98/07/08 第8回精神保健福祉法に関する専門委員会議事録 公衆衛生審議会精神保健福祉部会 第8回精神保健福祉法に関する専門委員会 議事録                                      厚生省大臣官房障害保健福祉部精神保健福祉課 議 事 次 第   日  時  平成10年7月8日(水) 16:00〜19:46   場  所   厚生省特別第一会議室(7階)   会議次第    1 開 会    2 議 事    (1)触法精神障害者について    (2)国立病院の役割について    (3)応急入院と精神科救急について    (4)仮入院と仮退院について    (5)その他    3 閉 会 ○座 長  それでは、第8回の専門委員会を開かせていただきます。  まだ、ちょっとお見えになってない先生方もおられますけれども、とりあえず時刻を 過ぎましたので始めさせていただきたいと思います。  いつもながら、各先生方におかれましては、お忙しいところをおいでいただきまして ありがとうございます。大分暑くなりましたし、ちょっと頭の回転が鈍くなるようでし たら、なるべく休みをとって話を進めたいと思っています。よろしくお願いいたします。  それでは、まず人事の異動があったようでございますので、事務局からご説明いただ けませんでしょうか。 ○事務局  7月7日付で、我が障害保健福祉部の部長及び精神保健福祉課長が異動となりました ので、紹介をさせていただきたいと思います。  まず、今田障害保健福祉部長よりごあいさつをいたします。 ○今田部長  ご紹介をいただきました今田でございます。7月7日付をもちまして、前篠崎部長の 後任ということで拝命をいただきまして、こうして皆様方にごあいさつする機会を得ま した。私自身は16年前に厚生省に入ったんですが、それまで精神衛生センターに勤めて いまして、約7年ぐらい勤め、その後、厚生省に入りまして、精神保健課の課長補佐と いうことで入省した経歴もございまして、先生方のこういった話題につきまして何かと 興味深く感じて今日まできたわけでありますが、それ以来、厚生省で十数年精神衛生に 関してのポストに就くことなく転々としておりましたけれども、奇しくもこうして2年 前にできましたこの部、精神保健課が仲間入りして、そうしてできたその部にこうして 着任できたということも何かのご縁ではないかと思っています。  当時、保安処分問題で大変世の中の騒々しい時代を思い浮かべるわけでありますが、 それ以来、当時、精神衛生法が改正をなされて、新しく衣がえをして今日に至ったとい うことでありますが、なお、当時から新宿のバス放火事件以来の問題として、やはり触 法問題というのは古くて新しい大きな課題として延々と続いているわけでございますし その1つのきっかけとして5年の改正に合わせまして、5年後の見直しに当たっての1 つの大きな課題ということで本専門委員会ができたということのようでございます。  そういうことで、いよいよその5年目を迎える段階にきたわけでありますが、本日を 含めてあと3回程度お願いするということでございますが、できれば8月中には中間的 な取りまとめをさせていただければありがたいというふうに思っております。その後、 公衆衛生審議会の方にお諮りをして御議論いただいた上で、できれば、お約束どおり5 年という1つの節目の中で、何らかの法的対応できればと、このように考えております。  私もそういう意味で微力ではございますけれども、精神医療の充実という視点に立っ て尽力していきたいと考えておりますので、これからもどうぞよろしくご指導いただき ますようお願いを申し上げまして、簡単ではございますけれども、ごあいさつにかえさ せていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。 ○事務局  引き続きまして、三觜精神保健福祉課長よりお願いします。 ○三觜課長  私も、今、今田部長の当時、精神衛生課でありましたけれども、54年から56年、3年 間おりまして、補佐時代は今田部長の前任に当たります。連続しておりますので、時代 状況、新宿のバス放火事件は私の在任中でありましたし、そういう保安処分の問題で法 務省といろいろとやり合った経緯も今思い出したわけでありますけれども、同じく精神 衛生課から離れてから十数年、精神障害者の問題、周りから見ていたという程度であり ますけれども、久しぶりに現在精神保健福祉課が抱えておる問題見ましたところ、基本 的な問題は延々と続いているなと。これが今部長が、今度法改正するということで一挙 に解決するような力強いお言葉があったわけですけれども、この課題はこの2人ででき るかどうか、まだ断言できないところもありますけれども、私としては長年の課題を解 決できるものはこの際やっていきたいと思いますし、2年後は2000年ですから、21世紀 に向けての新しい精神医療というものが国際的にも通用するような形で皆さんのコンセ ンサスを得て、そういった法律改正ができれば、この職に就いた意味があるかなと考え ているようなわけであります。  非常に難問が山積しておりますけれども、部長ともども十数年来あたためてきたこと を、この際どこまで実現できるかわかりませんけれども、微力ではありますが、精いっ ぱい働かせていただきますので、先生方にもひとつよろしくご協力をお願いいたしまし て、着任に当たってのごあいさつとさせていただきます。今後ともよろしくお願いしま す。 ○座 長  どうもありがとうございました。  それでは、議事に入りたいと思いますけれども、まずは事務局から資料についてご説 明をいただきたいと思います。 ○事務局  わかりました。まず、配布資料となっている資料でございますが、確認させていただ きます。  資料1が、「触法精神障害者対策について」の(検討メモ)でございます。  資料2が、「措置入院に係る国公立病院の役割について」の(検討メモ)でございま す。  資料3が、「応急入院と精神科救急事業について」の(検討メモ)でございます。  資料4が、「仮入院と仮退院の必要性について」の(検討メモ)でございます。  資料5が、「措置入院の概要」でございます。  資料6が、「措置入院の手続の流れ」でございます。  資料7が、「精神障害者が犯罪を犯した場合にとられる刑事手続」でございます。  資料8が、「法務省の保安処分案」でございます。  資料9が、「精神科医療における他害と処遇困難性に関する研究(抄)」でございま す。  資料10が、「処遇困難患者に関する中間意見」でございます。  資料11が、「精神障害による犯罪の状況」でございます。  資料12が、「精神障害者の犯罪に関する分析」でございます。  資料13が、「諸外国における強制入院制度等」でございます。  資料14が、「北陽病院事件について」でございます。  資料15が、「公的病院と民間病院の措置入院患者比率」でございます。  資料16が、「公的病院と民間病院の比較」でございます。  資料17が、「指定病院における措置入院受け入れ状況」でございます。  資料18が、「精神保健対策に関する調査結果報告書(抄)」でございます。  資料19が、「精神科救急入院形態別患者数」でございます。  資料20が、「精神科救急事業について」でございます。  資料21が、「応急入院と精神科救急事業の対比」。  資料22が、「精神科救急医療に関する研究」。  資料23が、「大都市における精神科医療のあり方に関する研究」。  資料24が、「仮退院の状況」。  資料25が、「仮退院届が提出された症例」でございます。  また、あとそのほかに、本日、お話しいただく保健所の方から提出していただいた 「保健所の精神保健相談」と、委員から配布をいただきました「犯罪を犯した精神障害 者の処遇について」と日精協雑誌がございます。非常に資料が多いんですけれども、欠 落等がありましたら、事務局の方までお申し出ください。以上です。 ○座 長  ありがとうございました。いかがでございましょうか。資料はとりあえずそろってお られますか。 ○座 長  それでは、ここのところ何回かずっと続けておりますが、審議に入る前にいろんな 方々のご意見を承ることの1つで、本日は保健婦さんの現場の方からお声をいただこう と思ってお招きをしてございます。それでは、よろしくお願いします。 ○保健所  きょうは会にお招きいただきましてありがとうございます。多摩地区で行っておりま す保健所の精神保健相談について、実情と問題点などをお話しできれば大変ありがたい かなというふうに思っております。  多摩地区の保健所の精神保健活動ということで、初めに推進体制ということですが、 東京都では、地区担当制をとっておりまして、すべての保健婦が精神保健活動を行って おります。保健所は12カ所で、1ヶ所平均保健婦は15人から20人ぐらいです。地区の担 当人口は2万 5,000から3万人ぐらいというふうな地区を担当して、そこの中での健康 問題について相談を承っております。  平成9年度から、精神保健の専任係長が置かれまして、対応困難な事例についての地 区担当保健婦のバックアップですとか相談とか、ネットワークを図るためのコーディ ネート、また管内にありますいろいろな社会復帰施設への支援とか、精神保健福祉の体 制整備全体を考えながら地域と連携していくというふうな活動が機能強化されました。  それから、保健婦が精神保健福祉相談員の資格をとり、精神保健相談を担当していま す。現在、保健婦の約8割がこの研修を受けて資格を取っております。  平成9年度の地区活動の実績といたしましては、精神保健相談数ですが、家庭訪問が 表にあるとおり、延べ人数で1万 2,059人、面接、その他、ここに書いてあるとおりに なっております。平成4年度、5年前を 100とした場合の変化ですけれども、それぞれ 増えておりますが、特に関係機関連絡などについては大変増えております。地域の関係 機関は、病院、福祉事務所、市の健康課、民生委員さん、さまざまな機関がありまして 地域でのネットワーク化が進んでいるというのでしょうか、いろいろな心の悩みや問題 を抱えている人に対して地域のいろんな関係機関が協力しながらかかわるといった体制 が進んできていると思います。訪問の割合ですけれども、全体の割合の48%がこの精神 保健にかかわっています。 次に「受診に関わる相談の現状」ということでお話ししたいと思います。 相談者にとりましては、保健所の相談は、本人とか家族以外の人でもできるというこ とが大変大きな意味があると思いますが、近隣の住民であったり家主さん、民生委員さ ん、ヘルパーさん、福祉事務所のワーカーさん、その他、関係機関さまざまな方から、 「こういう人のことが心配です。」「こういう人にかかわっていてうまくいかないけれ ども、一緒に考えてほしい。」というふうなことで連絡をいただきます。 ご本人、家族の相談の場合ですけれども、直接保健所にいらっしゃる方もいますが、 保健所を知らない方もたくさんおります。地域の関係機関、市役所ですとか警察等、そ ういうところに相談する方が大変多くて、そこから精神保健の問題は保健所というふう に紹介されて保健所にいらっしゃいます。その他、学校や会社などで紹介されていらっ しゃる場合もあります。 単身者の問題では、周囲の人が大変困ったり心配しているけれども、本人との関係が つくれなくて苦労することがたくさんあります。東京は地方出身で単身の方が比較的多 いのかと思いますが、家族から「具合が悪いという通報を受けて上京したけれども、本 人がうちに入れてくれない。今日中に何とかしなければいけない。」というふうな、せ っぱ詰まった相談などがありますが、初めてのかかわりですし、大変苦慮することが多 い現状です。  相談の内容としてどんなものが多いかといいますと、「これまでと様子が違う。精神 病ではないか。」とか「病院に連れて行きたいと思うけれども、連れていけない。」 「どのように対応すればよいか。」といった精神病発病時の相談と、「服薬中断などに よって再発して、状態が悪いけれども、病院に連れていけない。」「状態が悪くて本人 といろいろなトラブルがある。」そういうふうな相談が多くなっております。  “こころのSOS”ということで、これは平成5年に都の衛生局でまとめたもので、 保健所保健婦が相談を受けたものの中から緊急事例についてまとめたものなんですけれ ども、その中では、家族からの相談の場合に、「入院、受診、服薬を本人に説得してほ しい。」といった内容が69%、住民からでも同様です。関係機関からでは44%くらいあ りました。ご本人からの相談でも、具合が悪くて「入院させてほしい、往診してもらえ る病院を紹介してほしい。」といった相談もあります。  具体的に相談を受けたときに、どのようなプロセスで対応するかということと、その 内容ですけれども、家族が相談者である場合と、家族以外が相談者である場合とで対応 方法が変わってくるかと思います。  家族からの相談である場合は、相談にいらっしゃった家族とのよい相談関係が持てる ということがとても大事になるというふうに思います。抱えている不安を受けとめるこ とで、家族が冷静さを取り戻せるということもしばしばあります。精神的な病気では、 これまで経験したことがないいろいろな症状とかトラブルが起きるものですから、「何 が起きたんだろう、どうすればいいのだろう。」というのは家族の大きな不安と悩みに なります。相談を受けた保健婦は家族の話から、状況を把握して緊急性を判断します。 やはり医療が必要ではないかというふうに考えたときには、どのようにして医療機関に 結びつけようかといったことを家族と一緒に考えます。家族は「保健所の保健婦に入院 させてもらえる。」というふうに思って期待していらっしゃる方も比較的多くいます。 でも保健所はそういう役割はできないわけですので、家族の焦りに巻き込まれて、これ はすぐ入院しなければいけないというふうに考えないで、状況をよく把握して、間違い のない判断をしなければいけないというふうに考えています。できるだけ本人に会う努 力をします。  本人を支援するプロセスをいかに根気よく熱意を持って行えるかが、そのときは本人 の状態が悪いことが多いので、「そうですか。」という本人の納得は当然ありませんが 退院後の信頼関係とか、医療が継続するなど、長期的に見て効果が上がるということを 経験しております。  本当に病気なのかとか、どのようにすべきかというふうな判断に迷うときや、専門的 判断が必要なときは精神科の医師の相談も活用いたします。多摩小平保健所では月に8 回の精神科医師の相談日が設けられておりまして、患者さんや家族はもちろんですが、 私たちもこういうことについてどうしたらいいだろうという相談を持ちかけることがで きます。  それから、日ごろのネットワークの中で、地域の医療機関とはワーカーさんはじめ先 生方ともいろんな意味で連携がとれておりますので、受け入れを依頼するなどして、緊 急性との兼ね合いを考えながら、できるだけ本人にとって無理の少ない形で受診できる ようにといったことを考えます。そのためには多大な時間とエネルギーが必要です。な かなか本人とコンタクトがとれなかったり、あるいは拒否されたり、そういうこともし ばしばあります。ただ、長くても無理のない形で相談をしていけばいいというふうには 考えておりませんで、状態がひどく悪くなると、その間に家族の疲労が大変ひどくなっ たり、あるいは大きな声を出したり、暴れたり、そういったことで周囲の人とのトラブ ルが大きくなって、そこの場所に住み続けることが困難になるとか、家族が本人との関 係を非常に悪くしてしまいその後の人間関係が非常にまずくなる、というふうなことも ありますので、そのあたりの判断というか、兼ね合いが大変苦慮するところです。  また、家族が高齢のためとか、家族の関係が切れているとか、ご本人の状態が非常に 悪いとかということで、病院に連れていくことができないとか、単身の場合などやむを 得ないと判断したときには保健婦も強制的にというか、本人は納得しないけれども、家 族に手伝ってもらって病院に連れていくこともあります。  次に、家族以外から相談があった場合については、近隣住民とか家主さんからが多い と思いますが、苦情として持ち込まれた場合には最も困難な相談になることが多いと思 います。相談をしてきた方の訴えをよく聞いて、それをしっかり受けとめることが当面 大切になります。内容、問題状況を判断して、所内でカンファレンスの機会を持つなど してできる支援の方法を考えます。  近隣の不安が強いとき、住民の人は「一体何が起きているのだ。」「保健所はどうし てくれるのだ。」「自分たちの人権も。」というふうにしばしばおっしゃいます。住民 に対して説明会を開いて理解を求めるなどすることがあります。保健所が訪問している ということで不安が軽くなることもあって、少し見守ってくれるといったこともありま す。  状況によっては、本人とか家族を訪問して働きかけることがありますが、なかなかう まくいかないことが多い現状です。  私たちだけではできないことがたくさんありますので、地域の共に支援する関係者、 市役所のワーカーさんだったり、高齢福祉課の職員であったり、また病院のワーカーさ んだったりしますが、協力者を探して一緒に働きかけるようにということを試みます。  そういう中で、今後の課題として感じていることは、医療を必要としている患者さん の受診の問題です。相談を保健所が受けて、訪問その他、働きかけを行っておりますが 実際には受診に結びつけられなくて、相談をしながら、「あるいは警察官通報で入院す るようになってしまうかもしれない。」などと思うこともしばしばあります。現実に最 終的に24条通報で入院になることがあります。私たちの力ではどうにもならない問題だ と思う部分がありますが、大変残念でもありますし、本人とか家族の苦しみも本当に大 きいものがあります。このことについては改善していかなければならない問題だという ふうに考えています。もっと受診に結びつけられるように考えていかなければと思いま す。  対策を考えるときに、具合が悪い人がいるから、例えば保健所に搬送のシステムです とか、あるいは無理やり連れていくというふうな、そういう権限をもし与えて、治療に つながればいいと考えただけでは問題の本当の解決にはならないのではないかと考えて います。かつてそういう時代がありましたけれども、そういう時代に逆戻りするとは思 っていませんが、医療や支援者への不信を生むもとになる危険を持っているというふう に思います。ご本人は状態が悪いときであっても熱意を持って根気よくかかわろうとし た姿勢は、後で本人との信頼関係のところで生きてくることを私たちは実感しています。 でもそのためには、かかわるためのマンパワーが増えなければ、そういうふうに根気よ くかかわることは現実には難しいかと思います。ですが、医療に結びつけたとしても、 もし入院したとしても、多くの場合、入院は2カ月とか3カ月の短期間です。その後は また地域に帰ってくるということを考えると、いいシステムができなければならないと 思います。保健婦の役割として、“受診援助”は精神障害者が地域で生活していくため に医療を保証する。そのためにみずからの意志で受診することができないときに医療を 何とか受ける。そのための支援だと考えています。ですから、退院後、支援者との信頼 関係が持てなくなったり、医療不信に陥ったりしないで、医療が継続的に地域生活を全 体として支援することができるようにということを考えながら、医療に結びつける前の 段階でも保健所がコーディネート機能を発揮して、例えば病院や診療所、保健所の嘱託 の先生、福祉事務所、それ以外のさまざまな機関と連携してそれぞれが役割を果たして どうすれば一番いいのかを一緒に考えながら、やはりこれは医療に結びつける今時期だ ろうとか、その中で退院のときまでもしっかり考えておく。退院後の生活支援について も考えながら医療に結びつけることが大切ではないかと思います。  