99/01/27 第1回眼球・アイバンク作業班          第1回  眼球・アイバンク作業班         日時   平成11年1月27日(水)              15:00〜17:00         場所   法曹会館              1階 「孔雀の間」 出席者 (○:座長 敬称略)  鎌田  薫  ○木下  茂  佐野 七郎  篠崎 尚史  眞鍋 禮三  丸木 一成   八木 明美  横瀬 寛一 1.開 会 2.議 題   (1)安全性の確保について      (2)アイバンク活動の活性化について      (3)レシピエント適応基準、優先順位等に関する全国基準      (4)輸入角膜の取り扱いについて      (5)アイバンクにおけるコーディネーター等の設置について 他 事務局  ただ今より第1回公衆衛生審議会成人病難病対策部会、臓器移植専門委員会「眼球・ アイバンク作業班」を開催させていただきます。先生方におかれましては、本日はお忙 しい中、ご出席いただきまして、まことにありがとうございます。本日は第1回でござ いますので、最初に事務局より、作業班の委員の方々のご紹介をさせていただきたいと 思います。最初に早稲田大学法学部教授、鎌田委員でございます。 鎌田委員  鎌田でございます。よろしくお願いします。 事務局  続きまして京都府立医科大学眼科教授の木下委員でございます。 木下座長  木下です。よろしくお願いいたします。 事務局  続きまして日本眼科医会会長の佐野委員でございます。 佐野委員  佐野でございます。よろしくお願いいたします。 事務局  続きまして角膜センター・アイバンクセンター長の篠崎委員でございます。 篠崎委員  篠崎です。よろしくお願いいたします。 事務局  続きまして特定医療法人きっこう会多根記念眼科病院院長の眞鍋先生でございます。 眞鍋委員  よろしくお願いします。 事務局  続きまして読売新聞社編集局医療情報室次長の丸木委員でございます。 丸木委員  丸木でございます。よろしくお願いします。 事務局  続きまして財団法人静岡県アイバンク事務局長の八木委員でございます。 八木委員  八木です。よろしくお願いいたします。 事務局  続きまして東京麻布ライオンズクラブ、横瀬委員でございます。 横瀬委員  よろしくどうぞお願いします。 事務局  本日は小口先生と金井先生は、都合によりご欠席とのご連絡をいただいております。 続きまして、既にお手元にお配りしております資料等の確認をさせていただきたいと思 います。最初に、いちばん上でございますが、第1回眼球・アイバンク作業班の議事次 第です。そのうしろが名簿になっております。続いて作業班の座席表です。  次が第1回眼球・アイバンク作業班資料一覧です。資料1、「眼球・アイバンク作業 班の設置について」。資料2-1、「臓器の移植に関する法律」。資料2-2、「(旧) 角膜及び腎臓の移植に関する法律」。資料2-3、「眼球提供あっせん業の許可について (昭和38年医務局長通知)」。資料2-4、「眼球提供あっせん業者許可基準の取扱につ いて(昭和40年医務局長通知)」。資料3-1、「全国アイバンク移植件数、登録者数一 覧」。資料3-2、「待機患者数及び移植件数における日米の比較」。資料4、「アイバ ンク事業における検討課題」。資料5、「使用禁忌について」。  次は参考資料です。参考資料1、「平成9年度研究報告「角膜移植ネットワークに関 する研究」」。参考資料2、「提供眼球取扱いに関する提言(斡旋眼球の安全性確保に ついての提言―1993年度案)(日本角膜移植学会特別委員会)」。参考資料3、「アイ バンク事業における検討課題(第11回臓器移植専門委員会資料)」。その他に、先生方 には、1998年のアイバンクジャーナルの冊子を配布しています。資料など、何か不備等 がありましたら、事務局のほうにお申し付けください。  それでは議題に入る前に、臓器移植対策室長の朝浦より、本作業班設置の趣旨を含め まして、一言ごあいさつを申し上げます。 朝浦室長  臓器移植対策室長の朝浦です。よろしくお願い申し上げます。本日はお忙しい中、皆 様方にご参集いただき、ありがとうございます。角膜移植法が施行されて40年を過ぎ、 全国で51のアイバンクで、年間、約1,500件の角膜移植が行われている状態になっていま す。長い歴史を持つ角膜移植ですが、平成9年7月に臓器移植法が制定され、新しい臓 器移植の決まりの中で、また、これから新しいスタートを切る節目の年になるのではな いかと思っております。臓器移植法の理念の中に、本人の意志の尊重ですとか、あるい は中立、適正な臓器の配分といったことが、この中でうたわれていますし、また一方 で、高齢化等の進行によって、角膜移植あるいは眼球からの組織の移植に対する期待 も、今後ますます増えてくると考えております。このような状況の中で、現行のアイバ ンクの取り組み状況を見ると、必ずしも国民のニーズ、あるいは立法の精神なり趣旨な りにうまく合致しているとは言えない部分もいくつか出てきているということで、新聞 報道などでも、そのような事例がいくつか散見されている実態にあるのではないかと思 っております。そういうことで、本作業班は、昨年11月19日に公衆衛生審議会の臓器移 植専門委員会において、やはりアイバンクの問題について、専門家の先生方にお集まり いただき、1度、課題を整理して、今後のあるべき方向について議論していただいたほ うがいいのではないかという議論があり、それを踏まえて設置し、今回、開催させてい ただくものでございます。山積するアイバンクをめぐる問題のすべてを議論するわけに もいかないと思います。その中で、やはり主だった、いちばん大きな問題から、一つひ とつ、片付けていくということで議論を進めていただければと思います。忌憚のない議 論が展開されるよう期待し、私のあいさつとさせていただきます。よろしくお願い申し 上げます。 事務局  本作業班ではまだ、座長が専任されておりません。事務局より、座長を京都府立医科 大学の木下先生にお願いしたいと考えておりますが、先生方、いかがでしょうか。 (一同、拍手) 事務局  ありがとうございます。それでは木下先生、座長席へ移動願います。では先生、よろ しくお願いいたします。 木下座長  それでは、本日の議題に入りたいと思います。本日はまず、「アイバンク事業の実態 について」ということをご説明させていただいた後に、アイバンク事業における検討課 題について……これは資料4についておりますけれども……5つの話題について検討、 あるいはフリートーキングしていきたいと思います。まず、アイバンク事業の実態につ いてですが、わが国の角膜移植は、昭和33年に制定された角膜移植に関する法律に基づ いて全国的に取り組みが始まり、これが昭和54年に旧角腎法ということで改訂されまし た。そして平成9年7月に臓器移植法が制定され、その中に組み込まれたということで 他の臓器と同様の法体系の中で、角膜移植も行ってきたということになるかと思いま す。この間、多くの方々の善意と努力に支えられ、角膜移植医療は年間に約2,000件弱 ということで、アイバンク活動は、一定の成果をあげてきたと考えております。しかし ながら、国際的なアイバンク活動、とくに欧米、アメリカなどと比較すると、われわれ の角膜移植医療の普及から見ても、わが国のアイバンク活動について、さらに改善する 点、強化すべき点があると思っております。そういうことから本作業部会がつくられま した。ここで課題を整理し、今後の取り組み方針を検討していこうということです。  検討課題に入る前に、まず、現在の日本のアイバンク事業がどういう実態を持ってい るかについて、皆さん、同じ情報を共有する必要があるかと思いますので、これについ て、事務局からご説明をお願いしたいと思います。 山本補佐  資料1は、先ほど、私どもの室長のほうからご説明させていただきました、今回の作 業班が公衆衛生審議会の部会の、他の臓器移植専門委員会の中に設置されているといっ た内容のものです。  資料2ですが、先に2-2……昭和54年に制定された旧角腎法と言われる、角膜・腎臓 移植に関する法律がありました。この法律の趣旨というか目的のところで、角膜移植術 に用いる角膜の提供を規定するという形で、明確に、角膜移植ということをうたってい ます。医師の責務、その他ございましてから、そのうえで第7条のところですが、使用 しなかった部分の眼球または腎臓の処理ということで、角膜移植に使わなかった眼球に ついては処理……つまり焼却ということですが……処理することになっています。ま た、あっせんについては8条のところで、厚生大臣の許可を受けた者があっせんを行う ということで、全国のアイバンクがこの許可を受けて、角膜のあっせんを行っていると いうことかと存じます。  あとさきになって恐縮ですが、資料2-1。先ほど紹介させていただきました、平成9 年7月制定の「臓器の移植に関する法律」ということで、目的として、移植医療の適正 な実施をうたっておりますし、第2条の基本理念で、旧角腎法ではそれほどクリアでは なかった部分も、ここでは明確になっているかと思います。臓器提供の意志の尊重と か、提供の任意性の問題、また、昨今においては適切に使用されるべきことであると か、さらに4番目のところですが、移植術を受ける機会が公平に与えられるように配慮 しなければならないという、このへんの理念、とくに公平性の理念などは、新しい臓器 移植法では明確にうたわれているかと思います。また、国、地方公共団体の責務とし て、国民の理解を得ていくということや医師の責務等もございます。  この臓器移植法に基づきます臓器とは何かということで、第5条もしくはその他、厚 生省令で定めておりますが、心臓、肺、肝臓、腎臓、眼球、そして小腸、膵臓というも のが定められております。その他、摘出等の定義がありますが、2ページ目、「使用さ れなかった部分の臓器の処理」ということで、ここには移植に使用されなかったものに ついては適切に焼却しなければならないという規定もございます。  また、記録の作成、保管、臓器の売買の禁止等、臓器移植に関わる理念がうたわれて います。  3ページ目、「業として行う臓器のあっせんの許可」ということで、この臓器移植法 においても、臓器のあっせん、角膜のあっせんを行うことについては厚生大臣の許可を 受けることになっております。そして2番目ですが、次の各号のいずれかに該当する場 合は許可をしてはならないということで、営利目的の場合、それともうひとつ、業とし て臓器のあっせんを行うにあたって、当該臓器を使用した移植術を受ける者の選択を公 平かつ適正に行わないおそれがあると認められる者というような概念がございます。  その他、機密の保持とか報告の問題ということがあります。また、4ページの頭にあ る第16条ですが、非常に雑駁な形で、厚生大臣がこの法律を施行するために必要だと認 めるときには、臓器あっせん機関……アイバンクに対してもそうですが……その業務に 関して必要な指示を行うことができる、ということがあり、これに基づく適正な指示を することもあり得るということです。  この法律ができまして、旧角腎法については廃止されております。ただ、旧角腎法が 長い間かかって、私どものほうから各アイバンクに対して、あっせんとはどうあるべき か、といった考え方を示した通知などが、過去、2つ出ております。ひとつがお手元の 資料の2-3です。昭和38年に出されたもので、「眼球提供あっせん業の許可について」 ということで、眼球提供のあっせん業の許可を与えるときには、こういう基準を満たさ なければならないというような考え方を、38年に通知しております。この考え方を一読 していただきますと、基本的に明確に出るのは2ページ目かと思いますが、解説主体の ところの考え方として、その当時の通知によりますと、基本的には、1の(1)にある ように、当該病院や診療所の事業として眼球の提供あっせんを行うものにも許可をす る。それから2番目に、そういう病院や診療所が協同して何かをつくり、それで角膜あ っせんをするというのもあるでしょう、と。