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臍帯血移植検討会中間まとめ

1.はじめに

 白血病や再生不良性貧血などの治療のための造血幹細胞の移植の一つの手法として、従来の骨髄移植のほか、これまでは活用されることのなかった胎盤や臍帯に含まれている臍帯血から造血幹細胞を分離・保存して移植する臍帯血移植が実用化されようとしている。この方法は、提供をいただく方の身体に侵襲を伴わない点や移植を具体的に進めるためのドナーとの調整(以下「コーディネーション」という。)の手順を必要としない点等の利点があり、そして何よりも造血幹細胞移植の希望者に移植による治療の機会と選択の幅を広げることになるものと期待されている。
 現在、全国数か所の医療機関を中心として臍帯血移植が始められているが、今後、多くの臍帯血移植を希望する患者が治療を受けられるような体制を作るためには、技術的なあるいは運営・財政上の課題があり、これらの課題について幅広い観点から検討を行うため、厚生省において保健医療局長と医薬安全局長の発議により、臍帯血移植関係者、法学や医学等の学識経験者、ボランティア等の委員より構成される本検討会を開催し、検討を行ってきた。
 本検討会は、これまで10回の会を開催し、非血縁者間の臍帯血移植の実施体制の整備に向けて、早急に検討すべき課題について鋭意検討を行い、初期的段階として整備していくべき基本的枠組みについて、今回、「中間まとめ」として取りまとめた。
 なお、本中間まとめにおいて、臍帯血移植の「運営体制」について記述した部分の「臍帯血移植」は、非血縁者間の臍帯血移植を意味している。

2.臍帯血移植の現状

 臍帯血移植は、わが国おいては平成6年に第1例が行われ、その後精力的な取組みが行われているが、未だ歴史が浅く、平成10年6月1日現在で50例が行われ、うち非血縁者間の移植は27例である。現時点においては、それぞれの対象疾病について病期ごとの成績は不明であり、また移植に必要な細胞数やHLAの不一致度の許容範囲、臍帯血移植の適応、移植を通じて遺伝性疾患が伝搬しないための安全性の確認方法などについても、明確な基準は確立されておらず、その基準を策定するための基礎的資料も乏しいのが現状である。このように、臍帯血移植は未だ治療法として初期的段階であり、さらに研究を深める必要がある。なお、諸外国においても700例程度が実施された段階であり、臍帯血移植の症例の集積やそれに基づく分析は、必ずしも十分にはなされていないのが現状である。
 しかしながら、一方で臍帯血移植には、造血細胞採取に伴う危険性がないことやHLA型が適合すれば、コーディネーションを必要とせず、造血幹細胞が提供できることなど、骨髄移植にはない利点がある。このようなことから、この治療法は白血病等の血液疾患の患者の方々にとって大きな希望となり、この治療法に対する期待が全国的に高まり、公的臍帯血バンクの整備を求める多くの要望がなされている状況にある。
 また、臍帯血移植の治療としての効果について医療保険上も一定の評価がなされ、本年4月から移植術について医療保険の適用が行われたところである。

3.非血縁者間の臍帯血移植の全国規模での取り組みの必要性

 現在、民間の運営組織体として、造血幹細胞移植のために臍帯血を採取・分離・検査・保存している、いわゆる臍帯血バンクの取り組みが全国9か所で始まっているが、それぞれの地域における臍帯血バンクにおいて、独自の基準により臍帯血を保存しており、品質及び安全性の観点において、不均一な状況にある。そして、その臍帯血の多くは、保存している施設内、又は臍帯血バンクの運営に関与している医療機関において利用されているのが現状であり、全国いずれの地域の医療機関に対しても必要に応じて臍帯血を提供する体制は整備されていない。
 今後、わが国において、臍帯血移植を着実に定着させていくためには、現在の各バンク内で閉じている臍帯血の利用体制を開いたものとし、全国いずれの地域の移植医療機関に対しても臍帯血を公平・中立・迅速に配分できる開かれた利用体制を早急に構築することが必要である。このためには、一定以上の品質及び安全性の確保の観点から、統一した基準により臍帯血を保存し、かつその情報をいずれの地域の利用者にも提供できる全国的な規模の体制を早急に整備することが求められる。この全国的な規模の体制が円滑に機能するためには、関係者の理解と協力が不可欠である。
 また、経済的効率の面からも、各バンクにおいて、臍帯血移植希望者に対するHLA型の適合率を高くするために必要となる十分な量の臍帯血をそれぞれが確保・保存することは非効率であり、全国規模で必要な数の臍帯血を計画的に保存していく仕組みとすることが効果的である。