難しい相談ほどそのままうもれ落ちていってしまいやすいというふうに日ごろ実感し ているものですから、そういう体制をつくるためには、私たち保健所の中でも保健婦が 頑張るだけではなくて、所長、課長を含めた所内の体制を保健所としてつくっていくこ とが必要だと思います。この場合地域の病院からの歩み寄りというのか、病院の役割も 大きいかと思っております。地域の関係者が力を合わせて、困難な問題ではありますが 受診にもう少し結びつけやすい体制を全体的につくっていければいいかなというふうに 思います。  私たちも本当に日々悩んでおりますので、今後も考え続けていきたいと思いますし、 いい方法を工夫していきたいと思います。保健婦の技術の向上もとても大事なことだと 思っておりますので、そういう面でも頑張っていきたいと思っています。ありがとうご ざいました。 ○座 長  どうもありがとうございました。 それでは、ご質問・ご意見をいただき、お答えいただいたりすることにさせていただき たいと思います。それでは今のご報告というか、お話にご意見、いかがでしょうか。 ○委 員  現場での非常に大変なお仕事を今お聞きしまして、保健所のお仕事の大変さを教えら れました。1つお聞きしたいのですが、それは、患者さんを例えば訪問し、その患者さ んを受診に結びつけなければいけない時に、それがスムースにいくためにはどんなシス テムをつくっていくことが必要かお考えをお聞かせ頂ければと思います。 ○座 長  いかがですか。 ○保健所  まだ十分考えていなくて、本当に考えが浅くて申しわけないと思いますが、1つは病 院の側というか、例えばお医者さんがもう少し地域にも出ていただける場面があると、 それは1つとても大きいことかなと思います。例えば、多摩地区には精神保健福祉セン ターに、精神科のドクターと保健婦と事務の方が1人いて、3人が1チームで老人班と して、受療が困難な家庭に訪問して診断と今後の方向づけということで家族の相談に乗 り、方向づけについて助言してくれるといったシステムがあります。  そのほかに、老人精神保健相談というのもあるんですけれども、訪問してもらった場 合問題解決に向け事態が大変動いていくというのでしょうか、現実に対応が一歩進んで いくということを感じておりますので、そういったようなものがあれば、それも1つ大 事かなと。保健所の精神保健相談のドクターは訪問してくれております。やっぱり保健 所に来ることが困難という場合には訪問してくれておりますけれども、それも1つかな と思います。 ○座 長  よろしいですか。 ○委 員  はい。 ○座 長  委員も十分よくご承知の上で今お話を承ったのだと思いますけれども、今、東京都の 制度の中で老人班という話が出ましたけれども、これはたしか昭和62年か、63年に設置 されて、今、お話が出たようにドクター1人と看護婦さん1人、それに事務の方、3人 でちょうどフライングドクターをやるわけで、どこへでも飛んでいくと、そんな制度を つくったのがもうちょうど10年になりますね。そんなことを今頭に置いてお話をいただ いているわけです。 ○委 員  少し教えていただきたいんですが、保健所の人口、ひょっとしてお話になっていただ いたかもしれませんが、人口と病院へ連れていくことに協力することがあると。年間に 何件ぐらい大まかにあるか、それが1つ目です。  それから、その次が地域の人たちが待てる時間、例えば1カ月なのか2カ月なのか。 地域の人たちがおおむね待てる時間というものをどんなふうに感じられるかということ が2つ目。  それから、私も精神保健福祉センターにいたときの経験で思うのが、受診に連れてい くという意思決定するときに苦しいものがあると思います。その意思決定を考えるとき に、例えば複数の医師や弁護士、ソーシャルワーカーのベテランの人だとか、何人かの そういう会議を経て決めることがもしできれば有効なのかということとか、ちょっとそ の辺を教えていただけますか。 ○座 長  ではお願いします。 ○保健所  保健所の人口は平均はわかりません。多摩地域は人口、380 万で12の保健所です。私 たちの多摩小平は34万ぐらいです。強制的に連れていく人数についてははっきりしたこ とはわかりません。そう多くないと思います。例えば、多摩小平保健所で年間に10人に はならないのではないか。16人の保健婦が働いておりますので、すべてよくわからない のですが、そんなに多い数ではないと。でも私も実際につい先ごろも、それも本当にや むを得ないと思いますが、そういう場面がありましたし、それくらいの数かなと思いま す。  待っている時間ということについては、これも本当に難しくて何十年もトラブルを起 こしていらっしゃる方がいて、それはどういうふうに考えればいいのか。医療といって も、服薬治療ですから、退院した後の治療が続かなければ難しいですし、そういう意味 では、どういうふうに考えればいいのかわかりません。何十年も地域とトラブルを起こ しながら、時どき保健所に相談をしながらやっていらっしゃるといった方がいます。  かなり問題が深刻で生活が脅かされるといった相談については、1カ月か2カ月ぐら いではないかと考えます。  「こころのSOS」という平成5年にまとめたのによりますと、百二十何例かの、緊 急と考えられる事例の中で、何らかの解決が見られたのが、9割が3カ月以内でした。 それはすべてが受診ということではないと思いますが、何らかの形で解決が見られたと いうことで、やはり深刻な問題についてはそれくらいで解決が図られないと、問題は持 ちこたえられないと思います。1週間以内が26%ぐらいだったと思いますので、より深 刻な問題は、その日とか、あるいは1週間以内が現実になっているのかと思います。  もう一つ、意思決定のときにいろいろと相談に乗ってくれるシステムが、さっき弁護 士さんとか、お医者さんとかとおっしゃいましたが、そういうシステムは大変有効では ないかと思います。解決を求められている問題を保健婦1人が抱え込んだり、あるいは 保健所の中の数人で悩むのではなくて、そういう場があれば、本当にいいのではないか と思います。その次の医療のためにもつながるかと思います。 ○座 長  ありがとうございました。よろしゅうございますか。 ○委 員  はい。 ○委 員  今のことに関連してなんですが、もし有効な意思決定機関があれば、そういうシステ ムがあれば、保健所に搬送システムがあってもよろしいと考えていますか。 ○保健所  まだ十分議論してないので、保健所にというふうなことで、私はちょっとお答えはで きないと思いますが、現実には患者さんの家族の車で行ったりとかタクシーを使ったり とか、いろんな形でやっておりますので、保健所にそういう車があることと変わるのか 変わらないのかなというふうに思って、ちょっと私ひとりでは答えられません。 ○座 長  どうですか。 ○委 員  車があるとか、ないとかというだけの問題ではなくて、要するに適切な急性期の患者 さんでどうしても入院が必要な方については、先ほどの事例の中でもトラブルがあって 困るわけですね。それが多々見られません、この中に。それで、そのことをどうしたら いいかということでこの課題として悩んでおられるわけですね。その課題の中で、先ほ どのご報告の中で、保健所に搬送システムを付与するというだけでは問題は解決しない というふうにおっしゃられましたね。でも、そういうシステムが何らかの形であると聞 いたように、有効なことが想定されるからおっしゃったんだと思うんですね。  そうすると、そんな場合には、先ほど申し上げましたように、有効な意思決定機関が あって、この人が今入院させた方がご本人のためにもいいんだということであれば、そ ういうときに車という搬送システムではなくて、この機関が、それは保健所とは言いま せんが、何らかの形でそういう搬送システムがあった方が、地域社会のためにもご本人 のためにもよろしいかどうかということでございます。 ○保健所  私、十分深く考えてない部分でもありますので、ちょっと責任持ったことが言えませ んが、保健所はやっぱり行政機関ですので、そういうあたりの役割は、あるいは行政機 関が負うべきかなと思ってはおりますが。 ○保健所  この辺は十分に論議してないところなんですが、どこが最終的に意思決定機関になる かということはまだちょっと分からないんですけれども、そういうふうになったときに も、本当に必要なことは、さっき野呂さんが言っていたように、地域の本当に関係者が 全部いろいろな役割を果たして、そして全体でやっぱり意思決定ができるということが 大切だなと思っています。そういう条件があれば、個人的な意見になるかもしれません けれども、医療が出っ張っていただいても私は構わないんじゃないかと。今まではそう いう条件がない中で医療が出っ張ってくることのいろいろな問題が生じてきたんだと思 うんですけれども、そういうふうな地域の条件がきちんと整えば、そこで医療が出っ張 ることについては有効ではないかなというふうに思っています。 ○座 長  わかりました。ありがとうございました。ほかに、どうぞ、 ○委 員  ほかの都道府県というか、県のレベルの保健所だと同時にこういう受療相談の場合と 通報を扱って、要するに措置も扱わなくちゃいけないんですね。東京の場合はそれが違 うと思うんですが、措置をやるか、やらないかということと受療相談の部分と、今お話 していた部分のかかわりみたいなもののもしお考えがあれば、聞かせていただくとあり がたいんですけれども。  つまり、措置にかかわることと、ほかの保健所だと、こういう受療相談を受けると同 時に通報も受けて動くということがあるわけで、そこのところの切り分けが少し難しい ところがあるんです。そのあたりについてご意見があれば。 ○座 長  東京都の特有なところでもあるので、今、一般的にはどうだろうかということだと思 います。 ○保健所  全くこれは私見ですが、措置にかかわるようなことをもしやっていれば、それ以前の 予防のためにフィードバックできるかなと思います。というのは、相談をしていて、一 生懸命何とかして家族と病院に連れていっても、外来では患者さんは精いっぱいいい様 子をしますし、初めて見て、そこまでぐあいが悪いということは判断は難しいですから お薬もらって帰ることがあります。帰ってくると、夜に、おうちの3階から飛び下りた とか、あるいはとても病院へ連れて行かれたことが怖かったんだと思いますけれども、 おうちから逃げちゃって、外の飯場のようなところに行って、そこでトラブル起こして 措置入院になったとかというふうな事例は経験しております。  そういう意味では、24条のことと措置入院と、その前の相談というのはなかなか切り 離せない部分があると思います。だから十分なネットワークがあって、その方にとって 本当にいい医療とか、ただ、病院に連れていくだけではなくて、その後もしっかり考え られるというふうなシステムと協力があって、措置入院などのことについても、もっと 広く考えられるといいかなと。  措置入院の例では、50%ぐらいの方が救急の患者さんの中で、実は通院中であったと いうふうな統計が出ておりますけれども、私たち地域から見ると、通院中の中身が問題 だったかなというふうに、大変いい医療を受けて、お薬などもちゃんと飲んでいた方が そんなに救急にはならないのではないかなと。家族が薬だけもらいに行くとか、薬もら っても飲んでないとか、受診しているといっても中身はかなりさまざまですから、その あたりがもっと細やかに支援できればいいのかなと思っていますが、やっぱり決定的な のは、細やかなことをやるには人手が十分ないとできないということは間違いのないこ とだと思っています。 ○座 長  どうもありがとうございました。それでは、そろそろ時間でございますので、ご質問 もこの辺までにさせていただきます。どうもありがとうございました。               (保健所関係者 退室) ○座 長  それでは、本日の議題に入らせていただきます。本日は特に触法の精神障害者の問題 についていろいろとご議論いただくことになります。とりあえず事務局からご説明いた だきましょうか。 ○事務局  それでは説明をさせていただきます。まず、資料1の検討メモと、あと、資料5から 14番までを使用したいと思いますので、お手元にご用意ください。  まず、資料1を説明する前に、簡単に資料5以降の「措置入院の流れ」等について説 明させていただきます。資料6を見ていただいた方がいいと思いますので、それに基づ いて説明をさせていただきます。まず、「措置入院の流れ」ですけれども、まず措置の 診察に至るいろんな通報等があります。まず一般人による申請であったり、警察官、検 察、保護観察所長、矯正施設の長といった、いわゆる職権として義務的に通報しなけれ ばならないもの。また、都道府県知事本人の職権とさまざまなルートで措置診察のため の申請が上がっていきます。  その申請等を受けて都道府県知事は、それが措置の診察が必要かどうかという調査を することになっております。措置診察が必要であると判断する場合には精神保健指定医 2名による診察等を行うことになっております。その診察によって精神障害であって、 医療及び保護のために入院をさせなければ、自傷他害のおそれがあるという判断がなさ れた場合には措置入院という形で、また緊急性があって、2名による診察をやっていく 時間的余裕がないといった場合には1名の指定医の判定によって緊急措置入院といった 形で入院が行われることになっております。また、措置入院の考え方としては、経過を 見るために必要な仮退院といった制度もあるということになっております。  資料7を見ていただきたいのですが、これがいわゆる刑事手続と措置の通報等の流れ という中で整理させていただいたものでして、まず警察で保護をされる。警職法のいわ ゆる3条で保護される場合とそうでない場合もありますが、その中に24条通報されてい くといった場合もございますし、裁判の中で不起訴の決定をされた後、通報される。裁 判所の段階で心神喪失状態にあるという鑑定がなされて通報になる。また、実際に刑を 受けた後も執行猶予になるとか、刑を実は執行した後、その後に措置入院相当という通 報になる場合等もありますが、いずれにせよ、実際上は、かなり刑事手続を補完するよ うな形で措置入院が機能しているといった面はあると思います。これを踏まえて資料1 に戻らせていただきたいと思います。  また、事前に言っておきますけれども、私共は刑法というのは専門外なので、もしか したら間違っているところ等もあるかもしれないので、そのときはまたご指摘をいただ ければと思います。  まず、触法精神障害者対策の問題にある背景ですが、我が国の刑法体系において、い わゆる心神喪失者の行為は罰しないことになっております。また、心神耗弱者について は罪を軽減するといったことになっておりまして、精神障害による心神喪失状態にある 者が犯罪を犯しても罪を得ることはなく、そのような者に対して司法的な観点からの処 分が行われることはございません。  このような者に対しては、実質上ですが、精神保健福祉法第25条の検察官通報といっ た手続きを経て措置入院の対象となるのが通常であり、この結果、措置入院のみが、罪 を犯した精神障害者に対する実質上の処分となっている。しかし、自傷他害の症状が消 失したと医学的に判断されれば、措置は解除されることになり、また医療保護が必要に なったとしてもその症状が軽減すれば、退院が可能な状況になる。また、そういった観 点で心神喪失になってもすべての者が措置入院されるわけでもございません。  一方、精神科医療でございますが、ご存じのとおり、社会復帰の促進を図るというこ とが政策的な課題になっておりますので、院内においてもできる限り開放的な医療を行 い措置入院患者についても、できる限り早期に退院して地域医療に移行させていくこと が求められております。  しかしながら、一部の措置入院患者の中には、犯罪行為を繰り返したり、病院内での 行動に問題がある患者等がいると言われており、このような一部の患者のために病院全 体の開放化を妨げるというような事態があると言われております。また、このような患 者に対して開放的な処遇のもとで医療を行った結果が、入院中の犯罪行為につながり、 結果として病院管理者の監督責任が問われるような事件も発生しております。  詳しくは紹介いたしませんが、資料14に岩手県立の北陽病院で発生した事件がござい まして、これはまた後で見ていただきたいのですけれども、犯罪を繰り返していた精神 障害者が措置入院になった。当該患者について開放的な処遇を行っていた結果、その病 院を離院して、外部で犯罪を犯してしまったという事件でございます。この事件につい て裁判で本人の責任能力があるということを認められつつも、さらに病院側の監督責任 を問われて、1億 2,000万円というかなり高額の損害賠償の支払いが命じられたといっ たような事件等がございました。 このような事態の中で、例えば日本精神病院協会は、現行の措置入院の対象者を触法 精神障害者(具体的には重大犯罪を犯した者、法第25条による検察官通報を受けた患者 を第25条の2の保護観察所の長通報対象者)とそれ以外に分類して、前者にかかる入院 を特別措置として通常の措置入院と分けて国公立病院が中心となって対応すべきという 意見を提出しております。  以上が背景でございます。  それでは、精神障害者の犯罪の実態はどういうことになっているかということで、資 料11をごらんいただきたいのですが、昭和50年以降と最近の分しか手元になかったので 精神障害者の犯罪の状況を「犯罪白書」より抜き書きしております。これによりますと 例えば平成7年では精神障害者による犯罪は 1,667件、全体の0.57%ということになっ ておりまして、精神障害者数と人口の比率を勘案すると、精神障害者等による、等とい うのは精神障害のおそれの者も含んでおりますので、犯罪が特別に多いわけではないと 思われます。しかしながら一番右の7年の数字を見ていただければわかるんですが、放 火、殺人といった犯罪については、有検挙者数でかなり、17%、12%といった比率を占 めておりますので、こういった重大な犯罪については確かに精神障害者の占める比率は 高いということは言えると思います。  次に、特に問題になるであろう頻回反復して犯罪を犯す精神障害者ということで資料 12をごらんいただきたいのですが、このことについて、犯罪精神医学の第一人者である 山上先生の著述と、山上先生の研究室におられました井上先生の論文を若干まとめさせ ていただいたのですけれども、精神障害者の犯罪に対する分析ということで、山上先生 が1980年の犯罪白書をもとに、80年1年で心神喪失ないし心神耗弱を認められたもの 963件を対象に追跡調査等を行っております。  最近のものでは、同研究室の井上先生が、946 例について、1991年3月31日までの追 跡調査を実施しております。その 946例の分類ですが、ここに書いてあるのは、殺人、 放火、傷害、窃盗、その他等の犯罪が多いと言われております。 また、山上先生の調査によりますと、そのうちの 320件を彼は調査されたのですが、 そのうちの36件が過去に4回以上の前歴を有するという中で、この36例については、そ の犯罪の前歴の合計が 320件と。心神喪失で不起訴になったときの犯罪を含めると 356 例を36人の精神障害者が犯罪を犯しているということで、罪種別に見ると、傷害罪が平 均 9.6件、性犯罪が平均 8.8件、殺人平均 8.6件、これらの重大な犯罪がしばしば反復 されているということがわかります。 2ページ目でございますが、その中身がその表でございます。  また、山上先生は1994年の全国の触法精神障害者全 1,130例についての過去10年間の 犯罪歴をまとめておられますが、これにつきましても表3でございますけれども、病種 別ですけれども、頻回して犯罪を繰り返しているケースが一定割合ですけれども存在し ます。  