98/07/22 第11回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録      第11回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録 1.日 時:平成10年7月22日 (水) 14:00〜16:00 2.場 所:東海大学校友会館 阿蘇の間 (霞が関ビル33階) 3.議  事:(1)東京大学医科学研究所附属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画につい て        (2)千葉大学医学部附属病院及び財団法人癌研究会附属病院の遺伝子治療 臨床研究実施計画について 4.出席委員:高久史麿部会長 (委員:五十音順:敬称略)     軽部征夫 木村利人 柴田鐵治  (専門委員:五十音順:敬称略)         加藤尚武 金城清子 廣井正彦 松田一郎          森岡恭彦 山崎修道 5.参考人出席:東京大学医科学研究所附属病院         病 院 長  浅 野  茂 隆         総括責任者  谷 憲  三 朗 ○事務局  ただ今から第11回「厚生科学審議会先端医療技術評価部会」を開催いたします。  なお、本日の議題にありますとおり、遺伝子治療臨床研究の審議をしていただくとい うことで、東京大学医科学研究所附属病院の附属病院長浅野茂隆先生、並びに臨床研究 の総括責任者であります谷憲三朗先生に本日は御出席いただいております。  また、部会委員のうち、曽野委員、寺田委員、入村委員の3名から御欠席の連絡をいた だいております。柴田委員は現在交通事情により、遅れておられるようでございます。  さて、7月に厚生省で人事異動がございましたので、御報告方々御紹介させていただき たいと思っております。  まず科学技術担当審議官に就任いたしました、篠崎でございます。同じく厚生科学課 長に任命されました高原でございます。従来厚生科学課長が併任しておりました健康危 機管理官に指名されました唐澤でございます。また、本部会を担当いたします厚生科学 課の課長補佐であります須田でございます。以上、異動がございましたので御報告申し 上げます。  また、本日の配布資料につきまして、各委員に事前にお送りしたもの、また本日席上 に配布したものがございますが、御審議に先立ちまして、確認させていただければと存 じます。  お手元の配布資料につきましては、配付資料一覧を議事次第のところに付けておりま すが、資料1〜9までそれぞれお手元にあるかと思います。  資料1、東京大学医科学研究所附属病院遺伝子治療臨床研究実施計画について。  資料2、申請者において作成されました実施計画の概要と称するものでございます。  資料3、東京大学医科学研究所附属病院におきます遺伝子治療臨床研究実施計画の審議 経過について。作業委員会での経過を取りまとめたものでございます。  資料4並びに資料5が、新しく申請が出てきております千葉大学医学部附属病院におい ての遺伝子治療臨床研究計画実施計画申請書並びにその同意説明文書及び同意書でござ います。  資料6と7が同じく財団法人癌研究会附属病院から申請のありました、実施計画並びに その際に用います同意説明文書でございます。  資料8は従前の部会での審議に関連いたしまして、「出生前診断の実態に関する研究」 に関する御意見をいただいておりまして、それに対する研究班からの回答というものを 1つにまとめております。  資料9では、従前に引き続きまして、前回お出しした(6月22日)以降、インターネッ トを通じまして本部会に寄せられました意見を取りまとめたものでございます。  なお、その他参考資料といたしまして、「体外受精・胚移植の適用範囲の拡大、着床 前診断の臨床実施について」と題します、優生思想を問うネットワーク、その他複数団 体から成っておりますが、これから頂戴しました資料を参考資料として配布しておりま す。  本日用意いたしました資料は以上でございます。もしお手元の資料に不足がありまし たら、事務局にお申しつけくださいますようお願いいたします。  それでは、部会長よろしく審議の進行のほどお願いいたします。 ○高久部会長  先端医療技術評価部会にお集まりいただきまして、ありがとうございました。審議に 入ります前に、新しい審議官から一言ごあいさつをよろしくお願いいたします。 ○篠崎審議官  このたび7月7日付でございますが、科学技術担当審議官を拝命いたしました篠崎でご ざいます。本日は大変先生方お忙しい中を御参画いただきまして、誠にありがとうござ います。  私は2年程前に厚生科学課長をしておりまして、その時はまだ「厚生科学会議」でござ いましたが、事務局を担当させていただいておりました。その後、現在の厚生科学審議 会に発展されましたわけでございます。当時の厚生科学会議の頃から、我が国での先端 科学技術の問題について幅広く御議論をいただき、そしてまた、そういう問題について はどうしても社会的、あるいは倫理的問題を含んでいることも多いわけでございますの で、会議も原則公開ということにして、国民の御理解を得ながら審議を進めていくとい うようなことでやっておりましたが、その精神をこの審議会も酌んでいただいて、精力 的に御審議をいただけるものというふうに思っております。  本日は遺伝子治療臨床研究について御議論をいただくことが1つでございますが、昨 今、社会問題化しております生殖医療技術とその社会的な受容に関する評価などにつき ましても御議論をいただくというふうに伺っております。今後とも幅広い分野から積極 的に新しい医療技術についてお取り上げいただいて、そして御議論いただき、厚生省に いろいろ指示をしていただきたいと、このように思っておりますので、よろしくお願い いたします。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。 それでは、本日の議題に入らせていただきます。本日は平成9年7月10日に厚生大臣か ら厚生科学審議会に諮問がありまして、同日付で厚生科学審議会長から当部会に付議さ れました東京大学医科学研究所附属病院の腎細胞がんに対する免疫遺伝子治療―IV期腎 細胞がん患者を対象とするGM−CSF遺伝子導入自己複製能喪失自家腫瘍細胞接種に関する 臨床研究−実施計画について、当部会の下に設置いたしましたがん遺伝子治療臨床研究 作業委員会において、主として科学的な事柄について論点を整理いたしましてた。その 論点の整理が終わったとのことですので、御報告いただいた上で、東京大学医科学研究 所附属病院から出ています臨床研究実施計画について部会としての御審議をいただく予 定になっております。  その後、この部会の今後の進め方について事務局と相談いたしましたことについて御 報告申し上げたいと思います。  本日は、今、審議官からもお話がありましたように、従前の遺伝子治療臨床研究中央 評価会議のしきたりを引き継ぎまして、また、委員全員の方々の御了解も得られました ので、議事を公開にして実施したいと思いますので、よろしく御了承お願いいたします  まず事務局から、申請の経緯等についてよろしく説明をお願いいたします。 ○事務局  それでは、事務局より申請の経緯等について御説明させていただきます。  お手元の資料3をごらんください。1ページ目でございますが、今申請の概要及び審議 経過が記載されてございます。課題名、実施施設等につきましては、先ほど部会長より 御紹介あったところでございます。そして、施設の代表として浅野先生、総括責任者と して谷先生に本日来ていただいております。  申請がございましたのは平成8年12月2日でございまして、その後審議を経まして変更 があったということで報告が行われたのが平成10年4月30日でございます。この資料につ きましては、厚い資料1の方に内容が記載されてございます。  また、当部会、あるいは従前の遺伝子治療臨床研究中央評価会議における審議の経過 でございますが、まず平成8年12月2日に申請が行われた後、平成8年12月26日第7回遺伝 子治療臨床研究中央評価会議が開催されまして、そこにおきまして実施計画について、 主として科学的観点から論点整理を行うがん遺伝子治療臨床研究合同作業部会の設置を 決定いたしまして、部会長として寺田委員を指名いたしました。  委員一覧につきましては次のページにございますが、基礎、臨床全般にわたりまして 分担を定め、御議論をいただくこととされたわけでございます。注でございますが、本 作業部会は併せ岡山大学医学部附属病院の実施計画の検討も実施するということとされ ておりましたので、臨床分野の専門家は腎細胞がんのみならず、肺がんの専門家を含ん でいるという形でございます。  続きまして、作業部会での検討状況が3ページ目にございます。がん遺伝子治療臨床研 究合同作業部会におきましては、文部省側のワーキンググループと共同で2回開催してご ざいます。1回目が平成9年3月12日でございまして、事務局より実施計画の概要を説明し 各委員の作業分担の決定をいたしました。そして、同年5月6日に第2回目を開きまして、 実施計画の内容の審議及び作業部会としての意見書の取りまとめを行いました。この後 事務的に厚生省あるいは文部省より実施施設の方にこの意見書を送付してございます。 続きまして、厚生科学審議会に業務が引き継がれていますので、3ということで厚生科 学審議会先端医療技術評価部会の経過について御説明申し上げます。  