それから、どこかの病院、もしくはどこか の診療所だけに眼球の提供をあっせんするために、別に法人を設立するものもあるでし ょう、と。それから4番目に、その活動範囲が全国ですから、都道府県とか、広い地域 にまたがってあっせんを行う非営利の団体もあります。こういう方が設置主体です。そ れ以外の条件としては、たとえば2番に財産とか家計、ある程度永続的な事業が可能で 会計が明確になっていること、それから3番目の業務のところで、対価を払わないとか 実費以外はもらわないといったことが書いてあります。しかしそれ以上の、たとえば今 日、このあと議論になります安全性の問題や公平性の観点などに関する明確な指針等は 出ていない状況です。  この昭和38年、もしくは40年もほとんど中身は同じなんですが、38年、40年の通知に ついては、新しい臓器移植法ができたときも、この通知の考え方をそのまま、当面の間 生かす形になっていますので、この考え方が新しい時代にあうかどうかという議論も出 てこようかと思います。  実態のところに入りたいと思います。資料3-1です。今、申し上げた法律の体系に基 づいてアイバンク事業が行われているわけですが、3-1には、今、全国に51あるアイバ ンクの名前と、それから提供登録者……つまり献眼登録といって眼球の提供を登録して くださった方の実績が単年度実績として出ています。その右側に移植件数とあります が、これは実際に移植に結びついた眼球の提供実績です。  まず、ひとつの指摘としては、提供登録者、つまり献眼登録の数が多いところが必ず しも移植件数が多いわけではなくて、ここの相関が認められないということがありま す。  それから移植件数については、今日は静岡アイバンクの八木委員にご出席いただいて いますが、わが国で最も実績のあるバンクということで、平成9年度で286眼という、 300に近い眼球の提供がある一方で、ゼロあるいは1桁という眼球バンクもあるという ことで、かなりバンク間のアクティビティーの差が、実績として差が出ています。これ が今のわが国の実態です。  各バンクがあっせん業の許可をもらった際、もしくは現在、どの地域をエリアとし て、あるいはどの医療機関を対象としてやっているかというのはさまざまで、たとえば ひとつの医療機関に提供するために設立したアイバンクもありますし、その都道府県も しくはある地域一帯を広域的または全国的な視野においてアクティビティーが広がって いるバンクもあり、そのあたりもさまざまです。  次のページ、3-2はアメリカとの比較です。待機患者数はほぼ同じぐらいですが、移 植件数はご覧のように、日本の約30倍ということです。人口は、アメリカは日本の倍で すから、それを考えると、待機患者数がほぼ同じということは待機期間が日本と比べれ ば、アメリカのほうがずいぶん短いだろうということが想像できると思います。  一応、アウトラインとしては以上の資料を用意させていただきました。 木下座長  ありがとうございました。今のご説明に対して、ご質問、ご意見等、ございますでし ょうか。結局、旧角腎法から臓器移植法に法律が変わるに従いまして、徐々に不明瞭だ ったところを、もう少し明確に、そしてよりよいものにしていかなければいけないとい うのが現在の置かれている状況かと思います。  実態に関して、よろしいようでしたら、アイバンク事業における課題の検討に移りた いと思います。先ほどお話ししましたように、本日の検討課題は5つあるかと思いま す。最初に言いました資料4のところに、そのことが書いてあります。「安全性の確保 について」「レシピエントの登録、適応基準・優先順位等について」「アイバンク活動 の活性化について」「アイバンクにおけるコーディネーター等の設置について」、そし て「輸入角膜の取り扱いについて」という、5つの項目です。時間的な制限もあります ので、約2時間弱かと思いますけれども、これからのディスカッションの中で、今日は とくに、この中の1番目の「安全性の確保について」、ある程度合意の得られるものを つくるところまで行ければいいかなあ、と。あとの2〜5の課題につきましては、 フリートーキングをさせていただき、次回のこの会で、なんとか形になるものができれ ばいいかなあというふうに考えております。  それでは個々の課題について、一つずつ検討していきたいと思います。まず、1番目 の安全性の確保について検討していきたいと思います。資料のご説明をお願いします。 山本補佐  資料4の1のところです。臓器移植専門委員会において問題提起された安全性の確保 について、事務局でまとめさせていただいたのは、ひとつは全国のアイバンクが守るべ き使用禁忌というものが、どういうものであるべきかということです。お手元の資料の 中に参考資料があります。これは厚生科学研究ということで、厚生科学研究費をつけて 研究者に研究テーマを選んでいただいて研究するということなんですが、平成9年度の 臓器移植に関する研究の中で、角膜移植ネットワークに関する研究のひとつで、アイバ ンクにおけるドナーの血清学的検査の実施状況調査と有病率の調査というものをいただ いています。こちらに分担研究者の眞鍋先生がいらっしゃいますので、あとで補足して いただけるかと思いますが、各アイバンクに対してアンケート調査を行い、ドナースク リーニングについて、どの程度行っているかということを調査されています。これは眼 球銀行協会より調査票を配布していただいて、B型、C型肝炎の血清学的検査、それか ら梅毒、HIV、HTLV-1の調査についてやらせていただいています。これは新聞 報道等でもあったかと思いますが、全国50のアイバンク中、回答のあったアイバンクが3 6、血清学的検査をすべてのドナーに対して実施しているアイバンクが4施設という結 果が出ています。これについては、その他の調査結果、研究結果も含め、参考資料とし てつけさせていただいています。  全国のアイバンクが守るべき、角膜組織の使用禁忌を決めるべきではないかというこ とで、資料5をご用意させていただきました。いちばん右側が、アメリカのアイバンク 協会の医学基準の中にある使用禁忌、1998年、直近版です。禁忌として、1〜23の疾患 名があがっており、その中には血清学的検査で確認できるものと、問診その他で確認で きる疾患名がのぼっています。主に感染症と中枢神経系の疾患が並んでいるかと思いま す。  真ん中は日本角膜移植学会特別委員会が、1993年度にまとめたものです。これは眼球 銀行協会の研究助成に基づいて、日本角膜移植学会が研究助成を受けられ、この特別委 員会を設置し、その中で研究をし、とりまとめられたものです。1992年にまとめたもの をバージョンアップして、私どもが配布しております。直近では、1993年度のバージョ ンになっているかと思います。これはかなり、アメリカアイバンク協会に近い形で、禁 忌のものと注意すべきもの……注意すべきというのは、医療機関に情報を伝えて移植医 にその情報を提供するというような意味も含めて、AとBにランキングして疾患が並ん でいます。とくに注意すべきもののところには全身性疾患、慢性免疫不全等々の疾患も 入っている状況です。  いちばん左側にあるのが、アメリカアイバンク協会の基準、日本角膜移植学会特別委 員会の基準、それからいくつかのアイバンクが既に基準をつくっておられますので、こ れらを参考にさせていただき、事務局で過不足なく並べると、こうかなあ、という感じ でまとめたものです。ここでは、基本的に1)〜20)までの中で、とくに血清学的な検 査としてはC型、B型の肝炎、HIV、それからここにはWassermann氏病と書いてあり ますが梅毒反応ということです。それから19番のHTLV-1。あとは問診その他で確認 している疾患かと思います。  使用禁忌については以上ですが、もうひとつ、今後の課題として私どもが認識してお りますのは、使用禁忌があったうえで、さらに、たとえば角膜の保存温度や保存の液の 安全性というような、非常に重要な問題で、安全性を確保するためにアイバンクが留意 すべき点というものもあろうかと思いますので、これも徹底する必要があろうかと考え ています。  眼球銀行協会のアクティビティーは先ほど申し上げたとおりですが、平成9年の診療 報酬の改定の際に、この、特定保険医療材料の価格改定の際、角膜については各種感染 症の検査を必ず行うことということで、周知徹底を行っているところです。  資料は以上でございます。 木下座長  ありがとうございました。安全性の確保について、もう一度まとめてみますと、まず この使用禁忌の案ですが、これはまったくの案ですから、必ずしもこれにこだわる必要 はないかと思いますけれども、この中から、どういう使用禁忌とすればいいかというこ とを臓器移植専門委員会のほうへ上申していくというようなことがあるかと思います。 それから、使用禁忌とするのであれば、そこにあげた各疾患の有無を、どういうふうに して確認していくかという手段、方法について、具体的に検討していく。この2つのこ とが、ここでの非常に大きな検討課題であると思います。加えて、使用禁忌等とはまた 別に、安全性確保のための留意事項……保存の方法や、無菌的手段、そのあたりについ ても検討する。これが安全性の確保についての、これから数10分間討論していただきた いことです。  最初にまず、私の私見を述べさせていただきますと、アメリカアイバンク協会、日本 角膜移植学会、それぞれにつくっておりますけれども、現在までありました日本角膜移 植学会の、この基準というのは、あくまでガイドラインに準ずるようなものであり、各 ローカルアイバンクは、これを参考にして、それなりの基準を持ってやっていたという ことになるかと思います。  本日、ここで使用禁忌を決めるということになりますと、最終的に臓器移植の専門委 員会、あるいは公衆衛生審議会を経て、それが認められますと、これは法的規制がかか ってくると思いますから、その眼球についてはなんとしても使ってはいけないというこ とになります。ということは、法に違反するというような制限が加わってくるかと思い ますので、ガイドラインに準ずるということとは、全然、重みが違うということをひと つ、ご留意いただきたいと思います。  それから、ここ掲げているアメリカのアイバンクの協会の医学基準は、全層角膜移植 となっています。角膜移植というのは、一般的には全層角膜移植といって、角膜の全部 の層を置き換えるのが角膜移植なんですが、それ以外の手段として表層角膜移植といっ て、角膜の表面だけを換える、あるいは角膜の上皮移植といって、角膜の最表層の、表 面のところの細胞だけを換えるという手術方法があります。その場合には、使っていく 組織が若干違いますので、本来、全層角膜移植としては使用禁忌となっても、他の手段 であれば使用禁忌ではないというようなものもあるかと思います。そのへんをご留意い ただけたらと思います。角膜移植に携わっておられない方は、とくにご留意願います。  もうひとつ、基本的な考え方としては、これもまったくの私見ですが、使用禁忌とい うのは、ドナーからレシピエントへ万が一感染した場合、それが非常に致死的になり得 るものは絶対的に使用禁忌だと思うんです。そうでない場合には、あくまで臓器提供の 提供数との関係で考えていくことが必要であると思います。非常に豊富なドナーがある ということであれば……たとえばアメリカでは約10万人に近い中から4万、約40%ぐら いに絞り込んでくるわけですが、そういう場合にはかなりのところを制限していくこと ができるわけですが、日本は2,000眼ほどご提供いただいて、その中の90%近くを使って いくという状況で、基本的にドナー不足という状態にありますので、そのあたりも考え ていくと、使用禁忌というところ、若干、国ごとの事情によって変わってくるかと思い ます。結局、そういうリスク・ベネフィット・レシオということも多少考えられて、現 在の日本の角膜移植学会等のガイドラインに準ずるようなものもあるかと思いますの で、そこを踏まえてご検討いただきたいと思います。  アメリカについてお詳しい篠崎委員、いかがでしょうか。 篠崎委員  木下先生がおっしゃることは、まったく、私も賛成です。