3番の、「犯罪生活の経過および年齢が罪質に及ぼす影響」について、山上先生の調 査によりますと、36例のうち10回以上の犯罪を繰り返したもの15例を対象に、犯罪歴の 最初の5回と最後の5回の罪種別検討というものをなさっております。その結果を見ま すと、最初の5件に比べて最後の5件は、時とともに犯行が重大化していっているとい う傾向があります。従来は精神分裂病者の犯罪については患者の罹病年数が増すととも に、あるいは患者の年数が増すとともにより危険性の少ない犯罪に傾くと言われてきま したけれども、このような犯罪を繰り返す場合には必ずしもこのような定説には当ては まらないのではないかという指摘をなさっておられます。  また、4番でございますが、山上先生の分析の中で、個々の事例における犯罪生活と 病歴との関係として、いわゆる犯罪を繰り返す精神障害者の中には、人格主導型犯罪生 活類型と、疾病主導型犯罪生活類型があるというご指摘をなさっております。  人格主導型というのは、元来の人格に犯罪傾向があって、しばしば少年時代から非行 犯罪を繰り返した後に、精神分裂病等に罹患して、その影響もあって、さらに犯罪を重 ねるということで、彼の調査では36例中29例がこれに該当する。  また、疾病主導型犯罪生活類型とは、少年時代、あるいは発病前に、特に犯罪傾向を 示していなかったのに、発病を契機として、危険な犯罪を繰り返すようになった事例と いうことで、7例がそれに該当するのではないかということでございます。  発病が罪質に及ぼす影響でございますけれども、基本的には発病を契機として犯罪が 重大化している傾向があるということを指摘しております。  また、井上先生のご指摘でございますが、再犯の予測因子の分析ということで、例え ば過去に住居があったか、同居家族があったか、職業があったかといったようなさまざ まな変数を用いて統計学的に犯罪の再犯というものと相関関係の高い素因を調べており ますが、こういった分析によりますと、再犯と相関関係の高いものとしては、過去10年 の前科前歴数が比較的高いものであったといったご指摘もなされております。  また、犯行後の処遇別に見た再犯状況というもので、井上先生が1980年の処分時に医 療を受けた場合と受けなかった場合の再犯率を疾病別に比較しております。調査結果に よりますと、処分時に医療を受けなかった場合は、医療を受けた場合に比べて約2倍の 再犯率ということで、医療は基本的には再犯防止には効果がある。  しかしながら、アルコール中毒、覚醒剤中毒等については、医療を受けた場合の方が 再犯率が高くなっている。中毒患者については精神医療が犯罪予防に関して効果を上げ ていないと言えるといった非常に貴重なご指摘をいただいているところであります。  これをもとに、資料1に戻らせていただきますが、頻回犯罪精神障害者ということで 精神障害者の犯罪については、特に重度の犯罪を繰り返す精神障害者について問題であ ると考えられますが、今、説明しましたように、山上先生等の研究によりますと、過去 に重大犯罪を繰り返す精神障害者が一部でございますが、いるといったご指摘がござい ます。  また、同著によりますと、繰り返し犯罪を犯す精神障害者の特徴として、殺人、放火 強盗などの重大犯罪が多いこと。特に10回以上といったような頻繁に犯罪を繰り返すも のについては、犯罪歴の経過とともに犯罪の内容が重大化していること。元来の性格に 犯罪傾向のあるものが、発病を契機により重大な犯罪を犯す場合があることを指摘して おります。  以上が犯罪の状況でございます。  続いて、「触法精神障害者等に係る過去の検討経緯」ということで、先ほどもご指摘 がありましたとおり、触法精神障害者対策については過去非常に長い期間検討が加えら れております。  まず「保安処分の経緯」ということですが、保安処分は昭和36年から検討が開始され 昭和49年に出された改正刑法草案の中で、保安処分の提案がなされております。保安処 分の中身といたしましては、精神の障害による禁固刑以上の犯罪を犯した者について保 安施設へ収容し、治療及び看護のための必要な措置を行う治療処分というものと、アル コール依存、薬物依存等により禁固刑以上の犯罪を犯したものを保安施設に収容し、依 存状態を除去するための必要な措置を講じる禁絶処分の2つの処分からなっておりまし た。  この保安処分案についてですが、当時の厚生省というか、中央公衆衛生審議会の中で は、基本的にその必要性について認める答申を行っていますが、日弁連、精神神経学会 等を中心といたしまして非常に反対意見が強かった。その後も昭和50年代にも法務省は 保安処分、治療処分の制度化について検討を行ってございますが、反対が多く制度化さ れないまま今日に至っております。  (2)保安処分の基本的な考え方ですが、慶応大学法学部教授の加藤先生の「治療・ 改善処分の研究」によれば、保安処分はあくまでも刑事裁判により言い渡される司法処 分で、刑法上の法効果であり、その点では刑罰と共通の法的性格を持っている。その点 が精神衛生法(当時)における措置入院といったような行政処分と違うのだといった形 で、保安処分と措置入院の違いを述べております。  また、保安処分の必要性については、「刑法理論上、責任主義と刑罰一元主義とを貫 く限り、精神障害のため、物事の是非善悪を弁別する能力等のない者については、いわ ゆる責任無能力者には刑罰を科しえない。しかし、それらの者の違法行為を刑法の枠外 であるとして、刑事政策上放置することについて問題があるのではないか。特にこれら の者が、将来再び危険な違法行為をなすことが十分に予想される場合には、この問題は さらに重大である。そこで、刑罰制度の持っている限界や制約を解決するために、行為 者の過去の行為や責任とは直接関係なしに、「将来の危険性」を根拠としてその自由を 剥奪し、その特性に応じた治療、改善を図り、もって再犯を防止することを目的とした 保安処分制度の導入が考えられたのであるということで、解釈としては、基本的には再 犯の防止。そのための治療の徹底の観点から保安処分が必要であるとしております。  法務省の意見といたしまして、改正刑法草案の理由書の中でも、保安処分が必要な理 由として、措置入院制度は、本人の治療に主眼を置いたものであり、危険な精神障害者 あるいは中毒者に対する措置としては十分なものではなく、この種の犯罪で不起訴にな った事例等の追跡調査の結果でも、すべての者に入院措置がとられているわけではなく 入院措置がとられても、十分な治療効果がないまま退院してしまう場合が多いこと。通 常の精神病院における処遇が開放化に向かう中で、犯罪性の顕著な者を他の患者と同じ 施設内で処遇することが困難となっていること等を理由として挙げている。ということ で、基本的には再犯の防止といったことに主眼を置いているのではないかと考えられま す。  続きまして、我が厚生省で行いました「処遇困難患者に関する厚生科学研究等の検 討」ですが、昭和62年から平成2年までの間、厚生科学研究において、「精神科医療領 域における他害と処遇困難性に関する研究」を行い、精神病院に入院中の患者で、その 者の示すさまざまな病状や問題行動のために、病院内での治療活動に著しい困難がもた らされる患者、こういう定義を「処遇困難患者」と定義し、その現状の調査等を行った ところです。研究によれば、昭和63年1月31日現在で約 2,000名、1,971 人の処遇困難 患者がいると推定されたところです。 当該研究結果等を受けまして、平成3年には公衆衛生審議会において処遇困難患者対 策に関する中間意見が行われまして、処遇困難患者に対しては、マンパワーの充実等に よる専門的な治療を行うこと、当面は国公立病院が中心となって処遇困難患者専門病棟 を整備する必要があるいう報告がなされております。  しかしながら、処遇困難患者専門病棟につきましても、反対意見が強く、今までその 病棟は整備されていないといった状況でございます。  諸外国の事例ですが、時間の関係ですべて説明する時間がないんですが、諸外国の事 例におきましては、犯罪行為を犯した場合と、基本的には刑法に基づく処分として、一 般の病院への入院とは別に処分としての入院を命じることが多い。保安処分自体は、大 陸法系の下で発達したと言われていますが、現在ではイギリスやアメリカ各州、カリフ ォルニア、ニューヨークにおいても同様の制度が設けられていることが多い。  また、収容の施設としては、国公立、アメリカの場合は州立病院といったものが多い といえますが、司法機関の施設を別途設けている場合もございます。  以上を受けまして、触法精神障害者の問題にかかる議論について多少整理をいたして みました。  まず、前述したように触法精神障害者に対して、従来から議論が行われていますが、 過去の保安処分と処遇困難患者の議論等を見ていると、必ずしも統一された問題意識か らの議論ではなくて、幾つかの要素が混在しているのではないかと考えられます。  1つ目の議論は、触法精神障害者として、精神障害者であっても犯罪を犯した以上、 その罪を償う必要があるのではないかという意見でございます。基本的には、犯罪被害 者及びその家族等の立場です。  2つ目は、精神障害者には、繰り返し犯罪行為を行う者がいるという中で、犯罪の危 険性を予防する観点からは、現在の行政では、措置入院等では不十分であって、それに ついての処遇が必要であるという意見です。改正刑法草案による保安処分は基本的には この立場だと考えられます。  最後に触法精神障害者等には病院内での処遇が困難である。人手を要する処遇困難者 が多いので、従来の措置入院とは異なる治療が必要であるという意見です。厚生科学研 究等はこの立場に近いというふうに考えられます。  それぞれ近接した問題を扱っているように思えるんですが、前二者につきましては、 精神障害者の犯罪に対する処罰やその予防のための措置であって、基本的には司法的な 観点から見た措置ではないか。したがって、このような措置を講じるのであれば、基本 的には法務省もしくは刑法の世界ではないかと考えられます。  後者については、医療的な観点から行政処分で対応する問題だという意見でございま す。しかしながら、このような行政処分を設けるためには、現在の措置入院との医学的 な明確な区別化がされることが前提となると考えられます。  この観点から、先ほどご紹介いたしました日本精神病院協会のいわゆる特別措置の話 ですが、その問題意識に、基本的には入院中または退院後も犯罪を繰り返すおそれのあ る入院患者については、民間病院では監督責任を負えないという、どちからといえば、 犯罪を繰り返し起こすといったところに問題意識があるというにもかかわらず、とるべ き措置としては、いわゆる措置入院を2つに分けて行政処分で対応すべきであるという 意見になっておりまして、なかなか問題意識と対応のところでねじれが生じているので はないかと考えられます。しかし触法行為による措置入院となった患者が、他の措置入 院患者、犯罪を起こす前に措置されたような患者と比べて、医学的な観点からの区別化 を図るのは困難であると考えられますので、講じるべき手段としては不適切ではないか と考えられます。  以上を踏まえた上での「基本的な考え方」ですが、ご紹介いたしましたように、一部 の精神障害者が犯罪行為を繰り返しているといった問題が、社会的問題としてはあるの だろうと。一部の精神病院等ではその処遇等に困っており、またそのような精神障害者 の存在が精神障害者に対する世間一般の偏見を助長し、一般の精神障害者に対する地域 的ケアの推進の障害となっているのは事実であろうと考えられます。  しかしながら、触法精神障害者の問題意識が、精神障害者が繰り返し犯罪を犯すこと にあるのか、それとも病院内での処遇が困難なことにあるのかで混乱が生じており、実 際の問題がどこにあるのかについて検討をもう少し行う必要があるのではないか。  問題が前者であるとするのであれば、司法、法務省、刑法の世界で対応することにな るのではないか。この場合、厚生省として、こういった法務省の取り組みに対してはど のような対応をとるかということについて検討することになるのではないか。  問題が後者であれば、措置入院にかかる医療体制のあり方も問題であり、入院形態の 見直しや処遇のあり方の再検討などで対応することになると考えられる。この場合、現 行措置制度と別の入院形態をつくるだけの医学的な差別化の必要性が説明できるかとい うことについて議論を行うことになるのではないか。  以上のようなことを考えますと、触法精神障害者の問題については、引き続き議論を 行う必要があると考えるが、しかしながら措置入院にかかる公的責任の問題については この問題とは別に、措置入院にかかる公的責任の問題として別途考える必要があるので はないかと考えられます。  以上でございます。 ○座 長  ありがとうございました。大変長いご説明をいただきましたが、触法の問題は、恐ら くこの委員会の1つの山場ではないかと思いますので、これだけのものを用意していた だきました。  まず、最初のご説明が長かったものですから、これに関してご質問、ご意見があった らお聞かせいただきたいと思います。そして、その後に、「基本的な考え方」のところ を詰めていきたいと思っています。最初いかがでございましょうか。さまざまないきさ つなども含めてお話がありましたけれども、何か4までについてご意見あるいはご質問 がおありになれば、どうぞ。 ○委 員  山上先生の論文をご引用なさったので、山上先生の論文について、どこに書いてあり ますとか、ちょっと落ちているところがございますので、それは1つは、犯罪を犯して 不起訴になった方々のうち、8%ほどが全く治療も何も受けてないということが書かれ ております。放置されているということですね。それが非常に重大な問題だろうと思い ます。それをまず指摘させていただきます。 ○座 長  どうもありがとうございました。何か。 ○委 員  特に、私、今すぐ言うべきようなことがなくて、この資料は前回いただきましたけれ ども、非常に全うに考えてあるなというふうに私は読んでいます。 ○座 長  そうですか。 ○委 員  3ページなんですけれども、当面は処遇困難者については、処遇困難患者専門病棟を 整備するという報告がなされたと。これは道下研究によってなされたということだと思 いますが、これは国立病院の中で集中治療病棟ということで設けようという試みだった と思うんですけれども、これは反対意見が強くて実現されなかったというのはどういう 反対意見といいますか、どういう状況で実現されなかったのでしょうか。どういう反対 意見が。 ○事務局  まず、この構想自体に対して非常に広範な反対意見をいただきまして、例えば極端に 言うと、精神障害者全体を犯罪者扱いにするというようなことを受けたようであります。 ○委 員  しかし、これはそもそも治療を行うという構想だったんですよね。 ○事務局  そうです。 ○委 員  ですから、そうすると犯罪者として扱うというよりも、むしろ治療のために必要な病 棟を設けるという構想だったと思うんですが、どうしてそういう反対になったのか。 ○委 員  恐らく精神科以外の先生方にはおわかりいただくのは非常に困難かと思いますが、そ ういう反対のための、反対という言い方はちょっと変ですが、非常に反対するための手 だてになってしまうんですね。精神障害者を本当にきちんと処遇するということではな くて、それが非常に拡大されて、精神障害者をあたかも犯罪者扱いしてしまうといった ムード的な反対といった方がいいと思います。  それで、実は2つほどの病院を大体厚生省は当時考えたようでありますが、その病院 の中の組合も反対になるということがございまして、現実的にはそれが困難であったと いうふうな経過がございます。  それから、もう一つ、ちょっとよろしいですか。 ○座 長  どうぞ。 ○委 員  ねじれ現象ですね。行政措置と司法的な措置とねじれ現象の問題ですが、私はフラン スを見てきたんですけれども、大体司法的な処分を受けた人が特殊病院に入っているし また、地域医療からも特殊病院に入ってきているし、私はそれはそれほど画然と分けら れるものではないというふうな感じはいたします。 ○座 長  ちょっと待ってください。さっきのお答えでいいですか。大分あいまいなことを、ち ょっと歯切れ悪くお話になられた。どうですか。 ○委 員  ちょっとよくわからないんですけれども、要するに、本来ここでの構想というのは、 むしろ保安的なというか、犯罪者に対する処遇というよりも、むしろこういう処遇困難 なものについてはもう少しきちっとした治療をやろうという構想だったと文献なんか見 ると書いてあるわけなんですけれども、そうだとすると精神病者を犯罪者として扱って 保安的な色彩のもとに閉じ込めちゃうんだということではなかったんじゃないだろうか というふうに思うので、その反対は必ずしも当たってなかったんじゃないかと思うんで すが、それは全くの感想でしかないわけですけれども。 ○座 長  どうぞ。 ○委 員  歯切れが悪くて申しわけありませんが、実は、この道下レポートが出ました後、道下 先生に対する非難攻撃が集中的にまいりまして、そして個人的に身の危険を感じられる くらいのことがございました。それから、私たちの仲間では焚書事件と言っているんで すが、その報告書を患者さん側の一部の代表、プラス精神科医側の一部の代表の人たち が徹底的に攻撃いたしまして、その報告書を目の前で焼けというふうなことがありまし て、実際お焼きになったといううわさを聞いております。そういった非常に情緒纏綿た る歯切れの悪いお話でございました。 (補足:上記発言中「報告書」は、「調査票」の誤りでした。 精神保健福祉課) ○座 長  ありがとうございました。何か。 ○委 員  1つは、この処遇困難という定義そのものが非常に不明確であったということが1つ あると思います。その点で、今回の論点としては、処遇困難ということではなくて、い わゆる触法という、犯罪を犯した精神障害者ということに限って、これは論議すべきだ ということだと思います。処遇困難ということで、どこまでを何をもって処遇困難とす るかということが書く人によって相当まちまちであった部分もありますので、その辺が いろんなそういう非難も出てきた1つの経過だろうと思います。  ちょっと資料の追加なんですが、先ほど言われました山上先生からの治療なしであっ たということに加えて、この日精協誌のことしの2月号の別冊なんですが、これの49 ページを見ていただいたらと思うんですが、これは法務省の方で書いていただいた分の 資料なんですが、ここの8表及び6表、7表を見ていただいても、殺人を犯して心神喪 失、耗弱の人の治療なしというものが21例。それから、下は精神分裂病に限ってですが 治療なしというのが47例。そういうような形で全体として 195例が治療なしというよう な形で行われていると。ですから司法の方を離れて鑑定が行われたのかどうか。この辺 恐らく鑑定が行われたんだろうと思うんですが、その後、要入院措置また要通院治療、 そういったことも行われていない、こういったことは1つ問題ではないか。やはり犯罪 を犯した上に、そういった治療も行われないという形で無罪放免されているというよう なことが、果たして国民のコンセンサスを得られるのかどうか。その辺をやはりきちん としないと、今後ますます精神障害者の逆に差別、誤解といったものにつながっていく のではないかと思います。 それから、先ほどの、ねじれ現象ということが言われたんですが、これは日精協も何 もこの特別措置という形で措置を2つに分けてやっていこうという案を出しているのは これは何も最善の策であるということを考えているわけではございません。今の段階で は、犯罪を犯した場合に、それが司法から離れた場合には、精神保健福祉法で処遇する 以外には何ら手だてがなくなっている。その辺が1つの問題であろうと。