平成9年7月10日第1回厚生科学審議会先端医療技術評価部会が開かれまして、この厚生 科学審議会の部会が設置されたことに伴いまして、従前の遺伝子治療臨床研究中央評価 会議の業務の継承ということがなされました。  また、部会の下に、実施計画につきまして、主として科学的観点から論点整理を行う 委員会を設置するということについて了承し、従前の作業部会の業務を継承することと されました。  次のページでございますが、平成9年10月3日に第2回の部会が開かれまして、従前の作 業部会の委員構成を引き継ぎ、委員長は寺田委員にお願いするということ、あるいは作 業委員会規程等を整備したことにつきまして、事務局より報告がございました。  続きまして、がん遺伝子治療臨床研究作業委員会の経過でございますが、こちらにつ きましても、文部省のワーキンググループと共同で開催してございます。第1回につきま しては、平成9年11月5日に開かれましたが、この際には、まだ東京大学医科学研究所附 属病院の方で検討中でございましたので、その検討を行っている旨、御報告させていた だきました。第2回につきましては、去る5月14日開催されまして、先の作業部会の意見 書に対する東京大学医科学研究所附属病院の回答の審議を行いまして、概ね妥当なもの と了承されました。  また、遺伝子導入等を行うため、新たに設置された臨床細胞工学室の具体的運用状況 等について寺田委員長が確認した後、本委員会での論点整理の状況を先端医療技術評価 部会に報告することという形で結論づけられました。  申請の経過及び当部会、あるいはその下の作業委員会等での審議の経過は以上でござ います。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。次に、本日参考人として東京大学医科学研究所附属 病院の谷憲三朗先生に御出席していただいていますが、本臨床研究の総括責任者として この実施計画の内容について5分程度簡単に御説明をよろしくお願いします。 ○谷総括責任者  資料1の138ページを御参照いただきたいと思います。138〜139ページにわたりまして 図27、28とございます。端のページは159ページになっております。  本臨床研究の概要を説明させていただきます。他に治療法のない第四期腎細胞がん患 者のがんのあります側の腎臓をまず摘出いたしまして、その腎臓がんのがん細胞部分を 細片化いたします。その操作を東京大学医科学研究所臨床細胞工学室というところで以 降の操作を行うことになります。  まず腎細胞がん組織を細片化の後、細胞培養を開始いたしまして、これと同時に症例 の登録を記録として残します。その後、腎細胞がんの培養を継続し、一部安全性の検討 を行い、レトロウイルスベクターを用いまして、GM−CSF(顆粒球マクロファージコロ ニー刺激因子)遺伝子を導入いたしまして、更に培養・増幅いたします。最終的には細 胞濃度の調整やGM−CSF産出量の検査等を行う一方、安全性の検討を米国または英国の専 門の機関に依頼して行います。最終的サンプルは放射線を照射した後、安全性であると いう結果が出るまで細胞凍結状態で液体チッ素中で凍結・保存されます。つまり、安全 性の検討、複製可能レトロウイルス、いわゆるRCRに関しての検査が陰性であるという結 果が出た段階で患者さんの皮内に投与することになります。  139ページをお開きいただけますでしょうか。次のページでございます。 本研究は臨床的検討と基礎的検討の2項目から大きく成っております。実施します段階 も第1段階、第2段階、第3段階からなっており、第1段階が腎臓の摘出並びに腎がん細胞 の培養、遺伝子導入、安全性検定でございます。第2段階が、ワクチン細胞投与、第3段 階が、患者さんの長期観察を行う段階となります。臨床的検討といたしましては、まず 最初に患者さんの同意を得ました後、腎臓を摘出し、腎細胞がん細胞の培養ならびに遺 伝子導入を行い、安全性の結果が出るまで待ちまして、出た後に凍結してあります細胞 を6回に分けて患者さんの皮膚に投与いたします。手術より細胞の接種までの期間を約 8週間と考えております。  基礎的研究といたしましては、投与に使用できる安全かつ十分数の患者細胞がん細胞 の培養操作と遺伝子導入が我々の施設で行えるか、細胞接種からなる治療法が安全に患 者に完逐できるかどうか、さらには患者体内に抗腫瘍免疫が誘導できるかどうかといっ た点を検討する予定です。既に細胞培養並びに遺伝子導入検討が5例に関して、テストラ ンとして行われており、その結果は厚生省、文部省に提出させていただいております。 今回もこの検討は第一段階での検討項目として入ります。また、患者さんの皮膚並びに 全身に起こる可能性のある免疫反応を病理学的、生物学的並びに免疫学的に検討すると ことも予定しております。  以上でございます。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。実施施設である東京大学医科学研究所附属病院の浅 野病院長が御出席ですので、施設長として最近の治験等について簡単によろしくお願い します。 ○浅野施設長  それでは、簡単に説明させていただきます。  腎細胞がんを対象とする同様の試験は既にJohns Hopkins病院で行われております。遺 伝子非導入細胞投与の患者さん10名と遺伝子導入細胞投与の患者さん8名において細胞数 レベル、4×106、4×107、4×108という3段階のテストが進みました。結果として 安全性には問題がなかったという報告をいただいております。  それから、DTH皮膚反応についてはGM−CSF遺伝子導入細胞投与群で著名であったと いうことであります。  なお、効果につきましては、評価できる症例はこのうち4例であり、そのうちの1例に おいて、肺転移病巣の縮小化を認めているようです。この患者はその後寛解が8か月以 上持続したようですが、その後再発し、手術から2年目に死亡されています。  また、病理学的な検討では、注射部位、遺伝子導入細胞を接種した場所におきまして マクロファージ、樹状細胞、好酸球、好中球、などの著名な浸潤を確認されております  また、先ほど申し上げましたDTH反応、遅延性皮膚反応の部位につきまして、8例全例 が好酸球の著名な浸潤を予測どおり認めているというデータでございます。  以上でございます。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。委員の方々からいろいろ御質問もあるかと思います が、その前に、先ほど審議経過の説明が事務局の方からありましたが、がん遺伝子治療 臨床研究作業委員会が既に昨年の11月と今年の5月に開かれておりまして、その結果につ いて、本来ならば寺田委員長から御報告いただくところですが、あいにく海外へ御出張 中ですので、代わりに事務局の方からがん遺伝子治療臨床研究作業委員会の結果につい て代読していただきまして、その後、委員の方々からいろいろ御質問、御議論をお願い したいと思います。まず事務局の方からよろしくお願いします。 ○事務局  それでは、事務局より寺田委員長に代わりまして、論点整理の状況について御報告申 し上げます。  冒頭事務局より申し上げましたとおり、がん遺伝子治療臨床研究作業委員会につきま しては、従前の作業部会(がん遺伝子治療臨床研究合同作業部会)の流れを引いており ますので、作業部会での状況から御説明申し上げます。お手元の資料3の5ページ目に論 点整理の状況が記載されてございますので、寺田委員長の代わりに代読させていただき ます。 (資料3 4.「作業部会及び作業委員会における論点整理の状況」朗読) ○事務局  したがいまして、本部会におきましては、資料1 306頁「遺伝子治療に関するガイド ライン」について、主として倫理面について御審議、御確認いただくようお願い申し上 げます。  では、よろしくお願いいたします。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。がん遺伝子治療臨床研究作業委員会は2回でしたが、 がん遺伝子治療臨床研究合同作業部会をその前に2回開いておりますので、この遺伝子治 療臨床研究につきましては4回にわたって文部省と厚生省合同のワーキンググループで検 討しています。本年5月14日の最後の委員会で今、事務局から説明がありましたように、 科学の立場からは妥当であるという報告をこの部会にいただいています。  したがいまして、科学的な問題についても委員の方々からいろいろ御議論願いたいと 思いますが、ここでは主として倫理的な面、あるいは社会的な面について御検討願えれ ばと思いますので、よろしくお願いいたします。  なお、お二人の先生にはここに残っていただきますので、いろいろ委員の方々の御質 問への御回答よろしくお願いいたします。 ○木村委員  大変に詳しくいろいろ御説明いただきまして、ありがとうございました。今日御配布 いただきました「東京大学医科学研究所附属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画につい て」という資料1 通し頁の20ページを見ますと、私は生命倫理が専門なのですが、本臨 床研究は、1)「生命を脅かす難治疾患を対象としている」。この「生命を脅かす難治疾 患」と、それから2)「治療効果が現在可能な他の方法と比べて優れている」。