とくに、先ほどグラフで拝 見したところ、アメリカでは、年間45,000件の移植があり、人口が半分のわが国ですか ら、単純な比較はできなくて議論もいろいろあると思いますが……とくにアメリカでは フックス変性症が多いとか、逆に日本では高齢化に伴って白内障後の角膜症が年々増え ていますので、逆に日本のほうが多い可能性も高いのではないかと思っていますが…… いずれにしても年間20,000件前後の移植があってもいいところが1,500という ことは、年間、20,000人近い患者さんが……取りこぼしという言い方が正しいかどうか 分かりませんが……移植を受ければ視力を取り戻せるのに戻せない、5年間で10万人以 上の方がお待ちになってしまっているような現状をつくっているわけです。まず、危機 的であるという概念を持つことがスターティングポイントではないかという気がしま す。  こういった感染症に関しても、当然、木下先生がおっしゃるように、ドナーからレシ ピエントへの感染があってはならないのは当たり前のことですが、その感染を、どのよ うにコントロールしていくかという概念を考えるときに、そういった危機的状況を踏ま えた議論が必要で、これが日本全体の献眼数を上げることに対して、当然、アメリカで もずいぶん……私個人もアメリカの医学基準委員をやっていますので……年々、これは 変わっています。その状況に応じて、どんどんきつくしていく、あるいは緩めるという ことは当然あることなんですが、医学的な見地だけではなく、たとえば、この使用禁忌 を見ますと、完全に感染が起こり得る疾患というのは実は数少ないわけです。科学的に 証明されているのは、この中ではたとえばクロイツフェルト・ヤコブ病、B型肝炎、狂 犬病しかないわけです。これは学術的にも証明されています。それ以外は感染するかも しれない。逆に言うと、HIVなどに関して、アメリカでは当初、ずいぶん移植してし まっているわけですが、1人も感染を起こしていないわけですから、科学的には起こら ない可能性が非常に高い。とくにC型なんかは感染しない確立が非常に高いわけです。 ただ、気持ちの問題として、お入れになっているという基準だと思うんです。そのへん をどうコントロールしていくかということをメインにディスカッションを進めていくと いうことがいちばん健全で、とりあえず国民全体の益になるように、視力障害の方が1 人でも多く見えるようになるように、当然リスクも考えながらということになると思う んです。そう考えていただくと非常にいいのではないかという気がします。 木下座長  まとめていただいた眞鍋先生、どうでしょうか。 眞鍋委員  これは、臓器移植法ができてから見直すという考えからわれわれのほうでは1993年に 既にガイドラインをつくり、安全性については一生懸命やっていたんですが、結局、徹 底していなかったということがあると思います。それを今度は、こういう法的な裏付け をつけて各アイバンクに安全性を徹底してもらおうということになるんですが、それと 同時に、全臓器を提供するというような、マルチプルドナーというものがでてきて、今 までにも時々、臓器移植ネットワークのほうから眼球を提供してくださるという連絡が ありまして、私どもが行ったりしましたが、時々、その間で問題が起こりました。 そのひとつは、臓器移植ネットワークで決めている基準とアイバンクで決めているもの との間に食い違いがあったりするとまずいのではないか。だから、これはアメリカとの 比較でつくられていますが、日本の臓器移植ネットワークのほうでの禁忌というものと アイバンクのほうの禁忌は、やはり、かなりちゃんと整合性をつけておかなければいけ ないのではないかという感じがします。今、そのほうはどうなっているんでしょうか。 臓器移植ネットワークのほうでの禁忌というのは、もう、はっきり確立されているんで しょうか。 山本補佐  資料を用意すればよかったんですが、臓器提供者……ドナー、それからレシピエント の選択基準につきまして、眼球以外の他臓器については検討のうえ、私どものほうは通 知で出しております。たとえば心臓のドナーの適応基準で、心疾患を除くということは もちろんですが、感染症としては全身性活動性感染症か、あとは血清学的な検査で分か るHIV、HTLV-1……これは全部抗体検査です。それからHBs抗原検査、HC V抗体検査などが陽性で、この「など」のところがちょっと微妙なんですが、現時点で は今この点だけの確認でやっています。また、たとえば肺のドナーなら肺の感染症、活 動性感染症ですとか、肝臓ならかなりウィルスのほうの感染、肝臓の真菌ウィルス感染 症等ありますが、概ね、今申し上げたような感染症のチェックがなされているというこ とで逆にいうと、それ以外のライ症候群や狂犬病は入っていないということになります 。ただ、臓器移植ネットワークの場合は、カルテに何か気になる医学的な記載があった 場合はコーディネーターがチェックをし、それをネットワークのメディカルディレク ターというかコンサルタントに確認して、医学的な判断をして、それをあっせんするか しないかというようなこと、もしくは情報をつけて提供するといったことが、コンサル テーションは常時行われるというシステムになっています。 木下座長  クロイツフェルド・ヤコブ病なんかは、どういうふうに記載されていますでしょう か。 山本補佐  適応基準のほうで、全身性感染症の中にヤコブ病も含まれていることを留意されたい とわざわざ書いてあります。 木下座長  分かりました。眞鍋先生のおっしゃいますように、日本では臓器移植ネットワークの ほうでの使用禁忌がある程度明確にされていますので、それとある程度整合性を持った 使用禁忌をつくっておくと分かりやすいというところはあるかと思います。他方、アメ リカなんかで多臓器移植を行われた場合に、たとえばエイズなんかもそうですが、心臓 移植や腎臓移植、肝臓移植はまず間違いなくエイズに感染しますが、同じドナーであっ ても角膜移植で感染が成立したという例はないわけです。結局、これは血液にどれほど その臓器自体がエクスポーズされているか、接触しているかということも大きく関係し ているかと思います。HCVやエイズ、こういったものは、臓器移植そのものでは感染 が成立する可能性があるかと思うんですが、角膜移植ではない、と。角膜移植は臓器移 植というよりはある意味で組織移植であり、なおかつ血液との接触が非常に少ない組織 であるということ、それから保存期間がある程度長く、日のオーダーで保存をしていき ますので、その間に、たとえば梅毒の場合は約3日間保存している間にスピロヘータが 完全に不活化されてしまって、絶対に感染が起こらないということが科学的に証明され ているとか、そういうことがありますので、若干、そういう、角膜移植の特殊性という ことを盛り込んでつくっていけるといいかなあと私自身は思いました。  現在のところ、HTLV-1やエイズ、HB、HCV、こういったものは厚生省のほう でこれを検査しなさいということになっております。その中で、エイズであるとかHT LV-1、そしてB型肝炎は激症肝炎を起こす可能性があり得ますから、こういったもの は致死的なものになり得るということで、感染症チェック、5つありますが、その中の エイズとHTLV-1……白血病になるようなウィルスですが……それとB型肝炎、この 3つについては非常に危険なものというふうに、私は個人的には思っています。あと2 つ、梅毒の検査とHCV、C型肝炎に関しては、感染が今までに成立したという報告が 全世界を見てないということがひとつありますし、万が一感染が成立したとしても、こ れは十分に治療の対象となり得るということがあります。そういうところは角膜が急に 穴が空いて、明日でにも角膜が欲しいという場合に、それであっても、今言ったような 目も禁忌にあてはめてしまうのか、それとも緊急の場合にはそういうものは各ローカル アイバンクの中での基準で患者さんに十分なインフォームドコンセントをして、使い得 る余地を残しておくのかどうかというところがひとつの議論になるかと思います。 鎌田委員  座長のおっしゃることをうかがっていると、いちいちもっともだと思うんですが、た だ、他の分野でのこういう問題に対する対応の仕方とスタンスがかなり違っていますよ ね。ここでは要するに危険であるということが実証されるとか、あるいはベネフィット に比べてリスクのほうが明らかに大きいという場合だけは確実にはねて、それ以外は個 別対応でという発想なんですが、他の部分では、多少なりともリスクがあればよけまし ょうという基本姿勢でやっていると思うので、そこのところで多少の違和感を感じてい まして、今、ちょっと、どう整理していけばいいかと思っているところです。 木下座長  角膜移植は昭和33年の制定以来、ずっと年間に2千何眼という実績をもってやってき ており、その中で基準が徐々に徐々に厳しくなっていく形できているかと思います。現 在の臓器移植については、まず、非常にしっかりとした形のものをつくって、そこには め込んでいくというか、そういう形でスタートしているので、そこに多少のスタンスの 違いがあるのかなあと思います。これはあくまでも私の個人的な意見ですので、皆さん のご意見を、ぜひ、お聞きできればと思いますけれど。丸木委員、いかがでしょうか。 丸木委員  最初に、私、この研究報告書を新聞で見て、実は非常に驚いたんですね。当然、そう いうことがなされているという前提のもとに角膜移植が行われていると思っていたもの ですから。最初はその数字を見て非常にショックを受けたんですが、今、よくよく聞い てみますと、確かに数少ない中を有効利用するときに、そのリスクをどう判断するかと いうのが非常に難しい問題としてあるんだなあと今初めて知りました。やはり、理念を とるか現実をとるかという議論がここには起きてくるのではないかなあという気がして きました。ところでこの33年以降、ずっと角膜移植が行われていて、たとえば再感染を 起こしたとか重篤な障害が起こった例というのはあるんでしょうか。 木下座長  多分、篠崎委員もよくご存じでしょうけれども、全世界で見た場合と日本で見た場合 ということがあるかと思うんですが、日本での報告は、私の知る限りではありません。 日本の中では今までのやり方であっても感染が成立して、それが致死的になったとか、 角膜移植を通じてドナーからレシピエントに大きな不利益をもたらしたというような報 告は私の知る限りではないと思います。ただ、世界的に見ると、とくにフランスとかで たとえば狂犬病ウィルスで感染したとかクロイツフェルド・ヤコブ病で感染が成立した とか、そういったような報告はあります。 丸木委員  ありがとうございます。あと、もうひとつ、これも研究報告の中に出ているんですが どうして、この血清検査ひとつにしても、移植の際に少なかったのか、摘出医の、そう いうものに対する無理解というか、採血の方法を知らなかったとか書いてありますが、 実際、そういうことだったんでしょうか。 木下座長  もし私の答えが間違っていたら、どなたか訂正していただきたいと思うんですが、死 後採血については、提供時、眼球を提供するだけではなくて、さらに血まで抜いていく のか、というような日本の遺族の方の心情的なところもあったかと思います。ですから 法律的に規定されるかどうかという前には、そのあたりのことがひとつあったかと思い ます。それから、死後採血をして感染症をチェックするにはそれなりに費用がいるんで すが、各ローカルアイバンクはそれほど裕福ではありませんでしたから、その費用をど のように捻出するかとか、そういうことも多少はあったのではないかと思います。実際 には、生前というか亡くなられる前に、かなりの検査結果というのは持っていて、B型 肝炎のHBs抗原がマイナスであるとか梅毒がどうだとかというようなデータはあった わけですが、死後採血によるチェックはされていなかったというふうにご理解いただけ ればと思います。 丸木委員  なるほど。 眞鍋委員  もちろん、生前、亡くなる前に、たいていの人は病院に入院してから亡くなる。