例えば先ほど 言いましたように不起訴処分になった、それから鑑定が行われた。そのときに措置該当 でないと。入院も要がないと。そういった場合には、今度はまた司法の方へ戻すことが できないというような形になっていると思います。そういうことで、結局またそのまま 放置という言い方はおかしいかもしれませんけれども、そういう状態が続いていると。 ですから本来で言えば、刑法と精神保健福祉法は両方相互乗り入れのような形があって 刑法から精神保健福祉法である程度治療的なことのかかわりがあると。そして、また、 精神保健福祉法で若干処遇できないとか、またよくなったとか、何らかの場合にはそう いう司法の方にも戻るような形というものがあってもいいのではないかというふうなこ とを、私自身の考え含めてですが、思っております。  これは今触法精神障害者をきちっと処遇する形は全くないわけなんです。ですから次 善の策として、こういう精神保健福祉法での特別措置という形を重大犯罪を犯した人に ついては、特別措置というような形で行っていこうというのが考え方であって、その辺 は特に刑法と精神保健福祉法との考えがねじれているとは思いません。 ○座 長  ありがとうございました。今言われた最初の方のお答えでどうですか。次の問題はま た別で、よろしいですか。 ○委 員  はい。 ○委 員  ちょっと触法患者さんの特別措置という問題の前に、先ほどの処遇困難の病棟をつく るというようなお話について、私の見方はちょっと違っているということだけ一言お話 ししておいた方がいいと思うんです。道下研究班のお仕事自体は意図としてはやはりき ちっとしたいい医療、適切な医療をということだったと思うんです。ただ、処遇困難の 判定といいましょうか、定義のときに、今の全体的な医療が十分でないために治療の結 果として処遇困難になっている症例も相当入っているはずだと。結局、そういう医療の 貧しさということを抜きにして、例えばマンパワーが少なければ保護室に入る患者さん が多くなって長期的に在院になっちゃうといういろんな問題があるんですが、そういう ことを踏まえてなかったというところが一番反発を呼んだと思うんですね。処遇困難に ならなかった人たちも入っていたはずだ、医療全体のレベルが高ければということです。  ということもあって、その辺は私は少し道下研究班の仕事に対して、あれをすんなり 受け入れるのは、私自身にもちょっと抵抗があったということだけお話ししておきます。 ○座 長  ありがとうございました。今、何人かの方々の処遇困難という問題について、道下班 の研究についてお話をいただきました。道下班の研究が捨てられたわけではありません けれども、今、それぞれのお話をいただいたようなことをいろんな形で論じられて、結 局今のところ余り表に出てこない形になっていることは間違いないと思います。 2,000 人ぐらいの中から、もっと処遇困難な重度の者は 700人ぐらいなんていう、そうした大 まかな数字を出したという意味では、この研究は確かに意味があったようにも見えます けれども、しかし、今の基本的な処遇困難とは何かというところの議論が必ずしも十分 ではなかったということもあったのだろうと思います。 そんなことで、この問題につきましては、この辺のところにさせていただきます。 その上で、後段に述べられました触法の問題で、もう少しまた議論を深めていきたい と思います。どうぞ。 補足: 「上記の発言の真意は、道下研究の当時の処遇困難という考え方に対する批判的検討を踏まえて、委員の意見を聞こうとしたものでした。道下研究の結果を数値を引いて説明したことなどで誤解を与える表現や言い回しがあったとすれば、こころからお詫びします。なお、専門委員会の報告書で処遇困難や触法精神障害者等の言葉を用いなかったことで、座長の真意をお汲み取りいただければ幸いです。座長:吉川武彦」 ○委 員 先ほど犯罪を犯した触法精神障害者で治療を受けない者がいる、あるいは治療を受け ない場合に司法に戻す方法がないというご指摘をなされて、言葉のあやかとは思います が、犯罪を犯した上に無罪放免されているというようなことをおっしゃったんですけれ ども、刑法の立場から言えば、責任能力のない場合にはまさに無罪なわけですから、無 罪放免されるべきものであって、触法であるかどうかということは特別扱いの理由には ならないというのが、刑法の立場からの原則であると思います。 したがって、「処遇困難」という言葉の定義に問題があったかもしれないのですけれ ども、もし特別に扱う必要があるとすれば、それは処遇が困難であるということを理由 とすべきであって、法に触れたということを理由にすることはできないのではないかと いうのが私の考えです。 責任無能力であっても、法に触れる行為を行った以上は特別扱いされるべきである。 その罪を償う必要がある、という意見があるのは確かかと思いますが、それは刑法の責 任無能力制度自体に対する批判であって、それはもし必要であれば、刑法改正というこ とで議論されるべきもので、刑法の責任無能力制度を前提とする以上は、責任無能力の 場合にはまさに無罪放免されるべきであるというふうに考えております。 ○座 長 ありがとうございました。どうでしょう。このことに関しては。 ○委 員 私もご意見に全く同感、同趣旨です。 ○委 員 よくまとまっているものですから、言うことがないはずですけれども、強いて言いま すと、日本では責任主義と刑罰一元主義を維持する方向で二元主義とか、責任主義を少 し放棄しようといったことは国民的な合意を得られてないわけですから、どうしてもや はり無能力ということで無罪になった人。要するにここでは触法精神障害者ということ になっているわけですが、その医療は措置入院とか、場合によっては医療保護入院等々 でせざるを得ない。ですから、それに対してきちんと触法精神障害者はみんな処遇困難 ということはないですから、それに対してきちんと治療できるような体制をつくること が主眼になる。ここにもそのように書いてありますので言うことないんですね。 ○座 長 どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○委 員 ここのところで資料を出しておるものですから、その資料について少し簡単にご説明 申し上げたいと思いますが、これは、私、平成7年に書いたものでありまして、今と全 く同じことを今でも考えているわけですが、簡単に紹介させていただきます。  21世紀に向けての医療は、ご承知のように入院から在宅へ大きく流れを変えようとし ているわけですが、これは精神医療でも全く同じでありまして、地域医療中心のシステ ムへの転換が要請されているわけです。  ご承知のように、精神科の先生はみんなおわかりでしょうが、内因性精神病では、病 勢が悪化に向かうエネルギーと、抗精神病薬による身体療法の効果が一定の均衡を保っ て、社会適応を続けていることが多いわけですが、そうしますと医療の関与が長期にわ たって必要になります。  しかし、現在の日本の地域医療システムは、患者さんの拒絶にあえば、医療を確保す る方法はなくなるわけでして、こういった間隙に重大事件が起こるわけであります。我 が国の司法制度では、今、ご指摘にありましたように、起訴便宜主義をとっております ために、犯罪を犯した精神障害者の90%は不起訴となるという統計が出ているようであ ります。今日の司法システムでは不起訴になれば、それをフォローする制度は何もない。 それは無罪だから、それは当たり前なんだとおっしゃれば、確かにそうなんですが、も っぱらそのシステムは精神科医療システムにその問題は委ねられるわけです。しかし、 措置基準についての判断には、精神科医の間でも大きなばらつきがありまして、重大犯 罪を犯した精神障害者の9割は治療に導入されるけれども、8%が放置されていると。 入院治療を受けても3割以上は1年未満で退院している。  今後、地域医療に重心をより移していくためには、こういった精神障害者の犯罪をど のように防いでいくか。地域社会の安全ということについてもある程度見通しを立てる 必要があろうと私は思います。このための法制度と施設の整備がなければ、真の地域医 療はあり得ない。  この全く同じことを平野先生がご指摘になっております。イギリスがあれだけ開放的 なのはブロードムーアがあるからだというご指摘はきちんと書いておられます。  それから、道下研究班の提言も棚上げされたままであるが、21世紀に向かっては地域 医療の推進のためには、こういった重大犯罪を犯した、あるいは繰り返し犯すおそれの ある精神障害者への対策は刑法体系でやっていただくのが本当は一番筋道通っていると 思うんですが、今のところ25条、26条でこちらへ持ってこられるものですから困るわけ ですが、救急医療の整備と退院後の外来通院を義務づけるか、何らかの強制力を持つ公 的後見人の制度の創設も考えなければいけないと私は思います。  2枚目をめくっていただきたいんですが、これは後で議論になると思いますが、図表 を見ていただければおわかりになりますように、かなり重い保護室隔離患者さんの比率 を書いてございます。これは長寿財団の研究班の資料ですが、国公立病院と民間病院で 3カ月以上の保護室の隔離の患者さんを見ていただければおわかりになりますように、 大体ベッド数の比率で隔離されているんですね。そういう患者さんがベッド数の比率で 1対9くらいになっております。これは民間病院と公的病院の比率で、国公立病院が決 して隔離をしなけばならん患者さんをたくさん預かっているわけではないということを ここで指摘しておきたいと思います。  それから、もう一枚めくっていただきたいのですが、これは法と精神医療学会で、こ としの4月、ちょっと私が追加発言した資料ですが、患者さんの分布は、大体、縦軸 「処遇困難性」と、右側に「公的責任性」という横軸を設けてあります。そういたしま すと、実線の方が現在の分布なんです。点線が本来望ましい分布となっております。い わゆる右側へ行きますと公的責任が非常に強い病院群があります。非常にコストのかか る医療をやっていらっしゃる。しかし、その割には処遇困難性の患者さんは少ない。  本来は、望ましい分布というのはマンパワーも非常にそろっている、予算も投入され ている公的責任性の強い病院が処遇困難性の高いところを引き受けるべきなんですが、 現実にはそうなっていない。ここに多くの精神病院の不祥事件の背景があるというふう にご理解いただければ幸いです。以上、簡単ですが。 ○座 長  ありがとうございました。資料を今ご説明いただいて、それも含めて、また先ほどの 問題を少し考えていきたいと思っています。 ○委 員  今の説明で少し出ましたけれども、イギリスでは特殊病院があるわけですね。ちょっ と昔の話になりますが、特殊病院があるために、ほかの病院は 100%開放にすることが できると。例えば20年くらい前の話ですが、同じ時代のドイツでも保安処分制度はある んだけれども、特殊保安施設がない。したがって、大体入院を引き受けるのは州立病院 ですから、州立病院というのは 100%開放は無理である。せいぜい80か、85%開放がい いところだろうというふうに言われていたわけですね。恐らくそんなものだろうと思う んです。 日本も今の任意入院がそれに相当するかどうかわかりませんが、開放的な入院がどん どん増えれば、大体8割ぐらいは開放に向かっていくだろうと思うんですね。ですから 残る20%か、あるいは十数%という、そういう閉鎖病棟における治療を、それがちゃん とやれるようにしないといけないという問題が今問われているといいますか、触法精神 障害者の場合はそういう問題が起こっている。ですからその治療をきちんとできる。つ まり閉鎖処遇でなおかつ治療がきちんとできる、そういう体制をつくらなくてはならな いということだと思います。 ○座 長  その閉鎖処遇を必要としている、今お話の仮に20%、その20%の中に触法も要るとい うことですね。当然急性のいろんなものがおられますからね。 ○委 員  そうですね。 ○委 員  お伺いしたいんですが、重大犯罪を犯した、あるいは繰り返すおそれのある精神障害 者ということなんですけれども、どうしてそういう人だけ特別な措置を受けなければい けないのか。理論的な正当性はどこにあるのか、ちょっとよくわからないんですが、そ れはいかがでしょうか。というのは、重大犯罪を犯した、あるいは繰り返すおそれのあ る人は健常な人でもいるわけですね。そういう人は別に特別な措置を受けないと、今の 現行の法では。しかし、精神障害者だけはそういう要するに措置を受けなければいけな いということの正当化根拠というのはどこにあるのか。 ○委 員  どういうふうに言えば、ご理解いただけるかよくわからないんですが、精神障害、要 するに疾病があるために重大犯罪を犯すとすれば、それは疾病のある人ご本人にとって は非常に不利益なことだろうというふうにまず素朴に思います。  それから、国民感情としまして、一番私たちが頻繁に聞きますのは、あれだけのこと をやって、なぜ、それこそ責任無能力だ、それはそれでいいんだと。それで一たん完結 したんだというふうにおっしゃればそれまでなんですが、あれだけの重大なことをやっ て、なぜ、すぐ退院させちゃうのかという非難があるんですね。それはよく私たちの耳 に届きます。そういう声もあることは確かなんですね。 ○委 員  しかし、それは、責任無能力というのはそういうものであって、それは現行の責任無 能力制度そのものを否定するのであれば別ですけれども、それを前提にして考える以上 それはいたし方ないということだろうと思うんですね。ですから、あと、もし正当化で きるとすれば、それは処遇困難といいますか、特別な治療が必要だということしかない のであって、それは触法とか、あるいは犯罪を繰り返すおそれがあるということとは別 のことなのではないだろうかと思うんですけれども。 ○委 員  私、個人的には触法精神障害者ということで一部の患者さんを区別することには反対 です。今、おっしゃったとおりだと思うんですね。その方が犯罪を繰り返すことが医療 がないためであるのかどうかという分析がまだされておりません。  それから、もう一つは、責任無能力となった方の中に医療の手当てがなされていない 方がいると。それが精神医療システムの問題点だとご指摘なさいましたが、それは精神 医療のシステムではなくて、地域の精神保健の問題だと思います。医療だけが、患者さ んを、例えば隔離・収容したり、またそれを治療だということにして区別するのはおか しいと思っております。  それともう一つの問題点は、山上先生の分析の中でも、疾病主導型よりも人格主導型 が多いというご指摘がございましたが、つまり精神疾患による心神喪失となったという ことではない患者さんもその中に含まれているのではないかと思うのです。ですから、 先ほどいみじくも精神鑑定の質の差が医者によってあるとおっしゃいましたが、そのこ との方がまさに問題なのであって、精神鑑定によって、責任無能力の論拠となるところ が提出されるわけですから、そこの質を向上させることがまず第一に、我々精神科医に とって必要だろうと思いますし、将来的には、もし医療の手当てが必要な人がいれば、 司法の中でそこを充実すべきだと思います。  次善の策ということではありましたが、あれは我々医療サイドから提案すべき問題で はないと思います。以上です。 ○座 長  わかりました。 ○委 員  ちょっとお伺いしたいんですが、世界的に見まして、責任無能力になった場合にどの ような措置がされているんですか、法体系では。 ○委 員  世界を見ると、保安処分を設けているところが多いんでしょうね。日本はそういう意 味では特別なのではないかと思います。 ○座 長  刑法の体系でということですね。 ○委 員  それが妥当かどうかはまた別の問題だと思うんですね。 ○委 員  ですから、私はこの議論をしていると、刑法の不備がありますので、私に言わせれば 不備がありますので、むしろ検察官通報とか矯正施設の長の通報とか、それをやめてい ただきたいと思います。むしろ、あの条項を削ってもらいたい。 ○座 長  ちょっと飛びましたけれども、ご意見として、とりあえず承っておきます。それで、 何か。 ○委 員  実際この席で刑法のことを論じても全く意味がないといえば意味がないんですけれど も、やはりこれは避けて通れない問題だと思いますので、ぜひとも厚生省からの法務省 なりと十分今後申し入れ等を行って、この問題を解決すべくやっていただきたいという のが1つございます。  先ほどの鑑定の問題も確かにありますが、1つは割と簡易鑑定が頻繁に行われている。 これは各県で事情が違うかもしれませんけれども、簡易鑑定によって、先ほどの不起訴 だどうであるということであると、簡単にそれで通報して措置をすればいいというよう な形で送られるわけなんですね。そのときに重大犯罪ではないんですけれども、私も何 回か経験したのは、そういう形で実際の措置の鑑定を行う。そのときにそういった実際 に入院症状とか、そういったものがない人があるわけなんですね。そのときにこの人を どうするのか。実際に何か起こしているし、するけれども、入院する必要もないし、治 療する必要もない。治療する必要がないといえば語弊があるかもしれませんが、その場 合には、検察事務官がついてきますけれども、帰してもらってはどうしようもないんで すという話になってしまうんですね。ここら辺はやっぱりちょっとおかしいと思うんで すね。ですから、こういう簡易鑑定のあり方も含めてきちんとしたシステムをつくらな いと、本当の国民の安全は図れない部分があると思うんですね。これは精神保健福祉法 で論ずるべき問題ではないですけれども、そういうふうに思います。  それともう一点は、触法精神障害者を特別に処遇する必要はないということなんです が、これは先ほどの厚生省の中でいろいろな論点が論じられた中で、触法精神障害者の 中で、やはり処遇の非常に難しい人があると。それがその人たちのために我々労力を非 常に強いられる。それから、問題が病院内でも起こってくるということがあるわけです。 そういう人たちの処遇できる部分というものがなければやはりいけない。後送システム がなければいけない。これは相当のマンパワーを要するわけです。ですからいろいろな 問題が起こったときに管理責任を問われるのは我々だと。そういったことから、そうい うものを我々はできるだけ責任を問われない形でということは望みたい部分があるわけ ですね。  そのときに、その部分を負ってくれるのは、今の段階であれば、国公立病院がこれを 担ってしかるべきだというふうに思うわけです。ただ、今の国公立病院でも本当にマン パワーを十分にそこまでそろえられるかというと私は無理だと思います。ですから、今 以上の、触法でなおかつ非常に処遇の難しい人たちには、マンツーマン以上の対応はや はり必要になると思います。そういうものがなければ、本当の開放や、ノーマライゼー ションはないというふうに思います。 ○座 長  ありがとうございました。今、2つのことをお話になられましたが、1番目に話され たことは、厚生行政と法務行政と、どんな形で実務的に話し合っていただくかというこ と。例えば、それは起訴前鑑定の問題を1つの例をとりながら、今、おっしゃって、そ うした実務的な問題としても考えていかなくちゃいけないし、もちろん法制度の問題も 考えていかなくちゃいけない。実務的な部分があるだろう、こういうお話だと思います。  それから、もう一つは、管理責任という話も出ましたが、民間病院としてもこうした 触法の患者さんを扱うときに、管理的な責任を問われるということが一番苦しいところ なんだということで、それをどんな形で保証をするのか。できるだけ管理責任を問われ ないような形のものはないだろうか。こんなふうに今お話が出たと思います。 ○委 員  追加なんですが、もう一点は、今の措置から解除された場合には、全くフォローアッ プシステムがないわけなんですね。