4.臍帯血移植体制の整備に向けての考え方

(1)臍帯血移植の性格及び位置づけ

(1)臍帯血移植の性格

 臍帯血を採取・保存・搬送する過程で、現行の血液事業の業務の手法と類似する面もあるが、医療としての臍帯血移植は、移植した造血幹細胞が生体に生着し、生涯にわたり増殖、分化することにより疾病を根治させることを目指すという意味において、移植そのものであり、補充療法である輸血等の血液製剤を用いた治療とは異なるものである。

(2)臍帯血移植の位置づけ

 臍帯血移植は、骨髄移植等と並んで、造血幹細胞移植の一つであるが、未だ治療法として初期的な段階であり、さらに総合的な研究を深める必要がある。このため、臍帯血移植は白血病等の治療法として、既に確立している骨髄移植等との治療成績等を統計的に比較・評価できるだけの症例が重ねられ、その情報の解析により、他の治療法との間の相対的な有効性・安全性が確認されるまでの間は、一方で研究を進めながら、その成果を踏まえつつ着実に症例を増やしていくことが必要である。
 したがって、他の治療法との間の相対的な有効性・安全性が確認されるまでの間は、骨髄提供者が得られない場合、または骨髄移植の実施までに患者の病状から臍帯血移植が必要となった場合に臍帯血移植を行うことを原則とする。ただし、治療法の選択は患者の意思が最優先されるべきことから、患者に対してそれぞれの治療法の成績や臍帯血移植が未だ初期的段階であること等について十分に説明を行った上で承諾(インフォームドコンセント)を得ることが必要である。

(2)臍帯血移植の運営体制の整備に向けての考え方

 臍帯血を採取・保存し提供する事業は、臍帯血移植を必要とする患者の救命のため、国の支援と善意の提供者をはじめとする国民の協力を得て公平性と迅速性のある事業として、公共性と透明性の高い組織によって行うことが求められる。
 また、臍帯血移植の運営体制の整備に向けては、以下の考え方に基づき、具体的な体制を構築するものとする。

(1)善意・任意・無償の提供の尊重について

 臍帯血移植の実施のためには、非血縁者より提供された臍帯血が必要であり、それには、善意、任意、無償の提供であることが尊重されなければならない。また、臍帯血移植の運営体制は、わが国における骨髄移植と同様に、非営利組織とする。

(2)公平・適正な使用について

 提供された臍帯血は、全国的に公平かつ適正に使用する。

(3)安全性・有効性の重視について

 安全で治療に有効な臍帯血を供給する。そのため、臍帯血の採取・分離・検査・保存や利用についての具体的手順を定める「臍帯血移植の実施のための技術指針」に基づき、臍帯血移植を行っていく。
 また、保存された臍帯血の品質及び臍帯血移植の成績については絶えず評価を行う。

(4)利用者の利便性への配慮について

 臍帯血の提供を受ける者の利便性の観点に立った運営体制を構築する。

(5)迅速性の重視について

 コーディネーションの手順を必要としないという臍帯血移植の特長を活かし、迅速な臍帯血の提供に努める。

(6)関係者の協力体制の整備について

 産婦人科関連の団体や臍帯血の提供側の医療機関の関係者の理解と協力を得て、臍帯血移植の運営体制を整備する。また、臍帯血移植関係者のみならず骨髄移植等の他の造血幹細胞移植の関係者との協力体制を整備する。

(7)十分な説明の必要性について

 臍帯血の採取に当たっては、妊婦やその配偶者に対して十分な説明を行い、自発的な意思を確認した上で行う。
 また、臍帯血移植の実施に当たっては、患者やその家族に対して臍帯血移植及び骨髄移植等の他の治療法の成績等について十分な説明を行い、治療法の選択についての意思確認を行う。

(8)個人情報の保護と情報公開について

 臍帯血を提供いただいた児や母親及び患者の個人情報の保護については、情報管理体制の構築に当たって、臍帯血の提供者側と患者側の双方について、相手側が特定できるような情報を入手することのないよう、また、臍帯血バンク関係者以外の第三者が臍帯血及び臍帯血移植に関する個人情報を得ることのないよう、特段の配慮を行うことが必要である。
 また、臍帯血移植の運営の透明性を確保するため、個人情報の保護を必要とする情報以外は公開を原則とする。

(9)移植医療部門からの独立について

 臍帯血バンクは、組織、人事、財政等の面において移植医療部門とは独立して運営するべきである。

(10)目的外の利用の禁止について

 原則として、目的外には利用しない。ただし、使用されなかった臍帯血については、臍帯血移植に関連する研究に限って、あらかじめ妊婦及びその配偶者の承諾を得た上で、利用することができる。

(11)国際化への対応について

 保存する臍帯血の品質及びHLA情報等については、国際間のネットワーク構築に対応できるよう、当初から配意しておくことが望ましい。また、採取・分離・検査・保存の技術について国際的な標準化に対応することも求められる。