そし て眼球提供を申し出てこられるということですので、亡くなるような病気であった場合 には、その病気についての検査は十分その病院でやっておられますので、それについて は全部、集めるだけのデータをとっておられる。そこでもし、この人は梅毒があるとか この人は肝炎があってしかもB型肝炎だったとか、そういうことが分かっていれば、も ちろん使っていないんです。結局、いちばん問題になるのはエイズなんですが、エイズ というのは日本では、なかなかプライバシーの問題もあって、亡くなったといっても、 血液を採ってエイズを調べたとなると、何かプライバシーの侵害になるのではないかと いうこともありまして、実際、本人の許可なくして血液を採ってエイズを調べたとなる と、ちょっと、問題があった時代でもあったんですね。そういう意味では、エイズに関 しては、このガイドラインに書いてありますが、ハイリスクのものについては使わない というようなことにして、めったに日本人はエイズにはなっていないだろうというよう な前提があったかと思います。そういう意味で死後採血はあまりしなかった。生前にで きるだけ検査しなさい、ということで済ませていた。したがって、死後採血をやりだし たのは、本当に、この研究班ができて、しかもできたときには、まだ、ほとんど1つか 2つぐらいのアイバンクしかやっていませんでした。各都道府県に対して10月に施行令 が出まして、もし、やっていない場合には、あっせん料は支払わないといった通知が出 てからやり始めたわけです。この検査の結果を求めたのが12月ですから、10月に出て12 月までの2カ月でそれが全国に普及するかというと、そうはいかないわけで、そういう 意味で昨年度の報告書では非常に低い値になっているわけです。今、篠崎先生なんかが 集めてくださっていますので、今年の状況についてはよく分かると思うんですが、恐ら く相当、高率にやられていると思います。それから、実際、やっていない場合には、絶 対にあっせんしないということでありまして、昔はやっていなくても、大体大丈夫だろ うという勘で移植していたわけです。この人はエイズにもかかっていないし、何もない だろうということで、エイズ等の検査をしていなくても提供していたんですが、今度 は、それが分かっていなかったら提供しないということにはなっております。 木下座長  正直、システム的にもプリミティブであったんだと思います。眼球の保存方法を、全 眼球保存という方法から強角膜片保存という方法に変えないと、死後採血したものの検 査結果を待てないという、そういうところもありまして、そのあたりは現在、システム としてひとつグレードアップしつつあるということかと思います。実際のところで八木 委員、何か、このことについてご意見、ございますでしょうか。 八木委員  やはり、あっせんする立場に立ってみると、本当に使用禁忌で、こういうふうに出て しまうと、もう、絶対に使えなくなってしまうものですから、今言われた致死的でない とか感染の確率がかなり低いというものは、できるだけ除いていただきたいですね。 コーディネーターの立場として、ドナーの家族に会ったりするんですが、そのときに絶 対に使ってください」みたいに言われてしまうんです。感染症とかに関係なく、使って ください、みたいな感じで言われてしまって……。できるだけ、そういう気持ちにも応 えたいということもありますし、本当に全層移植ばかりではないものですから、そうす ると、たとえば内因性の眼疾患の中でも、カッコ書きで緑内障とかというふうに書かれ てしまうと、それこそ緑内障全部が使用禁忌というふうにもとられやすいですし……も ちろん緑内障の一部は本当に全然使えないものもあるんでしょうけれど、使えるものも あるんだったら、そういうものも、できるだけ、私どもの立場としては除いていただき たいし、梅毒なんかも活動性ではないものだったら……というか、血液検査はしなけれ ばいけないんでしょうけれど、本当に除けるものは、できるだけ除いて、需要と供給の バランスというか、もっとドナーが増えて角膜が潤沢になったら厳しくしていかなけれ ばいけないことというのはいっぱいあるんでしょうけれども、今、この感染症以外にも 角膜の内皮細胞の検査とかをやると、そちらでも振り落とされる眼球というのが結構あ るものですから、そうすると、今のドナー数で、あんまり厳しくしてしまうと、移植で きる角膜がもっと減ってしまうということもあるものですから、本当に、どうしてもと いうもの以外は、できれば使用禁忌からはずしていただいたほうが、アイバンクの立場 としてはありがたいと思います。 木下座長  ありがとうございました。はずすと言いましても、はずして全面的にそれをOKとす るという意味ではなくて、個々のことを各アイバンクの中での使用基準で非常に注意し て使うかどうかを決めていくという、そういう理解ですね。アイバンクをサポートして こられた横瀬委員、いかがでしょうか。 横瀬委員  今、いろいろと皆さんのお話をうかがっていて、本当にそうだと思ったんですが、や はり、ドナーとレシピエントの問題というのが、私どもが現場でいろいろと接していて いちばん引っかかるんですね。やはり、提供するというより、本当に崇高な気持ちでも ってご遺族の方がせっかく決められたのに、それに対して眼球がうまく既往症その他で もって使用できなかった場合に、やはり現実の問題として、使えませんでしたとはなか なか言えません。ご遺族の方には「ありがとうございました」という形で、それ以上の ことは説明しないような形で終わっていますが、今、八木さんがおっしゃったように、 総体的な数が足りない以上は、ある程度まで……厳しくするなということではないんで すが……多少のアローアンスというものを認めていかないと、日本の今のアイバンク事 業というものが厳しさだけでもって律されると、だんだん、担当者も萎縮していってし まうのではないかということが心配されます。そうかといって、これを野放しにして構 わないという問題ではないんですが、要はやはり、元に戻るかもしれませんが、献眼者 の数をもっと増やす、もっと潤沢な角膜というものを持って、そうすればいかなる厳し い法律であっても十分対応できるだけの供給ができるだろうというふうに考えていま す。ちょっと前後しますが、このあとの問題として、どうやったら献眼者を増やしてい けるかというふうなところでまたご説明させていただきたいと思います。 木下座長  ありがとうございます。佐野委員、いかがでしょうか。 佐野委員  私、眼科医会の会長として出ておりますけれども、実際は角膜移植はしたことのない 眼科医です。そういった立場で、全国的な観点からしますと、今、横瀬委員が言われた ように、日本における角膜移植の使用禁忌として、どこまでどういう制限をするのかと いうのは非常に大きな問題ではないかと思っています。ここに書いてある資料のものは 理想的ではありますが、これだけの分類ではとてもとても、実際の末端のアイバンクで は戸惑ってしまう、そういう感じも受けます。絶対禁忌、禁忌、厳重注意とか、そうい った段階に分けてあげないと、なかなか大変だろうと思います。私どもが医者になった 頃角膜移植が盛んになってきたわけですが、その頃は日本も古い感染症の時代で、その 感染症の情報とか、そういったものが解決してきて、もう大丈夫だというような感じで アイバンクが進んでいったと思うんですが、新たな感染症のエイズとか、そういったこ とが出てきて問題になった、と。実際に、私も、今は学問を離れていますので分かりま せんが、一体、本当にどこまで、どういうパーセンテージで感染症が起こるのか、角膜 というのは他臓器よりも感染症に対する抵抗が強いというか、感染しにくいということ もありますので、そのあたりを早く確立していただきたいですね。先ほど、丸木委員か らこんなこともやっていなかったのか、というご意見がありましたけれど、先ほどのご 説明にありましたように、6万円がやっと9万円になるまでに、眞鍋先生はじめ、私ど も眼科医会の社会保険の担当者が非常に苦労しました。しかしそれでも9万円では、と てもやっていけないような現状ですから、そういった金銭的な裏付けも同時に考慮して いかなければいけないのではないかと思います。 木下座長  他にご意見はありますでしょうか。 鎌田委員  角膜移植をさらに推進するうえでも、もうちょっと規制を緩和すべきだというご意見 もよく分かるんですが、皆さん、そういうご意見だと、ちょっと、いいのかなあという 感じもしますのであえて異論を出します。血液なんかの場合は感染の危険性が非常に高 いというので、性質が全然違うとは思うんですが、その場合でも、やはり感染の可能性 が低いからいいという発想と、それから感染しても被害が小さいからいいということ、 それから、ある程度被害はあり得るけれども、検査をしてみても発見される可能性が非 常に低い……罹患率が非常に小さいし、さらに感染率が小さいんだから、たとえばコス ト的に無駄なんだよとか、そういうふうな、いろんな考え方で、こういう病気はこの際 検査の対象から除いていいとか、禁忌から除いていいということになっていくんだろう と思うんです。それでも一つひとつ、やはりきちんと検証していって、そして、先ほど 申し上げたように、これは多分、エイズの事件がきっかけだったと思うんですが、それ までは危険なものだけをはじいておけばよかったものが、安全だと確認されないものは やってはいけないというふうに、大きな政策の転換があったわけですから、そういう中 で、角膜の場合はこれでいいんだということの説明というのは、かなり厳格でなければ いけない。そういう場合に、恐らく、これは素人の推測なんですが、従来やっていてど うだったのかという追跡調査も多分、あまり現実にはないんだろうと思うんですね。感 染例の報告がないのは感染していないということではない、ということもあるんじゃな いかなとも思いますので、そのへんのところを、ある程度慎重にしていただかないと、 ドナーもせっかく提供したのに使ってもらえないのは残念かもしれませんが、自分が提 供したためにレシピエントに病気が出たのでは、多分、もっと残念だろうと思います。 こういう政策というのは、一人ひとりがどうかというよりも、そういうことを積極的に 追認したという政策立案の責任というのも、やはり問われることになってくるわけです から、そのへんのところを、慎重に慎重にとばかり言うのは、ひとつも医療の進歩につ ながらないわけですけれども、慎重にやるべきところは慎重に検討していただきたいと いう要望を申し上げておきたいと思います。 木下座長  鎌田委員のお話は、非常にごもっともなご意見だと思います。篠崎委員、いかがでし ょうか。 篠崎委員  まことにそのとおりで、できればちょっとでも疑わしきは使用しないのは当然です。 実はアメリカはもう次のステージに入っていて、96,000眼の献眼で45,000しか使ってい ませんので、約5万眼は角膜移植に用いられません。アメリカでは、他臓器も含めて提 供することが文化になっているいうところが非常に大きくて、実際に25年前、アメリカ でも献眼数は5,000眼しかなかったんですね。患者さんが数万人いる状況から始めて、ち ょうど、そのステージを振り返ると、逆に言うと、日本のほうはあまりにも非常に厳し い状況からのスタートかなあという気はするんですが、疑わしきを罰するのは当然だと 思うんです。先ほどの追加になりますが、たとえばC型肝炎、エイズに関しては、私ど もで6年前にPCRといって、遺伝子があれば、それを10万倍ぐらいに増幅して、ある かないかを見るという試験がありまして、かなりの眼球数、アメリカでエイズ患者から の献眼があった場合にそれをいただいて検査するというプロジェクトを国際的にやりま した。実はC型肝炎もエイズに関しても、角膜の組織から検出できていません。ですか らエイズから移植してうつらなかったのは、なかったからかもしれないということもあ るので、万が一ウイルスがあったとしても、感染がない、と。ですから、感覚的にやっ ているのではないんですね。一応、科学的なバトルがあります。ただ、やはり心情的 に、HIVの場合は木下先生がおっしゃるとおり、禁忌にすべきと考えられます。