98/06/16 第21回 年金審議会 総会(公聴会)議事録 第21回 年金審議会 総会(公聴会)議事録 日 時:平成10年6月16日(火) 14:00〜16:38 場 所:中央社会保険健康センター ペアーレ新宿3階 ペアーレホール 1.開会の辞 2.委員出席状況報告 3.議事  ・意見陳述   牛丸聡早稲田大学教授(経済学)   大田弘子政策研究大学院大学助教授(公共経済学・経済政策)   山崎泰彦上智大学教授(社会保障)  ・意見交換 4.閉会の辞 出席委員  京 極 会 長  八 木 委 員   砂子田 委 員   岡 崎 委 員   木 原 委 員  国 広 委 員   久保田 委 員   神 代 委 員   坂 巻 委 員  高 山 委 員   都 村 委 員   桝 本 委 員   目 黒 委 員  山 田 委 員   山 根 委 員   吉 原 委 員   渡 邊 委 員  船 後 委 員 ○会長  ただいまから第21回年金審議会総会を開催します。  審議会は、次の制度改正に関する審議を昨年5月から開始いたしました。昨年末には 論点整理を行いました。ことしは意見書の取りまとめに向けて、2巡目の審議を進めて います。本日は有識者の方よりご意見を承ります。 ○会長  それでは、委員の出席状況について事務局からご報告をお願いします。 ○事務局  本日は富田委員、福岡委員、若杉委員、貝塚委員がご欠席でございまして、そのほか の委員はご出席のご予定でございます。以上でございます。 ○会長  それでは、事務局から有識者の方々のご紹介をお願いいたします。 ○事務局  それではご紹介申し上げます。  早稲田大学政治経済学部教授の牛丸聡さんです。  政策研究大学院大学助教授の大田弘子さんです。  上智大学文学部教授の山崎泰彦さんです。 ○会長  本日は、まず最初に、お招きしましたお三人の方々から、お一人20分を目安に、制 度改正などについてご意見をお伺いし、その後、委員の方々と意見交換を行いたいと存 じます。よろしくお願いします。 それでは、まず、牛丸さんからお願いします。 ○牛丸教授  ただいまご紹介いただきました早稲田大学の牛丸です。  こういう席で発言をさせていただく機会を与えていただきましてありがとうございま す。少々風邪を引いておりまして、お聞きにくいかもしれませんけれども、その点はご 了承ください。  事前に、きょうお話するレジュメをお手元に配っていただきましたので、それに基づ きましてお話をさせていただきます。  まず、「はじめに」というところに書いておきましたように、私自身、これまでずっ と年金の研究をやってまいりました。専門は財政学ですけれども、その中で中心的に年 金の研究をやってまいりました。  一昨年に1冊本を出しましたが、その時点では自分なりの年金のあり方というのはま だ途中でした。それまでの研究である程度の方向性というものを持ってはいたのですけ れども。その後、機会がありまして、昨年11月に総理府の社会保障制度審議会の数理 部会のセミナーで話をさせていただきました。その際の講演記録を委員の皆様のお手元 に参考資料として配付していただきました。後で、読んでいただければ幸いに存じます  そのときに至りまして、本のときより少しずつ考え方が変わってきておりましたけれ ども、まだはっきりしたものが見えないという状況にありました。そして、社会経済状 況の変化というものがだんだんわかってきて、本日、皆さんの前でのお話という機会を 与えられたわけです。  そういうことで、時間の流れの中で、自分なりの年金の考え方が少しずつ変わってま いりましたので、その辺を含めましてお話をさせていただき、それが委員の皆様方の審 議あるいは広くは国民の年金検討に資すれば幸いだと思っております。  次のIIに移りますけれども、私たちはこの状態の中で一体何をしなければいけないか どういう点を把握しなければいけないかという点についてお話させていただきます。 そこにも書いておきましたように、公的年金制度はさまざまなものに影響を受けてお ります。その中で、最も大きな影響を及ぼす要因は、言うまでもなく「少子・高齢化」 であります。その少子・高齢化の進展が、とにかく著しいという状況です。最近の新聞 の報告によりますと、これも皆さんご承知でありますように、合計特殊出生率が1.39 まで下がってしまいました。その状況の中で、私たちはどうしなければいけないのか。  そこで、私なりに考えてみますに、二つあります。  まず第一は、これはそこにも書いておきましたように、非常にプライベートなことで すから、慎重に対応する必要がありますけれども、そういうことを申し上げた上で、何 とかこの少子化を阻止し、また出生率が上がるような手だてがないものか、それを政策 として何か実行できないかという、それを検討することであります。  もう一つは、そういうことを行いつつも、何とか少子・高齢化というものがそのまま 行くとするならば、それを前提とした中での社会保障施策、制度のあり方を考えていか なければならないだろう。その一つが公的年金制度のあり方です。  そういうことで、公的年金制度を見直していかなければなりません。それでは、どう いうふうに見直したらいいか。それが3番になるわけですね。  「3.現在から将来にかけての社会・経済状況を前提に行う公的年金制度のあり方の 見直しとはどういうことか」。  これは二つに分けて考える必要があると思います。今回の審議会は来年の改正に向け ての検討だということです。ですから、そういう意味で、まず短期的にできることは何 であるか。給付額抑制ということは当然出てくるわけですけれども、その中でできる手 だては何かという、そういう一つの視点です。  しかしながら、同時に、もう少し長期を睨んで、長期的年金制度をどうしたらいいか これは、もしかしたら、今回の改正に向けての時間的な余裕はないかもしれません。余 裕がないというのは、今回の改正までには結論が出ないかもしれません。出ないという か、もう少し時間をかけて検討した方がいいと思います。長期的視点に立った見直しが 必要だと思います。  以後、むしろ長期的視点での年金のあり方というものを考えてみたいと思います。  それは、小手先の改正でなく、今言いましたように、長期的視点に立って見直すとい うことです。見直しが行われた結果、国民一人ひとりがその公的年金制度に対して信頼 する──言い換えれば、信頼を持ってその制度を迎えられる、そういう見直しであるべ きだと思います。  そのためには、国民一人ひとりが現在進んでいる、将来に向けて進んでいる経済社会 状況を把握した上で、それならばこの制度を納得していいだろう、選択するような見直 しであるべきだと思います。  そのためには、必ずしも現行制度内というような、その制度的枠組みにはこだわらず に、それを広げてといいますか、あらゆる可能性を視野に入れて検討を行うべきではな いだろうかと思います。  それはどういうことかといいますと、 4に書いておきましたように、給付額が幾らに なるか、一方、負担額が幾らになるのか──そういうことはもちろん大切ですけれども そこだけで見るのではなく、その背後にあるといいますか、根本にあるといいますか、 その理念の視点から整理を行い、例えば公的年金制度にこうした役割を求めるならば、 考え方を適用するならば、想定される現在のような高齢・少子化のもとでは給付・負担 はこうなり、一方、こういう利点はあるけれども、こういう問題が出てくるというよう な形で提示して、そして国民の判断を仰ぐべきではないだろうかと思います。  当然、国民に選択を求めるわけですけれども、その際に国民に示す選択肢はそうある べきではないかと思います。  次のレジュメに移っていただきます。先般、『年金白書』が出されました。そして、 その中に五つの選択肢が出されています。これに対して、私自身どう評価するかといい ますと、そこに書いておきましたように、まず第一は、非常に評価できる大きな一歩で あると思います。  というのは、これは多くの方々がおっしゃっていますけれども、従来より情報公開を 行い、そして一つだけではなく、幾つかの選択肢を提示したという意味で、非常に大き な一歩だったと思います。そういう意味で、厚生省の行ったことに対して、大変敬意を 表します。  ただ、もう少し欲張りなことを言わせていただければ、先ほど申し上げた視点から 少々不満もあるということです。それはどういうことかは次にお話いたします。  それならば、長期的視点に立った公的年金制度の改革はどうあるべきかといいますと まずIVの1に書いておきましたように、国民に納得される、理解されるようなものであ る。そのためには、まず、現在ある1階部分、2階部分、この二つの部分に関しまして その役割あるいは財源調達、それについてはっきり分けて、国民に明確にわかるように 示すことが必要であろうと思います。そして、高齢化・少子化が続く将来において、1 階部分はどうしていくのか、あるいは2階部分はどうしていくのかという、その姿を示 す必要があるのではないかと思います。  それでは、1階部分、基礎年金はどうするか。それをどういうふうに位置づけるか、 財源調達はどうするのか。こういう状況の中で、基礎年金制度に求める考え方如何によ って、財源調達のあり方も当然異なってきます。  今回、意見として出ています第3号被保険者から保険料徴収を行うということも、今 申し上げたような、そういう考え方如何によって評価も異なってくると思います。1階 部分に関して、一般的に次のことが言えます。  1階部分を支える理念を明示することが大事だと思います。例えば、適用を高齢者す べてにするのか。あるいは高齢者を限定して、ある所得水準以下の高齢者に限るのか。 あるいは財源調達を従来どおり、社会保険料に基づかせるのか、あるいは租税財源にさ せるのか。租税にするならば、消費税か所得税か……といったように、そのあり方に幾 つかの考え方が当然あるわけです。  それから、2階部分に関しても、一般的に次のことが言えると思います。  2階部分というのは、事前に拠出されたもの、これは言い換えれば従前所得あるいは 従前生活をあらわしたものと思いますけれども、それに応じてリスク対応させた給付保 障を行うというものですね。  そういう従前のものにリスク対応を行うにおいて、どのようなリスクの、どの程度の ものに対して対応させることが必要なのか。それに応じて、当然、財源調達方法が異な ってきます。いわゆる賦課方式にするのか、あるいは積立方式でできる範囲にするのか  もし積立方式的対応で十分であるならば、それを行うのは公的機関なのか、それとも 民間機関に任せるのか、そのどちらに委ねるのがいいのか。さらに言えば、そういう2 階部分のリスク保障について、各個人に従来どおり強制加入させる必要があるのか、あ るいは自由にさせた方がいいのかといったように、理念的に分けますと幾つかの考え方 ができると思います。これも一般論です。  今申し上げましたように、1階部分に関しても、2階部分に関しても、理念的に考え 方を分けることができるわけですね。私たちが今やらなければならないのは、進展する 高齢・少子化の中で、将来に向けて、長期的に今申し上げた幾つかの理念を整理して、 その中で、一体どういうふうにしていくのか、国民がわかるようにその案を提示すると いうことです。  現在から将来にかけての社会経済状況を前提として、今申し上げた幾つかの考え方を 組み合わせることによって、当然、幾つかの選択肢が出てくるわけです。それを実行す ると、給付・負担はどうなるか、あるいはどういう利点があるか、あるいはどういう問 題が出てくるか、両面が見えると思うのです。  実は、私が密かに望んでいた選択肢はこういうことなのです。つまり、ある考え方を とるとこうなる、そしてある考え方をとるとこうなるということで、結局、出された案 の背後には1階部分及び2階部分に対する考え方が違うということですね。その中で、 国民はその利点と問題点、両方を見ながら、どれを選択するかということなのです。  こういう考え方から、先ほど5つの選択肢に少々不満があると申し上げたのは、Aか らDは、考えようによっては現行制度の中での給付と負担との額を変えていく組み合わ せ──これも非常に大きな一歩なのですけれども、そういう感じが受けられるわけです E案だけがちょっと違う。  しかしながら、2階部分の対応に関しても、今申し上げたような幾つかの段階がある と思います。それから、1階部分に関しましても、財源を租税にするとか、保険料にす るとか、あるいはE案は2階部分は民営化するという考え方でしたけれども、2階部分 を例えば積立方式にして公的にやるやり方だってあるわけですね。  そういうふうにしますと、あそこに示された5つだけでなく、幾つかもっと多くの考 え方と対応した案が出てくるでしょう。実は、こういう選択肢であってほしかったなと いう意味で、少々不満があったということなのです。  それでは、私なりの一つの考え方を、1階と2階について少し示させていただきたい と思います。  今、一般論ということでお話しましたけれども、レジュメのIVの2の「1階部分をど うするか」ということで、これは一般論しか書いてありません。  これは先ほど申し上げましたように、恐らく現在の人々、特に被用者の場合には、1 階部分に関してはっきり認識していないのではないかと思います。それは、いい意味で も悪い意味でも、1985年(昭和60年)改正によって導入された財源調達が、社会 保険料3分の2、国庫負担3分の1ということで、両方が合わさっているということで す。それがいいのか悪いのか。ある意味では、これによって非常にうまく動いていると いう点があります。しかし、その結果として曖昧さが出てきてしまっている。  そこで、私としては1階部分は一体何をするのかということを改めて考えるべきでは ないかと思うのです。そうした場合に、私はその1階部分というのは、ある一定額の年 金額をすべての高齢者に給付する。一定額といっても、インフレや経済成長に応じてそ の額は変化させていく。そうしたときに、果たして保険原理を残すかどうか。これには 見解はいろいろあると思います。  ただ、ここで一つの考え方として、その財源を租税にするという考え方もできるので はないか。どういうことかというと、高齢者にある額を保障する。その財源はそのとき の負担能力によって徴収する──ある意味では、これは賦課方式になります。その負担 能力のある者に課税する。  しかし、私個人としては、昨今言われているような「消費税に基づく」というのはあ んまり賛成できないわけです。というのは、現行消費税は負担能力に関してかなり問題 があり、と見ておりますので、所得に基づかせた課税徴収を考えています。ただ、これ は現在というよりも、将来に向けてのものです。  そして、取ったものは独立した会計勘定で扱う。特別会計として独立させて、基礎年 金の財源調達を人々の目に明白なものにさせる。そうすることによって、基礎年金制度 は一体何なのか。各個人に完全に理解してもらう。  現行制度では、さっき言いましたように、被用者の場合、自分が取られている保険料 の一体どこが1階で、どこが2階というのはわからないと思うのです。1階が何である かということがはっきりわかるようにすることが必要ではないか。  この考え方を実現できるかどうかわかりませんけれども、やるためには解決しなけれ ばならない問題が二つあります。  