3)「遺伝 子治療によって得られる利益が不利益を上回っている」。いずれも妥当な内容であると いうふうに私もバイオエシックスの専門家として思うわけです。  ところが、引き続きまして25頁ですが、今も浅野院長から安全性については問題がな いというお話をいただいたわけですが、その下のところを見ますと、「上記の他、長期 的な安全性は現時点では評価することはできない」というふうにはっきり書いてあるわ けです。その次の項目は私専門家として非常に問題になる項目だと思うのですが、どう いう意味かお伺いしたいのですが、「しかし、本臨床研究での対象患者は進行したがん 患者であることから、この点についてはとくに患者に不利益をもたらすものではないと 考えている」というのはどういう意味でございますか。 ○谷総括責任者  これは利益が不利益を上回ると判断できるということで書かせていただいております ○木村委員  利益が不利益を上回る。しかし、この表現ですと、「特に患者に不利益をもたらすも のではない」という表現になっていますね。しかも前段で、対象患者は進行したがん患 者であることからということの意味がちょっと。要するに、非常に極めて簡単に申し上 げますと、いずれ患者は進行したがん患者であるので余命が短いと。したがってこうい うようなことを実験しても不利益にならないという意味ですか。 ○谷総括責任者  転移性の腎細胞がん患者さんは有効な治療法が無く非常に困っておられ、新しい治療 法の導入は極めて重要な意味を持つという観点からの表現です。 ○木村委員  ただ、この文章は倫理的に非常に問題になる文章でして、「本臨床研究での対象患者 は進行したがん患者であることから」ということになりますと、この患者は極めて重症 患者であるので、こういうことをやって不利益にならないということで、最初のお話の 利益が不利益を上回るとか、現時点では評価することができないと言いながら、不利益 をもたらすものではないというふうに評価しているのです。ですから、これは患者の立 場から見ますと、これをもし患者側が読みますと、私は命が短いので、こういうことが 仮にあっても医療側としては不利益にならないというふうに判断したと。それよりも、 むしろこれは利益になるというふうに言っているのではないですか、前の方では。利益 が不利益を上回ると言っていますよね。 ○谷総括責任者  利益が不利益を上回るというつもりで書いておりますが、人において長期的な安全性 は現時点では評価できません。こういう新規の治療法に関しましては、長期的にまだそ のような結果が明らかではなく、評価できないという意味で書かせていただいておりま す。 ○木村委員  そうだとしたらこれは要らないのではないですか。評価できないのでしたら、「不利 益をもたらすことはできないと考えている」という評価をしていますよね。遺伝子治療 臨床研究というのは国際的に非常に注目されているわけでして、諸外国との提携の中、 特にアメリカとの提携の中でやっているわけですので、文章の表現が、これは同時に日 本語のできる方も大変多くおられますし、外国語に翻訳されてこれが回った場合、対象 患者が進行したがん患者であるので、患者に不利益をもたらすことはないというふうな 言い方は、極めて患者の人権侵害に直接つながるものであるというふうに私は思うもの ですから、下から2行は削除して、むしろ「長期的な安全性は現時点では評価することは できない。」というふうにとめておいた方がいいのではないかというのが私の提案です が。 ○高久部会長  「長期的な安全性は現時点では評価することはできない」という点については、遺伝 子治療が始まりまして10年ぐらいですね。最初の例でも20年たったときに何かが起こる かはわからない。ですから、この点は問題ないと思いますから、最後の2行のところを 「患者さんにとって治療を受ける方が利益が高いと現時点では考えられる」というふう に直されたらよろしいのではないかと思います。 ○浅野施設長  今、高久部会長がおっしゃったように考えております。御指摘の患者さんが読んだ場 合にどう感じられるかという点については私もそのように思います。とにかくこの治療 法は科学的な理論性はあっても、まだ患者に利益をもたらすかどうかは分からないわけ でございます。ですから、不利益が起こるという可能性はまずないと考えられるという 説明はよいとしても、ただ、利益をもたらす可能性を完全に否定するものではないわけ でございまして、その辺の表現がなかなか難しいと思っています。 ○木村委員  ですから、とにかく部会長の言われたとおりだと思うので、この点は「進行したがん 患者であることから」という表現は極めて誤解を招く表現であると。がん患者であるこ とから患者に不利益をもたらすものではないというような表現は極めて妥当性を欠く表 現であるというふうに思います。だから部会長の言われた範囲内での訂正または削除と いうことが妥当ではないかというふうに思います。 ○高久部会長  これはそういうふうにしていただければと思います。 ○谷総括責任者  承知いたしました。訂正いたします。 ○加藤委員  患者の自己決定能力の評価をどうしたかということですが、患者が成人に達している かどうか、それから患者がインフォームド・コンセントを受けるに十分なだけの判断能 力を持っているかどうか、また貢献を必要とするような状態でないかどうか、その点に ついての事情を説明してください。 ○高久部会長  これは原則大人の患者ですね。 ○谷総括責任者  御自分で判断できる能力のある成人が対象となります。 ○松田委員  私が質問したいのは、熊本大学でHIVの遺伝子治療を前に申請したときと今度の状況と 少し変わっていくのかなというところを聞きたいと思うのです。  どういうことかというと、HIVの遺伝子治療の場合には、患者をまず特定して、その方 をこの審議会にかけるというような手順をしなさいと言われて、我々はそれは非常に難 しいことであると思いました。私達場合は患者さんを決めてしまってから審議会にかけ るという2度手間をしたのですけれども、今度見た限りはそのことはないように理解され ていて、その点では患者さんに対する方法としては非常にスムーズになって、前よりよ くなっているように私としては考えられるのですけれども、そう考えてよろしいのでし ょうか。 ○谷総括責任者  そのとおりでございます。先生方のご理解とご配慮を感謝申し上げます。 ○金城委員  277ページ「同意取得の際に用いる説明および同意書」ということで、大変詳しく説明 の内容が書かれているのですけれども、これは現実にはもう使っていらっしゃいますか そして、そのときに、私自身もこれを読んで大変難しいなと思ったのですけれども、患 者さんはどの程度理解しているか。そして、どのぐらいの時間をかけられているか伺い たいと思います。 ○谷総括責任者  模擬的にはやっておりますが、実際の患者さんはまだ特定化されておりませんので実 施されておりません。説明は患者、主治医、患者側に立つ第三者の同席の下、主治医が 十分に時間をかけて内容を最初から読みながら患者に項目毎に説明し、患者が理解した 段階でチェックスペースに各自で確認印を入れた後、次の項目に進むようにします。患 者に十分な理解を与え、文書による同意を得ます。この説明は適応決定の際、および第 二段階開始の際の少なくとも2回にわたって行い確認します。必要なときは更に繰り返 し、十分に説明を致します。 ○軽部委員  細かいことで教えていただきたいのですけれども、CSF、コロニー刺激因子の毒性の件 が書いてありますけれども、これは顆粒球コロニー刺激因子を薬として投与した場合と それから遺伝子を導入した場合の毒性というのは本質的には違うものなのですか。 ○谷総括責任者  基本的には同じだと思われます。ただし、今回遺伝子導入してあります細胞を投与し ますと、細胞投与量は実際にGM−CSFが臨床的に用いられまして、いろいろな副作用を起 こした量の数10分の1 100分の1程度の血中濃度しかもたらさないということが分かっ ておりますので、その点で安全であろうと判断しております。 ○軽部委員  そういう意味では安全だということなのですね。問題ないと。 ○谷総括責任者  そういうことです。 ○柴田委員  一般論のことでお伺いしたいのですけれども、この種の臨床研究の申請が出てから審 査の時間だと思うのですけれども、これは途中で変更されているので多分掛かっている のかなと思うのですけれども、一般論としては割に急ぐのではないかと思うのです。審 査ということがどのぐらいの頻度でなされるかということとも関係してくるのですが、 その辺の今回の特殊性があったら教えていただきたい。 ○谷総括責任者  変更届の方に書いてございますが、昨年の1月に共同研究者のソマティクス社が吸収合 併になりそうだという情報が入り、実際には4月に吸収合併となり、新しい会社に変わり ました。それまではプロトコールでは細胞培養及び遺伝子導入のステップは米国のソマ ティクス社で行われる予定になっておりましたので、事情がかなり変化し、昨年の5月の 変更届けを提出の際にその経緯をご報告申し上げるとともに、細胞培養並びに遺伝子導 入操作の部分を東京大学医科学研究所附属病院内で実施するということに決めさせてい ただきました。その内容変更に伴いいくつかの重要な確認、検討事項が出現し、それに 対して適切な回答を出すために結果的にかなりの時間がかかってしまいました。 ○柴田委員  そうするとむしろ申請者側の問題で時間が掛かったということでよろしいのですね。 ○谷総括責任者  さようでございます。 ○柴田委員  審議がそのために遅れたとか、そういうことは全くないと。 ○谷総括責任者  一旦審議会に書類を提出させていただいてからの審議は比較的早く行っていただけま した。 ○高久部会長  今、谷先生から御説明ありましたように、ベクターの提供は別な会社からされるよう になったのですが、細胞のプロセシングができなくなったので、東京大学医科学研究所 附属病院の方でその準備をされたために随分時間がかかったと思います。がん遺伝子治 療臨床研究作業委員会としては一生懸命やりまして、返事をいただくとすぐに委員会を 開くということをしました。それでも大分時間がかかりました。なるべく早めたいとい うふうにいつも考えております。 ○柴田委員  だったら全く問題ございません。 ○加藤委員  この治療法では遺伝子治療と呼ばれているような治療方法のほかに、言わば伝統的な それ以外の治療方法を併用して行われるというふうに考えられるのでしょうか。  また併用する場合に遺伝子治療プロパーの効果はどのように評価されるのでしょうか。 ○谷総括責任者  伝統的な方法としましては細胞療法だと思います。特に、この場合は遺伝子を導入し ている細胞群としていない細胞群を、米国のJohns Hopkinsの方ではダブルブラインドで 比較しております。その結果、GM−CSF遺伝子を導入した細胞接種群において、先ほど浅 野院長からお話がありましたような効果が見られた例もあるということで、我々として は遺伝子導入した細胞群に限って今回検討するということにしておりまして、遺伝子導 入は従来の方法にプラスαを加えるものだと理解しております。 ○木村委員  先ほども同意取得の際に用いる説明および同意書ということで、277頁に関連した質問 なのですけれども、ここに3つ書いてあって、これもバイオエシックスの原理からしま すと、大変にきちんとした対応がなされているというふうに思いました。この研究に参 加することはあくまでも自由意思であるということ。それから、これは必ずしも個人的 な利益は得られないけれども、他者に役に立つ治験が得られる可能性があるということ それから研究を断っても、その後の治療で何らかの不利益を被ることはないと、この3点 がきちっと書かれているのは大変いいと思ったのですが、296ページを拝見いたしますと 「治療実施後の中止の方法について」というところがございますが、そこのところの私 の考えを申しますので御検討いただければというふうに思います。遺伝子治療について (a)、(b)と書いてございまして、内容的には3つのことが2つになっているので、むし ろ私は(b)『遺伝子治療に着手した後でも、あなたから「中止してほしい」という希望が 出されればその意向を尊重し、』という言葉は私は余り好きでないので、「その意向に 基づき、以後の遺伝子治療を中止します」ということが恐らく第1段に来まして、前の繰 り返しになるかもしれませんけれども、「その場合も患者側にいかなる不利益が生ずる ことはない」ということを付け加えておくこと。つまり、遺伝子治療に着手した後でも いつでも被験者側は中止の意向を表明しそれに基づいて医療側が中止できるということ が、バイオエシックスの観点からいうと非常に重要なポイントになります。これは諸外 国で共通の原則がございまして、治療の中止はいつでもできるというふうになっている ものですから、それをトップに持ってくる必要があります。第2段、(a)「遺伝子治療で は、第1回目の注射から」という御説明がいろいろございますが、「重い副作用が発生し た場合には、以後の注射を中止する場合があります。」。これは「中止することがあり ます」ということだと思うのですけれども、「場合には、以後の注射を中止することが あります。」と。今、加藤委員の質問もございましたが、この場合には「以後は通常の 治療方法に従って治療を継続するということになる。」と。そして第3段が(b)の真ん中 からきている「本邦で同様の治療を受けている他の患者さんや、欧米で行われている同 様な遺伝子治療を受けた患者さんに、重篤な副作用が出現したことが判明した場合、あ なたにその旨をお伝えし、遺伝子治療を中止する場合もあります。」と。この3つの項 目が極めて妥当な構成の仕方になるのではないかというふうに思うものですから提案さ せていただくわけですが、現状の文書の書き方ですと、医療側のイニシアチブによる遺 伝子治療の継続のような形の文面になっておりますので、むしろ患者側の自己決定を中 心にした治療の中止ということの意向の表明に基づいた遺伝子治療の中止ということを 前段に置いてやるということが望ましいのではないかというふうに思いました。 ○高久部会長  おっしゃるとおりだと思いますので、そのように直していただければと思います。 ○廣井委員 159ページで教えていただきたいのですが、がんの遺伝子治療というのはこれから大き な問題になると思うのです。それで、今回やられるというのは腎がんなのですけれども 将来この方法が有効であれば、他のがんについても同じような方法ができるのかどうか というので、難しい問題かもしれませんけれども、大体これがスタンダードなのかを教 えていただきたいと思います。 ○谷総括責任者  可能であると思います。 ○高久部会長  がんの遺伝子治療にはいろいろな方法がありまして、サイトカインの遺伝子を導入す るというのはその中の有力な方法の1つですから、腎がんだけではなくて、有効な場合 には他のがんにも応用できると考えて良いと思います。 ○森岡委員  先程浅野先生から御説明がありましたけれども、数は少ないのですがJohns Hopkinsで やった結果があるのですね。これを見ますと、非常に効果があったのかどうかという評 価は難しいですけれども、一例ぐらい効いたということなのでしょう。そこでこの方法 はある程度評価されているというふうに考えていいのですか。それとも全くまだ未知数 で、今回はこのJohns Hopkinsの結果に基づいて、全く同じ方法でやるのかこれと少し違 った方法でやるのか、その点教えていただければと思います。 ○浅野施設長  症例数が遺伝子導入細胞を用いたものが8例でございます。そのうち評価できるのがた った4例ですから、この段階ではまだ評価できない。ただ、示唆されるとだけは言いえ るだろうと考えております。 ○森岡委員  ですから、全く同じような方法だというふうに理解していいですか。 ○浅野施設長  はい。 ○高久部会長  この事についてはがん遺伝子治療臨床研究作業委員会でも時間を掛けて討論いたしま したし、東京大学医科学研究所附属病院でも委員会からの要望に十分にお応えになって 設備の方を整えています。先ほど木村委員から御指摘のありました中止の件について順 番を変えるというように、同意書の内容を変えていただくということで、只今、御討論 いただきました東京大学医科学研究所附属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画について 科学的にも、論理的にも妥当であると認めて、厚生科学審議会会長に報告してよろしい でしょうか。  どうもありがとうございました。どうも御苦労様でした。 ○浅野施設長  御審査頂きどうもありがとうございました。御指摘をいただきました点を十分に考慮 し、責任をもって治験を慎重に進めさせます。 ○高久部会長  それではよろしくお願いいたします。どうも御苦労様でした。  それでは引き続きまして、新しい遺伝子治療臨床研究実施計画の申請がありましたの で、事務局から御説明お願いいたします。 ○事務局  それでは、新規の遺伝子治療臨床研究実施計画につきまして、厚生大臣あて確認の申 請がございましたので、それについて御説明させていただきます。資料4「千葉大学医 学部附属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画申請書」でございます。  計画の概要につきましては資料4の3ページ目から書いてございますが、実施場所が千 葉大学医学部附属病院でございまして、病院長が山浦晶先生、そして総括責任者が医学 部外科学第二講座助教授の落合武徳先生でございます。  課題名は「進行食道癌(扁平上皮癌)非切除症例に対する正常型P53遺伝子発現アデノ ウイルスベクターを用いた遺伝子治療初期第II相臨床試験」でございます。この申請に つきましては、去る7月14日に書類が提出されまして、厚生省の方で受理いたしました そして、本日付で厚生大臣より厚生科学審議会会長の豊島会長あてに諮問書という形で 厚生省組織令と遺伝子治療臨床研究に関する指針に基づいて意見を求めるという形での 諮問書が出てございます。資料の1ページ目でございます。  また、1枚めくっていただきますと、同日付で厚生科学審議会豊島会長より、先端医療 技術評価部会の高久部会長あて、遺伝子治療臨床研究実施計画につきまして、厚生科学 審議会運営規程4条の規定に基づき、本部会で審議を願うような形で付議が出てございま す。この申請につきましては、後ほども少し紹介させていただきますが、既に岡山大学 医学部附属病院より出ております遺伝子治療臨床研究実施計画の形と同様なスタイルを とっておりまして、ベクターについてはアールピーアールジェンセル(株)から供給さ れるということでございます。  