「医 学的にはそうなんです、PCRでないんです」ではなくて、これは社会学的に見ても、 現状のわれわれのモラルとしては、ちょっと、向かないのではないだろうか、というと ころはあり得るのかなあ、と。10年後、30年後、これがどうなるかは分かりませんが、 逆に、必要なことは、多分、時代の流れとともに、そういった禁忌なり、科学的な面も 社会学的な面も十分考慮して、鎌田先生がおっしゃるように、本当に疑わしいものはな るべく取る、あるいはOKだ、と。たとえば先ほど先生がおっしゃったように、梅毒に 関してはアメリカはもう使用禁忌からはずしました。10万倍の濃度にしても3日たてば 感染力を失っているという科学的データが出ていますので、そういったものをいただき ながらアップデートできるシステムのほうが、逆に重要なのではないかという気はしま す。 木下座長  ありがとうございました。各委員のご意見、大体出たかと思うんですが、具体的な案 をまとめあげる作業も必要かと思いますので、そのあたりへ移りたいと思います。大体 のご意見から、皆さん、ポイントというか焦点となるところはお分かりいただけたかと 思います。この使用禁忌案は、先ほどのような、たとえば臓器移植のネットワークが既 につくっておられるような使用禁忌を少しモディファイしたような形になってもいいか と思いますし、ここに掲げていますように、1〜20、30という項目で掲げてもいいかと も思います。  では、具体的に、ここで使用禁忌をつくるかというと、これは少し難しいかと思いま すので、大体、基本的合意がどこであるかというのを、ここでできれば、それを預かっ てつくって、再度、次にお見せするという形もとれるかと思っています。  また、大体、上のほうから、これを具体的に見ていってもよろしいでしょうか。まず 1番から。原因不明の死というのは、これは日本でもアメリカでもそうなんですが、使 用禁忌ということで、死因が明確でないものは使わない。これはよろしいかと思うんで すが、その次の2番から8番までというのは、基本的には中枢神経系の疾患でして、こ ういったものにウィルス性の感染症であるとか、あるいはプリオンのようなクロイツフ ェルト・ヤコブ病だとか、こういったものが含まれていますので、こういう中枢性疾患 に関しては、感染の危険性ありということで、これはアメリカでもそうですし、日本で も基本的に禁忌という考えであるかと思います。ですから、8番までは異論のないとこ ろかと思います。9番目は敗血症といって、細菌であるとか真菌であるとかウィルスと か、そういうものが血中で非常にたくさんの数になって増殖した、と。これは角膜ある いは涙とかを含めても、非常にたくさん、こういう感染性のものがあるかもしれないと いうことで、これも禁忌にしていいかと思うんですが、いかがでしょうか。  次に、ひとつ飛びますが、狂犬病というのは、これは狂犬病で感染が成立した、ま た、それが致死的であるということもありまして、これも文句のないところではないか と思います。戻りまして肝炎なんですが、これについてはHBs抗原、HCV抗体陽性 ということで、B型肝炎とC型肝炎を、どういうふうに取り扱うかということですの で、これは少しあとに議論させていただきたいと思います。次に白血病なんですが、白 血病にもウィルス性の白血病というか種類があって、これは現状ではHTLV-1、H TLV-2とあるんですが、HTLV-1を、これは死後採血してチェックせよというこ とが既に明記されて、現在、それをしておりますので、このHTLV-1が陽性である ものについて禁忌とするということでいいんじゃないかなあとも思うんですけれども、 篠崎委員、いかがですか。白血病というふうにくくってしまう必要があるでしょうか。 篠崎委員  今、実はちょっと違う面で不安になったんですが、次のHodgkin、リンパ肉腫もそうだ と思うんですが、これを運用する側の基準として出す場合に、たとえば前回のときに、 芽球性白血病なんて言っていませんでしたっけ。芽球性白血病という病名だったと思う んですが、運用する、たとえばアイバンクのコーディネーターなどの場合、医学的知識 が完璧であればいいんですが、意外に「急性白血病はいいんでしょうか?」みたいな疑 問が浮かんでくることもありますので、そういった危険性を考えると、ある程度、一応 今のところ、白血病はどんな場合でも芽球はある、まったくゼロというのはほとんどな いという概念に基づいて、多分、芽球があった場合に、角膜内皮を経由して感染の危険 があるという概念があれば、逆に白血病というのが残っていたほうが明快なのかなあ、 と。逆に言うとHodgkin、リンパ肉腫は悪性腫瘍という病名を書いて、悪性腫瘍の中で Hodgkinとリンパ肉腫というふうに分けるべきで、なるべく説明はクリアなほうがいい のではないかなあ、と。懇切丁寧に、この病気はだめだということで使用禁忌にするの であれば、そのほうがいいのかなあ、と。逆に、「白血病(HTLV-1抗体陽性)」 というふうな言い方のほうが分かりやすいのかなあという気はするんですけれども。 木下座長  これは先ほど、臓器移植ネットワークのお話のときには「全身感染症など」というふ うにくくられていて、明確な疾患名として出てきているわけではないんですね。 山本補佐  そうですね、心臓、肺については全身性、活動性感染症ですとか、たとえば肺なら全 身性および肺の活動性感染症。それ以外に、血清学的な検査で肝炎、その他が並んでい る、と。 木下座長  ですから、最終的にこれをつくるときには、使用禁忌というところを今のようなくく り方をして、各アイバンクがそれに基づいて医学基準としてのものをつくってもいいで すし、具体的にあげていくということであってもいいかと思うんですけれども。今の白 血病のあたり……この使用禁忌案というのは、横に掲げています日本とアメリカアイバ ンクの医学基準に基づいて、ここから引っ張ってきて試案をつくったものですので、ど うするかというのは、まだあと、これから余地があるかと思うんですけれども。そうし ますと、Hodgkinとかリンパ肉腫というものを篠崎委員は、むしろ……。 篠崎委員  悪性リンパ種。 木下座長  悪性リンパ種ですね。マリグナントリンフォーマーということで……。 篠崎委員  マリグナントリンフォーマーとしておくほうが……。 木下座長  マリグナントリンフォーマーといってくくったほうが分かりやすいということです。 基本的には、こういう、白血病の中のひとつのタイプであるとかマリグナントリンフ ォーマーであるとかというものは使用禁忌の中に入れるということは、皆さん、合意が あるかと思うんですが、書きようということになるかと思います。次のWassermann氏 病、梅毒検査陽性については、これもあとに置きたいと思います。  次の16番目にエイズ、それから17番目にエイズのハイリスクグループとあります。実 際、これについては、もう、HIVの検査が義務づけられていますので、どちらかとい うと、「HIV陽性」ということでいいのではないかと思うんですが。エイズのハイリ スクグループについては、ちょっと問題がありますから、このあたりも全部含めて「H IV陽性」というところでくくってはどうかなあと思います。  次にあります内因性眼疾患、このへんは八木委員もお話の中で取り上げられましたけ れども、これは全層角膜移植を前提としたところから出ていますので、そうではない場 合、とくに虹彩炎、緑内障等は、角膜の裏側の内皮細胞に障害が起こる。そうすると角 膜移植に使えないということですので、表層角膜移植としては問題とならないところが ありますから、この使用禁忌をアイバンクの移植に用いられる角膜組織という、1つに まとめてしまうということであれば、ここははずして、下の「使用する際に注意しなけ ればならない」というところに入れてはどうかなあ、と。感染のことで捉えているもの ではありませんので、それでいいのかなあと思うんですが、いかがでしょうか。 篠崎委員  腫瘍はいかがですか。 木下座長  悪性腫瘍ですか。 篠崎委員  レチノブラストーマ。 木下座長  レチノブラストーマですね、これだけ残りますね。前眼部悪性腫瘍。メラノーマとか レチノブラストーマといったものをどうするかということですね。いかがですか。 眞鍋委員  レチノブラストーマが眼底にあった場合は、それが角膜のほうに移るということはま ず考えられませんので、転移が起こっているような、いわゆる末期の状態、緑内障を起 こしたりするような場合以外は使っても良いでしょう。前眼部に悪性腫瘍がある場合と レチノブラストーマでも、メタを起こして前眼部に何か変化が起こった場合以外は使っ ても良いのではないかと思います。 木下座長  前眼部悪性腫瘍というのは、ヒューマンパピローマウィルスとか、そういうウィルス に関係した悪性腫瘍ですから、これはもちろん感染の可能性もありますし、レチノブラ ストーマはだいぶん病因も違いますし、アメリカでまだこれが残っているのかがちょっ と分からないぐらいのところですので。 篠崎委員  程度によると思いますので、それはやはり、メディカルディレクターなりアイバンク の担当の注意を要するというレベルに扱うべきなのかなあという気がします。 木下座長  そうですね。今のような考え方もひとつかなあと思います。19番目のHTLV-1です が……。 眞鍋委員  それは白血病のほうに入れたらいいでしょう。 木下座長  はい。白血病のところとなんとかまとめるということですね。それから20番目の屈折 矯正手術については、この既往眼は原則として全層角膜移植ではだめですね。ただ、角 膜のパッチグラフトとか、そういう場合にはまた違いますから、これは注意をすべきと いうことで、感染症のものとは関係がありませんから、安全記入の意味あいがちょっと 違ってきます。このへんは下のほうの、使用する際の注意というところに持っていけば いいかなあと思います。結局、先ほどからお話に残っておりますWassermann、梅毒陽性 を禁忌とするかどうかというのがひとつ、もうひとつはHCV抗体の陽性を禁忌とする かどうかという、この2つになるかと思います。まず梅毒のほうからなんですが、これ についてはアメリカのアイバンクは先ほどのような科学的なデータを踏まえて、かつて 使用禁忌の中に入っていたんですが、現在はアメリカははずしているというのが実際で す。 鎌田委員、いかがでしょうか。 鎌田委員  専門のことは全然分からないんですが、ただ、ご説明をうかがっていると、ずらっと 感染症を並べるのではなくて、全層角膜移植なのか表層移植なのかとか、あるいはWasse rmannの関係でいえば、どういう保存法がいいとか、こういう条件のもとでとか、そうい うものの組み合わせ的につくらなければいけないんじゃないかという印象を、素人なが らに感じました。 木下座長  いかがでしょうか。 眞鍋委員  やっぱり、下のほうの使用する際の注意というところにまわしたらいいんじゃないで しょうか。 木下座長  表層角膜移植の場合にはこういう基準、全層角膜移植であればこういう基準、という ようなところですね。そういうところをあわせてつくったほうがいいんじゃないかとい うことになりますね。ただ、今のWassermannに関しては全層であるか表層であるかとい うことはあまり関係なくて、感染症そのものとして、これを使用禁忌とするかどうかと いうことになってくるかと思います。HCVについてもそうだろうと思うんですけれ ど。 篠崎委員、何か、アメリカとの対比も含めて、そのあたりの考えはありますでしょうか。 篠崎委員  今の鎌田委員のご指摘のとおりだと思います。とくにWassermannの場合には、実験 データも、今の日本では現状4℃保存ですので、強角膜にして4℃でオプチゾール保存 をして、3日たったらOKということになっていますので、やはり禁忌にする必要はな いと思うんです。かといって、安易にはずすよりは、そういった条件をちゃんとつける べきかなあという気はします。 木下座長  HCVについてはいかがでしょうか。 篠崎委員  HCVについては、非常に私、どういうコメントをしていいか、自分でも分からない 状況です。