余り成績のよくないところは倒産してしまいました。なぜならば、この成績表の一番 ペケのところに位置をつけたからです。これは悪いとも言えないと、全員がこの考えに 反対していた訳ではありません。  そこで、この規約があります。これはルールブックということで、我々が遵守しなく てはいけないというものです。この原則に基づいております。まず、適切に人間の生命 を尊重しなくてはいけない。これは、非常に小さい胚の段階から成人に至るまで発達の あらゆる段階で、特に、子どもに関して尊重しなくてはいけないということです。そし て、不妊のカップル、人々の権利を尊重しなくてはいけないということ。そして、 また、最も重要な点といたしましては、やはり何と言っても子どもたちの福祉を考慮す るということです。これが常に我々にとってはナンバーワン、最も重要です。  もう一つ重要なのは、適切な研究を行うことによって社会にとってもメリットになる し、また、将来的には不妊のカップルにもメリットがあるということです。  それで、どのようなクリニックでも申し上げましたようにライセンスを受けなくては いけません。IVFでも何でも、この領域においてはライセンスなしには何も出来ませ ん。したがって、各クリニックは許可が必要です。  私自身は、私のクリニックの責任者ですが、そして、すべてのスタッフの履歴がHFEA (認可庁)により審査されます。また、調査官がいまして、毎年クリニックは1回ずつ 調査を受けます。そして、このライセンス委員会の方に報告が行きます。そして、この 委員会がリコメンデーションを受け入れるか、あるいは却下する訳です。非常に厳格な ライセンシング制度があります。今現在、72件のライセンスを受けたクリニックが英国 にあります。英国の人口は大体5,600万人です。センターによってはドナーインセミネー ション、人工受精だけをやっているところもあります。IVFをやっていないところ、 そこが31件。そして、2つのクリニックは研究オンリーで治療していないところもあり ます。治療しているところのほとんどは、一部この許可を受けたリサーチ、研究もして おります。  それでは、規則違反をしたらどうなるのでしょうか。この実施規約 (Code of Practice)に違反したらどうなるのかということですが、このようなシステム があります。まず、警告が出ます。その次に、クリニックは申立てをすることも出来ま す。もし、問題を是正しなかったら、そのクリニックはライセンスを剥奪されてしまい ます。ライセンスを取られてしまうと、もはやIVFの分野では治療は出来ません。最 初の9年間の間に、3件のクリニックがライセンスを取り上げられてしまいました。こ の規約を適切に遵守しなかったから、あるいはよいサービスを患者に提供していなかっ た、成績が悪かったからです。  責任者ですが、私のクリニックの場合には私自身ということになりますが、ライセン スが必要です。そして、あらゆる基準に関して責任があります。適切な資格を持ったス タッフをそろえなくてはいけないということ、そして、カウンセリングも強力な体制を 整備しなくてはいけません。また、培養室等の設備のスタンダードも高いものでなくて はいけない。そして、毎年調査の対象となります。そして、あらゆるプロトコール、手 順、すべてのモニタープロセス、品質保証、そして、品質管理のメカニズムは適切に実 施されなくてはいけないとなっております。  情報の機密保持でありますが、これもとても重要と考えられています。患者はこう言 うかもしれません。全く自分の情報がこのクリニックから出てほしくないと。その場合 には、このルールを守らなくてはいけません。子どもの福祉、申し上げましたが、これ はトッププライオリティーです。ほかの何よりも優先順位が高くなっています。 そして、配偶子、卵子、精子の提供者は適切なカウンセリングを受けなくてはいけませ ん。そして、スクリーニング試験査を受け、評価を受けなくてはいけません。  これに加えて、更にあらゆる情報、患者に我々が提供する情報は適切なものでなくて はいけません。そして、これは当局の調査対象になります。患者に対して我々が誤った 情報を与えていないということを確認します。そして、治療の結果が本当はどうなるの かということ、コストがどのぐらい掛かるのか、成功率はどのくらいなのか、どのよう な合併症が考えられるか、情報を提供するホームページもあります。そして、電話のヘ ルプラインもあります。また、患者支援グループというのもあります。そして、すべて の同意書、コンセントに関しては適切に記入しなくてはいけません。そして、患者はイ ンフォームド・コンセントを与えます。したがって、自分が何に同意しているか患者と してきちんと理解している必要がある訳です。  カウンセリングですが、これもとても重要と考えられております。4つのタイプのカ ウンセリングがあります。情報提供するどのような意味を持つかということ、 サポート、そして、治療関連の情報、これはすべて重要な役割を果たしております。 このカウンセリングを患者として受け入れる必要はありません。しかし、カウンセリン グを提供する側としては提供する義務があります。  これは、かなり長いスライドで申し訳ないのですが、ここで重要なのは設備、培養室 あるいはクリニックのすべてのスタンダードを厳密にコントロールしなくてはいけない ということです。法律によりますと、可能な限り最高な水準を提供すべしとなっており ます。そして、卵子、精子あるいは胚が全国に輸送される際にも許可が必要です。ある いは配偶子、胚の輸出入についても許可が必要になります。  また、子宮内に戻すことが出来る胚の数は、3つまでとなっております。そして、若 い女性の場合には、今では2つまでというのが普通になっています。そして、複数の 人々の精子をミックスしてはいけないことになっています。以前は違いましたが、ミッ クスはいけないということです。そして、また、胚は非常に特別な対象であると、それ なりの尊重が必要です。そして、この胚の廃棄に関しても特別な配慮が必要です。その カップルとしてもはや必要でない場合、この胚のセキュリティーの問題、そして、カッ プルが胚を所有している訳ですから、その患者との連絡を取り続けるということも必要 です。  HFEAは、毎年あらゆる情報をすべてのクリニックから収集します。そして、年次 報告を出します。すべての治療の成績を報告し、特定のどのような問題がその1年間に あったか、そして、どのように対応したかも報告します。また、年次ガイドというのを 出します。これは患者向けのガイドです。内容としては、すべてのクリニックの成功率 を報告します。そして、勿論、新聞社はこれを入手してワーストテンというのを新聞で 発表する訳です。そして、また、レクチャーであるとか、発行物の情報が載ります。そ して、また、政府、ロイヤルカレッジ英国受精学会、並びに、すべての患者支援グルー プと連絡を取ります。毎年このHFEAの方では年次報告書を出しております。ちょっ とこれは字が小さいと思いますが、毎年このような成績を発表します。周期の数を報告 し、成功率のような形で発表する訳です。そして、数多くの表をこの年次報告書の中に 入れる訳です。これが患者向けガイドです。毎年、すべてのクリニックにおける成績が 発表されています。  それでは、治療結果、成績はどうでしょうか。ここで簡単に治療の結果、成績を国全 体として御紹介したいと思います。個々のクリニックではなしにです。こちらなのです が、これは治療周期ごとの成績です。それから、これは採卵後と胚移植後とであります が、ごらんのように加齢とともに成功率が低くなります。御存じのように、生殖補助医 療においては年齢というのが最も重要な成功因子です。年齢が高ければ高いほど成功率 が低くなるということです。  また、これは、IVFで今まで何回試みられてきたかということです。不成功に終わ った体外受精の回数が高ければ成功率が低いということになります。  そして、これは不妊の原因ですが、卵管に関連するもの、子宮内膜関連のもの、機能 性不妊、それから、頚管、子宮の異常でありますが、17、18%程度の成算率ということ になります。  昨年の報告ですが(得られた成績を編集するのに1年ぐらい掛かりますので)、1997 年現在で2万7,000程度の周期が試みられました。そして、臨床的妊娠率が21%、周期当 たりの生産率が17%でした。そして、すべての妊娠のうちの3分の1、これは3個の胚 を移植した場合ですが、30%近くです。これは高過ぎます。これは多胎率ということで す。2つにすると26%の双子あるいは三つ子になるということです。  それでは、次に、どのような倫理関連の問題があるかということを考えたいと思いま す。私のクリニックにおきましては、このようなシステムがあります。それぞれスタッ フの個人個人が自らの意見を言っていいことになっています。もし、私あるいはスタッ フのだれかが例えばサロガシーに関して賛成出来ないとしたら、その人はその治療に参 加しなくてもよいことになっています。したがって、個人個人の良心に基づいて行う訳 です。そして、あらゆる倫理関連の問題をスタッフグループとして取り上げます。毎年 スタッフミーティングを開催いたしまして、例えば、未婚女性を治療すべきかあるいは 同性愛の女性はどうするか等々検討します。あるいは50歳以上の女性はどうするか。  そして、我々としてこれだったら安心出来るという線を決めます。そして、我々の上 に独立した倫理委員会があります。この委員会は、我々が非常に困難な倫理上の問題を 解決するのをヘルプしてくれます。その上に、更にHFEAがあります。そして、その 上に勿論いつもそうですが議会がある訳です。したがって5層になっています。5つの 倫理関連のシステムが英国には引かれています。  ヒトの胚というのも申し上げましたように、非常に特別なものです。したがって、 ヒトの胚というのは8分の1、6分の1、10分の1ぐらいの確率で成人になる確率があ る訳ですが尊重します。このヒトの胚に関する研究というのは許可されています。ただ し、条件があります。適切な理由がなくてはいけません。まず、不妊治療を促進するた めに使うという場合には研究が許されます。また、先天性疾患の知識を深めるために、 これも妥当な理由になります。また、流産の原因に関する知識を深めるため、より効果 的な避妊法の開発のため、また、胚において着床する前の染色体異常を発見するためで す。したがって、このPEDというのは許可されています。  しかし、胚は14日以上は保存してはいけません。そして、また、胚を動物に移植して はいけないということ、これは皆さん御同意いただけると思います。また、胚の細胞の 遺伝子の構造を変えてはいけないとなっています。  幾つかHFEAの方で憂慮している点があります。そして、対応を考えている点があ ります。これらが面白い点であります。既に新聞等で皆さんお知りになっているかもし れません。例えば、胚の保存という問題があります。例えば、私のクリニックでありま すけれども、胚を1万というふうな単位でクリニックに保存しております。患者の中に は他国に移住してしまったり、その後連絡が途絶えているという人もいる訳であり ます。そこで、我々といたしましては、ある時点で、すなわち法律では5年後には連絡 が取れないかどうかといったことを確かめる訳でありますけれども、もしも連絡が取れ ないような場合には、法律としてその胚を廃棄しなければならないということになって おります。適切な形で廃棄するようになっております。  そこで、私どもは800の胚を一々廃棄するということを余儀なくされました。勿論、私 たちは心を痛めた訳であります。そして、また、憂慮している点でもあります。ただ、 そうでなければ、法律によりますとクリニックを閉鎖するということになっており ます。そのために、新聞ざたになった訳であります。ほかにもそうしたクリニックはあ りました。  それから、産み分けでありますけれども、これについては中止されております。