また、11ページ目には、施設内の審査委員会が本研究計画の実施を適当と認める理由 という形の文章が記載されてございます。  参考まででございますが、本臨床研究実施計画につきましては、昨年9月以来、千葉大 学医学部附属病院の中におきまして検討がなされてきたということ、また、千葉大学で は記者会見などを行いまして公開に努めてきたわけでございますが、当初、外科学第二 講座の磯野教授が総括責任者ということで行われていたわけでございますが、本年3月31 日付で定年退官となりましたため、一時期病院長の方でその内容を預かっていたという 感じでございますが、最終的には助教授の落合先生が総括責任者として取りまとめてい くということで決定されまして、本日の申請内容になっているわけでございます。  また、資料5につきましては、千葉大学医学部附属病院から提出されました同意説明文 書及び同意書という形の案が付いてございます。これにつきましては、当初の検討され た案でございます。  続きまして、資料6「財団法人癌研究会附属病院の遺伝子治療臨床研究実施計画申請 書」でございます。具体的な内容につきましては3頁でございます。実施施設につきまし ては財団法人癌研究会附属病院。病院長は尾形悦郎先生でございます。総括責任者につ きましては、附属病院化学療法科兼癌化学療法センター臨床部副部長の相羽恵介先生で ございます。課題名は、「乳癌に対する癌化学療法の有効性と安全性を高めるための耐 性遺伝子治療の臨床研究」でございます。本申請につきましても、7月14日に実施施設の 方から厚生省の方に書類が提出されまして、本日付で厚生大臣より厚生科学審議会会長 あてに諮問がなされておりまして、また、同日付で審議会会長から高久部会長あて、こ の部会で審議いただくような付議がなされてございます。この計画全体につきましては ベクター等につきましては医師が直接入れる形の、いわゆる今、御審議いただきました 東京大学医科学研究所附属病院の例と同様なスタイルをとってございます。  8ページ目には、施設内の審査委員会で審査した結果が添付されてございます。  また資料7といたしまして、財団法人癌研究会附属病院の計画における同意説明文書の 内容について当初案ということで提出されてございます。  以上、新規の計画2件につきまして簡単に御説明させていただきました。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。今、千葉大学と癌研究会附属病院の各々の施設から 出ました「がん遺伝子治療臨床研究」についての説明を事務局の方からしていただきま した。説明にありましたように千葉大学の場合には、既にがん遺伝子治療臨床研究作業 委員会で検討しておりますものと同じベクターを、同じ会社が提供するということです がんの種類は違いますが、基本的には同じ方法と考えてよいのではないかと思います。 ベクターの提供がアールピーアールジェンセル(株)からなされますので、このベク ターの安全性その他については中央薬事審議会の方で検討するということになります。 従いまして、そちらの方の検討と、当部会での検討とが並行して行われるようになると 考えております。 財団法人癌研究会附属病院の方は、ベクターの提供は説明の6ページにありますよう に、MAGENTA社でつくって、それを提供していただくということで、この場合には会社の 治験ではないので、中央薬事審議会は通りません。東京大学医科学研究所附属病院の場 合と同じスタイルになると思います。それからin vitroの培養系で遺伝子の導入をする ということに関しましても、今日、御承認いただきました東京大学医科学研究所附属病 院の遺伝子治療とかなり似た点があるのではないかと考えております。  この2つの遺伝子治療臨床研究の実施計画について、今、事務局の方から説明があり ましたように厚生大臣への確認申請があって、厚生大臣から厚生科学審議会、更に審議 会から本部会へ付議されたわけであります。本部会といたしましては、従来の遺伝子治 療臨床研究の場合と同じように、文部省の方と相談して共通の作業委員会を設けて、作 業委員会で2つの遺伝子治療臨床研究に関して科学的な観点から論点の整理を行うとい うふうにしたいと思います。委員の皆さん方この点に関して御意見おありでしょうか。 ○木村委員  論点の整理を行った上で、本日は東京大学医科学研究所附属病院の施設長並びに研究 の総括責任者においでいただいたわけですが、これと同じような形でここで審査するわ けですね。 ○高久部会長  はい。 ○木村委員  時を改めてまた行うということですね。 ○高久部会長  そういうことになると思います。このがん遺伝子治療臨床研究作業委員会でも必要に 応じて総括責任の方に来ていただきまして、いろいろ御説明を受けたりしております。 他にこの点に関して御意見おありでしょうか。  それでは、従来の形で慎重に検討をしたいと思いますので、よろしくお願いします。  続いて、岡山大学医学部附属病院の実施計画の検討状況をよろしくお願いいたします ○事務局  それでは、もう一つの計画でございます岡山大学医学部附属病院の遺伝子治療臨床研 究実施計画の審議状況について御報告申し上げます。  先ほどの東京大学医科学研究所附属病院臨床研究実施計画の資料にもございましたと おり、文部省と合同の作業委員会で作業を行っておりまして、去る5月14日にほぼ内容 について妥当という御判断をいただきまして、幾つかの事項につきまして寺田委員長が 預かりまして、今その内容について御確認をいただいているところでございます。これ につきましては、例えば、科学的な観点で見た患者への説明文書の内容についての助言 等が含まれてございます。  もう一つ、委員長確認事項の中にございましたベクターの品質・供給体制については どうかということで、事務局の方から医薬安全局の方に尋ねましたところ、ベクターに つきましては紹介が遅れましたがアールピーアールジェンセル(株)から供給を受ける ということで、医薬安全局から中央薬事審議会の方に確認の審議をいただいているとこ ろでございますが、医薬安全局から聞きましたところによりますと、そのベクターの品 質につきまして、企業の方から最終的な資料が出てくるか、出てきたような状態でして 8月下旬にも専門家による中央薬事審議会の調査会レベル、こちらの場で言います作業委 員会のレベルの検討会を開いて、品質について確認する作業を行うという状況であると いうことでございます。したがいまして、それ以上につきましては、ベクターの品質に ついて現段階ではコメントできないということでございました。  以上です。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。ここに松田委員がいらっしゃいますが、熊本大学の 場合にベクターの審査が非常に遅れたのですね。ですから、中央薬事審議会にお願いし て、なるべく早くベクターのことについて審議を進めていただくようにお願いしたいと 思います。  岡山大学の場合も、患者さんは同定していないで、認可になってから同意を得るとい う形をとるようにしたと思います。この点についてどなたか御質問おありでしょうか。  それでは、そういうことで。岡山大学の遺伝子治療臨床研究につきましても、それほ ど遠くない将来に部会の皆さん方に御審議をお願いしたいと思いますので、よろしくお 願いいたします。  引き続きまして、今後のこの部会の進め方について御相談申し上げたいと思います。  1つは、今、事務局の方から説明がありましたように、岡山大学のがん遺伝子治療臨 床研究について近々報告されることになっておりますのでよろしくお願いしたいという 事です。  もう一つは、ヒト組織を用いた研究開発の在り方に関する専門委員会の報告(案)が 作成されています。その報告(案)について次回のこの部会で御審議を願いたいと思い ます。予定としては、8月21日になっております。部会の皆さん方には既に報告書(案) がお手元に行っていると思います。残念ながら木村委員は海外御出張の御予定ですので 書面ででも御意見をいただければと思います。  それから、前回の部会で、生殖医療に関しまして、いろいろな御意見がありました。 特に御案内のように、第三者からの配偶子の提供による体外受精につきましていろいろ 御意見がありまして、金城委員の方からこれについてモラトリアム(一時的な中止とい う)宣言を出したらどうかという御意見がありました。私もそれが必要ではないかと思 ったのですが、その後この部会でモラトリアムを出して、それでもあえて実施される産 婦人科の先生がおられると、ここに廣井委員がいらして誠に申し訳ないのですが、日本 産科婦人科学会の会告と同じことになってしまうという問題点があるのではないかとい う意見が出ました。そうするとこの部会の存在そのものが問われ事になると危惧されま す。一方、審議をできるだけ早くする必要があるということは皆さんお考えのとおりだ と思います。前回も御議論いただいたように、当部会の下に早急に専門委員会をつくっ ていただく。その専門委員会は当然のことながら広い分野の方が参加する委員会になる と思います。そしてそこで早く御議論をいただいて、その結果について部会で検討をす るというふうに考えておりますが、事務局の方で今後の進め方について説明していただ けますか。 ○事務局  それでは、今、部会長から御説明がございましたけれども、当面の進め方といたしま して、生殖医療技術に関しまして、第三者の提供卵子を使用した体外受精の実施の公表 それから日本産科婦人科学会におきます着床前の診断についてのガイドラインの策定の 動きなどがございます。