一つは、消費税がだめと私申しましたけれども、現行所得税なら問題ないかというと ご承知のように九六四を初めとして捕捉の問題が多々あります。ですから、これを解決 しなければならない。さらには、高齢者に対する優遇課税をなくす、これも前提です。  それから、もう一つ大きな問題は、先ほど、私は「すべての高齢者に」と言いました けれども、従来の社会保障というのは、租税を財源としてミーンズテストで給付する。 一方は、社会保険方式でもってすべてに適用する、この二つのやり方でした。  これを税金を財源として高齢者すべてにというと、従来の二つのやり方でない第三の やり方になるわけですから、そういう意味で論拠をはっきり詰めていかなければならな いだろうと思います。これは将来の一つの案として提示したいわけです。  これに対して、基礎年金はやはり保険ではないかという議論があると思います。昨今 出ております第3号被保険者から保険料徴収をするという考え方ですけれども、保険原 理に基づいて個人単位ということで考えるならば、そうした方向性にはうなずける面が あります。  ただし、もし第3号被保険者から保険料を新たに徴収するということで、従来より保 険原理を徹底するならば、我々としてはもう一つやらなければいけないことがあるので はないかと思います。というのは、保険原理を貫徹するためには、少なくとも各個人─ ─3号を含めまして、一人ずつから徴収した保険料に収益をつけた完全な給付額を保障 しなければならない、それが保険原理であると。したがって、そういう論理をもし押し 通すならば、そういうふうにしなければいけないのではないか。ですから、この辺は論 理の整理ということが必要かと思います。  いずれにせよ、先ほども言いましたように、現在の基礎年金は租税(国庫負担)とそ れから社会保険料が混じって行われていますから、そういうことがうまく作用している と同時に、そこが曖昧なために幾つかの問題が出ているのです。3号被保険者の問題も それかと思います。  もう時間がないので、2階について移らさせていただきます。  2階に関してどうしていくか。私の年金研究がだんだん変わってきたと申しました。 実は、過去の私の研究をご存じの方はご承知だと思いますけれども、本においてもそう でしたけれども、私は賦課方式の重要性を大分評価しておりました。現在でも、その評 価は変わっておりません。  賦課方式の利点は重々承知しておりますけれども、最初に申し上げました1.39とい う少子化の中で、賦課方式といいますか、2階部分に関して広範なリスク対応をするこ とによって起こってくる問題、これはもはや軽視できないのではないか。 ですから、その点まで考えていきますと、レジュメの3)にありますように、「現在か ら今後の状況を念頭に置くならば、2階部分が対応する部分をかなり絞っていくしかな いだろう」と思います。  経済学者の多くの方々は積立方式ということをおっしゃいます。積立方式というより も、2階部分のリスク対応に関して、賦課方式的要素を削っていくという方向性ですね それは、当然、視野に入ってこざるを得ないだろう。このままですと、やはり賦課方式 による問題が大きくなってくるだろうと思います。したがって、そういう意味では、賦 課方式的要素はかなり削らなければならないだろうというのが私の考えです。  徹底して、もし積立方式というところまで行くとするならば、そこまではまだ議論が あると思いますけれども、そうした場合には民間に委ねるかどうかという議論が出てく ると思います。これに関して、私はもっともっと時間をかけなければいけないかと思い ます。  最後に書いてありますように、「意義ある検討を行うための一方の極として2階部分 の民営化という意見も確かにあります。ただし、これについては仮に2階部分の賦課方 式的要素を限定したとしても、資産運用とリスク対応の視点での公私のあり方、社会的 費用という視点での公私のあり方、それに2階部分についての強制加入の有無について などは十分な議論が必要」だと思います。  ですから、その十分な議論を国民レベルでもって少し時間をかけて行っていただきた いと思います。これは決して先送りではなく、実りある選択をするためにじっくりと多 くの視点からの検討が必要だと思います。  最後に、二つだけ留意事項を申し上げておきます。  まず第一点は、今、公的年金のあり方についてお話してきましたけれども、公的年金 制度の今後の方向性だけに目を向けるのではなく、それを高齢者に関する他の社会保障 施策との関連性の中で考えていく必要があると思います。つまり、高齢者に対する医療 保障制度や介護保険制度のあり方との関連の中で、公的年金制度のあり方を考えていく べきでしょう。これが第一点です。  第二点は、先ほど一つの究極的な案として、1階部分の租税ということを申し上げま したけれども、その大前提としては高齢者に対する優遇税制を改めるとか、あるいは先 ほど捕捉の問題を言いましたけれども、公的年金制度の改革はその大前提として租税改 革──つまり、公平な税制を求めて行う税制改革を前提とする。片方だけではだめだと いうことですね。  したがって、社会保障関係の各施策との対応はもちろんのこと、年金を含めた社会保 障施策、それと税制とのあり方の関連性、そこを含めて改革を行っていく必要があると いうことです。 あと細かい点は、質疑応答のときに述べさせていただきます。どうも ありがとうございました。 ○会長  ありがとうございました。  次に、大田さん、よろしくお願いします。 ○大田助教授  大田でございます。よろしくお願いします。  きょうは発言の機会をお与えいただきまして、ありがとうございます。  まず、今回の年金制度改革についての基本的な考え方から申し上げたいと思います。 今、私どもが年金について一番考えなければいけないことは、持続可能な年金制度にす る。何か地球環境問題みたいですけれども、将来ともに持続可能な年金制度にするとい うことが最も重要かと思います。  これまで年金を考えますときに、「高齢者は幾らあれば暮らせるんだろうか」という 給付に着目した議論が多かったわけですけれども、将来、34.3%の保険料を払う世代 は果たしてそれだけの保険料を払って暮らしていけるのかという点は、もっと本格的に 考える必要があるかと思います。  人口構成が将来ともに一定ならば、給付を重視しようが、負担を重視しようが一緒な んですけれども、日本のように人口が急速に高齢化する、それから賦課方式というこの 人口変動のリスクを最も受ける年金制度において、給付を重視した議論はとかく後世代 への負担の先送りになってしまうように思います。ですから、将来の負担に着目して議 論することが重要と思います。  高齢社会の一番の問題は、そのときの高齢者の生活もさることながら、ピーク時の重 い負担を支える世代の経済的な活力ではないかと思います。  企業にとりましても、法人税以上に社会保険料の負担が重くのしかかってまいります 重い負担をかけておりますと、企業生産の海外逃避を加速させますし、それによって将 来の雇用機会を縮小させてしまうことになります。あるいは正社員を減らすような形で の雇用の歪みが生じる可能性もあります。  負担をしっかり見た上で議論する必要がありますけれども、ただ給付の切り下げにか かわる議論は政治的にはかなり難しいわけです。やはり、拙速を避けて、じっくりと議 論を熟成させる必要があるだろうと思います。  前の基礎年金を導入しましたときの改革も、改革としては非常に難しい改革だったわ けですけれども、ここにおられる専門家の先生方のご努力もあって、非常にスムーズに 行ったと。その原因の一つは、時間をかけて雰囲気を醸成させ、議論を盛り上げていっ たという点があると思います。  ですから、今回も議論をじっくりと熟成させる必要があるのではないだろうかという ふうに思います。  次に、5つの選択肢について申し上げます。  今、牛丸さんもおっしゃいましたように、厚生省が情報を積極的に開示する方向に移 行しつつあって、その一つとして5つの選択肢が出てきたということを大変高く評価し ています。  5つの選択肢の中で、A案からD案は給付と負担のバランスを示したものですけれど も、私はこの中ではD案を支持いたします。これから先の税負担ですとか、医療費の負 担などを考慮しますと、年金だけを見ますと今の負担が大体限度なのではないだろうか  では、そのときに、そういう負担をどういう形で給付に向けるのが最も望ましいか。  私は、これを基礎年金だけに向けるのが望ましいというふうに思っております。今の 2階部分は、給付と負担という問題以外に、構造として問題が大きいと思います。2階 部分は、考え方としては積立方式で設計がなされておりますが、実際は賦課方式になっ ていて、後世代からの負担で賄われている。ということは、現役時代に高所得だった人 ほど、後世代から大きい所得移転を受けるという仕組みになりますので、逆の所得再分 配が発生しております。  やはり、報酬比例という考え方は、積立方式のもとで成立する考え方ではないかと思 います。そういう観点から、報酬比例部分は積立方式に変えるべきと思います。  積立方式にした上で、積立方式の年金を国営としてやるのか、あるいは民営化するの か。この違いは、実質価値の維持を行うかどうか、つまり、物価スライドを行って、実 質価値の維持を政府が行うかどうかというところに違いがあるかと思います。  積立方式にした報酬比例部分に物価スライドを適用いたしますと、その財源は賦課方 式でなされることになりますが、そうしますと2階部分を持っている人と持っていない 人の間で不公平が発生します。  ですから、私は2階部分は積立方式にして、徐々に民営化するのが望ましいと。今回 の制度改正ではなくて、徐々に民営化するのが望ましいと思っております。そういう意 味で、E案を支持いたします。  政府は一切関与しないのではなくて、老後の所得保障のための貯蓄ということで、一 定額までの積み立てに税制優遇を付与する形での政府関与ということは考えられるだろ うというふうに思います。  それで、積立方式への移行ですけれども、給付水準の引き下げと保険料の早期の引き 上げによって徐々に報酬比例部分を積立方式に移行させる。特に、給付水準の引き下げ によって、2階部分を実質的に小さくしながら積立方式に移行していくことが望ましい かと思います。  基礎年金の財源は税方式に移行する。税の中でも、負担を広く担うという形で消費税 に移行することが望ましいと思います。  基礎年金の水準をどうするのかというのが問題です。これは、介護保険の保険料がこ れからどうなるかとか、あるいは医療保険の保険料を年金から天引きしていくのかとい うような今後の制度のあり方によっても変わってまいりますが、今の制度で考えますと ほぼ生活保護水準になろうかと。  高山先生の分析にもあるように、高齢世代というのは経済力が大変ばらついておりま す。ばらつきが大きいということを前提にいたしますと、現金としての一律の給付は必 要最小限にする。その上で、例えば住宅の保障であるとか、その人の状況に応じて福祉 施策をきめ細かく設定することが望ましいのではないかと思います。  したがいまして、基礎年金はナショナルミニマムとして位置づけるというのが、私の 意見です。  やはり、年金制度改革の場合は、現に年金を受け取っておられる方の改革はなかなか できませんけれども、負担の世代間の均等化を考えますと、財源を消費税にした場合の 消費税増税による物価上昇、これは物資スライドには含めないという対応を合わせてと る必要があるかと思います。  次に、個別の検討課題について申し上げます。  まず、賃金スライドですが、新規裁定時のみにして、あとは物価スライドだけにする 賃金スライドは経済成長の果実を高齢者にも配分するという趣旨を持っております。こ の趣旨は趣旨としてありますが、しかし、その負担はすべて現役世代の負担によって担 われますので、日本のように急速に高齢化が進む状況を考えますと、これはなくすのが 妥当であろうと思います。  支給開始年齢の引き上げにつきましては、老齢年金である以上は、老齢ですから寿命 が延びれば、やはり老後の入り口も引き上げていくという考え方は順当なのではないか 報酬比例部分を仮に今のまま存続するといたしますと、その支給開始年齢は早い段階で 65歳に引き上げる。  それから、基礎年金を67歳に引き上げるかどうかという案がございます。これは今 の状況を考えますと、やはり雇用の状況から言っても67歳というのは難しいですが、 給付年齢の引き上げは徐々になされてまいりますので、今から20年くらいたって67 歳になるということでしたら、それは十分に考えられるのではないかというふうに思い ます。  それから、年金の繰り上げ・繰り下げ受給は、年金数理上、中立な形にする。何歳か ら受け取りはじめても、年金数理上は中立にする。その対応によりまして、部分年金は 廃止する。  これも先ほど申し上げましたように、基礎年金はナショナルミニマムとして一律に給 付する。それから、2階部分は積立方式に変えるといたしますと、積立方式の部分は設 計が自由ですから、早い段階から少しずつもらいはじめる人、遅い段階からゆっくりも らいはじめる人、働きながら少しずつもらう人、この設計はかなり柔軟にできるだろう と思います。  それから、総報酬制に変える。給与として支払うか、ボーナスとして支払うかの選択 には中立であるべきだからです。  それから、専業主婦も基礎年金の保険料を負担する。公平というものを世帯単位で見 るのか、個人単位で見るのかというのは難しい論点ではありますが、税の世界でも個人 単位で見ていくということが中心になりつつあります。その理由は、中立ということが 非常に重要になってきているからです。  中立といいますと、制度が個人の選択に影響を与えないということです。女性の場合 は、結婚するとかしないとか、離婚するとか、あるいは勤めに出るとか出ないといった ような選択に対して、中立な制度であることが望ましい。この中立という点を重視いた しますと、個人単位の制度であることが望ましい。したがって、専業主婦も基礎年金の 保険料は負担するという制度が望ましいと思います。  ただ、保険料の徴収を実際にどうやるのかというのはなかなか難しい点もあります。 この点から言いましても、基礎年金の財源を消費税にするということは合理的だという ふうに考えます。  それから、年金に対する課税を適正化する。  今の公的年金に対する課税は、課税の理論から見ましても過度に優遇されています。 年金の給付額が人によって、あるいは従前の職業によって違う中で、過度の優遇を与え るということはおかしいと思います。  公的年金等控除は廃止して、高齢者であっても所得に応じて税を負担する。高所得層 の金を減額するという意見がございますけれども、経済力を所得で見るのか、資産まで 加えて見るのかというのは難しい問題で、特に高齢期は資産の比重がふえますので、所 得だけを見て、所得の高い層の年金を削減するということは、やはり公平の観点からそ れほど望ましいことではないように思います。  ですから、私は年金はもうシンプルに、一律に、ナショナルミニマムとして給付する 私の頭にありますのは、先ほど申し上げた基礎年金ですけれども、その上で、所得課税 資産課税で、しっかりと高所得層、高資産層からは税として徴収することが望ましいの ではないかと思っております。  