つま り、産み分けは社会的な理由から許されないということであります。ただ、非社会的な 理由からは許されております。  また、胎児の卵巣組織の使用ということですが、これはかなり議論を生むものであり ます。そこで、胎児の卵巣組織というのは研究目的のためには使えるということになり ました。しかしながら、子どもをつくるための方法としては用いてはいけないというこ とです。クローニングについて話をいたしました。  それから、高齢女性でのサロガシーということ、これらについてもう少し話をしたい と思います。胚の場合には、かなり今まで廃棄された経緯があるということです。とて も悲しいことでありましたけれども、今はよりよくこの点について組織されるようにな りました。もしも、連絡を取ってこないような人の場合には、胚を廃棄しなければなら ないということです。このように法律でうたわれている訳であります。いろいろな新聞 ざたになりました。世界的にも問題になりました。多くの人が心配いたしました。 特に、人権のグループからの懸念が上がりました。それから、産み分けですけれども、 先ほど申し上げましたように、これについては許されておりません。  それから、これは精子でありますけれども、これを見ることによって男の子と女の 子、XとYということで見分けることが出来る訳であります。ただ、医学的な理由で伴 性遺伝性疾患といったものがありますので、そうした理由からは性別の選択というもの は可能であります。しかし、社会的な理由からは許されておりません。  それから、ディスカッションドキュメントが出ております。私どもで中絶された胎児 の組織利用ということに関しては、いろいろ話し合いが行われまして、6か月間にわた って話し合いがなされましたけれども、これは許されないということになりました。ク ローニングでありますけれども、これもまだ議論中であります。まだ話し合いの最中で あります。しかし、ヒトのクローニングといったものは許されておりません。これは、 イタリアのドクターでありますけれども、アンチノーリ先生の記事をお読みになったこ とがあると思いますけれども、我々といたしましては同意出来ないようなことをやって おります。ただ、彼はベビーのクローニングをやりたがっているということです。 ただ、英国ではこれは禁止されております。  組織のクローニングでありますけれども、例えば、臓器の再生あるいはすい臓ですと か肝臓、神経細胞、組織といったもののクローニングというのは受け入れられるかもし れません。  それから、英国におけるサロガシーというのは許されております。確かに、問題をは らんではおりますけれども、これについては注意深く検討してまいりました。10年前は だめだった訳でありますが、8年前によくなりました。そして、6年前にまただめとい うことになりまして、4年前にまたよくなったというふうな経過をたどっております。 今は大丈夫だという状態であります。そして、ボンホールでは8年前からサロガシーを 行っております。  高齢者の女性の治療を行っておりますが、これもやはりイタリア人の女性であり ます。恐らく皆さん記事でお読みになったと思いますけれども、48歳以上の女性あるい は50歳までは可能かもしれません。つまり、この閉経の時期というのがその辺だからで あります。そこで、高齢女性の治療というのは許されていないということです。  過去10年にわたりまして、システムが出てきてまいりました。HFEAの中でいろい ろなディスカッションがなされるようになりました。問題が同定されて、そして、ディ スカッションドキュメントをつくって決定をして、実際に実行に移すというものであり ます。これは、非常によいシステムだというふうに、我々は思っております。人の中に は、なぜHFEAがそんなにも問題を起こすのかというふうに思っている人もいるかも しれません。つまり、決定を下す前に完全に討論するということ、これは健全なことだ と思っているからであります。  また、HFEAというのはみんなを満足させようとしている、こんなのは不可能だと いうふうに非難されます。勿論、賛否両論は常にある訳であります。ただ、これはディ スカッションの過程で健全だと思っております。これよりもいい方法はないというふう に思っております。非常に健全なディスカッションがなされる、問題について討論する ということはいいことだというふうに思います。  ただ、国によっては幾つかの憂慮点というのが問題となることがあります。例えば、 こうした問題の幾つかを詳しく見てまいりますけれども、ドナーの精子というのは英国 では無料で手に入れることが出来ます。ただ、これはライセンスを受けているセンター でのみ治療が可能だということであります。そして、ドナーの評価については厳しい ルールがあります。カウンセリングですとかあるいはHIV、肝炎あるいは染色体です とか、そういった厳しいテストの規制があります。そして、すべての精子というのは使 用前6か月できちんと凍結保存されてチェックされなければなりません。そして、 また、それぞれのドナーに関して10人の子どもの誕生までが許されるということであり ます。  また、次に、卵の使用でありますけれども、いろいろと問題が出てきております。た だ、英国では提供された卵を使うということは許されております。あくまでもライセン スを受けているセンターでのみ治療が可能であります。そして、また、ドナーのテスト というのも規制があります。卵の提供者は若い女性でなくてはならないということ です。また、卵を受け取る側というのは36歳未満でなくてはならないということです。 また、国によってこれはまだ議論が百出しているところでありますけれども、ドイツで もそうだと思いますが、適切な規制といったものが必要だということであります。  それから、卵のドナーに関してアメリカとは違いまして、そこに金銭の授受はありま せん。例えば、アメリカでは1つの卵について5,000ドルというふうになっておりますけ れども、イギリスでは全く商業化しておりません。つまり、精子あるいは卵の売買とい うのは行われていないということであります。  そして、また、カップルの中には治療によって卵が残る場合があります。そうした場 合には、その胚を研究目的のために提供するか、あるいはほかのカップルに提供する か、あるいはもしも必要ないということであれば廃棄するというオプションがあり ます。それから、ドナーのテストに関して厳しいルールがあります。同様のガイドライ ンもあります。ということで、非常に厳しい条件が課せられている訳であります。  サロガシーでありますけれども、これは最も議論を呼んでいる分野だと思います。 IVFのサロガシーという場合でありますが、カップルから胚をつくります。つまり、 夫婦の間で胚をつくる。そして、それを別の女性に戻すという方法があります。 これは、例えば妹ですとか近い友人ですとかあるいはエージェントを通して知り合った 人というふうになります。10年間で50カップルを治療いたしました。妊娠率は非常によ かったということです。  今までのところ、このサロガシーに関しては問題ありません。  新しい法律の改正があります。今ここで2人の姉妹が写っております。彼女でありま すけれども、子どもを出産時に失ってしまいました。そして、彼女は非常に大量の出血 をしたということです。そこで、彼女の卵と、それから、彼女の夫の精子を使って胚を つくりました。そして、この胚を彼女の妹に入れた訳であります。この方は、既にもう 2人の子どもを持っております。そして、妹の方が子どもを産んだということでありま す。遺伝的にはこの夫婦のものということになります。それが、IVFのサロガシーと 呼ばれるものであります。これはイギリスでは認められております。  しかしながら、ヨーロッパのほかの国ではほとんど認められておりません。注意深い カウンセリングですとか法的な面でのアドバイスを行ったりということを行わなければ なりません。  また、男性もベビーをつくれるというふうな話題も出ておりますけれども、サンデー ペーパー、これは日本のペーパーにも載りました。BBCでは男性が子どもを持つとい うことはどうかという話が出ておりましたけれども、男性の場合にはそれだけの勇気が ない、子どもを育てるということも出来ない、我々男性はそういった能力はないと思っ ているということです。  それから、多胎妊娠ですが、これも問題です。我々といたしましては、何とか努力し てなるべく三つ子ですとか四つ子の数を減らそうとしている訳であります。5,000人のベ ビーを産んだ中で大体4件の四つ子がおりました。これは、八つ子の場合であります。 メディカルジャーナルに載ったものでありますけれども、排卵誘発によって最近イギリ スで見られたものでありますが、これらのサックを選択的な減胎によって取るというこ と、これが倫理的に適切かどうかという問題があります。ただ、英国では認められてお ります。だれもやりたくはない訳でありますけれども、これは中絶とは違います。とい いますのも、妊娠は続くからであります。  ただ、選択的に2〜3あるいは5つの胎児を減らす訳であります。それによって、そ のほかの子どもが生き残るチャンスが高くなる訳であります。したがって、倫理的には 問題がありますので、注意深い監督が必要であります。  このディスカッションドキュメントのシステムに関しまして、ここに簡単にまとめて みました。これは、非常によいものだというふうに考えております。このまま存続され るべきだというふうに思っております。そして、問題を明らかにし、討論し、それに対 応しルールをつけるべきだというふうに考えております。そして、やり方を変えてい く、規制を変えていくということです。これは、我々の国ではうまく機能しており ます。  どのような作用があるでしょうか。私どもといたしましては、不妊のカップルまたは ドクターに対して、社会に対して影響があるというふうに認識しております。  まず、メリットといたしましては、患者に安堵感を与えるということ。そして、 また、特にこの規制というものがきちんと見直され、そして、ケアのスタンダードとい うものも改善出来るということであります。そして、また、社会に対しても安心感を与 えます。つまり、非倫理的なことが行われないということを確実にすることが出来ると いうことであります。そして、また、不合理な医療行為というものも防ぐことが出来ま す。いわゆる不合理なことを行うようなドクターを抑え込むことが出来るということで あります。そして、また、GLP、GCPといったものを促進することが出来ます。  デメリットですけれども、非常に官僚主義であるということです。いろいろな書類を そろえなければならない、いろいろな通信交信もしなければならない、コストも掛かる ということであります。そして、多くの場合余りにもルールが多過ぎるということ です。つまり、義務づけが多過ぎるということです。余りガイドライン的な余地がない ということであります。つまり、我々としては、きちんとしたガイドラインが必要なの であるということです。法律ということになりますと、余りにも柔軟性がなくなってし まいます。ガイドラインに比べて法律というのは固過ぎるということです。つまり、時 代に対応していけるような柔軟なガイドラインの方が必要だということです。  コストですけれども、130万ポンド、すなわち2億8,000万円ということになります。 このお金というのはクリニックから、また、患者から吸い上げられたものとなります。 私のクリニックでありますけれども、1,000万円をライセンスの費用として昨年支払って おります。私の通訳が幾らかというのを日本円に換算してくれました。毎年1,000万円我 々のクリニックで払わなければならないということです。  1つ注意しなければならないのは、余りにもこの規制が厳し過ぎる場合、そうなりま すと、患者が国境を越えて異動してしまう可能性があるということであります。例え ば、日本でIVFをストップしてしまった、そうなるかどうか分かりませんけれども、 IVFをやめたと。