(12)効率性の確保について

 運営体制・運営組織は、費用対効果の高いものとする。

(3)具体的な運営体制のあり方

 具体的な運営体制のあり方については、以下の考え方に基づき、構築していくものとする。

(1)採取・分離・検査・保存を行う施設について

 その時点での医学の水準に照らし、より安全で有効な質の高い臍帯血を保存していくためには、臍帯血の採取から保存までのそれぞれの過程について、設備や人員などに関し安全性等に十分配慮された施設において行うことが必要である。

(2)情報システム体制について

 患者の利便性の観点から、また、公平・適正な移植の実施のためには、全国的な規模で臍帯血のHLA型及び細胞数の情報を共有・共同管理するとともに、それらの情報を公開することが必要である。
 具体的には、地域ごとの保存施設に保存されている臍帯血のHLA型等の情報をインターネット上に公開する等、臍帯血を必要とする患者等が情報を得られる体制を整備することが求められる。
 さらに、骨髄ドナーのHLA情報とも連携することで、造血幹細胞移植を必要としている患者や主治医に対して、同時に臍帯血と骨髄ドナーのHLA型等の情報を提供できるような体制を整備すべきである。

(3)移植の適応・臍帯血の品質・移植成績等の評価について

 移植の適応・臍帯血の品質・移植成績等の評価については、客観的かつ中立的に審査及び検討を行う機関を設けるとともに、その結果について情報公開を行うことが必要である。ただし、情報公開に際しては、個人情報は十分保護されなければならない。

(4)採取施設から保存施設への搬送について

 採取施設から保存施設への臍帯血の搬送については、時間内に分離保存ができるように必要な体制をそれぞれの保存施設において整備することが求められる。

(5)保存施設から移植施設への搬送について

 保存施設から移植施設への搬送については、当面、それぞれの臍帯血バンクにおける実態に合わせて体制整備を図ることが実際的であると考えられる。

(6)移植の実施について

 患者の予後を最大限配慮する必要があることから、移植施設は一定数以上の造血幹細胞移植の経験を有すること等、十分な体制の整った施設とし、その施設名についてあらかじめ登録をすることが求められる。なお、登録に際しては、移植実績、成績、体制等患者にとって必要な情報を公開することが求められる。

(7)財政構造のあり方について

 白血病患者等に対する安全な根治を目指した治療の安定的かつ円滑な実施に向けて、事業の安定性や継続性を確保するためには、医療経済面の分析を行い、具体的な公的支援(医療保険の適用を含む。)を含め財源のあり方を幅広く検討していくことが求められる。

(4)初期的段階における体制の整備

(1)安全な保存臍帯血の緊急整備及び情報の共有・管理

 我が国における臍帯血の保存状況については、9か所の臍帯血バンクの取り組みとして、平成10年6月現在の保存臍帯血の数は約2,280個と極めて少なく、臍帯血移植の希望者が、十分な治療の機会を得るには程遠い状況にある。こうした我が国における現在の臍帯血移植の状況の下、臍帯血移植を希望する患者が、十分な移植の機会を持つことができるようにすることが緊急の課題となっている。この課題に対応するためには、現在の取り組み状況を踏まえ、安全な保存臍帯血の緊急整備に向け、地域における活力ある臍帯血バンクの充実を図っていくことが、初期的段階における臍帯血移植体制の整備として現実的であると考えられる。ただし、このような地域における臍帯血バンクの取り組みを踏まえながら、一方で全国的な見地から公平かつ安全な臍帯血移植の推進を図ることが必須な要件となる。このため、国の支援の下、統一的な技術指針や運営方針に基づき、各臍帯血バンクの事業の推進を図るため安全性の確保や情報の共有・共同管理等の観点から関係者(臍帯血バンク関係者以外の者を含む。)による以下に述べるような共同事業を行っていくことが求められる。

(2)共同事業の内容

 具体的な共同事業の内容については、ア)各臍帯血バンクの連絡調整、イ)採取・分離・検査・保存方法の標準化、ウ)臍帯血の情報の共有・共同管理、エ)各臍帯血バンクの運営及び保存臍帯血の品質・安全性についての評価、オ)移植医療機関の登録、カ)関係機関との連絡調整、キ)適応等の評価(事後)、ク)治療成績の評価、ケ)提供児のフォローアップの評価、コ)情報の公開、サ)国際協力、シ)共同研究等が考えられる。