最後に、これからの検討の進め方として幾つかのお願いを申し上げたいと思います。  まず一つは、若い世代の意見を意識的にたくさん聞いていただきたいということです 年金は超長期の制度ですので、私どもは今遠い約束をつくりつつあるわけですけれども 若い世代はこの政策決定に参加できませんので、私どもが責任を持って十分に考える必 要があります。といいましても、今の小学生に議論を聞くわけにもいきませんので、せ めて大学生くらいの若い世代にしっかりと意見を聞く必要があるだろうというふうに思 います。  ただ、年金を関心を持つのはえてして中高年が多くなって、既に受け取っていたり、 もうすぐ受け取る層の関心が高くなったりいたしますので、若い世代の意見は意識して 聞かなくてはいけないだろうと思います。  それから、2番目は、徹底した情報開示をお願いしたい。  制度設計の算定根拠はインターネットのような形ですべてオープンにして、シンクタ ンクであれ、学者であれ、さまざまな立場でいろいろな試算ができるようにしていただ きたい。  それから、3番目、大改革はこれを最後にしていただきたい。私は、今の年金制度の 最大の問題は、国民の不信感を生んでいることだと思います。週刊誌に「逃げ水」とい う表現がありましたけれども、逃げ水というふうに思っている団塊の世代以降の世代は たくさんおります。その場に行ったらなくなるのではないかと。この不信感はやはり非 常に困ったことです。  逃げ水と言われないために、大改革はこれを最後にする。そのためにも、99年度と いう財政再計算の時期にあまりこだわらずに議論を熟成させていただきたい。99年度 改正ではできるところまで改正して、さらに給付と負担のバランスというような大きい 議論は継続して議論するというような枠組みをつくっていただけないだろうかと思いま す。そして、持続可能な年金制度にしていただきたい。  それから、最後に、総合的な負担のあり方について検討が必要である。これは年金審 議会の領域を超えることではありますが、やはり最後にお話ししておきたいと思います  今の牛丸さんのお話にもありましたけれども、社会保障全体として負担がどうなるの かということを考えませんと、なかなか年金だけの議論では限界があります。それから 社会保障だけではなくて、税と合わせた議論が大変重要です。特に、今、重要な局面で す。税の方でも、ことしは所得税の議論が大きな課題になります。その所得税の中で、 例えば扶養控除ですとか、配偶者控除といったものを仮に廃止するとしたときに、それ は本当は手当として給付した方が望ましいかもしれない。手当というのは厚生省の担当 ですから、そちらの方での議論が入ってくる。あるいは年金給付に課税するとか、基礎 年金の財源を税にするといったようなことも、税と社会保険料といったものを一体にし て、負担全体として議論しないと、なかなか踏み込んだいい議論はできないように思い ます。  残念ながら、大蔵省、自治省、厚生省と分かれて議論されておりますので、ぜひ、負 担の総合的な検討という場を設けるべきではないかというふうに思います。以上です。 ○会長  ありがとうございました。  次に山崎さん、よろしくお願いします。 ○山崎教授  次期年金改正についての意見をきょう求められているわけですが、実は私の年金につ いての関心は昭和60年改正がピークでありまして、それ以降はむしろ医療や介護、そ して最近は子供の問題に関心領域の重点が移ってきております。そのようなこともあっ て、社会保障制度全体の中で年金がどうあるべきかという総合的な視点の重要性を以前 にも増して痛感しております。  したがって、これから申し上げますことも、年金審議会の守備範囲を超える部分も 多々あるかと思いますが、何とか審議の参考にしていただきたいと思います。この点は 牛丸さん、大田さんと全く同じ意見であります。 ここでの意見は、レジュメに沿って要旨のみにとどめて、あと質疑の時間で補足させ ていただきたいと思います。  第1点は「社会保障の担い手の拡充」ということでありますが、高齢者や女性の雇用 を促進し、さらに出産、育児支援を強化するということが長期的には極めて重要だとい うふうに考えております。出産、育児支援という点につきましては、最後に触れたいと 思います。  まず、高齢者の雇用でございますが、やはり65歳現役社会を構築するという方向で 今、労働省中心に検討が進めれているようでございますが、私はこれに賛成でございま す。そして、将来的には早期退職を希望する者や、あるいは雇用の場が得られない人に ついては老齢年金の繰り上げ減額支給だとか、あるいは企業年金、雇用保険の失業給付 によって補完すべきだろうというふうに考えています。  その場合、現行制度での報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金は、経過措置を おいて廃止するということになるわけでありますが、それまでの間は、高齢者を雇用す る企業の事業主負担を軽減するといったことで、年金制度においても雇用を促すという 仕組みを取り入れるべきだというふうに思っております。  つまり、高齢者を雇用する企業と雇用しない企業とが保険料負担が同じ、特に事業主 負担が同じというのは標準報酬制の問題と同じでございまして、負担の公平性という観 点から大きな問題があるというふうに考えております。  次は、女性の本格的な就業の促進であります。  実は、総務庁の労働力調査によりますと、雇用者総数に占める女性の割合は、昭和 40年の31.7%から平成8年には39.2%へ上昇し、女性の職場進出が進んでいるこ とを示しているわけでございます。  ところが、厚生年金の被保険者に占める女性の割合は、この同じ期間に32.0%から 33.2%へとわずか1.2ポイント上昇したに過ぎないわけであります。ほとんど変化 がないということであります。  つまり、女性の労働力率が上昇しているというわけですが、納税者あるいは社会保険 料の負担者としての女性の比率はほとんどふえていないということでありまして、労働 力率の上昇は主としてパートタイマーの増加によるものだということであります。つま り、担い手の拡充ということになりますと、高齢者とともに女性にも財源の負担者にな っていただかなければならないわけですけれども、指摘されているように、租税や社会 保険制度というものが本格的な就業を制約しているという事実は否めないことだという ふうに思わざるを得ません。  したがって、女性の本格的な就業を促すためには、税の配偶者控除を廃止するとか、 健保の被扶養者及び年金の第3号被保険者の制度の見直しと個人単位化を進めて、租税 や社会保険制度というものを就業に対して少なくとも中立化すべきだというふうに考え ております。  なお、介護保険の65歳以上の高齢者、つまり第1号被保険者については、被扶養と いう考え方を廃止しまして、高齢者が一人ひとり応分の負担をするという完全な個人単 位化を図ったわけであります。私は、現役世代についてもこういう仕組みに切りかえる べきだというふうに考えております。  それから、第2は「政策の総合化と運営の効率化」であります。  いずれにしても、制度横断的な対応が必要だということであります。1つは、医療や 介護制度改革との整合性ということでありますけれども、改正論議では年金水準の引き 下げが当然のこととして議論が進んでいるように思いますが、仮に年金水準を大幅に引 き下げるとしますと、現在の年金水準を前提に高齢者に適切な負担を求めようとする方 向で進んでいる医療や介護制度改革を大きく制約するという問題があります。  その一方で、実は病院や介護施設入所者の医療や介護給付と年金給付の重複の調整も 大きな課題になると思います。介護保険創設後は、1カ月の利用者負担は5〜6万円に 統一されますから、被用者年金受給者が入院あるいは入所しますと年金がたまるという 問題が一般化するわけであります。  私は年金受給者については、社会保険料も利用者負担もともに年金から特別徴収する ことに踏み切るべきだと思います。事務的な問題がいろいろ言われているようでござい ますが、具体的には基礎年金番号をキーにすれば十分に可能だと思います。現在の基礎 年金番号は年金以外に使わないということのようでございますが、私は少なくとも社会 保険全体の共通の番号にしていただきたいというふうに考えております。それによる行 政効率の改善ということにも注目したいと思うわけであります。  次に、「適用・保険料徴収の改善強化と業務の効率化」でありますが、まず、厚生省 と労働省の統合に当たっては、労働保険も含めて被用者の社会保険の適用・保険料徴収 の一体化あるいは保険料算定方式の統一を図るべきだというふうに考えております。  さらに、国民年金の第1号被保険者の適用や保険料徴収の強制力の強化も大きな課題 であります。 他の社会保険に比べますと、現状では保険者責任という観点が国民年金には極めて希 薄だと私は見ております。しかし、責任を追求するだけでは解決できない難しい問題が あることも十分に承知しております。国民健康保険を含む医療保険との連携、あるいは 運転免許証の交付や生命保険料控除の適用との連動などもあわせて検討していただきた いというふうに思っております。  あるいは思い切って、保険料の徴収事務を税務署に移管するということも検討のテー マになり得るように思います。  地方分権推進計画によりますと、国民年金の事務は国の直接執行事務になります。住 民に密着している市町村でも困難であったことが、社会保険事務所で可能だとは考えら れません。むしろ、税務署で税と一体で徴収する方がベターではないかと思います。そ の場合には、被用者の社会保険、つまり厚生年金、健保についても税務署に移管するこ とになると思いますが、行政改革のテーマとしても検討課題になるように思います。  第3は、「年金水準と税制と見直し」であります。  年金額の水準と改定方式につきましては、1階の基礎年金と2階の被用者年金とは分 けて考えるべきだと思います。 基礎年金につきましては、その性格からしても、また高齢者医療や介護保険との整合 性からしても、これ以上は下げられません。従来どおりに生活水準の上昇に見合って、 きちんと改定すべきだと思います。  保険料負担との見合いということであれば、保険料の徴収力の強化や国庫負担割合の 引き上げによって解決すべきだと思います。  一方、2階部分の被用者年金につきましては、既裁定年金の物価スライド制への切り かえは避けて通れないというふうに考えております。  また、給与所得者と年金所得者の均衡を図るという観点から、公的年金等控除の高齢 者優遇税制の見直しも課題になると思います。それによって、国民健康保険や介護保険 の財政基盤が強化されるということにも注目すべきだというふうに思います。  第4は、「負担の公平化」でありまして、現行制度では負担逃れの余地があり、結果 的に他者に依存するという“たかり”の構造が組み込まれているという問題であります  まず、標準報酬制から総報酬制への切りかえでありますけれども、これについてはほ ぼ合意を得つつあるようですので、特に説明はしないことにさせていただきます。  パートタイム労働者への適用拡大につきましては、少なくとも雇用保険の短時間労働 被保険者との整合性を図るべきだというふうに考えます。  また、育児休業期間中の事業主負担については、育児休業の取得者のいる事業主のみ がリスクをかぶるという問題があります。育児休業を普及させるという観点からも、被 保険者と同様に免除すべきだというふうに考えております。  第5は、「財政方式」でありますが、賦課方式、積立方式にも、それぞれメリット、 デメリットがあるわけでありまして、課題は両者をいかにうまく組み合わせるかという ことだというふうに考えております。  具体的には、2階の被用者年金を世代間扶養による賦課方式の部分と積立方式の部分 に分けて、積み立て部分の比重を拡大すべきだというふうに考えております。  これは、実は厚生年金基金制度との均衡上も求められることでありまして、本体の中 にもきちんと積み立て部分をセットし、できれば、年金額の算定式の上でも明確に区分 する方が加入者の合意が得やすいと思います。  その場合、必然的に保険料率の引き上げ幅を従来よりも高めるということになると思 いますが、一気に引き上げるのではなくて、毎年、小刻みに引き上げるという工夫は当 然必要だろうと思います。  最後に、少子化対策でありますけれども、結婚するかどうか、子を産むかどうかとい うのは全く個人の自由な選択の領域でありまして、国が干渉すべきことではありません しかし、少なくとも高齢者扶養の基礎的な部分について社会化した我が国にあっては次 の社会を支える子供は“社会の子”として、高齢世代への資源配分とバランスのとれた 支援措置、つまり出産・育児の社会化が必要だろうというふうに思います。  現行制度では、児童福祉の領域の一般児童施策として児童手当の支給、保育サービス の提供が行われているわけですが、救貧制度に基本を置いているために、支給額やサー ビス内容が乏しいほか、所得制限や所得に応じた費用徴収が行われているわけでありま す。  “社会の子”であれば、所得に関係なく支援が行われなければならないというふうに 考えますが、租税負担方式のもとでは、少なくともわが国においてはこのような選別性 を乗り越えることは極めて困難だろうと思います。だからこそ、老人福祉の領域におい て介護保険を導入したのだというふうに私は考えております。  その出産・育児の社会化を進める上では、順送りの世代間扶養の仕組みを採用し、し かも全国民共通の制度になっています基礎年金の中に育児支援事業を組み込むのが最も 適切ではないだろうかというふうに考えております。  具体的には、医療保険の出産育児一時金を年金制度に移管する。児童手当や保育料の 助成も年金制度を通して行う。児童手当については、所得制限を廃止し、支給額を引き 上げ、支給対象も少なくとも義務教育終了まで拡大する。保育料についても所得制限を 廃止するほか、所得に関係なく、一律に保育料を軽減する。そして、児童手当と保育料 の軽減措置については調整措置を講ずる。ただし、年金保険制度による給付になります から、当然のことですが、いずれも加入期間の要件を設けるということであります。  ただ、今、児童手当の改善ということを言いましたけれども、現金給付の有効性に疑 問があるのであれば、子育てやあるいは教育関連のサービスを購入するためのバウチ ャーを発行するということであってもいいと思います。  財源をどうするかということでありますが、現行の児童手当に対する事業主負担ある いは公費、特に国庫負担を思い切って増額する。この国庫負担の引き上げにつきまして は、高所得者に有利になっている所得税の児童扶養控除を廃止するということも検討課 題になると思います。  さらに、新たに現役世代一人ひとりから年金の保険料に上乗せして、子育て負担金を 徴収することによって、全体としての子育ての財政基盤を強化するというのが私の提案 であります。また、これによって若い世代の年金意識が高まり、国民年金に対する信頼 を高める効果も期待できるというふうに思います。  いずれにしても、ことしの『厚生白書』のサブタイトルは「子育てに夢が持てる社会 の構築」ということであります。