そうすると、今度は患者が香港に行ったり、イギリスに行ったりと いうことでその国でIVFで受けようというふうにしてしまいます。あるいは卵の提供 というものをやめてしまいますと、今度はそれをほかの国に行って受けようというふう になる訳であります。ということで、余りに厳し過ぎるというのと、余りにも緩過ぎる というそのバランスが必要であります。ただ、そのバランスは難しいということです。 ただ、それを達成しようとしているのが、今まさに我々の立場であります。  我々としては、勿論、配偶子ですとか胚がインターネットで売買されるというような ことは避けなければなりません。アメリカで始まっておりますけれども、これはいいこ とだとは思いません。また、注意しないと研究の可能性を奪ってしまうという可能性も あります。つまり、研究が前進するというチャンスがなくなってしまうということであ ります。つまり、この研究をリードするのではなく遵守していくということになって、 ただ単にそれを守っていくだけに終わってしまいます。  ですから、我々としては、すぐれた規制を望み、また、必要としているということで あります。それがイギリスでの願いであります。そして、また、非常に厳しい、柔軟性 のないような規制というのは望まない、必要ともしないということです。そして、しっ かりとしたガイドライン、つまりこうした方がいいというふうな手引的なものが必要で あると。その方が厳しい法律よりもよいということであります。  もしも、皆さんの方で法律をつくるのであれば、しっかりとしたガイドラインですと かGCP、GLPのようなものが望ましいということであります。といいますのも、法 律にしてしまいますと、今度は変更が不可能になってしまうからであります。すべて変 化いたします。意見にしたってそうです。イギリスのサロガシーに関する考え方にして もそうです。すべては変遷していく訳であります。したがって、この方針というものを 毎年のように見直していく、あるいは5年ごとに見直していくということが必要な訳で あります。そして、正しいと思われること、一般大衆が正しいと考えること、また、患 者の見解を組み入れていく必要がある訳であります。  私、今回この話を皆様の前で出来て大変嬉しく思います。私の17年間、18年間の英国 における法規制についての経験を語らせていただきました。非常に妥当なシステムを我 々は持っているというふうに思っています。ほかの国は、かなりリベラルだというふう に言う人もおります。あるいは、また、自由度が足りないと考えている人もおります。 ただ、バランスを取るということは最も困難なことであるというふうに思って おります。  ボンホールには多くの子どもがおります。5,000 例近くの子どもが治療によって産ま れております。これはルイちゃんです。ここにブラウンさんがおります。ナタリー さん、エドワード先生がここにおります。みんな健康な子どもたちであります。きちん とした規制というものが必要であるということであります。勿論、この妊娠の率が減少 するということは望みません。そのクリニックに行けばケアのスタンダードというのが 高くて、そして、また、GLPもしっかりしている。そして、また、成功率が高いとい った施設に行きたいと思うのが患者だと思います。  Q&Aのときに質問があれば喜んでお受けしたいと思います。そして、また、今回の 御招待ありがとうございました。また、皆様御静聴ありがとうございます。(拍手) ○矢内原座長  ブリンスデン先生、どうもありがとうございました。  後で総合討論を行いますけれども、今ここで1つ2つ確認しておきたいことがござい ましたら、御質問を受けたいと思いますけれども、何かございますでしょうか。何か委 員の先生方ございますか。よろしゅうございますか。 ○中谷委員長  一つよろしいでしょうか。サロガシーに関する法律の一番最近のは何年の法律でしょ うか。これが1点。  それから、もう1点は、セレクティブリダクションに関する数は何回ありますか。 ○ブリンスデン所長  最初だけ聞こえたので、最初ですが、最も最近の法律ですが、今変わりつつあり ます。まだ法律にはなっておりません。この委員会からのリコメンデーションという形 ですが、あと6か月から1年のうちに法律になる可能性があります。あらゆるサロガ シーは規制の対象になるということです。今現在はIVFのサロガシーだけが規制対象 で、ナチュラルサロガシーは規制されていません。間もなく、すなわち6か月ぐらいの 間にこれが法律で定まると思います。  また、イングランド、英国の国民だけが治療を受けることが出来るとしております。 サロガシーに関してです。したがって、このヨーロッパのいろいろなところから、これ を受けるために英国に来ないようにするためです。ほかにも詳細の点もありますけれど も、大きな点としては以上です。  胎児の数に関しては、法律はありません。8つなら例えば4つ、5つでもいいです。 安全なのは2個あるいは1個です。ただ、流産のこともあります。したがって、これは 法律は定まっておりません。私のクリニックにおきましては、20年間の経験の中でこの 胎児のリダクションというのはやっておりません。減退手術はしておりません。  ただ、2つというのが意味があるかもしれません。そのベビーが生存するチャンス、 確率が高くなるからです。 ○中谷委員  私が伺ったのはそうではなくて、イギリスですと1990年の法律のたしか37条の第5項 でセレクティブリダクション、セレクティブフェティサイド、どちらも法的に認めてい る訳ですけれども、そういうもので多胎の場合にそういうふうなリダクションをした例 というのは、98年の第7年次報告の中にそういうものが出ていませんでしたので、そう いう数はお分かりでしょうかということを伺いたかったんです。 ○ブリンスデン所長  英国全体で毎年大体2件から4件ぐらいだと思います。非常に限られていると思いま す。というのは、通常は胚は2個しか入れませんので、ベビーが4、5、6というのは 非常にまれです。IVFではなくて、排卵誘発の方が問題が多い訳です。多胎妊娠の問 題はむしろそっちにあります。IVFが問題というよりは、むしろ、この排卵誘発を行 った場合の多胎受精というのが多いです。 ○質問者  一つ質問があります。非常に興味深いレクチャーありがとうございました。  1つ、ヒトファーティライゼーションエンドエンブリオロジィアクト(HFEA、 1990)という法律があるとおっしゃいましたが、だれがこれを実施しているのでしょう か。だれがコントロールをするのでしょうか。どのような制度でこのような規制をコン トロールしているのでしょうか。 ○ブリンスデン所長  政府です。 ○質問者  何らかの委員会があるのでしょうか。 ○ブリンスデン所長  非常にいい御質問です。このHFEA(認可庁)というのは、政府が任命します。政 府がやることすべてをコントロールしております。そして、この認可庁が政府に報告し ます。また、政府の方からある程度、資金援助もしております。議会の法律が通過した ときに、政府がこの機関を発足させまして任命した訳です。このARTを規制して政府 に報告すべしとした訳です。したがって、これは全面的に政府のコントロール下にあり ます。これがよいとする人もいます。また、人によってはこれはよくないことだと言う 人もいます。イングランドでも賛否両論です。  というのは、我々ドクター、科学者、また、学会の著名な会長としてはもっと独立し てやりたいと思われるかもしれません。しかし、民主主義国家という体制の下には究極 の権利、権限を持つのは政府です。したがって、政府として民主主義制度の下に選出さ れている訳ですから、最終的にどうなるかということを決めるという決定権、そういっ た仕組みがある訳です。それはフェアだと思います。これでよろしいですか。 ○質問者  私が伺いたいのは、もっと詳細なのですが、例えば、委員会に何名委員がいるのかと か、どのような機能を果たすのかということです。 ○ブリンスデン所長  もっと詳細をお話しすることも出来ます。大体20名の委員がいます。当局委員という ことです。医師は3名だけです。そして、サイエンティストが2名委員でいます。あと は、独立した人々、例えば弁護士、協会関係者、素人、一般の人、この委員になりたい ということで申請が出来ます。そして、申請しますと政府が承認する訳です。されなく てはいけません。政府としては、単に医師と科学者だけではだめとしております。とい うのは、我々の考え方というのは社会一般とは違いますから。社会が選んで議会がある 訳ですから、したがって、我々の意見は言うべきであるけれども、最終決定権はありま せん。したがって、議会がこの機関、委員会を介して決定をする。そして、これは独立 した人々の集団です。 ○質問者  ありがとうございました。 ○矢内原座長  それでは、後ほど総合討論を行いますので、そのときにまた次の御質問をいただきた いと思います。  次の演者は、ドイツから来ていただきましたミュンスター大学の生殖医療部門の主任 医師でありますプロフェッサー・ハーマン・ベーレ先生を御紹介いたします。ドイツに おける実情と法規制についてお話をいただければと思います。 特別講演2 「ドイツにおける現状と法制度」 Dr.Herman M.Behre ミュンスター大学副教授、生殖補助医療部門主任医師  今回、御招待いただきまして、ありがとうございます。矢内原教授、今回お招きいた だきましてありがとうございます。私は、規制といった観点からドイツの生殖医療の状 況を御紹介したいと思います。また、日本の厚生省に厚く御礼申し上げます。生殖補助 医療技術に関する専門委員会の方々、中谷先生、また、生殖補助医療の実態とその在り 方研究班、矢内原先生ありがとうございます。  それでは、ドイツにおける生殖医療の御紹介をしたいと思いますが、まず最初に、ド イツにおける文化、社会的背景を述べておきたいと思います。このような文化があるが ゆえにドイツにおける生殖医療に大きな影響が及びました。ドイツは特殊な過去を持っ ております。そのために、この社会全般の強い意識として、責任を持ってあらゆる人間 の生命の扱いが必要である。どのような状況においても非常に気をつけなくてはいけな いという強い意識があります。御存じのように、ドイツで1933年から1945年の間はナチ スの政権下にあった訳ですが、ナチス体制下においては人体実験がされておりました。 全く同意なしにです。その結果、多くの場合、こういった犠牲者が死亡するに至りまし た。戦後1947年の段階で、すなわちニュールンベルク裁判の終了後、そして、このとき にナチスの医師が裁判を受けた訳ですが、一般的なコンセンサスが形成されました。あ らゆる人間を用いた実験は適切なインフォームド・コンセントが得られた後でのみ許さ れるべきであるということです。  更に、もう一つのコンセンサスといたしましては、医療の分野においては州政府がそ の責任の下に障害を持った人々を保護しなくてはいけない、そして、あらゆる人間でま だ自らの考えを表現出来ない者を守らなくてはいけないということでした。そして、ド イツ連邦政府の基本法がありまして、その第1条の第1パラグラフで明記しており ます。政府は、あらゆる人間の生命を尊重し、保護しなくてはいけないということで す。これがドイツにおける生殖医療の背景となっております。  以下、各レベルにおける規制を御紹介したいと思います。  まず、自主的なレベルです。これは、生殖医療に携わる各センターによる任意の自主 的な制度、それから、次はドイツの産婦人科学会のルールに関して。そして、次に、州 の医師会に関して、すなわちここから規則となりますが、そして、最も重要な部分とい たしましては刑法がございます。ドイツの胚保護法がその核となっておりますが、これ は、世界でもかなりユニークなものです。  そして、最後に、ヨーロッパの観点から少しコメントをさせていただきたいと思いま す。1982年から、すなわちドイツにおけるIVFの初期から、すべての体外受精に携わ っていたセンターが自主的な登録制度に参加しました。