こういった生殖医療をめぐる社会的関心が高まっておりますの で、今後ともこの問題については検討を進めていく必要があるわけでございますが、一 方、当面この部会におきましては、がん遺伝子治療臨床研究作業委員会でございますと か、あるいは、ヒト組織を用いた研究開発の在り方に関する専門委員会の報告が予定さ れておりまして、審議日程が大変窮屈なものになっているという状況がございます。こ のような状況を踏まえますと、生殖医療技術に関する議論につきましては、先ほど部会 長からお話がございましたように、専門委員会を設けて審議をしていったらどうかとい うことでございます。  そこで当面の進め方としましては、8月21日には、先ほど部会長からお話がございまし たように、ヒト組織を用いた研究開発の在り方に関する専門委員会の御審議をいただき まして、9月中旬にはがん遺伝子の治療臨床研究計画のうち岡山大学医学部の御審議をい ただくと。その後、予備日を取ってございますが、千葉大学、あるいは財団法人癌研究 会それぞれの病院におけます計画に関する審議などもお願いしていかなければならない ということでございます。  以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。そういうことで、今後のこの部会の進め方というこ とを考えていますが、どなたか御意見おありでしょうか。  いずれも重要な問題がたくさんありますので、なるべく皆さん方の御都合をつけてい ただいて、積極的に議事を進めていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします  8月21日のことについて事務局の方から説明していただけますか。 ○事務局  8月21日が次回の部会の予定ということで御案内いたしておりますが、先ほどの部会長 発言にありましたとおり、この部会の下に設けましたヒト組織を用いた研究開発の在り 方に関する専門委員会からの報告書(案)がまとまっておりますので、これについて部 会として報告を受けるとともに、内容について御審議いただきたいというふうに考えて おります。既に、委員の先生方にはお手元へお届けしておりますので、大変御多忙とは 思いますが、あらかじめ書面等で御意見いただければ、それもできるだけ資料として用 意してまいりたいというふうに考えております。  時間と場所でございますが、8月21日14時から厚生省のあります中央合同庁舎第5号館 の共用第9会議室でございます。  また、次回の議事の公開につきましては、当初御了解いただいておりますように、各 委員の御了解が得られれば公開を行うことがあるということでございますので、本日御 欠席の委員もおられますので、各委員の御意向を確認いたしました上で、手続を取りた いと考えております。  一応事務局からは以上でございます。 ○高久部会長  できる限り公開にしたいと思います。委員の方の御意見も十分にお伺いしなければい けませんので、その点については事務局の方で御意見を伺った上で公開にするか否かを 決めさせていただきたいと思います。  なお、議事録は当然全部公開ということになると思います。 ○金城委員  生殖医療技術についての専門委員会はいつごろ設置されて、審議を始めるのでしょう か。 ○事務局  ただいま各先生方から御了解いただきましたので、これから事務的に人選を進めまし て、できるだけ早く第1回目の会合を開けるように対応したいというふうに考えておりま す。 ○高久部会長  1日でも早くと思っています。 ○廣井委員  先ほど部会長から少し御発言がありましたが、第三者の提供卵子の体外受精という問 題で、日本産科婦人科学会では会長見解などを出しているようですけれども、可能であ れば、非常に社会的に大きな問題を与えているものですから、当部会として当分凍結等 の意見を出せればと思っているのですけれども、いかがでございましょうか。 ○高久部会長  前回のときにそういう御意見が金城委員からも出されたのですが、先ほども御説明い たしましたように、凍結した後に産婦人科の先生であえてやられる方がおられますと非 常に大きな問題になるのではないかと。そうすると、専門委員会で議論をすること自体 が余り意味がなくなってくる可能性もあります。その他この部会でも今まで議論があり ましたように、ガイドラインにするのか、法律にするのかというような問題なども検討 をしなければなりませんので、今モラトリアムを出すのは問題ではないかと思いました ○金城委員  確かに非常に大胆なお医者さんがいらっしゃいますのでいろいろ問題はあるのではな いかと思います。ただ、日本産科婦人科学会が除名をしても、医療はそのまま行われる わけです。しかし、厚生省のきちっとしたところが医師免許にも影響を及ぼすというよ うな形でこの問題についてモラトリアムを出せば、これはやはり幾ら大胆でもそれなり にきちっと守らざるを得ないのではないかと思うのです。やはりこの問題は非常に重要 なものですから、なし崩し的にみんなが勝手にやっていくというようなことは是非とも 避けたいと思うのです。ただし、結論は早く出すと。ある程度期限を切ってもいいと思 うのです。そういうふうにして、しかし、それまではやはりやらない。そういうことを やった場合には、厚生省としても十分考えていくというようなことでお出しになったら いかがでしょうか。そういうことではだめでしょうか。 ○高久部会長  医師免許云々となると医道審議会ですか。 ○事務局  審議会で言えば医道審議会が一番近いものかとは存じますけれども、本部会におきま して御議論が非常に多岐に分かれておりますように、第三者配偶子を利用しました不妊 治療というふうに先生おっしゃっておりますけれども、こういった行為が医療行為なの か、それともそれ以外のものなのか。また、そういった方法が許されるのか許されない のかと。これについて非常に多岐な議論がこの部会の中でもまだ続いておるのではない かと。そういう段階で医道審議会に対してそういった価値判断が非常に多岐に分かれた ものについて何らかの処分を期待しても、医道審議会としてもお困りになるのではない かというのが事務局としての率直な感じでございます。 ○高久部会長  第三者の提供卵子の体外受精を認めないという方向に出るのか、認めるという方向に 出るのか専門委員会で検討していただかないと分からない。AIDを認めているのにという 矛盾点が、日本産科婦人科学会の会告にないわけではない。仮に専門委員会で第三者の 配偶子を使った体外受精は良いという結論が出たときに、モラトリアムを無視して実際 にやった。しかも、専門委員会の結論もやってもいいということになったときに、この 部会の挙げたこぶしの下ろしようがなくなるのではないか。そうすると、何のためにモ ラトリアムを出したのかということが心配なのですが。 ○柴田委員  私も部会長の意見に賛成です。モラトリアムというのは1つの評価であり、結論の1 つです。しかも、今ここで審議していて間もなく出る結論について、その期間モラトリ アムというのは、むしろ社会の方もそれよりは結論を早く出す方がいいと思うと思うの です。その結論が出る時期がはっきりしているならば、その期間はモラトリアムだとい うのは、社会的にそういうふうになると思うのです。またそれが一番自然なことであり もうすぐ出るのだという中であえて駆け込みでというようなことをすれば、それはした ことに対する社会的な評価がまた別な形で与えられると思うのです。だから今むしろ必 要なのは、いつごろ出せるということについて我々はきちっと議論をして、ある程度目 途をつけることではないかという気がするのです。  それと同時に質問なのですが、専門委員会は必ずしも反対ではないのですけれども、 この部会でかなり議論を今までしてきたわけです。それをまた一から下の専門委員会で 行い、それからもう一つ分からないのは、専門委員会で中間報告のような形のガイドラ インみたいなものが出てきて、それをまた我々が審議するという形をとるのか、この辺 の役割分担がよくはっきりしないところがある。それとモラトリアム期間としての、い つごろ出すのだという問題との絡みで御質問なのです。 ○高原厚生科学課長  まずモラトリアムの件でございますが、厚生科学審議会として、例えば、何らかのあ る技術についていい、悪いというふうなことを決めたとしても、当部会の所掌から考え て直ちに医師法における、例えば医師の資格とか、そういったものというよりも、むし ろ科学技術上における社会的、倫理的な判断を示したものである、道徳的なものである というふうに言えるかと思います。  したがいまして、このモラトリアム宣言なり見解に反したからといって公衆衛生上の 危害を発生しない限り直ちに医師法上の問題になるというふうに言えるかどうか。非常 に疑問があるところだろうと思います。  その次に、専門委員会の問題でございますが、実は部会長の御指示をいただきながら いろいろ私ども日程の調整をいたしてまいりまして、1つは、既に上がっているといい ますか、既に専門委員会レベルで結論の出た案件がある。結論が出ているものについて は優先的に審議すべきではなかろうかというふうな状況の下で、生殖医療の問題をどの ように結論を出していくのかというタイムスケジュールを調整する問題があるわけでご ざいます。  