年金制度としてかかわり得ることは限界がありますが しかし、年金制度としても本格的にこの少子化対策を視野に入れた検討を進めるべきだ というふうに考えております。以上であります。 ○会長  どうもありがとうございました。  お三方のご意見を拝聴させていただきました。審議会委員の皆様方、ただいま拝聴し ましたことにつき、ご質問、ご意見などがございましたら、どなたからでもご自由にご 発言いただきたいと存じます。 ○都村委員  いろいろスピーチありがとうございました。勉強させていただきました。 今、社会において、とりわけ関心が持たれているのは年金改革の中でも国民年金── 基礎年金の部分をどう改革するかということだと思います。  きょうのご報告では長期的な視点の必要性は強調されたわけですけれども、年金改正 が迫っているということで、次期の年金改正で、特に基礎年金についてどこの部分を改 正すべきか。そのプライオリティについておたずねいたします。  一般論についてのいろいろなお話はいただきました。長期的に見ればいろいろな改正 の論点があると思いますけれども、次期の改正でどのようなプライオリティで取組むべ きか、ここの部分だけはぜひ早期に改正すべきだというところをお三人の先生から、ご 自身のお考えをお話しいただければと思います。 ○山崎教授  私はすべて大事だと思っていますが、あえて言いますと、「国民年金の空洞化」と言 われていることが一番大きな問題だと考えております。その次は「少子化への対応」で あります。以上です。 ○大田助教授  私も空洞化で、次期年金改正までの改革でしたら、まず保険料の徴収の仕方を検討す る。払わない人のペナルティを考えるとか、あるいは徴収方法を変えるといったような ことをまず議論するということだと思います。 ○牛丸教授  先ほど議論があったと思いますけれども、とにかく国民から信用される制度にすると いうことが大事ですね。ですから、そのためにどうするかということなんですけれども 次にやらなければならないことは、動かせることが限られていますから、その中で今大 田先生がおっしゃったように、払わない人には何とか払ってもらうようにする。しかし そういう背景にある不信感とかその後の財源調達をどうするかということを、本当はい じらない限りは解決になりませんので、一方で、さっき長期的と言いましたけれども、 それをやりながら、動かせるところはそういうふうにする。どこかで結びつけていかな ければなりません。 ○桝本委員  せっかく都村先生から基礎年金問題の口火を切っていただきましたので、引き続き、 その点についてお伺いしたいと思います。  まず、現在の基礎年金の給付額の3分の1は国庫負担でございます。これを2分の1 へ引き上げるということが前回改正で合意をされ、国会の附帯決議にもなったところで すが、財政構造改革との兼ね合いで、これが現在凍結されております。  私どもは、現在の財政構造改革法の枠組みを変更して、次回改正にぜひとも実現すべ きだと考えておりますが、お三人の先生方のご見解を伺いたいと思います。  なお、それと関連いたしまして、将来のあり方でございますが、国民皆年金という立 場を維持しようとしたときに、つまりすべての国民を無差別に対象とする普遍主義的な 原理に立った基礎年金というものを考えるときに、果たしてこれは保険制度で実現でき るものなのかどうか。私どもはそうではないと。そのために、やはり税方式への転換と いうものを方向として検討しなければいけないのではないか、このように考えておりま すが、その点についてのご意見を賜ればありがたいと思います。  既に、幾つかメンションをいただいておりますが、重ねて恐縮でございます。 ○山教授  国庫負担問題につきましては、前回改正の附則で見直し規定があります。また、国会 の衆参両院の附帯決議では2分の1という具体的な数字を挙げて、検討課題とされてい るわけであります。  まず、国庫負担割合を上げるということにはどういう意味があるのかなというふうに 私は考えます。つまり、保険料を払わない人がいるから国庫負担を高めて、保険料の負 担増を軽減するという意味であれば、ほとんど効果がないと思います。つまり、今、保 険料を払っていない多くの人は、かつて昭和36年に始まったときに100円、150 円も払わなかった人たちとほぼ同じ人たちでございます。敢えていいますと、昭和36 年始まった当初の方が未加入、未納率は高かったわけであります。  仮に、2万4,300円にピーク時の保険料が上がるから、2分の1に国庫負担を上げ たとしても、仮に一万七、八千円に保険料の負担増が緩和されるとしても、今の一万 3,300円を払っていない人が一万七、八千円であれば払うということも言えないわけ であります。つまり、払わない人は払わないのでございます。そういう意味で、徴収力 を強化することがまずもって大事だということであります。それが一つです。  それから、国の負担というものは、私は今の政策的な優先順位から言いますと、高齢 者の介護と育児支援に回すべきだと思います。育児支援に年金が積極的にかかわるべき だと私は言いましたけれども、その部分に国庫負担を重点的に入れていただきたいとい うふうに思います。  結果的に、育児支援事業にかかる部分について国庫負担を拡大したことによって、国 庫負担率が2分の1に上がるということであれば、その方がむしろ納得が得られると思 います。つまり、一律に負担を軽減するということではあまり意味がない。それよりも 育児支援をするんだと。高齢者介護と同様に、従来の福祉施策でやっていたものの限界 の上に新たに保険制度の中に取り込むんだと。そして、ここに一般財源を重点的に投入 するんだということの方がメリハリの効いた国庫負担のつけ方だというふうに思います  それから、税方式にしないと皆年金は実現できないのではないかというお話なんです が、私は必ずしもそうは思いません。  例えば、保険料負担能力のない人については、全額、保険の枠組みの中で国庫負担を するというやり方もあるわけでございます。つまり、免除期間分について10割国庫負 担ということもあり得るわけであります。ですから、私は必ずしも税方式にしない限り 皆年金が実現できないとは思いません。先ほども言いましたように、我が国にあっては 全額、税方式に切りかえた場合には、間違いなく所得制限が入ってくると思います。つ まり、いつでも、どこでも、だれでも同じ年金をというのが税方式の推進論者の提案で ございますが、実は税方式を採用すると、いつでも、どこでも、だれでもというふうに ならないと思います。以上でございます。 ○神代委員  一番お考えがはっきりしている大田先生に2つほどお尋ねさせていただきたいんです が、1つは、「基礎年金はナショナルミニマムに限るべし」というお考えですが、生活 保護基準のことをちょっとお触れになったと思うんですが、私は生活保護基準と基礎年 金の相対関係を正確に覚えていないんですが、生活保護基準が高かったような気がする んですけれども、具体的に一人が6万5,000円の基礎年金を基準にしたときに、ナシ ョナルミニマムということでやると、上げるのか下げるのか、少し上げるのか。その辺 もう少しはっきり何ぼにしたらいいのか。  それから、第2は、これはすぐということではないのかもしれませんが、2階部分を 積立方式に改めろというご主張だと思いますが、問題はそのための保険料の引き上げの 規模とテンポだと思うんです。  前に、大阪で公聴会をやったときに八田達夫さんのご意見を伺っておりますが、大体 八田先生と同じようなお考えなのかなという想像もいたしますが、別のお考えがあるか もしれませんので、もう少しはっきり教えていただければ伺いたい。  もし、八田さんのおっしゃったような28%台になるべく早くということになると、 特に今のような景気の現状を考えますと、保険料の急激な引き上げがマクロ的なマイナ ス効果をもたらす恐れも無視できないと思うんですが、その辺についてのお考えはどう でしょうか。 ○大田助教授  まず、1つ目のご質問ですが、生活保護水準は場所によって違っていまして、ならす と大体今の基礎年金と同じくらいのところもあると。もう少し、都市部では高いような ところもあるようです。私もあまり詳しくは知りません。  それで、この生活保護の額がどうやって算定されているのかということを見てみませ んと、はっきりとしたお答えにならないんですけれども、イメージとしては大体今くら いの基礎年金の水準です。あるいは若干上げることもあるかもしれないというようなイ メージです。  それから、2番目の積立方式への移行ですが、やはり第1は2階部分の給付水準の下 げが重要だと思います。給付水準の下げと保険料率の引き上げですけれども、保険料率 は今の経済状況を考えますと、すぐに99年度からというわけにはまいりませんけれど も、なるべく引き上げスケジュールを早くしておくということだと思います。  経済企画庁の経済分析の中で、給付水準の引き下げの試算をしておりますけれども、 専業主婦からの保険料の徴収ですとか、賃金スライドの廃止、それから2階部分を65 歳に引き上げというところでかなりの効果もあるようですから、給付水準を下げること によってある程度はできるのではないか。私が試算しておりませんので、しっかりした お答えにらなくて申しわけありません。 ○都村委員  今の関連で、現在、40年納付している人の国民年金は6万6,625円ですけれども 現在、国民年金を受給している方の平均月額は4万6,000円です。大田さんの言われ る方式で、基礎年金はナショナルミニマムとして位置づけるということになると、国民 年金の給付水準をどうするのかというのは大きな問題だと思うのです。  それから、我が国の所得保障制度として、公的扶助と並んで年金保険による高齢期の 所得保障というのは大変重要な役割を果してきたわけですけれども、国家が責任を持っ て行う所得保障制度としての年金のウエートをもっと軽くして、一人当たり月4万 6,000円のみにするということはどちらかというと公的年金と公的扶助を併用するよ うな形になってくる可能性があると思います。その点をどうお考えでしょうか。  E案は、より予測の難しい経済状況に依存する制度であって、安定性の確保という点 ではより困難だと思うのです。それを敢えてそちらの方を採用するということになると やはりかなり将来的には公的扶助と国民年金との併用という形にならざるを得ないグ ループが多くなると思います。  今、行われているような社会全体でリスクシェアリングを行っていくという機能がす ごく薄れてくるわけですけれども、その辺をどういうふうにお考えでしょうか。 ○大田助教授  私のイメージでは実際に現在受けられている額ではなくて、6万5,000円を水準と して考えております。ですから、6万5,000円であれば、公的扶助との併用にはなら ないということです。  今、受け取っている人の平均は4万6,000円ですが、制度として保障する金額は 6万5,000円。先ほどの桝本さんのご質問もそうだと思うんですが、保険にするのか 税にするのかというところで、私の意見は税方式にすべきだという意見ですので、それ でしたら、加入期間による金額の違いは出てこないということです。  もう一言だけつけ加えさせていただきますと、保険なら保険ということで制度をきち んと組み立てるということは可能だと思うんです。保険制度でやるとしたら、保険の給 付要件というのは経済力ではなくてリスクに直面する、保険事故に直面するということ ですから、ある年齢に達したとき。  ですから、非常に不確実性の高い、長生きのリスクですね、それに直面する年齢です から、うんと引き上げて、例えば75歳からということも可能ですし、保険なら保険と して設計することは十分にできると思いますが、現在の制度は国庫負担がかなりの比率 入っていると。保険と税のいいところだけをつぎはぎしたような制度になっております ので、現在の制度を考えるならば、私は税方式に変えて徴収コストを下げる、そして空 洞化を回避することの方が望ましいのではないかと思っております。 ○木原委員  牛丸先生と大田先生ですけれども、日本経済のあるべき姿というか、マクロ的なある いは行財政改革という視点から意見をお述べになられたと思いますが、私はむしろそう いう観点が現実的な制度改正に結びついていくのであれば、事業主の負担する立場から すると、ぜひ現実的な視点でお詰めいただければ非常にありがたいお考えだというふう に思っております。  そういう中で、特に、報酬比例部分について牛丸先生、大田先生とも積立方式への移 行と。民営化の問題はちょっと置きまして、民営化するにしてもしないにしても、積立 方式に移行できるかどうか。これは、事業主の立場で、負担はできるだけ少ない──合 理的な給付と負担のバランスの中で負担すべきものは負担するという立場でありますけ れども、そういう中で、特に積立方式に移行する現実性につきまして、二重の負担の問 題はどうなるのか。  これが先ほど言いました保険料の引き上げのピッチの速さであるとか、あるいは 100年かかるとか、そういう議論の中で、積立方式の移行は現実的でないというふう に切って捨てられることがあるんですが、積立方式に切りかえていく、具体的な現実性 のある時間の関数面とイメージを何かお持ちでしたらお聞かせ願いたいと思います。 ○牛丸教授  二重の負担の議論はよく出ていますけれども、二重の負担とは何かと考えてみますと 結局、どれだけ給付をもらえるかという約束が行われるわけですね、過去もそれからこ れからの人も、それが負債として存在するわけですけれども、それをだれがどこで負っ ていくかという問題だと思うのです。  もし従来どおりの賦課方式を続けていくならば、徐々に先送りしていくという形をと っていく。それが大きな形で目に見えないだけであって、従来のような賦課方式的な要 素をだんだん削っていくというふうにしていきますと、当然、過去を切るわけにいかな いとすれば、その負債をどこかで処理しなければならないですね。そうすると、保険料 を一遍に上げるというやり方もあるし、国債を発行するやり方、いろいろやり方はあり ますけれども、とにかくそれは存在するわけです。  過去に存在した負債を、既得権ですか、あるいは期待権ですか、それをいじれないと するならば、それは消し得ないわけですね。消し得ない負債をだれが処理するか。です から、その処理の仕方ですね。  こういう少子化状況ですから、2階部分を本当に限定しましょうという、賦課方式的 要素を限定しましょうということになりましたら、過去にある負債の額は幾らだという ことを、あるいは数年こういう大きさのが出てくると。じゃ、それを各世代にどういう ふうに分散させることが一番いいのかという、現実的な対応が出てくると思うんですね  国債発行あるいは税金、保険料、いろいろやり方があると思いますけれども、それを 各世代に、あまり著しくある世代に行かないような処理方法はあると思います。同時に 一方で経済状況がありますので、それに悪影響を及ぼさないような形。  ですから、よく二重負担と言いますけれども、それを一遍にこれからの人に押しつけ ると。そうしますと、自分で積み立てる分と過去の分を一緒にやらなければならないか ら二重負担という言い方をしますけれども、過去の負債というのはどうしても避けられ ないわけですね。これをどうするか。  