(3)共同事業に参加する臍帯血バンクの基準

 共同事業に参加する臍帯血バンクは、安全な臍帯血を中立・公正かつ安定的に供給することのできる組織であることが求められる。このため、非営利性、安全性、供給実績、技術力、財政力、組織、設備、事務体制等の観点からの評価が必要であり、あらかじめ評価基準を定め、共同事業に参加しようとする臍帯血バンクの提出した書類を公平・公正に審査を行い決定する。また、評価の際には、地域性にも配慮すべきであるとの意見もあった。
 なお、共同事業に参加する各臍帯血バンクの運営に当たって、安全性、個人情報の保護、目的外利用の禁止等の基本的事項に反した行為を行った臍帯血バンクは、共同事業を行うことはできないこととする必要がある。

(4)共同事業の実施

 (4)(2)で述べた共同事業を円滑に実施するため、関係者(臍帯血バンク関係者以外の者を含む。)によって、総合企画部門、事業実施部門、評価・審査部門等からなる「臍帯血バンク連絡協議会(仮称)」を設置することが必要である。
 「臍帯血バンク連絡協議会(仮称)」の事務局は、本事業に要求される公共性、運営の安定性等の観点から、適切な団体に設置することが求められる。
 なお、連絡協議会(仮称)の運営に当たっては、公平・公正な運営が図られるよう、共同事業の企画や調整等を行う総合企画部門の構成は、各臍帯血バンク関係者以外の者を含むことが必要である。また、運営に関して高い透明性を確保することも重要であり、実際の共同事業の実施を担当する部門と事業の評価・審査を行う部門とを組織及び人事について明確に分離することが求められる。

(5)各臍帯血バンクの運営

 実際の各臍帯血バンクの運営に際しては、ア)患者の方々が利用しやすい運営とすること、イ)国民の理解と協力を得ていくために、意思決定過程の透明性を確保するとともに関係者の意見を十分に汲み上げられる体制を整備すること、ウ)地域におけるボランティア活動等の活力を十分取り入れること、エ)意思決定やサービスの提供を機動的に行っていくこと、オ)効率性を追求し、費用対効果の高い組織とすること、カ)事業の実施が、画一的、硬直的にならないよう行うこと、キ)臍帯血の採取・分離・検査・保存及び移植の実施については技術指針を遵守すること、等に十分配慮することが求められる。

(6)共同事業の審査・評価を行う機関の設置

 初期的段階における体制の整備のための共同事業について、全般的に審査・評価を行う機関を共同事業とは独立して別に設置し、適正な事業の推進に努めることが求められる。

(7)臍帯血移植に関する研究の推進

 臍帯血移植の基礎的研究、臨床的研究、疫学的研究、社会的研究等、総合的に研究を推進することが必要である。

(5)必要とする保存臍帯血の目標数

 臍帯血の保存件数については、5年を目途として2万個程度を整備し、HLA型の5抗原以上が適合する条件の下で、臍帯血移植を希望する者の9割以上に臍帯血を提供できる体制を目指すことが求められる。なお、将来的には、成人への適応も考慮し、細胞数の多い臍帯血の保存割合が高められるような採取体制の整備や保存臍帯血のさらなる数量の確保に努めていくことが必要である。

(6)将来の運営組織の基本的考え方について

 将来的な臍帯血移植の運営組織については、ア)全国で一つの組織体とし、将来的に、骨髄移植等を含めた造血幹細胞移植の総合的な推進という観点から、「造血幹細胞バンク」を整備するべきであるとの意見、イ)全国で一つの組織体とするが、臍帯血バンクとして他の造血幹細胞移植事業とは独立した組織運営とするべきであるとの意見、ウ)全国数カ所の別組織及びそれらの連絡調整を行う機関を設けて運営すべきであるとの意見などがあった。

5 臍帯血移植を実施するための手順

 非血縁者間の臍帯血移植の実施のための技術的な課題については、本検討会の中に作業部会を設けて別途検討を行い、安全かつ有効な臍帯血移植を実施するための手順を示した「臍帯血移植の実施のための技術指針」を策定した。
 なお、本技術指針の見直しは、「臍帯血バンク連絡協議会(仮称)」において行うことが求められる。

6 おわりに

 本検討会においては、今回、初期的段階として整備していく臍帯血移植の推進体制の基本的枠組みについて「中間まとめ」として取りまとめたが、残された課題も多い。
 今後、本検討会において、臍帯血移植の実施状況を踏まえ、将来の運営組織のあり方、移植後に遺伝性の疾病が発現する等の問題が生じた場合の情報の収集・提供体制の整備や救済のあり方、患者擁護のあり方を含め、臍帯血移植をめぐる諸問題について、引き続き検討していくものとする。


問い合わせ先 
 厚生省保健医療局エイズ疾病対策課臓器移植対策室
  担 当 山本(内2361),眞鍋(内2364)
  電 話 (代)[現在ご利用いただけません]


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