それから、もう一度一から振り出しになるというふうなことにつきまして は、従来までの議事録、代表的な意見をお持ちの先生方にできるだけ御参加お願いいた しまして継続性を保つということでございまして、そういうことを部会長と御相談申し 上げております。メンバーにつきましても、これは8月21日、次回ヒト組織を用いた研究 開発の在り方に関する専門委員会からの報告書(案)の御審議のときにでも、こういう ふうなメンバーで、こういうふうな段取りで行いたいというふうなことを御報告申し上 げるというふうな手順が必要なのではないか。また、その中には生殖医療のスケジュー ルといったようなものも含まれて、御審議願うというふうに考えておるわけでございま す。  そういうことでございまして、粛々とヒト組織の研究利用ないしはがん遺伝子治療研 究計画等々を御審議願う中で、とても月に2回ぐらい、もしくは月に3回というふうな ペースでお集まり願うことが不可能な点から考えました案でございます。次回8月21日に メンバー及びおおよそのスケジュールを御報告するということ。それから本部会ででき るだけ多数の先生に御参加願って進めてまいりたいということでございますので、よろ しく御検討願いたいと思います。 ○高久部会長  前会のときに拡大委員会という御意見が出ました。そうすると非常に委員の数が多く なりますので、それよりは専門委員会をつくって、その意見をここでもう一回部会で検 討した方がいいのかと思いました。  専門委員の人選はもっと早くして、8月21日には事後了承という形でいいと思います。 8月21日に発表してから始めるというスケジュールよりは、私と事務局が相談して、必要 に応じて委員の方々に書面で御意見をお伺いしてでも、早く決めて、早くスタートした 方が良いのではないかと思います。 ○木村委員  今、部会長、柴田委員並びに課長のお話がございましたが、私は個人的には現在我々 が把握できないところで行われているに違いない第三者の提供による生殖医療の実施に ついては、モラトリアムということをはっきりと明示した方がいいのではないかという ふうに考えているわけです。  これはいろいろな問題があるかと思いますけれども、しかし、少なくともこういう微 妙な問題をめぐってこれだけマスメディアでいろいろな問題ができ、後追いという形に ならないで、我々がまさにそのタイミングの中でこの部会は部会なりに、やっていいと か悪いとかではなくて凍結するという、その中で医師の良心に訴える形での表明をした 上で、緊急な対応をするということが、現在いろいろな意味の不安が広がっている折か ら、例えば、不妊症の方々が全く妊娠の可能性がないのにエクスプロイット(食い物 に)されて、非常に多額の経費を払っているような状況、健康保険も適用されないわけ ですので、そういう折から、ともかくこれについては一応凍結するということの表明が 極めて大きな社会的な意味を持っているのではないかと考えます。モラトリアム宣言を 出すことの主体が小さな我々の部会であっても、与える影響が極めて大きいのではない かというふうに思うものですから、部会長の決断並びに厚生省事務当局の慎重な御配慮 の上で、ある程度の意思表明を今のタイミングでやらないとかえって後に問題が残るの ではないかと。  私ども大変驚いているのは、この委員会の中で非常にあいまいな形でいろいろな専門 の方々が出席なされて、そのときにもいろいろな意見を言われたのですが、はっきりと した形でああいうケースがあるというふうには聞いていなかったもので、恐らくアン ダーグラウンドで行われているということになりますと、部会長の御心配のように、 我々がそういうことを表明した上でそれが行われたら大変だというのですが、それはそ れなりに非常に大きな社会的な反響を呼ぶことになると思うので、むしろ私としては簡 単、明確に、ある程度のステートメントを今のタイミングで出していいのではないかと いうふうにバイオエシックスの専門家としては考えるわけです。 ○森岡委員  私は少し木村委員とニュアンスが違うのですが、この問題はやはり早急には結論が出 ないのではないかという気がするのです。といいますのは、イギリスの生殖医療につい てのウォーノックの報告書なども、結局並列的な意見が出ています。モラトリアムをか けても急に決められるのかというと、非常に疑問があると思うのです。学会がある1つ の方針を出してやるのは結構だと思うのですけれども、こういう委員会が結論を出すこ とにどういう意味があるかということに少し疑問があるので、私はどちらかというと高 久部会長の意見の方に賛成なのです。  もう一つ、私の理解不足かもしれませんが、この委員会は厚生省としてずっと続ける のですか。委員の構成は別にしても、どこかで期限を切って、何か結論を出すのか、そ の点をお伺いしたいのですが。 ○高久部会長  先端医療技術評価部会は恐らくかなり続くと思います。もしもモラトリアムを出すと すれば、厚生科学審議会として出すのか、あるいは厚生大臣自ら出すのか分かりません が、少なくとも厚生科学審議会を経なければならない。この部会だけの決定というわけ にはいかないと思います。 ○加藤委員  こういう委員会でモラトリアムを出すということは、一応止めろと、ともかく当座は 止めろという意思決定を含んでいるわけですね。そして、例えば、これが危険度を含ん でいるとか、あるいは重大な人権侵害を含んでいるという場合には、ともかくまず止め させるという形でモラトリアムという判断を提示する必要があると思います。だけれど も今回の場合に、これを重大な危険度があるとか、人権侵害に直ちに結び付いていると かという性格のものとは違うのだと思うのです。ですからそういう危険度も重大な人権 侵害とも必ずしも結びつかないようなものについて、モラトリアムという判断形態を使 うことはモラトリアムの乱用になると私は思います。 ○高久部会長  ごく最近は人のクローニングの場合ですね。それはモラトリアムで私も正しいと思う のですが、現場で希望する声がかなりあることも事実で、現場のドクターはそれで困っ ておられると思います。その中で、今、加藤委員がおっしゃったように重大な人権侵害 や、危険がないものに対してモラトリアムを出すのは問題ではないかと私も思います。 ○木村委員  今、加藤委員の認識には少し誤解があって、法的に言いますと、生まれてくる子ども の身分が確定されない現状にあるわけです。法律上、確かに夫婦関係の間で生まれてく るのですけれども、遺伝的にはつながっていないと。つまり、夫の精子だけであって、 第三者のドナー、今回の件は妻の実妹ですか。ですから、そういう意味で、生まれてく る子どもの人権侵害が現実に起きているわけです。身分が非常に不安定なのです。後で 離婚して訴訟になった場合に、財産相続の問題とかですね。  ですから、これは危険がそこに発生しているというふうに我々法律の専門家としては 言わざるを得ない。そういう法的な整備が全くなされていないままで、これがなし崩し にどんどんいろいろなところで行われるということになりますと、大きな社会的な問題 になる。今の加藤委員の認識はいささか間違っているのではないかというふうに私は法 律の専門家として考えます。 ○金城委員  私も全く木村委員と同じです。とにかく日本の法律というのは一応産んだ母が母であ るということですけれども、遺伝を基礎にしているわけです。ですから、本当にどんな ことが起こるか分からないということです。精子や卵の提供を認めるとしたら、法律の 改正は不可欠なのです。そういうことをしないまま提供精子による人工授精は問題が起 こらなかったらこれも問題がないだろうというのは非常にいい加減ではないかと思いま す。ですから、そういう身分的に不安定な子どもをつくるような、子どもの人権という ことでは一番大切なことだと思いますので、それについてきちっと整備が整うまでは、 やはりモラトリアムというのが大切だと思うのです。  ただ、そういうことでモラトリアムというのが非常に難しいとおっしゃるのであれば 宣言でもいいと思うのです。お医者さんの良心に訴えて、そしてこれは暫くやめていた だくということでもいいと思うのですけれども、何らかの意思表示をしない限りは、日 本は何でもやってもよろしいということで、代理母までもエスカレートする可能性は非 常に高いというふうに考えております。 ○高久部会長  これをもしモラトリアムするとすれば、AIDも同じ議論でモラトリアムをしなければな らないことになりますが。 ○金城委員  AIDの場合は、そうはいっても日本産科婦人科学会の方で一応認めているわけです。日 本産科婦人科学会の方で法律改正について問題にすべきでしたけれども、この提案をし ていない。そういう意味では少し問題はあると思います。しかし、日本産科婦人科学会 の会告に反してやるということになれば、本当に混乱状態で、日本では何をやっても問 題はないのだということになりかねないので、ここら辺で1つ基準は出しておかなけれ ばいけないのではないかと思います。 ○高久部会長  ですから、専門委員会を作って、専門委員会では第三者の配偶子提供だけではなくて 出生前診断の問題から受精卵の診断の問題、今の代理母の問題なども広く議論していた だきたいと思っています。結論の順番では第三者の配偶子の提供の問題について一番先 に出していただきたいと思います。専門委員会としては生殖医療に関する全ての問題を 検討していただいて逐次報告していただいて、ここで皆さんの御意見を伺って、厚生科 学審議会に報告をしたいと考えており、そういう意味で専門委員会の報告を急いでいる というふうに考えています。