自主的な体外受精制度、登録制 度です。したがって、1982年から記録が残っております。一部データを御紹介したいと 思います。この登録制度の内容がどうなっているかある程度感触を得ていただくために です。ドイツにおける生殖医療の現状ということです。治療件数等々に関してです。  ドイツで始まったのは、最初の人工生殖妊娠は1982年に報告されております。 そして、4か所のセンターでドイツはスタートしております。そして、1997年のデータ が最新のものです。1997年現在で75のライセンスを受けたIVFセンターがドイツには あります。人口は、ドイツは約8,200万です。  ごらんのように治療件数が出ておりますが、特に重要なのが体外受精IVFです。数 年間の経緯、それから、黄色で示しますのがICSIです。そして、1997年最新の情報 によりますと、IVFの治療件数が約1万でした。そして、顕微授精が1万5,000。それ から、凍結もされております。全部で周期数として3万です。  そして、生産件数として6,000になります。ドイツ全体では約80万の出生がある中で全 生産数の0.7%がART、すなわち生殖補助によるものでした。この登録制度は任意のも のです。自主的な制度ですが、内容としてはあらゆる治療に関する情報が含まれており ますが、その一部の例を御紹介したいと思います。  こちらに示しますのは、精子をどこからARTのために持ってくるかということ です。まず、射精精子の形で使われることもありますし、また、精巣上体、この精子を 吸引する方法があります。あるいは、精巣由来のもの、すなわち精巣から抽出する、 採取する。それから、凍結保存されるものがありますが、ほとんどの周期におきまして は、射精精子が使われております。  この登録の中には、これは英国の登録制度と類似しておりますが、多胎妊娠件数も報 告されます。赤で示しますのはパーセンテージで単胎件数です。それから、双胎、3胎 妊娠です。英国と類似しております。双胎妊娠率が約14から15%、そして、3胎妊娠が 3〜4%、4胎というのは非常にまれです。1997年では4胎というのは2件しかありま せんでした。  また、あらゆる合併症が報告されています。IVFにおける合併症ですが、ごらんの ように、いろいろな表が載っておりますが、あらゆる合併症が報告されています。医師 に対して情報を提供するというのが、その目的です。カウンセリングをする際、あるい は国民に対しましてもどのようなリスクがあり得るかということが分かるようになって おります。  その中で、重要な部分として妊娠の結果がどうなったかということです。あらゆる妊 娠がここにリストアップされておりますが、流産も含まれます。子宮外妊娠もあり ます。ここで重要なのは奇形率です。したがって、あらゆる子どもがフォローアップさ れまして、奇形があった場合には報告されています。治療にかかわらず奇形率は自然に 受胎した子どもと類似しているということです。  それでは、次に、ドイツ産婦人科学会の制度です。婦人科内分泌学生殖医療タスクフ ォースが形成されています。1982年以来、この学会はさまざまなリコメンデーションを 生殖補助に関して出しております。だれを対象とすべきか、何個移植すべきか等々 です。ただ、このリコメンデーションというのは、法律ではありません。これは、単な るリコメンデーションということでガイドラインの扱いです。したがって、センターは これをフォローしてもいいし、フォローしなくてもいいということでした。したがっ て、当初から非常に強い意見がありました。やはり規制、法律が生殖医療に関して必要 であるという意見です。ドイツにおきましては特殊な状況があります。連邦制を取って おり、そして、16の州から構成されます。ドイツにおきましては、連邦政府が医療制度 の管轄を持っておりませんで、各州政府が責任を持ち権限を持っている訳です、生殖医 療に関しての管轄を持っています。  ただ、ルールのモデルがあって、それぞれの州のものを比較するとかなり類似はして おります。したがって、各州の保健省が責任を持っておりまして、州政府がこの州の医 師会にリコメンデーションをする訳です。そして、このようになっております。あらゆ る医師で卵巣刺激後の受精を行いたい場合、そして、多胎妊娠に至り得る場合、これは 胚2個以上あるいは卵管内配偶子移植をする場合、卵管内胚移植をする場合あるいは前 核期胚卵管内移植をする場合、あるいは体外受精胚移植をする場合、あるいはあらゆる 関連した方法を取る場合には、州の医師会の許可を取らなくてはいけないとなっており ます。これは、重要なことです。このような治療をしたい人は、必ず許可を得なくては いけないということです。今現在、約75名の人々に対しドイツでライセンスが与えられ ています。そして、75のセンターにこういった医師たちがいる訳です。  申し上げましたように、州の医師会がこのルールの責任を持っております。そして、 医師会はこのように言っています。体外受精あるいはそれに関連するあらゆるテクニッ クというのは、医師として州のプロフェッショナルルール、医師向けルールを遵守する ときだけ許されるということです。これは、プロフェッショナルルール、ルール違反と いうものですけれども、このルールが決まっていてこれに準拠しなくてはいけないとい うことです。そして、州のプロフェッショナルルールにおきまして、州の医師会のガイ ドラインを守らなくてはいけないとなっております。  これは、単なるガイドラインではありません。この州のプロフェッショナルルールと なりますと、法の一部となりまして、これは規則となる訳であります。  このガイドラインでありますが、最初に発行になったのは1985年のことです。初の IVFによって子どもが産まれてから2〜3年経っております。それ以来、何回か 修正、改訂がされております。最新のガイドラインは1998年12月4日に発行になってお りますが、これらのガイドラインは内容として、IVFに関して知識が高まってきたと いうことを反映しております。  それでは、簡単にこれらのガイドラインに関して御紹介したいと思います。ガイドラ インでありますが、次の適用を規制しています。まず、IVF-ET、それから、 ギフト、それから、卵管内胚移植、それから、前核期胚卵管内移植あるいはそれに関連 した方法を取る場合、それから、ICSIです。顕微授精を行う場合、これに含まれる ものとしては精巣上体由来の精子の場合にはMESAあるいはPESA、経皮精巣上体 精子回収法あるいはTESAあるいは精巣内精子回収法というものを使う場合には規制 対象になっているということです。  更に、このガイドラインはあらゆる禁忌も規制しております。この禁忌として含まれ るのは、あらゆる不妊の女性のリスクがある場合あるいは子どもの福祉を考慮した場合 です。これは禁忌となります。心因性の不妊もIVFの禁忌となります。これらのルー ルを遵守しない場合には、その医師はライセンスを失ってIVFが出来なくなります。 あるいはMDの開業医としてのライセンスを剥奪されることもあります。  ガイドラインでありますが、両親の条件を定めております。ドイツにおきましては、 こういった治療は既婚カップルのみ許されます。すなわち、卵子、精子は結婚している カップルのものしか使えません。ただし、一部例外事項はあります。ただ、ケース・バ イ・ケースの例外扱いということになりますが、これは、中央の州医師会中央倫理委員 会にかけなくてはいけません。まれです。0.1%未満が例外として審議されるということ です。  更に、規制対象としては治療のための診断上の前提が決まっております。そして、イ ンフォームド・コンセントの方法も定めています。この診断上の条件としては、例え ば、もし精子数が父親で非常に少ない場合、ガイドラインによりますと遺伝子カウンセ リングをそのカップルが受けなくてはいけない、そのカウンセリングを受けて、それか ら初めて治療するということです。例えば、内容としては、一部染色体分析であるとか あるいは遺伝子分析をします。これは、例えばY染色体の精子生成に関する検査である とか、あるいは輸精管が欠損している場合には、一定の特定の遺伝子、例えば、嚢胞性 線維症関連の遺伝子の検査をするとなっております。  インフォームド・コンセントに関しましては、常に書面でインフォームド・コンセン トを得なくてはいけないとしています。そして、これは患者に対してあらゆるIVF治 療の医療側面、それから、法律的側面、そして、社会的側面の情報を与えた上でです。 また、更に、IVF治療のコストに関しても情報を与えなくてはいけません。  このガイドラインの重要な部分とまして、IVFチームの責任者の資格を決めていま す。この責任者でありますが、婦人科医でなくてはいけません。そして、特別な研修を 生殖医療、婦人科内分泌学で受けていなくてはいけません。そして、州の医師会のライ センスを受けている必要があります。  実際IVFの治療を行うチームですが、ある特定のエリアをカバーしなくてはいけま せん。内分泌学、それから、婦人科超音波、マイクロサージャリー、生殖生物学、それ から、アンドロロジー(男性病学)です。アンドロロジーというのは、男性生理学とい うことです。1人の人は、今挙げた分野で最高で2つの分野しかカバーしてはいけない ということです。したがって、複数のチームメンバーが必要です。また、ヒトの遺伝子 学に対しても強いバックグラウンドが必要です。また、幾つかこの設備、培養室に関し ても規制があります。ラボラトリーに関してもガイドラインの規制対象となります。  更に、配偶子のプレパレーションに関して規制しますし、何個まで配偶子、そして、 胚を移植すべきかということが決まっております。このガイドラインによりますと、2 つの胚となっております。ただ、例外も一部ありまして、より高齢の女性の場合には3 つとなっておりますが、通常は2個です。そして、また、この凍結保存に関してもリコメ ンデーションがあります。ドイツにおきましては、胚の凍結保存は許されていません。 凍結保存が許されているのは受精卵子あるいは卵子で、前核期、融合の前です。そし て、核のためには、しかしながらあらゆるセンターでこのような保存はしておかなくて はいけないということです。  更に、品質管理に関しても規制の対象となっております。これは、新しい項目ですが 12月以降75のセンターはIVF登録に参加しなくてはいけなくなりました。以前は自主 的な制度でしたが、これが義務づけられました。この登録に参加しないと、ライセンス を取られてしまいます。  また、明記されておりますが、例えば、配偶子を売買して商業的に儲けてはいけない ということ。これらのルールを遵守しない場合にはIVFのライセンスを失い、最終的 に医師としての資格も剥奪されるということです。  次に、社会的な法則、規則についてドイツに関して述べたいと思います。ドイツにお きましては、不妊に関する医学的な治療といいますのは、国民皆保険、健康保険によっ てカバーされております。このように保険でカバーされているということから、健康保 険と医師による委員会が出来ております。そして、ここからARTに関するガイドライ ンを出しております。すなわち、カップルが治療を受けた場合には、それが保険でカ バーされるということになっております。例えば、人工授精を6周期行うことが出来ま す。これは排卵誘発後、6周期置くことが出来るということです。これも保険でカバー されております。それから、4回のIVFの周期についても保険でカバーされます。つ まり、その患者は権利を持っている、そして、保険の適用を受けられるということ です。  胚の凍結保存につきましては保険でカバーされません。また、ICSIについてもカ バーされません。こうした規制に加えまして、実際に保険でカバーされるような治療を 受けた場合、これは不妊に関する医療面での治療を受けた場合でありますけれども、そ れは保険でカバーされますが、その際にはHIVマイナスのカップルが治療を受ける場 合であります。