致死的ではないということもあるんですが、今まで現状では、そういった ケースになり得ないということもあるんですが……医学的なところは、皆さん、多分、 先ほどまでのお話の中でお分かりになったかと思いますので、そういうバックグラウン ドがあるんですが……社会的にどうなのかというあたりが、僕には自分の頭でも答えが 出ない状況です。 佐野委員  これは非常に、国民感情的な問題ですけれど、これをレシピエントに「あなたに移植 する角膜はWassermann陽性だった」と伝えるわけですか。 木下座長  もしも使用禁忌からはずすのであれば、当然、手術の前にインフォームドコンセント は絶対にしなければいけないと思います。こういう目だけれど、あなたの今の状況で非 常に緊急を要するから、この角膜でも使いますか、と。それで使います、ということで 初めて使う、と。そこはもう、絶対に守らないといけないところだと思います。 佐野委員  いろんな病気がそれに通じるのかと思いますけれど。 木下座長  ええ。 篠崎委員  今の佐野先生のヒントでひとつ思ったのは、HCVは非常に患者さんも多いですよ ね。うちでも大体、1日、十数例の手術患者さんがいれば2人やそこらはHCVという 状況になっています。角膜移植を受けられる患者さんにも非常に多いのではないでしょ うか。たとえばそういう状態というのは、考慮の中にあり得るんでしょうか。 眞鍋委員  レシピエントがHCVプラスの場合には構わないということですか。 篠崎委員  ということが、あり得るのかなあと思ったんですが。 眞鍋委員  それは木下先生が前に……既にレシピエント自身がHCVの抗体を持っているような 場合には、ほとんど感染する可能性がないという……。 木下座長  いいえ、そんなことはありません。HCVにはいくつか型がありますから、最初にH CVで感染していても、その上に違うHCVの感染が成立するということはあり得ま す。また、年齢はすごく大きいと思います。20歳の人にHCVプラスのものを、インフ ォームドコンセントをしてOKだから、それを使っていいかというと、これはやはり道 義的のみならず、医学的にも絶対にいけないと思うんです。80歳の角膜移植を待ってい る人で、両方とも全然見えなくて、あるいは角膜がほとんど穴が空きそうな人、こうい う人にHCVプラスの人の角膜で非常にきれいだという場合に、これを使ってはいけな いとするかどうかというと、また、これは十分に使ってもいい可能性がある。たとえば 感染がまず起こらないということが……今まで起こったことがないということ、もしも 感染が成立したとしても、それが発症するまでに最低約20年ですか、10年以上は絶対に かかるということ、その人の生命のことを考えると、まず発症はあり得ないというこ と、万が一発症したとしても、これは致死的ではなく、十分に治療の対象となり得ると いうことになると、現状では、リスク・ベネフィット・レシオを考える余地はあるのか なあ、と。アイバンクの眼球が増えてくればまた話は別ですけれど。 眞鍋委員  今のところではやはり、無理に適応にしないほうがいいような感じはしますね。心情 的にね。それよりもドナーを増やす努力をしたほうがいいような感じがしますね。 木下座長  そうですね。これは見直しがあるということですね。 眞鍋委員  肝炎については、使用禁忌にして……。梅毒については今のように下のほうの使用す る際の注意というところに移せばいいと思います。もう、アメリカでもそうしているの であれば。 木下座長  眞鍋委員のお話は梅毒陽性というのは非常に注意するというほうへ移して、HCVに 関しては、対応が他の臓器移植との整合性もあって、禁忌にしておいたらどうかという ご意見なんですけれども、八木委員、実際の立場からどうでしょうか。 八木委員  私はドクターではないものですから、注意を要するというのはどういうふうに注意を 要するのかなあというのがすごく難しくて、たとえば梅毒を下に持ってくるときに、本 当に、その中でまた、もうちょっと詳しい説明がないと、判断しにくいという場合があ ります。それと、医者ではないアイバンクの人間として言ってしまうと、この場で今、 このことを言っているときに……全然、ちょっと、違うかもしれませんが……今、あっ せん手数料が6万から9万になって、でも、それはあくまでもあっせんしたものについ てしか入ってこないお金なんですね。だから検査はきちんと義務づけられてやりなさい と言って、そういう費用はかかるし、摘出させていただけば摘出費用というのは、もう 全部かかっているんだけれど、入ってくるお金というのは、きちんと使っていただいた ものについてしか、その9万円がいただけませんから……この場で言うことではないか もしれませせんが……あまりにも厳しくなってしまうと、運営的にやっていけないんじ ゃないかなあという気はします。 木下座長  はい、ありがとうございます。非常に実際的な……。 鎌田委員  そういうデッドストックの問題は厚生省のほうでがんばっていただくしかないんです が(笑)。全体の実務の動き方をよく知らないのでうかがいたいんですが,今、座長もお っしゃったように、実際にこの禁忌をできるだけ制約していくと、非常に個別的な判断 が必要になるわけですね。どれぐらいこの病気にはリスクがあるか、そして患者の側の 条件も考えなければいけない。そういう判断は、アイバンクのシステムの中では、最終 的に移植医のところで全部、判断をするのか、あるいはコーディネーターなり、そうい う適応の判定をする第三者的な機関みたいなものがあるのか、あるいはバンク側でこう いう判定をしていくシステムになっているのか、そこのところをお教えいただけます か。 木下座長  これは非常に厳しい、的確なところを突かれているわけですが、現実の話からいきま すと、本来、これはアイバンクがきっちりそこのところをすべてしなければいけないと いうか、アイバンクですべきことなんですが、現実は移植医療の手術をする側で……こ れはあとの話とも関係してくるんですが……アイバンクと移植医療のところがある程度 不明瞭な結びつきがありますので、手術をする側の医者が、この目は安全だとかそうで はないとかを決めているところがあるかと思います。したがって、メディカルなアドバ イザーであるとかアイバンクのコーディネーターというところのシステムを充実してい かなければならないという、次の議論に移っていくかと思います。  時間が押してきておりますので、今のようなところ、各委員の意見を踏まえまして、 次回の作業会までに安全性の留意事項について、委員の方々の協力を得まして私が作成 し、再度、検討していただくということでいかがでしょうか。 眞鍋委員  ひとつだけ。さっきの緑内障とか虹彩炎とかの話にもあったかと思うんですが、それ は恐らく内皮がいかれた場合に困るから使わないということでもらったほうも内皮がい かれては困るということもありますから。現在では、内皮のほうは、もう、アメリカで は義務づけられて確実に調べられて、内皮が2,000以上なければならないとか、 2,500以上あるとかということが全部、実行されているようです。日本でも、できている ところでは内皮はちゃんと調べたものを提供しているという状態になっていますから、 やはり、内皮がいかれているからいけないということを、はっきり書いたほうがいいん じゃないでしょうか。そうしたら、内因性の病気で内皮に障害があるものは全層移植に は使えない、というふうに書いておく。たとえば内皮が2,000以上とか、数まで出して、 それ以下のものはあっせんしてはならないというふうにすればいいんじゃないでしょう か。それは客観的に調べることができるようになったわけですから、いわゆる血清検査 とまったく同じように、プラスかマイナスかで答えが出ますから、いいんじゃないかと 思いますけれど。 山本補佐  事務局からなんですが、使用する際に注意しなければならないとはどういうことなの か、アイバンクがその情報を得たら、その情報を移植医に伝えるということなのか、何 らかの注意があるのか、そこをクリアにしていただきたいのが1点と、今、眞鍋先生か らお話がありました内皮細胞数を実際に測れるアイバンクがどれだけあるかということ については、今年の調査で、内皮細胞の検査の状況について調査しているようですので ほとんどのバンクが測れているのであれば、そういうこともあるでしょうし、測れない バンクが多々あるのであれば、またお金の話が出てくるかもしれませんが、その時点で は緑内障であるというエピソードを明確に移植医に伝えるところまでしか、アイバンク はできないかもしれないということだと思うんです。注意するというのは、具体的に、 どういうことなんでしょうか。 木下座長  先ほどから、多少、議論の中であるかと思うんですが、使用する際に注意するという のには、注意事項をある程度明確に……各疾患によって違うかと思いますので、それを 注記をつけるということが必要かと思います。それと、鎌田委員のご指摘のように、全 層角膜移植と表層角膜移植とを分けて、全層角膜移植ではだめだけれど、表層角膜移植 ではOKであるというものもあるかと思いますので、そのへんも含めた、かなり具体的 なアイバンクコーディネーター、アイバンク自体が分かるような案とするというのがい いのかなあ、と思います。  では、HCVについては、もう、禁忌ということではずしてしまうということでよろ しいですか。丸木委員、いかがでしょうか。 丸木委員  個人的な意見としては、はずしてもいいんじゃないかというふうに思います。はずし て注意にしたら、では、どういう注意をするのかということになると、確かに具体的に は難しい問題がありますけれど、使用禁忌となって、法律になって、それが来たらまっ たく使えない、廃棄しなければいけないということになると、そこまでしばる必要があ るのかどうか質問があります。どういう移植をするのか……全層なのか表層なのかとい うこと……これはHCVの場合、関係あるんでしょうか。 篠崎委員  HCVに関しては、結局、角膜、かなりのHCVポジティブのドナーの角膜を検出し たんですが、実は内皮細胞という内側の細胞が1層だけありまして、そこに結構、ウィ ルスのコンタミネーションが高いという報告があるんですが、そこですら、実は検出で きていないんです。ですから、それがどういうことになるかと言われても、そこにない ものがうつるかもしれないという議論を今、ここでしているわけですから、いかんせん 何ともお答えしにくいのは事実です。ただ、気をつけないといけないと思うのは、たと えば、今までわれわれは数十例しかやっていませんから、それプラスアルファのところ で何かあるか分かりませんので、そのへんは先ほど木下さんがおっしゃったように、万 が一というところは必ずコーションしながら議論を進めていただければと思います。そ れは全層表層には関係ないというのが、多分、クリアな答えだと思います。 木下座長  制限がつくとしたら、やはり、レシピエントの年齢と緊急性ということかと思いま す。では、これも預からせていただいて、案をつくるということで、山本さん、それで よろしいでしょうか。 山本補佐  しつこくてすみません。議事進行に協力しなくて……。私の理解が悪いのかもしれま せんが、今、私どもがやっているのはアイバンクがあっせんする基準なので、たとえば HBs抗原は必ず検査して、陽性のものはアイバンクとしては表に出さないということ から言いますと、注意するというのは、あっせんはするけれども、そういうエピソード があったということをバンクのほうが明記して移植医に提供する、あとは移植医の判断 である、と。ですから、先ほどのHCVの話を整理させていただきますと、抗体検査は する、ただ、陽性の事実については、すべて提供する、と。それは移植医がレシピエン トのインフォームドコンセントの中、もしくは状況で判断していくというふうに思った らいいんでしょうか。 木下座長  ええ、そういう……ただ、もうひとつあると思うのは、それはレシピエントの年齢等 が分からないと想定した場合ですよね。レシピエントの年齢が何歳以下の人であれば禁 忌であるとか、そういう考え方はあるかと思います。 