二重負担というのは、ある意味では私は2階部分の方式を限定していく話にとって、 一番の障害ではないような気がするんです。そうではなく、むしろ従来続けてきた2階 部分の役割を縮小することを人々はどう考えるか、従来は経済状況あるいは社会状況の 中でできたと。それなりの賦課方式の良さはあったと。しかし、今後のことを考えたと きに、もうこれを続けると次の世代にこういう問題が起こってくる、いい加減にしない とならないのではないか。じゃ、どうしようかと。かと言って、今よく言われているの は二重負担で、一遍に次のある世代だけに押しつけてしまうと、これは問題だと。  私も大田さんのように、2階部分を限定していくとなれば、それをどういうふうに各 世代に分散したらいいかという、現実的な話に入っていくと思うんです。以上です。 ○大田助教授  今の牛丸さんのご意見にほぼ賛成です。  先ほど神代先生もおっしゃった八田先生の試算もその一つですし、給付の引き下げと 保険料の引き上げと国債の発行、それをどういうぐあいに組み合わせて、過去の債務を 償却というんでしょうか、負担していくかという方法論になりますので、私は不可能と いうふうには全然思いません。 ○木原委員  よろしければ、山崎先生、同じように2階部分の賦課方式と積立方式の分化とござい ますね。この辺、よろしければもう少しお願いします。 ○山崎教授  私は、具体的に2階を積立と賦課の部分で割ったらどうかということでございます。 世間一般の議論は2階部分の完全な積立方式への移行と言うんですが、私はその手前で ご分をもう少しクリアに分けるということでございます。  それから、債務の償却の仕方なんですが、実は高齢者にも年金水準を下げるというの が一つありますが、先ほど言いましたように、医療や介護の負担をきちんとしてもらう それから、優遇税制を見直すというのも一つの債務の償却の仕方だと思います。 ○高山委員  積み立ての強化の話に関連した質問をさせていただきますけれども、今の公的年金、 厚生年金も含めて、一部積立金を持っていて積み増している状況にあるわけですね。た だ、公的年金という器の中で積み立てをやるときに、積立金をどう管理し、運営するか ということが問題になるわけです。将来の年金受給者に生きるような形での積立運用と いうのはどうしたらいいかという問題に突き当たるわけですね。  今、世界の流れ、少なくとも私が承知している限り、公的な年金という器の中で積み 立ての要素を強めるという方向を、主要国の中でとろうとしている国は、私は基本的に ないと思っているんです。それだけ、積立金の管理運用は難しい。  もし、積み立ての要素を強めるんだったら、それは民間の年金という器でやるという 方向だと思うんです。あるいは、それへの強制加入という形で政府はあまり関与しない 形ですね。今の公的年金という器で、保険料を早く上げて、しかもそのお金を公的に管 理するというスタイルのままで積み立ての要素を強めようとなさっているのか。これが 質問の第1点ですね。そういうことに賛成なのかどうかということです。  それから、積み立ての要素を強めるとしても、保険料を従来より早目に引き上げてい かないと、その要素を拡大していくということはできないんですね。ところが、今のよ うなご時世といいますか、景気状況あるいは長期的な日本経済の将来に対する不安を考 えますと、保険料という形で、しかも公的な制度の器の中で保険料を早く上げるという ことが本当にいいことなのかどうかということは、別途、総合的な観点から検討する必 要があるのではないか。  今、保険料を早く上げなければいけないという主張の大半は、1階部分の財源が国庫 負担3分の1のままで走るということを前提にしている。あるいは給付をあまり変えな いということを前提にしたら、例えば厚生年金の場合、17.35%を34.3%にしなけ ればいけないという話になっているんですね。あまりにも負担格差が大きいから、そこ を早目に矯正しようと。  ところが、仮に1階を税方式に切りかえると、将来の保険料のピーク時の負担は決し て高くならないはずなんです。それは、かわりに消費税を上げていくなり、所得税でも いいんですが、何らかの形で税負担は上がっていくことになるんですけれども、保険料 はそんなに高くならないんですね。これは残念ながら、事務当局が資料を示してくださ らないものですから、わからないんですけれども、敢えて私の概算を申し上げますと、 現行の保険料率以下で済むのではないかと思うんです。  仮に、1階部分を税方式に変えて税金を投入する、それで2階部分だけを賦課方式で 走ったって、将来のピーク時の負担は今よりも低いはずだというふうに私は思います。  そうであれば、慌てて保険料を上げる必要はないわけです。保険料を上げるかという 問題が、実は1階の財源を税金で調達するかということと密接に絡んでいるんですね。 この検討を今閣議決定の中ですぐするなということになっていまして、私はそこが息苦 しさの原因だと思っています。  むしろ、1階の年金については給付水準をあまり下げられないということであれば、 税を本格的に投入する道を検討すべきではないか。それをみんなが細く、長く、負担し ていくということですね。20歳から60歳までという限定された中で集中的に負担す ることの重みに耐えかねている状況に今あるわけですね。  3人に1人が高齢者になるという状況の中で、高齢者になったらもう負担からは卒業 だという、そういう仕切りが今苦しいわけです。むしろ、年金受給者になっても、何ら かの形で年金財政に貢献していくような道をもっと強化する話を選択肢として選べば、 将来の年金保険料は決して高くないんですね。なぜ慌てて保険料を上げなければいけな いかという問題になっていると思うんです。  それは、税金を今3分1で固定したまま走ることを前提にした議論になっているから だと思うんですが、この点について、早期に引き上げろというふうにご主張になってい る人が多いんですけれども、どう考えるかということについてあわせて2つ今質問した んですが、お答えいただけたらと思います。 ○牛丸教授  まず第1の質問ですけれども、積立方式に移行した場合に、積立金を現在の公的管理 の中で運用していくということは、世界各国ではそういうのは見られないというお話で したけれども、仮に2階部分から賦課方式的要素を限定していくと。積立方式という言 い方がされていますけれども、私はそういう言い方ではなく、先ほどの私の陳述におい ても使いましたけれども、2階部分は拠出分というのが従前所得か従前生活を維持する わけですが、それに対してどう対応するか。そのときに、どういうリスクに対してどれ だけ対応してくれるかということですね。  その一つのやり方が、拠出したものを資産運用したときに、市場収益率分は対応しま しょうという、それが世間で言われる積立方式というふうに考えてもいいと思うんです けれども、それにプラスαをしようと。経済成長とか、あるいはインフレも市場が完全 になれば金利がそれに対応してくれますけれども、そういったもろもろのものを今賦課 方式でやってきたわけですね。  こういう少子化の中で、そこまで2階部分を本当にやっていけるのかということで、 それは無理があるんじゃないでしょうかと。それを実行したことによって、むしろ問題 が起こってくるんじゃないでしょうか、だから賦課方式要素を限定しましょうというこ となんですね。それが私の言う積立方式──積立方式という言い方が妥当かどうかはわ かりませんけれども、賦課方式的要素を削っていくと。  そうしたときに、積立方式という形でやれば資産運用ですね。そうすると、資産運用 された金利を返していくということですけれども、それは確かに公的管理でもやれます し、私的管理でもやれます。そこでは当然議論が出てくると思います。  ここははっきり、私、申し上げませんでした。一つの案としては、先ほどのE案のよ うに完全に民営化。日本の場合には財政投融資の中で、それを負わせてきた。ここ数年 間、財政投融資のあり方の議論があります。ご承知のように、財政投融資は幾つかの利 点もあったけれども、問題もあった。年金に関して言えば、低利運用したその逆に、給 付に関しては厚いものをしてきたということで、受ける者としてはそう損はなかったわ けですけれども、もっと高利に運用していれば問題はなかったかなということはありま す。  ですから、そういう点で財投のあり方は見直されるようになってきたことは間違いな いと思います。  では、民間は問題ないかといいますと、ここ数年の日本の金融状況を見ていると、そ れは問題がないとは言えないと思います。それから、当然、将来に向けてのビッグバン を考えたときに、さて金融資産運用としてどうしていくか。ですから、そういう意味で 考えなければならないことはいっぱいあると思います。  ですから、公的年金の2階部分としてどこまで対応すべきかという一つの議論と、賦 課方式的要素を限定したときに、資産運用という積立方式に絞っていくならば、民間も 公的部分もできる。では、どっちをやっていったらいいのか。今の経済社会状況はどう なのか、そういう議論をしなければいけないと思うんです。  それから、民間に任せれば安心なのか。そうすると、若干の倒産があった場合に、ど こまで保障するのか、金融機関もそうですけれども、公として2階部分はどこまでかか わるのかという議論が加わってくるんですね。賦課方式を限定したとして、では2階部 分はどこまでかかわるべきなのか。全くやめましょうと。それは、一つの極論として完 全に自由にしましょう、強制加入もしませんと。2階部分は自由になさい、民間に任せ ると。そこにスタンスをとればそれでいいと思うんです。  ところが、少しでも公がかかわる要素を強めるとするならば、リスクに関しては賦課 方式までやらないにせよ、2階部分に関しては少しやりましょうといったときに、資産 運用に関してどうしようかと。これは論点があると思います。ですから、今、簡単には 言えません。ここ数年間の動きといろいろな視点を加味して決める議論をしなければな らないと思います。  私は先ほどの議論において、選択肢として入るものを国民の中に出して、そこで議論 してもらった方がいいと言いました。ただ、従来のような賦課方式は少々無理ではない かなということだけはここで申し上げたいということです。  それから、第2点ですけれども、一遍に上げないで税金の方でとればということなの ですけれども、要するに給付額をどうするかということが重要ですね。給付額をいじら れないとするならば、当然、それだけの財源が必要になる。その財源をどうとるかとい うことですね。社会保険料ということで3分の2をとって、税金で3分の1をとってい た。そのとき、人々がそれをどう感じているか。  私は先ほど租税にした方がいい、所得税にした方がいいと申し上げました。問題は、 人々がその負担を課せられたときにどう感ずるかということだと思います。可処分所得 と考えるならば、社会保険料も税金も同じだと思います。消費税は可処分所得にならな いですけれども、負担ということでは消費税も負担になりますから、結局、国民が負う 負担ということでは同じだと思います。  ただ、それをどう感じるのか。それによって消費行動、貯蓄行動あるいは労働供給へ のインセンティブはどう変わるか、そこがポイントだと思います。それから、分配の問 題として消費税なり、所得税なり、社会保険料の課し方によって、個人が負担する額が 変わってきます。そこがどうなるかということです。  ただ、そのときに増税して社会保険料を下げることによって安心かというと、私は必 ずしもそうではないような気がするんです。ただ、私としては先ほど議論がありました ように、1階部分に関しては理念的に明確にしてほしいということですね。  先ほど大田先生でしたか、社会保険と租税をうまくつなげたことによってうまくなっ ていると言いましたけれども、確かにいい点がありますけれども、裏返していえば、そ こに曖昧さがあるわけですね。ですから、そこをはっきりさせなければいけない。  もし、保険を徹底して貫徹するならば、拠出・給付の関係も明確にしなければいけな いだろう。だから、3号被保険者から保険料としてとるならばとってもいいんですけれ ども、そのときにはちゃんした保険原理を徹底すべきであろう。  そうではなく、ある高齢者にある額の給付額を、これは最低生活水準をどうするかは ちょっと議論がありますけれども、給付する。その財源は負担能力によって税金でとり ましょうという考え方ですと、違うんですね。この理念を考えたらどうだろうかという ことなんです。  ただ、山崎先生がおっしゃるように、日本の場合には税金財源としたら給付を絞ると いうことが出てきますので、確かにそこは私も問題だと思います。ですから、私は先ほ ど前提として、第3の社会保障のやり方として「税金を財源としても高齢者に一律」と いう、そういう道があってもいいのではないかということなんですね。  いずれにしても理念をはっきりさせてほしい。そうすることによって、額だけではな く国民に対しては何らかのいい影響があるのではないかと思います。  ですから、早く上げた方がいい、将来上げた方がいい、ちょっとその辺、私ははっき り言えませんけれども、要は国民が増税とか保険料の増減とかそういうもの、それから 租税財源にするか保険料財源にするか、1階部分はどうなのかという、それに対する国 民の感じ方だと思います。そこがポイントだと思います。ですから、それをはっきり国 としては見せる必要があるのではないかと思います。それによって、国民の反応が変わ ってくるのではないか。  2番目の問題については答えになっていないかもしれませんけれども、以上、私の意 見です。 ○大田助教授  高山先生のご質問ですが、年金の資産運用が一体どういうぐあいになっているのかと いうのは、まさに高山先生がおっしゃるとおり、大変不安があります。アセットとライ アビリティは一体どうなっているのかというのは大変な不安があります。  ですから、積立方式にして、徐々に民営化と申し上げましたが、白紙に絵を描くなら ば、本当は私はもう民営化していいと思いますが、過去に約束してしまった給付をどう するのかという問題が残っている。賦課方式になっていながら、積立方式という言葉を 使い、高い給付を約束してしまった、その過去の約束をどうするのかというのが問題で あって、その部分をだれがどういう負担をするのかというところで、保険料の早期引き 上げとか年金給付の削減という方法が出てきているわけです。  私は、基礎年金の部分と厚生年金の部分は積立金を分けて、1階部分は私は先生と同 じく税方式に賛成いたします。2階部分に関しては、積立民営化に移行する方向で、別 途、別会計で計算していくということではないだろうかというふうに思います。  そのときの資産運用は、運用審議会というんでしょうか、中立的な形で情報開示をし て、なるべく透明にしてやっていくしかないんじゃないかというふうに思っております  それから、1階の財源を税方式にしていくという点は賛成です。  今、牛丸さんの発言につけ加えたいんですが、私は税と社会保険料のいいとこ取りを したと申し上げたのであって、組み合わせて良かったとは全く思っていませんで、いい とこ取りをして悪くなったというふうに思っておりますので、それは同意見です。  