仮に重大犯罪を犯して、例えば1週間なら1週間で 改善しました。では退院ですと。極端な場合、そういったこともあり得るわけですね。 そうした場合、あとは通院とかそういったことも全く本人任せ、また家族任せという形 になってフォローするシステムは全くないんです。これはそういう何かの通院なり治療 をちゃんと受けないと、また拘束されるというような形の、これは刑法的な面が私は必 要ではないかと思うんですけれども、そういうものがなければ治療につながらない。治 療の継続性もぜひとも必要だと思います。  例えば、バンクーバーの例、あそこは非常に地域社会でのノーマライゼーションが進 んでいますけれども、触法精神障害者については地域に出た場合も、あそこのシステム とは別個にまたフォローされているんですね。ですから、そういう面も含めてちゃんと 考えるべきだろうというふうに思います。 ○座 長  今、つけ加えてくださったところは、法制度の問題とも関係しますけれども、私の方 から法律家の先生方にお教えいただきたいのは、更生保護の問題なんですけれども、更 生保護という制度があるわけですが、先ほどお話が出たように、心神耗弱とか心神喪失 ということで無罪と、無罪であるけれども、その後、更生保護という視点でケースを見 ることはおかしなことなんですか。犯罪を犯した人が刑期を終えて出てきても更生保護 というのはあるわけですね。これは無罪ではないのかもしれませんけれども、一応真っ 白になって出てきた話でも更生保護ということは、民生委員じゃなくてあれがつきます よね。 ○委 員  更生保護の場合にも、仮釈放の場合と、刑期を終えて行う場合と2つある。刑期を終 えて行う場合にはあくまで本人の同意に基づく任意のもので強制する権限は当然ないわ けです。それと同じように考える必要があると思います。ですから刑法の立場から言え ば、繰り返しになりますが、犯罪というのはあくまで構成要件に該当する違法で、責任 のある行為というふうに定義されておりますので、責任がない場合には犯罪行為を全く 起こしてない場合と同じであるというふうに考えられていますので、法に触れることを 行ったこと自体を理由として特別扱いを認めることはできない。  これはあくまで正当性の問題ですので、実際の処遇になれば、おっしゃっている触法 精神障害者の中で処遇の困難な人がいて、その処遇は一般の病院では困難であるから、 国立、都道府県で引き受けるべきであるというようなこと。そういう治療を確保するた めに何らかの特別の措置が必要だということは認めうるかと思いますが、それは触法で あるということによって正当化されているわけではないと言わなければならないと思い ます。 ○座 長  難しい。 ○委 員  実はこの日精協の案を出しましたときに、ご理解いただきたいのは、ほかに私たちは そういった患者さんをグループ化するクライテリアが今のところないんですね。先ほど 申し上げたように、精神医療で処遇困難という問題が先ほどご指摘ありましたように、 いろんなイメージがあって、それは一致しないということがあって、素人集団が考えま すと、「触法」という言葉が私たちにとっては非常にグループ化しやすいというふうに 考えたのがモチベーションであります。 ○委 員  クライテリアがないというのは区別できないということであって、区別できないなら ば区別してはならないというふうに考えます。 ○委 員  今、こういう問題に関して管理責任の問題が出ましたけれども、この問題も我々はも し責任を問われるとすれば、必要な医療をきちっとしないで事故が起きたときに問われ るのであるわけですね。ところが触法患者さんということで引き受けると、法律を犯し たということでもって責任を引き受けざるを得なくなるのではないかと思うんですね。 つまり、地域の安全のために治療をしているということになりますから、それで地域住 民に迷惑かけたら、安全を犯したということで医療者が責任を問われる。これはおかし いと私は思うんですね。  そうではなくて重症な患者さんを引き受けたけど、きちんと治療しなくて、その治療 が不十分なために事故に至ったということで非難されるのは、私たちは当然だとは思っ ていますが、司法的な、犯罪予防的な意味での管理を任されているということで触法患 者さんを扱うとなればそういうことになってくるので、もちろん重症の患者さん、触法 に関連するような患者さんについてはマンパワーのいる公的な病院でやるのは私はもち ろんいいんですが、それを触法とからめて役割分担することがいいのかどうか。そこは やはりあいまいにしないで、医療は医療の中で重症患者さんはどこで見るべきかという 形で進めていくということであれば、管理責任も明確になってくるのではないかと思う んですね。犯罪を犯したからということで責められるのではなくて、犯罪を犯すように なるまで治療をちゃんとしてなかったんじゃないかということで責められるようなシス テムになってほしいと思っているんですけど。 ○座 長  ちょっと待ってください。ちょうど6時になりますので、少し休まないといけないか なと思って考えているんですが、「基本的な考え方」というところへ話を今度スライド させて、こちらの方から少し攻めていきたいと思っています。ちょっと10分ぐらいお休 みしませんか。                  (休 憩) ○座 長  再開したいと思います。先ほどもお話申し上げましたように、この問題はそう簡単に は解決はつかないことは最初からよくわかっていたところでございます。それだけにそ れぞれの先生方からご意見をいろいろといただきました。結論を一応は出しておかなく ちゃいけないというので、今度は「基本的な考え方」を見ながら1つずつ確認をしてみ たいと思います。その中でどうしても、また議論が戻るところがあれば、これはもちろ んやむを得ませんけれども、きょう7時ぐらいに終えなくちゃいけないというのと、あ と、まだ幾つかテーマが残っておりますので、時間を考えながら進めていきたいと思っ ています。  いかがでございましょうか。「基本的な考え方」の1のところを少しお目通しをいた だきまして、この考え方に異論がある方は少しお話しをいただけないだろうか、そう思 います。どうでございましょうか。特別に異論がないということであれば、何か少し補 強をしていただくとか何か、そんな意味があると思いますが、どうぞ。 ○委 員  1つは、先ほど触法という扱いが法学の立場から見ると難しいというお話がありまし たけれど、処遇困難という枠組みが過去にうまくいかなかったということもあります。 一体どこら辺の何が問題かということを考えた場合に、やはり地域一般、社会の目で見 たときに重大な犯罪行為を犯したことのある精神障害の人は、現実社会適応は極めて難 しい面があります。極めて閉鎖性の高い不十分な環境で暮らすのか、それとも病院の側 が病院で維持できなくなって地域に退院させるのか。退院させた場合にも、一定社会復 帰施設等の既存のシステムを背中から押してやることで上がっていける人なのか、背中 から押してやってもうまく上がっていかない人なのかという問題があると思います。で すから、どこまで回復したのか、これは回復したと言えるのか、回復したと言えないの か、そういう難しさを持っている人が少数はいると思います。そういう一定の触法なら 触法、特に触法というか、これは重大な触法だというふうに解釈しますけれど、その人 たちの予後改善ということについては一定の枠組みで見ていく必要はあるのではないだ ろうかということで、ここに挙げられた「基本的考え方」が言えるのではないだろうか と考えております。 ○座 長  はい、わかりました。最初の1)のところでご意見をいただいたわけですが、そのいわ ば考え方について、地域ケアの障害になっているというような一応の結論めいたことは これでよろしゅうございますか。こういう問題があって、地域ケアのむしろ障害になる だろう。偏見やなんかを助長する危険があるから、こういう意味ですね。それはそれで よろしいかと思います。  「しかしながら」と書いてあるあたりのところでいかがでしょうか。病院側から見て この意見は何か異論がございますか。 ○委 員  これは結構だと思いますが、これは両者ということで、両方問題があるということで 検討を行っていただきたいということと。 ○座 長  ちょっと待ってください。両者というのは。 ○委 員  そこに問題意識が、精神障害者が繰り返し犯罪を犯すことにあるのか、それとも病院 内での処遇が困難であることなのか、これは両方ということです。 ○座 長  これが両方だということですね。両者並列的な視点でここを表現する。そのことでし ょうかね。それで、もしよろしければ、その次のマルのところでいかがでしょうか。 ○委 員  先ほどちょっとおっしゃいました起訴前鑑定の問題をここに入れていただけないかと いうこと。 ○座 長  どんなふうにですか。さっき先生がスパッとなくせと。それは起訴前鑑定なくせとい う意味ではなかったですけどね。検察官通報や……。 ○委 員  もう一遍言ってよろしければ、25条と26条の再検討とかですね。 ○座 長  なるほど、わかりました。 ○委 員  ちょっと私は異論があるんですが、それは別の司法体系がある程度かかってこないと それはなくすことは今の段階では私は難しいと思いますので、そういうものがちゃんと システム化された上で考えられないといけない。 ○座 長  どうぞ。 ○委 員  私も今の意見に賛成で、はっきり言ってしまいますと、起訴前鑑定をやめちゃうとい うのはこれはこれで問題がありますので、むしろここに入れない方がこの際はいいので はないかと思います。 ○座 長  わかりました。今はなくすと言っているわけでなく、それが起訴前鑑定ということは 出ましたけれども、25、26を再検討するという意味であれば、それはお認めいただけま すか。 ○委 員  はい。 ○座 長  では4つ目のマルでありますが、「問題が病院内で処遇困難な点であるならば」とい うことで1つのまとめがしてありますが、この点についてはいかがでしょう。先ほどの ご意見をずっと伺っていても、こうした検討を行う必要があることは重々議論の中で出 てきたと思いますので、こんなふうになるんじゃないかと予想していたということがあ るんですが、こんなふうになるんじゃないかなと思っていたんですが、その点では。 ○委 員  1つは措置解除の問題も含めていただければと思うんですが、今の措置解除は、実際 に治療を担当している精神保健指定医が1名で措置解除を行っている。その場合、重大 犯罪の場合、若干そういう問題が発生してくる場合、直接治療を担当している医師がそ ういうものを行う、行わないことによって、患者さんとの関係もいろいろ問題が出る場 合もないとはいえない。そういったことで外部も含めて重大な措置患者については、2 名の精神保健指定医によって措置解除を行うことも考慮してはいかがかなと。 ○座 長  それはここで言う触法患者に対してということですね。どうですか。 ○委 員  それは1名でやるといろいろ問題が起こるということですか。その人との間で問題が 生じやすいと。 ○委 員  問題と責任能力、その他も含めてです。 ○座 長  ちょっと待ってください。さっきもちょっとお話がありましたことに関係しますけれ どもね。 ○委 員  先ほどちょっと話していたのは、先ほど言われたように、お医者さんの場合には、将 来重大な犯罪を繰り返すということを判断する能力はそもそもないのであって、治療が 必要かどうか、これだけがお医者さんが判断する能力があると思うんですね。そうだと すると、そういう判断する能力がないのを義務づけることは本来できないわけで、です からそういうものについて、義務を負わせること自体おかしいのではないかと思うわけ です。  したがって、それをちゃんと治療をする。治療を行うことが必要なのに、それを懈怠 したといえば、それは義務違反が問われますでしょうけれども、将来、犯罪を繰り返す おそれについて判断をしなかったからといって義務違反を問われるということは理論的 にはおかしいのではないだろうかと思うんです。 ○座 長  ありがとうございました。さっきちょっとお休み時間の間に話をしていて、そんなこ とも出てきたものですから、1つのご意見として、また、承りたいと思って、ご指名さ せていただきました。ほかに何か。 ○委 員  今の問題と先生のお考えで、どうしてこんな考え方が出たかということをちょっとご 説明申し上げたいと思います。松沢の先生などによく伺うんですが、やはり措置解除の ときにひとりだけで解除をする場合に、特に重大な犯罪を犯した人の措置入院の場合は 非常に気が重く大変だということをおっしゃっています。そんなこと物理的にパッパッ とやればいいじゃないかというふうにおっしゃるかもしれませんがなかなか実際問題難 しいのが現実ですね。 ○座 長  例えば、今、もうひとり指定医をという、恐らくそういうことを頭に置いて言われた んですけれども、そうではなくて、それは司法の人がもうひとり加わるということでも いいということですか。 ○委 員  かもしれませんね。私はそういうアイディアはなかったんですけれども。 ○座 長  そうですか。どうでしょう。司法と言わなくても医療以外の、そういうことかもしれ ませんけれども。 ○委 員  その件に関しては、現行措置入院制度を何かしら手を加えて改善すべき余地があるか どうかというところで検討なさってはいかがでしょうか。精神保健指定医の責務の一番 大事なことが人権の擁護であるとすれば、措置解除に関して2名でなければならないと いう論理的な理由はなくなると思います。それから、先ほどおっしゃったように、措置 解除をした患者さんが将来的にどんなことを起こし得るかを予測するのは、現実的に不 可能ですので、それに対して医者が責任を問われたことはないと思うんです。今まで前 例としても。  それとその方がもし医療中断などをして、症状が悪くなる、そういうことを懸念され ているのであれば、むしろ地域の精神保健システムのあり方を検討した方がよろしいと 思います。 ○座 長  そうしますと、地域の精神保健システムの充実というんでしょうか、あるいは具体化 ということをもう一つ、文言の中にも書き込みながら考えていくということでよろしゅ うございますでしょうか。  以上、そんなようなことで、最後のマルのところになりますが、触法精神障害者の問 題につきましては、引き続き議論を行う必要があるだろう、これについては特別にない ですね。皆さん方、まだ議論を続けているところだと思いますので、これは続ける必要 があると考える。ただし、法律家の方々から言われている「触法」という言葉の適切さ あるいは不適切さの問題だろうと思うんですが、その辺のところで、何かお考えありま すか。さっきは処遇の問題、「処遇困難」という言葉を特に取り上げられながら話が出 ましたので、治療処遇が困難であると考える方がいいのか。 ○委 員  引き続き議論を行うということが、精神福祉あるいは医療の場で議論を行う必要があ るという意味であれば、私の考えでは「触法」ということを特別扱いして議論する必要 はないということです。もちろん刑法含めて法律全体の問題として引き続き議論を行う 必要があるかというふうに言われれば、私自身は現在の制度を維持すべきだと考えます けれども、議論の余地はあると思います。 ○座 長  ありがとうございました。医療関係の方々でいかがでしょうか。 ○委 員  先ほどおっしゃった8%医療にかかってない方がいる。そのあたりの地域の精神保健 システムの中で検討すべきだというのは、私もその意見に賛成なんですが、それを例え ば、今、1、2、3、4、5、5つあった中のどのあたりのところに入れるのがいいの か。一番最初のところに入った方がいいのかなという。 ○座 長  それはさっきもお話がありましたように、全体的に見てどうかということのご発言の 中にありましたのでね。 ○委 員  そうですね。 ○座 長  わかりました。 ○委 員  この最後の「公的責任」というのは、どこを指して公的責任と思われているんですか。 ○事務局  全体の国公立病院のそういう役割ということ。 ○座 長  議論は大変重大なところをしていただきましたけれども、とりあえずここの議論のま とめみたいな形で、こんな形で終わらせていただきたいと思いますけど、いかがでござ いましょうか。 ○委 員  確認なんですが、一番最後の「以上のように触法精神障害者の問題については、引き 続き議論を行う必要があると考えられるが」、「が」があって、公的責任のある国公立 病院等の責任の問題は、措置入院全体の問題として考えるべきではないかという意味は 触法精神障害者を含めた措置入院患者をのべにして、それをまとめた全体の問題として 理解していこうというふうに考えていいんですね。 ○座 長  そうですよね。 ○委 員  ここに書いてあることは。 ○事務局  基本的にそういうことだと思います。 ○座 長  そのとおりです。 ○事務局  そして全体の問題として考えるということです。 ○委 員  だから触法がどうのこうのという意味でなくて、触法の患者も措置入院になる。その ほかの患者も措置入院になる。そういう措置入院全体の枠組みの中に入れた上で考えて いこうと、こういう理解の仕方でいいわけですね。 ○事務局  そうです。 ○座 長  ここまでせっかく議論していただいて、結果的には現状から何も出てないじゃないか と、こう言われることは十分承知しておりますが、本当にこの現状からなかなか出られ ない。それでやはりこんな形で議論をまとめさせていただいた。あるいは予測しながら まとめさせていただいていたということでございます。  それでは、この問題を一応終わりまして、次の「措置に係る国公立病院の役割」の問 題。今、一番最後にまとめさせていただいたところとも関係しますけれども、これにつ いて話を進めさせていただきます。 ○事務局  それでは、資料2を説明させていただきます。時間の関係で、できるだけ資料等を省 略して説明させていただきたいと思いますので、あらかじめご了承ください。  それでは、「精神保健福祉法における公立病院の役割について」ということで、まず 「都道府県立病院の必置にいたる経緯とその趣旨」ということで、明治33年に制定され ました精神病者監護法におきまして、監護義務者は、地方長官の許可を得た後、病者を 私宅や病院に監置することとされており、監置の方法において私宅監置をも許していた という状況の中で、病院の設置は遅々として進まなかった。これが、大正8年に精神病 院法が制定されるにいたり、「内務大臣は道府県に精神病院の設置を命じることができ る」と規定し、精神病者に対する公共の責任として公的精神病院を設置する考え方が初 めて明らかにされた。しかし、精神病院の設置が道府県の必置義務とされていなかった ため、公立精神病院の設置はなお進展しなかった。そのため、昭和25年の精神衛生法の 制定の際に、精神病院の設置を都道府県に義務づけたという経緯がございます。  精神保健福祉法の現在の第19条の中におきまして、都道府県は精神病院を設置しなけ ればならないということとされております。このもともとの趣旨ですが、「法第29条の 入院(措置入院)及びこの法律の趣旨に基づく障害者の適正なる医療、保護の普及を図 ることを目的とする。」  措置入院自身が都道府県知事による行政処分として行われる入院でございまして、そ の医療については都道府県知事が責任を負うことを考えれば、措置入院患者については 都道府県立病院が率先して受け入れるべきであろうと考えられるのではないかと思いま す。  次に民間病院が措置入院に関して果たす役割ということで、それは指定病院制度の問 題であろうかと思いますので、指定病院制度の説明をさせていただきます。  しかしながら、精神衛生法時代には措置入院患者も今と比べて非常に多かった。