山本補佐  はい。 篠崎委員  今のディスカッションで、ひとつだけ疑問に思ったのは、どうも、アイバンクの持っ ている情報の考え方に2種類あるというのに気がつきまして、アイバンクは誰か分から ないけれど、どこかの先生が欲しいと言っているから送っているという考え方と、木下 先生がおっしゃったように、ある程度スペシフィックに、何歳の誰で、どういう感染症 を持っていて、それで送っているという考え方とがあるので、そのへんをクリアにして からディスカッションすべきだろうと思うんですが。 木下座長  アメリカのアイバンクの場合は、こういう患者さんです、ということを、先にアイバ ンクにインフォームドしていますよね。それにあわせて角膜を提供するという考えで す。 篠崎委員  実際、うちもそういう運営をしていますので、それでいいのかと思うんですが、多分 そこまでいくと、このリスク・ベネフィットということに関して、もうちょっとスペシ フィックに、移植医の先生、向こうの先生……患者さんにインフォームドコンセントし てくださる、自分でも医療的な知識をもって判断してくださる……逆に、アイバンク側 でも、こういった状況でこうなんだ、ということを医学的に、ちゃんと情報提供できる という、両方が確保されれば、かなりクリアになってくるんじゃないかなあ、と。それ を分からずにやって、もしかして、ロシアンルーレットでは困ります。そのへんがクリ アになれば問題ないのではないかなあという気がします。 木下座長  では、今のようなところを踏まえて試案を、各委員の協力を得ながらつくらせていた だきたいと思います。  今日の議論から、具体的な確認の手段がかなり明確になったかと思います。血清学的 検査で分かる部分ははっきりと明確になっています。あとは中枢神経系のものとか、全 身……クロイツフェルト・ヤコブなんかも、実際上は、これをはっきりと確認すること はできませんから、こういうものについては、それをカルテで確認するというふうにす るのか、あるいは主治医から聴取して、何も問題がなければ、それはなしというふうに 考えるのか、というところについては整理させていただきたいと思います。少し時間を 超過しましたが、1番目の安全性の確保については、今のようなお話でまとめさせてい ただきたいと思います。よろしいでしょうか。 佐野委員  今の角膜の内皮細胞について、これをどのように義務づけるかが問題なんですが、末 端のアイバンクでは内皮細胞の顕微鏡を買う費用がないということですので、義務づけ る場合には、何らかの援助をしないと、大変難しい問題があろうかと思います。 木下座長  これは山本さんからもご指摘がありましたように、51のアイバンクの中で、どれぐら いのアイバンクがそれに現実に対応できるのかというところを実態的に把握して、内皮 細胞の数を禁忌とするかどうかという点を検討していきたいと思います。将来的には、 そういうところも十分、含めて入っていくことになるかと思いますけれど。  では、次に移らせていただきます。「レシピエントの登録、適応基準、優先順位等に ついて」ということなんですが、角膜移植は移植医療のひとつとして、広く国民に理解 を得ていくためには、公平で公正で、適正で、透明なレシピエントの選定システムとい うものを明確に示していく必要がある。それには、システムをどういうふうにすべきで あるかということについて、お話をしていただきたいと思います。時間の関係上、この ことについて、今日、明確な解答が出る必要はありませんので、各委員がレシピエント の登録、適応基準、優先順位等について、こういうふうにあればいいなあということを お話しいただいて、それを次回につないでいければと思います。実際、厚生科学研究 で、ある程度、各アイバンクにおけるレシピエントの選定基準を持っているのかどう か、システムはどういうふうになっているのかということを、現在、調査中ですので、 そのあたりは次回には、ある程度お示しできるかと思います。アメリカなんかも含めま して、その件について、篠崎委員、かなり詳細なことを知っておられますので、ご説明 をお願いいたします。 篠崎委員  アメリカでは、レシピエントの公平性は現在、考慮しておりません。日本でもなりつ つあるところもありますが、角膜移植というのは角膜自体が提供から約1週間保存でき るということがありますので、アメリカなんかの場合、緊急を除いては、ドクターがア イバンクに「来週の火曜日の10時に、こういう方に手術します」と言っておけば、必ず そのときに届けてくれるということですので、公平性も何もいらないんです。逆に言う と、では、日本で公平性とおっしゃいますが、先ほど言った年間2万何千人、過去5年 の数で10万人が順番待ちをしているところ、1,500しかなくて、初めから公平性は無理だ ということが率直な個人的な意見です。但し、こういったあっせん業を公の施設として やる以上は、やはり、ある程度の透明な基準というものが必要なんだろうと思います。 ただ、考えるときに、ひとつ、これはアメリカでもヨーロッパでもあった問題ですが、 また、日本の場合は腎でもありましたが、やはり、これまで提供いただいて、移植がば んばんできるというのは、どちらかというと移植医のモチベーションに依存する部分… …今で言うと目がそうですね……先ほど八木さんのほうからもありましたように、今の アイバンクで、夜、摘出に行っていただく。だめな場合もありますから、それを摘出の 先生方を、ほとんどただで夜中に3時間、4時間、使っているわけですね。それをやっ てくださる先生がいるからできているアイバンクであって、それに支払いがないと仮定 しても、現在、私が4年前に調べたデータで、今、日本の角膜移植では、1眼につき、 ベースのコストが人件費を除いても35万円かかっています。プラス、検査のためにとい うことで、10万円近く……それこそ受付から入れると……血液検査のお金だけなら9,000 円ぐらいなんですが、設備云々を考えると、たとえば10万円近くかかるわけですから、 それは、持ち出しをわれわれがやっているという現状を知っていただいて、その中で公 平性は何かということを考えたときに、やはり、移植医のモチベーションというところ があると思います。  たとえば静岡さんは日本でもトップレベルの献眼数がありますが、そういったところ の情熱を下げないような基準づくりというのがすごく大事なんだろうと思っています。 なぜかと言うと、全国統一というと聞こえはいいんですが、実際にやってみると、当然 モチベーションが落ちますと、せっかく今まで40年間、種火を灯してきてくれた方々の 情熱をそぐことになり、移植を受けられる患者さんの数が減れば、当然、これは公益性 にもとるわけですから、ある程度、多いところ少ないところの、いろいろなルールがあ ると思うので、ローカリティーを考慮したようなルールづくりというのがすごく必要な のではないかなあ、と。欧米では、確かにローカルルールで成功したというのはありま す。当然、多いところ、少ない州、ありましたので。 木下座長  各アイバンクで、ある程度優先順位、適応基準についてのそれなりのルールを持って いるアイバンクもありますよね。 篠崎委員  実は今、それを調査していまして、今年、平成10年度分の厚生科学研究事業で、各バ ンクのルールがもしあれば提出していただきたいということで、現在、集めている最中 です。多分、あと1カ月ぐらいで出てくると思います。 木下座長  次のときに、そういう具体的なものをお示しいただけるかと思いますが、実際の立場 で八木委員、どうでしょうか。 八木委員  需要と供給のバランスの問題があって、今現在の場合、公平というのはすごく難しい と思います。それこそ本当に、全国統一とかというルールはできるだけ避けて、ローカ ルで……。もちろん、地元で使わなかった眼球を広域にあっせんするというのは現在も やっていますし、そういう意味ではできるだけのことはしたいと思いますが、全国の統 一みたいなことをされてしまったら、静岡のドクターあたりからは、かなりいろんな声 が出てくるのではないかという気はします。それとあと、県内だけでも、本当にあっせ んするときに、かなり……強角膜片にすることで1週間、保存期間が伸びたというか、 それだけの期間があるといっても、やはり、それを届けたり送ったりということで、何 日かは使ってしまうし、ドクターの手元に着いて、届いたらすぐにオペというわけにも いかない場合もあります。そうすると、順番どおりにきちんとあっせんしていけたらい ちばんいいんでしょうけれど、時間がないから、どうしても、ここまでは届けられない とかということも現実にはあると思います。 佐野委員  これはオフレコかもしれませんが、私が東京都眼医会の会長の時、7、8年前でした か、東京都がアイ・腎バンクのキャンペーンを上野公園でやったんですが、その打ち合 わせのときに、腎臓のほうも大変多くの方が来られました。ただ、代表の人の話を聞い ていると、ドクターが誰もいない。「僕は眼科医だけど、どうして腎臓のドクターが出 てこないんですか」と聞いたら、「私たちは、こういうところに腎臓移植の先生に来て 欲しくないんです。こんなところに来る時間があったら、手術して欲しいんです」とい う声が出たんです。非常に感じたんですが……これは、私が、こういう立場で言っては いけないんですが……患者団体というのがいろいろあると思います。そういう方たちは 非常に熱心です。必死になって研究助成してお金を出して……。そういったことを考え ると、レシピエントの方々、あるいはその家族の方の声がなかなかあがってこない感じ がするんです。そのへんをなんとかしていただいて、優先順位も、本当は、そういう 方々で自主的にやるのが理想じゃないかと思うんです。 横瀬委員  今のお話はまったくそのとおりで、現実の問題としては、本当に、みなさん、困って いらっしゃいます。私どもはもちろん、医者ではありませんので、ただ、サポートする だけですが、今の公平性の問題については、一応、臓器の移植のほうのネットワークに ついては、確か順位とか、そういったものが……もちろん、適応性とかも含めてでしょ うけれど……順位はあるだろうと思います。しかも、それがきわめて公平に、しかも相 当に遠距離まで、相当な費用をかけても輸送できるという態勢ができています。ただ、 角膜については、どちらかというと非常に地域性が強いような気がします。そして、た とえば静岡のものを東京に持ってくるということに対して、一部の方は相当な抵抗を持 っていらっしゃるだろうと思います。と同時に、やはり、県をまたぐということに対す る無意識なセクショナリズムというのか……静岡県は静岡県だけでなんとかやっている じゃないかという、その地域性を、絶対に無視はできないと思います。現に、静岡でも ってなぜ日本一の献眼者が、あれだけの数にのぼっているのか、これは理屈ではないん ですね。いろいろと、みなさんの話をうかがったところでも、献眼をするということが 常識になっています。これはもちろん、ライオンズクラブの指導とかアイバンクの指導 とかわれわれが今、常識的に考えている以外の、何か、すごい力が静岡県にはあって、 献眼をすることが自分の終生のひとつの、最後のおつとめだというような考え方を持っ ていらっしゃる方が非常に多いです。その一例として、今、篠崎先生のところにライオ ンズクラブの冊子がありまして、そこにもデータがあります。実は献眼をすると、ここ に献眼者の名前とあれを全部掲載してくれます。今日、見て、ぞっとしたんですが、静 岡県の沼津ライオンズクラブというところで、昨年8月から12月まで、5名、献眼者が 出ています。1つのクラブで出ているんです。今、全部で4,000近いライオンズクラブ があるんですが、1つのクラブが1年間に1人だけ献眼者を出していただければ、も う、それだけで、相当な数になるんです。ある程度までの供給がサプライできるわけで す。ところが大部分のライオンズクラブであってもロータリークラブであっても、そう いう社会奉仕に専心しているクラブであっても、なかなかそれができていない。でも、 できているクラブもあるんです。