基礎年金を税方式にしたときの実際的な問題は2つあって、1つは企業負担をどう考 えるのかという点が1つ、それからもう一つは政治的に見て、どういうメカニズムなの かわかりませんが、社会保険料は上げやすいけれども、増税はしにくいというメカニズ ムがこれまであったという現実的な問題ではないだろうかというふうに思っております 以上です。ちょっと答えにならなかったでしょうか、すいません。 ○山崎教授  主として、牛丸さん、大田さんに対する質問であったと思うんですが、積み立てを強 化して積立金がものすごく膨らむ、その運用の問題だということなんですが、高山先生 はむしろ民間で運用した方がいいのではないかというご意見だったと思います。  例えば、2階を2つに割って、今、一部厚生年金がありますが、厚生年金基金の適用 されていない事業所についても、すべて厚生年金基金を強制適用するというのも一つの 考え方だと思います。自然に資金は民間に流れていきます。  それから、高山先生のお話は、税方式に切りかえれば、そんなに積立を強化する必要 がないのではないかということでもあったんですが、私は恐らく間違いなく、基礎年金 を税方式に切りかえるというときは介護も高齢者医療も税方式だというふうに思います そこまで、影響を及ぼす大きな話だと思います。  それから、高山先生は消費税を財源にとおっしゃるわけでございますが、年々、消費 税を引き上げていくということになります。それに伴って物価が上がります。物価が上 がれば、基礎年金はそれにスライドして改定されます。結局、消費税は高齢者も含めて みんなが負担する税だと言いながら、年金の世界では消費税の増税による年金改定分を 現役世代が消費税で負担するということになると思います。  年金局から、先日、消費税に切りかえた場合の試算の資料を送ってもらいましたが、 そこまで試算されているのかどうか、私は疑問でございます。  ですから、本当は大田さんがおっしゃったように、消費税の引き上げによる物価上昇 分は年金の改定から外すべきなんだろうと思いますが、しかし、私はそれができるのは 2階に限られるだろうというふうに思います。1階というのは、先ほど来、ミニマムと いう議論がありますが、生活保護基準を意識せざるを得ないと思います。生活保護の基 準は、消費税が上がれば上がっているわけでございます。ですから、高山先生のご提案 には、そういった問題がちょっとあるように思いますが、いかがでしょうか。 ○高山委員  私の意見はいつも審議会で申し上げることになっております。きょうは皆様から意見 を拝聴するのが主たる目的だというふうに聞いていますので、立ち入った話はきょうは 差し控えるのが筋だというふうに思っております。 ○坂巻委員  ちょっと今の税金の関連で伺いたいんですが、1階部分を租税でやると消費税とすぐ 直結するんですけれども、目的税で新たに“年金税”みたいなものを創設して、所得に 応じて、第2所得税のような形で年金税を創設するという考え方もあるんじゃないかと 思うんですが、その点はいかがでございましょうか。 ○山崎教授  私が先ほどの意見陳述で、将来的には社会保険料をすべて税務署で徴収するというこ とも大きな検討課題になるのではないかということを申し上げました。そして、それは 行政改革の観点からも検討していいのではないかというふうに申し上げました。  ただ、その場合には、累進的な所得税を使ってというようなことではなくて、あくま でも所得に単純に比例する社会保険税を、税の徴収機構を使って徴収するということで ございます。私が考えられるのはそこまでにとどまります。 ○牛丸教授  今と関連して一言申し上げたいと思います。  私が先ほど陳述申し上げましたように、もし基礎年金1階部分を長期的視点で租税財 源というふうになったとすれば、私の場合には消費税ではなく所得税をと考えておりま す。というのは、消費税がどういう形態になるか、少なくとも「現状の消費税には問題 あり」と私は認識しておりますので、1階部分に関してはとにかく一定額をすべての高 齢者に給付しようと。そして、それは経済成長とかインフレに応じて上がっていくもの と。その財源をどうするかというと、応能原則。そこにいる人に負担能力に応じて負担 してもらう。それはどうするかというと、所得税の課税ベースでというふうに考えてお ります。  ただ、今お話にありましたように、累進になりますとこれは厄介ですので、これは定 率と。ですから、少なくとも被用者に関しては今と同じような感じですね。名前が、こ れは1階部分の所得税だと。それを集めて一つの独立した勘定にする、見えるようにと  そのためには、先ほども言いましたように、前提として高齢者に対する優遇もなくさ なければならないし、それから完全に捕捉問題も解消しなければならないと思います。 そういう所得税関係の問題を全部解消するということが前提です。ある意味では理想論 かもしれませんけれども、そうであれば所得税がいいなと思っております。以上です。 ○神代委員  基礎年金を税でやるという仮定をした場合の話ですが、財源について、今まで出てい るご意見は消費税か所得税、所得税も今までどおりではない、いろいろ改善した上での 所得税ということに議論が限られていると思うんです。  私は、どうして資産課税の問題が出てこないのか、非常に前々から疑問に思っている んです。これは今の金融情勢の中では非常に危険なことであり、現実的な政策にはなり 得ないという問題はあるかもしれませんが、非常にロングランの話として税制のことを 考えた場合には、日本の土地保有税率が国際的な水準の10分の1だということは周知 の事実なんですね。そのために、ああいうバブルも起こしたし、その後の混乱も起こし ている。にもかかわらず、だれもまともにこれをあまり取り上げようとしないわけです 前に経済審議会で少し議論したことはありますが、非常に危険な考え方を含んでいるの かもしれません。  例えば、フランスなんかは、地方税は全部所得とは全く関係のない財源ですね。住ん でいる家の広さと持っている資産の大きさにだけ依存した税金でやっていますね。日本 の地方税は全部第二所得税ですね。こんなに所得税に偏ってとっていて、しかも課税最 低限が国際的な水準から見て非常に高くて、九六四の上にサラリーマンのうちのほんの 一部分と言ったら言い過ぎかもしれないけれども、中堅以上のサラリーマンにものすご い所得税をかけている。その根源は、私は資産課税が低過ぎるからではないかというふ うに思っているんですけれども、これを現実に政策化するにはいろいろなハードルがあ るし、タイミングの問題もあり、すぐにはできませんが、その辺については先生方はど ういうふうにお考えでしょうか。 ○大田助教授  資産課税を強化すべきというのは、私は大賛成です。特に、土地保有に対する課税を より強化していくという点は、私は賛成です。  ただ、これを年金の財源にするということになりますと、年金の財源を広く薄く負担 するという観点から言うと、少し違ってくるのではないか。私は、やはり土地保有税と して固定資産税をきちんとかけるということに賛成で、これは行政サービスの対価とい う位置づけで固定資産税を位置づけるのがいいのではないか。つまり、年金財源ではな く、行政サービスの対価として、それから土地資産格差の是正という形で位置づけるの がよいだろうと思います。  それから、年金財源にしましたときに、固定資産税の比重が仮に上がったといたしま すと、問題なのは固定資産税の場合はキャッシュフローがないという点がありますので そういう意味からも年金財源としては望ましくないのではないか。ただ、保有税の強化 という点は賛成です。  それから、先ほど出ておりました年金の財源を所得にするか、消費にするかというと ころで、考え方としてはどちらでもいいんですけれども、今の所得税は先ほど神代先生 もおっしゃったように、課税最低限が非常に高くて空洞化しているという問題、それか ら九六四の所得捕捉の問題ですね。こういう問題を抱えておりますし、高齢層がかなり 優遇されているという問題を考えますと、やはり現実的には消費税の方が望ましいので はないかと思います。  ただ、牛丸さんもちょっとおっしゃったように、今の消費税のままではやはり問題が ありまして、特にインボイス方式が導入されておりませんので、消費税の税率が上がっ たとに、インボイス方式でないがゆえに軽減税率をとることが難しい。そうしますと、 逆進性が高まりますので、ちょっと閉塞感があるんですが、所得税も消費税もそういう 意味では問題があると。ただ、どちらかというと、消費税の方が現実的にいいかなとい う意見です。 ○国広委員  中長期的な問題と近々の問題とをどういうふうに整合させて考えたらいいかと思って ずっと悩んで伺っていたんですけれども、大田先生は若い世代の意見とか若い世代がど う考えるか重要だとおっしゃった。  今、学生の問題がありますね。例えば、将来的に所得税とした場合は、学生が所得が ないということになるとそこからはとらないという形になったり、あるいは今の3号、 専業主婦はとらないという形になりますが、その問題のことをちょっと伺いたいのと、 それから将来所得税というようなことを考えた上で、今、第3号の問題とか所得のない 学生という問題を、割に近々の問題としてどういうふうにお考えかを伺いたいと思いま す。 ○大田助教授  近々に、それは財源の問題を税にした場合ですか。 ○国広委員  そうではなくて、今度の改正のときに、税にしていくという方向性についてのお考え はわかったんですけれども。 ○大田助教授  近々、一番問題なのは、私は所得のない学生を年金の中に入れたということにそもそ も反対です。  ご質問の難しさは、3号被保険者というんですか、専業主婦をどう徴収していくか。 現実的には、やはり夫の給与の中かから過渡的にはとっていくしかないんだろうという ふうに思います。 ○都村委員 山崎先生にお伺いしたいと思います。最後にお話しになった「社会の子として対応す る」というのは私も大賛成で、今の我が国にとって子育て支援、あるいは介護の支援は 最重要課題だと思うのですけれども、国民年金の中に子育て支援事業を創設するという 点についておたづねします。子育て支援事業には、2つの方法があると思います。  年金制度の中で支援事業を組み込んでいくというのと、今、既にある制度をもっと充 実というか、整備していくという方法です。年金制度の外で行う場合と、先生が提案さ れた年金制度の中に創設するという場合に、政策効果がどう違うのか、経済的・財政的 な実効可能性はどうか、あるいは個人的な公平とか社会的な公平という点から見て、年 金制度の中に支援事業を創設する場合と外の今までの児童手当の支給年齢の引き上げと か保育料の軽減とかを独自の福祉サービスなり、児童手当制度の中で実施していくのと どのような違いがあるとお考えでしょうか。  年金制度の中での支援を提案されたということは、こちらの方にメリットがあると考 えておられるのでしょうが、その違いについてお話しいただければと思います。 ○山崎教授  私がねらっているのは、まさに介護保険によって介護を社会化したわけですね。それ と同じようなことを子育てについてもやりたいということです。既存のシステムでは極 めて困難だというふうに思います。  つまり、児童手当については、少なくとも本人は負担していませんね。かなりを事業 主負担に依存していますね。そして、公費ということですね。あと、保育サービス等に つきましては、ご承知のように国と地方の負担でございます。こういった枠組みの中で 普遍化を図るということは困難だと思います。 日本では、本人の拠出のないものは、まず間違いなく選別的なものになります。つまり 普遍化できないということであります。私は普遍化することに一番の価値を置いていま すから、その手段としては我々現役世代が目に見える形で会費を払う、それに対して国 や事業主にも支援を求めるというのが正攻法だというふうに私は思っております。 実効可能性というわけでございますが、むしろ事業主や公費だけに依存した財政よりは 年金の方が普遍化を図る上ではまだ可能性があると思います。むしろ問題は、この審議 会でそういった方向で真剣に検討していただいているかどうかというふうに私は思いま す。 ○岡崎委員  私も今のご質問と関連がありますけれども、牛丸先生と山崎先生、お二人が少子化の 問題をお取り上げになったと思います。私、非常にこの問題に関心を持っているのです が、基本的にはこの少子化の問題を解決しなければ、年金財政の問題がほとんど解決で きないほど深刻な状態だと思います。  今のご質問と関連しまして、山崎さんがおっしゃっている少子化対策ですね。これは 非常におもしろいと思ったんですが、私の感じでは、これでもまだなかなか少子化対策 として効果が上がらないほどに、人々の意識が深刻であって、かつまた子供を産もうと する若い世代の結婚、出産に向かうものを妨害するようなというと言い過ぎですけれど も、妨げるような社会的なシステムがあまりにも大き過ぎるというふうに思います。  そこで、山崎先生に、今のご質問とちょっと重なりますけれども、本当にこれが効く とお思いなのかどうか。おっしゃっていただいたのは非常にありがたいんですけれども 果たしてこれが効くほどの日本の社会全体の少子化に対する理解と、かなりの負担を負 わざるを得ませんから、そのことが財政当局並びに育児休業等については、事業者、企 業者の方々の考えもありますが、そこが行くかどうかということは非常に心配のように 思います。どうも失礼しました。 ○山崎教授  不十分だと思います。恐らく、私の提案のほかにもろもろのいろいろな施策が必要な んだろうと思います。育児休業の普及だとか、今で言えば、労働省サイドの施策も大事 ですし、いろいろな相談事業も大事だと思いますし、それから男の働き方にもかかわる 問題だろうと思いますが、しかし、こういった形で国が子育てについても、全面的にと は言わないにしても、相当な責任を持つんだと。そして、国民一人ひとりが目に見える 形でそれを財源として負担するんだという姿勢を見せることが非常に大事だというふう に思っております。 ○桝本委員  山崎先生の少子化対策の話を伺って、大変興味深いし、例えば児童福祉法の改定議論 等々も、お説の介護保険でご指摘のように、いわゆる全額税に基づく措置制度というシ ステムからの脱却という、ある種のものの考え方を具体的に提起したという意味では、 恐らく、今後なお各分野へ行く問題だとは思うんですが、ただ、なぜ子育て資金の現金 給付が年金というスキームの中で行われるのかが、私、正直言って、ピンと来ないんで す。  例えば、年金積立金の運用による運用事業の一部というお考え方ならばまだしも、具 体的な給付を年金スキームの中にやるわけですね。つまり、老齢年金がある、障害年金 がある、それから遺族年金があるという、こういうものが具体的な年金制度の給付です が、これに加えて育児関連給付を給付の中に組み込む、そのために別途保険料プラスα 分をとる……。なぜ年金制度なのかしらという感じがいたします。 ○山崎教授  まさに年金が生き残るためには次世代が絶対に必要だからという、そういう単純な理 由でございます。  順送りの世代間扶養というのであれば、次世代に関心を持たざるを得ないということ でございます。現在の年金制度では順送りにならないからでございます。 ○山根委員  基礎年金部分のことについてもう一度ご意見を伺いたいんですけれども、先ほど都村 先生が、基礎年金額の平均が4万6,000円というお話を言われたと思うんですが、今 国民の多くは年金全体をとらえるときに、1階部分も不安定、2階部分も不安定と。