そして、また、40歳未満の女性において治療を受けるという場合です。 ただ、例外はあります。勿論、高齢であったとしても治療は受けられます。しかし、そ の場合には保険適用とならないということです。これは、非常に重要な点です。  私の発表の後半部分といたしまして、ドイツの胚保護法というものを御紹介したいと 思います。これは、非常にユニークな法律となっております。世界的にも珍しいという ことです。といいますのも、ドイツの胚保護法というのは刑法に属するからであり ます。私が知る限りでは、この生殖医療の分野におきまして、このように刑法に属する というような例はないと思います。なぜなのかといいますと、ドイツというのは特殊な 事情がありまして、刑法と言いますのは、連邦の州がその責任を負っているからであり ます。したがって、司法省というのは16の州がそれによって規制を受けている訳ではあ りません。これは刑法となっているからであります。これが1991年1月1日から施行さ れておりまして、ドイツで非常に厳しく規制されております。  胚保護法の重要な条項を御紹介したいと思います。第一条が、「生殖技術の不正使 用」について規定しています。この法律の次のような条項に抵触するものというのは有 罪となるということであります。  3年以下の自由刑又は罰金ということになります。 例えば、本人以外の未受精卵を女性に入れるということであります。つまり卵の提供は だめということです。また、卵の提供者に対して妊娠を引き起こすという以外の目的で 卵を人工的に受精させるということです。  また、1月経の周期内に4個以上の胚を女性の体内に戻すということも、1月経の周 期にてギフト法により4個以上9卵子を受精させようとするということです。3個を超 えて戻した場合には抵触するということになります。1回の周期におきまして3個の卵 までは受精してもよいということであります。つまり、3個しか受精させない場合に は、それ以上の卵を受精させてはいけないということであります。体外受精の場合も同 様です。  また、子宮において着床する以前に胚を取り除いて、ほかの女性に移植するというこ とは許されておりません。ただ単に、その生存を保つという目的以外のために使っては ならないということです。  そして、もしもその女性が子どもが出生後に第三者に子どもを受け渡すというような 気持ちがある場合には、その女性においてその人の胚を人工授精させるということ(代 理母)も認められておりません。  また、次の条項に抵触した場合も、やはり有罪となります。そして、また、3年以下 の自由刑か罰金を科せられることになります。つまり、人工的な手段を使ってヒトの精 子細胞をヒトの卵に入れるということ。これは、卵のドナーの妊娠を目的としていない 場合にということであります。そして、また、顕微授精によってヒトの精子細胞をヒト の卵に入れるということは妊娠を目的としていない場合に罰せられることになります。  また、次のような場合にも有罪となります。つまり、医師がここに書くような誤濫を 行った場合にも、それは有罪となります。  次に、先ほど申し上げましたように、たとえ仮に未遂に終わった場合であっても、未 遂犯として処罰されることがあります。  それから、ヒトに胚に関する誤用という部分があります。  体外受精されたり、または子宮で完全に着床する以前にヒトの胚を、その発生を保つ 目的以外に購入したり譲渡したり、また獲得した者に対しましては有罪となるというこ とです。そして、3年以下の自由刑又は罰金を科せられるということになります。  また、ヒトの胚を妊娠以外の目的のために更に体外で発生を引き起こすようなことを した場合には有罪となります。そして、また、いかなる試みもそれに対する罰則が科せ られます。つまり、これは胚を使った研究というものを促進しないためであります。  次に、性別判断の禁止という条項があります。性染色体を特異的に選択して精子細胞 とヒトの卵とを受精させるといった場合、それもやはり有罪となります。そして、1年 以下の自由刑、または罰金ということになります。  ただし、医師による精子の選択がデュシエンヌ型、筋ジストロフィーなどから子供を 守るために役立つものであり、またその疾患の重篤度について州の法律で認められてい るような場合には、この限りではないということです。非常に厳しい法律ということに なります。  第4条でありますけれども、これは権限を与えられていない受精、または認められて いない胚の移植、精子の提供者が既に死亡していることを知りながら、これを人工授精 にしようするといったことに関する条項が設けられています。  次の条項に抵触するものに関しましては、やはり有罪となる。そして、3年未満の投 獄の刑期を受けるか、または罰金を支払うということになります。  そして、この卵のドナーの同意なしに卵を受精させること、もしくは精子細胞の ドナーに対して同意なしに使うという場合であります。また、その卵をその女性の同意 なしに移植させるということ、そして、また、分かっていながら死んだ男性の精子を使 って人工授精を行うということであります。  また、ヒトの胚細胞の操作ということでありますけれども、ヒトの胚細胞の遺伝的な 情報の操作をいたしますと、それで有罪となります。そして、5年以下の自由刑または 罰金に処せられるということになります。  また、遺伝的に操作された胚細胞を受精の目的のために使うといった場合も、やはり 有罪となります。また、いかなる試みについても起訴の対象となります。  第4条でありますけれども、幾つかの例外があります。先ほど申し上げた条項という のが適用されない場合があります。それは以下のとおりです。この操作といったものが 胚細胞のin vitroで行われた場合、そして、その胚細胞というものを受精の目的で使わ ないというような場合には罰せられません。つまり、この場合には法は適用とならない ということです。  そして、また、胚細胞のセルラインを使いまして死亡した胎児や胚あるいは死亡した 人から得た遺伝的な情報の操作を行った胚細胞を使ったとしても、これは有罪とはなら ないということです。そして、それを胚ですとか胎児、ヒトに対して移植したりあるい は胚細胞にそれが発展したとしても、罰金等の対象にはならないということであり ます。  そして、また、この胚細胞の遺伝的な情報の操作というものが化学療法ですとか放射 線、そのほかの手段によって意図せずに起きた場合、これもやはり罰せられる対象とは ならないということです。  次が、クローニングに関する条項(第6条)であります。他の胚や胎児、または生存 中の人でも、死んだ人でも、それと同じ遺伝情報を持つヒトの胚をつくり出しますと、 それによって有罪となります。また、5年以下の自由刑又は罰金の対象となります。 この第1項に記されているような胚を移植した場合もやはり有罪となります。そして、 また、いかなる試みであったとしても、それがなされた場合には未遂罪として処罰され ます。  次に、キメラとハイブリットの作製に関する条項(第7条)がございます。次のよう な条項に抵触した場合には有罪となります。そして、5年以下の禁固刑又は罰金という ことになります。すなわち、胚を異なる遺伝子情報を持つ種と組み合わせて単一の生物 をつくり出そうとした場合であります。しかも、その使われた胚の一方がヒト由来のも のである場合には刑罰の対象となります。そして、また、ヒトの胚と異なる遺伝情報を 持つ細胞等を組み合わせた場合、これも罰せられます。そして、その出来上がる動物が 更に分化可能である場合というものであります。  更にまた、ヒトの卵子と動物の精子、もくしは動物の卵子とヒトの精子とを受精させ ることによって、更に分化可能な胚をつくり出すといった場合、これも罰せられます。 また、このような形でつくり出された胚を女性または動物に移植するという場合であり ます。また、ヒトの胚を動物に移植した場合、これらも罰せられます。  第8条でありますけれども、ここでは胚に関する定義が書かれております。この胚保 護法の中での胚の定義でありますが、それは、前核が融合した後の受精したヒトの卵細 胞のことを意味いたします。この後の発達段階ですとか、全能細胞に関しましては適切 な条件がそろえば、それによってヒトになる可能性がある訳です。ということは、つま り、着床前の診断というものを8細胞の胚で行うことは出来ないということです。とい いますのも、それは既に全能細胞だからであります。遺伝的な診断というのは8細胞の 段階では許されておりません。  また、受精したヒトの卵細胞というのは、前核が融合した後24時間におきましては、 更に発達する可能性があるというふうに考えられております。そして、24時間以内に は、2細胞期に達することは出来ないということであります。  更に、胚細胞でありますけれども、次の世代を残すための精子や卵子となるまでのす べてを含むということであります。この胚細胞といいますのは、卵子の段階から精子が 侵入または移植されて前核が融合するまでのすべての段階を指します。  終わりに近づいてまいりましたけれども、パラグラフの9であります。これは、医師 としての職業の制限というものがあります。ドイツでは、医師のみが人工授精を行うこ とが出来るというふうになっております。また、ヒトの胚を女性に移植することが出来 るのは医師だけであるということです。そして、ヒトの胚または卵を保管することが出 来るのは医師だけである。つまり、精子細胞が侵入したり、または移植された胚や卵を 保管出来るのは医師だけであるということです。そのほかの人たちが、ここにあるよう な人工授精を行ったり、あるいは参加したりといったことは強制されてはならないし、 許されていないということであります。  11と12の部分は飛ばします。といいますのも、そのほかの医師以外の人たちがこうし た受精を行った場合の規制措置といったことをうたっているからであります。それか ら、1991年以降は、生殖医療というものをこの法律によってドイツで大きく変える原動 力となってまいりました。  ドイツの胚保護法というのは、ドイツでいろいろな議論を呼ぶきっかけとなりまし た。また、この生殖医療には多くの人がかかわっておりますが、皆この法律には満足し ておりません。なぜかといいますと、婦人科医にいたしましても、また、生殖医療を行 う人でもこの法律の制定にはかかわっていなかったからであります。そして、今までの ところ再評価のシステムというものも生み出されていないということであります。そし て、新たな展開もすべて無視されているということであります。  一方、この法律を気に入っている人たちというのは、患者にとってこれは安心を生む ものだというふうに考えております。特に、一般大衆ですとか社会に対して安堵感を与 えるものであるということであります。それが、この背景にあった訳であります。  しかし、反対論者といたしましては、不妊症の治療というのはARTを使ってもヒト の胚前の段階、その実験なくしては無理だということであります。したがって、ヒトの 胚前の段階での実験が必要なのだと。そうでないと、この人工授精というのはうまくい かないということであります。特に、卵の着床を改善することも出来ないということで あります。また、胎児の染色体の異常を回避したり、また、母方、父方ですとかあるい は環境的な因子といったものが早期の胚の発達、発生ということにも影響を及ぼす訳で ありますから、そういったことも解明されなければならないということであります。そ して、適切なるヒトの胚に関する学問が必要なのであるということであります。  このドイツでの胚保護法のために、ドイツのARTというのはほかの国からかなり外 れてしまっているということであります。例えば、先ほど申し上げましたように、着床 前の遺伝的な診断というのはドイツでは行われておりません。今までのところでは可能 ではありません。  