現実の問題として、1つのクラブで、わずか半年の間 に、しかもクラブのメンバーの方が5人亡くなったということは、すごく大変なことだ と思うんですが、その、亡くなった方全員が献眼しておられるという、そういうクラブ もあるということ。そこにはやはり、先ほどから申し上げているように、地域性という ものを無視しては、この行政は行われないのではないかなあという気がします。そし て、これからどんどん、また推進していかなければならないという現状を考えたとき に、私どもがいくら、いろんなところのクラブを訪問して、献眼と献腎という形で臓器 の提供をお願いするんですが、なかなか現実の問題として……そこに私どもが行ってい れば、ある程度までお勧めするとか、相談に乗るということもできるんですが、どうし ても、そこまではできない。では、どうしたらいいのかというと、結論的にはコーディ ネーターを増やしていただくということ以外にないんです。われわれがサポートするこ とによって、より力を発揮して、献眼者を増やしていくという段階にまで高まるべきだ と思います。  篠崎先生とご一緒に、いろんなアメリカのアイバンクを訪問させていただきました。 確かサクラメントだったと思いますが、フクシマさんという日系の方に「横瀬さん、心 配することないよ。アメリカだって、30年前はわずかだったんだから、日本でもがんば りなさい」と言われました。日本でも、がんばれば、まだまだ数を増やすことができ る。それにはやはり、コーディネーターというものの制度をもっと確立していただい て、それにわれわれ社会奉仕団体も協調するような形で努力をしあっていくという形を とらないと、どうしても、今、約1,000〜1,200人ぐらいの方の献眼者というところで頭 打ちになってしまうのではないかなあという気がします。でも、静岡県みたいに一生懸 命やっていらっしゃるところもあるんですから、やはり、それはどこが違うのか、十 分、教えていただいて、もっと勉強していかなければいけないなあと感じています。 木下座長  ありがとうございます。座長の不手際で時間が押していますが、各委員の先生方、よ ろしければ、もう少しだけお願いします。 佐野委員  横瀬委員のお話をお聞きして感激しているんですが、私、今、アイバンクのことはあ まりやっていないんですが、以前、有名な方が亡くなって献眼をされたということが眼 衛生協会とか、そういう新聞に出ると、その直後、献眼者がどっと増えたようです。今 横瀬委員がおっしゃったライオンズクラブには、そうそうたる方が多いですよね。地方 新聞なんかに、そういう記事は載りますか。 横瀬委員  ローカルの新聞は載ります。ローカルの新聞の場合は、亡くなった月日まで分かって しまいますので、そうすると、誰から頂戴したということが、すぐに分かってしまうよ うな結果にはなっているような状態です。 佐野委員  そうですか。やはり今、全国的に、なかなか各アイバンクが民間のコーディネーター の方をお願いするということは、ちょっと不可能ではないかと思うんです。やはり、国 民教育ということも考えていかなければいけない。他のことになりますが、全国のママ さんバレーのときの集まりを利用したり、あるいは、私はPTAの会長をやっていまし たので、PTAの会合なんかでも、そういうことをやっていく。非常に理想論なのかも しれませんが、コーディネーターの方は、もう、すごく忙しくて、本当に嫌な思いをす るけれど、そうではなくて、相談に乗るぐらいの……ライオンズの方々がおやりになっ ているようなことを、国民の間に広める、たとえばコンサルタント的なものを広げてい ただくと非常にいいのではないかという感じを持っています。そういう広報ということ が、非常に大事ではないかと思います。 横瀬委員  それは可能だと思います。 木下座長  アイバンクの活動の活性化とか、コーディネーターのお話にちょっと移っているかと 思いますが、先ほどのレシピエントの適応基準云々のところですが、角膜移植について は他の臓器移植とは違って、組織適応抗原……HLAですが……これについてはマッチ ングをする必要がないというか、マッチングをしている場合とマッチングしていない場 合で成績に変わりがないという結果が一応、欧米で出まして、それ以降、現状ではHL Aのマッチングはしなくていいという立場に立ってドナーの提供がされています。そう いうことを踏まえまして、あとは角膜が、両眼が見えない人なのか片方なのかとか、か なり進行していて、手術をするなら、この1週間なりの間に手術をしないと見えなくな ってしまうとか、あるいは年齢的に非常に若い人なのか、高齢者の方なのかとかという ことを考えながら、ローカルのアイバンクがそれなりの優先順位、適応基準をつくって いるというのが現状であろうと思います。ただ、これではあくまでローカルですから、 国民の方、どなたが見られても、ある程度納得できるようなシステムをつくっていく必 要があろうかと思います。 丸木委員  今、マスコミの一員として動いている者として、では、どれだけアイバンクをPRし たかというと、ちょっと、反省面もあるんですが、やはり、本来は公平であるべきだと は思うんですが、この経緯を聞きますと、一部の方の非常な熱心な努力と献身的な行為 によって支えられてきたというところがあるようです。確かに、このアイバンクの移植 件数と登録者数の差を見ても、ゼロというところがあるところを見ると、では、何のた めのアイバンクなのかという感じがしますので、それを一律に公平の原則でやるという のは無理な話ではないかと思うんです。そういう努力をやってきた方々の……たとえば アイバンクの事務局の方なり移植医の方なりの努力を無にしないような形のシステム を、では、どうやってやるのか? 組織づくりも重要なことと思います。やはり、佐野 さんがおっしゃるように、心理的な問題もひとつあるんじゃないかなあ、と。それと、 件数を増やすためには、これだけ献眼をやることによって、これだけの人たちが救われ たということと、こんなに待機者がいるということ、ここに出されたアメリカとの比較 で、これだけ差があるということを知っている人は少ないんじゃないかなあという感じ がするんです。そういうことを件数を増やすために広めていくことも必要だと思いま す。 木下座長  ありがとうございます。鎌田委員、いかがでしょうか。全体に、ちょっとジェネラル な話になっていますけれど。 鎌田委員  よく分かる部分と分からない部分があって、全国一律が無理だというのは、多分、全 国に向かって角膜を提供しろという話ではなくて、基準自体も各バンクごとに全部違っ ていいんだというご趣旨だったんだろうと思うんです。確かに、細目はそれでいいと思 うんですが、考え方は全国共通でもいいのではないかなあと思います。それから、これ も表現の問題でしかないんだろうと思うんですが、公平は実現できないというふうに言 われると、何か、非常に抵抗があります。かなり無理をしながらやっているけれども、 多分、皆さん、そういう意味では公平性を考えていらして、あの先生のところに行けば 早くやってくれるけれど、うちの先生はだめだとかというふうなものはそれでいいんだ というようなことではないだろうと……誰でも、いつでももらえるという状態ではない 中でどうするかという話だろうと思いますが、それはそれそれぞれのバンクで工夫して いろんな基準をつくられていると思うんです。そういうものは一切なくていいという発 想ではなくて、おおまかな基準としてはこういうことを考えましょう、その中でそれぞ れのバンクが実態に応じた実施基準を考えましょう、ということなんだろうと思ってう かがっていました。 木下座長  ありがとうございました。眞鍋先生、何かございますでしょうか。 眞鍋委員  これも班会議のほうで、今、篠崎先生が調べてくださっているところなんですが、実 を言いますと、各アイバンクがレシピエントの登録というか、その順位を決めたりする という権限は、今のところ、本当に、1、2のアイバンクにはあるかもしれませんが、 ほとんどないと言ってもいいと思います。すべて移植をしている病院の施設が、患者さ んを持っていて、その患者さんに対しては一応、角膜では、大体、申し込み順という形 を守っておられると思うんです。それは各施設で全部やっている。施設ごとの差という のは、その地区のアイバンクの、あるいはそのアイバンクに協力する医療機関の熱心さ というか、それによって、たとえば静岡では非常にたくさん提供がありますが、これは もう、アイバンクのおかげだと思うんですが、ライオンズクラブの協力もありまして非 常に多くの提供があるのです。これに反しゼロというところもあるんですが、ほとんど 医療機関にも関心がなくて、角膜の患者さんが来たら、ああ、これは京都府立に行きな さいとか、東京に行きなさいというような形で患者さんを全部送ってしまって、自分の ところではあまりやらない。集めれば集めるほど赤字が出るような今のシステムですの で角膜移植をする医者が1人でもいると、とにかく、いくらかは赤字が出るんですか ら、そういう意味ではモチベーションがないですよね。本当に患者さんを助けたいとい う、そういう純粋な気持ちで、損してでもいいから助けてあげたいという気持ちがない とやっていけないということでもありますので、これはもう、そういう点ではモチベー ションが非常に少ないものなので。恐らく各医療施設では、できるだけ公正に……公正 というより適正と言ったほうがいいかもしれませんが……適正にやってくれていること と思います。それについてのコンセンサスを、今、篠崎先生が統計をとって下さってい ますので、少なくとも、これだけは守って欲しいという基準はここでつくったらいいの ではないかと思っています。 木下座長  ちょっと不手際で時間が遅れてしまいましたが、先ほどの点は、結局、臓器の移植に 関する法律の中で、最初のほうで山本さんがご指摘されたように、第12条でアイバンク 側で移植術を受ける者の選択を公平かつ適正に行わないといけないという形で規定され ているわけです。現実に、今まで角膜移植を行ってきたところと、それから臓器移植に 関する法律で規定されているところとの間に若干のズレがありますので、それを早くな んとか、バンク側として、公平に提供する基準というものをつくり上げていくことが必 要であるかと思いますので、次回また、これを継続して検討させていただきたいと思い ます。  3番、4番のアイバンクの活動の活性化、あるいはコーディネーター等の設置につい ては、大体、お話の中に盛り込まれたかと思います。今日は時間の都合上、輸入角膜の 取扱いについてはお話しできませんでしたけれども、次回、検討することにさせていた だきたいと思います。この輸入角膜というのは、言葉としては臓器の売買のような印象 がありますが、過去、非常に昔から、たとえば世界児童年のときにはスリランカから大 量に角膜を日本の子どものために使ってくださいというふうにして提供されたり、ある いは今も、ある一定の数については欧米、とくにアメリカを主体として、角膜を提供い ただいて、日本の足りない分をなにがしか埋めているというのが現状ですので、このへ んも、もう少し法律的なものとうまくすりあわせができるような形になっていくような 討論ができればいいかなあと思います。ちょっと時間が延長してしまいましたが、事務 局のほうで、何かございますでしょうか。 山本補佐 次回は2月22日月曜日、15時から17時に開催いたします。場所等は、また確 認の連絡をさせていただきますが、日程を押さえておいていただきたいと思います。ま た、今日の資料の中で、眼球銀行協会がつくられました資料も、ご紹介する時間がござ いませんでしたけれども、あとでご一読いただければと思います。以上です。 木下座長  ありがとうございました。本日の作業班、非常に駆け足ではありましたけれども、そ れなりに実りの多かった会ではないかと思います。各委員の方々、担当の方々、本当に どうもありがとうございました。 問い合わせ先  厚生省保健医療局エイズ疾病対策課臓器移植対策室    担 当  山本(内2361)、眞鍋(内2364)    電 話 (代)03−3503−1711