実際 すべての措置入院患者は国公立病院で受け入れることは困難であり、また全ての都道府 県が精神病院を設けていたわけではないということで、現状の問題として民間病院で措 置入院患者を受け入れる手段を講じる必要があった。  このため、民間病院であっても、物的・人的資質が優秀であって、適正な医療が提供 される病院を指定し、当該指定病院については、措置入院患者を受け入れることができ ることとした。  次に指定病院についての考え方でございますが、精神衛生法制定当初は、あくまで都 道府県立病院に代わる施設であると、いわゆる代替病院であるという考え方がなされて おりました。「現状は、都道府県立精神病院に代わる施設としての指定病院の比率が極 めて高いが、かかる状態が可能な限り早い時期に解消され、少なくともいわゆる措置ベ ッドについては地域ごとに国又は都道府県立の精神病院で措置入院患者を収容し得る状 態となるのが法の趣旨に沿う所以であると解される。」という当時の解説本でございま すけれども、そういう説明をしているところでございます。  ところが、現在では、「医療法人立の精神病院でも優れた医療内容をもつ精神病院は 多く、また、措置入院患者を特定の病院に集中させて入院させるという考え方も適当で はないことから、現在においては、本条を根拠に指定病院を都道府県立精神病院の代替 病院として性格づけて理解することは適当でないと考えるべきである。……このように 都道府県立病院の設置義務と指定病院の指定の事務は、結びついたものではないという 法制的理解」がなされているということです。  このような考え方から、いわゆる措置の事務が指定都市に委譲された場合には、指定 都市に関しては、病院の必置義務は課さなかったというふうになされているというとこ ろでございます。  以上の論点の整理ですが、以下のようになるのではないか。  まず1)ですが、措置入院患者の受け入れについては、充実した医療体制を整備した病 院で行う必要がある。  2)指定病院は、都道府県立病院の代替病院ではなく、あくまで、その医療体制に着目 し、措置入院患者の治療を行うにふさわしいかどうかの観点から指定されている。  2)しかしながら、このことは都道府県立病院(国立も含める)の義務を否定するべき ものではなくて、都道府県立病院は、措置入院患者の受け入れを行うにふさわしい医療 を提供できる体制を整備し、積極的に措置入院患者の受け入れを行わなければならない こと。  以上を踏まえた上で、現状の問題点でございますけれども、国公立病院の措置入院患 者の受け入れということですが、このように、措置入院については本来公的病院が主体 となって対応するべき問題であるというのが一般的な認識であるが、実際には措置入院 患者を受け入れている病院を設置主体別に見ると、国立病院が79人(1.7%) 、都道府県 立病院が 292人(6.1%) 、指定病院は 4,401人(92.2 %) となっており、措置入院患者 の受け入れについては、民間病院が主体となっているのが実態である。 このような状況の中で、日本精神病院協会を中心に公的病院がその役割を果たすこと を強く求める要望がなされており、特に触法精神障害者の受け入れや精神科救急事業の 後方支援病院として国公立病院が中心となって機能するべきだという意見をなされてい ます。 また、先ほど説明しましたけれども、今回の見直しに際して、特別措置の要求という のをしております。  なお、措置入院は、機関委任事務でございまして、事務の見直しも、法定受託事務と して残るということで、その運用に関して優先的に都道府県立病院等が患者を入院させ るように指導するという手段があります。実際通知等でも繰り返し行っているところで ございますけれども、なかなか実態が変わっていないというのが現状でございます。 次に「指定病院における医療」の問題でございますが、また一方で、指定病院につい ては、その病院における医療の質が必ずしも担保されていないのではないかといった問 題があるのも事実でございます。現在、指定病院数は 1,122。精神病院全体が 1,600と 言われておりますので、そのうち都道府県立病院を除くと民間病院の大半が指定を受け ているといった現状でございます。平成8年に、後ほど説明いたしますが、指定病院の 指定基準を見直したわけですけれども、その段階で、昭和40年に制定した精神衛生法第 5条に基づく指定病院の取り扱いについてというものにおける指定基準における人員配 置。これは通常における精神病院といわゆる精神科特例を受けた人員配置基準と同じと 考えていただければいいと思うんですが、それを満たしていない指定病院が3割近くも あるという現状にあり、指定病院において必ずしも適切な医療体制が整備されていると いえない状況にあるのではないか。また、3年以上新規の措置入院患者の受け入れを行 っていない病院というのが全体の1/4(約 300程度) あるという中で、指定病院とし ての役割を果たしていない病院があるのも事実であろうと考えられます。 民間病院が指定を受けたがる傾向が実際はあるんですが、その理由としては以下のよ うなものがあるのではないか。 まず、国から指定を受けたということ自体がその病院の信頼度を高める。これは非常 に感情的なものでございます。2つ目は実際的な理由で精神保健指定医。精神保健指定 医が精神医療に占める役割はどんどん高まっているわけですが、その養成を自分の病院 で行うことができる。3つ目は、老人性痴呆疾患病棟という病棟があるのですが、その 整備にかかる補助金や税制の特例というものは指定病院を条件としているといったよう な補助制度があるということも指定病院を受けたがるといったような理由になっている のではないか。  「指定病院制度等の見直しについて」ということで、先ほど8年度に見直しが行われ たところで、その背景といたしまして、措置入院患者は昭和45年には7万 6,000人程度 で、全入院患者の2割余りを占めていたのに対して、平成9年には約 6,000人という中 で激減している状況にあります。 このような状況の中で、平成7年改正のときに指定病院のあり方についての見直しが 行われ、いわゆる指定基準を新たに設置いたしまして、基準に適合しない病院について は指定を取り消すという方針に改めました。この中で、医療法の人員配置基準を満たさ ないような病院や、3年間新規の措置入院患者の受け入れを行っていない病院について は、基準に適合しないものとすることとしまして、そういうものについては指定の取り 消しをすると。ただ、経過措置というのを書き忘れましたが、ついておりまして、その 実際の新しい基準が適用されるのが来年4月1日からということになっております。  「基本的な考え方」でございますけれども、措置入院患者については、国公立病院が その期待された役割を果たしていないという現状にあるのは事実であると。職員の人員 配置等についても国公立病院が恵まれていると。これは資料16につけておりまして、若 干もしかしたら分析が必要かなと思いますので、資料16については、また引き続き我が 課で検証させてもらいたいと思います。国立病院の人員配置がちょっと厚すぎるかなと いうような感じがするんですけれども、ただ、現実的に国公立病院の方が人員配置にお いてスタッフが充実しているのは事実であろうと思います。以上のことを考えると、措 置入院については国公立病院が率先して受け入れるべきであろうと考えます。  措置入院患者数が減少しているということを考えると、いわゆる措置入院を行う病院 を、原則として国公立病院及び現在の指定病院のうち措置入院を行う医療体制が備わっ ている病院というものに限定していくべきではないかというふうに考えます。そのため に以下のような措置を講ずるべきではないか。  平成8年の指定基準に該当しない病院又は措置入院に関して受け入れを行う意向のな い病院については指定を取り消す。もしくは積極的に返上していただく。  次に指定病院の基準のうち、人員配置基準については、精神科特例と同じであるとな っておりますが、主として慢性期に関する患者を対象として考えられる精神科特例と、 急性期の措置入院患者について同じ人員配置基準を用いるのは適切ではないのではない か。したがって、指定病院の基準を見直して、指定病院独自の人員配置基準を考えてみ てはいかがだろうか。  次に、指定病院を条件とする補助制度や精神保健指定医の養成のあり方については見 直すべきではないか。  また、公立病院が措置入院患者を主体として受けていくことを考えますと、そういう ことを続けるためには、措置解除された患者が民間病院もしくは非指定病院に円滑に移 っていく制度をつくることが重要であろう。こういったことも含めて、措置入院患者の 運用のあり方について検討し、必要に応じ行政指導、通知なりを行うべきではないかと いうふうに考えます。以上です。 ○座 長  どうもありがとうございました。議論の進め方としましては、これまで提示いたしま した「基本的な考え方」までの中身にもしご異論があれば、最初に伺います。そして、 できたらば、「基本的な考え方」の中でお話を進めていこうと思うんですが、何かどう してもということで。 ○委 員  今、お示しいただいた資料16の「公的病院と民間病院の比較」ということで、これは 内容もちょっと検討の要があるというお話でしたが、そのとおりであって、いわゆる民 間病院の法人、個人を掲げてありますが、これは民間病院、日精協の傘下の病院でも 1,200あるわけですが、看護基準等も含めて相当差があると思うんですね。それをすべて 押しなべて、ここへ全部放り込むと非常にこういう形が出てくるのではないか。公的病 院は看護基準等も含めて高いレベルにある分がほとんどでしょうから、それを全部平均 化して、これを比べることは少し問題があるのではないかと思います。 ○事務局 これは国公立病院の方が全体として充実していることを知るためだけに絞っています。 ○座 長 そっちの方の資料として出させていただきました。ですから、さっきの論旨で言うと そうなっているはずで、それだけの充実しているところがなぜ引き受けないのかという ことの論旨でございますので。 ○委 員 これとやはり関係するのですが、都道府県立精神病院の必置義務をどうするかという 問題をどこかで考える必要があるのではないでしょうか。 ○事務局 必置義務をなくすかどうかということですか。 ○委 員 そうです。 ○事務局 実は7年改正のときにはなくす方向で議論が行われたということも聞いておりますけ れども、ただ、現在のいろんな要望等を見ていると、公的主体が措置入院にかかる責任 を果たすべきだという論調の方が強いかなというふうに判断いたしましたので、ここは そういう前提でここについては書かせていただいたんです。 ○委 員  「公的病院と民間病院の比較」という資料は、これは何年の時点のでしょうか。いつ の調査でしょうか。 ○事務局  昨年度の厚生省調査でございます。 ○座 長  平成9年ですね。  それでは、基本的な考え方のところを詰めさせていただきます。ひょっとするとご異 論があるといけないと思って、ここのところまで時間をとりましたが、「基本的な考え 方」のところ、いかがでございましょうか。最初の1)ぐらいからやっていきましょうか。 ○委 員  公立病院の立場から、私はこの内容については異論はありません。数字からいっても 人員配置がある程度恵まれている。民間病院に比較し相対的には恵まれているというこ とでいいと思います。それから、国公立病院が本来受けるべきということもあって、設 置義務もあるわけですから、これはこのままでよろしいと思いますが、ただ、先ほど設 置義務の話がありましたけれども、果たしたくても果たせないような立地条件、設置さ れている場所とか、その問題も少し触れておかなければ、例えば県立病院がない県もま だあるわけですね。そういう問題をもう少し整理しないと、この部分はこの分でよろし いですけれども、それをどこかで、例えば北海道の場合について言いますと、都道府県 立の単科の精神病院は網走と私のところの十勝しかないわけですね。  ところが措置入院の発生率を見ますと、札幌周辺の方が圧倒的に多いんです。私ども の病院でもたまには札幌周辺の患者さんをお引き受けすることもあります、ベッドがな いということで。でも実際には治療がうまくいかないです、札幌の方。措置解除した段 階ではもう札幌へ帰ってしまったらどこへ行っちゃうかわからない。要するに地域医療 として措置入院が成り立たないという現状があるわけです。  それで、もし都道府県立病院が義務を果たすとすれば、とんでもないところまで措置 だからと移送されるというようなことではなくて、地域の偏在をなくすような格好をど こかでやっておかないと、これは現実的に生きてこないと思うんです。医療法の問題は 触れないということだったようですが、やはり医療の中で考えるわけですから、この問 題も医療にも少し入ってしまうのですが、地域医療計画も措置が地域ごとに見れるよう なシステムをつくっていくことにも同時に少し触れていただきたいと思っています。 ○座 長  ありがとうございました。 ○事務局  言われることもごもっともだと思うんですが、これは初期の受け入れと、もう一つは 後方支援の形としての国公立病院の役割というのがあると思います。後の救急の場合も そうですが、今、日本では民間病院が圧倒的に多いわけですし、一時的には措置の受け 入れ等も救急の受け入れ等も含めて地域でやっていくことは、重大な触法の問題は別と しまして、後から発生してくる重大な措置患者について後方に国公立病院がちゃんと受 けるという形をある程度明確にしていただきたいと思います。 ○座 長  どうぞ。 ○委 員  逆に私は考えますのは、そういった期待される役割を担えない病院は公立病院である 必要があるかどうか。民営化してもいいのではないか、むしろそう思います。  それから、現在の都道府県立病院の中に全開放を売り物にしている病院があることも 事実です。これは一体どうお考えなのか。 ○委 員  私は都道府県立病院は全開放であるべきではないと思います。閉鎖病棟は当然持たな ければ、その役割を果たせないと思っていますし、やはり急性期の患者さん、重症の患 者さんを見れるというのは公的な病院の責任だと思っていますけれども、もし、そうい う病院があるとすれば、やはり改善するように我々としても責任持って努力しなければ ならんと思います。ただ、救急の問題で関係してくるのですが、総合病院の精神科の場 合、都道府県立病院であっても、これは人員配置基準は一応守っていることになってい るのですが、病院全体として人員配置基準を守られていまして、全体としては医師はた くさんいるんですが、意外と精神科だけ見ると医療法違反になっちゃうんですね、単純 に計算すると。精神科に従事している職員だけ見ますと。  そうすると、もし救急なり措置なりの指定を受けるときには病棟、科ごとにきちっと 基準を満たすようにしなければ、果たせといっても果たせない病院があることは事実な んです。都道府県立病院の特に総合病院の場合。ですから、その辺も少し関連してくる のではないでしょうか。 ○委 員  私がお話ししたいことを先に言われてしまいましたが、措置入院のレベルまではやは り地域医療の中で考えられれば一番よろしいかと思うんです。そういうことで言います と、医療資源としての特に公的な医療資源としての総合病院の精神科を使わない手はな いというふうに考えます。日本総合病院精神医学会の中でも開放病棟であるべきか、閉 鎖病棟であるべきかという論議は紛糾している途中ではありますが、私個人的には閉鎖 病棟であるべきと考えます。  それで、今の意見を補足させていただきますと、総合病院というのは病院全体で医者 をカウントしています。例えば病院全体が 500ベッドなら何人医者が必要かというのは 病院全体で決まってきます。例えばそこに 100ベッド精神科があったとして、100 ベッ ドの精神科をひとりの医者でまかなっていても何ら医療法違反にならないという現実が ございます。ですから緩い基準であるべき精神病院特例すら守れていない総合病院の精 神科が特に郡部の方に多い現実があります。これは小池先生の研究班の「公的病院精神 科のあり方に関する研究班」のデータでも明らかです。以上です。 ○座 長 ありがとうございました。それでは、今のご意見それぞれを加味しながら1)のところ を通過しますが、2)のところは、民間病院の先生方の方から何かご意見があるかなと思 っておりますけれども、指定病院の取り消しないしは返上ということ。 ○委 員 基本的にこう言われると仕方がないんですけれども、割と郡部の病院で基準が低いけ れども、そこしかないという病院もないわけではないと。そういった場合にそれは完全 にこの基準を楯に取り消した場合にはどういう形になるのか。その辺も少し考慮してい ただかないと、実際の運用上難しいことが出てくるのではないかというふうにも思いま す。都市部では問題ないと思いますが。 ○座 長 わかりました。その点では、何か。 ○事務局 そこはちょっとお聞きしたいなと思っていたところなんですけれども、確かに北海道 みたいなところでは地域的なことを考える必要があるのかもしれないですけれども、そ のほかの県で、例えば県に1つでは対応が困難であるんですか。千葉県のこれは精神科 救急の例になりますが、県に1つで実際やっているような話で、それなりにうまくワー クしているというような現状もございますので、確かに北海道で特に冬季の話とかであ れば、そういった問題点も出てくるのかもしれないですけれども、措置という入院のた めにいろいろなステップを踏む上に、しかも人数も減っておりますので、対応できるの ではないかと考えたところでございます。もしかしたら、先ほど言われたような形で、 最初は民間で受けても、ある程度落ちついたら国公立に転送するみたいな、そういう仕 組みをつくる方法も1つあるのかなというふうに、今ちょっと思ったところです。 ○委 員 ある程度落ちついたら国公立に行くのではなくて、ある程度落ちつかない人が国公立 へ行くんですよ。 ○事務局 もちろん、最初は民間で指定医で措置入院しても国公立に移すということも考えられ ます。 ○座 長 申されていることは同じことだと思います。 ○事務局 同じことです。そういったことも確かに書かせていただいていいのかなというふうに 考えた。 ○委 員 今、事務局がほかの県ではどうかというふうなことだったんですが、新潟県は、資料 の17ですか、措置入院の国公立の割合を見るとおわかりだと思うんですが、40%ぐらい いっております。国公立で4割診ていると思います。それは最近なんですけれども、先 ほど指摘した遠隔地の要するに国公立に入院して、そこから戻ってくるとき。そこの地 域社会への要するに定着の問題は私はどうしても残ると思うんです。だから、国公立が 受けるのは私はいいと思いますし、恐らくいろんな予算的なもので、今、事務局が言っ たように、二次医療圏に1つ、県立病院の精神科をつくるのは難しいのは当然なんで、 どうしてもその後の地域定着を促進する地域システムがここに加味されないと、単に遠 隔地の公立のところに入院させればいいという事態が起きてしまうのではないか、そう いうふうな心配がある。 ○座 長  そうですね。 ○事務局  それについては、最後にそういった点を若干ニュアンス的に入れた話で。 ○座 長  さっきのご意見で、やっぱり後方病院としての国公立病院の役割みたいなものも最後 のところに加えていくことができると思うんですよね。 ○事務局  直させていただきます。 ○委 員  この最後のところですと、病院の役割というだけになっているので、行政のかかわり 地域システムというところで少し入れていただけたらと思います。 ○座 長  わかりました。それではいかがでございましょうか。そんな形でここのところをまと めさせていただきますが、あと2つありますので、よろしいですか、時間を少し延ばさ せていただきまして、この2つを終えないと、後で大変でございますので。 ○事務局  資料3を説明させていただきます。できるだけ資料の説明を割愛させていただきます。  まず「応急入院と精神科救急事業について」ということでございますけれども、応急 入院のまず経緯でございますが、応急入院は、精神保健福祉法第33条の4の規定に基づ き、急速を要し、保護者や扶養義務者の同意を得ることができない場合には、本人の同 意がなくても、指定医の診察により、72時間に限り、応急指定病院に入院させることが できるという入院形態でございまして、62年の法改正で制度化されたものでございます。  62年改正前は、措置症状はないが、その症状から見てできるだけ早期に入院医療が必 要であると認められるものについては、原則として同意入院(今の医療保護入院)によ り入院させることにより対処していたが、意識障害等のケースにおいては、当該症状の ために本人の身元が判明しない場合や家族等の連絡がつかない場合も多く、入院の見合 せやあるいは入院を行った後に事後的に家族や市町村長の同意を得るといった事態が生 じ、精神科の救急医療を行うための法律手続上の問題が大きな障害となっていた。この ため、精神科救急への対応として応急入院制度を制度化したところでございます。  応急入院制度の問題点でございますが、応急入院は、このように精神科における救急 部門を担うものとして期待されていたが、実際には応急入院の件数は、平成9年度で 181件にすぎず、応急指定病院も現在58施設とほとんど増加していない状況にございます。 指定病院が増えない原因ですが、1つ言われていたのは精神保健指定医(1名)及び 看護婦(士)(3名)の24時間待機といったことでCTの配備を義務づけるといった厳 しい内容であったと言われております。これにつきましては、平成7年の精神保健対策 に関する行政監察においても、基準を弾力化すべきだと勧告されておりまして、8年に 基準の緩和を行ったところでございます。  また、応急入院自体が精神科の救急的対応の必要なケースの例外的な一部分にすぎな いといったことに問題があるのではないかと考えれらます。例えば、7年の行政監察に おきましても、調査対象14件のうち半分の7件が応急指定病院を設置しない理由として 応急入院の実績が少なく、医療保護入院で対応可能であるということを理由に挙げてい ます。  実際ですけれども、東京、神奈川、静岡、兵庫、資料ではあと高知と鹿児島県も入っ ておりまして、これの精神科救急事業で搬送された患者の入院形態の内訳を見ましても 主たるものが措置と書いてありますが、措置はないので、緊急措置、医療保護、任意が かなり多い。高知と鹿児島を加えました6県における平成8年度の実績は、緊急措置が 594件、医療保護入院が 1,343件、任意が 395件というものが大半であって、応急入院に よるものは16件と非常に少ない状況にございます。 次に精神科救急事業でございますが、1番は事業の概要ということで、精神科救急シ ステム整備事業ということで、精神障害者の夜間、休日における緊急時の医療の対応と いうことで、平成7年度に事業化されたところでございます。平成10年度までに全都道 府県で実施することを目標としておりますが、現在のところ19都道府県と。すべて整備 するには至っておりません。  救急事業の内容ですが、大体病院群輪番制等により、精神科の救急医療施設を整備し て、医療施設として指定された病院は、夜間又は休日の救急患者に対する受診体制を整 備し、これはすべてではありませんが、救急医療を終了した場合には、後方病院に転送 することになっております。  補助制度としては、夜間及び休日の入院に対応した空床確保料、及び人件費等に対し て補助をすることになっております。  精神科救急の問題ですけれども、先ほど言いましたように、全県で整備されていない ということですが、また、精神科救急医療施設は国公立病院、指定病院、応急指定病院 というものが対象としておりますが、このすべてが夜間、休日の受診体制を整備してい ると必ずしも言えない状況にある。また輪番の当番病院にあっても受け入れを拒否する 病院がある。また、全県1圏域でやっているような制度もあるといったようなことで、 施策の充実が求められております。  次の問題点の搬送の体制ですが、原則としては依頼者が搬送することになっている場 合が多い。依頼者の多くというのは家族なんで、実際上そこの病院に連れていくまでの 手間は家族に負わされているということで、このため精神障害者の移送の手段がない家 族等については、実際受け入れ病院があってもなかなか連れていけない。支援すること が困難な状態にあるということでございます。  両制度を含めて考察しますと、救急の問題については2つ問題がありまして、まず救 急の入院に対応した医療施設、もしくは病床の確保等々、医療施設に対する移送の問題 という大きな2つの問題があるのではないか。  救急医療施設につきましては、医療施設の対応ですが、今、さきに述べましたように さまざまな入院形態というものが考えられますので、応急入院だけではなく、緊急の医 療が必要な患者すべてに対応して受け入れる病院として位置づけるべきではないか。応 急指定病院制度を設けている理由は、応急入院は保護者等の同意を得ないで強制的に入 院させる制度であるため、医療施設側において適切な医療供給体制が確保されているこ とを担保するためであると言われておりますが、適切な医療供給体制が必要なのは、い わゆる救急の対応が必要な患者すべての問題であって、救急全体で医療体制の質の担保 を図っていくという考え方をするべきではないか。  次に移送の問題ですが、全く制度化されておりませんので、実際移送はほとんどの場 合は保護者もしくは家族等に依存している状態です。しかしながら、実際には保護者等 がいても、家族だけでは本人を病院に連れていくことは困難な場合があり、このような 者に対する支援がないことといったものが、前回述べましたような警備会社による搬送 といった問題を引き起こしているのではないか。したがって、精神科医療が必要な者を 医療に結びつけるためには、都道府県等により移送のための支援が必要ではないかとい うふうに考えております。  精神保健福祉法第47条第2項におきましても、「都道府県等は、必要に応じて、医療 を必要とする精神障害者に対し、その精神障害の状態に応じた適切な医療施設を紹介し なければならない」という規定がございますが、医療を必要とする精神障害者に支援を 行うためには、医療施設の紹介といったものだけでは不十分であり、都道府県がその医 療を受ける場合の移送のための支援を行うことが必要であると考えられる。この場合、 家族等がいても必要があると認められる場合には、その移送のための支援の対象となる ということとするべきではないかと考えます。  また、ちょっと話が変わりますけれども、移送の問題ということでは、措置入院や緊 急措置入院についても移送ということが法定化されておりません。当該入院形態の場合 には、移送に際しても本人の意思に反した移送が行われることが多いと考えられますが 法的根拠がなく移送を行っているのは人権の確保の観点からも問題があるのではないか というふうに考えます。  以上を踏まえた上で「基本的な考え方」でございますけれども、応急入院の制度その もきにつきましては、意識障害がある患者や単身生活者で保護者、家族、扶養義務者等 が見つからない患者等に対して緊急的な対応を行う場合の入院形態であり、既存の入院 形態の穴を埋める制度として必要ではないか。  しかしながら、現在の応急入院自体は比較的特殊な入院形態であり、緊急対応が必要 な入院形態は応急入院に限定されないのではないかと考えられます。したがって、応急 入院指定病院制度をやめてしまって、緊急医療のための指定病院制度を設けることによ って、救急医療の必要なもの全てにふさわしい医療体制を確保することについて検討す るべきではないか。  また、移送の手続については、精神保健福祉法上規定されておりませんが、精神障害 者の人権の確保の観点からも、措置入院、緊急措置入院ついて強制的に移送できる、移 送しなければならない旨を法律上明記することが望ましい。また地域精神保健の推進の 観点からも緊急の必要性に対応し、精神障害者の移送を行うといったことを整備してい くことが必要ではないかと思いますので、次のような移送条項を新たに設けて手続を整 備するべきではないか。  したがって、精神保健福祉法におきまして、次のような移送の条文を新たに設けるこ とについて検討するべきではないか。  まず1つ目は、都道府県知事は、法第27条の診察にかかる者又は措置入院もしくは緊 急措置入院にかかる患者を当該診察又は入院にかかる病院に移送しなければならない。  次は都道府県等は、応急入院にかかる患者及び精神保健福祉法第47条第2項により医 療機関の紹介を行った患者であって緊急に治療を行う必要がある者を都道府県の指定す る病院に移送し、または指定する者に移送させることができる、といったような条文を 設けてはどうか。  この場合、2)の方の指定病院の指定の基準として以下のようなものが考えられるので はないか。  まず救急に対応した医療体制(人的配置・物的配置)が整備されていること。  次は輪番制等により緊急入院(24時間の対応が必要なのか、今の精神科救急事業のよ うに、夜間・休日のみとするかについては検討が必要であると思いますけれども)に対 応していること。  例えば、救急の入院期間を3日〜1週間程度、この数字には根拠がございませんが、 短期間に限定して、救急医療を終えた者について引き続き治療を行うための後方病院 (同じ病院の別病室でも可)を確保していることといったようなことが基準として考え られるのではないか。  また、精神科救急の円滑な運用のためには、救急に対する申請が早急に搬送システム 及び指定病院に伝達されることが重要であるということがありますので、そのためには 救急情報システムをどうするかということについては議論が必要ではないかというふう に考えられます。以上でございます。 ○座 長  かなり具体的に提案をしていただいたように思いますけれども、基本的な考え方のと ころで何かご意見ありますでしょうか。 ○委 員  質問なんですけれども、この移送についての規定のところで、「措置入院・緊急措置 入院について強制的に移送できる旨を法律上明記することが望ましいこと」というのと 同時に、それ以外の場合の緊急の必要性に対応して移送条項を設けるということで具体 的な条項の提案がされているのですが、2)の方の緊急の必要の場合の、「移送し、また はその指定するものに移送させることができる」というのは、強制的な移送ということ も含めて考えておられるのでしょうか。 ○事務局  原則としては強制的なというのは法律的には考えておりません。あくまで同意がある か、もしくは緊急事務管理のような、いわゆる一般の救急みたいなものを想定しており ます。 ○委 員  ということは、本人が同意してない場合は移送はできないということになるわけです か。 ○事務局  そこはいわゆる一般の救急と同じような扱いになるのではないかと考えております。 ○委 員  もちろん極限まで本人の意思を尊重することが大事なことは確かだと思っているんで すけれども、ただ、少なくとも医療保護入院になるであろうという非常に蓋然性が高い ケースについては、医療保護入院の準備手続といいますか、ちょうど措置入院、緊急措 置入院の場合にもある種の場合には強制的な移送ができるのと同じように、ほぼ医療保 護入院に相当するであろうという蓋然性が高いものについては、強制的な移送ができて もよろしいのではないかと思っているんですが、いかがでしょうか。 ○事務局  そこは医療保護入院のところでも、この間の受診援助のところでも議論があったとこ ろなんですけれども、措置に該当しないところで本人の同意なしに行政が入院を強制で きるのかというところはなかなかコンセンサスが得られないところであり、今回はそこ まで突っ込むのは難しいのかと考えております。ただし、こういったサービスを提供す るということで、例えば家族が病院に連れていくということを何とか支援をすることが できれば、あとかなり多くのケースが救われるのではないかと考えているんですけれど も。 ○委 員  あと一点だけ申し上げさせていただくと、私の個人的な意見としては、規定としては かなり中途半端であいまいな規定の仕方なので、かえって現場でどこまでやっていいの か、どこからはやっていけないのかというところが、かえって混乱しないかなというふ うに私は思いますけれども、むしろ規定するのであれば、しっかりした、ここまではで きるけど、ここからはできないですよという基準を設定するのが法律の責任ではないか なと私は思っているんですけれども。 ○事務局  ただ、そこはお聞きしたいんですけれども、実際は精神科だけではなくて、いわゆる 全体の救急医療の法律的な問題は解決されていないところなんで、それを明確に法律的 に解決するのは難しいのではないか。この2)は、どちらかというと現実的な必要性に対 応したものだというふうには考えているところなんですけれども、その辺、法律的にど う整理しているのか、逆にお聞きしたいと思います。 ○座 長  どうですか。 ○委 員  ちょっと難しいですよ、これ。 ○委 員  ちょっと1点伺いたいんですが、医療保護入院の方の提案として検討メモの方では、 例えば同意能力を欠いているというか、みずから入院の必要性を判断できないという要 件を入れて、任意と医療保護の限界をはっきりさせようという努力をしているわけです ね。だから、この搬送というか、移送の問題のところも、同意能力を欠いている可能性 が高くて、その結果、治療にアクセスできないという人については、その治療のチャン スを与えるという意味で一時的な強制をするのだと、そういう規定の仕方はできないで しょうか。 ○委 員  それは可能なんじゃないでしょうかね。ですから、医療保護入院も治療は必要あるの で、治療しなければいけないんだけれども、本人が要するにアクセスできないというも のについて医療の立場から強制的にやるんだという説明しか恐らくないんだろうと思う んですね。医療保護入院を制度化するとすれば。そうだとすると、今、池原先生言われ たように、そういうふうな形での条文を設けた方がいいのかもしれないですね。 ○座 長  ということはどうなんでしょうか。どうぞ。 ○委 員  今の問題にはちょっと危惧するところがあって、要するに家族がいつも正しいという ことであればいいんですが。もう一つ、これは手続の問題になるかもしれないですけれ ども、同意能力がないということが判定されればいいんですけれども、ただ、可能性だ けで医療保護入院になるかもしれないという人を、本人が同意してないのに行政が精神 病院まで引っ張っていくというのは私は疑問があると思いますね。  警備会社がやっていくのだったら、これも家族の延長ですから、それはそれなりに責 められるべき問題があるでしょうけれども、行政がやるとちょっと別の問題が出てきて だから強制移送は簡単にできないのではないかと思います。 ○座 長  そういう視点ですよね。 ○事務局  医療保護入院の場合には、指定医による判定というプロセスがありますので、ある程 度それでも苦しいところあるんですけれども、実際救急的な対応で、そういったステッ プを踏んでいる余裕が多少ともあるというふうには思えないし、実際にそれをやれとい っても制度として動かない可能性が大きいので、確かに、現案では中途半端だという気 はしないでもないんですけれども。 ○委 員  1つは1番とつなげちゃうと、同じ移送という言葉が使われているけど、1番は「し なければならない」で、2番は「させることができる」ですから、そこで読み分けるの かなという感じはしますけど、若干ちょっと混乱を招くかなという気もしますね。  それから、もう一つの観点として、どれだけ長く自由を拘束される手続なのかという ことも考えるべきだと思うんですね。医療保護入院とか措置入院は期限が定まってませ んので、それなりに厳格な審査をして入院をさせることになりますけれども、例えば搬 送しても、12時間以内に判定をして医療保護の必要がなければ帰さなければいけないん だとか、あるいは応急入院は72時間ですけど、そういう時間的な制約とのバランスの中 でどの程度のチェックを、つまり指定医によるべきなのか、指定医2名によるべきなの かというハードルの高さを変えていけば、その辺はある程度人権との調和を図れて、そ ういうことをちゃんと法律でむしろ定めておくことが現場の混乱を避けるものだと私は 思っているんですけれども。 ○委 員  ですから、そういうことになると手続を変えなくちゃならない。ただ、保健所の人が 行って、家族の言うことを聞いて連れていくというふうなことではできなくなっていく ので、ちゃんとした手続きを踏まなくちゃいけなくなる。それなりの条文が必要になっ てくるということだと思いますけれども。 ○座 長  そういうときには指定医の意見を聞くとか何かということですか。診断とか何かとい うことまではいかないにしても。 ○委 員  例えばそういう。 ○座 長  例えばですね、先生がおっしゃるのはね。 ○委 員  今、座長からお話があったことを私も考えていたんですけれども、医療保護入院の蓋 然性がある場合に、自由の制約の程度は強制入院よりも少ないので、強制的に移送する ことを制度化できるのではないかというのは私も同感です、問題は蓋然性をどういうふ うに判断するかということで、ご懸念もその点にあるかと思うのですが、裁判官が令状 を発するのと同じような感じで指定医が何らかの資料に基づいて蓋然性があるというふ うに判断するという仕組みが可能であれば、それが一番人権の保障と治療をできる限り 与えるということの調和点として望ましいのではないかと思います、現実の問題として そういう制度が可能かどうかということではないでしょうか。 ○事務局  現実の問題としてはかなり不可能なのではないかというふうに考えておりますので、 もうちょっと目前に危機が迫って、明らかに移送しないとということで、確かに法律的 な整理はつきにくいんですけれども、現実的なことを見るとなかなか難しいのかなと。  あと1番と2番を分けた理由もあるんですけれども、いわゆる搬送する側の、特に消 防の世界でいうハードの救急とソフトな救急を分けてくれという要請がかなり強いんで す。やっぱり措置入院という場合ではなかなか消防が対応するのは難しい。ただ、いわ ゆる自傷他害の恐れのある以外の人であって、ちゃんと移送の根拠と移送先がはっきり しているのであれば対応できるという話も聞きますので、ここで移送に関して都道府県 が直接やらなければならないところと、それ以外のところみたいな感じで明確に分けて 後者について救急による地域医療のための搬送を進めることができたらなということで この2つを書き分けたということでございます。 ○座 長  実際的な問題ということが今話になっていると思いますけれども……。 ○委 員  ちょっといいですか。 ○座 長  はい、どうぞ。 ○委 員  実際的な問題というとこういう場合がありますよね。留置鑑定に行って、そのときに 措置不要、要医療というときですよね。そのときに搬送手段がないんです、現実には。 警察が親切心出してパトカーで病院まで連れていってくれることがある。基本的には保 健所の相談員と家族で何とかごちゃごちゃやって、これは物すごく困ることだと思うん ですね。これは医療保護入院という診断を受けているにもかかわらず搬送手段がない。 そのために医療とアクセスができないということが実際あると思うんです。  だから、先ほどの保健婦さんの話もそうなんだけど、例えば地域医療チームみたいな ものがあって、そこに訪問して精神保健指定医がそこで医療保護の診断ができたら、そ こで搬送ができるというふうな、そういうシステムであれば、かなり人権の問題はクリ アできるのではないか、そんなふうに思います。 ○座 長  なるほど。何か。 ○委 員  ストレートに言いますと、2)につきましては若干の矛盾点があってもここまで上がる べきではなかろうかと。地域の精神保健というからには、やはりうまくいかなかった場 合にだれがどんなふうに対処するかということはどうしても上らなければいけない坂な んじゃないだろうかという気がします。  ただ、その矛盾もできるだけ小さくするためには、例えば準緊急性があるような状態 のときなんかに、先ほど私、東京都の保健婦さんに質問したのはそのあたりで、人権の 面と医療の必要性、その他の選べる他の選択肢があるかどうか、今までどういう手が打 たれたかというようなことを一定明らかにしながら、やはり受診ということが一番適切 な方法であるかというような、そこまで判断をきちんと進めるシステムが必要なんじゃ なかろうかと。それが研究しながら、これはなおかつ2)は進んでいってほしいなという のが私の考え方です。 ○座 長  わかりました。ちょっとこの辺のところでご意見出尽くした感じは……どうぞ。 ○委 員  実際上無理ではないかというお話だったんですけれども、家族の方のヒアリングを伺 ったときの印象なんですが、搬送の必要が生じるのは全く初めて起こったことというよ りは、もう何回も起こっていて、いろいろ説得を試みて、しかし納得が得られなくて困 っているというような継続した状況の中で問題になっているような印象を受けたんです ね。もしそうだとすると、緊急だから手続を踏むのは無理であるというのは当たってな い場合が多いのではないかという印象が1つ。  それから、手続を踏むためには、例えば電話ということもあるかと思いますし、現在 はファックスも発達していますし、緊急であるからできないというのもどのくらいでき ないのかというのはもう一つ納得がいかない点が残るんですけれども。 ○事務局  基本的には夜間、休日、過去に治療歴等があったとしても、やはりそういうことをす るのであれば、その場で現場に行って、指定医であるとは限りませんが、指定医が基本 的には診ることになるので、そういうところを24時間体制なりを逆に行政側の方でつく れるのかというのがまず1点になります。ちなみにファックスとかそういうものでは治 療と認められないということは、これは基本的な医師の診察は全てそうで、指定医につ いても電話で判断を求めるということについては診察とみなさないという判断をしてお りますので、やはりそこは現場に指定医なり保健所の人なりが行っていく体制をとれる かということになります。 確かに確実に全部とれないかというと、とれる場合があることも確かに事実でございま すので、そういった可能性についても書くのはあり得ると思いますので、そこは専門委 員会の中で結論を出していただければというふうに思います。 ○委 員  診察が必要であるという前提に立っていると思うんですけれども、強制的に入院させ る場合に診察が必要であったとしても、入院をさせるかどうかを診断するために搬送す ることを正当化するために診察まで必要かというと、私は診察までは必要ないのではな いかと思います。もちろん診察ができれば最も望ましいことですから、後藤先生がおっ しゃったようにチームをつくって医師の方が診察に赴けるのであれば、それが一番望ま しいでしょうけれども、それが現実には無理であるということになった場合に、全く今 の2)のような形で行うのか、それとも診察よりは少し劣るけれども、医師の判断を介在 させた形で認めるかということであれば、私は後者の方を考えてみることも必要なので はないかと思います。  ただ、今回の改正では2)の限度でという選択もあり得とは思います、今までなかった 制度のわけですから、一応搬送を援助するというところまでやってみると。もし、それ で十分でなければ、強制的な搬送の制度を今後設けるということも立法のやり方として はあり得ると思います。 ○座 長  ありがとうございました。本当に時間が過ぎてしまいますけれども、今、最後の方に おっしゃってくださいましたように、とりあえずこんな形で進んでみるかということ。 それをこの委員会としては考えるということでまとめさせていただきます。 ○事務局  とりあえず問題点とか検討事項としては上げるみたいな感じでよろしいですか。 ○座 長  そうですね。それでは、最後なんですけれども、「仮入院と仮退院」の問題で、最終 的にちょっとお話をいただきます。 ○事務局  随分時間がたって非常に申しわけないんですけれども、「仮入院と仮退院の必要性に ついて」ということですが、まず「仮入院制度」についてでございますけれども、仮入 院制度と仮退院制度、まず両方とも廃止すべきという意見がかなり強い制度でございま す。  まず1番で仮退院と書いていますが、「仮入院制度の制度経緯とその趣旨」でござい ますけれども、仮入院制度は、精神障害の疑いがあり、その診断に相当の時日を要する と認める者について、扶養義務者の同意がある場合には、本人の同意がなくても入院さ せることができるという制度でございます。この制度の改正があったときの説明として は、精神衛生法が制定された昭和25年当時は、精神医学上の診断技術が十分発達してお らず、精神障害者かどうかの診断に際して一定期間、治療を行わずに経過を観察しなけ ればならない場合に備える必要があったと言われております。  しかしながら、精神医学の進歩により診断に要する日時が短縮されたといったような ことから、平成5年に改正されまして、入院期間を当初の3週間から1週間にするとい う改正を行ったところでございます。  現在の仮入院制度の問題でございますけれども、精神疾患を有するかどうかというも のが判定される以前に、本人の同意に基づくことなく自発的に入院が行われるものとい うことがありますので、精神障害者の人権の確保に反するおそれがあると。  平成8年の報告によりますと、仮入院の届出数が全国で20件しかないということでご ざいまして、本当に必要なのかといったような疑問が起こっている。  仮入院制度を適用している具体的な症例が極めて少ないといったため、どの程度の期 間が最も適当かといったような判断を下すのが困難だといったようなことがございます。  「基本的な考え方」でございますが、先ほど言ったように仮入院が適用されたのはわ ずか20件であるということでございまして、ほとんど適用されていない。また、資料25 は、この説明は割愛させていただきますけれども、その中身を見ても本当に仮入院で対 応する必要性があるのかというのは甚だ疑問な場合が多いのが実情であると思います。  精神障害者であるかどうかということの経過を観察することが必要な入院というのは あり得ると考えられますが、こういった入院は原則としては本人の同意に基づくのが原 則ではないかと考えられます。本人の意思に反してまで強制的に入院を行う必要性があ るというのは、それ相当の必要性というものが必要であって、例えば本人が自傷他害の 状態にあり、精神障害のおそれはあるけれども、即座にはそれが判定できないといった ような合理的な理由がある場合に限定されるのではないか。  また、仮入院については、即座に入院させることが本人の利益であるかどうかという ことがわからないため、現在のような契約に基づく入院形態は不適切ではないか。  したがって、以下のような形で改正することが考えられるのではないか。  まず、2案挙げまして、1案としては、ほとんど使われていない実情を勘案して、仮 入院制度を廃止する。  第2案といたしましては、仮入院は残すけれども、仮入院制度を措置診察後の評価に かかる入院という位置づけをして、入院形態も契約に基づく入院から、都道府県による 入院措置というものに変更する。  その場合の条文の例を下に書いていますけれども、「都道府県知事は、第27条の規定 による診察の結果、精神障害の疑いがあって、その診断に相当の事実を要すると認める 者を、1週間を超えない期間、国若しくは都道府県の設置した精神病院又は指定病院に 仮に入院させることができる」、これは試しに書いたもので余り意味がございません。  次に「仮退院制度」でございますが、仮退院制度も25年の精神衛生法の制定当初から 規定されているものでございます。仮退院は病院内においては精神症状が安定している が、家庭等において社会生活を送る場合に、自傷他害行為などの反社会性の精神症状が 起こりうるかどうかを観察するために設けられた制度である。昭和62年の精神衛生法の 改正時には、仮退院させてよいかどうかについて適切な診断及び判断が確保されるよう に、仮退院は精神保健指定医の診察の結果に基づかなければならないこととされており ます。  仮退院の問題ですけれども、自傷他害行為などの反社会性の精神症状が起こりうるか どうかを観察する仮退院の期間中に、精神障害者による殺傷事件が起きて、特に去年福 岡県の柳川市で起きました警察官刺殺事件みたいなものが起こっております。本来、仮 退院中に病状が悪化し、自傷他害のおそれが顕在化したということがありますが、実際 には自傷他害行為を予測して戻すのはそれほど簡単にできることではないので、仮退院 に際しては慎重な対応が必要とされると考えられる。  しかしながら、一方で仮退院は、盆・正月、後ろに資料がありますけれども、正月に 400件とほとんどが年末に集中しているという実態がございます。これは精神医学的な判 断によって仮退院が決定されているのではなくて、いわゆるシーズンによって決定され ているというおそれがあると。このような慣行的な仮退院がされておりますし、そのよ うなことで、慣行的に退院している者の中には、必ずしも措置でなくてもいい者がいる のではないか。  なお、仮退院許可申請書を保健所が受け付けした場合に、事務的な書類審査のみで許 可を出しているという問題等も指摘されております。措置入院者の定期病状報告の記載 と仮退院の許可申請の間に疑義が生じたような場合でも、なかなかそういうものについ ても病院に伝えて許可しないということは言えない。 実際、福岡県の柳川の病院のときには、定期病状報告では「問題あり」とされながら も仮退院の許可については許可しているというような実態があったところでございます。 「基本的な考え方」ですが、仮退院については、精神障害者の身体的拘束を行うもの ではないが、(ここはおかしいんですが)、自傷他害のおそれがあるとして、一たん強 制入院させた者を一定期間社会に戻して生活を営ませるという制度である以上、仮退院 させた関が不測の事件を起こさないよう、厳格な医学的判断の下に、仮退院決定の判断 をしなくてはならないのではいか。  逆に、措置入院患者の措置症状が消滅した場合には、当然に措置解除が行われなけれ ばならず、社会的な要因等によって退院させるのは困難であるということから、仮退院 制度を一時的に利用して、そのまま措置入院制度を継続させるといったようなことがあ ってはならないというふうに考えられます。  したがって、措置継続の必要性についての精神医療審査会の審査や都道府県の実施審 査等を徹底する必要がある一方で、措置入院が必要な者の仮退院の決定については医学 的に慎重な判断がなされる必要があるため、例えば、仮退院の是非を判定する精神保健 指定医の診察のあり方の見直しなど、その運用を厳格にする方向で検討を行うべきでは ないか。  仮退院をした患者が、再び精神症状を再発し医療機関に戻ることのないよう、保健所 等による訪問指導の徹底や患者やその家族に対する生活指導、職業に対する指導等の相 談指導が十分に行われるようなことに配慮することとしてはどうか。  また、仮退院にかかる都道府県知事の許可等のあり方についても見直し、例えば、最 低限直前の定期病状報告との照合を合わせ、仮退院の申請が上がってきた者に対しては 事務的に許可の手続を行うだけではなくて、疑義が生じた場合には、積極的に医療機関 に対してその旨を伝え、例えば通達等で指導することとしてはどうか。以上、挙げたよ うな、仮退院については運用上の改善なりを行う必要があるのではないかということで ございます。以上でございます。 ○座 長  ありがとうございました。それでは、仮入院と仮退院を別にしてありますのは、仮入 院と仮退院の問題はかなり離れた問題ですので、一応、仮入院、仮退院と一括みたいに 見えますけれども、分けさせていただいておりますので、仮入院の問題について、先ほ ど「基本的な考え方」としてまとめていただいたものをご議論いただきたいと思います。 これは第1案、第2案というふうに書いておられますが、例えば、この委員会の中間答 申なり何なり書くときにも、この第1案、第2案を併記しながら進んでもいいというこ とですか。それともどちらかに決めておいた方がいい。 ○事務局  基本的には決めていただいた方がいいです。 ○座 長  決めていただいた方がいいですね。仮入院制度を廃止してしまおうという考え方と、 一応それは存続するけれども、形を変えてといいますか、その面の条件をつけておこう かと。実態としては仮入院がほとんどないということから、こういう考え方をつくって きているわけですけれども。 ○委 員  第1案でよろしいと、私は思います。 ○座 長  なるほど。この点でどうでしょう。 ○委 員  私も第1案で十分いけると思っています。 ○座 長  そうですか。医療の必要性ということに関して、それはまず認めているわけですよね。 ただ、精神障害であるかどうかということのある判断をするまでの間の仮入院ですよね。 ですから私も廃止してもいいのかなというふうには思っているんですが。 ○委 員  私も廃止でよろしいと思うんですが、もう一つは、医療上も問題があるんですね。例 えば、診断しないうちに、精神障害かどうかを決めていないうちに薬物を投与するとい うことはできませんから、何も薬も出さずに様子見るということになるんですね。非常 に厳密に言いますと。そういうことからも、私はこの制度は要らないというか、むしろ 矛盾を生じることがあるのではないか。 ○座 長  それでは、第1案でいきますか。よろしゅうございますか。               (「異議なし」と声あり) ○座 長  それでは、仮入院制度につきましては、結論的にも第1案で進もうということだと思 います。  それから、仮退院制度の問題でございますけれども、先ほどやはりご説明いただきま した「基本的な考え方」のところをちょっとお目通しいただきたいんですけれども、こ んな形でよろしいでしょうか。特にマルの4つ目のあたりのところは、先ほどからたび たび議論がありました地域システムをどうするかということと関係して書かれているよ うに思いますけれども。 ○委 員  そういうのも含めて考えると、仮退院というのは既に措置症状がある程度消退したと いう前提がどこかあるのではないかという気がするんですが、そうすると、これはこう いう制度があるためにどうも措置が続いちゃう感じがあるので、これはなくしてもいい のではないかと私は思うんですが、実際今までいろいろやった経験から言うと。 ○座 長  ちょっとドラスチックな話が出ましたけれども、事務局、何かご意見ありますか。そ こまでできますか。 ○事務局  皆さんのご意見によると思うんですが、実際件数がある程度あるところなんで、なか なか廃止というところまで思い切って書けなかったんです。 ○座 長  そうですね。ただ、先ほどの資料でお見せというか、細かいところまで、きょうはち ょっと時間なくてお示しできませんでしたけれども、さっきの盆と正月の話が出ました が、皆さん笑われたんで、それが実態なんですよね。その実態から考えたときに、まず 措置入院を継続することの当否と、それを仮退院という形で外泊をさせることの当否と その両方がやっぱりあるように思いますね。その辺のところで何かご意見あるでしょう か。もし、その両方をお認めいただけるとすれば、こんな形で考えていきたいと思いま す。ただ、今回、仮退院をスパッとやめちゃうということはなかなか難しいかもしれな いと思いますけれども、どうでしょうか。 ○委 員  一番最初にきょう話が出た触法精神障害者の問題とちょっと重なってくるんですけど やはり一定期間外来を維持し、その中でその人の生活の安定性、特に社会生活の安定性 を見ていくという人が少数だけどいることは事実だと思うんですね。先ほど、その人に 対して、ある意味の強制的な外来受診といったものを行使できる、そういうような具体 的な内容を持っているということになると、ここの分以外にないんじゃないだろうかと いう気がします。ですから極めて限定的にきちんとそういう審査をして運用するという ことであれば、必要な部分がありはしないか。  それが確かに後藤先生の言われたようないろんな矛盾をはらんだ分はありますけど、 その上でなおかつ地域のシステムの中で無理ということであるならば、別の方法を検討 しなければいけないかもしれませんけど、やはり一定の努力をケアの継続の中でしてい くという、これは枠組みとして必要なのではないかと思っています。 ○座 長  ありがとうございました。今、お話いただいたのが、ちょうど「基本的な考え方」の マル3のところだと思いますけれども、マル3のところで、ある一定の方法をちゃんと とればいいのではないか、そんなことだと思います。  そして、マル5のところでお話が出ることは、これは今後の問題として、関係機関、 こうした病状報告等を受けとめるところがもう少しきちんとしなければいけないのでは ないか。そういうようなことを厚生省としても指導していかなくちゃいけないんだろう かということだと思いますけど、特に問題はないでしょうか。 ○委 員  保健所が訪問指導するというところなんですけれども、それは日常的に入院中からか かわってないと、これは訪問もできないし、行って、何で来たんだという形になってし まうので、大変そのあたりは、入院中からのかかわりみたいなところがないと非常に難 しいと思います。  それから、5番の方の、保健所を経由して仮退院の申請が上がるんですけれども、本 人の帰ってくるところは違う保健所の管内なんですよね。ですから、そちらの方のタイ ムラグといいますか、そういったことも十分考えていただきたいなと思います。 ○座 長  なるほど。ただ、こうした考え方そのものはいいということですね。ただ、今のよう な実際の厚生省なら厚生省が指導するときにはそこを考えてほしい。 ○委 員  それは保健所が無理なくかかわれるような状況ができないとできない。できないとで きないという言い方はおかしいですけど、例えば医療中断者の訪問指導についてという 通達が出ておりますけれども、東京都の場合はそれは都の精神保健福祉課の方で、そう いうことはやらないという形で医療中断者に対してやるようなシステムになってないん ですね。それは保健所と医療中断者とのかかわりの中で余りにも突然一片の紙でいくと いうことが非常に難しいということで、日常の入院のときから、あるいは本当に継続の サポートの中でしかこういうことは行えないなと思っております。ですから、やれるよ うな形での、保健所がかかわれるような形で出てくればできることだと思います。 ○座 長  何かその辺のところでお考えありますか。 ○事務局  いえ。 ○座 長  そうですね。それでは、こんな形で、いろいろご意見いただきましたけれども、それ らを加味したところでまとめていきたいと思いますけれども、よろしゅうございますで しょうか。  時間を45分延ばしていただきまして、本日は大変重要なといいますか、今回の議論の 中で最も時間を食うだろうと思っていた触法精神障害者の問題について、特に時間をと らせていただきましたので、こんなことになりました。きょうはどうもありがとうござ いました。  それでは、次回でございますが、7月27日16時15分から、ここで開かせていただきた いと思います。15分おくれであることをご承知いただきたい。  どうも、きょうはありがとうございました。 連絡先 障害保健福祉部精神保健福祉課 医療第一係 高橋(内線3059)