それから、もう一つ、ヨーロッパではヨーロッパユニオン、特にヨーロッパのカウン セル、議会の方で人権に関するコンベンションを生命医療に関して出しております。 1997年の4月4日以降、この生命的な医学に関しての話を行ってきております。この胚 の医療というのは、コンベンションで14日目までであれば認めるということになってお ります。そして、1997年以降、政治的な方策というのはなされておりません。そのため に、一般的なコンセンサスを倫理的な面、そして、法律的な面で生殖医療に関して得る ということは難しいということであります。(ドイツの胚保護法1990年11月13日―施行、 1991年1月1日に関する部分は別添Gesetz zum Schutz vox Embryonen (Embryonenschutzgesetz-ESCHG)日本語訳参照)  御清聴ありがとうございました。(拍手) ○矢内原座長  どうもありがとうございました。  先ほど申し上げましたみたいに、1つ2つ確認の質問を受けたいと思います。どなた かございませんでしょうか。 ○質問者  非常にすばらしい、ためになる有意義なお話ありがとうございました。  最近、私はある記事を読みまして、ドイツにおける胚保護法に関して読んだのです が、この記事でデードリッヒ先生がおっしゃっていましたが、もしかしたら、何か国に おきましてこの法を州政府が改訂するかもしれないということでした。これは、非常に 厳し過ぎるということです。 ○ベーレ医師  確かに、一般的にこれは厳し過ぎるという意見が出ております。これを改訂しようと いう動きがあります。ドイツの多くの人の考えとしては、何らかの形でこの法律を再評 価すべきであるということです。ただ、私自身は近い将来には改訂はないと思います。 これが大きなデメリットになっているんです。医師会のガイドラインというのは毎年の ように更新されているのですが、この胚保護法に関しては再評価システムが ありません。 ○質問者  もう一つ指摘されていたのですが、胚と胎児の区別に関してです。ドイツにおいて中 絶法のようなものがあって、人工中絶は出来るのでしょうか。 ○ベーレ医師  出来ます。 ○質問者  しかし、胚は非常に保護されているというのは、矛盾があるのではないでしょうか。 ○ベーレ医師  この点に関しても、疑問が指摘されています。おっしゃるとおりです。ドイツにおき ましては、胚は最も保護されている生命、種と言えると思います。2細胞期であれば、 胎児よりもむしろ保護が厚い訳です。例えば、胎生28週に比べてです。これが、大きな 問題になっています。ただ、そういうふうに決まってしまっています。したがって、多 くの人々が不満を多く持っております。 ○矢内原座長  ほかにございませんでしょうか。  それでは、総合討論の時間を取ってありますので、演者の方ステージに上がっていた だきまして、私を交えて皆さんといろいろ討議をしたいと思います。 (ブリンスデン所長、ベーレ医師、矢内原座長登壇) ○矢内原座長  それでは、ちょうど30分ほど時間がございます。今お2人のそれぞれの国の御事情に ついてお話しになりましたけれども、どなたか御質問がございましたらお受けいたしま す。ございませんでしょうか。 ○質問者  (最初、通訳が入っていません)ヒューマン・ジェネティック・アドバイザリー・コ ミッションもあったと思います。クローニングに関してはHFEAは密にヒューマン・ ジェネティック・アドバイザリー・コミッションと連絡を取っています。そして、これ に関するドキュメント、文書も配付され、昨年報告書が発行になりました。しかし、 日本におきましては科学技術庁が特定の小委員会をクローニングに関しては設けていま す。したがって、クローニングの問題は生殖補助医療技術の議論とは切り離されていま す。どっちの機関が生命倫理に関して管轄を持つべきかということなのですが、質問は 簡単です。  先生の御意見をクローニングに関して英国の経験を踏まえて伺いたいと思います。ク ローニングの問題はどこで扱うべきでしょうか。これは、ARTの領域で扱うべきでし ょうか。  第2の質問としては、どの機関、団体が責任を持って出生前の試験に関してデータを 集めているのでしょうか。英国の状況を教えてください。 ○ブリンスデン所長  ありがとうございます。非常に難しい判断なのです。果たしてクローニングの問題を HFEAの管轄に置くか、別の委員会の下に置くか。というのは、2つの問題は関連し てくるからなのです。胚そして、胚のクローニングというのは設備としてHFEAがラ イセンスを与えたところしか出来ません。政府の許可が必要です。したがって、 HFEAはどうしても関与しなくてはいけないのです。でも、余り関与したがっていな いというのが私の印象です。ただ、これは胚の研究に関連しておりますから、やはりか かわらざるを得ない訳です。HFEAはどうしてもかかわってくると思います。  それから、着床前の遺伝子診断に関してですが、これは常に胚を扱っている訳ですか ら、したがって、おのずとHFEAが関与しなくてはいけません。HFEAは、あらゆ るPGDの作業をモニターしています。そして、状況は把握しているのですが、規制は していません。ある一定の適用は許されております、制限はしていません。これでお答 えになりましたでしょうか。 ○矢内原座長  それでは、次に、どなたか御質問ございませんでしょうか。出来ましたら、御所属か お名前だけお願いします。 ○クボ  東京のクボです。非常にすばらしい御講演ありがとうございました。一つ質問がござ います。お2人に対する質問です。  ブリンスデン先生のおっしゃるには、ARTのガイドラインということをおっしゃっ ていました。しかし、ベーレ先生の方はドイツにおいては非常に厳しい法律があるとい うことでした。日本ではどっちがよいとお思いですか。ARTの規制の仕方のどちらが 向いているでしょうか。 ○ブリンスデン所長  私、先ほどのお話の中でも申し上げたのですが、私の意見としては非常に強いガイド ラインであるとかルール。まず必要だと思うのは、政府の監督下にあるけれども別の団 体に任せるべきだと思います。例えば、今日お集まりのような方々とかあるいは産婦人 科学会等に委ねるということです。しかし、ある程度政府からもインプットが必要 です。したがって、何らかの法律は必要です。そして、しっかりとした機関ないし団体 を設けて決定をすると決めておく訳です。  先ほども申し上げましたが、決めるグループの構成ですが、医師のみだとか科学者の みではいけないと思います。あるいは政府の担当者だけではいけないと思います。いろ いろな人々が代表され、国民を代表し、各職業、医師、科学者のそれぞれの団体を代表 し、それから、遺伝子学者、道徳、倫理関係者等々みんなが入るべきです。HFEAは そうなっています。多分野にまたがっている訳です。  ただ、何らかの政府の権限が必要だと思います。さもなければ、日本の制度は分から ないのですけれども、例えば、産婦人科学会がある決定をしたとします。それだけでは 権威がない訳です。全員に影響が及ぶ訳ではない訳です。私は、学会のメンバーですか ら、そういった会員に対して、この卵の提供でそういった例もあった訳ですが、会員と して除名するという方法はあるかもしれませんが、それはあくまでも会員に対する権限 であって、法律あるいは政府の権限ではない訳です。そういったものが必要だと思いま す。ただ、とは申し上げましたけれども、絶対的な規則というのは、そして、絶対に不 変のものというのはいけないと思います。やはり状況に応じて、例えば5年ごと、10年 ごとに自分の意見も変わる訳ですから、内容は変えなくてはいけないと思います。変え られるようにしておくべきです。 ○ベーレ医師  私も、完全に同感です。ドイツにおける問題はこういうことだと私は思います。胚保 護法があって、これを制定したのは法務省です。そして、IVF治療に携わる医師は決 して参加しておりません。デードリッヒ先生は実際多くの人々がこの法律に大反対した 訳です。何が問題かといったら、前にも指摘がありましたけれども、再評価システムが ないということです。これは1990年に制定されまして、それ以来新たな進展がありまし た。重要な進展があったのに、これらがこの法律には反映されていません。  私個人的な見解としては、ARTに関して明確なルールを持つこと自体はいいことだ と思います。しかし、やはり政府が関与し、それだけではなく一般国民、科学者、医師 が参加し、しかも、定期的に再評価出来なくてはいけないと思います。よく私が挙げる 例なのですが、ドイツでは着床前診断というのは1件も経験がありません。世界のほか の国と比べると非常にドイツが遅れている訳です。患者は、ほかの国に行かなくてはこ の診断を受けることが出来ない訳です。患者が旅行して外に出ていってしまいます。  また、国民のことを考えた場合、例えば患者のことを考えた場合、やはり明確なガイ ドラインを持つということはドイツにとってよいことだと思います。とても助けになり ます。ガイドラインに対しては、だれもドイツでは反対を唱える者はいません。ただ、 勿論フレキシブルな柔軟性を持ったガイドラインが必要です。 ○クボ  ありがとうございます。1つ質問があります。 今までのところ有罪判決を受けた人はいますか。 ○ベーレ医師  胚保護法の下では今のところは、まだそういった例はありません。ただ、 ほとんどの医師はこの法律を遵守していますから。ドイツではある制度がありまして、 これは各州の下に委員会がありまして、この委員会の責任として規制、法律実施の責任 を持っております。抜き打ちで各センターに調査に行くんです。そして、記録を見て、 ラボの方の記録も見て、それから、患者のカルテも全部チェックします。したがって、 かなり規制が強力に実施されています。みんな守っている訳です。  ただ、一部このプロフェッショナルルールの方を遵守しなかった例はあります。そし て、IVFの治療ライセンスを失った人はいます。 ○矢内原座長  どなたかほかにございませんでしょうか。今のはよろしいですか。委員の先生方どう ぞ。 ○田中委員  セントマザー産婦人科の田中と申します。生殖医療のことを主にやっております。  私は思うのですけれども、不妊の治療には夫婦間に行われる治療と他人から精子ない しは卵子、受精卵をもらう治療と2通りあると思います。最も我々が今問題としている のは、夫婦間以外から精子ないしは卵子をもらった場合の治療のことだと思います。こ のことに関して、ドクターピーター・ブリンスデンさんは、このコードの中で提供者の 秘密を守る義務があると。  一方、産まれた子どもは、自分がどこから産まれたかを知る可能性がありうるという ことが書いてあります。子どもの親権といいますか、その辺が一番大事だと思います。 ですから、その辺が我々から見ますと、イギリスにおいては非常にすべてのことがうま く行われているように思います。うらやましいと思いますが、産まれた子どもに対し て、その子どもが大きくなったり、何か問題が起きたときに親を知る権利はあるのか、 また、それを知られたくないと思って提供したボランティアといいますか、人に対して それを守る、これは相反するようなものですね。これについて何かコメントお願いいた します。 ○ブリンスデン所長  御質問ありがとうございました。  卵ですとかあるいは精子のドナーあるいは胚のドナー、勿論、非配偶者からのものと いうのは問題をはらむ危険性があります。精子の提供でありますけれども、これは50年 ぐらい経っておりますが、今までのところは問題は余りありません。卵の提供でありま すけれども、イギリスまたはそのほかの国で1984年以降行われてきました。そして、胚 の提供は3から5年行われております。今までのところ、子どもの結果については分か っております。これは非常に大事であります。つまり、子どもの福祉というのが重要な 訳であります。そして、精子の提供というものは重要であります。  英国におきましては、子どもには自分がドナーの卵によって産まれたということを知 る権利はありません。