第三者からの配偶子の提供は親子関係の点で法律的に非常 に危険であるとすれば、それはAIDでも同じことが言えているのではないかと思いますが 木村委員そうではないですか。 ○木村委員  AIDの場合にはartificial insemination by donorですけれども、これは長年にわたっ て、それこそ慶応義塾大学の安藤教授から始まって行われてきて、ある程度社会的に定 着している医療としてなされてきたわけですね。ただ、勿論日本産科婦人科学会が昨年 になって事実上認めるという会告を出したわけですが、AIDのレベルでの精子の提供と卵 子の提供とは本質的に極めて違う側面がありまして、卵子の場合には、提供する母体に 割合に大きい侵襲が加えられると。精子の場合は非常に簡単に採取できるということも ございますし、それから法律的な面で、女性の卵子の提供によるいろいろなそれに伴う 法律的な対案が、いろいろな形で、いろいろな国から出てきている現状から、例えば、 それをやらないという国も御存じのようにございますし、やるという国もございますし 非常に議論が分かれているところなのです。AIDについては比較的世界の諸国ではこれを 受け入れている国が多いという現状もございますので、事実上社会的に定着されている というふうに国際的には一応受けとめられている。しかし、卵子の提供の場合とは本質 的に法律的な問題も含めて違うというのが私の認識です。 ○廣井委員  今、木村委員がお話しのように、今回の場合、精子提供の体外受精というのはそれほ ど大きな問題ではないかもしれませんが、やはり卵子の提供は将来には代理母にもつな がる問題で、その辺のことを含めると日本産科婦人科学会ではかなり深刻に考えている と思います。ですからそういう面で、何らかの形でこの部会が結論的な、当分の間凍結 してくれというような形のものを出せれば理想なのですけれども、なかなか難しいとす るならば、私としては早く専門委員会をつくっていただきたいと思います。その専門委 員会の中に、できたら日本産科婦人科学会とか、日本母性保護産婦人科医会とか、それ ぞれ専門学会などがありますから、学会から何人かを代表に選んでほしいとお願いしま す。 ○柴田委員  先ほどモラトリアム反対の意見を述べましたけれども、これは規制に反対なのではな いです。先ほど森岡委員、加藤委員の言われたのとは少し違う意見でして、私は何らか の規制をすべきだとは思うのです。だからこそ逆に早く結論を出した方がいいという意 見で、逆に決められないならば、そういうものは何も出せないというならばモラトリア ムという形の1つの決定を出すというのは1つの選択肢だと思うのですけれども、そう ではないのではないかというふうに思っているのです。出せないからとか、あるいは意 見が分かれているからというのではなくて、むしろ結論はどうなるかはともかくとして きちっと出した方がいいと思うのです。その結論に対して、逆に言うといつ出すという ことがはっきりすれば、その間はモラトリアム宣言というのは宣言とは言わなくても、 当然それこそ委員長談話でも何でもいいと思いますけれども、その間は医師の良心に訴 えて、待ってほしいということを言っていいと思うのです。  心臓移植のときでも、別に脳死臨調が審議している間、その結論が出るまではだめだ ということがあったわけではないけれども、やはりその間はなされなかった。その次更 には法律をつくるとなって、法律が審議されている間は実施されないというのは普通の ことなのだと思います。次へのステップがはっきりしていればですね。ですから今回の 場合はそこをはっきりさせることの方が大事だという意見なので、決まりそうもないか らとか、それをしない方がいいという意見ではないということだけ申し上げておきます ○金城委員  脳死とこの問題はすごく違うのです。脳死の場合は臓器移植法ができる前にもし行っ たら、お医者さんは殺人罪に問われるかもしれなかった。告発されたもの全部不起訴に なりましたけれども、そういう危険性はあったわけです。ですから、モラトリアムなん てかける必要はなかったわけです。でもこの問題は全くそれを規制するものはないわけ です。ですからなし崩し的に何をやってもいいという状況に日本をしないためには、や はり何かの形での表明が必要だと思うのです。  それからこれはすごい問題を含んでいると思います。どこの国でも1年か2年かけて、 それも本会議のように一月に1回というようなことではなくて、毎日、毎日夜中までやっ たというようなこともあるぐらい非常に議論のある問題なのです。ですから、本当に今 年中にというような期限を切るとしたら、審議をするについては物すごい時間をかけな ければいけないというようなことにもなります。そういうところはどのぐらいでやれる というふうにお考えなのでしょうか。 ○高久部会長  それは分かりません。我々としては専門委員会の方に少なくとも第三者からの配偶子 提供については早く意見を出していただきたいということしか言いようがないと思いま す。生殖医療の問題は非常に難しい問題で、それで前回、拡大委員会というようなこと も議論されましたが、委員の数が余り多くなるとますます議論がまとまらない可能性も あると思いまして、それで比較的少人数の、しかし、いろいろな分野の方の入った専門 委員会でなるべく早く結論を、少なくとも一部については出していただきたいというふ うにしか現在言いようがありません。  今の木村委員、金城委員の御意見はもっともな御意見ですので、事務局と相談して何 らかの形で、この部会でそういう意見が委員の方々から出たということをメディアに公 表したいと思います。モラトリアムをしたいという意見が大分出たと。正式に部会や厚 生科学審議会がモラトリアムをかけて、実際にある先生がそのすぐ後にやられても我々 としても何もできないとすると、何のためのモラトリアム?ということになるから、こ の部会の中でモラトリアムという意見がかなりの方から出たということを公にするぐら いしかできないのではないかと思います。 ○柴田委員  私もそう思います。ここでモラトリアムの議論をして、むしろモラトリアムが反対と してやらないことになったというのは非常にまずいと思うのです。そうではないという ことははっきりするようにはしてほしいと私も思うのです。モラトリアムの意見の反対 が強くてできなかったと。それではということになってしまっては何のためだか分から なくなるので、むしろそうではないということを明確に出していくということを期待し たいと思いますので、今の部会長の御意見で結構だと思います。 ○木村委員  これは学会でのルール違反ですよね。ルール違反を取り締まれなかったわけで、要す るに正面から踏みにじって、それで居直っているわけです。ですからそういう中で自分 が非配偶者間体外受精をしたと宣言したりとかいろいろやっているわけで、これはやは りそういうルール破りが、患者のニードに応える形の、医師が自分の信念でこれをやる みたいな英雄気取りになってきますと非常に大きな問題なのです。  バイオエシックス的な倫理の発想というのは、個人の倫理のレベルを今、超えている わけです。  社会的に例えば、男性として、女性として家族をつくり、子どもを持ってということ がどういうような意味を持っているかということが根本から問われている時代に我々は 生きているわけですし、様々な専門分野の人々を含めた慎重な論議を踏まえた新しい展 開にしていくために、やはり社会的なパブリックなディベートが必要なのです。今度専 門委員会をつくるということですが、何とかしてこれをオープンなディベートでやると いうことにしてもらいたいと思います。  その専門委員会をつくるにあたっての道筋としてやはり「部会長談話」という形で医 師の良心に訴えるというか、我々としてはこうこうこういうことがあった、ということ をはっきりと明示していただければ大変に意味があることだし、そういうルール違反を やれば、マスメディアの方々が、モラトリアムが出されたにもかかわらずこういうこと をやったということは何だということで、学会とはまた違ったレベルの社会的な取材、 その検討、今後の展望ということはできるわけですので、そういう点で非常に意味があ る、ステップを1つずつ押さえていく必要があるのではないかと思います。  確かに森岡委員の言われたような、ある程度時間がかかるというのは当然だと思うの ですが、そしてウォーノック委員会もそれは時間がかかってやったわけですけれども、 社会的なインパクトは極めて大きいわけです。ですから、私どもはタイミングの対応を 誤ることなしに的確な発言をしていくということが先端医療技術評価部会の役割ではな いかというふうに思うものですから、是非ここで部会長の御決断によりまして、談話な り何なりを出していただければというふうに思います。 ○高久部会長  事務局の方と相談いたしまして、そういう形をとりたいと思います。それではそろそ ろ終わりの時間になりましたので終わりたいと思います。よろしいでしょうか。  どうも本日はありがとうございました。これをもちまして、閉会といたします。                                 (以上) 問い合わせ先 厚生省大臣官房厚生科学課 担  当  須田(康)(内線3804) 電  話 (代表)03-3503-1711   (直通)03-3595-2171