と もにおかしくなるのではないかという感じを受けとめておられると思うんですね。  1階部分をどういうふうな形で安定させるのか、どういう水準だったらいいのかとい うことを、それぞれのコメントのペーパーに入っているんですが、改めてお聞きしてみ たいと思います。 先ほど言いました不信感とか不安感とかいうようなものは、年金に限りませんけれど も、国家とか政治とかいうものに対する不信が背景にあるのではないかというように予 測しています。今日までこれだけ拠出を労使でしてきて、リターンという形があまりは っきり見えてこないことが、前段申し上げたことの要因をつくっているのかなと思いま す。  そして、それに追い打ちをかけるように、今後、給付も負担も見直しということで、 給付は下げる、負担は上げるという構図でいろいろ絵が描かれようとしているという状 況ではないかと思うんです。  そういう状況の中で、山崎先生が具体的な形で言われました国民生活全体をいかにグ レードアップしていくかという点で、いろいろな福祉の諸施策を別の角度から打ってい くべきとお話をされたと思うんですが、福祉の諸施策により生活の裏打ちがされますと 年金水準というもののとらえ方が、私は変わるだろうというように期待しているし、先 生のお説はそういうことだろうと思うんです。  しかし、おっしゃったことが実際に我々の生活に実感にできるまでの実績というのか 実効が上がってくるにはかなり時間がかかるかなという感じがするわけであります。し たがって、この間を一体どうするのかということについて、何かご見解があればお聞き してみたいと思います。  もう一つは、別にコメントしなくてもいいのかもしれませんが、私自身は組織の中で 先生のおっしゃっている年金を取り巻く「福祉社会の視点」という点については、労働 運動の場にいますからしょっちゅう組織内で申し上げているんですけれども、日本の政 治や政策制度すべてに共通する大変重要な視点ではないかというように思っているとい うことを、申し上げておきたいと思います。以上です。 ○山崎教授  後の方の即効性ということに関しましては、特に年金の場合は極めて難しいというふ うに思います。 これは長期保険であることの宿命だと思いますが、短期保険ではいきなり負担を倍に 上げることもできたのが、去年の健保法の改正であります。  ですから、むしろ社会保障全体を見て、年金の場合は大田さんもおっしゃったように ある程度時間をかけなければいけない。ある決断をしたとしても、既得権、期待権を尊 重しなければいけないという意味で、相当時間がかかるんでしょうけれども、一方、短 期保険の場合は割とドラスチックな改革が可能な世界だというふうに思います。 つまり、短期保険というのは明日を何ら約束していないのでございます。むしろ、年 金がスポンサーになることによって、あるいはなりつつあるからこそ、高齢者にあれほ どの負担をお願いできた改革ができたのだろうというふうに思います。  それから、1階部分の水準については、私はこれ以上下げられないと言いましたが、 本音を申し上げますと、もう少し上げてほしいと思っています。  それから、先ほど都村委員がお話しになっていました、実際には四万五、六千円とい うお話なんですが、幾つかの理由があります。一つは、未加入期間分が減額されている ということであります。これを何とかするというのは、恐らく保険という仕組みの中で は無理だというふうに思います。つまり、加入した人としない人との公平性ということ だからであります。  それから、もう一つ大きな理由は、実は繰り上げ受給なんでございます。これは、私 非常に懸念しておりまして、たとえ生涯20〜60歳まできちんと加入して、6万5,000円余 りの基礎年金が保障される人であっても、これを繰り上げ受給すると相当低い額になる わけです。この減額率については恐らく見直しがされると思いますが、見直しをしたと しても低い額になるわけです。  ということは、実は高齢者医療や介護で十分な保険料や利用者負担を取れないという ことになるわけです。敢えて言いますと、繰り上げておいた方が保険料負担逃れができ るということになるわけです。  ですから、私は6万5,000円でもちょっと低いのではないかと言いましたが、そしてこ れ以上、少なくとも下げられないと言いましたが、実は繰り上げ受給があることによっ て、高齢者にちゃんとした財源を負担していただくということが非常に困難な人たちが たくさんいるということで、私はよほどの理由がない限り、繰り上げ受給を認めるべき ではないというふうに思っています。  国民年金の財政上は少々マイナスかもわかりませんが、社会保障のあり方として、今 の繰り上げ受給はおかしいというふうに思います。全く理由なく認めているわけですか ら、ということでございます。 ○大田助教授  一言だけ、今の山根さんの2つ目におっしゃったことで、年金制度の将来への不安感 不信感ですが、私はこれは、例えば日本経済の将来への不安感とか政治への不信感とい うのと少し性格が違うのではないかというふうに思っております。  最大の理由は、状況が共有されていないといいますか、これまでの情報提供が必ずし も十分ではなくて、修正積立方式という言葉であたかも積み立てられていたかのような 幻想を与えてきたということも事実ですし、世代間の給付と負担のアンバランスという 点も、随分前から指摘はされながら、しっかりとしたデータは出されてこなかったとい うような点があると思います。  もちろん、出生率が急速に低下したとか、経済成長率が低下したとか、制度を途中で 変更を余儀なくされたというのはありますが、その都度、やはり情報とか状況、危機感 が共有されてこなかったという点が不信感を生んでいると思います。  ですから、冒頭の陳述で申し上げましたが、そういう意味から今の状況とか将来への 危機感というものを共有できるだけの時間をかけて、議論をしていただきたいというふ うに思っております。 ○船後委員  専業主婦問題について、大田さんに2点質問いたします。  1点は、収入のない専業主婦から保険料をとるという問題でありますが、夫の給与か らとればいいというお話でしたけれども、夫の給与は夫の収入でございまして、夫の収 入から保険料をとるということは、負担面では家族間で考え、一方、給付面では個人で 考えるということにならないかという問題について、どういうふうにお考えになるか。  それから、もう1点ですけれども、日本で今まで専業主婦問題は専ら負担面からアプ ローチしたと思うんですが、イギリスやアメリカは違うアプローチをしているわけです 給付の方でアプローチをしておる。  イギリスの場合は基礎年金だけですけれども、夫の拠出に基づく基礎年金は6割の水 準、アメリカの場合は5割の水準。しかも、つい先月発表のあったナショナル・コミッ ショナーの報告では、今回の年金改革の一環として、これを3割に切りかえたらどうか という提案もアメリカではあるわけです。  こういう英米の考え方についてどういうふうにお考えになるか、この2点です。 ○大田助教授  まず、第1点ですが、例えば税の中でも配偶者というのは所得がないから被扶養者な のかという考え方と近いと思いますが、現金としての所得は発生しておりませんけれど も、帰属所得が発生している。つまり、市場で売買すれば、それは現金になる収入が発 生しているという考え方をとるのが私は正しいと思います。  ですから、税においても専業主婦は被扶養者ではなくて、帰属所得という所得を発生 しているという考え方に立つのが望ましいのではないかと思っております。年金の保険 料もその帰属所得ということに対して、そこから払うということではないかと、私は位 置づけております。  それから、給付水準ですけれども、1階部分は基礎年金、2階部分は、私は権利とし ては結婚期間に応じて案分するというやり方が正しいのではないだろうかというふうに 思います。  これを積み立てに変えて民営化すれば、その設計は自由ですので、それぞれの夫婦が 考えるというふうに思います。答えになりましたでしょうか。 ○船後委員  第1点ですが、その問題は帰属所得というものの考え方で確かに割り切れるんですが そうしますと今お話しのとおり、2階部分の扱い方が変になってくる。どうしても、こ れは年金分割というのがなければならない。  ですから、私は年金分割の提案がワンセットとなって、基礎年金を夫の収入から負担 するという主張になるんだろうと思うんですが、その点いかがですか。 ○大田助教授  すみません、不十分な答えでしたが、イメージは同じように思っております。 ○船後委員  それでは、2点目をどういうふうにお考えになるか。 ○大田助教授  2点目は、給付に関しては1階部分はそれぞれ基礎年金という形で1人に1つですが 2階部分は結婚期間で案分すると。 ○船後委員  いや、そうではなくて、私が質問しましたのは、共稼ぎ世帯と専業主婦世帯の間の負 担と給付の不公平という問題は日本だけではなくて、これはアメリカでも大問題になっ ているんですね。 ところが、アメリカの方は、これは給付サイドで解決しようという方向でやっている わけです。それについてどうお考えになるかということです。 ○大田助教授  申しわけありません。もう一度教えていただけますか、給付サイドで解決するという 方法。 ○船後委員  日本の場合は、夫の基礎年金も妻の基礎年金も専業主婦の基礎年金も100%ですね。給 付水準を、フルペイションを1としますと、100ですね。  ところが、アメリカの場合は夫の拠出に基づく妻の年金は、妻は拠出していませんか ら、これは50%で済んでいます。つまり、給付側でその不公平問題を調節するという 解決方法をとっているわけですね。したがって、先月の発表があったナショナル・コミ ッショナーの報告は、これを今度の年金改革で30%に引き下げたらどうかと。そうい う提案も出てくるわけですが、これに対してどうお考えになるかということです。 ○大田助教授  つまり、それは今の年金の低所得者の免除がありますね。それと同じような考え方に なるわけですか。3分の1を給付する……。 ○船後委員  国庫負担があるとかないとか、そんな考え方じゃないんです。 ○大田助教授  私は女性の場合は、ずっと専業主婦とかずっと結婚しているとかいう固定的なもので はなくて、一人の人が結婚したり、途中で離婚することもありますし、働いたり働かな かったりすることもありますので、夫とのセットで給付をとらえるのではなくて、あく までも個人単位でとらえるのが良いと思っております。 ○船後委員  私の説明もまずかったのかもしれませんが、アメリカの制度を説明しますと、要する に自分が拠出しないで、夫の拠出に基づいて年金が来た場合は50%の水準。もし、そ の方が勤めに出て、自分が保険料を払えば100%の水準に戻るという格好になります  議論はいたしておりませんから、もしご研究があったらどういうふうにお考えになっ たのか、それをお聞きしたかったんです。 ○大田助教授  私はなぜ半分になるのかもよくわかりませんので……。 ○船後委員  ですから、それは妥協ですよ。 ○大田助教授  すみません、ちょっとここではお答えできません。もう少し考えさせていただきます 勉強になりました。 ○船後委員  ご参考までに言っておきますが、イギリスは基礎年金だけですから、6割の水準です ○牛丸教授  こういう席でこういう発言をするとかえって混乱を与えるかもしれないんですけれど も、私、財政学をやってきましたので、課税単位に関しても個人単位という、今お話が ありましたように、社会保険に関しても個人単位の流れというのはすごく理解できるん ですね。  数年前に社会保障制度審議会の将来像委員会の幹事をやっていたときもそういう考え 方でしたけれども、ただはっきりとした答えがあって発言しているわけではないんです けれども、そういう流れがすごくわかる反面、私の中にそれでいいんだろうかという疑 問もあるんです。  というのは、社会における個人単位というのが本当にいいんだろうか。今の問題もそ うでしょうけれども、家族とか、そういうあり方ですね。もちろん、いろいろな形態が 出てきますので、最後は個人ですから、個人で捕捉するのが一番いいんでしょうけれど も、社会における家族とか、そういう問題、そこに対して公といいますか、政策はどう かかわるべきか。  実は、私自身がまだそこの答えが出ていないものですから、疑問を出すだけで非常に 無責任なんですけれども、私自身はそういう疑問を持ちながら、個人単位の流れはわか るけれどもな……という感じなんです。  まさに、第3号被保険者の問題なんかそこにぶつかるわけですし、ほかの方々も課税 上の配偶者控除はなくせという意見でしょうけれども、私はまだ言い切れないところも ありまして、確かに個人単位で問題あり、ということですけれども……。 ですから、先ほどの3号被保険者から保険料徴収するという問題も、違った切り口で 私は論じたと思います。つまり、ある一定額を給付する、その財源は負担能力でという ことで、もし、個人単位の保険ということを貫くならば、とるしかないわけです。ただ そこまで徹底していいかな?という、まだ踏み切れないところがありますので、非常に いい加減な発言ですけれども、私自身の中にそういう迷いがあるということでちょっと 発言させていただきました。 ○桝本委員  山崎先生に積立金の問題を含めたところでちょっと伺いたいんですが、年金は社会保 障制度の一環であって、積立金の運用の問題は、従来は全額資金運用部に預託を義務づ けられ、それは社会資本形成の財源になっていく。  ただ、それとはまた別に年金福祉事業団の福祉事業として、現役の被保険者への還元 措置が幾つかされておりまして、従来、だれでも民間サラリーマンが利用してきたのは 住宅融資でございます。  日本のサラリーマンの住宅資産形成は、これまた一つの老後不安であったわけだと思 いますが、こうしたあり方全部が見直しの動きに入りまして、例えば大型保養基地なん ていうのは撤退する、これはもうはっきりしているし、還元融資というシステムをやめ てしまって、積立金は全額市場で運用すべきだという方向が非常に強く打ち出されてお る。  私どもは、しかし、年金制度は社会的な助け合いの制度であると同時に、現に保険料 を払っている現役の被保険者である労働者に対して、老齢年金の支給を待たず、還元的 なものがあるのは当然だろうと。  特に、公務員の共済年金の場合にはそういう住宅融資制度をきちんと組み込まれてい て、厚生年金の住宅転貸融資なんていうのは後からつくったものですから、これをなく すということになると、官民の新しい格差発生ということにもなります。  また、この還元融資というのは積立金の運用ということから言うと、非常にリスクの 小さい、堅実な運用だとも位置づけられるのではないか。  これは、まだ審議会で十分に議論されていない問題でもありますが、その点、ちょっ とお考えがありましたら、教えていただければと思います。 ○山崎教授  従来の還元融資というものはなくなる、つまり資金運用部への預託は廃止されて、基 本的に自主運用するということのようでございますが、その市場運用の一つの方途とし て、住宅貸付というのは十分あり得るんだろうというふうに思います。  