つまり、親の方が自分たちで決断する権利があるということ です。つまり、子どもに対して告知するかどうかということを判断するのは親であると いうことです。例えば、皆さんの子どもがドナーからの精子によって産まれたとしま す。そうした場合に、それを自分の子どもに言いたくないということであれば、それは 皆さんの判断であり権利であります。  しかし、もしそれを子どもに告知したいということであれば、我々としても子ども に言うようにというように奨励しております。しかし、それを我々は強制しておりませ ん。その方がいいと思います。というのも、その方が正直だからです。もし、そうした 場合、子どもはドナーのアイデンティティーを知る権利はないのです。つまり、ドナー を知る権利は子どもにはありません。そして、すべてのドナーは最初にリクルートされ るときに、名前ですとか住所、体重、身長すべてのことについてHFEAに対して登録 しなければならないということになっています。これは、すべて機密扱いであるという ことです。HFEAの方も子どもに対して、例えば18歳後の段階になったときに、その ドナーのことを知らせてはいけないというふうになっております。知らせないように なっております。  政府の方では、この法律が変わるかもしれないというふうに言っております。といい ますのも、多くの人たちが今や子どもの方も知る権利があるのではないかという意見が 出ているからです。私個人としては、その権利はないというふうに思っていますけれど も。ということで、そのために可能性として将来変わるかもしれませんけれども、今の ところ子どもは名前とか住所、電話番号、自分の遺伝的な父親のそうしたコンタクト先 を知ることは出来ないというふうになっております。それが、イギリスでのシステムで あり、私自身はそれを気に入っています。  もしも、子どもに対してだれが遺伝的な父親であるのかということを言った場合に、 そのドナーの数というのは減ってしまう、恐らくなくなってしまうと思います。といい ますのも、自分たち自身知られたくないと。勿論、精子は提供したい、助けたいとは思 っているけれども、しかしながら、それに対して責任を負いたくないと考えているから です。したがって、恐らく90%のドナーは精子の提供をやめてしまうと思います。それ でお答えになりましたでしょうか。 ○ベーレ医師  ちょっと加えたいのですけれども、ドイツでは状況は非常に明らかであります。ドイ ツでは子どもたちが遺伝的な父親を知る権利があるとされております。したがって、ド イツではドナーの受精というのは存在しておりません。といいますのも、ドナー自体が 精子を提供するということはないからです。 ○質問者  ありがとうございました。 ○矢内原座長  このことは、非常に大切だと思うのですけれども、どなたか御意見ありませんか。 ○中谷委員長  ありがとうございました。ドイツでは法律でその血筋を知る権利を認めている訳では なくて、憲法の判例でこれが認められているということなんですね。判例は何回か認め るという判例を繰り返しました。しかし、これに対しては、有名な刑法学者で東西ドイ ツが分かれていたころにベルリンの法務大臣もなさいましたバウマンという方が論文を 書かれまして、それは認めない方がいいと。なぜならば、その由来を知るなどというの はナチスドイツのいやな思い出につながるから、むしろ、それはない方がいいという論 文を書いておられますが、こういう見解の方は私の知る限りドイツではお1人だけ です。ですから、ベーレ先生がおっしゃったのはそのとおりなのですけれども、法律で 認められているのではない。スウェーデンでは、それは法律にしましたけれども、ドイ ツでは法律にはしなかったということをちょっと追加させていただきます。 ○ベーレ医師  法制化しようという動きがあります。ただ、おっしゃるとおり、これは判例に基づい てということなのですが、一応拘束力としては法律と同等のものです。 ○矢内原座長  それでは、また別な質問、ただいまのことに関連しても結構でございますけれども、 ございませんでしょうか。  ブリンスデン先生にお伺いしたいのですけれども、それでは、子どものウェルフェア ということに関して、例えば血筋を知る権利というのは今ないのだろうとおっしゃいま したけれども、子どものウェルフェアというのはどういう形で表れてくるのでしょう か。 ○ブリンスデン所長  我々の子どもの福祉といった場合の解釈の仕方ですが、これは必ずしも子どもが自ら の由来を知るということに関連していないと思います。これは別個のことだと思うので す。我々が子どものウェルフェアを福祉と言ったら、例えばこういうことを言います。 女性の同性愛者間で子どもをつくるということは、例えば、ドイツでは認められていま せん。英国では認められていますが、ほとんどのクリニックではそれはやらないと決め ています。レズビアン同士の子どもということです。ドイツだとか日本にいたら、これ は簡単に決定出来ることなのかもしれません。ただ、英国だとか米国の場合にはレズビ アンの人々がプラカードを持ってデモをしている訳です。差別だと言っています。なぜ 私たちには子どもたちを持つ権利がないのかと。異性愛のカップルと同じに扱えとかな り議論がある訳です。  片や、我々としてだれを治療すべきかということを決める権利を持っています。我々 の意見としては、その子どもの福祉を考えたら、これは間違っているかもしれません が、我々の信念としては女性2人よりも男性、女性が育てた方がいいという意見です。 私は、約1年前にテレビの番組に出演しました。これは、トークショーでスターランセ ンの番組なのですけれども、そのスタジオに聴衆がいまして約200名レズビアンの人が 集まっていました。多くの人が子ども、これはドナーから受精を受けた子どもを連れて きました。私は1人で一生懸命反対を唱えていたのです。かなりの議論になったのは御 想像がつくと思います。  私の意見では、やはり男性、女性が育てるというのが、結婚はしていなくてもいいで すけれども、何しろ同棲しているカップルのように、最低2年間安定した環境を持って いるのであれば治療しますと言っています。子どもの福祉と言ったら、私に言わせれば 例えばHIVに関して言えるでしょう。エイズですけれども、もし、女性がHIV陽性 だとしたら、我々はそのカップルは治療しません。もし、男性がHIV陽性であった ら、私のクリニックではこういった例はまだありませんが、私としては治療すべきでは ないと思います。なぜならば、その子どもが15%だけかもしれないけれども、HIV感 染をするリスクがあるからなのです。これは、子どもにとってよいリスクではない、し たがって治療しないという判断です。もし、このドナー精子でHIV陽性であれば、ほ かのものがあれば治療するけれども、あなたのでは出来ませんと言います。  それと、知る権利というのはまた違うことだと思います。自分の遺伝的な由来という のを知るということは別の問題だと思います。必ずしも子どもの福祉とは関連づけられ ないと思います。これが私の個人的な意見です。 ○矢内原座長  今の質問に関連はしていたのですけれども、ほかにございませんでしょうか。  ちょっと今のに関連して、ブリンスデン先生にお伺いしたいのですが、英国における 非常に幅の広いけれども一つのレギュレーションがあると。そうすると、当然それぞれ の施設のおけるエティカルコミッティーの役割というのは非常に大切だと思います。例 えば、先ほど先生がおっしゃったみたいに、ボーンホールクリニックの中にはインディ ペンデントなエティカルコミッティーがありますけれども、その構成メンバーはどうい うふうになっているでしょうか。 ○ブリンスデン所長  HFEAはこのように言っています。倫理委員会を持つことは義務ではないとしてお ります。なぜならば、HFEAがもう既にあって、それ自体が倫理委員会のようなもの だからです。ただ、多くのクリニックで、私のところもそうですが、非常に目立つ存在 ですので、いろいろな人たちがいつも我々をねらっている訳です。そして、凍結胚であ るとかサロガシーということが出てくるたびにフォーカスされます。したがって、非常 に気をつける必要がある訳です。  済みません、少し逸脱するかもしれませんが、やはり国民に語り掛けるときには非常 にオープンであるべきだと思います。マスコミに対しても正直に言うべきだと思うので す。私はサロガシーをやっております。例えばですけれども、私としては私のクリニッ クにおいてサロガシーは慎重にうまく実施していると思います。多くの子どもが産まれ て、非常に多くのハッピーな母親がいる訳です。今までのところ大きな問題は出てきて おりません。もし、だれかがサロガシーはひどいことだと言ったとします。新聞を読む と、特にスキャンダル紙ですけれども、タブロイドはひどいことを言う訳です。こんな ひどいことはないという意見の人がいます。そういったときにはオープンに話し合った 方がいいと思うのです。自由に話し合いを持つということ。何か思っていることがあっ たらオープンに話し合うべきだと思います。隠してしまうと、あるいは何か恥ずかしい と思っていたら、このビジネスは廃業した方がいいと思います。私は、いつもマスコミ 関係に、うちのクリニックで自分がハッピーになれないもの、あるいは誇りを持てない ようなことは一切しませんと言っています。これは重要だと思います。自分のやってい ること、信念があるのであればそのことは話せなくてはいけません。  多くのこちらにお集まり方々、もしかしたら私のやることは倫理的ではないと思われ ているかもしれません、サロガシーはやるべきではないと考えられているかしもれませ ん。私としては、やはり患者を助けるべきだと。しかし、法を遵守すべき、私の国の法 を守るべきだと考えています。私は、常にその良心の下に生きてきました。神を信じて いれば正しいことをしなくてはいけない。これが出来ていれば、自由にオープンにマス コミにも語れるし、ほかの人にも教育が出来ると思います。なぜ自分がこういうふうに 強い信念を持っているのかということが説明出来るはずです。  うちのクリニックでは倫理委員会があると申し上げましたが、この委員会は非常にサ ポートしてくれます。主として、女性で構成されています。これはかなり興味深いと思 います。よいことだと思います。委員の3分の2は女性で、いろいろな領域の人々 です。婦人科医、一般開業医、ユダヤ教の人、それから、司教、教師、倫理専門家 等々、非常にいろいろな領域の人で、一般的な幅広い意見を聞くことが出来ます。この サロガシーの例えば問題が出てきた場合あるいは毎回何か困難な問題が出てきたとき に、この委員会に諮る訳です。そして、彼女たち、彼らにどうでしょうと聞く訳です。 これは、このカップルのために正しいことだと思いますかと聞いてみます。これは、 カップルにとってよいことか、そして、また、子どもにとってよいことと思いますかと 聞きます。そして、もし彼らの意見がノーだったら治療しません。これはとてもよいシ ステムだと思います、有効だと思います。  ただ、HFEAとしては義務づけはしておりません。絶対このような倫理委員会に諮 らなくてはいけないとはしておりません。これでよろしいでしょうか。 ○田中委員  今のお話に質問があるのですけれども、もしも、先生のボンホールの倫理委員会で OKと出たけれども、HFEAでだめだといったようなこと。先生はこれは患者にとっ て非常にいいことだと、しかし、周りは反対している、こういう場合どうされますか。 ○ブリンスデン所長  そういったことは、ほとんど起きる可能性はないと思います。英国のシステムにおき まして倫理と法律というのは、長年にわたって考えられてきたものであります。 そして、ほとんどの人々というのは現在のシステムに満足しております。  私自身そういったような状況が起こるということは考えられません。もし、起こった とすれば非常に面白いと思います。ひょっとしたら1つだけ例が考えられるかもしれま せん。例えば、45歳ぐらいの女性がいる。そして、6回IVFをやったけれども、すべ て失敗したと。そこで、4個の胚を彼女の子宮に戻した。しかし、法律によると3個の 胚までしか許されていない。そうすると、倫理委員会の方といたしましては、4個胚が 入っている。それは、みんな健全だからその4個を戻すべきだというふうに言われると 非常に難しい訳であります。といいますのも、4個入れることによってそれだけ成功の 確率は上がりますから。これは非常に興味深いと思います。法律というのは絶対という ものではありません。あくまでも4個を超えて胚を戻した場合には、それによってクリ ニックを停止する、正当な理由がない限りそうするということであります。その辺の解 釈はいろいろあると思いますが、理論的にはそういったことが起こり得ると思います。 私としては、法律を守ります。 ○質問者  今までのいろいろのディスカッションは、いわゆるエスカルなプログラムだったと思 うんです。私は、お2人の先生、特にブリンスデン先生にお聞きしたいのですが、生物 学的、バイオロジカルにこの問題を考えていった場合に、父親が分からない、母親が分 からないという子どもが出てくる、そういう子どもが産まれるということに関して、バ イオロジカルにはどういうふうにお考えになられるのか。というのは、現在のアメリカ の行われているああいう生殖医療というか、生殖産業ということを考えると、このよう なことを少なくとも100年以上続けていくと、恐らく父親がだれか、母をがだれか分から ない人たちが非常にたくさん増えてくる。その場合に、お互いに結婚するときにDNA の鑑定をして、あなたと私は兄弟ではありませんでしたねというようなことをやって結 婚をしないといけないような事態が起こるのではないか。  これまでの歴史でも、例えば、ビクトリア女王からヘモフィリアの子孫がロシアにお いてもハプスブルグにおいてもスペインにおいてもたくさん産まれたという事実もあり ますし、それから、南米ではハンチントンディジーズのあるコミュニティーがある訳で すが、そういう問題が起きないとは言えないと思うんです。ですから、そういう問題に ついてバイオロジカルに、短期的には今の議論で非常によく分かるのですが、長期的に ディスカッションをしていった場合に、人間、要するにヒューマンビーンというスピー シーズを考えた場合に、どういうことが起きるかということについてはイギリスとドイ ツ、ドイツではほとんどこういうことは起きないのではないかと思いますが、 イギリス、これはブリンスデン先生がアメリカの方でありませんから余り意味のがない のかも分かりませんが、どういうふうにお考えでしょうか。 ○ブリンスデン所長  非常によい御質問をいただきました。英国では、これは大きな問題にはならないと思 います。といいますのも、システムがあるからなのです。ちょっと説明する時間があり ませんでしたけれども、すべての卵のドナー、または精子のドナー、また胚のドナー、 すべてのドナーというのはHFEAの中で登録しなければならないことになっておりま す。そして、詳しく名前や連絡先などすべてを記さなければならないことになっていま す。もしも、子どもが18歳以上に達した場合、そして、その子がドナーの精子によって 産まれた人と結婚したいというふうになった場合には、ロンドンにあるレジストリーの ところに行きまして、そして、我々が同じドナーによって血縁関係にあるかどうかとい うことを知ることが出来るということであります。それによって答えがはっきりすると いうことです。  しかしながら、ドナーの住所や連絡先、名前は分からないようになっているというこ とであります。したがって、この登記所の考えといたしましては、血縁関係にあるかど うかということをはっきりとさせることになっているということであります。したがっ て、その問題は解決出来ると思います。  しかしながら、最終的には10年あるいは20年ぐらい経ってきますと、すべての人たち が結婚前にDNAのテストを受けるかもしれません。例えば、HIVのテストといった ものを見なければならないかもしれません。例えば、薬局に行ってキットを買えば DNAのテストも受けられると。これでOKだ、もう結婚出来るというふうな時代が来 るかもしれません。それは恐らく将来の話だと思いますけれども、おっしゃったような ことは恐らく問題にはならないというふうに思います。  ただ、英国におきまして多くの養子があった場合、10年、30年前であれば養子縁組と いうものが行われていた訳であります。そして、その子たちは遺伝的な関係性について 分からなかった訳であります。つまり、養子が多く行われても、これは問題にならなか ったということです。ですから、このような血縁者間の結婚というのは問題にはならな いと私は思っております。例えば、精子ですとか卵のインターネットでの提供といった ものがありますけれども、そういったものであったとしても、大問題にはならないとい うふうに思っておりますが、それでお答えになりましたか。 ○矢内原座長  ベーレさんが先ほど生命倫理のヨーロピアンユニオンという話をちょっとされました けれども、そこは少しフォロー出来なかったので追加をいただけますでしょうか。とい うのは、英国では英国のドイツにはドイツのいろいろな法律があって、決め事がありま すね。日本は島国ですけれども、ヨーロッパは非常にコミュニケーションが簡単に出来 ます。そういうときに、ヨーロッパ全体のヨーロッパユニオンの一つの生命倫理の委員 会みたいなものを先ほどちょっと触れられたと思ったのですけれども。どのように機能 しているか。 ○ベーレ医師  ヨーロッパにおいて一般的な合意が得られるべきであるという強い意識はあります。 バイオメディシンに関してです。例えば、ある人がイングランドで処置をして、同じこ とをドイツでやったら投獄されるということでは、この近代社会において納得がいかな い訳です。したがって、ヨーロッパとして強い意見があります。EU域内として最低基 準を引くべきである、すべてのヨーロッパ諸国に適用可能なものです。かなりの大議論 がありました。御想像がつくと思います。英国とドイツだけでもこれだけ状況が違う訳 ですから。したがって、一般的な条約的な取り決めを達成するのはほぼ不可能でした。  2年前、1997年のことですが、人間の権利とバイオメディシンの取り決めというのが 出来たのですが、例えば、ドイツは調印しませんでした。欧州40か国の23か国は調印し ましたが、ドイツは、この取り決めに調印するかどうか決まっていません。これが今の 状況です。もしかしたら、全世界でほかの組織が最低水準を設けるべきだと言っている ところがあるかもしれません。ドイツにとってもこれに調印することは重要だと思うの です。多くのヨーロッパの国々は全く規制がない、無秩序の状態だからです。生殖医療 で何でも出来てしまうと。最低基準というのを設けることはメリットがあると思い ます。 ○矢内原座長  どうもありがとうございました。 ○ブリンスデン所長  一言よろしいでしょうか。日本から見ると、EUは非常に統一されている、まとまっ ていると見えるかもしれません。でも、10人の婦人科医が集まったら1人の患者で絶対 に診断意見は一致しないはずです。それが、10か国、15か国ですと、ほぼ不可能です。 完全なコンセンサスは無理です、同じ決定は出来ません。一般的なコンセンサスという のだったら可能かもしれませんが、絶対に意見が違う人が出てきます。胚の提供は絶対 だめと言う人、いいではないかと言う人いろいろいます。あるいは、このサロガシーは 絶対だめと言っても、ほかの人はやってもいいかもしれないと言うかもしれない。した がって、我々の立場は通貨統合と非常に近いかも知れない、あるいは同じことだと思い ます。常に英国は身を引いているということ、ユーロの通貨統合に関してもそうです。 したがって、同じようにすべてに関して合意、例えば、この倫理的な問題でも合意を達 するということは不可能かもしれません。ドイツ、デンマーク、スウェーデン、イタリ ア、トルコ、間もなくトルコまで入ってくる。これは、異なって当然です。日本も同じ だと思います。そのうち時間が経てば、独自のシステムが出てくるのですけれども、多 分ほかのところとは異なってくるでしょう。それは、日本にとって正しい方法なの です。日本の文化、日本の制度、日本の伝統に合っているものです。我々がつくってき たものは、リーズナブルであると思っております。あと2年、5年等経てば日本でもも っと安心して決定が出来るようになるのではないでしょうか。そして、システムとして うまく機能すると思います。 ○矢内原座長  どうもありがとうございました。  大変残念なのですけれども、ここで時間が来てしまいましたので、本日の公開の討論 会と申しますか、それぞれお話をいただいた国のルールについて、また、実情について の会をおしまいにしたいと思います。これは、厚生省の方から多分いろいろなお話があ ると思いますけれども、皆さんの御意見等が言えるようなシステムに日本の国もなって おると思いますので、これでこの会は終わりたいと思います。どうもブリンスデン先生 とベーレ先生、本当にありがとうございました。(拍手) ○北島課長補佐  それでは、最後に、厚生科学審議会先端医療技術評価部会生殖補助医療技術に関する 専門委員会の委員長であります中谷先生に閉会の言葉をいただきたいと思います。 ○中谷委員長  では、僭越ながら閉会の辞を述べさせていただきます。  はるばるとイギリスからブリンスデン先生、ドイツからベーレ先生においでいただき まして、今日は本当に長い時間にわたりまして懇切丁寧なお話を伺っただけでなく、ま た、御出席の会場の皆様方からも大変適切ないい御質問なり御議論をいただきまして、 誠にありがとうございました。有意義な意見交換をすることが出来ましたことを、私ど も心から喜んでおります。  私どもの委員会は、昨年の10月から生殖補助医療技術に関する安全面、倫理面、法的 な問題を集中的に論議しておりまして、今後、我が国における基準みたいなものを明ら かにしていかなければならないというふうに考えておりますけれども、恐らく両先生が お聞きになったらびっくりすると思いますが、我が国では生殖によって産まれた子ども の法的な地位すら確定していないのです。ですから、依頼した不妊御夫婦の子ども、実 子になるという、アメリカですら1973年にユニフォーム・ペアレンテージ・アクトとい うものが出来ておりますのに、日本にはその合意すらないという状況であります。です から、これから初めてそういう公的な委員会が出来まして、いろいろ問題を検討してい る訳でございますけれども、まさしくブリンスデン先生の言われたように、法律で決め ることと、それから、その他のガイドラインのようなものなるべくならば公的な機関で そういうものを確立していって、生殖によって産まれた子どもたちが幸せになれるよう な、そういう体制づくりをしてまいりたいと思います。そういう意味で、ブリンスデン 先生からは、私どもの歩んで行きます方向についてまで御示唆をいただきましたことに 対して心から感謝いたします。  また、ベーレ先生はドイツの状況、エンブリオーネシュツゲネツについてをよく存じ ておりますけれども、その他の連邦医師会のガイドラインあるいは州の医師会のガイド ライン、その他について詳細なお話を伺いまして、大変勉強させていただきました。誠 にありがとうございました。  最後に、もう一度、お2人の先生方に対する感謝と皆様の御協力に対して心から御礼 を申し上げまして、この会を閉じさせていただきます。ありがとうございました。 (拍手) ○北島課長補佐  それでは、皆様ありがとうございました。お忘れ物のないように帰途についていただ きたいと思います。  専門委員会の先生方におかれましては、2階のセミナールームの2番という部屋で引 き続き専門委員会を開催いたしますので、そちらの方にお移りいただきたいと思い ます。よろしくお願いいたします。  問い合わせ先   所属:児童家庭局母子保健課   担当: 北島智子 武田康祐   電話: 3173 3179