ただ、将来に向かっては後世代の負担を緩和するために相当な積立金を持つべきでは ないかというふうな議論も強まっている中では、あまり低利での運用は避けて、やはり 基本的には市場ベースを基本にということであれば、十分納得もできるということだと 思います。それから、共済とのバランスも当然あると思います。  ただ、ご質問をいただいたので、ついでに私の方から意見を申し述べさせていただき たいんですが、実はあくまでも被保険者あるいは共済であれば、組合員である者に対す る貸付なんですね。しばしば住宅を持つときは転職するわけですね。ですから、20年 30年、厚生年金の被保険者であった人が脱サラで自営する。そうすると、国民年金の 被保険者になりますから、貸付の枠は非常に低くなります。  共済から厚年、厚年から共済へ移った場合には加入期間が通算されないという問題も ある。ですから、これは非常に不都合でございまして、むしろ共済、厚生年金、国民年 金を通して、加入期間に応じて貸付枠を設けるという仕組みにしていただきたい。した がって、住宅貸付については制度横断的に資金をプールして、借りやすいようにしてい ただきたいということでございます。  ですから、私は一般の方には、退職する前に住宅のことはよく考えなさいと。つまり 退職してしまうと借りられなくなるかもわからないということを、よく言うわけでござ います。それが1点です。  それから、もう一つ、私は従来から非常におかしいなと思っていたのは、従来の住宅 貸付は非常に低利でしたね。それは積立金を還元融資しているんですが、厚生年金の中 に厚生年金基金があります。この厚生年金基金の加入者は積立金の形成にほとんど寄与 していないわけでございますが、住宅資金の貸付は一般の被保険者と同じように借りら れるわけですね。これは自分たちの積立金を使うべきで、本体の積立金には本来手を出 すべきではないと思います。ただ、私の先ほど言ったことからすれば、過去に厚生年金 基金が設立されていなかった期間については、当然、権利を有するというふうに思いま す。一種の、私はこれは“たかり”だというふうに思っております。ぜひ改めていただ きたいと思います。仮に、そういう制度がなくなっても、新しい制度の中でもそういっ た不公平はなくしていただきたいというふうに思います。 ○目黒委員  これまでのさまざまなご意見、大変勉強になりました。どうもありがとうございまし た。  最初に牛丸先生がおっしゃった、年金制度に関するいろいろなメニューは、まずどう いう理念があって、どの理念のもとにこういうふうな選択肢が考えられるということを 明示すべきだということは、私もそのとおりだと思いますし、この審議会でもいろいろ な角度からいろいろな理念をもとにした意見が出てきたというふうに思います。  ただ、5つの選択肢というふうな形で出てきたときには、その辺のところはちょっと 置いておいて、というような出方がありましたので、その辺のところは厚生省の案とし て出てきたということで、具体的な選択肢が出されたというふうにご理解いただいてい るかとも思います。  最後に、先ほど牛丸先生が、「どうもはっきりわからないんだけれども、何となく個 人単位でずっと進めていいかどうかわからない。なぜだかわからない」というふうなこ とをおっしゃいましたので、そういうところにさらに質問をするのはちょっと申しわけ ないんですが、ただ、それはとても私にとっては大事なことかと思いますので伺わせて いただきたいんです。 理念の点から言いますと、大田先生は明確に中立の観点から、制度は個人の選択に影 響を与えないということをはっきりおっしゃっているわけです。それで、山崎先生も、 どちらかといいますと、現実に即して何をなすべきかという観点からおっしゃっている というふうに思うんです。  それに対して、私も最初は牛丸先生は中立の観点からおっしゃっているのかなと思っ ていたんですが、最後のそのご発言で、なぜそういう気持ちの揺らぎが出てくるのか (笑)、その辺、さっきから考えていたんですね。  現実に即して考えますと、かなり多様化が進んでいる。選択するという人がふえてき ている。その結果として少子化も起きているんだと。家族だって多様化しているという ことがあるわけですので、そういう時点でなおかつ、でも個人化でいいのかな?と思う 背景に何があるんでしょうか、お伺いできますでしょうか。 ○牛丸教授  極めて難しいですね(笑)。 ちょっと話は飛びますけれども、先ほど年金制度に不信というのがございましたね。 少子化が続くという、これ、もとをたどっていくと何か共通項があるかなと思うんです ね。結局、今の若い人たちがどういう生き方を目指しているのかなと。先ほど、少子化 対策としてこういうことをやったら効果がありますかというご質問があって、ウーンと いうような応答がありましたけれども、政策としてはなるべく少子化が解消されるよう に努力して、政策をやっていくわけですけれども、そういう経済的な政策をやりつつも 同時に一番重要なのは人の意識ですね。  結局、それぞれの個人がどういう意識で、結婚とか出産とか、あるいは社会とのかか わり合いを考えているか。将来的に、その向こう側にあるどういう社会を目指している かということだと思うんですね。  そこがどういうものであり、そこに刺激を与えることよって、また変わってくると思 うんですね。ですから、もちろん周りの出産しやすい、育児しやすい環境を整えること も大事ですけれども、それとともに向こう側にあるというか、この年金審議会とかある いは各審議会を超えた問題だと思いますけれども、どういう社会を我々は目指すのかな と。  これは年金だけでなく、介護とか医療もそうだと思うんですね。お年寄りがたくさん いらっしゃる、終末の状態の方もいらっしゃる、子供さんが少なくなって、さて、我々 はどういう社会で生きていくのかなと。  そうしたときに政策はどうあるべきなのか。個人の選択が自由になってきて、多様化 してきた個人の単位……。なるほど、経済学をやっていますから、中立でどっちを選択 しても不公平にならないように、影響を与えないような政策をすればいいと。  これは経済学の中で、私は問題なくそう主張するんですけれども、どういう社会なの か?個人とは?あるいは家族とは何なんだろう?という、そこに今度は入ってきますと だんだんわからなくなってくるんですね。  自己責任あるいは公的責任、両面ありますね。人はそれぞれ自分でやらなければなら ないことはやる、しかし同時に同じ社会に生きている者と支え合わなければならないと ころがあるだろう。私のこれまでの経験から、こういう問題にかかわってきた者として 言えるのは、日本人はどうも飛ぶといいますか、自己責任の世界から、今度は極端に公 的責任が入って、今度は公的責任がだめだったら自己責任に戻してしまうという、何か 中間項がないというか……。  要するに、自己責任もしっかり持っていない割に、今度は公的責任を言い出したら公 的責任ばかり言って、その辺の両責任に対する意識がちゃんとしていないのではないか その中間に家族みたいなものがあるのかな、あるいは地域があるかなと。そうしたとき に政策がどうかかわればいいか、正直言ってわからないです。  ただ、経済学というのは、個人を一つの単位として考えておりますので、個人で考え たときに、政策をやったときにこっちに有利になって、こっちに不利になるのはまずい から、やはり中立性、これは重要な原則ですし、その結果として女子労働が社会に進出 できないならば、やはりそれは中立性であるべきだと、それは重々わかっているんです ね。  同時に、経済学ではない何か私の中にあるものが、どういう社会なのかなと。そこで もう一歩、踏み出すのをとどまらされるんですね。  ですから、先生方を前にして大変申しわけないんですけれども、未だまだわからない んです。曖昧なままでこういう発言を申し上げるのは本当はまずいんですけれども、一 方でそういうことを言いながら、どういう社会を目指すんだろうと。それで、政策とし て、家族とかそういうものにどう対応したらいいのかなと、その辺の揺れですね。  結局、揺れが先ほどああいう発言をしてしまったわけなんです。言わなければよかっ たかなと(笑)、今、後悔しておりますけど、私自身がまだ揺れている、まだ答えが出 ないということで、答えに関しては勘弁してください。以上です。 ○高山委員  個人単位化絡みの話を少しさせていただきたいんですが、今まで特に強くなされた主 張というのは、専業主婦が保険料を自分で納めていないということが問題であるという ことなんですが、審議会でもいろいろ資料が出ましたけれども、老齢年金に着目して言 えば、必ずしも問題ではないという見方もあるということなんです。  第3号を第1号にするという発想から問題を立てていることの無理だと僕は思ってい るんです。第1号というのは、一定額の、今で言えば月額1万3,300円の保険料を払って いる。これは最も逆進性の強い、人頭税と同じなんですね。いろいろ理由があって定額 保険料になってしまったんですけれども、第3号にも第1号並みに定額の保険料を払わ せるべきだというところが問題なんですね。  どうしてそこのところが、例えば負担能力に応じたものでいけないのか。第1号被保 険者並みに定額の保険料に前提にして払わせるというところが問題だということが1点 なんです。  もう1点は、スウェーデンが完全個人単位化をやったわけですけれども、すぐ修正し たわけです。これは主として2階部分にかかわる話なんですけれども、現実の賃金分布 を見てみれば、女性の中でも例外はあるし、男性の中でも例外はあるんですけれども、 平均して言えば、女性の方が賃金は低いわけです。そうすると、個人単位化するとその 低い賃金を老後まで持ち込むんですね。女性の方が長生きして、その低い賃金を引きず ったまま、低い年金で我慢しろという、個人単位化はそういう形なわけです。これがス ウェーデンにおいて、実は大問題になって修正したわけです。所得分割を認めようでは ないかという話になったわけです。  所得分割の哲学は必ずしも個人単位ではないんです。やはり夫婦という単位に着目し た話なんです。所得の稼ぎ方については夫婦の間の選択の問題であって、所得について は共同の利用権を持つか請求権を持つという発想がベースなんですね。  夫婦はあくまでもジョイントデシジョンで所得を決めたんだと。その請求権について は夫婦平等でいいではないか。稼ぎ方は実際に違っているかもしれないけれども、給付 を分け合う段階では平等でいいではないかというふうにやったわけです。  個人単位化の主張について、この2つをどうクリアするかという問題だと思うんです そこの主張が従来あまり明確ではなかった。特に、第1号被保険者並みに定額の保険料 をとればいいという発想が強かったことが、世の中における合意づくりを難しくした問 題ではないかと思うんです。その点を、大田さんを中心に答えていただきたいんです。 ○大田助教授  私のイメージは、先ほど、個人単位化ということを申し上げたときに、おっしゃるよ うに第3号被保険者が第1号被保険者になるという基礎年金について考えております。 そのときの負担は、消費税が望ましいと。消費税になる前の段階であれば、夫の給与か ら引くということですから、私ははっきりしていなくて、定額というふうには思ってお りません。定額というイメージは持っておりません。  第1号個人として入るという意味での形です。保険料負担は望ましいのは消費税だと 思っておりますから、比例税に近い形になります。 ○高山委員  給付の個人単位化ですか。それはすでに実現しています。 ○大田助教授  はい、そうです。給付を個人単位化して、負担もするんです。 ○高山委員  消費税でやるのであれば、別に個人単位化といわなくても……。 ○大田助教授  ただ、専業主婦に対して負担が発生するということですね。  それから、2階部分にだけ世帯単位の考え方が、給付設計に残っていますから、もと もと2階部分、報酬比例部分というのは世帯単位でつくられたものですから、非常に考 え方に無理があるんだろうと思います。ですから、2階部分に関しては、先ほども申し 上げましたが、結婚期間に応じて分ける、もしくはこれを積み立て方式という形にすれ ば、契約の仕方はさまざまであろうと思います。 ○都村委員  3号の被保険者の中には、パートタイム労働者で就労していて、就業調整をしている 人がいます。山崎先生が後半の方でおっしゃいましたように、パートタイム労働者も適 用拡大して、被用者年金の中に位置づければ、3号被保険者の何十%かは2号被保険者 になるわけです。  ですから、3号問題を考える第一歩としては、私はそちらの方が先で、パートタイム 就労をしている人たちが、130万円というような年収の上限に関係なく、山崎さんも 言われた雇用促進がもっと進むようにすべきだと思います。  それで、山崎先生にその関連でお伺いしたいと思います。雇用保険との整合性とおっ しゃったのですけれども、雇用保険のように年収の上限を130万円から90万円まで に引き下げて、それで被用者年金に位置づけるのか、それとも雇用促進という意味では もっと上限を下げるということも考えていいのか、下げた場合の問題点があるのかどう か。3号との関連で、その点をお伺いしたいと思います。 ○山崎教授  私は少なくとも制度間の整合性という意味で、雇用保険の労働時間20時間、それか ら90万円以上というのは取り入れるべきだと思いますが、もしそれだけにとどまりま すと、今度は90万円の手前で就労調整をするという問題が起こりますから、90万円 未満であっても、保険料を個別にいただくというのを同時にセットしないといけないと 思います。  つまり、家庭にいようが、パートで働こうが、フルタイムで働こうが、きちんと負担 することが中立化することだと思います。  それから、高山先生のおっしゃったことですが、私自身は3号からも保険料をという ことを数年提唱してきましたが、所得比例で徴収することを提案してきました。それは お話のとおり、1号の逆進性を持ち込みたくないと。被用者グループとしては国民年金 の保険料相当分をきちんと頭割りで負担する。しかし、被用者の中では所得に応じてと いうことなのでございます。  そして、それを突き詰めていくと、船後先生が先ほどお話になったことに全く同感で す。あるいはスウェーデンの例も高山先生がおっしゃいましたが、1階にとどまらず2 階の所得分割、年金分割にまでこの問題は発展するんだろうというふうに思います。ぜ ひ、そういう方向で審議を深めていただければというふうに思っております。 ○会長  予定の時間は4時半までとなっております。まだご発言いただいていない方もござい ますが、どなたかご発言いかがでしょうか。  よろしゅうございますか。このあたりで本日の意見交換、お三方をかこむ勉強会を終 わりたいと存じますが、よろうしゅうございましょうか。  それでは、終わりにいたします。  本日は今後の審議に大変参考になる貴重なご意見をお聞かせいただきまして、また有 意義な意見交換もさせていただきまして、本当にありがとうございました。  本日行われました意見交換を資料といたしまして、今後とも次の制度改正に向かって 議論を深めてまいりたいと存じます。  それでは、本日はこれで閉会いたします。有識者の皆様、ありがとうございました。 また、傍聴の皆様、長い時間ご清聴ありがとうございました。 年金局 企画課 須田(3316)